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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094248
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】半導体熱処理部材
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/42 20060101AFI20240702BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C23C16/42
H01L21/31 B
H01L21/31 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023195058
(22)【出願日】2023-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2022209503
(32)【優先日】2022-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】井上 昌利
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健司
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4K030AA03
4K030AA09
4K030AA17
4K030BA37
4K030BB13
4K030CA01
4K030JA09
4K030JA10
4K030JA11
5F045DP01
5F045EM02
5F045EM09
(57)【要約】
【課題】耐クラック性を持ち、熱処理されるSiウェーハやSiCウェーハがその品質を保持できるとともに、サセプタ自体の使用寿命の長い半導体熱処理部材を提供する。
【解決手段】基材表面に複数のSiC膜を有する半導体熱処理部材であって、前記SiC膜は、(111)、(311)、(200)、(220)、(222)にピークを有する3C-SiC及び(101)、(103)にピークを有する2H-SiCで構成される結晶を有し、基材側から順に、前記結晶のX線回折ピークの強度の異なる第1SiC層及び第2SiC層の少なくとも二層を含むことを特徴とする半導体熱処理部材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に複数のSiC膜を有する半導体熱処理部材であって、
前記SiC膜は、(111)、(311)、(200)、(220)、(222)にピークを有する3C-SiC及び(101)、(103)にピークを有する2H-SiCで構成される結晶を有し、基材側から順に、前記結晶のX線回折ピークの強度の異なる第1SiC層及び第2SiC層の少なくとも二層を含むことを特徴とする半導体熱処理部材。
【請求項2】
前記SiC膜中の窒素濃度が0.05ppm以下、ホウ素濃度が0.02ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体熱処理部材。
【請求項3】
前記第1SiC層において、
3C-SiC(111)面のピーク強度に対する2H-SiC(101)面のピーク強度の比が0.000以上0.020以下であり、
3C-SiC(111)面のピーク強度に対する2H-SiC(103)面のピーク強度の比が0.000以上0.020以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体熱処理部材。
【請求項4】
前記第2SiC層において、
3C-SiC(111)面のピーク強度に対する2H-SiC(101)面のピーク強度の比が0.030以上0.100以下であり、
3C-SiC(111)面のピーク強度に対する2H-SiC(103)面のピーク強度の比が0.020以上0.050以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体熱処理部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャル成膜装置においてウェーハを支持する、サセプタ等の半導体熱処理部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン(Si)ウェーハまたはシリコンカーバイド(SiC)ウェーハ上に半導体回路を形成する前処理として、ウェーハ上にエピタキシャル膜を形成する工程がある。ウェーハ上にエピタキシャル膜を形成する場合、該ウェーハを支持するサセプタ(半導体熱処理部材)には、炭素基材にSiCや炭化タンタル(TaC)を化学蒸着(CVD)により被覆したものが用いられている。
