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特開2024-94083インバータ、インバータの制御方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094083
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】インバータ、インバータの制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240702BHJP
【FI】
H02M7/48 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210826
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】趙 茜
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA02
5H770BA01
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770EA21
5H770JA06X
5H770JA19X
(57)【要約】
【課題】従来よりもスイッチング損失を低減可能なインバータを提供する。
【解決手段】直流電力を3相交流電力に変換して出力するインバータであって、前記3相に対応し、それぞれ2つのスイッチング素子を備えるレグを3つ有する電力変換回路と、前記の各スイッチング素子をスイッチング制御してPWM変調方式により前記変換及び前記出力の制御を行う制御部と、を含んでおり、前記制御部は、3相のうちいずれか1相については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子のいずれをもスイッチング制御し、他の相のうち一方については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子の一方のみをスイッチング制御して他方をオフに固定し、残りの相については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子を相補的にオン又はオフに固定する、ことによって、3相のうち2相のみを順次変調するPWM変調信号を生成するインバータ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を3相交流電力に変換して出力するインバータであって、
前記3相に対応し、それぞれ2つのスイッチング素子を備えるレグを3つ有する電力変換回路と、
前記の各スイッチング素子をスイッチング制御してPWM変調方式により前記変換及び前記出力の制御を行う制御部と、を含んでおり、
前記制御部は、
3相のうちいずれか1相については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子のいずれをもスイッチング制御し、他の相のうち一方については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子の一方のみをスイッチング制御して他方をオフに固定し、残りの相については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子を相補的にオン又はオフに固定する、ことによって、3相のうち2相のみを順次変調するPWM変調信号を生成する、
インバータ。
【請求項2】
前記スイッチング素子はMOSFETであり、
一方の前記スイッチング素子をスイッチング制御して他方をオフに固定している前記レグにおいて、スイッチング制御されている前記一方の前記スイッチング素子がオフとなっている間は、オフに固定されている前記他方の前記スイッチング素子のボディダイオードを介して電流を通せるように構成されている、
請求項1に記載のインバータ。
【請求項3】
前記電力変換回路は、前記レグが備える前記スイッチング素子の少なくとも一方と並列に配置されるダイオードを備えている、
請求項1又は2に記載のインバータ。
【請求項4】
それぞれ2つのスイッチング素子を備えるレグを3つ有する電力変換回路を備え、前記電力変換回路により直流電力を3相交流電力に変換して出力するインバータの制御方法であって、
3相のうちいずれか1相については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子のいずれをもスイッチング制御し、他の相のうち一方については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子の一方のみをスイッチング制御して他方をオフに固定し、残りの相については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子を相補的にオン又はオフに固定する、ことによって、3相のうち2相のみを順次変調するPWM変調を行う、
