(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094046
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】評価装置、評価方法、評価システム、および評価プログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 10/00 20180101AFI20240702BHJP
【FI】
G16H10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210756
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】503109640
【氏名又は名称】サンスター スイス エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】太田 安里
(72)【発明者】
【氏名】清水 都
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】中西 隆
(72)【発明者】
【氏名】金田 健
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA15
(57)【要約】
【課題】口腔の状態を適切に評価することが可能な評価装置等を提供する。
【解決手段】評価装置(1)は、口腔状態評価の対象となる対象者が所定の口腔ケアを実行していない期間である不実行期間の長さを特定する不実行期間特定部(103)と、不実行期間の長さに応じて対象者の口腔状態を評価する評価部(105)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔状態評価の対象となる対象者が所定の口腔ケアを実行していない期間である不実行期間の長さを特定する不実行期間特定部と、
前記不実行期間の長さに応じて前記対象者の口腔状態を評価する評価部と、を備える評価装置。
【請求項2】
口腔状態評価の対象となる対象期間における、前記対象者が前記口腔ケアを実行したことが前記口腔状態に与えた影響を示すケア評価値を算出するケア評価部と、
前記対象期間における前記不実行期間が前記口腔状態に与えた影響を示す不実行評価値を算出する不実行評価部と、を備え、
前記評価部は、前記ケア評価値と前記不実行評価値とを用いて前記対象者の口腔状態の評価結果を示す評価値を算出する、請求項1に記載の評価装置。
【請求項3】
前記ケア評価部は、前記対象者が実行した前記口腔ケアの内容に応じた前記ケア評価値を算出する、請求項2に記載の評価装置。
【請求項4】
前記評価部は、口腔状態に関する複数種類のリスクのそれぞれを評価する、請求項1から3の何れか1項に記載の評価装置。
【請求項5】
前記評価部は、前記対象者に関する対象者情報に基づいて前記対象者の口腔状態を評価する、請求項1から3の何れか1項に記載の評価装置。
【請求項6】
前記不実行期間特定部は、前記対象者の口腔内を区分した複数のエリアのそれぞれについて前記不実行期間の長さを特定し、
前記評価部は、前記複数のエリアのそれぞれについて前記不実行期間の長さに応じた評価を行う、請求項1から3の何れか1項に記載の評価装置。
【請求項7】
前記評価部による評価結果に応じた、当該評価結果を改善させる方策を決定する方策決定部を備える、請求項1から3の何れか1項に記載の評価装置。
【請求項8】
時系列の前記評価の結果に基づき、当該評価が行われた時点より先の時点の評価結果を予測する予測部を備える、請求項1から3の何れか1項に記載の評価装置。
【請求項9】
前記不実行期間特定部は、前記対象者が前記口腔ケアを実行したか否かが不明である不明期間が前記不実行期間に含まれる場合に、前記不実行期間から前記不明期間を除外した期間の長さを前記不実行期間の長さとして特定する、請求項1から3の何れか1項に記載の評価装置。
【請求項10】
前記対象者が前記口腔ケアを実行したか否かが不明である不明期間において、当該対象者が前記口腔ケアを実行したか否かを推論する推論部を備え、
前記不実行期間特定部は、前記推論の結果に基づいて不実行期間の長さを特定する、請求項1から3の何れか1項に記載の評価装置。
【請求項11】
1または複数の情報処理装置により実行される評価方法であって、
口腔状態評価の対象となる対象者が所定の口腔ケアを実行していない期間である不実行期間の長さを特定する不実行期間特定ステップと、
前記不実行期間の長さに応じた、前記対象者の口腔状態の評価値を算出する評価ステップと、を含む評価方法。
【請求項12】
口腔状態評価の対象となる1または複数の対象者について、当該対象者が歯ブラシを使用した使用履歴を示す履歴情報を蓄積する履歴蓄積装置と、
前記履歴情報に基づき、前記1または複数の対象者について、当該対象者が所定の口腔ケアを実行していない期間である不実行期間の長さを特定し、当該不実行期間の長さに応じた口腔状態を評価する評価装置と、
前記評価の結果に応じたフィードバック情報を提示する提示装置と、を含む評価システム。
【請求項13】
請求項1に記載の評価装置としてコンピュータを機能させるための評価プログラムであって、前記不実行期間特定部および前記評価部としてコンピュータを機能させるための評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者の口腔状態を評価する評価装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
対象者の歯磨きを評価し、その良し悪しをフィードバックする技術が従来から知られている。例えば、下記の特許文献1には、各種センサを内蔵したスマート歯ブラシにより検知されたブラッシングデータを分析し、ブラッシング評価結果を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術は、口腔の健康状態に関するリスクが口腔ケアの不実行期間の長さに応じて変化する、という性質を考慮できていないため、口腔の状態を適切に評価するという点で改善の余地がある。
【0005】
例えば、歯石は、ペリクル形成、プラーク形成、および石灰化という3つのステップを経て形成される。歯石は通常の歯磨きでは除去が難しく、新たなプラーク付着の母体となることで歯周病の原因菌などが増殖しやすい環境を作るため、歯石化が始まる前と始まった後では口腔の健康リスクに大きな差異がある。つまり、歯石化が始まってしまった部位については、単回のブラッシング評価結果がどれだけ高評価であっても歯石化が進行し、口腔の健康状態が悪化する可能性が高い。
【0006】