【0003】
SiC被覆膜サセプタあるいはTaC被覆膜サセプタに求められる品質として、熱処理されるウェーハがその品質を保持できること、サセプタ自体が規定のライフを全うできること等が挙げられる。また、高品質エピタキシャルウェーハの作製、ウェーハ歩留向上、コストカットのため、サセプタの耐食性向上は、最優先の要望のひとつである。
【0004】
ところで、一般にエピタキシャル膜の成長は、Siウェーハでは1250℃以下、SiCウェーハでは1400℃以上で行う。SiウェーハまたはSiCウェーハにエピタキシャル膜が成長すると、サセプタにポリシリコンが堆積する。このポリシリコンは、定期的に塩化水素(HCl)等の還元性ガスと高温処理により除去(クリーニング)する必要があり、サセプタに生じたポリシリコンの堆積による寸法変化やパーティクルの発生をリセットする。
【0005】
しかしながら、SiC被覆膜サセプタに堆積したポリシリコンを、塩化水素等の還元性ガスと高温処理により除去(クリーニング)すると、SiC被膜までも侵食される。一方、除去(クリーニング)を行わないと、熱処理されたウェーハに、SiC被膜に含まれる窒素やホウ素等の不純物に起因する抵抗異常や欠陥が発生することがある。このような抵抗異常や欠陥は、サセプタを使用してすぐに発生するため、サセプタ交換が必要となり、コストの面で問題である。
【0006】
サセプタの出荷前検査では、通常、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)等で金属不純物を分析しており、二次イオン質量分析(SIMS)等で行う必要がある窒素やホウ素の濃度の分析は行っていない。窒素やホウ素の分析も出荷前検査に追加すれば、初期不良対策にはなるが、分析費用が増加し、半導体製品の価格を高くする一因となる。一方、SiCではなくTaCを被膜したサセプタを使用することで、不純物に起因する問題は緩和されるが、TaC被膜サセプタはSiC被膜サセプタと比べて高価である。
【0007】
上記問題の解決のため、特許文献1には、黒鉛基材の表面にCVD法によりSiC膜が被膜された気相成長用サセプタにおいて、黒鉛基材とSiC膜との界面と、SiC膜の表面とが純化処理されたサセプタが記載されている。純化処理により、従来のサセプタで時折見られたようなSiC膜の最表面の不純物やパーティクルが確実に取り除かれ、この結果、不純物等の存在ゆえに度々発生していたSiウェーハの抵抗異常やノンドープ不良を回避し、エピタキシャル膜成長効率が著しく改善される。また、不純物量が取り除かれることで、SiC膜のピンホールが発生する可能性も極めて小さくすることができる。
【0008】
窒素及びホウ素の濃度を低減したサセプタとして、Si34デポ膜等のCVD堆積物の付着保持性に優れた半導体熱処理部材が報告されている(特許文献2)。特許文献2によると、基体表面にSiC膜を形成した、もしくはSiCのみからなる半導体処理用部材のX線光電子分光分析でのフッ素元素量が0.3atomic%以下、有機系窒素量が0.7atomic%以下、炭化水素成分量が29atomic%以下でかつ有機系CO量が4atomic%以下であり、このとき、CVD堆積物は付着保持性に優れ、減圧CVD(LPCVD)等の半導体処理装置におけるパーティクル汚染の問題が生じ難い。
【0009】
ウェーハにエピタキシャル膜を成長させる工程では、クリーニングガスに対する耐侵食性以上に、耐高温性や、高温からの急降温に対する耐クラック性等の特性が要求される。サセプタは、炭素基材とSiC被膜とが異素材である。また、SiC被膜は複数回のコーティングで形成されることも多い。よって、SiC被膜にクラックが発生すると、炭素基材に含まれる不純物が拡散し、ウェーハの品質や歩留に影響を及ぼす。サセプタにクラックが発生した場合、すぐにサセプタを交換する必要がある。そうすると、サセプタの交換頻度が増えて、半導体製品の価格を高くする一因となりうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11-157989号公報
