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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094356
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】希土類酸化物粉末
(51)【国際特許分類】
   C01F 17/218 20200101AFI20240702BHJP
   C01F 17/224 20200101ALI20240702BHJP
   C01F 17/10 20200101ALI20240702BHJP
【FI】
C01F17/218
C01F17/224
C01F17/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024063940
(22)【出願日】2024-04-11
(62)【分割の表示】P 2023562626の分割
【原出願日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2022103039
(32)【優先日】2022-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022103040
(32)【優先日】2022-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592097244
【氏名又は名称】日本イットリウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永野 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】久保 雅文
(72)【発明者】
【氏名】団 未那美
(57)【要約】
【課題】強度の解砕処理がなくても容易に分散でき、薄膜の塗膜が形成可能、或いは、分散剤を用いずに高分散スラリーが得られ透明度を安定維持できる、希土類酸化物微粉末を提供する。
【解決手段】(a)又は(b)を満たす、Ce以外の希土類元素の酸化物の粉末。
(a)一次粒子径が10~60nmで、(I)又は(II)を満たす。
(I)超音波分散して測定したD100が1~10μm。
(II)真密度をρとしたとき、初期嵩密度ADから算出される空隙率PAD(%)と、タップ嵩密度TDから算出される空隙率PTD(%)の差が2.0~5.0%。
AD=(1-AD/ρ)×100
TD=(1-TD/ρ)×100
(b)一次粒子径が10nm以上100nm未満で、(III)及び(IV)を満たす。
(III)細孔直径0.005~100μmの細孔容積に真密度を掛けた値が3~14。
(IV)細孔直径5~50nmの細孔容積に真密度を掛けた値が0~2.0。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ce以外の少なくとも1種の希土類元素の酸化物の粉末であって、
(a)一次粒子径が10nm以上60nm以下であり、以下の(I)又は(II)を満たすか、又は
(b)一次粒子径が10nm以上100nm未満であり、以下の(III)及び(IV)を満たす、希土類酸化物粉末。
(I)40W、5分間の超音波分散処理して測定した、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による累積体積100容量%における体積累積粒径D100が1μm以上10μm以下である。
(II)前記希土類元素の酸化物の真密度をρ(g/cm3)としたとき、初期嵩密度ADより下記式1にて算出される空隙率PAD(%)と、タップ嵩密度TDから下記式2で算出される空隙率PTD(%)の差(PAD-PTD)が2.0%以上5.0%以下である。
式1:PAD=(1-AD/ρ) ×100 (%)
式2:PTD=(1-TD/ρ) ×100 (%)
(III)細孔直径0.005μm以上100μm以下の細孔容積(cm3/g)に真密度(g/cm3)を掛けて得られる数値が3以上14以下である。
(IV)細孔直径5nm以上50nm以下の細孔容積(cm3/g)に真密度(g/cm3)を掛けて得られる数値が0以上2.0以下である。
【請求項2】
(a)一次粒子径が10nm以上60nm以下であり、上記の(I)又は(II)を満たす、請求項1に記載の希土類酸化物粉末。
【請求項3】
上記(I)を満たす、請求項2に記載の希土類酸化物粉末。
