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特開2024-94280光学式エンコーダ部品、光学式エンコーダ部品の製造方法、及び光学式エンコーダ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094280
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】光学式エンコーダ部品、光学式エンコーダ部品の製造方法、及び光学式エンコーダ
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/347 20060101AFI20240702BHJP
   C23C 18/22 20060101ALI20240702BHJP
   C23C 18/30 20060101ALI20240702BHJP
   C23C 18/31 20060101ALI20240702BHJP
   C23C 18/36 20060101ALI20240702BHJP
   C23C 18/20 20060101ALI20240702BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20240702BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20240702BHJP
【FI】
G01D5/347 110C
C23C18/22
C23C18/30
C23C18/31 A
C23C18/36
C23C18/20 A
B23K26/352
B23K26/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215688
(22)【出願日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2022209713
(32)【優先日】2022-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100174285
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮山 聰
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 朗子
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 敦
(72)【発明者】
【氏名】上野 浩明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 建輝
(72)【発明者】
【氏名】麿 毅
(72)【発明者】
【氏名】原田 雄二郎
【テーマコード(参考)】
2F103
4E168
4K022
【Fターム(参考)】
2F103CA03
2F103EA13
2F103EA21
2F103EB01
2F103EB11
4E168AB01
4E168AC03
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA04
4E168DA23
4E168DA25
4E168DA28
4E168DA35
4E168JA17
4K022AA13
4K022AA17
4K022AA20
4K022AA41
4K022BA14
4K022BA16
4K022BA35
4K022CA08
4K022CA12
4K022CA15
4K022CA21
4K022CA25
4K022DA01
4K022DB02
(57)【要約】
【課題】光を照射したときの正反射成分が大きく、メッキが変色しにくい光学式エンコーダ部品を提供する。
【解決手段】光学式エンコーダ部品10は、反射型の光学式エンコーダ1に用いられる光学式エンコーダ部品であって、樹脂成形品である基材11と、基材11上に規則的に形成されたメッキ膜12と、を備え、メッキ膜12がニッケルリンメッキ膜を含み、メッキ膜12の表面粗さRaが2.0μm以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射型の光学式エンコーダに用いられる光学式エンコーダ部品であって、
樹脂成形品である基材と、
前記基材上に規則的に形成されたメッキ膜と、を備え、
前記メッキ膜がニッケルリンメッキ膜を含み、
前記メッキ膜の表面粗さRaが2.0μm以下である、光学式エンコーダ部品。
【請求項2】
前記メッキ膜が形成されている領域の前記基材の表面粗さRa1と、前記メッキ膜の間の領域の前記基材の表面粗さRa2との比Ra1/Ra2が1.5~5.0であり、
前記メッキ膜の厚さが、10μm以上である、請求項1に記載の光学式エンコーダ部品。
【請求項3】
前記メッキ膜が形成されている領域の前記基材の表面粗さRa1と、前記メッキ膜の間の領域の前記基材の表面粗さRa2との比Ra1/Ra2が0.8~1.4であり、
前記メッキ膜の厚さが、0.2~3μmである、請求項1に記載の光学式エンコーダ部品。
【請求項4】
前記基材の線膨張係数が80ppm以下である、請求項1に記載の光学式エンコーダ部品。
【請求項5】
前記ニッケルリンメッキ膜の厚さが、前記メッキ膜の全体の厚さの90%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の光学式エンコーダ部品。
【請求項6】
前記基材の荷重たわみ温度(0.45MPa)が120℃以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の光学式エンコーダ部品。
【請求項7】
前記ニッケルリンメッキ膜のリン濃度が3~15質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の光学式エンコーダ部品。
【請求項8】
前記メッキ膜の二乗平均平方根傾斜Sdqが2.0以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の光学式エンコーダ部品。
【請求項9】
100℃及び-35℃の温度に各々30分間保持するヒートショック試験において、100サイクル後に前記メッキ膜が前記基材から剥離しない、請求項1~4のいずれか一項に記載の光学式エンコーダ部品。
【請求項10】
前記基材が円筒形状であり、
前記メッキ膜が、前記基材の内周面又は外周面に形成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の光学式エンコーダ部品。
【請求項11】
請求項2に記載の光学式エンコーダ部品を製造する方法であって、
前記基材の表面の一部にレーザービームを照射する工程と、
前記基材に無電解メッキ触媒液を接触させる工程と、
前記基材に無電解メッキ液を接触させる工程と、を備える、製造方法。
【請求項12】
請求項3に記載の光学式エンコーダ部品を製造する方法であって、
前記基材の表面の一部に紫外線を照射する工程と、
前記基材に無電解メッキ触媒液を接触させる工程と、
前記基材に無電解メッキ液を接触させる工程と、を備える、製造方法。
【請求項13】
請求項1~4のいずれか一項に記載の光学式エンコーダ部品と、
前記エンコーダ部品に光を照射する光源と、
前記エンコーダ部品に反射した光を検出する検出器と、を備える、光学式エンコーダ。
【請求項14】
請求項10に記載の光学式エンコーダ部品と、
前記エンコーダ部品に光を照射する光源と、
前記エンコーダ部品に反射した光を検出する検出器と、を備える、光学式エンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学式エンコーダ部品、光学式エンコーダ部品の製造方法、及び光学式エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
