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特開2024-94070溶融塩電解装置及び、チタン系電析物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094070
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】溶融塩電解装置及び、チタン系電析物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 3/28 20060101AFI20240702BHJP
   C25C 7/02 20060101ALI20240702BHJP
   C25C 7/06 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C25C3/28
C25C7/02 308A
C25C7/06 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210802
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】熊本 和宏
(72)【発明者】
【氏名】中條 雄太
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 健人
(72)【発明者】
【氏名】堀川 松秀
【テーマコード(参考)】
4K058
【Fターム(参考)】
4K058AA11
4K058BA10
4K058CB04
4K058CB05
4K058EB02
4K058EC01
4K058EC04
4K058FA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】Ti、Al及びOを含有する粗チタン系材料の電解精製によるチタン系電析物の製造を効率的に行うことができる溶融塩電解装置及び、チタン系電析物の製造方法を提供する。
【解決手段】溶融塩電解装置1は、陽極61a及び陰極61bを含む電極61を用いて溶融塩浴中で陽極の粗チタン系材料からTiを溶出させ、陰極に精製チタン系材料を析出させる電解精製を行う電解槽を備えたものであり、粗チタン系材料が、Ti、Al及びOを含有するとともに導電性を有し、電極が、陽極又は陰極のいずれかとしてそれぞれ機能する電極板62を交互に並べて配置した部分を含み、電解槽が、内部と外部をつなげる開閉可能な二個以上の連通口3a、3bを有し、二個以上の連通口が、少なくとも気体の排出に用いられる第一連通口3aと、第一連通口よりも電解槽の深さ方向の深い側に位置して、少なくとも溶融塩の排出に用いられる第二連通口3bとを含むものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極及び陰極を含む電極を用いて、溶融塩浴中で前記陽極の粗チタン系材料からTiを溶出させるとともに前記陰極に精製チタン系材料を析出させる電解精製を行う電解槽を備えた溶融塩電解装置であって、
前記粗チタン系材料が、Ti、Al及びOを含有するとともに導電性を有し、前記電極が、前記陽極又は前記陰極のいずれかとしてそれぞれ機能する電極板を交互に並べて配置した部分を含み、
前記電解槽が、内部と外部をつなげる開閉可能な二個以上の連通口を有し、二個以上の前記連通口が、少なくとも気体の排出に用いられる第一連通口と、前記第一連通口よりも前記電解槽の深さ方向の深い側に位置して、少なくとも溶融塩の排出に用いられる第二連通口とを含む溶融塩電解装置。
【請求項2】
前記電解槽を複数個備え、
複数個の前記電解槽のうちの一の電解槽と他の電解槽とが、それぞれの前記第一連通口で互いに接続可能である請求項1に記載の溶融塩電解装置。
【請求項3】
前記他の電解槽の連通口の少なくとも一個に減圧装置を接続可能であり、前記他の電解槽が溶融塩凝縮器として用いられる請求項2に記載の溶融塩電解装置。
【請求項4】
前記他の電解槽の連通口が、少なくとも減圧に用いられる第三連通口を含み、前記第三連通口に減圧装置を接続可能である請求項3に記載の溶融塩電解装置。
【請求項5】
前記連通口の少なくとも一個に接続可能な減圧装置を備える請求項1に記載の溶融塩電解装置。
【請求項6】
前記電解槽の内部に配置されて、少なくとも陰極の温度を調整する温度調節器を備える請求項1に記載の溶融塩電解装置。
【請求項7】
前記温度調節器が熱交換器であり、前記電解槽の底部側で、少なくとも陰極の直下の位置に敷設されている請求項6に記載の溶融塩電解装置。
【請求項8】
前記電極板を保持し、該電極板を前記電解槽の内部と外部との間で移動させることが可能な電極保持機構を備える請求項1に記載の溶融塩電解装置。
【請求項9】
前記電極保持機構が、前記電極板ごとに設けられ、上下方向に延びて各電極板を吊下げ保持する保持ロッドと、前記保持ロッドの上方側で前記電解槽の外部に位置し、前記保持ロッドのそれぞれを取り付けた昇降プレートとを有する請求項8に記載の溶融塩電解装置。
【請求項10】
当該溶融塩電解装置が、電源と前記電極板とを電気的に接続する電気接続機構を備え、
前記電気接続機構が、前記電解槽の外部に位置して前記電源に接続される導体と、前記保持ロッドと並行して上下方向に延びて、前記電極板を前記導体につなぐ通電部材とを有する請求項9に記載の溶融塩電解装置。
【請求項11】
前記電解槽の内部に、2枚~100枚の前記電極板を配置可能である請求項1に記載の溶融塩電解装置。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の溶融塩電解装置を用いて、前記電解精製によりチタン系電析物を製造する方法であって、
前記電解槽の内部にて、溶融塩浴で前記陽極の粗チタン系材料からTiを溶出させるとともに前記陰極に精製チタン系材料を析出させる電解工程と、
前記電解工程の後、前記第二連通口を介して、前記電解槽の内部の溶融塩を外部に排出する溶融塩排出工程と、
前記溶融塩排出工程の後、前記陰極上の前記精製チタン系材料を加熱しながら、前記第一連通口を介して前記電解槽の内部の気体を排出し、溶融塩の残留物を前記精製チタン系材料から分離させる残留物分離工程と
を含む、チタン系電析物の製造方法。
【請求項13】
前記残留物分離工程を行うに先立ち、前記電解工程及び前記溶融塩排出工程で使用した一の電解槽と、溶融塩凝縮器として用いる他の電解槽とを、それぞれの前記第一連通口で接続するとともに、前記他の電解槽の連通口を減圧装置に接続し、
前記残留物分離工程で、前記減圧装置により、前記他の電解槽の内部を介して前記一の電解槽の内部を減圧雰囲気とし、前記他の電解槽の内部で前記溶融塩の残留物を冷却して回収する、請求項12に記載のチタン系電析物の製造方法。