【請求項4】
前記希土類酸化物の真密度をρ(g/cm3)としたとき、初期嵩密度ADより下記式1にて算出される空隙率PAD(%)が90.0%以上99.0%以下である、請求項3に記載の希土類酸化物粉末。
式1:PAD=(1-AD/ρ) ×100 (%)
【請求項5】
一次粒子径が35nm以下である、請求項3又は4に記載の希土類酸化物粉末。
【請求項6】
Zr含有量が100質量ppm以下である、請求項3又は4に記載の希土類酸化物粉末。
【請求項7】
炭素含有量が2質量%以下である、請求項3又は4に記載の希土類酸化物粉末。
【請求項8】
上記(II)を満たす、請求項2に記載の希土類酸化物粉末。
【請求項9】
上記空隙率PAD(%)が90.0%以上99.0%以下である、請求項8に記載の希土類酸化物粉末。
【請求項10】
40W、5分間の超音波分散処理して測定した、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積100容量%における体積累積粒径D100が1μm以上10μm以下であって、該D100と超音波分散処理して測定し、上記測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50との比であるD100/D50が、3.0以上11.0以下である請求項8又は9に記載の希土類酸化物粉末。
【請求項11】
(b)一次粒子径が10nm以上100nm未満であり、上記の(III)及び(IV)を満たす、請求項1に記載の希土類酸化物粉末。
【請求項12】
Na含有量が100質量ppm以下である、請求項11に記載の希土類酸化物粉末。
【請求項13】
結晶子径が6nm以上25nm以下である、請求項11に記載の希土類酸化物粉末。
【請求項14】
結晶子径が6nm以上25nm以下である、請求項12に記載の希土類酸化物粉末。
【請求項15】
希土類酸化物粉末をエタノールと混合して希土類酸化物粉末を10質量%含有するエタノールスラリーとした後、以下(A)の操作を、平均粒子径が前回測定値より大きくなるまで繰り返し行ったときに、最小となる平均粒子径が10nm以上150nm以下となる、請求項11から14のいずれか1項に記載の希土類酸化物粉末。
(A):直径0.1mmのジルコニア製ビーズを用いて、スラリーに10分間のビーズミル処理を行い、その後、動的光散乱法により平均粒子径を測定する。
(ただし、平均粒子径が前回測定値より大きくなった場合にその時点でビーズミル処理を終了し、20回(A)を繰り返して2回目から20回目までの各回において前回測定値より平均粒子径が大きくならない場合も、20回(A)を繰り返した時点で終了する。
ここで最小となる平均粒子径とは、前記(A)の処理毎にサンプリングして測定した動的光散乱法による平均粒子径の最小値の意味である。)
【請求項16】
下記式の計算値が-15%以上25%以下である、請求項15に記載の希土類酸化物粉末。
式:(解砕後7日後の平均粒子径-解砕直後の平均粒子径)/解砕直後の平均粒子径×100(%)
【請求項17】
前記ビーズミル処理を行い最小となる平均粒子径が50nm以上90nm以下である請求項15に記載の希土類酸化物粉末。
【請求項18】
前記ビーズミル処理を行い最小となる平均粒子径が50nm以上90nm以下である請求項16に記載の希土類酸化物粉末。
【請求項19】
請求項11又は12の何れか1項に記載の希土類酸化物粉末を、溶媒を用いて湿式解砕するスラリーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類酸化物粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類酸化物はコンデンサー用誘電体あるいは内部電極、蛍光体、光学ガラス用屈折率調整剤、酸素センサー、セラミックスの焼結助剤、触媒、耐火物等で用いられている。その使用形態は様々であり、コーティング(塗膜)、微量添加、成型体(焼結体を含む)等がある。
【0003】