インバータの制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載のインバータの制御方法を、プロセッサに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ、インバータの制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、直流電力を3相交流電力に変換して出力するインバータにおいて、トランジスタなどのスイッチング素子のスイッチングパルス幅(デューティサイクル)を変動させることにより、直流電力を交流の波形に変換して出力するPWM変調方式が知られている。スイッチング素子をスイッチング動作する際にはスイッチング損失が発生するため、高効率な出力制御を行うためには、スイッチング制御を行うスイッチの数は少ない方が望ましい。
【0003】
この点において、PWM変調方式において、3相のうち1相のスイッチング素子をオン又はオフに固定し、残り2相のスイッチング素子スイッチング動作させる(即ち、同時にスイッチング制御を行うスイッチが4つになる)2相変調という制御方式が従来から知られている(例えば、特許文献1)。このような方式であれば、3相変調の制御方式に比べると、スイッチ2つ分のスイッチング損失を低減することができる。
【0004】
また、さらにスイッチング制御を行うスイッチの数を減らし、3相のうち1相のみスイッチング制御を行う制御方法も提案されている(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-46855号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】藤田英明「3相系統連系変換器の1相スイッチング制御法」,電気学会全国大会,2007年vol.4,No.078,p.118-119
【非特許文献2】藤田英明,鈴木亮「1相PWM制御法を用いた3相ソーラーパワーコンディショナ」,電気学会論文誌D(産業応用部門誌)2010年130巻2号p.173-180
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記非特許文献1、2に記載の技術によれば、従来の2相変調の制御方法に比べてスイッチング制御に係るスイッチング損失は低減することができるものの、インバータ回路だけでは出力電圧(電流)波形の制御しかできず、電圧・電流値の制御を行うためには前段にDCDCコンバータ回路を設ける必要がある、という問題があった。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、従来よりもスイッチング損失を低減可能なインバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様は次の構成を採用する。即ち、
直流電力を3相交流電力に変換して出力するインバータであって、
前記3相に対応し、それぞれ2つのスイッチング素子を備えるレグを3つ有する電力変換回路と、
前記の各スイッチング素子をスイッチング制御してPWM変調方式により前記変換及び
前記出力の制御を行う制御部と、を含んでおり、
前記制御部は、
3相のうちいずれか1相については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子のいずれをもスイッチング制御し、他の相のうち一方については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子の一方のみをスイッチング制御して他方をオフに固定し、残りの相については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子を相補的にオン又はオフに固定する、ことによって、3相のうち2相のみを順次変調するPWM変調信号を生成する、
インバータ、である。
【0010】
ここで、「レグ」とは、電力変換回路の直流(即ち入力)側の正極側と負極側の間に直列接続されているスイッチング素子を含むアーム2つ一組のことをいう。また、「相補的」とは一方がオンである場合には他方がオフであることを意味する。上記のような構成によれば、従来から採用されているのと同様の電力変換回路(スイッチング回路)を用いて、従来の2相変調方式に比べて同時にスイッチング制御を行うスイッチング素子を一つ減らすことができ、スイッチング損失を低減することができる。
【0011】
また、前記スイッチング素子はMOSFETであり、
