(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094037
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 24/00 20060101AFI20240702BHJP
B43K 5/16 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B43K24/00 100
B43K5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210740
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100196047
【弁理士】
【氏名又は名称】柳本 陽征
(72)【発明者】
【氏名】岩原 卓
(72)【発明者】
【氏名】菅原 良昌
(72)【発明者】
【氏名】清水 有羽
【テーマコード(参考)】
2C350
2C353
【Fターム(参考)】
2C350GA01
2C350NA10
2C353HA08
2C353HC04
2C353HJ12
2C353HJ15
(57)【要約】
【課題】筆記体の収容空間内に筆記体内のインキが漏れ出すことを抑制する。
【解決手段】筆記具10は、開口部22aを有する軸筒20と、ペン先13を有する筆記部材12と、ペン先13を開口部22aから出没させる出没機構40と、ペン先13の没入状態においてペン先13の収容空間Sを密閉する密閉機構70と、を備えた筆記具10であって、密閉機構70は、開口部22aを取り囲む接触面22bに接触して開口部22aを閉鎖可能な蓋部材72と、収容空間S内の圧力が負圧となることを抑制する負圧抑制機構80と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する軸筒と、ペン先を有する筆記部材と、前記ペン先を前記開口部から出没させる出没機構と、前記ペン先の没入状態において前記ペン先の収容空間を密閉する密閉機構と、を備えた筆記具であって、
前記密閉機構は、
前記開口部を取り囲む接触面に接触して前記開口部を閉鎖可能な蓋部材と、
前記収容空間内の圧力が負圧となることを抑制する負圧抑制機構と、
を有する、筆記具。
【請求項2】
前記負圧抑制機構は、前記蓋部材が前記開口部を閉鎖するタイミングを遅延させる閉鎖遅延機構を有する、請求項1に記載の筆記具。
【請求項3】
前記蓋部材は、前記接触面と対向する対向面を有し、
前記閉鎖遅延機構は、前記接触面又は前記対向面に設けられた弾性変形部を含む、請求項2に記載の筆記具。
【請求項4】
前記弾性変形部は、前記接触面又は前記対向面から突出する突出部である、請求項3に記載の筆記具。
【請求項5】
前記突出部は、前記開口部を少なくとも部分的に取り囲む、請求項4に記載の筆記具。
【請求項6】
前記接触面又は前記対向面に垂直な方向に沿った前記突出部の高さは、前記蓋部材の回転軸から離れるほど小さくなる、請求項4又は5に記載の筆記具。
【請求項7】
前記蓋部材の回転軸は、前記接触面の延長面に対して前記収容空間の反対に位置する、請求項1~5のいずれか一項に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸筒と、ペン先部を有する筆記部材と、ペン先部を軸筒から出没させる出没機構と、を備えた筆記具が知られている。また、このような筆記具において、ペン先部の没入状態において、ペン先部でのインキの乾燥を防止するために、ペン先の収容空間を密閉する密閉機構を備えた筆記具も知られている。
【0003】
特許文献1には、軸筒と、軸筒の内部に収容された筆記体と、軸筒の前方に配置された蓋体と、蓋体を閉じる方向に付勢するバネと、を備えた筆記具が開示されている。この筆記具では、筆記体が前方移動することにより、蓋体が筆記体の先端に押圧されて開く。また、この状態で筆記体が後方移動することにより、筆記体が軸筒の内部に収容され、バネの弾発力により蓋体が閉じられて軸筒が閉塞される。これにより、筆記体が軸筒に収容されている間に、筆記体においてインキが乾燥することを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の密閉機構を備えた筆記具では、筆記体の後退にともなって蓋体が閉じられ、その後、筆記体がさらに後退して軸筒の内部に収容される。このとき、蓋体が閉じられた後に筆記体が後退することで、筆記体の収容空間の内部に負圧が生じることがある。この場合、筆記体の内部に収容されたインキが筆記体のペン先を介して収容空間内に漏れ出すおそれがある。