【請求項14】
前記残留物分離工程の後、前記他の電解槽を用いて前記電解工程を行う、請求項13に記載のチタン系電析物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶融塩浴中で陽極の粗チタン系材料からTiを溶出させて、陰極に精製チタン系材料を析出させる電解精製を行う電解槽を備えた溶融塩電解装置及び、それを用いるチタン系電析物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属チタンやチタン合金は一般に、大量生産に適したクロール法を基盤とした方法により製造される。しかしながら、この方法は、チタン鉱石の塩化ならびに、その後の四塩化チタンの精製及び金属マグネシウムによる四塩化チタンの還元が必要である他、スポンジチタン塊の破砕や、還元で生じた塩化マグネシウムの電気分解も必要になって、多数のバッチ工程が含まれるので、金属チタンを効率的かつ低コストに製造できるとは言い難い。
【0003】
これに対し、溶融塩浴を用いた電解精製によれば、不純物の少ない金属チタンをクロール法よりも容易に製造できる可能性がある。
【0004】
この種の技術として、特許文献1には、「下記の工程を含むことを特徴とする、チタン鉱からのチタン生産物の抽出方法:チタン鉱と還元剤を含む化学ブレンドであって、前記チタン鉱対前記還元剤の比が、0.9~2.4の前記チタン鉱中の酸化チタン成分:前記還元剤中の還元用金属の質量比に相当する前記化学ブレンドを混合する工程;前記化学ブレンドを加熱して抽出反応を開始する工程であって、前記化学ブレンドを、1℃~50℃/分の上昇速度で加熱する工程;前記化学ブレンドを、5分と30分の間の時間、1500~1800℃の反応温度に維持する工程;前記化学ブレンドを、1670℃よりも低い温度に冷却する工程;および、チタン生産物を、残留スラグから分離する工程」で、「チタン生産物を、陽極、陰極および電解質を有する反応容器に入れる工程;前記反応容器を600℃~900℃の温度に加熱して溶融混合物を生成させ、前記陽極と陰極の間に電気的差動を適用してチタンイオンを前記陰極に付着させる工程;および、前記電気的差動を終了し、前記溶融混合物を冷却して精錬チタン生産物を生成させる工程;を含み、前記精錬チタン生産物の表面積が少なくとも0.1m2/gであること」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2015-507696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
溶融塩浴を用いた電解精製では、電解槽内の溶融塩浴にて、Ti、Al及びOを含有して導電性を有する粗チタン系材料を陽極として使用し、陽極と陰極との間に電圧を印加する。これにより、陽極の粗チタン系材料から主にTiが溶出するとともに、陰極に、粗チタン系材料に比して純度の高い精製チタン系材料が析出し、チタン系電析物を製造することができる。
【0007】
ここで、チタン系電析物を工業的に量産するには、電極として、陽極又は陰極のいずれかとしてそれぞれ機能する電極板を交互に並べて配置することが好ましい。電極をそのような板状である電極(つまり電極板)とすれば、陽極に対向して精製チタン系材料が析出する陰極の電析面を、広く確保することができる。その上、電極板は、所定の容積である電解槽内に、比較的多くの枚数で配置することが可能である。それらの結果として、電極板を使用すると、電解槽内において陰極の電析面の総面積を大きくすることができて、精製チタン系材料を量産しやすくなる。
【0008】
ところで、電解精製を継続して行うと、陰極では、そこに析出する精製チタン系材料が次第に成長する。特に、溶融塩浴中の電気抵抗の影響を小さくして生産性を高めることを目的として、陽極及び陰極を極間距離が短くなるように配置したときは、溶融塩浴を流れる電流の距離が短くなって溶融塩浴の抵抗による電力の損失を小さくできるが、陰極上で成長する精製チタン系材料と陽極との接触による短絡が比較的短期間のうちに発生し、電解精製を継続できなくなるおそれがある。このため、電解精製の継続期間はそれほど長くすることができない。
【0009】
したがって、チタン系電析物を量産するには、電解精製をある程度の期間にわたって継続した後に、陽極や陰極として機能させた電極板を交換し、この交換を繰り返してチタン系電析物を製造し続けることが望ましい。
【0010】
但し、電解精製後は、電極板を溶融塩浴から取り出し、陰極上の精製チタン系材料に付着した溶融塩の残留物を除去することが必要になる。このとき、高温の陰極とそこに析出した精製チタン系材料は、酸化によるO含有量の増大を抑制するため、大気と極力接触しないようにすることが望まれる。そのような電極板の取出し及び残留物の除去は、チタン系電析物の量産時の効率性を低下させる要因の一つになる。
【0011】
この発明の目的は、Ti、Al及びOを含有する粗チタン系材料の電解精製によるチタン系電析物の製造を効率的に行うことができる溶融塩電解装置及び、チタン系電析物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の溶融塩電解装置は、陽極及び陰極を含む電極を用いて、溶融塩浴中で前記陽極の粗チタン系材料からTiを溶出させるとともに前記陰極に精製チタン系材料を析出させる電解精製を行う電解槽を備えたものであって、前記粗チタン系材料が、Ti、Al及びOを含有するとともに導電性を有し、前記電極が、前記陽極又は前記陰極のいずれかとしてそれぞれ機能する電極板を交互に並べて配置した部分を含み、前記電解槽が、内部と外部をつなげる開閉可能な二個以上の連通口を有し、二個以上の前記連通口が、少なくとも気体の排出に用いられる第一連通口と、前記第一連通口よりも前記電解槽の深さ方向の深い側に位置して、少なくとも溶融塩の排出に用いられる第二連通口とを含むものである。
【0013】
上記の溶融塩電解装置は、前記電解槽を複数個備え、複数個の前記電解槽のうちの一の電解槽と他の電解槽とが、それぞれの前記第一連通口で互いに接続可能であることが好ましい。
【0014】
この場合、前記他の電解槽の連通口の少なくとも一個に減圧装置を接続可能であり、前記他の電解槽が溶融塩凝縮器として用いられることが好ましい。
【0015】
前記他の電解槽の連通口が、少なくとも減圧に用いられる第三連通口を含み、前記第三連通口に減圧装置を接続可能である。
【0016】
上記の溶融塩電解装置は、前記連通口の少なくとも一個に接続可能な減圧装置を備えることが好ましい。
【0017】
