(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094109
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】化学蓄熱材成形体及び化学蓄熱材成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 5/16 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
C09K5/16 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210879
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187218
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 宏光
(72)【発明者】
【氏名】大渕 孝之
(72)【発明者】
【氏名】三谷 敦志
(72)【発明者】
【氏名】久保 寛明
(72)【発明者】
【氏名】岡田 文夫
(57)【要約】
【課題】崩れ難く、大量製造に適した別の組成を有する化学蓄熱材成形体を提供する。
【解決手段】化学蓄熱材成形体は、化学蓄熱成分と硫酸マグネシウムを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学蓄熱成分と硫酸マグネシウムを含む、化学蓄熱材成形体。
【請求項2】
前記化学蓄熱成分に対する硫酸マグネシウムの含有量が、1質量%以上、30質量%以下である、請求項1に記載の化学蓄熱材成形体。
【請求項3】
前記化学蓄熱成分は、アルカリ土類金属化合物を含む、請求項1に記載の化学蓄熱材成形体。
【請求項4】
前記化学蓄熱成分は、カルシウム化合物を含む、請求項3に記載の化学蓄熱材成形体。
【請求項5】
前記化学蓄熱成分は、アルカリ土類金属の水酸化物を含む、請求項3に記載の化学蓄熱材成形体。
【請求項6】
前記硫酸マグネシウムの平均繊維長を前記硫酸マグネシウムの平均繊維径で割ったアスペクト比が、5以上、100以下である、請求項1に記載の化学蓄熱材成形体。
【請求項7】
前記化学蓄熱成分と前記硫酸マグネシウムを含む混合物の圧縮成形により形成された圧縮成形体を有する、請求項1に記載の化学蓄熱材成形体。
【請求項8】
化学蓄熱成分と硫酸マグネシウムを含む混合物を圧縮成形することを含む、化学蓄熱材成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蓄熱材成形体及び化学蓄熱材成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水和反応と脱水反応とを繰り返す化学蓄熱材が知られている(以下の特許文献1及び特許文献2)。特許文献1,2は、アルカリ土類金属化合物からなる化学蓄熱材に粘土鉱物を混合したものを焼成して成る化学蓄熱材成形体を開示している。粘土鉱物としては、セピオライト、パリゴルスカイト又はカオリナイトが挙げられている。
【0003】
化学蓄熱材成形体は、水和反応と脱水反応に伴う膨張収縮により微粉化することがあり、化学蓄熱材の蓄熱量の低下が生じることがある。特許文献1では、当該課題を解決するため、化学蓄熱材に、セピオライト、パリゴルスカイト又はカオリナイトのような繊維状粘土鉱物が添加されている。
【0004】
特許文献2では、化学蓄熱材の平均粒径よりも小さい孔径を有するフィルタ部を化学蓄熱材に付加することによって、化学蓄熱材成形体の粉体化を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-149837号公報
【特許文献2】特開2010-181051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
化学蓄熱材の平均粒径よりも小さい孔径を有するフィルタ部が用いられると、水蒸気のようなガスが導入し難くなり、水和反応し難くなることがある。そのため、化学蓄熱材成形体自身の形状維持性が高いこと、すなわち化学蓄熱材成形体が崩れ難いことが望ましい。
【0007】
