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  • 特開-空気調和システム 図1
  • 特開-空気調和システム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094136
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】空気調和システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 3/044 20060101AFI20240702BHJP
   F24F 11/77 20180101ALI20240702BHJP
【FI】
F24F3/044
F24F11/77
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210909
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中田 祥平
(72)【発明者】
【氏名】東海林 孝騎
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 菜那子
(72)【発明者】
【氏名】丸山 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】櫻木 淳
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 謙
(72)【発明者】
【氏名】高島 伸成
【テーマコード(参考)】
3L053
3L260
【Fターム(参考)】
3L053BB02
3L053BB04
3L260AA01
3L260AB02
3L260BA07
3L260FA07
3L260FB44
(57)【要約】
【課題】快適性が損なわれることを抑制する。
【解決手段】実施形態の空気調和システムは、建物内において仕切り部によって仕切られた複数の区画の中の、第1区画内に温調空気を吹き出す空気調和機と、第1区画と隣接する第2区画と、第1区画との間の仕切り部に設置され、第1区画の空気を第2区画へ送風する送風機と、を備える。送風機の1分間あたりの風量は、第2区画の容積の50%以下とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物内において仕切り部によって仕切られた複数の区画の中の、第1区画内に温調空気を吹き出す空気調和機と、
前記第1区画と隣接する第2区画と前記第1区画との間の前記仕切り部に設置され、前記第1区画の空気を前記第2区画へ送風する送風機と、
を備え、
前記送風機の1分間あたりの風量は、前記第2区画の容積の50%以下とする、
ことを特徴とする空気調和システム。
【請求項2】
前記送風機の1分間あたりの風量は、前記第2区画の容積の10%以上とする、
ことを特徴とする請求項1に記載の空気調和システム。
【請求項3】
前記送風機の1分間あたりの風量は、前記第2区画の容積の25%以上とする、
ことを特徴とする請求項1に記載の空気調和システム。
【請求項4】
前記第1区画は、ホールであり、
前記第2区画は、居室である、
ことを特徴とする請求項1に記載の空気調和システム。
【請求項5】
前記第2区画は複数あり、
前記送風機は、複数の前記第2区画と、前記第1区画との間の前記仕切り部それぞれに設置される、
ことを特徴とする請求項1に記載の空気調和システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、空気調和システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空調設備により冷房又は暖房される第1空間部と、第1空間部と隣接し、仕切り部によって区画された第2空間部とを備える居住スペースにおいて、仕切り部に第1空間部の冷気又は暖気を第2空間部に空気を送るファン装置を備えることで、居住スペース全体の空調を実現できる技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-127965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の従来技術では、ファン装置の風量により、室内の人の快適性が損なわる場合があるという問題がある。例えば、単位時間あたりのファン装置の風量が大きくなると、室内の人が一定の気流に曝される状態となり、ドラフト感(不快感)を与えることがある。
【0005】
開示の技術は、かかる点に鑑みてなされたものであって、快適性が損なわれることを抑制できる空気調和システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様による空気調和システムは、建物内において仕切り部によって仕切られた複数の区画の中の、第1区画に温調空気を吹き出す空気調和機と、第1区画と隣接する第2区画と第1区画との間の仕切り部に設置され、第1区画の空気を第2区画へ送風する送風機と、を備える。送風機の1分間あたりの風量は、第2区画の容積の50%以下とする。
【発明の効果】
【0007】
一態様によれば、快適性が損なわれることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態にかかる空気調和システムが備えられた建物の一例を示す見取り図である。
図2図2は、送風機および開口部の設置例を説明する説明図である。