一方の前記スイッチング素子をスイッチング制御して他方をオフに固定している前記レグにおいて、スイッチング制御されている前記一方の前記スイッチング素子がオフとなっている間は、オフに固定されている前記他方の前記スイッチング素子のボディダイオードを介して電流を通せるように構成されていてもよい。ただし、必ずしもボディダイオードを介して電流を通す必要はなく、後述のような方法により電流を通すこともできる。この構成によれば、スイッチング素子として一般的に採用されているMOSFETを用いて電力変換回路を構成することができるため、好適である。
【0012】
また、前記電力変換回路は、前記レグが備える前記スイッチング素子の少なくとも一方と並列に配置されるダイオードを備えていてもよい。このような構成であれば、スイッチング素子をMOSFETに限定せずとも、スイッチング素子がオフに固定されている際には並列配置されたダイオードを介して電流を通すことができる。また、MOSFETを用いる場合であっても、ボディダイオードにおいて導通損失が生じるため、より低抵抗のダイオードを並列配置して該ダイオードを介して電流を通すことで、導通損失を低減することができる。
【0013】
また、本発明は次のように捉えることもできる。即ち、
それぞれ2つのスイッチング素子を備えるレグを3つ有する電力変換回路を備え、前記電力変換回路により直流電力を3相交流電力に変換して出力するインバータの制御方法であって、
3相のうちいずれか1相については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子のいずれをもスイッチング制御し、他の相のうち一方については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子の一方のみをスイッチング制御して他方をオフに固定し、残りの相については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子を相補的にオン又はオフに固定する、ことによって、3相のうち2相のみを順次変調するPWM変調を行う、
インバータの制御方法、である。
【0014】
また、本発明は、上述の制御方法をプロセッサに実行させるためのプログラム、そのようなプログラムを非一時的に記録したコンピュータ読取可能な記録媒体、としても捉えることもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来よりもスイッチング損失を低減可能なインバータを提供すること
ができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施形態1に係るインバータの構成を概略的に示す模式図である。
図2図2は、従来の2相変調方式における基準信号と各スイッチング素子の制御状態との関係を示す説明図である。
図3図3は、実施形態1に係る変調方式における基準信号と各スイッチング素子の制御状態との関係を示す説明図である。
図4図4は、実施形態1に係る制御部のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図5図5は、U相に着目した場合のスイッチング素子のオン/オフと電流の流れの関係を示す第1の説明図である。
図6図6は、U相に着目した場合のスイッチング素子のオン/オフと電流の流れの関係を示す第2の説明図である。
図7図7は、第1の変形例に係るインバータの構成を概略的に示す模式図である。
図8図8は、第1の変形例に係るスイッチング制御のタイミングを説明する説明図である。
図9図9は、第2の変形例に係るインバータの構成を概略的に示す模式図である。
図10図10は、第2の変形例に係るスイッチング制御のタイミングを説明する説明図である。
図11図11は、第3の変形例に係るインバータの構成を概略的に示す模式図である。
図12図12は、第3の変形例に係るスイッチング制御のタイミングを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<適用例>
以下、本発明の実施形態の一例について説明する。本発明は、例えば図1に示すようなインバータ1として適用することができる。図1は、インバータ1の構成を概略的に示す模式図である。
【0018】
図1に示すように、インバータ1はコンデンサCを介して直流電源Eに接続される正極母線Pと負極母線N、交流電力を出力するU相出力端U、V相出力端V及びW相出力端W、電力変換回路10並びに制御部100を有している。なお、インバータ1の用途に特に制限はなく、例えば電気機器に組み込まれてACモータなどの負荷に出力電力を供給するのであってもよいし、PCS(Power Conditioning Subsystem)に用いるのであってもよい。
【0019】