本発明の一態様は、口腔の状態を適切に評価することが可能な評価装置等を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る評価装置は、口腔状態評価の対象となる対象者が所定の口腔ケアを実行していない期間である不実行期間の長さを特定する不実行期間特定部と、前記不実行期間の長さに応じて前記対象者の口腔状態を評価する評価部と、を備える。
【0008】
また、本発明の一態様に係る評価方法は、上記の課題を解決するために、1または複数の情報処理装置により実行される評価方法であって、口腔状態評価の対象となる対象者が所定の口腔ケアを実行していない期間である不実行期間の長さを特定する不実行期間特定ステップと、前記不実行期間の長さに応じた、前記対象者の口腔状態の評価値を算出する評価ステップと、を含む。
【0009】
また、本発明の一態様に係る評価システムは、上記の課題を解決するために、口腔状態評価の対象となる1または複数の対象者について、当該対象者が歯ブラシを使用した使用履歴を示す履歴情報を蓄積する履歴蓄積装置と、前記履歴情報に基づき、前記1または複数の対象者について、当該対象者が所定の口腔ケアを実行していない期間である不実行期間の長さを特定し、当該不実行期間の長さに応じた口腔状態を評価する評価装置と、前記評価の結果に応じたフィードバック情報を提示する提示装置と、を含む。
【0010】
本発明の各態様に係る評価装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記評価装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記評価装置をコンピュータにて実現させる評価装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、口腔の状態を適切に評価することが可能な評価装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る評価装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】上記評価装置を含む評価システムの構成例を示す図である。
【
図10】評価装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
〔評価システムの概要〕
本発明の一実施形態に係る評価システム100の構成を
図2に基づいて説明する。
図2は、評価装置1を含む評価システム100の構成例を示す図である。評価システム100は、口腔ケアの不実行期間の長さを考慮して、対象者の口腔の状態を適切に評価する機能を備えたシステムである。ここで、口腔ケアとは、例えば、歯磨き(特定の歯磨剤を使用する場合も含む)、洗口液の使用、歯間ケア用品の使用、歯科医院でのスケーリング等を含む。
【0014】
評価システム100では、対象者の口腔の健康状態に関する各リスクを数値化することにより、対象者の口腔の状態を評価する。対象者の口腔の健康状態に関するリスクは、例えば、口腔状態に関する健康リスク、歯周病リスク、う蝕リスク、歯肉退縮リスク、口臭リスク、着色リスク、舌苔付着リスクを含み、評価システム100は、各リスクについて、それぞれ評価する。なお、口腔状態に関する健康リスクは、歯の喪失に繋がる口腔の健康レベルの低下を示す、総合的なリスク指標である。
【0015】
(口腔ケアの不実行期間の時間経過とリスクの対応関係)
歯周病などに関与する菌が増殖する対数期においては、指数関数的に菌が増殖する。例えば、エナメル質に形成された唾液糖タンパク質のペリクルに細菌が付着し約8時間後にマイクロコロニーが形成されることでプラークが形成されるが、時間経過に伴うプラークの成熟により、菌が大幅に増殖する。
【0016】
具体的には、プラークが形成された初期の定着期では、球菌、好気性のノカルディア、ナイセリアが増殖し、プラーク形成から48時間後の増殖期では、定着期の菌は減少するが、アクチノマイセス、コリネバクテリウム等の通性嫌気性菌が増加する。また、プラーク形成から3~5日間、口腔ケアを行わずに放置すると、ベイロネラ、フゾバクテリウム(偏性嫌気性菌)及びスピロヘータ(運動性菌)が増加する。口腔内で増殖する菌は、口腔の健康状態に様々な影響を与え、特にフゾバクテリウムやスピロヘータなどのプラーク形成の後半に増殖する菌では、歯周組織の破壊に直接的または間接的に関与する。
【0017】
さらに、プラークが歯石化し始めると、普通の歯みがきでは除去が困難になり、歯石化が始まってしまった部位については、単回のブラッシング評価結果がどれだけ高評価であっても歯石化が進行し、口腔の健康状態が悪化する可能性が高い。プラークが歯石化し始めるのはプラーク形成から1日~2日経過後だが、完全にプラークが歯石化するのは平均12日かかる。しかしながら、いつもみがき残す部位で歯石が形成されることは十分に考えられる。
【0018】
このように、口腔ケアの不実行期間の時間経過と口腔の健康状態の悪化には因果関係がある。また、口腔の健康状態を良い状態に保つには、菌の増殖を極力抑えること及び完全に歯石が形成される前に何らかの処置を行うことが非常に重要となる。そこで、本願発明では、口腔ケアの不実行期間の時間経過を考慮して、対象者の口腔の状態を適切に評価して対象者に提示することで、対象者に口腔状態に関するリスクを認知させ、口腔状態を悪化させる前に何らかの処置を行うことを対象者に促す。
【0019】
〔評価システムの構成〕
図2に示すように、評価システム100は、評価装置1と、電動歯ブラシ2と、を備えている。電動歯ブラシ2は、例えば、予め設定された周期で電動歯ブラシ2のブラシ部を振動させ、対象者は電動歯ブラシ2を歯にあてることで、自動でブラッシングを行う。電動歯ブラシ2は通信機能を有し、評価装置1と通信を行う。なお、評価システム100では、電動歯ブラシ2の代わりに手動の歯ブラシを用いてもよい。その場合、手動の歯ブラシに通信装置が備えられていてもよい。
【0020】
〔評価装置の構成〕
図1は、本発明の一実施形態に係る評価装置1の要部構成の一例を示すブロック図である。評価装置1は、実行した口腔ケアの情報を含む履歴情報に基づき、口腔状態評価の対象となる対象者が所定の口腔ケアを実行していない期間である不実行期間の長さを特定し、当該不実行期間の長さに応じた、対象者の口腔状態を評価する。評価装置1は、例えば、対象者が所有する情報処理端末であってもよい。
図1に示すように、評価装置1は、制御部10と、記憶部11と、通信部12と、入力部13と、出力部14と、を備えている。
【0021】