上記の溶融塩電解装置は、前記電解槽の内部に配置されて、少なくとも陰極の温度を調整する温度調節器を備えることが好ましい。
【0018】
前記温度調節器は熱交換器であり、前記電解槽の底部側で、少なくとも陰極の直下の位置に敷設されていることが好ましい。
【0019】
上記の溶融塩電解装置は、前記電極板を保持し、該電極板を前記電解槽の内部と外部との間で移動させることが可能な電極保持機構を備えることが好ましい。
【0020】
前記電極保持機構は、前記電極板ごとに設けられ、上下方向に延びて各電極板を吊下げ保持する保持ロッドと、前記保持ロッドの上方側で前記電解槽の外部に位置し、前記保持ロッドのそれぞれを取り付けた昇降プレートとを有することが好ましい。
【0021】
当該溶融塩電解装置は、電源と前記電極板とを電気的に接続する電気接続機構を備え、前記電気接続機構が、前記電解槽の外部に位置して前記電源に接続される導体と、前記保持ロッドと並行して上下方向に延びて、前記電極板を前記導体につなぐ通電部材とを有することが好ましい。
【0022】
前記電解槽の内部には、2枚~100枚の前記電極板を配置可能であることが好ましい。
【0023】
この発明のチタン系電析物の製造方法は、上記のいずれかの溶融塩電解装置を用いて、前記電解精製によりチタン系電析物を製造する方法であって、前記電解槽の内部にて、溶融塩浴で前記陽極の粗チタン系材料からTiを溶出させるとともに前記陰極に精製チタン系材料を析出させる電解工程と、前記電解工程の後、前記第二連通口を介して、前記電解槽の内部の溶融塩を外部に排出する溶融塩排出工程と、前記溶融塩排出工程の後、前記陰極上の前記精製チタン系材料を加熱しながら、前記第一連通口を介して前記電解槽の内部の気体を排出し、溶融塩の残留物を前記精製チタン系材料から分離させる残留物分離工程とを含むものである。
【0024】
上記のチタン系電析物の製造方法では、前記残留物分離工程を行うに先立ち、前記電解工程及び前記溶融塩排出工程で使用した一の電解槽と、溶融塩凝縮器として用いる他の電解槽とを、それぞれの前記第一連通口で接続するとともに、前記他の電解槽の連通口を減圧装置に接続し、前記残留物分離工程で、前記減圧装置により、前記他の電解槽の内部を介して前記一の電解槽の内部を減圧雰囲気とし、前記他の電解槽の内部で前記溶融塩の残留物を冷却して回収することが好ましい。
【0025】
この場合、前記残留物分離工程の後、前記他の電解槽を用いて前記電解工程を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、Ti、Al及びOを含有する粗チタン系材料の電解精製によるチタン系電析物の製造を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】この発明の一の実施形態の溶融塩電解装置を電極とともに示す、電解槽の深さ方向に沿う断面図である。
図2図1の溶融塩電解装置を電解精製後の状態で示す、電解槽の深さ方向に沿う断面図である。
図3図2の溶融塩電解装置の電解槽を溶融塩排出後に他の電解槽と接続した状態を示す、電解槽の深さ方向に沿う断面図である。
図4図1のIV-IV線に沿う断面図である。
図5図3の溶融塩電解装置の電解槽から電極板を取り出した状態を示す、電解槽の深さ方向に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、図面は、理解を容易にするために実施形態の一例を模式的に示したものであり、図面中の各部分の寸法や形状や電極等の部材の数その他の態様は適宜変更され得る。
【0029】
(溶融塩電解装置)
図1に例示する溶融塩電解装置1は、電解槽2を備えるものである。電解槽2では、陽極61a及び陰極61bを含む電極61を用いて、溶融塩浴Bm中で陽極61aの粗チタン系材料からTiを溶出させるとともに、陰極61bに精製チタン系材料を析出させる電解精製が行われる。
【0030】
この電解精製は、粗チタン系材料から、その粗チタン系材料よりも純度の高い精製チタン系材料を得ることを目的として行う。粗チタン系材料は、Ti(チタン)、Al(アルミニウム)及びO(酸素)や、一般にFe(鉄)、Si(珪素)等の鉱石に含まれる元素も含有するとともに導電性を有するものであって、陽極61aの一部または全部として陽極61aの構成に含ませる。図1に示すように、陽極61a及び陰極61bのそれぞれを、その少なくとも一部で溶融塩浴Bmに浸漬させた状態で、陽極61a及び陰極61bの間に電圧を印加すると、陽極61aの粗チタン系材料から主にTiが溶出して、陰極61bに精製チタン系材料が析出し、AlやO等の少なくとも一部が除去される。これにより、精製チタン系材料として金属チタン又はチタン合金等のチタン系電析物を製造することができる。このような電解精製を用いるチタンの製造では、チタン鉱石の塩化を行ってクロール法をベースとした方法にてチタンを製造する場合に比して、炭素の使用量及び、それによる二酸化炭素の排出量を削減できるので、カーボンニュートラル、ひいては脱炭素社会の実現に大きく寄与することができる。電解精製を含むチタン系電析物の製造方法の詳細については後述する。
【0031】
電解精製を行う図示の電解槽2は、上方側に開口部2aが設けられた槽本体2bと、槽本体2bの開口部2aに対して着脱可能で、槽本体2bの開口部2aに取り付けられたときに当該開口部2aを覆蓋する蓋体2cとを含んで構成される。槽本体2bは、たとえば、楕円または角筒等の筒状の周壁部2dの下方側を底部2eで密閉した鉄鋼製、Ni製や煉瓦製等の容器状のものであり、その内部は溶融塩を貯留させて溶融塩浴Bmとする。鉄鋼製の電解槽2の材質の具体例としては、炭素鋼、ステンレス鋼(JIS規格のSUS等)、耐熱鋼(JIS規格のSUH等)等が挙げられる。たとえば煉瓦製の電解槽2の内面には、鋼やNi等でライニングを施すことがある。
【0032】
また、電解精製の間、電解槽2の内部で溶融塩浴Bmに浸漬させて配置する電極61は、陽極61a又は陰極61bのいずれかとしてそれぞれ機能する電極板62を交互に並べて配置した部分を含むものとする。
【0033】
