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特開2024-9435対象物状態解析システム、対象物状態解析方法、およびプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009435
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】対象物状態解析システム、対象物状態解析方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/16 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
G01B7/16 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110957
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】508319990
【氏名又は名称】株式会社グローセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 亮二
(72)【発明者】
【氏名】飛島 崇志
(72)【発明者】
【氏名】山崎 雅裕
【テーマコード(参考)】
2F063
【Fターム(参考)】
2F063AA25
2F063BA13
2F063BB02
2F063BB05
2F063BC03
2F063CA08
2F063CB01
2F063DA02
2F063DA05
2F063EC05
2F063EC24
2F063FA10
2F063KA01
(57)【要約】
【課題】ひずみセンサによるひずみの測定精度を高める。
【解決手段】対象物例えば鉄道レールに貼り付けられ温度センサおよびひずみセンサを含むセンサ部と、センサ部から出力された収集データに基づいて温度とひずみ値との関係を求める関係特定部と、求められた関係に基づいて、対象物のひずみがひずみセンサに伝達される割合を示す伝達率Trと、ひずみセンサ出力値のオフセットΔεsとを算出する算出部と、を備える対象物状態解析システムを提供する。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の状態を解析する対象物状態解析システムであって、
前記対象物に貼り付けられひずみセンサおよび温度センサを含むセンサ部と、
前記センサ部から出力されたデータに基づいて、前記対象物の温度と前記ひずみセンサの出力値との関係を求める関係特定部と、
求められた前記関係に基づいて、前記対象物のひずみが前記ひずみセンサに伝達される割合を示す伝達率と、前記ひずみセンサの出力値のオフセットとを算出する算出部と、
を備える対象物状態解析システム。
【請求項2】
請求項1に記載の対象物状態解析システムにおいて、
算出された前記伝達率および前記オフセットに基づいて、前記ひずみセンサの出力値を補正する補正部を備える、
対象物状態解析システム。
【請求項3】
請求項1に記載の対象物状態解析システムにおいて、
特性特定部を備え、
前記算出部は、時系列的に複数の前記伝達率を算出し、
前記特性特定部は、算出された時系列の前記伝達率に基づいて、前記伝達率の時間変化の特性を求める、
対象物状態解析システム。
【請求項4】
請求項3に記載の対象物状態解析システムにおいて、
前記特性に基づいて推定される設定時点までの将来的な前記伝達率が基準値を下回る場合にアラームを報知する報知部を備える、
対象物状態解析システム。
【請求項5】
請求項1に記載の対象物状態解析システムにおいて、
算出された前記伝達率が基準値を下回る場合にアラームを報知する報知部を備える、
対象物状態解析システム。
【請求項6】
請求項1に記載の対象物状態解析システムにおいて、
前記関係特定部は、前記データのうち、前記温度の変化に対する前記ひずみセンサの出力値の変化を表す勾配が直線的であるデータに基づいて、前記関係を求める、
対象物状態解析システム。
【請求項7】
請求項1に記載の対象物状態解析システムにおいて、
前記センサ部は、前記ひずみセンサおよび前記温度センサを含む半導体チップと、前記半導体チップに接合された金属板とを含み、
前記金属板は、前記対象物に接着剤で接着される、
対象物状態解析システム。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の対象物状態解析システムにおいて、
前記対象物は、鉄道レールであり、
前記ひずみセンサの出力値は、前記鉄道レールの軸力を表す、
対象物状態解析システム。
【請求項9】
対象物の状態を解析する対象物状態解析方法であって、
前記対象物に貼り付けられひずみセンサおよび温度センサを含むセンサ部から出力されたデータに基づいて、温度と前記ひずみセンサの出力値との関係を求め、
求められた前記関係に基づいて、前記対象物のひずみが前記ひずみセンサに伝達される割合を示す伝達率と、前記ひずみセンサの出力値のオフセットとを算出する、
対象物状態解析方法。
【請求項10】
コンピュータを、
対象物に貼り付けられひずみセンサおよび温度センサを含むセンサ部から出力されたデータに基づいて、温度と前記ひずみセンサの出力値との関係を求める関係特定部、および
求められた前記関係に基づいて、前記対象物のひずみが前記ひずみセンサに伝達される割合を示す伝達率と、前記ひずみセンサの出力値のオフセットとを算出する算出部、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物状態解析システム、対象物状態解析方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属、樹脂などの物体は、その物体の温度によって体積が変化する。物体の温度変化によって物体の体積が変化すると、物体にひずみが生じ、その物体の利用に悪影響が及ぶ場合がある。
【0003】
例えば、鉄道レール(以下、「レール」ともいう)では、温度上昇に伴う軸力の増加を原因としてレールの張り出しや座屈など(以下、「非正常状態」ともいう)が発生する場合がある。レールの非正常状態が発生すると、鉄道車両(以下、電車、列車ともいう)が安全、正常に運転できなくなり、ひいては鉄道の運行に支障をきたすおそれがある。
【0004】
したがって、座屈等のレールの非正常状態の発生を防止または抑制し、列車の安全運行を維持するために、従前より、レールの軸力を測定し、レールの状態を監視する作業が行われている。すなわち、レールが座屈を生じる前にレールに発生している軸力を測定することができれば、軸力の大きさによって適宜対応処理を行うことができるため、列車の安全運行に寄与することができる。
【0005】
一方、対象物のひずみを高精度に計測するデバイスとして、半導体基板の表面に複数のピエゾ抵抗素子とアンプやA/Dコンバータ、他、様々な回路を形成したひずみセンサが開発されている。そのひずみセンサのモジュールの一例が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6293982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ひずみセンサを用いて対象物のひずみを計測する場合、ひずみセンサは、接着剤などの介在物を介して対象物に貼り付けられる。対象物に生じたひずみは、介在物を介して半導体チップに伝わる。介在物の状態は、常に一定ではなく、個々にバラツキが存在し、経年劣化も発生する。そのため、ひずみセンサによるひずみの測定精度を高めることは、非常に難しい。
【0008】