【0006】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、筆記体の収容空間内に筆記体内のインキが漏れ出すことを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による筆記具は、
[1]開口部を有する軸筒と、ペン先を有する筆記部材と、前記ペン先を前記開口部から出没させる出没機構と、前記ペン先の没入状態において前記ペン先の収容空間を密閉する密閉機構と、を備えた筆記具であって、
前記密閉機構は、
前記開口部を取り囲む接触面に接触して前記開口部を閉鎖可能な蓋部材と、
前記収容空間の圧力が負圧となることを抑制する負圧抑制機構と、
を有する、筆記具、である。
【0008】
本発明による筆記具は、
[2]前記負圧抑制機構は、前記蓋部材が前記開口部を閉鎖するタイミングを遅延させる閉鎖遅延機構を有する、[1]に記載の筆記具、である。
【0009】
本発明による筆記具は、
[3]前記蓋部材は、前記接触面と対向する対向面を有し、
前記閉鎖遅延機構は、前記接触面又は前記対向面に設けられた弾性変形部を含む、[2]に記載の筆記具、である。
【0010】
本発明による筆記具は、
[4]前記弾性変形部は、前記接触面又は前記対向面から突出する突出部である、[3]に記載の筆記具、である。
【0011】
本発明による筆記具は、
[5]前記突出部は、前記開口部を少なくとも部分的に取り囲む、[4]に記載の筆記具、である。
【0012】
本発明による筆記具は、
[6]前記接触面又は前記対向面に垂直な方向に沿った前記突出部の高さは、前記蓋部材の回転軸から離れるほど小さくなる、[4]又は[5]に記載の筆記具、である。
【0013】
本発明による筆記具は、
[7]前記蓋部材の回転軸は、前記接触面の延長面に対して前記収容空間の反対に位置する、[1]~[6]のいずれか1つに記載の筆記具、である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、筆記体の収容空間内に筆記体内のインキが漏れ出すことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態について説明するための図であって、筆記具の一例を没入状態で示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の筆記具を突出状態で示す縦断面図である。
【
図3】
図3は、
図1の筆記具の前方部分を拡大して示す縦断面図である。
【
図4】
図4は、筆記具の負圧抑制機構の一例を前方から見て示す図である。
【
図5】
図5は、負圧抑制機構の一例を示す縦断面図である。
【
図6】
図6は、
図5のVIが付された部分を拡大して示す図である。
【
図7】
図7は、
図6のVIIが付された部分を拡大して示す図である。
【
図8】
図8は、負圧抑制機構の一部を示す縦断面図である。
【
図9】
図9は、
図8のIXが付された部分を拡大して示す図である。
【
図10】
図10は、負圧抑制機構の動作を説明するための図である。
【
図11】
図11は、負圧抑制機構の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0017】
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0018】
本明細書では、筆記具10の中心軸線Aが延びる方向(長手方向)を軸方向da、軸方向daと直交する方向を径方向、中心軸線A周りの円周に沿った方向を周方向とする。軸方向daに沿って、ペン先側を前方とし、ペン先と反対側を後方とする。また、径方向に沿って、中心軸線Aに近づく側を内側又は内方、中心軸線Aから遠ざかる側を外側又は外方とする。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態について説明するための図であって、筆記具10の一例を没入状態で示す縦断面図であり、
図2は、筆記具10を突出状態で示す縦断面図である。
【0020】
