(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094093
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】磁気エンコーダの着磁方法
(51)【国際特許分類】
G01D 5/245 20060101AFI20240702BHJP
H01F 13/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G01D5/245 110M
H01F13/00 350
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210840
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】勢野 洋嗣
(72)【発明者】
【氏名】守時 直
(72)【発明者】
【氏名】石田 浩規
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA21
2F077AA46
2F077CC02
2F077CC07
2F077NN02
2F077NN04
2F077NN05
2F077NN06
2F077NN25
2F077PP05
2F077QQ01
2F077QQ15
2F077VV11
2F077VV31
2F077VV33
(57)【要約】 (修正有)
【課題】比較的簡便な構成で隣接する磁気トラック間の磁気的干渉の度合いを低減することができる、磁気エンコーダの着磁方法を提供する。
【解決手段】隣接して配置された、第1磁気トラック21と、第1磁気トラック21の着磁面21aと段差32を有する状態で突出する着磁面22aを有する第2磁気トラック22とを備える磁気エンコーダを着磁対象とし、まず、段差32よりも大きな間隔をおいて着磁面21aに対向して着磁ヨーク41cが配置され、着磁ヨーク41cにより着磁面21aが順次着磁され、第1磁気トラック21の長さ方向に交互に磁極が形成される。次いで、第1磁気トラック21と着磁ヨーク41cとの間隔を保った状態で着磁ヨーク41cが第2磁気トラック22と対向する位置に相対的に移動され、着磁ヨーク41cにより着磁面22aが順次着磁され、第2磁気トラック22の長さ方向に交互に磁極が形成される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1磁気トラックと、前記第1磁気トラックに隣接し、前記第1磁気トラックの着磁面と段差を有する状態で突出する着磁面を有する第2磁気トラックとを備える磁気エンコーダの着磁方法であって、
前記段差よりも大きな間隔をおいて前記第1磁気トラックの着磁面に対向して着磁ヨークを配置するステップと、
前記着磁ヨークにより前記第1磁気トラックの着磁面を順次着磁し、前記第1磁気トラックの長さ方向に交互に磁極を形成するステップと、
前記第1磁気トラックと前記着磁ヨークとの間隔を保った状態で前記着磁ヨークを前記第2磁気トラックと対向する位置に相対的に移動させるステップと、
前記着磁ヨークにより前記第2磁気トラックの着磁面を順次着磁し、前記第2磁気トラックの長さ方向に交互に磁極を形成するステップと、
を有する磁気エンコーダの着磁方法。
【請求項2】
第1磁気トラックと、前記第1磁気トラックに隣接し、前記第1磁気トラックの着磁面と段差を有する状態で突出する着磁面を有する第2磁気トラックとを備える磁気エンコーダの着磁方法であって、
前記段差よりも小さな間隔をおいて前記第1磁気トラックの着磁面に対向して着磁ヨークを配置するステップと、
前記着磁ヨークにより、前記第1磁気トラックの着磁面を順次着磁し、前記第1磁気トラックの長さ方向に交互に磁極を形成するステップと、
前記第2磁気トラックの着磁面に対向して前記着磁ヨークを配置するステップと、
前記着磁ヨークにより、前記第2磁気トラックの着磁面を順次着磁し、前記第2磁気トラックの長さ方向に交互に磁極を形成するステップと、
を有する磁気エンコーダの着磁方法。
【請求項3】
前記第1磁気トラックと第2磁気トラックの段差が0.1mm以上、かつ0.5mm以下である、請求項1又は請求項2記載の磁気エンコーダの着磁方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気エンコーダの着磁方法に関し、特に、隣接して配置された複数の磁気トラックを備える磁気エンコーダの着磁方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、その他の産業機械分野において、リニアエンコーダやロータリーエンコーダが多用されており、このようなエンコーダとして、磁気エンコーダが広く使用されている。磁気エンコーダは、磁束密度が変化する磁気トラックを備え、磁気トラックと磁気検出素子との相対的な移動に起因する磁束密度の変化から変位量等を検知する。また、絶対的な位置関係の特定に使用される磁気エンコーダでは、磁束密度の変化度合いが異なる複数の磁気トラックが隣接して配置された構成が広く採用されている(例えば、特許文献1-3参照)。
