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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094177
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】シート状物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B26D 7/18 20060101AFI20240702BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20240702BHJP
   B65H 29/24 20060101ALI20240702BHJP
   B26F 3/00 20060101ALI20240702BHJP
   B26F 1/38 20060101ALI20240702BHJP
   B26D 5/00 20060101ALI20240702BHJP
   B26D 5/32 20060101ALI20240702BHJP
   B26D 3/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B26D7/18 C
D04H1/728
B65H29/24 D
B26F3/00
B26F1/38
B26D5/00 F
B26D5/32
B26D3/00 601A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210971
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 恵理
(72)【発明者】
【氏名】茂木 知之
(72)【発明者】
【氏名】平野 喬大
(72)【発明者】
【氏名】石田 拓也
【テーマコード(参考)】
3C021
3C024
3C060
3F049
4L047
【Fターム(参考)】
3C021FB01
3C024AA06
3C060AA03
3C060AA06
3C060AB01
3C060BA03
3C060BB05
3C060BD01
3C060BD03
3C060BD04
3C060BF02
3C060BG13
3C060BH02
3C060CA03
3C060CE23
3C060CF16
3F049AA10
3F049FC22
3F049FC23
3F049LA15
3F049LB12
4L047AB02
4L047AB08
4L047CA01
4L047CB08
4L047EA22
(57)【要約】
【課題】シートの品質を維持したまま移動し、シート状物品を製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、シート状物品1の製造方法であって、所望の形状を有するシートを形成するか、又は原料シート10Aから所望の形状を有するシート10を切り出すシート形成工程と、シート形成工程で得られたシート10を移載する移載工程とを有しており、シート形成工程では、平面視において、相対的に通気性が高い高通気性領域R1と、相対的に通気性が低い低通気性領域R2とを有するシート10を形成し、移載工程では、吸引装置41に接続された吸着パッド42を、低通気性領域R2に吸着させてシート10を保持し、該シート10を移載先に移動させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状物品の製造方法であって、
所望の形状を有するシートを形成するか、又は原料シートから所望の形状を有するシートを切り出すシート形成工程と、
前記シート形成工程で得られた前記シートを移載する移載工程とを有しており、
前記シート形成工程では、平面視において、相対的に通気性が高い高通気性領域と、相対的に通気性が低い低通気性領域とを有するシートを形成し、
前記移載工程では、吸引装置に接続された吸着パッドを、前記低通気性領域に吸着させて前記シートを保持し、該シートを移載先に移動させる、シート状物品の製造方法。
【請求項2】
前記シートは、第1シートと、第1シートの一方の面側に配された第2シートとを有する積層シートであり、
前記シート形成工程では、第2シート上に、第1シートを構成する繊維を不均一に堆積させることにより、前記低通気性領域及び前記高通気性領域を有する前記シートを形成する、請求項1に記載のシート状物品の製造方法。
【請求項3】
前記シート形成工程は、
第2シートの連続体上に、第1シートを構成する繊維を堆積させて、第2シートの連続体に第1シートが積層された積層シートを形成する積層工程と、
前記積層工程後に、前記積層シートにおける前記低通気性領域の位置を検出する検出工程と、
前記検出工程で検出した前記低通気性領域の位置に基づいて前記積層シートの切断位置を補正する切断位置補正工程と、
前記切断位置補正工程後に、前記積層シートを切断し、所望の平面視形状を有する前記シートを切り出す切断工程とを有しており、
前記移載工程では、前記積層シートの切断位置に基づいて、前記シートにおける前記吸着パッドを吸着させる位置を制御する、請求項2に記載のシート状物品の製造方法。
【請求項4】
前記移載工程では、前記切断工程で切り出された前記シートの外形を検出し、検出された該シートの外形に基づいて、前記シートにおける前記吸着パッドを吸着させる位置を決定する、請求項3に記載のシート状物品の製造方法。
【請求項5】
前記シート形成工程は、
第2シートの連続体上に、第1シートを構成する繊維を堆積させて、第2シートの連続体に第1シートが積層された積層シートを形成する積層工程と、
前記積層工程後に、前記積層シートにおける前記低通気性領域の位置を検出する検出工程とを有しており、
前記移載工程では、検出工程で検出された前記低通気性領域の位置に基づいて、前記シートにおける前記吸着パッドを吸着させる位置を決定する、請求項1又は2に記載のシート状物品の製造方法。
【請求項6】
前記検出工程後に、前記積層シートを切断し、所望の平面視形状を有する前記シートを切り出す切断工程とを有しており、
前記切断工程では、前記検出工程で検出した前記低通気性領域の位置に基づいて前記積層シートの切断位置を決定する、請求項5に記載のシート状物品の製造方法。
【請求項7】
前記低通気性領域は、通気抵抗が0.2kPa・s/m以上25kPa・s/m以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載のシート状物品の製造方法。
【請求項8】