希土類酸化物粉末を含むスラリーを塗膜する場合であって、塗膜後に焼成工程がある場合、希土類酸化物粉末の比表面積を高くしたり、一次粒子を小さくしたりすることで、熱拡散性を高めることができる。また希土類酸化物を添加材として使って、焼成するような場合、一次粒子が小さいと熱拡散し易くなることがある。これらの観点から、種々の希土類酸化物の微粉末が知られている。特許文献1においては、一次粒子が平均80Åの超微粒子イットリウム酸化物が得られたと記載されている(特許文献1の実施例1)。特許文献2では、「走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、(中略)粒径がおよそ100nmの凝集のない粒径の揃った球状の粒子群」の酸化イットリウム微粉末が得られたと記載されている(特許文献2の実施例1)。非特許文献1にも、TEMの電子ビームへの長時間曝露の結果として結晶化したDy23微粉末のTEM画像が示されている(非特許文献1のFig.1a b)
【0004】
一方、一次粒子径が小さな、例えば数十nmレベルの粉末の場合、容易に凝集体を形成し、その凝集粒子は、平均粒径が小さな細かいナノ粉末の場合、固い凝集体となる(例えば特許第6119528号公報の段落〔0014〕参照)。そのため、一次粒子が小さな粒子を塗膜するためには、メディア等を使用して高いエネルギーで解砕する必要がある。
【0005】
特許文献3には酸化イットリウム粉末を、分散剤を用いてスラリー中に分散させて測定した中央粒径D50が5.3nmであったことが記載されている(特許文献3の実施例1)。
【0006】
微粒の希土類酸化物粉末のスラリーは、適切な分散剤を使用して分散させると高分散化できる(例えば特開2007-126349号公報の段落〔0020〕〔0029〕等を参照)。しかし、配合成分によっては分散剤が作用しない場合もありうるし、また、用途によっては分散剤が不純物となることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4-310516号公報
【特許文献2】特開2014-218384号公報
【特許文献3】US2020/0071180A
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J Nanopart Res (2013) 15:1438
【発明の概要】
【0009】
出願人は、特許文献1~2、非特許文献1に記載の方法で製造した希土類酸化物粉末は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した場合には、一見凝集していないように見えるが、巨視的な測定方法(レーザー散乱法)で凝集径を測定すると大きな粗大粒子が測定されることを知見した。凝集径が大きいと、コーティング液の場合は薄膜の塗工が難しくなる。また凝集径を小さくしようと解砕しても、一次粒子が小さいことに起因して凝集力が強くなるため、強度の分散が必要となり粉砕メディアに由来した汚染が増えるほか、湿式解砕した後に乾燥させた場合には、乾燥時に凝集して粒径が大きくなる。特に、CeO2以外の希土類酸化物の微粉末は凝集抑制が難しかった。
【0010】
従って第1発明の課題は、強度の解砕処理がなくても容易に分散でき、薄膜の塗膜の形成が可能な希土類酸化物微粉末を提供することにある。
【0011】
本発明者は鋭意検討したところ、特定の一次粒子径(SSA換算径)を有し、且つ所定の超音波処理を供した場合の凝集径を特定の範囲とすることで、或いは、特定の一次粒子径(SSA換算径)を有し、初期嵩密度ADとタップ嵩密度TDとから算出される空隙率差を所定範囲とすることで、驚くべきことに、上記課題を解決できることを見出した。
【0012】
第1発明は、前記知見に基づくものであり、以下の〔a1〕~〔a9〕を提供するものである。
〔a1〕Ce以外の少なくとも1種の希土類元素の酸化物の粉末であって、
一次粒子径10nm以上60nm以下であり、以下の(I)又は(II)を満たす、希土類酸化物粉末。
(I)40W、5分間の超音波分散処理して測定した、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による累積体積100容量%における体積累積粒径D100が1μm以上10μm以下である。
(II)前記希土類酸化物の真密度をρ(g/cm3)としたとき、初期嵩密度ADより下記式1にて算出される空隙率PAD(%)と、タップ嵩密度TDから下記式2で算出される空隙率PTD(%)の差(PAD-PTD)が2.0%以上5.0%以下である。
式1:PAD=(1-AD/ρ) ×100 (%)
式2:PTD=(1-TD/ρ) ×100 (%)
〔a2〕上記(I)に該当する、請求項1に記載の希土類酸化物粉末。