【0003】
複数の磁気トラックが隣接して配置された構成では、各磁気トラックは異なる磁極パターンであるため、隣接して配置された状態で各磁気トラックの着磁を順に行うと、先に着磁された磁気トラックの磁力が後に着磁する磁気トラックの着磁に影響される。特に、磁気エンコーダの小型化の要求に応じて磁気トラックの寸法を小さくする場合は、所望の磁極パターンが得られない場合がある。このような課題に対応するため、特許文献1では、干渉した結果、所望の磁極パターンが得られるように磁極パターンを設計する手法が提案されている。また、特許文献2では、着磁させたくない領域を磁性体材料で被覆した状態で着磁をする手法が提案されている。さらに、特許文献3では、それぞれ個別に着磁された磁気トラックを組み立てることで隣接配置する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-252826号公報
【特許文献2】特開2010-186794号公報
【特許文献3】特開2011-080776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1が開示するような構成では、複雑な設計のための工数が必要であり、結果として製造コストの増大を招いてしまう。また、特許文献2や特許文献3が開示する構成では、磁性体部材の着脱、複数の磁気トラックの組立て等の工程が必要であり、特許文献1と同様に製造コストの増大を招いてしまう。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、比較的簡便な構成で隣接する磁気トラック間の磁気的干渉の度合いを低減することができる磁気エンコーダの着磁方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明は以下の技術的手段を採用している。本発明は、第1磁気トラックと、第1磁気トラックに隣接し、第1磁気トラックの着磁面と段差を有する状態で突出する着磁面を有する第2磁気トラックとを備える磁気エンコーダの着磁方法を前提としている。そして、本発明に係る磁気エンコーダの着磁方法では、まず、第1磁気トラックの着磁面と第2磁気トラックの着磁面の段差よりも大きな間隔をおいて第1磁気トラックの着磁面に対向して着磁ヨークが配置される。当該状態で、着磁ヨークにより第1磁気トラックの着磁面が順次着磁され、第1磁気トラックの長さ方向に交互に磁極が形成される。次いで、第1磁気トラックと着磁ヨークとの間隔を保った状態で着磁ヨークが第2磁気トラックと対向する位置に相対的に移動される。当該状態で、着磁ヨークにより第2磁気トラックの着磁面が順次着磁され、第2磁気トラックの長さ方向に交互に磁極が形成される。
【0008】
以上の構成では、第2磁気トラックの着磁の際の着磁ヨークと第2磁気トラックの着磁面との間隔は、第1磁気トラックの着磁の際の着磁ヨークと第1磁気トラックの着磁面との間隔よりも小さくなる。着磁ヨークと着磁面の間隔が大きくなると着磁の際に隣接する磁気トラック側へ漏れ出る磁力線による影響が大きくなる。一方、着磁ヨークと着磁面の間隔が小さくなると着磁の際に隣接する磁気トラック側へ漏れ出る磁力線による影響が小さくなるとともに、着磁対象を磁化する磁力も大きくなる。したがって、以上の構成により着磁を行うことで、第2磁気トラックの着磁では、第1磁気トラックの着磁の際に第2磁気トラック側に漏れ出て第2磁気トラックに残留する磁力に重ねてより強い磁力で着磁する結果、当該残留磁力を比較的容易に消去でき、磁気的干渉(同磁極の場合の磁力増大、異磁極の場合の磁力低下)を抑制することができる。また、この際に、第1磁気トラック側に漏れ出る磁力線の影響は小さい上、第1磁気トラックの着磁面は第2磁気トラックの着磁面よりも離れた位置にあるため、第1磁気トラックへの磁気的干渉の度合いも低減することができる。以上の結果、隣接する磁気トラック間の磁気的干渉の度合いを低減することができ、隣接する磁気トラックにおいて所望の磁極パターンをより精度よく実現することができる。加えて、本発明の構成では、着磁処理の過程で着磁ヨークと磁気トラックとを相対的にスライド移動させるだけであり、従来構成に比べて、極めて容易に着磁を行うことができる。
【0009】