電力変換回路10は、6つのスイッチング素子Q1、Q2、Q3、Q4、Q5、Q6を備えている。本適用例では、各スイッチング素子としてMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)を採用している。電力変換回路10において、正極母線Pと負極母線Nとの間に、U相上側アームを構成するスイッチング素子Q1とU相下側アームを構成するスイッチング素子Q2とが直列接続されてU相レグ11を構成している。また、正極母線Pと負極母線Nとの間に、V相上側アームを構成するスイッチング素子Q3とV相下側アームを構成するスイッチング素子Q4とが直列接続されてV相レグ12を構成している。また、正極母線Pと負極母線Nとの間に、W相上側アームを構成するスイッチング素子Q5とW相下側アームを構成するスイッチング素子Q6とが直列接続されてW相レグ13を構成している
。また、図1に示すように、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との間はU相出力端に接続され、スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4との間はV相出力端に接続され、スイッチング素子Q5とスイッチング素子Q6との間はW相出力端に接続されている。
【0020】
制御部100は、制御プログラムを格納する記憶媒体や、制御プログラムにしたがって制御手順を実行するCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを有するコンピュータである。制御部100は、インバータ1の入力端、出力端などの各部に設置される各種センサ(図示せず)や通信線(図示せず)を介して外部から取得する各種情報を用いて、インバータの各構成を制御する。
【0021】
制御部100は、直流電源Eから供給される直流電力を交流電力に変換してU相出力端U、V相出力端V及びW相出力端Wから出力するため、電力変換回路10の各スイッチング素子Q1乃至Q6の制御を行う。より具体的にはU相レグ11、V相レグ12、W相レグ13それぞれについて、所望の交流出力波形を示す基準信号と予め定められる搬送波(三角波)とを用いてPWM(Pulse Width Modulation)変調信号を生成し、当該PWM変調信号に基づいて各スイッチング素子をスイッチング制御する。なお、PWM変調の方式によるDC(Direct Current)/AC(Alternating Current)変換は広く知られた技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0022】
ここで、PWM変調方式の中でも3相変調方式と2相変調方式の2種類の変調方式が従来からよく知られている。3相変調方式は、正弦波1周期(360°)の間、常時U相レグ11、V相レグ12、W相レグ13の全てのスイッチング素子をスイッチング制御する方法である。一方、2相変調方式は、U、V、Wの各相について対応するレグのスイッチング素子をオン又はオフに固定してスイッチング制御を行わない区間を1周期のうち120°ずつ設け、各相の間で当該制御を行わない区間を順次交代していく方法である。2相変調方式によれば、3相変調方式に比べてスイッチング制御を行う素子の数が常時2つ減るため、スイッチング損失を低減することができる。
【0023】
図2は、2相変調方式のスイッチング制御を行う場合の、各相の基準信号(正弦波)と各スイッチング素子の制御状態との関係を示す説明図である。図2に示すように、正弦波1周期分を6つの区間に区切り、1から6の丸付き数字を振ってそれぞれの区間が示されている。図中において、縦線のハッチングの入ったバーが示されている区間がスイッチング制御の行われる区間であり、バーが示されていない区間がスイッチング制御の行われない区間である。図2に示すように、各相において基準信号が示す正弦波の位置が他の相の正弦波よりも下回っている区間では、当該相のスイッチング制御が行われないことがわかる。
【0024】
本適用例に係るインバータ1では、さらにスイッチング制御を行うスイッチング素子を1つ減らして3つとすることが特徴である。具体的には、制御部100は、正弦波1周期の間、3相のうち1相についてはレグが備える2つのスイッチング素子のいずれをもスイッチング制御し、他の2相のうち一方についてはレグが備える2つのスイッチング素子の一方のみをスイッチング制御して他方をオフに固定し、残りの1相についてはレグが備える2つのスイッチング素子を相補的にオン又はオフに固定する、ことによって、3相のうち2相のみを順次変調するPWM変調信号を生成する。
【0025】
図3に、このような本適用例に係るインバータ1によるスイッチング制御を行う場合の、各相の基準信号(正弦波)と各スイッチング素子の制御状態との関係を、図2と同様に示す。図3が示すように、本適用例に係るPWM変調では、2相変調方式の場合に加えて
、各相とも下側アームに属するスイッチング素子Q2、Q4、Q6については、スイッチング制御が行われない区間がさらに120°分追加されていることがわかる。