本実施形態の筆記具10は、筆記部材12と、軸筒20と、出没機構40と、密閉機構70とを含んでいる。筆記具10は、中心軸線Aに沿って延びている。筆記部材12は、紙面等の筆記面に筆跡を形成する部材である。筆記部材12は、軸筒20内に収容されている。筆記部材12としては、ボールペン、万年筆、マーカー等に用いられる部材が挙げられる。本実施形態では、筆記具10が万年筆である例について説明する。本実施形態の筆記部材12は、前端部に設けられたペン先13と、インキを収容する収容筒15と、第1受部17と、突出部19とを有する。収容筒15は、例えば、カートリッジタイプのものであってもよいし、コンバーターであってもよい。第1受部17は、筆記部材12の外面に形成された段部における前方を向く面であり、後述の第1弾発部材42の弾発力を受ける。突出部19は、筆記部材12の本体部から径方向の外側に突出する。
【0021】
出没機構40は、筆記具10を、軸筒20の前端開口部20aからペン先13が突出する突出状態と、前端開口部20aからペン先13が没入する没入状態と、に交互に切り換えるための機構である。
【0022】
軸筒20は、前軸21と、前軸21の前方に配置された先端部材30と、前軸21の後方に配置された後軸31とを含んでいる。軸筒20の中心軸線は、筆記具10の中心軸線Aと一致している。軸筒20の前端には、ペン先13が通過可能な前端開口部20aが設けられている。本実施形態では、先端部材30の前端に前端開口部20aが形成されている。
【0023】
前軸21は、略筒状の形状を有する部材であり、使用者が筆記具10で筆記を行う際に、指でつかむことが意図されている。本実施形態の前軸21は、内軸22と、内軸22に対して径方向の外側に配置された外軸25と、第1連結部材26とを含んでいる。
【0024】
内軸22は、筆記部材12の前方部分を収容するとともに、ペン先13の収容空間Sを画定する部材である。内軸22は、中心軸線Aと一致する中心軸線を有する略筒状の形状を有する部材である。本実施形態では、没入状態において、内軸22は、ペン先13の全体を収容する。内軸22の内面には、筆記部材12の突出部19と係合する溝部24が形成されている。溝部24は軸方向daに延びる溝であり、筆記部材12の突出部19が溝部24内に位置することにより、筆記部材12が、軸筒20に対して軸方向daには移動可能且つ周方向には回転不能に支持される。内軸22は、例えば、アクリロニトリル-スチレン(AS)共重合樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)共重合樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エラストマー等の樹脂材料、ニトリルブタジエンゴム(NBR)等のゴム材料等により形成される。なお、内軸22は、単一の部材で構成されてもよいし、複数の部材で構成されてもよい。
【0025】
内軸22の先端部には、ペン先13が通過可能な開口部22aが形成されている。開口部22aの周囲には、接触面22bが形成されている。接触面22bは、没入状態において後述の蓋部材72が接触する面である。接触面22bと蓋部材72との接触の態様については後述する。
【0026】
外軸25は、使用者から視認される部材であるとともに、使用者が筆記具10で筆記を行う際に指でつかむ部材である。したがって、外軸25は、意匠性や使用者による持ちやすさを考慮して、適切な材料で形成される。例えば、外軸25は、樹脂、エラストマー、金属、木材等で形成されてもよい。第1連結部材26は、後軸31との連結部を構成する部材である。第1連結部材26は、内軸22及び外軸25の少なくとも一方の後端部に固定されている。例えば、第1連結部材26は、接着またはインサート成型により内軸22及び外軸25の少なくとも一方の後端部に固定されてもよい。第1連結部材26は、例えば樹脂、金属等により形成される。なお、図示した例に限られず、外軸25や第1連結部材26は省略されてもよい。例えば、前軸21の全体が一体に形成されてもよい。
【0027】
先端部材30は、軸筒20の先端部分を形成する部材である。先端部材30は、前軸21の前端部、蓋部材72及び弾発部材76を保護する機能を有する。先端部材30は、略円錐台形状を有しており、前方に向かうにつれてその外径が小さくなっている。先端部材30の前端には、ペン先13が出没する前端開口部20aが形成されている。先端部材30の後端部が前軸21の前端部に取付けられることにより、先端部材30が前軸21に対して連結される。先端部材30は、例えば、圧入、接着、ネジ部の螺合により、前軸21に連結される。
【0028】
後軸31は、前軸21の後方に配置された、略筒状の形状を有する部材である。後軸31は、内軸32と、内軸32に対して径方向の外側に配置された外軸35と、第2連結部材36と、頭冠38とを含んでいる。