このような板状をなす電極板62は、それらの主要な表面がそれぞれ互いに対向するように配置することにより、電解槽2の内部で所定の容積当たりに多くの枚数を配置でき、さらには広い当該表面で極間距離がある程度短い距離に維持されながら、電解精製を効率的に行うことができる。たとえば図示は省略するが、円筒状の陽極の内側に、複数個の円柱状の陰極を周方向に並べて配置した場合や、一個の円筒状もしくは円柱状の陰極を陽極と同心円状に配置した場合は、次のような問題点があり、非効率である。すなわち、前者では、当該陰極上に析出する精製チタン系材料は、それらの対向する表面上の所定の極間距離の短い箇所の陰極上に集中して析出し、後者は、初期の極間距離が長く、電解浴の電気抵抗で消費する電力が大きくなり、精製チタン系材料が成長すると、極間距離は短くなるが、表面積が増えるので電流量が増えて消費電力が大きくなり、総じて非効率である。電極板62は、前記主要な表面の正面視で長方形もしくは正方形の矩形状又は、多角形状を有することが好ましい。また、電極板62は、図示の平板状のものに限らず、その少なくとも一部に屈曲部及び/又は湾曲部が存在する板状のものとすることができる他、その少なくとも一部で厚みが変化するものとしてもよい。なお、板状とは、厚みに対して主要な表面の寸法(縦横の長さ等)が長い形状を意味し、これには直方体状や円盤状等が含まれる。また、電流の集中を避けるため、直方体状等の周縁ないし四隅に角部がある形状の電極板62の場合に角部を丸くすること等によって角部を無くす面取り等の加工や、その周縁と中央で厚みを変化させる加工等を施したものも、板状に含まれる。
【0034】
そして、陽極61a又は陰極61bのいずれかの極性を与える電極板62を、図示のように交互に並べて配置し、電解精製を行うと、図2に示すように、陰極61bの、陽極61aと対向する各表面(電析面)上に精製チタン系材料63が析出する。そのような多数の電極板62の交互配置は、電極間距離が短いので一枚当たりの陰極61bに厚く精製チタン系材料63を析出させることはできないが、比較的短時間の一度の電解精製で、ある程度多量の精製チタン系材料63を得ることができて量産に適している。電極板62は、たとえば2枚~100枚、5枚~100枚又は、10枚~100枚、場合によってはそれ以上の枚数を並べて配置することがある。
【0035】
ところで、電解精製の後は、陰極61b上に析出した精製チタン系材料63からチタン系電析物を得るため、陰極61bを含む電極板62を溶融塩浴Bmから分離させるとともに、陰極61b上の精製チタン系材料63に付着している溶融塩の残留物を除去することが必要になる。ここで、電解槽2の蓋体2cを開いて、溶融塩浴Bmに浸漬している電極板62を溶融塩浴Bmから引き上げて電解槽2から取り出すと、陰極61b上の精製チタン系材料63が、高温状態での大気との接触により酸化し、そのO含有量が増加する。また、精製チタン系材料63に溶融塩の残留物が付着している場合は、その溶融塩が吸湿してさらには分解されることもあり、その結果、精製チタン系材料63が劣化するおそれがある。
【0036】
これに対し、この実施形態では、電解槽2に、その内部と外部をつなげる開閉可能な二個以上、たとえば三個の連通口3a~3cを設けている。二個以上の連通口3a~3bには、第一連通口3a及び第二連通口3bが含まれる。図1、2の上方側に位置する第一連通口3aは、電解槽2の内部からの気体の排出に主に用いられるものである。第一連通口3aよりも電解槽2の深さ方向(図1、2の上下方向)の深い側である下方側に位置する第二連通口3bは、電解槽2の内部からの溶融塩の排出に主に用いられる。
【0037】
それにより、たとえば、電解精製の後、電解槽2の蓋体2cを閉じた状態を維持し、第二連通口3bを介して電解槽2内の溶融塩浴Bmの溶融塩を排出させた後、電解槽2の内部を加熱しながら減圧装置で減圧雰囲気とすることで、溶融塩の残留物を分離させて第一連通口3aから除去することができる。このように第一連通口3a、第二連通口3bは、溶融塩の排出先(後述する他の電解槽12等)や、真空ポンプ等の減圧装置と接続可能に構成されていることが好ましい。
【0038】
上述した溶融塩の排出及びその残留物の分離は、密閉状態とした電解槽2の内部で行うことが可能であるから、陰極61b上の精製チタン系材料63の、大気との接触ならびに、それによる酸化及びO含有量の増加や浴成分の吸湿を抑制することができる。この場合、溶融塩浴Bmからの電極板62の引上げや、電解槽2の外部での残留物の分離を簡略化でき、その際に精製チタン系材料63の大気との接触を抑制した状態を別途確保することが不要になるので、チタン系電析物を効率的に製造することができる。
【0039】
電解槽2は、少なくとも二個の連通口3a及び3bが設けられていればよく、連通口は三個以上としてもよい。たとえば、図示の電解槽2では、三個の連通口3a、3b及び3cを設けている。第三連通口3cは、後述するように、少なくとも減圧に用いられるものであり、その際に減圧装置21に接続され得る。図示は省略するが、連通口は四個以上とすることもできる。複数個の連通口3a、3b及び3cのうち、相対的に電解槽の深さ方向の深い側に位置する第二連通口3bは、少なくとも溶融塩の排出に用いられるものとし、それとは逆側に位置する第一連通口3aは、少なくとも気体の排出に用いられるものとする。但し、各連通口3a、3b及び3cはそれぞれ、次に述べる例示を含め、それ以外の用途に用いられるものであってもよい。
【0040】
連通口3a、3b、3cは、上記の用途の他、電解槽2の内部への溶融塩等の供給や、アルゴンガスやヘリウムガス等の不活性ガスの供給に用いられるものであってもよい。第一連通口3aから電解槽2の内部に不活性ガスを供給すれば、電解槽2の内圧を高くして外部の大気の侵入を抑制することや、後述の通電部材5c、5dやシール部材等の加熱による溶融ないし劣化を防ぐこと等が可能になる。
【0041】
図示の例では、電解槽2に設けられる少なくとも二個の連通口3a及び3bのうち、溶融塩浴Bmの浴面よりも上方側に位置する第一連通口3aは、電解槽2の内部への溶融塩の供給及び、電解槽2の内部からの気体の排出に用いられる。この第一連通口3aは、不活性ガスの供給源に接続可能として、電解槽2の内部への不活性ガス等の気体の供給にも用いることがある。また、溶融塩浴Bmの浴面よりも下方側で電解槽2の底部2e寄りに位置する第二連通口3bは、電解槽2の内部からの溶融塩の排出に用いられるものとしている。但し、複数個設けた場合の各連通口3a、3bの役割は、これに限らない。
【0042】
溶融塩の排出に用いる第二連通口3bは、溶融塩浴Bmを構成する溶融塩の多くを自重で排出できるようにするとの観点からは、電解槽2の底部2e近傍の位置に設けることが好ましい。他方、図示は省略するが、たとえば、当該第二連通口3bに挿入する吸引管及びポンプを用いて、溶融塩を排出させることも可能であり、この場合、第二連通口3bの位置は底部2e近傍ではなくてもよい。なお、連通口3a~3cは、電解槽2の槽本体2bの周壁部2dに設けているが、その少なくとも一個を、底部2eや蓋体2cに設けることも考えられる。
【0043】
各連通口3a、3b及び3cの寸法は、溶融塩や気体の通流が可能であって、その役割を果たすことができれば、適宜決定することができる。また、各連通口3a、3b及び3cは、図示しないバルブが設けられて開閉可能なものとし、電解精製時などの使用しないときはバルブを閉鎖して閉じておくことができる。
