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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094032
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
   D05B 27/24 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
D05B27/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210732
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104178
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100143960
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 早百合
(72)【発明者】
【氏名】藤原 慎也
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA01
3B150CE01
3B150CE23
3B150DE06
3B150DE14
3B150DE33
3B150JA17
(57)【要約】
【課題】送り歯により被縫製物を送る構成の内の腕の位置の変化を従来よりも安定して送り台に伝達できるミシンを提供すること。
【解決手段】ミシンは、下軸45、送り歯69、送り台2、第一軸部64、第一腕5、第二軸部21、第二腕7、被嵌合部81、及び調節部材4を備える。第一腕5は、第一軸部64に挿通され、第一軸部64を中心として揺動可能に送り台2を支持する。第二腕7は、第一腕5に固定された第二軸部21に挿通され、軸方向Jに沿って移動可能に支持される。被嵌合部81は、第二腕7に対して移動可能に第二腕7と嵌合する。調節部材4は、下軸45の回転に応じて、第一軸部64を中心として第一腕5を揺動させ、送り台2に支持された送り歯69を搬送方向Fに沿った双方向に揺動させる。付勢部材9は、第二腕7に対して、作用方向Cの付勢力を作用させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下軸と、
被縫製物を搬送方向に搬送する送り歯と、
前記送り歯を支持する送り台と、
上下方向及び前記搬送方向の各々に直交する軸方向に延びる第一軸部と、
前記第一軸部に挿通され、前記第一軸部を中心として揺動可能に前記送り台を支持する第一腕と、
前記第一腕に固定され、前記軸方向に延出する第二軸部と、
前記第二軸部に挿通され、前記軸方向に沿って移動可能に支持される第二腕と、
前記第二腕に対して移動可能に前記第二腕と嵌合する被嵌合部と、
前記下軸の回転に応じて、前記被嵌合部と前記第二腕とが嵌合した状態で前記第二腕を変位させることにより、前記第一軸部を中心として前記第一腕を揺動させ、前記送り台に支持された前記送り歯を前記搬送方向に沿った双方向に揺動させる調節部材と、
前記第二腕に対して、前記軸方向に沿った作用方向の付勢力を作用させる付勢部材と、
を備えるミシン。
【請求項2】
前記第二腕は、
板部材と、
前記板部材に挿通される嵌合ピンと、
前記嵌合ピンに固定され、前記第二腕に付与された前記付勢部材の前記付勢力を前記嵌合ピンに作用させる作用部と、
を有し、
前記被嵌合部は、前記第二腕の前記嵌合ピンと嵌合することを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記被嵌合部には、前記作用方向に凹む溝部が形成され、
前記嵌合ピンは、前記溝部に沿って移動可能に前記溝部と嵌合する
ことを特徴とする請求項2に記載のミシン。
【請求項4】
前記調節部材は、前記第二腕の下方において、前記下軸に固定された送りカムを有し、前記被嵌合部と前記第二腕とが嵌合した状態で、前記送りカムが回転することに応じて前記第二腕を変位させることを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項5】
前記嵌合ピンを挿通するピン挿通部が形成され、前記ピン挿通部に挿通された前記嵌合ピンを支持する支持部材を更に備えることを特徴とする請求項2に記載のミシン。
【請求項6】
前記付勢部材は、前記第二腕に連結することを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項7】
前記支持部材には、前記第二軸部を挿通する軸挿通部が形成され、
前記支持部材は、前記軸挿通部に挿通された前記第二軸部を介して、前記第一腕に支持されることを特徴とする請求項5に記載のミシン。
【請求項8】
前記第二腕は、前記第二軸部が挿通される第二腕軸挿通部を有し、
前記第二腕軸挿通部の直径は、前記支持部材の前記軸挿通部より大きい
ことを特徴とする請求項7に記載のミシン。
【請求項9】
前記支持部材は、前記軸方向において互いに対向する一対の壁部を有し、
前記一対の壁部の各々には、前記ピン挿通部と、前記軸挿通部とが形成され、
前記支持部材は、一対の前記軸挿通部に挿通された前記第二軸部を介して、前記第一腕に支持されることを特徴とする請求項7に記載のミシン。
【請求項10】
前記第二腕は、前記軸方向において、前記支持部材の前記一対の壁部の間に配置されることを特徴とする請求項9に記載のミシン。
【請求項11】
前記第二軸部に固定され、前記第二腕の前記軸方向の移動範囲を、前記第二腕が前記第一腕及び前記第二軸部の先端部の少なくとも何れかに当接しない範囲に規制する規制部を更に備える請求項1に記載のミシン。
【請求項12】
前記軸方向において、前記支持部材の前記一対の壁部の間において、前記第二軸部に固定され、前記第二腕の前記軸方向の移動範囲を、前記第二腕が前記一対の壁部の各々の少なくとも何れかに当接しない範囲に規制する規制部を更に備えることを特徴とする請求項10に記載のミシン。
【請求項13】
前記支持部材は、前記一対の壁部を側面とするU字形状であることを特徴とする請求項9に記載のミシン。
【請求項14】
前記第二腕は、前記作用部に当接するために、前記作用方向に突出する凸部を有し、