制御部10は評価装置1の各部を統括して制御する。制御部10は、一例において、CPU(Central Processing Unit)であってもよい。制御部10は、記憶部11に記憶されているソフトウェアである制御プログラムを読み取ってRAM(Random Access Memory)等のメモリに展開して各種機能を実行する。制御部10の構成について詳しくは後述する。
【0022】
記憶部11(履歴蓄積装置)は、評価装置1が使用する各種データを記憶する。記憶部11は、特に、対象者情報111と、ケア評価情報112と、不実行評価情報113と、評価結果114と、方策情報115と、を記憶している。上記の各情報について詳しくは後述する。通信部12は、電動歯ブラシ2と通信を行う。
【0023】
なお、本実施形態では、記憶部11が履歴蓄積装置として機能するが、上記に限らず、履歴情報を蓄積する履歴蓄積装置が評価装置1とは別に設けられていてもよい。その場合、履歴蓄積装置は、例えば、電動歯ブラシ2に設けられていてもよい。また、評価システム100において、電動歯ブラシ2の代わりに手動の歯ブラシを用いる場合、手動の歯ブラシに履歴蓄積装置が備えられていてもよい。また、通信機能を持たない電動歯ブラシ2または手動の歯ブラシの履歴情報が対象者により評価装置1に直接入力され、情報取得部101が当該履歴情報を取得してもよい。
【0024】
履歴情報が対象者により手動で評価装置1に直接入力される場合、評価装置1は、実行した口腔ケアの入力漏れを防ぐための機能を有していてもよい。例えば、歯磨きにタイマーとして使用する歯磨きタイマーが終了したときに、歯間ケアの実行及び洗口液の使用の有無を確認するポップアップが出力部14に表示されるアプリケーションを評価装置1に設けてもよい。これにより、実行した口腔ケアを確実に入力することができる。
【0025】
入力部13は、評価装置1に対する各種データの入力を受け付ける。入力部13は、例えば、対象者により入力される、対象者情報111を受け付ける。対象者情報111は、例えば、唾液成分、唾液の量、食事のタイミング、食事内容、口を開ける頻度、噛みしめる頻度、咬合、舌、咀嚼、服薬情報、運動、活動量、全身の健康状態(疾病有無、血糖値、血圧、骨格筋量等)、睡眠に関する各種情報等を含む。また、対象者情報111には、口腔の健康状態に関するリスクの増加のしやすさ等に関わる関与因子、例えば、歯列情報(歯並び、補綴、欠損、歯周ポケットの深さなど)、頬粘膜・歯列弓など(みがきにくさに繋がる個人特性)、歯肉のやわらかさ、薄さ、腫れの有無等が含まれていてもよい。
【0026】
入力部13は、対象者が実行した歯磨き以外の口腔ケア(例えば、歯間ケアの実行及び洗口液の使用)についても受け付ける。歯磨き以外の口腔ケアの入力は、当該口腔ケアを実行した日時と共に対象者によりされてもよい。
【0027】
出力部14(提示装置)は、後述するフィードバック制御部108から取得した、評価の結果に応じたフィードバック情報を対象者に提示する。出力部14は、例えば、液晶ディスプレイである。出力部14は、音または振動を出力する機能を備えていてもよい。出力部14は評価装置1に備わっていなくてもよく、評価装置1の外部に設けられて評価装置1と接続される形態であってもよい。
【0028】
〔制御部の構成〕
制御部10は、情報取得部101と、ケア評価部102と、不実行期間特定部103と、不実行評価部104と、評価部105と、予測部106と、方策決定部107と、フィードバック制御部108と、推論部109と、を備えている。なお、実施形態1では、推論部109は必須ではない。推論部109について詳しくは実施形態2で説明する。
【0029】
(情報取得部)
情報取得部101は、口腔状態の評価に必要な各種データを取得する。これらのデータには、電動歯ブラシ2の使用履歴を示す履歴情報及び対象者情報111が含まれている。情報取得部101は、履歴情報を記憶部11に蓄積する。履歴情報は、例えば、対象者が歯磨き(ブラッシング)を行った日時情報、そのブラッシング加速度情報及びブラシ圧等を含む。また、履歴情報には、対象者が実行した歯磨き以外の口腔ケア(例えば、歯間ケアの実行及び洗口液の使用)も含まれる。
【0030】
(ケア評価部)
ケア評価部102は、対象者が実行した口腔ケアの内容に応じて、口腔状態評価の対象となる対象期間における、対象者が口腔ケアを実行したことが口腔状態に与えた影響を示すケア評価値を算出する。ケア評価部102は、対象期間において実行された口腔ケアを特定し、ケア評価情報112を参照して特定した口腔ケアに基づいてケア評価値を算出する。なお、対象期間は、予め対象者により設定されていてもよい。
【0031】
口腔ケアの不実行期間の時間経過により口腔内の健康状態のリスクは増加するが、口腔ケアを行うと、当該リスクは軽減する。
図3は、ケア評価情報112の一例を示す表である。
図3に示すように、ケア評価情報112では、実行した口腔ケアと、口腔の健康状態に関する各リスクにおける、軽減リスクとが対応付けられている。軽減リスクは、実行した口腔ケアにより軽減されるリスクを数値化したものである。ケア評価情報112は、例えば、経験値等により予め設定されている。また、
図3で示すケア評価情報112の「・・・」には、経験値等により決定された値が入力されている。
【0032】
ケア評価部102は、ケア評価情報112にしたがい、実行した口腔ケアに基づいて、ケア評価値を算出する。例えば、対象者が口腔ケアとして歯磨きを実行した場合、ケア評価部102は、ケア評価値を「-2」と算出する。
【0033】
ケア評価部102がケア評価値を算出する場合の対象者が実行する口腔ケアは、
図3で示す、歯磨き、洗口液の使用、歯間ケア用品、使用に限らず、舌苔の除去に効果的な舌ブラシ、ポイントケアブラシ、歯科医院でのスケーリングを含んでいてもよい。また、ケア評価値は、歯の磨き方、歯磨き時間、使用した口腔ケア用品の種類・構成・成分等に応じて算出されてもよい。さらに、ケア評価値は、実際の関与因子(歯周ポケットの深さなど)に基づき補正されてもよい。
【0034】
(不実行期間特定部)
口腔の健康状態に関するリスクは、主に、口腔ケアの不実行期間の時間経過により増大する。具体的には、例えば、口腔状態に関する健康リスクは、口腔ケアの不実行期間の時間経過に伴う、菌の増殖、プラークの歯石化、歯周病原因菌またはう蝕原因菌の増加によりリスクが増大する。歯周病リスクは、口腔ケアの不実行期間の時間経過に伴う、歯周病原因菌の増加及び歯周病の進行によりリスクが増大する。う蝕リスクは、口腔ケアの不実行期間の時間経過に伴う、菌の増殖、プラークの歯石化及びう蝕原因菌の増加によりリスクが増大する。歯肉退縮リスクは、口腔ケアの不実行期間の時間経過に伴う、歯周病の進行によりリスクが増大する。口臭のリスクは、口腔ケアの不実行期間の時間経過に伴う、菌の増殖及び口臭原因菌の増加によりリスクが増大する。着色のリスクは、口腔ケアの不実行期間の時間経過に伴う、菌の増殖、プラークの歯石化及び歯への着色成分の定着によりリスクが増大する。舌苔付着リスクは、口腔ケアの不実行期間の時間経過に伴う、菌の増殖によりリスクが増大する。