【0044】
電解槽2の内部からの溶融塩浴Bmの溶融塩の排出は、たとえば、第二連通口3bを、図示しない溶融塩保管容器に接続し、そのバルブを開放して、電解槽2の内部から溶融塩保管容器の内部に溶融塩を移すことにより行うことができる。この際に、必要であればポンプを使用してもよい。またこの際に、必要に応じて、第一連通口3aから不活性ガスを供給して電解槽2の内部を加圧し、溶融塩の排出を促進させることもできる。
【0045】
その後の精製チタン系材料63からの溶融塩の残留物の分離では、図3に示すように、他の電解槽12を用いることが好ましい。より詳細には、電解精製を行った後に溶融塩を排出させた一の電解槽2を、溶融塩が入っていない他の電解槽12と、それぞれの第一連通口3a、13aで接続する。他の電解槽12には、減圧装置21も接続されている。他の電解槽12における減圧装置21の接続箇所は任意であるが、この例では、他の電解槽12の第三連通口13cとしている。この状態で、一の電解槽2を加熱しながら減圧装置21で吸引すると、一の電解槽2の内部は減圧雰囲気となり、精製チタン系材料63に付着していた溶融塩の残留物の少なくとも一部が蒸発し、第一連通口3a及び13aを介して他の電解槽12の内部に送られる。他の電解槽12にて当該残留物は冷却されて凝縮し、そこで回収される。ここでは、他の電解槽12は溶融塩凝縮器(いわゆるコンデンサ)として機能し、また第三連通口13cは減圧に用いられる。他の電解槽12の内部で回収された溶融塩は、その後の当該他の電解槽12を用いた電解精製で溶融塩浴の一部として使用することができる。
【0046】
上述したような残留物の回収及び再利用を実現するため、溶融塩電解装置1は複数個の電解槽2、12を備えるものとし、一の電解槽2と他の電解槽12はそれぞれの第一連通口3a、13aで互いに接続可能であることが好ましい。またここでは、他の電解槽12の第三連通口13cに減圧装置を接続可能とし、他の電解槽12を溶融塩凝縮器として用いることが好適である。他の電解槽12は、一の電解槽2と実質的に同じ構成とすることができる。
【0047】
溶融塩の排出及び残留物の分離が終了すると、電極板62及び、そこに電析している精製チタン系材料63を、自然冷却又は強制冷却後に、蓋体2cの開放状態で電解槽2の内部から取り出す。ここで、図示の実施形態では、電極板62を電極保持機構4で保持させており、この電極保持機構4を用いることで、電極板62を、図5に示すように、電解槽2の内部から容易に取り出すことができる。
【0048】
電極保持機構4は、電極板62を保持し、電極板62を電解槽2の内部と外部との間で移動させることができるものである。図示の例では、電極保持機構4は、電極板62ごとに設けられて上下方向に延びて各電極板62を吊下げ保持するステンレス鋼製又は耐熱鋼製等の保持ロッド4aと、保持ロッド4aの上方側で電解槽2の外部に位置し、保持ロッド4aのそれぞれがその上端部で取り付けられた昇降プレート4bとを有するものとしている。
【0049】
このうち、保持ロッド4aは下端部で電極板62に連結される。かかる保持ロッド4aは、電極板62の安定した保持を実現するため、電極板62の一枚につき、たとえば図4に示すように、電極板62の上面で幅方向(図4の上下方向)の外側の位置にそれぞれ一本ずつの計二本取り付けることがある。電極板62の一枚につき、一本又は三本以上の保持ロッド4aを設けてもよい。各保持ロッド4aは、電解槽2の蓋体2cを貫通して延びている。蓋体2cは保持ロッド4aとともに移動するように、保持ロッド4aに取り付けられることが好適であり、蓋体2cの保持ロッド4aが通る箇所には、Oリング等のシール部材を設けることができる。また、昇降プレート4bは、電解槽2の蓋体2cの上方側に設けられており、図示しない駆動源により上下方向に昇降変位するように駆動される。
【0050】
なお、溶融塩電解装置1には、電源と電極板62とを電気的に接続する電気接続機構5を設ける。具体的には、電気接続機構5は、電解槽2の外部で、たとえば昇降プレート4bの上方側に位置して電源に接続される板状その他の形状の銅製やアルミニウム製等の導体5a、5b(いわゆるブスバー等)、並びに、上述した保持ロッド4aと並行して上下方向に延びて、電極板62を導体5a、5bにつなぐ銅製、ニッケル製、炭素鋼製もしくは鉄製等の導線その他の通電部材5c、5dで構成することがある。導体5a、5bを設けることにより、多数枚の電極板62を設けた場合であっても、電源への接続箇所の数を少なくすることができる。導体5a、5b及び通電部材5c、5dはそれぞれ、電源のプラス極に接続されるものとマイナス極に接続されるものの二種類が設けられている。溶融塩浴Bmの深さ方向に直交する方向に並べて配置した電極板62のうち、陽極61aの極性が与えられる一つおきの電極板62は、導体5a及び通電部材5cが接続され、また、陰極61bの極性が与えられる一つおきの電極板62は、導体5b及び通電部材5dが接続される。
【0051】
通電部材5c、5dは、たとえば図4に示すように、電極板62の上面に幅方向で二本の保持ロッド4aの間の位置等で接続され、一枚の電極板62につき二本とすることがある。一枚の電極板62につき、一本又は三本以上の通電部材5c、5dを接続してもよい。図1~3及び5に示すところでは、通電部材5c、5dはそれぞれ、同図の紙面の手前の保持ロッド4aよりも紙面の奥側ないし裏側で上下方向に延びて、電解槽2の蓋体2cを貫通して導体5a又は5bに接続されている。
【0052】
保持ロッド4aや通電部材5c、5dが、溶融塩浴Bmの熱によって極めて高温になることを避けるため、電極板62は、図1及び2に示すように、その上方側の部分が溶融塩浴Bmの浴面上に露出するように溶融塩浴Bm中に配置することが好ましい。また、蓋体2cには断熱材を設けることが好適である。電解精製時や残留物の分離時等における電解槽2の内部の熱で、外部の導体5a、5b等の部材が劣化することを抑制するためである。また、電解槽2の周囲で作業する作業者の安全性を高めるため、また作業者への負荷を軽減するためにも断熱材の設置は有効である。蓋体2c近傍の部材の温度上昇を抑えるとの観点から、蓋体2cには、水等の冷媒を流す熱交換器を設けてもよい。
【0053】
なお、図面では、構造の把握を容易にするため、保持ロッド4aや通電部材5c、5dを、電極板62の上面において厚み方向中心線からずれた位置に示しているが、両者は厚み方向中心線上に配置することもできる。保持ロッド4aや通電部材5c、5dは、作用する荷重と電流・電圧の均一性確保の観点から、対称位置である電極板62の厚み方向中心線上の位置に設けることが好ましい。
