(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094265
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】蓋用積層材、蓋および蓋を用いた包装体
(51)【国際特許分類】
B65D 77/20 20060101AFI20240702BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B65D77/20 M
B32B27/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023205378
(22)【出願日】2023-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2022210165
(32)【優先日】2022-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501428187
【氏名又は名称】株式会社レゾナック・パッケージング
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100199369
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100228175
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充紀
(72)【発明者】
【氏名】羽野 隆之
【テーマコード(参考)】
3E067
4F100
【Fターム(参考)】
3E067AB01
3E067AB81
3E067BA07A
3E067BB11A
3E067BB14A
3E067BB15A
3E067BB25A
3E067BC02A
3E067BC07A
3E067CA07
3E067CA24
3E067EA32
3E067EA35
3E067EA36
3E067FA01
3E067FC01
3E067GD07
4F100AB33B
4F100AK01A
4F100AK01E
4F100AK06D
4F100AK51C
4F100AK63D
4F100AT00D
4F100AT00E
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100CB03E
4F100EH17
4F100EJ65C
4F100GB15
4F100GB18
4F100JA04D
4F100JA06E
4F100JA13D
4F100JB16E
4F100JD02B
4F100JK02B
4F100JK02E
4F100JK06
4F100JK08B
4F100JK08D
4F100JK11D
4F100JL12E
4F100YY00D
(57)【要約】
【課題】作製した蓋を用いた包装体に異常な横揺れが作用したとしても、蓋としての必要な耐圧性の低下を抑制しうる蓋用積層材を提供する。
【解決手段】蓋用積層材1は、保護樹脂層11、アルミニウム箔からなるバリア層12、アンカーコート層13、応力緩和層14およびヒートシール層15が、蓋用積層材1の片面側から順に積層された複合材からなる。応力緩和層14は、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂と、低密度ポリエチレン樹脂との混合物よりなり、バリア層12に作用する応力を緩和する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔からなるバリア層と、バリア層の片面に形成されたヒートシール層とを備えており、内容物が入れられた容器の開口を覆うように、前記ヒートシール層を利用して容器の開口周縁部にヒートシールされる蓋を作製する蓋用積層材であって、
前記バリア層と前記ヒートシール層との間に、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂と、低密度ポリエチレン樹脂との混合物よりなり、かつ前記バリア層に作用する応力を緩和する応力緩和層が形成されていることを特徴とする、蓋用積層材。
【請求項2】
前記応力緩和層を形成する前記混合物中の前記直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の含有量が5~40質量%であることを特徴とする、請求項1記載の蓋用積層材。
【請求項3】
前記直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の密度が0.87~0.93g/cm3であり、前記低密度ポリエチレン樹脂の密度が0.90~0.92g/cm3であることを特徴とする、請求項1記載の蓋用積層材。
【請求項4】
前記直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の示差走査熱量測定法により測定された融点が80℃以下であることを特徴とする、請求項1記載の蓋用積層材。
【請求項5】
前記直鎖状低密度ポリエチレン樹脂が、メタロセン触媒を用いて重合されたメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン樹脂であることを特徴とする、請求項1記載の蓋用積層材。
【請求項6】
前記応力緩和層がフィルムからなり、当該フィルムの流れ方向(MD)の破断点引張伸び(E(MD))が200~500%であり、流れ方向と垂直な幅方向(TD)の破断点引張伸び(E(TD))が200~700%であることを特徴とする、請求項1記載の蓋用積層材。
【請求項7】
前記バリア層と前記応力緩和層との間に、アンカーコート層が介在させられていることを特徴とする、請求項1記載の蓋用積層材。
【請求項8】
前記バリア層における応力緩和層側の面とは反対側の面に保護樹脂層が形成されていることを特徴とする、請求項1記載の蓋用積層材。
【請求項9】
前記バリア層となる金属箔の破断点引張強さが20~200MPaであるとともに、破断点引張伸びが5~50%であることを特徴とする、請求項1記載の蓋用積層材。
【請求項10】
前記ヒートシール層が、熱融着性樹脂よりなる熱融着層と、熱融着層の応力緩和層側の面に形成された合成樹脂よりなる基材層とによって構成されており、前記ヒートシール層の基材層が、前記応力緩和層に接着されていることを特徴とする、請求項1記載の蓋用積層材。
【請求項11】
前記ヒートシール層の前記熱融着層となる熱融着性樹脂のJISK7210-1(2014)に基づいて190℃、2.16kgの荷重で測定したメルトフローレートが、2~15g/10分であることを特徴とする、請求項10記載の蓋用積層材。
【請求項12】
前記ヒートシール層の前記熱融着層が熱融着樹脂フィルムよりなり、JISK7161-1(2014)に基づいて得られる当該熱融着性樹脂フィルムの流れ方向(MD)の破断点引張強さ、および流れ方向と垂直な幅方向(TD)の破断点引張強さが、いずれも40~100MPaであることを特徴とする、請求項10記載の蓋用積層材。
