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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094024
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】車両用ガラスモジュール
(51)【国際特許分類】
   B60J 1/10 20060101AFI20240702BHJP
   F16B 5/06 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B60J1/10 A
B60J1/10 C
F16B5/06 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210724
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】中川 雅文
【テーマコード(参考)】
3J001
【Fターム(参考)】
3J001FA03
3J001GA06
3J001GB01
3J001HA02
3J001HA07
3J001JD02
3J001KA19
3J001KB01
(57)【要約】
【課題】製造効率の良い車両用ガラスモジュールを提供する。
【解決手段】車両の固定窓に用いられる車両用ガラスモジュールAは、ガラス板10と、ガラス板10を支持するガーニッシュ20と、ガラス板10及びガーニッシュ20を車両の車体1に固定可能な固定部材40と、を備えている。車両用ガラスモジュールAは、固定部材40の延出方向と、ガラス板10の板厚方向が同じである。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の固定窓に用いられる車両用ガラスモジュールであって、
ガラス板と、
前記ガラス板を支持するガーニッシュと、
前記ガラス板及び前記ガーニッシュを前記車両の車体に固定可能な固定部材と、を備え、
前記固定部材の延出方向と、前記ガラス板の板厚方向が同じである車両用ガラスモジュール。
【請求項2】
前記固定部材は、前記ガーニッシュに取付けられており、
前記ガーニッシュは、前記固定部材を支持する支持部を有する請求項1に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項3】
前記支持部は、前記固定部材を挿入するときに変形する易変形機構を有する請求項2に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項4】
前記易変形機構は、固定部と変形部とを有し、
前記固定部及び前記変形部は、前記固定部材を挟持して支持する挟持部分を有する請求項3に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項5】
前記易変形機構は、前記変形部に対して前記固定部とは反対側にスリットを更に有しており、
前記変形部は、前記スリットの幅が狭くなる方向に変形する請求項4に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項6】
前記変形部は、前記スリットの幅が狭くなる方向への過度の変形を防止する過変形防止機構を有する請求項5に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項7】
前記変形部は、内部に長孔を有しており、当該長孔の短手方向の幅が狭くなるように変形する請求項4に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項8】
前記固定部及び前記変形部の少なくとも一方は、前記挟持部分よりも先端側に前記固定部材の脱落を防止する脱落防止部分を有しており、
前記脱落防止部分における前記固定部と前記変形部との距離は、前記挟持部分における前記固定部と前記変形部との距離よりも短くなっている請求項4から7のいずれか一項に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項9】
前記脱落防止部分は、前記固定部及び前記変形部の両方に形成されている請求項8に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項10】
前記ガーニッシュは、複数の前記支持部を有している請求項8に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項11】
複数の前記支持部のうち少なくとも二つの前記支持部にそれぞれ支持される少なくとも二つの前記固定部材のそれぞれの前記支持部への挿入方向は、前記ガラス板の板面に平行かつ互いに交差する方向である請求項10に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項12】
