(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094233
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】半導体製造装置用セラミックス焼結体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/553 20060101AFI20240702BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C04B35/553
H01L21/302 101G
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023185413
(22)【出願日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2022209882
(32)【優先日】2022-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】杉山 愛海
【テーマコード(参考)】
5F004
【Fターム(参考)】
5F004AA16
5F004BB29
5F004DA01
(57)【要約】
【課題】特異な製造条件を適用しなくても、高密度のオキシフッ化セラミックス焼結体を得ることができる半導体製造装置用セラミックス焼結体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の半導体製造装置用セラミックス焼結体は、粒径1~5μmの結晶を50%以上含む多結晶構造からなるオキシフッ化物を主成分とするか、または、前記オキシフッ化物およびフッ化物の混相を有する焼結体であり、前記焼結体のL*a*b*表色系でのL*値が20~65、a*値が-1~10、b*値が-1~10であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径1~5μmの結晶を50%以上含む多結晶構造からなるオキシフッ化物を主成分とするか、または、前記オキシフッ化物およびフッ化物の混相を有する焼結体であり、
前記焼結体のL*a*b*表色系でのL*値が20~65、a*値が-1~10、b*値が-1~10であることを特徴とする半導体製造装置用セラミックス焼結体。
【請求項2】
オキシフッ化物を含む原料粉末の成形体を得る工程1と、
前記成形体を常圧で大気雰囲気下に、第一昇温速度で、室温から第一保持温度まで昇温して、第一保持時間を保持した後、室温まで自然放冷させる第一ステップと、
前記成形体を常圧で、前記大気雰囲気よりガス量の多い不活性雰囲気下に、第二昇温速度で、第一保持温度より高い第二保持温度まで昇温して、第一保持時間より長い第二保持時間を保持した後、室温まで自然放冷させることにより、前記成形体を脱脂・脱水する第二ステップとからなる工程2と、
脱脂・脱水後の成形体を焼結してセラミックス焼結体を得る工程3と、
をこの順に有し、
前記セラミックス焼結体が、粒径1~5μmの結晶を50%以上含む多結晶構造からなるオキシフッ化物を主成分とするか、または、前記オキシフッ化物およびフッ化物の混相を有し、かつ、L*a*b*表色系でのL*値が20~65、a*値が-1~10、b*値が-1~10であることを特徴とする半導体製造装置用セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記第一保持温度は350~600℃、第一保持時間は30~1200minであり、
第二保持温度は800~980℃、第二保持時間は100~1000minであることを特徴とする請求項2に記載の半導体製造装置用セラミックス焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置用セラミックス焼結体、詳しくはオキシフッ化セラミックス焼結体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造における各工程、特にドライエッチング、プラズマエッチングおよびクリーニング工程では、フッ素系腐食性ガス、塩素系腐食性ガスおよびこれらを用いたプラズマが使用される。これらの腐食性ガスやプラズマにより、半導体製造装置の構成部材は腐食されて、構成部材の表面から剥離した微粒子が半導体表面に付着して製品不良の原因となりやすい。
