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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094006
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】無機繊維断熱材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/4209 20120101AFI20240702BHJP
   E04B 1/80 20060101ALI20240702BHJP
   D04H 1/4218 20120101ALI20240702BHJP
   D04H 1/587 20120101ALI20240702BHJP
   F16L 59/04 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
D04H1/4209
E04B1/80 A
D04H1/4218
D04H1/587
F16L59/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210701
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】313012349
【氏名又は名称】旭ファイバーグラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】江川 知史
(72)【発明者】
【氏名】仁部 孝行
(72)【発明者】
【氏名】本郷 倭
【テーマコード(参考)】
2E001
3H036
4L047
【Fターム(参考)】
2E001DD01
2E001FA03
2E001FA11
2E001GA12
2E001HA31
3H036AA09
3H036AB13
3H036AB24
3H036AC03
4L047AA01
4L047AA05
4L047AB02
4L047AB07
4L047BA17
4L047CB01
4L047CB06
4L047CC10
(57)【要約】
【課題】本発明は、柔軟性、復元性及び施工性に優れた無機繊維断熱材を提供することを目的とする。
【解決手段】平均繊維径が2.0~5.0μmである無機繊維を含み、密度が8~40kg/mであり、2倍圧縮したときの反発力が2.0kPa以下であることを特徴とする、無機繊維断熱材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が2.0~5.0μmである無機繊維を含み、
密度が8~40kg/mであり、
2倍圧縮したときの反発力が2.0kPa以下である
ことを特徴とする、無機繊維断熱材。
【請求項2】
イグロスが1.5~8.0質量%である、請求項1に記載の無機繊維断熱材。
【請求項3】
潤滑剤を含有するバインダーを含み、前記バインダー中の前記潤滑剤の含有量が、固形分換算で1.5~15.0質量%である、請求項1又は2に記載の無機繊維断熱材。
【請求項4】
厚みが呼称厚さ以上である、請求項1又は2に記載の無機繊維断熱材。
【請求項5】
密度が100~400kg/mとなるように押圧する工程を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の無機繊維断熱材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維断熱材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、グラスウール等の無機繊維は、いわゆる無機繊維断熱材として住宅等の建築物の床、壁、天井等に配されて利用されている。住宅等の壁等の断熱施工においては、一般に、壁構造を構成する躯体の柱間に断熱材を挿入して充填し、その上に内装材(石膏ボード等)等を敷設する。
【0003】
