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  • 特開-地盤改良体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094052
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】地盤改良体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/10 20060101AFI20240702BHJP
   C09K 17/02 20060101ALI20240702BHJP
   C04B 28/08 20060101ALI20240702BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20240702BHJP
   B28C 7/04 20060101ALI20240702BHJP
   B28C 9/02 20060101ALI20240702BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C09K17/10 P
C09K17/02 P
C04B28/08
C04B18/14 A
B28C7/04
B28C9/02
E02D3/12 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210767
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 貴穂
(72)【発明者】
【氏名】熊給 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】上田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】方田 公章
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宰
(72)【発明者】
【氏名】小貫 雄太
【テーマコード(参考)】
2D040
4G056
4G112
4H026
【Fターム(参考)】
2D040CA01
2D040CA04
2D040CB03
2D040CD04
4G056AA06
4G056AA25
4G056CB31
4G056DA01
4G112PA29
4G112PE01
4H026CA01
4H026CA05
4H026CB01
4H026CB08
4H026CC02
4H026CC05
(57)【要約】
【課題】製造時における二酸化炭素の排出量が削減され、圧縮強度が良好な地盤改良体の製造方法を提供する。
【解決手段】セメントと、水と、を混練してセメントスラリーを得る工程A、工程Aで得たセメントスラリーに高炉スラグを添加し、更に混練して地盤改良体形成用スラリーを得る工程B、及び、工程Bで得た地盤改良体形成用スラリーと地盤とを混合する工程Cを含む地盤改良体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、水と、を混練してセメントスラリーを得る工程A、
工程Aで得たセメントスラリーに高炉スラグを添加し、更に混練して地盤改良体形成用スラリーを得る工程B、及び、
工程Bで得た地盤改良体形成用スラリーと地盤とを混合する工程Cを含む地盤改良体の製造方法。
【請求項2】
前記セメントは、普通ポルトランドセメント及び高炉B種セメントから選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載の地盤改良体の製造方法。
【請求項3】
前記地盤改良体形成用スラリーは、セメントと高炉スラグとの合計含有量を100質量%としたとき、セメントの含有量が10質量%~40質量%であり、高炉スラグの含有量が60質量%~90質量%である請求項1に記載の地盤改良体の製造方法。
【請求項4】
前記地盤改良体形成用スラリーに含まれる全固形分を100質量部としたとき、前記地盤改良体形成用スラリーに含まれる水の含有量が40質量部~250質量部である請求項1に記載の地盤改良体の製造方法。
【請求項5】
前記地盤改良体形成用スラリーは、更に化学混和剤を含む請求項1に記載の地盤改良体の製造方法。
【請求項6】
前記地盤改良体を製造する現場に、
前記セメントをストックするセメントサイロと、
前記セメントスラリーをつくる混練ミキサーと、
前記高炉スラグをストックし、前記セメントスラリーに高炉スラグを添加する高炉スラグサイロと、を設けた、請求項1に記載の地盤改良体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地盤改良体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポルトランドセメントの製造によって発生する二酸化炭素は、セメント1トン(1トン=1000kg)当り焼成エネルギーで約350kg/トン、原料の石灰石から約450kg/トン、合計約750kg/トンであり膨大な量となっている。近年、二酸化炭素排出量の削減が求められている。
地盤改良体は、鉄筋を含まない硬化体であり、山留工事、地下止水工事、軟弱地盤の改良工事等の地盤改良用途等に有用である。