前記移載工程では、前記シートにおける前記吸着パッドを吸着させた部分の真空圧力が-40kPa以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載のシート状物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原反を切断して所定の形状のシートを形成し、該シートを下流の工程へと移送することが行われている。例えば、特許文献1には、長尺なシート材を所定形状に裁断し、複数のシートを形成する加工装置と、該シートを複数枚集積してシート束を形成し、該シート束を下流の工程まで移送する移送装置とから構成されるシート体加工システムが記載されている。また特許文献2には、原反を所定長さの短冊状に切断して繊維シートを形成し、該繊維シートを搬送コンベヤに供給する供給機構と、該搬送コンベヤ上の繊維シートを積層領域まで移送し、該移送した繊維シートを、該積層領域において既に積層された繊維シート積層体の繊維シート上に積層するロボットとを有する繊維シート積層装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-150181号公報
【特許文献2】特開2017-217895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のシート体加工システムでは、移送装置は、ロボットハンドによってシート束を把持し、該シート束を移送している。したがって、シート束を構成するシートに、ロボットハンドが把持した痕が付いてしまう恐れがある。
また特許文献2の繊維シート積層装置では、ロボットが有する吸着筒に繊維シートを吸着させ、積層領域まで移送した後、該移送した繊維シートを、既に積層された繊維シート積層体の繊維シートに重ね合わせて押圧しているところ、特許文献2では、繊維シートどうしを重ね合わせた状態において、吸着筒に吸着された繊維シートにレーザー光を照射し加熱することにより溶融させ、繊維シートどうしを溶着させている。したがって、各繊維シートに溶融痕が残ってしまう。
このように、特許文献1及び2の技術では、シートの品質を維持したまま、該シートを移送することは困難である。
【0005】
本発明の課題は、シートの品質を維持したまま移載し、シート状物品を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、シート状物品の製造方法に関する。
一実施態様において、所望の形状を有するシートを形成するか、又は原料シートから所望の形状を有するシートを切り出すシート形成工程と、
一実施態様において、前記シート形成工程で得られた前記シートを移載する移載工程とを有することが好ましい。
一実施態様において、前記シート形成工程では、平面視において、相対的に通気性が高い高通気性領域と、相対的に通気性が低い低通気性領域とを有するシートを形成することが好ましい。
一実施態様において、前記移載工程では、吸引装置に接続された吸着パッドを、前記低通気性領域に吸着させて前記シートを保持し、該シートを移載先に移動させることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シートの品質を維持したまま移載し、シート状物品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の製造方法の一実施態様に用いられるシート状物品の製造装置の概略を示す斜視図である。
図2図2は、本実施態様に係るシート形成工程で形成されるシートを模式的に示す平面図である。
図3図3は、図2のIII-III線断面図である。
図4図4は、図2に示すシートの斜視図である。
図5図5は、図2のIII-III線端面図である。
図6図6(a)及び(b)は、切断位置を補正する方法を説明するための模式平面図であり、図6(a)は、補正前の状態を示す平面図であり、図6(b)は、補正後の状態を示す平面図である。
図7図7は、グラデーション領域の特定方法の一例を示す平面図である。
図8図8(a)は、シートにおける吸着パッドが吸着される部分を模式的に示す平面図であり、図8(b)は、図8(a)のVIIb-VIIb線断面図である。
図9図9(a)及び(b)は、複数の吸着パッドを吸着させる部位の一例を示す平面図であり、図8(a)相当図である。
図10図10(a)及び(b)は、図2に示すシートの変形例を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施態様に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明のシート状物品の製造方法の好ましい一実施態様に用いられる製造装置100の概略が示されている。製造装置100は、シート状物品1を製造するものである。
製造装置100は、原料シート10Aから所望の形状を有するシート10を切り出すシート形成部30と、該シート形成部30で得られたシート10を移載する移載部40と、移載部40によって移載されたシート10を加工し、シート状物品1を形成する加工部50とを有している。移載部40は、ロボットアーム(図示せず)及び該ロボットアームの先端部に保持された吸引装置41を有している。吸引装置41は、空気圧源(図示せず)に又は負圧源(図示せず)に接続されている。吸引装置41は、空気圧源から供給された圧縮エアーにより真空エジェクタに生じた力又は負圧源(図示せず)からの負圧を吸着パッド42に伝えて、吸着パッド42に所望の吸引力を付与し得る。吸引装置41は、吸着パッド42に付加する吸引力を制御し得る制御部を備え、シート10を保持させる際には、吸着パッド42に吸引力を付与し、移動先において該吸引力を解除することによってシート10の保持状態を解放することによって、該シート10を移動先に移載し得る。負圧源としては、各種公知の吸引ポンプ等が挙げられる。
【0010】
製造装置100を用いるシート状物品1の製造方法は、原料シート10Aから所望の形状を有するシート10を切り出すシート形成工程と、該シート形成工程で得られたシート10を移載する移載工程とを有する。本実施態様の製造方法は、これらの工程に加えて、加工工程を有している。加工工程は移載工程の後に行う。
【0011】
図2図4に、シート形成工程で得られるシート10を示す。シート10は、平面視において、通気性が異なる領域を有している。具体的には、シート10は、相対的に通気性が高い高通気性領域R1と、相対的に通気性が低い低通気性領域R2とを有する。通気性の指標としては、通気抵抗を用いることができる。本実施形態では、低通気性領域R2は、通気抵抗が0.2kPa・s/m以上の領域である。通気抵抗は、以下の方法により測定することができる。
