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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094189
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】無機塩含有歯科用陶材ペースト
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/836 20200101AFI20240702BHJP
   A61K 6/831 20200101ALI20240702BHJP
【FI】
A61K6/836
A61K6/831
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210988
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中陽佑
(72)【発明者】
【氏名】後藤正憲
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA03
4C089AA09
4C089BA01
4C089BA03
4C089BA04
4C089BA07
4C089BA12
4C089BA13
4C089BC02
4C089BC03
4C089CA03
(57)【要約】
【課題】長期保存においても一定のペースト性状を維持でき、また有機成分が含まれる場合であっても焼成時に炭化や気泡がほとんど発生しない歯科用陶材ペーストを提供する
【解決手段】歯科補綴装置を作製するための歯科用陶材ペーストを、平均粒子径D50が1-20μmの基材ガラス(a)、平均一次粒子径が1-50nmの疎水化微粒子シリカ(b)、100-300℃沸点を有する有機溶剤(c)、及び、無機塩(d)を含むものとする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科補綴装置を作製するための歯科用陶材ペーストであって、
平均粒子径D50が1~20μmの基材ガラス(a)、
平均一次粒子径が1~50nmの疎水化微粒子シリカ(b)、
100~300℃沸点を有する有機溶剤(c)、及び、
無機塩(d)
を含むことを特徴とする歯科用陶材ペースト。
【請求項2】
基材ガラス(a)100質量部に対して、
1~15質量部の疎水化微粒子シリカ(b)、
15~90質量部の有機溶剤(c)、
0.05~1.0質量部の無機塩(d)を含むことを特徴とする請求項1記載の歯科用陶材ペースト。
【請求項3】
無機材料である着色材(e)及び/又は蛍光材(f)をさらに含む請求項1に記載の歯科用陶材ペースト。
【請求項4】
無機材料である着色材(e)及び/又は蛍光材(f)をさらに含む請求項2に記載の歯科用陶材ペースト。
【請求項5】
基材ガラス(a)の最大粒子径D100が200μm以下である請求項1~4のいずれかに記載の歯科用陶材ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工歯等の歯科補綴装置に使用され、長期保存においても一定のペースト性状を維持し、操作性に優れた歯科用陶材ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
インレー、クラウン、ブリッジなどの歯科補綴装置作製のための材料として、アルミナやジルコニアなどの酸化セラミックスや、長石系ガラスやケイ酸リチウムガラスなどのガラスセラミックスなど、アレルギー性が少なく、強度や審美性に優れたコア材料の需要が高まっている。特に近年では、CAD/CAM技術の発展に伴い、材料単体で歯科補綴装置の形状を確保する容易な技術が主流となりつつある。しかし、酸化セラミックスはマルチレイヤー化技術が進歩するものの、依然として透明性が低いこと、ガラスセラミックスは高い透明性があるものの、天然歯固有の部分的な色調再現が難しいことが課題である。このため、材料単体で審美性を担保するには、材料特性が不十分であることが現状である。歯科補綴装置に天然歯と同等の審美性を付与するため、光沢や透明性、着色を補う併用材料が必要である。
【0003】
酸化セラミックスやガラスセラミックスのコア材料に光沢や透明性、着色を付与する材料は、一般的にガラス、ガラスセラミックス、酸化セラミックス材料等が選択される。この材料は通常、粉末状の基材ガラスを、焼き付け時に消失する液成分で練和してペースト化して使用する。この場合、術者の技量に左右されないよう、あらかじめ塗布に適する粘性のペースト状(スラリー化)にしておくことが好ましい。本技術に使用する練和液の例として、特許文献1には、芳香環を含まないエステル化合物を5wt%以上含み、かつ重合性単量体を含まない、有機溶剤が開示されている。しかし、これら練和液を単純に基材ガラスと混合したペーストは、長期保存においての変化が著しく、ペーストの沈降、液分離、ガラスと液の経時的なじみによる稠度(粘性)の低下などが生じる。このような経時的変化は、精密な作業を有する歯科技工作業において、作業効率の悪化や一定の作業性維持が難しくなる。
【0004】
