(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094107
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】船舶および船舶の制御方法
(51)【国際特許分類】
B63H 25/42 20060101AFI20240702BHJP
B63H 11/08 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B63H25/42 B
B63H11/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210876
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100149009
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 稔久
(72)【発明者】
【氏名】岡本 順敬
(72)【発明者】
【氏名】松本 千宏
(57)【要約】
【課題】ジェット噴流を用いて推進する場合であっても容易に良好な直進安定性を得ることが出来る船舶を提供する。
【解決手段】第1ステアリングアクチュエータ31Aは、第1ノズルディフレクタ6Aを揺動し、第1ノズルディフレクタ6Aから噴射される水の第1方向D1を変更する。第2ステアリングアクチュエータ31Bは、第2ノズルディフレクタ6Bを揺動し、第2ノズルディフレクタ6Bから噴射される水の第2方向D2を変更する。コントローラ10は、操舵情報に基づいて船体2を真っすぐ前進させる意図があると判定した場合、第1方向D1が、船舶の重心の位置P1に応じて左側を向くように第1ステアリングアクチュエータ31Aを制御し、第2方向D2が、重心の位置に応じて右側を向くように第2ステアリングアクチュエータ31Bを制御する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジェット噴流を用いて推進する船舶であって、
船体と、
水が噴射され、左右方向に揺動可能な第1ノズルディフレクタを有し、前記船体の後部の左舷側に取り付けられた第1ジェット推進機と、
水が噴射され、前記左右方向に揺動可能な第2ノズルディフレクタを有し、前記船体の前後方向を基準として前記第1ジェット推進機と対称になるように前記船体の後部の右舷側に取り付けられた第2ジェット推進機と、
前記第1ノズルディフレクタを揺動し、前記第1ノズルディフレクタから噴射される水の第1方向を変更する第1アクチュエータと、
前記第2ノズルディフレクタを揺動し、前記第2ノズルディフレクタから噴射される水の第2方向を変更する第2アクチュエータと、
前記船体の操舵に関する操舵情報を検出する操舵情報検出部と、
前記操舵情報に基づいて前記船体を真っすぐ前進させる意図があると判定した場合、前記第1方向が、前記船舶の重心の位置に応じて左側を向くように前記第1アクチュエータを制御し、前記第2方向が、前記重心の位置に応じて右側を向くように前記第2アクチュエータを制御するコントローラと、を備えた、船舶。
【請求項2】
前記コントローラは、前記第1方向および前記第2方向は、前記重心の回りの回転モーメントをゼロに近づけるように設定する、
請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記コントローラは、前記第1方向および前記第2方向を、平面視において、前記第1ノズルディフレクタの軸方向および前記第2ノズルディフレクタの軸方向が前記重心に向かうように設定する、
請求項1に記載の船舶。
【請求項4】
前記コントローラは、前記第1方向および前記第2方向を、前記重心の位置が前方に向かうに従って前後方向からの角度が小さくなるように設定する、
請求項1に記載の船舶。
【請求項5】
前記船体に配置され、操舵角を変更するためにオペレータによって操作される操舵部材を更に備え、
前記操舵情報検出部は、前記操舵部材の操舵角度を検出し、
前記コントローラは、前記操舵角度の絶対値が0度から所定閾値までの範囲の場合に、前記船体を真っすぐ前進させる意図があると判定する、
請求項1に記載の船舶。
【請求項6】
前記船体のピッチ角を検出する角度センサを更に備え、
前記コントローラは、前記ピッチ角に基づいて前記重心の位置を求める、
請求項1に記載の船舶。
【請求項7】
前記船体のバラスト水タンクのバラスト水量を検出するバラスト水量センサを更に備え、
前記コントローラは、前記バラスト水量に基づいて前記重心の位置を求める。
請求項1に記載の船舶。
【請求項8】
前記コントローラは、前記バラスト水量と前記バラスト水タンクの位置に基づいて前記重心の位置を求める、
請求項7に記載の船舶。
【請求項9】
前記船体の乗船人数を取得する乗船人数取得部を更に備え、
前記コントローラは、前記乗船人数に基づいて前記重心の位置を求める、
請求項1に記載の船舶。
【請求項10】
乗船位置を検出する乗船位置検出部を更に備え、
前記コントローラは、前記乗船位置に基づいて前記重心の位置を求める、
請求項1に記載の船舶。
【請求項11】
予め設定された重心の初期位置を記憶する記憶部と、
前記船舶の速度に関する情報を検出する速度関連情報検出部を更に備え、
前記コントローラは、検出された前記速度から求めたピッチ角と、前記角度センサの検出による前記ピッチ角との差が所定量以上の場合、前記ピッチ角に基づいた前記重心の位置を用いず、前記初期位置を前記重心の位置とする、
請求項6に記載の船舶。
【請求項12】
前記第1ジェット推進機および前記第2ジェット推進機に発生させるスラストを調整するスロットル部を更に備え、
前記速度関連情報検出部は、前記スロットル部の開度を検出する開度センサを有し、
前記コントローラは、前記開度から前記速度を求める、