【0029】
内軸32は、筆記部材12の後方部分を収容する部材である。内軸32は、略筒状の形状を有する部材である。内軸32は、例えば、樹脂、金属、木材等で形成される。内軸32の内周面には、前方に突出する鋸歯状の複数のカム歯と、カム歯間に形成され軸方向daに延びる溝部と、が形成されている。
【0030】
外軸35は、使用者から視認される部材である。したがって、外軸35は、意匠性等を考慮して、適切な材料で形成される。例えば、外軸35は、樹脂、エラストマー、金属、木材等で形成されてもよい。第2連結部材36は、前軸21との連結部を構成する部材である。第2連結部材36は、内軸32及び外軸35の少なくとも一方の前端部に固定されている。例えば、第2連結部材36は、接着またはインサート成型により内軸32及び外軸35の少なくとも一方の前端部に固定されてもよい。第2連結部材36は、例えば樹脂、金属等により形成される。なお、図示した例に限られず、内軸32及び外軸35が単一の部材で構成されてもよい。また、内軸32、外軸35及び第2連結部材36が単一の部材で構成されてもよい。すなわち、後軸31の全体が一体に形成されてもよい。
【0031】
出没機構40は、筆記具10を、突出状態と没入状態とに交互に切り換えるための機構である。本実施形態の出没機構40は、ノック部材50と、回転カム部材60と、第1弾発部材42と、第2弾発部材44と、を含んでいる。
【0032】
第1弾発部材42は、例えばコイルスプリングである。第1弾発部材42は、筆記部材12の第1受部17と、軸筒20(前軸21)の第2受部28との間に圧縮状態で配置されている。第2受部28は、軸筒20(前軸21)の内周面に設けられた段部であり、後方を向く面を含んでいる。本実施形態では、第1受部17は、第1弾発部材42からの弾発力を受ける。これにより、第1弾発部材42は、軸筒20に対して筆記部材12を後方へ向けて常に付勢している。なお、第1弾発部材42は、出没機構40の一部を構成するとともに、後述するように密閉機構70の一部を構成する。
【0033】
ノック部材50は、使用者により操作されることが意図された部材である。ノック部材50は、操作部52と、操作部52の前方に位置する拡径部54とを含んでいる。操作部52は、使用者の指等で押圧される部分である。操作部52は、軸筒20(後軸31)の後端から後方に突出している。没入状態及び突出状態において、操作部52の後端は軸筒20の後端から後方に突出する。拡径部54は、操作部52の径方向寸法よりも大きな径方向寸法を有する。軸筒20の後端部の内径は、操作部52は通過可能であるが、拡径部54は通過不能である大きさを有している。したがって、ノック部材50は、軸筒20の後端部から後方へ抜け出ることがない。
【0034】
拡径部54の前端には、前方に突出するカム歯が形成されている。また、拡径部54の外周面には、軸筒20(後軸31)の内周面に形成された溝部に係合する突出部が形成されている。ノック部材50は、突出部が軸筒20の溝部に係合した状態で、軸方向daに移動可能且つ周方向に回転不能に配置されている。
【0035】
ノック部材50の内部には、軸方向daに延びる穴部56が形成されている。本実施形態では、穴部56は、ノック部材50の前端において開口し、ノック部材50の後端において閉塞している。穴部56の内面には、径方向の内側に向かって突出する内方突出部58が形成されている。
【0036】
ノック部材50の外周面には、Oリング59が配置されている。Oリング59は、ノック部材50の外周面において周方向に環状に延びて形成された溝部内に配置されている。
図1に示された例では、Oリング59は、ノック部材50の操作部52と拡径部54との間に配置されている。Oリング59は、
図1に示された没入状態において、軸筒20(後軸31)の内周面とノック部材50の外周面との間を密閉する機能を有する。Oリング59は、例えば、ゴム等の弾性材料で形成されている。
【0037】
回転カム部材60は、その外面に、軸方向daに延びるとともに軸筒20の溝部に係合する複数の突条を有している。突条の後端には、軸方向da及び周方向に対して傾斜したカム面が形成されている。カム面は、ノック部材50のカム歯と係合する。回転カム部材60は、軸方向daに沿って後方に突出する後方突出部62を有している。後方突出部62の後端には、係合部64が設けられている。係合部64は、後方突出部62から径方向の外側に向かって突出する突出部である。係合部64は、ノック部材50の内方突出部58に係合して、ノック部材50と回転カム部材60との軸方向daの移動を規制する。