光学式エンコーダは、光源と検出器とによって物品の移動量等を検出して物品の位置決め等に用いる装置である。光学式エンコーダの構造として、反射型と透過型とが知られている。反射型の光学式エンコーダは、スケールと呼ばれる部品に光源から光を照射し、スケールから反射された光を検出器によって検出する。スケールには、高反射部と低反射部とが規則的に形成されており、光学式エンコーダは、高反射部と低反射部との反射率差を利用して移動量等を検出する。高反射部と低反射部との間隔を小さくすることで、検出精度を高めることができる。
【0003】
特許第5925365号公報には、一方の表面を反射面とする基材と、この表面に所定の格子幅で配列される格子とを有する光学式エンコーダ用格子板が開示されている。この光学式エンコーダ用格子板は、基材として金属を用い、格子を黒色メッキ層によって形成した格子板であって、平均粗さRaが0.008μmから0.035μmの範囲である金属の表面に、厚さが0.3μmから2.346μmの範囲とした黒色メッキ層を形成している。
【0004】
特許第3881338号公報には、コンダクタートラック構造物及びその製造方法が開示されている。このコンダクタートラック構造物の製造方法は、スピネルをベースとする不溶性で非導電性の高酸化物を基板体材料中に混入すること、該基板体材料を構造部材に加工するか又は構造部材上に被覆層として塗布すること、及び製造すべきコンダクタートラック構造物の領域で電磁線によって重金属核を放出させ、そしてこの領域を次いで還元して金属化する。
【0005】
特許第5022501号公報には、レーザービームの照射によって選択的に粗化した合成樹脂の表面に、無電解メッキ層を形成する成形回路部品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5925365号公報
【特許文献2】特許第3881338号公報
【特許文献3】特許第5022501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許第5925365号公報では、金属の基材上に黒色メッキ層を形成して高反射部と低反射部とを形成している。これとは異なり、樹脂成形品の基材上に所定のパターンで金属皮膜を形成し、金属皮膜が形成された箇所を高反射部、金属皮膜が形成されていない箇所を低反射部とすることが考えられる。樹脂成形品の基材の表面に所定のパターンを有する金属皮膜を形成する方法として、LDS(Laser Direct Structuring)法が知られている(例えば、上述した特許第3881338号公報を参照。)。
【0008】
上述した特許文献2及び特許文献3では、無電解メッキ層を形成する前に、レーザーによって基材表面を粗化する。基材表面を粗化することによって基材とメッキ膜との密着性が向上するが、粗化された基材表面にメッキ膜を形成すると、メッキ膜の表面粗さが粗くなることによって正反射成分が減少し、光学式エンコーダとしての特性が低下するという問題がある。
【0009】
また、LDS法では一般的にCuメッキを使用するが、Cuメッキは酸化によって変色して反射率が低下する場合がある。電解メッキを行えば表面平滑性を向上させたりメッキ膜の耐食性を向上させたりすることができるが、電解メッキは工程上、引き回しの配線が必要なため、高精細化や小型化が難しいという問題がある。
【0010】
本発明の課題は、光を照射したときの正反射成分が大きく、メッキが変色しにくい光学式エンコーダ部品を提供することである。本発明の他の課題は、光を照射したときの正反射成分が大きく、メッキが変色しにくい光学式エンコーダ部品の製造方法を提供することである。本発明の他の課題は、高い検出精度を有し、耐久性に優れた光学式エンコーダを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態による光学式エンコーダ部品は、反射型の光学式エンコーダに用いられる光学式エンコーダ部品であって、樹脂成形品である基材と、前記基材上に規則的に形成されたメッキ膜と、を備え、前記メッキ膜がニッケルリンメッキ膜を含み、前記メッキ膜の表面粗さRaが2.0μm以下である。
【0012】
本発明の一実施形態による製造方法は、上記の光学式エンコーダ部品を製造する方法であって、前記基材の表面の一部にレーザービームを照射する工程と、前記基材に無電解メッキ触媒液を接触させる工程と、前記基材に無電解メッキ液を接触させる工程と、を備える。
【0013】
本発明の一実施形態による製造方法は、上記の光学式エンコーダ部品を製造する方法であって、前記基材の表面の一部に紫外線を照射する工程と、前記基材に無電解メッキ触媒液を接触させる工程と、前記基材に無電解メッキ液を接触させる工程と、を備える。
【0014】
本発明の一実施形態による光学式エンコーダは、上記の光学式エンコーダ部品と、前記エンコーダ部品に光を照射する光源と、前記エンコーダ部品に反射した光を検出する検出器と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光を照射したときの正反射成分が大きく、メッキが変色しにくい光学式エンコーダ部品が得られる。本発明によればまた、高い検出精度を有し、耐久性に優れた光学式エンコーダが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A図1Aは、本発明の第1の実施形態による光学式エンコーダ部品を含む、光学式エンコーダの全体の構成を模式的に示す断面図である。
図1B図1Bは、本発明の第1の実施形態による光学式エンコーダ部品を含む、光学式エンコーダの全体の構成を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本発明の第1の実施形態による光学式エンコーダ部品の一部を拡大して示す断面図である。
図3図3は、光学式エンコーダ部品の製造方法の一例を示すフロー図である。
図4図4は、光学式エンコーダ部品の製造方法の別の例を示すフロー図である。
図5図5は、光学式エンコーダ部品の製造方法のさらに別の例を示すフロー図である。
図6図6は、光学式エンコーダ部品の製造方法のさらに別の例を示すフロー図である。
図7図7は、本発明の第2の実施形態による光学式エンコーダ部品の一部を拡大して示す断面図である。
図8図8は、光学式エンコーダ部品の製造方法の一例を示すフロー図である。
図9図9は、光学式エンコーダ部品の製造方法の別の例を示すフロー図である。
図10図10は、光学式エンコーダ部品の製造方法のさらに別の例を示すフロー図である。
図11図11は、光学式エンコーダ部品の製造方法のさらに別の例を示すフロー図である。
図12図12は、エンコーダ特性の評価に使用した光学評価装置の模式図である。
図13図13は、測定サンプル上のビーム形状を模式的に示す図である。
図14図14は、パワーモニタからの出力の一例である。
図15図15は、図12とは別の光学評価装置の構成を模式的に示す斜視図である。
図16図16は、図15の光学評価装置の正面図(光源と反対の方向から見た図)である。
図17図17は、図15の光学評価装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0018】
[第1の実施形態]
[光学式エンコーダ]
図1A及び図1Bは、本発明の第1の実施形態による光学式エンコーダ部品10を含む、光学式エンコーダ1の全体の構成を模式的に示す断面図である。光学式エンコーダ部品10は、樹脂成形品である基材11と、基材11の上に規則的に形成されたメッキ膜12とを備えている。光学式エンコーダ部品10の詳しい構成は後述する。
【0019】
光学式エンコーダ1は、反射型の光学式エンコーダである。光学式エンコーダ1は、光学式エンコーダ部品10に加えて、光源15と、検出器16とを備えている。光源15は、光学式エンコーダ部品10に光を照射する。検出器16は、光学式エンコーダ部品10から反射した光を検出する。
【0020】