【特許文献2】特許第3956291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このため、本発明は、耐クラック性を持ち、SiウェーハやSiCウェーハがその品質を保持できるとともに、使用寿命の長い半導体熱処理部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の半導体熱処理部材は、基材表面にSiC膜を有し、前記SiC膜は、(111)、(311)、(200)、(220)、(222)にピークを有する3C-SiC、(101)、(103)にピークを有する2H-SiCで構成される結晶を有し、基材側から順に、前記結晶のX線回折ピークの強度の異なる第1SiC層及び第2SiC層の少なくとも二層を含むことを特徴とする。
このような構成にすることにより、耐クラック性を備えることができる。
【0013】
前記SiC膜中の窒素濃度は0.05ppm以下、ホウ素濃度が0.02ppm以下であることが好ましい。
前記第1SiC層において、3C-SiC(111)面のピーク強度に対する2H-SiC(101)面のピーク強度の比は0.000以上0.020以下であり、3C-SiC(111)面のピーク強度に対する2H-SiC(103)面のピーク強度の比は0.000以上0.020以下であることが好ましい。
【0014】
前記第2SiC層において、3C-SiC(111)面のピーク強度に対する2H-SiC(101)面のピーク強度の比は0.030以上0.100以下であり、3C-SiC(111)面のピーク強度に対する2H-SiC(103)面のピーク強度の比は0.020以上0.050以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の半導体熱処理部材は、そのSiC被膜が3C-SiC及び2H-SiCの2つの結晶を含み、かつ、低温層及び高温層の二層からなる。このような結晶層構造により、半導体熱処理部材は、耐クラック性を備えることができる。
また、本発明の製造方法によって得られた半導体熱処理部材は、上術の効果に加え、SiC被膜中の窒素及びホウ素の濃度が十分に低減されているため、熱処理後のSiウェーハやSiCウェーハに抵抗異常や欠陥が発生するのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明のサセプタの断面図である。
図2図2は、図1のサセプタの一部を拡大した断面図である。
図3図3は、図1のサセプタを製造する際に使用するCVD装置を模式的に示した断面図である。
図4図4は、本発明のサセプタのSiC被膜(低温層及び高温層)の断面のSEM画像である。
図5図5は、図4のSiC被膜のX線回折によるピークの強度比を表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の半導体熱処理部材の一実施形態について、図1図3に基づいて説明する。図は模式的または概念的なものであり、各部位の厚みと幅との関係、部位間の大きさの比率等は、正確に図示されていない。
【0018】
半導体熱処理部材は、半導体製造装置の内部で半導体材料であるSiウェーハやSiCウェーハを支持するセラミック製の部材である。SiウェーハやSiCウェーハの大きさは、4インチ、5インチ、6インチ、8インチまたは12インチである。
【0019】
半導体熱処理部材に用いる基材は、シリコン、黒鉛(グラファイト)などの炭素、及びシリコンカーバイドである。これらのうち、炭素基材が低コストであり、加工難易度が低く、短リードタイムである。シリコン基板の場合、その表面にメタン、エタン、プロパン、エチレン及びアセチレンなどの炭化水素ガスによる炭化層を形成してから、後述するSiC膜を形成してもよい。
【0020】
本実施の形態においては、Siウェーハの表面にエピタキシャル膜を成長させるために用いる半導体熱処理部材として、炭素を基材とし、表面にSiC被膜を有するサセプタについて説明する。
図1に示すように、サセプタ1(半導体熱処理部材)は、円板状の炭素基材2を有している。炭素基材2の大きさは、厚み1.0~20.0mm、直径50~400mmであることが好ましく、金属元素(鉄、ニッケル、クロム等)の含有量は0.05ppm以下であることが好ましい。
【0021】
このサセプタ1は、その一の主面F1に半導体基板を載せる一つの凹形状のザグリ部4が形成された、いわゆる枚葉タイプのサセプタである。
前記ザグリ部4は平面視上円形に形成され、中央に円柱状の凹部4aが形成されている。また、このサセプタ1は、その中心部Oを回転軸Lとした円対称性を有している。このとき、ザグリ部4の最深部(中心部O)の深さをToとすると、平均深さTd(図示せず)は、To/2となる。
【0022】
前記サセプタ1の厚さTと前記平均深さTdとの比(T/Td)は、6≦T/Td≦30であることが好ましい。サセプタ1の厚さTと前記平均深さTdとの比(T/Td)が前記範囲であるとき、ザグリ部4が、反り抑制の効果を得ることができる。なお、前記サセプタ1の厚さTと前記深さToとの比(T/To)は3≦T/To≦13であることが好ましい。