【0038】
ノック部材50と回転カム部材60との間には、第2弾発部材44が配置されている。第2弾発部材44は、例えばコイルスプリングである。第2弾発部材44は、筆記部材12の後方における軸筒20内に配置されている。詳細には、第2弾発部材44は、ノック部材50と回転カム部材60との間に圧縮状態で配置されている。したがって、第2弾発部材44は、回転カム部材60に対してノック部材50を後方へ向けて常に付勢している。これにより、ノック部材50は、回転カム部材60に対して後方へ移動するが、回転カム部材60の係合部64がノック部材50の内方突出部58に係合することにより、ノック部材50が回転カム部材60に対してそれ以上後方へ移動することが妨げられる。回転カム部材60の係合部64がノック部材50の内方突出部58に係合した状態で、第2弾発部材44によってノック部材50が後方へ付勢されることにより、ノック部材50ががたつくことが抑制される。
【0039】
軸筒20の溝部、ノック部材50のカム歯及び突出部、並びに、回転カム部材60の突条及びカム面の具体的な構造及び動作は公知であるので、詳細な説明は省略する。一例として、これらの具体的な構造として、特開2013-006281号公報に開示された機構の構造を用いることが可能である。
【0040】
本実施形態の筆記具10は、ペン先13の収容空間Sを密閉する密閉機構70を有する。以下、主に
図3を参照しながら、この密閉機構70について説明する。
図3は、筆記具10の前方部分を拡大して示す縦断面図である。本実施形態の密閉機構70は、収容空間Sの前端を密閉する機構である。密閉機構70は、軸筒20(内軸22)の接触面22bと、蓋部材72と、弾発部材76と、ピン78とを含んでいる。
【0041】
内軸22は、ペン先13が通過可能な開口部22aと、開口部22aを取り囲む接触面22bとを有している。内軸22には、蓋部材72が取り付けられている。弾発部材76は、弾発力により蓋部材72を接触面22bへ向けて付勢する部材である。弾発部材76は、例えばねじりバネである。弾発部材76の一端は、蓋部材72に取り付けられており、他端は、内軸22の前端部分に設けられた凹部29に配置されている。ピン78は、軸方向daと直交する方向に延びて配置されている。
図3に示された例では、ピン78は、内軸22の前端部分に設けられた貫通孔に挿入されている。さらに、ピン78は蓋部材72の基端部に設けられた環状部及び弾発部材76のループ部分に挿入されている。これにより、蓋部材72はピン78周りに一方側及び他方側に回転して、接触面22bに接触したり接触面22bから離間したりすることができる。すなわち、ピン78は、蓋部材72の回転軸でもある。なお、蓋部材72の基端部に設けられた環状部とピン78の外周面との間には遊びとなる隙間が形成されてもよい。この場合であっても、ピン78は、実質的に蓋部材72の回転軸である。
【0042】
蓋部材72は、没入状態において内軸22の前端を閉止して収容空間Sを密閉するとともに、突出状態においてペン先13の突出を許容する。蓋部材72は、当該蓋部材72が開口部22aを閉鎖した状態において接触面22bと対向する対向面74を有している。蓋部材72は、弾発部材76により、ペン先13の収容空間Sを密閉する方向に付勢されている。本実施形態では、没入状態においては、弾発部材76の弾発力により蓋部材72の対向面74が内軸22の接触面22bに接触して開口部22aを閉鎖する。これにより、ペン先13の収容空間Sが密閉される(
図1及び
図3参照)。この場合、ペン先13におけるインキの乾燥が抑制される。没入状態から突出状態に遷移する際には、前方に移動したペン先13が蓋部材72を前方に押すことにより蓋部材72が開き、ペン先13が開口部22a及び前端開口部20aを通って前方へ突出する(
図2参照)。この突出状態において、筆記具10による筆記が可能になる。
【0043】
従来の密閉機構を備えた筆記具では、筆記部材の後退にともなって蓋部材が閉じられ、その後、筆記部材がさらに後退して軸筒の内部に収容される。このとき、蓋部材が閉じられた後に筆記部材が後退することで、筆記部材の収容空間の内部に負圧が生じることがある。この場合、筆記部材の内部に収容されたインキがペン先を介して収容空間内に漏れ出すおそれがあった。
【0044】
