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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009432
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】傾斜板および傾斜板沈降装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/02 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
B01D21/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110952
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】516093541
【氏名又は名称】株式会社エース・ウォーター
(71)【出願人】
【識別番号】505142964
【氏名又は名称】株式会社クボタケミックス
(74)【代理人】
【識別番号】100090181
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 義人
(72)【発明者】
【氏名】川島 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】倉田 朋幸
(72)【発明者】
【氏名】谷川 伸一
(72)【発明者】
【氏名】氏家 光晴
(57)【要約】      (修正有)
【課題】強度を向上でき、懸濁物質を適切に滑落させることができる傾斜板を提供する。
【解決手段】傾斜板10は、横方向にアーチ状に形成された傾斜板本体50、傾斜板本体を囲繞するように形成された上辺10a、下辺10bおよび両側辺10c,10dを含む周縁部52、および傾斜板本体の上端の弓形開口を塞ぐように形成された第1弓板状部54を備える。傾斜板の上辺は、両側辺と同一平面上に形成され、第1弓板状部は、その同一平面と直交する面よりも傾斜板本体の中央側に傾くように形成されている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜板沈降装置に用いられる傾斜板であって、
横方向にアーチ状に形成された傾斜板本体、
前記傾斜板本体を囲繞するように形成された上辺、下辺および両側辺を含む周縁部、および
前記傾斜板本体の上端の弓形開口を塞ぐように形成された第1弓板状部を備え、
前記上辺は、前記両側辺と同一平面上に形成され、
前記第1弓板状部は、前記同一平面と直交する面よりも前記傾斜板本体の中央側に傾くように形成されている、傾斜板。
【請求項2】
前記傾斜板本体の下端の弓形開口を塞ぐように形成された第2弓板状部を備え、
前記下辺は、前記両側辺と同一平面上に形成され、
前記第2弓板状部は、前記同一平面と直交する面よりも前記傾斜板本体の中央側に傾くように形成されている、請求項1記載の傾斜板。
【請求項3】
前記傾斜板本体の両側端から側方へ突出するように形成され、当該傾斜板を支持するための支持フレームに設けられた溝状のガイド部材に対してスライド移動可能に嵌め入れられる袖板部を有する、請求項1または2記載の傾斜板。
【請求項4】
前記傾斜板本体の両側に形成され、前記両側辺のそれぞれに沿って延びる第1リブを備える、請求項1または2記載の傾斜板。
【請求項5】
前記傾斜板本体の上側に形成され、前記上辺に沿って延びる第2リブを備える、請求項1または2記載の傾斜板。
【請求項6】
前記傾斜板本体のアーチの高さは、50mm以下の大きさに設定される、請求項1または2記載の傾斜板。
【請求項7】
前記第1弓板状部の円弧端の曲率は、前記第2弓板状部の円弧端の曲率よりも大きい、請求項2記載の傾斜板。
【請求項8】
前記袖板部に形成され、前記ガイド部材に形成された係止部によって係止される第3リブを備える、請求項3記載の傾斜板。
【請求項9】
複数の傾斜板を備える傾斜板沈降装置であって、
横方向にアーチ状に形成された傾斜板本体と、前記傾斜板本体の両側端から側方へ突出する袖板部とを有する前記傾斜板、
前記傾斜板を支持するための支持フレーム、および