地盤改良体に用いるセメントとして、一般的な混合セメントである高炉B種セメント、六価クロムの溶出抑止及び超軟弱地盤に対応したセメント系固化材等数種類のセメントが存在し、地盤改良体の必要とされる強度や性能に応じて、適宜セメントの種類を選定している。
【0003】
地盤改良体の製造においても、二酸化炭素排出量の削減が求められている。このため、地盤改良体の強度を確保し、且つ、二酸化炭素排出量の多いセメントの使用量を削減することが試みられている。
現状の地盤改良工法においては、例えば、二酸化炭素排出量を少なくするため、高炉スラグの含有量が多い高炉B種セメントを用いることが検討されている。JIS R5211:2009によれば、高炉B種セメントにおける高炉スラグの含有率は30質量%を超え60質量%以下と規定され、実際には40質量%前後である製品が多く流通している。
しかし、高炉B種セメントを用いた場合、環境によっては六価クロムの溶出量が環境基準値を超過する場合があり、そのような環境では、高炉B種セメントに代えて、地盤改良用のセメント系固化材が用いられる。一般的なセメント固化材における高炉スラグの含有量は25質量%以下であり、セメント固化材の使用においては、二酸化炭素発生量の低減には改良の余地があった。
【0004】
高炉スラグ微粉末をより多く含むセメントとしては、高炉セメントC種が挙げられる。高炉セメントC種における高炉スラグの含有量は60質量%~70質量%と定められており、二酸化炭素の削減には有効と考えられる。しかし、高炉C種セメントは、従来ほとんど利用されてこなかったため、セメント工場での製造及び供給能力が低く、高炉B種セメント又はセメント系固化材のように入手し難いという課題があった。
【0005】
セメント固化材、地盤改良体形成用のセメントを含む組成物は、通常は工場にて調製された粉体の混合物を現場に搬送して用いる。そして、現場にて粉体の混合物と水とを撹拌し、地盤改良用スラリーを調製し、圧送ポンプにより土壌中に輸送し、スラリーと土壌とを撹拌翼により撹拌混合した後、硬化させることで地盤改良体が形成される。
従って、地盤改良体を形成する土壌の質、地盤改良体の必要とされる強度等に応じて、複数種の組成物が存在し、目的に応じて選択されているため、土壌の条件に応じた二酸化炭素の削減の最適化が困難であった。
【0006】
高炉スラグの利用技術としては、例えば、セメント、高炉スラグ粉末、骨材及び石膏を含有し、施工性に優れたとされる地盤改良用固化材が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-31574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、二酸化炭素排出について、より高度な削減が求められている現状を考慮した場合、更なる改良が望まれており、例えば、特許文献1の地盤改良用固化材では、セメントの含有量が全体の50質量部~70質量部であり、二酸化炭素排出量の削減において改良の余地がある。
【0009】
本発明の一実施形態の課題は、製造時における二酸化炭素の排出量が削減され、且つ、圧縮強度が良好な地盤改良体を形成しうる地盤改良体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題の解決手段は、以下の実施形態を含む。
【0011】
<1> セメントと、水と、を混練してセメントスラリーを得る工程A、
工程Aで得たセメントスラリーに高炉スラグを添加し、更に混練して地盤改良体形成用スラリーを得る工程B、及び、工程Bで得た地盤改良体形成用スラリーを地盤と混合する工程Cを含む地盤改良体の製造方法。
【0012】
<2> 前記セメントは、普通ポルトランドセメント及び高炉B種セメントから選ばれる少なくとも1種を含む<1>に記載の地盤改良体の製造方法。
<3> 前記地盤改良体形成用スラリーは、セメントと高炉スラグとの合計含有量を100質量%としたとき、セメントの含有量が10質量%~40質量%、高炉スラグの含有量が60質量%~90質量%である<1>又は<2>に記載の地盤改良体の製造方法。
<4> 前記地盤改良体形成用スラリーに含まれる全固形分を100質量部としたとき、前記地盤改良体形成用スラリーに含まれる水の含有量が40質量部~250質量部である<1>~<3>のいずれか1つに記載の地盤改良体の製造方法。
【0013】
<5> 前記地盤改良体形成用スラリーは、更に化学混和剤を含む<1>~<4>のいずれか1つに記載の地盤改良体の製造方法。
<6> 前記地盤改良体を製造する現場に、前記セメントをストックするセメントサイロと、前記セメントスラリーをつくる混練ミキサーと、前記高炉スラグをストックし、前記セメントスラリーに高炉スラグを添加する高炉スラグサイロと、を設けた<1>~<5>のいずれか1つに記載の地盤改良体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態によれば、製造時における二酸化炭素の排出量が削減され、且つ、圧縮強度が良好な地盤改良体を形成しうる地盤改良体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の地盤改良体の製造方法を実施するための、セメントサイロ、高炉スラグサイロ、及び混練ミキサーを備えた設備の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において「~」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示すものとする。