【0023】
炭素基材2としては、炭素材料が用いられ、薄膜3としては炭化珪素が用いられる。炭素基材2は、その全面が炭化珪素(SiC)からなる所定厚さ(例えば60μm以上)の薄膜3で被覆されている。薄膜3は、炭素基材2を保護すると共に、炭素基材2からの発塵、不純物の外方拡散を防止し、炭素基材2の反りを抑制する役割を有する。
【0024】
すなわち、この薄膜3は、サセプタ1のウェーハ支持面である一の主面F1を被覆する炭化珪素からなる薄膜3Fと、一の主面F1と対向する裏の面である他の主面F2を被覆する炭化珪素からなる薄膜3Bと、また炭素基材2の外周面を被覆する炭化珪素からなる薄膜3Sとから構成されている。
【0025】
ここで、図2に示すサセプタ1の主面F1に形成された薄膜3Fの膜厚t1の平均に対する他の主面F2に形成された薄膜3Bの膜厚t2の平均の比率は0.7~1.3の間であることが好ましい。前記比率が0.7~1.3にあるとき、膜厚ばらつきに起因する熱伝導性の差異が生じることなく、均一なエピタキシャル膜を得ることができる。
【0026】
炭素基材2の表面に形成されたSiC膜は、3C-SiC及び2H-SiCで構成される結晶であり、前記結晶は、炭素基材2側から順に、X線回折ピークの強度の異なる第1SiC層及び第2SiC層の少なくとも二層からなる。なお、後述する半導体熱処理部材の製造方法において、キープコーティング開始前に、キープコーティング時の温度より低温で原料ガスを導入して第1SiC層を形成し、それより高温で行うキープコーティングで第2SiC層を形成することから、本明細書では、第1SiC層を低温層、第2SiC層を高温層ともいう。
【0027】
炭素基材2の表面には、常圧CVD法により結晶成長させたCVD-SiC膜として、3C-SiC及び2H-SiCで構成される多形結晶を有する。
ここで、SiCには、積層順序の違いにより数多くの多形がある。代表的な多形には、3C-SiC、2H-SiC、4H-SiCがある。3C-SiCは立方晶であり、2H-SiC、4H-SiCは六方晶である。
【0028】
SiCの結晶のうち、3C-SiC立方晶は、多形のなかで最もバンドギャップが小さい。低温で形成される安定で良質な結晶であるため、3C-SiC立方晶は、デバイス設計に用いやすく、大面積化においても、コスト増大を抑えることができる。
3C-SiC立方晶は、X線回折による(111)、(311)、(200)、(220)、(222)に対応するピークを有する。このようなピークを有することは、SiCのエピタキシャル成長により良好な結晶が形成されていることを意味する。
2H-SiC六方晶は、多形のなかで最も大きなバンドギャップを持つ。2H-SiCは、X線回折による(101)、(103)に対応するピークを有する。
【0029】
第1SiC層(低温層)において、3C-SiC(111)面のピーク強度に対する2H-SiC(101)面のピーク強度の比は0.000以上0.020以下であり、かつ、3C-SiC(111)面のピーク強度に対する2H-SiC(103)面のピーク強度の比が0.000以上0.020以下であることが好ましい。
第2SiC層(高温層)において、3C-SiC(111)面のピーク強度に対する2H-SiC(101)面のピーク強度の比は0.030以上0.100以下であり、かつ、3C-SiC(111)面のピーク強度に対する2H-SiC(103)面のピーク強度の比は0.020以上0.050以下であることが好ましい。
図4は、基材上に形成された第1SiC層(低温層)と第2SiC層(高温層)の断面組織を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した画像である。
図5は、第1SiC層(低温層)と第2SiC層(高温層)のX線回折ピークの強度比を表す回折チャートである。低温層及び高温層で、ピーク及びその頂点が一致しており、サセプタ1のSiC被膜が高い結晶性を有することが分かる。
【0030】
なお、第1SiC層(低温層)及び第2SiC層(高温層)とも、3C-SiC結晶は、X線回折において、(111)、(311)、(200)、(220)、(222)にピークを有し、2H-SiC結晶は、X線回折において、(101)、(103)にピークを有する。
X線回折とは40keVであるX線(CuKα線)を用いた回折である。
【0031】
第1SiC層(低温層)の厚みは好ましくは1~10μm、さらに好ましくは1~3μmである。
第2SiC層(高温層)の厚みは好ましくは3~500μm、さらに好ましくは5~300μmである。