<通気抵抗の測定方法>
通気抵抗は、通気性試験機(カトーテック株式会社製KES-F8)を用いて測定する。具体的には、シートにおける測定対象の領域が通気性試験機の通気穴を塞ぐように該シートを固定し、23℃、53%RHの環境下で、通気穴面積が2πcm、ピストン速度が2cm/sの条件で通気抵抗を測定する。この測定を10回行い、その平均値を通気抵抗とする。通気抵抗の値が小さい領域で変化等する場合や、測定箇所の領域が小さい場合には試験機の穴面積を小さくしてもよく、例えば通気穴面積0.2πcmで測定する。
【0012】
シート10は、繊維からなる繊維層を含んでいる。本実施態様では、シート10は、第1シート11と、第1シート11の一方の面側に配された第2シート12とを有する積層シートであり、第1シート11及び第2シート12の両方が繊維層である。第2シート12は、第1シート11の周縁から延出しており、シート10は、第1シート11と第2シート12とが積層されている部分と、第2シート12のみからなる部分とを有する。第2シート12よりも第1シート11の平均繊維径を小さくすることにより、第2シート12よりも第1シート11の通気性が低くなる。
【0013】
本実施態様のシート10では、第1シート11と第2シート12とが積層されている部分において、部分的に通気性を異ならせることにより、低通気性領域R2と高通気性領域R1を形成している。シート10では、図2図5に示すように、第2シート12は、一定の厚みを有する一方、第1シート11は、その周縁端17から内方に向かって漸次厚みが増加している。シート10では、第1シート11の厚みが、その周縁端17から内方に向かって変化していることにより、第1シート11と第2シート12とが積層されている部分において、部分的に通気性を異ならせている。具体的には、シート10においては、その周縁端から内方に向かって通気性が低くなっている。
本実施態様では、低通気性領域R2は、図5に示すように、シート10における最も厚みが大きい部位を含む領域である。低通気性領域R2は、後述する内方領域Mを含んでいる。高通気性領域R1は、図5に示すように、低通気性領域R2を囲むように配されている。
【0014】
本実施形態では、上述のように、第1シート11として、通気抵抗が部分的に異なっているものを用いていたが、これに代えて、第1シート11として、通気抵抗が一定のものを用いてもよい。第1シート11及び第2シート12として、通気抵抗が一定のものを用いた場合、第1シート11及び第2シート12何れか一方は、他方の周縁から延出していることが好ましい。第1シート11及び第2シートがそれぞれ、通気抵抗が一定であり、両者の何れか一方が他方の周縁から延出している場合、両者が積層されている部分を低通気性領域R2とし、一方のシートのみからなる部分を高通気性領域R1としてもよい。
【0015】
シート形成工程では、原料シート10Aからシート10を切り出す。シート形成工程は、シート形成部30で行う。原料シート10Aは、第2シート12の連続体(以下「第2シート連続体」ともいう。)12Aに、第1シート11が積層された積層シートである。本実施態様では、原料シート10Aは、第2シート連続体12Aの複数箇所に、第1シート11が積層された積層シートである。シート形成工程は、原料シート10Aを、第1シート11の周縁に沿って切断することによって、シート10を切り出す切断工程を有している。紡糸形状と輪郭形状が異なっていてもよい。シート形成部30は、切断装置31を有しており、製造装置100では、該切断装置31によって原料シート10Aを切断し、シート10を切り出す。切断装置31としては各種公知の切断手段を用いることができ、例えば、周面又は周縁部に環状の刃を有する円筒又は円盤状のカッター、レーザーカッター、高圧水流カッター、トムソン刃、ヒートカッター、超音波カッター、フェザーカッター等を用いることができる。製造装置100では、切断装置31はレーザーカッターであり、本実施態様に係るシート形成工程では、レーザーカッターを用いて原料シート10Aを切断している。本実施態様では、原料シート10Aを第1シート11の周縁に沿って切断した後、原料シート10Aにおける、切り出されたシート10以外の部分を取り除いている。
【0016】
移載工程では、シート形成工程で得られたシート10を移載する。移載工程は、移載部40で行われる。移載工程では、まず、吸引装置41に接続された吸着パッド42を、シート10における低通気性領域R2に吸着させてシート10を保持する。そして、保持したシート10を移載先に移動させる。本実施態様では、シート10の移動先は、後続する加工工程が行われる領域、即ち加工部50である。加工工程では、シート10の両面を被覆シート71,72で被覆するところ、本実施態様の移載工程では、後続する加工工程においてシート10の一方の面を被覆する被覆シート72上に、シート10を移動させる。
【0017】
加工工程では、移載工程によって移動させたシート10の両面を被覆シート71,72で被覆する。次に、シート10を被覆している被覆シート71,72どうしを接合し、接合部73を形成する。接合部73は、両シート71,72の間に配されたシート10を囲むように形成する。そして、接合部73が形成された被覆シート71,72を切断することにより、個々のシート状物品1を得る。
接合部73を形成する手段としては各種公知の方法を用いることができ、例えば、接着剤により被覆シート71,72どうしを接着してもよいし、熱、超音波等によって被覆シート71,72どうしを融着してもよいし、高周波やレーザー光により溶着してもよい。
また接合部73が形成された被覆シート71,72を切断する手段としては各種公知の切断手段を用いることができ、切断装置31と同様のものを用いることができる。
【0018】
本実施態様のシート状物品の製造方法によれば、移載工程において、吸着パッド42を、低通気性領域R2に吸着させてシート10を保持し、保持したシート10を移動先に移動させているので、シート10に付く吸着痕を低減しながら、該シート10を移載することができる。以下、この点について詳述する。
シート10は、高通気性領域R1と低通気性領域R2とを有するところ、低通気性領域R2の方が、高通気性領域R1よりも、吸着パッド42を吸着させてシート10を保持するために必要な吸引力が弱くてすむ。本実施態様の移載工程では、より弱い吸引力によってシート10を保持することができるので、シート10を保持して移載するときに、シート10に付く吸着痕を低減する、好ましくは完全に付くことを防ぐことができる。したがって、本実施態様によれば、シート10の品質を維持したまま、該シート10を移載することができる。