前記第二腕は、前記凸部が前記作用部に当接することにより、前記付勢力を前記嵌合ピンに作用させることを特徴とする請求項2に記載のミシン。
【請求項15】
前記第二軸部は、前記搬送方向に沿った双方向おける前記第二腕の一端部に挿通され、
前記付勢部材は、前記第二腕の他端部と連結し、
前記嵌合ピンは、前記第二腕の前記一端部と前記他端部との間において前記第二腕に挿通され、
前記被嵌合部は、前記第二腕に対して前記作用方向に配置されることを特徴とする請求項2に記載のミシン。
【請求項16】
前記第二腕に対して、前記作用方向とは反対の反作用方向において前記第二軸部に固定され、前記第二腕の前記軸方向の移動範囲を、前記第二軸部の先端部に当接しない範囲に規制する規制部を更に備えることを特徴とする請求項15に記載のミシン。
【請求項17】
下軸と、
被縫製物を搬送方向に搬送する送り歯と、
前記送り歯を支持する送り台と、
上下方向及び前記搬送方向の各々に直交する軸方向に延びる第一軸部と、
前記第一軸部に挿通され、前記第一軸部を中心として揺動可能に前記送り台を支持する第一腕と、
前記第一腕に固定され、前記軸方向に延出する第二軸部と、
前記第二軸部に挿通され、前記軸方向に沿って移動可能に支持される第二腕であって、
前記第二腕に挿通される嵌合ピンと、
前記嵌合ピンに固定された作用部と、
を有する前記第二腕と、
前記嵌合ピンに対して移動可能に前記嵌合ピンと嵌合する被嵌合部と、
前記下軸の回転に応じて、前記被嵌合部と前記第二腕の前記嵌合ピンとが嵌合した状態で、前記第二腕を変位させることにより、前記第一軸部を中心として前記第一腕を揺動させ、前記送り台に支持された前記送り歯を前記搬送方向に沿った双方向に揺動させる調節部材と、
前記軸方向の内、前記第二腕に対して、前記第一腕と前記第二軸部との連結部分が位置する方向である作用方向の付勢力を前記第二腕に作用させる付勢部材と、
前記嵌合ピンを挿通するピン挿通部と前記第二軸部を挿通する軸挿通部とが各々形成され、前記軸方向において互いに対向する一対の壁部を有し、前記一対の壁部を側面とするU字形状で、一対の前記軸挿通部に挿通された前記第二軸部を介して、前記第一腕に対し、一対の前記ピン挿通部に挿通された前記嵌合ピンを支持する支持部材と、
を備えることを特徴とするミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のミシンは、送り歯により被縫製物を送る構成として、送りカム、腕、及び付勢部材を備える(例えば、特許文献1参照)。送りカムは、下軸の回動に応じて揺動する。腕は、中間部が送りカムに嵌合され、送りカムの偏心カム面の作用により揺動に応じて位置が変更される。付勢部材は、腕を付勢することで、腕と、送りカムとが嵌合した状態を維持させる。腕の一端部は、送り台に設けられた軸に挿通される。腕は、送り台に腕の位置の変化を伝達することで、送り台に支持される送り歯を動作させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平3-21730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のミシンでは、付勢部材による付勢力が腕に加わる。故に、ミシンでは、腕に生じた力のモーメントに起因して、腕の焼き付き、及び送り動作不良等の不具合が生じる可能性がある。
【0005】
本発明の目的は、送り歯により被縫製物を送る構成の内の腕の位置の変化を従来よりも安定して送り台に伝達できるミシンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一態様に係るミシンは、下軸と、被縫製物を搬送方向に搬送する送り歯と、前記送り歯を支持する送り台と、上下方向及び前記搬送方向の各々に直交する軸方向に延びる第一軸部と、前記第一軸部に挿通され、前記第一軸部を中心として揺動可能に前記送り台を支持する第一腕と、前記第一腕に固定され、前記軸方向に延出する第二軸部と、前記第二軸部に挿通され、前記軸方向に沿って移動可能に支持される第二腕と、前記第二腕に対して移動可能に前記第二腕と嵌合する被嵌合部と、前記下軸の回転に応じて、前記被嵌合部と前記第二腕とが嵌合した状態で、前記第二腕を変位させることにより、前記第一軸部を中心として前記第一腕を揺動させ、前記送り台に支持された前記送り歯を前記搬送方向に沿った双方向に揺動させる調節部材と、前記第二腕に対して、前記軸方向に沿った作用方向の付勢力を作用させる付勢部材とを備える。
【0007】
第一態様のミシンでは、調節部材が第二腕を変位させた場合に、第一腕に支持された送り台が第一軸部を中心に揺動され、送り歯は搬送方向に沿った双方向に揺動する。付勢部材により第二腕に作用方向の付勢力が加えられることで、被嵌合部と第二腕とは安定して嵌合した状態を維持する。一方、第二腕に付勢部材からの付勢力が作用された場合に、第二腕が軸方向に沿って移動可能とする。ミシンでは、第二腕に加わった付勢力は、第一腕及び第二軸部に伝達されにくい。したがって、ミシンの第二腕は、被嵌合部と第二腕とが安定して嵌合した状態を維持することと、付勢力が第二軸部に伝達されることに起因する第二軸部の焼き付き、及び送り動作不良等の問題が発生する可能性を従来よりも低減することとの両立に貢献する。つまり、ミシン1は、第二腕の位置の変化を従来よりも安定して送り台に伝達することに貢献する。
【0008】
本発明の第二態様に係るミシンは、下軸と、被縫製物を搬送方向に搬送する送り歯と、前記送り歯を支持する送り台と、上下方向及び前記搬送方向の各々に直交する軸方向に延びる第一軸部と、前記第一軸部に挿通され、前記第一軸部を中心として揺動可能に前記送り台を支持する第一腕と、前記第一腕に固定され、前記軸方向に延出する第二軸部と、前記第二軸部に挿通され、前記軸方向に沿って移動可能に支持される第二腕であって、前記第二腕に挿通される嵌合ピンと、前記嵌合ピンに固定された作用部とを有する前記第二腕と、前記嵌合ピンに対して移動可能に前記嵌合ピンと嵌合する被嵌合部と、前記下軸の回転に応じて、前記被嵌合部と前記第二腕の前記嵌合ピンとが嵌合した状態で、前記第二腕を変位させることにより、前記第一軸部を中心として前記第一腕を揺動させ、前記送り台に支持された前記送り歯を前記搬送方向に沿った双方向に揺動させる調節部材と、前記軸方向の内、前記第二腕に対して、前記第一腕と前記第二軸部との連結部分が位置する方向である作用方向の付勢力を前記第二腕に作用させる付勢部材と、前記嵌合ピンを挿通するピン挿通部と前記第二軸部を挿通する軸挿通部とが各々形成され、前記軸方向において互いに対向する一対の壁部を有し、前記一対の壁部を側面とするU字形状で、一対の前記軸挿通部に挿通された前記第二軸部を介して、前記第一腕に対し、一対の前記ピン挿通部に挿通された前記嵌合ピンを支持する支持部材と、を備える。