【0054】
ところで、溶融塩電解装置1には、電解槽2の内部に、少なくとも陰極61bの温度を調整する温度調節器6を設けることができる。この温度調節器6として、図示の実施形態では、熱媒体を流動させる配管を含む熱交換器を、電解槽2の内部で電極61よりも底部2e側(低部ないし下方側)で、少なくとも陰極61bの直下の位置に敷設している。なお、陰極61bの鉛直方向の下方側への投影領域と、熱交換器の配管の敷設領域とが、少なくとも一部で重複していれば、熱交換器が、少なくとも陰極61bの直下の位置に敷設されているものと認められる。ただし、温度調節器6は陽極61aの直下の位置には施設しないことが好ましい。
【0055】
温度調節器6は、電解精製時及び、その後の溶融塩の排出時にも使用可能であるが、少なくとも陰極61bの直下の位置に敷設することにより、精製チタン系材料63に付着している溶融塩の残留物を精製チタン系材料63から分離させる際に特に良好に用いることができる。この際には、精製チタン系材料63に付着している当該残留物を気化ないし液化させて、精製チタン系材料63から分離させるため、精製チタン系材料63が電析した陰極61bを、少なくとも浴成分の融点を超える比較的高い温度に加熱することを要するからである。
【0056】
一方、温度調節器6による加熱は、後述するように、陽極61aに残留する粗チタン系材料の残渣と、Niとの合金化反応を生じさせるおそれがある。これを抑制するため、温度調節器6は、その大部分を陰極61bの直下の位置に敷設し、陽極61aを過度に加熱しないように配置することが望ましい。より好ましくは、温度調節器6としての熱交換器の配管は、少なくとも陰極61bの直下の位置で、陰極61bの幅方向(図1~3、5の紙面の奥行方向)と平行に延びる部分を有するものとする。
【0057】
(チタン系電析物の製造方法)
チタン系電析物を製造するには、上述した溶融塩電解装置1の電解槽2を用いて電解精製を行う電解工程に先立って予め、粗チタン系材料を準備しておく。粗チタン系材料は、抽出工程により得ることができる。
【0058】
抽出工程では、酸化チタン(TiO2)等のチタン酸化物を含むチタン鉱石等のチタン原料と、アルミニウム(Al)を含む還元剤の混合物を加熱する。この際に、分離剤を混合してもよい。このときの反応は複雑だが総じて、たとえば、3TiO2+4Al→3Ti+2Al23の反応等が起きると考えられる。ここで、右辺のTiはある程度の量のAlとOが固溶しており、これが粗チタン系材料に相当する。この粗チタン系材料には、鉱石中の不純物であるFe、Si、V、Cr、Ni、Mn等が少量含まれることがある。加熱温度は例えば1500℃~1800℃とする場合がある。混合物は加熱により溶融状態になった後、密度差で粗チタン系材料(液体または固体)とスラグとが分離するので、粗チタン系材料(上記反応式のTi)を抽出することができる。このような抽出工程は炭素を反応系に含まないので、その後の電解工程で電解精製を行って製造したチタン系電析物は炭素を使用せずに製錬したものとなる。
【0059】
抽出工程で用いるチタン原料は、チタン酸化物を含むものであればよく、たとえば、チタン鉱石、必要に応じてリーチング等のアップグレード処理その他の処理が施されたチタン鉱石、イルメナイト(チタン鉄鉱)から酸化鉄を分離したチタンスラグ(UGS)を挙げることができる。チタン原料として用いるチタン鉱石中のTiO2の含有量は、たとえば50質量%以上、典型的には80質量%以上、特に90質量%以上とすることがある。分離剤は、加熱後においてスラグを生じやすくするため、また分離しやすくするために使用される。分離剤として具体的には、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウム、フッ化カリウム、フッ化マグネシウム、塩化カルシウム、酸化カルシウム及びフッ化ナトリウムから選択される一種以上とすることが好ましい。なかでもフッ化カルシウム(CaF2)は、混合物からの粗チタン系材料の優れた分離性をもたらすとともに、当該分離以外に及ぼす影響が少ないことから特に好適である。還元剤は、実質的にAlを単独で含むものとすることができる他、さらにCaやNa、Mg、Cu、Si、Fe等を含むものであってもよい。たとえば、混合物は、TiO2:Al:CaF2がモル比で3:1~8:2~6になるように調整して作製する場合がある。
【0060】
抽出工程で得られる粗チタン系材料は、Ti、Al及びOが含まれ、たとえば、Ti含有量が50質量%~80質量%、Al含有量が1質量%~30質量%、O含有量が5質量%~20質量%となる場合がある。典型的には、粗チタン系材料のTi含有量は60質量%以上、Al含有量は20質量%以下、O含有量は20質量%以下となることがある。但し、粗チタン系材料中、TiにおいてAl及びOは、上記の含有量よりも少なく、不可避的不純物に相当し得る程度の含有量で含まれる場合もある。粗チタン系材料は、Al及びOがごく微量で含まれるものであってもよい。また、鉱石由来の不純物等の不可避的な不純物が少量含まれることもありうる。
【0061】
このような粗チタン系材料は導電性を有するものであり、次に述べる電解工程で陽極61aに含ませて電解精製に供することができる。室温で測定される粗チタン系材料の比抵抗は、たとえば1×10-8Ω・m~1×10-4Ω・m、典型的には1×10-7Ω・m~5×10-5Ω・mである。
【0062】
電解工程では、先述した溶融塩電解装置1を用いて、電解槽2の内部の溶融塩浴Bmにて、陽極61aの粗チタン系材料からTiを溶出させ、陰極61bに精製チタン系材料63を析出させる電解精製を行う。
【0063】
ここで、陽極61aとしては、たとえば上述した抽出工程で得られる粗チタン系材料が含まれるものを用いる。一例として、陽極61aは、外形が板状であって、Ni製、Ni基合金製、ハステロイ製又は、NiやNi基合金で被覆した鋼製等の多数の貫通孔を有する籠状容器を有し、この場合、その籠状容器内に粒状もしくは粉状等の粗チタン系材料を配置することができる。陽極61aが籠状容器を有する場合、通電部材5c、5dは籠状容器に接続することができる。但し、陽極61aの形態はこれに限らず、たとえば、粗チタン系材料から溶解及び鋳造等により作製した板状(直方体状)のものとしてもよい。陰極61bは、少なくともその表面がTi製の板状のものを使用可能であり、たとえば全体がTiからなるチタン板とすることができる。陽極61aと陰極61bとの間に複極を配置することも考えられるが、複極は無くてもよい。
【0064】