請求項11に記載の船舶。
【請求項13】
前記第1ジェット推進機は、第1駆動源を更に有し、
前記第2ジェット推進機は、第2駆動源を更に有し、
前記速度関連情報検出部は、前記第1駆動源または前記第2駆動源の回転数を検出する回転数センサを有し、
前記コントローラは、前記回転数から前記速度を求める、
請求項11に記載の船舶。
【請求項14】
前記コントローラは、
前記操舵情報に基づいて、目標操舵角度を求め、
前記目標操舵角度が前記左舷側の場合、操舵角度の絶対値が0度から所定閾値までの範囲において、前記第1ノズルディフレクタは駆動させずに前記第2ノズルディフレクタのみを駆動させ、
前記目標操舵角度が前記右舷側の場合、前記操舵角度の絶対値が0度から所定閾値までの範囲において、前記第2ノズルディフレクタは駆動させずに前記第1ノズルディフレクタのみを駆動させる、
請求項1に記載の船舶。
【請求項15】
前記第1ジェット推進機と前記第2ジェット推進機の前後進を切り換えるスロットル部と、
前記スロットル部の位置を検出するスロットル部材位置検出部と、を備え、
前記コントローラは、前記スロットル部の位置および前記操舵情報に基づいて前記船体が真っすぐ後進させる意図があると判定した場合、前記第1方向が左側を向くように前記第1アクチュエータを制御し、前記第2方向が右側に向くように前記第2アクチュエータを制御する、
請求項1に記載の船舶。
【請求項16】
船体と、
水が噴射され、左右方向に揺動可能な第1ノズルディフレクタを有し、前記船体の後部の左舷側に取り付けられた第1ジェット推進機と、
水が噴射され、前記左右方向に揺動可能な第2ノズルディフレクタを有し、前記船体の前後方向を基準として前記第1ジェット推進機と対称になるように前記船体の後部の右舷側に取り付けられた第2ジェット推進機と、
前記第1ノズルディフレクタを揺動し、前記第1ノズルディフレクタから噴射される水の第1方向を変更する第1アクチュエータと、
前記第2ノズルディフレクタを揺動し、前記第2ノズルディフレクタから噴射される水の第2方向を変更する第2アクチュエータと、を備えた船舶の制御方法であって、
前記船体の操舵に関する情報に基づいて前記船体を真っすぐ前進させる意図があることを検出することと、
前記船体の真っすぐ前進させる意図があることを検出した場合、前記第1方向が、前記船舶の重心の位置に応じて左側を向くように前記第1アクチュエータを制御し、前記第2方向が、前記重心の位置に応じて右側を向くように前記第2アクチュエータを制御することと、を備えた、
船舶の制御方法。
【請求項17】
船体と、
前記船体の左舷側に取り付けられ、水を押し出すことで推力を発生する第1推進機と、
前記船体の前後方向を基準として前記第1推進機と対称になるように前記船体の右舷側に取り付けられ、水を押し出すことで推力を発生する第2推進機と、
前記第1推進機が押し出す水の第1方向および前記第2推進機が押し出す水の第2方向を変更する方向変更部と、
前記船体の操舵に関する操舵情報を検出する操舵情報検出部と、
前記操舵情報に基づいて前記船体を真っすぐ前進させる意図があると判定した場合、前記第1方向が、前記船舶の重心の位置に応じて左側を向き、前記第2方向が、前記船舶の重心の位置に応じて右側を向くように、前記方向変更部を制御するコントローラと、を備えた、
船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶および船舶の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スポーツボートおよびジェットボード等のジェット噴流を用いて推進する船舶が知られている。このような船舶では、ジェット噴流の向きを変えることによって操舵方向を変更している。
【0003】
しかしながら、ジェット噴流タイプの船舶には、プロペラタイプの船舶のような舵が設けられていないため、良好な直進安定性を得るのにさらなる工夫を必要としている。
【0004】
一方、良好な直進性を得るために、船体の左右の振れが抑制されるように、各船外機のプロペラの回転軸の延長線が船外機よりも進行方向前方で交差するように、直進時にプロペラを外側に向ける構成が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示の構成はプロペラタイプであり、ジェット噴流を用いる船舶に適用し良好な直進安定性を得るためには更なる改良が必要である。
【0007】
本発明の目的は、ジェット噴流を用いて推進する場合であっても容易に良好な直進安定性を得ることが可能な船舶および船舶の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1の態様に係る船舶は、ジェット噴流を用いて推進する船舶であって、船体と、第1ジェット推進機と、第2ジェット推進機と、第1アクチュエータと、第2アクチュエータと、操舵情報検出部と、コントローラと、を備える。第1ジェット推進機は、水が噴射され、左右方向に揺動可能な第1ノズルディフレクタを有し、船体の後部の左舷側に取り付けられる。第2ジェット推進機は、水が噴射され、左右方向に揺動可能な第2ノズルディフレクタを有し、船体の前後方向を基準として第1ジェット推進機と対称になるように船体の後部の右舷側に取り付けられる。第1アクチュエータは、第1ノズルディフレクタを揺動し、第1ノズルディフレクタから噴射される水の第1方向を変更する。第2アクチュエータは、第2ノズルディフレクタを揺動し、第2ノズルディフレクタから噴射される水の第2方向を変更する。操舵情報検出部は、船体の操舵に関する操舵情報を検出する。コントローラは、操舵情報に基づいて船体を真っすぐ前進させる意図があると判定した場合、第1方向が、船舶の重心の位置に応じて左側を向くように第1アクチュエータを制御し、第2方向が、重心の位置に応じて右側を向くように第2アクチュエータを制御する。