本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0017】
<地盤改良体の製造方法>
本開示の地盤改良体の製造方法は、セメントと、水と、を混練して混練物を得る工程A、工程Aで得た混練物に高炉スラグを添加し、更に混練して地盤改良体形成用スラリーを得る工程B、及び、工程Bで得た地盤改良体形成用スラリーを地盤と混合する工程Cを含む。
なお、以下、本開示の地盤改良体の製造方法を、単に「本開示の製造方法」と称することがある。
【0018】
〔工程A〕
工程Aは、セメントと、水と、を混練してセメントスラリーを得る工程である。
【0019】
(A1)セメント
本開示の工程Aにおいて用いられるセメントには、特に限定はなく、公知のセメントを目的に応じて選択して用いることができる。公知のセメントとしては、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、ポルトランドセメントの一部を高炉スラグ微粉末、フライアッシュ等で置き換えた混合セメント等が挙げられる。
混合セメントの一実施形態である高炉セメントには、JIS R5211:2009にて規格化された3種が流通しており、高炉セメントA種は高炉スラグ微粉末の含有量が5質量%~30質量%、B種は30質量%~60質量%、C種は60質量%~70質量%と定められている。高炉セメントを用いる場合、後述の地盤改良体形成用スラリーにおける高炉スラグの総含有量は、高炉セメントに含まれる高炉スラグの含有量を考慮して決定される。
なかでも、本開示の製造方法においては、セメントとして汎用される、普通ポルトランドセメント及びJIS R5211:2009に規定される高炉B種セメントの少なくともいずれかを含むことが好ましい。
なお、本開示において、以下、普通ポルトランドセメントを「OPC」と略称することがある。
【0020】
(A2)水
工程Aにおいて、セメントと混合して混合物を調製するために用いられる水には特に制限はなく、水道水、排水を浄化して得られる処理水、雨水等を使用することができる。
工程Aにおいてセメントと混合する水の含有量は、均一なセメントスラリーが得られる範囲であれば、特に制限はない。例えば、工程Bにて、更に、固体成分である高炉スラグを添加することを考慮すれば、セメント100質量部に対する水の含有量は、100質量部~2000質量部とすることができる。
また、高炉スラグを添加して地盤改良体形成用スラリーを調整した際の、地盤改良体形成用スラリーに含まれる全固形分を100質量部としたとき、前記地盤改良体形成用スラリーに含まれる水の含有量が40質量部~250質量部であることが好ましく、60質量部~100質量部であることがより好ましい。
スラリー調製時の全固形分に対する水の含有量は、地盤改良体の目的に応じて調整することができる。水の含有量が低い場合には、強度がより良好となり、水の含有量が高い場合には、地盤改良体形成用スラリーの流動性がより向上する傾向にある。
【0021】
(A3)混合
工程Aにおけるセメントと水との混合時間は、均一なセメントスラリーが得られる時間であれば特に制限はない。
通常、例えば、セメントと水とを混合して1分間程度混合すれば均一なセメントスラリーが得られる。混合時間は、0.5分~10分とすることができ、1分~5分が好ましい。
セメントと水との混合には、地盤改良体の施工においてセメントスラリーの製造に用いられる公知の混練ミキサーを用いることができる。
既述の如く、セメントと水とを撹拌混合することにより、流動性が良好なセメントスラリーが得られる。
混合は、目視により均一なセメントスラリーが得られたことを確認した時点で終了すればよい。
【0022】
〔工程B〕
工程Bは、工程Aで得たセメントスラリーに高炉スラグを添加し、更に混練して地盤改良体形成用スラリーを得る工程である。
【0023】
(B1)高炉スラグ
用いられる高炉スラグは、公知の高炉スラグを特に制限なく使用することができる。
高炉スラグとしては、地盤改良用組成物スラリーとして用いるときの地盤改良体の強度発現性を考慮すれば比表面積が3500cm/g~5000cm/gのものであって、三酸化硫黄(SO)を、高炉スラグ全量に対し、2.0質量%~5.0質量%の範囲で含むものが好ましい。
高炉スラグの比表面積は、JIS R 5201:2015 セメントの8.粉末度試験「8.1.1ブレーン空気透過装置」に記載の測定方法に準じて測定することができる。ブレーン空気透過装置を用いて測定することから、比表面積をブレーン値と称することがある。
高炉スラグの比表面積は、高炉スラグの製造時における粉砕方法、粉砕条件、粉砕後の分級により制御することができる。
高炉スラグの比表面積が上記範囲であることにより、地盤改良体形成用スラリーの流動性が良好になり、結果として地盤と混合しやすくなり、得られた地盤改良体の強度発現性がより良好となると考えられる。
普通ポルトランドセメントの比表面積が2500cm/g以下であることを考慮すれば、高炉スラグに水を添加混合した場合、比表面積が大きい高炉スラグの凝集物が形成されやすくなり、流動性などの低下などが生じ、好ましくないと推定している。
【0024】