また、溶融塩浴Bmは、主として金属塩化物を含む塩化物浴とすることがあり、たとえば、アルカリ金属塩化物及び/又はアルカリ土類金属塩化物を、たとえば70mol%以上、さらに90mol%以上、さらに95mol%以上含有することがある。このような塩化物浴は、フッ化物浴や臭化物浴、ヨウ化物浴に比して、低腐食性、低環境負荷及び低コストであることから好ましい。なかでも、塩化マグネシウム(MgCl2)を含む塩化物浴を用いたときは、O含有量のみならずAl含有量をも十分に低減された精製チタン系材料63を得ることができる。塩化物浴中のMgCl2含有量は、30mоl%以上、さらに50mol%以上、さらに80mol%以上、さらに85mol%以上、特に95mol%以上であることが好ましい。塩化物浴には、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ルビジウム(RbCl)、塩化セシウム(CsCl)、塩化ベリリウム(BeCl2)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)及び、塩化バリウム(BaCl2)から選択される一種以上の金属塩化物を、たとえば70mol%以下、さらに50mol%以下、さらに20mol%以下、さらに10mol%以下、さらに5mol%以下で含むものとしてもよい。
【0065】
また、溶融塩浴Bm中には、必要に応じて、四塩化チタンよりもTiの価数が低い低級塩化チタン、具体的には二塩化チタン(TiCl2)や三塩化チタン(TiCl3)等を含ませることもできる。溶融塩浴Bm中のチタンイオンの含有量は、好ましくは3mol%以上、より好ましくは5mol%以上、さらに好ましくは6mol%以上、さらには10mol%以上としてもよく、20mоl%以下とすることが好ましい。溶融塩浴Bm中の金属塩化物や金属イオンの含有量は、ICP発光分析や原子吸光分析により測定することができる。チタンイオンの含有量は、溶融塩浴Bm中の金属イオンの合計含有量に対する百分率として求められる。
【0066】
電解槽2の内部に上述した溶融塩浴Bmを設けることは、粒状ないし塊状の所定の塩を電解槽2の内部に入れて、これを加熱して溶融塩とすることにより行うことができる。あるいは、既に溶融塩が得られている場合、第一連通口3a等を介して電解槽2の内部に溶融塩を注入してもよい。この場合、第一連通口3aが、電解槽2の内部の溶融塩浴Bmの最終的な浴面の高さよりも上方側に形成されていることにより、溶融塩が自重で電解槽2の内部に流入して溜まる。
【0067】
その後の電解工程では、電源から電極61の陽極61a及び陰極61bに通電部材5c、5dを介して通電し、電極61間に電圧を印加する。これにより、陽極61aに含まれる粗チタン系材料からチタンイオンが溶融塩浴Bm中に溶出し、チタンイオンが陰極61b上にチタン原子として析出して、図2に示すように精製チタン系材料63となる。陰極61b上に析出した精製チタン系材料63は、チタン系電析物に相当し得る。
【0068】
電解工程の条件として、たとえば、溶融塩浴Bmの温度は450℃~900℃、陰極61bでの電流密度は0.01A/cm2~3A/cm2とすることがある。電流密度は、式:電流密度(A/cm2)=電流(A)÷電析面積(cm2)により算出することができる。電極61には、電流を連続的に流すことができる他、電流値をゼロにする通電停止期間が設けられて通電期間と通電停止期間とが交互に繰り返されるパルス電流を流してもよい。電極61間の最大電圧は、たとえば0.2V~3.5Vになることがある。電解工程の間、電解槽2の内部は、アルゴン等の不活性雰囲気に維持することが好適である。
【0069】
電解工程が終了した後は、溶融塩排出工程を行うことができる。溶融塩排出工程では、第二連通口3bを介して、電解槽2の内部の溶融塩を外部に排出する。より詳細には、図示は省略するが、たとえば溶融塩が全く貯留していないこと等によって溶融塩が入る余裕のある溶融塩保管容器を、第二連通口3bに接続し、第二連通口3bの図示しないバルブを開く。ここでは、第二連通口3bが溶融塩浴Bmの浴面の高さよりも下方側で底部2e側に設けられているので、第二連通口3bのバルブの開放により、溶融塩が自重によって電解槽2の内部から溶融塩保管容器の内部に流出する。この際に、必要に応じて、第一連通口3aから不活性ガスを供給して電解槽2の内部を加圧し、溶融塩の排出を促進させてもよい。これにより、電解槽2の内部の溶融塩が排出され、溶融塩浴Bmから精製チタン系材料63を露出させることができる。溶融塩排出工程では、溶融塩浴Bmから精製チタン系材料63のほぼ全体が露出すればよいが、電解槽2の内部に、実質的に溶融塩浴Bmが存在しない状態となるまで溶融塩を排出してもよい。
【0070】
溶融塩排出工程の後、精製チタン系材料63に付着している溶融塩の残留物を、精製チタン系材料63から分離させる残留物分離工程が行われる。残留物分離工程では、温度調節器6を用いて、主として陰極61b上の精製チタン系材料63を加熱する。温度調節器6による加熱で、精製チタン系材料63に付着している溶融塩の残留物は、その少なくとも一部が蒸発して気体となり又は、場合によっては一部が溶融して液体となり、精製チタン系材料63から分離する。陽極61a等の他の部材への影響を考慮して、温度調節器6による加熱温度を調整し、上述したような気化分離又は液化分離を生じさせることが好ましい。
【0071】
気化分離又は液化分離のいずれにしても、溶融塩の残留物の少なくとも一部は、温度調節器6での加熱によって蒸発して気体となり、電解槽2の内部から排出される。これを回収して再利用するため、残留物分離工程では、図3に示すように、電解工程及び溶融塩排出工程で使用した一の電解槽2とは異なる他の電解槽12を、溶融塩凝縮器として用いることが好ましい。
【0072】
残留物分離工程で他の電解槽12を用いる場合、残留物分離工程の前に予め、一の電解槽2と他の電解槽12とを各第一連通口3a、13aで接続するとともに、他の電解槽12の第三連通口13cを減圧装置21に接続しておく。このとき、一の電解槽2の第二連通口3b及び第三連通口3c並びに、他の電解槽12の第二連通口13bの各バルブは、いずれも閉じた状態にする。そしてこの状態で、残留物分離工程にて、一の電解槽2の内部で、陰極61b上の精製チタン系材料63を加熱するとともに、減圧装置21により、他の電解槽12の内部を介して一の電解槽2の内部を減圧雰囲気とする。そうすると、一の電解槽2の内部では、溶融塩の残留物の少なくとも一部が蒸発して生成された気体が、一の電解槽2の内部から他の電解槽12の内部に送られる。他の電解槽12は加熱中の一の電解槽2よりも低温であり、当該気体は他の電解槽12の内部で冷却されて凝集する。これにより、他の電解槽12の内部で、溶融塩の残留物を回収することができる。