〔a3〕前記希土類酸化物の真密度をρ(g/cm3)としたとき、初期嵩密度ADより下記式1にて算出される空隙率PAD(%)が90.0%以上99.0%以下である、〔a1〕又は〔a2〕に記載の希土類酸化物粉末。
式1:PAD=(1-AD/ρ) ×100 (%)
〔a4〕一次粒子径が35nm以下である、〔a1〕~〔a3〕の何れか1項に記載の希土類酸化物粉末。
〔a5〕Zr含有量が100質量ppm以下である、〔a1〕~〔a4〕の何れか1項に記載の希土類酸化物粉末。
〔a6〕炭素含有量が2質量%以下である、〔a1〕~〔a5〕の何れか1項に記載の希土類酸化物粉末。
〔a7〕上記(II)に該当する、〔a1〕に記載の希土類酸化物粉末。
〔a8〕上記空隙率PAD(%)が90.0%以上99.0%以下である、〔a7〕に記載の希土類酸化物粉末。
〔a9〕40W、5分間の超音波分散処理して測定した、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積100容量%における体積累積粒径D100が1μm以上10μm以下であって、該D100と超音波分散処理して測定し、上記測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50との比であるD100/D50が、3.0以上11.0以下である〔a7〕又は〔a8〕に記載の希土類酸化物粉末。
【0013】
特許文献1~3、非特許文献1等に示されたような、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察において見た目では凝集が少ないように見える希土類酸化物微粉末であっても、一次粒子が数十nmまで小さくなると凝集力が強く、スラリー中で分散させるためには分散剤を使用して湿式解砕する必要がある。
また、上記の事情から、分散剤を用いなくても希土類酸化物微粉末のスラリーを高分散状態にできることが好ましい。
しかしながら、従来、分散剤を用いないでスラリー中の希土類酸化物微粉末を高分散状態にすることは難しく、加えて分散状態を安定的に維持することはさらに難しかった。
特に、Ce以外の希土類元素の酸化物の微粉末は、分散剤を用いずに高分散スラリーとすることは難しかった。
【0014】
従って第2発明の課題は、分散剤を用いずに高分散スラリーにすることができ、そのスラリーの透明度を安定して保つことができる微粒のCe以外の希土類元素の酸化物粉末を提供することにある。
【0015】
本発明者は鋭意検討したところ、特定の一次粒子径を有し、且つ細孔容量/細孔容積と真密度の掛け合わせた値を特定の範囲とすることで、驚くべきことに、上記課題を解決できることを見出した。
【0016】
第2発明は、前記知見に基づくものであり、以下の〔b1〕~〔b7〕を提供するものである。
【0017】
〔b1〕Ce以外の少なくとも1種の希土類元素の酸化物の粉末であって、
一次粒子径が10nm以上100nm未満であり、下記(III)及び(IV)を満たす。
(III)細孔直径0.005μm以上100μm以下の細孔容積(cm3/g)に真密度(g/cm3)を掛けて得られる数値が3以上14以下である。
(IV)細孔直径5nm以上50nm以下の細孔容積(cm3/g)に真密度(g/cm3)を掛けて得られる数値が0以上2.0以下である。
〔b2〕Na含有量が10質量ppm以下である、〔b1〕に記載の希土類酸化物粉末。
〔b3〕結晶子径が6nm以上25nm以下である、〔b1〕又は〔b2〕に記載の希土類酸化物粉末。
〔b4〕希土類酸化物粉末をエタノールと混合して希土類酸化物粉末を10質量%含有するエタノールスラリーとした後、以下(A)の操作を、平均粒子径が前回測定値より大きくなるまで繰り返し行ったときに、最小となる平均粒子径が10nm以上150nm以下となる、〔b1〕から〔b3〕のいずれか1項に記載の希土類酸化物粉末。
(A):直径0.1mmのジルコニア製ビーズを用いて、スラリーを10分間のビーズミル処理を行い、その後、平均粒子径を測定する。
(ただし、平均粒子径が前回測定値より大きくなった場合にその時点でビーズミル処理を終了し、20回(A)を繰り返して2回目から20回目までの各回において前回測定値より平均粒子径が大きくならない場合も、20回(A)を繰り返した時点で終了する。ここで最小となる平均粒子径とは、前記(A)の処理毎にサンプリングして測定した動的光散乱法による平均粒子径の最小値の意味である。)。
〔b5〕下記式の計算値が-15%以上25%以下である、〔b4〕に記載の希土類酸化物粉末。