【請求項13】
請求項10記載の蓋用積層材であって、前記ヒートシール層の前記熱融着層が熱融着樹脂フィルムよりなり、前記ヒートシール層を、当該ヒートシール層の前記熱融着層となる前記熱融着性樹脂フィルムと同一の熱融着性樹脂フィルムよりなる厚さ0.3mmのシートに、160℃、0.2MPa及び1秒間の条件で熱融着させた後、当該蓋用積層材と該シートを、JIS K6854-3に準拠するT字剥離試験において、引張速度300mm/分の条件で相互に剥離させたときの強度が5~15N/15mmであることを特徴とする、蓋用積層材。
【請求項14】
前記ヒートシール層が、前記応力緩和層における前記バリア層とは反対側を向いた面を覆うように塗工されたホットメルト接着剤からなることを特徴とする、請求項1記載の蓋用積層材。
【請求項15】
請求項1~14のうちのいずれかに記載の蓋用積層材よりなることを特徴とする、蓋。
【請求項16】
請求項15記載の蓋が、内容物が入れられた容器の開口を覆うようにしてその開口周縁部に被せられ、前記蓋が、前記ヒートシール層を利用して容器の開口周縁部にヒートシールされていることを特徴とする、包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は蓋用積層材、蓋および蓋を用いた包装体に関し、さらに詳しくいえば、食品、医薬品等の内容物を密封包装する包装体に用いられる蓋を作製する蓋用積層材、蓋用積層材から作製された蓋および蓋を用いた包装体に関する。
【0002】
この明細書において、「アルミニウム」という用語には純アルミニウムの他にアルミニウム合金を含むものとする。
【背景技術】
【0003】
従来、上述した内容物を密封包装する包装体としては、上方に開口した容器と、容器の開口を覆うように外周縁部が容器の開口周縁部にヒートシールされた蓋とよりなるものが広く用いられている。
【0004】
上述した包装体の蓋を作製する蓋用積層材としては、アルミニウム箔、アンカーコート層、低密度ポリエチレンからなる応力緩和層およびヒートシール層としてのホットメルト接着剤層が、蓋用積層材の片面側から順に積層された複合材からなるものが知られている(特許文献1、段落[0070]参照)。
【0005】
特許文献1記載の蓋用積層材からなる蓋が、上方に開口するとともに内容物が収容された合成樹脂製容器の開口周縁部に、たとえば高周波誘導加熱を利用してヒートシールされることにより包装体が得られている。すなわち、前記蓋が内容物を充填した容器の開口を覆うようにして当該開口の周縁部に被せられた後に、高周波誘導加熱シール装置によって蓋のアルミニウム箔が発熱させられ、この熱によりホットメルト樹脂接着剤層が溶融させられて容器の開口周縁部と蓋とがヒートシールされている。また、特許文献1記載の蓋用積層材からなる蓋のアルミニウム箔は、内容物をガス、水蒸気、光等から保護するためのバリア層としても働く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1記載の蓋用積層材から作製した蓋を容器にヒートシールすることにより得られる包装体は、多数をパッキングした状態で長距離輸送したとき、蓋の耐圧性が低下するおそれがある。その理由を本出願人は次のように推測する。すなわち、前記パッキング状態にある包装体は、輸送中、長時間の振動にさらされるが、特に異常な横揺れにさらされた時には、包装体同士が衝突したり、圧迫しあったりする。このとき、各包装体は内圧が増減し、蓋が膨張と収縮を繰り返す。そして、蓋が膨張と収縮を繰り返すことにより、アルミニウム箔に繰り返し応力が継続的に作用し、当該アルミニウム箔に周期的な変形疲労が蓄積してサイクル疲労を起こし、その結果蓋全体の耐圧性が低下すると考えられる。
【0008】
この発明は、作製した蓋を用いた包装体に異常な横揺れが作用したとしても、蓋としての必要な耐圧性の低下を抑制しうる蓋用積層材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記の目的を達成するために、以下の態様からなる。
【0010】
1)金属箔からなるバリア層と、バリア層の片面に形成されたヒートシール層とを備えており、内容物が入れられた容器の開口を覆うように、前記ヒートシール層を利用して容器の開口周縁部にヒートシールされる蓋を作製する蓋用積層材であって、
前記バリア層と前記ヒートシール層との間に、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂と、低密度ポリエチレン樹脂との混合物よりなり、かつ前記バリア層に作用する応力を緩和する応力緩和層が形成されていることを特徴とする、蓋用積層材。
【0011】
2)前記応力緩和層を形成する前記混合物中の前記直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の含有量が5~40質量%であることを特徴とする、上記1)記載の蓋用積層材。
【0012】
3)前記直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の密度が0.87~0.93g/cm3であり、前記低密度ポリエチレン樹脂の密度が0.90~0.92g/cm3であることを特徴とする、上記1)記載の蓋用積層材。
【0013】
4)前記直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の示差走査熱量測定法により測定された融点が80℃以下であることを特徴とする、上記1)記載の蓋用積層材。
【0014】
5)前記直鎖状低密度ポリエチレン樹脂が、メタロセン触媒を用いて重合されたメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン樹脂であることを特徴とする、上記1)記載の蓋用積層材。
【0015】
6)前記応力緩和層がフィルムからなり、当該フィルムの流れ方向(MD)の破断点引張伸び(E(MD))が200~500%であり、流れ方向と垂直な幅方向(TD)の破断点引張伸び(E(TD))が200~700%であることを特徴とする、上記1)記載の蓋用積層材。
【0016】
7)前記バリア層と前記応力緩和層との間に、アンカーコート層が介在させられていることを特徴とする、上記1)記載の蓋用積層材。
【0017】
8)前記バリア層における応力緩和層側の面とは反対側の面に保護樹脂層が形成されていることを特徴とする、上記1)記載の蓋用積層材。
【0018】
9)前記バリア層となる金属箔の破断点引張強さが20~200MPaであるとともに、破断点引張伸びが5~50%であることを特徴とする、上記1)記載の蓋用積層材。
【0019】
10)前記ヒートシール層が、熱融着性樹脂よりなる熱融着層と、熱融着層の応力緩和層側の面に形成された合成樹脂よりなる基材層とによって構成されており、前記ヒートシール層の基材層が、前記応力緩和層に接着されていることを特徴とする、上記1)記載の蓋用積層材。