工程Bでは、工程Aで得られたセメントスラリーに、高炉スラグを添加する。高炉スラグの添加量は、得られる地盤改良体形成用スラリーに含まれるセメントと高炉スラグの含有量との合計含有量を100質量%としたとき、高炉スラグの含有量が60質量%~90質量%、セメントの含有量が10質量%~40質量%となる量で添加することが、得られる地盤改良体の圧縮強度と、二酸化炭素排出量の低減のバランスが良好となる観点から好ましく、高炉スラグの含有量を70質量%~90質量%の範囲とすることがより好ましい。
【0025】
セメントとして、高炉B種セメントを用いる場合には、高炉スラグの含有量を、40質量%~80質量%とし、高炉B種セメントの含有量を20質量%~60質量%とすることができる。即ち、高炉B種セメントに含まれる高炉スラグの含有量を考慮して、セメントと高炉スラグとの総量に対する高炉スラグの含有量を調製し、最終的に、地盤改良体形成用スラリーにおける高炉スラグの好ましい範囲である60質量%~90質量%となる量に調整すればよい。
以下、セメントと高炉スラグとを、「粉体」と総称することがある。
【0026】
なお、工程Bにおいて、高炉スラグを添加した後、地盤改良体形成用スラリーの流動性等を調整する目的で、更に水を加えてもよい。追加で用いる水は、前記(A2)で記載した水を同様に用いることができる。
【0027】
〔その他の成分〕
地盤改良体形成用スラリーは、既述のセメント、高炉スラグ及び水に加え、スラリーの形成に適用し得る添加剤(その他の成分とも称する)を必要に応じて更に含むことができる。
その他の成分としては、スラリーの流動性向上のための化学混和剤、硬化性向上のための水酸化カルシウム等の刺激剤、セッコウ、炭酸カルシウム等が挙げられる。
その他の成分を添加するタイミングは、添加剤の特性に応じて適宜選択される。
【0028】
(B2)混合
工程Bにおけるセメントスラリーに高炉スラグを添加した後の混合時間は、均一な地盤改良体形成用スラリーが得られる時間であれば特に制限はない。
通常、例えば、セメントスラリーに高炉スラグを添加、混合して1分間程度混合すれば均一な地盤改良体形成用スラリーが得られる。混合時間は、1分~10分とすることができ、1分~5分が好ましい。
工程Aにおいて、高炉スラグよりも粒径がより大きく、比表面積がより小さいセメント粒子がセメントスラリー中に均一に分散されているため、工程Bにおいて高炉スラグを添加した場合、速やかにセメントスラリー中に高炉スラグが分散し、セメント粒子間の間隙を充填するように均一に配置されやすくなり、地盤改良体形成用スラリーの流動性を低下させることなく、固体成分を多く含む均一な地盤改良体形成用スラリーが得られる。
【0029】
地盤改良体形成用スラリーの調製には、工程Aで用いた混練ミキサーをそのまま使用することができる。即ち、工程Aで調製されたセメントスラリーが入った混練ミキサーに、セメントスラリーにおけるセメントの量から決定した量の高炉スラグを投入し、撹拌混合することで、地盤改良体形成用スラリーを調整することができる。
本開示の製造方法によれば、セメントの供給用と高炉スラグの供給用の2種の原料サイロを準備すれば、公知の混練ミキサーを用いて、本開示に係る地盤改良体形成用スラリーを容易に調製することができる。
【0030】
本開示の地盤改良体の製造方法における作用は明確ではないが、以下のように考えている。
高炉スラグを高い含有量で含む地盤改良用組成物は、まず、高炉スラグと水とを混合して混合物を調製し、その後、セメントを添加し水を混合してスラリーを調整する際に、微細な高炉スラグの影響によって均一なスラリーの調製が困難であった。本開示の製造方法では、まず、セメントと水とを混合して混合物を調製し、その後、高炉スラグを添加し、混合することで、高炉スラグの含有比率が多い場合でも、均一であり、且つ、流動性が良好な地盤改良体形成用スラリーが容易に調整できる。スラリーの均一性が良好であるために、地盤と混合する際にも、撹拌混合が容易になり、地盤の土粒子の空隙に固化性が良好な地盤改良体形成用スラリーが均一に浸透することで、良好な圧縮強度を有する地盤改良体が製造でき、且つ、セメントの使用量が低減できるために、製造時における二酸化炭素排出量をも削減することができると推定している。
なお、付加的な効果として、本開示の製造方法によれば、現場にて、高炉スラグとセメントとの混合比率を容易に調整しうるため、現場の土壌の条件により適合された地盤改良体形成用スラリーを調製することができるという利点をも有する。
【0031】
〔工程C〕
工程Cは、工程Bで得た地盤改良体形成用スラリーを地盤と混合する工程である。
【0032】
地盤改良体形成用スラリーは、流動性が良好であるため、地盤中に地盤改良体形成用スラリーを供給し、混合することにより、地盤中に、地盤改良体形成用スラリーが均一に浸透し、その後、経時により硬化することで圧縮強度の良好な地盤改良体が形成される。
地盤改良用スラリーの地盤への付与は公知の方法を適宜使用することができる。
例えば、地盤改良体形成用スラリーを、圧送ポンプ、より具体的には、ピストンポンプ及び、スクイーズポンプ等を用いて加圧し、地盤改良機を介して、地盤中に輸送して付与する方法が挙げられる。
撹拌翼を有する地盤改良機を用いることで、スラリーと土壌とが十分に撹拌混合される。