前記支持フレームに設けられ、前記袖板部がスライド移動可能に嵌め入れられる溝状のガイド部材を備える、傾斜板沈降装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、傾斜板および傾斜板沈降装置に関し、特にたとえば、水中の懸濁物質の除去効率を高めるために用いられる、傾斜板およびそれを備える傾斜板沈降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の傾斜板の一例が特許文献1に開示される。特許文献1の傾斜板は、平板状に形成された傾斜板本体を有しており、この傾斜板本体には、凸部および傾斜部などの複数のリブが形成されている。
【0003】
また、従来の傾斜板の他の一例が特許文献2に開示される。特許文献2の傾斜板は、横方向にアーチ状に形成された傾斜板本体を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5-13502号公報
【特許文献2】意匠登録第1587090号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、傾斜板の強度を上げるために、傾斜板に複数のリブを設けている。しかしながら、傾斜板に形成するリブ数が多いと、傾斜板上に懸濁物質が堆積し易くなる上、リブが水流に対して抵抗になってしまう。
【0006】
一方、特許文献2の技術によると、傾斜板本体をアーチ状に形成することで、汚泥などの懸濁物質の滑落を促進できる。また、傾斜板本体を平板状に形成するよりも、上からの荷重に対する強度が増すので、傾斜板に形成する補強用のリブの数を低減しつつ、傾斜板上に懸濁物質が堆積することによる撓みを防止できる。
【0007】
しかしながら、特許文献2の技術では、傾斜板本体がアーチ状に形成されるだけなので、強度不足となる恐れがある。また、特許文献2の技術のように傾斜板本体をアーチ状に形成すると、図11に示すように、傾斜板Aを多段設置したとき、上側の傾斜板Aの上面と下側の傾斜板Aの上面との間隔a1が狭くなってしまう。このため、上側の傾斜板Aから下側の傾斜板Aへの懸濁物質の滑落が阻害されてしまう恐れがある。これを防止するためには、隣り合う傾斜板Aどうしの間隔a2を大きく取らざるを得ず、設置できる傾斜板Aの枚数が少なくなってしまう。
【0008】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、傾斜板および傾斜板沈降装置を提供することである。
【0009】
この発明の他の目的は、強度を向上でき、懸濁物質を適切に滑落させることができる、傾斜板およびそれを備える傾斜板沈降装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、傾斜板沈降装置に用いられる傾斜板であって、横方向にアーチ状に形成された傾斜板本体、傾斜板本体を囲繞するように形成された上辺、下辺および両側辺を含む周縁部、および傾斜板本体の上端の弓形開口を塞ぐように形成された第1弓板状部を備え、上辺は、両側辺と同一平面上に形成され、第1弓板状部は、同一平面と直交する面よりも傾斜板本体の中央側に傾くように形成されている、傾斜板である。
【0011】
第1の発明では、傾斜板は、浄水場などの沈殿池に設置される傾斜板沈降装置に用いられる。この傾斜板は、横方向にアーチ状、つまり横方向中央部が上側に凸となる湾曲板状に形成された傾斜板本体と、傾斜板本体を囲繞するように形成された上辺、下辺および両側辺を含む周縁部とを含む。また、傾斜板は、傾斜板本体の上端の弓形開口を塞ぐように形成された第1弓板状部を有する。そして、上辺は、両側辺と同一平面上に形成され、第1弓板状部は、その同一平面と直交する面よりも傾斜板本体の中央側に傾くように形成されている。
【0012】
第1の発明によれば、傾斜板本体をアーチ状に形成すると共に、第1弓板状部を有するので、傾斜板の強度を向上できる。また、傾斜板の上辺を両側辺と同一平面上に形成すると共に、第1弓板状部を傾斜板本体の中央側に傾くように形成しているので、傾斜板を複数段設置したときに、上側の傾斜板の上面と下側の傾斜板の上面との間隔を適切に確保することができる。したがって、傾斜板上に沈降した懸濁物質を適切に滑落させることができる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明に従属し、傾斜板本体の下端の弓形開口を塞ぐように形成された第2弓板状部を備え、下辺は、両側辺と同一平面上に形成され、第2弓板状部は、その同一平面と直交する面よりも傾斜板本体の中央側に傾くように形成されている。
【0014】
第2の発明によれば、傾斜板の強度をより適切に向上でき、傾斜板上に沈降した懸濁物質をより適切に滑落させることができる。
【0015】
