(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094044
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】アーキング検出装置、アーキング検出プログラム、記録媒体、アーキング検出方法、及び集積回路
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20240702BHJP
【FI】
G01R31/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210752
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】島袋 ▲祐▼次
(72)【発明者】
【氏名】小島 有志
(72)【発明者】
【氏名】市川 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】平塚 淳一
(72)【発明者】
【氏名】村山 真道
【テーマコード(参考)】
2G015
【Fターム(参考)】
2G015AA26
2G015BA04
2G015CA01
(57)【要約】
【課題】放電性の負荷を有する放電装置において、ノイズに起因するアーキングの誤検出の可能性を低減しつつ素早くアーキングを検出すること。
【解決手段】アーキング検出装置(10)は、電源(21)から負荷(22)に供給される電流(IT)を周期的に測定する電流測定器(12)と、電流(I)の時間差分を算出する差分算出部(114)と、前記時間差分が複数回連続して前記判定基準値以上となった場合にアーキングが発生したと判定する判定部(115)と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電性の負荷と当該負荷に電力を供給する電源とを有する放電装置において生じ得るアーキングを検出するアーキング検出装置であって、
前記電源から前記負荷に供給される電流を周期的に測定する電流測定器と、
前記電流の時間差分を算出する差分算出部と、
前記時間差分が複数回連続して判定基準値以上となった場合にアーキングが発生したと判定する判定部と、を備えている、
ことを特徴とするアーキング検出装置。
【請求項2】
前記電源を制御する出力部であって、アーキングが発生したと前記判定部が判定した場合には、前記電力の供給を停止させる制御信号を前記電源に出力する出力部を更に備えている、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーキング検出装置。
【請求項3】
前記電源のフレーム電位と、当該アーキング検出装置のフレーム電位とは、同電位であって、グランドに対して1000V以上の電位である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアーキング検出装置。
【請求項4】
前記電流測定器における前記測定のサンプリングレートは、10kS/秒以上である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアーキング検出装置。
【請求項5】
前記差分算出部及び前記判定部の動作周波数は、10kHz以上5GHz以下である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアーキング検出装置。
【請求項6】
前記電流測定器が測定した前記電流に対してノイズ除去を実施するフィルタを更に備えている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアーキング検出装置。
【請求項7】
前記フィルタは、デジタルフィルタである、
ことを特徴とする請求項6に記載のアーキング検出装置。
【請求項8】
前記判定基準値を第1判定基準値として、
前記判定部は、前記電流が第2判定基準値を複数回連続して超えた場合にアーキングが発生したと判定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアーキング検出装置。
【請求項9】
請求項1に記載のアーキング検出装置としてコンピュータを機能させるためのアーキング検出プログラムであって、前記差分算出部及び前記判定部としてコンピュータを機能させるためのアーキング検出プログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のアーキング検出プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項11】
放電性の負荷と当該負荷に電力を供給する電源とを有する放電装置において生じ得るアーキングを検出するアーキング検出方法であって、
前記電源から前記負荷に供給される電流を周期的に測定する電流測定ステップと、
前記電流の時間差分を算出する差分算出ステップと、