【0019】
吸引力を強くすることによって、高通気性領域R1に吸着パッド42を吸着させてシート10を保持することや、高通気性領域R1と低通気性領域R2とを判別せずに吸着させる手段も考えられるところ、吸引力を強くした場合、吸着シート10の保持に必要なエネルギーが多くなる。また、吸引力が高いと、吸着パッド42が、低通気性領域R2の一部に重なったときに、該低通気性領域R2に吸着痕が付きやすくなったり、破れや剥離が生じやすくなったりする。他方、低通気性領域R2に重なることを確実に回避するためには、第1シート11部分の形状や形成位置に制約が生じやすくなる。
本実施態様によれば、低通気性領域R2に吸着パッド42を吸着させているので、弱い吸引力でも十分にシート10を保持することができ、より少ないエネルギーでシート10を移載することもできる。
【0020】
本実施態様では、1つの吸着パッド42を低通気性領域R2に吸着させてもよいし、複数の吸着パッド42を低通気性領域R2に吸着させてもよい。図8に、1つの吸着パッド42を低通気性領域R2に吸着させる場合の一例を示し、図9に、複数の吸着パッド42を低通気性領域R2に吸着させる場合の一例を示す。
移載工程においてシート10を確実に保持できるようにする観点から、個々のシート10に存する低通気性領域R2に吸着させる吸着パッド42の数は、シートの大きさにもよるが、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上である。また吸引装置41が複数の吸着パッド42を有する場合、該複数の吸着パッド42は、低通気性領域R2に吸着しない吸着パッドを含んでいてもよい。
【0021】
吸着痕を付きにくくする観点、及び省エネルギーの観点から、移載工程では、シート10における吸着パッド42を吸着させた部分の真空圧力が40kPa以上であることが好ましく、より好ましくは-20kPa以上である。該真空圧力の上限は、シート10を吸着保持し得る限り、特に制限されないが、例えば、-0.2kPa以下であることが好ましい。真空圧力は、後述する<真空圧力の測定方法>と同様の方法により測定することができる。
【0022】
本実施態様では、吸着パッド42を低通気性領域R2に吸着させたときに、該吸着パッド42におけるシート10と対向している面の一部のみが、低通気性領域R2に接触していてもよい。吸着パッド42を低通気性領域R2に確実に吸着させて、シート10を確実に保持できるようにする観点から、吸着パッド42におけるシート10と対向している面の全面積Eに対する、低通気性領域R2に接触している部分の面積E1の比E1/Eは、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.7以上である。吸着パッド42におけるシート10と対向している面の全面が低通気性領域R2に接触していることが最も好ましい。前記比E1/Eの下限値は、例えば0.3とすることができる。
【0023】
複数の吸着パッド42を低通気性領域R2に吸着させる場合、複数の吸着パッド42のうち、前記比E1/Eの値が上述した好ましい範囲内である吸着パッド42の割合は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上である。複数の吸着パッド42の全てが、前記比E1/Eの値が上述した好ましい範囲内であることが最も好ましい。複数の吸着パッド42のうち、前記比E1/Eの値が上述した好ましい範囲内である吸着パッド42の割合の下限値は、例えば40%とすることができる。
【0024】
吸着パッド42を低通気性領域R2に確実に吸着させて、シート10を確実に保持できるようにする観点から、低通気性領域R2の通気抵抗E2に対する、高通気性領域R1の通気抵抗E1の比E2/E1は、好ましくは2以上、より好ましくは2.5以上、更に好ましくは3以上である。
また、通気性を確保しつつ吸着しやすくする観点から、前記比E2/E1は、好ましくは2500以下、より好ましくは1000以下、更に好ましくは250以下である。
【0025】
低通気性領域R2の通気抵抗E2は、吸着痕を付きにくくする観点、及び省エネルギーの観点から、好ましくは25kPa・s/m以下、より好ましくは10kPa・s/m以下である。
また低通気性領域R2の通気抵抗E2は、シートを確実に保持する観点から、好ましくは0.2kPa・s/m以上、より好ましくは0.4kPa・s/m以上、更に好ましくは0.6kPa・s/m以上である。
【0026】
高通気性領域R1の通気抵抗E1は、低通気領域R2の通気抵抗E2よりも低いことを前提として、現実的には、好ましくは0.3kPa・s/m以下、より好ましくは0.2kPa・s/m以下である。
また高通気性領域R1の通気抵抗E1は、通気性を有する現実的な値の観点から、好ましくは0.01kPa・s/m以上、より好ましくは0.1kPa・s/m以上である。
【0027】
本実施態様のシート形成工程は、積層シートである原料シート10Aを形成する積層工程を有している。積層工程では、第2シート12の連続体12A上に、第1シート11を構成する繊維を堆積させることにより、積層シートである原料シート10Aを形成する。本実施態様では、第2シート連続体12A上に、第1シート11を構成する繊維を不均一に堆積させている。言い換えると、第2シート連続体12A上に、第1シート11を構成する繊維を部分的に堆積させている。本実施態様のシート形成工程では、積層シートである原料シート10Aからシート10を切り出しているので、得られるシート10も、上述のように、第1シート11と第2シート12とが積層された積層シートである。
本実施態様の移載工程では、第1シート11と第2シート12とが積層された領域である低通気性領域R2に吸着パッド42を吸着させているので、吸着パッド42によってシート10を保持するときに、吸着パッド42の吸引力が第1シート11及び第2シート12の両方に及ぶ。そのため、第1シート11と第2シート12とが剥離を抑制でき、シート10が積層シートであっても、シート10の品質を維持したまま、シート10を移動先に移載することができる。
【0028】
移載工程では、シート10における第1シート11側の面、及びシート10における第2シート12側の面のいずれに吸着パッド42を吸着させてもよいが、第1シート11が第2シート12上に形成されるため、製造上の効率性の観点から、シート10における第1シート11側の面に吸着パッド42を吸着させることが好ましい。
【0029】