【0035】
そこで、不実行期間特定部103は、対象期間において、口腔状態評価の対象となる対象者が所定の口腔ケアを実行していない期間である不実行期間の長さを特定する。不実行期間特定部103は、対象者の口腔内を区分した複数のエリアのそれぞれについて不実行期間の長さを特定してもよい。
【0036】
不実行期間特定部103は、対象者の口腔内を区分した複数のエリアのそれぞれについて不実行期間の長さを特定する場合、複数の歯を含むエリアを1エリアとして設定もよく、個々の歯はまたは個々の歯の各部位(歯間部、歯肉付近等)を1エリアとして設定してもよい。また、不実行期間特定部103は、粘膜及び舌を1エリアとして設定してもよい。
【0037】
(不実行評価部)
不実行評価部104は、対象期間における不実行期間が口腔状態に与えた影響を示す不実行評価値を算出する。
図4は、不実行評価情報113の一例を示す図であり、口腔の健康状態に関するリスクのうち、任意のリスク(例えば、口腔状態に関する健康リスク)の発生と不実行期間との対応関係の一例を示す。
図4の4001は、不実行評価情報113をグラフで示した不実行評価情報113Aであり、
図4の4002は、不実行評価情報113を表で示した不実行評価情報113Bである。不実行評価情報113は、評価する口腔の健康状態に関するリスク毎に存在する。
【0038】
図4の4001及び
図4の4002に示すように、不実行評価情報113では、口腔ケアの不実行期間と加算リスクの数値とが対応付けられている。加算リスクは、口腔ケアの不実行期間により増加するリスクを数値化したものである。不実行評価情報113は、例えば、菌の増殖期の菌の増殖と時間経過との対応関係に基づき、予め設定されている。不実行評価情報113Bで示されている「重み」は、加算リスクを不実行期間(日)で除した数値である。
【0039】
不実行評価部104は、不実行評価情報113にしたがい、口腔ケアの不実行期間に基づいて、任意のリスクの不実行評価値を算出する。例えば、不実行期間特定部103で特定された不実行期間の時間経過が2日であった場合、不実行評価部104は、不実行評価情報113Bを参照し、不実行評価値を「3.1」と算出する。
【0040】
(不実行評価値算出の他の例)
図5は不実行評価情報113の他の例を示す図である。不実行評価部104は、不実行評価情報113Bの任意のリスクの加算リスクを、セルフ物理除去対応リスク、セルフケミカル除去対応リスク及びプロケア対応リスクに分けた不実行評価情報113Cを参照して、不実行評価値を算出してもよい。
【0041】
セルフ物理除去対応リスクは、歯磨き、歯間ブラシ等の物理清掃を実行しなかった際の加算リスクを示す。セルフケミカル除去対応リスクは、洗口液及び歯磨剤等の化学的清掃を実行しなかった際の加算リスクを示す。プロケア対応リスクは、歯科医院でのスケーリング等を実行しなかった際の加算リスクを示す。
【0042】
不実行評価情報113Cは、リスク分解情報120を基に形成される。リスク分解情報120は、各単位不実行期間において、セルフ物理除去対応リスク、セルフケミカル除去対応リスク及びプロケア対応リスクのそれぞれの割合が設定されている情報である。
【0043】
不実行評価情報113Cは、リスク分解情報120における、単位不実行期間毎に設定された各リスク(セルフ物理除去対応リスク、セルフケミカル除去対応リスク及びプロケア対応リスク)の割合に、各単位不実行期間に対応する不実行評価情報113Bの加算リスクを乗算し、任意のリスクの各単位不実行期間における各リスクの加算リスクとする。
【0044】
例えば、リスク分解情報120において、不実行期間の3日目では、セルフ物理除去対応リスク:セルフケミカル除去対応リスク:プロケア対応リスクは、0.5:0.4:0.1と設定されている。不実行評価情報113Bの不実行期間の3日目の加算リスクは7.0であるため、不実行評価情報113Cの不実行期間の3日目の各リスクの加算リスクは、セルフ物理除去対応リスク、セルフケミカル除去対応リスク、プロケア対応リスクの順で、0.5×7.0=3.5、0.4×7.0=2.8、0.1×7.0=0.7となる。
【0045】
上述したように不実行評価部104は、不実行評価情報113Cに基づいて不実行評価値を算出してもよい。例えば、対象期間における2日目において、不実行期間特定部103で特定されたセルフケア物理清掃の不実行期間が1日であり、セルフケア化学的清掃及びプロケア対応リスクの不実行期間が2日ある場合、以下のように不実行評価値が算出されてもよい。すなわち、不実行評価部104は、不実行評価情報113Cを参照し、セルフケア物理清掃の不実行評価値を「0.9」、セルフケミカル除去対応リスクの不実行評価値を「0.9」、プロケア対応リスクの不実行評価値を「0.0」と算出し、対象期間における2日目の不実行評価値を1.8と算出してもよい。
【0046】
また、不実行評価部104により、不実行評価情報113Cが参照される場合、ケア評価部102においても、セルフ物理除去対応リスク、セルフケミカル除去対応リスク及びプロケア対応リスクに分けた評価が行われてもよい。
【0047】
例えば、歯ブラシのみで3分間歯磨きを行う口腔ケアが実行された場合は、口腔ケアが実行された時点における、セルフ物理除去対応リスクの合計値が60%減少するようなケア評価値がケア評価部102により算出されてもよい。また、歯磨剤付の歯ブラシで3分歯磨きを行う口腔ケアが実行された場合は、口腔ケアが実行された時点におけるセルフ物理除去対応リスクの合計値が60%減少し、セルフケミカル除去対応リスクが30%減少するようなケア評価値がケア評価部102により算出されてもよい。さらに、歯科医院でスケーリングを3分間行う口腔ケアが実行された場合は、口腔ケアが実行された時点におけるセルフ物理除去対応リスクの合計値が70%減少し、セルフケミカル除去対応リスクが70%減少し、プロケア対応リスクの合計値が70%減少するようなケア評価値がケア評価部102により算出されてもよい。
【0048】
(評価部)
評価部105は、不実行期間の長さに応じて対象者の口腔状態を評価する。
【0049】
具体的には、評価部105は、ケア評価値と不実行評価値とを用いて対象者の口腔状態の評価結果を示す評価値を算出する。これにより、口腔ケアを実行したことが口腔状態に与えた影響と、不実行期間が口腔状態に与えた影響とのそれぞれについて考慮した妥当な評価値を算出することができる。
【0050】