【0009】
本開示の第2の態様に係る船舶の制御方法は、船体と、第1ジェット推進機と、第2ジェット推進機と、第1アクチュエータと、第2アクチュエータと、を備えた船舶の制御方法である。第1ジェット推進機は、水が噴射され、左右方向に揺動可能な第1ノズルディフレクタを有し、船体の後部の左舷側に取り付けられる。第2ジェット推進機は、水が噴射され、左右方向に揺動可能な第2ノズルディフレクタを有し、船体の前後方向を基準として第1ジェット推進機と対称になるように船体の後部の右舷側に取り付けられる。第1アクチュエータは、第1ノズルディフレクタを揺動し、第1ノズルディフレクタから噴射される水の第1方向を変更する。第2アクチュエータは、第2ノズルディフレクタを揺動し、第2ノズルディフレクタから噴射される水の第2方向を変更する。船舶の制御方法は、以下の処理を備える。第1の処理は、船体の操舵に関する情報に基づいて船体を真っすぐ前進させる意図があることを検出することである。第2の処理は、船体の真っすぐ前進させる意図があることを検出した場合、第1方向が、船舶の重心の位置に応じて左側を向くように第1アクチュエータを制御し、第2方向が、重心の位置に応じて右側を向くように第2アクチュエータを制御することである。
【0010】
本開示の第3の態様に係る船舶は、船体と、第1推進機と、第2推進機と、方向変更部と、操作情報検出部と、コントローラと、を備える。第1推進機は、船体の左舷側に取り付けられ、水を押し出すことで推力を発生する。第2推進機は、船体の前後方向を基準として第1推進機と対称になるように船体の右舷側に取り付けられ、水を押し出すことで推力を発生する。方向変更部は、第1推進機が押し出す水の第1方向および第2推進機が押し出す水の第2方向を変更する。操舵情報検出部は、船体の操舵に関する操舵情報を検出する。コントローラは、操舵情報に基づいて船体を真っすぐ前進させる意図があると判定した場合、第1方向が、船舶の重心の位置に応じて左側を向き、第2方向が、船舶の重心の位置に応じて右側を向くように、方向変更部を制御する。
【発明の効果】
【0011】
真っすぐ前進する意図があると判定した場合、第1ノズルディフレクタから噴出される水の方向が船舶の重心の位置に応じて左側を向き、第2ノズルディフレクタから噴出される水の方向が船舶の重心の位置に応じて右側を向く。このように、船舶の重心を考慮して第1ノズルディフレクタと第2ノズルディフレクタからの水の噴出方向を設定することができるため、容易に良好な直進安定性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図4】船舶の制御のためのシステムを示す模式図である。
【
図5】第1ノズルディフレクタの第1方向および第2ノズルディフレクタの第2方向を説明するための平面図である。
【
図6】(a)、(b)船舶のピッチ角を説明するための側面図である。
【
図7】(a)、(b)船舶の重心の位置に応じた第1ノズルディフレクタの第1方向および第2ノズルディフレクタの第2方向の変更を説明するための平面図である。
【
図8】(a)ステアリング部材の操舵角度とノズル角度の関係のグラフを示す図である、(b)~(f)操舵に伴う第1ノズルディフレクタの第1方向および第2ノズルディフレクタの第2方向の制御を説明するための平面模式図である。
【
図9】実施形態に係る船舶の制御方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態に係る船舶について図面を参照して説明する。
図1は、実施形態に係る船舶1の側面図である。
図2は、船舶1の上面図である。本実施形態において、船舶1は、ジェットボートまたはスポーツボートと呼ばれるタイプの船である。
【0014】
船舶1は、船体2と、第1推進機3Aと、第2推進機3Bとを含む。船体2は、デッキ11とハル12とを含む。ハル12は、デッキ11の下方に配置されている。デッキ11には、操船席13が配置されている。第1推進機3Aと第2推進機3Bとは、船体2に取り付けられている。第1推進機3Aは、船体2の後部の左舷側に取り付けられている。第2推進機3Bは、船体2の後部の右舷側に取り付けられている。第1推進機3Aと第2推進機3Bとは、ジェット推進機である。なお、前後方向および左右方向は、船舶1を基準とする方向である。すなわち、船舶1の前進方向を前方とし、後進方向を後方とする。また、船舶1の前進方向に対して右方向を右方とし、船舶1の前進方向に対して左方向を左方とする。第1推進機3Aと第2推進機3Bは、船体2の左右方向の中心を通る前後方向に沿った軸Oの両側に配置されている。
【0015】
図3は、船舶1の側面断面図である。
図3においては第1推進機3Aの一部が断面で示されている。
図3に示すように、第1推進機3Aは、船体2に収容されている。第1推進機3Aは、第1エンジン4Aと、第1ジェットポンプ5Aと、第1ノズルディフレクタ6Aと、第1リバースゲート7Aとを含む。第1エンジン4Aは、第1ジェットポンプ5Aに接続されている。第1ジェットポンプ5Aは、第1エンジン4Aによって駆動されることで、船体2のまわりの水を吸い込んで噴射する。それにより、第1ジェットポンプ5Aは、船体2を移動させる推進力を発生させる。
【0016】
第1ジェットポンプ5Aは、ドライブシャフト21と、インペラ22と、ポンプハウジング23とを含む。ドライブシャフト21は、カップリング24を介して、第1エンジン4Aの出力軸25に接続されている。インペラ22は、ドライブシャフト21に接続されている。インペラ22は、ポンプハウジング23内に配置されている。インペラ22は、ドライブシャフト21とともに回転して、水吸引口26から水を吸引する。インペラ22は、吸引した水をポンプハウジング23の噴射口から後方に噴射させる。
【0017】