【0009】
第二態様のミシンは、第一態様のミシンと同様の効果を奏する。更に第二態様のミシンの被嵌合部は、被嵌合部の構成を比較的簡単にでき、第一腕と第二軸部との連結部分及び第二軸部の先端部の各々に付勢部材の付勢力が伝達されることを回避できる。ミシンは、支持部材で嵌合ピンを支持することで、支持部材がない場合に比べ、嵌合ピンが被嵌合部に対して移動する時に嵌合ピンがガタつくことを抑制でき、嵌合ピンと被嵌合部とが嵌合した状態を安定して維持しやすい。つまり、ミシンの支持部材は、第二腕の位置の変化を従来よりも安定して送り台に伝達することに貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ミシン1の斜視図である。
図2】前後送り機構6の斜視図である。
図3】第一腕5、第二腕7、支持部材3、第一調節部材8、第二調節部材4、付勢部材9、及び下軸45の斜視図である。
図4】第一腕5、第二腕7、支持部材3、及び付勢部材9の平面図である。
図5】第一腕5、第二腕7、支持部材3、付勢部材9、及び第二調節部材4の背面図である。
図6】第一腕5、第二腕7、及び支持部材3の右側面図である。
図7】第一腕5、第二腕7、支持部材3、第一調節部材8、第二調節部材4、付勢部材9、及び下軸45の左側面図である。
図8】搬送方向Fに被縫製物を搬送する場合の前後送り機構6の動作を説明する左側面図である。
図9】搬送方向Fとは反対の返し方向Bに被縫製物を搬送する場合の前後送り機構6の動作を説明する左側面図である。
図10】変形例の第二腕107及び支持部材103の平面図である。
図11】変形例の第二軸部121、第二腕207及び付勢部材109の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。図1を参照して、ミシン1の物理的構成を説明する。図1の上下方向、右上方、左下方、右下方、及び左上方は各々、ミシン1の上下方向、右方、左方、前方、及び後方である。ベッド部11及びアーム部13の長手方向がミシン1の左右方向である。脚柱部12が配置されている側が右側である。脚柱部12の伸長方向がミシン1の上下方向である。
【0012】
図1に示すように、ミシン1は、ベッド部11、脚柱部12、アーム部13、及び頭部14を備える。ベッド部11は、左右方向に延びるミシン1の土台部であり上面に針板15を備える。針板15には、前後方向に延びる複数列の角孔16が形成されている。図2に示すように、ベッド部11は針板15の下方に、下軸45、釜機構(図示略)及び送り機構(図示略)を備える。下軸45は、左右方向に延び、ミシンモータ(図示略)の駆動に応じて軸心周りに回転する。釜機構は、水平釜を有し、下軸45の回動に応じて回動し、針板15の下方において上糸(図示略)を下糸(図示略)に絡ませる。送り機構は、上下送り機構(図示略)及び前後送り機構6を有し、下軸45の回転に応じて、送り歯69を角孔16よりも上方に突出させて、送り歯69を被縫製物に係合させた状態で搬送方向Fに移動させることで、被縫製物を搬送方向Fに搬送する。本例のミシン1の搬送方向Fは、後方である。返し縫い等を実施する場合、ミシン1は、搬送方向Fの反対の返し方向B、つまり前方にも被縫製物を搬送できる。
【0013】
図1に示すように、脚柱部12は、ベッド部11の右端部から上方へ立設される。脚柱部12の内部には、ミシンモータが設けられる。アーム部13は、ベッド部11に対向して脚柱部12の上端から左方へ延びる。頭部14は、アーム部13の左先端部に連結する部位である。頭部14には、針棒17、針棒機構(図示略)、及び押え棒19等が設けられる。針棒17の下端は、縫針18を装着可能である。針棒機構は、ミシンモータの駆動に応じて針棒17を上下方向に移動する。押え棒19は、針棒17の後方において上下方向に延び、ミシンモータの駆動に同期して、上下方向に移動する。押え棒19の下端は、押え足20を装着可能である。
【0014】
図2から図7を参照して、前後送り機構6について説明する。図2に示すように、前後送り機構6は、下軸45、送り歯69、送り台2、第一軸部64、第一腕5、第二軸部21、第二腕7、第一調節部材8、第二調節部材4、付勢部材9、規制部10、及び支持部材3を備える。下軸45には、前後送りカム48、上下送りカム47、及び補助カム46が、右から左にこの順で設けられる。前後送りカム48は、送り台2を前後方向に揺動させるためのカムである。上下送りカム47及び補助カム46は、送り台2を上下方向に揺動させるためのカムである。前後送りカム48、上下送りカム47、及び補助カム46のカム面は、段差の無い滑らかな面に形成されている。前後送りカム48、上下送りカム47、及び補助カム46は、合成樹脂材料によって一体形成されて、下軸45に固定されている。
【0015】
送り歯69は、被縫製物を搬送方向Fに搬送する。送り歯69は、板状の固定部70を備える。固定部70は、複数列の刃の後端部を固定部70の上面に固定する。送り台2は、送り歯69を支持する。送り台2は、平面視前方が開放するU字状であり、右腕部65、左腕部66、右支持部67、及び左支持部68を備える。右腕部65、及び左腕部66は、左右方向に離隔し、下軸45の上方で前後方向に延びる。右支持部67は、右腕部65の後端部から上方に延びる。左支持部68は、左腕部66の後端部から上方に延びる。右支持部67と左支持部68とは、左右方向に離隔する。右支持部67は、右支持部67の左面から左方に突出して固定される軸49を中心として、固定部70の右後端部を揺動可能に支持する。左支持部68は左支持部68の右面から右方に突出して固定される軸50を中心として、固定部70の左後端部を揺動可能に支持する。