無機繊維断熱材は、通常、保管や輸送を容易にするために圧縮梱包され、施工時に開梱して復元させて用いられる。例えば、特許文献1には、圧縮時の無機繊維の密度及びバインダー(有機成分)の質量割合を特定の範囲とし、無機繊維マットの押圧(圧縮)及び被覆材である樹脂フィルムのヒートシール方法を工夫することにより、圧縮率が高くても良好な復元性を有する断熱材を実現したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-287191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、省エネルギー及び居住の快適性の観点から、この無機繊維断熱材による断熱性能の向上が求められている。断熱性能向上のためには、無機繊維断熱材の密度を高めることが効果的であることが知られている。しかしながら、無機繊維断熱材は、密度が高くなるほど反発力も高まるため、柔軟性が低下し、無機繊維断熱材の充填後に敷設した内装材において、無機繊維断熱材の反発による撓みが生じ、施工性が悪化するという課題があった。また、一方で、無機繊維断熱材は、低密度で柔軟性が高いほど、開梱して圧縮を解いた後の厚みの復元性が低下するという課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、柔軟性、復元性及び施工性に優れた無機繊維断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、特定の平均繊維径を有する無機繊維を含み、密度及び反発力が特定の範囲である無機繊維断熱材とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
平均繊維径が2.0~5.0μmである無機繊維を含み、
密度が8~40kg/mであり、
2倍圧縮したときの反発力が2.0kPa以下である
ことを特徴とする、無機繊維断熱材。
[2]
イグロスが1.5~8.0質量%である、[1]に記載の無機繊維断熱材。
[3]
潤滑剤を含有するバインダーを含み、前記バインダー中の前記潤滑剤の含有量が、固形分換算で1.5~15.0質量%である、[1]又は[2]に記載の無機繊維断熱材。
[4]
厚みが呼称厚さ以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の無機繊維断熱材。
[5]
密度が100~400kg/mとなるように押圧する工程を含むことを特徴とする、[1]~[4]のいずれかに記載の無機繊維断熱材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、柔軟性、復元性及び施工性に優れた無機繊維断熱材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)実施例で行った施工性試験1で用いた壁躯体の写真である。(b)実施例で行った施工性試験2で用いた壁躯体の写真である。
図2】(a)実施例1の無機繊維断熱材の施工性試験1の結果(撓み量)を示す図である。(b)実施例1の無機繊維断熱材の施工性試験2の結果(撓み量)を示す図である。
図3】(a)実施例2の無機繊維断熱材の施工性試験1の結果(撓み量)を示す図である。(b)実施例3の無機繊維断熱材の施工性試験1の結果(撓み量)を示す図である。
図4】比較例1の無機繊維断熱材の施工性試験1の結果(撓み量)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0012】
〈無機繊維断熱材〉
本実施形態の無機繊維断熱材は、平均繊維径が2.0~5.0μmである無機繊維を含み、密度が8~40kg/mであり、2倍圧縮したときの反発力が2.0kPa以下である。
本実施形態の無機繊維断熱材は、細繊維化することで低密度ながら優れた断熱性能を維持するとともに、細繊維化による低密度化や製造時の押圧(圧縮)による柔軟化で反発力を低減し、優れた柔軟性と、圧縮梱包を解いた後の優れた復元性との両立を実現した無機繊維断熱材である。これにより、無機繊維断熱材を躯体に充填した後に施工した内装材(石膏ボード等)において、無機繊維断熱材の反発による撓みが生じるのを低減することができ、優れた施工性を発揮する。また、反発力が低減したことで、2人がかりで行うなどしていた力作業が減り、施工作業の負担も軽減される。
【0013】
無機繊維断熱材の形状は、特に限定されないが、板状(ボード状)であることが好ましい。また、無機繊維断熱材のサイズも特に限定されず、用途によって適宜設定されてよい。
【0014】
無機繊維断熱材は、密度が8~40kg/mであり、好ましくは14~40kg/mであり、より好ましくは18~40kg/mである。密度が上記範囲であると、優れた断熱性、及び優れた柔軟性と復元性とを両立することが可能な反発力を有し、優れた施工性を発揮する無機繊維断熱材を得ることができる。