特許文献1では、化学蓄熱材成形体の微粉化の抑制のため、セピオライト、パリゴルスカイト又はカオリナイトのようなケイ酸塩からなる天然の粘土鉱物が化学蓄熱材に添加されている。しかしながら、このような天然に産出される粘土鉱物の物性、例えば繊維径や繊維長等は、産出場所に依って異なる。そのため、化学蓄熱材成形体を製造する材料の安定的な入手や品質の安定性という観点において、化学蓄熱材成形体の大量製造にとって必ずしも適していない。
【0008】
したがって、崩れ難く、大量製造に適した別の組成を有する化学蓄熱材成形体及びその製造方法が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
化学蓄熱材成形体は、化学蓄熱成分と硫酸マグネシウムを含む。
【0010】
化学蓄熱材成形体の製造方法は、化学蓄熱成分と硫酸マグネシウムを含む混合物を圧縮成形することを含む。
【発明の効果】
【0011】
上記態様によれば、大量製造に適した化学蓄熱材成形体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、記載された特定の装置及び方法に限定されないことに留意されたい。本開示にて使用される用語は、特定の実施形態又は実施例を記述するためのものであり、請求の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書で使用される場合、用語「約」は、使用される数値のプラスまたはマイナス5%を意味する。
【0013】
一実施形態に係る化学蓄熱材成形体は、化学蓄熱成分と硫酸マグネシウムを含む。化学蓄熱成分は、可逆的な化学変化に伴う吸熱と放熱を利用した蓄熱を可能とする材料であればよい。化学蓄熱成分は、特に制限されないが、無機材料であることが好ましい。
【0014】
化学蓄熱材成形体は、化学蓄熱成分と硫酸マグネシウムを含む混合物の圧縮成形により形成された圧縮成形体を有していてよい。この場合、化学蓄熱材成形体は、前述した材料を有する化学蓄熱成分の粉体と硫酸マグネシウムの粉体を混合し、圧縮成形することによって容易に製造できる。
【0015】
硫酸マグネシウムは、生体分解性がある人工物として得られるため、セピオライト等の天然の粘土鉱物に比べて安全性、品質安定及び/又は資源枯渇の心配が小さい点で優れている。また、発明者は、化学蓄熱成分にフィラーとして硫酸マグネシウムを添加して圧縮成形することによって、化学蓄熱材成形体の膨張収縮に伴う微粉化の抑制だけではなく、水和脱水サイクル後の振動に対する耐久性が向上し得ることを見出した。
【0016】
さらに、硫酸マグネシウムは、化学蓄熱可能な材料であるため、化学蓄熱成分に添加されたとしても、成形体全体の化学蓄熱効果が低下することを抑制することもできる。
【0017】
化学蓄熱成分に対する硫酸マグネシウムの含有量は、特に制限されないが、例えば1質量%以上、3質量%以上又は5質量%以上であってよい。これにより、化学蓄熱材成形体の形状維持性をより保持できる。
【0018】
また、化学蓄熱成分に対する硫酸マグネシウムの含有量は、例えば30質量%以下、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、よりいっそう好ましくは15質量%以下であってよい。これにより、化学蓄熱材成形体に対する化学蓄熱成分の割合が小さくなりすぎることを抑制し、化学蓄熱による蓄熱量を十分に維持することができる。
【0019】
硫酸マグネシウムは、無水硫酸マグネシウムであってもよく、硫酸マグネシウム水和物であってもよい。硫酸マグネシウムは、針状ないし繊維状の結晶を有することが好ましい。これにより、水和脱水サイクル後の振動に対する化学蓄熱材成形体の耐久性がより向上し得る。
【0020】
硫酸マグネシウムが針状ないし繊維状の結晶を有する場合、硫酸マグネシウムの平均繊維長は、特に制限されないが、例えば約80μm以下、約50μm以下又は約30μm以下であってよい。また、硫酸マグネシウムの平均繊維径は、特に制限されないが、例えば約5μm以下、約3μm以下又は約1μm以下であってよい。好ましくは、硫酸マグネシウムの平均繊維長が約8~30μmであり、かつ硫酸マグネシウムの平均繊維径が約0.5~1.0μmであってよい。
【0021】
前述の平均繊維長及び平均繊維径は、電子顕微鏡による観察により測定することができる。例えば、電子顕微鏡により複数の硫酸マグネシウムの結晶を撮影し、その像から硫酸マグネシウムの結晶を任意に選択して、それらの繊維長及び繊維径を測定する。平均繊維長及び平均繊維径は、それぞれ、測定された繊維長及び繊維径の和を、測定された個数で除することによって定義される。