また、本発明の他の着磁方法では、第1磁気トラックの着磁面と第2磁気トラックの着磁面の段差よりも小さな間隔をおいて第1磁気トラックの着磁面に対向して着磁ヨークが配置される。当該状態で、着磁ヨークにより第1磁気トラックの着磁面が順次着磁され、第1磁気トラックの長さ方向に交互に磁極が形成される。また、第2磁気トラックの着磁面に対向して着磁ヨークが配置される。当該状態で、着磁ヨークにより第2磁気トラックの着磁面が順次着磁され、第2磁気トラックの長さ方向に交互に磁極が形成される。なお、第1磁気トラックを着磁するステップの後に第2磁気トラックを着磁するステップが実施されてもよく、第2磁気トラックを着磁するステップの後に第1磁気トラックを着磁するステップが実施されてもよい。
【0010】
以上の構成では、第1磁気トラックの着磁の際、着磁対象と対向する着磁ヨークの先端が第2磁気トラックの着磁面よりも下方に位置している。そのため、第1磁気トラックの着磁の際に、第2磁気トラック側に漏れ出る磁力線による影響を、着磁対象と対向する着磁ヨークの先端が第2磁気トラックの着磁面よりも上方に位置する場合に比べて小さくすることができる。また、第2磁気トラックの着磁の際は、着磁対象と対向する着磁ヨークの先端と第1着磁トラックの着磁面との距離を大きくすることができるので、第1磁気トラック側に漏れ出る磁力線による影響を小さくできる。したがって、第1磁気トラックの着磁の際に、第2磁気トラック側に漏れ出る磁力線による影響を小さくできるとともに、第2磁気トラックの着磁の際に、第1磁気トラック側に漏れ出る磁力線による影響を小さくできる。その結果、いずれの順で着磁を行っても、隣接する磁気トラック間の磁気的干渉の度合いを低減することができ、隣接する磁気トラックにおいて所望の磁極パターンをより精度よく実現することができる。加えて、本発明では、着磁処理の過程で着磁ヨークと磁気トラックとを相対的に移動させるだけであり、従来構成に比べて、極めて容易に着磁を行うことができる。
【0011】
また、以上の着磁方法では、第1磁気トラックと第2磁気トラックの段差が0.1mm以上、かつ0.5mm以下であることが好ましい。この構成では、隣接する磁気トラック間の磁気的干渉の度合いを低減することができ、隣接する磁気トラックにおいて所望の磁極パターンをより精度よく実現することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、比較的簡便な構成で隣接する磁気トラック間の磁気的干渉の度合いを低減することができ、隣接する磁気トラックにおいて所望の磁極パターンをより精度よく実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態における磁気エンコーダが備える磁気トラックの磁極配置の一例を模式的に示す平面図である。
【
図2】本発明の一実施形態における磁気エンコーダが備える磁気トラックの一例を模式的に示す端面図である。
【
図3】本発明の一実施形態における磁気エンコーダが備える磁気トラックの着磁に用いる着磁装置の一例を模式的に示す図である。
【
図4】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態における磁気エンコーダの着磁方法を模式的に示す端面図である。
【
図5】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態における磁気エンコーダの他の着磁方法を模式的に示す端面図である。
【
図6】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態における磁気エンコーダの他の着磁方法を模式的に示す端面図である。
【
図7】本発明の一実施形態における磁気エンコーダが備える磁気トラックの他の例を模式的に示す端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る磁気エンコーダの着磁方法は、複数の磁気トラックを備える磁気エンコーダであれば、リニア型、ロータリー型(アキシアル型、ラジアル型)等の任意の構造を有する磁気エンコーダの着磁に適用することができる。以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながらより詳細に説明する。以下では、アキシアル型のロータリー磁気エンコーダを磁化する事例により本発明を具体化している。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態における磁気エンコーダの一例を模式的に示す平面図である。
図1では、磁極配置の一例を模式的に示している。
図2は、本発明の一実施形態における磁気エンコーダの一例を模式的に示す端面図である。なお、
図2は、
図1の径方向に沿う断面であり、図中の左方向が