第1ノズルディフレクタ6Aは、第1ジェットポンプ5Aの後方に配置されている。第1ノズルディフレクタ6Aは、左右に揺動可能に配置されている。第1ノズルディフレクタ6Aは、第1ジェットポンプ5Aからの水の噴射方向を左右方向に転換する。第1リバースゲート7Aは、第1ノズルディフレクタ6Aの後方に配置されている。第1リバースゲート7Aは、前進位置と後進位置とに切換可能に配置されている。第1リバースゲート7Aが前進位置と後進位置とに切り換えられることで、第1ジェットポンプ5Aからの噴流の方向が変更される。それにより、船舶1の前進と後進とが切り換えられる。
【0018】
第2推進機3Bは、船体2の前後方向に沿った軸Oを基準にして、第1推進機3Aと左右対称に配置されている。第2推進機3Bは、第1推進機3Aと同様の構成を有している。
図2に示すように、第2推進機3Bは、第2エンジン4Bと、第2ジェットポンプ5Bと、第2ノズルディフレクタ6Bと、第2リバースゲート7Bとを含む。第2エンジン4Bと、第2ジェットポンプ5Bと、第2ノズルディフレクタ6Bと、第2リバースゲート7Bは、第1エンジン4Aと、第1ジェットポンプ5Aと、第1ノズルディフレクタ6Aと、第1リバースゲート7Aと同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0019】
図2に示すように、船体2は、バラスト水タンク41,42,43を備えている。バラスト水タンク41,42,43は、船体2に収容される。詳細には、船体2は、第1バラスト水タンク41と、第2バラスト水タンク42と、第3バラスト水タンク43と、を備えている。第1バラスト水タンク41は、船体2の左右方向における中央に配置されている。第2バラスト水タンク42と第3バラスト水タンク43は、左右対称に配置されている。なお、バラスト水タンクの数は、3つに限らず、3つより少ない、或いは3つより多くてもよい。
【0020】
図4は、船舶1の操船のためのシステムを示す模式図である。
図4に示すように、船舶1は、コントローラ10を含む。コントローラ10は、CPUなどのプロセッサと、RAM,ROMなどのメモリ(記憶部の一例)とを含む。コントローラ10は、船舶1を制御するようにプログラムされている。
【0021】
船舶1は、第1ステアリングアクチュエータ31A(第1アクチュエータの一例)と第1シフトアクチュエータ32Aとを含んでいる。コントローラ10は、第1エンジン4A、第1ステアリングアクチュエータ31A、及び第1シフトアクチュエータ32Aと通信可能に接続されている。
【0022】
第1ステアリングアクチュエータ31Aは、第1推進機3Aの第1ノズルディフレクタ6Aに接続されている。第1ステアリングアクチュエータ31Aは、第1ノズルディフレクタ6Aの水の噴出方向である第1方向を変更する。
図5は、第1ノズルディフレクタの第1方向および第2ノズルディフレクタの第2方向を説明するための図である。
図5に示すように、第1方向D1は、第1ノズルディフレクタ6Aの軸線M1上を後に向かう方向である。第1方向D1は、第1ノズルディフレクタ6Aのノズル角度αで表わすことができる。ノズル角度αは、前後方向M0のうち真後ろに向かう方向と第1方向D1の成す角度である。ノズル角度αは、船舶1の前後方向M0に対する第1ノズルディフレクタ6Aから後方に延びる第1ノズルディフレクタ6Aの軸線M1の角度である。第1ステアリングアクチュエータ31Aは、第1推進機3Aが水を押し出す第1方向D1のノズル角度αを変更する。第1ステアリングアクチュエータ31Aは、例えば電動モータである。或いは、第1ステアリングアクチュエータ31Aは、油圧シリンダ等の他のアクチュエータであってもよい。
【0023】
第1シフトアクチュエータ32Aは、第1推進機3Aの第1リバースゲート7Aに接続されている。第1シフトアクチュエータ32Aは、第1リバースゲート7Aの位置を前進位置と後進位置とに切り換える。第1シフトアクチュエータ32Aは、例えば電動モータである。或いは、第1シフトアクチュエータ32Aは、油圧シリンダ等の他のアクチュエータであってもよい。
【0024】
船舶1は、第2ステアリングアクチュエータ31B(第2アクチュエータの一例)と第2シフトアクチュエータ32Bとを含んでいる。コントローラ10は、第2エンジン4B、第2ステアリングアクチュエータ31B、及び第2シフトアクチュエータ32Bと通信可能に接続されている。第2ステアリングアクチュエータ31Bは、第2ノズルディフレクタ6Bの水の噴出方向である第2方向を変更する。
図5に示すように、第2方向D2は、第2ノズルディフレクタ6Bの軸線M2上を後に向かう方向である。第2方向D2は、第2ノズルディフレクタ6Bのノズル角度βで表わすことができる。ノズル角度βは、前後方向M0のうち真後ろに向かう方向と第2方向D2の成す角度である。ノズル角度βは、船舶1の前後方向M0に対する第2ノズルディフレクタ6Bから後方に延びる第2ノズルディフレクタ6Bの軸線M2の角度である。第2ステアリングアクチュエータ31Bは、第2推進機3Bが水を押し出す第2方向D2のノズル角度βを変更する。第2ステアリングアクチュエータ31Bは、例えば電動モータである。或いは、第2ステアリングアクチュエータ31Bは、油圧シリンダ等の他のアクチュエータであってもよい。また、第1ステアリングアクチュエータ31Aおよび第2ステアリングアクチュエータ31Bは、第1推進機3Aの水を押し出す方向の角度および第2推進機3Bの水を押し出す角度を変更する角度変更部に含まれる。
【0025】
第2シフトアクチュエータ32Bは、第2推進機3Bの第2リバースゲート7Bに接続されている。第2シフトアクチュエータ32Bは、第2リバースゲート7Bの位置を前進位置と後進位置とに切り換える。第2シフトアクチュエータ32Bは、例えば電動モータである。或いは、第2シフトアクチュエータ32Bは、油圧シリンダ等の他のアクチュエータであってもよい。