なお、上記密度は、「製品呼称密度」(製品に表示される密度)ではなく、JIS A 9521に準拠して測定される実密度を意味する。
【0015】
無機繊維断熱材は、2倍圧縮したときの反発力が2.0kPa以下であり、好ましくは1.8kPa以下であり、より好ましくは1.6kPa以下である。2倍圧縮したときの反発力が上記範囲であると、優れた柔軟性と優れた復元性とを両立し、優れた施工性を発揮する無機繊維断熱材となる。2倍圧縮したときの反発力の下限は特に限定されず、0kPa超としてよい。
また、特に、躯体の柱間に筋交いのような補強材がある場合、補強材上に無機繊維断熱材をそのまま削がずに充填すると、無機繊維断熱材の反発力により内装材(石膏ボード等)が補強材に沿って撓みがより生じやすくなることから、無機繊維断熱材の反発力はより低いことが好ましく、例えば、0.7kPa以下であることが好ましく、より好ましくは
0.5kPa以下であり、さらに好ましくは0.4kPa以下である。
無機繊維断熱材の反発力は、無機繊維断熱材の密度、後述するバインダーやバインダー中の潤滑剤の含有量、製造時の押圧(圧縮)条件等を調整することにより、所望の範囲に制御することができる。例えば、無機繊維断熱材の密度を下げたり、バインダーやバインダー中の潤滑剤の含有量を調整したりすることにより、反発力を低下させることができる。また、製造時に無機繊維断熱材を厚み方向に押圧(圧縮)して、厚さ方向の繊維を折ることにより、反発力を低下させることができる。
なお、上記反発力は、例えば、(株)東洋精機製作所製「V50-D型万能力学試験機」により測定することができ、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0016】
〈〈無機繊維〉〉
本実施形態の無機繊維断熱材に含まれる無機繊維としては、特に制限されず、断熱材の分野で通常用いられているものを用いることができ、例えば、グラスウール、ロックウール等が挙げられる。
無機繊維の繊維化方法としては、例えば、遠心法(ロータリー法)、火焔法、吹き飛ばし法等の従来公知の方法を用いることができる。
無機繊維は、1種単独であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0017】
無機繊維の平均繊維径は、2.0~5.0μmである。無機繊維の平均繊維径が2.0μm以上であると、無機繊維の製造及び入手が容易であり、5.0μm以下であると、低密度であっても優れた断熱性能を発揮する無機繊維断熱材となる。無機繊維の平均繊維径は、3.5~5.0μmであってもよく、2.0~3.5μmであってもよい。
無機繊維の平均繊維径を制御する方法としては、例えば、無機繊維がグラスウールである場合は、スピナー等を用いた遠心法(ロータリー法)により繊維化を行うこと、繊維化装置における溶融したガラスの出口を小さくすること等が挙げられる。
なお、平均繊維径は、Cottonscope Pty Ltd製のcottonscopeHDを用いて測定することができ、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0018】
〈〈バインダー〉〉
無機繊維は、復元性、成形性及び形状保持のため、繊維同士がバインダーにより結合(固着)されていることが好ましい。
無機繊維断熱材のイグロス(バインダーの固形分換算の付着量)は、1.5~8.0質量%であることが好ましく、より好ましくは1.5~6.0質量%であり、さらに好ましくは1.5~3.0質量%である。イグロスが上記範囲であると、無機繊維断熱材が、優れた柔軟性と優れた復元性とを両立することが可能な反発力を得やすい傾向にある。
なお、無機繊維断熱材のイグロス(バインダーの固形分換算の付着量)は、以下の方法により求めることができる。無機繊維断熱材から100mm四方の試験片を切り出し、その質量(Wa)を測定する。次に、切り出した試験片を530℃に設定した電気炉に投入してバインダーを分解除去する。電気炉から試験片を取り出し、バインダーを分解除去した後の試験片の質量(Wb)を測定する。下記式によりイグロス(質量%)を求める。
イグロス(質量%)={(Wa-Wb)/Wa}×100