このような経時的変化は、ペースト中の粒子存在状態の変化が原因であり、具体的には、粒子の凝集や、粒子及び凝集物の沈降などが生じる。この変化を抑制するため、ペースト中の粒子を分散させるための有機高分子分散剤を別途添加し、長期保存においても一定のペースト性状を維持させる方法もある。特許文献2には、使用時に乾燥・固化しにくい歯科用ペースト状陶材が開示されている。高分子材料を溶解させた粘度が50,000~1,500,000cpsの有機溶剤を7~45重量部と残部の陶材粉末とで100重量部になるよう混合され、ペースト状を呈していることを特徴としている。しかしこの場合、焼成時に有機高分子成分の影響による炭化や気泡発生の原因となる。
【0005】
このように、あらかじめペースト状にしておく技術が有用である一方、長期保存において一定のペースト性状が維持できない、もしくは一定のペースト性状を維持するために、光沢や透明性、色調を弊害するリスクのある安定化成分を添加しなければならない課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-193492号報
【特許文献2】特開2001-079019号報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明では、長期保存においても一定のペースト性状を維持でき、また有機成分が含まれる場合であっても焼成時に炭化や気泡がほとんど発生しない歯科用陶材ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、歯科補綴装置を作製するための歯科用陶材ペーストであって、平均粒子径D50が1~20μmの基材ガラス(a)、平均一次粒子径が1~50nmの疎水化微粒子シリカ(b)、100~300℃沸点を有する有機溶剤(c)、及び、無機塩(d)を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明における「平均粒子径D50」とは、粒子の平均値を表すメディアン径(中位径)である。基材ガラスの平均粒子径は、例えばレーザー回折・散乱法、動的光散乱法、遠心沈降法、電気的検知体法、篩分け法、光子相関法などを用いた測定法により求めることができる。本発明の基材ガラス(a)は、いずれかの測定法において平均粒子径D50が1~20μmであればよく、特にレーザー回折・散乱法において平均粒子径D50が1~20μmであるものとすることができる。
【0010】
本発明における「平均一次粒子径」とは、凝集していない状態での全粒子径の平均値である。疎水化微粒子シリカの平均一次粒子径は、例えばガス吸着法、水銀圧入法、ガス浸透法、バブルポイント法などを用いた測定で得られた比表面積から算出することができる。本発明の疎水化微粒子シリカ(b)は、いずれかの測定法において平均一次粒子径が1~50nmであればよく、特にガス吸着法において平均一次粒子径が1~50nmであるものとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の歯科用陶材ペーストは、長期保存においても一定のペースト性状を維持し、また有機成分が含まれる場合であっても、焼成時の炭化による黒変や気泡による白濁を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の歯科用陶材ペーストは、歯科補綴装置を作製するための歯科用陶材ペーストであって、平均粒子径D50が1~20μmの基材ガラス(a)、平均一次粒子径が1~50nmの疎水化微粒子シリカ(b)、100~300℃沸点を有する有機溶剤(c)、及び、無機塩(d)を含む。
【0013】
本発明の歯科用陶材ペーストは、基材ガラス(a)100質量部に対して、1~15質量部の疎水化微粒子シリカ(b)、15~90質量部の有機溶剤(c)、0.05~1.0質量部の無機塩(d)を含むことができる。
【0014】
本発明の歯科用陶材ペーストは、無機材料である着色材(e)及び/又は蛍光材(f)をさらに含むことができる。
【0015】
本発明の歯科用陶材ペーストにおいては、基材ガラス(a)の最大粒子径D100が200μm以下であることができる。
【0016】
歯科用陶材ペーストは、例えばコア材料の上に塗布もしくは築盛し、1回以上焼成して使用する。これにより、目的とする歯科補綴装置の形状、光沢、色調を得ることが可能である。本発明における「コア材料」は例えば、アルミナやジルコニアなどの酸化セラミックスや、長石系ガラスやケイ酸リチウムガラスなどのガラスやガラスセラミックスなどとすることができる。
【0017】
歯科用陶材ペーストを焼成する為の温度(以下、焼成温度)は、一般的に650~1000℃の温度域が選択される。650℃未満で焼成した場合は、有機溶剤の焼成が足りず炭化し、目的の色調を得ることができない場合がある。また1000℃よりも高い温度で焼成した場合、コア材料自体や歯科補綴装置に付与された陶材ペーストの塗布面に、変形や垂れが生じる場合がある。
【0018】
歯科用陶材ペーストを焼成する為の適切な焼成温度(以下、適正焼成温度)は、歯科用陶材ペーストを構成する基材ガラス(a)の適正焼成温度から大幅に乖離することは好ましくない。すなわち、基材ガラスの適正焼成温度と同じ温度で歯科用陶材ペーストを焼成したときに、焼成後の歯科用陶材ペーストの塗布面に焼成不足(艶の消失)がないことが好ましい。これは、ペースト化によって、焼成性や物性などの基材ガラス本来の特性を失わないためである。本発明において歯科用陶材ペーストの適正焼成温度とは、焼成後の歯科用陶材ペースト層表面に光沢を付与することができる温度を意味するものであり、温度域であってもよい。また本発明において基材ガラスの適正焼成温度とは、焼成後の基材ガラス層表面に光沢を付与することができる温度を意味するものであり、温度域であってもよい。