【0032】
サセプタ1において、CVD-SiC膜は、3C-SiC及び2H-SiCの2つの結晶を含み、かつ、低温層及び高温層の二層からなる。このような結晶層構造を有することにより、前記CVD-SiC膜は耐クラック性を有する。
SiC膜中の窒素濃度は0.05ppm以下、ホウ素濃度は0.02ppm以下である。サセプタ1のSiC被膜中の窒素やホウ素の濃度を低減することで、SiウェーハやSiCウェーハに抵抗異常や欠陥が発生するのを抑えることができる。
【0033】
前記のような基材表面にSiC膜を有する半導体熱処理部材の製造方法は、前記SiC膜の成膜工程において、キープコーティング開始前にキープコーティング温度より低い温度で原料ガスを導入する工程を有する。このような工程を備えることにより、半導体熱処理部材のSiC被膜が3C-SiC及び2H-SiCの2つの結晶を含み、かつ、低温層及び高温層の二層からなるため、耐クラック性を備えることができる。また、SiC被膜中の窒素及びホウ素の濃度が十分に低減されているため、熱処理後のSiウェーハやSiCウェーハに抵抗異常や欠陥が発生するのを抑えることができる。
【0034】
サセプタ1の製造方法について説明する。すなわち、製品形状に加工した炭素基材の表面にCVDにより、低窒素濃度及び低ホウ素濃度のSiC膜を成膜する方法において、キープコーティング開始前にキープコーティング温度より低い温度で原料ガスを導入する工程を有する。キープコーティング温度より50~100℃低い温度であることが好ましい。
【0035】
前記のようなサセプタ1は、例えば、図3に示すようなCVD装置5を用いることにより製造することができる。
図3に示すCVD装置5は、処理空間を形成するチャンバ10と、キャリアガス(水素ガス)をチャンバ10内に供給するため、チャンバ10側面に設けられたガス流入口11と、流入口11に対向する反対側のチャンバ10側面に設けられたガス流出口12とを有する。また、チャンバ10内においてサセプタ1の炭素基材2の下面側を支持するための支持部20を備えている。また、チャンバ10の上下には、ヒータ部15が設けられ、炉内を所定温度まで昇温可能に構成されている。
【0036】
このCVD装置5を用いてサセプタ1を製造する場合、予め円形のザグリ部が形成された炭素材料からなるSiウェーハ用またはSiCウェーハ用の炭素基材2を、チャンバ10内の支持部20上に配置する。
【0037】
キャリアガス(希釈ガス)としてH2を用い、原料ガス(SiCl4、C38)を用いて、漸次導入後、60~120分で1000~1300℃の温度、1500~4500Paの炉内圧力下でキープコーティングを行う。キープコーティング時、SiCl4:C38:H2=15~20:3~6:150~200(L/min)で処理を行うことで、3C-SiCと2H-SiCが混在し、かつ、結晶性に優れたSiC膜被膜付きサセプタ1が得られる。なお、昇温はH2のみを導入して行い、このとき、1Torr以下まで真空度を維持できる真空ポンプを用いる。
【0038】
キープコーティング開始直前に、所定の温度(キープコーティング時の温度)になる前の昇温中に原料ガスを20~30分間導入する。原料ガス導入時のCVD装置5内の温度は、キープコーティング時の温度より低い温度とする。また、導入前後でH2雰囲気を維持する。これにより、炭素基材2とその上に形成される3~500μmの第2SiC層(高温層)との間に1~10μmの第1SiC層(低温層)を形成する。
【0039】
キープコーティング後、H2のみを導入して降温する。3500~10000Paの炉内圧力下で、30~120分間かけて100℃降温した後、H2の導入を停止し、1Torr以下の真空度で90分以上降温を継続する。800℃以下になったら、再度H2ガスを導入し、降温を継続する。
【0040】
このプロセスにより、SiC膜中の窒素濃度が0.05ppm以下、ホウ素濃度が0.02ppm以下の低窒素及び低ホウ素濃度のCVD-SiC膜を被膜した、耐クラック性をもつサセプタ等の半導体用熱処理部材が得られる。
【0041】
なお、前記実施の形態においては、本発明の半導体用熱処理部材としてサセプタを例に説明したが、本発明にあっては、その形態に限定されるものではなく、炭素基材の表面にSiC被膜をした半導体用熱処理部材に広く適用することができる。
【実施例0042】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記に示す実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