【0026】
ここで、本適用例において、各相に対応するレグ(例えばU相レグ)はそれぞれ1周期の1/3に当たる120°の区間(例えば5及び6の区間)では、上側アームに属するスイッチング素子(例えばQ1)がスイッチング制御を行われているものの、下側アームに属するスイッチング素子(例えばQ2)についてはスイッチング制御が行われていないことがわかる。この間、下側アームに属するスイッチング素子はオフで固定されている。
【0027】
この場合、U相レグ11を例にして説明を行うと、スイッチング素子Q1がスイッチング制御によりオフになるタイミングでは、スイッチング素子Q2はオフに固定されているものの、MOSFETのボディダイオードを介して電流を通すことができるため、負極母線Nの電流はスイッチング素子Q2のボディダイオードを通って還流することができる。
【0028】
以上のような本適用例に係るインバータ1によれば、常時スイッチング制御を行うスイッチング素子を6つのうち3つのみにすることができる。これにより、従来のPMW変調方式によるインバータと同様の回路構成でありながら、スイッチング損失を低減させることができる。
【0029】
<実施形態1>
続けて本発明の実施形態の一例についてさらに詳しく説明する。本実施形態に係るインバータ1は例えばPV-PCSに実装され、太陽電池を直流電源Eとして出力された直流電力を商用電力系統と同期の取れた3相交流電力に変換して出力する。なお、本実施形態に係るインバータ1は、適用例において説明したものと同一の構成を有するものであるため、既に説明した構成についての改めての詳細な説明は省略する。
【0030】
図4は本実施形態に係るインバータ1の制御部100のハードウェア構成の一例を示す図である。図4に示すように、制御部100は、接続バス106によって相互に接続されたプロセッサ101、主記憶装置102、補助記憶装置103、通信IF104、入出力IF105を構成要素に含むコンピュータである。主記憶装置102および補助記憶装置103は、制御部100が読み取り可能な記録媒体である。上記の構成要素はそれぞれ複数設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0031】
プロセッサ101は、制御部100全体の制御を行う中央処理演算装置である。プロセッサ101は、例えば、CPUやMPU(Micro-Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)等である。プロセッサ101は、例えば、補助記憶装置103に記憶されたプログラムを主記憶装置102の作業領域に実行可能に展開し、当該プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことで所定の目的に合致した機能を提供する。但し、プロセッサ101が提供する一部または全部の機能が、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって提供されてもよい。同様にして、一部または全部の機能が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ等の専用LSI(large scale integration)、その他のハードウェア回路で実現されてもよい。
【0032】
主記憶装置102および補助記憶装置103は、制御部100のメモリを構成する。主記憶装置102は、プロセッサ101が実行するプログラム、当該プロセッサが処理するデータ等を記憶する。主記憶装置102は、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。
補助記憶装置103は、プロセッサ101等により実行されるプログラムや、動作の設定情報などを記憶する記憶媒体である。補助記憶装置103は、例えば、HDD(Hard-disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、EPROM(Erasable Programmable ROM)、フラッシュメモリ、USBメモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等を含む。通信IF104は、通信ネットワークとの通信インタフェースである。通信IF104は、接続される通信ネットワークとの接続方式に応じて適宜の構成を採用できる。
【0033】
入出力IF105は、インバータ1の備える入力デバイス、出力デバイスとの間でデータの入出力を行うインタフェースである。入出力IF105を通じて、LCD等の表示デバイスなどの出力デバイスに出力される。また、入出力IF105を通じて、操作指示が受け付けられ、当該操作指示に基づいて操作者の意図する処理が行われる。