二つの前記支持部のうち一方の前記支持部における前記固定部材の挿入方向は、鉛直方向に対して交差する方向である請求項11に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項13】
一方の前記支持部は、前記固定部材が前記挟持部分に支持された状態で、前記固定部材を移動不能に固定する請求項12に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項14】
二つの前記支持部のうち他方の前記支持部は、前記固定部材が前記挟持部分に支持された状態で、前記固定部材の挿入方向に沿って摺動可能である請求項11に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項15】
前記ガラス板は、前記ガーニッシュに接着されることにより支持される請求項1から7のいずれか一項に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項16】
前記固定部材は、前記車体に形成された孔部に挿入された状態で、前記孔部に異物が侵入するのを防止するシール部材を有する請求項1から7のいずれか一項に記載の車両用ガラスモジュール。
【請求項17】
前記ガーニッシュは、前記車体に対向する部位には、緩衝部材が固定されている請求項1から7のいずれか一項に記載の車両用ガラスモジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ガラスモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の側面には、ドアに取付けられて開閉可能な窓以外に、車体に取付けられて開閉不能な固定窓が設けられているものがある(例えば、特許文献1参照)。固定窓を設ける理由の一つは、自動車の側方の視認性を高めるためである。これにより、自動車の運転手や同乗者は、視認により車外側方の安全を確認することができる。
【0003】
特許文献1には、自動車のフロントピラーの下部とフロントサイドボデーとの間に三角形状の固定窓を嵌め込む自動車の固定窓構造について開示されている。この固定窓は、自動車の車体に形成された複数の係止孔に嵌合して係止されたクリップに嵌め込まれることにより、車体に対して固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-040170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の自動車の固定窓構造では、車体に形成された複数の係止孔に嵌合したクリップに対して、固定窓をクリップの側方からスライドさせて嵌め込んでいる。そのため、作業性が悪く、製造効率も低いため、改良の余地があった。
【0006】
そこで、製造効率の良い車両用ガラスモジュールが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの一つの実施形態は、車両の固定窓に用いられる車両用ガラスモジュールであって、ガラス板と、前記ガラス板を支持するガーニッシュと、前記ガラス板及び前記ガーニッシュを前記車両の車体に固定可能な固定部材と、を備え、前記固定部材の延出方向と、前記ガラス板の板厚方向が同じである。
【0008】
本実施形態によると、車両用ガラスモジュールを車体に取付ける際に、ガラス板を車体に取付ける方向と固定部材の延出方向とが同じであるため、例えばガラス板を支持しているガーニッシュに固定部材を取付けた状態で、ガラス板の板厚方向にガーニッシュを押し付けるだけで車体への取付けが完了する。よって、車両用ガラスモジュールの車体への取付けが容易になり、作業性及び製造効率が向上する。
【0009】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、前記固定部材は、前記ガーニッシュに取付けられており、前記ガーニッシュは、前記固定部材を支持する支持部を有する。
【0010】
本実施形態によると、支持部により固定部材を簡便にガーニッシュに取付けることができる。また、ガーニッシュと固定部材とをそれぞれ最適な材料で形成することができる。
【0011】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、前記支持部は、前記固定部材を挿入するときに変形する易変形機構を有する。
【0012】
本実施形態によると、支持部が易変形機構を有するので、固定部材をガーニッシュに取付ける際、支持部が変形して固定部材を容易に支持部に取付けることができる。
【0013】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、前記易変形機構は、固定部と変形部とを有し、前記固定部及び前記変形部は、前記固定部材を挟持して支持する挟持部分を有する。
【0014】
本実施形態によると、変形部により固定部材を容易に支持部に取付けることができると共に、固定部及び変形部の挟持部分により固定部材を確実に支持することができる。