光学式エンコーダ部品10のメッキ膜12が形成された箇所は、光源15から照射される光の反射率が相対的に高い高反射部を構成する。光学式エンコーダ部品10のメッキ膜12が形成されていない箇所、すなわち、基材11が露出している箇所は、光源15から照射される光の反射率が相対的に低い低反射部を構成する。
【0021】
図1Aに示すように、光源15からの光がメッキ膜12に照射された場合には、検出器16に入射する光の強度は強くなる。図1Bに示すように、光源15からの光が基材11に照射された場合には、検出器16に入射する光の強度は弱くなる。光学式エンコーダ1は、検出器16に入射する光の強度を測定することによって、光学式エンコーダ部品10と検出器16との相対的な位置を検出することができるように構成されている。
【0022】
[光学式エンコーダ部品]
図2は、光学式エンコーダ部品10の一部を拡大して示す断面図である。既述のとおり、光学式エンコーダ部品10は、樹脂成形品である基材11と、基材11の上に規則的に形成されたメッキ膜12とを備えている。
【0023】
基材11は、樹脂成形品からなる。「樹脂成形品」は、樹脂に金属やセラミックのフィラーを充填した成形品を含む。基材11は、樹脂にガラス繊維のフィラーを充填した成形品を用いることが好ましい。
【0024】
基材11の形状は任意であり、平板形状、ブロック形状の他、立体的な構造を有する形状や、曲面を有する形状であってもよく、円柱形状、円筒形状であってもよい。
【0025】
基材11が円筒形状の場合において、円筒形状の内周又は外周上に沿って反射型のエンコーダパターンを設けることで、円筒形状の光学式エンコーダ部品10とすることができる。すなわち、光学式エンコーダ部品10は、基材11が円筒形状であって、メッキ膜12が基材11の内周面又は外周面に形成されたものであってもよい。円筒形状の光学式エンコーダ部品10は、カメラ等の鏡筒部品や、回転機構で位置制御を行うFA機器に適用することができる。
【0026】
基材11を構成する樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよいし、熱硬化性樹脂であってもよい。基材11を構成する樹脂として、これらに限定されないが、ナイロン6T(PA6T)、ナイロン9T(PA9T)、ポリアミドMXD6(MXD6PA)等の半芳香族ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂等の結晶性樹脂、汎用のエンジニアリングプラスチックであるABS樹脂、ポリカーボネート(PC)、ABS樹脂とPCとのポリマーアロイ(ABS/PC)、ポリプロピレン、脂肪族ポリアミド等を用いることができる。
【0027】
基材11の線膨張係数は、80ppm(1/℃)以下であることが好ましい。線膨張係数は、ISO 11359-2に準拠し測定した数値とする。基材11を構成する樹脂の流れ方向(MD)と直角方向(TD)とで線膨張係数に異方性がある場合、線膨張係数は、平板形状のテストピース成形品を成形した場合においての流れ方向(MD)の線膨張係数と直角方向(TD)の線膨張係数との平均値とする。
【0028】
基材11の線膨張係数が大きいと、高温の環境と低温の環境とに繰り返し曝されたときにメッキ膜12が剥離する場合がある。基材11の線膨張係数の上限は、より好ましくは70ppmであり、より好ましくは60ppmであり、さらに好ましくは50ppmである。基材11の線膨張係数の下限は、特に限定されないが、例えば30ppmである。
【0029】
基材11は、荷重たわみ温度(ISO 75-1、2、0.45MPa荷重)が120℃以上であることが好ましい。荷重たわみ温度が大きいほど、高温の環境と低温の環境とに繰り返し曝されたときでもメッキ膜12が剥離しにくくなる。荷重たわみ温度(0.45MPa荷重)の下限は、より好ましくは130℃であり、さらに好ましくは140℃である。荷重たわみ温度(0.45MPa荷重)の上限は、特に限定されないが、例えば300℃である。
【0030】
メッキ膜12は、基材11の上に規則的に形成されている。メッキ膜12は、例えば、基材11の上に一定の間隔で、又は一定の角度間隔で形成される配列でもよく、異なる幅や角度が混在しているパターンが繰り返し形成される配列でもよい。メッキ膜12の間隔又は角度間隔を小さくするほど、光学式エンコーダ1の精度を高くすることができる。メッキ膜12によるパターンは、基材11の一部に形成されており、2次元平面上の領域に設けられていてもよく、立体的な構造を有する形状の曲面部に設けられていてもよく、円柱形状又は円筒形状の外周面や内周面に設けられていてもよい。
【0031】
メッキ膜12は例えば、基材11の表面に一定の間隔又は一定の角度間隔で整列した複数のパターンとして形成される。パターンとしては、例えば線、四角形、円、楕円形状等が挙げられる。
【0032】
メッキ膜12は、ニッケルリンメッキ膜を含む。ニッケルリンメッキ膜は、好ましくは無電解ニッケルリンメッキ膜である。メッキ膜12がニッケルリンメッキ膜を含むことによって、Cuメッキ膜の場合と比較して、メッキ膜12が薄膜であっても、メッキ膜12が変色しにくくなる。これによって、反射率の低下を抑制することができ、光学式エンコーダ部品10の信頼性を高めることができる。
【0033】
メッキ膜12は、ニッケルリンメッキ膜以外のメッキ膜をさらに含んでいてもよい。例えば、ニッケルリンメッキ膜の上に、金(Au)メッキや銀(Ag)メッキが形成されていてもよい。ニッケルリンメッキ膜の上に、より反射率の高いメッキ膜を形成することで、エンコーダ特性をさらに向上させることができる。
【0034】
ニッケルリンメッキ膜の厚さは、好ましくはメッキ膜12の全体の厚さの90%以上であり、より好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは98%以上である。
【0035】
メッキ膜12に含まれるニッケルリンメッキ膜のリン濃度は、好ましくは3~15質量%であり、より好ましくは6~12質量%である。リン濃度が高いほど、メッキ膜12の変色を抑制することができる。
【0036】
メッキ膜12の表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、2.0μm以下である。メッキ膜12の表面粗さRaを小さくすることで、光を照射したときの正反射成分を大きくすることができ、光学式エンコーダ1の特性が向上する。メッキ膜12の表面粗さRaの上限は、好ましくは1.5μmであり、さらに好ましくは1.0μmである。メッキ膜12の表面粗さRaの下限は、特に限定されないが、例えば0.2μmである。
【0037】
メッキ膜12は、好ましくは、下記の式で表される二乗平均平方根傾斜Sdqが2.0以下である。
【数1】
上記の式において、z(x、y)は、位置(x、y)における高さである。M及びNはそれぞれ、x方向及びy方向の測定点(画素)の数であり、Δx及びΔyはそれぞれ、x方向及びy方向に沿った測定点(画素)の間隔である。
【0038】
二乗平均平方根傾斜Sdqは、表面の凹凸の険しさの指標である。メッキ膜12の2乗平均平方根傾斜Sdqが小さいほど、乱反射成分が低減され、光学式エンコーダ1の性能が高くなる。メッキ膜12の2乗平均平方根傾斜Sdqの上限は、より好ましくは1.5であり、さらに好ましくは1.0である。
【0039】
光学式エンコーダ部品10は、メッキ膜12が一部でも剥離すると照射した光を反射できず読み取りエラーが発生するため、使用環境においてメッキ膜12が剥離しないことが好ましい。メッキ膜の剥離性を確認する加速試験としては、例えば、100℃及び-35℃の温度に各々30分間保持するヒートショック試験等が挙げられる。光学式エンコーダ部品10は、ヒートショック試験1サイクル後にメッキ膜12が基材11から剥離しないことが好ましく、10サイクル後に剥離しないことがより好ましく、100サイクル後に剥離しないことがより好ましい。
【0040】
本実施形態では、メッキ膜12が形成されている領域11aの基材11の表面粗さRa1と、メッキ膜12の間の領域11bの基材11の表面粗さRa2との比Ra1/Ra2が、1.5~5.0である。