【0019】
本発明において基材ガラス(a)の適正焼成温度は、650~1000℃の範囲とすることができる。適正焼成温度の範囲は特に限定されないが、適正焼成温度が650℃未満の基材ガラスは、審美性や生体安全性の観点から製造が困難であるため使用できない。適正焼成温度が1000℃を超える基材ガラスは、コア材料自体や歯科補綴装置に付与された陶材ペーストの塗布面に、変形や垂れが生じる場合があるため、好ましくない。
【0020】
歯科用陶材ペーストは1回だけ焼成してもよい。歯科用陶材ペーストはまた、歯科用陶材ペーストを築盛して焼成した後、さらに歯科用陶材ペーストを築盛して焼成するなど、複数回に亘って焼成することができる。このような焼成は、昇温速度10~100℃/分、焼成温度域100~1200℃において、真空焼成のできる歯科技工用ポーセレン焼成炉を用いて行うことができる。
【0021】
基材ガラス(a)は、焼成して得られた歯科補綴装置の基材となるガラス成分であり、焼成により溶融、コア材料と固着して結合するものである。本発明においては、基材ガラス(a)は、焼成によってコア材料に固着するものであれば、1種単独または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0022】
基材ガラス(a)の平均粒子径D50は1~20μmであり、2~15μmとすることができ、さらに4~10μmとすることができる。平均粒子径D50が1μmより小さいと、ペースト化した際にガラス粒子同士が凝集し、稠度が変化することがある。平均粒子径が20μmより大きいと、ペースト化した際に基材ガラスが沈降しやすくなることがある。
【0023】
本発明における「平均粒子径D50」とは、メディアン径(中位径)即ちD50/μmを意味する。ここでD50/μmの値がXであるとは、解析される体積中の50%の粒子の粒径がXμmを下回る径を有することを意味する。「平均粒子径D50」は、他の平均法(個数、長さ、体積、面積などの算術平均)やモード径(最頻粒子径)などとは異なるものである。
【0024】
基材ガラスの最大粒子径D100/μmは、200μm以下とすることができ、175μm以下とすることができ、100μm以下とすることができる。本発明における「最大粒子径D100」とは、解析される体積中の粒径の最大値を意味する。200μmより大きな粒子を含むと操作性が悪く、焼成後の塗布面が均一にならない傾向がある。さらには、ペースト化した際に基材ガラスが沈降しやすくなる傾向がある。
【0025】
基材ガラスの製造方法は、当該業者が保有する一般的なガラス組成物の製造装置及び方法により制限なく実施可能である。一般的な製造方法としては、目的とするガラス組成物が得られるように各種の無機化合物を配合し、ガラス溶融炉を用いて1300~1500℃で溶融する。溶融した融液を水中に流し急冷し(クエンチ)ガラスフリットを得る方法である。この方法により得る基材ガラスを歯科用陶材ペーストとして使用するためには、粒度を調整するために、ガラスフリットを粉末状にする必要がある。粉末状にする手法には、例えば、先に述べたガラスフリットを、回転ボールミル、振動ボールミル、遊星ミル、ジェットミル、ビーズミル、ロールクラッシャー、ジョークラッシャー等の粉砕機で粉砕する方法がある。また基材ガラスの粒度を均一調整するために、基材ガラスの粉砕に加えて、必要に応じて篩や水簸等を用いて、分級を行ってもよい。
【0026】
基材ガラス(a)の軟化点(Ts)は、450~650℃とすることができる。軟化点(Ts)が450~650℃の基材ガラスを使用することで、650~850℃での焼成が可能となり、850℃より高い温度で焼成すると変形する恐れがある二ケイ酸リチウム系ガラスセラミックスで作製されたコア材料への適用が可能となる。
【0027】
基材ガラス(a)の配合量は所望のペーストの性状が得られるように、適宜配合することができるが、基材ガラス(a)の配合量が少なすぎる(基材ガラス(a)以外の配合量が多すぎる)と、基材ガラス(a)由来の光沢や透明性が不十分となる、ペースト性状の維持が難しくなるなどの傾向がある。また、基材ガラス(a)の配合量が多すぎると、ペースト化が困難となる傾向がある。
【0028】
本発明に用いる基材ガラス(a)は、歯科用陶材として使用でき、平均粒子径D50が1~20μmであれば特に限定されない。また、ガラス中に結晶を含むガラスセラミックスであってもよい。結晶を含むことで、歯科用陶材ペーストの熱膨張係数の調整や、機械的性質の向上が期待できる。
【0029】
基材ガラス(a)としては、例えばSiOを主成分(含有量が最も多い成分)とするガラスまたはガラスセラミックスが挙げられる。このようなガラスはSiO以外に、Al、B、ZnO、KO、NaO、LiO、ZrO、CaO、MgO等を含んでいてもよい。具体的には、アモルファスタイプのカリウムアルミノシリケートガラス、アモルファスタイプのカリウムボロシリケートガラス、結晶タイプのカリウムアルミノシリケートガラス、結晶タイプのフルオロアパタイトガラス、結晶タイプのリチウムシリケートガラスなどが挙げられる。