評価部105は、口腔状態に関する複数種類のリスクのそれぞれを評価する。これにより、各種類のリスクがどの程度であるかを評価することができる。評価部105は、例えば、口腔状態に関する健康リスク、歯周病リスク、う蝕リスク、歯肉退縮リスク、口臭リスク、着色リスク、舌苔付着リスク等のリスクについて、それぞれを評価する。なお、本実施形態では評価部105は最小の評価値を0とし、評価値が高いほどリスクが高まっている状態であることを示し、評価値が低いほど健康状態を保つことができていることを示す。
【0051】
評価部105は、不実行期間特定部103により不実行期間の長さを特定した複数のエリアのそれぞれについて不実行期間の長さに応じた評価を行ってもよい。これにより、口腔内の口腔ケアが継続的に行き届いていないエリアを対象者に認識させることが可能になる。
【0052】
また、評価部105は、対象者に関する対象者情報に基づいて対象者の口腔状態を評価してもよい。例えば、評価部105により算出された評価値が、関与因子の状態(歯周ポケットの深さなど)に基づき補正されてもよい。これにより、対象者毎の個人差を考慮した妥当な評価値を算出することができる。
【0053】
また、評価部105は、対象者に関する行動データに基づいて対象者の口腔状態を評価してもよい。例えば、評価部105により算出された評価値が、複数の行動データに基づき補正されてもよい。例えば、口腔状態に関する健康リスク及び口臭リスクにおいては、評価値が歯磨き時間に基づき補正されてもよく、歯周病リスクにおいては、評価値が歯磨き時間及び歯面における歯ブラシの位置または角度に基づき補正されてもよい。う蝕リスクにおいては、評価値が歯磨き時間、糖質接種日時及び糖質摂取量に基づき補正されてもよく、歯肉退縮リスクにおいては、評価値が歯磨き時間及びブラシ圧に基づき補正されてもよい。着色リスクにおいては、評価値が歯磨き時間及び着色原因摂取日時に基づき補正されてもよく、舌苔付着リスクにおいては、評価値が舌ブラシ使用日時及び使用時間に基づき補正されてもよい。
【0054】
また、不実行評価部104により、不実行評価情報113Cが参照される場合、評価部105においても、セルフ物理除去対応リスク、セルフケミカル除去対応リスク及びプロケア対応リスクに分けた評価が行われてもよい。
【0055】
評価部105は、評価した評価値を評価結果114として記憶部11に記憶する。
【0056】
(評価部における評価方法の一例)
図6は評価部105の評価方法の一例を示す図である。
図6に基づき、Day1からDay6の対象期間についての評価部105の評価方法について説明する。
図6の6001はDay2の評価値について示す図であり、
図6の6002はDay3の評価値について示す図であり、
図6の6003はDay4の評価値について示す図であり、
図6の6004はDay5の評価値について示す図であり、
図6の6005はDay6の評価値について示す図である。
【0057】
図6において、ハッチングの丸は口腔ケアの実行を示し、白丸は口腔ケアの不実行を示す。つまり、対象期間であるDay1からDay6のうち、Day1およびDay4で対象者は口腔ケアを実行し、Day2、Day3、Day5及びDay6では対象者は口腔ケアを実行していない。なお、Day1およびDay4では歯ブラシによる口腔ケア(例えば、3分間の歯磨き)が行われたものとする。また、説明を簡易にするために、以下では評価部105による口腔状態に関する健康リスクについての評価方法について説明し、不実行評価情報113Bは、口腔状態に関する健康リスクの発生と時間経過の対応関係を示すものとする。
【0058】
評価部105は単位不実行期間及び対象期間を設定する。単位不実行期間及び対象期間は、例えば、対象者により任意に設定される。
図6に示す例では、単位不実行期間は1日、対象期間はDay1からDay6として設定されている。
【0059】
評価部105は、リスクの初期値を決定する。
図6に示す例では、リスクの初期値が「0」に設定されている。リスクの初期値は上記に限らず、過去の履歴から設定されるものであってもよい。
【0060】
Day1では歯磨きによる口腔ケアが実行され、ケア評価部102は、ケア評価情報112(
図3)を参照してケア評価値を「-2」と算出するが、初期値が評価値の最小値である「0」であるため、Day1におけるケア評価値及び不実行評価値の合計値を「0」と算出する。
【0061】
図6の6001に示すように、Day2では口腔ケアが実行されなかったため、不実行期間特定部103は、Day2の不実行期間の長さを1日として特定する。不実行評価部104は不実行評価情報113B(
図4)を参照し、不実行評価値を「1」と算出する。言い換えると、Day2ではリスクとして「1」が発生する。評価部105はDay1の評価値「0」に不実行評価値である「1」を加算し、Day2におけるケア評価値及び不実行評価値の合計値(評価値)を「1」と算出する。
【0062】
図6の6002に示すように、Day3ではDay2から継続して口腔ケアが実行されなかったため、不実行期間特定部103は、Day3の不実行期間の長さを2日として特定する。不実行評価部104は不実行評価情報113B(
図4)を参照し、不実行評価値を「3.1」と算出する。評価部105はDay2の評価値「1」に不実行評価値である「3.1」を加算し、Day3におけるケア評価値及び不実行評価値の合計値を「4.1」と算出する。
【0063】
図6の6003に示すように、Day4では歯磨きによる口腔ケアが実行され、ケア評価部102は、ケア評価情報112(
図3)を参照してケア評価値を「-2」と算出する。言い換えると、Day4ではリスクとして「-2」が消化される。評価部105はDay3の評価値「4.1」にケア評価値である「-2」を加算し、Day4におけるケア評価値及び不実行評価値の合計値を「2.1」と算出する。
【0064】
図6の6004に示すように、Day4で口腔ケアが実行され、Day5では口腔ケアが実行されなかったため、不実行期間特定部103は、Day5の不実行期間の長さを1日として特定する。不実行評価部104は不実行評価情報113B(
図4)を参照し、不実行評価値を「1」と算出する。評価部105はDay4の評価値「4.1」に不実行評価値である「1」を加算し、Day5におけるケア評価値及び不実行評価値の合計値を「3.1」と算出する。
【0065】
図6の6005に示すように、Day6ではDay5から継続して口腔ケアが実行されなかったため、不実行期間特定部103は、Day6の不実行期間の長さを2日として特定する。不実行評価部104は不実行評価情報113B(