【0034】
上記のような制御部100により、電力変換回路10の各スイッチング素子Q1乃至Q6をスイッチング制御するためのPWM変調信号が生成される。具体的には、U相、V相、W相毎に交流出力波形を示す基準信号(正弦波)と予め定められるキャリア信号(三角波)とを比較して、上側アームに属するスイッチング素子と下側アームに属するスイッチング素子それぞれについて、オン/オフを切り替えるためのパルス波形を生成する。
【0035】
このようなPWM変調信号生成の基本的な方法は従来の3相変調方式の場合と同様である。即ち、レグの上側アームのスイッチング素子に着目した場合、基準信号の値がキャリア信号の値よりも上である場合にオンとなり、基準信号の値がキャリア信号の値よりも下である場合にはオフとなるパルス波を生成する。一方、レグの下側アームのスイッチング素子に着目した場合、基準信号の値がキャリア信号の値よりも上である場合にオフとなり、基準信号の値がキャリア信号の値よりも下である場合にはオンとなるパルス波を生成する。
【0036】
ただし、本実施形態に係るインバータ1では、各スイッチング素子についてスイッチング制御が行われない区間が、正弦波1周期あたり120°又は240°分存在する。即ち、本実施形態においては、制御部100が生成するPWM変調信号は、このようなスイッチング制御を行わない区間については基準信号とキャリア信号の大小関係に関わらず、予め決まった開閉状態となるようにスイッチング素子を制御するパルス信号となる。
【0037】
例えば、図3に示すU相レグのスイッチング素子Q1及びQ2を例にすると、区間1及び4では通常通りの(即ち基準信号とキャリア信号の大小関係による)パルス信号が生成される。一方、2及び3の区間では、スイッチング素子Q1については常時オフ、スイッチング素子Q2については常時オンとなるようなパルス信号が生成される。そして、区間5及び6では、スイッチング素子Q1については通常通り基準信号とキャリア信号の大小関係によるパルス信号が生成されるものの、スイッチング素子Q2については常時オフとするパルス信号が生成される。
【0038】
図5及び図6に、図3の区間5及び6において、U相レグ11のスイッチング素子Q1、Q2に着目した場合の、各スイッチング素子のオン/オフ状態と、電流の流れを示す。なお、図5及び図6においては、スイッチング素子Q1、Q2に係る電流の流れを簡略的に説明するために不要な要素については省略している。
【0039】
図5は、区間5及び6において、スイッチング素子Q1がオンで、スイッチング素子Q2がオフの場合の電流の流れを示す説明図である。図5が示すように、スイッチング素子Q1がオン、スイッチング素子Q2がオフの場合には、コンデンサCを介して供給された直流電流がスイッチング素子Q1を通ってU相レグ11に流れ、U相出力端Uに電圧が印
加される。
【0040】
図6は、図5の状態からスイッチング素子Q1がオフになった状態の電流の流れを示す説明図である。スイッチング素子Q2はMOSFETでありボディダイオードを備えているため、スイッチング素子Q2をオンにしなくとも、図6が示すように、負極母線Nの電流はスイッチング素子Q2のボディダイオードを通って還流することができる。
【0041】
このような本実施形態のインバータ1によれば、常時スイッチング制御を行うスイッチング素子を3つに減らしつつ、実質的に2相変調方式と同様の変調を行うことができる。これにより、従来のPMW変調方式によるインバータと同様の回路構成でありながら、スイッチング損失を25%低減させることができる。また、3つのレグのうち上下アームともスイッチング制御を行っているレグが1つだけとなるため、上下のアームが短絡するリスクを低減でき、さらにデッドタイムの影響を低減できる。また、同時にスイッチング制御を行うスイッチング素子を3つに減らすことができるため、演算に係る負荷を軽減することができる。
【0042】
<変形例>
なお、上記の実施形態1では、各レグのうち一方のスイッチング素子のみをスイッチング制御する場合に、いずれのスイッチング素子もオフとなるタイミングでは、他方のスイッチング素子のボディダイオードを介して電流を還流させていたが、必ずしもこのようにする必要はない。また、PWM変調信号の生成についても、キャリア信号と比較する信号は予め定める基準信号でなく、各相出力端において検出される出力電圧(電流)の値であってもよい。以下では、このような変形例について説明する。
【0043】
(変形例1)
図7は、第1の変形例に係るインバータ2の構成を概略的に示す模式図である。なお、以下で説明する各変形例は、実施形態1のインバータ1と概ね同様の構成をしているため、同様の構成については同一の符号を付し、重複する説明については省略する。
【0044】