【0030】
基材ガラス(a)は、本発明の歯科用陶材ペーストの主成分(含有量が最も多い成分)であり、歯科用陶材ペーストそのものの材料的特性や物性を決める成分となる。このため、本発明に使用する基材ガラス(a)の溶出量、曲げ強さ、熱膨張係数は、歯科用陶材として使用するために適したものとすることができる。
【0031】
本発明に用いる基材ガラス(a)は、例えばISO6872:2015 /Amd.1:2018の「Dentistry-Ceramic materials」に準拠した溶出量が50μg/cm以下とすることができ、35μg/cm以下とすることができ、20μg/cm以下とすることができる。溶出量を50μg/cm以下とすることで、当該ISO規格の要求値を満たす歯科用陶材ペーストとすることができる。
【0032】
本発明に用いる基材ガラス(a)は、例えばISO6872:2015 /Amd.1:2018の「Dentistry-Ceramic materials」に準拠した曲げ強さが50MPa以上とすることができ、80MPa以上とすることができ、100MPa以上とすることができ。曲げ強さを50MPa以上とすることで、当該ISO規格の要求値を満たす歯科用陶材ペーストとすることができる。
【0033】
本発明に用いる基材ガラス(a)は、例えばISO6872:2015 /Amd.1:2018の「Dentistry-Ceramic materials」に準拠した熱膨張係数が7.0~14.0×10-6-1の範囲であり、7.5~11.0×10-6-1の範囲とすることができる。本発明の歯科用陶材ペーストは例えば、酸化セラミックスやガラスセラミックスからなるコア材料の上部への固着を目的として用いられる。これらコア材料の熱膨張係数は、約10.0~11.0×10-6-1であるため、基材ガラス及び歯科用陶材ペーストの熱膨張係数をこれより少し低い範囲に設定することで、歯科補綴装置作製時のクラック発生を抑制することができる。
【0034】
疎水化微粒子シリカ(b)の平均一次粒子径は1~50nmであり、5~45nmとすることができ、7~40nmとすることができる。疎水性微粒子シリカ(b)の平均一次粒子径が50nmより大きいと、ペースト稠度が変化することがある。平均一次粒子径が1nmより小さい疎水性微粒子シリカは、微粒子シリカ自体の製造が困難であるため使用できない。
【0035】
疎水化微粒子シリカ(b)は、表面処理材による表面処理により疎水化されている。表面処理材としては、シランカップリング材等が挙げられる。シランカップリング材としては、特に限定されないが、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチル-3,3,3-トリフルオロプロピルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ポリジメチルシロキサン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメチルシラノール、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、トリメチルブロモシラン、ジエチルシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ω-(メタ)アクリロキシアルキルトリメトキシシラン((メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12、例、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等)、ω-(メタ)アクリロキシアルキルトリエトキシシラン((メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12、例、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等)等が挙げられる。表面処理方法としてはシランカップリング材と微粒子シリカを接触させる方法等が挙げられる。具体的には、微粒子シリカを加熱された反応器中に投入し、シリカ1kg当たりシランカップリング材を0.01~0.5kgとなるような比率で反応器中に窒素等の不活性ガスによって並流的に気送する方法等が挙げられる。本発明においては、本発明の効果に影響しない程度であれば、疎水化微粒子シリカ以外のシリカ、例えば親水性シリカが含まれてもよい。具体的には、本発明においては、疎水化微粒子シリカ以外のシリカの割合は、シリカの合計量の0wt%以上50wt%以下とすることができ、0wt%以上20wt%以下とすることができ、0wt%以上10wt%以下とすることができる。また、本発明においては、疎水化微粒子シリカ以外のシリカを含まないものとすることができる。
【0036】
疎水化微粒子シリカ(b)は、所望のペースト性状に合わせて適宜配合することができるが、基材ガラス(a)100質量部に対して、1~15質量部とすることができ、1.5~6.0質量部とすることができる。疎水化微粒子シリカ(b)の配合量が少なすぎるとペースト稠度が変化することがある。また、疎水化微粒子シリカ(b)の配合量が多すぎると、歯科用陶材ペーストが焼成しにくくなり、基材ガラスの適正焼成温度で歯科用陶材ペーストを焼成した場合に、焼成不足による艶の消失が発生することがある。また均一な面での塗布が難しくなることがある。