図1における外縁側に対応し、図中の右方向が
図1における内縁側に対応する。
【0016】
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る磁気エンコーダ1は、中心部に貫通孔11を備える円盤状の芯金10と、当該芯金10の軸方向の一方面に配置された環状の磁気スケール20を備える。磁気スケール20は同心状に並列して設けられた第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22を備える。ここでは、内側に第1磁気トラック21が配置され、外側に第2磁気トラック22が配置されている。
【0017】
図1に示すように、第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22は、いずれも、周方向に等間隔で交互に磁極(N極とS極)が配置された多極磁石により構成される。なお、
図1では、一部の磁極のみにN極、S極を表示している。特に限定されないが、本実施形態では、第1磁気トラック21が備える磁極の極数と第2磁気トラック22が備える磁極の極数は異なっており、第1磁気トラック21の極数が第2磁気トラック22の極数よりも少なく設定されている。
【0018】
図1及び
図2に示すように、芯金10は、貫通孔11を構成する円筒部12と、当該円筒部12の一端から外縁方向に延出された、平面視ドーナツ状の板状部13とを備える。本実施形態では、板状部13は均一な厚さを有している。円筒部12は回転検出対象である回転軸(図示せず)への取付部として機能する。例えば、円筒部12の内径は回転検出対象である回転軸の外径よりもわずかに小さく形成されており、圧入嵌合することで芯金10が回転軸に取り付けられる。
【0019】
特に限定されないが、本実施形態では、第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22は、磁性粉を含有するゴム材料等の磁性ゴム材料からなるゴム磁石により一体に構成される。第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22を構成するゴム磁石31は、
図1及び
図2に示すように、芯金10において、板状部13の一方面側(ここでは上面)、芯金10の外縁端、及び芯金10の反対面の外縁部分を覆う状態で配置されている。なお、ゴム磁石31は加硫接着等の公知の任意の手法により芯金10に固定される。
【0020】
図2に示すように、ゴム磁石31は、板状部13の一方面側において、第2磁気トラック22の上面である着磁面22aが、第1磁気トラック21の上面である着磁面21aと段差32を有する状態で突出する構造を有している。着磁面21a及び着磁面22aは、芯金10の板状部13と平行に配置されている。なお、後述のように、段差32の大きさは0.1mm以上であることが好ましい。また、段差32の大きさは0.5mm以下であることがより好ましい。
【0021】
図1及び
図2に示すように、ゴム磁石31において、段差32の下段を構成する環状部分が、上述のとおり、円周方向に等間隔で交互にN極とS極が配置された多極磁石として着磁されることで、第1磁気トラック21が構成されている。また、段差32の上段を構成する環状部分が、上述のとおり、円周方向に等間隔で交互にN極とS極が配置された多極磁石として着磁されることで、第2磁気トラック22が構成されている。なお、第1磁気トラック21を構成する部分のゴム磁石31の厚さは0.5mmから1.5mm程度とすることができ、第2磁気トラック22を構成する部分のゴム磁石31の厚さは0.5mmから1.4mm程度とすることができる。また、特に限定されないが、ゴム磁石31の直径は、例えば、15mmから20mm程度とすることができる。
【0022】
ロータリー磁気エンコーダにおいて、固定体に対する回転体の回転を検出する場合、磁気スケールと磁気検出素子とが相対的に移動可能であればよく、固定体及び回転体のいずれか一方に磁気スケールを設け、他方に磁気センサユニットを設ける構成が採用される。したがって、本実施形態では、第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22に対して貫通孔11の軸方向において対向する位置には、第1磁気トラック21の磁束密度及び第2磁気トラック22の磁束密度をそれぞれ独立して検出する磁気検出素子が固定体に固定された状態でそれぞれ配置されることになる。
【0023】
続いて、本実施形態における磁気エンコーダ(ゴム磁石31)の着磁方法について説明する。第1磁気トラック21の着磁及び第2磁気トラック22の着磁には、インデックス着磁法を使用することができる。
