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特開2024-94207誘導結合型アンテナユニット及びプラズマ処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094207
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】誘導結合型アンテナユニット及びプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20240702BHJP
   C23C 16/505 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H05H1/46 L
C23C16/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091619
(22)【出願日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2022210266
(32)【優先日】2022-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】303029317
【氏名又は名称】株式会社プラズマイオンアシスト
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 正則
【テーマコード(参考)】
2G084
4K030
【Fターム(参考)】
2G084AA05
2G084BB27
2G084CC04
2G084CC13
2G084CC33
2G084DD04
2G084DD12
2G084DD25
2G084FF04
2G084FF32
4K030CA02
4K030CA17
4K030FA04
4K030GA14
4K030KA24
4K030KA30
4K030KA47
(57)【要約】
【課題】基板の表面温度を所望の温度範囲に速やかに加熱して保持するための誘導結合型アンテナユニットを提供する。
【解決手段】真空チャンバ11の壁面111に設けられた開口部112に気密を保持して装着される誘導結合型アンテナユニット200であって、気密を保持して開口部112を覆う蓋体21と、蓋体21に設けられたアンテナ導体22と、蓋体21の内側面に設けられた加熱ヒータ24とを有するようにした。
【選択図】図2-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバの壁面に設けられた開口部に気密を保持して装着される誘導結合型アンテナユニットであって、
気密を保持して前記開口部を覆う蓋体と、
前記蓋体に設けられたアンテナ導体と、
前記真空チャンバ内を搬送される被処理物に対して前記アンテナ導体側に設けられた加熱ヒータとを備えることを特徴とする誘導結合型アンテナユニット。
【請求項2】
前記加熱ヒータが、プラズマシールド板を用いてプラズマ生成領域から隔てられたヒータ収容空間に設けられていることを特徴とする請求項1記載の誘導結合型アンテナユニット。
【請求項3】
前記加熱ヒータが、前記蓋体の内側面に設けられていることを特徴とする請求項1記載の誘導結合型アンテナユニット。
【請求項4】
前記蓋体が、前記開口部に沿って設けられた金属フランジと、前記金属フランジに支持されている絶縁体板とを有し、
前記加熱ヒータが、前記絶縁体板に形成された凹部に収容されていることを特徴とする請求項3記載の誘導結合型アンテナユニット。
【請求項5】
前記凹部を塞ぐ石英板を有することを特徴とする請求項4記載の誘導結合型アンテナユニット。
【請求項6】
前記アンテナ導体の長手方向に直交する断面において、前記アンテナ導体の両側に前記加熱ヒータが設けられていることを特徴とする請求項1記載の誘導結合型アンテナユニット。
【請求項7】
前記加熱ヒータが赤外線ランプであることを特徴とする請求項1記載の誘導結合型アンテナユニット。
【請求項8】
前記加熱ヒータからの熱を前記真空チャンバ内に反射する反射板をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の誘導結合型アンテナユニット。
【請求項9】
前記真空チャンバの壁に設けた1又は複数の開口に、請求項1記載の誘導結合型アンテナユニットが装着されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記誘導結合型アンテナユニットが、前記真空チャンバ内を搬送される基板の表側と裏側とのそれぞれに設けられており、前記基板を表裏から同時に加熱できるように構成されていることを特徴とする請求項9記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