このような課題を解決するため、本実施形態の密閉機構70は、収容空間Sの圧力が負圧となることを抑制する負圧抑制機構80を有している。ここで、負圧とは、筆記具10が置かれた環境における雰囲気の圧力、いわゆる大気圧、よりも低い圧力を意味する。没入状態にある本実施形態の筆記具10において、収容空間S内の圧力は、大気圧と完全に同一の圧力でなくてもよい。本実施形態において、収容空間S内の圧力が、インキがペン先13を介して収容空間S内に漏れ出すおそれが十分に小さくなる程度の負圧となることは許容される。すなわち、収容空間Sの圧力が負圧となることを抑制するとは、収容空間S内の圧力が大気圧と同一の圧力となることのみならず、収容空間S内の圧力が、インキがペン先13を介して収容空間S内に漏れ出すおそれが十分に小さくなる程度の負圧となることも含む。
【0045】
本実施形態の負圧抑制機構80は、蓋部材72が軸筒20(内軸22)の開口部22aを閉鎖するタイミングを遅延させる閉鎖遅延機構82を有している。本実施形態の負圧抑制機構80では、閉鎖遅延機構82により、蓋部材72が開口部22aを閉鎖するタイミングを遅延させることで、開口部22aが閉鎖された後の筆記部材12の後退量を減少させ、これにより、収容空間Sの圧力が負圧となることを抑制する。
【0046】
本実施形態の閉鎖遅延機構82は、接触面22b又は対向面74に設けられた弾性変形部84を含んでいる。軸筒20(内軸22)の接触面22bが弾性変形部84を有している場合、弾性変形部84は、蓋部材72の対向面74と接触して接触面22bと対向面74との間に弾発部材76による押圧力が作用した場合に、弾性変形する。また、対向面74が弾性変形部84を有している場合、弾性変形部84は、接触面22bと接触して接触面22bと対向面74との間に弾発部材76による押圧力が作用した場合に、弾性変形する。本実施形態では、接触面22bと対向面74との間に弾発部材76による押圧力が作用した際に、弾性変形部84が弾性変形することで、蓋部材72が接触面22bに接触するタイミングが遅くなる。これにより、蓋部材72が開口部22aを閉鎖するタイミングが遅延する。
【0047】
図4~
図9を参照して、弾性変形部84の一例について説明する。
図4は、負圧抑制機構80の一例を前方から見て示す図である。
図5は、負圧抑制機構80の一例を示す縦断面図であり、とりわけ
図4のV-V線に対応する断面を示す。
図6は、
図5のVIが付された部分を拡大して示す図である。
図7は、
図6のVIIが付された部分を拡大して示す図である。
図8は、負圧抑制機構80の一部を示す縦断面図であり、とりわけ
図4のVIII-VIII線に対応する断面を示す。
図9は、
図8のIXが付された部分を拡大して示す図である。
【0048】
弾性変形部84は、軸筒20(内軸22)の接触面22b又は蓋部材72の対向面74から突出する突出部86であってもよい。本実施形態では、弾性変形部84は、接触面22bから突出する突出部86である。なお、これに限られず、弾性変形部84は、対向面74から突出する突出部86であってもよい。
【0049】
突出部86は、開口部22aを少なくとも部分的に取り囲んでいる。突出部86は、開口部22aの一部のみを取り囲んでもよいし、開口部22aの全体を取り囲んでもよい。
図4に示された例では、突出部86は、開口部22aの周囲における蓋部材72の回転軸(ピン78)に近い側(
図4では下側)の一部に設けられており、開口部22aの周囲における蓋部材72の回転軸から遠い側(
図4では上側)の一部には設けられていない。
【0050】
図5~
図7に示されているように、接触面22bに垂直な方向に沿った突出部86の高さh(
図7参照)は、蓋部材72の回転軸から離れるほど小さくなっている。蓋部材72の回転軸に近い部分は、蓋部材72から受ける押圧力が大きい。したがって、蓋部材72の回転軸に近い部分における突出部86の高さhを大きくすることにより、蓋部材72が開口部22aを閉鎖するタイミングを効果的に遅延させることができる。
【0051】
突出部86の幅Wは、0.01mm以上1.0mm以下であってもよい。好ましくは、突出部86の幅Wは、0.01mm以上0.5mm以下であってもよい。
【0052】
蓋部材72の回転軸は、接触面22bの延長面22cに対して収容空間Sの反対に位置する。