インバータ2は、インバータ1と比べ、電力変換回路20の構成が異なっている。具体的には、U相レグ21、V相レグ22、W相レグ23それぞれの上側アームに、それぞれ低抵抗のダイオードD1、ダイオードD3、ダイオードD5が設けられている。図7に示すように、ダイオードD1はスイッチング素子Q1と、ダイオードD3はスイッチング素子Q3と、ダイオードD5はスイッチング素子Q5と、それぞれ並列に配置されている。
【0045】
MOSFETのボディダイオードを介して電流を還流させる場合、一定の導通損失が発生してしまう。このため、抵抗の低いダイオードをスイッチング素子と並列に配置し、低抵抗のダイオードを介して電流を還流する構成にすれば、損失を低減することができる。
【0046】
なお、2相変調によるPWM変調信号の作成には複数通りの方法が考えられるが、変形例1に係るインバータ2の構成は、U相、V相、W相の各相において、基準信号が他相と比べて最大となる120°の区間で、スイッチング制御を停止する方法に適した構成となっている。なお、本変形例を含む各変形例においては、各相における出力電圧値をPWM変調信号生成の基準信号としている。
【0047】
図8に、このような変調方法を行う場合のスイッチング制御について説明する図を示す。図8に示す通り、例えばU相の基準信号が最大(即ち他の2つの相よりも大きい)の区間においては、U相レグ21のスイッチング制御は停止され、スイッチング素子Q1はオン、スイッチング素子Q2はオフで固定される。そしてこの間、最小の電圧を出力する相に対応する上側アームのスイッチング素子がオフで固定(スイッチング制御が停止)され
る。具体的には、前半の60°についてはV相レグ22のスイッチング素子Q3がオフで固定され、後半の60°についてはW相レグ23のスイッチング素子Q5がオフで固定される。
【0048】
即ち、U相、V相、W相の各相において、基準信号が他相と比べて最大となる120°の区間でスイッチング制御を停止する変調方法の場合には、上側アームのスイッチング素子がオフに固定されることになるため、これらのスイッチング素子と並列に低抵抗のダイオードを配置する本変形例の構成が好適となる。
【0049】
(変形例2)
次に、図9及び図10に基づいて第2の変形例について説明する。図9に示すように、本変形例に係るインバータ3は、インバータ1と比べ、電力変換回路30の構成が異なっている。具体的には、U相レグ31、V相レグ32、W相レグ33それぞれの下側アームに、それぞれ低抵抗のダイオードD2、ダイオードD4、ダイオードD6が設けられている。図9に示すように、ダイオードD2はスイッチング素子Q2と、ダイオードD4はスイッチング素子Q4と、ダイオードD6はスイッチング素子Q6と、それぞれ並列に配置されている。
【0050】
このような本変形例の構成は、U相、V相、W相の各相において、基準信号が他相と比べて最小となる120°の区間で、スイッチング制御を停止する方法に適した構成となっている。図10に、このような変調方法を行う場合の、スイッチング制御について説明する図を示す。図10に示す通り、例えばU相の基準信号が最小の(即ち他の2つの相よりも小さい)区間においては、U相レグ31のスイッチング制御は停止され、スイッチング素子Q1はオフ、スイッチング素子Q2はオンで固定される。そしてこの間、最大の電圧を出力する相に対応する下側アームのスイッチング素子がオフで固定(スイッチング制御が停止)される。具体的には、前半の60°についてはV相レグ22のスイッチング素子Q4がオフで固定され、後半の60°についてはW相レグ33のスイッチング素子Q6がオフで固定される。
【0051】
即ち、U相、V相、W相の各相において、基準信号が他相と比べて最小となる120°の区間でスイッチング制御を停止する変調方法の場合には、下側アームのスイッチング素子がオフに固定されることになるため、これらのスイッチング素子と並列に低抵抗のダイオードを配置する本変形例の構成が好適となる。
【0052】
(変形例3)
次に、図11及び図12に基づいて第3の変形例について説明する。図11に示すように、本変形例に係るインバータ4は、インバータ1と比べ、電力変換回路40の構成が異なっている。具体的には、U相レグ41、V相レグ42、W相レグ43それぞれにおいて、いずれのスイッチング素子にも並列してダイオードが設けられる構成である。即ち、変形例1と変形例2を組み合わせたような構成となっている。
【0053】
このような本変形例の構成は、U相、V相、W相の各相において、基準信号が最大となる60°の区間と最小となる60°の区間のそれぞれで、スイッチング制御を停止する方法に適した構成となっている。図12に、このような変調方法を行う場合の、スイッチング制御について説明する図を示す。
【0054】
