(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094327
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】液晶表示装置、偏光板および偏光子保護フィルム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240702BHJP
G02F 1/13363 20060101ALI20240702BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20240702BHJP
G02F 1/13357 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G02B5/30
G02F1/13363
G02F1/1335 510
G02F1/13357
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024055857
(22)【出願日】2024-03-29
(62)【分割の表示】P 2020550395の分割
【原出願日】2019-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2018187327
(32)【優先日】2018-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 尭永
(72)【発明者】
【氏名】井上 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】村田 浩一
(57)【要約】
【課題】偏光板の構成部材である偏光子保護フィルムとしてポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムを、青色領域(400nm以上495nm未満)、緑色領域(495nm以上600nm未満)及び赤色領域(600nm以上780nm以下)の各波長領域にそれぞれ発光スペクトルのピークトップを有し、赤色領域(600nm以上780nm以下)におけるピークの半値幅が比較的狭い(最も強度の強いピークの半値幅が例えば5nm未満)発光スペクトルを有する白色発光ダイオードからなるバックライト光源を有する液晶表示装置に使用した場合にも、虹斑の発生を抑制でき、視認性が改善された液晶表示装置、偏光板、偏光子保護フィルムを提供することを課題とする。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムからなる偏光子保護フィルムであって、前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムは下記の(1)~(2)を満たすことを特徴とする偏光子保護フィルム。(1)ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムが3000~30000nmのリタデーションを有する、(2)観察角度55度における色度x値の周期斑のCTF値が1.2以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムからなる偏光子保護フィルムであって、前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムが下記の(1)及び(2)を満たすことを特徴とする偏光子保護フィルム。
(1)ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムが3000~30000nmのリタデーションを有する。
(2)400nm以上495nm未満、495nm以上600nm未満及び600nm以上780nm以下の各波長領域にそれぞれ発光スペクトルのピークトップを有し、かつ、蛍光体としてK2SiF6:Mn4+を有する白色発光ダイオードをバックライト光源として有する液晶表示装置において、前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムを光源側偏光板の光源側保護フィルムの光源側に重ねて貼り合わせた際に、観察角度55度における色度x値の周期斑のCTF値が1.2以下である。
【請求項2】
偏光子の少なくとも一方の面に請求項1に記載の偏光子保護フィルムが積層された偏光板。
【請求項3】
バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配された液晶セルを有する液晶表示装置であって、前記2つの偏光板のうち、少なくとも一方が請求項2に記載の偏光板である、液晶表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置、偏光板および偏光子保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)に使用される偏光板は、通常ポリビニルアルコール(PVA)などにヨウ素を染着させた偏光子を2枚の偏光子保護フィルムで挟んだ構成であり、偏光子保護フィルムとしては通常トリアセチルセルロース(TAC)フィルムが用いられている。近年、LCDの薄型化に伴い、偏光板の薄層化が求められるようになっている。しかし、このために保護フィルムとして用いられているTACフィルムの厚みを薄くすると、充分な機械強度を得ることが出来ず、また透湿性が悪化するという問題が発生する。また、TACフィルムは非常に高価であり、安価な代替素材としてポリエステルフィルムが提案されているが(特許文献1~3)、虹状の色斑が観察されるという問題があった。
【0003】
偏光子の片側に複屈折性を有する配向ポリエステルフィルムを配した場合、バックライトユニット、または、偏光子から出射した直線偏光はポリエステルフィルムを通過する際に偏光状態が変化する。透過した光は配向ポリエステルフィルムの複屈折と厚さの積であるリタデーションに特有の干渉色を示す。そのため、光源として冷陰極管や熱陰極管など不連続な発光スペクトルを用いると、波長によって異なる透過光強度を示し、虹状の色斑となる。
【0004】
上記の問題を解決する手段として、バックライト光源として白色発光ダイオードのような連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色光源を用い、更に偏光子保護フィルムとして一定のリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムを用いることが提案されている(特許文献4)。白色発光ダイオードは、可視光領域において連続的で幅広い発光スペクトルを有する。そのため、複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状に着目すると、配向ポリエステルフィルムのリタデーションを制御することで、光源の発光スペクトルと相似なスペクトルを得ることが可能となり、これにより虹斑を抑制することを可能とした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-116320号公報
【特許文献2】特開2004-219620号公報
【特許文献3】特開2004-205773号公報
【特許文献4】WO2011/162198
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液晶表示装置のバックライト光源として、青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体(YAG系黄色蛍光体)とを組み合わせた発光素子からなる白色発光ダイオード(白色LED)が、従来から広く用いられている。この白色光源の発光スペクトルは、可視光領域で幅広いスペクトルを有しているとともに、発光効率にも優れるため、バックライト光源として汎用されている。しかし、この白色LEDをバックライト光源とした液晶表示装置では、人間の目が認識可能なスペクトルの20%程度しか色を再現することが出来ない。
【0007】
一方、近年の色域拡大要求の高まりから、青色領域(400nm以上495nm未満)、緑色領域(495nm以上600nm未満)及び赤色領域(600nm以上780nm以下)の各波長領域にそれぞれ発光スペクトルのピークトップを有し、赤色領域(600nm以上780nm以下)におけるピークの半値幅が比較的狭い(最も強度の強いピークの半値幅が例えば5nm未満)発光スペクトルを有する白色発光ダイオード(例えば、青色発光ダイオードと、蛍光体として少なくともK2SiF6:Mn4+等のフッ化物蛍光体とを有する白色発光ダイオード等)からなるバックライト光源を使用した液晶表示装置が開発されている。上述した広色域化対応の液晶表示装置の場合、人間の目が認識可能なスペクトルの60%以上の色を再現することが可能になると言われている。
【0008】
上記の広色域化対応の白色光源は、従来のYAG系黄色蛍光体を用いた白色発光ダイオードからなる光源と比較してピークの半値幅が狭く、リタデーションを有するポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムを偏光板の構成部材である偏光子保護フィルムとして用いた場合に、虹斑が発生する場合があることが新たにわかった。
【0009】
すなわち、本発明では、偏光板の構成部材である偏光子保護フィルムとしてポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムを、「青色領域(400nm以上495nm未満)、緑色領域(495nm以上600nm未満)及び赤色領域(600nm以上780nm以下)の各波長領域にそれぞれ発光スペクトルのピークトップを有し、赤色領域(600nm以上780nm以下)におけるピークの半値幅が比較的狭い(最も強度の強いピークの半値幅が例えば5nm未満)発光スペクトルを有する白色発光ダイオードからなるバックライト光源を有する液晶表示装置」に使用した場合にも、虹斑の発生を抑制でき、視認性が改善された液晶表示装置、偏光板、偏光子保護フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムが特定範囲のリタデーションを有していることに加え、色度x値の周期斑のCTF値が小さいほど虹斑抑制に効果があることを見出した。
【0011】
代表的な本発明は、以下の通りである。
項1.
ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムからなる偏光子保護フィルムであって、前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムが下記の(1)及び(2)を満たすことを特徴とする偏光子保護フィルム。
(1)ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムが3000nm~30000nmのリタデーションを有する。
(2)400nm以上495nm未満、495nm以上600nm未満及び600nm以上780nm以下の各波長領域にそれぞれ発光スペクトルのピークトップを有し、かつ、蛍光体としてK2SiF6:Mn4+を有する白色発光ダイオードをバックライト光源として有する液晶表示装置において、前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムを光源側偏光板の光源側保護フィルムの光源側に重ねて貼り合わせた際に、観察角度55度における色度x値の周期斑のCTF値が1.2以下である。
項2.
偏光子の少なくとも一方の面に項1に記載の偏光子保護フィルムが積層された偏光板。
項3.
バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配された液晶セルを有する液晶表示装置であって、前記2つの偏光板のうち、少なくとも一方が項2に記載の偏光板である、液晶表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、偏光板の構成部材である偏光子保護フィルムとしてポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムを、「青色領域(400nm以上495nm未満)、緑色領域(495nm以上600nm未満)及び赤色領域(600nm以上780nm以下)の各波長領域にそれぞれ発光スペクトルのピークトップを有し、赤色領域(600nm以上780nm以下)におけるピークの半値幅が比較的狭い(最も強度の強いピークの半値幅が例えば5nm未満)発光スペクトルを有する白色発光ダイオードからなるバックライト光源を有する液晶表示装置」に使用した場合にも、虹斑の発生を抑制でき、視認性が改善された液晶表示装置、偏光板、偏光子保護フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】色度x値の周期斑のCTF値の測定および虹斑評価に用いた液晶表示装置のバックライト光源の発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.偏光子保護フィルム
本発明の偏光子保護フィルムに用いられるポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムは、3000nm以上30000nm以下のリタデーションを有することが好ましい。リタデーションが3000nm未満では、偏光子保護フィルムとして用いた場合、斜め方向から観察した時に強い干渉色を呈し、良好な視認性を確保することができない。好ましいリタデーションの下限値は4000nm、次に好ましい下限値は5000nmである。
【0015】
一方、リタデーションの上限は30000nmが好ましい。それ以上のリタデーションを有するポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムを用いたとしても更なる視認性の改善効果は実質的に得られず、フィルムの厚みも相当に厚くなり、工業材料としての取り扱い性が低下する。好ましい上限値は10000nmであり、より好ましい上限値は9000nmであり、さらにより好ましい上限値は8000nmである。
【0016】
なお、フィルム面内における屈折率差(遅相軸方向の屈折率-進相軸方向の屈折率)は、0.08以上が好ましい。一方向に強く延伸され、フィルム面内における屈折率差が大きいほうが、より薄いフィルムでも十分なリタデーションを得ることができ、薄膜化の観点から好ましく、より好ましくは0.09以上、さらに好ましくは0.10以上である。一方、フィルム面内の屈折率差が大きくなりすぎると、フィルムの力学特性の異方性が顕著となるため、裂け、破れ等を生じやすくなり、工業材料としての実用性が著しく低下することから、前記屈折率差の上限は0.15以下が好ましい。
【0017】
なお、本発明のリタデーションは、フィルム面内における2軸方向の屈折率とフィルム厚みを測定して求めることもできるし、KOBRA-21ADH(王子計測機器株式会社)といった市販の自動複屈折測定装置を用いて求めることもできる。屈折率の測定波長は589nmで測定する。
【0018】
本発明の偏光子保護フィルムに用いるポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムは、特定範囲のリタデーションを有することに加え、400nm以上495nm未満、495nm以上600nm未満及び600nm以上780nm以下の各波長領域にそれぞれ発光スペクトルのピークトップを有し、かつ、蛍光体としてK2SiF6:Mn4+を有する白色発光ダイオードをバックライト光源として有する液晶表示装置において、前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムを光源側偏光板の光源側保護フィルムの光源側に重ねて貼り合わせた際に、観察角度55度における色度x値の周期斑のCTF値が1.2以下であることが、斜め方向から観察される虹斑を抑制する観点から好ましい。前記CTF値は1.2以下が好ましく、より好ましくは1.1以下であり、より好ましくは1.0以下であり、さらに好ましくは0.9以下である。一方、CTF値を低減するには前記ポリエチレンテレフタレート系フィルムの一軸配向性を高める必要があるが、過度に一軸配向性を高めるとフィルムが裂けやすくなるため好ましくなく、下限は0.1が好ましい。ここで、CTF値は(1)式で表される。
(CTF値)
=(Σ(|Xk-Xk+1|/|Xk+Xk+1|)/N)×100・・・(1)
但しXk、Xk+1:色度x値の周期斑でそれぞれk番目、k+1番目に出現する極値(極大値および極小値)における色度x値、N:解析領域内に出現する極値(極大値および極小値)の総数。
【0019】
複屈折体によって生じる干渉色は、その複屈折体の有するリタデーションの値によって変化するが、リタデーションが低い領域ではリタデーションの値に応じて様々な色が発現する一方、リタデーションが特定の値以上の領域では、リタデーションが変化してもマゼンタ系色とシアン系色のみが交互に周期的に繰り返し発現することが知られている(例えばMichel-Levy Interference Color Chartなど)。本発明者らが鋭意検討した結果、この周期的な干渉色の変動の大小はCIE 1931のxy色度図における色度x値の周期斑のCTF値として定量的に測定可能であり、前記ポリエチレンテレフタレート系フィルムは、色度x値の周期斑のCTF値が小さいほど、偏光子保護フィルムとして用いた際にも虹斑の発生を効果的に抑制可能なことを見出した。色度x値の周期斑のCTF値は、イメージング色彩輝度計(RADIANT社製、ProMetric IC-PMI16にConoscope PM-CO-060を接続した装置)を用いて測定することができる。測定対象となる領域は直径3mm程度の円状であるが、周辺領域からのフレアー光による測定への影響を抑制する観点から、測定に用いる前記ポリエチレンテレフタレート系フィルムは、一辺の長さが少なくとも1cm以上の矩形状ないし直径が少なくとも1cm以上の円状であることが好ましい。測定に用いる前記ポリエチレンテレフタレート系フィルムは、2cm以上の矩形状ないし直径が2cm以上の円状であることがより好ましい。尚、測定時には前記ポリエチレンテレフタレート系フィルムをその進相軸方向が前記光源側偏光板の吸収軸方向に一致するよう貼り合わせる必要があるが、前記ポリエチレンテレフタレート系フィルムを貼り合わせた領域とその他の領域での明るさが視感上同等であれば貼り合わせ方向が適切であると判断することが可能であり、測定に用いる前記ポリエチレンテレフタレート系フィルムの形状が進相軸方向を長手方向とする矩形状であることに加え、前記液晶表示装置の画面サイズが前記ポリエチレンテレフタレート系フィルムの面積の2倍以上であることが、貼り合わせの良否を判断しやすく好ましい。