図5に示された例では、蓋部材72の回転軸は、接触面22bの延長面22cよりも前方に位置する。この場合、回転軸よりも後方(操作部52側)の部分における内軸22の肉厚を十分に確保することができる。これにより、内軸22の強度を確保しながらも、弾発部材76の端部の端部を収納するための凹部29の大きさを十分に確保することができる。したがって、内軸22の前端部の強度の向上を図ることができるとともに、弾発部材76の大きさや形状などの設計自由度を向上させることが可能になる。これにより、蓋部材72の開閉時に弾発部材76の弾発力により内軸22にゆがみなどの変形が発生することを効果的に抑制することができる。
【0053】
なお、閉鎖遅延機構82の具体的構成は、上述した弾性変形部84を有する構成に限られない。閉鎖遅延機構82は、蓋部材72が軸筒20(内軸22)の開口部22aを閉鎖するタイミングを遅延させることができる機構であれば、どのような機構であってもよい。閉鎖遅延機構82は、例えば、蓋部材72の閉止時に途中から部品同士が接触して摩擦力を生じ、この摩擦力により、蓋部材72が開口部22aを閉鎖するタイミングを遅延させる摩擦構造を有する機構であってもよい。閉鎖遅延機構82は、例えば、弾性変形部84以外のダンパー構造を有する機構であってもよい。弾性変形部84以外のダンパー構造としては、例えば、粘性体や空気等を用いたダンパー構造が挙げられる。
【0054】
その一方、本実施形態における、弾性変形部84を有する閉鎖遅延機構82によれば、閉鎖遅延機構82を容易に形成することが可能であり、動作の安定性、形成にかかるコスト、閉鎖遅延機構82の小型化及び耐久性等に優れるという利点がある。
【0055】
次に、
図1及び
図2を参照して、出没機構40の動作について説明する。
【0056】
没入状態(
図1)において使用者がノック部材50を前方へ押圧すると、回転カム部材60を介して筆記部材12が前方に向かって移動する。筆記部材12が前方に向かって移動すると、ペン先13が弾発部材76の弾発力に抗して蓋部材72を前方に押すことにより蓋部材72が開く。さらに筆記部材12が前方に向かって移動すると、ペン先13が前端開口部20aから前方へ突出する。ノック部材50の前方への押圧が解除されても、筆記部材12は、ペン先13が前端開口部20aから前方へ突出した状態を維持する。これにより、筆記具10が没入状態から突出状態に遷移する。
【0057】
また、突出状態(
図2)において、使用者がノック部材50を前方へ押圧すると、筆記部材12が前方に向かって微小距離だけ移動する。ノック部材50の前方への押圧が解除されると、第1弾発部材42の弾発力により、筆記部材12が後方に向かって移動し、ペン先13が前端開口部20aから没入する。さらに筆記部材12が後方に向かって移動すると、ペン先13が収容空間S内に収容され、弾発部材76の弾発力により蓋部材72が軸筒20(内軸22)の開口部22aを閉鎖する。これにより、収容空間Sが密閉される。収容空間Sが密閉されることにより、没入状態において、ペン先13でのインキの乾燥が抑制される。
【0058】
次に、
図5~
図7及び
図10~
図12を参照して、密閉機構70の動作について説明する。
図5及び
図10~
図12には、密閉機構70を構成する軸筒20(内軸22)、蓋部材72、弾発部材76、ピン78及び負圧抑制機構80が示されており、筆記具10を構成する他の部材の図示は省略されている。
【0059】
突出状態から没入状態へ遷移する際に、筆記部材12が後方に向かって移動し、ペン先13が収容空間S内に没入すると、弾発部材76の弾発力により蓋部材72が軸筒20(内軸22)の接触面22bへ向けて回転移動する。これにより、まず、
図5~
図7に示されているように、蓋部材72の対向面74が、突出部86における蓋部材72の回転軸(ピン78)に最も近い部分の先端に接触する。
【0060】
突出部86は、蓋部材72を介して弾発部材76による押圧力を受けることにより、弾性変形可能に構成されている。
図5~
図7に示された状態から、突出部86がさらに押圧力を受けると、
図10に示されているように、突出部86が弾性変形して蓋部材72の対向面74が接触面22bに近づく。
図10に示された状態から、突出部86がさらに押圧力を受けると、
図11及び
図12に示されているように、突出部86がさらに弾性変形して蓋部材72の対向面74が接触面22bに接触する。これにより、蓋部材72が開口部22aを閉鎖する。
図12に示された例では、突出部86は、開口部22aの内側へ向かって倒れるように弾性変形している。
【0061】
本実施形態では、接触面22bと対向面74との間に弾発部材76による押圧力が作用した際に、突出部86が弾性変形することで、蓋部材72が接触面22bに接触するタイミングを遅らせることができる。これにより、蓋部材72が開口部22aを閉鎖するタイミングを遅らせることができる。