第3の発明は、第1または第2の発明に従属し、傾斜板本体の両側端から側方へ突出するように形成され、傾斜板を支持するための支持フレームに設けられた溝状のガイド部材に対してスライド移動可能に嵌め入れられる袖板部を有する。
【0016】
第3の発明によれば、傾斜板の両側部に形成される袖板部がガイド部材によって支えられるので、アーチ状の傾斜板本体が横方向に拡がる(アーチが潰れる)変形をより確実に防止できる。したがって、傾斜板上に沈降した懸濁物質をより適切に滑落させることができると共に、ガイド部材からの傾斜板の脱落を適切に防止できる。
【0017】
第4の発明は、第1または第2の発明に従属し、傾斜板本体の両側に形成され、両側辺のそれぞれに沿って延びる第1リブを備える。
【0018】
第4の発明によれば、上下方向の撓みに対する傾斜板の強度を向上でき、傾斜板の変形をより適切に防止できる。
【0019】
第5の発明は、第1または第2の発明に従属し、傾斜板本体の上側に形成され、上辺に沿って延びる第2リブを備える。
【0020】
第5の発明によれば、上下方向の撓みに対する傾斜板の上部の強度を向上でき、傾斜板の上部の変形をより適切に防止できる。
【0021】
第6の発明は、第1または第2の発明に従属し、傾斜板本体のアーチの高さは、50mm以下の大きさに設定される。
【0022】
第7の発明は、第2の発明に従属し、第1弓板状部の円弧端の曲率は、第2弓板状部の円弧端の曲率よりも大きい。
【0023】
第8の発明は、第3の発明に従属し、袖板部に形成され、ガイド部材に形成された係止部によって係止される第3リブを備える。
【0024】
第8の発明によれば、水流などの影響により、袖板部に対してガイド部材からの抜け方向の力が作用したとしても、ガイド部材からの袖板部の抜けが防止されるので、傾斜板の落下を適切に防止できる。
【0025】
第9の発明は、複数の傾斜板を備える傾斜板沈降装置であって、横方向にアーチ状に形成された傾斜板本体と、傾斜板本体の両側端から側方へ突出する袖板部とを有する傾斜板、傾斜板を支持するための支持フレーム、および支持フレームに設けられ、袖板部がスライド移動可能に嵌め入れられる溝状のガイド部材を備える、傾斜板沈降装置である。
【0026】
第9の発明では、傾斜板沈降装置は、複数の傾斜板本体と、傾斜板を支持するためのメインフレームである支持フレームと、支持フレームに設けられたガイド部材とを備える。傾斜板は、横方向にアーチ状、つまり横方向中央部が上側に凸となる湾曲板状に形成された傾斜板本体と、傾斜板本体の両側端から側方へ突出する袖板部とを有する。また、ガイド部材は、傾斜板の袖板部がスライド移動可能に嵌め入れられる溝状に形成される。
【0027】
第9の発明によれば、傾斜板本体をアーチ状に形成したので、傾斜板の強度を向上できる。また、傾斜板の両側部に形成される袖板部がガイド部材によって支えられるので、アーチ状の傾斜板本体が横方向に拡がる(アーチが潰れる)変形をより確実に防止できる。したがって、傾斜板上に沈降した懸濁物質を適切に滑落させることができると共に、ガイド部材からの傾斜板の脱落を適切に防止できる。
【発明の効果】
【0028】
この発明によれば、傾斜板の強度を向上させることができ、傾斜板上に沈降した懸濁物質を適切に滑落させることができる。
【0029】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う後述の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】この発明の一実施例である傾斜板を備える傾斜板沈降装置が設置された沈殿池の一例を概略的に示す図である。
図2】傾斜板沈降装置の一部を示す斜視図である。
図3】傾斜板沈降装置の一部を示す縦断面図である。
図4】傾斜板沈降装置が備えるガイド部材および傾斜板を示す横断面図である。
図5】傾斜板沈降装置のガイド部材下端部の周辺部分を拡大して示す図である。
図6】傾斜板を示す斜視図である。
図7】傾斜板を示す正面図である。
図8図7のVIII-VIII線で切断した傾斜板の断面を示す縦断面図である。
図9図7のIX-IX線で切断した傾斜板の断面を示す横断面図である。
図10】この発明の他の実施例である傾斜板沈降装置の一部を示す斜視図である。
図11】従来のアーチ状の傾斜板本体を備える傾斜板における問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1および図2を参照して、この発明の一実施例である傾斜板10は、浄水場などの沈殿池12に設置される傾斜板沈降装置14に適用され、原水(被処理水)中における汚泥などの懸濁物質の沈降を促進させてその除去効率を高めるために用いられる。