また、前記ポリエチレンテレフタレート系フィルムと前記光源側偏光板の貼り合わせは、実質的に複屈折性を有さない物質を介して行われることが好ましい。具体的にはOCA(光学用透明粘着剤)または水を用いることが好ましく、水を用いることが特に好ましい。また、水の代わりに、エチレングリコール等を用いることもでき、水とエチレングリコールの混合物であってもよい。尚、前記ポリエチレンテレフタレート系フィルムに起因した色度x値の周期斑のみを測定する観点から、測定に用いる液晶表示装置は、前記光源側保護フィルムの光源側に前記ポリエチレンテレフタレート系フィルムを貼り合わせずに前記液晶表示装置のみで測定した際に色度x値の周期斑が実質的に観察されない、すなわち測定領域内で観測される色度x値の周期斑の極値(極大値および極小値)の総数が1個以下である必要がある。上記の観点から、測定に用いる前記液晶表示装置の視認側偏光板の視認側保護フィルムおよび光源側偏光板の光源側保護フィルムは実質的に複屈折性を有さないことが好ましく、具体的にはリタデーションが50nm以下であることが好ましく、更に具体的にはトリアセチルセルロースフィルムないしアクリルフィルムであることが好ましい。また、前記ポリエチレンテレフタレート系フィルムに起因した色度x値の周期斑を顕在化させて測定を容易にする観点から、測定に用いる液晶表示装置は、光源側偏光板の光源側保護フィルムとバックライト光源の間に反射型偏光板(例えば、3M社製DBEFシリーズ)を有する。その際、反射型偏光板の吸収軸は、光源側偏光板の偏光子の吸収軸と平行になるよう配置する。測定方法の詳細は実施例で後述する。
【0020】
本発明の偏光子保護フィルムに用いるポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムは、剛直非晶分率が33wt%以上であることが、前記色度x値の周期斑のCTF値を低減し、斜め方向から観察される虹斑を抑制する観点から好ましい。ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの剛直非晶分率は33wt%以上が好ましく、より好ましくは34wt%以上であり、より好ましくは35wt%以上であり、さらに好ましくは36wt%以上である。上限は60wt%が好ましいが、50wt%または45wt%程度でも十分である。ここで、剛直非晶分率は下記の(2)式で表される。
(剛直非晶分率(wt%))=100-(可動非晶分率(wt%))-(質量分率結晶化度(wt%))・・・(2)
なお、本明細書において、wt%は質量%と同義である。
【0021】
従来、高分子の高次構造は結晶と非晶に分かれていると考えられてきた。しかし近年、非晶領域はその分子運動の温度依存性により更に区別可能であり、ガラス転移点(Tg)で分子運動が解放される可動非晶と、Tg以上の温度でも分子運動が凍結された剛直非晶に分けられることが報告されている。この剛直非晶は、ポリエチレンテレフタレートの場合、200℃近傍の温度まで非晶のまま保持されることが知られている。よって、剛直非晶分率が大きいほど、フィルムの延伸や熱処理に伴う結晶化が進行し難いと考えられる。ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムでは、厚みやリタデーションが同じ場合には、そのベンゼン環が分子鎖軸まわりにランダムに配向しているほど、偏光子保護フィルムに用いた際に斜め方向から観察される虹斑が抑制される。一方で、ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムでは、結晶化に伴いベンゼン環がフィルム面に対し平行に配向することが知られている。既知の方法により製膜されたポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムでは、前述のフィルム面内における屈折率差を大きくすると、ベンゼン環のフィルム面に対する配向度も同時に大きくなり、十分な虹斑抑制効果を得ることができない場合があった。本発明者らが検討したところ、剛直非晶分率を上記範囲に制御することで、フィルム面内における屈折率差を大きくした際にも結晶化に伴うベンゼン環の配向を効果的に抑制し、斜め方向から観察される虹斑が抑制可能となることを見出した。
【0022】
上記(2)式で、剛直非晶分率は、可動非晶分率および質量分率結晶化度の値を用いて間接的に求められる。可動非晶分率は、示差走査熱量計(TA Instrument社製、Q100)を用いた温度変調DSC測定で得られる可逆熱容量曲線のTgにおける可逆熱容量差ΔCpから求められる。一方、質量分率結晶化度は、JIS K7112に従い密度勾配管を用いて得られた密度の値により算出される。詳細は実施例で後述する。
【0023】
本発明の保護フィルムであるポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムは、一般的なポリエステルフィルムの製造方法に基づき製造することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂を溶融し、シート状に押出し成形された無配向ポリエチレンテレフレート系樹脂をガラス転移温度以上の温度において、ロールの速度差を利用して縦方向に延伸した後、テンターにより横方向に延伸し、熱処理を施す方法が挙げられる。
【0024】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの製膜条件を具体的に説明すると、縦延伸温度、横延伸温度は100~130℃が好ましく、特に好ましくは110~125℃である。
フィルム幅方向(TD方向)に遅相軸を有するフィルムを製造する場合、縦延伸倍率は0.7~1.5倍が好ましく、特に好ましくは0.7倍~1.0倍である。また、延伸中の非晶分子鎖の緩和を抑制し剛直非晶分率を高める観点からは、横延伸倍率は高くすることが好ましい。横延伸倍率の下限は4.5倍が好ましく、より好ましくは4.7倍であり、特に好ましくは5.0倍である。一方、横延伸倍率が7.0倍を超えると、フィルムが横方向に裂けやすくなり生産性が低下する。従って、横延伸倍率の上限は7.0倍が好ましく、より好ましくは6.5倍であり、特に好ましくは6.0倍、最も好ましくは5.5倍である。
一方、フィルム縦方向(MD方向)に遅相軸を有するフィルムを製造する場合、横延伸倍率は好ましくは1.0~3.0倍であり、より好ましくは2.0~3.0倍である。延伸中の非晶分子鎖の緩和を抑制し剛直非晶分率を高める観点からは、縦延伸倍率は高くすることが好ましい。縦延伸倍率の下限は4.5倍が好ましく、より好ましくは4.7倍、特に好ましくは5.0倍である。縦延伸倍率が7.0倍を超えると、フィルムが縦方向に裂けやすくなり生産性が低下することから、縦延伸倍率の上限は7.0倍が好ましく、より好ましくは6.5倍、特に好ましくは6.0倍である。
リタデーションを上記範囲に制御するためには、縦延伸倍率と横延伸倍率の比率や、延伸温度、フィルムの厚みを制御することが好ましい。縦横の延伸倍率の差が小さすぎるとリタデーションを高くすることが難しくなり好ましくない。
熱処理時の結晶化に伴うベンゼン環のフィルム面に対する配向を抑制するためには、剛直非晶分率を増大させることが好ましい。具体的には、延伸中の非晶分子鎖の緩和を抑制する必要があり、フィルムの遅相軸方向への延伸における歪み速度を大きくすることが好ましい。歪み速度は13%/sec以上が好ましく、より好ましくは15%/sec以上、特に好ましくは17%/sec以上である。製膜性の観点から、上限は60%/secが好ましい。ここで、歪み速度は(遅相軸方向への延伸における公称歪み(%))/(遅相軸方向への延伸における所要時間(sec))で表される量であり、公称歪み(%)は((変形量(mm))/(初期長(mm)))×100により求められる。