【0026】
船舶1は、ステアリング部材14(操舵部材の一例)と、リモートコントローラ15(スロットル部の一例)と、を含む。コントローラ10は、ステアリング部材14と、リモートコントローラ15と通信可能に接続されている。ステアリング部材14とリモートコントローラ15は、操船席13に配置されている。
【0027】
ステアリング部材14は、船舶1を操舵するために操作される。すなわち、ステアリング部材14の操作に応じて、コントローラ10は、船舶1の船首方向を制御する。ステアリング部材14は、例えばステアリングホイールである。ステアリング部材14は、センサ140(操舵情報検出部の一例)を含む。センサ140は、ステアリング部材14の操作方向および操作量を示すステアリング信号を出力する。
【0028】
コントローラ10は、センサ140からステアリング信号を受信する。コントローラ10は、ステアリング信号に基づいて、第1ステアリングアクチュエータ31Aを制御することで、第1推進機3Aのノズル角度を制御する。コントローラ10は、ステアリング信号に基づいて、第2ステアリングアクチュエータ31Bを制御することで、第2推進機3Bのノズル角度を制御する。これにより、船舶1の船首方向が左右に変更される。
【0029】
リモートコントローラ15は、第1推進機3Aと第2推進機3Bのスラストの大きさを調整するための装置である。リモートコントローラ15は、第1スロットル部材15Aと、第2スロットル部材15Bとを含む。第1スロットル部材15Aは、第1エンジン4Aの出力の調整、及び前後進の切換のために操作される。第2スロットル部材15Bは、第2エンジン4Bの出力の調整、及び前後進の切換のために操作される。第1スロットル部材15Aは、センサ151(開度センサの一例、スロットル部材位置検出部の一例)を含む。センサ151は、第1スロットル部材15Aの操作方向および操作量を示す第1スロットル信号を出力する。第2スロットル部材15Bは、センサ152(開度センサの一例、スロットル部材位置検出部の一例)を含む。センサ152は、第2スロットル部材15Bの操作方向および操作量を示す第2スロットル信号を出力する。第1スロットル部材15Aと、第2スロットル部材15Bとは、それぞれレバーを含む。ただし、第1スロットル部材15Aと第2スロットル部材15Bとは、スイッチなどのレバーと異なる部材を含んでもよい。
【0030】
コントローラ10は、第1スロットル信号と第2スロットル信号を受信する。コントローラ10は、第1スロットル信号が示す第1スロットル部材15Aの操作量に応じて、第1エンジン4Aの回転速度を制御する。コントローラ10は、第2スロットル信号が示す第2スロットル部材15Bの操作量に応じて、第2エンジン4Bの回転速度を制御する。コントローラ10は、第1スロットル信号が示す第1スロットル部材15Aの操作方向に応じて、第1シフトアクチュエータ32Aを制御する。それにより、第1推進機3Aの推進力の方向が前進方向と後進方向とに切り換えられる。コントローラ10は、第2スロットル信号が示す第2スロットル部材15Bの操作方向に応じて、第2シフトアクチュエータ32Bを制御する。それにより、第2推進機3Bの推進力の方向が前進方向と後進方向とに切り換えられる。
【0031】
船舶1は、
図4に示すように、第1回転数センサ33Aと、第2回転数センサ33Bと、角度センサ51と、バラスト水量センサ52と、シートセンサ53とを含む。コントローラ10は、第1回転数センサ33Aと、第2回転数センサ33Bと、角度センサ51と、バラスト水量センサ52と、シートセンサ53と通信可能に接続されている。
【0032】
第1回転数センサ33Aは、第1エンジン4Aの回転数を検出する。第1回転数センサ33Aは、第1エンジン4Aの回転数を示す第1回転数信号をコントローラ10に出力する。第2回転数センサ33Bは、第2エンジン4Bの回転数を検出する。第2回転数センサ33Bは、第2エンジン4Bの回転数を示す第2回転数信号をコントローラ10に出力する。コントローラ10は、第1回転数信号または第2回転数信号から、船舶1の速度を検出する。なお、コントローラ10は、第1回転数信号と第2回転数信号から速度を求めることに限られず、センサ151からの第1スロットル信号が示す第1スロットル部材15Aの開度とセンサ152からの第2スロットル信号が示す第2スロットル部材15Bの開度に基づいて船舶1の速度を求めてもよい。また、コントローラ10は、例えばGPS(Global Positioning System)を利用して船舶1の速度を求めてもよい。
【0033】
角度センサ51は、船体2のピッチ角γを検出する。角度センサ51は、船体2のピッチ角γを示すピッチ角信号をコントローラ10に出力する。角度センサ51は、例えばIMU(Inertial Measurement Unit)を用いることができる。
図6(a)および
図6(b)は、ピッチ角γを説明するための図である。
図6(a)は、静止している状態の船舶1の側面図である。静止状態の船舶1において前後方向を結ぶ直線がL1で示されている。船舶1が航行すると船首側が持ち上がるため、直線L1も前側が上方に向かって傾斜する。直線L1と水平線L0との成す角度がピッチ角γとなる。
【0034】
バラスト水量センサ52は、第1バラスト水タンク41、第2バラスト水タンク42、および第3バラスト水タンク43のそれぞれに設けられている。バラスト水量センサ52は、第1バラスト水タンク41、第2バラスト水タンク42、および第3バラスト水タンク43のそれぞれの水量を検出する。バラスト水量センサ52は、例えば、水位センサである。バラスト水量センサ52は、それぞれのバラスト水タンクの水量を示すバラスト水量信号をコントローラ10に出力する。
【0035】