図12に示す通り、例えばU相の基準信号が最大の60°の区間において、U相レグ41のスイッチング制御は停止され、スイッチング素子Q1はオン、スイッチング素子Q2はオフで固定される。そしてこの間、最小の電圧を出力する相に対応する上側アームのスイッチング素子がオフで固定される。具体的には、前半の30°についてはV相レグ42
のスイッチング素子Q3がオフで固定され、後半の30°についてはW相レグ43のスイッチング素子Q5がオフで固定される。
【0055】
また、U相の基準信号が最小の60°の区間においても、U相レグ41のスイッチング制御は停止され、スイッチング素子Q1はオフ、スイッチング素子Q2はオンで固定される。そしてこの間、最大の電圧を出力する相に対応する下側アームのスイッチング素子がオフで固定される。具体的には、前半の30°についてはV相レグ42のスイッチング素子Q4がオフで固定され、後半の30°についてはW相レグ43のスイッチング素子Q6がオフで固定される。
【0056】
即ち、スイッチング制御を停止する相を60°の区間で分割するようなPWM変調信号を生成するような場合には、本変形例の構成が好適となる。なお、本変形例では各相でスイッチング制御を停止する区間を60°×2回としたが、これをさらに細分化して30°×4回、15°×8回、といったパターンとすることも可能である。
【0057】
<その他>
上記各例は、本発明を例示的に説明するものに過ぎず、本発明は上記の具体的な形態には限定されない。本発明はその技術的思想の範囲内で種々の変形及び組み合わせが可能である。例えば、上記各例ではスイッチング素子としてMOSFETを用いることを例示したが、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)など、上記以外のスイッチング素子を用いることも可能である。
【0058】
また、本発明に係るインバータの用途は特に限定されず、様々な機器に組み込んで用いることが可能である。また、本発明に係るインバータの前段にコンバータを設け、交流から直流に変換された直流電力を変換の対象とすることも、当然に可能である。
【0059】
<付記1>
直流電力を3相交流電力に変換して出力するインバータ(1、2、3、4)であって、
前記3相に対応し、それぞれ2つのスイッチング素子(Q1、Q2、Q3、Q4、Q5、Q6)を備えるレグ(11、12、13、21、22、23、31、32、33、41、42、43)を3つ有する電力変換回路(10、20、30、40)と、
前記の各スイッチング素子をスイッチング制御してPWM変調方式により前記変換及び前記出力の制御を行う制御部(100)と、を含んでおり、
前記制御部は、
3相のうちいずれか1相については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子のいずれをもスイッチング制御し、他の相のうち一方については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子の一方のみをスイッチング制御して他方をオフに固定し、残りの相については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子を相補的にオン又はオフに固定する、ことによって、3相のうち2相のみを順次変調するPWM変調信号を生成する、
インバータ。
【0060】
<付記2>
それぞれ2つのスイッチング素子(Q1、Q2、Q3、Q4、Q5、Q6)を備えるレグ(11、12、13、21、22、23、31、32、33、41、42、43)を3つ有する電力変換回路(10、20、30、40)を備え、前記電力変換回路により直流電力を3相交流電力に変換して出力するインバータ(1、2、3、4)の制御方法であって、
3相のうちいずれか1相については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子のいずれをもスイッチング制御し、他の相のうち一方については前記レグが備える2つの前記スイッチング素子の一方のみをスイッチング制御して他方をオフに固定し、残りの相につ
いては前記レグが備える2つの前記スイッチング素子を相補的にオン又はオフに固定する、ことによって、3相のうち2相のみを順次変調するPWM変調を行う、
インバータの制御方法。
【符号の説明】
【0061】
1、2、3、4・・・インバータ
10、20、30、40・・・電力変換回路
11、21、31、41・・・U相レグ
12、22、32、42・・・V相レグ
13、23、33、43・・・W相レグ
100・・・制御部
E・・・直流電源
C・・・コンデンサ
P・・・正極母線
N・・・負極母線
U・・・U相出力端
V・・・V相出力端
W・・・W相出力端
Q1、Q2、Q3、Q4、Q5、Q6・・・スイッチング素子
D1、D2、D3、D4、D5、D6・・・ダイオード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12