続く熱処理においては、配向結晶化を促進しリタデーションを高める観点からは、熱処理温度の下限は150℃が好ましく、より好ましくは160℃であり、特に好ましくは170℃、最も好ましくは180℃である。一方、剛直非晶の結晶化を防ぎ、結晶の(100)面のフィルム面に対する配向度を下げる観点からは、熱処理温度の上限は220℃が好ましく、より好ましくは210℃であり、特に好ましくは200℃である。
【0025】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムを構成するポリエチレンテレフタレート系樹脂は、モノマーユニットの85モル%以上がエチレンテレフタレートであることが好ましい。エチレンテレフタレート単位は90モル%以上が好ましく、より好ましくは95モル%以上である。なお、共重合成分としては、公知の酸成分、グリコール成分を含んでもよい。ポリエチレンテレフタレート系樹脂として、特に好ましいものは、ホモポリマーであるポリエチレンテレフタレートである。
これらの樹脂は透明性に優れるとともに、熱的、機械的特性にも優れており、延伸加工によって容易にリタデーションを制御することができる。ポリエチレンテレフタレートは、固有複屈折が大きく、フィルムの厚みが薄くても比較的容易に大きなリタデーションが得ることができ、最も好適な素材である。
【0026】
また、ヨウ素色素などの光学機能性色素の劣化を抑制することを目的として、本発明の保護フィルムは、波長380nmの光線透過率が20%以下であることが望ましい。380nmの光線透過率は15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましい。前記光線透過率が20%以下であれば、光学機能性色素の紫外線による変質を抑制することができる。なお、本発明における透過率は、フィルムの平面に対して垂直方向に測定したものであり、分光光度計(例えば、日立U-3500型)を用いて測定することができる。
【0027】
本発明の保護フィルムの波長380nmの透過率を20%以下にするためには、紫外線吸収剤の種類、濃度、及びフィルムの厚みを適宜調節することが望ましい。本発明で使用される紫外線吸収剤は公知の物質である。紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤と無機系紫外線吸収剤が挙げられるが、透明性の観点から有機系紫外線吸収剤が好ましい。有機系紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、環状イミノエステル系等、及びその組み合わせが挙げられるが本発明の規定する吸光度の範囲であれば特に限定されない。しかし、耐久性の観点からはベンゾトアゾール系、環状イミノエステル系が特に好ましい。2種以上の紫外線吸収剤を併用した場合には、別々の波長の紫外線を同時に吸収させることができるので、より紫外線吸収効果を改善することができる。
【0028】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系紫外線吸収剤としては例えば2-[2'-ヒドロキシ-5' -(メタクリロイルオキシメチル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2' -ヒドロキシ-5' -(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2' -ヒドロキシ-5' -(メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2,2'-ジヒドロキシ-4,4'-ジメトキシベンゾフェノン、2,2',4,4'-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,4-ジ-tert-ブチル-6-(5-クロロベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール、2-(2'-ヒドロキシ-3'-tert-ブチル-5'-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチル-6-(tert-ブチル)フェノール、2,2'-メチレンビス(4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノールなどが挙げられる。環状イミノエステル系紫外線吸収剤としては例えば2,2’-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2-メチル-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、2-ブチル-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、2-フェニル-3,1-ベンゾオキサジン-4-オンなどが挙げられる。しかし特にこれらに限定されるものではない。
【0029】
また、紫外線吸収剤以外に、本発明の効果を妨げない範囲で、触媒以外の各種の添加剤を含有させることも好ましい様態である。添加剤として、例えば、無機粒子、耐熱性高分子粒子、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、リン化合物、帯電防止剤、耐光剤、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、ゲル化防止剤、界面活性剤等が挙げられる。また、高い透明性を奏するためにはポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムに実質的に粒子を含有しないことも好ましい。「粒子を実質的に含有させない」とは、例えば無機粒子の場合、ケイ光X線分析で無機元素を定量した場合に50ppm以下、好ましくは10ppm以下、特に好ましくは検出限界以下となる含有量を意味する。
【0030】
また、本発明におけるポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムに紫外線吸収剤を配合する方法としては、公知の方法を組み合わせて採用し得るが、例えば予め混練押出機を用い、乾燥させた紫外線吸収剤とポリマー原料とをブレンドしマスターバッチを作製しておき、フィルム製膜時に所定の該マスターバッチとポリマー原料を混合する方法などによって配合することができる。
【0031】
この時マスターバッチの紫外線吸収剤濃度は紫外線吸収剤を均一に分散させ、且つ経済的に配合するために5~30質量%の濃度にするのが好ましい。マスターバッチを作製する条件としては混練押出機を用い、押し出し温度はポリエチレンテレフタレート系原料の融点以上、290℃以下の温度で1~15分間で押し出すのが好ましい。290℃以上では紫外線吸収剤の減量が大きく、また、マスターバッチの粘度低下が大きくなる。押し出し時間1分以下では紫外線吸収剤の均一な混合が困難となる。この時、必要に応じて安定剤、色調調整剤、帯電防止剤を添加しても良い。
【0032】
また、本発明ではフィルムを少なくとも3層以上の多層構造とし、フィルムの中間層に紫外線吸収剤を添加することが好ましい。中間層に紫外線吸収剤を含む3層構造のフィルムは、具体的には次のように作製することができる。外層用としてポリエチレンテレフタレート系樹脂のペレット単独、中間層用として紫外線吸収剤を含有したマスターバッチとポリエチレンテレフタレート系樹脂のペレットを所定の割合で混合し、乾燥したのち、公知の溶融積層用押出機に供給し、スリット状のダイからシート状に押出し、キャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを作る。すなわち、2台以上の押出機、3層のマニホールドまたは合流ブロック(例えば角型合流部を有する合流ブロック)を用いて、両外層を構成するフィルム層、中間層を構成するフィルム層を積層し、口金から3層のシートを押し出し、キャスティングロールで冷却して未延伸フィルムを作る。なお、発明では、光学欠点の原因となる、原料のポリエチレンテレフタレート系樹脂中に含まれている異物を除去するため、溶融押し出しの際に高精度濾過を行うことが好ましい。溶融樹脂の高精度濾過に用いる濾材の濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)は、15μm以下が好ましい。濾材の濾過粒子サイズが15μmを超えると、20μm以上の異物の除去が不十分となりやすい。