〔b6〕前記ビーズミル処理を行い最小となる平均粒子径が50nm以上90nm以下である〔b4〕又は〔b5〕に記載の希土類酸化物粉末。
〔b7〕〔b1〕~〔b6〕の何れか1項に記載の希土類酸化物粉末を、溶媒を用いて湿式解砕するスラリーの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本明細書では、「希土類元素の酸化物」を「希土類酸化物」と記載することがある。
以下、第1発明をその好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
第1発明は、Ce以外の希土類元素の酸化物の粉末に係るものである。
Ceの酸化物であるCeO2は、水中の水酸化セリウムに酸化剤(H22)を添加することにより未焼成で得られ、またCeが酸化しやすいために前駆体を低温で焼成しても容易に得られる。このことから、CeO2は製造時の焼成に起因した凝集の影響が少なく、一次粒子が数十nmの粉末であっても容易に解砕することができる。
一方、Ce以外の希土類元素は水酸化物に酸化剤を添加しても未焼成ではCeのような酸化物にはならない。また、通常、製造には前駆体を比較的高温で焼成することが必須であり、高温焼成はネッキングの一因となる。それゆえに従来Ce以外の希土類元素粉末では、一次粒子が数十nmである場合、粉末の凝集抑制が非常に困難であった。
【0019】
第1発明において希土類元素の酸化物としては、Sc、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる少なくとも一種の酸化物が挙げられる。具体的には、Ce以外の希土類元素の酸化物としては、Sc23、Y23、La23、Pr611、Nd23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb47、Dy23、Ho23、Er23、Tm23、Yb23及びLu23が挙げられる。従来の凝集抑制の困難さによる第1発明の効果の意義に優れる点から、希土類元素の酸化物としては、好ましくは、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる少なくとも一種の酸化物であり、より好ましくはY、Nd、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる少なくとも一種の酸化物であり、更に好ましくはY、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる少なくとも一種の酸化物であり、特に好ましくはY、Dy、Ho、Er及びYbから選ばれる少なくとも一種の酸化物である。
【0020】
希土類酸化物粉末の一次粒子径は所定範囲が好ましい。希土類元素の酸化物粉末では一次粒子径は小さい方が熱拡散は良くなるが、小さすぎると凝集が強くなり、容易に解砕できなくなる。一方、一次粒子径が大きすぎてもネッキングが発生して凝集径が大きくなるほか、希土類酸化物粉末をビーズミル等で解砕する際に粒子が粉砕され活性面が増えて不安定なスラリーをもたらす。これらの点から、第1発明では、希土類酸化物粉末の一次粒子径は10nm以上60nm以下が好ましく、15nm以上60nm以下がより好ましく、更に好ましくは15nm以上35nm以下である。希土類酸化物粉末の一次粒子径が35nm以下であることは、コーティング液としたときの塗膜性の向上や希土類酸化物粉末の熱拡散が大きい点で特に好ましい。
【0021】
第1発明において、希土類元素の酸化物粉末の一次粒子径は、比表面積換算の一次粒子径であり、具体的には、BET1点法より測定された比表面積s(m2/g)から求めた粒径である。例えば、一次粒子径d(nm)はd=6000/(ρs)である。(ρは真密度(g/cm3))。
【0022】
第1発明の希土類元素の酸化物粉末の比表面積は、例えば、10m2/g以上160m2/g以下が好ましく、15m2/g以上110m2/g以下が更に好ましく、20m2/g以上80m2/g以下が特に好ましい。
【0023】
第1発明では、超音波照射後に、レーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した体積基準のD100(累積体積100容量%における体積累積粒径)が特定範囲であることが薄膜を塗膜可能とする点から好ましい。例えば塗膜性の観点から超音波照射後のD100は10μm以下が特に好ましく、9μm以下がより好ましく、7μm以下が更に一層好ましい。薄膜を作製するためには、大きな粗大粒子があると塗膜できない。また、スラリーの分散性が良すぎると、スラリーの安定性が悪く、凝集することがある。そうすると、粘度等の物性も変化し、塗膜条件も変わる。安定性の観点から、上記のD100は1μm以上であることが好ましく、2μm以上がより好ましい。