【0003】
そのため、例えば、アルミニウム酸化物、イットリウム酸化物、アルミニウムイットリウム複合酸化物、イットリウムフッ化物の焼結体が、ハロゲン系プラズマに対する耐性に優れているため半導体製造装置の構成部材に用いられる。
【0004】
近年、イットリウムフッ化物に代表されるフッ化セラミックス焼結体やオキシフッ化セラミックス焼結体は、上述した各種材料との比較でフッ素系腐食性ガスやプラズマに対する耐性に優れているため、フッ素系プラズマエッチングの工程で使用される構成部材への適用が期待されている。
【0005】
ところで、オキシフッ化セラミックスは、従来のセラミックスと比べて緻密な焼結体を得ることが難しいとされており、これに対応するため、いくつかの製造方法が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、このようなオキシフッ化セラミックスの製造方法として、平均粒子径1.1μm以下のイットリウムとオキシフッ化物粉末を含む原料粉末を油圧プレスで加圧成形して成形体を得る工程と、上記成形体を5~100MPaの圧力下、800~1800℃の温度で焼結する工程とを有する焼結体の製造方法、さらには、平均粒子径1.1μm以下のイットリウムとオキシフッ化物粉末を含む原料粉末を油圧プレスで加圧成形した後、静水圧成形して成形体を得る工程と、上記成形体を無加圧下、1000~2000℃の温度で焼成する工程とを有する焼結体の製造方法が開示されている。
【0007】
特許文献2には、オキシフッ化セラミックスを含むフッ化セラミックスの成形体を準備する工程と、上記成形体と水分との接触が遮断された状態で、かつ、常圧で上記成形体を焼成する工程と、を含むフッ化セラミックス焼結体の製造方法が記載されている。
【0008】
さらに、特許文献3には、少なくとも希土類元素とフッ素を含む化合物の相を有する焼結体であって、L*a*b*色度表示において、L*値が70以上であり、結晶粒の平均粒径が10μm以下であること、相対密度が95%以上であること、3点曲げ強度が100MPa以上であること、さらに、酸素を含まないか又は酸素を含む場合にはその含有量が13質量%以下であることが好ましいという、希土類元素のフッ化物又はオキシフッ化物からなる焼結体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5911036号公報
【特許文献2】特開2019-69876号公報
【特許文献3】国際公開第2020/179296号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の製造方法では、オキシフッ化イットリウムセラミックス焼結体の密度を上げるために、加圧焼成する必要があることから、ホットプレス(HP)法、パルス通電加圧(SPS)法、熱間等方圧加圧(HIP)法等の加圧焼成を行うための高額で複雑な設備が必要であった。また無加圧下で焼成を行う製造方法では、焼成温度を1000℃以上の高い温度まで上げなければ、十分な密度の焼結体を得ることができなかった。
【0011】
特許文献2では、水分との接触が遮断された状態でフッ化セラミックスの成形体の焼成を行うことにより、加圧焼結を行わずに、かつ比較的低温で高密度のフッ化セラミックス焼結体を得ることに成功した、とある。しかし水分との接触を遮断するためには、炭素材料からなる水分遮断材料にフッ化セラミックス成形体を埋設する必要があり、工程が複雑になり高コスト化が問題であった。また、このような製造方法では、焼結体のサイズや形状に制限が生じ、汎用性に欠ける。
【0012】
すなわち、従来のオキシフッ化セラミックス焼結体の製造方法は、加圧焼結等を採用する、焼成温度に関する製造条件を厳しくする、さらには、水分遮断材料に埋設する等の水分遮断の手法をとる、などの高コストで複雑な手段を用いなければ、得られるオキシフッ化セラミックスの密度を十分に上げることができなかった。
【0013】
ここで、オキシフッ化セラミックス焼結体は、耐プラズマ性に優れており、この耐プラズマ性は焼結体の密度が高いとより良好である。しかしながら、もともとオキシフッ化セラミックスからは、密度の高い焼結体を得ることが容易でなく、その原因の一つとして、成形体に含有される残留水分による焼結時の緻密性阻害が指摘されている。
【0014】