なお、無機繊維断熱材は、密閉包装せずに倉庫等で一定期間保管(放置)すると、外気の湿度の影響を受けて吸湿し、質量が増加する。そのため、一定期間保管した後の無機繊維断熱材については、含水率(水分率)を考慮する必要がある。具体的には、切り出した試験片を110℃の乾燥炉で60分保持して試験片内の水分を除去する。その後、吸湿しないようデシケーター内で室温まで冷却して質量を測定し、この値をWaとして上記の式にてイグロスを求める。
【0019】
バインダーは、特に限定されないが、例えば、アミド化反応、イミド化反応、エステル化反応及びエステル交換反応のいずれかで硬化する熱硬化性樹脂が好ましく用いられる。このような熱硬化性樹脂として、具体的には、例えば、エチレン性不飽和単量体を重合したポリカルボン酸と、アミノ基及び/又はイミノ基を有するアルコールを含有する架橋剤とを含有する樹脂等が挙げられる。好ましくは、特許第6017079号公報、特許第6850380号公報に記載のアクリル系樹脂が挙げられる。
【0020】
また、バインダーは、本発明の効果を損なわない範囲の含有量で、必要により、潤滑剤、架橋剤、防塵剤、発色剤、着色剤、pH調整剤、硬化促進剤、シランカップリング剤、無機繊維から溶出するアルカリ成分を中和するための中和剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0021】
潤滑剤は、バインダーに混和した状態で無機繊維上に塗布されるが、バインダーと反応せずに、バインダーの加熱時に無機繊維上を流動するものが好ましい。このような潤滑剤としては、例えば、シリコン潤滑剤、ワックス類、界面活性剤等が挙げられる。
【0022】
シリコン潤滑剤は、ポリシロキサンの側鎖あるいは末端に、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等の親水基を付加したものである。シリコン潤滑剤においては、ポリシロキサン鎖と親水基鎖の混合比により、生成物の親水性が変化するが、バインダーと十分に混和できる程度の親水性を有していれば、特に限定はない。
【0023】
ワックス類は、室温下で固体であるが、約40℃以上に加熱すると、比較的流動性の高い液体となるものをいう。具体的には、蜜ろう、ラノリンワックス及びセラックワックス等の動物系ワックス、カルナバワックス、木ろう、ライスワックス及びキャンデリラワックス等の植物系ワックス、モンタンワックス及びオゾケライト等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス及びマイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリカーボネートワックス、やし油脂肪酸エステル、牛脂脂肪酸エステル、ステアリン酸アミド、ジペプタデシルケトン及び硬化ひまし油等の合成ワックス等が挙げられる。これらは、1種単独でも2種以上を併用してもよい。これらの中でも、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックスが、経済性の点で好ましい。上記のワックス以外にも、ワックスに近い重質オイルを使用することができる。
【0024】
一般的に、ワックス類は、疎水性材料であるため、ワックスをバインダーに添加する際には、混和性向上のため、あらかじめ、水に分散又は乳化させて用いることが好ましい。
【0025】
界面活性剤には、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤があるが、バインダーとの混和性の点で、ノニオン系界面活性剤が好ましい。
【0026】
ノニオン系界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等のエステル系界面活性剤、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びこれらのブロック共重合体、高級アルコール、アルキルフェノールのポリエチレンオキサイド付加物等のエーテル系界面活性剤、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルのポリエチレンオキサイド付加物等のエーテル・エステル系界面活性剤等が挙げられる。
【0027】
バインダー中の潤滑剤の含有量は、固形分換算で1.5~15.0質量%であることが好ましく、より好ましくは5.0~15.0質量%であり、さらに好ましくは10.0~15.0質量%である。潤滑剤の含有量が上記範囲であると、無機繊維断熱材が、優れた柔軟性と優れた復元性とを両立することが可能な反発力を得やすい傾向にある。