【0016】
図3に示すように、第一軸部64は、下軸45の前方において、上下方向及び搬送方向Fの各々に直交する軸方向Jに延びる、円柱状の部材である。本例の軸方向Jは左右方向である。第一腕5は、正面視上方が開放するU字状であり、第一軸部64に挿通され、第一軸部64を中心として揺動可能に送り台2を支持する。第一腕5は、右腕部61、左腕部63、及び連結部62を備える。右腕部61及び左腕部63は、左右方向に離隔し、上下方向に延びる。図6に示すように、右腕部61には、左右方向に貫通する、右側面視円状の第一腕軸挿通部56、孔54、及び孔58が形成される。孔54は、右腕部61の下端部に形成され、孔58は、右腕部61の上端部に形成される。上下方向において、第一腕軸挿通部56は、孔54と孔58との間にある。孔54には、第一軸部64が挿通される。第一腕軸挿通部56には、第二軸部21が挿通されて固定される。孔58には、左右方向に延びる軸52が固定され、軸52は、送り台2の右腕部65の前端の挿通孔28に挿通される。
【0017】
図3に示すように、左腕部63には、左右方向に貫通する、右側面視円状の孔55、及び孔59が形成される。孔55は、左腕部63の下端部に形成され、孔59は、左腕部63の上端部に形成される。孔55には、第一軸部64が挿通される。孔59には、左右方向に延びる軸53が固定され、軸53は、送り台2の左腕部66の前端の挿通孔29に挿通される。連結部62は、第一軸部64の上方において、左右方向に延び右腕部61と、左腕部63とを連結する。第一腕5は、軸52、53を中心として、送り台2を揺動可能に支持する。左右方向において、送り台2は、右腕部61と左腕部63との間に配置される。
【0018】
図3及び図4に示すように、第二軸部21は、第一腕5の右腕部61の第一腕軸挿通部56に挿通されて、第一腕5に固定され、軸方向Jに延出する。具体的には、第二軸部21は、第一腕5の右腕部61の左面から左方に延出する。
【0019】
第二腕7は、第二軸部21に挿通され、軸方向Jに沿って移動可能に第二軸部21に支持される。第二腕7は、板部材71、嵌合ピン40、及び作用部73を備える。板部材71は、前後方向に長い板である。板部材71の最大面は、左右方向に垂直な、右面及び左面である。板部材71には、切欠き75、並びに左右方向に貫通する、右側面視円状の孔74、ピン挿通部76、及び第二腕軸挿通部77が形成される。切欠き75は、板部材71の後端から前方に半円状に切り欠かれた部分であり、付勢部材9の左端部を案内する。孔74は、切欠き75の前方に設けられ、付勢部材9の左端部に設けられたフックを挿通する。ピン挿通部76は、板部材71の前後方向の中心よりもやや後方に形成され、第二腕軸挿通部77は、板部材71の前端部に形成される。第二軸部21は、搬送方向Fにおける第二腕7の一端部である前端部に形成された第二腕軸挿通部77に挿通される。第二腕軸挿通部77に第二軸部21が挿通された状態において、第二腕軸挿通部77と第二軸部21との間には、第二腕7が上下前後方向に移動することを許容する僅かな隙間がある。
【0020】
嵌合ピン40は、本体部41と、頭部42とを備える。本体部41は、第二軸部21に平行な左右方向に延びる円柱状であり、第二腕7に挿通される。嵌合ピン40は、第二腕7の一端部と他端部との間において第二腕7のピン挿通部76に挿通される。頭部42は、本体部41の径よりも大きい径を有し、板部材71及び支持部材3よりも右方において本体部41の右端と連結する。頭部42は球体状であり、頭部42の外周は、滑らかな曲面である。作用部73は、嵌合ピン40の本体部41に固定され、第二腕7に付与された付勢部材9の付勢力を嵌合ピン40に作用させる。本例の作用部73は、板部材71の右方において、本体部41に固定された、止め輪である。第二腕7の板部材71は、作用部73に当接するために、作用方向Cに突出する凸部72を有する。第二腕7の板部材71は、凸部72が作用部73に当接することにより、付勢力を嵌合ピン40に作用させる。
【0021】
第一調節部材8は、下軸45の上方且つ第二腕7の右方に設けられ、第二腕7と連結する。第一調節部材8は、被嵌合部81、送り調節器83、部材84、及び軸86を備える。被嵌合部81は、左側面視上下方向に長い矩形状であり、嵌合ピン40の頭部42と嵌合する。嵌合ピン40が被嵌合部81に嵌合されることにより、第二腕7が被嵌合部81と嵌合する。被嵌合部81には、付勢部材9の作用方向Cに凹む溝部82が形成される。図7に示すように、溝部82の断面形状は、平面視左方ほど前後方向の長さが長いテーパ状である。溝部82の左右方向の長さは、頭部42の左右方向の長さよりも長い。嵌合ピン40は、溝部82に沿って移動可能に溝部82と嵌合する。嵌合ピン40が溝部82に嵌合した状態で、嵌合ピン40の右端は、溝部82の底面と離隔する。嵌合ピン40の外周の前端部と後端部とは各々、溝部82と当接する。被嵌合部81は、溝部82の角度が変わるように、被嵌合部81の姿勢が左右方向の延びる軸86を中心として回転可能に支持されている。被嵌合部81は、部材84を介して送り調節器83と連結する。送り調節器83は、送り量調節モータ(図示略)の出力軸と噛み合う扇状ギアを有する。送り調節器83は、被縫製物を搬送方向Fに搬送するか、搬送方向Fとは反対の返し方向Bに搬送するか、及び送り量に応じて、被嵌合部81の姿勢を変更する。
【0022】
図3及び図5から図7に示すように、第二調節部材4は、下軸45の回転に応じて、被嵌合部81と第二腕7とが嵌合した状態で、第二腕7を変位させることにより、第一軸部64を中心として第一腕5を揺動させ、送り台2に支持された送り歯69を搬送方向Fに沿った双方向に揺動させる。第二調節部材4は、第二腕7の下方において、下軸45に固定された前後送りカム48を有し、被嵌合部81と第二腕7とが嵌合した状態で、前後送りカム48が回転することに応じて第二腕7を変位させる。第二調節部材4は、当接部材90、第二支持部材93、軸94、及び第二付勢部材97を備える。当接部材90は右側面視及び背面視L字状の部材である。当接部材90は、壁部91、及び壁部92を備える。壁部91は、当接部材90の前端部において上下方向に板状に延びる。壁部91の上端部には、左右方向に貫通する挿通孔96が形成され、挿通孔96には軸94が挿通される。壁部92は、壁部91の左下端部と連結し、前後方向に板状に延びる。壁部92の上面は、前後送りカム48と当接する。