前記時間差分が複数回連続して判定基準値以上となった場合にアーキングが発生したと判定する判定ステップと、を含んでいる、
ことを特徴とするアーキング検出方法。
【請求項12】
放電性の負荷と当該負荷に電力を供給する電源とを有する放電装置において生じ得るアーキングを検出する集積回路であって、
前記電源から前記負荷に供給される電流の時間差分を算出する差分算出部と、前記時間差分が複数回連続して判定基準値以上となった場合にアーキングが発生したと判定する判定部と、として機能する論理回路が形成されている、
ことを特徴とする集積回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電性の負荷と当該負荷に電力を供給する電源とを有する放電装置において生じ得るアーキングを検出するアーキング検出装置、アーキング検出プログラム、アーキング検出方法、及び集積回路に関するまた、本発明は、アーキング検出プログラムを記録した記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ源や電子管デバイスなどに代表される放電性の負荷を備えた放電装置が知られている。負荷としてプラズマ源を備えた放電装置の例としては、核融合用中性粒子入射装置、高エネルギー加速器装置、及びイオン注入装置が挙げられる。また、負荷として電子管デバイスを備えた放電装置の例としては、クライストロン及びジャイロトロン装置が挙げられる。
【0003】
このような放電装置では、異常放電であるアーキングが突発的に発生することがある。アーキングが発生した場合、放電性の負荷には通常よりも大きな電流が流れる。そのため、アーキングは、放電性の負荷における損傷の原因となりやすい。したがって、アーキング発生時にできるだけ早く負荷を保護し、負荷が受ける損傷をできるだけ抑制するために、負荷に対する電力の供給をできるだけ迅速に止めることが好ましい。そのため、このような放電装置には過電流を検出する装置が設けられていることがある。
【0004】
例えば、特許文献1には、アーク放電型プラズマ源に対して電源から供給される電流が流れる主回路上に貫通型変流器を介して電流測定器を設置し、電流測定器により計測された電流が予め設定された判定基準値を超えた場合にアーキングを検出する技術が記載されている。この判定基準値は、負荷の安定運転時における電流を超えた範囲において適宜定めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電流測定器が出力する電流信号であって、測定した電流を表す電流信号には、突発的なノイズであって、そのピーク値が負荷の安定運転時における電流を上回るノイズが重畳する場合がある。したがって、できるだけ早くアーキングを検出するために、判定基準値を厳しく(低めに)設定した場合、ノイズに起因するアーキングの誤検出を避けることが難しい。その一方で、この誤検出を避けるために判定基準値を緩く(高めに)設定した場合、アーキングを検出するまでの所要時間が長くなるため、負荷が大きな損傷を受けやすい。
【0007】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、放電性の負荷を有する放電装置において、ノイズに起因するアーキングの誤検出の可能性を低減しつつ、素早くアーキングを検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係るアーキング検出装置は、放電性の負荷と当該負荷に電力を供給する電源とを有する放電装置において生じ得るアーキングを検出するアーキング検出装置である。
【0009】
上記の課題を解決するために、本アーキング検出装置は、前記電源から前記負荷に供給される電流を周期的に測定する電流測定器と、前記時間差分が複数回連続して判定基準値以上となった場合にアーキングが発生したと判定する判定部と、を備えている。
【0010】
上述した前記アーキング検出装置と対応するように構成されたアーキング検出方法も本発明の範疇に含まれる。本アーキング検出方法は、放電性の負荷と当該負荷に電力を供給する電源とを有する放電装置において生じ得るアーキングを検出するアーキング検出方法である。
【0011】
上記の課題を解決するために、本アーキング検出方法は、前記電源から前記負荷に供給される電流を周期的に測定する電流測定ステップと、前記電流の時間差分を算出する差分算出ステップと、前記時間差分が複数回連続して判定基準値以上となった場合にアーキングが発生したと判定する判定ステップと、を含んでいる。
【0012】
本アーキング検出装置は、負荷に供給されている電流を周期的に測定したうえで、その電流における時間差分を算出する差分算出ステップと、前記時間差分が複数回連続して前記判定基準値以上となった場合にアーキングが発生したと判定する。すなわち、時間差分が判定基準値以上であった時間が所定の時間以上となった場合に、本アーキング検出装置は、アーキングを検出する。したがって、本アーキング検出装置は、放電性の負荷を有する放電装置において、ノイズに起因するアーキングの誤検出の可能性を低減しつつ、素早くアーキングを検出することができる。なお、上述したアーキング検出方法は、アーキング検出装置と同じ効果を奏する。