【0041】
Ra1/Ra2が小さすぎると、基材11とメッキ膜12との密着性が悪くなり、光学式エンコーダ部品10が高温の環境と低温の環境とに繰り返し曝されたときにメッキ膜12が剥離する場合がある。また、Ra1/Ra2が小さすぎると、メッキの選択性が悪くなる場合がある。すなわち、領域11bに不規則にメッキが形成されやすくなり、光学式エンコーダ1の性能が低下する場合がある。一方、Ra1/Ra2が大きすぎると、メッキ膜12の表面粗さRaを小さくすることが困難になる。
【0042】
Ra1/Ra2の下限は、好ましくは2.0であり、より好ましくは2.2である。Ra1/Ra2の上限は、好ましくは4.0であり、より好ましくは3.0である。
【0043】
Ra1は、好ましくは0.5~3.0μmである。Ra1の下限は、好ましくは1.0μmである。Ra1の上限は、好ましくは2.0μmであり、さらに好ましくは1.5μmである。
【0044】
Ra2は、好ましくは3.0μm以下であり、より好ましくは1.0μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下である。Ra2が大きすぎると、低反射部となる非メッキ部の拡散反射光が増大し、光学式エンコーダ1の機能が低下する場合がある。
【0045】
本実施形態では、メッキ膜12の厚さは、10μm以上である。メッキ膜12は粗化された領域11aの上に形成されるため、ある程度の厚さにしなければ平滑な表面を得ることが困難である。メッキ膜12の厚さの下限は、より好ましくは12μmである。メッキ膜12の厚さの上限は、特に限定されないが、例えば20μmであり、好ましくは15μmである。メッキ膜12の厚さが大きいほどメッキ膜12の表面が平滑になりやすいが、無電解メッキは析出レートを高めるのが難しいため、厚さを増大させるには加工時間を長くする必要があり、コスト上昇の要因となる。
【0046】
[光学式エンコーダ部品10の製造方法]
以下、光学式エンコーダ部品10の製造方法の例を幾つか説明する。以下に説明する製造方法は飽くまでも例示であって、光学式エンコーダ部品10の製造方法はこれらに限定されない。
【0047】
本発明の一実施形態による光学式エンコーダ部品10の製造方法は、基材11の表面の一部にレーザービームを照射する工程と、基材11に無電解メッキ触媒液を接触させる工程と、基材11に無電解メッキ液を接触させる工程と、を含んでいる。本実施形態による光学式エンコーダ部品10の製造方法は、これに加えて、基材11に前処理液を接触させる工程や、基材11に触媒失活剤を付与する工程を備えていてもよい。
【0048】
[製造方法の例1]
図3は、光学式エンコーダ部品10の製造方法の一例を示すフロー図である。この製造方法は、基材11の表面の一部にレーザービームを照射する工程(ステップS1)と、基材11に無電解メッキ触媒液を接触させる工程(ステップS2)と、基材11に無電解メッキ液を接触させる工程(ステップS3)と、を備えている。
【0049】
基材11の表面の一部にレーザービームを照射する(ステップS1)。具体的には、基材11の表面であってメッキ膜12(図2)を形成する予定の領域、すなわち、図2の領域11aに相当する領域にレーザービームを照射する。これによって、図2の領域11aに相当する領域が選択的に粗化される。このとき、Ra1/Ra2が、1.5~5.0となるように、レーザービームの出力や走査速度、走査回数、周波数等を調整する。
【0050】
レーザービームは、特に限定されないが、例えばYVOレーザー(λ=1064nm)、ファイバーレーザー(λ=1090nm)、COレーザー(λ=10μm)等の赤外領域レーザーや、グリーンレーザー(λ=532nm)、UVレーザー(λ=355nm)、エキシマレーザー(λ=193nm)等を用いることができる。
【0051】
次に、基材11に無電解メッキ触媒液を接触させる(ステップS2)。無電解メッキ触媒液は例えば、無電解触媒能を有する金属の塩を含有するものを用いることができる。金属塩としては例えば、Pd、Pt、Cu、Ni等の塩が挙げられ、中でも、触媒能の高いPdが好ましい。Pdの塩としては、例えば、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、パラジウム錯体が挙げられ、中でも、安価で安定な塩化パラジウムが好ましい。
【0052】
レーザービームが照射された領域は、表面が粗化されるとともに、表面が改質されている。具体的には、レーザービームによって基材11の表層の分子鎖が切断されて、表面に官能基が生成される。この官能基の作用により、無電解メッキ触媒は表面が粗化された領域に付着しやすくなると考えられる。これによって、ステップS1でレーザービームを照射した領域(図2の領域11aに相当する領域)に選択的に無電解メッキ触媒を付着させることができる。
【0053】
次に、基材11に無電解メッキ液を接触させる。無電解メッキ触媒はステップS1でレーザービームを照射した領域(図2の領域11aに相当する領域)に選択的に付着しているため、この領域に選択的にメッキ膜12(図2)が形成される。
【0054】
本実施形態では、既述のとおり、メッキ膜12(図2)はニッケルリンメッキ膜を含む。そのため、無電解メッキ液は、無電解ニッケルリンメッキ液を用いる。ニッケルリンメッキ膜を形成した後、必要に応じて、さらに別のメッキ膜を形成してもよい。メッキ膜12の全体の厚さが10μm以上になるように、メッキ液の温度やメッキ時間を調整する。
【0055】
[製造方法の例2]
図4は、光学式エンコーダ部品10の製造方法の別の例を示すフロー図である。この製造方法は、図3の製造方法が備える工程に加えて、基材11を前処理液に接触させる工程(ステップS4)、及び基材11を洗浄する工程(ステップS5)をさらに備えている。基材11に前処理液を接触させる工程(ステップS4)及び基材11を洗浄する工程(ステップS5)は、基材11の表面の一部にレーザービームを照射する工程(ステップS1)の後であって、基材11に無電解メッキ触媒を接触させる工程(ステップS2)の前に行う。
【0056】
レーザービームを照射した基材11に前処理液を接触させる(ステップS4)。前処理液は、基材とメッキ触媒との親和性を向上させてメッキ触媒を基材に付着若しくは残留させやすくする処理液、又は、触媒の活性を向上させる処理液である。前処理液は例えば、メッキ触媒液との濡れ性を向上させる表面調整剤を含有する処理液であってもよく、触媒として用いられる金属塩に対し還元効果のあるスズコロイド溶液等であってもよい。前処理液としては例えば、奥野製薬株式会社製のセンシタイザー等が挙げられる。また、基材11に接触させる前処理液は、例えば、国際公開第2021/014599号に記載されたものを用いることができる。この前処理液は、具体的には、重量平均分子量1,000以上の窒素含有ポリマーを含んでおり、表面張力が20~60mN/mである。
【0057】
窒素含有ポリマーは、ステップS2で用いる無電解メッキ触媒液に含まれる金属イオンを吸着可能なポリマーであり、例えば、ポリアクリルアミド、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン等であり、ポリエチレンイミンが特に好ましい。
【0058】
前処理液の溶媒は、特に限定されないが、例えば、水、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、アセトン、エチルメチルケトンであり、水が特に好ましい。前処理液の表面張力は、例えば、界面活性剤や表面調整剤を用いて調整することができる。
【0059】