【0033】
さらに、本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムには、偏光子との接着性を良好にするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理等を施したりすることも可能である。
【0034】
本発明においては、偏光子との接着性を改良のために、本発明のフィルムの少なくとも片面に、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂またはポリアクリル樹脂の少なくとも1種類を主成分とする易接着層を有することが好ましい。ここで、「主成分」とは易接着層を構成する固形成分のうち50質量%以上である成分をいう。本発明の易接着層の形成に用いる塗布液は、水溶性又は水分散性の共重合ポリエステル樹脂、アクリル樹脂及びポリウレタン樹脂の内、少なくとも1種を含む水性塗布液が好ましい。これらの塗布液としては、例えば、特許第3567927号公報、特許第3589232号公報、特許第3589233号公報、特許第3900191号公報、特許第4150982号公報等に開示された水溶性又は水分散性共重合ポリエステル樹脂溶液、アクリル樹脂溶液、ポリウレタン樹脂溶液等が挙げられる。
【0035】
易接着層は、前記塗布液を未延伸フィルム又は縦方向の1軸延伸フィルムの片面または両面に塗布した後、100~150℃で乾燥し、さらに横方向に延伸して得ることができる。最終的な易接着層の塗布量は、0.05~0.20g/m2に管理することが好ましい。塗布量が0.05g/m2未満であると、得られる偏光子との接着性が不十分となる場合がある。一方、塗布量が0.20g/m2を超えると、耐ブロッキング性が低下する場合がある。ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの両面に易接着層を設ける場合は、両面の易接着層の塗布量は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立して上記範囲内で設定することができる。
【0036】
易接着層には易滑性を付与するために粒子を添加することが好ましい。微粒子の平均粒径は2μm以下の粒子を用いることが好ましい。粒子の平均粒径が2μmを超えると、粒子が被覆層から脱落しやすくなる。易接着層に含有させる粒子としては、例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、シリカ、アルミナ、タルク、カオリン、クレー、リン酸カルシウム、雲母、ヘクトライト、ジルコニア、酸化タングステン、フッ化リチウム、フッ化カルシウム等の無機粒子や、スチレン系、アクリル系、メラミン系、ベンゾグアナミン系、シリコーン系等の有機ポリマー系粒子等が挙げられる。これらは、単独で易接着層に添加されてもよく、2種以上を組合せて添加することもできる。
【0037】
また、塗布液を塗布する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、リバースロール・コート法、グラビア・コート法、キス・コート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーコート法、パイプドクター法、などが挙げられ、これらの方法を単独であるいは組み合わせて行うことができる。
【0038】
なお、上記の粒子の平均粒径の測定は下記方法により行う。
粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で写真を撮り、最も小さい粒子1個の大きさが2~5mmとなるような倍率で、300~500個の粒子の最大径(最も離れた2点間の距離)を測定し、その平均値を平均粒径とする。
【0039】
本発明のポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの厚みは任意であるが、30~300μmの範囲が好ましく、より好ましくは40~200μmの範囲である。30μmを下回る厚みのフィルムでも、原理的には3000nm以上のリタデーションを得ることは可能である。しかし、その場合にはフィルムの力学特性の異方性が顕著となり、裂け、破れ等を生じやすくなり、工業材料としての実用性が著しく低下する。特に好ましい厚みの下限は45μmである。一方、偏光子保護フィルムの厚みの上限は、300μmを超えると偏光板の厚みが厚くなりすぎてしまい好ましくない。偏光子保護フィルムとしての実用性の観点からは厚みの上限は120μmが好ましく、より好ましくは100μm以下、さらにより好ましくは80μm以下、さらにより好ましくは65μm以下、さらにより好ましくは60μm以下、さらにより好ましくは55μm以下である。一般に、薄膜化の観点からは、偏光子保護フィルムの厚みは30~65μmの範囲とすることが好ましい。
【0040】
リタデーションの変動を抑制する為には、フィルムの厚み斑が小さいことが好ましい。延伸温度、延伸倍率はフィルムの厚み斑に大きな影響を与えることから、厚み斑の観点からも製膜条件の最適化を行う必要がある。特にリタデーションを高くするために縦延伸倍率を低くすると、縦厚み斑が悪くなることがある。縦厚み斑は延伸倍率のある特定の範囲で非常に悪くなる領域があることから、この範囲を外したところで製膜条件を設定することが望ましい。
【0041】
本発明のフィルムの厚み斑は5.0%以下であることが好ましく、4.5%以下であることがさらに好ましく、4.0%以下であることがよりさらに好ましく、3.0%以下であることが特に好ましい。
【0042】
偏光子保護フィルムに用いるポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムは、|ny-nz|/|ny-nx|で表されるNz係数が1.7以下であることが好ましい。Nz係数は次のようにして求めることができる。分子配向計(王子計測機器株式会社製、MOA-6004型分子配向計)を用いてフィルムの配向軸方向を求め、配向軸方向とこれに直交する方向の二軸の屈折率(ny、nx、但しny>nx)、及び厚さ方向の屈折率(nz)をアッベ屈折率計(アタゴ社製、NAR-4T、測定波長589nm)によって求める。こうして求めたnx、ny、nzを、|ny-nz|/|ny-nx|で表される式に代入して、Nz係数を求めることができる。Nz係数はより好ましくは1.65以下、さらに好ましくは1.63以下である。Nz係数の下限値は、1.2である。また、フィルムの機械的強度を保つためには、Nz係数の下限値は1.3以上が好ましく、より好ましくは1.4以上、さらに好ましくは1.45以上である。
【0043】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムは、そのリタデーション(Re)と厚さ方向リタデーション(Rth)の比(Re/Rth)が、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.6以上である。上記比(Re/Rth)が大きいほど好ましい。上限は2.0以下が好ましく、より好ましくは1.8以下である。なお、厚さ方向リタデーションとは、フィルム厚さ方向断面から見たときの2つの複屈折△Nxz(=|nx-nz|)、△Nyz(=|ny-nz|)にそれぞれフィルム厚さdを掛けて得られるリタデーションの平均を示すパラメーターである。nx、ny、nzとフィルム厚みd(nm)を求め、(△Nxz×d)と(△Nyz×d)との平均値を算出して厚さ方向リタデーション(Rth)を求めることができる。なお、nx、ny、nzは、アッベ屈折率計(アタゴ社製、NAR-4T、測定波長589nm)によって求める。
【0044】
2.偏光板