【0015】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、前記易変形機構は、前記変形部に対して前記固定部とは反対側にスリットを更に有しており、前記変形部は、前記スリットの幅が狭くなる方向に変形する。
【0016】
本実施形態によると、スリットを設けることにより変形部が変形しやすくなるので、固定部材をより容易に支持部に取付けることができる。しかも、スリットを設けるだけで変形部の易変形性が向上するため、加工が容易である。
【0017】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、前記変形部は、前記スリットの幅が狭くなる方向への過度の変形を防止する過変形防止機構を有する。
【0018】
本実施形態によると、過変形防止機構により変形部が弾性限度を超えて塑性変形するのを防止することができる。よって、車両の振動を繰り返し受けたとしても、車両用ガラスモジュールの耐久性が高まる。
【0019】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、前記変形部は、内部に長孔を有しており、当該長孔の短手方向の幅が狭くなるように変形する。
【0020】
本実施形態によると、長孔を設けることにより変形部が変形しやすくなるので、固定部材をより容易に支持部に取付けることができる。
【0021】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、前記固定部及び前記変形部の少なくとも一方は、前記挟持部分よりも先端側に前記固定部材の脱落を防止する脱落防止部分を有しており、前記脱落防止部分における前記固定部と前記変形部との距離は、前記挟持部分における前記固定部と前記変形部との距離よりも短くなっている。
【0022】
本実施形態によると、脱落防止部分を有しているので、支持部に取付けられた固定部材が支持部から脱落するのを防止することができる。しかも、脱落防止部分を固定部材が通過する際に変形部の弾性変形が促進されるため、固定部材を簡便にガーニッシュに取付けることができる。
【0023】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、前記脱落防止部分は、前記固定部及び前記変形部の両方に形成されている。
【0024】
本実施形態によると、固定部材の支持部からの脱落を、より確実に防止することができる。
【0025】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、前記ガーニッシュは、複数の前記支持部を有している。
【0026】
本実施形態によると、車体に車両用ガラスモジュールを取付ける際に、車両用ガラスモジュールの位置決めが容易になる。
【0027】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、複数の前記支持部のうち少なくとも二つの前記支持部にそれぞれ支持される少なくとも二つの前記固定部材のそれぞれの前記支持部への挿入方向は、前記ガラス板の板面に平行かつ互いに交差する方向である。
【0028】
本実施形態によると、少なくとも二つの固定部材のそれぞれの支持部への挿入方向が、ガラス板の板面に平行かつ互いに交差する方向であるため、車体に固定された固定部材に対してガーニッシュが相対移動するのを防止することができる。
【0029】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、二つの前記支持部のうち一方の前記支持部における前記固定部材の挿入方向は、鉛直方向に対して交差する方向である。
【0030】
本実施形態によると、鉛直方向に対して交差する方向に挿入された固定部材によって、車両用ガラスモジュールの鉛直方向への移動(ずれ、落下)を防止することができる。
【0031】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、一方の前記支持部は、前記固定部材が前記挟持部分に支持された状態で、前記固定部材を移動不能に固定する。
【0032】
本実施形態によると、固定部材が一方の支持部に対して移動不能に固定されているので、該固定部材によって車両用ガラスモジュールの鉛直方向への移動(ずれ、落下)を防止することができる。
【0033】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、二つの前記支持部のうち他方の前記支持部は、前記固定部材が前記挟持部分に支持された状態で、前記固定部材の挿入方向に沿って摺動可能である。
【0034】
本実施形態によると、一方の支持部に移動不能に固定された固定部材を基準にして、他方の支持部の固定部材が摺動移動することにより、車体と車両用ガラスモジュールの製造ばらつきを吸収して、車両用ガラスモジュールを車体に確実に取付けることができる。
【0035】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、前記ガラス板は、前記ガーニッシュに接着されることにより支持される。