次に、前処理液に接触させた基材11を洗浄する(ステップS5)。前処理液に含まれている窒素含有ポリマーは、ステップS1でレーザービームを照射した領域(図2の領域11aに相当する領域)に吸着又は浸透している。または、表面が粗化されているため表面積が大きくなり、レーザービームを照射していない領域に対して相対的に吸着量が多くなる。一方、レーザービームを照射していない領域(図2の領域11bに相当する領域)には、窒素含有ポリマーは吸着していないか、又は比較的弱い力で吸着している。そのため、基材11を洗浄することにより、レーザービームを照射していない領域に付着している窒素含有ポリマーは除去されやすくなり、レーザービームを照射した領域に選択的に窒素含有ポリマーを相対的に多く残すことができる。
【0060】
洗浄は、例えば、窒素含有ポリマーを溶解可能な液体(洗浄液)に基材11を浸漬することによって行うことができる。洗浄液は、上述した前処理液の溶媒として挙げたものを用いることができ、水が特に好ましい。
【0061】
以下は、図3の製造方法の場合と同様に、基材11に無電解メッキ触媒を接触させる工程(ステップS2)、及び基材11に無電解メッキ液を接触させる工程(ステップS3)を行う。
【0062】
上述のとおり、この方法によれば、レーザービームを照射した領域に選択的に窒素含有ポリマーを残すことができる。窒素含有ポリマーは、無電解メッキ触媒の基材11への吸着力を高め、無電解メッキ触媒が無電解メッキ処理中に脱離することを抑制する。これによって、無電解メッキの反応性及び選択性をさらに向上させることができる。
【0063】
[製造方法の例3]
図5は、光学式エンコーダ部品10の製造方法のさらに別の例を示すフロー図である。この製造方法は、図3の製造方法が備える工程に加えて、基材11の表面に触媒失活剤を付与する工程(ステップS6)をさらに備えている。基材11の表面に触媒失活剤を付与する工程(ステップS6)は、基材11の表面の一部にレーザービームを照射する工程(ステップS1)の前に行う。
【0064】
触媒失活剤は、無電解メッキ触媒が触媒能を発揮することを妨げ、結果として、無電解メッキの反応を抑制する物質であれば、任意の物質を用いることができる。このような触媒失活剤としては、例えば、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)等のメッキ触媒毒となる重金属及びその化合物、ヨウ素及びその化合物、過酸化物等の酸化剤等が挙げられる。
【0065】
触媒失活剤として、触媒活性を妨害する樹脂を用いてもよい。樹脂である触媒失活剤は、妨害層として基材上に付与できる。樹脂である触媒失活剤としては、側鎖にアミド基及びジチオカルバメート基を有するポリマーが好ましい。樹脂である触媒失活剤は、デンドリマー、ハイパーブランチポリマー等のデンドリティックポリマーが好ましい。触媒活性を妨害する樹脂としては、例えば、国際公開第2017/154470号、又は国際公開第2018/131492号に開示されるポリマーを用いることができ、また、同公報に開示される方法により、基材表面に妨害層を形成できる。
【0066】
以下は、図3の製造方法の場合と同様に、基材11の表面の一部にレーザービームを照射する工程(ステップS1)、基材11に無電解メッキ触媒液を接触させる工程(ステップS2)、及び基材11に無電解メッキ液を接触させる工程(ステップS3)を行う。
【0067】
基材11の表面の一部にレーザービームを照射する工程(ステップS1)により、レーザービームが照射された領域(図2の領域11aに相当する領域)では、触媒失活剤は除去されるか、変性又は変質して触媒失活剤として作用しなくなる。そのため、レーザービームを照射していない領域(図2の領域11bに相当する領域)においてのみ、触媒失活剤が作用する。これによって、無電解メッキの反応性及び選択性をさらに向上させることができる。
【0068】
[製造方法の例4]
図6は、光学式エンコーダ部品10の製造方法のさらに別の例を示すフロー図である。この製造方法は、図4で説明した前処理液と、図5で説明した触媒失活剤とを両方用いる例である。この方法によれば、無電解メッキの反応性及び選択性をさらに向上させることができる。
【0069】
[光学式エンコーダ部品10の効果]
以上、本発明の第1の実施形態による光学式エンコーダ部品10を説明した。本実施形態によれば、光を照射したときの正反射成分が大きく、メッキが変色しにくい光学式エンコーダ部品が得られる。また、本実施形態によれば、高い検出精度を有し、耐久性に優れた光学式エンコーダが得られる。
【0070】
本実施形態では、メッキ膜12はニッケルリンメッキ膜を含む。これによって、メッキ膜12の変色を抑制できる。本実施形態ではまた、メッキ膜12の表面粗さが2.0μm以下である。これによって、光を照射したときの正反射成分を大きくすることができ、光学式エンコーダ1の特性を向上させることができる。
【0071】
本実施形態では、樹脂成形品である基材11にメッキ膜12を形成する。本実施形態では、メッキ膜12が形成された箇所が高反射部であり、メッキ膜12が形成されていない箇所、すなわち、基材11が露出している箇所が低反射部である。本実施形態の構成によれば、樹脂成形品である基材11に直接メッキをすることによって、樹脂成形品とは別の部品(スケール)を設ける必要がない。すなわち、光学式エンコーダ1の部品点数を削減することができる。
【0072】
[第2の実施形態]
図7は、本発明の第2の実施形態による光学式エンコーダ部品20の一部を拡大して示す断面図である。光学式エンコーダ部品20は、樹脂成形品である基材21と、基材21の上に規則的に形成されたメッキ膜22とを備えている。
【0073】
光学式エンコーダ部品20は、光学式エンコーダ部品10(図2)と比較して、基材21の表面粗さ、及びメッキ膜22の厚さが異なっている。換言すれば、光学式エンコーダ部品20は、基材21の表面粗さ、及びメッキ膜22の厚さ以外は、光学式エンコーダ部品10と同様の構成を有している。すなわち、メッキ膜22はニッケルリンメッキ膜を含み、メッキ膜22の表面粗さRaは2.0μm以下である。また、基材21の線膨張係数は80ppm以下であることが好ましい。
【0074】
本実施形態では、メッキ膜22が形成されている領域21aの基材21の表面粗さRa1と、メッキ膜22の間の領域21bの基材21の表面粗さRa2との比Ra1/Ra2が、0.8~1.4である。本実施形態ではまた、メッキ膜22の厚さが、0.2~3μmである。
【0075】
光学式エンコーダ部品10(図2)では、Ra1/Ra2を大きくすることで基材11とメッキ膜12との密着性を確保し、メッキ膜12の厚さを厚くすることでメッキ膜12の表面の平滑性を確保している。これに対して光学式エンコーダ部品20では、Ra1/Ra2を小さくすることでメッキ膜22の表面の平滑性を確保し、メッキ膜22の厚さを薄くすることでメッキ膜22の耐剥離性を高めている。
【0076】
Ra1/Ra2の上限は、好ましくは1.2であり、より好ましくは1.1である。
【0077】
Ra1は、好ましくは3.0μm以下である。Ra1が大きすぎると、メッキ膜22の表面粗さRaを小さくすることが困難になり、結果として光学式エンコーダ1の特性が低下する。Ra1の上限は、より好ましくは2.0μmであり、さらに好ましくは1.0μmであり、さらに好ましくは0.5μmである。
【0078】
Ra2は、好ましくは2.0μm以下である。Ra2が大きすぎると、メッキ膜22の厚さが小さい場合はメッキ膜22お表面粗さRaを小さくすることが難しくなり、結果として光学式エンコーダ1の特性が低下する。Ra2の上限は、より好ましくは1.0μmであり、さらに好ましくは0.5μmである。
【0079】
メッキ膜22の厚さは、0.2~3μmである。メッキ膜23が厚すぎると、応力が高くなって剥離しやすくなる。メッキ膜22の厚さの上限は、好ましくは2.5μmであり、さらに好ましくは2μmである。メッキ膜22の厚さの下限は、より好ましくは0.5μmであり、さらに好ましくは0.8μmである。
【0080】
[光学式エンコーダ部品20の製造方法]
以下、光学式エンコーダ部品20の製造方法の例を幾つか説明する。以下に説明する製造方法は飽くまでも例示であって、光学式エンコーダ部品20の製造方法はこれらに限定されない。