【0037】
本発明に用いる疎水化微粒子シリカ(b)は、平均一次粒子径が1~50nmであれば特に限定されないが、例えば、フュームドシリカ、沈殿シリカ、コロイド状無水シリカ、シリカゲル、Syloid、Aerosilなどが使用できる。またこれらの疎水化微粒子シリカ(b)は、1種単独または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0038】
本発明に用いる機溶剤(c)は、沸点が100~300℃のものを用いる。有機溶剤の沸点が100未満であると、室温でも有機溶剤が揮発してしまい、技工作業中における操作性の悪化、長期的ペースト性状の維持が難しくなる。有機溶剤の沸点が300℃を超えると、焼成時に焼け残り、炭化や気泡の原因となる。
【0039】
本発明では、有機溶剤(c)の配合量は基材ガラス100質量部に対して、15~90質量部とすることができ、30~60質量部とすることができる。有機溶剤の配合量が少なすぎるとペースト化が困難となる。有機溶剤の配合量が多すぎると、経時的な稠度変化や沈降が生じやすくなる傾向がある。
【0040】
本発明に用いる有機溶剤(c)は沸点が100~300℃であれば特に限定はされないが、例えば、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル等のエステル系溶媒;1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールモノエーテル系溶媒;2-フェノキシエタノール、ベンジルアルコール等の芳香族アルコール溶媒等が挙げられる。これらの有機溶剤のうち、多価アルコール系溶媒、多価アルコールモノエーテル系溶媒、芳香族アルコール溶媒とすることができ、1,3-ブタンジオール、プロピレングリコール、2-フェノキシエタノールとすることができる。これらの有機溶剤(c)は、1種単独または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。2種類以上の有機溶剤を組み合わせて用いる場合、その沸点は使用する各々の有機溶剤の沸点に添加割合を掛けて合計した数値を使用する。
【0041】
さらに、本発明に用いる有機溶剤(c)は、ヒドロキシ基を有するアルコール類とすることができる。これは、ヒドロキシ基を有する基材ガラスとの馴染をより良好にし、塗布性を向上させるためである。
【0042】
本発明の歯科用陶材ペーストは、基材ガラスや微粒子シリカなどの粒子に吸着する場合を除き、水を含まないものとすることができる。本発明の歯科用陶材ペーストは、溶剤として水を含まないものとすることができる。
【0043】
本発明の歯科用陶材ペーストは、有機高分子性溶剤を含まないものとすることができる。本発明における「有機高分子」とは、表面処理以外の目的で別途添加される成分の内、分子量が200以上の有機成分を示す。このような有機成分は、揮発性に乏しく、焼成段階で残留する可能性がある。本発明の歯科用陶材ペーストは、有機溶剤(c)以外の溶剤を含まないものとすることができる。
【0044】
本発明の歯科用陶材ペーストは、粒子状態を安定化させる添加材を含むことができる。これら添加材は、分散剤や界面活性剤、pH調整剤が該当する。しかし、歯科用陶材として使用する場合、焼成工程で残留すると審美性に大きな影響を与える。このため、本発明で使用する添加材は、有機溶剤に溶解し、焼却残差の少ない無機塩とすることができる。
【0045】
無機塩(d)は、歯科用陶材ペーストを焼成する過程で揮発する、又は基材ガラス(a)の構成成分と同様の金属酸化物として残留するものとすることができる。
【0046】
本発明に用いる無機塩(d)は特に限定されないが、有機溶剤(c)への溶解性を有するものとすることができる。例えば、Al、Zn、K、Na、Li、Ca、Mgから選択される元素で構成される、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、及び/又はこれらの水和物などである。さらなる具体例として、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、塩化カリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、及び/又はこれらの水和物などが挙げられる。またこれらの無機塩(d)は、1種単独または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0047】
本発明における「有機溶剤への溶解性」とは、15質量部の有機溶剤に対して、1.0質量部以下の無機塩が溶解する性質である。これは、一般的な溶解度測定の手法などによって求めることができる。例えば、15質量部の有機溶剤に対して、1.0質量部の無機塩を添加した時、有機溶剤に無機塩の未溶解部が残らない場合、無機塩は有機溶剤への溶解性を有すると判断できる。また、有機溶剤への溶解は、瞬時に起こる必要はなく、超音波振動や物理的粉砕、加熱等の外力によって溶解可能であってもよい。