【0036】
本実施形態によると、ガラス板がガーニッシュに接着されているため、ガーニッシュによりガラス板を確実に支持することができる。
【0037】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、前記固定部材は、前記車体に形成された孔部に挿入された状態で、前記孔部に異物が侵入するのを防止するシール部材を有する。
【0038】
本実施形態によると、外部からの異物侵入による車両に不具合が発生するのを防止することができる。また、異物に起因する固定部材の固定機能の低下も抑制できる。
【0039】
本発明に係る車両用ガラスモジュールの他の一つの実施形態において、前記ガーニッシュは、前記車体に対向する部位には、緩衝部材が固定されている。
【0040】
本実施形態によると、車体の振動が車両用ガラスモジュールに伝達されるのを防止することができる。また、車両用ガラスモジュールの車体への装着時に、ガーニッシュが車体に当たって傷が付くという不都合も防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】車両用ガラスモジュールが車体に取り付けられた状態を表す側面図である。
図2】車両用ガラスモジュールと車体の分解斜視図である。
図3図2のIII-III線矢視図である。
図4】固定部材の正面図である。
図5】第1実施形態に係るガーニッシュの正面図である。
図6】第1実施形態に係る第1支持部に固定部材が保持された状態を表す断面図である。
図7】第1支持部に固定部材を取付ける途中の状態を表す断面図である。
図8】第1実施形態に係る第2支持部に固定部材が保持された状態を表す断面図である。
図9】その他の実施形態に係る第1支持部に固定部材が保持された状態を表す断面図である。
図10】その他の実施形態に係る第1支持部に固定部材が保持された状態を表す断面図である。
図11】その他の実施形態に係る第1支持部に固定部材が保持された状態を表す断面図である。
図12】その他の実施形態に係る第2支持部に固定部材が保持された状態を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に、本発明に係る車両用ガラスモジュールの1つの実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に記載される実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこれらの実施形態にのみ限定するものではない。したがって、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。
【0043】
〔車両用ガラスモジュールの構成〕
図1から図3に示されるように、本実施形態に係る車両用ガラスモジュールAは、車体1に取付ける窓に使用される。本実施形態においては、図1に示されるように、車両用ガラスモジュールAを車体1のリヤクウォータガラスに用いているが、開閉せずに車体1の側面に嵌め込まれる箇所の窓であれば任意の箇所に適用することができる。
【0044】
車両用ガラスモジュールAは、ガラス板10、ガーニッシュ20、及び固定部材40により構成されている。ガラス板10は、車体1に取付けた状態で車外側に位置する第1面10aと、第1面10aに平行で車内側(車体1に対向する側)に位置する第2面10bとを有する。ガラス板10は、第2面10bがガーニッシュ20に対して両面テープ11等により接着されてガーニッシュ20に保持されている。ガーニッシュ20は、AS(Acrylonitrile Styrene)やAES(Acrylonitrile Ethylene-propylene-diene Styrene)等の樹脂からなり、ガラス板10を保持可能に構成されている。また、ガーニッシュ20は、支持部50を有し、支持部50により固定部材40を支持(保持)可能に構成されている。ガーニッシュ20は、複数(本実施形態では二つ)の支持部50を有しており、それぞれの支持部50に一つの固定部材40が取付けられている。支持部50の詳細については後述する。
【0045】
車両用ガラスモジュールAは、図2に示されるように、車体1において、開口2を有する窓枠3に取付けられる。窓枠3の開口2の近傍には、車両用ガラスモジュールAの二つの固定部材40がそれぞれ挿入される長円形状の長円孔4と円形状の円孔5とが形成されている。鉛直方向に対して車体1(窓枠3)の上側に長円孔4が形成され、下側に円孔5が形成されている。長円孔4は、車両用ガラスモジュールAを車体1に取付けた状態で、長径がガーニッシュ20の長手方向に平行な方向になるように形成されている。
【0046】