【0081】
本発明の一実施形態による光学式エンコーダ部品20の製造方法は、基材21の表面の一部に紫外線を照射する工程と、基材21に無電解メッキ触媒液を接触させる工程と、基材21に無電解メッキ液を接触させる工程と、を含んでいる。本実施形態による光学式エンコーダ部品20の製造方法は、これに加えて、基材11に前処理液を接触させる工程や、基材21に触媒失活剤を付与する工程を備えていてもよい。
【0082】
[製造方法の例5]
図8は、光学式エンコーダ部品20の製造方法の一例を示すフロー図である。この製造方法は、基材21の表面の一部に紫外線を照射する工程(ステップS7)と、基材21に無電解メッキ触媒液を接触させる工程(ステップS2)と、基材21に無電解メッキ液を接触させる工程(ステップS3)と、を備えている。
【0083】
基材21の表面の一部に紫外線を照射する(ステップS7)。具体的には例えば、メッキ膜22(図7)を形成する予定の領域以外の領域(図7の領域21bに相当する領域)をマスク等で覆った状態で、紫外線を照射する。これによって、図7の領域21aに相当する領域に紫外線が照射され、表面が改質される。
【0084】
紫外線を照射した場合、レーザービームを照射した場合と比較して、表面はあまり粗化されない。Ra1/Ra2が、0.8~1.4となるように、紫外線の強度や露光時間等を調整する。
【0085】
以下は、図3の製造方法の場合と同様に、基材21に無電解メッキ触媒液を接触させる工程(ステップS2)、及び基材21に無電解メッキ液を接触させる工程(ステップS3)を行う。ただし、無電解メッキ液を接触させる工程(ステップS3)では、メッキ膜22の厚さが0.2~3μmになるように、無電解メッキ液の温度や無電解メッキ時間(基材21に無電解メッキ液を接触させる時間)を調整する。
【0086】
紫外線を照射した場合も、レーザービームを照射した場合と同様に、基材21の表層の分子鎖が切断されて、表面に官能基が生成される。この官能基の作用により、無電解メッキ触媒はこの領域に付着しやすくなると考えられる。これによって、ステップS7で紫外線を照射した領域(図7の領域21aに相当する領域)に選択的に無電解メッキ触媒が付着する。その後、無電解メッキ液を接触させることで、この領域に選択的にメッキ膜22を形成することができる。
【0087】
[製造方法の例6]
図9は、光学式エンコーダ部品20の製造方法の別の例を示すフロー図である。この製造方法は、図8の製造方法が備える工程に加えて、基材21を前処理液に接触させる工程(ステップS4)、及び基材21を洗浄する工程(ステップS5)をさらに備えている。基材21に前処理液を接触させる工程(ステップS4)及び基材21を洗浄する工程(ステップS5)は、基材21の表面の一部に紫外線を照射する工程(ステップS7)の後であって、基材21に無電解メッキ触媒を接触させる工程(ステップS2)の前に行う。
【0088】
紫外線を照射した場合、樹脂の種類によっては紫外光によって表面樹脂の一部の分子が分解され、その部分に窒素含有ポリマーやパラジウムが吸着することによって、紫外線を照射した領域に選択的に窒素含有ポリマーを非照射部と比較して相対的に多く残すことができる。これによって、無電解メッキの反応性及び選択性をさらに向上させることができる。
【0089】
[製造方法の例7]
図10は、光学式エンコーダ部品20の製造方法のさらに別の例を示すフロー図である。この製造方法は、図8の製造方法が備える工程に加えて、基材21の表面に触媒失活剤を付与する工程(ステップS6)をさらに含む。基材21の表面に触媒失活剤を付与する工程(ステップS6)は、基材21の表面の一部に紫外線を照射する工程(ステップS7)の前に行う。
【0090】
紫外線を照射した場合も、レーザービームを照射した場合と同様に、紫外線が照射された領域(図7の領域21aに相当する領域)では、触媒失活剤は除去されるか、変性又は変質して触媒失活剤として作用しなくなる。そのため、紫外線を照射していない領域(図7の領域21bに相当する領域)においてのみ、触媒失活剤が作用する。これによって、無電解メッキの反応性及び選択性をさらに向上させることができる。
【0091】
[製造方法の例8]
図11は、光学式エンコーダ部品20の製造方法のさらに別の例を示すフロー図である。この製造方法は、図9で説明した前処理液と、図10で説明した触媒失活剤とを両方用いる例である。この方法によれば、無電解メッキの反応性及び選択性をさらに向上させることができる。
【0092】
[光学式エンコーダ部品20の効果]
以上、本発明の第2の実施形態による光学式エンコーダ部品20を説明した。本実施形態によっても、光を照射したときの正反射成分が大きく、メッキが変色しにくい光学式エンコーダ部品が得られる。本実施形態によっても、高い検出精度を有し、耐久性に優れた光学式エンコーダが得られる。
【実施例0093】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0094】
[実施例1]
(a)基材
基材として、ガラス繊維を20質量%含有する黒色のポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、EGN2020R2、荷重たわみ温度(0.45MPa)146℃、線膨張係数45ppm(1/℃))を準備し、50mm×80mm×2mm厚みの板に成形した。
【0095】
メッキ形成前の基材の表面粗さ(Ra2に相当)を、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK-9700)によって測定した。測定には20倍の対物レンズを使用した。表面粗さ(算術平均粗さ)の解析は、高さデータに3×3画素のメディアン処理を3回行ってから、装置付属の解析ソフトを用いて行った。メッキ形成前の基材の表面粗さは、0.54μmであった。
【0096】
(b)触媒失活剤の付与
下記の一般式(A)で表されるポリマーをプロピレングリコールモノメチルエーテルに溶解して、ポリマー濃度0.5重量%のポリマー溶液を調製した。室温のポリマー溶液に基材を5秒間浸漬した後、100℃の乾燥機中で10分間乾燥した。これにより、基材の表面に触媒活性妨害層を形成した。触媒活性妨害層の厚さは、100nmであった。
【化1】
式(A)において、Rはメチル基である。
【0097】
(c)レーザービームの照射
基材のメッキ層を形成する予定の領域に、幅0.5mm、長さ10mmの長方形のパターンを、1mm間隔で20個配列したパターンを描画した。UVレーザー(株式会社キーエンス製、3-Axis UV レーザーマーカー、MD-U1000C)を用い、出力40%、速度1500mm/s、周波数80kHzのレーザー描画条件で、輪郭線収縮を10μm、塗りつぶし条件を10μmピッチ斜線状に設定した。
【0098】
レーザービームを照射した領域は、触媒活性妨害層が除去されるとともに粗化された。レーザービームを照射した領域の表面粗さ(Ra1に相当)を、上記と同様の方法で測定した。レーザービームを照射した領域の表面粗さは、0.98μmであった。
【0099】
(d)前処理及び洗浄
ポリエチレンイミン水溶液(和光純薬株式会社製P-70)を準備した。40℃に調整したポリエチレンイミン水溶液に基材を3分間浸漬した後、基材をポリエチレンイミン水溶液から取り出し、水洗した。
【0100】
(e)無電解メッキ触媒の付与
次に、30℃に調整した市販の塩化パラジウム(PdCl)水溶液(奥野製薬工業株式会社製、アクチベータ)に基材を3分間浸漬した後、基材を塩化パラジウム水溶液から取り出し、水洗した。
【0101】
(f)無電解メッキ
60℃に調整した無電解ニッケルリンメッキ液(奥野製薬工業株式会社製、ICPニコロンLTN-NP、pH6.5、リン濃度5重量%)に基材を1時間浸漬した。これによって、レーザービームを照射した領域に無電解ニッケルリンメッキ膜が析出した。メッキ膜の厚さは、12μmであった。これを光学式エンコーダ部品とした。