【0048】
本発明では、無機塩(d)の配合量は基材ガラス(a)100質量部に対して、0.05~1.0質量部とすることができ、0.1~0.5質量部とすることができる。無機塩(d)の配合量が少なすぎると、経時的な稠度変化が生じやすくなる傾向がある。配合量が多すぎると、ダイラタンシー性が強く発現し、操作性に影響を及ぼす場合がある。
【0049】
本発明の歯科用陶材ペーストは、基材ガラス(a)、疎水化微粒子シリカ(b)、有機溶剤(c)、無機塩(d)をいずれも含むことが必要である。さらに本発明の歯科用陶材ペーストは、ペーストの経時的稠度変化を抑制するために、特に、基材ガラス(a)100質量部に対して、疎水化微粒子シリカ(b)を1~15質量部且つ無機塩(d)を0.05~1.0質量部含むことができる。本発明の歯科用陶材ペーストは、基材ガラス(a)100質量部に対して、疎水化微粒子シリカ(b)を1.5~6.0質量部且つ無機塩(d)を0.1~0.5質量部含むことができる。本発明の歯科用陶材ペーストは、基材ガラス(a)100質量部に対して、疎水化微粒子シリカ(b)を1~15質量部且つ有機溶剤(c)を15~90質量部且つ無機塩(d)を0.05~1.0質量部含むことができる。本発明の歯科用陶材ペーストは、基材ガラス(a)100質量部に対して、疎水化微粒子シリカ(b)を1.5~6.0質量部且つ有機溶剤を30.0~60.0質量部且つ無機塩を0.1~0.5質量部含むことができる。
【0050】
本発明の歯科用陶材ペーストは、着色材(e)及び/又は蛍光材(f)を含むことができる。着色材(e)としては例えば無機材料であって、通常歯科材料で用いられるものを使用することができる。具体的にはSiO、Al、CaO、TiO、SnO、Cr、MnO、Sb、V、ZnO、Fe、W、Co、ZrOなどの金属酸化物を複数混合し焼成することで作製された着色材が挙げられる。その配合量は、歯科用陶材ペースト全体を100.0wt%とした際の、0.05~40wt%の範囲が好ましい。
【0051】
蛍光材(f)としては例えば無機材料であって、通常歯科材料で用いられるものを使用することができる。その配合量は、歯科用陶材ペースト全体を100.0wt%とした際の、0.1~5.0wt%の範囲が好ましい。着色材(e)及び/又は蛍光材(f)は、無機材料とすることができる。なお、本発明では、焼却可能な有機染料は含まないものとすることができる。これは有機高分子同様に、焼成段階で残留し、気泡発生の原因となるためである。
【0052】
本発明の歯科用陶材ペーストの作製は、当該業者が保有する一般的なペースト組成物の製造方法により制限なく実施可能である。一般的な製造方法としては、目的とするペースト組成物が得られるように基材ガラス、疎水化微粒子シリカ、有機溶剤、無機塩、着色材、蛍光材を配合し、撹拌及び/又は脱泡機能を備えた装置で混合しペーストを得る方法である。攪拌翼を備えた回転式の混合機、自転公転ミキサー、擂潰機、ロールミル、ボールミル、ニーダー等を用いた公知の混練方法により行われ、これら方法を単独もしくは組み合わせて用いることができる。
【実施例0053】
以下、実施例及び比較例を参照して本発明のさらに具体的な説明をするが、本発明は、これらの実施例及び比較例に何等限定されるものではない。
【0054】
実施例及び比較例における基材ガラスの平均粒子径D50と最大粒子径D100、結晶の有無、適正焼成温度、疎水化微粒子シリカの平均一次粒子径、歯科用陶材ペーストの各種評価方法を以下に示す。
【0055】
[基材ガラスの平均粒子径D50と最大粒子径D100の測定方法]
基材ガラスの平均粒子径D50と最大粒子径D100は、レーザー回折・散乱法、動的光散乱法、遠心沈降法、電気的検知体法、篩分け法、光子相関法などを用いた測定により求めることができる。実施例及び比較例のガラス粉末の粒子径は、レーザー回折・散乱法で測定を行った。具体的にはレーザー回折式粒度分布測定装置マイクロトラックMT-3000II(マイクロトラックベル製)により測定した。
【0056】
[基材ガラスの結晶有無の測定方法]
基材ガラスの結晶の有無は、X線回折装置による測定から確認できる。具体的にはX線回折装置マルチフレックス(リガク製)を用いて、走査範囲10~70°、スキャンスピード2.0°/分で測定した。
【0057】
[基材ガラスの適正焼成温度の測定方法]
基材ガラスを1,3-ブタンジオールで練和したペーストを作製し、歯科技工用筆を用いてこのペーストをジルコニア製の板(10.0×10.0×2.0mm)の10.0×10.0mmの面に、0.2mmの厚さで塗布した。歯科技工用ポーセレン焼成炉エステマットスリム(松風製)を用いて、真空焼成を行った。焼成物の塗布面に艶が生じる最低温度を、その基材ガラスの適正焼成温度とした。表2に基材ガラスの適正焼成温度を示す。
【0058】
[基材ガラスの軟化点及び熱膨張係数の測定方法]
各基材ガラスを蒸留水で練和し、練和物をシリコン製の棒状(6×6×25mm)型に充填し、コンデンスと吸水を繰り返し、成形体を作製した。作製した成形体をシリコン型から取り出し、歯科技工用ポーセレン焼成炉エステマットスリム(松風製)を用いて、真空焼成1回、大気焼成1回の計2回行った。得られた2回焼成物の両端を研磨し平行面を出して、5×5×20mmの大きさに調整した試料を試験体として、熱膨張計TM8140C(リガク製)を用いて、ISO6872:2015 /Amd.1:2018の「Dentistry-Ceramic materials」の手順に準じ、熱膨張係数及び軟化点を測定した。