車両用ガラスモジュールAが車体1に取付けられた状態で、ガラス板10のうち開口2と重複しない箇所、換言すれば窓枠3と重複する箇所における第2面10bには、不図示の濃色のセラミックス層が形成されている。該セラミックス層は、セラミックス粉末含有塗料を塗布して焼き付けることにより形成されている。そして、セラミックス層が形成された箇所に、車体1に対してガラス板10を固定する接着剤が塗布される。該接着剤は図3には表れない箇所に塗布されている。ガーニッシュ20におけるガラス板10を保持している側と反対側の端部には緩衝部材13が配置されている。緩衝部材13は、例えばスポンジ等の多孔質体やゴム等の弾性部材である。その後、車両用ガラスモジュールAを車体1に取付ける(図3も参照)。これにより、ガラス板10に接着剤が塗布された箇所と、ガーニッシュ20に緩衝部材13が配置された箇所とが車体1に密着して固定されると共に、ガーニッシュ20に支持された二つの固定部材40がそれぞれ長円孔4と円孔5に挿入される。このようにして、車両用ガラスモジュールAが車体1に固定される。
【0047】
〔固定部材の構造〕
固定部材40は、図4に示されるように、軸部41、ストッパ42、挟持部43、被挟持部44、及びシール部材45を有して構成されている。固定部材40は、シール部材45を除いて弾性を有する樹脂により一体的に形成されている。軸部41は、直線状に延出しており、車体1の長円孔4又は円孔5に挿入される部分である。軸部41は延出方向に垂直な方向の断面が矩形状である。
【0048】
ストッパ42は、軸部41の延出方向に対して左右方向下方に広がるように二つ(一対)形成されており、一対のストッパ42,42の幅d1は、長円孔4の短径及び円孔5の直径よりも大きい。一対のストッパ42,42は、幅d1が小さくなる方向に弾性変形可能に構成されており、車体1の長円孔4又は円孔5に挿入される際には弾性変形して長円孔4又は円孔5を通過し、通過した後は復元して幅d1に戻る。これにより、車両用ガラスモジュールAは、車体1に固定される。
【0049】
固定部材40の一対の挟持部43,43は、後述する支持部50の変形部52と固定部53とを挟持する。一対の挟持部43,43の間に配置された被挟持部44は、支持部50の変形部52と固定部53とに挟持される。このように、固定部材40の一対の挟持部43,43が支持部50の変形部52と固定部53とを挟持しつつ、被挟持部44が変形部52と固定部53とに挟持されることにより、固定部材40は支持部50に支持される。
【0050】
軸部41の延出方向に垂直な方向における固定部材40の挟持部43の断面は円形状であり、被挟持部44の断面は矩形状である。被挟持部44の矩形状断面における平行な二本の長辺に相当する二面が変形部52と固定部53とに挟持されている(図6も参照)。これにより、固定部材40が支持部50に対して軸部41を中心に回転することが防止される。なお、挟持部43の断面は円形状に限らず任意の形状にすることができる。
【0051】
シール部材45は、ゴム等の弾性材料からなり、中心部に貫通孔を有する円板形状を有している。シール部材45は、該貫通孔を軸部41に挿通することにより、固定部材40に対して保持される。固定部材40を車体1の長円孔4又は円孔5に挿入して車両用ガラスモジュールAを取付ける際に、シール部材45は板厚方向に弾性変形しつつ車体1の窓枠3に密着することにより、長円孔4及び円孔5を塞ぐ。これにより、長円孔4及び円孔5から雨水や異物等が車体1の内部に入り込む不具合を防止する。なお、シール部材45の外形は円板形状だけに限られない。シール部材45は、例えば角板形状や楕円板形状でもよく、板面に垂直な方向から見たときの外形は任意である。
【0052】
〔支持部の構造〕
ガーニッシュ20は、図5に示されるように、平面視で略矩形状を有しており、長辺に相当する箇所が車体1の窓枠3のドアとの境界である縁部3aに沿うような形状を有している(図2参照)。ガーニッシュ20は、二つの支持部50を有している。二つの支持部50は、上述したように、それぞれ固定部材40を保持し、二つの固定部材40は、長円孔4と円孔5とにそれぞれ挿入される。以後、長円孔4に挿入される固定部材40を支持する支持部50と、円孔5に挿入される固定部材40を支持する支持部50とを区別するときは、長円孔4に挿入される固定部材40を支持する支持部50を第1支持部50a(支持部の一例)、円孔5に挿入される固定部材40を支持する支持部50を第2支持部50b(支持部の一例)と称する。図5において、第1支持部50aはガーニッシュ20の上側、第2支持部50bはガーニッシュ20の下側に配置されている。支持部50の一部は、いずれもガーニッシュ20から側方に突出している。また、以下では、ガーニッシュ20の長手方向(図5における紙面の上下方向)に沿う方向を上下方向といい、上下方向において相対的に上に位置する箇所を上部、上側、相対的に下に位置する箇所を下部、下側等という。
【0053】
まず、第1支持部50aについて、図6図7を用いて説明する。図6は、固定部材40が第1支持部50aに挿入が完了して、第1支持部50aに取付け完了して支持されている状態を表し、図7は、固定部材40が第1支持部50aに取付ける途中の状態を表す。
【0054】