【0024】
上記の超音波照射とは、より具体的には、40Wの超音波、周波数40kHzにて5分間分散させる処理である。照射装置としては、レーザー回折散乱式粒子径測定装置に付属のものが挙げられ、例えば0.2質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に希土類酸化物粉末を添加した試料に照射されるものである。超音波照射時の分散液中の希土類酸化物粉末の濃度は、粒子径測定装置が粒径測定の適正濃度と判断した濃度が好ましく挙げられ、通常0.002~0.2質量%の範囲内である。超音波照射は具体的には実施例に記載の方法にて行われるが、同等の照射装置であれば、測定に用いるレーザー回折散乱式粒子径測定装置に付属のもの以外の装置で照射を行ってもよい。ただし、測定に用いるレーザー回折散乱式粒子径測定装置に付属のもの以外の装置を用いて照射を行う場合は、約100mlの0.2質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に、0.2gの試料を入れ、超音波照射後、超音波照射後のスラリーを試料循環装置に粒子径測定装置が粒径測定の適正濃度と判断するまで添加した後、測定を実施する。
【0025】
更に一層塗膜性を高める点、及び塗工の容易性の点から、第1発明の粒子は、上記の超音波照射後のレーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した体積基準のD90(累積体積90容量%における体積累積粒径)が0.1μm以上2.5μm以下であることが好ましく、0.3μm以上2.3μm以下であることが更に一層好ましく、0.5μm以上2.0μm以下であることが特に好ましい。
【0026】
また更に一層塗膜性を高める点、及び塗工の容易性の点から、第1発明の粒子は、上記の超音波照射後のレーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した体積基準のD50(累積体積50容量%における体積累積粒径)が0.3μm以上1.2μm以下であることが好ましく、0.5μm以上1.0μm以下であることが更に好ましく、0.5μm以上0.7μm以下であることがより好ましい。
【0027】
塗膜性の観点からD100/D50が特定の範囲である粒度分布であることが特に好ましい。具体的にはD100/D50が3.0以上11.0以下が好ましく、3.0以上8.5以下がより好ましい。
【0028】
希土類酸化物粉末の不純物量は少ない方が好ましい。特にビーズミルのビーズなどの粉砕メディアを使用すれば、D100を1~20μm、より好適には10μmまで容易に解砕することができるが、メディアが不純物となりコンタミする。第1発明では、上記メディアを使用せずに希土類酸化物粉末を製造できるため、粉砕メディアの構成元素として一般に使用されるZr元素を100質量ppm以下にすることが可能である。さらに10質量ppm以下にすることも容易であり、2質量ppm以下とすることもできる。このような希土類酸化物粉末は、コンタミネーションのリスク低減の点で好ましく、電子部品や半導体製造装置用耐食材料等の用途にも好適である。Zr元素の含有量はICP発光分析法により測定でき、後述する実施例に記載の方法にて測定することができる。測定サンプルは常法にて調製でき、例えば希土類酸化物粉末を硝酸又は硫酸で溶解することで調製できる。
【0029】
希土類酸化物粉末の炭素含有量は少ない方が好ましい。希土類元素やその化合物は固溶を目的として添加材としても頻繁に使用される。炭素成分があると、焼成時に質量減少(体積変化)が生じて膜のひび割れなどが発生する。そのため、炭素含有量は2質量%以下が好ましい。より好ましくは1質量%以下であり、特に好ましくは0.7質量%以下である。炭素含有量は後述する実施例に記載の方法にて測定することができる。
なお希土類酸化物粉末は純度が通常99質量%以上のものであることが好ましい。例えば、Zr及び炭素含有量の合計が1質量%以下であることが好ましい。
【0030】