第2シート12の連続体12A上に第1シート11を形成する方法としては、例えば、電界紡糸法、エアレイド法、スパンボンド法、メルトブローン法等の紡糸法が挙げられる。斯かる紡糸法は、紡糸により形成する第1シート11の形状及び形成位置を一定に維持することが必ずしも容易ではないが、後述する、シート10の切断位置に基づく吸着パッド42の吸着位置の制御をする利点が大きい。
第2シート12上に、繊維層である第1シート11を形成する方法は、紡糸に形成されず、任意の方法により別に製造した繊維層を、第2シート12上に配置して形成することもできる。例えば、カード法により形成した繊維ウェブを配置する等、各種公知の方法により製造した繊維ウェブ又は不織布を配置してもよい。
【0030】
本実施態様では、製造装置100のシート形成部30は、図1に示すように、電界紡糸装置32を有しており、電界紡糸法により、第2シート12上に第1シート11を構成する繊維を堆積させている。電界紡糸装置32は、原料液を吐出するノズル33と、該ノズル33との間に電界を生じさせる対向電極34と、ノズル33を移動させる移動機構35とを有している。原料液は、第1シート11の構成繊維の原料樹脂の溶液又は分散液を意味する。ノズル33と対向電極34とは、第2シート12を挟んで対抗するように配されている。本実施態様では、ノズル33と対向電極34との間に電界を生じさせた状態下で、ノズル33に原料液を供給し、該ノズル33から原料液を吐出させる。この際、電界紡糸装置32は、移動機構35によってノズル33を水平方向に移動させながら、原料液を吐出させる。吐出された原料液は、電気的斥力、原料液に含まれる溶媒の蒸発を繰り返して、ナノファイバFを形成しながら対向電極34に引き寄せられるように紡糸される。このナノファイバFが、第1シート11の構成繊維である。ナノファイバFは第2シート12上に堆積し、ナノファイバの堆積体を形成する。この堆積体が第1シート11となる。
【0031】
本明細書においてナノファイバとは、その太さを円相当直径で表した場合、一般に10nm以上3000nm以下、特に10nm以上1000nm以下のものである。ナノファイバの太さは、例えば走査型電子顕微鏡観察によって、繊維を10000倍に拡大して観察し、その二次元画像から欠陥(ナノ繊維の塊、ナノ繊維の交差部分、ポリマー液滴)を除いた繊維を任意に10本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引き繊維径を直接読み取ることで測定することができる。
【0032】
本実施態様では、シート形成工程は、原料シート10Aにおける低通気性領域R2の位置を検出する検出工程と、原料シート10Aの切断位置を補正する切断位置補正工程とを有している。検出工程及び切断位置補正工程は、原料シート10Aからシート10を切り出す切断工程よりも前に行われる。
【0033】
検出工程は、積層工程後に行われる。検出工程では、原料シート10Aにおける第1シート11が配されている側の面を撮像し、得られた画像を用いて、低通気性領域R2の位置を検出する。製造装置100では、図1に示すように、電界紡糸装置32と切断装置31との間にカメラ(以下「第1カメラ」ともいう。)51が配されており、第1カメラ51により、原料シート10を撮像する。そして、第1カメラ51により撮像された画像に画像処理をすることで低通気性領域R2の位置を検出する。例えば、第1カメラ51により撮像された画像を、低通気性領域R2とそれ以外の領域とを判別できる閾値で2値化して、低通気性領域R2を検出することができる。
【0034】
切断位置補正工程では、検出工程で検出した低通気性領域R2の位置に基づいて原料シート10Aの切断位置を補正する。具体的には、切断工程で原料シート10Aを切断したときに、切り出されるシート10の高通気性領域R1が、該シート10の周縁の全周に沿って配されるように切断位置を補正する。例えば、検出された低通気性領域R2が切断位置C1と重なっていた場合(図6(a)参照)、低通気性領域R2が切断位置C1で囲まれる領域内に位置するように、切断位置C1を補正する(図6(b)参照)。
切断工程は、切断位置補正工程後に行う。切断工程では、原料シート10Aを切断し、所望の形状のシート10を切り出す。
【0035】
本実施態様の移載工程では、原料シート10Aの切断位置に基づいて、シート10における吸着パッド42を吸着させる位置を決定することが好ましい。原料シート10Aの切断位置、即ち積層シートの切断位置は、切断工程で実際に切断した位置であってもよく、切断位置補正工程で算出した切断予定位置であってもよい。第1シート11を紡糸法により形成した場合等においては、第1シート11の形状及び形成位置を高精度に一定に維持することが難しい場合がある。第1シート11の配置位置ではなく、切断位置に基づいて吸着パッド42の吸着位置を制御することにより、第1シート11の構成繊維を堆積させる位置が、低通気性領域R2の形成予定位置からずれた場合であっても、シート10の輪郭形状に基づき吸着パッド42を高精度に吸着させることができる。
【0036】
移載工程では、切断工程で切り出されたシート10の外形を検出し、検出されたシート10の外形に基づいて、シート10における吸着パッド42を吸着させる位置を決定することも好ましい。本実施態様においては、原料シート10Aからシート10を切り出した後、原料シート10Aにおける、切り出されたシート10以外の部分を取り除いているところ、原料シート10Aにおける、切り出されたシート10以外の部分を取り除くときに、搬送されるシート10の位置がずれてしまう恐れがある。移載工程において、シート10の外形を検出し、検出されたシート10の外形に基づいて、吸着パッド42を吸着させる位置を決定することにより、切り出されたシート10を搬送しているときに、該シート10の位置がずれた場合であっても、低通気性領域R2に吸着パッド42を確実に吸着させることができる。
【0037】
本実施態様では、切り出されたシート10における第1シート11が配されている側の面を撮像し、得られた画像を用いて、シート10の外形を検出する。製造装置100では、図1に示すように、切断装置31と吸引装置41との間にカメラ(以下「第2カメラ」ともいう。)52が配されており、第2カメラ52により、シート10を撮像する。そして、第2カメラ52により撮像された画像に画像処理をすることでシート10の外形を検出する。例えば、第2カメラ52により撮像された画像を、シート10とそれ以外の領域とを判別できる閾値で2値化して、シート10の外形を検出することができる。
【0038】