図4)を参照し、不実行評価値を「3.1」と算出する。評価部105はDay5の評価値「3.1」に不実行評価値である「3.1」を加算し、Day6におけるケア評価値及び不実行評価値の合計値を「6.2」と算出し、評価部105は、本対象期間における口腔状態に関する健康リスクの評価値を「6.2」と評価する。
【0066】
上述のように、評価部105は、口腔の健康状態に関する複数種類のリスクについて、単位不実行期間及び対象時間を設定して、単位不実行期間毎にケア評価値及び不実行評価値の合計値を算出することで評価値を算出する。
【0067】
(評価部における評価方法の他の例)
図7は評価部105の評価方法の他の例を示す図である。
図7に基づき、評価部105の評価方法の他の例について説明する。図の7001はDay2の評価値について示す図であり、
図7の7002はDay3の評価値について示す図であり、
図7の7003はDay4の評価値について示す図であり、
図7の7004はDay5の評価値について示す図であり、
図7の7005はDay6の評価値について示す図である。
【0068】
図7において、ハッチングの丸は口腔ケアの実行を示し、白丸は口腔ケアの不実行を示す。つまり、対象期間であるDay1からDay6のうち、Day1およびDay6で対象者は口腔ケアを実行し、Day2からDay5では対象者は口腔ケアを実行していない。なお、Day1およびDay6では歯ブラシによる口腔ケア(例えば、3分間の歯磨き)が行われたものとする。また、説明を簡易にするために、以下では口腔状態に関する健康リスクについての評価方法について説明し、不実行評価情報113Bは、口腔状態に関する健康リスクの発生と時間経過の対応関係を示すものとする。
図7に示す例では、単位不実行期間を1日とし、Day1からDay6を対象期間として設定し、リスクの初期値を「0」と設定している。
【0069】
Day1では歯磨きによる口腔ケアが実行され、ケア評価部102は、ケア評価情報112(
図3)を参照してケア評価値を「-2」と算出するが、初期値が評価値の最小値である「0」であるため、Day1におけるケア評価値及び不実行評価値の合計値は「0」となる。
【0070】
図7の7001に示すように、Day2では口腔ケアが実行されなかったため、不実行期間特定部103は、Day2の不実行期間の長さを1日として特定する。不実行評価部104は不実行評価情報113B(
図4)を参照し、不実行評価値を「1」と算出する。評価部105はDay1の評価値「0」に不実行評価値である「1」を加算し、Day2におけるケア評価値及び不実行評価値の合計値を「1」と算出する。
【0071】
図7の7002に示すように、Day3ではDay2から継続して口腔ケアが実行されなかったため、不実行期間特定部103は、Day3の不実行期間の長さを2日として特定する。不実行評価部104は不実行評価情報113B(
図4)を参照し、不実行評価値を「3.1」と算出する。評価部105はDay2の評価値「1」に不実行評価値である「3.1」を加算し、Day3におけるケア評価値及び不実行評価値の合計値を「4.1」と算出する。
【0072】
図7の7003に示すように、Day4ではDay2から継続して口腔ケアが実行されなかったため、不実行期間特定部103は、Day4の不実行期間の長さを3日として特定する。不実行評価部104は不実行評価情報113B(
図4)を参照し、不実行評価値を「6.9」と算出する。なお、
図4の不実行評価情報113Bでは、不実行期間が3日目の加算リスクは6.99であるが、説明を簡易にするため、小数第2位以下は切り捨てた「6.9」を採用している。評価部105はDay3の評価値「4.1」に不実行評価値である「6.9」を加算し、Day4におけるケア評価値及び不実行評価値の合計値を「11」と算出する。
【0073】
図7の7004に示すように、Day5ではDay2から継続して口腔ケアが実行されなかったため、不実行期間特定部103は、Day5の不実行期間の長さを4日として特定する。不実行評価部104は不実行評価情報113B(
図4)を参照し、不実行評価値を「13.6」と算出する。評価部105はDay4の評価値「11」に不実行評価値である「13.6」を加算し、Day5におけるケア評価値及び不実行評価値の合計値を「24.6」と算出する。
【0074】
図7の7005に示すように、Day6では歯磨きによる口腔ケアが実行され、ケア評価部102は、ケア評価情報112(
図3)を参照してケア評価値を「-2」と算出する。評価部105はDay5の評価値「24.6」にケア評価値である「-2」を加算し、Day6におけるケア評価値及び不実行評価値の合計値を「22.6」と算出し、評価部105は、本対象期間における評価値を「22.6」と評価する。
【0075】
(予測部)
予測部106は、時系列の評価の結果に基づき、当該評価が行われた時点より先の時点の評価結果を予測する。これにより、将来の口腔状態を見越した行動を対象者に促すことが可能になる。
【0076】
評価結果の予測は、例えば、過去に口腔ケアが実行された傾向に基づき、将来口腔ケアが実行されると考えられる口腔ケアの実行日を予測し、所定期間経過後の評価値を算出することで、将来の口腔状態の評価結果を予測してもよい。
【0077】
(方策決定部)
方策決定部107は、評価部105による評価結果に応じた、当該評価結果を改善させる方策を決定する。これにより、評価結果を改善させる方策を対象者に認識させることが可能になる。
【0078】
評価結果を改善させる方策としては、例えば、特定の口腔ケア用品を使用する、電動歯ブラシの動作設定を変える、歯の磨き方を変える、歯を磨くタイミングを変える、歯磨き時間を変える及び歯科受診等が想定される。
【0079】
図8は、方策情報115の一例を示す表であり、口腔の健康状態に関するリスクと、方策との対応関係を示す。
図8に示すように、方策情報115では、口腔の健康状態に関するリスク毎の評価結果と方策とが対応づけられている。方策情報115では、方策として、例えば、洗口液使用、歯間ケア用品使用及び歯科検診が設定されている。
【0080】
方策決定部107は方策情報115にしたがい、評価部105で算出された口腔の健康状態に関するリスク毎の評価値に基づいて、リスク毎に方策を決定する。例えば、口腔状態に関する健康リスクの評価値が10以上のエリアが存在する場合、方策情報115は、当該評価結果を改善させる方策として「洗口液の使用」を決定する。
【0081】
方策決定部107は、上記に限らず、口腔の健康状態に関する複数種類のリスクに対して、方策を決定してもよい。例えば、方策決定部107は、口腔の健康状態に関する複数種類のリスクを一気に解消する方策を決定してもよい。
【0082】
また、方策決定部107は、予測部106が予測した対象者の将来の口腔状態の評価結果に基づき方策を決定してもよい。さらに、方策決定部107は、口腔の健康状態に関するリスクの推移に基づき、評価値の減少幅に応じて特定の報酬(例えば、ポイント)を対象者に付与する機能を有していてもよい。