本発明者はSSA換算の一次粒子径が所定範囲内である希土類酸化物粉末の分散容易性にとって、初期嵩密度(AD)から式1で得られる空隙率PAD(%)と、タップ嵩密度(TD)から式2で得られる空隙率PTD(%)との差(PAD-PTD)(%)が所定範囲であることが特に好ましいことを見出した。ρは真密度である。
式1:PAD=(1-AD/ρ) ×100 (%)
式2:PTD=(1-TD/ρ) ×100 (%)
【0031】
(PAD-PTD)(%)の値が大きいことは、タップ嵩密度測定によるタップにより、空隙が詰まりやすいことを意味する。(PAD-PTD)(%)の値が大きすぎる粒子、つまり、圧縮でき過ぎる粉末は凝集が強い粉末となる。一方、(PAD-PTD)(%)の値が小さすぎる粉末は粒子間の空気が多い状態であり、その状態で容易に圧縮され難い比較的フワフワした粉末であることを意味する。そのような粉末は粒子間に空気を抱き込んで凝集径が大きくなる傾向にある。これらのことから圧縮の程度のバランスが希土類酸化物微粉末の凝集しやすさを左右するとの推測に基づき本発明者は検討した結果、当該パラメータが希土類酸化物粉末の分散しやすさに影響することを見出した。
具体的には、(PAD-PTD)(%)の差は、2.0%以上5.0%以下であることが好ましい。(PAD-PTD)(%)が2.0%以上5.0%以下であることで、圧縮しやすさが適度となり、当該範囲外の粉末に比して分散容易性に優れ、コーティング液としたときの塗膜性に優れる。この観点から、(PAD-PTD)(%)が3.0%以上5.0%以下であることがより好適であり、3.0%以上4.5%以下であることが更に好適である。
【0032】
更に、凝集抑制と取扱い性のバランスを鑑みて初期嵩密度から計算される空隙率PAD(%)は、90.0%以上99.0%以下が好ましく、92.0%以上98.0%以下がより好ましい。上記の(PAD-PTD)(%)を有し、且つPAD(%)が92.0%以上98.0%以下であることは、凝集性が特に適度であるために分散しやすい点で好ましい。
また、同様の観点から、タップ嵩密度から計算されるPTDは88.0%以上95.5%以下が好ましく、88.5%以上92.0%以下がより好ましい。
【0033】
上述した比表面積(m2/g)、一次粒子径(nm)、粒度分布、初期嵩密度(AD)及びタップ嵩密度(TD)、Zr含有量、炭素含有量、PAD、PTD及びPAD-PTDを得るためには、後述する好適な希土類酸化物粉末の製造方法を採用し、混合、洗浄又は焼成の条件を調整すればよい。
【0034】
次いで第1発明の希土類酸化物粉末の好適な製造方法について説明する。
本製造方法は、炭酸塩水溶液(以下「A液」ともいう。)と希土類元素の水溶性塩水溶液(以下「B液」ともいう。)とを反応槽を同時に投入して、混合液のpHが6.5~7.0、好ましくは6.5~6.9となるように高速撹拌下に混合して炭酸塩と希土類元素の水溶性塩とを反応させ、A液とB液の混合開始から5分以内に固液分離を開始する反応・固液分離工程と、反応・固液分離工程で得られた残渣をアルコールで洗浄する洗浄工程と、洗浄した残渣を、焼成する焼成工程とを含むものである。
第1発明の希土類酸化物粉末を首尾よく得る点から、好適には、B液である希土類元素の水溶性塩水溶液における酸化物換算の水溶性塩濃度が酸化物換算で10~400g/Lであり、50~350g/Lであることがより好ましく、特に好適には80~300g/Lであり、最も好ましくは100g/L超300g/L以下である。
【0035】
(反応・固液分離工程)
炭酸塩水溶液であるA液において、炭酸塩は、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。本明細書でいう炭酸塩とは正塩だけでなく酸性塩である炭酸水素塩を含む。混合液のpHの調整が容易な点やナトリウム含量を低減する点から、炭酸水素アンモニウムが好ましい。
希土類元素の水溶性塩水溶液であるB液において、希土類元素の水溶性塩としては、硝酸塩、酢酸塩、アンミン錯体、塩化物が挙げられ、混合液のpHの調整が容易な点や生産性の観点から硝酸塩が好ましい。
【0036】