本発明の目的は、ひずみセンサによる対象物のひずみの測定精度を高めることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の代表的な一実施の形態は、対象物の状態を解析する対象物状態解析システムであって、前記対象物に貼り付けられひずみセンサおよび温度センサを含むセンサ部と、前記センサ部から出力されたデータに基づいて温度と前記ひずみセンサの出力値との関係を求める関係特定部と、求められた前記関係に基づいて、前記対象物のひずみが前記ひずみセンサに伝達される割合を示す伝達率と、前記ひずみセンサの出力値のオフセットとを算出する算出部と、を備える対象物状態解析システムである。
【0010】
本発明の代表的な一実施の形態は、対象物の状態を解析する対象物状態解析方法であって、前記対象物に貼り付けられひずみセンサおよび温度センサを含むセンサ部から出力されたデータに基づいて、温度と前記ひずみセンサの出力値との関係を求め、求められた前記関係に基づいて、前記対象物のひずみが前記ひずみセンサに伝達される割合を示す伝達率と、前記ひずみセンサの出力値のオフセットとを算出する、対象物状態解析方法である。
【0011】
また、本発明の代表的な一実施の形態は、コンピュータを、対象物に貼り付けられひずみセンサおよび温度センサを含むセンサ部から出力されたデータに基づいて、温度と前記ひずみセンサの出力値との関係を求める関係特定部と、求められた前記関係に基づいて、前記対象物のひずみが前記ひずみセンサに伝達される割合を示す伝達率と、前記ひずみセンサの出力値のオフセットとを算出する算出部として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ひずみセンサによる対象物のひずみの測定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態にかかるひずみセンサおよび温度センサを含む半導体チップの構成を示す概略平面図である。
図2】センサモジュールの上面図である。
図3】センサモジュールの封止樹脂を取り除いた状態を示す上面図である。
図4図3のA-A断面図である。
図5】レール軸力の計測を説明するための図である。
図6】コンピュータによって実現される機能ブロックを示す図である。
図7】レールの不動区間に貼り付けられたセンサモジュールの出力に基づくレール温度とひずみセンサ出力値との関係の一例を示す図である。
図8図7に示したひずみセンサ出力値の一部と、レールの熱膨張率から算出されたひずみと温度との関係とを比較した図である。
図9】レールの不動区間用のデータ補正処理を説明するための第1図である。
図10】レールの不動区間用のデータ補正処理を説明するための第2図である。
図11】レールの可動区間におけるひずみセンサ出力値の典型的なデータの例を示す図である。
図12】昇温時のひずみセンサ出力値のデータプロファイルを示す図である。
図13】レールの可動区間用のデータ補正処理を説明するための図である。
図14】ひずみセンサ出力値からオフセットの影響を減ずる手順を説明するための図である。
図15】ひずみセンサ出力値から伝達率の影響を減ずる手順を説明するための図である。
図16】本実施の形態に係るデータ補正アルゴリズムの処理の流れを説明するための図である。
図17】抽出された昇温時のデータの一例をグラフ化して示す図である。
図18】実験方法を説明するための図である。
図19】亀裂形成後の引張試験の結果を示す図である。
図20】伝達率を長期間にわたり間欠的に継続して測定した結果を示す図である。
図21図20のデータを基に伝達率Trの変化率を示す図である。
図22】本実施の形態にかかる被計測体状態解析システムによる接着層の健全性のモニタリングに関するアルゴリズムの一例を示すフロー図である。
図23】本実施の形態にかかる被計測体状態解析システムによる接着層の健全性のモニタリングに関するアルゴリズムの別例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。なお、本実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0015】
本実施の形態は、ひずみセンサおよび温度センサを含むセンサモジュールを被計測体に貼り付け、同モジュールをコンピュータに接続し、コンピュータが、ひずみセンサの出力値を補正して被計測体のひずみを高精度に計測または監視する被計測体状態解析システムである。なお、センサモジュールは、本願における「センサ部」の一例である。また、被計測体は、本願における「対象物」の一例である。
【0016】
<ひずみセンサおよび温度センサ>
図1は、本実施の形態にかかるひずみセンサおよび温度センサを含む半導体チップ1の構成を示す概略平面図である。図1に示すように、半導体チップ1は、シリコン基板9に、センサエレメントとしてのピエゾ抵抗素子2x-1,2y-1,2x-2,2y-2と、増幅器3と、A/D変換器4と、記憶演算部5,6と、温度センサ7と、外部装置と電気的に接続するための電極としてのパッド8と、を備えてなる。なお、シリコン基板9、ピエゾ抵抗素子2x-1,2y-1,2x-2,2y-2、増幅器3、A/D変換器4、および記憶演算部5,6は、ひずみセンサであり、本願における「ひずみセンサ」の一例である。また、温度センサ7は、本願における「温度センサ」の一例である。
【0017】
ピエゾ抵抗素子2x-1,2y-1,2x-2,2y-2は、ひずみセンサの中核をなす部分であり、これらピエゾ抵抗素子2x-1,2y-1,2x-2,2y-2に加えられた力によって抵抗値が変化する性質を有する。
【0018】
図1に示す例では、ピエゾ抵抗素子2x-1,2y-1,2x-2,2y-2は、シリコン基板9の外形と平行に配置されている。具体的には、ピエゾ抵抗素子2x-1,2x-2は、シリコン基板9のX方向に配置され、ピエゾ抵抗素子2y-1,2y-2は、シリコン基板9のY方向に配置されている。これら4つのセンサエレメントは、ブリッジを形成しており、ブリッジの中心はシリコン基板9の中心とほぼ等しい。
【0019】
本実施例では、センサエレメントとして、不純物をシリコンに拡散したピエゾ抵抗素子2x-1,2y-1,2x-2,2y-2を用いている。なお、センサエレメントは、ピエゾ抵抗素子に限定されるものではなく、ひずみによって抵抗が変化する物質、例えば、炭化ケイ素(SiC)、窒化クロム(CrN)の薄膜などであってもよい。
【0020】
また、図1ではピエゾ抵抗素子が4個しか描かれていないが、同一方向に多数の素子を分割して形成してもよく、図1に示すブリッジは、多数の抵抗素子を合計した回路と考えてもよい。
【0021】
次に、ひずみを受けた場合のピエゾ抵抗素子2x-1,2y-1,2x-2,2y-2の出力について述べる。X方向のひずみ量εxによって生じるピエゾ抵抗素子2x-1とピエゾ抵抗素子2x-2の抵抗値の変化は、ほぼ等しい。そこで、ここでは両方すなわちピエゾ抵抗素子2x-1とピエゾ抵抗素子2x-2の抵抗変化の和をΔRxと表記する。同様に、Y方向のひずみ量εyによって生じるピエゾ抵抗素子2y-1とピエゾ抵抗素子2y-2の抵抗変化の和をΔRyとする。本実施例に用いるひずみセンサでは、X方向のひずみ量εxとY方向のひずみ量εyとの差分、すなわちεx-εyに相当する出力値が発生する。したがって、ひずみを受けた場合のピエゾ抵抗素子2x-1,2y-1,2x-2,2y-2の出力は、ΔRx-ΔRyの抵抗変化に応じた出力となる。
【0022】
詳しく説明するために、X方向だけの引張応力σxを受けた場合の出力を考えてみる。ピエゾ抵抗素子2x-1,2y-1,2x-2,2y-2にX方向だけの引張応力σxを受けた場合、X方向のひずみ量εxが生じる。また、この場合、Y方向には応力を受けないが、材料のポアソン比νだけεy=-νεxの圧縮ひずみを生じる。その結果、εx-εy=εx(1+ν)のひずみ量に相当する信号値を出力する。