【0083】
(フィードバック制御部)
フィードバック制御部108は、対象者の評価結果に応じたフィードバック情報を作成して出力部14に表示させることで、口腔の健康状態に関するリスクの評価に関するフィードバック情報を対象者に提示する。評価結果には、評価部105が算出した評価値、予測部106が予測した対象者の将来の口腔状態の評価結果及び方策決定部107が決定した方策等が含まれる。フィードバック制御部108は、音または振動で対象者にフィードバック情報を報知してもよい。
【0084】
(結果表示画面例)
図9は、評価結果の表示方法の一例を示す図である。フィードバック制御部108は、
図9に示すように、歯の模型のイラストにより局所毎にリスクレベルを出力部14に表示することで対象者にフィードバック情報を提示してもよい。
【0085】
図9の9001は
図9の9000で示す歯の模型の領域Rにおいて、初期状態(1日目)を示す図である。
図9の9002は領域Rにおいて、口腔ケアを行わずに、3日間経過した状態及び5日間経過した状態の評価結果の表示例を示す図である。
図9の9003は領域Rにおいて、洗口液のみの口腔ケアを行い、3日間経過した状態及び5日間経過した状態の評価結果の表示例を示す図である。
図9の9004は領域Rにおいて、歯磨きのみの口腔ケアを行い、3日間経過した状態及び5日間経過した状態の評価結果の表示例を示す図である。
図9の9005は領域Rにおいて、歯磨き及び歯間ケアの口腔ケアを行い、3日間経過した状態及び5日間経過した状態の評価結果の表示例を示す図である。
【0086】
図9の9001から
図9の9005に示すように、リスクが高い(評価値が高い)程、歯のイラストの色が濃く表示されてもよい。また、
図9の9004に示すように、歯のイラストの両端の色が濃くなることで、歯磨きのみの口腔ケアを続けると歯間のリスクが高くなることが表現されてもよい。また、
図9の9005に示すように、歯のイラストの両端の色が薄くなることで、歯間ケアにより歯間のリスクが軽減されることが表現されてもよい。
【0087】
上記に限らずフィードバック制御部108は、口腔の健康状態に関するリスクの各評価値について数値をそのまま出力部14に表示してもよく、評価値を積算して時系列で表示してもよい。
【0088】
また、フィードバック制御部108は、評価値の度合いが分かる言葉におきかえて出力部14に表示してもよく、
図9に示した例と異なる表示方法でイラストにより評価値の度合いを表現してもよい。評価値の度合いが分かる言葉としては、フィードバック制御部108は、例えば、評価値が10以上であれば「頑張ろう」との文字を表示してもよい。評価値の度合いが分かるイラストとしては、フィードバック制御部108は、例えば、キャラクターの表情、貯金または借金の量、棒グラフの大きさを表示してもよく、
図9に示すように何らかのイラストの色変化等を表示してもよい。
【0089】
フィードバック制御部108は、評価値の度合いを音や振動で対象者に報知してもよい。また、フィードバック制御部108は、口腔状態に関する複数種類のリスクのいずれかが所定の閾値を超える場合に、その旨を出力部14に表示してもよく、対象者に例えば音等により報知を行ってもよい。
【0090】
さらに、フィードバック制御部108は、方策決定部107で決定された方策に応じて具体的な商品の提示を行ってもよい。
【0091】
また、電動歯ブラシ2と評価装置1とを単一として、フィードバック制御部108は電動歯ブラシ2によりフィードバック情報を対象者に提示してもよい。
【0092】
以上のように、評価装置1は、口腔状態評価の対象となる対象者が所定の口腔ケアを実行していない期間である不実行期間の長さを特定する不実行期間特定部と、前記不実行期間の長さに応じて前記対象者の口腔状態を評価する評価部と、を備える。そのため、本発明では、口腔ケアの不実行期間の長さに応じて変化する性質がある口腔の状態を適切に評価することが可能になる。
【0093】
また、評価システム100は、口腔状態評価の対象となる1または複数の対象者について、当該対象者が歯ブラシ(電動歯ブラシ2)を使用した使用履歴を示す履歴情報を蓄積する履歴蓄積装置(記憶部11)と、履歴情報に基づき、前記1または複数の対象者について、当該対象者が所定の口腔ケアを実行していない期間である不実行期間の長さを特定し、当該不実行期間の長さに応じた口腔状態を評価する評価装置1と、評価の結果に応じたフィードバック情報を提示する提示装置(出力部14)と、を含む。これにより、口腔ケアの不実行期間の長さを考慮した妥当な評価値に応じたフィードバック情報の提示を受けることができるので、対象者に適切な口腔ケアの実行を促し、口腔状態の維持・改善に寄与することができる。
【0094】
(評価装置の処理の流れ)
評価装置1の処理の流れを
図10に基づいて説明する。
図10は評価装置1の処理の一例を示すフローチャートである。
【0095】
ステップS11では、情報取得部101は対象者が実行した口腔ケアの使用履歴を示す履歴情報を取得する。ステップS12では、ケア評価部102は対象者により実行された口腔ケアを特定し、対象者が実行した口腔ケアの内容に応じて、ケア評価情報112を参照してケア評価値を算出する(ステップS13)。
【0096】
ステップS14(不実行期間特定ステップ)では、不実行期間特定部103は、対象期間において対象者が所定の口腔ケアを実行していない期間である不実行期間の長さを特定する。ステップS15では、不実行評価部104は、不実行期間特定部103が特定した不実行期間及び不実行評価情報113に基づき不実行評価値を算出する。
【0097】
ステップS16(評価ステップ)では、評価部105は、対象者の口腔状態を評価する。評価部105は、ケア評価値と不実行評価値とを用いて評価値を算出することで、対象者の口腔状態を評価する。
【0098】
ステップS17では、予測部106は、時系列の口腔ケアの評価結果に基づき、将来の口腔状態を予測する。予測部106は、例えば、所定期間経過後の対象者の口腔状態の評価値を予測する。ステップS18では、評価部105が評価した評価値及び予測部106が予測した将来の口腔状態の評価値に基づき、方策を決定する。
【0099】
ステップS19では、フィードバック制御部108は、ステップS16からステップS17の結果に基づきフィードバック情報を作成し、対象者にフィードバック情報を提示させる。
【0100】
なお、評価装置1の各機能は、複数の情報処理装置で構成されるシステムにより実現することも可能であり、また、評価システム100を構成する装置は適宜変更することができる。したがって、