本実施態様の移載工程では、検出工程で検出した低通気性領域R2の位置に基づいて、シート10における吸着パッド42を吸着させる位置を決定してもよい。こうすることにより、積層工程において、第1シート11の構成繊維を堆積させる位置が、低通気性領域R2の形成予定位置からずれた場合であっても、低通気性領域R2に吸着パッド42を確実に吸着させることができる。
【0039】
本実施態様では、切断工程において、検出工程で検出した低通気性領域R2の位置に基づいて原料シート10Aの切断位置を決定し、移載工程においても、検出工程で検出した低通気性領域R2の位置に基づいて、シート10における吸着パッド42を吸着させる位置を決定してもよい。こうすることにより、積層工程において、第1シート11の構成繊維を堆積させる位置が、低通気性領域R2の形成予定位置からずれた場合であっても、低通気性領域R2に吸着パッド42を確実に吸着させることができる。
【0040】
次に、本実施態様のシート形成工程で形成されるシート10について、詳述する。
シート10の第1シート11は、図3に示すように、第2シート12が位置する側とは反対側の面に起伏を有している一方、第2シート12と対向する面は平坦である。以下、第1シート11における、第2シート12が位置する側とは反対側の面を第1面S1、第2シート12と対向する面を第2面S2という。本実施態様の第1シート11は、図4に示すように、第1面S1側が内方に向かって隆起した構造を有している。なお、第1シート11は非常に薄いものであるが、説明の便宜上、図3及び図4においては第1シート11が非常に大きく描かれている。
【0041】
第1シート11は、その周縁端17から内方に向かって漸次厚みが増加するグラデーション領域Gを有している。グラデーション領域Gは、周縁端17から内方に向かって隆起している領域であり、第1シート11の周縁端17を含んでいる。グラデーション領域Gは、第1シート11の第1面S1を平面視したとき、後述する内方領域Mの輪郭の中央線CLに直交する直交線に沿う断面において、該内方領域Mに向かって傾斜している領域である(図3参照)。前記直交線に沿う断面は、例えば、図2におけるIII-III線断面である。このような断面は、前述した三次元形状データに基づいて求められる。グラデーション領域の特定方法について以下に詳述する。
【0042】
〔グラデーション領域の特定方法〕
まず、第1シート11の第1面S1の表面の三次元形状を、レーザー式三次元形状測定システム(例えば、コムス株式会社製、測定システムEMS2002AD-3D、及び株式会社キーエンス製 変位センサLK-2000の組合せ)を用いることによって、測定する。具体的には、第2シート12をオートステージ上に載置してシート10をセットする。次いで、オートステージをX軸方向に移動させながら、レーザー変位計を走査させ、所定の計測ピッチXPで第1シート11の第1面S1の表面の高さを計測する。そして、オートステージをX軸と直交するY軸方向に、計測ピッチYPずらして、オートステージをX軸方向に移動させながら、レーザー変位計を走査させ、所定の計測ピッチXPで第1シート11の第1面S1の表面の高さを計測する動作を繰り返すことにより、第1シート11の第1面S1の表面形状データを得る。X軸方向の計測ピッチは0.235mmとし、Y軸方向の計測ピッチYPは0.350mmとし、高さ(Z軸)方向の分解能は0.1μmとする。また、測定範囲は、平面視、即ちX軸方向及びY軸方向において第1シート11全体が含まれる範囲とし、対象物に応じて計測ピッチは適宜変更しても差し支えない。以上の測定を無荷重下にて行う。このようにして、第1シート11の三次元形状データを測定する。
次に、前記三次元形状データにおいて、厚みが最大となる位置を頂点位置として特定し、該頂点位置における第1シート11の厚みを求める。次いで、前記三次元形状データに基づき、厚みが頂点位置の厚みの80%となる領域の輪郭を示す等高線(以下、「80%厚み等高線」ともいう)を求め、該等高線の位置を、前記平面輪郭曲線とともに前記三次元形状データに反映させる。例えば、図7に示すように、前記三次元形状データに平面輪郭曲線C0及び80%厚み等高線C80を反映させる。ナノファイバを含むナノファイバ層は、表面から飛び出した繊維が存在すること、及び局所的に繊維の少ない部分や多い部分が形成されていることが一般的であるので、80%厚み等高線がノイズを含んでいることがある。斯かるノイズを除去する観点から、多項近似式による近似曲線化処理を行う。当該処理により複数の近似曲線が得られる場合は、三次元形状データに最も近い近似曲線を選択する。
次いで、平面輪郭曲線上の任意の位置を第1のポイントとし、該平面輪郭曲線の周長を10等分する第1~第10のポイントを該平面輪郭曲線上に設定する。図7に示す符号N1~N10は、第1~第10ポイントの一例である。次いで、第1~第10のポイントそれぞれにおいて、前記三次元形状データにおける第1シート11の断面輪郭線を求める。断面輪郭線は、平面視において平面輪郭曲線上の第1~第10のポイントそれぞれと前記80%等高線とを最短距離で結ぶ線分に沿って、前記三次元形状データの第1シートを切断したときの断面の輪郭線である。次いで、第1~第10のポイントそれぞれにおける断面輪郭線に対し、前述した近似曲線化処理を行い、断面輪郭曲線を取得する。次いで、得られた各断面輪郭曲線に、これと対応する第1~第10のポイントの位置を反映させて、断面輪郭曲線における第1シート11の周縁端の位置を特定する。次いで、得られた各断面輪郭曲線において、周縁端から第1シート11の内方に向かって漸次厚みが増加する領域であって、その幅が3mm以上の傾斜領域を特定する。当該幅は、断面輪郭曲線における、周縁端から頂点位置までの長さ、又は周縁端から後述する最大厚み部までの長さである。また、断面輪郭曲線において漸次厚みが増加するパターンとしては、例えば直線状に増加するパターンや、シグモイド曲線や指数関数曲線等のように曲線状に増加するパターン、多段的に増加するパターン等が挙げられる。そして、第1~第10のポイントのうち、前記傾斜領域を有する断面輪郭曲線が確認されたポイントの数を計測する。計測した傾斜領域を有する断面輪郭曲線のポイント数を「n」としたとき、「(n/10)×100(%)」により、第1~第10のポイントの合計10箇所に対する、傾斜領域を有する断面輪郭曲線の数の割合(%)を求めることができる。即ち、第1シートの周縁全長に対してグラデーション領域を何%有しているのかを判断することができる。例えば、第1~第10のポイントのうち、5箇所で前記傾斜領域を有する断面輪郭曲線が確認された場合、測定対象の第1シートは、該第1シートの周縁全長に対しグラデーション領域を50%有するものと判断することができる。