【0023】
さらに、本実施例で用いる半導体チップ1は、上述の通り、ブリッジ回路の信号を増幅する増幅器3と、A/D変換器4、記憶演算部5,6と、温度センサ7と、を備えている。記憶演算部5,6は、例えば、半導体メモリ等の記憶部と、CPU(Central Processing Unit)、MCU(Micro Controller Unit)等の演算部とを備えている。
【0024】
記憶演算部5,6の記憶部には、ブリッジ回路の出力を補正するための補正データが記憶されている。記憶演算部5,6の演算部は、記憶部に記憶された補正データに基づいてブリッジ回路の出力を補正する。一方の記憶演算部5は、例えば、ひずみに対する出力を調整するためのプログラムである出力調整ロジックが記憶部に記憶され、演算部によってブリッジ回路の出力を出力調整ロジックに基づいて調整する。他方の記憶演算部6は、例えば、温度特性による誤差を補正するプログラムである温度特性誤差補正ロジックが記憶部に記憶され、演算部によってブリッジ回路の出力を、温度センサ7の検出結果と温度特性誤差補正ロジックに基づいて補正する。
【0025】
<センサモジュール>
被計測体に生じたひずみは、上述した半導体チップ1のひずみセンサに伝わらなければならない。一方、被計測体に半導体チップ1を直接貼り付けることは、ハンドリングの観点から現実的ではない。また、半導体チップ1からの信号の取り出しも困難である。そこで、本実施の形態では、被計測体に容易に貼り付けることができるセンサモジュールを提案する。その一例を図2に示す。
【0026】
図2は、センサモジュール10の上面図である。センサモジュール10は、基材としてのFPC(Flexible printed circuits)13と、FPC13の第一の面に配置された金属薄板11と、FPC13の第二の面に配置された封止樹脂12と、を備える。なお、センサモジュール10は、本願における「センサ部」の一例である。また、金属薄板11は、本願における「金属板」の一例である。
【0027】
FPC13は、例えば図2に示すような長尺状の形状を有し、FPC13の一端側に金属薄板11および封止樹脂12が配置され、FPC13の他端側には出力端子131が設けられている。出力端子131は、コネクタあるいはケーブル等を介して、後述するコンピュータと接続される。
【0028】
また、金属薄板11は、図1で説明した半導体チップ1(図2では示さない)と接合され、半導体チップ1を保護する封止樹脂12を備える。
【0029】
センサモジュール10の使用時には、センサモジュール10の金属薄板11の図2における裏側の面を被計測体に貼り付ける。ここで、貼付け方法としては、スポット溶接などによる接合、ネジによる機械的な締結も可能であるが、スポット溶接では金属薄板11に局部的にひずみが生じる、ネジ締結ではネジ頭との摩擦によって生じる金属薄板11にねじりひずみが生じる。これらのひずみは、いわゆるノイズであり、センサモジュール10の計測精度を低減する大きな要因となることから、望ましくない。
【0030】
本発明者らは、センサモジュール10を被計測体、特に鉄道のレールなどに貼り付ける場合には、接着剤を用いて貼り付けることが、金属薄板11に発生するひずみを抑制する観点から最も適切であるという知見を得るに至った。
【0031】
なお、接着剤によりセンサモジュール10を被計測体に貼り付けた場合、被計測体のひずみが接着剤を介して金属薄板11に伝わり、金属薄板11のひずみが半導体チップ1に伝わることになる。
【0032】
図3は、センサモジュール10の封止樹脂12を取り除いた状態を示す上面図である。FPC13に設けられた打抜き孔132の中心に半導体チップ1が配置される。図2および図3に示すように、金属薄板11、半導体チップ1、および打抜き孔132は、ほぼ中心位置が等しく、点対称の配置になっている(図4も参照)。このような配置によれば、金属薄板11、FPC13、半導体チップ1の熱膨張率差によって生じる熱ひずみの低減が期待できる。
【0033】
図4は、図3のA-A断面図である。図4に示すように、半導体チップ1は、接合層15によって金属薄板11と接合されている。接合層15は、本実施例では金-錫共晶はんだを用いたが、これに限定されるものではない。接合層15は、強固な接合力と、金属薄板11のひずみを半導体チップ1に伝える十分な弾性率を有すればよい。接合層15は、例えば、加圧しながら加熱する拡散接合、真空中で清浄表面を形成して加圧する表面活性化接合などの方法を用いて構成してもよい。
【0034】
本実施例では、図1で示したパッド8(図4では示さない)とFPC13に形成された配線(図示せず)を金ワイヤ14で接続し、FPC13の末端に形成された出力端子131から信号が出力される。金属薄板11は、接着剤16を用いて被計測体であるレール100に貼り付けられる。なお、接着剤16は、本願における「接着剤」の一例である。
【0035】
<レールへのセンサモジュールの貼付け>
本実施の形態では、被計測体としてのレールにセンサモジュール10を貼り付けて、レールのひずみによって生じる軸力(以下、レール軸力ともいう)を計測する場合を例に説明する。
【0036】
図5は、レール軸力の計測を説明するための図である。図5では、枕木101の上に設置されたレール100にセンサモジュール10が貼り付けられた状態を示している。
【0037】
センサモジュール10の貼付け位置は、機能的には限定されるものではないが、鉄道の車輪との干渉を回避する必要性、貼付け作業のしやすさ等を考慮すると、図5に示す位置、すなわちレール100の腹部と呼ばれる側面の位置とすることが望ましい。本実施例では、加熱硬化型のエポキシ系接着剤を用いてレール100にセンサモジュール10を貼り付ける。より具体的には、センサモジュール10を所定の力でレールに押し付けながら、レールを加熱してエポキシ系接着剤を硬化させることにより、レール100にセンサモジュール10を貼り付ける。また、本実施例では、ヒータで加熱したアルミヒートブロック(図示せず)を、レール100におけるセンサモジュール10の貼付け面の反対側にある面に押し当てる方法を用いる。
【0038】
なお、レール100や接着剤等を加熱する方法としては、ヒータで加熱したヒートブロックをひずみセンサを取り囲むよう貼付側から押し当てる方法、高温の温風を当てる方法等、様々な方法を用いることができる。
【0039】
また、図5に示すように、センサモジュール10には、コンピュータ20が接続されている。コンピュータ20は、プロセッサ21、メモリ22、記憶装置23、およびインタフェース24を有しており、これらはバス25を介して互いに接続されている。プロセッサ21は、例えば、CPUなどで構成される。メモリ22は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などで構成される。記憶装置23は、いわゆるストレージであり、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)などで構成される。
【0040】
メモリ22あるいは記憶装置23には、プログラムPGが格納されている。プロセッサ21は、格納されているプログラムPGを読み出し、メモリ22、記憶装置23などを利用して実行することにより、各機能ブロックして機能する。
【0041】