このことから、残留水分による影響を反映した指標があれば、特に高い密度を得にくいオキシフッ化セラミックス焼結体を製造するにあたり、より効率的である。
【0015】
特許文献3に記載の発明では、L*a*b*色度表示において、L*値が70以上である。しかしながら、この発明で規定された範囲は、残留水分についての情報が反映されたものではない。
【0016】
本発明は、上記を鑑みてなされたものであり、簡易な方法で、従来と同等以上の密度と、高い耐プラズマ性を有するオキシフッ化セラミックス焼結体、ならびに、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の半導体製造装置用セラミックス焼結体は、粒径1~5μmの結晶を50%以上含む多結晶構造からなるオキシフッ化物を主成分とするか、または、オキシフッ化物およびフッ化物の混相を有し、焼結体のL*a*b*表色系でのL*値が20~65、a*値が-1~10、b*値が-1~10であることを特徴とする。
【0018】
かかる構成を有することで、密度以外のパラメータで耐プラズマ性が十分確保されたオキシフッ化セラミックス焼結体を効率的に得ることを可能となる。
【0019】
そして、このような半導体製造装置用セラミックス焼結体、すなわち、オキシフッ化セラミックス焼結体を製造する方法は、オキシフッ化物を含む原料粉末の成形体を得る工程1と、前記成形体を常圧で大気雰囲気下に、第一昇温速度で、室温から第一保持温度まで昇温して、第一保持時間を保持した後、室温まで自然放冷させる第一ステップと、前記加熱後の成形体を常圧で、前記大気雰囲気よりガス量の多い不活性雰囲気下に、第二昇温速度で、第一保持温度より高い第二保持温度まで昇温して、第一保持時間より長い第二保持時間を保持した後、室温まで自然放冷させることにより、前記成形体を脱脂・脱水する第二ステップとからなる工程2と、脱脂・脱水後の成形体を焼結してセラミックス焼結体を得る工程3とを有する。前記工程3で得られる焼結体は、粒径1~5μmの結晶を50%以上含む多結晶構造からなるオキシフッ化物を主成分とするか、または、前記オキシフッ化物およびフッ化物の混相を有し、かつ、L*a*b*表色系でのL*値が20~65、a*値が-1~10、b*値が-1~10である。
【0020】
オキシフッ化セラミックス焼結体の製造方法の具体例では、第一保持温度が350~600℃、第一保持時間が30~1200min、第二保持温度が800~980℃、第二保持時間が100~1000minである。
【0021】
上記したこれらの構成を有することで、耐プラズマ性を十分確保できるオキシフッ化セラミックス焼結体の製造方法を提供することができる。
【0022】
本発明においては、工程2を行った後の成形体のかさ密度が2.6g/cm3以上であると、より好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来技術のように加圧焼結、厳しい焼成温度等の製造条件、あるいは、水分遮断材料に埋設する等の特異な製造条件を適用しなくても、高密度のオキシフッ化セラミックス焼結体を得ることができる。さらに、このようにして得られたオキシフッ化セラミックス焼結体は、特に残留水分の影響が抑制され、かつ、その影響の度合いも数値化して把握することができ、実用性に優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の半導体製造装置用セラミックス焼結体(以下単に「セラミックス焼結体」ともいう。)は、粒径1~5μmの結晶を50%以上含む多結晶構造からなるオキシフッ化物を主成分とするか、または、オキシフッ化物およびフッ化物の混相を有し、焼結体の色差をL*a*b*表色系で表すとき、L*値が20~65、a*値が-1~10、b*値が-1~10である。
【0025】
本発明のセラミックス焼結体の一実施形態は、オキシフッ化物を主成分とする多結晶構造からなる。すなわち、各種セラミックスを構成する原子と、酸素(O)およびフッ素(F)からなる化合物である。このセラミックスを構成する原子は、半導体製造装置用として好適なものが適用され、具体的には、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ガドリニウム(Gd)等のうち一種以上の希土類元素である。これらのうち、製造の容易さやコストの面で、イットリウム(Y)を用いることが特に好ましい。
【0026】