図3は、磁気トラックの着磁に用いる着磁装置40の一例を模式的に示す図である。着磁装置40は、励磁コイル42が巻き付けられた着磁ヨーク41を備える。着磁ヨーク41は、
図3に示すように、略C字状の開環鉄芯41aを備え、当該開環鉄芯41aに励磁コイル42が巻き付けられている。励磁コイル42に電流が流されると着磁部として機能する着磁ヨーク41の開環端部41b、41cから磁界が発生する。ゴム磁石31及び芯金10は、開環端部41cがゴム磁石31と対向する状態で配置される。そして、着磁装置40は、ゴム磁石31及び芯金10に磁束を貫通させることでゴム磁石31を着磁する。
【0024】
着磁装置40は、ゴム磁石31及び芯金10を周方向に回転させるスピンドル装置(図示せず)を備える。スピンドル装置は、ゴム磁石31及び芯金10をインデックス回転させる。着磁装置40は、スピンドル装置のインデックス回転と同期する状態で励磁コイル42に付与する着磁電流の極性を切り替えることで、着磁ヨーク41を通過する磁束の方向を切り替える。これにより、着磁装置40は、
図1に示すように、ゴム磁石31の周方向(磁気トラックの長さ方向)に交互に磁極が配置された多極磁石を形成することができる。また、着磁装置40は、スピンドル装置と着磁ヨーク41との相対的な位置関係の変更を可能とするために、スピンドル装置及び着磁ヨーク41の一方又は両方に、例えば、三次元方向への移動を可能とする移動機構を備えている。なお、開環端部41cは、ゴム磁石31に形成する着磁パターンに応じた寸法に設計される。例えば、ゴム磁石31の周方向(
図3において紙面に垂直な方向)においては、開環端部41cは先端に向かって次第に幅狭となる尖塔形状に構成することができる。
【0025】
以下、本実施形態におけるゴム磁石31の着磁方法についてより詳細に説明する。
図4(a)及び
図4(b)は、本発明の一実施形態における磁気エンコーダの着磁方法を模式的に示す端面図である。この着磁方法では、
図4(a)に示すように、まず、着磁ヨーク41の開環端部41cが、第1磁気トラック21の着磁面21a(ゴム磁石31の下段を構成する環状部分)と対向して配置される。このとき、開環端部41cと第1磁気トラック21の着磁面21aとの間隔d1は、第1磁気トラック21の着磁面21aと第2磁気トラック22の着磁面22aとの段差32よりも大きな間隔になっている。
【0026】
当該状態で、着磁ヨーク41により第1磁気トラック21の着磁面21aが上述のインデックス着磁法により順次着磁される。その結果、
図1に示すような、第1磁気トラック21の周方向(長さ方向)に交互に磁極が形成された多極磁石が形成される。
【0027】
次いで、
図4(b)に示すように、第1磁気トラック21の着磁面21aと開環端部41cとの間隔d1を保った状態で、上述の移動機構により着磁ヨーク41が相対的に移動され、開環端部41cが第2磁気トラック22の着磁面22a(ゴム磁石31の上段を構成する環状部分)と対向する位置に配置される。このとき、開環端部41cと第2磁気トラック22の着磁面22aとの間隔d2は、上述の間隔d1よりも小さな間隔になっている。特に限定されないが、間隔d2は可能な限り小さくすることがより好ましい。なお、
図4(b)では、相対移動前の着磁ヨーク41の位置を破線で示している。
【0028】
当該状態で、着磁ヨーク41により第2磁気トラック22の着磁面22aが上述のインデックス着磁法により順次着磁される。その結果、
図1に示すような、第2磁気トラック22の周方向(長さ方向)に交互に磁極が形成された多極磁石が形成される。
【0029】
以上説明した着磁方法では、第2磁気トラック22の着磁の際の開環端部41cと第2磁気トラック22の着磁面22aとの間隔d2は、第1磁気トラック21の着磁の際の開環端部41cと第1磁気トラック21の着磁面21aとの間隔d1よりも段差32の大きさ分だけ小さくなる。着磁ヨーク41と着磁面の間隔が大きくなると着磁の際に隣接する磁気トラック側へ漏れ出る磁力線による影響が大きくなる。一方、着磁ヨーク41と着磁面の間隔が小さくなると着磁の際に隣接する磁気トラック側へ漏れ出る磁力線による影響が小さくなるとともに、着磁対象を磁化する磁力も大きくなる。したがって、以上の着磁方法により着磁を行うことで、第2磁気トラック22の着磁面22aの着磁では、第1磁気トラック21の着磁面21aの着磁の際に第2磁気トラック22側に漏れ出て第2磁気トラック22に残留する磁力に重ねてより強い磁力で着磁する結果、当該残留磁力を比較的容易に消去でき、磁気的干渉(同磁極の場合の磁力増大、異磁極の場合の磁力低下)を抑制することができる。また、この際に、第1磁気トラック21側に漏れ出る磁力線による影響は小さい上、第1磁気トラック21の着磁面21aは第2磁気トラック22の着磁面22aよりも着磁ヨーク41の開環端部41cから離れた位置にあるため、第1磁気トラック21への磁気的干渉の度合いも低減することができる。以上の結果、隣接する磁気トラック間の磁気的干渉の度合いを低減することができ、隣接する磁気トラックにおいて所望の磁極パターンをより精度よく実現することができる。本構成は、第1磁気トラック21の磁極パターンよりも第2磁気トラック22の磁極パターンをより精度よく形成することが求められる事例において特に好適である。