シートセンサ53は、船舶1の各座席に配置されている。シートセンサ53は、座席に人が着座したことを検出する。シートセンサ53は、着座を検出すると、着座信号をコントローラ10に出力する。コントローラ10は、着座信号に基づいて、船舶1における乗船人数および乗船位置を求めることができる。
【0036】
コントローラ10は、操舵情報に基づいて船体2を真っすぐ前進させる意図があると判定した場合、
図5に示すように、第1方向D1が、船舶1の重心の位置に応じて左側を向くように第1ステアリングアクチュエータ31Aを制御し、第2方向D2が、船舶1の重心の位置に応じて右側を向くように第2ステアリングアクチュエータ31Bを制御する。
【0037】
コントローラ10は、センサ140からのステアリング信号(操作情報の一例)、センサ151からの第1スロットル信号、およびセンサ152からの第2スロットル信号に基づいて船体2を真っすぐ前進させる意図があるか否かを判定する。コントローラ10は、例えば、ステアリング信号が示す操作量から、操舵角度の絶対値がゼロ度から所定閾値までの範囲であり、第1スロットル信号および第2スロットル信号から第1スロットル部材15Aと第2スロットル部材15Bの操作方向が前進に位置する場合、船体をまっすぐ前進させる意図があると判定する。なお、真っすぐとは船舶1の前後方向に沿った方向である。なお、操舵角度の所定閾値は、遊びおよび誤差を含む範囲であり、社会通念上、真っすぐと見なされる角度範囲に設定される。
【0038】
コントローラ10は、船舶1の重心の初期位置P0(
図2参照)を記憶している。重心の初期位置P0は、設計の際に予め決定することができる。コントローラ10は、ピッチ角信号に示されるピッチ角γに基づいて、重心位置を求める。コントローラ10は、ピッチ角と重心位置の関係を示すテーブルを記憶している。例えば、船舶1が航行してピッチ角が大きくなると、重心位置は後方に移動する。
図2には、初期位置P0から後方に移動した重心位置P1が示されている。このように、コントローラ10は入力されるピッチ角信号に基づいて、初期位置P0から移動する重心位置P1を求めることができる。
【0039】
コントローラ10は、バラスト水量センサ52からのバラスト水量信号に基づいて、船舶1の重心の位置を求めてもよい。バラスト水量によって、重心位置は前後方向に移動する。例えば、第1バラスト水タンク41の水量が多く、第2バラスト水タンク42および第3バラスト水タンク43の水量が少ない場合には、重心位置は初期位置P0より前方に移動する。一方、第1バラスト水タンク41の水量が少なく、第2バラスト水タンク42および第3バラスト水タンク43の水量が多い場合、重心位置は初期位置P0より後方に移動する。
【0040】
コントローラ10は、シートセンサ53からの着座信号に基づいて乗船人数および乗船位置を求め、乗船人数および乗船位置から重心位置を求めてもよい。例えば、前側の座席に人が着座し、後側の座席に人が着座していない場合、重心位置は初期位置P0より前方に移動する。なお、角度センサ51によってピッチ角γを検出できない場合に、バラスト水量センサ52からのバラスト水量信号とシートセンサ53からの着座信号の、双方または一方に基づいて重心位置を求めてもよい。
【0041】
コントローラ10は、船舶1の速度からピッチ角を求め、角度センサ51のピッチ角が正しか否かを判定する。正しくないと判定した場合、コントローラ10は、角度センサ51のピッチ角から求めた重心位置を用いずに、初期位置P0を重心位置とする。コントローラ10は、船舶1の速度とピッチ角との関係を示すテーブルを記憶している。コントローラ10は、上述したように船舶1の速度を求め、求めた速度からテーブルを用いてピッチ角を求める。コントローラ10は、速度から求めたピッチ角と、角度センサ51が検出したピッチ角とを比較し、差が所定量以上の場合、角度センサ51が検出したピッチ角γに基づいて求めた重心位置を用いず、初期位置P0を重心位置とする。所定量は、角度センサ51の誤差、および速度から求めるピッチ角の誤差も含めた量に設定される。なお、速度から求めたピッチ角と角度センサ51が検出したピッチ角との差が所定量以上の場合、初期位置P0を重心位置とする代わりに、バラスト水量センサ52からのバラスト水量信号とシートセンサ53からの着座信号の、双方または一方に基づいて重心位置を求めてもよい。
【0042】
コントローラ10は、操舵情報に基づいて船体2を真っすぐ前進させる意図があると判定した場合、第1方向D1および第2方向D2を、求めた重心の位置回りの回転モーメントをゼロに近づけるように、第1ステアリングアクチュエータ31Aおよび第2ステアリングアクチュエータ31Bを制御する。具体的には、
図5に示すように、コントローラ10は、第1方向D1が前後方向から外側(左舷側)を向くように第1ステアリングアクチュエータ31Aを制御する。コントローラ10は、第2方向D2が前後方向から外側(右舷側)を向くように第2ステアリングアクチュエータ31Bを制御する。
図5に示すように、第1方向D1と第2方向D2は、後方に向かうに従って互いに間隔が大きくなるように設定される。
【0043】
コントローラ10は、操舵情報に基づいて船体2を真っすぐ前進させる意図があると判定した場合、第1方向D1および第2方向D2を、求めた重心の位置回りの回転モーメントが最小となるように、第1ステアリングアクチュエータ31Aおよび第2ステアリングアクチュエータ31Bを制御してもよい。
【0044】
例えば、コントローラ10は、操舵情報に基づいて船体2を真っすぐ前進させる意図があると判定した場合、
図7(a)の平面視に示すように、第1方向D1と一致する軸線M1が、求めた重心の位置P1と交わるように第1ステアリングアクチュエータ31Aを制御するほうが好ましい。コントローラ10は、操舵情報に基づいて船体2を真っすぐ前進させる意図があると判定した場合、