図6は、コンピュータ20によって実現される機能ブロックを示す図である。図6に示すように、コンピュータ20は、関係特定部31、算出部32、補正部33、特性特定部34、および報知部35として機能する。また、これら機能ブロックが連携して、各種処理および各種アルゴリズム等を実行する。実行される各種処理および各種アルゴリズムの中には、データ補正処理、データ前処理、データ補正アルゴリズム、データ監視アルゴリズムなどが含まれる。各機能ブロック、各種処理、および各種アルゴリズムの詳細については後述する。
【0042】
<ひずみセンサによる計測結果例1>
ここで、レールの不動区間におけるひずみセンサ出力値の計測事例と、ひずみセンサ出力値を補正するデータ補正処理とについて説明する。
【0043】
一般に、レールは、整列配置する枕木に固定され、その固定力の積算によって長手方向の動きが拘束される。そのため、レールは、温度が上昇しても長手方向の熱膨張が生じ難い。レールにおけるこの領域は、「不動区間」と呼ばれる。
【0044】
一方で、レールの端部やつなぎ目などは積算した固定力が小さいため、レール温度が上昇した場合、熱膨張力が固定力を上回り、長手方向に熱膨張を生じる。レールにおけるこの領域は、「可動区間」と呼ばれる。
【0045】
図7は、レールの不動区間に貼り付けられたセンサモジュールの出力に基づくレール温度Tとひずみセンサ出力値εsとの関係の一例を示す図である。図7に示すグラフは、レールの不動区間に貼り付けられた4つのひずみセンサH1~H4についての測定結果を示している。図7に示すグラフにおいて、横軸はレール温度Tを示しており、縦軸はひずみセンサ出力値εsを示している。ひずみセンサ出力値εsは、レール長手方向のひずみを表す値であり、正の値が引張ひずみを表し、負の値が圧縮ひずみを表す。
【0046】
ここで、ひずみセンサ出力値εsについて改めて説明する。ひずみセンサは、温度が上昇すると、レールとひずみセンサとの熱膨張率差によってひずみが生じる。このひずみをεthと称する。しかし、レールとひずみセンサを構成する金属薄板11とは、同じ鉄系材料であり、その熱膨張率はほぼ等しく、熱膨張率差による影響は小さい。しかしながら、正確を期すため、事前に、拘束されず自由に熱膨張が可能な、レールと同質の鉄材に、ひずみセンサを貼付けし、温度を変えて、温度に対するひずみセンサの出力、すなわちレールとひずみセンサとの熱膨張率差によって生じるひずみεthを計測した。このひずみεthの値を、ひずみセンサの出力から差し引き、εthの影響をキャンセルした。
【0047】
また、先の説明のように、ひずみセンサ出力値は、内部に設けられたX方向のピエゾ抵抗素子の抵抗変化ΔRxとY方向のピエゾ抵抗素子の抵抗変化ΔRyとの差分から算出される。すなわち、X方向のひずみ量εxとY方向のひずみ量εyとの差分、すなわちεx-εyに相当する出力値が発生する。図7の実施例では、レール長手方向をX方向、レール高さ方向をY方向として、その詳細を説明する。
【0048】
レールは長手方向、すなわちX方向に拘束されているため、貼付けされているひずみセンサのX方向の熱膨張が抑制され、圧縮ひずみが生じる。このひずみがεxである。
【0049】
一方、レールは、高さ方向すなわちY方向においては拘束されておらず自由なので、熱膨張する。貼付けされているひずみセンサも同様に熱膨張するが、その熱膨張差によってひずみが生じる。しかしながら、先に説明したように、レールの熱膨張率とひずみセンサを構成する金属薄板11の熱膨張率とは、ほぼ等しく、その熱膨張率差による影響は小さい。かつ、その影響はひずみεthとしてキャンセルしているので、その影響は無視できる。
【0050】
さらに厳密な議論をすれば、レールは長手方向に拘束されているため、温度上昇に伴い圧縮ひずみが発生する。その結果、レール高さ方向にポアソン比νだけの引張ひずみが発生する。ひずみセンサにもこのひずみが反映される。このひずみが、εyである。
【0051】
以上の議論のように、温度上昇に伴うひずみセンサのεx-εyに相当する出力値は、レールの長手方向の拘束によって発生する圧縮ひずみと、高さ方向におけるポアソン比νだけの引張ひずみとの合計になる。
【0052】
本実施例では、レール温度Tは、センサモジュールに含まれる温度センサの出力を用いて測定した。図7に示すグラフは、数日間のレール温度変化と、その時に生じたひずみセンサ出力値εsを表示したものである。
【0053】
ここで、レールにおける軸力とひずみとの関係について説明する。材料力学的には、軸力とひずみとの関係は、以下の式(1)で表される。
軸力=ひずみ×弾性率×レール断面積 ・・・・・(1)
【0054】
上記の式(1)において、弾性率、レール断面積は一定値であるため、ひずみは軸力を意味すると考えてよい。レールは、温度上昇と共に熱膨張するが、枕木に完全固定されているため熱膨張が抑制され、圧縮ひずみとなる。すなわち、温度上昇とひずみは、直線関係になる。
【0055】
センサモジュール10をレールに貼り付けた時の温度をTsとする。なお、接着剤を硬化させるためにレールを加熱するが、温度Tsは接着剤が硬化後、冷却した温度を示す。接着剤は加熱によって構成する分子が重合し硬化する。また、一般に、接着剤は、硬化と共に収縮する。接着剤の硬化は、一様に起きるとは限らず、一般的には、ある範囲内の温度を起点に発生し進展する。そのため、接着層の収縮は、必ずしも均一ではなく、不均一なひずみが生じる。その結果、不均一なひずみが金属薄板11に伝わり、センサモジュール10にひずみが発生する。このひずみは、レール100の軸力ではなく、接着によってセンサモジュール10に生じるオフセットΔεsである。
【0056】
図7に示すように、オフセットΔεsは、接着剤の状態に依存するため、一定にはならない。このオフセットΔεsが一定にならないということが、ひずみセンサを用いたレールのひずみ計測における課題(1)である。
【0057】
図7において、ひずみセンサ出力値εs/レール温度Tの勾配をEとする。一般的に、勾配Eは、理論的なひずみ/温度の勾配であるレールの熱膨張率αと一致しない。これは、レールのひずみが、接着剤と金属薄板11を介して半導体チップ1に伝わる間に減衰するためである。さらに、勾配Eは、接着剤の状態に依存するため、値が一定ではない。この勾配Eが一定にならないということが、ひずみセンサを用いたレールのひずみ計測における課題(2)である。
【0058】
<不動区間データの補正処理>
レールの不動区間に貼り付けられたひずみセンサの出力値のデータに対して適用される不動区間用のデータ補正処理を、図8図9、および図10を用いて説明する。
【0059】
不動区間用のデータ補正処理を説明する前に、用語を定義する。
【0060】
図8は、図7に示したひずみセンサ出力値εsの一部と、レールの熱膨張率αから算出されたひずみと温度との関係とを比較した図である。図8では、このひずみセンサ出力値εsの一部として、データプロファイルP1が示されている。ここで、温度T0は、レールを固定した時の温度である。また、この温度T0におけるレールひずみをゼロとする。すなわち、レール温度Tが温度T0である場合のひずみセンサ出力値εsを、オフセットΔεとする。図8に示すように、ひずみセンサ出力値εs/レール温度Tで表される勾配を勾配E1とする。勾配E1とレールの熱膨張率αとから、以下の式(2)で示すように、伝達率Trを定義する。
Tr=E1/α ・・・・・・・・・・・・(2)
【0061】
レールのひずみは、接着剤と金属薄板を介して半導体チップに伝わるため、半導体チップに伝わる前に減衰する。伝達率Trは、この減衰を定量的に示す値であり、被計測体に生じたひずみの大きさがひずみセンサの半導体チップに伝わる割合を示す値である。
【0062】