なお、地盤改良体形成用スラリーの調整時に添加する水の量及び地盤に対する地盤改良体形成用スラリーの添加量は、改良を目的とする地盤の含水率を考慮して適宜選択することが好ましい。
本開示の製造方法により得られる地盤改良体形成用スラリーは、流動性が良好であり、スラリー中に、硬化性に関与するセメント粒子と、より微細な高炉スラグとが均一に存在していることから、地盤を構成する土粒子間の空隙に速やかに浸透し、圧縮強度が良好な硬化体が形成されやすい。
【0033】
工程Cにおいて、地盤改良体形成用スラリーを、求められるスラリーの流動性や地盤硬化体の強度に応じた量で地盤に注入し、地盤(土壌)と混合することで地盤改良体が形成される。
【0034】
地盤改良用スラリーを添加した地盤の強度は、地盤改良用スラリー中に含まれる硬化に寄与する成分の含有量、注入する地盤改良用スラリーに含まれる水の含有量、及び地盤中に含まれる水量の比率により決まる。
例えば、含水率が高い粘性土地盤の改良に本発明の地盤改良用組成物を用いる場合、注入する地盤改良用スラリーの水量を少なくすることが望ましい。しかし、地盤改良用スラリーの水量を少なくした場合、流動性が低下するため、スラリーの添加量を多くするか、もしくは、スラリーに更に流動化剤を添加する、等の方法をとることが好ましい。
【0035】
本開示の製造方法によれば、製造時の二酸化炭素の排出量が低減され、更に、硬化性に優れることから、本開示の製造方法により製造された地盤改良体は、地盤改良工事において、良好な圧縮強度の地盤改良体となる。
【0036】
〔本開示の製造方法に用いる設備の一実施形態〕
本開示の製造方法を実施するに際しては、前記地盤改良体を製造する現場に、前記セメントをストックするセメントサイロと、前記セメントスラリーをつくる混練ミキサーと、前記高炉スラグをストックし、前記セメントスラリーに高炉スラグを添加する高炉スラグサイロと、を設けることが好ましい。
【0037】
図1は、本開示の製造方法を実施するための設備の一実施形態を示す概略図である。図1では、地盤改良体を製造する現場に、セメントをストックするセメントサイロ12と、セメントスラリーをつくる混練ミキサー18と、高炉スラグをストックし、混練ミキサー18において調製されたセメントスラリーに高炉スラグを添加する高炉スラグサイロ14と、を設けている。また、混練ミキサー18に、スラリーを調製するための水を供給する水サイロ16を設けてもよい。水サイロ16を設けず、混練ミキサー18に直接水道水を供給することもできる。
セメント、及び高炉スラグは、それぞれ粉体を密閉して搬送する搬送車10A、10Bにより現場まで運ばれる。
セメント搬送車10Aにて現場に搬送されたセメントは、セメントサイロ12に格納され、高炉スラグ搬送車10Bにて搬送された高炉スラグは、高炉スラグサイロ14に格納され、それぞれ別にストックされる。
【0038】
まず、工程Aにて、混練ミキサー18にて、セメントサイロ12から供給されたセメントと、水サイロ16から供給された水とを用いてセメントスラリーが調製される。
その後、工程Bにて、高炉スラグサイロ14から、混練ミキサー18内のセメントスラリーに対し、高炉スラグが供給され、混練されて、地盤改良体形成用スラリーが調製される。
このとき、セメント、水、及び高炉スラグは、現場の土壌に適切な、予め決められた量で供給される。
このように、セメントはセメントサイロに、高炉スラグは高炉スラグサイロに、と別のサイロに各々が格納される設備を有することにより、設計値どおりのセメントと高炉スラグとの含有比率の地盤改良体形成用スラリーが容易に調製され、現場の地盤の物性、必要な強度に応じた地盤改良体を簡易に製造することができるため、好ましい。
【0039】
調製された地盤改良体形成用スラリーは、工程Cにて地盤中に供給され、地盤と撹拌・混合される。
地盤改良体形成用スラリーを地盤に供給する方法は、公知の方法を適用することができる。
図1では、地盤改良体形成用スラリーを、地盤改良機22を用いて、地盤の深部まで供給する態様が記載されているが、この態様に限定されるわけではない。
図1に示す態様では、混練ミキサー18にて調製された地盤改良体形成用スラリーが、スラリー圧送ポンプ20にて加圧され、地盤改良機22に供給される。
地盤改良機22は、掘削・撹拌部材22Aを備え、地盤を掘削しながら、地盤の深部まで地盤改良体形成用スラリーを搬送し、地盤を撹拌する。この方法によれば、地盤の深部において、地盤を構成する土粒子と地盤改良体形成用スラリーが混合され、土粒の間隙に地盤改良体形成用スラリーが浸透することで、経時により硬化した後、地盤改良体が形成される。
【0040】
なお、地盤の比較的表面近傍に地盤改良体を形成する場合には、地盤改良体形成用スラリーを、地盤に散布して振動を付与したり、撹拌機を用いたりして、地盤における土粒子と地盤改良体形成用スラリーとを撹拌、混合してもよい。
【0041】
本開示の製造方法において、工程A及び工程Bを経て得られた地盤改良体形成用スラリーは、工程Cにおいて、従来公知の地盤改良体形成用スラリーと同様の方法で地盤中に供給することができる。工程Cの実施に際しては、例えば、日本建築センター編:建築物のための改良地盤の設計及び品質管理指針(2018年刊)の第324項から第333項及び第381頁から第384頁に記載の「セメント系固化材を用いた深層・浅層混合処理工法」に記載の方法を参照することができる。
【0042】
〔二酸化炭素排出量の検討〕