【0028】
バインダーは、上記の各成分を常法に従って混合し、水を加えて所定濃度に調整して用いることができる。
【0029】
〈無機繊維断熱材の製造方法〉
本実施形態の無機繊維断熱材の製造方法は、特に限定されないが、例えば、無機繊維断熱材の柔軟化のために無機繊維マットを押圧(圧縮)する工程を含んでいてもよい。より具体的には、例えば、スプレー装置等を用いて無機繊維にバインダーを塗布又は噴霧し、コンベア等を用いて集綿した後、オーブン等で加熱してバインダーを硬化させる。得られた無機繊維マットを上下のコンベアで挟み込みながら厚み方向に押圧して圧縮し、厚さ方向の繊維を折ることにより、柔軟化された無機繊維断熱材を製造することができる。
その後、無機繊維断熱材は、保管・輸送を容易にするため圧縮梱包される。使用時に開梱されると圧縮が解かれると、復元する。
【0030】
無機繊維にバインダーを付与するタイミングとしては、繊維化後であればいつでも良いが、バインダーを効率的に付与させるためには、繊維化直後に付与することが好ましい。
【0031】
バインダーを加熱硬化させる工程において、加熱硬化温度は、200~350℃とすることが好ましい。加熱硬化時間は、無機繊維断熱材の密度及び厚さに応じて、30秒~10分の間で適宜調整することが好ましい。
【0032】
無機繊維断熱材は、上述のようにバインダーの加熱硬化後(焼成後)に上下のコンベアで挟み込みながら厚み方向に押圧する工程において、厚さ方向の繊維を折ることにより、無機繊維断熱材の反発力を抑えて柔軟性を高めることができる。これにより、得られた無機繊維断熱材が、一層優れた柔軟性と優れた復元性とを両立することが可能な反発力を有するものとなる。
上記押圧(圧縮)時の密度は、100~400kg/mであることが好ましい。押圧(圧縮)時の密度が上記範囲となるように押圧(圧縮)すると、厚さ方向の繊維が折られて柔軟性が高まり、無機繊維断熱材が、優れた柔軟性と優れた復元性とを両立することが可能な反発力を得やすい傾向にある。
押圧(圧縮)時の密度は、所望する実密度、反発力に応じて100~400kg/mの範囲内で適宜設定すればよい。バインダーや潤滑剤の含有量等にもよるが、例えば、実密度が20±2kg/m(製品密度としては20kg/m)である無機繊維断熱材を、押圧(圧縮)時の密度が150~300kg/mとなるように押圧(圧縮)すると、反発力が0.7kPa以下である無機繊維断熱材が得られやすい傾向にある。また、例えば、実密度が36±4kg/m(製品密度としては36kg/m)である無機繊維断熱材を、押圧(圧縮)時の密度が250~400kg/mとなるように押圧(圧縮)すると、反発力が2.0kPa以下である無機繊維断熱材が得られやすい傾向にある。
【0033】
また、押圧(圧縮)する工程を行う場合、無機繊維は、厚さ方向の繊維が折られることを考慮して、押圧により折られる前(繊維化直後又は焼成後)の平均繊維長が5~100mmであることが好ましく、より好ましくは5~50mmであり、さらに好ましくは5~30mmである。
なお、無機繊維の平均繊維長は、100本以上の繊維を採取してその長さを直尺で測定し、平均することにより求めることができ、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0034】
無機繊維断熱材は、上述のように圧縮状態のまま梱包された状態から、開梱されて圧縮が解かれた後、復元して厚みが呼称厚さ以上となることが好ましい。
なお、「呼称厚さ」とは、「表示厚さ」(製品に表示される厚さ)を意味する。
【0035】
無機繊維断熱材は、そのままの形態で用いてもよく、表皮材で被覆して用いてもよい。表皮材としては、例えば、紙、合成樹脂フィルム、金属箔フィルム、不織布、織布、又はこれらの組み合わせ等を用いることができる。
【0036】
本実施形態の無機繊維断熱材は、建造物(住宅、ビル等)における断熱材等として好適に用いることができる。
無機繊維断熱材を建造物の壁や床に施工する方法は、特に限定されることなく、建築物の壁・床構造体における繊維系断熱材の施工方法として通常知られている方法を用いることができ、壁・床構造を構成する躯体に充填(挿入)されて装着される。
【実施例0037】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