【0030】
加えて、以上説明した着磁方法は、隣接する第1磁気トラック21と第2磁気トラック22の着磁処理の過程で、着磁ヨーク41と磁気トラック(ゴム磁石31)とを相対的にスライド移動させるだけで所望の磁極パターンをより精度よく実現することができる。すなわち、従来構成に比べて、極めて容易に着磁を行うことができる。
【0031】
なお、以上の構成において、段差32の大きさは0.1mm以上であることが好ましい。本実施形態のように、第1磁気トラック21及び第2磁気トラック22をゴム磁石31により構成する場合、段差32の大きさを0.1mm未満にするためには、ゴム磁石31の厚さの管理を厳密に行う必要があるため、管理が難しくなるためである。また、段差32の大きさは0.5mm以下であることがより好ましい。段差32の大きさが0.5mmを超える場合、上述の第1磁気トラック21の着磁の際に、着磁ヨーク41の開環端部41cと第1磁気トラック21の着磁面21aとの間隔が大きくなり、着磁面21aの全体を均一に配向させることが困難になる。その結果、第1磁気トラック21の磁極パターンを使用上十分な精度で形成することが困難になるためである。
【0032】
続いて、以上で説明した着磁方法と同様の作用効果を得ることができる他の着磁方法について説明する。
図5(a)及び
図5(b)は、本発明の一実施形態における磁気エンコーダの他の着磁方法を模式的に示す端面図である。この着磁方法では、
図5(a)に示すように、まず、着磁ヨーク41の開環端部41cが、第1磁気トラック21の着磁面21aと対向して配置される。このとき、開環端部41cと第1磁気トラック21の着磁面21aとの間隔d3は、第1磁気トラック21の着磁面21aと第2磁気トラック22の着磁面22aとの段差32よりも小さな間隔になっている。特に限定されないが、間隔d3は可能な限り小さくすることがより好ましい。
【0033】
当該状態で、着磁ヨーク41により第1磁気トラック21の着磁面21aが上述のインデックス着磁法により順次着磁される。その結果、
図1に示すような、第1磁気トラック21の周方向(長さ方向)に交互に磁極が形成された多極磁石が形成される。
【0034】
次いで、
図5(b)に示すように、上述の移動機構により着磁ヨーク41が相対的に移動され、開環端部41cが第2磁気トラック22の着磁面22aと対向する位置に配置される。このとき、開環端部41cと第2磁気トラック22の着磁面22aとの間隔d4は、上述の間隔d3と同様に、可能な限り小さな間隔であることがより好ましい。
【0035】
当該状態で、着磁ヨーク41により第2磁気トラック22の着磁面22aが上述のインデックス着磁法により順次着磁される。その結果、
図1に示すような、第2磁気トラック22の周方向(長さ方向)に交互に磁極が形成された多極磁石が形成される。
【0036】
以上説明した着磁方法では、
図5(a)に示すように、第1磁気トラック21の着磁の際、着磁対象である着磁面21aと対向する開環端部41cが第2磁気トラック22の着磁面22aよりも下方に位置している。そのため、第1磁気トラック21の着磁面21aの着磁の際に第2磁気トラック22側に漏れ出る磁力線による影響を、開環端部41cが第2磁気トラック22の着磁面22aよりも上方に位置する場合(
図4(a))に比べて小さくすることができる。また、第2磁気トラック22の着磁の際は、着磁対象と対向する着磁ヨーク41の開環端部41cと第1着磁トラック21の着磁面21aとの距離を大きくすることができるので、第1磁気トラック21側に漏れ出る磁力線による影響を小さくできる。その結果、隣接する磁気トラック間の磁気的干渉の度合いを低減することができ、隣接する磁気トラックにおいて所望の磁極パターンをより精度よく実現することができる。
【0037】
なお、
図5(a)及び
図5(b)では、着磁の際に隣接する磁気トラックの着磁面が着磁ヨーク41の開環端部41cからより離れている磁気トラックをより後に着磁する順序(すなわち、第1磁気トラック21と着磁した後に、第2磁気トラック22を着磁する順序)とした。しかしながら、
図6(a)及び
図6(b)に示すように、第2磁気トラック22を着磁した後に、第1磁気トラック21を着磁する順序を採用してもよい。