コンピュータのプロセッサ、すなわち関係特定部31は、ある設定期間内に収集されたセンサモジュールの出力データに基づき、そのひずみセンサ出力値εsとレール温度Tの関係を表すものとして、勾配E1と、温度T0の場合のひずみセンサ出力値εsとを求める。また、プロセッサ、すなわち算出部32は、当該関係、すなわち、勾配E1と温度T0の場合のひずみセンサ出力値εsとに基づき、伝達率TrとオフセットΔεとを求める。
【0063】
次いで、不動区間用のデータ補正処理の概要を説明する。
【0064】
図9は、レールの不動区間用のデータ補正処理を説明するための第1図である。まず、プロセッサ、すなわち補正部33は、下記の式(3)にしたがって、ひずみセンサ出力値εsからオフセットΔεを減ずることによりεs1を求める。図9では、オフセットΔεを減ずる前のひずみセンサ出力値εsを点線で示し、減じた後のひずみセンサ出力値εs1を実線で示す。
εs1=εs-Δε ・・・・・・・・・・・・(3)
【0065】
図10は、レールの不動区間用のデータ補正処理を説明するための第2図である。次に、補正部33は、下記の式(4)に従って、ひずみセンサ出力値εs1を伝達率Trで除することによりεs2を求める。図10では、伝達率Trで除す前のひずみセンサ出力値εs1のデータプロファイルP1を点線で示し、除した後のひずみ出力値εs2のデータプロファイルP2を実線で示す。
εs2=εs1/Tr ・・・・・・・・・・・・(4)
【0066】
このようにして求められた補正後のεs2に基づいて、レールの不動区間におけるひずみすなわち軸力を、高精度に求めることができる。
【0067】
以上の不動区間用のデータ補正処理によって、ひずみセンサを用いたレールのひずみ計測における上述した課題(1)、課題(2)を解決することができる。
【0068】
次いで、レールの可動区間におけるひずみセンサ出力値の計測事例と、ひずみセンサ出力値を補正する可動区間用のデータ補正処理とについて説明する。
【0069】
<ひずみセンサによる計測結果例2>
可動区間は、レールと固定具との間で微小なすべりが生じて軸力が解放されるため、その挙動は複雑である。また、その挙動は、レールと固定具との摩擦に依存するため一定ではなく、さまざまである。
【0070】
図11は、レールの可動区間におけるひずみセンサ出力値の典型的なデータの例を示す図である。図11に示すグラフの構成は、図7と同一である。図11では、レール温度上昇時(昇温時)におけるひずみセンサ出力値εsのデータプロファイルPAを実線で示しており、レール温度下降時(降温時)におけるひずみセンサ出力値εsのデータプロファイルPBを点線で示している。さらに、レール温度Tの上昇に伴うひずみセンサ出力値の変化の向きと、レール温度Tの下降に伴うひずみセンサ出力値の変化の向きを、それぞれ矢印で示している。
【0071】
可動区間でも不動区間と同様に、レール温度の上昇に比例してレールには圧縮ひずみが生じる。しかしながら、レール温度が一定以上に上昇すると、レールの圧縮ひずみ、すなわち圧縮の軸力がレールの固定力を上回り、レールと固定具との間で微小なすべりが生じ、レールは熱膨張する。その結果、圧縮ひずみが解放され、ひずみセンサ出力値εsのレール温度Tに対する関係は、比例関係からは外れる。
【0072】
レールが熱膨張した状態からレール温度Tが降下すると、すべりが生じた状態のレールと固定具との位置関係が固定されたままレールが収縮しようとするため、温度低下に比例して引張ひずみが生じる。一定温度まで低下すると、レールの引張ひずみによる軸力がレールの固定力を上回り、レールと固定具との間ですべりが生じる。その結果、レールと固定具との状態は、レール温度が上昇を開始する時の状態に戻る。すなわち、ひずみセンサ出力値εsは、グラフにおいて、昇温時と降温時とで異なる軌道を通るヒステリシスを描く。
【0073】
このように、可動区間におけるひずみセンサ出力値εs対レール温度Tのデータ変化は、不動区間の場合と比較すると複雑である。しかしながら、可動区間におけるひずみセンサ出力値εsのデータに対して適切な前処理を施せば、本願提案の演算アルゴリズムは効果的であり、その効果は不動区間の場合と比較して差異は無い。
【0074】
なお、上記ヒステリシスの態様は、レールと固定具との間の摩擦力に依存するため、レールを固定する強度、摩擦面の状態などによって変化する。すなわち、グラフ上におけるヒステリシスの形状は一定ではない。そのため、ひずみセンサ出力値εsは、例えば、ヒステリシスを生じず、レール温度降下時に、レール温度上昇時のプロファイルをそのままたどって戻る場合もあり得る。
【0075】
<可動区間データの前処理>
上述した、レールの可動区間におけるひずみセンサ出力値のデータの前処理について説明する。
【0076】
図11に示すグラフのように、ひずみセンサ出力値εsがヒステリシスを描く場合、昇温時、降温時の両方のデータを利用すると、レールの正確な挙動が把握できない。そのため、可動区間の場合には、データ補正アルゴリズムに用いるひずみセンサ出力値のデータとして、昇温時、降温時のどちらか一方のデータを使うのがよい。本実施例では、昇温時のデータだけを抽出するものとする。
【0077】
図12は、昇温時のひずみセンサ出力値εsのデータプロファイルを示す図である。なお、ひずみセンサ出力値εsのレール温度Tに対するデータ変化が、ヒステリシスを生じず、降温時に昇温時のデータのプロファイルをそのままたどって戻る場合は、昇温時のデータだけを抽出する必要はない。
【0078】
次いで、図12に示すグラフから、レール温度Tとひずみセンサ出力値εsとが、比例関係、すなわち直線的な関係となるレール温度Tの温度域を定義する。後述する可動区間用のデータ補正処理では、この定義された温度域のデータを解析対象とする。この解析するデータの温度域を定義するという前処理の趣旨は、レールの微小すべりによって軸力が解放される影響を除去することにある。その方法は次節で詳細に説明する。
【0079】
<可動区間データの補正処理>
図13は、レールの可動区間用のデータ補正処理を説明するための図である。まず、プロセッサ、すなわち関係特定部31は、図12に示すようなデータプロファイルから直線領域を抽出し、直線近似を行い、近似された直線の傾き(勾配)E1を求める。図11で説明したように、ひずみセンサ出力値εsのデータプロファイルPAは、レール温度Tの低温側では直線を維持する。しかしながら、レール温度Tの高温側ではレールと固定具との間で微小なすべりが生じ、ひずみセンサ出力値εsのデータプロファイルは直線から逸脱する。すなわち、データプロファイルPAにおける直線領域の抽出は、データ解析の対象とするひずみセンサ出力値εsの温度域の上限温度をどこに設定するかがポイントである。
【0080】
本実施例では、ひずみセンサ出力値εsのデータプロファイルにおける直線領域を抽出する方法として、次に説明する方法を用いる。
【0081】
関係特定部31は、事前に設定した温度T0を、一旦上限温度と仮定し、ひずみセンサ出力値εsのデータプロファイルに直線近似を行い、近似された直線の傾きE0を求める。次いで、関係特定部31は、上限温度を、温度T0に事前に設定した温度幅ΔTを加えた温度T0+ΔTとし、上限温度以下の温度域におけるひずみセンサ出力値εsのデータプロファイルに直線近似を行い、近似された直線の傾きE1(0)を求める。なお、温度幅ΔTに格段の制約はなく、温度T0+ΔTがレール温度Tとして想定し得る温度であればよい。
【0082】
次に、関係特定部31は、傾きE1(0)と傾きE0とを比較する。その差異が規定値以上ならば、温度T0+ΔTから温度幅ΔTよりも小さい微小温度幅dTを引き、上限温度を温度T0+ΔT-dTとする。なお、微小温度幅dTは事前に定めておく。微小温度幅dTに格段の制約はないが、計算精度を考えると、例えば、温度幅ΔTの数十分の一程度が適当である。