【0020】
11)前記ヒートシール層の前記熱融着層となる熱融着性樹脂のJIS K7210―1(2014)に基づいて190℃、2.16kgの荷重で測定したメルトフローレートが、2~15g/10分であることを特徴とする、上記10)記載の蓋用積層材。
【0021】
12)前記ヒートシール層の前記熱融着層が熱融着樹脂フィルムよりなり、JIS K7161―1(2014)に基づいて得られる当該熱融着性樹脂フィルムの流れ方向(MD)の破断点引張強さ、および流れ方向と垂直な幅方向(TD)の破断点引張強さが、いずれも40~100MPaであることを特徴とする、上記10)記載の蓋用積層材。
【0022】
13)上記10)記載の蓋用積層材であって、前記ヒートシール層の前記熱融着層が熱融着樹脂フィルムよりなり、前記ヒートシール層を、当該ヒートシール層の前記熱融着層となる前記熱融着性樹脂フィルムと同一の熱融着性樹脂フィルムよりなる厚さ0.3mmのシートに、160℃、0.2MPa及び1秒間の条件で熱融着させた後、当該蓋用積層材と該シートを、JIS K6854-3に準拠するT字剥離試験において、引張速度300mm/分の条件で相互に剥離させたときの強度が5~15N/15mmであることを特徴とする、蓋用積層材。
【0023】
14)前記ヒートシール層が、前記応力緩和層における前記バリア層とは反対側を向いた面を覆うように塗工されたホットメルト接着剤からなることを特徴とする、上記1)記載の蓋用積層材。
【0024】
15)上記1)~14)のうちのいずれかに記載の蓋用積層材よりなることを特徴とする、蓋。
【0025】
16)上記15)記載の蓋が、内容物が入れられた容器の開口を覆うようにしてその開口周縁部に被せられ、前記蓋が、前記ヒートシール層を利用して容器の開口周縁部にヒートシールされていることを特徴とする、包装体。
【発明の効果】
【0026】
上記1)の蓋用積層材は、バリア層とヒートシール層との間に、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(以下、LLPDEと称する)と、低密度ポリエチレン樹脂(以下、LPDEと称する)との混合物よりなり、かつバリア層に作用する応力を緩和する応力緩和層が形成されているので、当該蓋用積層材から形成された蓋を用いた包装体が異常な横揺れにさらされた時に包装体同士が衝突したり、圧迫しあったりすることにより蓋が膨張と収縮を繰り返したとしても、応力緩和層によってバリア層となる金属箔に継続的に作用する繰り返し応力が緩和される。したがって、バリア層となる金属箔がサイクル疲労を起こすことが抑制され、その結果蓋全体の耐圧性の低下が抑制される。すなわち、LDPEと引張強さや剛性の高い直鎖状の分子鎖を持つLLDPEとを混合することで、非晶部の分子鎖が長くなるため応力緩和層は伸びても破れにくい層となり、応力緩和層の伸び破断に対する耐久性が向上する。その結果、包装体の輸送中などの内圧の変化や外部応力による蓋の耐圧性の低下が抑制され、蓋自体が破れるリスクが大幅に低減する。また、応力緩和層は伸びても破れにくい層であるから、仮に、繰り返し応力によりバリア層となる金属箔に微細クラックが生じたとしても、応力緩和層が伸びることにより当該微細クラックを塞ぐことが可能になる。
【0027】
上記2)の蓋用積層材によれば、応力緩和層を形成する混合物中に5質量%以上のLLDPEが含有されているので、LDPE単独からなる場合に比べて、応力緩和層が、確実に伸び易く、破れにくい層になる。また、応力緩和層を形成する混合物中のLLDPEの含有量が40質量%以下であるから、蓋用積層材から作製された蓋により容器の開口がヒートシールされた包装体において、蓋にストローなどを突き刺した際に、突き刺した穴の周縁部に繊維状になった樹脂が残りにくくなり衛生的である。
【0028】
上記3)の蓋用積層材によれば、応力緩和層を形成する混合物中のLLDPEの密度が0.87~0.93g/cm3であるから、応力緩和層がほどよい長さの分子鎖を持つことになり、その結果硬くなりすぎることが抑制され、応力緩和層は伸びても破壊されにくくなる。すなわち、LLDPEの密度が上記範囲内にあることにより、LDPEとの分散性が良くなって破壊されにくくなる。LLDPEの密度は、ストロー突き刺し耐性を向上させる上で、0.87~0.90g/cm3であることが好ましい。また、応力緩和層を形成する混合物中のLDPEの密度の下限が0.90g/cm3であることにより、低分子量成分が多くなりすぎることにより破れることを抑制することができ、同じく上限が0.92g/cm3であることにより、硬くなりすぎて伸びにくくなることを抑制することができる。したがって、応力緩和層に十分な一定の強度と剛性を与えることができる。
【0029】
上記4)の蓋用積層材によれば、応力緩和層を形成する混合物中のLLDPEの融点が80℃以下であるから、柔らかくて伸びやすい応力緩和層とすることができる。すなわち、LLDPEの融点が80℃以下なので、結晶成分が少なくアモルファス成分が多くなって、硬い応力緩和層ではなく、柔らかい応力緩和層になり、その結果応力が作用しても応力緩和層が破断せず伸びることができる。
【0030】
上記5)の蓋用積層材によれば、応力緩和層を形成する混合物中のメタロセン系LLDPEは、分子量分布が小さくなって低分子量成分が少なくなり、分子鎖が短い成分が少なくなるため、直線状の長い分子鎖を持つ各分子同士が絡み合う。その結果、応力緩和層の伸縮性が向上し、蓋用積層材からなる蓋を用いた包装体の輸送時に包装体の内圧変化などで蓋に応力が作用した場合にも、応力緩和層は伸びても破れにくい層となり、応力緩和層の伸び破断に対する耐久性が向上する。したがって、輸送中などの内圧の変化や外力により蓋に作用する応力が緩和されて、蓋の耐圧性の低下が抑制され、その結果蓋自体が破れるリスクが大幅に低減する。
【0031】
上記6)の蓋用積層材によれば、応力緩和層が、バリア層となる金属箔に追随しつつ伸びるので、金属箔に微小クラックが発生した場合であっても、クラックに臨む金属箔の破断端面等による応力緩和層の破れが抑制される。
【0032】
上記7)の蓋用積層材によれば、アンカーコート層の働きによって、応力緩和層とバリア層との接着強度が高くなって、応力緩和層とバリア層となる金属箔との密着性が高くなるので、金属箔の破断までは応力緩和層より高い金属箔の耐力が維持されることになり、蓋全体に作用する応力に対する耐力が向上する。
【0033】
上記8)の蓋用積層材によれば、保護樹脂層の働きによりさらに蓋全体の耐圧性が向上し、破れにくくなる。
【0034】
上記9)の蓋用積層材によれば、バリア層となる金属箔の破断点引張強さおよび破断点引張伸びが、それぞれ所定範囲内にあるので、蓋に作用する応力に対してよりフレキシブルとなり、破れを防止できる。
【0035】
