(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094176
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】包丁
(51)【国際特許分類】
B26B 9/00 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
B26B9/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210969
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】722013346
【氏名又は名称】株式会社Yui
(72)【発明者】
【氏名】渡邉典子
【テーマコード(参考)】
3C061
【Fターム(参考)】
3C061AA02
3C061BA03
3C061EE13
(57)【要約】
【課題】調理における包丁での食材の薄切りの際に刃離れを起こして包丁への食材の付着を回避し、食材の薄切りを連続して行えることで調理効率を向上させる。
【解決手段】本発明の包丁は、刀身(1)が一般の包丁と異なる大きさの刃角(1042)と異なる大きさの刃先厚(103)との組み合わせからなる刃(10)を持つ刃表(101)と、刃を持たない刃裏(102)から構成される片刃であることで特徴づけられる。刃角(1042)と刃先厚(103)の大きさの独自の組み合わせにより、包丁と食材との間の毛細管現象を防いで水分による食材の付着を防ぐ。加えて片刃とすることで、食材が包丁から離れる方向へと進みやすくして切れやすさを維持し、また研ぎ作業を容易とする。すなわち、本発明による包丁によって、刃離れの良さ、食材の切りやすさ、および研ぎの容易さを同時に実現して、調理効率を向上させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃面長が0.87mmから2.0mmである刃面を持つ刃表と刃面を持たない刃裏とによる片刃であり、かつ刃角が15度から20度であり、かつ刃先厚が0.30mmから0.50mmである刃を持った刀身によって構成される、調理用包丁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食材を切るための調理用包丁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般家庭や飲食店など、場所を限定せず、あらゆる調理において包丁という調理器具は欠かせないものである。
【0003】
食材を薄く切る行為(以下薄切りと呼ぶ)をスムーズに行うための工夫をこらした様々な包丁が存在する。よく行われるのは、食材が包丁に付きにくくして、刃離れを起こすための工夫である。切った食材の重量に比べて水分による吸着力が大きくなるため、薄切りでは食材が包丁に付きやすい。食材が包丁に付くと、食材による抵抗のために薄切りがし難くなり、また新たに切られた食材に付着した食材が押されて、周囲に散らばりやすい。このため、連続した薄切りがし難く、調理をし難くする。これを防ぐために、例えば、いわゆる穴開き包丁では切断した食材が刃に付きにくいように穴が空けられている。また、穴を開けるまではせず、刃に凹面をつけるディンプル加工が施された包丁もある。
【0004】
しかしながら、これらの包丁への加工によって得られる刃離れの効果は小さく、きゅうりなどの水分の多い野菜を薄く切ろうとすると、依然として食材が包丁へ付いてしまう。結果として、従来の包丁は、食材を薄く切ろうとするほど、刃離れが悪くなり、調理効率が低下する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】今井今朝春,“ワールドムック1052 mono特別編集 ツヴィリング読本” ,page 64,ワールドフォトプレス,2014年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は調理の際に食材が包丁から離れる刃離れを起こりやすくし、薄切りを連続して実施できるようにすることで、調理を行いやすくするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係わる包丁は、刃を持たない刃裏(102)を持つことと、および刃角(1042)が切断の垂直方向に対して15度から20度、かつ刃面長(1041)が0.87mmから2.0mmである刃面(104)を持つ刃表(101)を持つことと、また刃先厚(103)が0.30mmから0.50mmであることとから特徴づけられる刀身(1)と、持ち手となる柄(2)とで構成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の包丁によれば、従来の包丁よりも大きい刃角を持つ片刃によって、包丁の切れやすさを維持したまま、従来の包丁と比べて食材の刃離れを起こりやすくし、調理効率を向上させる。また、片刃である特徴から、両刃の包丁と比べて研ぎ作業を片側だけ行えば良いという、研ぎ作業の効率化に対する副次的な効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図5】本発明以外の一般的な包丁において食材を切る際の断面図である。
【
図6】本発明の包丁で食材を切る際の断面図であり、効果の現れ方を表した概念図である。
【