【0038】
すなわち、
図6(a)に示すように、まず、着磁ヨーク41の開環端部41cが、第2磁気トラック22の着磁面22aと対向して配置され、当該状態で、着磁ヨーク41により第2磁気トラック22の着磁面22aが上述のインデックス着磁法により順次着磁される。その結果、
図1に示すような、第2磁気トラック22の周方向に交互に磁極が形成された多極磁石が形成される。
【0039】
次いで、
図6(b)に示すように、上述の移動機構により着磁ヨーク41が相対的に移動され、開環端部41cが第1磁気トラック21の着磁面21aと対向する位置に配置される。このとき、開環端部41cと第1磁気トラック21の着磁面21aとの間隔d5は、第1磁気トラック21の着磁面21aと第2磁気トラック22の着磁面22aとの段差32よりも小さな間隔になっている。特に限定されないが、間隔d5は可能な限り小さくすることがより好ましい。
【0040】
当該状態で、着磁ヨーク41により第1磁気トラック21の着磁面21aが上述のインデックス着磁法により順次着磁される。その結果、
図1に示すような、第1磁気トラック21の周方向に交互に磁極が形成された多極磁石が形成される。
【0041】
この着磁方法において、第2磁気トラック22の着磁の際の開環端部41cと第2磁気トラック22の着磁面22aとの間隔d6は、上述の間隔d5と同様に、可能な限り小さな間隔になっていることがより好ましい。
【0042】
このような順序で着磁を行った場合でも、第1磁気トラックの着磁の際に、上述の間隔d5が第1磁気トラック21の着磁面21aと第2磁気トラック22の着磁面22aとの段差32よりも小さな間隔になっているため、第2磁気トラック側に漏れ出る磁力線による影響を小さくできる。その結果、隣接する磁気トラック間の磁気的干渉の度合いを低減することができ、隣接する磁気トラックにおいて所望の磁極パターンを精度よく実現することができる。
【0043】
加えて、
図5(a)
図5(b)、
図6(a)、
図6(b)において説明した着磁方法は、隣接する第1磁気トラック21と第2磁気トラック22の着磁処理の過程で着磁ヨークと磁気トラックとを相対的に移動させるだけで所望の磁極パターンをより精度よく実現することができる。すなわち、従来構成に比べて、極めて容易に着磁を行うことができる。
【0044】
なお、以上の構成においても、段差32の大きさは0.1mm以上であることが好ましい。段差32の大きさを0.1mm未満にするためには、ゴム磁石31の厚さの管理を厳密に行う必要があるため、管理が難しくなるためである。また、段差32の大きさは0.5mm以下であることがより好ましい。段差32の大きさが0.5mmを超える場合、第2磁気トラック22の厚さが不必要に大きくなるためである。
【0045】
なお、以上説明した実施形態では、アキシアル型のロータリー磁気エンコーダにおいて、内側に第1磁気トラック21が配置され、外側に第2磁気トラック22が配置されている事例について説明した。しかしながら、
図7に示すように、内側に第2磁気トラック22が配置され、外側に第1磁気トラック21が配置される構成を採用することも可能である。
【0046】
以上説明したように、本発明によれば、比較的簡便な構成で隣接する磁気トラック間の磁気的干渉の度合いを低減することができ、隣接する磁気トラックにおいて所望の磁極パターンをより精度よく実現することができる。
【0047】
なお、上述の実施形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、既に記載したもの以外でも、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。例えば、上述の実施形態では、アキシアル型のロータリー磁気エンコーダに適用した事例について説明したが、磁気トラックが隣接して配置される構成であれば、ラジアル型のロータリー磁気エンコーダやリニア磁気エンコーダに対しても適用可能である。なお、この場合、着磁装置の着磁ヨークの形態は、適用する磁気エンコーダの形態に合わせて適宜変更すればよい。また、磁気トラックの材質もゴムに限らず、公知の任意の材質を使用することができる。さらに、ゴム磁石をはじめとする上述した各要素の物理的な形状も、本発明の効果を奏する範囲内で任意に変更することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 磁気エンコーダ
10 芯金
21 第1磁気トラック
21a 第1磁気トラックの着磁面
22 第2磁気トラック
22a 第1磁気トラックの着磁面
31 ゴム磁石
32 段差
41 着磁ヨーク
41c 開環端部(着磁ヨークの先端)