上記10)の蓋用積層材によれば、当該蓋用積層材よりなる蓋と、容器とのヒートシール強度を高めたり、蓋自体の強度やクッション性を高めたりすることができる。また、容器および蓋からなる包装体の内圧に対する蓋のシール性や内圧に対する蓋の耐圧性も良好である。
【0036】
上記11)の蓋用積層材よりなる蓋を用いれば、高周波誘導加熱シールにおいて、内容物を充填した容器の開口周縁部に短時間でより確実にヒートシールすることができる。また、容器および蓋からなる包装体の内圧に対する蓋のシール性や内圧に対する蓋の耐クラック性が一層良好であり、シール後退や、ヒートシール部の剥がれ、金属箔の微小クラックの発生がより効果的に抑制される。
【0037】
上記12)の蓋用積層材は、全体的な強度が高められている。また、この蓋用積層材よりなる蓋を用いれば、容器および蓋からなる包装体の内圧に対する蓋のシール性や内圧に対する蓋の耐クラック性が一層良好であり、シール後退や、ヒートシール部の剥がれ、金属箔の微小クラックの発生がより効果的に抑制される。さらに、上記12)の蓋用積層材よりなる蓋は、引き裂き強度も十分であり、ストロー突き刺し耐性も良好である。ストロー突き刺し耐性が良好であると、例えば、この蓋用積層材及びこれよりなる蓋にストローを突き刺すときの抵抗が小さくなり、ストローが曲がったり折れたりしない。
【0038】
上記13)の蓋用積層材よりなる蓋を容器の開口周縁部にヒートシールしてなる包装体は、輸送時に不意の開封や、蓋の剥がれ、シール後退等が生じない。また、蓋の剥離による開封作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】この発明による蓋用積層材を拡大して示す垂直断面図である。
【
図2】この発明による蓋用積層材から形成された蓋の一具体例を示す斜視図である。
【
図3】
図2の蓋を用いた包装体の一具体例を示す垂直断面図である。
【
図4】この発明による蓋用積層材から形成された蓋を用いた包装体の他の具体例を示す垂直断面図である。
【
図5】
図3の包装体の耐圧性の評価装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。ただし、図面に示す実施形態により本発明の技術範囲が限定されることはない。
【0041】
図1はこの発明による蓋用積層材を示し、
図2は
図1の蓋用積層材から形成された蓋の一具体例を示し、
図3は
図2の蓋を用いた包装体の一具体例を示す。
【0042】
図1において、蓋用積層材(1)は、保護樹脂層(11)、バリア層(12)、アンカーコート層(13)、応力緩和層(14)およびヒートシール層(15)が、蓋用積層材(1)の片面側から順に積層された複合材からなる。
【0043】
図2は蓋用積層材(1)からなる蓋の一具体例を示す。
【0044】
図2に示すように、蓋用積層材(1)から作製される蓋(2)はキャップ状であり、略水平の本体部(2a)と、本体部(2a)の周縁から垂下状に伸びているスカート部(2b)とからなり、保護樹脂層(11)が本体部(2a)およびスカート部(2b)の外面に位置するとともに、ヒートシール層(15)が本体部(2a)およびスカート部(2b)の内面に位置している。
【0045】
【0046】
図3において、包装体(4)は、上方に開口するとともに内容物(C)が入れられたボトル状の容器(3)と蓋(2)とよりなる。容器(3)の少なくとも開口周縁部(31)、例えば容器(3)全体が、蓋用積層材(1)のヒートシール層(15)の熱融着層と同一種の熱融着性樹脂から形成されていることが好ましい。蓋(2)は、容器(3)の上端部に開口を塞ぐように被せられ、ヒートシール層(15)および容器(3)の開口周縁部(31)を利用して容器(3)の開口周縁部(31)に高周波誘導加熱により高周波ヒートシールされている。
【0047】
図4は蓋用積層材(1)からなる蓋および当該蓋が用いられている包装体の変形例を示す。
【0048】
図4において、包装体(40)は、開口周縁に外向きのフランジ部(301)を有するとともに内容物(C)が入れられたカップ状の容器(30)と、容器(30)の開口を塞ぐ蓋(20)とよりなる。容器(30)の少なくともフランジ部(301)の上面には、蓋用積層材(1)のヒートシール層(15)の熱融着層と同一種の熱融着性樹脂からなる熱融着層が形成されていることが好ましい。蓋(20)は全体にシート状であって下面にヒートシール層(15)が位置しており、容器(30)の開口を覆うように外周縁部が容器(30)のフランジ部(301)上に載せられ、ヒートシール層(15)、またはヒートシール層(15)およびフランジ部(301)上面の熱融着層を利用してフランジ部(301)に高周波誘導加熱により高周波ヒートシールされている。
【0049】
図3および
図4に示す包装体(4)(40)の封緘強度は、輸送中のヒートシール部の剥離を防止するために15kPa以上であることが好ましい。
【0050】
以下、蓋用積層材(1)の各層(11)~(15)について詳細に説明する。
[保護樹脂層(11)]
保護樹脂層(11)は、蓋用積層材(1)からなる蓋(2)(20)の最外面を構成するとともに、その強度や耐久性、耐候性、耐薬品性等を高める層であり、各種公知のオーバーコート剤および/または合成樹脂フィルムで構成される。
【0051】
オーバーコート剤としては、例えば、硝化綿などのアセテート樹脂(繊維素系樹脂)、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シュラック樹脂、ウレタン樹脂などが用いられる。オーバーコート剤の塗布量は0.5~1.0g/m2であることが好ましい。
【0052】
合成樹脂フィルムとしては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミドなどからなる無延伸フィルムや二軸延伸フィルムが用いられる。ポリオレフィンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ホモポリプロピレン(hPP)、プロピレン-エチレンランダムコポリマー(rPP)、プロピレン-エチレンブロックコポリマー(bPP)などが例示される。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)が例示される。ポリアミドとしては、PA6が例示される。合成樹脂フィルムの肉厚は9~25μmであることが好ましい。合成樹脂フィルムからなる保護樹脂層(11)は、単層合成樹脂フィルムからなる場合と、同種または異種の2以上の合成樹脂フィルムが組み合わせられた複層合成樹脂フィルムからなる場合がある。単層合成樹脂フィルムおよび複層合成樹脂フィルムからなる保護樹脂層(11)は、公知の方法、例えば押出成形法(インフレーション、Tダイ等)、延伸法、ラミネート法等により形成される。
【0053】