【0023】
第二支持部材93は、背面視下方が開放する逆U字状である。第二支持部材93は、左右方向に延びる軸94を挿通する。第二支持部材93は、支持部材3の連結部34の下面にネジ95で固定される。第二支持部材93は、当接部材90を軸94周りに揺動可能に、支持部材3の下面に固定する。第二付勢部材97は、コイルバネである。第二付勢部材97の下端部は、壁部92の後端部に連結し、第二付勢部材97の上端部は、支持部材3の後端部に連結する。第二付勢部材97は、支持部材3を下方に付勢することで、支持部材3と一体的に第二軸部21周りに揺動する第二腕7を下方に付勢する。壁部92と支持部材3との間隔は、前後送りカム48の姿勢によって変更される。第二調節部材4は、第一調節部材8が第二腕7に連結し、第二調節部材4の第二付勢部材97が支持部材3を介して第二腕7を下方に付勢した状態で、前後送りカム48の姿勢に応じて、第二腕7を変位させる。
【0024】
図3及び図4に示すように、付勢部材9は、第二腕7に対して、軸方向Jに沿った作用方向Cの付勢力を作用させる。付勢部材9の一端部は、第二腕7の他端部である後端部に連結する。付勢部材9の他端部は、第二腕7の右方の図示しない固定部材に固定される。本例の付勢部材9は、コイルバネである。付勢部材9の作用方向Cは、第二腕7の姿勢によって変化するが、概ね右方である。本明細書及び図面では、便宜的に作用方向Cを右方、作用方向Cの反対の反作用方向Dを左方とする。被嵌合部81は、第二腕7に対して作用方向Cに配置される。
【0025】
支持部材3は、前後方向に長い平面視矩形状である。支持部材3は、嵌合ピン40を挿通するピン挿通部36、37が形成され、ピン挿通部36、37に挿通された嵌合ピン40を支持する。支持部材3は、軸方向Jにおいて互いに対向する一対の壁部31、32、及び連結部34を有する。支持部材3は、一対の壁部31、32を側面とし、連結部34を底面とする背面視U字形状である。
【0026】
壁部31は、支持部材3の前端から後端まで延びる。壁部31には、壁部31を左右方向に貫通するピン挿通部36及び軸挿通部38が形成される。壁部32は、切欠き35により、前後方向、及び左右方向に壁部24、25に分断される。壁部24は、支持部材3の後端から、支持部材3の前後方向の中心付近まで延びる。壁部24には、壁部24を左右方向に貫通するピン挿通部37が形成される。ピン挿通部36、37には、嵌合ピン40の本体部41が挿通される。壁部25は、支持部材3の前端から、支持部材3の前後方向の中心付近まで、壁部24の前方において前後方向に延びる。左右方向において、壁部25は、壁部24よりも右方に位置する。壁部25には、壁部25を左右方向に貫通する軸挿通部39が形成される。軸挿通部38、39の直径L2は、第二軸部21の直径L3よりも大きく、第二腕7の第二腕軸挿通部77の直径L1よりも小さい。支持部材3は、軸挿通部38、39に挿通された第二軸部21を介して第一腕5に支持される。壁部25は、第一腕5の右腕部61の左面に当接する。第二腕7は、支持部材3の一対の壁部31、32の間に配置される。より詳細には、第二腕7の後端部は、壁部31、24の間に配置され、第二腕7の前端部は、壁部31、25の間に配置される。連結部34は、第二腕7の下方に位置する。図3及び図7に示すように、連結部34の下面は、前後送りカム48のカム面と当接する。連結部34の後端部には、上下方向に貫通する平面視円状の孔30が形成され、孔30には第二付勢部材97の上端部が掛けられ、連結される。
【0027】
図4に示すように、規制部10は、第二軸部21に固定され、第二腕7の軸方向Jの移動範囲を、第二腕7が第一腕5及び第二軸部21の先端部の少なくとも何れかに当接しない範囲に規制する。規制部10は、第二軸部21に固定され、第二腕7の軸方向Jの移動範囲を、第二腕7が一対の壁部31、32の少なくとも何れかに当接しない範囲に規制する。規制部10は、第二腕7に対して、作用方向Cとは反対の反作用方向Dにおいて第二軸部21に固定される。本例の板部材71は付勢部材9により後端部が右方に付勢されている。板部材71は、嵌合ピン40と、第二軸部21との各々に挿通されている。このため、板部材71のピン挿通部76よりも前方に位置する板部材71の前端部は、付勢部材9の付勢力の反作用により、第一腕5と第二軸部21との連結部分から離れる側、つまり左方に移動する。本例の規制部10は、止め輪であり、第二腕7に対して反作用方向D、つまり左方、且つ第二軸部21の先端部22の右方において、第二軸部21に固定される。左右方向において規制部10は、支持部材3の一対の壁部31、32の間、より詳細には、壁部31、25の間に配置される。
【0028】
図8及び図9を参照して、ミシン1が被縫製物を搬送方向F及び返し方向Bに搬送する場合の前後送り機構6の動作を説明する。以下では、前後送り機構6の動作のみを説明するが、送り歯69により、被縫製物を搬送方向Fに搬送する場合、前後送り機構6の動作に加え、送り台2は、上下送りカム47の姿勢に応じて上下に揺動する。このため、送り歯69の移動軌跡は右側面視略矩形状である。搬送方向F及び返し方向Bの何れの場合も、下軸45の回転方向Rは左側面視時計回りである。
【0029】
図8に示すように、ミシン1が被縫製物を搬送方向Fに搬送する場合、送り調節器83は、略水平方向に延びる姿勢であり、被嵌合部81は、後側ほど上方に位置する姿勢である。嵌合ピン40は、下軸45の回転に応じて、被嵌合部81に対して移動する。具体的には被嵌合部81に対する嵌合ピン40の位置は、状態E1及びE2を交互に繰り返すように変化する。状態E1に示す、前後送りカム48の軸芯である下軸45が支持部材3に最も近づく時、嵌合ピン40の頭部42は、被嵌合部81の溝部82のうち、上下方向の中心よりも下側に位置する。送り歯69は、一針中の前後方向の揺動範囲の内の前端部に位置する。状態E2に示す、下軸45が当接部材90の壁部92に最も近づく時、嵌合ピン40の頭部42は、被嵌合部81の溝部82のうち、上下方向の中心よりも上側に位置する。送り歯69は、一針中の前後方向の揺動範囲の内の後端部に位置する。