図3図3は、居室における気流のシミュレーション結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、実施形態にかかる空気調和システムを説明する。実施形態において同一の機能を有する構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。なお、以下の実施形態で説明する空気調和システムは、一例を示すに過ぎず、実施形態を限定するものではない。また、以下の各実施形態は、矛盾しない範囲内で適宜組みあわせてもよい。
【0010】
図1は、実施形態にかかる空気調和システムが備えられた建物の一例を示す見取り図である。図1に示すように、空気調和システム10が備えられた建物1内は、壁材、床材、扉などの仕切り部2によって人の滞在を目的としない空間としてのホール3と、人の滞在を目的とした空間としての居室5a、5b、5c等の複数の区画に分けられている。
【0011】
ホール3は、居室5a、5b、5cと隣接し、居室5a、5b、5c間を移動する際に通路として用いられる区画である。例えば、建物1は2階建で住宅であり、ホール3は、階段4が設置された1、2階で共用の構成であってもよい。
【0012】
ホール3には、空気調和システム10における空気調和機11が設置されている。空気調和機11は、温度調節された空気(温調空気)を吹き出すエアコンディショナ(エアコン)である。空気調和機11は、例えば、ホール3の仕切り部2における壁部分に設けられる、いわゆる壁掛け式のエアコンである。なお、空気調和機11の熱源となる空調室外機(図示しない)は、建物1外に設けられていればよい。
【0013】
居室5a、5b、5cは、リビングルーム、キッチンルーム、ベッドルーム、子供部屋等である。なお、以後の説明では、居室5a、5b、5cを特に区別しない場合は居室5と表記する。ホール3と、居室5の間の仕切り部2には、空気調和システム10にかかる送風機および開口部が設けられている。
【0014】
図2は、送風機および開口部の設置例を説明する説明図である。図2に示すように、ホール3と居室5との間の仕切り部2には、例えば、仕切り部2を構成する壁の上部において、ホール3の空気を居室5側へ送風する送風機12が設けられている。したがって、空気調和機11から吹き出された温調空気の一部は、送風機12により居室5内に導かれる。
【0015】
また、ホール3と居室5との間の仕切り部2には、例えば、仕切り部2を構成する壁の下部に開口部13が設けられている。なお、開口部13は、例えば、仕切り部2を構成するドアのガラリ、アンダーカットなどであってもよい。送風機12によるホール3から居室5への送風に応じて、開口部13を介して、居室5からホール3への通風が行われる。
【0016】
このように、空気調和システム10では、ホール3に設置された空気調和機11による温調空気の一部は、送風機12によって居室5内に導かれる。そして、居室5内に導かれた温調空気は、室内を循環した後に、開口部13を介してホール3側に戻る。このような温調空気の流れにより、空気調和システム10では、建物1内におけるホール3および居室5の温調を実現している。
【0017】
より具体的には、空気調和システム10は、ホール3と居室5a、5b、5cそれぞれの間の仕切り部2に設けられた送風機12および開口部13により、ホール3の空気を居室5a、5b、5cそれぞれに循環させることで、居室5a、5b、5cの温調を実現している。
【0018】
ここで、ホール3の空気を居室5側へ送風する送風機12の1分間あたりの風量は、居室5の容積の50%以下とする。また、送風機12の1分間あたりの風量は、居室5の容積の10%以上とする。
【0019】
空気調和システム10では、送風機12の1分間あたりの風量の上限を居室5の容積の50%とすることで、居室5内の人にドラフト感(不快感)を与えることを抑止できる。また、空気調和システム10では、送風機12の1分間あたりの風量の下限を居室5の容積の10%とすることで、居室5内の温調を適切に行う(居室5の室温を目標温度とする)ことができる。
【0020】
ここで、送風機12の1分間あたりの風量の上限を居室5の容積の50%とした場合に、居室5内の人にドラフト感(不快感)を与えること抑止できることについて、居室5内の気流のシミュレーション結果を例示して説明する。
【0021】
図3は、居室における気流のシミュレーション結果の一例を示す説明図である。図3に示すように、気流のシミュレーションは、居室5の形状に合わせた室内に送風機12から送風を行ったものとしている。
【0022】
ここで、送風機12の風量はV[m/min]とする。また、居室5の寸法は、短手(幅)をa[m]、長手(奥行)をb[m]、高さをc[m]とし、居室5の容積は、a・b・c[m]である。なお、シミュレーション対象の居室5は、a=2.5[m]、b=3,7[m]、c=2.4[m]が実際の寸法であり、約6畳間とする。
【0023】
上述した送風機12の1分間あたりの風量V´[m]の条件は、10%<(送風機12の1分間あたりの風量)/居室容積<50%であるので、次の式(1)のとおりとなる。
0.1<V´/(a・b・c)<0.5…(1)
【0024】
気流の風速と風量の関係は、次の式(2)のとおりとなる。
風速S[m/s]=V/(60・気流が通過する断面積)…(2)
【0025】
図3における気流のシミュレーションでは、送風機12により生じた気流20は居室5内を2周ほど回りながら循環していることがわかる。ここで、居室5の内部を流れる気流を説明するにあたり、辺aおよび辺cを通る平面に平行なac投影断面を用いる。また送風機12が設置されているエリアを、ac投影断面の右上であるとして説明する。
【0026】