また、保護樹脂層(11)は、オーバーコート剤および合成樹脂フィルムが組み合わされて形成されたものであってもよい。その場合には、合成樹脂フィルムの外側にオーバーコート剤を適用し、保護樹脂層(11)の最外表面をオーバーコート層で構成するのが好ましい。
【0054】
保護樹脂層(11)とバリア層(12)との間に印刷インキ層が形成されていてもよい。印刷インキ層は、文字、図形、記号および模様のうちの少なくともいずれか1つからなり、蓋用積層材からなる蓋(2)(20)が用いられた包装体(4)(40)の内容物の情報を表示したり、意匠性を向上させたりする。バリア層(12)と保護樹脂層(11)との間に印刷インキ層が形成される場合には、外部から視認しうるように、透明な保護樹脂層(11)が用いられる。
[バリア層(12)]
バリア層(12)は、蓋用積層材(1)から作製された蓋(2)(20)を用いた包装体(4)(40)の内容物(C)をガス、水蒸気、光等から保護する層であり、アルミニウム、銅、鉄(ステンレス鋼)、チタン、ニッケルなどの金属により形成された金属箔からなるが、バリア機能、加工性、コストなどを考慮するとアルミニウム箔を用いることが好ましい。アルミニウム箔としては、特にJIS H4160:1994で規定される1000系、8000系のアルミニウムの軟質材(O材)からなる箔を用いることが好ましい。具体的には、A8021H-O材、A8079H-O材およびA1N30H-O材等が好適に用いられる。A8021H-O材における不純物としてのSiの含有量は0.10質量%以下であることが好ましい。
【0055】
また、金属箔からなるバリア層(12)は、蓋用積層材(1)から形成された蓋(2)(20)を容器(3)の開口周縁部(31)や容器(30)のフランジ部(301)へ高周波ヒートシールする際に、高周波誘導加熱される発熱体となる。バリア層(12)となる金属箔は、高周波ヒートシール性を考慮すると、25℃における体積抵抗率と100℃における体積抵抗率が共に1~5μΩ・cmであることが好ましい。この場合、高周波誘導加熱を利用した高周波ヒートシール時の発熱性が良好となる。高周波ヒートシールによれば、蓋用積層材(1)のヒートシール層(15)と容器(3)(30)が有する熱融着樹脂とが、分子レベルで溶着され、シール強度が優れたものになる。また、熱板により表面から加熱し、熱伝導によってヒートシールする方法に対して、不必要な熱の影響も最小限に抑えられるため、シール部の外観を良くし、さらには開封時の樹脂の糸引きや焦げ付きがなく、美しい仕上がりになる。
【0056】
さらに、バリア層(12)がアルミニウム箔からなる場合には、蓋用積層材(1)および蓋用積層材(1)から形成された蓋(2)(20)に対するアルミニウム箔の質量比は、50質量%以上であることが好ましい。この場合、高周波誘導加熱を利用した高周波ヒートシール性が良好になるとともに、リサイクルが可能になって環境性能が良好になる。
【0057】
バリア層(12)は用いる金属の種類、組成および結晶粒の構造等を調整することで破断点引張強さや破断点引張伸びをコントロールすることができるが、破断点引張強さが20~200MPaであるとともに、破断点引張伸びが5~50%であることが好ましい。この場合、蓋用積層材(1)からなる蓋(2)(20)を用いた包装体(4)(40)において、蓋(2)(20)に作用する応力に対してよりフレキシブルとなり、破れを防止できる。
[アンカーコート層(13)]
アンカーコート層(13)は、バリア層(12)と応力緩和層(14)との間に必要に応じて形成させられる任意の層である。アンカーコート層(13)を、バリア層(12)と応力緩和層(14)との間に介在させることによって、層間接着性を高め、デラミネーションを防ぐことができる。アンカーコート層(13)は、例えばポリウレタン系接着剤などの公知のアンカーコート剤を塗布することにより形成される場合と、バリア層(12)の表面に化成処理を施すことにより形成される場合とがある。アンカーコート層(13)の厚みは特に限定されず、10~40μmであることが好ましい。
[応力緩和層(14)]
応力緩和層(14)はバリア層(12)に作用する応力を緩和するものであり、LLDPEとLDPEとの混合物よりなる。なお、応力緩和層(14)には、LLDPEおよびLDPEの他に不可避不純物が含まれていてもよい。
【0058】
応力緩和層(14)を形成する混合物に用いられるLLDPEとしては、メタロセン触媒(シングルサイト触媒)を用いて重合されたメタロセン系LLPDEを用いることが好ましい。メタロセン系LLDPEは、分子量分布が小さくなって低分子量成分が少なくなり、分子鎖が短い成分が少なくなるため、直線状の長い分子鎖を持つ各分子同士が絡み合う。その結果、応力緩和層(14)の伸縮性が向上し、蓋用積層材(1)からなる蓋(2)(20)を用いた包装体(4)(40)の輸送時に包装体(4)(40)の内圧変化などで蓋(2)(20)に応力が作用した場合にも、応力緩和層(14)は伸びても破れにくい層となり、応力緩和層(14)の伸び破断に対する耐久性が向上する。したがって、輸送中などの内圧の変化や外力により蓋(2)(20)に作用する応力が緩和されて、蓋(2)(20)の耐圧性の低下が抑制され、その結果蓋(2)(20)自体が破れるリスクが大幅に低減する。用いるLLDPEはエラストマーやプラストマーであることが望ましい。当該LLDPEは外力に対して変形しても元に戻りやすいからである。
【0059】
応力緩和層(14)を形成する混合物中のLLDPEの含有量は5~40質量%であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましく、20質量%程度であることが望ましい。応力緩和層(14)を形成する混合物中のLLDPEの含有量が5質量%以上であると、LDPEとLLDPEとを混合することにより得られる、伸びても破れにくくなるという性能が確実に得られる。また、応力緩和層(14)を形成する混合物中のLLDPEの含有量が40質量%以下であると、蓋用積層材(1)から形成された蓋(2)(20)が容器(3)の開口周縁部(31)や容器(30)のフランジ部(301)にヒートシールされた包装体(4)(40)において、蓋(2)(20)を開封した際に、容器(3)の開口周縁部(31)および容器(30)のフランジ部(301)に繊維状になった樹脂残りが起こりにくくなる。
【0060】
応力緩和層(14)を形成する混合物中のLLDPEの密度が0.87~0.93g/cm3であり、同じくLDPEの密度が0.90~0.92g/cm3であることが好ましい。応力緩和層(14)を形成する混合物中のLLDPEの密度が0.87~0.93g/cm3であると、応力緩和層(14)がほどよい分子鎖を持つことができているため硬くなりすぎず、応力緩和層(14)は伸びても破壊されにくくなる。LLDPEの密度は、ストロー突き刺し耐性を向上させる上で、0.87~0.90g/cm3であることが好ましい。また、応力緩和層(14)を形成する混合物中のLDPEの密度の下限が0.90g/cm3であることにより、低分子量成分が多くなりすぎることによる破れを抑制することができ、同じく上限が0.92g/cm3であることにより、硬くなりすぎて伸びにくくなることを抑制することができるので、応力緩和層(14)に十分な一定の強度と剛性を与えることができる。