【0013】
また、本発明の第2の態様に係るアーキング検出装置においては、上述した第1の態様に係るアーキング検出装置の構成に加えて、前記電源を制御する出力部であって、アーキングが発生したと前記判定部が判定した場合には、前記電力の供給を停止させる制御信号を前記電源に出力する出力部を更に備えている、構成が採用されている。
【0014】
上記の構成によれば、判定部がアーキングを検出した場合に、出力部は電力の供給を停止するように電源を制御するので、負荷において生じ得る損傷を抑制することができる。
【0015】
また、本発明の第3の態様に係るアーキング検出装置においては、上述した第1の態様又は第2の態様に係るアーキング検出装置の構成に加えて、前記電源のフレーム電位と、当該アーキング検出装置のフレーム電位とは、同電位であって、グランドに対して1000V以上の電位である、構成が採用されている。
【0016】
電源のフレーム電位とアーキング検出装置のフレーム電位とが異なる電位である場合、電流測定器は測定した電流を表す電流信号を電気/光変換(E/O変換)したうえで出力し、アーキング検出装置は、電流信号を光/電気変換(O/E変換)したうえで取得することになる。上記の構成によれば、電源のフレーム電位とアーキング検出装置のフレーム電位とが同電位であるため、このようなE/O変換及びO/E変換を省略することができる。したがって、電源のフレーム電位とアーキング検出装置のフレーム電位とが異なる電位である場合と比較して、アーキング検出までの所要時間を短縮することができる。
【0017】
また、本アーキング検出装置は、電源のフレーム電位がグランドに対して1000V以上である放電装置に対して好適に用いることができる。
【0018】
また、本発明の第4の態様に係るアーキング検出装置においては、上述した第1の態様~第3の態様の何れか一態様に係るアーキング検出装置の構成に加えて、前記電流測定器における前記測定のサンプリングレートは、10kS/秒以上である、構成が採用されている。なお、サンプリングレートの単位は、1秒間あたりのサンプル数を示し、10kS/秒は、1秒間あたりのサンプル数が10000であることを意味している。
【0019】
本アーキング検出装置において、電流測定器におけるサンプリングレートは、速ければ速いほど好ましい。サンプリングレートが10kS/秒である場合、サンプリング間隔が100μ秒であるため、アーキング検出までの所要時間を数100μ秒に短縮することができる。また、サンプリングレートは、1MS/秒以上であることがより好ましい。この場合、サンプリング間隔が1μ秒であるため、アーキング検出までの所要時間を数μ秒に短縮することができる。
【0020】
また、本発明の第6の態様に係るアーキング検出装置においては、上述した第1の態様~第4の態様の何れか一態様に係るアーキング検出装置の構成に加えて、前記差分算出部及び前記判定部の動作周波数は、10kHz以上5GHz以下である、構成が採用されている。
【0021】
上記の構成によれば、差分算出部及び判定部における演算速度を高めることができるため、アーキング検出までの所要時間を確実に短縮することができる。
【0022】
また、本発明の第6の態様に係るアーキング検出装置においては、上述した第1の態様~第5の態様の何れか一態様に係るアーキング検出装置の構成に加えて、前記電流測定器が測定した前記電流に対してノイズ除去を実施するフィルタを更に備えている、構成が採用されている。
【0023】
本発明の一態様に係るアーキング検出装置では、電流の時間差分が複数回連続して判定基準値以上となった場合にアーキングが発生したと判定するように判定部を構成することによって、ノイズに起因するアーキングの誤検出の可能性を低減している。ただし、本アーキング検出装置のようにノイズ除去を実施するフィルタを更に備えていることにより、判定基準値をより低く設定しても前記誤検出の可能性を低減することができる。したがって、上記の構成によれば、アーキング検出までの所要時間を更に短縮することができる。なお、フィルタの例としては、突発的なノイズを遮断するようにカットオフ周波数が定められたローパスフィルタ及びバンドパスフィルタが挙げられる。
【0024】
また、本発明の第7の態様に係るアーキング検出装置においては、上述した第6の態様に係るアーキング検出装置の構成に加えて、前記フィルタは、デジタルフィルタである、構成が採用されている。
【0025】
上記の構成によれば、放電装置の運転状況や、ノイズレベルに応じて、ユーザは、フィルタレベルを調整することができるので、アーキング検出までの所要時間を短縮するためにフィルタを最適化することができる。
【0026】