【0083】
関係特定部31は、上限温度を温度T0+ΔT-dTとする温度域におけるひずみセンサ出力値εsのデータプロファイルに直線近似を行い、近似された直線の傾きE1(1)を算出する。次いで、傾きE1(1)と傾きE0とを比較し、その差異が規定値以上ならば、現時点で設定されている上限温度からさらに微小温度幅dTを減じ、上限温度を温度T0+ΔT-2dTとする。関係特定部31は、上限温度を温度T0+ΔT-2dTとする温度域におけるひずみセンサ出力値εsのデータプロファイルに直線近似を行い、近似された直線の傾きE1(2)を求める。次いで、傾きE1(2)と傾きE0とを比較し、その差異が規定値以上ならば、現時点で設定されている上限温度からさらに微小温度幅dTを引き、上限温度を温度T0+ΔT-3dTとする。
【0084】
すなわち、関係特定部31は、設定された上限温度に基づいて算出された傾きE1(m)と傾きE0との差異が一定値以下となるまで、この一連の計算を繰り返し、傾きE0との差異が規定値以下となった温度T0+ΔT-ndTを、最終的な上限温度と定める。本実施例では、E1(n)/E0が0.95以上、1.05以下となった温度を上限温度と定める。この手法で求めたE1(n)(以後はE1と表記する)を、ひずみセンサ出力値εsのデータプロファイルの直線領域における傾きと定める。
【0085】
なお、グラフにおけるデータプロファイルの直線領域の抽出方法は、様々な方法がある。直線領域の抽出方法は、適切に直線領域が抽出できればいずれの方法でもよく、上記の方法に限定されるものではない。例えば、ひずみセンサ出力値εsと温度のデータをグラフ化した後、画像処理でデータ領域を判別して、直線領域を抽出する方法を用いてもよい。
【0086】
直線領域の抽出以降に行うデータの補正は、可動区間データの補正と同様である。算出部32は、上記手順で求めた傾きE1を用い、式(2)で伝達率Trを求め、温度T0の場合のひずみセンサ出力値εsからオフセットΔεを求める。
【0087】
図14は、ひずみセンサ出力値εsからオフセットΔεの影響を減ずる手順を説明するための図である。まず、補正部33は、図14に示すように、ひずみセンサ出力値εsからオフセットΔεを減ずる補正を行う。図14では、当該補正前のひずみセンサ出力値εsのデータプロファイルPAを点線で、当該補正後のひずみセンサ出力値εs1のデータプロファイルPA1を実線で示す。これによって、レールを固定した時の温度T0におけるひずみをゼロとする。
【0088】
図15は、ひずみセンサ出力値から伝達率の影響を減ずる手順を説明するための図である。次いで、補正部33は、図15に示すように、ひずみセンサ出力値εs1を伝達率Trで除する補正を行い、ひずみセンサ出力値εs2を得る。図15では、当該補正前のひずみセンサ出力値εs1のデータプロファイルPA1を点線で、当該補正後のひずみセンサ出力値εs2のデータプロファイルPA2を実線で示す。当該補正によって、ひずみセンサ出力値εs2の直線領域におけるひずみ/温度の勾配が熱膨張率αになるようにする。以上の一連の補正によって、可動区間におけるひずみセンサ出力値のデータでも、ひずみセンサを用いたレールのひずみ計測における課題(1)および課題(2)を解決することができる。
【0089】
<データ補正アルゴリズム>
本実施の形態に係る被計測体状態解析システムによるデータ補正アルゴリズムについて説明する。このデータ補正アルゴリズムは、センサモジュールに接続されたコンピュータが有するプロセッサによって実行される。
【0090】
図16は、本実施の形態に係るデータ補正アルゴリズムの処理の流れを説明するための図である。図16において、符号D1、D2、およびD3は、それぞれデータを示す。符号S1からS8は、補正アルゴリズムの各ステップを示す。
【0091】
まず、利用するデータから説明する。上述したひずみセンサおよび温度センサを含むセンサモジュールを被計測体であるレールに貼り付けた後、センサモジュールに接続されたコンピュータが有するプロセッサは、以下に説明する各ステップの処理を実行する。すなわち、プロセッサは、センサモジュールからインタフェースを介して入力されるひずみセンサの出力値およびレール温度のデータと、コンピュータ内の時計部から入力されるそのデータが取得された日付および時刻のデータとを対応付けて、継続収集データD1として、コンピュータの記憶装置に継続的に格納する。また、プロセッサは、当該格納されたデータから、事前に設定された条件で、間欠的に設定された一定期間内の連続データD2を抽出し、当該抽出されたデータを、上記記憶装置に格納する。
【0092】
なお、本発明者らが実際に行った例では、4週間ごとに、最初の1週間のデータを一定期間の連続データD2として抽出する設定とした。この場合、後述するステップS7において、プロセッサは、1週間のデータD2を用いて補正計算を行い、その後の4週間のデータを補正する。また、プロセッサは、最後の1週間の補正無しのデータを用いて再び補正計算を行い、その後の4週間のデータを補正し、この作業を繰り返す。
【0093】
ただし、連続データD2の計測時間と間欠間隔は、上記の例に限定されるものではない。必要であれば、かかる期間より長く設定してもよいし、短く設定してもよい。連続データD2の計測時間と間欠間隔は、監視する被計測体の状況に合わせて設定すればよい。
【0094】
次いで、具体的な補正処理の手順を説明する。ステップS1において、プロセッサ、すなわち関係特定部31は、処理対象のデータを出力したひずみセンサの貼付位置、すなわちレールの計測区間が、可動区間であるか不動区間であるかを判定する。
【0095】
このステップS1の処理をより具体的に説明すると、まず、関係特定部31は、連続データD2から昇温時のデータだけを抽出する。
【0096】
図17は、抽出された昇温時のデータの一例をグラフ化して示す図である。図17に示すグラフにおいて、縦軸はひずみセンサ出力値εsを示し、横軸は同センサから検出されたレール温度T(℃)を示す。計測区間が可動区間である場合、図17に示すように、レール温度Tの低温側では直線を維持するが、レール温度Tの高温側ではレールと固定具との間で微小なすべりが生じ、ひずみセンサの出力は直線から逸脱する。
【0097】
次いで、関係特定部31は、計算の基準となる温度Tc0を定め、その後、温度Tcnと温度Tc0との間で、ひずみ/温度の勾配Enを計算する。
【0098】
可働区間は、高温側でレールと固定具が滑り、ひずみが解放されるためEnは絶対値として小さくなる。しかしながら、不動区間では、勾配Enは、温度に対しほぼ一定値となる。本実施例では、温度に対する勾配Enの変化率に閾値を設けることによって、可動区間であるか又は不動区間であるかを判定する。
【0099】
なお、可動区間と不動区間とを区別する判定は、様々なアルゴリズムを用いることが可能であり、両者の区別を適切に判断できればよく、上記の方法に限定されるものではない。ステップS1における判定手法の他の例としては、連続データD2をグラフ化した後、画像処理で判別し、可動区間と不動区間を判別してもよい。
【0100】
関係特定部31は、ステップS1でYesすなわち連続データD2が可動区間であると判定した場合、ステップS2に移行して、図11および図12で説明したデータ前処理を行う。さらに、関係特定部31は、ステップS3における勾配E1の計算も、図13で説明した手順で行う。
【0101】