等方性高純度黒鉛(クアーズテック株式会社製)に純化処理を行い、炭素基材中の不純物濃度(Fe、Ni、Cr等の金属元素)を0.05ppm以下まで低減して基材を得た。
【0043】
図3に示すCVD装置を用い、前記炭素基材にSiCを成膜した。前記CVD装置において、チャンバ内に前記炭素基材を載置し、真空ポンプを用いて1Torr以下にした後、キャリアガス(H)を導入した。
次いで、チャンバ内1200℃になるまで昇温した。チャンバ内が1200℃から1300℃に昇温する際、原料ガス(SiCl4及びC38)およびキャリアガスを25分間導入した。その後、1300℃、2000Pa下でキープコーティングを11時間行った。
【0044】
キープコーティング後、H2のみを導入して降温した。5000Paの炉内圧力下で、120分かけて100℃降温させた後、H2の導入を停止し、1Torr以下の真空度で90分以上降温を継続し、800℃以下になった時点で、再びH2ガスを導入し、降温を継続した。
【0045】
前記した手順により、CVD-SiC膜を炭素基材に被膜した。得られたSiC被膜付炭素基材において、SiC被膜中の窒素及びホウ素の濃度を二次イオン質量分析(SIMS)を用いて測定した。窒素濃度は0.041ppm、ホウ素濃度は0.001ppmであった。
【0046】
走査電子顕微鏡(SEM)でSiC被膜付炭素基材の断面を観察した。また、粉末X線回折法(XRD)を用いて、SiC被膜付炭素基材を観察した。炭素基材上のSiC膜において、基材側の第1SiC層、及び第1SiC層の上に形成された第2SiC層ともに、シャープな回折プロファイルが観察された。結果を図4図5に示す。
ピーク強度比は、表1に示すとおりである。
【0047】
【表1】
【0048】
[実施例2]
等方性高純度黒鉛(クアーズテック株式会社製)に純化処理を行い、炭素基材中の不純物濃度(Fe、Ni、Cr等の金属元素)を0.05ppm以下まで低減して基材を得た。
【0049】
前記炭素基材にCVD法によりSiCを成膜した。前記CVD装置において、チャンバ内に前記炭素基材を載置し、真空ポンプを用いて1Torr以下にした後、キャリアガス(H)を導入した。
次いで、チャンバ内1240℃になるまで昇温した。チャンバ内が1240℃から1250℃に昇温する際、原料ガス(SiCl4及びC38)およびキャリアガスを25分間導入した。その後、1250℃、2000Pa下でキープコーティングを11時間行った。
【0050】
キープコーティング後、H2のみを導入して降温した。5000Paの炉内圧力下で、120分かけて100℃降温させた後、H2の導入を停止し、1Torr以下の真空度で90分以上降温を継続し、800℃以下になった時点で、再びH2ガスを導入し、降温を継続した。
【0051】
前記した手順により、CVD-SiC膜を炭素基材に被膜した。得られたSiC被膜付炭素基材において、SiC被膜中の窒素及びホウ素の濃度を二次イオン質量分析(SIMS)を用いて測定した。窒素濃度は0.048ppm、ホウ素濃度は0.001ppmであった。
【0052】
粉末X線回折法(XRD)を用いて、SiC被膜付炭素基材を観察した。炭素基材上のSiC膜において、基材側の第1SiC層、及び第1SiC層の上に形成された第2SiC層ともに、シャープな回折プロファイルが観察された。ピーク強度比は、表2に示すとおりである。
【0053】
【表2】
【0054】
[実施例3]
等方性高純度黒鉛(クアーズテック株式会社製)に純化処理を行い、炭素基材中の不純物濃度(Fe、Ni、Cr等の金属元素)を0.05ppm以下まで低減して基材を得た。
【0055】
前記炭素基材にCVD法によりSiCを成膜した。前記CVD装置において、チャンバ内に前記炭素基材を載置し、真空ポンプを用いて1Torr以下にした後、キャリアガス(H2)を導入した。
次いで、チャンバ内1160℃になるまで昇温した。チャンバ内が1160℃から1180℃に昇温する際、原料ガス(SiCl4及びC38)およびキャリアガスを25分間導入した。その後、1180℃、2000Pa下でキープコーティングを11時間行った。
【0056】
キープコーティング後、H2のみを導入して降温した。5000Paの炉内圧力下で、120分かけて100℃降温させた後、H2の導入を停止し、1Torr以下の真空度で90分以上降温を継続し、800℃以下になった時点で、再びH2ガスを導入し、降温を継続した。
【0057】
前記した手順により、CVD-SiC膜を炭素基材に被膜した。得られたSiC被膜付炭素基材において、SiC被膜中の窒素及びホウ素の濃度を二次イオン質量分析(SIMS)を用いて測定した。窒素濃度は0.043ppm、ホウ素濃度は0.001ppmであった。