また、本発明の第8の態様に係るアーキング検出装置においては、上述した第1の態様~第7の態様の何れか一態様に係るアーキング検出装置の構成に加えて、前記判定基準値を第1判定基準値として、前記判定部は、前記電流が第2判定基準値を複数回連続して超えた場合にアーキングが発生したと判定する、構成が採用されている。
【0027】
上記の構成によれば、判定部は、電流の時間差分が複数回連続して第1判定基準値以上となった場合にアーキングが発生したと判定することに加えて、電流が複数回連続して第2判定基準値以上となった場合にアーキングが発生したと判定する。したがって、判定部における冗長性を確保することができる。
【0028】
本発明の第1の態様に係るアーキング検出装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記アーキング検出装置が備える差分算出部及び判定部として動作させることにより前記アーキング検出装置をコンピュータにて実現させるアーキング検出プログラム、及び、それを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【0029】
また、本発明の第1の態様に係るアーキング検出装置が備えている差分算出部及び判定部は、集積回路によって実現してもよい。すなわち、放電性の負荷と当該負荷に電力を供給する電源とを有する放電装置において生じ得るアーキングを検出する集積回路であって、前記電源から前記負荷に供給される電流の時間差分を算出する差分算出部と、前記時間差分が複数回連続して判定基準値以上となった場合にアーキングが発生したと判定する判定部と、として機能する論理回路が形成されている集積回路も、本発明の範疇に含まれる。
【0030】
これらのプログラム、記録媒体、及び集積回路も、本発明の第1の態様に係るアーキング検出装置と同じ効果を奏する。なお、このような集積回路としては、数MHz~数百MHzオーダーの動作周波数を容易且つ安価で得ることができ、且つ、過酷な環境にも耐えられるFPGA(Field-Prоgrammable Gate Array)が好適である。
【発明の効果】
【0031】
本発明の一態様によれば、放電性の負荷を有する放電装置において、ノイズに起因するアーキングの誤検出の可能性を低減しつつ、素早くアーキングを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の一実施形態に係るアーキング検出装置と、電源及び放電性の負荷を有する放電装置とを備えた放電システムのブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るアーキング検出方法であって、
図1に図示したアーキング検出装置において実行されるアーキング検出方法のフローチャートである。
【
図3】
図2に図示したアーキング検出方法の一変形例のフローチャートである。
【
図4】(a)~(c)は、それぞれ、
図1に図示したアーキング検出装置における電流、時間差分、及び制御信号の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の一態様に係るアーキング検出装置10及びアーキング検出方法M10について、
図1~
図3を参照して説明する。
図1は、アーキング検出装置10と、放電装置20とを備えている放電システム1のブロック図である。
図2は、アーキング検出装置10において実施されるアーキング検出方法M10のフローチャートである。
図3は、アーキング検出方法M10の一変形例であるアーキング検出方法M20のフローチャートである。
【0034】
〔放電装置の概要〕
図1に示すように放電装置20は、電源21及び負荷22を備えている。負荷22は、放電性の負荷である。電源21は、負荷22に対して放電を発生させるための電力を供給する。本実施形態では、放電装置20の一例として核融合用中性粒子入射装置を用いて説明する。この場合、負荷22は、プラズマを発生させるプラズマ源である。ただし、アーキング検出装置10が適用される放電装置20は、核融合用中性粒子入射装置に限定されず、放電性の負荷22と、負荷22に電力を供給する電源21とを有する放電装置であればよい。アーキング検出装置10及び放電装置20を含む放電システム1(本実施形態においてはアーキング検出装置10及び核融合用中性粒子入射装置を含む核融合システム)も本発明の範疇に含まれる。
【0035】
負荷22の態様としては、プラズマ源及び電子管デバイスが挙げられる。負荷22としてプラズマ源を備えた放電装置の例としては、核融合用中性粒子入射装置の他に高エネルギー加速器装置、及びイオン注入装置が挙げられる。また、負荷として電子管デバイスを備えた放電装置の例としては、クライストロン及びジャイロトロン装置が挙げられる。
【0036】