前記セラミックス焼結体の他の実施形態は、オキシフッ化物およびフッ化物の混相を有する。Yを例とすると、YOF、Y5O4F7、Y7O6F9のうち、一種以上のオキシフッ化物を含むものが用いられる。この場合、上記3つの化合物それぞれ単体で構成されていてもよく、また、少なくとも2種類の各化合物を任意の割合で含む混晶であってもよい。
【0027】
なお、前記セラミックス焼結体は、オキシフッ化イットリウム以外については、不可避不純物(Na、K、Mg、Si、Fe、その他公知の金属元素)を含んでいてもよい。
【0028】
前記セラミックス焼結体は、ハロゲン系腐食ガスの遮断性に優れたセラミックス焼結体を得る観点から、粒径1~5μmの結晶を50%以上含む多結晶構造からなる。
【0029】
前記セラミックス焼結体は、構成される粒子が比較的小さめの粒径を有し、かつ、その粒径はある程度揃っている。極端に粒子の大きさが異なるもので構成されていると、強度が十分に確保できないおそれがある。
【0030】
粒径が5μmを超えるものを50%以上含むと、セラミックス燒結体の強度の低下をもたらすことがある。一方、粒径が1μm未満のものを50%以上含むと、強度と光透過率の両立が難しいことがある。
【0031】
粒径1~5μmの結晶は、70%以上含まれることが好ましく、85%以上含まれることがさらに好ましい。なお、開気孔率は5%以下が好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましい。
【0032】
そして前記セラミックス焼結体は、焼結体の色差をL*a*b*表色系で表したときに、L*値:20~65、a*値:-1~10、b*値:-1~10である。なお、このような焼結体は、灰褐色~灰白色を呈している。
【0033】
ここで、耐プラズマ性の高い焼結体は密度が高い傾向にあるが、密度を高くすることばかりに着目すると、製造条件が厳しくまた高コスト化し、製品の設計自由度が狭くなるおそれがある。本発明では、これを回避するため、密度と相関があり、かつ、オキシフッ化物の焼成で問題となる水分の残存量とも相関のある、焼結体の表色度に着目した。
【0034】
セラミックス焼結体の表色度が所定の範囲内にあるとき、焼成時の水分の量が少なく、焼結後の密度が向上したことが適切に表現されている。これは、単に焼成後の焼結体の密度の測定では把握できない。
【0035】
色の明度(明るい・暗い)を表すL*値は、焼結体の緻密さと反比例の傾向にある。L*値が20~65の範囲にあると、オキシフッ化セラミックス焼結体として十分な密度が確保されているものといえる。ここで、L*値が65を超えると、セラミックス焼結体は灰白色となり、焼成不足や熱分解の影響で緻密化していない可能性が高い。一方で20を下回ると、緻密性は高いが灰黒色であり、これも好ましいものではない。なお、L*値は25~55がさらに好ましい。
【0036】
a*、b*は色相および彩度を示している。a*は、緑から赤にかけての色味の強さを示す。+a*が赤味方向、-a*が緑味方向である。a*値は-1~10が好ましく、0~5がさらに好ましい。なお、a*、b*とも絶対値が大きくなると色味が強くなる。
【0037】
上記の通り、本発明では、オキシフッ化セラミックス焼結体の緻密性を、焼結体の表色度により表現することで、その製造過程で問題となる水分の影響をより的確に反映させることが可能となるとともに、密度向上による高コスト化を回避することができる。すなわち、セラミックス焼結体の表色度は、本発明の製造方法の顕著な効果を確認することを可能とする。
【0038】
このようなオキシフッ化セラミックス焼結体を得るための製造方法は、オキシフッ化物を含む原料粉末の成形体を得る工程1と、前記成形体を脱脂・脱水する工程2と、前記脱脂・脱水後の成形体を焼結してオキシフッ化セラミックス焼結体を得る工程3とを含む。前記工程2は、前記成形体を常圧で、大気雰囲気下に第一昇温速度で、室温から第一保持温度まで昇温して、第一保持時間を保持した後、室温まで自然放冷させる第一ステップと、前記成形体を常圧で、前記大気雰囲気よりガス量の多い不活性雰囲気下に、第二昇温速度で、第一保持温度より高い温度(第二ステップの保持温度)まで昇温して、第一保持時間より長い時間(第二ステップの保持時間)保持した後、室温まで自然放冷させることにより、前記成形体を脱脂・脱水する第二ステップとからなる。前記工程3では、脱脂・脱水後の成形体を焼結して、オキシフッ化セラミックス焼結体を得る。得られるオキシフッ化セラミックス焼結体は、前記したように、粒径1~5μmの結晶を50%以上含む多結晶構造からなるオキシフッ化物を主成分とするか、または、前記オキシフッ化物およびフッ化物の混相を有する焼結体であり、かつ、L*a*b*表色系でのL*値が20~65、a*値が-1~10、b*値が-1~10である焼結体である。なお、粒径は走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した粒子画像から求めた平均粒径である。