【0059】
[基材ガラスの溶出量の測定方法]
各基材ガラスを蒸留水で練和し、練和物をシリコン製の円盤(φ12mm×2mm)型に充填し、コンデンスと吸水を繰り返し、成形体を作製した。作製した成形体をシリコン型から取り出し、歯科技工用ポーセレン焼成炉エステマットスリム(松風製)を用いて、真空焼成を行い10個の焼成物を製作した。この焼成物の両面を平面研磨後、2回目の大気焼成を行った。この試験体をISO6872:2015 /Amd.1:2018「Dentistry-Ceramic materials」の手順に準じ、試験を行った。
【0060】
[基材ガラスの曲げ強さの測定方法]
各基材ガラスを蒸留水で練和し、練和物をシリコン製の棒状(3×6×25mm)型に充填し、コンデンスと吸水を繰り返し、成形体を作製した。作製した成形体をシリコン型から取り出し、歯科技工用ポーセレン焼成炉エステマットスリム(松風製)を用いて、真空焼成を行い10個の焼成物を製作した。得られた焼成物の全面を研磨し平行面を出して、1.2×4×20mmの大きさに調整した試料を試験体として、ISO6872:2015 /Amd.1:2018の「Dentistry-Ceramic materials」の手順に準じ、万能試験機(島津製)を用いて、曲げ強さを測定した。
【0061】
[疎水化微粒子シリカの平均一次粒子径の測定方法]
疎水化微粒子シリカの平均一次粒子径は、ガス吸着法、水銀圧入法、ガス浸透法、バブルポイント法などを用いた測定で得られた比表面積から算出することができる。実施例及び比較例の疎水化微粒子シリカの一次粒子径は、ガス吸着法で測定を行った。具体的には自動比表面積・細孔分布測定装置「トライスターII 3020」(島津製作所製)により測定した。
【0062】
[評価1:基材ガラスの適正焼成温度での焼成性(黒変)]
歯科用陶材ペーストを、歯科技工用筆を用いてジルコニア製の板(10.0×10.0×2.0mm)の10.0×10.0mmの面に、0.2mmの厚さで塗布した。歯科技工用ポーセレン焼成炉エステマットスリム(松風製)を用いて、配合される基材ガラスの適正焼成温度(最低温度)で真空焼成を行った。この方法で作製した焼成物の塗布面の焼成性(黒変)を評価した。評価基準を以下に示す。
A:透明性のあるガラス層である状態。色調を有する実施例4の場合は、発色が十分出ている状態。
B:炭化による黒変が生じ、ガラス層に明度の低下が認められる状態。
【0063】
[評価2:ペーストの気泡]
評価1にて作製した焼成物の塗布面1ヵ所を、100μm×100μm視野で観察し評価した。評価基準を以下に示す。
A:5μm以上の気泡が10個未満観察される。
B:5μm以上の気泡が10個以上観察される。
【0064】
[評価3:ペーストの稠度及び変化量]
本評価では、ペースト作製後、8mLのクリーム容器に5g充填後、23℃にて1及び14日間、並びに50℃にて14日間保管したものを使用した。
評価を実施する1時間前に23℃の恒温室に放置した。ガラス板上に0.3±0.03gの範囲で測り取り、上から別のガラス板をかぶせ、20g分銅を乗せた。分銅を乗せてから30秒後に分銅を取り外し、円状に広がったペーストを稠度及び変化量の測定対象とした。測定対象は各ペーストについて2つとし、その最大直径と最短直径を測定した。2つの測定対象の最大直径及び最短直径からなる計4つの値の平均値を稠度とした。
23℃にて1日保管したペーストの稠度を初期値とし、23℃にて14日間、50℃にて14日間保管したペーストの初期値からの稠度差を算出し、差が大きい方の値を変化量とした。評価基準を以下に示す。
AA:変化量が0~2mmである。ペーストの稠度は、経時的に変化しないと判断できる。
A:変化量が3~4mmである。ペーストの稠度は、経時的にほとんど変化しないと判断できる。
B:変化量が5~9mmである。ペーストの稠度は、経時的に変化すると判断できる。
C:変化量が10mm以上である。ペーストの稠度は、経時的に大きく変化すると判断できる。
【0065】
[評価4:ペーストの沈降]
本評価は、ペースト作製後、8mLのクリーム容器に5g充填後、50℃にて14日間保管したものを使用した。
評価を実施する1時間前に23℃の恒温室に放置した後、クリーム容器内のペーストをプラスチック製スパチュラでかき混ぜ、ペーストの沈降の有無を確認した。評価基準を以下に示す。
A:ペーストの沈降が認められない。15秒かき混ぜてペーストが均一な状態となる。
B:ペーストの沈降が認められる。15秒かき混ぜてペーストが均一な状態となる。
C:ペーストの沈降が認められる。15秒以上かき混ぜてもダマが残り、ペーストが均一な状態とならない。
【0066】
[評価5:基材ガラスの適正焼成温度での焼成性(艶)]
評価1にて作製した焼成物の塗布面の焼成性(艶)を評価した。
AA:焼成物の塗布面表面に艶が生じ、均一な塗布面が生じている状態。
A:焼成物の塗布面表面に艶が生じているが、まだらな塗布面(筆の塗布筋)が全体に生じている状態。