【0030】
図9を参照して、ミシン1が被縫製物を返し方向Bに搬送する場合の前後送り機構6の動作を説明する。ミシン1が被縫製物を返し方向Bに搬送する場合、送り調節器83は、後側ほど上方に位置する姿勢であり、被嵌合部81は、後側ほど下方に位置する姿勢である。被嵌合部81に対する嵌合ピン40の位置は、状態E3及びE4を交互に繰り返すように変化する。状態E3に示す、下軸45が当接部材90の壁部92に最も近づく時、嵌合ピン40の頭部42は、被嵌合部81の溝部82のうち、上下方向の中心よりも上側に位置する。送り歯69は、一針中の前後方向の揺動範囲の内の前端部に位置する。状態E4に示す、下軸45が支持部材3に最も近づく時、嵌合ピン40の頭部42は、被嵌合部81の溝部82のうち、上下方向の中心よりも下側に位置する。送り歯69は、一針中の前後方向の揺動範囲の内の後端部に位置する。
【0031】
上記前後送り機構6において、支持部材3及び第二腕7の構成と、支持部材3に対する第二腕7の配置との各々は適宜変更されてよい。図10を参照して、変形例の支持部材103及び第二腕107と、支持部材103に対する第二腕107の配置とについて説明する。図10において、上記実施形態と同様の構成には同じ符号を付与し、説明を省略又は簡略化する。
【0032】
図10に示すように、変形例の支持部材103は、前後方向に長い平面視矩形状である。支持部材103は、第二腕107の嵌合ピン140を挿通するピン挿通部136、137が形成され、ピン挿通部136、137に挿通された嵌合ピン140を支持する。支持部材103は、第二軸部21を挿通する軸挿通部138、139が形成され、軸挿通部138、139に挿通された第二軸部21により第一腕5に対し支持される。支持部材103は、軸方向Jにおいて互いに対向する一対の壁部131、132、及び連結部134を有する。支持部材103は、一対の壁部131、132を側面とし、連結部134を底面とする背面視U字形状である。壁部132は、切欠き135により、壁部124と壁部125とに、前後及び左右に分断される。壁部125は、支持部材103の前端から、支持部材3の前後方向の中心付近まで、壁部124の前方において前後方向に延びる。左右方向において、壁部125は、壁部124よりも右方に位置する。連結部134の後端部には、上下方向に貫通する平面視円状の孔130が形成され、孔130には第二付勢部材97の上端部が掛けられ、連結される。
【0033】
第二腕107は、板部材71、嵌合ピン140、及び作用部73を有する。嵌合ピン140は本体部41よりも左右方向の長さが長い本体部141と、頭部42とを有する。頭部42は本体部141の右端に連結する。左右方向において、第二腕107の板部材71は、壁部131と壁部124との間には配置されず、壁部124の右方に配置され、壁部131と壁部125との間に配置される。左右方向において、板部材71は、壁部124と、壁部125との間に配置され、壁部124と、壁部125との各々から左右方向に離隔する。左右方向において、第二腕107の作用部73と凸部72とは、一対の壁部131、124の間に配置されず、壁部124の右方に配置される。
【0034】
図11を参照して、変形例の第二軸部121、第二腕207及び付勢部材109について説明する。図11において、上記実施形態と同様の構成又は図10の変形例と同様の構成には同じ符号を付与し、説明を省略又は簡略化する。図11に示すように、変形例の第二軸部121は、軸方向Jの長さが、上記実施形態の第二軸部21よりも長い。第二腕207は、支持部材103と、嵌合ピン40とを有する。嵌合ピン40の左方には、固定部材110に固定された付勢部材109が配置されている。嵌合ピン40の左端は、付勢部材109の右端と連結する。嵌合ピン40は、付勢部材109により右方に付勢されている。つまり変形例における作用方向Kは右方であり、嵌合ピン40は、付勢部材109により直接右方に付勢されて、被嵌合部81の溝部82と嵌合した状態が維持される。支持部材103には、付勢部材109の付勢力が伝達されず、支持部材103は、第二軸部121及び嵌合ピン40に対して軸方向Jに移動可能である。このため、図11の変形例のミシン1は、上記実施形態又は図10の変形例のように、規制部10、凸部72、及び作用部73を設ける必要が無い。
【0035】
上記実施形態において、ミシン1、送り台2、第二調節部材4、第一腕5、規制部10、先端部22、下軸45、前後送りカム48、第一軸部64、送り歯69、板部材71、凸部72、作用部73、被嵌合部81、及び溝部82は各々、本発明のミシン、送り台、調節部材、第一腕、規制部、先端部、下軸、送りカム、第一軸部、送り歯、板部材、凸部、作用部、被嵌合部、及び溝部の一例である。支持部材3、103は、本発明の支持部材の一例である。第二腕7、107、207は、本発明の第二腕の一例である。嵌合ピン40、140は、本発明の嵌合ピンの一例である。第二軸部21、121は、本発明の第二軸部の一例である。付勢部材9、109は、本発明の付勢部材の一例である。一対の壁部31、32、一対の壁部131、132は、本発明の一対の壁部の一例である。ピン挿通部36、37、136、137は、本発明のピン挿通部の一例である。軸挿通部38、39、138、139は、本発明の軸挿通部の一例である。第二腕軸挿通部77は、本発明の第二腕軸挿通部の一例である。作用方向C、反作用方向D、搬送方向F、及び軸方向Jは各々、本発明の作用方向、反作用方向、搬送方向、及び軸方向の一例である。
【0036】
上記実施形態のミシン1は、下軸45、送り歯69、送り台2、第一軸部64、第一腕5、第二軸部21、第二腕7、被嵌合部81、及び第二調節部材4を備える。送り歯69は、被縫製物を搬送方向Fに搬送する。送り台2は、送り歯69を支持する。第一軸部64は、上下方向及び搬送方向Fの各々に直交する軸方向Jに延びる。第一腕5は、第一軸部64に挿通され、第一軸部64を中心として揺動可能に送り台2を支持する。第二軸部21は、第一腕5に固定され、軸方向Jに延出する。第二腕7は、第二軸部21に挿通され、軸方向Jに沿って移動可能に支持される。被嵌合部81は、第二腕7に対して移動可能に第二腕7と嵌合する。第二調節部材4は、下軸45の回転に応じて、被嵌合部81が第二腕7に嵌合した状態で、第二腕7を変位させることにより、第一軸部64を中心として第一腕5を揺動させ、送り台2に支持された送り歯69を搬送方向Fに沿った双方向に揺動させる。付勢部材9は、第二腕7に対して、軸方向Jに沿った作用方向Cの付勢力を作用させる。