【0043】
本実施態様における第1シート11は、前記グラデーション領域Gと、該グラデーション領域Gに囲まれた内方領域Mとを有している。本実施態様の第1シート11は、図3に示すように、グラデーション領域Gの厚みが一方向に向かって漸次増加しているのに対し、内方領域Mにおける厚みは実質的に一定である。したがって内方領域Mは、位置によって厚みが若干異なっていることが許容される。例えば平均厚みに対して±25%程度の範囲で厚みが異なることが許容される。本実施態様において内方領域Mの厚みと、グラデーション領域Gの最大厚み部15の厚みD1(図3参照)とは同じ厚みである。グラデーション領域Gの最大厚み部15とは、グラデーション領域Gの厚みが最大となる部分であり、グラデーション領域Gの内方領域M側の端である。内方領域Mは、第1シート11の頂点位置における厚みに対する厚みが、好ましくは80%以上の領域、より好ましくは90%以上の領域である。内方領域Mは、前述の断面輪郭曲線に基づいて特定できる。第1シート11は、本実施態様のようにグラデーション領域Gと内方領域Mとを有するものであってもよく、内方領域を有さずに周縁端と頂点位置との間にグラデーション領域のみを有するものであってもよい。
【0044】
本実施態様では、移載工程において、シート10の低通気性領域R2に吸着パッド42を吸着させるところ、吸着パッド42は、低通気性領域R2におけるグラデーション領域Gに吸着させてもよいし、低通気性領域R2における内方領域Mに吸着させてもよい。吸着パッド42を低通気性領域R2に確実に吸着させる観点からは、吸着パッド42は、低通気性領域R2における内方領域Mに吸着させることが好ましい。なお、低通気性領域R2におけるグラデーション領域G及び内方領域Mを跨ぐように吸着パッド42を吸着させてもよい。
【0045】
シート10は、高通気性領域R1と低通気性領域R2とで色が同じであってもよいし、異なっていてもよい。本明細書において「色」というときには、有彩色及び無彩色の双方を含み、また、蛍光色や金属光沢を有する色等を含む。「色が異なる」というときには、色相、明度、彩度、透明度等のうち少なくとも一つが異なることを含む。第1シート11の色と、第2シート12の色とを異ならせることにより、高通気性領域R1の色と、低通気性領域R2の色とを異ならせることができる。
高通気性領域R1と低通気性領域R2とで色が異なっていることにより、移載工程において、低通気性領域R2を容易に認識することができるようになるので、低通気性領域R2に吸着パッド42を容易に吸着させることができる。
【0046】
シート10は、平面視における、高通気性領域R1の面積K1と、低通気性領域R2の面積K2とが同じであってもよいし、異なっていてもよい。高通気性領域R1の面積K1と、低通気性領域R2の面積K2と異なる場合、両者のうち、どちらが大きくてもよい。低通気性領域R2に吸着パッド42を確実に吸着させる観点からは、高通気性領域R1の面積K1は、低通気性領域R2の面積K2よりも小さいことが好ましい。ここで、低通気性領域R2の面積K2は、低通気性領域R2における内方領域Mの面積を意味し、グラデーション領域Gの面積は含まない。
【0047】
低通気性領域R2に吸着パッド42を確実に吸着させる観点からは、シート10の面積Kに対する、低通気性領域R2の面積K2の比K2/Kは、好ましくは0.35以上、より好ましくは0.4以上、更に好ましくは0.45以上であり、グラデーション領域Gを形成する観点からは、好ましくは1未満、より好ましくは0.9以下、更に好ましくは0.8以下である。
【0048】
シート10の第1シート11を構成する繊維は、繊維形成可能な高分子化合物を含むナノファイバ、ビーズ等を含んでいてもよい。高分子化合物は、水不溶性高分子化合物であってもよい。水不溶性高分子化合物としては、例えば、ナノファイバ形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、架橋剤と併用することでナノファイバ形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリ(N-プロパノイルエチレンイミン)グラフト-ジメチルシロキサン/γ-アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、あるいはポリ乳酸(PLA)、ポリエチレンテフタレート樹脂、ポリブチレンテフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。これらの水不溶性高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
シート10の第1シート11を構成する繊維は、水溶性高分子化合物のナノファイバを含んでいてもよい。水溶性高分子化合物としては、プルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ-γ-グルタミン酸、変性コーンスターチ、β-グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の天然高分子、部分鹸化ポリビニルアルコール(架橋剤と併用しない場合)、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキサイド、水溶性ナイロン、水溶性ポリエステル、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子などが挙げられる。これらの水溶性高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
第2シート12は、シート10の保形性を維持可能な層であり、単一の層であってもよく、多層であってもよい。
第2シート12としては、不織布等の繊維シートを用いることができる。第2シート12は、シート10に吸着パッド42を、品質を維持したまま吸着させる観点から、通気性を有していることが好ましい。通気性を有する第2シート12としては、繊維シート、スポンジを用いることが好ましい。具体的には繊維シートは、各種の不織布、織布、編み地、紙、メッシュシート及びそれらの積層体などである。不織布としては、例えばメルトブローン不織布、スパンボンド不織布、エアスルー不織布及びスパンレース不織布などを用いることができるが、これらに限られない。これらの不織布やメッシュシートを構成する繊維ないしストランドは、その太さが、ナノファイバの範疇であってもよく、あるいはそれよりも太いものであってもよい。また、繊維としては、繊維形成性の合成樹脂からなる繊維や、コットン及びパルプなどのセルロース系の天然繊維を用いることができる。スポンジは、具体的には合成樹脂又は天然樹脂を発砲させた多孔性材料、例えば発泡樹脂からなるものである。合成樹脂又は天然樹脂としては、例えばウレタン、ポリエチレン、メラミン、天然ゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどを用いることができるが、これらに限られない。発泡樹脂は通気性を有する形態を形成し得るものであれば、種々の材料を用いることができる。