送風機12により生じた気流20は、ac投影断面のうち、右上のエリアを通過した後に送風機12の向かい側にある壁に当たり、ac投影断面の左下まで移動した後に送風機12の設置された側まで戻り、送風機12の設置された壁に沿って上昇し室内を1周する。ついで、気流20は、送風機12の設置された壁から離れ、送風機12により生じた気流に誘引されac投影断面の右上の部分まで到達し、ac投影断面の下方へ流れた後、送風機12の設置された壁側へ流れてもう1周することとなる。したがって、気流は室内を2往復(ac投影断面を4回通過)することになる。よって、ここでは気流が通過する断面積を、a・c/4[m]と設定する。
【0027】
式(2)については、気流が通過する断面積をa・c/4とすることで次のように変形できる。
S=V/(60・a・c/4)
=V/(15a・c)
【0028】
この式(2)の変形結果を式(1)に適用すると、式(1)は次のように変形できる。
0.1b/15<V/(15a・c)/0.5b/15
0.0066b<S<0.033b[m/s]
【0029】
ここで、bの実際の寸法である3.7[m]を適用すると、Sの上限は、約0.1[m/s]を若干超えた値となる。
【0030】
田辺新一著、「住宅における温熱快適性の評価」、住宅総合研究財団 研究年報No.23 1996では、図14などにドラフト許容限界(平均風速と室温、気流の乱れを関数とした場合のドラフトによる不満足者率)が示されている。この文献によると、平均風速(S)が約0.1[m/s]を若干超えたところから不満足者率が増加している。したがって、空気調和システム10では、送風機12の1分間あたりの風量の上限を居室5の容積の50%とすることで、室内の平均風速(S)の上限をドラフトによる不満足者率が増加する値未満とすることができる。ここで不満足者率とは、被験者のうち風速に起因する不快感を示した人数の割合である。
【0031】
つぎに、送風機12の1分間あたりの風量の下限を居室5の容積の10%とすることで、居室5内の温調を行うことができることについて、試験結果を例示して説明する。
【0032】
試験は、冷房運転を一定の外気条件下(33℃、晴れ)で行い、居室5a、5b、5cに相当する「A室」、「B室」、「C室」の送風機12(ファン)の風量を変えて居室の温度変化を測定した。断熱等級は5(UA値0.6W/m)とし、A室が南側、C室を北側としている。日射量については東京の夏季を想定した。
【0033】
風量の設定条件は、送風機12の1分間あたりの風量を「A室」、「B室」、「C室」の容積の10%未満とした場合と、10%以上とした場合とで試験をしている。
【0034】
10%未満とした場合では、居室温度がこの試験で設定した目標値の28℃に到達しなかった。これに対し、10%以上とした場合には、居室温度が目標値に到達した。したがって、空気調和システム10では、送風機12の1分間あたりの風量の下限を少なくとも居室の容積の10%以上とすることで、居室内の温調を行うことができることが分かった。
【0035】
以上のように、空気調和システム10は、建物1内において仕切り部2によって仕切られた複数の区画の中の、第1区画内に温調空気を吹き出す空気調和機11を備える。また、空気調和システム10は、第1区画と隣接する第2区画と、第1区画との間の仕切り部2に設置され、第1区画の空気を第2区画へ送風する送風機12を備える。この送風機12の1分間あたりの風量は、第2区画の容積の50%以下とする。これにより、空気調和システム10では、第2区画にいる人にドラフト感を与えないような温調を実現できる。
【0036】
また、送風機12の1分間あたりの風量は、前記第2区画の容積の10%以上とする。これにより、空気調和システム10では、第2区画内の温調を行うことができる。
【0037】
このほか、日射の影響を受けることを想定した試験として、A室の外壁に面した2面に窓を設けたケースにおいて試験を行った。窓の大きさは、壁面の1/4の面積とした。この場合は、1分間あたりの風量を居室の容積の約25%とすることで、室温を目標値とすることができることが分かった。つまり、前述の通り送風機12の1分間あたりの風量の下限を少なくとも居室の容積の10%以上とすることが求められるが、日射の影響に対応できるよう25%以上であると望ましいといえる。
【0038】
また、空気調和システム10では、空気調和機11による温調空気が吹き出される第1区画をホール3とし、ホール3から送風機12により温調空気が導かれる第2区画を居室5とする。空気調和システム10では、ホール3の温調をより確実に行いつつ、居室5の温調を行うことができる。例えば、冬(暖房運転時)は、居室5に対してホール3側の温度が一般的に低くなりやすく、居室5からホール3に出たときの不快感が増すことがある。これに対し、空気調和システム10では、ホール3の温調を確実に行うことができるので、居室5からホール3に出たときの不快感を抑止できる。
【0039】
また、空気調和システム10では、複数の第2区画(居室5a、5b、5c)と、第1区画(ホール3)との仕切り部2それぞれに送風機12が設置される。これにより、空気調和システム10では、ホール3に設置された空気調和機11の温調空気を居室5a、5b、5cそれぞれに循環させることができる。すなわち、空気調和システム10は、居室5a、5b、5cそれぞれに空気調和機11を設置することなく、居室5a、5b、5cの温調を実現できる。
【符号の説明】
【0040】
1…建物
2…仕切り部
3…ホール
4…階段
5、5a~5c…居室
10…空気調和システム
11…空気調和機
12…送風機
13…開口部
図1
図2
図3