【0061】
応力緩和層(14)を形成する混合物中のLLDPEの示差走査熱量測定法により測定された融点が80℃以下、たとえば45~80℃であることが好ましく、55℃程度であることが望ましい。この場合、柔らかくて伸びやすい応力緩和層(14)とすることができる。すなわち、LLDPEの前記融点が80℃以下なので、結晶成分が少なくアモルファス成分が多くなって、硬い応力緩和層(14)ではなく、柔らかい応力緩和層(14)になり、その結果応力が作用しても応力緩和層(14)が破断せず伸びることができる。なお、LDPEの好ましい融点範囲は内容物を充填した後のシール温度を考慮すると90~120℃である。
応力緩和層(14)の流れ方向(MD)の破断点引張伸び(E(MD))が200~500%であり、流れ方向と垂直な幅方向(TD)の破断点引張伸び(E(TD))が200~700%であることが好ましい。この場合、応力緩和層(14)が、バリア層(12)となる金属箔に追随しつつ伸びるので、金属箔に微小クラックが発生した場合であっても、クラックに臨む金属箔の破断端面等による応力緩和層(14)の破れが抑制される。また、流れ方向(MD)の破断点引張伸び(E(MD)) および流れ方向と垂直な幅方向(TD)の破断点引張伸び(E(TD))がそれぞれ下限値未満であると、応力緩和層が外力に対し破れやすくなるおそれがあり、上限値を超えると、蓋にストローなどを突き刺して内容物を飲む場合に、ストローが貫通しにくくなったり、貫通穴の周囲に伸びた樹脂が繊維状になって存在しやすくなるため衛生的ではなくなるおそれがある。
【0062】
応力緩和層(14)の厚みは、特に限定されないが、10~50μmであることが好ましい。応力緩和層(14)の厚みが10μm以上であれば、蓋用積層材(1)からなる蓋(2)(20)を用いた包装体(4)(40)の輸送時に包装体(4)(40)の内圧変化などで蓋(2)(20)に応力が作用した場合であっても、応力緩和層(14)が伸びることによって蓋(2)(20)の破れが抑制される。また、応力緩和層(14)の厚みが50μm以下であれば、蓋用積層材(1)からなる蓋(2)(20)を容器(3)(30)にヒートシールする際に、ヒートシール層(15)と容器(3)(30)との熱融着をより確実に行うことができる。
【0063】
応力緩和層(14)はアンカーコート層(13)上に押出コーティング法により形成することが好ましい。応力緩和層(14)の破断点引張伸びへの影響を考えると、押出温度は250~350℃の範囲内であることが好ましい。押出温度が高いほど冷却時(冷却ロール接触時)の温度差が大きくなるため、樹脂の急冷硬化により結晶成分が少なくなるとともにアモルファス成分が多くなり、応力緩和層(14)が柔らかくなるため、応力が作用しても応力緩和層(14)が伸びて破れにくくなる。また、応力緩和層(14)は、蓋用積層材(1)からなる蓋(2)(20)自体を破れにくくするだけでなく、熱融着樹脂フィルムからなるヒートシール層(15)とバリア層(12)となる金属箔との接着、ヒートシールを含む蓋(2)(20)加工時や輸送時などの応力の緩和にも効果がある。
[ヒートシール層(15)]
ヒートシール層(15)は、蓋用積層材(1)からなる蓋(2)(20)を、容器(3)の開口周縁部(31)や容器(30)のフランジ部(301)にヒートシールするための層であり、熱融着性を有する樹脂フィルムや、ホットメルト接着剤によって形成される。ヒートシール層(15)の厚みは10~40μmであることが好ましい。ヒートシール層(15)は、高周波誘導加熱による高周波ヒートシール時にバリア層(12)となる金属箔に生ずるジュール熱によって溶融し、これにより、蓋(2)と容器(3)の開口周縁部(31)および蓋(20)と容器(30)のフランジ部(301)とが熱融着される。
【0064】
ヒートシール層(15)を形成する樹脂フィルムとしては、例えば異種の合成樹脂からなる複層フィルム、1種の合成樹脂からなる単層フィルムまたは同一種の単層フィルムを複数積層した複層フィルムが用いられることが好ましい。
【0065】
異種の合成樹脂からなる複層フィルムとしては、基材層となる合成樹脂フィルムと、基材層の片面を覆う熱融着層となる熱融着樹脂フィルムとからなる共押出複層フィルムを用いることが好ましい。当該複層フィルムは、基材層が応力緩和層(14)を介してバリア層(12)に接着される。
【0066】
異種の合成樹脂からなる複層フィルムの基材層は、各種公知の合成樹脂で構成される。当該合成樹脂としては、例えば、ポリオレフィンおよびポリエステルが挙げられる。これらの中でも、基材層と応力緩和層(14)との密着性の点で、応力緩和層(14)と主成分が同一種であるものを用いることが好ましい。
【0067】
異種の合成樹脂からなる複層フィルムの熱融着層は、主成分が、蓋用積層材(1)からなる蓋(2)(20)をヒートシールする容器(3)の開口周縁部(31)を形成する熱融着性樹脂や容器(30)のフランジ部(301)の上面の熱融着層を形成する熱融着性樹脂と同一種の熱融着性樹脂からなることが好ましい。例えば、開口周縁部(31)やフランジ部(301)の上面に形成される熱融着層がポリスチレンからなる場合、前記熱融着層もポリスチレンで形成される。
【0068】
異種の合成樹脂からなる複層フィルムの熱融着層は、JIS K7210―1(2014)に基づいて190℃、2.16kgの荷重で測定したメルトフローレートが2~15g/10分である、追随性が良好である樹脂からなることが好ましい。メルトフローレートが小さすぎると製膜がしにくくなり、大きすぎると分子量が下がって衝撃強度が低下するおそれがある。メルトフローレートは4~13g/10分であることが好ましい。この場合、蓋用積層材(1)よりなる蓋(2)(20)を、高周波誘導加熱シールによって、内容物を充填した容器(3)の開口周縁部(31)および容器(30)のフランジ部(301)に短時間でより確実にヒートシールすることができる。また、容器(3)(30)および蓋(2)(20)からなる包装体(4)(40)の内圧に対する蓋(2)(20)のシール性や内圧に対する蓋(2)(20)の耐クラック性が一層良好であり、シール後退や、ヒートシール部の剥がれ、金属箔の微小クラックの発生がより効果的に抑制される。
【0069】