基板の搬送方向に沿って複数の前記誘導結合型アンテナユニットが設けられており、
前記誘導結合型アンテナユニットそれぞれの前記加熱ヒータを独立して制御可能であることを特徴とする請求項9記載のプラズマ処理装置。
【請求項12】
前記加熱ヒータが、前記真空チャンバ内のプラズマ生成領域からプラズマシールド板を介して隔てられたヒータ収容空間に収容されていることを特徴とする請求項9記載のプラズマ処理装置。
【請求項13】
前記真空チャンバ内のプラズマ生成領域を取り囲むとともに、前記被処理物を向く開口が形成されたケーシングをさらに備え、
前記ケーシングの内面からの黒体輻射により前記被処理物を加熱することを特徴とする請求項9記載のプラズマ処理装置。
【請求項14】
前記ケーシングの内面にDLC膜が形成されていることを特徴とする請求項13記載のプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導結合型アンテナユニット及びこのアンテナユニットを備えるプラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のプラズマ処理装置としては、特許文献1に示すように、基板を真空チャンバ内で搬送しながら、アンテナに高周波電力を供給して真空チャンバ内にプラズマを発生させるように構成されたものがある。
【0003】
上述した構成において、基板に生成される被膜の性能などを担保するためには、基板の処理面を所望の温度範囲に加熱して保持する必要があり、プラズマによる加熱だけでは不十分であることから、従来は、基板の処理面の裏側に加熱ヒータを設けて加熱できるようにしてある。
【0004】
しかしながら、加熱すべきは基板の処理面であり、上述したように処理面の裏側から加熱する構成であると、処理面を直接的に加熱できないため、基板表面を所望の温度範囲まで加熱し、その温度を保持するのに必要以上の時間を要した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-117773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであって、基板の表面温度を所望の温度範囲まで速やかに加熱して保持するための応答性に優れた誘導結合型アンテナユニットを提供することを主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明に係る誘導結合型アンテナユニットは、真空チャンバの壁面に設けられた開口部に気密を保持して装着される誘導結合型アンテナユニットであって、気密を保持して前記開口部を覆う蓋体と、前記蓋体に設けられたアンテナ導体と、前記真空チャンバ内を搬送される被処理物に対して前記アンテナ導体側に設けられた加熱ヒータとを備えることを特徴とするものである。
【0008】
このように構成された誘導結合型アンテナユニットによれば、加熱ヒータが被処理物に対してアンテナ導体側に設けられているので、基板の処理面を直接的に加熱することができ、所望の温度範囲に速やかに応答性良く加熱することができる。
【0009】
前記加熱ヒータが、プラズマシールド板を用いてプラズマ生成領域から隔てられたヒータ収容空間に設けられていることが好ましい。
このような構成であれば、加熱ヒータを被処理物の近くに配置しつつ、加熱ヒータの汚れを防ぐことができる。
【0010】
また、別の実施態様としては、前記加熱ヒータが、前記蓋体の内側面に設けられている態様を挙げることができる。
このような配置であっても、加熱ヒータがアンテナ導体と同じ側に設けられているので、基板の処理面を直接的に加熱することができ、所望の温度範囲に速やかに応答性良く加熱することができる。
【0011】
より具体的な実施態様としては、前記蓋体が、前記開口部に沿って設けられた金属フランジと、前記金属フランジに支持されている絶縁体板とを有し、前記加熱ヒータが、前記絶縁体板に形成された凹部に収容されている態様を挙げることができる。
【0012】
本発明に係る誘導結合型アンテナユニットとしては、前記凹部を塞ぐ石英板を有することが好ましい。
このような構成であれば、加熱ヒータの汚れを蓋体で防ぐことができるし、蓋体は例えば酸素プラズマなどにより簡単にクリーニングすることができるので、メンテナンス性が良い。
【0013】
前記アンテナ導体の長手方向に直交する断面において、前記アンテナ導体の両側に前記加熱ヒータが設けられていることが好ましい。
このような構成であれば、基板の処理面を効率良く且つ均一に加熱することができ、基板表面の温度制御が容易になる。