本発明の偏光板は、ポリビニルアルコール(PVA)などにヨウ素を染着させた偏光子の少なくとも一方の面に偏光子保護フィルムを貼り合わせた構造を有し、いずれかの偏光子保護フィルムが前述した本発明の偏光子保護フィルムであることが好ましい。他方の偏光子保護フィルムには、TACフィルムやアクリルフィルム、ノルボルネン系フィルムに代表されるような複屈折が無いフィルムを用いることが好ましい。また、他方の偏光子保護フィルムは必ずしも存在する必要はない。本発明に用いられる偏光板には、写り込み防止やギラツキ抑制、キズ抑制などを目的として、種々のハードコートを表面に塗布することも好ましい様態である。
【0045】
3.液晶表示装置
一般に、液晶パネルは、バックライト光源に対向する側から画像を表示する側(視認側)に向かう順に、後面モジュール、液晶セルおよび前面モジュールから構成されている。後面モジュールおよび前面モジュールは、一般に、透明基板と、その液晶セル側表面に形成された透明導電膜と、その反対側に配置された偏光板とから構成されている。ここで、偏光板は、後面モジュールでは、バックライト光源に対向する側に配置され、前面モジュールでは、画像を表示する側(視認側)に配置されている。
【0046】
本発明の液晶表示装置は少なくとも、バックライト光源と、2つの偏光板の間に配された液晶セルとを構成部材とする。また、これら以外の他の構成、例えばカラーフィルター、レンズフィルム、拡散シート、反射防止フィルムなどを適宜有しても構わない。前記2つの偏光板のうち、少なくとも一方の偏光板が前述した本発明の偏光板であることが好ましい。
【0047】
バックライトの構成としては、導光板や反射板などを構成部材とするエッジライト方式であっても、直下型方式であっても構わない。
【0048】
本発明の液晶表示装置内に搭載されるバックライト光源としては、特に限定せずに用いることができるが、なかでも、400nm以上495nm未満、495nm以上600nm未満、及び600nm以上780nm以下の各波長領域にそれぞれ発光スペクトルのピークトップを有し、赤色領域におけるピークの半値幅が比較的狭い(最も強度の強いピークの半値幅が例えば5nm未満)発光スペクトルを有する白色発光ダイオード(例えば、青色発光ダイオードと、蛍光体として少なくともK2SiF6:Mn4+であるフッ化物蛍光体(「KSF」ともいう)を有する白色発光ダイオード等)が好ましい。このような広色域対応の液晶表示装置のバックライト光源であっても、本発明の偏光子保護フィルムであれば、虹斑の発生を抑制することができるからである。
【0049】
その他、本発明の液晶表示装置内に搭載されるバックライト光源としては、400nm以上495nm未満、495nm以上600nm未満、及び600nm以上780nm以下の各波長領域にそれぞれ発光スペクトルのピークトップを有する白色光源を好ましく用いるこができる。このような光源としては、例えば、量子ドット技術を利用した白色光源、励起光によりR(赤)、G(緑)の領域にそれぞれ発光ピークを有する蛍光体と青色LEDを用いた蛍光体方式の白色LED光源、3波長方式の白色LED光源、赤色レーザーを組み合わせた白色LED光源等があげられる。
【0050】
また、従来から用いられてきた、化合物半導体を使用した青色光もしくは紫外光を発する発光ダイオードと、蛍光体(例えば、イットリウム・アルミニウム・ガーネット系の黄色蛍光体やテルビウム・アルミニウム・ガーネット系の黄色蛍光体など)を組み合わせた蛍光体方式の白色LEDも、好ましく用いることができる。
【0051】
当該特定のリタデーションを有する本発明の偏光子保護フィルムの液晶表示装置内における配置は特に限定されないが、入射光側(光源側)に配される偏光板と、液晶セルと、出射光側(視認側)に配される偏光板とを配された液晶表示装置の場合、入射光側に配される偏光板の入射光側の偏光子保護フィルム、及び/又は出射光側に配される偏光板の射出光側の偏光子保護フィルムが当該特定のリタデーションを有するポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムからなる偏光子保護フィルムであることが好ましい。特に好ましい態様は、出射光側に配される偏光板の射出光側の偏光子保護フィルムを当該特定のリタデーションを有するポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムとする態様である。上記以外の位置にポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムを配する場合は、液晶セルの偏光特性を変化させてしまう場合がある。偏光特性が必要とされる箇所には本発明の高分子フィルムを用いることは好ましくない為、このような特定の位置の偏光板の保護フィルムとして使用されることが好ましい。
【0052】
本発明の液晶表示装置の画面サイズとしては、特に限定されないが、32インチ以上が好ましい。
【実施例0053】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0054】
(1)リタデーション(Re)
リタデーションとは、フィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△Nxy=|nx-ny|)とフィルム厚みd(nm)との積(△Nxy×d)で定義されるパラメーターであり、光学的等方性、異方性を示す尺度である。二軸の屈折率の異方性(△Nxy)は、以下の方法により求めた。分子配向計(王子計測機器株式会社製、MOA-6004型分子配向計)を用いて、フィルムの遅相軸方向を求め、遅相軸方向が測定用サンプル長辺と平行になるように、4cm×2cmの長方形を切り出し、測定用サンプルとした。このサンプルについて、直交する二軸の屈折率(遅相軸方向の屈折率:ny,遅相軸方向と直交する方向の屈折率:nx)、及び厚さ方向の屈折率(nz)をアッベ屈折率計(アタゴ社製、NAR-4T、測定波長589nm)によって求め、前記二軸の屈折率差の絶対値(|nx-ny|)を屈折率の異方性(△Nxy)とした。フィルムの厚みd(nm)は電気マイクロメータ(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定し、単位をnmに換算した。屈折率の異方性(△Nxy)とフィルムの厚みd(nm)の積(△Nxy×d)より、リタデーション(Re)を求めた。
【0055】
(2)色度x値の周期斑のCTF値
色度x値の周期斑のCTF値は、前記(1)式で表され、イメージング色彩輝度計(RADIANT社製、ProMetric IC-PMI16にConoscope PM-CO-060を接続した装置)を用いて測定することができる。以下、測定方法の詳細を示す。
【0056】
(液晶表示装置へのサンプル貼付)
400nm以上495nm未満、495nm以上600nm未満及び600nm以上780nm以下の各波長領域にそれぞれ発光スペクトルのピークトップを有し、かつ、蛍光体としてK
2SiF
6:Mn
4+を有する白色発光ダイオードをバックライト光源として有する市販の液晶表示装置として、東芝社製 REGZA 43J10X(2014年製造品)を用いた。この液晶表示装置のバックライト光源の発光スペクトルを、浜松ホトニクス製 マルチチャンネル分光器 PMA-12を用いて露光時間20msecで測定したところ、
図1に示す通り、448nm、533nm、630nm付近にピークトップを有する発光スペクトルが観察され、各ピークトップの半値幅は2nm~49nmであった。尚、この液晶表示装置は、光源側偏光板の光源側保護フィルムとバックライト光源の間に反射型偏光板を有しており、その吸収軸は光源側偏光板の吸収軸と平行に配置されていた。
各実施例で製造したポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムを、進相軸方向を長手方向としてA4サイズに切り出し、前記液晶表示装置の光源側偏光板の光源側保護フィルムの光源側に重ねて貼り合わせた。その際、前記ポリエチレンテレフタレート系フィルムの進相軸方向が、光源側偏光板中の偏光子の吸収軸方向に一致するようにし、光源側偏光板の中心(対角線の交点)と前記ポリエチレンテレフタレート系フィルムの中心(対角線の交点)が一致するようにして貼り合わせた。また、光源側保護フィルムと前記ポリエチレンテレフタレート系フィルムは水道水を介して貼り合わせ、紙ウエス(日本製紙クレシア社製、キムタオル ホワイト 4つ折り)を用いて気泡を抜くとともに、余剰の水分を拭き取った。