一方、関係特定部31は、ステップS1でNoすなわち連続データD2が可動区間ではなく不動区間であると判定した場合、ステップS2のデータ前処理をスキップして、上記のステップS3に進む。関係特定部31は、勾配E1の算出後のステップS4において、勾配E1の妥当性すなわち算出された勾配E1の値が妥当であるか否かを判定する。ここで、勾配E1の理想値は、レールの熱膨張率αに等しい。しかしながら、接着剤と金属薄板を介して半導体チップに伝わるため、減衰する。それでも、センサモジュールの基礎実験結果から、勾配E1の妥当な範囲を設定できることが判明した。本実施例で用いたセンサモジュールの場合、0.95×α>E1>0.6×αの範囲にあるため、妥当な範囲としてかかる数式を設定した。
【0102】
かくして、ステップS4において、関係特定部31は、算出された勾配E1の値が0.95×α以上の場合または0.6×α以下の場合、Noすなわち勾配E1の値が妥当でないと判定し、処理をステップS1に戻し、上述したステップS1~ステップS4までの処理を繰り返し実行する。
【0103】
このように、ステップS1~ステップS4の処理が繰り返されることにより、判定条件とステップS2の前処理条件の見直しが行われる。
【0104】
さらに、ステップS1、ステップS2の条件を見直したのち、再度、ステップS4にてE1が所定の範囲から逸脱している場合、ひずみセンサの貼付に問題がある可能性がある。その場合、ステップS44で貼付の見直しのアラームを発する。なお、勾配E1の妥当な範囲はセンサモジュールの構造に依存する。必ずしも、0.95×α>E1>0.6×αの範囲に限定されるものではない。利用するセンサモジュールの基礎実験結果から妥当な範囲を定め、利用するべきである。
【0105】
妥当な勾配E1が算出されれば、プロセッサ、すなわち算出部32が、ステップS5にて、伝達率Tr、ステップS6にてオフセットΔεを算出する。なお、オフセットΔεの算出には、レールを枕木に固定した時のレールの温度T0が必要である。そのため、温度T0は事前に設定しておかねばならない。ただし、保線作業の度に温度T0は変化するはずである。そこで、本実施の形態にかかるシステムでは、温度T0は上書き入力できるようにしておく必要がある。
【0106】
ステップS5とステップS6にて算出された伝達率TrとオフセットΔεは、プロセッサ、すなわち関係特定部31によって、データD1に戻される。
【0107】
プロセッサ、すなわち補正部33は、ステップS7にて、式(3)、式(4)を用いて、算出された伝達率TrとオフセットΔεにより、図14図15で説明した手順で計測ひずみを補正し、ステップS8にて、補正されたひずみセンサ出力値εs2を出力する。同時に、関係特定部31は、伝達率TrとオフセットΔεに、算出の基となったデータの検出期間を付記し、データD3として格納する。
【0108】
<接着層の健全性のモニタリング>
本実施例では、センサモジュール10は、熱硬化型のエポキシ系接着剤を用いて、被計測体であるレールに貼り付けられている。接着剤による貼付けによれば、貼付けによって生じるひずみが小さく、安定した接着が可能である。加えて、エポキシ系接着剤は、安定性の高い材料であり、例えば、優れた耐候性を有する。
【0109】
しかしながら、そのような安定性の高い材料であっても、熱サイクルと同時に被計測体の伸縮によるひずみを繰り返し受け、加えて、水分、紫外線等に晒されると、長期的には劣化する。具体的には、エポキシ系接着剤は、まずは、樹脂中の重合の切断によって、弾性率の低下が生じる。次いで、エポキシ系接着剤は、応力の集中する接着層と金属薄板、もしくは接着層と被計測体との界面に、亀裂や剥離が生じる。
【0110】
ここで、エポキシ系接着剤の弾性率が低下したり、接着層と被計測体との界面に剥離が生じたりすると、被計測体のひずみが金属薄板に伝わらず、ひずみセンサの出力は低下する。しかしながら、ひずみセンサの出力そのものだけからは、弾性率の低下や界面の剥離を予想することは困難である。これが、ひずみセンサを用いたレールのひずみ計測における課題(3)である。
【0111】
上記のように、接着層の健全性が損なわれる程度に応じて、伝達されるひずみが減ずる、すなわち、伝達率Trが低下する。従って、伝達率Trを長期間にわたり、間欠的に、継続して測定すれば、測定される伝達率Trの推移ないし変化率を求めることにより、接着層の健全性を推定することができる。
【0112】
下記に、その検証のために行った実験とその結果について説明する。
【0113】
図18は、実験方法を説明するための図である。図18に示すように、センサモジュール10は、試験片200に、熱硬化型のエポキシ系接着剤を用いて貼り付けた。センサモジュール10は、前述の通り、半導体チップ1に金属薄板11が接合され、金属薄板11は接着剤による接着層300を介して試験片200に貼り付けられている。なお、ここでは、半導体チップ1の位置を示すため、封止樹脂12は図示していない。
【0114】
半導体チップ1の寸法は、XY平面方向において2.3mm×2.3mmである。金属薄板11の寸法は、XY平面方向において10mm×10mm、厚み0.3mmであり、金属薄板11の材質は、SUS403である。接着層300の厚みは、おおよそ0.05mmである。試験片200は、厚み10mmの引張試験片であり、材質はSUS304である。
【0115】
センサモジュール10を貼り付け後、試験片200を引張試験機で試験した。ただし、付与したひずみ範囲は、接着層300が損傷を受けない範囲にとどめた。今回の試験事例では、ひずみセンサ出力値、すなわち、ひずみ若しくはひずみ量で、最大500×10-6とした。ひずみセンサの出力と、引張試験機に取り付けられたロードセルの出力から求めた試験片200の理論的なひずみとを比較し、伝達率Trを算出した。
【0116】
上記試験後、金属薄板11の先端から、接着層300に亀裂301を形成した。接着層300と試験片200との界面に亀裂形成を試みたが、接着層300の厚みが薄いため加工が難しく、接着層300がほぼ削除された状態である。金属薄板11の下の亀裂301は、Y方向を突き抜けて形成した。金属薄板11の先端から計測した、亀裂の幅をAとする。
【0117】
剥離距離すなわち亀裂幅A=1mmの亀裂を形成後、再び引張試験を行い、伝達率Trを算出した。その後さらに亀裂幅Aを広げ、引張試験、伝達率Tr算出を繰り返した。その試験結果を図19に示す。
【0118】
図19は、亀裂形成後の引張試験の結果を示す図である。図19に示すように、亀裂幅Aが2mmくらいまでは、伝達率Trの低減は緩やかである。亀裂幅Aが2mmを超えると伝達率Trの低減が増え、亀裂幅Aが3mm以上になると伝達率Trは急激に低下する。これは、亀裂が半導体チップ1の直下まで達したため、半導体チップ1に伝わるひずみ量が急激に低下したと考えられる。この結果から、伝達率Trの低減と接着層の健全性との間には、明確な相関がある事が確かめられた。
【0119】
図20は、伝達率Trを長期間にわたり間欠的に継続して測定した結果を示す図である。図20は、ひずみセンサの特性を示す図であり、横軸は時間(日)を、縦軸は伝達率Trを表しており、センサモジュールの貼付日を含め合計15回測定したものである。また、伝達率Trは、約1週間の連続データから算出した。図20に示すように、伝達率Trは、初期すなわち貼付日から数カ月程度の期間では略一定値であるが、時間の経過と共に徐々に低下し、最後の方では、伝達率Trの低下は加速する。伝達率Trの低下は、接着層の劣化、剥離によるものと予想される。
【0120】
図21は、図20のデータを基に伝達率Trの変化率を示す図である。横軸は時間(日)を、縦軸は前後の伝達率Trの差分ΔTrを計測時間の間隔で除した値である。図20では微小な伝達率Trの減少も変化率で示すと、その変化はより明確になる。
【0121】