地盤改良体形成用スラリーにおけるセメントと高炉スラグとの含有量と、製造時における二酸化炭素排出量の関係について検討する。
下記表1に、各種の配合例における地盤改良体形成用スラリーに含まれる固形分1t(トン)当たりの二酸化炭素排出量を示す。
地盤改良体形成用スラリーにおける製造時の二酸化炭素排出量(CO原単位)は、地盤改良体形成用スラリーを構成する固形分の個々の原料における製造時の二酸化炭素排出量と、地盤改良体形成用スラリーにおける当該原料の配合量から算出できる。
なお、表1中、対照例1は、普通ポルトランドセメント(表1中、OPCと記載)、対照例2は、市販の高炉スラグを65質量%含むECM(登録商標:Energy・CO2・Minimum)セメント(以下、ECMセメントと称することがある)の製造時の二酸化炭素排出量を示している。
表1における「%」は、「質量%」を示す。
また、下記表1及び表2では、二酸化炭素排出量を「CO排出量」と記載する。
(*注:表1に記載の普通ポルトランドセメント製造時の二酸化炭素排出量は、原料となる石灰石由来の二酸化炭素排出量と、セメント製造時の焼成における二酸化炭素排出量を合計した数値である。)
【0043】
【表1】

【0044】
表1によれば、高炉スラグと普通ポルトランドセメントを用いる場合、高炉スラグの含有量が70質量%を超える配合3及び配合4が、また、高炉スラグと高炉B種セメントを用いる場合、高炉スラグの含有量が50質量%以上である配合5~配合9では、普通ポルトランドセメント(対照例2)、及び、工場で製造される高炉C種セメント(対照例1)等の高炉スラグを高い割合で含む市販のセメントに比較して、二酸化炭素排出量をより削減することが可能であることがわかる。
一方で、高炉スラグの含有量が60質量%の配合1及び70質量%の配合2では、二酸化炭素排出量は、普通ポルトランドセメントよりは大幅に低いが、市販のECMセメントとは同等レベルであった。
【0045】
〔本開示の製造方法の付加的な効果〕
一般に、工場で製造される高炉C種セメント等の高炉スラグ高含有セメントにおいては、セメントに対する高炉スラグの含有量は一定である。しかし、本開示の製造方法によれば、施工現地において、高炉スラグとセメントの比率を、容易に調整することが可能である。即ち、施工現地の地盤条件、施工条件、地盤改良体の強度条件等に応じて高炉スラグの含有量をより多くし、二酸化炭素排出量をより小さくすることが可能である。
【0046】
地盤改良体は、用途として、建物基礎、地盤の液状化抑止、山留め壁の形成等が挙げられる。また、施工する現場の地盤が、通常地盤である場合、軟弱地盤である場合、山留め工事用に地盤改良体を適用する場合等、種々の条件が考えられる。
地盤改良体の製造に際しては、用途及び必要とされる圧縮強度に応じて、例えば、地盤改良体形成用スラリーにおける固形分の総含有量を多くする、セメントと高炉スラグとの含有比率を調整する、固形分に対する水の量を多くして流動性を向上させる等の対応が必要になることがある。
本開示の製造方法によれば、現場において、必要に応じて、セメント成分に対する高炉スラグの含有量、水の含有量を簡易に制御することができ、上記二酸化炭素排出量を考慮しつつ、目的に応じた地盤改良体の形成を簡易に行うことができるという付加的な効果を有する。
【実施例0047】
以下、本発明を、実施例等を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、特に断らない限り、「%」は「質量%」を、また「部」は「質量部」を意味する。
また、評価は常温で行われた。本開示における「常温」とは、特に温度制御を行わない環境温度を意味し、10℃~40℃の範囲を包含する。
【0048】
以下、実施例の地盤改良用組成物に使用する成分は以下の通りである。
<セメント>
普通ポルトランドセメント、日鉄高炉セメント(株)製、比表面積:3400cm/g、密度:3.15g/cm
<高炉B種セメント>
高炉セメントB種〔商品名〕、日鉄高炉セメント(株)製、高炉スラグ含有量:40%~60%、密度:3.02g/cm、比表面積:3650cm/g
<高炉スラグ>
比表面積:4000m/g、三酸化硫黄(SO)含有量:3.0%、密度:2.91g/cm、全アルカリ量:50%
【0049】
〔実施例1~実施例6〕
(地盤改良体形成用スラリーの調製)
下記表2に記載した処方に従い、セメントと水とを混練ミキサー(20L(リットル)用ホバートミキサー、(株)愛工舎製作所製)に投入し、47rpm(回転/分)の条件で1分間撹拌し、セメントスラリーを得た。(工程A)
得られたセメントスラリーに対し、混練ミキサーに表2に記載の量で高炉スラグを投入して、前記と同様の条件で1分間撹拌して地盤改良体形成用スラリーを調製した。(工程B)
ここで、実施例1は、セメントと高炉スラグとの含有比率が、表1における「配合1」に相当し、実施例2~実施例4は「配合2」に相当し、実施例5は「配合4」に相当し、実施例6は「配合4」にそれぞれ相当する。
【0050】
調製した地盤改良体形成用スラリーを以下の方法で評価した。
まず、地盤改良体形成用スラリーの流動性を以下の方法で測定した。
・流動性:
スラリーの流動性は、土木学会規『プレパックドコンクリートの注入モルタルの流動性試験方法(P漏斗による方法)(JSCE-F 521-1999)』に準拠して、Pロート流下時間により評価した。