【0057】
(測定およびCTF値の計算)
前記液晶表示装置を、ディスプレイ法線方向が床面に対し平行になるよう暗室内に設置し、各種設定項目を出荷時の状態とした上で白画面を表示した。ここで、白画面とはAdobe RGB色空間でR=255、G=255、B=255かつ大きさが縦5000ピクセル×横3125ピクセルのビットマップ画像をUSB端子より入力し表示させたものである。続いて、イメージング色彩輝度計(RADIANT社製、ProMetric IC-PMI16にConoscope PM-CO-060を接続した装置)を、受光部が前記液晶表示装置のディスプレイ側に正対するように設置し、イメージング色彩輝度計の光学系の中心軸がディスプレイの中心(対角線の交点)から引いた法線と一致し、かつ測定レンズ先端部とディスプレイ表面の距離が3mmとなるよう調整した。続いて、出射光の色度x値の方位角θ(度)に対する周期斑のプロファイルX(θ)(105≦θ≦170)を測定した。具体的には、“Define Points of Interest”メニューから、φ=55度においてθ=105度~170度まで1度間隔で色度x値を抽出するよう設定した。測定時、取り込み設定ではY、XおよびZフィルタを測定対象とし、自動露光調整に設定し、NDフィルタは不使用とした。また、測定設定ではConoscope Plot TypeをType Cに設定した。得られたX(θ)について、プロファイルの極値(極大値および極小値)Xk(1≦k≦N-1、N≧2、Nは極値の総数)を、そのときのθが小さい順にX1、X2、・・・と抽出し、前記(1)式に従ってCTF値を算出した。尚、ポリエチレンテレフタレート系フィルムを貼り合わせずに前記液晶表示装置のみで同様の測定を行った場合には色度x値の周期斑は観察されず、各実施例で製造したポリエチレンテレフタレート系フィルムに起因した色度x値の周期斑のみを適切に評価できていることを確認した。
【0058】
(3)剛直非晶分率
剛直非晶分率は、前記(2)式で表され、可動非晶分率および質量分率結晶化度の値から間接的に算出される。
可動非晶分率は、示差走査熱量計(TA Instrument社製、Q100)を用いた温度変調DSC測定により得られた可逆熱容量曲線のTgにおける可逆熱容量差ΔCp(J/(g・K))から、((試料のΔCp)/(完全非晶のΔCp))×100(wt%)で定義されるパラメーターである。ポリエチレンテレフタレートの場合、完全非晶のΔCp=0.4052(J/(g・K))である。試料はアルミニウムパン内に2.0±0.2mgで秤量し、MDSC(登録商標)ヒートオンリーモードで、平均昇温速度5.0℃/min、変調周期60secで測定した。測定データは5Hzのサンプリング周波数で収集した。また、温度および熱量の校正にはインジウムを、比熱の校正にはサファイアを用いた。
以下、TgおよびΔCpの算出方法を示す。まず、可逆熱容量曲線F(T)の温度Tの1次導関数F’(T)をプロットし、2401点毎の移動平均を取って平滑化処理を行ったのち、ピークトップにおける温度の値を読み取ることでTgを求めた。次に、点A(Tg-15,F(Tg―15))および点B(Tg+15,F(Tg+15))の2点を通る直線G(T)を求めた。続いて、Tg-15≦T≦Tg+15の範囲でF(T)-G(T)が最小となる温度をT1、最大となる温度をT2とした。ここで、T1はガラス転移の開始温度、T2はガラス転移の終了温度に相当することから、ΔCp=F(T2)-F(T1)によりΔCpの値を得た。
質量分率結晶化度χは、JIS K7112に従い水/硝酸カルシウム系の密度勾配管を用いて得られた密度の値d(g/cm3)を用いて、次式により算出した。
χ=(dc/d)×((d-da)/(d-dc))×100(wt%)
但し、dc:完全結晶の密度、da:完全非晶の密度
ポリエチレンテレフタレートの場合、dc=1.498(g/cm3)、da=1.335(g/cm3)である。
【0059】
(4)虹斑観察
PVAとヨウ素からなる偏光子の片側に後述する方法で作成したポリエチレンテレフタレートフィルムを偏光子の吸収軸とフィルムの配向主軸が垂直になるように貼り付け、その反対の面に市販のTACフィルムを貼り付けて偏光板を作成した。得られた偏光板を、市販の液晶表示装置(東芝社製、REGZA 43J10X)に元々存在した出射光側の偏光板と置き換えた。なお、偏光板の吸収軸が、元々液晶表示装置に貼付されていた偏光板の吸収軸方向と一致するように、ポリエチレンテレフタレートフィルムが視認側になるよう偏光板を置き換えた。前記液晶表示装置は、励起光を出射する光源とK
2SiF
6:Mn
4+蛍光体を含むバックライト光源を有する。この液晶表示装置のバックライト光源の発光スペクトルを、浜松ホトニクス製 マルチチャンネル分光器 PMA-12を用いて測定したところ、
図1に示す通り、448nm、533nm、630nm付近にピークトップを有する発光スペクトルが観察された。各ピークトップの半値幅は2nm~49nmであり、630nm付近には複数のピークが観察されたが、前記ピークの内で最も発光強度の大きいピークの半値幅は3nmであった。尚、スペクトル測定の際の露光時間は20msecとした。
このようにして作製した液晶表示装置に白画像を表示させ、ディスプレイの正面、および、斜め方向から目視観察を行って、虹斑の発生について、以下のように判定した。なお、観察角度は、ディスプレイの画面の中心から法線方向(垂直)に引いた線と、ディスプレイ中心と観察時の眼の位置とを結ぶ線とのなす角とした。
◎ : 観察角度0~60度の範囲で、虹斑は観察されなかった。
○ : 観察角度0~60度の範囲で、一部薄い虹斑が観察された。
× : 観察角度0~60度の範囲で、明確に虹斑が観察された。
【0060】
(製造例1-ポリエステルA)
エステル化反応缶を昇温し200℃に到達した時点で、テレフタル酸を86.4質量部およびエチレングリコール64.6質量部を仕込み、撹拌しながら触媒として三酸化アンチモンを0.017質量部、酢酸マグネシウム4水和物を0.064質量部、トリエチルアミン0.16質量部を仕込んだ。ついで、加圧昇温を行いゲージ圧0.34MPa、240℃の条件で加圧エステル化反応を行った後、エステル化反応缶を常圧に戻し、リン酸0.014質量部を添加した。さらに、15分かけて260℃に昇温し、リン酸トリメチル0.012質量部を添加した。次いで15分後に、高圧分散機で分散処理を行い、15分後、得られたエステル化反応生成物を重縮合反応缶に移送し、280℃で減圧下重縮合反応を行った。
【0061】
重縮合反応終了後、95%カット径が5μmのナスロン製フィルターで濾過処理を行い、ノズルからストランド状に押出し、予め濾過処理(孔径:1μm以下)を行った冷却水を用いて冷却、固化させ、ペレット状にカットした。得られたポリエチレンテレフタレート樹脂(A)の固有粘度は0.62dl/gであり、不活性粒子及び内部析出粒子は実質上含有していなかった。(以後、PET(A)と略す。)
【0062】
(製造例2-ポリエステルB)
乾燥させた紫外線吸収剤(2,2’-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)10質量部、粒子を含有しないPET(A)(固有粘度が0.62dl/g)90質量部を混合し、混練押出機を用い、紫外線吸収剤含有するポリエチレンテレフタレート樹脂(B)を得た。(以後、PET(B)と略す。)
【0063】
(製造例3-接着性改質塗布液の調製)
常法によりエステル交換反応および重縮合反応を行って、ジカルボン酸成分として(ジカルボン酸成分全体に対して)テレフタル酸46モル%、イソフタル酸46モル%および5-スルホナトイソフタル酸ナトリウム8モル%、グリコール成分として(グリコール成分全体に対して)エチレングリコール50モル%およびネオペンチルグリコール50モル%の組成の水分散性スルホン酸金属塩基含有共重合ポリエステル樹脂を調製した。次いで、水51.4質量部、イソプロピルアルコール38質量部、n-ブチルセロソルブ5質量部、ノニオン系界面活性剤0.06質量部を混合した後、加熱撹拌し、77℃に達したら、上記水分散性スルホン酸金属塩基含有共重合ポリエステル樹脂5質量部を加え、樹脂の固まりが無くなるまで撹拌し続けた後、樹脂水分散液を常温まで冷却して、固形分濃度5.0質量%の均一な水分散性共重合ポリエステル樹脂液を得た。さらに、凝集体シリカ粒子(富士シリシア(株)社製、サイリシア310)3質量部を水50質量部に分散させた後、上記水分散性共重合ポリエステル樹脂液99.46質量部にサイリシア310の水分散液0.54質量部を加えて、撹拌しながら水20質量部を加えて、接着性改質塗布液を得た。