図10に示した各ステップの実行主体は上述の例に限られない。つまり、
図10に示した各ステップは、1つの情報処理装置に実行させることもできるし、複数の情報処理装置に各ステップの処理を分担させることにより実行することもできる。
【0101】
以上のように、本実施形態の評価方法は、1または複数の情報処理装置により実行される評価方法であって、口腔状態評価の対象となる対象者が所定の口腔ケアを実行していない期間である不実行期間の長さを特定する不実行期間特定ステップ(ステップS14)と、不実行期間の長さに応じた、対象者の口腔状態の評価値を算出する評価ステップ(ステップS16)と、を含む。そのため、本発明では、口腔ケアの不実行期間の長さに応じて変化する性質がある口腔の状態を適切に評価することが可能になる。
【0102】
(歯肉退縮リスクについて)
口腔の健康状態に関するリスクのうち、口腔状態に関する健康リスク、歯周病リスク、う蝕リスク、口臭リスク、着色リスク、舌苔付着リスクについては、不実行期間によりリスクが増加し、口腔ケアによりリスクが減少する。
【0103】
それに対して、歯肉退縮リスクは、「刺激の頻度」によりリスクが増加する。つまり、歯肉退縮リスクにおいては、
図3に示すケア評価情報112では、「刺激」となる歯磨きによる口腔ケアが実行された場合のケア評価値はプラス値で示され、
図4に示す不実行評価情報113では、加算リスクがマイナス値で示されることになる。また、歯肉退縮リスクは「単回の歯磨き時間」でもリスクが増加するため、歯磨きによる口腔ケアが実行された場合のケア評価値は、単回の歯磨き時間に基づき増加するように補正されてもよい。
【0104】
(評価システムの変形例)
評価システム100は、評価装置1と通信可能に接続されたサーバ装置(図示せず)を備えていてもよい。例えば、サーバ装置は、複数の評価装置1から送信される情報を、対象者毎に記憶し、管理する構成であってもよい。この場合、例えば、医療関係者は、通信装置を用いてサーバ装置に管理されている対象者の情報にアクセスし、医療行為等に活用することができる。
【0105】
サーバ装置は、一例としてクラウドコンピューティングにより実現されたサーバ装置であってもよい。評価装置1とサーバ装置とは、直接接続されていてもよく、通信ネットワークを介して通信可能に接続されていてもよい。
【0106】
(実施形態2)
本発明の実施形態2に係る評価装置1について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0107】
口腔ケアの履歴情報が取得できなかった場合には対象者が口腔ケアを実行したか否かが不明となる不明期間(データ欠損期間)が生じる。例えば、(1)出張または旅行等に出かけた際、電動歯ブラシ2と異なる歯ブラシを使う場合、及び(2)電動歯ブラシ2の電源が切れてデータが保存できなかった場合等には、履歴情報が一時的に記録されず、履歴情報が記録されなかった期間がデータ欠損期間となる。データ欠損期間においては、口腔ケアの実行または口腔ケアの不実行が特定できないため、口腔状態評価の対象となる対象期間にデータ欠損期間が含まれていると口腔状態を適切に評価できないことがある。実施形態2に係る評価装置1では、対象期間にデータ欠損期間が存在する場合でも対象者の口腔状態を適切に評価することができる。
【0108】
(データ欠損期間がある場合)
対象期間にデータ欠損期間がある場合、推論部109が、データ欠損期間において、対象者が口腔ケアを実行したか否かを推論し、不実行期間特定部103が、推論の結果に基づいて不実行期間の長さを特定する。これにより、データ欠損期間があっても妥当な評価結果を得ることが可能になる。
【0109】
推論部109は、例えば、履歴情報に示される対象者の口腔ケア習慣、または、対象者と同様の集団の口腔ケア習慣に基づいて、データ欠損期間において対象者が口腔ケアを実行したか否かを推論してもよい。
【0110】
また、不実行期間特定部103はデータ欠損期間を不実行期間から除外して不実行期間の長さを特定してもよい。具体的には、不実行期間特定部103は、実施形態1と同様にデータ欠損期間を考慮することなく不実行期間を特定した後、特定した不実行期間にデータ欠損期間にデータ欠損期間が含まれるか否かを判定する。そして、不実行期間特定部103は、当該不実行期間にデータ欠損期間が含まれる場合に、その不実行期間からデータ欠損期間を除外した期間の長さを不実行期間の長さとして特定してもよい。これにより、データ欠損期間に口腔ケアが実施されていた場合における、実際の口腔状態と評価結果との乖離の程度を小さくすることができる。
【0111】
例えば、履歴情報に対象期間である連続するDay1~Day5のうち、Day1、Day3及びDay5には対象者が口腔ケアを実行しなかったことが示されており、Day2及びDay4についてはデータ欠損期間であったとする。この場合、まず、不実行期間特定部103は、不実行期間の長さを5日と特定する。そして、不実行期間特定部103は、不実行期間からデータ欠損期間の2日を除外した3日を不実行期間の長さとして特定する。
【0112】
なお、データ欠損期間を評価装置1が自動で特定することができないことも想定される。その場合は、対象者が手動でデータ欠損期間を指定するようにし、不実行期間特定部103は、対象者の指定したデータ欠損期間に基づいて不実行期間の長さを特定すればよい。
【0113】
〔ソフトウェアによる実現例〕
評価装置1(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部10に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0114】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0115】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0116】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0117】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0118】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0119】
1 評価装置
2 電動歯ブラシ
10 制御部
100 評価システム
101 情報取得部
102 ケア評価部
103 不実行期間特定部
104 不実行評価部
105 評価部
106 予測部
107 方策決定部
109 推論部
114 評価結果
115 方策情報
120 リスク分解情報