一般的には、スラリーのPロート流下時間が25秒以下の場合、ポンプによるスラリーの圧送性は可能であり、20秒以下の場合はスラリーの圧送に大きな問題は生じないとされている。
【0051】
次に、工程Cに対応する評価として、モデル土壌(砂地盤:5号珪砂、細粒分10%含有、含水率18%)1770gに対し、得られた地盤改良体形成用スラリーを393g混合し、よく撹拌した後、型枠〔サイズ:直径50mm、高さ100mm〕に投入して、硬化させ、モデル地盤改良体を得た。
得られたモデル地盤改良体の圧縮強度を、下記方法に準拠して測定した。

・圧縮強度:
得られたモデル地盤改良体の圧縮強度を、『JIS A 1216:2020 土の一軸圧縮試験方法』に基づき測定した。モデル地盤改良体に作用させた力を、モデル地盤改良体の断面積で除することにより、一軸圧縮強度を算出した。
結果を下記表2に併記した。
【0052】
〔比較例1〕
表1に示すように、工程Aにてセメントを添加せず、工程Bにて、水を投入した混練ミキサーに高炉スラグを添加し、前記と同じ条件にて2分間撹拌し、高炉スラグを含み、セメントを含まない地盤改良体形成用スラリーを調製した。
得られた前記スラリーを実施例1と同様にして評価したところ、高炉スラグのみを含み、セメントを含まない比較例1の処方では、地盤改良体形成用スラリーと土壌の混合物は硬化せず、地盤改良体は得られなかった。
【0053】
〔比較例2~比較例4〕
表2に記載の実施例2、実施例3及び実施例4と同様の処方にて、以下の手順で地盤改良体形成用スラリーを得た。
(製造方法)
まず、混練ミキサーに高炉スラグと水とを投入し、前記と同じ条件にて1分間撹拌し、高炉スラグのスラリーを調製した。
その後、高炉スラグのスラリーの入った混練ミキサーにセメントを投入し、前記と同じ条件にて1分間は撹拌して、比較例2~比較例4の製造方法により、地盤改良体形成用スラリーを得た。
得られたスラリーを実施例1と同様にして評価した。結果を下記表2に併記した。
【0054】
〔対照例2〕
対照例として、表1において対照例2として挙げた、「工場で製造され、高炉スラグ含有量65%のECMセメント」を用い、実施例2と同じ比率で水を添加して混練ミキサーにて撹拌混合し、地盤改良体形成用スラリーを得て、実施例1と同様にして評価した。結果を下記表2に併記した。
【0055】
【表2】

【0056】
実施例1、実施例3、実施例5、及び実施例6の流動性評価より、高炉スラグの添加割合が増加するに従い、流動性試験において、Pロート流下時間が小さくなり、地盤改良体形成用スラリーの流動性が改善される傾向があった。
これは、水と固形分(粉体)との含有比率が同じ条件である場合、高炉スラグと水とを混合したスラリーに比べ、普通ポルトランドセメントと水とを混合したスラリーの粘性が高いためである。
【0057】
得られた地盤改良体の圧縮強度についても、粉体全量における高炉スラグの含有量が80%までは、含有量の増加に伴い強度が増加する傾向を示している。
実施例2、実施例3、及び実施例4の結果より、高炉スラグの含有量は70%と同じであるが、粉体に対する水の含有比率、即ち、水の量が相対的に多くなるにつれて、圧縮強度は小さくなる傾向があり、一般的なセメントを用いて得た地盤改良体の強度特性と同じ傾向を示していることがわかる。
比較例1では、高炉スラグの含有率が粉体の100%を占め、セメントを含まない。比較例1では、地盤改良体の強度発現性が低く、圧縮強度試験が実施できなかった。
【0058】
実施例2、実施例3、及び実施例4と、それぞれ同じ処方である比較例2、比較例3、及び比較例4とを比較すると、実施例2は比較例2に対し、実施例3は比較例3に対し、実施例4は比較例4に対し、スラリーの流動性がより良好であることが分かる。
これは、比較例2~比較例4においては、添加する割合が多い高炉スラグと水を予め混合してスラリーを製造したため、スラリーの粘性が高くなり、そのスラリーに普通ポルトランドセメントを添加し、混合したため、普通ポルトランドセメントが十分に攪拌できず、普通ポルトランドセメント粒子が適切に分散されていないため、流動性がより低下したものと考えられる。
【0059】
本開示の製造方法により得られた地盤改良体の圧縮強度の評価においても、実施例2、実施例3、及び実施例4と、それぞれ同じ処方である比較例2、比較例3、及び比較例4とを比較すると、実施例2は比較例2に対し、実施例3は比較例3に対し、実施例4は比較例4に対し、圧縮強度がより良好であることが分かる。
これは、実施例2~実施例4においては、まず、水にポルトランドセメントを混合してセメントスラリーを得る工程Aを行うことで、セメントスラリー中において、セメント粒子が適切に分散され、その後、高炉スラグを添加することで、セメント粒子の分散性が損なわれないために、セメント粒子に起因する強度が適切に発揮されたためと推定される。
【0060】
表2の結果より、高炉スラグと普通ポルトランドセメント等のセメントを現地において混練ミキサーにより混合して地盤改良体を形成する場合、まず、普通ポルトランドセメント等のセメントのみをセメントスラリーとして調製し、その後、セメントスラリーに高炉スラグを混合する工程順が重要であることがわかる。
【0061】