【0064】
(実施例1)
基材フィルム中間層用原料として粒子を含有しないPET(A)樹脂ペレット90質量部と紫外線吸収剤を含有したPET(B)樹脂ペレット10質量部を135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機2(中間層II層用)に供給し、また、PET(A)を常法により乾燥して押出機1(外層I層および外層III層用)にそれぞれ供給し、285℃で溶解した。この2種のポリマーを、それぞれステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、2種3層合流ブロックにて、積層し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この時、I層、II層、III層の厚さの比は10:80:10となるように各押し出し機の吐出量を調整した。
【0065】
次いで、リバースロール法によりこの未延伸PETフィルムの両面に乾燥後の塗布量が0.08g/m2になるように、上記接着性改質塗布液を塗布した後、80℃で20秒間乾燥した。
【0066】
この塗布層を形成した未延伸フィルムをテンター延伸機に導き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度130℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に5.5倍となるよう、歪み速度13.8%/secで延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、温度180℃の熱風ゾーンで熱処理し、さらに幅方向に3%の緩和処理を行い、フィルム厚み約60μmの一軸配向PETフィルムを得た。
【0067】
(実施例2)
実施例1と同じ方法で作製された未延伸フィルムをテンター延伸機に導き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度120℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に5.5倍となるよう、歪み速度18.3%/secで延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、温度180℃の熱風ゾーンで熱処理し、さらに幅方向に3%の緩和処理を行い、フィルム厚み約60μmの一軸配向PETフィルムを得た。
【0068】
(実施例3)
実施例1と同じ方法で作製された未延伸フィルムをテンター延伸機に導き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度118℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に5.0倍となるよう、歪み速度34.6%/secで延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、温度180℃の熱風ゾーンで熱処理し、さらに幅方向に3%の緩和処理を行い、フィルム厚み約60μmの一軸配向PETフィルムを得た。
【0069】
(実施例4)
実施例1と同じ方法で作製された未延伸フィルムをテンター延伸機に導き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度107℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に5.0倍となるよう、歪み速度34.6%/secで延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、温度180℃の熱風ゾーンで熱処理し、さらに幅方向に3%の緩和処理を行い、フィルム厚み約60μmの一軸配向PETフィルムを得た。
【0070】
(実施例5)
厚みを変えた以外は実施例1と同じ方法で作製された未延伸フィルムをテンター延伸機に導き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度125℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に5.5倍となるよう、歪み速度18.3%/secで延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、温度180℃の熱風ゾーンで熱処理し、さらに幅方向に3%の緩和処理を行い、フィルム厚み約50μmの一軸配向PETフィルムを得た。
【0071】
(実施例6)
実施例1と同じ方法で作製された未延伸フィルムをテンター延伸機に導き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度130℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に5.5倍となるよう、歪み速度13.8%/secで延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、温度200℃の熱風ゾーンで熱処理し、さらに幅方向に3%の緩和処理を行い、フィルム厚み約60μmの一軸配向PETフィルムを得た。
【0072】
(実施例7)
実施例1と同じ方法で作製された未延伸フィルムをテンター延伸機に導き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度120℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に6.0倍となるよう、歪み速度20.8%/secで延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、温度180℃の熱風ゾーンで熱処理し、さらに幅方向に3%の緩和処理を行い、フィルム厚み約50μmの一軸配向PETフィルムを得た。
【0073】
(比較例1)
実施例1と同じ方法で作製された未延伸フィルムをテンター延伸機に導き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度90℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に4.0倍となるよう、歪み速度12.5%/secで延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、温度180℃の熱風ゾーンで熱処理し、さらに幅方向に3%の緩和処理を行い、フィルム厚み約60μmの一軸配向PETフィルムを得た。
【0074】
(比較例2)
実施例1と同じ方法で作製された未延伸フィルムをテンター延伸機に導き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度130℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に5.5倍となるよう、歪み速度13.8%/secで延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、温度240℃の熱風ゾーンで熱処理し、さらに幅方向に3%の緩和処理を行い、フィルム厚み約60μmの一軸配向PETフィルムを得た。
【0075】
実施例、比較例で得られたPETフィルムについて測定した結果を表1に示す。
【0076】
本発明の液晶表示装置、偏光板および偏光子保護フィルムであれば、液晶表示装置の広色域化によりバックライト光源の発光スペクトルが多様化した場合でも、虹斑を抑制することができる。