【0014】
前記加熱ヒータが赤外線ランプであることが好ましい。
このように赤外線ランプを用いれば、熱線出力の制御と応答性に優れるので、加熱ヒータとしてニクロム線を用いる場合よりも応答が速く、制御性が良い。
【0015】
本発明に係る誘導結合型アンテナユニットとしては、前記凹部に設けられて、前記加熱ヒータからの熱を前記真空チャンバ内に反射する反射板をさらに備えることが好ましい。
これならば、基板表面をより効率良く加熱することができる。
【0016】
また、本発明に係るプラズマ処理装置は、前記真空チャンバの壁に設けた1又は複数の開口に、上述した誘導結合型アンテナユニットが装着されていることを特徴とするものである。
このような構成であれば、上述した誘導結合型アンテナユニットと同様の作用効果をプラズマ処理装置に発揮させることができる。
【0017】
前記誘導結合型アンテナユニットが、前記真空チャンバ内を搬送される基板の表側と裏側とのそれぞれに設けられており、前記基板を表裏から同時に加熱できるように構成されていることが好ましい。
このような構成であれば、基板をより効率良く加熱することができる。
【0018】
基板の搬送方向に沿って複数の前記誘導結合型アンテナユニットが設けられており、前記誘導結合型アンテナユニットそれぞれの前記加熱ヒータを独立して制御可能であることが好ましい。
このような構成であれば、搬送中に基板に蓄熱されることを考慮して、それぞれの加熱ヒータの設定温度を制御することができ、所望のプラズマ処理を行うことができる。
【0019】
前記加熱ヒータが、前記真空チャンバ内のプラズマ生成領域からプラズマシールド板を介して隔てられたヒータ収容空間に収容されていることが好ましい。
これならば、加熱ヒータが、プラズマシールド板を介してプラズマ生成領域から隔てられたヒータ収容空間に設けられているので、加熱ヒータを被処理物の近くに配置しつつ、加熱ヒータの汚れを防ぐことができる。
【0020】
前記真空チャンバ内のプラズマ生成領域を取り囲むとともに、前記被処理物を向く開口が形成されたケーシングをさらに備え、前記ケーシングの内面からの黒体輻射により前記被処理物を加熱することが好ましい。
これならば、ケーシングの内面からの黒体輻射によって被処理物を加熱することができ、被処理物の広範囲を均一に加熱することができる。
【0021】
より具体的な実施態様としては、前記ケーシングの内面にDLC膜が形成されている態様を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る一実施形態のプラズマ処理装置の全体構成を模式的に示す図である。
図2-1】同実施形態の誘導結合型アンテナユニットを模式的に示す図である。
図2-2】別の実施形態の誘導結合型アンテナユニットを模式的に示す図である。
図3】同実施形態のアンテナ導体の構成を模式的に示す図である。
図4】同実施形態のプラズマ処理装置の構成を模式的に示す図である。
図5】その他の実施形態のアンテナ導体の構成を模式的に示す図である。
図6】その他の実施形態の誘導結合型アンテナユニットを模式的に示す図である。
図7】その他の実施形態の誘導結合型アンテナユニットを模式的に示す図である。
図8】その他の実施形態のプラズマ処理装置の構成を模式的に示す図である。
図9】その他の実施形態の誘導結合型アンテナユニットを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明に係る誘導結合型アンテナユニット及び当該アンテナユニットを装着したプラズマ処理装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0024】
本実施形態のプラズマ処理装置100は、図1に示すように、所謂ロール・ツー・ロール方式のものであり、例えばアルミニウム等のシート状の被処理物たる基板Xを真空チャンバ11内で搬送させながら、シート状の基板Xと誘導結合型アンテナユニット200との間に高密度プラズマを生成することによって、基板X表面をプラズマ処理するものである。
【0025】
真空チャンバ11は、真空排気手段とガス導入手段によって所定の真空度に保持されるものであり、例えばアルゴンと水素との混合ガスを導入して所定の圧力、例えば1Paに調整される。
【0026】
この真空チャンバ11は、図2に示すように、その上壁111に上方から見て長方形状の開口部112が形成されており、この開口部112に後述する誘導結合型アンテナユニット200を嵌め込むことにより真空チャンバ11内部を密閉するように構成されている。
【0027】
そして、本実施形態のプラズマ処理装置100は、この誘導結合型アンテナユニット200に特徴があるので、以下に詳細を説明する。