【0037】
上記実施形態のミシン1では、第二調節部材4が第二腕7を変位させた場合に、第一腕5に支持された送り台2が第一軸部64を中心に揺動され、送り歯69は搬送方向Fに沿った双方向に揺動する。付勢部材9により第二腕7に作用方向Cの付勢力が加えられることで、被嵌合部81と第二腕7とは安定して嵌合した状態を維持する。一方、第二腕7に付勢部材9からの付勢力が作用された場合に、第二腕7が軸方向Jに沿って移動可能とする。ミシン1では、第二腕7に加わった付勢力は、第二軸部21及び第一腕5に伝達されにくい。したがって、ミシン1の第二腕7は、被嵌合部81と第二腕7とが安定して嵌合した状態を維持することと、付勢力が第二軸部21及び第一腕5に影響することに起因する第二軸部21の焼き付き、及び送り動作不良等の問題が発生する可能性を従来よりも低減することとの両立に貢献する。つまり、ミシン1は、第二腕7の位置の変化を従来よりも安定して送り台2に伝達することに貢献する。
【0038】
第二腕7は、板部材71と、板部材71に挿通される嵌合ピン40と、嵌合ピン40に固定され、第二腕7に付与された付勢部材9の付勢力を嵌合ピン40に作用させる作用部73とを有する。被嵌合部81は、嵌合ピン40と嵌合する。ミシン1は、第二腕7と、被嵌合部81との構成を簡単にすることに貢献する。ミシン1は、作用部73が設けられない場合に比べ、嵌合ピン40に付勢部材9の付勢力をより確実に作用させることができる。
【0039】
被嵌合部81には、作用方向Cに凹む溝部82が形成される。嵌合ピン40は、溝部82に沿って移動可能に溝部82と嵌合する。ミシン1の被嵌合部81は、被嵌合部81の構成を簡単にし、嵌合ピン40に対して被嵌合部81が相対的に安定して移動することに貢献する。溝部82の作用方向Cの長さは、嵌合ピン40の頭部42の作用方向Cの長さよりも長く、作用方向Cにおいて頭部42は溝部82に収まるため、頭部42は溝部82から抜けにくい。
【0040】
第二調節部材4は、第二腕7の下方において、下軸45に固定された前後送りカム48を有する。被嵌合部81が第二腕7に嵌合した状態で、前後送りカム48が回転することに応じて第二腕7を変位させる。ミシン1の第二調節部材4は、第二調節部材4が第二腕7の下方以外の場所に固定される場合に比べ、ミシン1の構成を簡単且つコンパクトにすることに貢献する。
【0041】
ミシン1は、支持部材3を備える。支持部材3には、嵌合ピン40を挿通するピン挿通部36、37が形成され、支持部材3は、ピン挿通部36、37に挿通された嵌合ピン40を支持する。ミシン1は、支持部材3で嵌合ピン40を支持することで、支持部材3がない場合に比べ、嵌合ピン40が被嵌合部81に対して移動する時に嵌合ピン40がガタつくことを抑制でき、嵌合ピン40が被嵌合部81に嵌合した状態を安定して維持しやすい。つまり、ミシン1の支持部材3は、第二腕7の位置の変化を従来よりも安定して送り台2に伝達することに貢献する。
【0042】
付勢部材9は、第二腕7に連結する。ミシン1は、付勢部材9が直接第二腕7に嵌合するため、他の部材を介して、付勢部材9が第二腕7に付勢力を作用させる場合に比べ、付勢部材9の付勢力を確実に第二腕7に伝達でき、ミシン1の構成をシンプルにできる。
【0043】
支持部材3には、第二軸部21を挿通する軸挿通部38、39が形成される。支持部材3は、軸挿通部38、39に挿通された第二軸部21を介して、第一腕5に支持される。ミシン1の支持部材3は、支持部材3が第二軸部21を介して第一腕5に支持されない場合に比べ、嵌合ピン40を安定して支持できる。支持部材3の軸挿通部38、39は、ミシン1の支持部材3の構成を比較的簡単にすることに貢献する。
【0044】
第二腕7の第二腕軸挿通部77の直径L1は、支持部材3の軸挿通部38、39の直径L2よりも大きい。軸挿通部38、39は第二軸部21に精度よく支持されるため、各々の直径L2及びL3はほぼ同一である。第二腕軸挿通部77に第二軸部21が挿通される場合、第二腕軸挿通部77は挿通される第二軸部21に対し余裕のある状態である。したがって、付勢部材9の付勢力により第二腕7の傾き、それに伴う付勢力による第二軸部21への影響を低減することができる。
【0045】
支持部材3は、軸方向Jにおいて互いに対向する一対の壁部31、32を有する。一対の壁部31、32には各々、ピン挿通部36、37と、軸挿通部38、39とが形成される。支持部材3は、軸挿通部38、39に挿通された第二軸部21を介して第一腕5に支持される。ミシン1の支持部材3は、一対の壁部31、32の各々で嵌合ピン40を安定して支持することに貢献する。
【0046】
軸方向Jにおいて、第二腕7は、軸方向Jにおいて、支持部材3の一対の壁部31、32の間に配置される。ミシン1は、軸方向Jにおいて、第二腕7が、支持部材3の一対の壁部31、32の間に配置されない場合に比べ、支持部材3と第二腕7との配置スペースを小さくすることに貢献する。
【0047】
ミシン1の規制部10は、第二腕7に付勢部材9からの付勢力が作用され、第二腕7が軸方向Jに沿って移動した場合にも、第一腕5及び第二軸部21の先端部22の少なくとも何れかに当接しない範囲に第二腕7の移動範囲を規制する。したがって、第二腕7が第一腕5及び第二軸部21の先端部22の少なくとも何れかと当接することに起因する第二腕7の焼き付き、及び送り動作不良等の問題が発生する可能性を従来よりも低減する。
【0048】
ミシン1は、軸方向Jにおいて、支持部材3の一対の壁部31、32の間において、第二軸部21に固定され、第二腕7の軸方向Jの移動範囲を、第二腕7が一対の壁部31、32の各々の少なくとも何れかに当接しない範囲に規制する規制部10を有する。したがってミシン1は、一対の壁部31、32の何れかを介して、第二腕7が第一腕5及び第二軸部21の先端部22の少なくとも何れかと当接することに起因する第二腕7の焼き付き、及び送り動作不良等の問題が発生する可能性を従来よりも低減する。