【0058】
粉末X線回折法(XRD)を用いて、SiC被膜付炭素基材を観察した。炭素基材上のSiC膜において、基材側の第1SiC層、及び第1SiC層の上に形成された第2SiC層ともに、シャープな回折プロファイルが観察された。ピーク強度比は、表3に示すとおりである。
【0059】
【表3】
【0060】
[実施例4]
等方性高純度黒鉛(クアーズテック株式会社製)に純化処理を行い、炭素基材中の不純物濃度(Fe、Ni、Cr等の金属元素)を0.05ppm以下まで低減して基材を得た。基材は厚み1.0~20.0mmで、Siウェーハ(8インチ)を支持するのに好適な大きさにした。
【0061】
前記炭素基材にCVD法によりSiCを成膜した。前記CVD装置において、チャンバ内に前記炭素基材を載置し、真空ポンプを用いて1Torr以下にした後、キャリアガス(H2)を導入した。
次いで、チャンバ内1350℃になるまで昇温した。チャンバ内が1350℃から1400℃に昇温する際、原料ガス(SiCl4及びC38)およびキャリアガスを25分間導入した。その後、1400℃、3000Pa下でキープコーティングを15時間行った。
【0062】
キープコーティング後、H2のみを導入して降温した。3000Paの炉内圧力下で、120分かけて100℃降温させた後、H2の導入を停止し、1Torr以下の真空度で90分以上降温を継続し、800℃以下になった時点で、再びH2ガスを導入し、降温を継続した。
【0063】
前記した手順で得られたSiC被膜付炭素基材において、SiC被膜中の窒素及びホウ素の濃度を二次イオン質量分析(SIMS)を用いて測定した。窒素濃度は5.87ppm、ホウ素濃度は0.001ppmであった。前記した手順では、SiC膜中の窒素濃度が0.05ppm以下のCVD-SiC膜が得られなかった。
【0064】
粉末X線回折法(XRD)を用いて、SiC被膜付炭素基材を観察した。ピーク強度比は、表4に示すとおりである。
【表4】
【0065】
[比較例1]
前記炭素基材にCVD法によりSiCを成膜した。成膜には、原料ガスとしてSiCl4及びC38、キャリアガス(希釈ガス)としてH2を用い、1300℃、4000Paの炉内圧力下で11時間キープコーティングを行った。昇温時(原料ガスの導入前)はガスを導入せず、真空ポンプを用いて、1Torr以下の真空度を維持した。
【0066】
キープコーティング後、N2のみを導入して降温した。5000Paの炉内圧力下で、120分かけて1000℃まで制御降温させた後、制御降温を停止し、降温を継続した。
炭素基材上に形成されたSiC層は一層であった。
【0067】
粉末X線回折法(XRD)を用いて、SiC被膜付炭素基材を観察した。ピーク強度比は、表5に示すとおりである。
【表5】
【0068】
表5に実施例1~4、比較例1のSiC被膜付炭素基材の熱衝撃クラック耐性および還元性ガス耐性についての結果を示す。熱衝撃クラック耐性は、サンプルを装置内に入れ、1000℃まで加熱(常圧雰囲気)した後、装置から取り出し、水(室温)に落下させ、急速降温(熱衝撃)を加えた(加速試験)。これを5サイクル実施した。その後、クラックが認められた場合を×、認められなかった場合についてさらに5サイクル実施し、クラックが認められた場合を△、認められなかった場合を○、とした。
【0069】
還元性ガス耐性は、サンプルを装置内に入れ、真空ポンプにて減圧雰囲気にし、HClとH2(キャリアガス)を導入し、温度1100℃、暴露時間は1時間を30サイクル(30hr)実施後と50サイクル(50hr)実施後で、サンプルの表面組織をSEM観察した。
【0070】
30サイクル(30hr)実施でピンホール(グラファイト基材まで貫通)が形成したものを×、50サイクル(50hr)実施でピンホールが形成していないものを〇、30サイクル(30hr)実施でピンホールが形成していないが、50サイクル(50hr)実施でピンホールが形成したもの△とした。
【0071】
【表6】
【0072】
上述の結果から、実施例1~4で得られたSiC被覆膜サセプタは、エピタキシャル成長プロセスで使用してもSiCウェーハに抵抗異常や欠陥は発生せず、高品質のSiCエピタキシャルウェーハが得られた。また、サセプタ及びSiC被膜にクラックも発生しなかった。
【符号の説明】
【0073】
1 サセプタ
2 炭素基材
3 薄膜(SiC被膜)
4 ザグリ部
4a 円柱状の凹部
5 CVD装置
10 チャンバ
11 ガス流入口
12 ガス流出口
15 ヒータ部
20 支持部
O 中心部
L 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5