核融合用中性粒子入射装置の場合、電源21のフレーム電位がグランドに対して高くなっている。核融合用中性粒子入射装置における電源21の典型的なフレーム電位は、グランドよりも1000V以上高い。グランドに対する電源21のフレーム電位は、適宜設定することができ、本実施形態では、グランドに対する電源21のフレーム電位が1MVであるとする。そのため、核融合用中性粒子入射装置の近傍には高圧の絶縁性ガス(例えばSF6:六フッ化硫黄)が適宜充填されている。このような環境下にアーキング検出装置を配置することを嫌って、特許文献1に記載されたような従来のアーキング検出装置は、核融合用中性粒子入射装置とは離れた制御室に設置されていることが多い。その結果、従来のアーキング検出装置のフレーム電位は、グランドと等しくなるように、すなわち、電源21のフレーム電位とは異なるように設定されている。それに対して、本実施形態のように、アーキング検出装置10を核融合用中性粒子入射装置の近傍に配置し、アーキング検出装置のフレーム電位と電源21のフレーム電位とを同電位に設定することもできる。この構成によれば、後述する制御部11と電流測定器12との間に電気/光変換(E/O変換)及び光/電気変換(O/E変換)を介在させる必要がないため、アーキング検出装置10におけるアーキング検出までの所要時間を短縮することができる。このように、アーキング検出装置10を核融合用中性粒子入射装置の近傍に配置する場合には、後述する制御部11をコンピュータではなく集積回路(例えばFPGA(Field-Prоgrammable Gate Array))により実現することが好ましい。集積回路は、絶縁性ガスに対する耐性がコンピュータよりも高いため、核融合用中性粒子入射装置の近傍に設置した場合にも耐用年数を延ばすことができる。アーキング検出装置10は、このように、電源21のフレーム電位と、アーキング検出装置10のフレーム電位とが同電位であって、グランドに対して1000V以上の電位である場合に好適である。すなわち、アーキング検出装置10は、電源21のフレーム電位がグランドに対して高電位に浮いている放電装置20に対して好適である。
【0037】
このような放電装置20では、異常放電であるアーキングが突発的に発生することがある。アーキング検出装置10は、放電装置20において生じ得るアーキングを検出する。また、本実施形態において、アーキング検出装置10は、アーキングが発生した場合に、負荷22に対する電力の供給を止めるように電源21を制御する。
【0038】
〔アーキング検出装置の構成〕
図1に示すように、アーキング検出装置10は、制御部11と、電流測定器12と、変流器13とを備えている。
【0039】
制御部11は、取得部111と、A/D変換部112と、フィルタ部113と、差分算出部114と、判定部115と、出力部116とを備えている。
【0040】
電流測定器12は、電源21から負荷22に供給される電流Iを周期的に測定する。電流測定器12におけるサンプリングレートは、速いほど好ましい。例えば、当該サンプリングレートは、10kS/秒以上であることが好ましく、1MS/秒以上であることがより好ましい。本実施形態では、電流測定器12におけるサンプリングレートとして1MS/秒を採用している。
【0041】
多くの電流測定器12において、測定可能な最大電流は数A~数10Aである。したがって、電流Iが電流測定器12を用いて直接測定することが難しい場合、変流器を用いて電流Iを、電流測定器12が測定可能な範囲内の電流ITになるように変換する。本実施形態では、変流器13として貫通型の変流器を用いる。
【0042】
電流測定器12は、変流器13により変換された電流ITを周期的に測定し、電流ITを表す電流信号SIを出力し続ける。このステップは、
図2に図示したアーキング検出方法M10における電流ITを周期的に測定するステップS11に対応する。なお、本実施形態において、電流測定器12が生成する電流信号SIは、アナログ信号である。
【0043】
取得部111は、電流測定器12が生成した電流信号SIを取得する。このステップは、
図2における電流信号SIを取得するステップS12に対応する。
【0044】
A/D変換部112は、電流信号SIをアナログ/デジタル変換(A/D変換)することにより、デジタル信号である電流信号SIを生成する。このステップは、
図2における電流信号SIをA/D変換するステップS13に対応する。
【0045】
フィルタ部113は、デジタル信号である電流信号SIに対してノイズ除去を実施する。このステップは、
図2における電流信号SIにフィルタ処理を施すステップS14に対応する。フィルタ部113は、電流測定器12が出力する電流信号SIに重畳し得るノイズを遮断するように構成されている。フィルタ部113は、ノイズを遮断するようにカットオフ周波数が定められたローパスフィルタ及びバンドパスフィルタが挙げられる。本実施形態においては、フィルタ部113としてデジタルフィルタを採用しているが、フィルタ部113はアナログフィルタであってもよい。
【0046】