第1支持部50aは、固定部材40を容易に取付けるための易変形機構51を有する。易変形機構51は、変形部52と固定部53とを含んでいる。変形部52は、第1支持部50aの上方から下方に向けて延出している。つまり、変形部52の基端部は第1支持部50aの上方に位置し、先端部は下方に位置する。固定部53は変形部52と平行になるように形成されている。変形部52と固定部53とは、基端部で繋がっており、先端部で離間している。変形部52と固定部53とは固定部材40の被挟持部44を挟持する挟持部分54を有している。変形部52と固定部53との間の距離である挟持部分54の幅d2は、被挟持部44の断面における平行な二本の長辺に相当する二面間の距離よりもわずかに大きい。すなわち、被挟持部44の断面における平行な二本の長辺に相当する二面間の距離は幅d2よりもわずかに小さい。以下、変形部52の先端部と該先端部に対向する固定部53の先端部とを含む領域を、挟持部分54の先端部ともいう。
【0055】
次に、固定部材40の第1支持部50aへの取付けについて説明する。固定部材40は、変形部52の先端部よりも下方に配置して、上方に向けて移動させることにより第1支持部50aに取付けられる。固定部材40を第1支持部50aに取付けるときには、まず、固定部材40の一対の挟持部43,43で変形部52と固定部53とを挟持する。その状態で固定部材40を上方にある挟持部分54に向けて押圧すると、固定部材40(被挟持部44)は、固定部53の先端部に形成されたテーパ53aに沿って挟持部分54の先端部まで上方に移動する。変形部52は、先端部に脱落防止部分52aを有する。脱落防止部分52aとは、変形部52において固定部53に向けて突出した突出部分である。変形部52が脱落防止部分52aを有することにより、挟持部分54の先端部における変形部52(脱落防止部分52a)と固定部53との距離は、挟持部分54の幅d2よりも狭い。そのため、そのままでは、固定部材40の被挟持部44を挟持部分54に進入することはできない。
【0056】
本実施形態において、第1支持部50aはスリット55を有しているので、固定部材40を挟持部分54に向けて更に上方に押圧すると、図7に示されるように、被挟持部44に押されて変形部52がスリット55の幅が狭くなる方向に変形し、挟持部分54の先端部における脱落防止部分52aと固定部53との距離が大きくなる。そして、脱落防止部分52aと固定部53との距離が被挟持部44の幅に等しくなると、固定部材40の被挟持部44は挟持部分54に向かって進入可能になる。被挟持部44が脱落防止部分52aを通過すると、図6に示されるように、変形部52は元の位置に戻り、固定部材40の被挟持部44は、第1支持部50aの挟持部分54に挟持される。これにより、固定部材40の第1支持部50aへの取付けが完了する。
【0057】
本実施形態の第1支持部50aはスリット55を有するので、固定部材40を取付ける際に変形部52が変形する。これにより、挟持部分54の先端部における脱落防止部分52aと固定部53との距離を大きくすることができるので、固定部材40を容易に第1支持部50aに取付けることができる。その一方で、変形部52の先端部には脱落防止部分52aがあるので、固定部材40が挟持部分54に挟持された状態で、固定部材40に無理に下向きの力を加えて変形部52を変形させない限り、挟持部分54から脱落することはない。すなわち、第1支持部50aは、固定部材40を取付けやすく脱落しにくい構造を有している。
【0058】
次に、第2支持部50bについて、図8を用いて説明する。第2支持部50bは、変形部52、固定部53、及びスリット55が上下方向に対して垂直な方向である水平方向に延出している点で第1支持部50aと異なる。すなわち、第1支持部50aに挿入される固定部材40の挿入方向と、第2支持部50bに挿入される固定部材40の挿入方向は、ガラス板10の板面に平行かつ互いに交差する方向である。より具体的には、第2支持部50bにおける固定部材40の挿入方向は、鉛直方向に対して交差する方向である。また、第2支持部50bにおいては、変形部52と固定部53の両方の先端部にテーパ53aが形成されている。第2支持部50bにおいて、その他の点は第1支持部50aと同じである。よって、第2支持部50bについての詳細な説明を省略する。
【0059】
車体1を製造する際において、長円孔4と円孔5との距離(上下方向の中心間距離)は、車体1の個体により異なっておりばらついている。また、ガーニッシュ20を製造する際においても、第1支持部50aと第2支持部50bとの距離(上下方向の距離)は、ガーニッシュ20の個体により異なっておりばらついている。以下、車体1におけるばらつきとガーニッシュ20におけるばらつきとを総称するときには、単に「ばらつき」という。第1支持部50aにおいて、挟持部分54と接している固定部材40の被挟持部44の上下方向に沿う長さは、挟持部分54における上下方向に沿う長さよりも短い。そのため、固定部材40は、脱落防止部分52aよりも上の挟持部分54において第1支持部50aに対して上下方向に摺動により移動可能である(図6参照)。