【0062】
本実施形態の筆記具10は、開口部22aを有する軸筒20と、ペン先13を有する筆記部材12と、ペン先13を開口部22aから出没させる出没機構40と、ペン先13の没入状態においてペン先13の収容空間Sを密閉する密閉機構70と、を備えた筆記具10であって、密閉機構70は、開口部22aを取り囲む接触面22bに接触して開口部22aを閉鎖可能な蓋部材72と、収容空間S内の圧力が負圧となることを抑制する負圧抑制機構80と、を有する。
【0063】
このような筆記具10によれば、筆記具10が
図2に示された突出状態から
図1に示された没入状態へ遷移する際に、蓋部材72が開口部22aを閉鎖した後に筆記部材12が後退することで収容空間Sの内部に負圧が生じることを抑制することができる。これにより、筆記部材12の内部に収容されたインキがペン先13を介して収容空間S内に漏れ出すことを効果的に抑制することが可能になる。
【0064】
本実施形態の筆記具10では、負圧抑制機構80は、蓋部材72が開口部22aを閉鎖するタイミングを遅延させる閉鎖遅延機構82を有する。
【0065】
このような筆記具10によれば、蓋部材72が開口部22aを閉鎖するタイミングを遅延させることで、開口部22aが閉鎖された後の筆記部材12の後退量を減少させ、これにより、収容空間Sの圧力が負圧となることを抑制することができる。
【0066】
本実施形態の筆記具10では、蓋部材72は、接触面22bと対向する対向面74を有し、閉鎖遅延機構82は、接触面22b又は対向面74に設けられた弾性変形部84を含む。
【0067】
このような筆記具10によれば、接触面22bと対向面74との間に弾発部材76による押圧力が作用した際に、弾性変形部84が弾性変形することで、蓋部材72が接触面22bに接触するタイミングを遅延させることができる。これにより、蓋部材72が開口部22aを閉鎖するタイミングを遅延させることができる。
【0068】
本実施形態の筆記具10では、弾性変形部84は、接触面22b又は対向面74から突出する突出部86である。
【0069】
このような筆記具10によれば、簡単な構造で弾性変形部84を形成することができる。
【0070】
本実施形態の筆記具10では、突出部86は、開口部22aを少なくとも部分的に取り囲む。
【0071】
このような筆記具10によれば、接触面22b及び対向面74の間に、突出部86を効率的に配置することができる。
【0072】
本実施形態の筆記具10では、接触面22b又は対向面74に垂直な方向に沿った突出部86の高さhは、蓋部材72の回転軸から離れるほど小さくなる。
【0073】
このような筆記具10によれば、蓋部材72の回転軸(ピン78)に近い部分における突出部86の高さhを大きくすることにより、蓋部材72が開口部22aを閉鎖するタイミングを効果的に遅延させることができる。
【0074】
本実施形態の筆記具10では、蓋部材72の回転軸は、接触面22bの延長面22cに対して収容空間Sの反対に位置する。
【0075】
このような筆記具10によれば、回転軸よりも後方(操作部52側)の部分における内軸22の肉厚を十分に確保することができる。これにより、内軸22の強度を確保しながらも、弾発部材76の端部の端部を収納するための凹部29の大きさを十分に確保することができる。したがって、内軸22の前端部の強度の向上を図ることができるとともに、弾発部材76の大きさや形状などの設計自由度を向上させることが可能になる。これにより、蓋部材72の開閉時に弾発部材76の弾発力により内軸22にゆがみなどの変形が発生することを効果的に抑制することができる。
【符号の説明】
【0076】
10 筆記具
12 筆記部材
13 ペン先
15 収容筒
17 第1受部
19 突出部
20 軸筒
20a 前端開口部
21 前軸
22 内軸
22a 開口部
22b 接触面
22c 延長面
24 溝部
25 外軸
26 第1連結部材
28 第2受部
29 凹部
30 先端部材
31 後軸
32 内軸
35 外軸
36 第2連結部材
38 頭冠
40 出没機構
42 第1弾発部材
44 第2弾発部材
50 ノック部材
52 操作部
54 拡径部
56 穴部
58 内方突出部
59 Oリング
60 回転カム部材
62 後方突出部
64 係合部
70 密閉機構
72 蓋部材
74 対向面
76 弾発部材
78 ピン
80 負圧抑制機構
82 閉鎖遅延機構
84 弾性変形部
86 突出部
da 軸方向
A 中心軸線
S 収容空間