【0032】
先ず、傾斜板10の具体的な説明に先立ち、この実施例で用いる沈殿池12および傾斜板沈降装置14の一例について簡単に説明する。ただし、以下に述べる沈殿池12および傾斜板沈降装置14の構成は、単なる一例であり、これに限定されるものではない。
【0033】
図1に示すように、沈殿池12は、一方側壁に形成される流入口12aと、一方側壁と対向する他方側壁に形成される流出口12bとを有する。沈殿池12内には、複数の傾斜板10を備える傾斜板沈降装置14が設置される。傾斜板沈降装置14は、脚部材16または吊り部材などを用いて、沈殿池12の底面との間に所定の空間が確保されるように設置される。このような沈殿池12において、流入口12aから沈殿池12内に流入した原水は、傾斜板沈降装置14の一方側面側から傾斜板10間に形成される流路に進入して他方側面側に抜けていく。この際、原水中に含まれる懸濁物質は、傾斜板10上に沈降して滑落していくことで原水から分離される。懸濁物質が除去された原水は、処理水として流出口12bから流出される。
【0034】
なお、図1では、傾斜板沈降装置14として横向流方式のものを例示しているが、傾斜板10は、上向流式の傾斜板沈降装置にも適用可能である。上向流式の傾斜板沈降装置では、原水が下面側から傾斜板10間に形成される流路に進入して上面側に抜けていく。
【0035】
図2図4に示すように、傾斜板沈降装置14は、複数の傾斜板10と、傾斜板10を支持するためのメインフレームである支持フレーム20と、支持フレーム20に設けられたガイド部材22とを備える。
【0036】
傾斜板10は、全体として矩形板状に形成され、水平方向に対して所定の傾斜角度θで傾斜させた(つまり斜めに立てた)状態で、厚み方向に所定の間隔D1で並列に配置される。これら厚み方向に並ぶ傾斜板10同士の間に原水の流路が形成され、この実施例の横向流方式の傾斜板沈降装置14では、原水は傾斜板10の幅方向に沿って流れる。傾斜角度θは、懸濁物質が傾斜板10を滑落可能な角度ならば特に限定されないが、たとえば30度~70度に設定されることが好ましい。また、間隔D1は、特に限定されないが、たとえば60mm以上120mm以下に設定されることが好ましい。この実施例では、傾斜角度θは60度であり、間隔D1は100mmである。
【0037】
また、この実施例では、傾斜板10は、上下方向に複数段に配置されると共に、横方向(傾斜板10の幅方向)に複数列に配置される。この際、上下に並ぶ傾斜板10は、鉛直方向に対して逆方向(互い違い)に傾斜して設けられる。
【0038】
ただし、図2および図3では、図面の簡略化のため、厚み方向に4つの傾斜板10が並ぶように示し、その他の厚み方向に並ぶ傾斜板10については省略しているが、厚み方向に並べる傾斜板10の枚数は、適宜変更可能である。また、上下方向に配置する傾斜板10の段数、および横方向に配置する傾斜板10の列数も、適宜変更可能である。傾斜板10の具体的構成については、後述する。
【0039】
支持フレーム20は、鉛直方向に延びる複数の縦フレーム24と水平方向に延びる複数の横フレーム26とを含み、パイプ材、丸棒材または長板材などを適宜組み合わせることによって構成される。
【0040】
ガイド部材22は、傾斜板10の両側部(後述する袖板部58)がスライド移動可能に嵌め入れられる一対の溝状部材であって、傾斜板10を取付位置まで案内すると共に、支持フレーム20に対して傾斜板10を所定の傾斜角度θで連結固定するために用いられる。具体的には、ガイド部材22は、上片22a、側片22bおよび下片22cを有し、内側(保持する傾斜板10側)に向かって開口する溝状に形成される。また、ガイド部材22の内面(具体的には上片22aの先端部)には、下方に向かって突出する係止部22dが形成される。ガイド部材22の長さは、傾斜板10の上下方向の長さ(つまり後述する側辺10c,10dの長さ)と略同じ大きさに設定される。つまり、ガイド部材22は、傾斜板10の両側部をその全長に亘って支持する。
【0041】
このようなガイド部材22は、上下に並ぶ横フレーム26間を斜め方向に架け渡すように、第1固定ピン28(図5参照)等を用いて横フレーム26に固定される。また、支持フレーム20およびガイド部材22に傾斜板10を取り付ける際には、傾斜板10の下端部を持ち、傾斜板10を下側から(ただし上側からでもよい)一対のガイド部材22間に挿入して、上方に押し上げるようにする。この際、傾斜板10の両側部をガイド部材22の溝内に嵌め入れてスライド移動させることで、傾斜板10がその取付位置まで適切に案内される。傾斜板10が取付位置までくると、第2固定ピン30(図5参照)等を用いてガイド部材22に傾斜板10を固定する。