B:焼成不足により、焼成物の塗布面表面に艶が生じておらず、まだらな塗布面が全体に生じている状態。
【0067】
[基材ガラス]
SiO、Al、KO、NaO、及びその他成分(B、LiO、CaO、ZnOなど)を表1に示す割合で含むガラスG1~G3を溶融法にて作製し、これを一般的な粉砕機にて粉砕して基材ガラス(a-1)~(a-11)とした。市販されている歯科セラミックス用着色材料であるヴィンテージアートユニバーサル(松風製)のAS(Aシェード色調)を基材ガラス(a-12)として用いた。基材ガラス(a-12)は基材ガラス成分に加えて、さらに無機材料から選択される着色材(e)及び無機材料から選択される蛍光材(f)が含まれたものであり、平均粒子径D50が5μmであり、最大粒子径D100が75μmであり、適正焼成温度が730℃である。各基材ガラスの詳細は以下の通りである。
【0068】
【表1】
【0069】
<基材ガラス(a-1)の製造>
ガラスG1をビーズミル粉砕機にてD50が0.5μmになるまで粉砕した。
【0070】
<基材ガラス(a-2)の製造>
ガラスG1をビーズミル粉砕機にてD50が1.0μmになるまで粉砕した。
【0071】
<基材ガラス(a-3)の製造>
ガラスG1をビーズミル粉砕機にてD50が2.0μmになるまで粉砕した。
【0072】
<基材ガラス(a-4)の製造>
ガラスG1を振動ボールミル粉砕機にてD50が4.0μmになるまで粉砕した。
【0073】
<基材ガラス(a-5)の製造>
ガラスG1を振動ボールミル粉砕機にてD50が6.0μmになるまで粉砕した。
【0074】
<基材ガラス(a-6)の製造>
ガラスG1を振動ボールミル粉砕機にてD50が10.0μmになるまで粉砕した。
【0075】
<基材ガラス(a-7)の製造>
ガラスG1をボールミル粉砕機にてD50が15.0μmになるまで粉砕した。
【0076】
<基材ガラス(a-8)の製造>
ガラスG1をボールミル粉砕機にてD50が20.0μmになるまで粉砕した。
【0077】
<基材ガラス(a-9)の製造>
ガラスG1をボールミル粉砕機にてD50が40.0μmになるまで粉砕した。
【0078】
<基材ガラス(a-10)の製造>
ガラスG2を振動ボールミル粉砕機にてD50が6.0μmになるまで粉砕した。
【0079】
<基材ガラス(a-11)の製造>
ガラスG3をリューサイト結晶の析出する熱処理工程を施したのち、ジェットミル粉砕機にてD50が5.0μmになるまで粉砕した。
【0080】
表2に各基材ガラスの試験結果を示す。
【0081】
【表2】
【0082】
[微粒子シリカ]
微粒子シリカとして、RX50(平均一次粒子径40nm、日本アエロジル社製)、R974(平均一次粒子径12nm、日本アエロジル社製)、R812(平均一次粒子径7nm、日本アエロジル社製)、YA050C(平均一次粒子径50nm、株式会社アドマッテクス社製)、YA100C(平均一次粒子径100nm、株式会社アドマッテクス社製)及び親水性微粒子シリカ#200(日本アエロジル社製)を用いた。
【0083】
[有機溶剤]
有機溶剤として、エタノール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、グリセリン、安息香酸ベンジルを用いた。
【0084】
[水]
有機溶剤以外の液体成分として、水を用いた。
【0085】
【表3】
【0086】
[無機塩]
無機塩として、上記の有機溶剤のいずれに対しても溶解性を有する塩化カルシウム、塩化亜鉛、及び硝酸カルシウム・四水和物を用いた。
【0087】
[有機高分子塩]
有機高分子塩として、上記の有機溶剤のいずれに対しても溶解性を有するポリアクリル酸ナトリウム(分子量5,000)、及びカルボキシメチルセルロースナトリウム(分子量700,000)を用いた。
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
【表6】
【0091】
実施例1~31では、ペーストの焼成性、経時的な稠度変化や沈降の発生に問題が生じなかった。
【0092】
一方、比較例では以下の問題が生じた。
比較例1及び2では、基材ガラスの平均粒子径D50が適切でないため、大きな稠度変化や経時的な沈降が生じた。
比較例3及び4では、平均一次粒子径が適切でない疎水性微粒子シリカや親水性微粒子シリカを用いたため、経時的な沈降が生じた。
比較例5及び10では、無機塩が含まれないため、大きな稠度変化が生じた。
比較例6及び7では、有機溶剤としてエタノールのみまたは安息香酸ベンジルのみを用いたため、経時的な沈降や、塗布面の黒変が生じた。
比較例8及び9では、有機高分子成分を使用したため、塗布面の黒変及び気泡が生じた。
【0093】
以上の結果より、本発明の歯科用陶材ペーストは、長期保存においても一定のペースト性状を維持し、また有機成分が含まれる場合であっても焼成時に炭化による黒変や気泡による白濁を抑制したペーストとなり、従来技術の課題を大幅に改善したものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明により提供される歯科用陶材ペーストは、長期間一定のペースト性状を維持できる保存安定性を有するものであり、塗布性や審美性にも優れるものである。よって、歯科分野の修復治療において、様々な歯冠修復物への応用が可能である。