【0073】
残留物分離工程での一の電解槽2の内部の加熱温度は、たとえば、500℃~1000℃、750℃~1000℃又は、850℃~1000℃とすることがある。850℃~1000℃で加熱したときは、高温の故に浴成分の粘性が低くなり、精製チタン系材料63から浴成分を除去しやすくなる。この加熱温度は、陽極61aの構成部材の材質その他の条件を考慮して、適切な温度に設定することが望ましい。
たとえば、Ni製もしくはNi基合金製の表面の籠状容器を有する陽極61aでは、高温の加熱時に、当該籠状容器のNiと、その内部に残留した粗チタン系材料の残渣のTiとが合金化するおそれがある。この場合、陽極61aの籠状容器は、次回の電解工程に使用するためにメンテナンスが必要になる他、メンテナンスで合金を完全に除去できなかったときに、溶融塩浴Bm中への合金の溶出による精製チタン系材料の汚染を招くおそれがある。これを抑制するため、加熱温度はある程度低くすることができる。加熱温度が低いと、残留物分離工程では、精製チタン系材料63に付着している残留物は主に液体になって滴下して分離するが、一部は気化して他の電解槽12に送られることがある。
あるいは、陽極61aが、Ni製もしくはNi基合金製の表面の籠状容器を有しない場合は、加熱温度を比較的高くし、残留物の大部分を気化させて他の電解槽12に送ることが好適である。このようにすれば、溶融塩の残留物が十分に除去されるため、その後の酸洗や水洗等の洗浄の省略が可能になり、それによってチタン系電析物の酸素等の不純物の含有量の増加を抑制することができる。
【0074】
残留物分離工程の後は、内部に溶融塩の残留物が移動した他の電解槽12を用いて、必要に応じて、その内部にて溶融塩を追加して溶融塩浴Bmとし、上述した電解工程を行うことが好適である。他の電解槽12を用いる電解工程は、一の電解槽2を用いる先述の電解工程と同様にして行うことができるので、その再度の説明は省略する。
【0075】
残留物分離工程は、他の電解槽12の内部に電極板を配置した状態で行うことが好ましい。他の電解槽12の内部に電極板を配置せずに残留物分離工程を行った場合、その後の他の電解槽12を用いる電解工程に先立って、他の電解槽12の内部に電極板を配置する必要がある。その際に、残留物分離工程で他の電解槽12の内部に回収した溶融塩の残留物が、大気と接触する可能性がある。特に溶融塩に塩化マグネシウムが含まれる場合、塩化マグネシウムは高い吸湿性の故に大気との接触で水分量が増大し、吸湿状態で電解工程にて高温に晒されると塩化マグネシウムが分解して酸化マグネシウムと塩酸が生じ精製チタン系材料の品質や電析効率を低下させるおそれがある。このため、他の電解槽12の内部に電極板を配置してから残留物分離工程を行い、溶融塩の残留物を他の電解槽12の内部に回収することが好適である。
【0076】
残留物分離工程の後、一の電解槽2では、電極保持機構4を作動させ、図5に示すように、電極板62を蓋体2cとともに上昇させる。それにより、蓋体2cが開くとともに、電極板62を電解槽2の内部から取り出すことができる。電解槽2の内部から取り出した精製チタン系材料63は、溶融塩の残留物がまだ残っていることもあり、その場合は水洗や酸洗その他の洗浄を行うことができる。
【0077】
電解工程は、それにより得られた精製チタン系材料63をさらに精製するため、複数回にわたって繰返し行うことができる。複数回の電解工程を行う場合は、前回の電解工程で陰極61b上に析出した精製チタン系材料63を、次回の電解工程で粗チタン系材料として使用する。すなわち、次回の電解工程では、前回の電解工程で陰極61b上に析出した精製チタン系材料63を粗チタン系材料とし、当該粗チタン系材料を含む陽極61aに使用する。さらには、前回の電解工程で使用した陽極61aを陰極61bに交換して次回の電解工程を実施する。これにより、次回の電解工程では、その粗チタン系材料から不純物がさらに除去された精製チタン系材料63が、新たに設置した陰極61b上に析出する。複数段の電解工程を行うと、不純物がほぼ含まれない金属チタンとしての電析物を製造することも可能である。陽極61aに使用した籠状容器や陰極61bは回収後に水洗等のメンテナンスを適切に行って再度使用することが可能である。例えば、陽極61aは籠状容器から残渣を取り除き、粗チタン系材料を籠状容器に充填して再度使用できる。また、陰極61bは精製チタン系材料を回収した後再度使用できる。
【0078】
一回又は複数回の電解工程により得られる精製チタン系材料63としてのチタン系電析物は、Ti以外の元素の合計の含有量が、例えば40000質量ppm以下、好ましくは5000質量ppm以下、より好ましくは2000質量ppm以下、さらに好ましくは1000質量ppm以下、特に好ましくは200質量ppm以下である。
【0079】
チタン系電析物は金属チタンとすることができ、たとえば、Al含有量が5質量ppm~20000質量ppm、O含有量が50質量ppm~20000質量ppmであり、残部がTi及び不可避的不純物からなる場合がある。また、チタン系電析物はAl含有量が5質量ppm~1000質量ppm、O含有量が50質量ppm~1000質量ppmであり、残部がTi及び不可避的不純物からなる場合がある。純度が4N5以上、さらに5N以上、さらに5N5以上の金属チタン製のチタン系電析物が製造できることもある。
【0080】
チタン系電析物中の不可避的不純物は、鉱石由来のものや、塩化物浴由来のもの、還元剤由来のもの、分離剤由来のもの、電解槽などの溶融塩電解装置を構成する部材などに由来するもの、大気と接触した際に生じるもの等がある。具体的には、チタン系電析物は不可避的不純物として、N(窒素)含有量が0.03質量%以下であり、C(炭素)含有量が0.01質量%以下であり、Fe含有量が0.050質量%以下であり、Mg含有量が0.02質量%以下であり、Ni含有量が0.03質量%以下であり、Cr含有量が0.03質量%以下であり、Si含有量が0.001質量%以下であり、Mn含有量が0.05質量%以下であり、Sn含有量が0.01質量%以下である場合がある。
【符号の説明】
【0081】
1 溶融塩電解装置
2、12 電解槽
2a 開口部
2b 槽本体
2c 蓋体
2d 周壁部
2e 底部
3a、13a 第一連通口
3b、13b 第二連通口
3c、13c 第三連通口
4、14 電極保持機構
4a 保持ロッド
4b 昇降プレート
5、15 電気接続機構
5a、5b 導体
5c、5d 通電部材
6 温度調節器
21 減圧装置
61 電極
61a 陽極
61b 陰極
62 電極板
63 精製チタン系材料
Bm 溶融塩浴
図1
図2
図3
図4
図5