【0028】
誘導結合型アンテナユニット200は、誘導結合型アンテナ(以下、単にICPアンテナとも記す)に高周波電流を流すことで発生する電磁界を用いて放電プラズマを励起させる、いわゆる誘導結合型プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)方式によるものである。
【0029】
この誘導結合型アンテナユニット200は、図2に示すように、真空チャンバ11内で搬送される基板Xの被処理面に対向するように配置されており、具体的には、真空チャンバ11の壁に設けた開口部112を塞ぐ蓋体21と、当該蓋体21の内面(真空チャンバ11側)に沿って配置されたアンテナ導体22と、アンテナ導体22を被覆又は遮蔽する石英板23とを有する。
【0030】
蓋体21は、図2に示すように、真空チャンバ11の開口部に沿って設けられた金属フランジ21aと、金属フランジ21aに支持されている絶縁体板21bとを有しており、ここでは、金属フランジ21a及び絶縁体板21bが一体的に設けられている。
【0031】
アンテナ導体22は、図3に示すように、1本の金属パイプを折り曲げて構成された長方形状の枠体である。この枠体(アンテナ導体22)の長辺の一方(以下、給電側アンテナ導体22Xとも記す)の中央部が給電端子Z1に接続され、他方(以下、接地側アンテナ導体22Yとも記す)の中央部が真空シール部材等を介して蓋体21に固定されて接地されている。
【0032】
本実施形態では、U字形のアンテナ導体が左右対称に配置されており、給電側アンテナ導体22Xの中央部に給電された高周波電流は、左右に流れて両端部でUターンして接地側アンテナ導体22Yの中央部に向かって流れる。
【0033】
このように構成されたアンテナ導体22では、給電側アンテナ導体22Xの長手方向中央部22cに給電端子Z1を介して給電された高周波電流は、U字形アンテナ導体22の左右の両端部22a、22bに向かって流れ、Uターンして接地側アンテナ導体22Yを逆向きに流れて、接地側アンテナ導体22Yの中央部の接地端子Z2に流れこむ。これにより、給電側アンテナ導体22Xを流れる高周波電流の向きと、接地側アンテナ導体22Yを流れる高周波電流は流れる向きが逆になる。
【0034】
つまり、アンテナ導体22は、給電側アンテナ導体22Xの長手方向の中央部22cに供給された高周波電流に対する往復回路を構成している。このような往復回路では、往復アンテナ導体間に相互インダクタンスが発生し、高周波電流に対するアンテナ導体のインピーダンスは、前記相互インダクタンス相当分が相殺されて小さくなる。
【0035】
また、本発明に係る誘導結合型アンテナユニット200では、給電側アンテナ導体22Xと接地側アンテナ導体22Yが蓋体21の内側面に沿って略平行に配置され、両アンテナ導体22X、22Yに流れる高周波電流は互いに逆向きであって、両アンテナ導体22X、22Y間に最大の電磁界が発生する。本誘導結合型アンテナユニット200ではこの強力な電磁界を最も有効に活用する構成であって高密度プラズマの生成に極めて効果的である。また、低ガス圧領域においても放電が起りやすく安定な放電が維持される。
【0036】
アンテナ導体22の素材は特定されるものではないが、高周波電力、例えば13.56MHzの高周波電力を給電するため、導電性のよい金属材料、例えば銅材やアルミニウム材等であることが好ましい。
【0037】
また、アンテナ導体22は高周波電流を流すと数100℃に加熱されるため冷却、例えば水冷等が可能な金属パイプであることが好ましい。本実施形態によれば、アンテナ導体22の中央部が接地される構成であるため水冷等による冷却が容易である。
【0038】
また、アンテナ導体22として、例えば銅パイプ或いはアルミニウムパイプ等の金属パイプを用いれば、その内部に例えば水等の冷媒を流して冷却することができる。具体的には、接地側アンテナ導体22Yの中央部の一方の注入口P1から注入し、アンテナ導体22を一周して接地側アンテナ導体22Yの中央部の他方の出口P2から排出することで、アンテナ導体22の全体を冷却することができる。
【0039】
蓋体21を構成する絶縁体板21bは、絶縁性及び耐熱性に優れた加工可能な材料であることが好ましく、例えばアルミナ材や窒化ケイ素等のセラミックス材料で構成することができる。また、アンテナ導体22が十分に冷却可能であれば、耐熱性に優れるPEEK材やテフロン系有機材料を使用することができる。
【0040】
本実施形態では、アンテナ導体22が真空チャンバ11内に装着されるため放電プラズマ中に曝される。従って、処理条件によってはアンテナ導体22の表面はイオン照射によってスパッタリングされ、アンテナ導体22を構成する金属が不純物として飛散する恐れがある。そこで、スパッタリングによる汚染を抑制するためにはアンテナ導体22表面を誘電体材料、例えば石英管等で被覆することが好ましい。