本明細書において、移載後のシートの品質とは、シートが積層体である場合、これらが剥離していないことを意味する。また、シートに吸着痕が付かないことが好ましい。
【0051】
以上、本発明をその好ましい実施態様に基づき説明したが、本発明は前記の実施態様に制限されない。
例えば、本実施態様では、シート形成工程において、原料シート10Aから所望の形状を有するシート10を切り出していたが、これに代えて、シート形成工程において、所望の形状を有するシートを形成してもよい。シート形成工程において、所望の形状を有するシートを形成する場合、形成される該シートは、多層構造を有していてもよいし、単層構造を有していてもよい。
【0052】
本実施態様では、第2シート12の連続体12Aに、第1シート11を構成する繊維を堆積させていたが、これに代えて、所定の形状に切断された第2シート12上に、第1シート11を構成する繊維を堆積させてもよい。
また本実施態様では、シート10は多層であったが、これに代えて、シート10は単層であってもよい。
【0053】
シート10の平面視形状は特に制限されず、例えば、円形状(図10(a)参照)、三角形形状(図10(b)参照)、星形形状、多角形形状、楕円形状、曲線形状等であってもよい。
【0054】
また本実施態様の製造方法は、加工工程を有していたが、加工工程を有していなくてもよい。例えば、シート形成工程により得られたシート10を、シート状物品としてもよい。
検出工程における低通気性領域の位置の検出、移載工程における切り出されたシート10の外形の検出等は、画像処理以外の方法によって行ってもよい。
【実施例0055】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0056】
〔実施例1〕
本実施態様のシート状物品の製造方法のように、低通気性領域と高通気性領域とを有するシートを形成し、該シートにおける低通気性領域に吸着パッドを吸着させて保持し、移動先へと移載させた。形成したシートの諸元、真空圧力、吸着パッド1個あたりの圧力差は、表1に示すとおりである。
【0057】
【表1】
【0058】
<真空圧力の測定方法>
空気圧源から、吸着パッド(SMC株式会社製、型番:ZP3P-T20JT2SF-WM-A16-B01)が接続された真空エジェクタに圧縮エアーを供給し、吸着パッド内を真空状態にした。空気圧源と真空エジェクタとの間にレギュレータ(SMC株式会社製、型番:ARG40-02G2H)を配した。そして、真空状態の吸着パッド内の真空圧力を圧力センサ(SMC株式会社製、型番:ZSF20-N-M-01-LDK)を用いて測定した。測定は10回行い、平均値を真空圧力とした。
実施例1~3並びに比較例1及び2に用いた真空エジェクタは、それぞれ以下のとおりである。
実施例1~3、比較例1;SMC株式会社製、型番:ZH05DLA
比較例2;SMC株式会社製、型番:ZH20DLA
【0059】
<吸着パッド1個あたりの圧力差の測定方法>
圧力差ΔP(kPa)は、以下の式(1)により算出した。式(1)において、Aは通気抵抗(KPa)、Lは漏れ量(L/min)、S’は吸着パッドの吸着有効面積(cm)である。
【0060】
【数1】
【0061】
漏れ量Lは、真空エジェクタの排気特性及び流量特性から、以下のようにして算出した。例えば実施例1の場合、漏れ量L(L/min)と真空圧力X(kPa)の関係はカタログより検量線を作成すると下記のように示される。
L=X/2+14
【0062】
吸着パッドの吸着有効面積S’は、以下の式(2)により算出した。式(2)において、Sは吸着パッドにおけるシート側に対向する面の面積(cm)である。
【0063】
【数2】
【0064】
Sは吸着パッドにおけるシート側に対向する面の面積(cm)は、以下の式(3)により算出した。式(3)において、Dは、吸着パッドにおけるシート側に対向する面の直径であり、20cmである。
【0065】
【数3】
〔実施例2及び3〕
シートの諸元を、表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、シートを移動先へ移載させた。
〔比較例1及び2〕
シートの諸元を、表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、シートを移動先へ移載させた。
【0066】
実施例1~3並びに比較例1及び2について、以下の評価基準にしたがって評価した。
〔評価基準〕
A:シートを吸着して、移動先に移載することができる。移載後のシートには、吸着痕が無い。
B:シートを吸着して、移動先に移載することができる。移載後のシートには、吸着痕が少しある。
C:シートを吸着して、移動先に移載することができる。移載後のシートには、吸着痕がある。
D:シートを吸着して、移動先に移載することができる。移載後のシートは、第1シートと第2シートとが剥離している。
E:シートを把持して、移動先に移載することができない。
【0067】
表1に示すとおり、比較例1においては、シートを把持し、移動先に移載することができなかった。また比較例2においては、シートを把持し、移動先に移載することはできたが、移載後のシートは、第1シートと第2シートとが剥離しており、シートの品質を維持することができなかった。実施例1~3は、いずれも、シートを把持し、移動先に移載することができた。実施例1は、移載後のシートに吸着痕は無く、シートの品質を維持したまま移載することができた。実施例2及び3は、移載後のシートに吸着痕があったが、該吸着痕は僅かであり、シートの品質を維持したまま移載することができた。したがって、本発明のシート状物品の製造方法によれば、シートの品質を維持したまま、シートを移載先へ移動させることができることが分かる。
【符号の説明】
【0068】
1 シート状物品
10 シート
100 シート状物品の製造装置
30 シート形成部
40 移載部
41 吸引装置
42 吸着パッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10