【0042】
続いて、図6図9を参照して、傾斜板10の構成について具体的に説明する。図6図9に示すように、傾斜板10は、アーチ状の傾斜板本体50、第1弓板状部54および第2弓板状部56などを備える。傾斜板10は、たとえば、矩形平板状の原板を真空成形で加工することによって製造される。傾斜板10の材質としては、各種の合成樹脂および金属などを用いることができ、特に限定されないが、硬質塩化ビニルを用いることが好ましい。
【0043】
傾斜板10は、上述のように全体として矩形板状に形成される。傾斜板10の上辺10aおよび下辺10bは、互いに平行に直線状に延び、傾斜板10の第1側辺10cおよび第2側辺10d(以下、まとめて「両側辺10c,10d」と言うことがある。)は、上辺10aおよび下辺10bと直交する方向に、互いに平行に直線状に延びる。また、傾斜板10の上辺10aおよび下辺10bは、両側辺10c,10dと同一平面上に形成される。
【0044】
傾斜板本体50は、傾斜板10の大部分を占める主要部分であって、横方向(幅方向)に延びるアーチ状、つまり横方向の中央部が上側に凸となる湾曲板状に形成される。この傾斜板本体50の上面(懸濁物質が滑落する面)は、凹凸のない(つまりリブ等が形成されない)滑らかな曲面となっている。上述の上辺10a、下辺10bおよび両側辺10c,10dを含む傾斜板10の周縁部52は、傾斜板本体50を囲繞するように形成される。
【0045】
また、傾斜板本体50の上端には、アーチ状にすることによって傾斜板本体50の下面側に形成される弓形開口を塞ぐように、弓形平板状の第1弓板状部54が形成される。この第1弓板状部54は、上辺10a、下辺10bおよび両側辺10c,10dが形成される同一平面と直交する面Fよりも傾斜板本体50の中央側に傾くように形成される。つまり、第1弓板状部54は、面F方向に形成されるのではなく、傾斜板本体50側に入り込むように面F方向に対して下側に傾斜して形成されている。
【0046】
一方、傾斜板本体50の下端には、当該下端に形成される弓形開口を塞ぐように、弓形平板状の第2弓板状部56が形成される。この第2弓板状部56も、上辺10a、下辺10bおよび両側辺10c,10dが形成される同一平面と直交する面Fよりも傾斜板本体50の中央側に傾くように形成される。つまり、第2弓板状部56は、面F方向に形成されるのではなく、傾斜板本体50側に入り込むように面F方向に対して上側に傾斜して形成されている。
【0047】
第1弓板状部54の円弧端54aの曲率は、第2弓板状部56の円弧端56aの曲率よりも大きくなるように設定される。すなわち、面F方向に対する第1弓板状部54の傾斜角度θ1は、面F方向に対する第2弓板状部56の傾斜角度θ2よりも大きくなるように設定される。また、第1弓板状部54の傾斜角度θ1は、傾斜板10を所定の傾斜角度θで設置したときに、第1弓板状部54の上面が所定の下り勾配を維持できるように設定される。この実施例では、第1弓板状部54の傾斜角度θ1は78度であり、第2弓板状部56の傾斜角度θ2は60度である。
【0048】
また、傾斜板10は、傾斜板本体50の両側端から側方(外方)へ突出するように形成された上下方向(縦方向)に長い矩形板状の袖板部58を備える。これら袖板部58の外側部がガイド部材22に対してスライド移動可能に嵌め入れられる部分となる。また、各袖板部58の内側部、つまり傾斜板本体50の両側には、上側に凸となる略台形状に形成され、傾斜板10の両側辺10c,10dのそれぞれに沿って延びるリブ60(第1リブ)が形成される。さらに、各袖板部58の外側部、つまりガイド部材22に嵌め入れられる部分には、上側に凸となり、傾斜板10の両側辺10c,10dのそれぞれに沿って延びる小リブ62(第3リブ)が形成される。この小リブ62は、袖板部58がガイド部材22の溝内に嵌め入れられたときに、ガイド部材22の係止部22dによって係止される(図4参照)。
【0049】