【0022】
硫酸マグネシウムの平均繊維長を硫酸マグネシウムの平均繊維径で割ったアスペクト比は、例えば5以上、8以上又は10以上であることが好ましい。これにより、硫酸マグネシウムの繊維質及び可塑性によって、粉体の化学蓄熱材成形体を良好に組織化、構造化させることができ、水和脱水サイクルに伴う膨張収縮に対する形状維持性をより確保することができると推測される。
【0023】
また、硫酸マグネシウムの平均繊維長を硫酸マグネシウムの平均繊維径で割ったアスペクト比は、例えば100以下、80以下又は60以下であることが好ましい。これにより、化学蓄熱成分及び硫酸マグネシウムの充填性が高まるため、圧縮成形によるひずみが少なく、かつ化学蓄熱材成形体の空孔率が過度に高まることがなく、化学蓄熱材成形体の強度の低下を抑制できると推測される。したがって、化学蓄熱材成形体の水和脱水サイクル後の振動に対する耐久性が向上し得る。
【0024】
化学蓄熱成分の材料は、特に制限されないが、例えばアルカリ土類金属化合物であってよい。具体的には、化学蓄熱成分の材料は、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化ベリリウム、水酸化ベリリウム、酸化ストロンチウム、水酸化ストロンチウムを含む群から選択された1つ又は複数を含んでいてよい。
【0025】
例えば、アルカリ土類金属の水酸化物は、脱水に伴って吸熱し、アルカリ土類金属の酸化物になる。また、アルカリ土類金属の酸化物は、水和に伴って放熱し、アルカリ土類金属の水酸化物になる。
【0026】
化学蓄熱成分は、化学蓄熱材成形体の製造時にアルカリ土類金属の水酸化物を含むことが好ましい。例えば、化学蓄熱成分は、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ベリリウム又は水酸化ストロンチウムを含むことが好ましい。アルカリ土類金属の水酸化物の体積は、アルカリ土類金属の酸化物の体積よりも大きいため、アルカリ土類金属の水酸化物を含む化学蓄熱材成形体は、脱水に伴って収縮する。したがって、アルカリ土類金属の水酸化物を含む化学蓄熱材成形体は、初めに脱水反応によって収縮するため、膨張収縮に伴う成形体の崩壊が起こり難くなる。
【0027】
好ましくは、化学蓄熱成分はカルシウム化合物を含む。例えば、化学蓄熱成分は、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを含むことが好ましい。この場合、カルシウム化合物と硫酸マグネシウムとを混合することによって、わずかにカルシウムの硫酸塩、いわゆる石膏が、化学蓄熱材成形体中に形成されることがある。また、石膏がカルシウム化合物と硫酸マグネシウムとの混合時に形成されなかったとしても、少なくとも1回の水和脱水サイクルを行うことによって石膏が化学蓄熱材成形体中に形成され得る。化学蓄熱材成形体が石膏を含むことによって、化学蓄熱材成形体の形状維持性がより向上し得る。したがって、化学蓄熱材成形体の水和脱水サイクル後の振動に対する耐久性が向上し得ると考えられる。
【0028】
化学蓄熱材成形体は、水蒸気が通過可能なメッシュを有する充填セルに充填されてもよい。この場合、メッシュの目開きは、特に制限されないが、例えば0.1mm~5mm程度、又は0.5mm~2mm程度であってよい。
【0029】
化学蓄熱材成形体の製造方法は、化学蓄熱成分と硫酸マグネシウムを含む混合物を圧縮成形することを含む。具体的には、化学蓄熱成分の粉体と硫酸マグネシウムの粉体を混合した混合物を形成し、混合物を圧縮成形する。これにより、化学蓄熱材成形体が製造される。
【0030】
化学蓄熱成分の材料は、前述したとおりである。また、硫酸マグネシウムの物性も前述したとおりである。化学蓄熱成分に対する硫酸マグネシウムの含有量は、特に制限されないが、例えば1質量%以上、3質量%以上又は5質量%以上であってよい。また、化学蓄熱成分に対する硫酸マグネシウムの含有量は、例えば30質量%以下、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、よりいっそう好ましくは15質量%以下であってよい。
【0031】
圧縮成形時における温度は、特に制限されないが、例えば常温でよい。ここで、常温は、日本の雰囲気化において、例えば-5℃~35℃程度が想定される。なお、化学蓄熱成分と硫酸マグネシウムの混合物の圧縮成形時に、バインダや焼成は不要である。