【0041】
具体的には、図2-1に示すように、蓋体21の内側面にアンテナ用の凹部H1を設けて、このアンテナ用凹部H1にアンテナ導体22が収容されている。アンテナ用凹部H1は、蓋体21を構成する絶縁体板21bを厚み方向に凹ませたものであり、このアンテナ用凹部H1を石英板23により塞ぐことで、アンテナ導体22の表面へのプラズマの侵入を阻止している。
【0042】
また、アンテナ導体22が石英管で被覆されている場合であれば、図2-2に示すように、石英管で皮覆したアンテナ導体22をアンテナ用凹部H1に収容してもよい。この場合は、高周波電磁界が最も強いアンテナ導体22Xと22Yの間に高密度プラズマが励起され、この高密度プラズマを有効に活用することができる。なお、この構成においては、アンテナ用凹部H1は石英板23により塞ぐ必要はない。
【0043】
なお、アンテナ用凹部H1の形状や大きさは、図2-1や図2-2に限られるものではなく、例えば形状は、断面矩形状断や面部分円形状であっても良いし、例えば絶縁体板21bの上面(すなわち、真空チャンバ11の外側を向く面)まで到達していても構わない。
【0044】
そして、本実施形態の誘導結合型アンテナユニット200は、図2及び図3に示すように、真空チャンバ11内を搬送される被処理物たる基板Xに対してアンテナ導体22側に設けられた加熱ヒータ24をさらに備えている。
【0045】
具体的に加熱ヒータ24は、この実施形態では、蓋体21の内側面に形成されたアンテナ用凹部H1とは別の凹部H2に収容されている。
【0046】
この加熱ヒータ24を収容するヒータ用凹部H2も、アンテナ用凹部H1と同様、蓋体21を構成する絶縁体板21bを厚み方向に凹ませたものであり、上述した蓋体21により塞がれており、これにより加熱ヒータ24表面が遮蔽されている。
【0047】
加熱ヒータ24は、図3に示すように、アンテナ導体22の長手方向に沿って延びる長尺状のものであり、具体的には例えば赤外線ランプである。
【0048】
より具体的に説明すると、図2に示すように、アンテナ導体22の長手方向に直交する断面において、アンテナ導体22を挟み込む位置それぞれに加熱ヒータ24が設けられている。
【0049】
これらの加熱ヒータ24は、アンテナ導体22とともに基板Xの被処理面に対向するように、言い換えれば、基板Xに対してアンテナ導体22と同じ側に配置されており、基板Xの被処理面を直接的に加熱する。
【0050】
それぞれの加熱ヒータ24は、図示しない制御装置により制御されるものであり、互いに独立して設定温度を制御できる構成であっても良いし、互いに同じ設定温度となるように制御されても良い。
【0051】
ここで、プラズマ処理装置100としては、図4に示すように、真空チャンバ11の壁に設けた複数の開口部112それぞれに、誘導結合型アンテナユニット200が装着されているものであっても良い。
【0052】
具体的には、基板Xの搬送方向に沿って複数の誘導結合型アンテナユニット200が設けられており、これにより、大面積に亘って均一な高密度の放電プラズマを励起することができる。
なお、図4に示す構成は、アンテナ導体22が石英管で被覆されている場合を示している。アンテナ用凹部H1は石英板23により塞がれていないが、アンテナ導体22が石英管で被覆されているので、アンテナ用凹部H1を石英板23で塞ぐ必要はなく、アンテナ用凹部H1内に励起される高密度プラズマを活用することが望ましい。
【0053】
また、図1に戻ると、この実施形態では、誘導結合型アンテナユニット200は、真空チャンバ11内を搬送される基板Xの表側と裏側とのそれぞれに設けられており、基板Xを表裏から同時に加熱できるように構成されている。
【0054】
また、誘導結合型アンテナユニット200それぞれの加熱ヒータ24は、独立して制御可能であり、例えば、搬送中に基板Xに蓄熱されることを考慮して、基板Xの搬送方向上流側に位置する加熱ヒータ24の設定温度よりも、搬送方向下流側に位置する加熱ヒータ24の設定温度を低くするなど、それぞれの加熱ヒータ24の設定温度を適宜設定することができる。
【0055】
このように構成された本実施形態のプラズマ処理装置100によれば、加熱ヒータ24が、アンテナ導体22と同じ側に設けられているので、基板Xの処理面を直接的に加熱することができ、所望の温度範囲に速やかに応答性良く加熱することができる。
【0056】