【0039】
オキシフッ化物を含む原料粉末の成形体を得る工程1は、本発明においては、公知の技術を広く適用でき、格別の限定は必要としない。ただし、本発明の焼結体は粒径1~5μmが50%以上であることから、原料粉の平均粒径は20~100μmであると好ましい。
【0040】
また、成形体の製造方法も特に限定されないが、プレス成形法や静水圧プレス成形法が好ましい。このときの成形圧力は、0.5~500MPaとする。
【0041】
次に、前記成形体を脱脂・脱水する(工程2)。工程2は、まず、常圧大気雰囲気下にて室温から第一昇温速度で昇温して、第一保持温度および第一保持時間で保持した後、自然放冷にて室温まで降温する第一ステップを備える。
【0042】
ここでは、焼結助剤やバインダーなどを焼き飛ばすことを主体として、並行して、大半の水も焼き飛ばすことを目的としている。第一昇温速度は通常20~300℃/minである。第一保持温度は100~650℃、350~600℃が好ましい。第一保持時間は30~1500min、30~1200minが好ましい。このときの雰囲気は、焼結助剤やバインダーを酸化して成形体から放出させるため、大気雰囲気とするのが好ましい。
【0043】
第一ステップに続けて、常圧不活性雰囲気下にて室温から第二昇温速度で第二保持温度まで昇温して第二保持時間で保持した後、自然放冷にて室温まで降温する第二ステップを行う。
【0044】
オキシフッ化物およびフッ化物セラミックスは不活性ガス雰囲気中で焼結する場合であっても、不活性ガス中に微量に含まれる水分によって酸化分解が進行するため、焼結の進行が抑制されて、高密度の焼結体が得られ難い。そこで、成形体の水分を飛ばすことで、焼結工程の雰囲気中の水分量の上昇が抑えられ、オキシフッ化物およびフッ化物セラミックスの酸化分解の進行を防ぐことができる。
【0045】
従来技術では、高温高圧の焼結、または、水分を遮断するための特殊な治具を用いて、オキシフッ化物特有の水分に関する問題を解決してきたのに対して、本発明は、成形体の脱脂・脱水を行う工程で、効率的に水分の除去を行うものである。
【0046】
第二ステップは、第一ステップでは十分に除去されず残留している水分をさらに除去することを目的としている。そのため、第二昇温速度は第一昇温速度より大きく、第二保持温度は第一保持温度より高く、第二保持時間は第一保持時間より長くする。通常、第二昇温速度は20~700℃/minである。第二保持温度は750~1000℃、好ましくは800~980℃である。第二保持時間は30~1500min、好ましくは100~1000minである。
【0047】
第二ステップは、第一ステップにおける大気雰囲気よりガス流量の多い不活性雰囲気下に行う。第一ステップでは、大気を供給せず、単に炉を開放して、バインダーおよび成形体水分を飛ばしてもよい。その場合、第二ステップで不活性ガスを流通させることで、局所的にリークがあったとしても大気の流入を抑え成形体の酸化を防ぐことができる。
【0048】
第一ステップでは脱脂を主目的として、大気中、すなわち、酸化雰囲気で比較的低温かつ短時間で熱処理する。第二ステップでは残留水分の完全除去を目的として、不活性雰囲気下で第一ステップより高温かつ長時間の熱処理を行う。第二ステップを大気ではなく不活性雰囲気下に行う理由は、成形体を大気中で高温に曝すと、YF3の分解が進み、オキシフッ化物の組成が変化するためである。
なお、第二ステップを真空中で行っても、成形体の焼成は可能である。
【0049】
第一ステップでいきなり高温・長時間の熱処理をすると、成形体内部での焼結助剤やバインダーの酸化および分解が追いつかず、緻密な焼結体が得られにくい懸念がある。
【0050】