【0032】
[実施例]
以下、実施例について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に記載された態様に制限されないことに留意されたい。
【0033】
[実施例1]
実施例1に係る化学蓄熱材成形体について説明する。まず、化学蓄熱成分としての水酸化カルシウムの粉体と、塩基性硫酸マグネシウムの粉体と、を準備した。水酸化カルシウムは、「宇部マテリアルズ株式会社製:CH-2N SS)」である。塩基性硫酸マグネシウムの粉体は、「宇部マテリアルズ株式会社製:モスハイジP粉」である。硫酸マグネシウムの平均繊維長は14μmであり、硫酸マグネシウムの平均繊維径は1.6μmである。
【0034】
2700gの水酸化カルシウムの粉体と300gの硫酸マグネシウムの粉体を混合撹拌機で4時間乾式混合した。混合された粉体をブリケットマシン(新東工業株式会社製:BGS-OL)にて平板状に圧縮成形した。平板状に圧縮成形可能なコンパクトロールが用いられ、スクリューの回転速度は30Hz、ローラーの圧力は20Hzにて実施された。圧縮成形後に4mmの篩上に残った成形体を回収することによって化学蓄熱材成形体を得た。
【0035】
得られた化学蓄熱材成形体を下記の脱水反応と水和反応を1サイクル行ったものに対してX線回折法(XRD)により、化学蓄熱材成形体の成分分析を行った。その結果、化学蓄熱材成形体中にわずかに硫酸カルシウムが含まれていることが確認できた。
【0036】
[参考例1]
硫酸マグネシウムの粉体を用いることなく3000gの水酸化カルシウムの粉体を粉体成型機にて短冊状に圧粉造粒し、4mmの篩上に残った成形体を回収することによって化学蓄熱材成形体を得た。
【0037】
[参考例2]
300gの硫酸マグネシウムの粉体の代わりに300gのセピオライト(Sigma-Aldrich社製「Sepiolite」。カタログ番号70253。CAS番号63800-37-3)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法により化学蓄熱材成形体を得た。
【0038】
[水和脱水サイクル試験]
実施例1及び参考例1で得られた33~35gの化学蓄熱材成形体を、1mmメッシュのSUS製の外壁を有する充填セルに充填した。充填セルは円筒状であり、充填セルの直径は50mmであり、充填セルの高さは25mmである。したがって、充填セルの充填容量は、約49mm3である。
【0039】
充填セルに充填された化学蓄熱材成形体について、水和脱水試験を実施した。水和脱水試験では、まず、化学蓄熱材成形体を550℃で150分間加熱することで脱水反応を生じさせる。この後、化学蓄熱材成形体を100℃に冷却し、化学蓄熱材成形体に80℃水蒸気を120分間吹き付けることによって水和反応を生じさせる。この脱水反応と水和反応のセットを1サイクルとする。
【0040】
実施例1及び参考例1について、脱水反応と水和反応を6サイクル又は12サイクル実施したときの化学蓄熱材成形体の重量変化を測定した。この測定結果は、以下の表1に示されている。表1における初期充填量W0は、充填セルに充填された化学蓄熱材成形体の重量である。水和脱水サイクル後の重量W1は、6サイクル又は12サイクルの脱水反応と水和反応を行った後に計測された化学蓄熱材成形体の重量である。
【0041】
水和脱水サイクルによる重量減少率R1は、「{(W0-W1)/W0}×100%」によって規定される。ここで、水和脱水サイクル後の化学蓄熱材成形体の重量減少は、化学蓄熱材成形体の一部が微粉化して脱離することと、脱水反応において重量減少を伴う不可逆的な化学変化が起きることに起因し得る。この不可逆的な化学変化は、硫酸マグネシウムやセピオライトにおいて生じ得る。
【0042】
したがって、実施例1において、初期充填量W0と水和脱水サイクル後の重量W1との差分から、硫酸マグネシウムの不可逆的な化学変化に伴う重量減少の影響を差し引くことによって、化学蓄熱材成形体から脱離した部分の重量を算出することができる。表1における材料飛散に伴う重量変化率R2は、化学蓄熱材成形体から脱離した部分の重量を初期充填量W0で割ることによって算出されている。
【0043】
なお、水酸化カルシウムは、水和脱水サイクルにおいて可逆的な化学変化を起こす。そのため、参考例1において、水和脱水サイクルによる重量減少率R1は、材料飛散に伴う重量変化率R2と実質的に同じである。