【0102】
メッキ膜の表面を、基材表面と同じ方法で測定した。メッキ膜の表面粗さRaは、1.12μmであった。
【0103】
さらに、メディアン処理した高さデータから、下記の式で表される二乗平均平方根傾斜Sdqを求めた。メッキ膜の二乗平均平方根傾斜Sdqは、0.75であった。
【数2】
上記の式において、z(x、y)は、位置(x、y)における高さである。M及びNはそれぞれ、x方向及びy方向の測定点(画素)の数であり、Δx及びΔyはそれぞれ、x方向及びy方向に沿った測定点(画素)の間隔である。M、N、Δx及びΔyはそれぞれ、1024、768、0.689μm、0.689μmとした。
【0104】
[実施例2]
無電解メッキの条件を変えてメッキ膜の厚さを変えた他は、実施例1と同様に光学式エンコーダ部品を製造した。メッキ膜の厚さは15μmであった。メッキ膜の表面粗さRaは0.98μmであり、メッキ膜の二乗平均平方根傾斜Sdqは0.61であった。
【0105】
[実施例3]
基材を変更し、レーザー出力を30%に変更した他は、実施例1と同様に光学式エンコーダ部品を製造した。
【0106】
具体的には、汎用グレードのポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、H-4000、荷重たわみ温度(0.45MPa)136℃、線膨張係数65ppm(1/℃))を準備し、50mm×80mm×2mm厚みの板に成形して基材とした。メッキ形成前の基材の表面粗さ(Ra2に相当)は、0.42μmであった。レーザービームを照射した領域の表面粗さ(Ra1に相当)は1.21μmであった。メッキ膜の表面粗さRaは1.33μmであり、メッキ膜の二乗平均平方根傾斜Sdqは0.78であった。
【0107】
[実施例4]
実施例1のレーザービーム照射に代えて、以下に説明する紫外線照射を行った。
【0108】
(g)紫外線照射
レーザービームの照射で形成したパターンと同じパターンが得られるようにマスクを配置した。紫外線照射は、UV洗浄処理装置(岩崎電気株式会社製OC-250616-DA)で、3分間の照射を行った。
【0109】
紫外線を照射した領域は、触媒活性妨害層が除去されるとともに粗化された。紫外線を照射した領域の表面粗さ(Ra1に相当)を、上記と同様の方法で測定した。紫外線を照射した領域の表面粗さは、0.56μmであった。
【0110】
以下は、実施例1と同様に無電解メッキ触媒の付与及び無電解メッキを行って、光学式エンコーダ部品を作製した。
【0111】
無電解メッキの時間を調整し、メッキ膜の厚さを1μmとした。メッキ膜の表面粗さRaは0.28μmであり、メッキ膜の二乗平均平方根傾斜Sdqは0.30であった。
【0112】
[実施例5]
無電解メッキ液をリン濃度が3質量%のものに変えた他は、実施例4と同様に光学式エンコーダ部品を製造した。メッキ膜の表面粗さRaは0.25μmであり、メッキ膜の二乗平均平方根傾斜Sdqは0.31であった。
【0113】
[実施例6]
無電解メッキの時間を調整し、メッキ膜の厚さを2.5μmとした他は、実施例4と同様に光学式エンコーダ部品を製造した。メッキ膜の表面粗さRaは0.24μmであり、メッキ膜の二乗平均平方根傾斜Sdqは0.25であった。
【0114】
[実施例7]
基材を実施例3で使用したものに変更した他は、実施例4と同様に光学式エンコーダ部品を製造した。紫外線を照射した領域の表面粗さ(Ra1に相当)は、0.46μmであった。メッキ膜の表面粗さRaは0.47μmであり、メッキ膜の二乗平均平方根傾斜Sdqは0.51であった。
【0115】
[実施例8]
基材を変更した他は、実施例4と同様に光学式エンコーダ部品を製造した。具体的には、ポリエーテルイミド樹脂(荷重たわみ温度(0.45MPa)210℃、線膨張係数56ppm(1/℃))を準備し、50mm×80mm×2mm厚みの板に成形して基材とした。メッキ形成前の基材の表面粗さ(Ra2に相当)は、0.31μmであった。紫外線を照射した領域の表面粗さ(Ra1に相当)は0.32μmであった。メッキ膜の表面粗さRaは0.33μmであり、メッキ膜の二乗平均平方根傾斜Sdqは0.29であった。
【0116】
[比較例1]
無電解メッキの時間を調整し、メッキ膜の厚さを3μmとした他は、実施例1と同様に光学式エンコーダ部品を製造した。メッキ膜の表面粗さRaは2.51μmであり、メッキ膜の二乗平均平方根傾斜Sdqは2.8であった。
【0117】
[比較例2]
レーザービームの照射条件を変えた他は、実施例3と同様に光学式エンコーダ部品を製造した。レーザービームを照射した領域の表面粗さ(Ra1に相当)は、3.80μmであった。メッキ膜の表面粗さRaは3.62μmであり、メッキ膜の二乗平均平方根傾斜Sdqは4.7であった。
【0118】
[実施例9]
基材を変更した他は、実施例1と同様に光学式エンコーダ部品を製造した。具体的には、ナイロン樹脂(線膨張係数95ppm(1/℃))を準備し、50mm×80mm×2mm厚みの板に成形して基材とした。メッキ形成前の基材の表面粗さ(Ra2に相当)は、0.39μmであった。レーザービームを照射した領域の表面粗さ(Ra1に相当)は1.21μmであった。メッキ膜の表面粗さRaは0.45μmであり、メッキ膜の二乗平均平方根傾斜Sdqは0.88であった。
【0119】
[実施例10]
基材を実施例9で使用したものに変更した他は、実施例4と同様に光学式エンコーダ部品を製造した。紫外線を照射した領域の表面粗さ(Ra1に相当)は0.42μmであった。メッキ膜の表面粗さRaは0.42μmであり、メッキ膜の二乗平均平方根傾斜Sdqは0.38であった。
【0120】
[実施例11]
基材として、液晶ポリマー(LCP)(上野製薬株式会社製、UENO-LCP(登録商標)UA201、荷重たわみ温度(0.46MPa)285℃、線膨張係数22ppm(1/℃))を準備し、50mm×80mm×2mm厚みの板に成形した。触媒失活剤の付与は行わずに、レーザービームの照射を行った。レーザービームの照射の条件は、実施例1と同様とした。その後、実施例1と同様に前処理液で処理した。
【0121】
0.1gの塩化パラジウムを12Nの塩酸1mLに溶解させた後、水で希釈して1Lとし、配合量0.1g/Lの塩化パラジウム水溶液を調製した。40℃に調整した塩化パラジウム水溶液に、基材の全体を1分間浸漬した。その後、実施例1の工程fと同様にしてめっきを行った。
【0122】
メッキ形成前の基材の表面粗さ(Ra2に相当)は、0.48μmであった。レーザービームを照射した領域の表面粗さ(Ra1に相当)は0.78μmであった。メッキ膜の表面粗さRaは0.88μmであり、メッキ膜の二乗平均平方根傾斜Sdqは0.62であった。
【0123】
[実施例12]
実施例1と同様の樹脂を用い、内径100mm、高さ50mm、肉厚2mmの円筒形状の基材を成形した。メッキ形成前の基材の表面粗さ(Ra2に相当)は、0.78μmであった。実施例1と同様に触媒失活剤を塗布した。
【0124】
次に、電動回転ステージ(中央精機株式会社製ARS-936-HP)に内径100mmの円筒形状基材を固定する治具を取り付け、円筒状基材をはめ込み、円筒状基材の内側の高さ5mmの位置にレーザーの焦点位置が斜め10°から照射できる位置にキーエンス社製UVレーザーマーカーを取り付けた設備を準備した。幅0.5mm、長さ10mmの長方形のパターンを、1mm間隔で配列するように、回転ステージを動かしながら、等間隔にパターンを描画した。レーザービームを照射した領域の表面粗さ(Ra1に相当)は1.58μmであった。
【0125】
次に、実施例1と同様にしてメッキ膜を形成した。円筒形状の内側に、幅0.5mm、長さ10mmのメッキパターンが形成された。メッキ膜の表面粗さRaは1.48μmであり、メッキ膜の二乗平均平方根傾斜Sdqは0.88であった。
【0126】
[比較例3]
無電解メッキ液を無電解Cuメッキ液に変えた他は、実施例4と同様に光学式エンコーダ部品を製造した。メッキ膜の表面粗さRaは0.31μmであり、メッキ膜の二乗平均平方根傾斜Sdqは0.58であった。