また、異種の合成樹脂からなる複層フィルムの熱融着層が熱融着樹脂フィルムからなる場合、当該熱融着樹脂フィルムのJISK7161-1(2014)に基づいて得られる流れ方向(MD)の破断点引張強さ、および流れ方向と垂直な幅方向(TD)の破断点引張強さが、いずれも40~100MPaであることが好ましい。上述した2つの破断点引張強さが小さすぎると破れを防止するための強度が不足するおそれがあり、大きすぎると所要の形状に打ち抜く際の打ち抜き適性に問題が生じることがあるからである。この場合、全体的な強度が高められる。また、この蓋用積層材(1)よりなる蓋(2)(20)を用いれば、容器(3)(30)および蓋(2)(20)からなる包装体(4)(40)の内圧に対する蓋(2)(20)のシール性や内圧に対する蓋(2)(20)の耐クラック性が一層良好であり、シール後退や、ヒートシール部の剥がれ、バリア層(12)となる金属箔の微小クラックの発生が効果的に抑制される。さらに、蓋用積層材(1)よりなる蓋(2)(20)の引き裂き強度も十分になり、ストロー突き刺し耐性も良好である。ストロー突き刺し耐性が良好であると、例えば、この蓋用積層材(1)およびこれよりなる蓋(2)(20)にストローを突き刺すときの抵抗が小さくなり、ストローが曲がったり折れたりしない。
【0070】
さらに、異種の合成樹脂からなる複層フィルムをヒートシール層(15)として備えている蓋用積層材(1)におけるヒートシール層(15)の熱融着層となる熱融着樹脂フィルムと、当該熱融着性樹脂フィルムと同一の熱融着性樹脂よりなる厚さ0.3mmのシートとを、160℃、0.2MPaおよび1秒間の条件で熱融着させた後、蓋用積層材(1)と当該シートを、JIS K6854-3に準拠するT字剥離試験において、引張速度300mm/分の条件で相互に剥離させたときの強度が20N/15mm以下、例えば5~15N/15mmであることが好ましい。この場合、蓋用積層材(1)よりなる蓋(2)(20)を容器(3)の開口周縁部(31)や容器(30)のフランジ部(301)にヒートシールしてなる包装体(4)(40)は、輸送時に不意の開封や、蓋(2)(20)の剥がれ、シール後退等が生じない。また、蓋(2)(20)の剥離による開封作業を容易に行うことができる。
【0071】
蓋用積層材(1)の内面には、複数の独立した凸部を備えたエンボスパターンが形成されていてもよい。この場合、内容物封入時に蓋(2)(20)と容器(3)(30)の間に夾雑物が存在していたとしてもシール時に内容物がシール面から逃げやすくなる。また、蓋用積層材(1)からなる蓋(2)(20)を容器(3)の開口周縁部(31)や容器(30)のフランジ部(301)にヒートシールする際に、容器(3)(30)内の気体を、エンボスパターンの凸部間の間隔を通じて、容器(3)(30)の外部に排出させることができるため、耐内圧クラック性および耐内圧シール性が良好となる。また、ヒートシール時における蓋(2)(20)の膨張を未然に防止でき、包装体(4)(40)にあって、蓋(2)(20)を平坦に保つことができる。
【0072】
包装体(4)(40)の開封強度は特に限定されないが、密封性と易開封性の両立等
に配慮すると、剥離速度100mm/min、剥離角度45度の条件で20N以下であることが好ましい。
【0073】
次に、本発明の実施例および比較例ついて説明する。
[実施例1~19]
JIS H4160で規定されたA8079-O材からなる厚さ25μmのアルミニウム箔(バリア層)の片面に、硝化綿(ニトロセルロース)を塗布量が0.7g/m2となるように塗布して保護樹脂層を形成した。
【0074】
また、前記アルミニウム箔の他面にポリウレタン系接着剤を塗布量が0.1g/m2となるように塗布して乾燥させた後に、下記の表1に示す実施例1~19の混合物からなる応力緩和層形成樹脂を同表1に示す押出温度で押出コーティングして応力緩和層を形成しながら、応力緩和層の表面にLDPEからなる基材層(層厚30μm)およびポリスチレンを主成分とする熱融着樹脂からなる熱融着層(層厚30μm)よりなる複層フィルムをヒートラミネート法により積層してヒートシール層を形成した。
【0075】
こうして、実施例1~19の蓋用積層材を作製した。
[比較例1~2]
JIS H4160で規定されたA8079-O材からなる厚さ25μmのアルミニウム箔の片面に、硝化綿(ニトロセルロース)を塗布量が0.7g/m2となるように塗布して保護樹脂層を形成した。
【0076】
また、前記アルミニウム箔の他面にポリウレタン系接着剤を塗布量が0.1g/m2となるように塗布して乾燥させた後に、下記の表1に示す比較例1および2の応力緩和層形成樹脂を同表1に示す押出温度で押出コーティングして応力緩和層を形成しながら応力緩和層の表面に、LDPEからなる基材層(層厚30μm)およびポリスチレンを主成分とする熱融着樹脂からなる熱融着層(層厚30μm)よりなる複層フィルムをヒートラミネート法により積層してヒートシール層を形成した。
【0077】
こうして、比較例1~2の蓋用積層材を作製した。
【0078】
実施例1~19および比較例1~2の蓋用積層材における応力緩和層形成樹脂の組成、およびアルミニウム箔に応力緩和層を形成する際の押出温度を表1に示す。実施例1~18および比較例2の蓋用積層材における応力緩和層形成樹脂中のLLDPEはメタロセン触媒を用いて重合されたメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン樹脂であり、実施例19の蓋用積層材における応力緩和層形成樹脂中のLLDPEはチーグラー触媒を用いて重合されたチーグラー系直鎖状低密度ポリエチレン樹脂である。
[評価試験]
破断点引張伸び
実施例1~19の応力緩和層を形成するLDPEとLLDPEとの混合物からなる厚さ30μmの押出フィルム、比較例1の応力緩和層を形成するLDPEからなる押出フィルムおよび比較例2の応力緩和層を形成するLLDPEからなる押出フィルムから幅15mm×長さ100mmの大きさの試験片を作製し、島津製作所製ストログラフ(AGS-5kNX)を使用して引張速度200m/分で試験片の引張試験を行うことにより測定した。
【0079】
応力緩和層を形成するフィルムの流れ方向(MD)の破断点引張伸び(E(MD))および流れ方向と垂直な幅方向(TD)の破断点引張伸び(E(TD))を下記の表1に示す。
エレメンドルフ引裂強度
実施例1~19の応力緩和層を形成するLDPEとLLDPEとの混合物からなる厚さ30μmの押出フィルム、比較例1の応力緩和層を形成するLDPEからなる押出フィルムおよび比較例2の応力緩和層を形成するLLDPEからなる押出フィルムから縦75mm×横63mmの大きさの試験片を作製し、JIS K7028-2に準拠して、切り込み距離2mm、クランプ深さ15mm、加重16Nの条件で、試験片を4枚重ねて測定した。
【0080】
応力緩和層を形成するフィルムの流れ方向(MD)および流れ方向と垂直な幅方向(TD)のエレメンドルフ引裂強度を下記の表1に示す。表1には、測定結果を16枚重ねに換算した数値を示す。なお、比較例2における測定不能とは、16枚換算で4000mNでも引き裂くことができなかったことを意味する。
【0081】
エレメンドルフ引裂強度は、16枚に換算した数値で2000~2500mmの範囲内であることが、破れにくく、蓋用蓋材から蓋を裁断形成する際に加工しやすい範囲となるので好ましい。
【0082】
【表1】