また、第2支持部50bにおいて、固定部材40は、脱落防止部分52aよりも左側に位置する挟持部分54において左右方向には摺動により移動可能であるが、上下方向には移動不能である。そこで、車体1に車両用ガラスモジュールAを取付ける際には、第2支持部50bに保持されて円孔5に挿入された固定部材40を基準として、第1支持部50aに保持された固定部材40を上下方向に移動させて長円孔4に対向させるとよい。これにより、ばらつきを有する車体1に、ばらつきを有するガーニッシュ20を取付ける場合であっても、第1支持部50aに保持された固定部材40が上下に移動して長円孔4に挿入することができる。これにより、車両用ガラスモジュールAを確実に車体1に取付けることができる。なお、本実施形態においては、第1支持部50aに保持された上下移動可能な固定部材40に長円孔4が対向しているので、長円孔4でもばらつきを吸収でき、車体1及びガーニッシュ20のばらつきがより大きくなっても車両用ガラスモジュールAを車体1に取付けることができる。
【0060】
〔その他の実施形態〕
(1)図9に示されるように、第1支持部50aの固定部53において、変形部52の脱落防止部分52aに対向する箇所にも脱落防止部分52aを設けてもよい。これにより、固定部材40をより確実に保持することができる。なお、本実施形態においては、固定部53に加え変形部52の先端部にもテーパ53aが形成されているが、変形部52のテーパ53aはなくてもよい。また、第2支持部50bの固定部53にも脱落防止部分52aを設けてもよい。
【0061】
(2)図10に示されるように、第1支持部50aの変形部52の先端部に対向するスリット55の箇所に、変形部52に向けて突出する突起である過変形防止機構55aを設けてもよい。過変形防止機構55aは、変形部52の先端部と対向するスリット55から変形部52に向かって突出する突起である。過変形防止機構55aを設けることにより、変形部52が弾性限度を超えて塑性変形するのを防止することができる。また、第2支持部50bのスリット55に過変形防止機構55aを設けてもよい。
【0062】
(3)図11に示されるように、第1支持部50aにおいて、スリット55の代わりに長孔56を設け変形部52を構成してもよい。長孔56の短手方向の幅が狭くなる方向に変形部52が変形することにより、固定部材40を容易に挟持部分54に挿入することができる。また、第2支持部50bにおいても、スリット55に代えて長孔56を設けてもよい。
【0063】
(4)図12に示されるように、第2支持部50bにおいて、挟持部分54を円形状に形成してもよい。この場合、固定部材40の被挟持部44も断面が円形状になるように構成する必要がある。このように構成することで、固定部材40を上下方向だけでなく、左右方向にも移動不能に構成することができる。したがって、本実施形態においては、変形部52に脱落防止部分52aを設ける必要はないが、脱落防止部分52aを設けてもよい。また、第1支持部50aにおいても、円形状の挟持部分54を設けてもよい。ただし、この場合には、第1支持部50aに保持された固定部材40は上下方向に移動不能になるため、長円孔4の長径の範囲内でのみばらつきを吸収することができる。
【0064】
(5)上記各実施形態においては、第1支持部50aに保持された固定部材40は上下方向に摺動移動可能であり、第2支持部50bに保持された固定部材40は左右方向に摺動移動可能であったがこれに限られるものではない。固定部材40が支持部50に対して移動不能に構成されてもよい。この場合、例えば、挟持部分54の長さと、挟持部分54と接している固定部材40の被挟持部44の長さとを同じにするとよい。ただし、この場合には、上記(4)と同様、第1支持部50aに保持された固定部材40は上下方向に移動不能であるため、長円孔4の長径の範囲内でのみばらつきを吸収することができる。
【0065】
(6)上記各実施形態においては、第1支持部50aに保持された固定部材40は上下方向に摺動移動可能であり、第2支持部50bに保持された固定部材40は左右方向に摺動移動可能であったが、逆であってもよい。すなわち、第1支持部50aに保持された固定部材40が左右方向に摺動移動可能であり、第2支持部50bに保持された固定部材40が上下方向に摺動移動可能であってもよい。この場合は、長円孔4を下側に、円孔5を上側に配置するとよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、車両用ガラスモジュールに利用可能である。
【符号の説明】
【0067】
A :車両用ガラスモジュール
1 :車体
10 :ガラス板
10a :第1面
10b :第2面
13 :緩衝部材
20 :ガーニッシュ
40 :固定部材
45 :シール部材
50 :支持部
50a :第1支持部(支持部)
50b :第2支持部(支持部)
51 :易変形機構
52 :変形部
52a :脱落防止部分
53 :固定部
54 :挟持部分
55 :スリット
55a :過変形防止機構
56 :長孔

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12