実施例及び比較例で用いた測定・評価方法は、以下のとおりである。
【0039】
[無機繊維の平均繊維径]
Cottonscope Pty Ltd製のcottonscopeHDを用いて、無機繊維の平均繊維径(μm)を求めた。具体的には、水に分散させた繊維を顕微鏡で拡大し、カメラで撮影した画像をコンピューターに取り込み、画像処理により繊維径を測定した。得られた30,000本分の測定値を平均することにより、平均繊維径を求めた。なお、長さ50μm以下の繊維や、繊維径に対して3倍以下の長さの短い繊維は集計から除外した。さらに、繊維長を考慮した集計を行うために、50μmより長い繊維に関しては、画像処理にて自動で長さを分割し、分割したものの繊維径の測定値をそれぞれ集計した。
【0040】
[無機繊維の平均繊維長]
繊維化直後又は焼成後の無機繊維から繊維を抜き取り、その長さを直尺を用いて1mm単位で測定した。100本以上の繊維について測定し、その測定値の平均値を平均繊維長(mm)とした。なお、必要に応じて拡大鏡やピンセットを用い、抜き取る際に折れた繊維は測定から除外した。
【0041】
[無機繊維断熱材の熱伝導率]
無機繊維断熱材から910mm角の試験片を作製し、JIS A 1412-2に準拠して、熱流計法により、平均温度23℃での試験片の厚み方向の熱伝導率(W/m・K)を測定した。
【0042】
[無機繊維断熱材のイグロス]
無機繊維断熱材から100mm四方の試験片を切り出し、その質量(Wa)を測定した。次に、切り出した試験片を530℃に設定した電気炉に投入してバインダーを分解除去した。電気炉から試験片を取り出し、バインダーを分解除去した後の試験片の質量(Wb)を測定し、下記式によりイグロス(質量%)を求めた。
イグロス(質量%)={(Wa-Wb)/Wa}×100
なお、製造直後の無機繊維断熱材を用いてイグロス測定を行う場合は、吸湿による質量の増量はないものとして(含水率は考慮しないで)求めた。
倉庫等で長期間保管し、吸湿した無機繊維断熱材のイグロス測定を行う場合は、切り出した試験片を110℃の乾燥炉で60分保持し、試験片内の水分を除去した。その後、吸湿しないようデシケーター内で室温まで冷却し、質量を測定した。この値をWaとして上記の式にてイグロスを求めた。
【0043】
[無機繊維断熱材の密度]
無機繊維断熱材について、JIS A 9521に準拠して密度(実密度)(kg/m)を測定し、以下の式により圧縮時の(圧縮された状態での)密度(kg/m)を求めた。
実密度=質量/(幅×長さ×呼称厚さ)
圧縮時の密度=実密度×呼称厚さ/クリアランス
【0044】
[柔軟性]
無機繊維断熱材から100mm角の試験片を切り出し、上記[無機繊維断熱材の密度]で測定した実密度に対して、±0.5kg/m以下の範囲の密度を有する試験片を5個以上準備した。万能力学試験装置((株)東洋精機製作所製「V50-D」)の圧縮板間のクリアランスを呼称厚さの50±5%の範囲内(呼称厚さ105mmの場合は50mm)に設定した。圧縮板の間に試験片を挿入し、その時の反発力を測定した。5個以上の試験片の測定値を平均した値を、2倍圧縮したときの反発力(kPa)とした。
反発力が2.0kPa以下であった場合を「A(良好)」、2.0kPa超であった場合を「C(劣る)」として、柔軟性を評価した。
【0045】
[復元性]
JIS A 9521に準拠して、押圧(圧縮)する前(焼成後)の無機繊維断熱材の厚み(実厚み)(mm)を測定した。
また、圧縮した無機繊維断熱材を梱包し、高温多湿環境下(温度35℃、湿度80%)で4週間保管した後、圧縮を解いて無機繊維断熱材の厚み(mm)を測定した。このときの厚みが呼称厚さ以上であった場合を「A(良好)」、呼称厚さ未満であった場合を「C(劣る)」として、厚みの復元性を評価した。
【0046】
[施工性]
(1)施工性試験1
図1(a)に示す下記の仕様の壁躯体(室外側面材張、筋交いなし)に無機繊維断熱材を充填した。その後、石膏ボード(1820mm×910mm×厚み12.5mm)を施工し、間柱1、左柱2、右柱3の順で柱にビス止め(間柱:300mmピッチ、左右柱:200mmピッチ)を行った。レーザー変位計(キーエンス社製「IL-065」)を用いて、長辺方向に300mmピッチ、短辺方向に110mmピッチで石膏ボードの撓み量(mm)を測定した。