【0049】
支持部材3は、一対の壁部31、32を側面とするU字形状である。ミシン1は、支持部材3の構成を比較的簡単にでき、支持部材3が一つの壁部から構成される板状である場合に比べ、一対の壁部31、32で安定して嵌合ピン40を支持することに貢献する。
【0050】
第二腕7は、作用部73に当接するために、作用方向Cに突出する凸部72を有する。第二腕7は、凸部72が作用部73に当接することにより、付勢力を嵌合ピン40に作用させる。ミシン1は、第二腕7に凸部72が設けられない場合に比べ、第二腕7に付与された付勢力を、より確実に嵌合ピン40に伝達することができる。故にミシン1は、第二腕7に凸部72が設けられない場合に比べ、嵌合ピン40と、被嵌合部81との嵌合を安定して維持することに貢献する。
【0051】
第二軸部21は、搬送方向Fに沿った双方向、つまり前後方向における第二腕7の一端部である前端部に挿通される。付勢部材9は、第二腕7の他端部である後端部と連結する。嵌合ピン40は、第二腕7の一端部と他端部との間において第二腕7に挿通される。被嵌合部81は、第二腕7に対して作用方向Cに配置される。ミシン1は、嵌合ピン40が第二腕7の一端部と他端部との間に挿通されていない場合に比べ、嵌合ピン40と、被嵌合部81との嵌合を安定して維持することに貢献する。
【0052】
ミシン1は、第二腕7に対して、作用方向Cとは反対の反作用方向Dにおいて第二軸部21に固定され、第二腕7の軸方向Jの移動範囲を、第二軸部21の先端部22に当接しない範囲に規制する規制部10を備える。ミシン1の規制部10は、第二腕7の反作用方向Dの移動範囲を規定することで、第二軸部21の先端部22に第二腕7が当接することをより確実に回避することに貢献する。
【0053】
ミシン1の構成は適宜変更してよい。ミシン1は、工業用ミシンであってもよい。送り歯69、送り台2、及び第一腕5の構成は適宜変更されてよい。ミシン1は、一方向のみに被縫製物を搬送可能でもよいし、送り量を調節不能でもよい。その場合、ミシン1は、第一調節部材8の構成を変更し、被嵌合部81のみを備えてもよい。第二腕7と、被嵌合部81とは、互いに相対移動可能に嵌合する構成であればよい。第二腕7が嵌合ピン40を備える場合、被嵌合部81は、嵌合ピン40と嵌合するレールでもよい。被嵌合部は嵌合ピン40であってもよく、その場合、第二腕7は、嵌合ピン40に替えて、嵌合ピン40と嵌合する溝部82を有する部材であってもよい。前後送りカム48の形状は適宜変更されてよい。第二腕7は、凸部72及び作用部73の少なくとも何れかを省略してもよいし、凸部72及び作用部73の少なくとも何れかの構成、及び配置等が変更されてもよい。
【0054】
付勢部材9の作用方向C、構成、及び連結対象は、適宜変更されてよい。付勢部材9は、被嵌合部81を、軸方向Jの内、被嵌合部81から第二腕7に向かう方向、つまり、左方に付勢することで、被嵌合部81を嵌合ピン40に押し付けてもよい。つまり、被嵌合部81は、第二腕7に対し付勢部材9の作用方向Cとは反対の反作用方向Dに配置されてもよい。その場合、規制部10は、軸方向Jにおいて、第二腕7と第一腕5の右腕部61との間に設けられればよく、例えば、第二腕7と、壁部24との間に配置されてもよい。作用方向Cは、軸方向Jに沿った方向の成分を含む方向であればよく、例えば、右斜め上方、及び右斜め後方等でもよい。
【0055】
支持部材3は、必要に応じて省略されてもよい。その場合、第二腕7を、背面視、L字状、逆T字状等に構成し、第二調節部材4は、第二腕7の下面に固定されればよい。支持部材3の構成は適宜変更されてよい。支持部材3は、一対の壁部31、32を備えなくてもよいし、背面視H字状、L字状等任意の形状でよい。壁部32は、搬送方向Fにおいて切欠き35によって分断されなくてもよい。つまり、壁部24、25は連続していてもよい。支持部材3は、嵌合ピン40を支持する部分のみ、一対の壁部31、32を有していてもよいし、第二軸部21に挿通される部分のみ、一対の壁部31、32を有していてもよい。一対の壁部31、32の内、第一腕5の右腕部61から離れた側の壁部31は、ピン挿通部36及び軸挿通部38の一方のみが形成されていてもよい。第二調節部材4の構成、及び連結対象は、支持部材3の構成に応じて適宜変更されてよい。付勢部材9、及び第二付勢部材97は各々、コイルバネの他、板バネ、ゴム等の樹脂でもよい。第二付勢部材97は、第二腕7に連結されてもよいし、第二腕7の上方に設けられ、第二腕7を直接又は支持部材3等の他の部材を介して第二腕7を下方に付勢してもよい。
【0056】
規制部10の構成は適宜変更されてよく、第二軸部21の外周の少なくとも一部から突出する凸部が形成されることで、第二腕7の軸方向Jの移動を規制できればよい。第二軸部21は、第二腕7の搬送方向Fの端部、即ち、第二腕7の後端部に挿通されてもよいし、第二腕7の搬送方向Fの中心部に挿通されてもよい。搬送方向Fにおいて、嵌合ピン40が第二腕7に連結する部位は、適宜変更してよい。搬送方向Fにおいて、付勢部材9が、嵌合ピン40に対し、第二軸部21側で第二腕7と連結している場合、規制部10は、第二腕7に対し作用方向Cに設けられればよい。規制部10は、第二腕7に対し作用方向Cと反作用方向Dとの各々において第二軸部21に固定されてもよい。規制部10は省略されてもよい。第二腕7の軸方向Jの移動範囲は適宜変更されてよい。
【符号の説明】
【0057】
1:ミシン、2:送り台、3、103:支持部材、4:第二調節部材、5:第一腕、7、107、207:第二腕、9、109:付勢部材、10:規制部、21、121:第二軸部、22:先端部、31:壁部、32:壁部、36、37:ピン挿通部、38、39:軸挿通部、40、140:嵌合ピン、64:第一軸部、69:送り歯、71:板部材、72:凸部、73:作用部、77:第二腕軸挿通部、81:被嵌合部、82:溝部、C、K:作用方向、D:反作用方向、F:搬送方向、J:軸方向
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