また、ヒータ用凹部H2が石英板23により塞がれているので、加熱ヒータ24が汚れてしまうことを防ぐことができるし、蓋体21は例えば酸素プラズマなどにより簡単にクリーニングすることができるので、メンテナンス性が良い。
【0057】
さらに、アンテナ導体22の長手方向に直交する断面において、アンテナ導体22を挟み込む位置それぞれに加熱ヒータ24が設けられているので、基板Xの処理面を効率良く加熱することができ、温度制御が容易になる。
【0058】
加えて、加熱ヒータ24が赤外線ランプであるので、ニクロム線を用いる場合よりも応答が速く、制御性が良い。
【0059】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0060】
例えば、1つの誘導結合型アンテナユニット200が有する加熱ヒータ24の数は、前記実施形態で述べた2本に限られるものではなく、1本であっても良いし、3本以上であっても良い。
【0061】
また、加熱ヒータ24の配置も、前記実施形態で述べたものに限らず、例えばアンテナ導体22に挟み込まれる位置に設けられていても良い。
【0062】
さらに、加熱ヒータ24は、赤外線ランプに限らず、ニクロム線を用いたものであっても良い。
【0063】
そのうえ、加熱ヒータ24は、前記実施形態では蓋体21に形成したヒータ用凹部H2に収容されていたが、蓋体21にヒータ用凹部H2を形成することなく、蓋体21の内側面に設けられていても良い。
【0064】
誘導結合型アンテナユニット200としては、図5に示すように、給電側アンテナ導体22Xと接地側アンテナ導体22Yの中央部の間隔が両端部の間隔より大きくても良い。
この構成ならば、前記アンテナ導体22X、22Yの両先端部のプラズマ密度の低減を補償することができ、アンテナ導体22の全面に亘って均一な密度のプラズマを励起することができる。
【0065】
また、誘導結合型アンテナユニット200は、1本の金属パイプものを枠状にしたものに限らず、複数本の金属パイプをつなげて枠状にしたものであっても良い。
【0066】
加えて、本発明に係る誘導結合型アンテナユニット200としては、図6に示すように、ヒータ用凹部H2に設けられて、加熱ヒータ24から放射される熱線を真空チャンバ11内に反射する反射板60をさらに備えていても良い。
この場合、反射板60としては、ヒータ用凹部H2の底面、言い換えれば真空チャンバ内に臨む面に設けられていることが好ましい。また、ヒータ用凹部H2の形状を例えば半円状等の部分円形状とし、その内面を反射板60としても良い。
なお、図6に示す構成は、アンテナ導体22が石英管で被覆されている場合を示してあり、アンテナ用凹部H1は石英板23により塞がれていないが、アンテナ導体22が石英管で被覆されていなければ、アンテナ用凹部H1を石英板23によって塞ぐことが望ましい。
【0067】
さらに、前記実施形態では、高周波電力として周波数13.56MHzの高周波を用いたが、これに特定されるものではなく、周波数30kHz~30MHzの高周波電力を適用することができる。
【0068】
誘導結合型アンテナユニット200の装着は、真空チャンバ11の上壁111に特定されるものではなく、プラズマ処理装置100の形態によって、例えば真空チャンバ11の側壁或いは下壁に装着してもよい。なお、真空チャンバ11の側壁に誘導結合型アンテナユニット200を装着する場合は、基板Xを上下方向(鉛直方向)に沿って搬送させながらプラズマ処理することができる。
【0069】
さらに、本発明に係る誘導結合型アンテナユニット200としては、図7及び図8に示すように、プラズマシールド板70を用いてプラズマ生成領域S1から隔てられたヒータ収容空間S2が形成されたものであって、このヒータ収容空間S2に加熱ヒータ24が収容されていても良い。なお、ここでの加熱ヒータ24は、赤外線ランプであるが、ニクロム線を用いたものであっても構わない。
【0070】
プラズマシールド板70は、プラズマを遮断する部材からなるものであり、ヒータ収容空間S2は、プラズマが入り込まないように形成された空間である。
【0071】
より具体的に説明すると、この実施形態では、プラズマシールド板70が真空チャンバ11の例えば上壁111に取り付けられており、ヒータ収容空間S2は、加熱ヒータ24をできるだけ被処理物Xに近づけるべく、上壁111から被処理物Xに向かって延びる長尺状の空間である。
【0072】
換言すると、ここでのヒータ収容空間S2は、被処理物Xの搬送方向に沿った寸法よりも、上壁111から被処理物Xに向かう方向に沿った寸法の方が長くなるように形成されたものである。
【0073】
このヒータ収容空間S2は、基板Xの搬送方向に沿ったプラズマ生成領域S1の両側それぞれに形成されており、言い換えれば、基板Xの搬送方向に沿ったプラズマ生成領域S1の両側それぞれに加熱ヒータ24が設けられている。