図7】本発明の包丁における刃先厚が厚い場合と薄い場合での刃離れの違いを表した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下添付図面を参照しつつ本発明の包丁の実施形態について説明する。
【0011】
まず用語を定義する。包丁における、食材を切るために使う刀身の下側の部分を刃(10)と呼ぶ。刃を形作る、砥石等で研がれた、刀身に対して斜めになった面を刃面(104)と呼ぶ。刃面の下から上までの長さを、刃面長(1041)と呼ぶ。また、まな板に対しての垂直方向に対する刃面の角度を、刃角(1042)と呼ぶ。刀身の片方の側面を刃表(101)、もう片方の側面を刃裏(102)と呼ぶ。刃表の刃面の上側から水平方向の、刃裏までの長さを、刃先厚(103)と呼ぶ。
【0012】
なお、一般的には柄から見て右側が刃表とされるが、本発明は利用者の利き手によって刃面のあるべき位置が変わるため、右利き用であれば右側、左利き用であれば左側を刃表とする。逆側、即ち、切るときに食材が置かれる側が、刃裏である。図面は、全て右利き用を想定して記載している。刃表を逆側にした左利き用の包丁についても、本発明の範囲である。
【0013】
本発明は、刃表にのみ刃面を持ち、刃裏は刃面を持たない。刃表と刃裏の両方に刃面がある刃を両刃、片側にのみ刃面がある刃を片刃と呼ぶ。よって、本発明は、片刃の包丁である。
【0014】
本発明の刃角は、15度から20度の間の角度を持つ。この刃角は、一般的な包丁の刃角が刃表と刃裏が共に15度(合計30度)ほどであることが多いことから、通常より大きい刃角であると言える。
【0015】
本発明の刃面長は、0.87mmから2.0mmの間の長さを持つ。また、本発明の刃先厚は、0.30mmから0.50mmの間の長さを持つ。
【0016】
本発明は、片刃であることと、刃の形状に指定があることによって、特徴づけられる。包丁は、一般に洋包丁と和包丁に分類される。洋包丁は両刃であることから、本発明と明らかに区別される。一方、和包丁は本発明と同様に片刃であるが、和包丁は一般に本発明の5倍以上の刃面長を持ち、刀身の高さの半分程度まで刃面があることも珍しくない。即ち本発明は片刃である特徴から洋包丁と異なり、刃面長の短さの特徴から和包丁と異なる。これら両方の特徴を持つ包丁は、市中には見当たらない。
【0017】
以降では、本発明が課題を解決する仕組みを説明する。
図5に示した包丁で食材を切るときの断面図を用いて、一般的な包丁で食材が刃に付く仕組みを示す。一般的な包丁は、本発明よりも小さい刃角か、本発明よりも短い刃面長を持つ。そのような場合、食材を切るときに、包丁の刀身と食材の間に十分な隙間が生まれない。結果として、食材の水分(
図5a)によって包丁と食材の間に吸着力(
図5b)が発生する。このため、食材を薄く切ろうとすると、食材が水分によって刃に沿うような垂直方向(
図5c)へと進み、食材が刀身に付く。
【0018】
本発明で食材を切った場合に食材が刃離れする仕組みを
図6に示す。本発明のように大きい刃角と適切な長さの刃面を合わせ持つ場合、切った食材と包丁の間に十分な距離が生まれる(
図6a)。そのため、包丁と食材の間に、水分による吸着力が発生しない。結果として、本発明で食材を切るときは食材が刃から離れる方向(
図6b)へと進むため、優れた刃離れを実現する。
【0019】
加えて、本発明は片刃であることと刀身が薄いことの2点で、薄切りのしやすさと刃離れしやすさの両方を同時に実現している。上で述べた刃離れの効果は、特徴的な刃角と刃先厚によって得られる。目標とする刃角は一般の包丁よりも大きいため、本発明と同様の効果を両刃で実現するならば、一般的な包丁よりも刃先厚をかなり厚くする必要がある。この場合は刀身が厚くなるため、切込みの抵抗が強くなり、食材を切りにくくなる。そこで、本発明は片刃とすることで、切りやすさを維持したまま、刃離れを起こす刃角を実現している。
【0020】
一方で、刃離れの実現には、一定以上の刃先厚も必要である。
図7を用いてこのことを説明する。食材が包丁から離れる横方向の力は、刃先厚が長いほど大きくなる。刃先厚が薄いと、食材を横方向に押し出す力が弱く、
図7(a)のように、食材は包丁と殆ど平行な方向へと進む。そのため、包丁と食材の間の狭い隙間で水分による吸着力が発生する。対して、刃先厚を十分に持つ本発明は、
図7(b)のように食材が斜めの方向に進むため、食材と包丁の間に十分な隙間が生まれ、吸着が発生しない。
【0021】
なお、刃角が大きすぎると、薄切り以外の調理時に包丁を垂直に下ろすことが難しくなるため、本発明では刃角の上限を定義している。包丁は刃角を二等分する線の方向へと、力を発生させる。そのため、食材を真二つに切るような調理の場合、片刃の包丁は垂直よりも少し斜めの方向に力が発生し、垂直に包丁を下ろすことが難しくなる。刃角が大きくなるほど極端に斜めの方向へと包丁が進むため、あまりに大きな刃角は、薄切り以外の、特に食材を等分する作業を難しくする。限界となる角度は食材の硬さや大きさによるが、本発明では実用的な範疇で野菜等の食材を真二つに切れる範囲として、刃角を20度以下としている。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の包丁は、日常使いの台所、調理台周り等で、食材の調理時に利用できる。
【符号の説明】
【0023】
1 刀身
10 刃
101 刃表
102 刃裏
103 刃先厚
104 刃面
1041 刃面長
1042 刃角
2 柄