差分算出部114は、フィルタ処理を施された電流信号SIが表す電流の時間差分ΔIを算出する。本実施形態のように電流測定器12のサンプリングレートが1MS/秒である場合、1μ秒ごとの時間差分ΔIが得られる。このステップは、
図2における電流の時間差分を算出するS15に対応する。
【0047】
判定部115は、時間差分ΔIがn回連続して判定基準値TH1以上となった場合に、負荷22においてアーキングが発生したと判定する。ここで、nは、2以上の整数であり、電流測定器12が出力する電流信号SIに重畳し得るノイズの半値幅などに応じて適宜定めることができる。
【0048】
判定基準値TH1は、負荷22において安定してプラズマが発生している時(以下において、安定運転時とも称する)にける時間差分ΔIと、アーキングの発生時における時間差分ΔIとに応じて、安定運転時における時間差分ΔIよりも大きく、アーキング発生時における時間差分ΔIよりも小さい範囲において適宜定めることができる。後述するように、制御部11がアーキング検出方法M10に加えてアーキング検出方法M20も実施する場合には、判定基準値TH1は、第1判定基準値及び第2判定基準値のうち第1判定基準値に対応する。
【0049】
このステップは、
図2におけるステップS16とステップS17とに対応する。ステップS16は、時間差分ΔIが判定基準値TH1以上であるか否かを判定するステップである。ステップS17は、ステップS16において判定結果が「はい」だった場合に、時間差分ΔIが判定基準値TH1以上である回数がn回以上であるか否かを判定するステップである。
【0050】
判定部115は、ステップS16の判定結果が「いいえ」だった場合、又は、ステップS17の判定結果が「いいえ」だった場合、アーキングは発生していないと判定する(
図2におけるステップS181参照)。また、判定部115は、ステップS16の判定結果が「はい」であり、且つ、ステップS17の判定結果が「はい」である場合に、アーキングが発生したと判定する(
図2におけるステップS182参照)。
【0051】
出力部116は、電源21を制御する制御信号SCであって、電源21が負荷22に対して電力を供給するか否かを制御する制御信号SCを、電源21に対して出力する。制御信号SCの態様は、電源21に対して電力供給を許可する第1状態と、電源21に対して電力供給を許可しない第2状態と、を表すものであればよい。本実施形態においては、制御信号SCがONである場合に第1状態を表し、制御信号SCがOFFである場合に第2状態を表すように、制御信号SC及び電源21を構成している。このステップは、
図2における電力停止の制御信号SCを出力するステップS19に対応する。
【0052】
なお、差分算出部114及び判定部115を含む制御部11の動作周波数は、10kHz以上5GHz以下であることが好ましい。
【0053】
<制御部の変形例>
制御部11の一変形例は、
図2に図示するアーキング検出方法M10に加えて、
図3に図示するアーキング検出方法M20を実施するように構成されていてもよい。アーキング検出方法M20は、ステップS11~S14と、ステップS26,S27と、ステップS181,S182,S19とを含んでいる。
【0054】
アーキング検出方法M20のステップS11~S14及びステップS181,S182,S19は、
図2に図示するステップS11~S14及びステップS181,S182,S19と同じステップであるため、ここではその説明を省略する。
【0055】
アーキング検出方法M20のステップS26,S27は、アーキング検出方法M10のステップS16,S17に対応するステップである。ただし、アーキング検出方法M20は、アーキング検出方法M10のステップS15を含んでいない。アーキング検出方法M20のステップS26,S27において、判定部115は、電流信号SIが表す電流がm回連続して判定基準値TH2以上となった場合に、負荷22においてアーキングが発生したと判定する。ここで、mは、2以上の整数であり、電流測定器12が出力する電流信号SIに重畳し得るノイズの半値幅などに応じて適宜定めることができる。mは、上述したnと同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0056】
すなわち、ステップS26は、電流信号SIが表す電流が判定基準値TH2以上であるか否かを判定するステップであり、ステップS27は、ステップS26において判定結果が「はい」だった場合に、当該電流が判定基準値TH2以上である回数がm回以上であるか否かを判定するステップである。
【0057】
〔制御部の実現例〕
アーキング検出装置10(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部11に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0058】