撓み量の最大値が0.5mm以下であった場合を「A(良好)」、0.5mm超1.0mm以下であった場合を「B(実用上問題なし)」、1.0mm超であった場合を「C(劣る)」として、施工性を評価した。
躯体仕様:
躯体1820mm×910mm
柱105mm、間柱30mm(内寸388mm)
(2)施工性試験2
図1(b)に示す下記の仕様の壁躯体(室外側面材張、筋交いあり)に無機繊維断熱材を充填した。無機繊維断熱材は、後筋交い4上にあたる部分を削ぐことなく、そのまま充填した。その後、石膏ボード(1820mm×910mm×厚み12.5mm)を施工し、間柱1、左柱2、右柱3の順で柱にビス止め(間柱:300mmピッチ、左右柱:200mmピッチ)を行った。レーザー変位計(キーエンス社製「IL-065」)を用いて、長辺方向に300mmピッチ、短辺方向に110mmピッチで石膏ボードの撓み量(mm)を測定した。
撓み量の最大値が0.5mm以下であった場合を「A(良好)」、0.5mm超1.0mm以下であった場合を「B(実用上問題なし)」、1.0mm超であった場合を「C(劣る)」として、施工性を評価した。
躯体仕様:
躯体1820mm×910mm
柱105mm、間柱30mm(内寸388mm)
後筋交い45mm厚
【0047】
[実施例1]
ガラス溶融炉にてガラスを融液化させ、ガラス融液を得た。ガラス融液を用いて、繊維化装置により繊維化を行い、ガラス短繊維を得た。繊維化直後に、特許第6017079号公報の実施例1に記載のバインダーにおいて、重質オイル分散体の代わりにシリコン潤滑剤(旭ワッカーシリコーン社製)を固形分換算で14.1質量%を用いたアクリル系樹脂バインダーをガラス短繊維に吹き付けた。バインダー量は、硬化後にガラス短繊維とバインダーとの合計100質量%に対して2.0質量%となる量を想定して使用した。次いで、コンベア上に集綿し、厚さが115.0mmとなるようオーブンにて焼成し、バインダーを硬化させた。続いて、スリッティング、トリムカット等を施して製品寸法に切断した。その後、密度が275kg/mとなるように上下のコンベアで挟み込みながら押圧して圧縮し、厚さ方向の繊維を折ることで柔軟性を有する板状の無機繊維断熱材を得た。
測定・評価結果を表1に示す。また、施工性試験1及び2の試験結果を、それぞれ図2(a)及び(b)に示す。
図2(a)の施工性試験1の結果より、実施例1は、撓み量が小さく、施工性に優れることが示された。
図2(b)の施工性試験2の結果より、実施例1は、筋交い部分でも撓み量が小さく、筋交いがある躯体に対しても施工性に優れることが示された。
【0048】
[実施例2、比較例1]
バインダー、潤滑剤の含有量、無機繊維断熱材の密度等を表1に示すとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にして、無機繊維断熱材を製造した。
測定・評価結果を表1に示す。また、施工性試験1の試験結果を図3図4に示す。
図3図4の施工性試験1の結果より、実施例2及び比較例1のいずれにおいても、施工時に石膏ボードを押さえにくいボード下部の方が、ボード上部よりも撓み量が大きかった。実施例2は、比較例1よりも反発力が低く、柔軟性に優れるため、比較例1よりも撓み量が低減され、施工性に優れることが示された。
【0049】
[実施例3]
無機繊維の平均繊維径等を表1に示すとおりに変更し、上下のコンベアで挟み込みながら押圧して圧縮する(厚さ方向の繊維を折る)工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、無機繊維断熱材を製造した。
測定・評価結果を表1に示す。また、施工性試験1の試験結果を図3に示す。
実施例3は、比較例1と同等の断熱性能を有するが、図3図4の施工性試験1の結果より、比較例1よりもガラス繊維の平均繊維径及び断熱材の実密度を低減した実施例3は、比較例1よりも反発力が低く、柔軟性に優れるため、比較例1よりも撓み量が低減され、施工性に優れることが示された。
【0050】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の無機繊維断熱材は、柔軟性、復元性及び施工性に優れるため、建造物(住宅、ビル等)等における断熱材として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1:間柱
2:左柱
3:右柱
4:後筋交い
図1
図2
図3
図4