【0127】
実施例及び比較例の基材とは別に、エンコーダ評価の反射率測定用基材を作製した。具体的には、基材に触媒剤失活剤を塗布やレーザー照射、紫外線照射を行わずに、全面にメッキ膜が形成された基材を作製した。
【0128】
(h)評価
実施例1~12及び比較例1~3の光学式エンコーダ部品に対して、下記の評価を行った。
【0129】
(h-1)エンコーダ特性の評価
図12に示す光学評価装置50を使用して、エンコーダの読み取り評価を行った。光学評価装置50の各部材は光学定盤(不図示)上に設置した。
【0130】
レーザーダイオード51として、ローム株式会社製の近赤外LD RLD85NZJ4(発信波長850nm、シングルモード)を使用し、レーザービームの光軸が光学定盤に対して平行になるように固定した。
【0131】
レーザーダイオード51からのレーザービームは楕円ビームであるため、φ2mmのアパーチャ61によって円形ビームにした。コリメータレンズ62(平凸レンズ、f=11mm、NA=0.3、外径7.2mm、レンズ中心厚1.95mm、硝材:D-ZLaF52LA)を通してビーム径2mmの平行ビームとした後、5倍のビームエキスパンダー63(エドモンド社製、Draconisビームエキスパンダー 5x、ガリレオ光学系)を通してビーム径10mmの平行ビームにした。次にφ9mmのアパーチャ64を通した後、集光レンズ65(平凸レンズ、f=100mm、NA=0.05、外径10mm、レンズ中心厚2.2mm、硝材:BK7)によってレーザービームを集光させた。
【0132】
測定サンプルS(光学式エンコーダ部品)は、マイクロメータを使ったXYZ位置調整機構を有するステージ54の上に載せ、それをさらにx軸方向に往復運動させるため、1軸方向の電動ステージ55の上に載せた。測定サンプルSに対して、収束させたレーザービームが入射角θ=45°で入射するように(光学定盤と反射ミラー66とのなす角が22.5°となるように)、光路の途中に反射ミラー66を配置した。
【0133】
集光されたレーザービームは測定サンプルSの面上に45°の入射角で照射されるので、図13に示すように、測定サンプルSの面上のビーム形状は、x軸方向に伸びた楕円形状となる。楕円の長径が0.5~0.7mmとなるように、ステージ54のZ軸の位置をマイクロメータで調整した。ビーム形状は、ステージ54の上に、測定サンプルSの面の高さと同じ高さにレーザービームプロファイル測定装置(不図示)を配置し、ビーム形状をモニタしながら調整した。
【0134】
エンコーダパターンを読み取るのに有効な、正反射されたレーザービームだけを測定するため、図12に示すように対称な位置に反射ミラー66を配置した。反射光が光学定盤に対して平行になるように反射させ、集光レンズ65とほぼ共役の位置に集光レンズ65と同じ平凸レンズを反対向きに配置してコリメータレンズ67とした。コリメータレンズ67の後ろに不要光を除くためφ9mmのアパーチャ68を配置し、反射光をパワーモニタ52(GENTEC-EO社製、PH100-Si)に入射させて、反射光の強度を測定した。パワーモニタ52からの出力を、専用ケーブルを使ってコンピュータに入力し、専用ソフトウェアで瞬時パワーとして読み取り、経過時間に対する反射光強度を測定した。
【0135】
パワーモニタ52の時定数を考慮して、電動ステージ55の移動速度は10mm/秒とし、移動ストロークは、測定サンプルSのパターン形成領域の幅である20mmとした。まず、実施例及び比較例とは別に作製した全面メッキ基板と、メッキ未加工の基材の反射レベルを測定した。図14に、パワーモニタ52からの出力の一例を示す。図14は、全面メッキ基板のメッキ膜からの反射レベルを1、メッキ未加工の基材からの反射レベルを0に規格化したものである。パワーモニタ52からの出力は、エンコーダパターンに対応した正弦波となった。
【0136】
実施例12に関しては、電動回転ステージ(PI社製PRS-200(6449921011))に内径100mmの円筒形状基材を固定する治具を取り付け、円筒形状基材をはめ込み、図15図17に示すように、レーザービームの反射光が光学評価装置50と同様に測定できるように組み込んだ設備を作製した(入射角、出射角30°)。伝導回転ステージの速度を10°/秒で回転させながら測定を行った。
【0137】
振幅幅が0.6以上であるものを「◎」、0.4以上であるものを「○」、0.2以下又は正弦波が検出できなかったものを「×」と評価した。
【0138】
(h-2)ヒートショック試験
100℃及び-35℃の温度に各々30分間保持するヒートショック試験を行った。1サイクル後、10サイクル後及び100サイクル後にメッキ膜の剥離の有無を目視で確認した。100サイクル後に剥離がなかったものを「◎」、10サイクル後に剥離がなく、100サイクル後に一部又はすべてのメッキ膜に剥離があったものを「○」、1サイクル後に剥離がなく、10サイクル後に一部又はすべてのメッキ膜に剥離があったものを「△」、1サイクル後に剥離したものを「×」と評価した。
【0139】
(h-3)変色評価
光学式エンコーダ部品を温度85℃湿度85%の恒温恒湿槽に1時間保持した後、上述したエンコーダ特性の評価を行った。恒温恒湿槽に保持する前と比較して、振幅幅の減少変化率が5%以下であるものを「◎」、5%超10%未満であるものを「○」、10%以上、あるいは正弦波を検出できなかったものを「×」と評価した。
【0140】
結果を表1に示す。なお、表1の「CTE」は線膨張係数(平均値)を表し、「T1」は荷重たわみ温度(0.45MPa)を表す。
【0141】

【表1】
【0142】
実施例1~12の光学式エンコーダ部品は、エンコーダ特性、ヒートショック試験及び変色評価のいずれの結果も許容範囲内であった。
【0143】
実施例2、4~8、10及び11の光学式エンコーダ部品は、エンコーダ特性が特に優れていた。これは、メッキ膜の表面粗さRaが小さいためと考えられる。実施例2の表面粗さRaが小さくなったのは、メッキ膜を比較的厚く形成したためと考えられる。実施例4~8及び10のメッキ膜の表面粗さRaが小さくなったのは、メッキ膜を形成した部分の基材の粗さが小さかった(Ra1/Ra2が1に近かった)ためと考えられる。
【0144】
ニッケルリンメッキ膜のリン濃度を3質量%にした実施例5のエンコーダ部品は、許容範囲ではあるものの、実施例4のエンコーダ部品と比較して変色評価において振幅幅の減少変化率が大きかった。
【0145】
基材の線膨張係数が大きかった実施例10のエンコーダ部品は、許容範囲ではあるものの、実施例4のエンコーダ部品と比較してヒートショック試験の結果が少し劣っていた。
【0146】
比較例1の光学エンコーダ部品は、エンコーダ特性が劣っていた。これは、メッキ膜の表面粗さRaが大きかったためと考えられる。メッキ膜の表面粗さRaが大きかったのは、基材の粗さに対して、メッキ膜の厚さが十分ではなかったためと考えられる。
【0147】
比較例2の光学エンコーダ部品は、エンコーダ特性が劣っていた。これは、メッキ膜の表面粗さRaが大きかったためと考えられる。メッキ膜の表面粗さRaが大きかったのは、メッキ膜を形成する領域の基材の粗さが大きすぎたためと考えられる。
【0148】
比較例3の光学エンコーダ部品は、変色評価の結果が劣っていた。これは、メッキ膜がCuメッキであったためと考えられる。
【0149】
以上、本発明についての実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態のみに限定されず、発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0150】
1 光学式エンコーダ
10,20 光学式エンコーダ部品
11,21 基材
12,22 メッキ膜
15 光源
16 検出器
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17