図7の平面視に示すように、第2方向D2と一致する軸線M2が、求めた重心の位置P1と交わるように第2ステアリングアクチュエータ31Bを制御する方が好ましい。このように、前進する際に、第1ノズルディフレクタ6Aから水が噴射される第1方向D1と、第2ノズルディフレクタ6Bから水が噴射される第2方向D2とが幅方向の外側を向くように制御することによって、良好な直進安定性を得ることができる。軸線M1に沿った方向が、第1ノズルディフレクタの軸方向の一例であり、軸線M2に沿った方向が、第2ノズルディフレクタの軸方向の一例である。なお、
図7(a)に示すように軸線M1および軸線M2が重心の位置P1上を通らなくてもよく、重心の位置P1回りの回転モーメントが小さくなるように軸線M1と軸線M2が設定されれば、良好な直進安定性を得ることができる。
【0045】
コントローラ10は、重心位置P1が前方に向かうに従って、前後方向M0からのノズル角度αおよびノズル角度βが小さくなるように第1方向D1および第2方向D2を設定する。
【0046】
コントローラ10は、真っすぐ後進する際にも、第1方向D1が左側を向くように第1ステアリングアクチュエータ31Aを制御し、第2方向D2が右側を向くように第2ステアリングアクチュエータ31Bを制御してもよい。すなわち、第1方向D1が船舶1の重心の位置に応じて左側を向き、第2方向D2が船舶1の重心の位置に応じて右側を向いている状態で前進した後に、リモートコントローラ15を操作して後進する際も、第1方向D1と第2方向D2を前進時と同じ状態にしてもよい。
【0047】
図8(a)は、ステアリング部材14の操舵角度とノズル角度の関係のグラフを示す図である。
図8(a)の横軸は、ステアリング部材14の操舵角度を示す。原点を基準に横軸のマイナス側が左舷側への操舵角度を示し、横軸のプラス側が右舷側への操舵角度を示し、原点は中立位置を示す。マイナスの値が大きくなると、左側にステアリング部材14を大きく操作したことを示し、プラスの値が大きくなると、右側にステアリング部材14を大きく操作したことを示す。
図8(a)の縦軸は、ノズル角度を示す。原点はノズル角度がゼロの状態を示し、第1方向D1および第2方向D2が前後方向M0に沿った状態を示す。縦軸のプラス側が左舷側に向かうノズル角度の大きさを示し、縦軸のマイナス側が右舷側に向かうノズル角度の大きさを示す。プラスの値が大きくなると、左舷側にノズル角度が大きくなったことを示し、マイナスの値が大きくなると、右舷側にノズル角度が大きくなったことを示す。第1グラフg1は、第1ノズルディフレクタ6Aのノズル角度αの操舵角度に対する変化を示し、第2グラフg2は、第2ノズルディフレクタ6Bのノズル角度βの操舵角度に対する変化を示す。
【0048】
図8(a)に示すように、コントローラ10は、ステアリング部材14の操作による目標操舵角度が左舷側(横軸マイナス側)の場合、操舵角度が0°から-θ1°(所定閾値の一例)までの範囲(絶対値が0°からθ1°ともいえる)において、第1ノズルディフレクタ6Aは駆動させずに第2ノズルディフレクタ6Bのみを駆動するように第1ステアリングアクチュエータ31Aおよび第2ステアリングアクチュエータ31Bを制御する。
【0049】
前進時のノズル角度αをC°とし、ノズル角度βを-C°とする。
図8(b)は、前進時においてステアリング部材14の操舵角度が0°のときの第1方向D1および第2方向D2の状態を示す模式図である。
図8(b)に示すように、本実施形態では、良好な直進安定性を得るために、重心の位置P1に応じて、第1方向D1および第2方向D2を外側に向けている。
【0050】
図8(c)は、前進時においてステアリング部材14を左側に操作し、操舵角度が-θ2°(
図8(a)参照)になったときの第1方向D1および第2方向D2を示す模式図である。操舵角度が-θ2°の場合、第1ノズルディフレクタ6Aのノズル角度αは一定であるため第1ノズルディフレクタ6Aの第1方向D1は変更されず、第2ノズルディフレクタ6Bのノズル角度βのみが変更される。操舵角度が-θ2°のときの第2ノズルディフレクタ6Bのノズル角度βは0°であるため、第2方向D2は、前後方向に沿っている。
【0051】
図8(d)は、前進時においてステアリング部材14を左側に操作し、操舵角度が-θ1°(
図8(a)参照)になったときの第1方向D1および第2方向D2を示す模式図である。操舵角度が-θ2°の場合、第1ノズルディフレクタ6Aのノズル角度αは一定であるため第1ノズルディフレクタ6Aの第1方向D1は変更されず、第2ノズルディフレクタ6Bのノズル角度βのみが変更される。操舵角度が-θ1°のときの第2ノズルディフレクタ6Bのノズル角度βはC°であるため、第2方向D2は、第1方向D1と平行になる。
【0052】
図8(e)は、前進時においてステアリング部材14を左側に操作し、操舵角度が-θ3°(
図8(a)参照)になったときの第1方向D1および第2方向D2を示す模式図である。操舵角度が-θ3°の場合、第1ノズルディフレクタ6Aのノズル角度αと第2ノズルディフレクタ6Bのノズル角度βの双方が同様に変更される。
【0053】
このように、前進時に第1ノズルディフレクタ6Aを外側に向けているため、ステアリング部材14の操作による目標操舵角度が左舷側の場合、操舵角度が0°から-θ1°までの範囲では、第1ノズルディフレクタ6Aは駆動させずに第2ノズルディフレクタ6Bのみが駆動される。
【0054】
なお、左舷側の場合と同様に、右舷側においても、コントローラ10は、ステアリング部材14の操作による目標操舵角度が右舷側(横軸プラス側)の場合、操舵角度が0°から+θ1°(所定閾値の一例)までの範囲(絶対値が0°からθ1°ともいえる)において、第2ノズルディフレクタ6Bは駆動させずに第1ノズルディフレクタ6Aのみを駆動するように第1ステアリングアクチュエータ31Aおよび第2ステアリングアクチュエータ31Bを制御する。