これらリブ60,62を有することで、上下方向の撓みに対する傾斜板10の強度を向上させることができるので、傾斜板10の変形を適切に防止できる。また、アーチ状の傾斜板本体50の上面に沈降した懸濁物質(沈殿物)は、左右に分かれながら下方に滑落していくことになるが、傾斜板本体50の両側にリブ60を有することで、傾斜板本体50の上面で左右に分かれた懸濁物質は、リブ60によって堰き止められ、傾斜板本体50の側部とリブ60との間の溝部を塊となって滑落していく。これによって、より適切に懸濁物質を滑落させることができる。また、水流などの影響により、袖板部58に対してガイド部材22からの抜け方向(つまり内向き)の力が作用したとしても、小リブ62がガイド部材22の係止部22dによって係止されることで、ガイド部材22からの袖板部58の抜けが防止され、傾斜板10の落下が防止される。
【0050】
また、袖板部58の両端部には、上述の第2固定ピン30が挿通される固定用孔64が形成される。この固定用孔64に第2固定ピン30を挿通させることで、傾斜板10のずり落ちが防止された状態でガイド部材22に傾斜板10が固定される。
【0051】
さらに、傾斜板10は、傾斜板本体50および第1弓板状部54の上端から上方(外方)へ突出するように形成された横方向に長い矩形板状の延出部を有している。そして、この延出部には、上側に凸となる略三角形状に形成され、傾斜板10の上辺10aに沿って延びるリブ66(第2リブ)が形成される。このリブ66を有することで、横方向の撓みに対する傾斜板10の上端部の強度を向上させることができるので、傾斜板10の上部の変形をより確実に防止できる。
【0052】
また特に、上述のリブ60,62,66は、ガイド部材22に傾斜板10を取り付けるときに、その効果を発揮する。傾斜板10の下端部を持って下側から押し上げるときに、傾斜板10の下方向への撓み(垂れ)を防止すると共に、傾斜板10の上端部の横方向の撓みを防止することで、一対のガイド部材22間に傾斜板10を挿入し易くなるからである。
【0053】
また、傾斜板10および傾斜板10の各部位の大きさは、特に限定されないが、傾斜板10の設置のし易さ等を考慮すると、傾斜板10の各辺の長さは、たとえば600mm~1500mmの大きさに設定されることが望ましい。この実施例では、傾斜板10の上下方向の長さL1(つまり両側辺10c,10dの長さ)は、1200mmであり、傾斜板10の横方向の長さW1(つまり上辺10aおよび下辺10bの長さ)は、1000mmである。また、この実施例では、傾斜板本体50の上下方向の長さL2は、1120mmであり、傾斜板本体50の横方向の長さW2は、840mmである。
【0054】
さらに、傾斜板本体50のアーチの高さTは、たとえば10mm以上50mm以下の大きさに設定されることが好ましく、たとえば20mm以上50mm以下の大きさに設定されることがより好ましい。傾斜板本体50のアーチの高さTが50mmより大きくなると、傾斜板10を厚み方向に最小の間隔d1(たとえば60mm)で並列に配置するときに、傾斜板10の設置作業および交換作業に支障をきたす恐れが生じるからである。また、傾斜板本体50のアーチの高さTが20mmより小さくなると、傾斜板本体50のアーチ状にすることによる強度向上(つまり変形し難くなる)の効果が小さくなり、傾斜板本体50のアーチの高さTが10mmより小さくなると、強度向上の効果が大幅に減少するからである。この実施例では、傾斜板本体50のアーチの高さTは、50mmである。
【0055】
このような傾斜板10においては、傾斜板本体50をアーチ状に形成したので、平板状に形成するよりも、上からの荷重に対する強度が増す。このため、傾斜板10に形成する補強用のリブの数を低減しつつ、傾斜板10上に懸濁物質が堆積することによる傾斜板10の撓み(変形)を防止できる。特に、この実施例では、傾斜板10の両側部(袖板部58)がその長手方向の全長に亘ってガイド部材22によって支えられるので、単に傾斜板10の4隅を固定することと比較して、上からの荷重がかかったときに発生する反力を適切に支えることができる。これにより、アーチ状の傾斜板本体50が横方向に拡がる(アーチが潰れる)変形をより確実に防止でき、ガイド部材22からの傾斜板10の脱落を適切に防止できる。
【0056】
また特に、この実施例では、傾斜板本体50の上端の弓形開口を塞ぐように形成された第1弓板状部54を備えるので、傾斜板本体50に対する上からの荷重を円弧端54aの接線方向に逃がすことができ、傾斜板10の上部の強度を向上させることができる。これにより、傾斜板10の上部の変形を適切に防止でき、傾斜板10の変形によって懸濁物質の滑落性能が低下して傾斜板10上に懸濁物質が堆積することを防止できる。また、傾斜板10の上辺10aを両側辺10c,10dと同一平面上に形成すると共に、その同一平面と直交する面Fよりも傾斜板本体50の中央側に傾くように第1弓板状部54を形成しているので、傾斜板10を複数段設置したときに、上側の傾斜板10の上面と下側の傾斜板10の上面との間隔D2を適切に確保することができる(図3参照)。したがって、懸濁物質を適切に滑落させることができる。さらに、第1弓板状部54を備えることで、傾斜板10の上側固定位置からアーチ状の傾斜板本体50がはみ出さないので、傾斜板10の固定作業が容易になる。