この場合、前記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0059】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0060】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0061】
また、当該装置の各制御ブロック(特に制御部11に含まれる各部)は、集積回路によって実現してもよい。すなわち、放電装置20において生じ得るアーキングを検出する集積回路であって、差分算出部114及び判定部115として機能する論理回路が形成されている集積回路も、本発明の範疇に含まれる。このような集積回路としては、FPGAが好適である。
【0062】
〔アーキング検出装置の更なる効果〕
本発明の一態様に係るアーキング検出装置10は、〔課題を解決するための手段〕の欄に記載した効果を奏する。ここでは、これらの効果以外に得られる更なる効果について説明する。
【0063】
アーキング検出装置10は、放電装置20における電流IT(本実施形態においては変流器13において変換された電流IT)を表す電流情報を取得することができればよく、他の装置やコンピュータなどとの通信を必ずしも必要としない。したがって、アーキング検出装置10は、低消費電力且つコンパクトに構成することができる。
【0064】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0065】
〔構成〕
図1に図示した放電システム1の実施例について、
図4を参照して説明する。
図4の(a)~(c)は、それぞれ、アーキング検出装置10における電流IT、時間差分ΔI、及び制御信号SCの時間変化を示すグラフである。
【0066】
本実施例において、放電装置20としてアーク放電型イオン源として知られている核融合用中性粒子入射装置を用いた。放電装置20において、電源21として定格600Aであり、スイッチング素子としてGTO(Gate Turn‐Off thyristor)を採用する電源を用い、負荷22としてアーク放電側イオン源を用いた。
【0067】
また、本実施例において、アーキング検出装置10のフレーム電位と、放電装置20の電源21のフレーム電位とは、同一であり、グランドに対して5200Vの電位に浮いた状態とした。
【0068】
また、本実施例において、制御部11として日本NI社製のFPGAcRIO-9054を用い、電流測定器12におけるサンプリングレートを1MS/秒に定め、変流器13として貫通型の変流器を用いた。本実施例において、制御部11の動作周波数は、1MHzである。また、本実施例の判定部115では、ステップS16において用いる判定基準値TH1としてTH1=200mA/μ秒を用い、ステップS17において用いる回数nとしてn=13を用いた。
【0069】
なお、本実施例において、制御部11は、電流測定器12が測定した全ての電流ITに対して
図2に図示したアーキング検出方法M10を実施しているが、
図4の(a)~(c)には、10μ秒ごとのデータのみをプロットしている。また、
図4の(c)に図示した電流ITにおいては、負荷22の安定運転時における電流ITの平均値を0Aとしている。
【0070】
〔結果〕
アーキングが発生した時点を正確に定めることは難しいが、
図4の(c)に図示したグラフの通りにアーキングが発生した時点を定めたとした場合、負荷22においてアーキングが発生してから出力部116が「OFF」の制御信号SCを出力するまでの所要時間は、約40μ秒であった。上述したように、本実施例では電源21としてGTOを用いているため、出力部116が出力した「OFF」の制御信号SCを電源21が取得して、電源21が電力の供給を停止するまで約50μ秒かかる。したがって、本実施例では、負荷22においてアーキングが発生してから電源21が電力の供給を停止するまでの所要時間が約90μ秒であることが分かった。
【0071】
なお、特許文献1に記載された従来のアーキング検出装置のように、制御部を放電装置とは離れた制御室に設置した場合、アーキングが発生してから電源が電力の供給を停止するまでの所要時間は、例えば約数10m秒である。これは、放電装置の電源におけるフレーム電位とアーキング検出装置のフレーム電位とが異なる電位に設けられていることに起因して、電流測定器と制御部との間にE/O変換部及びO/E変換部を介在させる必要があるためである。
【0072】
また、電源21におけるスイッチング素子としてGTOよりもスイッチング速度が速いスイッチング素子(例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor))を採用した場合、負荷22においてアーキングが発生してから電源21が電力の供給を停止するまでの所要時間をさらに30μ秒程度短縮可能であることが分かった。IGBTを用いた電源21の場合、「OFF」の制御信号SCを取得して電力の供給を停止するまでの所要時間が約10μ秒であるためである。