【0055】
以下、船舶の制御方法について説明する。
図9は、船舶の制御方法のフロー図を示す図である。
【0056】
ステップS10において、コントローラ10は、操舵情報に基づいて船体2を真っすぐ前進させる意図があるか否かの判定を行う。コントローラ10は、センサ140からのステアリング信号、センサ151からの第1スロットル信号、およびセンサ152からの第2スロットル信号に基づいて船体2を真っすぐ前進させる意図があるか否かを判定する。
【0057】
ステップS10において、船体2を真っすぐに前進させる意図があると判定されない場合は、船体2を真っすぐに前進させる意図があると判定するまで制御は待機する。
【0058】
船体2をまっすぐ前進させる意図があると判定した場合、ステップS11において、コントローラ10は、船舶1の重心の位置を求める。例えば、コントローラ10は、角度センサ51からのピッチ角信号と、バラスト水量センサ52からのバラスト水量信号と、シートセンサ53からの着座信号とに基づいて、重心の位置P1を算出する。
【0059】
次に、ステップS12において、コントローラ10は、船舶1の速度を検出する。例えば、コントローラ10は、第1回転数センサ33Aからの第1回転数信号と、第2回転数センサ33Bからの第2回転数信号に基づいて、船舶1の速度を求める。若しくは、コントローラ10は、センサ151からの第1スロットル信号とセンサ152からの第2スロットル信号に基づいて船舶1の速度を求めてもよい。
【0060】
次に、ステップS13において、コントローラ10は、速度から求めたピッチ角と、角度センサ51が検出したピッチ角とを比較し、差が所定量以上であるか否かを判定する。
【0061】
ステップS13における差が所定量以上の場合、ステップS14において、コントローラ10は、船舶1の重心の位置として初期位置P0を採用する。
【0062】
一方、ステップS13における差が所定量未満の場合、ステップS15において、コントローラ10は、ステップS11において求めた重心の位置を採用する。
【0063】
次に、ステップS16において、コントローラ10は、
図5に示すように、求めた重心の位置に応じて、第1方向D1および第2方向D2を、採用した重心の位置回りの回転モーメントをゼロに近づけるように、第1ステアリングアクチュエータ31Aおよび第2ステアリングアクチュエータ31Bを制御する。
【0064】
以上説明した本実施形態に係る船舶1によれば、真っすぐ前進する意図があると判定した場合、第1ノズルディフレクタ6Aから噴出される水の第1方向D1が船舶1の重心の位置に応じて後方左側を向き、第2ノズルディフレクタ6Bから噴出される水の第2方向D2が、重心の位置に応じて後方右側を向く。このように、船舶の重心を考慮して第1ノズルディフレクタ6Aと第2ノズルディフレクタ6Bからの水の噴出方向を設定することができるため、良好な直進安定性を得ることができる。
【0065】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0066】
船舶1は、ジェットボートに限らず、船外機を備えた船舶など、他の種類の船舶であってもよい。船舶1の推進機の数は、2つに限らず、2つより少なくてもよく、或いは2つより多くてもよい。船舶1の推進機は、ジェット推進機に限らず、船外機などの他の種類の推進機であってもよい。船舶1は、サイドスラスターを備えてもよい。
【0067】
上記実施形態の船舶1には、スロットル部材の一例としてリモートコントローラ15が用いられているが、これに限らなくてもよく、ジョイスティックレバーまたはスイッチ等であってもよい。
【0068】
上記実施形態の船舶1には、乗船人数取得部および乗船位置検出部の一例として、シートセンサ53が設けられているが、これに限らなくてもよい。例えば、カメラ等の撮像装置が船舶1に設けられていてもよい。その場合、撮像した画像データをコントローラ10が解析し、乗船人数および乗船位置を求めてもよい。また、船舶1に入力装置が設けられ、オペレータが乗船人数および乗船位置を入力してもよい。
【0069】
上記実施形態の船舶1には、第1駆動源の一例として内燃機関である第1エンジン4Aが設けられ、第2駆動源の一例として内燃機関である第2エンジン4Bが設けられているが、これに限らず、モータ等の電動機であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本開示の船舶によれば、ジェット噴流を用いて推進する場合であっても容易に良好な直進安定性を得ることが出来る。
【符号の説明】
【0071】
1:船舶、2:船体、3A:第1推進機、3B:第2推進機、4A:第1エンジン、4B:第2エンジン、5A:第1ジェットポンプ、5B:第2ジェットポンプ、6A:第1ノズルディフレクタ、6B:第2ノズルディフレクタ、7A:第1リバースゲート、7B:第2リバースゲート、10:コントローラ、11:デッキ、12:ハル、13:操船席、14:ステアリング部材、15:リモートコントローラ、15A:第1スロットル部材、15B:第2スロットル部材、21:ドライブシャフト、22:インペラ、23:ポンプハウジング、24:カップリング、25:出力軸、26:水吸引口、31A:第1ステアリングアクチュエータ、31B:第2ステアリングアクチュエータ、32A:第1シフトアクチュエータ、32B:第2シフトアクチュエータ、33A:第1回転数センサ、33B:第2回転数センサ、41:第1バラスト水タンク、42:第2バラスト水タンク、43:第3バラスト水タンク、51:角度センサ、52:バラスト水量センサ、53:シートセンサ、140:センサ、151:センサ、152:センサ、D1:第1方向、D2:第2方向