【0057】
さらに、この実施例では、傾斜板本体50の下端の弓形開口を塞ぐように形成された第2弓板状部56を備えるので、傾斜板本体50に対する上からの荷重を円弧端56aの接線方向に逃がすことができ、傾斜板10の下部の強度を向上させることができる。これにより、傾斜板10の下部の変形を適切に防止でき、傾斜板10の変形によって懸濁物質の滑落性能が低下して傾斜板10上に懸濁物質が堆積することをより適切に防止できる。また、傾斜板10の下辺10bを両側辺10c,10dと同一平面上に形成すると共に、その同一平面と直交する面Fよりも傾斜板本体50の中央側に傾くように第2弓板状部56を形成しているので、傾斜板10を複数段設置したときに、上側の傾斜板10の上面と下側の傾斜板10の上面との間隔D2をより適切に確保することができる(図3参照)。したがって、懸濁物質をより適切に滑落させることができる。さらに、第2弓板状部56を備えることで、傾斜板10の下側固定位置からアーチ状の傾斜板本体50がはみ出さないので、傾斜板10の固定作業が容易になる。
【0058】
また、この実施例では、傾斜板10の主要部(水中の懸濁物質が主として沈降する部分)である傾斜板本体50にリブを形成せず、傾斜板本体50の上面を凹凸のない滑らかな曲面としているので、水流の抵抗を低減でき、流量特性を向上させることができる。また、傾斜板10上に溜まる沈殿物を減少させることができるので、傾斜板10の撓みによる性能低下を防止できると共に、掃除等のメンテナンスコストを低減できる。
【0059】
以上のように、この実施例によれば、傾斜板本体50をアーチ状に形成すると共に、第1弓板状部54を有するので、傾斜板本体50に補強リブ等を形成することなく、傾斜板10の強度を適切に向上できる。また、傾斜板10の上辺10aを両側辺10c,10dと同一平面上に形成すると共に、第1弓板状部54を傾斜板本体50の中央側に傾くように形成しているので、傾斜板10を多段設置したときに、上側の傾斜板10の上面と下側の傾斜板10の上面との間隔D2を適切に確保することができる。したがって、傾斜板10上に沈降した懸濁物質を適切に滑落させることができる。
【0060】
また、この実施例によれば、第2弓板状部56を有するので、傾斜板10の強度をより適切に向上でき、傾斜板本体50上に沈降した懸濁物質をより適切に滑落させることができる。
【0061】
さらに、この実施例によれば、傾斜板10の両側部がガイド部材22によって支えられるので、アーチ状の傾斜板本体50が横方向に拡がる(アーチが潰れる)変形をより確実に防止でき、ガイド部材22からの傾斜板10の脱落を適切に防止できる。
【0062】
なお、上述の実施例では、上下方向に傾斜板10を2段で配置しているが、上述のように傾斜板10の段数は特に限定されず、図10に示す実施例のように、傾斜板10を1段のみの配置としてもよい。傾斜板10を1段配置にする場合においても、傾斜板本体50をアーチ状に形成すると共に、第1弓板状部54を有することで、傾斜板10の強度を適切に向上できるので、傾斜板10の変形を防止でき、延いては傾斜板10上に沈降した懸濁物質を適切に滑落させることができる。また、傾斜板本体50の上面に沈降した懸濁物質が左右(幅方向両側)に集まり易くなるので、二次凝集効果が増して懸濁物質をより適切に滑落させることができる。
【0063】
なお、上で挙げた寸法などの具体的数値および具体的形状などは、いずれも単なる一例であり、製品の仕様などの必要に応じて適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0064】
10 …傾斜板
12 …沈殿池
14 …傾斜板沈降装置
20 …支持フレーム
22 …ガイド部材
50 …傾斜板本体
52 …周縁部
54 …第1弓板状部
56 …第2弓板状部
58 …袖板部
60 …リブ(第1リブ)
62 …小リブ(第3リブ)
66 …リブ(第2リブ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11