一方、市販品により得られた地盤改良体と、本開示の製造方法により得られた地盤改良体について検討するに、水と粉体との比率が等しい実施例3と対照例との対比より、スラリーの粘性はほぼ同じであることが確認され、本開示の製造方法により製造した地盤改良体形成用スラリーは、工場で製造した高炉C種セメントを用いて得たスラリーとほぼ同等の流動性を有することが判る。
【0062】
また、得られた地盤改良体の圧縮強度においても、水と粉体との比率が等しい実施例3と対照例との対比より、圧縮強度はほぼ同じであり、本開示の製造方法により、施工現地で配合した地盤改良体形成用スラリーを用いた地盤改良体は、工場で製造した高炉スラグ高含有セメントを用いて得た地盤改良体とほぼ同じ性能であることが判る。通常、工場で製造する地盤改良体形成用組成物は、高炉スラグの含有量が決まっているが、現地の地盤特性に応じて高炉スラグの含有量を変化させる本開示の製造方法によれば、工場生産品と同等の性能を得るがことが可能となった。
【0063】
次に、種々の用途を想定し水と固形分との比率を変更した地盤改良体について、本開示の製造方法にて製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表3に示す。表3には、比較対照として、同じ「配合1」を適用した実施例1の評価結果を併記した。
【0064】
〔実施例7〕
実施例7で用いたセメントと高炉スラグとの含有比率は表1における「配合1」に相当し、地盤改良体形成用スラリーに含まれる水の含有量を40質量部とした。実施例7は、地盤改良体の圧縮強度を高強度化する場合に用いることを想定し、水の含有量を低く抑えている。このため、スラリーの流動性を確保する目的で、化学混和剤を添加した。
(実施例7における化学混和剤)
*1:特許第6955967号に示される水溶性ビニル共重合体からなる化学混和剤を、セメントの全質量に対して0.3%添加した。
【0065】
〔実施例8〕
実施例8で用いたセメントと高炉スラグとの含有比率は表1における「配合1」に相当し、地盤改良体形成用スラリーに含まれる水の含有量を150質量部とした。
実施例8では、地盤改良体形成用スラリーにおける水の含有量を増やすことにより、地盤改良体の攪拌性を向上させ、地盤改良体施工時の周辺への影響を押さえる場合に用いることを想定している。
【0066】
〔実施例9、実施例10〕
実施例9及び実施例10で用いたセメントと高炉スラグとの含有比率は表1における「配合1」に相当し、地盤改良体形成用スラリーに含まれる水の含有量を、それぞれ220質量部及び250質量部とした。
実施例9及び実施例10の地盤改良体は、ソイルセメント壁などの山留め壁に用いることを想定している。山留め壁としての地盤改良体では、圧縮強度だけではなく、止水性能が必要な場合がある。実施例9及び実施例10においては、地盤改良体形成用スラリーの山留め壁への利用を想定し、下記ベントナイトを添加剤として用いている。ベントナイトは吸水性による体積膨張性を有し、地盤改良体の止水性の向上に有用である。
(実施例9及び実施例10における添加剤)
*2:ベントナイト(クニミネ工業(株)社製、クニゲル(登録商標)V2)を、改良対象地盤に相当するモデル土壌1mに対して10kgの割合で添加した。
【0067】
【表3】
【0068】
表3の結果より、実施例7~実施例10においては、いずれもスラリーの流動性を確保し、かつ強度を確保した地盤改良体を構築することができた。
従って、実施例の製造方法によれば、地盤改良体形成用スラリーにおける水と固形分との比率が広い範囲において、スラリーの流動性を確保し、かつ強度を確保した地盤改良体を構築することができることが確認できた。
また、流動性、地盤改良体の止水性など、目的に応じた添加剤を併用する場合においても、本開示の効果を奏することがわかる。
【0069】
実施例1~実施例10、比較例1~比較例4、及び対照例により、地盤改良体を製造し、地盤改良体からの六価クロムの溶出量を以下の方法により評価した。
・六価クロムの溶出量
上記で得たモデル地盤改良体からの六価クロムの溶出は、「環境庁告示第46号に掲げる方法(平成3年8月23日付け)」に基づき行った。即ち、モデル地盤改良体における土塊・団粒を粗砕して得た2mm以下の土壌を採取して、水に分散させ、分散液を6時間連続振とうすることで、溶出試験を行った。溶出試験の後に、分散液を採取し、六価クロム溶出量を測定した。溶出試験による六価クロムの溶出量が0.05mg/L以下である場合、六価クロムの溶出を抑止していると考えている。
上記評価においては、六価クロムの溶出量は、いずれも測定限界値である0.02mg/L以下であり、六価クロムの溶出は確認できなかった。
本開示の製造方法により地盤改良体を造成することにより、六価クロムの溶出抑止が可能であることを確認した。
【0070】
表2及び表3に記載の評価結果及び六価クロム溶出量測定試験により、本開示の製造方法により得られた地盤改良体は、施工時の流動性、及び、形成された地盤改良体形成用スラリーの圧縮強度が良好であり、地盤改良体からの六価クロムの溶出が抑止され、且つ、製造の際に排出する二酸化炭素量が少ないことが確認された。
【符号の説明】
【0071】
10A セメント搬送車
10B 高炉スラグ搬送車
12 セメントサイロ
14 高炉スラグサイロ
16 水サイロ
18 混練ミキサー
20 圧送ポンプ(スラリー圧送ポンプ)
22 地盤改良機
22A 掘削・撹拌部材(地盤改良機の掘削・撹拌部位)
図1