ヒートシール層の熱融着層のメルトフローレート
実施例1~19および比較例1~2のヒートシール層の熱融着層を形成する熱融着性樹脂のメルトフローレートを、JISK7210-1(2014)に基づいて190℃、2.16kgの荷重で測定した。その結果を下記表2に示す。
ヒートシール層の熱融着層の破断点引張強さ
実施例1~19および比較例1~2のヒートシール層の熱融着層を形成する熱融着樹脂フィルムの流れ方向(MD)の破断点引張強さ、および流れ方向と垂直な幅方向(TD)の破断点引張強さを、JISK7161-1(2014)に基づいて測定した。その結果を下記表2に示す。
剥離強度
実施例1~19および比較例1~2のヒートシール層(15)の熱融着層となる熱融着樹脂フィルムと、当該熱融着性樹脂フィルムと同一の熱融着性樹脂よりなる厚さ0.3mmのシートとを、160℃、0.2MPaおよび1秒間の条件で熱融着させた後、JIS K6854-3に準拠するT字剥離試験において、引張速度300mm/分の条件で相互に剥離させたときの強度を測定した。その結果を下記表2に示す。
【0083】
【表2】
耐内圧試験
実施例1~19の蓋用積層材および比較例1~2の蓋用積層材を切断して縦50mm×横50mmの大きさの試験片を形成し、試験片を
図2に示す形状に加工して蓋(2)を作製した。
【0084】
また、開口の内径が36mm、開口の外径が40mmであって開口周縁部(31)の厚さが2mm、高さが80mmのポリスチレン製容器(3)を用意した。
【0085】
ついで、容器(3)に60ccの水を入れた後、蓋(2)を容器(3)の上端部に被せ、出力850w、圧力0.2MPa、時間1.0秒の条件で蓋(2)を容器(3)の開口周縁部(31)に高周波ヒートシールして包装体(4)を得た。
【0086】
ついで、
図5に示すような、包装体(4)をセットする断面凹状の収容部(51)と、収容部(51)の低壁周縁より起立状に立ち上がった側壁部(52)と、左右の側壁部(52)の高さ中間に設けられた一対の当接部材(53)とを備えた評価装置を用意した。当該評価装置(5)は、収容部(51)が図示外の駆動モーターに接続されており、このモーターを始動させると、収容部(51)の当接部材(53)は一分間に所定回数(例えば120回/分)で、包装体(4)を、図示の左右方向に6.5mm押圧するようになっている。
【0087】
そして、包装体(4)を評価装置(5)の収容部(51)内に入れ、当接部材(53)により120回/分の回数で、押圧量が6.5mmとなるように、包装体(4)を図示の左右方向に押圧して耐内圧試験を行った。耐内圧試験は、5つの包装体(4)を5セット用意し、各セットについて10000回行い、漏れの有無を調べた。その結果を下記の表3に示す
表3において、耐内圧試験の後、5セットの5つの包装体(4)の全てに漏れが見られないものを◎で示し、5セットのうちの4セットの5つの包装体(4)の全てに漏れが見られないものを○で示し、5セットのうち3セットの5つの包装体(4)の全てに漏れが見られないものを△で示し、上記以外を×で示す。×以外が合格である。
【0088】
合格条件になることによって、長距離トラック輸送においても蓋が破れることなく内容物を含んだ包材を輸送することが可能になる。
打ち抜き試験
実施例1~19および比較例1~2の蓋用積層材から100mm×100mmの大きさのシートを10枚ずつ準備し、10枚のシートを重ねた状態でφ40mmのポンチで打ち抜き、10枚の試験片を作製した。
【0089】
そして、それぞれの試験片の切断端面を目視検査し、応力緩和層のバリの発生の有無を確認した。その結果を表3に示す。
【0090】
表3において、10枚の試験片の全てにバリの発生がないものを◎で示し、8~9枚の試験片にバリの発生がないものを○で示し、6~7枚の試験片にバリの発生がないものを△で示し、バリの発生がない試験片が5枚以下のものを×で示す。×以外が合格である。
【0091】
応力緩和層を形成する樹脂が柔らかくなって伸びやすいと破れにくくなるが、柔らかくなりすぎると蓋を作製する際に打ち抜きにくくなるとともに、作製された蓋のストローなどの突き刺し性も悪くなる。
封緘強度
実施例1~19の蓋用積層材および比較例1~2の蓋用積層材を切断して縦50mm×横50mmの大きさの試験片を形成し、試験片を
図2に示す形状に加工して蓋(2)を作製した。
【0092】
また、開口の内径が36mm、開口の外径が40mmであって開口周縁部(31)の厚さが2mm、高さが80mmのポリスチレン製容器(3)を用意した。
【0093】
ついで、蓋(2)を容器(3)の上端部に被せ、出力850w、圧力0.05MPa、時間1.4秒の条件で蓋(2)を容器(3)の開口周縁部(31)に高周波ヒートシールして包装体(4)を得た。
【0094】
ついで、蓋(2)に穴を開け、株式会社サン化学社製FKT-100を使用して、穴の箇所から空気漏れの無いように昇圧速度13.3kPa/10秒で包装体(4)の内圧が上昇するよう一定の流量で空気を流入して、破裂したときの内圧を測定し、この値を封緘強度とした。
【0095】
その結果を下記の表3に示す。表3から明らかなように、実施例1~19および比較例1~2の蓋用積層材からなる蓋を用いたすべての包装体において15kPa以上の封緘強度を有し、実施例17の蓋用積層材からなる蓋を用いた包装体を除いたすべての包装体において100kPa以上の封緘強度を有するので、十分な密封性を有することが分かる。したがって、長距離トラック輸送においても蓋(2)が容器(3)から剥がれることなく包装体を輸送することが可能になる。
開封強度
上述した封緘強度の場合と同様にして包装体(4)を得た。
【0096】
ついで、JISK6854-3(1999年)に準拠し、島津製作所製ストログラフ(AGS-5kNX)を使用して,一方のチャックで蓋(2)を挟着固定し、容器(3)を45°の角度で固定し、引張速度100mm/分で垂直方向に剥離させた時の剥離強度を測定した。測定した剥離強度を開封強度とした。
【0097】
その結果を下記の表3に示す。包装体(4)を開封するために蓋(2)を容器(3)から取り外す際、開封強度が20N以下であることが開けやすくなって好ましく、17N以下であることがさらに好ましいが、表3から明らかなように、実施例1~19および比較例1~2の蓋用積層材からなる蓋(2)を用いたすべての包装体(4)において、開封強度が17N以下となっている。
【0098】
【産業上の利用可能性】
【0099】
この発明による蓋用積層材は、食品、医薬品等を内容物として密封包装する包装体の蓋に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0100】
(1):蓋用積層材
(2)(20):蓋
(3)(30):容器
(31):開口周縁部
(301):フランジ部
(4):包装体
(11):保護樹脂層
(12):バリア層
(13):アンカーコート層
(14):応力緩和層
(15):ヒートシール層