第二ステップでは、第一ステップで十分に除去しきれていない水分をほぼ完全に除去するため、不活性ガス雰囲気で、第一ステップよりも高温・長時間の熱処理を行う。不活性ガスは、窒素およびアルゴンなどである。不活性ガスの方が大気より含まれる水分量が少なく、かつ、大気からの不純物混入のおそれも少ないので好適である。また、第一ステップを経ているため、第二ステップでは水分除去のみが行われ、特に成形体の内部に残留している微量の水分を十分に外方に排出する。
【0051】
なお、第一ステップ、第二ステップともに、昇温速度は特に限定されず、公知のセラミックスの成形体の脱脂工程で使用される条件が適用される。降温速度も特に限定されることはなく、製造コストや生産性から自然放冷が望ましい。
【0052】
上記の具体的な一例は、第一保持温度は350~600℃、第一保持時間は30~1200min、第二保持温度は800~980℃、第二保持時間は100~1000minである。
【0053】
続いて、工程2で得られた成形体を焼結する(工程3)。焼結の条件は、公知技術を広く適用でき、格別限定されない。一例では、焼成温度を700~1100℃とし、焼成雰囲気を不活性ガス雰囲気とする。
【0054】
上記の通り、工程2において、成形体に含まれる水分を飛ばすことで焼結工程の雰囲気中の水分量上昇を抑え、オキシフッ化物およびフッ化物セラミックスの酸化分解の進行を防ぐことができる。このため、本発明では、従来技術のような加圧焼結を行うことなく、また、水分遮断材料等に埋設することなく、比較的低温で高密度のオキシフッ化セラミックス焼結体を提供することができる。
【0055】
なお、工程2後の成形体に含まれる水分量の評価は、必ずしも容易ではないが、本発明においては、例えば、幾何学的測定法でかさ密度を算出し、これを代替指標とすることも可能である。
【0056】
本発明の一つの目安としてかさ密度を用いることで、残存する水分の影響を限定的な範囲にとどめることが可能となり、オキシフッ化セラミックス焼結体が十分に高い密度になる。
【0057】
以上の通り、本発明によれば、耐プラズマ性に優れたオキシフッ化物セラミックスを、各種部材として使用可能な十分な密度を有する焼結体を提供することができる。さらに、指標として表色度を用いるので、例えば、非破壊で焼結体の品質を評価することも可能であり、実用性も大きく向上するものといえる。
【実施例0058】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記に示す実施例により制限されるものではない。
【0059】
[実施例1]
オキシフッ化イットリウムの造粒粉(平均粒径40μm)を、直径20mmの円形の金型に約13g充填し、一軸加圧により、約30MPaで10秒間保持し、一次成形をした。その後、冷間静水圧加工成形(CIP成形)により、147.1MPaで60秒間の条件で成形した。得られた成形体(およそφ20×10t)を、アルミナサヤに入れ、大気下、昇温速度50℃/h、400℃および1時間の条件下で脱脂した。その後、アルゴン供給量2L/min、常圧下、昇温速度300℃/hで850℃まで昇温し、850℃で2時間保持した後、降温は自然冷却で行った。
すなわち、第一保持温度は400℃、第一保持時間は60min、第二保持温度は850℃、第二保持時間は120minである。そして、不活性ガス雰囲気下850℃、120minで焼成した。上記方法でオキシフッ化イットリウムセラミックスの焼結体(およそφ15×9t)を作製した。
【0060】
[実施例2~5][比較例1~5]
上記した実施例1と同様の製造方法で、かつ、脱脂の有無や焼成温度を表1に示す条件に変更して、実施例2~5および比較例1~5のオキシフッ化イットリウムセラミックス焼結体を作製した。
【0061】
上記した方法で得られた各焼結体について、アルキメデス法で密度(g/cm3)と開気孔率(%)を測定し、色差計でL*値を測定した。次に、各焼結体を切断後、切断面を鏡面研磨してSEMで組織観察を行い、SEM像から平均結晶粒径を算出した。さらに、各焼結体をCF4プラズマによるエッチング試験を実施した。各焼結体の製造条件および測定結果をまとめて表1に示す。
【0062】
【0063】
表1から、粒径1~5μmの結晶を50%以上含み、色差L値*が30~65である焼結体は、そのエッチングレートが著しく低いことが分かった。なお、焼成温度が同じでも脱脂工程を省いた焼結体は緻密化していないためにエッチングレートが高い傾向がある。