【0044】
【0045】
表1における材料飛散に伴う重量変化率R2が小さいほど、化学蓄熱材成形体の形状維持性が高いことを意味する。表1を参照すると、6サイクル又は12サイクルのいずれの場合であっても、実施例1の化学蓄熱材成形体の形状維持性は、参考例1の化学蓄熱材成形体の形状維持性よりも高いことがわかる。したがって、化学蓄熱成分(水酸化カルシウム)に硫酸マグネシウムを混合することによって、膨張収縮に伴う化学蓄熱材成形体の微粉化が抑制されることがわかる。
【0046】
[振動試験]
次に、振動試験について説明する。まず、実施例1、参考例1及び参考例2の化学蓄熱材成形体について、前述した水和脱水サイクル試験を実施する。水和脱水サイクル試験の条件は前述したとおりである。次に、6サイクル又は12サイクルの水和脱水サイクル試験の後に、化学蓄熱材成形体を充填した充填セルを、バイブレータ(大榮歯科産業株式会社製、歯科技工用形成器具 強力バイブレーター 型式:III)に固定し、鉛直方向に1.3±0.2mmの振幅で30Hzにて1分間振動させた。その後、化学蓄熱材成形体の重量を測定し、振動試験前後の化学蓄熱材成形体の重量変化を評価した。評価結果は、以下の表2に示されている。
【0047】
【0048】
表1における初期充填量W0は、充填セルに充填された化学蓄熱材成形体の重量である。水和脱水サイクル後の重量W1は、6サイクル又は12サイクルの脱水反応と水和反応を行った後に計測された化学蓄熱材成形体の重量である。表2の重量W2は、振動試験後に計測された化学蓄熱材成形体の重量である。
【0049】
振動試験による重量減少率R3は、「{(W1-W2)/W1}×100%」によって規定される。ここで、振動試験による重量減少は、振動試験に伴って化学蓄熱材成形体の一部が微粉化して脱離することに起因する。したがって、重量変化率R3が小さいほど、振動に対する化学蓄熱材成形体の耐久性が高いことを意味する。
【0050】
表2を参照すると、6サイクル又は12サイクルのいずれの場合であっても、実施例1の化学蓄熱材成形体の振動に対する耐久性は、参考例1の化学蓄熱材成形体の振動に対する耐久性よりも大幅に高いことがわかる。さらに、実施例1の化学蓄熱材成形体の振動に対する耐久性は、参考例2の化学蓄熱材成形体の振動に対する耐久性よりも高いことがわかる。したがって、化学蓄熱成分(水酸化カルシウム)に硫酸マグネシウムを混合することによって、化学蓄熱材成形体の振動に対する耐久性が向上することがわかる。したがって、実施例1の化学蓄熱材成形体は、工場や自動車のような振動を伴う場所で利用されることに適していると考えられる。
【0051】
前述した実施形態及び/又は実施例の説明により、少なくとも以下の発明が本明細書内に明示されていることに留意されたい。
【0052】
[付記1]
化学蓄熱成分と硫酸マグネシウムを含む、化学蓄熱材成形体。
[付記2]
前記化学蓄熱成分に対する硫酸マグネシウムの含有量が、1質量%以上、30質量%以下である、付記1に記載の化学蓄熱材成形体。
[付記3]
前記化学蓄熱成分は、アルカリ土類金属化合物を含む、付記1又は2に記載の化学蓄熱材成形体。
[付記4]
前記化学蓄熱成分は、カルシウム化合物を含む、付記3に記載の化学蓄熱材成形体。
[付記5]
前記化学蓄熱成分は、アルカリ土類金属の水酸化物を含む、付記3又は4に記載の化学蓄熱材成形体。
[付記6]
前記硫酸マグネシウムの平均繊維長を前記硫酸マグネシウムの平均繊維径で割ったアスペクト比が、5以上、100以下である、付記1から5のいずれか1項に記載の化学蓄熱材成形体。
[付記7]
前記化学蓄熱成分と前記硫酸マグネシウムを含む混合物の圧縮成形により形成された圧縮成形体を有する、付記1から6のいずれか1項に記載の化学蓄熱材成形体。
[付記8]
化学蓄熱成分と硫酸マグネシウムを含む混合物を圧縮成形することを含む、化学蓄熱材成形体の製造方法。
【0053】
上述したように、実施形態及び/又は実施例を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替の実施形態、実施例及び/又は運用技術が明らかとなる。したがって、本発明の技術的範囲は、上述の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。