伝達率Trを継続的に算出し、図16に示すデータD3として任意の記憶装置に時系列的に格納しておくことにより、接着層の異常を予測することが出来る。例えば、図20に示すように、予め、センサモジュールの貼替えのタイミングに対応した伝達率Trの基準値1を決めておき、伝達率Trがその基準値に達したらアラームを報知する。もしくは、伝達率Trの変化率を都度算出し、伝達率Trの変化率が基準値2に達したらアラームを報知する。
【0122】
図22は、本実施の形態にかかる被計測体状態解析システムによる接着層の健全性のモニタリングに関するアルゴリズムの一例を示すフロー図である。
【0123】
図22に示すように、ステップJ1では、センサモジュールに接続されたコンピュータのプロセッサ、すなわち特性特定部34が、新たな伝達率Trが算出されたか否かを判定する。新たな伝達率Trが算出されていないと判定された場合(J1:No)には、特性特定部34は、処理ステップをステップJ1に戻す。新たな伝達率Trが算出されていると判定された場合(J1:Yes)には、特性特定部34は、処理ステップをJ2に進める。
【0124】
ステップJ2では、特性特定部34が、これまでに算出された時系列の伝達率Trを記憶装置から読み出す。
【0125】
ステップJ3では、特性特定部34が、読み出された最新の伝達率Trが、設定された基準値1を下回るか否かを判定する。特性特定部34は、その伝達率Trが基準値を下回ると判定された場合(J3:Yes)には、処理ステップをJ4に進め、その伝達率Trが基準値を下回らないと判定された場合(J3:No)には、処理ステップをJ5に進める。
【0126】
ステップJ4では、プロセッサ、すなわち報知部35は、アラームを報知させる。アラームは、例えば、音を出力させるとともに、テキストを表示部に表示させる態様でよい。これにより、ユーザは、例えば、センサモジュールの接着層の劣化が進み、あるいは異常が発生し、センサモジュールの貼替え時期が到来したことを把握することができる。
【0127】
ステップJ5では、特性特定部34は、データ監視アルゴリズムを終了させる事由があるか否かを判定する。そのような事由があると判定された場合(J5:Yes)には、特性特定部34は、データ監視アルゴリズムを終了する。そのような事由がないと判定された場合(J5:No)には、特性特定部34は、処理ステップをJ1に戻す。
【0128】
図23は、本実施の形態にかかる被計測体状態解析システムによる接着層の健全性のモニタリングに関するアルゴリズムの別例を示すフロー図である。
【0129】
図23に示すように、ステップJ11では、センサモジュールに接続されたコンピュータのプロセッサ、すなわち特性特定部34が、新たな伝達率Trが算出されたか否かを判定する。新たな伝達率Trが算出されていないと判定された場合(J11:No)には、特性特定部34は、処理ステップをステップJ11に戻す。新たな伝達率Trが算出されていると判定された場合(J11:Yes)には、特性特定部34は、処理ステップをJ12に進める。
【0130】
ステップJ12では、特性特定部34が、これまでに算出された時系列の伝達率Trを記憶装置から読み出す。
【0131】
ステップJ13では、特性特定部34が、伝達率Trの時間変化率を算出する。具体的には、特性特定部34は、時系列の伝達率Trから前後の伝達率Trの差分ΔTrを計測時間の間隔で除する。
【0132】
ステップJ14では、特性特定部34が読み出した最新の伝達率Trから算出された伝達率Trの時間変化率が、設定された基準値2を上回るか否かを判定する。特性特定部34は、その伝達率Trの時間変化率が基準値2を上回ると判定された場合(J14:Yes)には、処理ステップをJ15に進め、その伝達率Trの時間変化率が基準値2を上回らないと判定された場合(J14:No)には、処理ステップをJ16に進める。
【0133】
ステップJ15では、プロセッサ、すなわち報知部35は、アラームを報知する。アラームは、例えば、音を出力させるとともに、テキストを表示部に表示させる態様でよい。これにより、ユーザは、例えば、センサモジュールの接着層の劣化あるいは異常の程度を把握し、センサモジュールの貼替え時期が近付いたことを知ることができる。
【0134】
ステップJ16では、特性特定部34は、データ監視アルゴリズムを終了させる事由があるか否かを判定する。そのような事由があると判定された場合(J16:Yes)には、特性特定部34は、データ監視アルゴリズムを終了する。そのような事由がないと判定された場合(J16:No)には、特性特定部34は、処理ステップをJ11に戻す。
【0135】
このようなデータ監視アルゴリズムによれば、センサモジュールに含まれるひずみセンサの弾性率の低下あるいは界面の剥離など予測し、センサモジュールの交換時期を把握することができ、被計測体のひずみの監視を予期せぬトラブルで中断することなく、安定して継続させることが可能になる。すなわち、本データ監視アルゴリズムによれば、ひずみセンサを用いたレールのひずみ測定における上記課題(3)を解決することができる。
【0136】
なお、本実施例では、説明の簡単のため、一つのセンサモジュールの出力を例に説明をした。しかしながら、実際には、複数のセンサモジュールが被計測体に貼り付けられ、複数のセンサモジュールの出力について、それぞれ、データ補正アルゴリズム、およびデータ監視アルゴリズムを適用することが考えられる。
【0137】
また、本願発明の実施の形態は、上記に限定されず、上記システムで行われる、対象物の状態を解析する方法も、本願発明の一実施の形態である。すなわち、対象物の状態を解析する対象物状態解析方法であって、対象物に貼り付けられひずみセンサおよび温度センサを含むセンサ部から出力されたデータに基づいて、温度とひずみセンサの出力値との関係を求め、求められた関係に基づいて、対象物のひずみがひずみセンサに伝達される割合を示す伝達率と、ひずみセンサの出力値のオフセットとを算出する、対象物状態解析方法も、実施の形態の一例である。
【0138】
また、本願発明の実施の形態は、上記の他に、上記システムでコンピュータが実行するプログラムも、本願発明の一実施の形態である。すなわち、コンピュータを、対象物に貼り付けられひずみセンサおよび温度センサを含むセンサ部から出力されたデータに基づいて、温度とひずみセンサの出力値との関係を求める関係特定部、および、求められた関係に基づいて、対象物のひずみがひずみセンサに伝達される割合を示す伝達率と、ひずみセンサの出力値のオフセットとを算出する算出部、として機能させるためのプログラムも、実施の形態の一例である。さらに、当該プログラムを非一時的に記憶した有形のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体も、本願発明の一実施の形態である。
【符号の説明】
【0139】
1…半導体チップ、2x-1,2y-1,2x-2,2y-2…ピエゾ抵抗素子、3…増幅器、4…A/D変換器、5,6…記憶演算部、7…温度センサ、8…パッド、9…シリコン基板、10…センサモジュール、11…金属薄板、12…封止樹脂、13…FPC、14…金ワイヤ、15…接合層、16…接着剤、20…コンピュータ、21…プロセッサ、22…メモリ、23…記憶装置、24…インタフェース、25…バス、31…関係特定部、32…算出部、33…補正部、34…特性特定部、35…報知部、100…レール、131…出力端子、132…打抜き孔、300…接着層、εs…ひずみセンサ出力値、εs1,εs2…補正後のひずみセンサ出力値、Δεs…オフセット、α…レールの熱膨張率、Tr…伝達率、PG…プログラム
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