【0074】
これらのヒータ収容空間S2には、加熱ヒータ24から放射される熱線を基板に向けて反射する反射板60が設けられている。
【0075】
このように構成された誘導結合型アンテナユニット200によれば、加熱ヒータ24が、アンテナ導体22と同じ側に設けられているので、基板Xの処理面を直接的に加熱することができ、所望の温度範囲に速やかに応答性良く加熱することができる。
【0076】
また、加熱ヒータ24が、プラズマシールド板70を介してプラズマ生成領域S1から隔てられたヒータ収容空間S2に設けられているので、加熱ヒータ24を基板Xの近くに配置しつつ、加熱ヒータ24の汚れを防ぐことができる。
【0077】
そして、かかる誘導結合型アンテナユニット200は、前記実施形態と同様、図8に示すように、基板Xの表面側と裏面側とのそれぞれに配置されていても良い。
【0078】
また、本発明に係るプラズマ処理装置100は、図9に示す誘導結合型アンテナユニット200を備えるものであっても良い。
【0079】
具体的にこの誘導結合型アンテナユニット200は、図9に示すように、プラズマ生成領域S1を取り囲むとともに、アンテナ導体22を収容するケーシング80を備えている。
【0080】
このケーシング80は、基板Xを向く開口80hが形成されたものであり、例えばアルミニウムやステンレス等から形成されたものであり、例えば蓋体21側に湾曲したドーム状をなす。なお、ケーシング80の形状はこれに限らず、例えば複数枚の平板からなる箱型(略直方体形状)をなすものであっても構わない。
【0081】
このケーシング80の内部空間には、プラズマの原料ガスが供給される。この原料ガスとして、例えばメタンとアセチレンと窒素の混合ガスを供給するとともに、アンテナ導体22に整合器を介して高周波電源からの高周波電力を印加することで、ケーシング80の内部空間には炭素イオンを含む放電プラズマが発生する。
【0082】
これにより、ケーシング80の内面81はDLC膜で覆われるとともに、加熱ヒータ24により高温に加熱される。その結果、このケーシングの内面81があたかも熱源となって、この内面81からの黒体輻射が生じ、基板Xを均一に加熱することができる。
【0083】
なお、加熱ヒータ24がDLC膜で覆われてしまうことが懸念されようが、加熱ヒータ24は例えば500~600℃ほどの高温になることから、加熱ヒータ24に付着したDLCは昇華してしまうところ、上述した懸念は問題にならない。
【0084】
ここでのケーシング80は、不必要に冷却されてしまうことを防ぐべく、真空チャンバ11から浮かし配置されており、具体的には、水冷されている蓋体21とは非接触にしてある。このケーシング80は、例えば真空チャンバ11の上壁111などに取り付けられている。
【0085】
また、基板XにDLC膜を成膜する場合、例えば-2kV以上、-800V以下の負のバイアス電圧を基板Xに印加しても良い。
【0086】
かかる構成においては、ケーシング80と、例えば真空チャンバ11の上壁111や蓋体21との間の放電が懸念されることから、この放電を防ぐべく、ここでは、ケーシング80の外面82には例えばアルマイト処理等により形成した絶縁体90を設けてある。
【0087】
このように構成された誘導結合型アンテナユニット200によれば、ケーシング80の内面81からの黒体輻射によって基板Xを加熱することができ、基板Xの広範囲を均一に加熱することができる。
【0088】
そして、かかる誘導結合型アンテナユニット200は、前記実施形態と同様、基板Xの表面側と裏面側とのそれぞれに配置されていても良い。
【0089】
なお、上述した誘導結合型アンテナユニット200において、加熱ヒータ24は、必ずしもケーシング80に収容されている必要はなく、ケーシング80の外部に配置されていても良い。これならば、プラズマ生成領域S1に配置する雑物を減らすことができる。
【0090】
さらに、ケーシング80の内面81には必ずしもDLC膜が形成されている必要はなく、例えば予め黒色の塗料を塗布したり、黒色のケーシングを用いたりしても良い。
【0091】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0092】
100・・・プラズマ処理装置
11 ・・・真空チャンバ
111・・・上壁
112・・・開口部
200・・・誘導結合型アンテナユニット
21 ・・・蓋体
22 ・・・アンテナ導体
23 ・・・石英板
24 ・・・加熱ヒータ
H1 ・・・アンテナ用凹部
H2 ・・・ヒータ用凹部
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9