本製造方法において、炭酸塩水溶液であるA液と希土類元素の水溶性塩水溶液であるB液とは両者の混合液のpHが6.5~7.0、好ましくは6.5~6.9となるように反応槽に同時に投入される。ここでいうpHは両者の混合液の温度でのpHである。混合液のpHが7.0超となると、一次粒子が大きなものとなってしまう。またpHを6.5以上とすることはA液中の希土類イオンがほぼ全て沈殿する利点がある。A液及びB液はいずれも投入時点で加温しないことが好ましい。A液及びB液は、反応槽への投入時点で5~50℃であることが好適であり、混合液の温度は5~40℃であることが好適である。一次粒子径を好適な範囲内とするために、反応を極短時間で行い、すぐに濾過することが好ましい。このために、混合液のpHは、A液及びB液の反応槽の投入開始時点(A液とB液との混合開始時点)から反応生成物が生じる時点(より具体的には固液分離開始時点)まで6.5~7.0の範囲内であるように両液の投入のタイミング及び投入速度を調整して、pHを上記範囲に一定に維持することが好適である。pHが上記範囲となることで反応進行がスムーズに起こる。
【0037】
A液とB液とが同時に添加されるとは、反応槽においてA液が投入される時点と、B液が投入される時点とが一部でも同時となることを意味する。上述した通り、混合液のpHが、A液及びB液の反応槽の投入開始時点(A液とB液との混合開始時点)から反応生成物が生じる時点(より具体的には固液分離開始時点)まで6.5~7.0の範囲内であるためには、それぞれの投入開始をほぼ同時とし、投入速度を一定とすることが好ましい。またA液とB液の投入速度は、A液とB液の混合開始から5分以内、より好適には3分以内に固液分離を開始できるように調整する。
【0038】
本製造方法では、反応槽においてA液とB液の混合液は上記のように同時に投入されて所定pH条件下で高速撹拌される。このような態様により、上記一次粒子径、超音波照射後の凝集径D100、空隙率差が上記所定範囲である粉末が好適に得やすいものとなる。高速撹拌としては回転数が10,000~25,000rpmの撹拌が挙げられ、18,000~21,000rpmがより好ましい。これらの撹拌は混合液の反応槽における攪拌子が上記回転を行う場合に、反応槽の容量としては50ml~1Lであることが好適であり、100ml~500mlであることがより好適である。
本発明者は反応槽に予め入れておいたA液にB液を添加したり、反応槽に予め入れておいたB液にA液を投入するのではなく、A液とB液を同時投入し、且つ所定pHを維持した条件で高速撹拌することで、短時間で反応を済ませることができ、これを所定の後処理に供すると、一次粒子径が小さく低強度の解砕で簡単に分散可能な第1発明の希土類酸化物粉末を得ることができることを見出した。
【0039】
上記一次粒子径、超音波照射後の凝集径D100、空隙率差をより得やすい点から、A液における炭酸塩の濃度は5~25質量%であることが好ましく、10~15質量%であることがより好ましい。またB液における希土類元素の水溶性塩の濃度は上述した通りである。
【0040】
(洗浄工程)
上記の固液分離工程で得られた残渣(「固形状物」ともいう。)は、アルコールで洗浄する。本製造方法で用いるアルコールとしては例えばアルコール純度99.5vol%以上である高純度のものが好適に用いられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられるが、エタノールであることが、使用性の点から好ましい。洗浄に用いるアルコールの量は、使用する希土類酸化物1gに対して、0.1L~50Lであることが好ましく、0.5L~20Lであることがより好ましく、1L~10Lであることが更に好ましい。ここでいう量は、アルコールを数回残渣に通液して洗浄する場合にはその総量である。
【0041】
(焼成工程)
焼成温度は、1000℃以下であることが、凝集抑制の点、及び結晶成長の抑制の点で好ましく、800℃以下であることがより好ましい。焼成温度は、500℃以上であることが、炭素含有量低減の点で好ましい。この観点から、焼成温度は500℃以上1000℃以下であることがより好適であり、500℃以上800℃以下が更に好適である。焼成は、大気雰囲気などの酸素ガス含有雰囲気下、及びアルゴンや窒素などの不活性雰囲気下で行うことができるが、酸素ガス含有雰囲気下、特に大気雰囲気下で行うことが炭素含有量低減及びコストの点で好ましい。
【0042】
(解砕工程)
焼成して得られた希土類酸化物粉末は粗粒を解砕することが好ましい。解砕には、乾式粉砕機を用いることができ、例えば、粉砕機(商品名:フォースミル、大阪ケミカル製)を用いることができる。
【0043】
次いで、上記のようにして得られた希土類酸化物粉末はその分散容易性を生かし、各種用途に用いることができる。例えば、コンデンサー用誘電体あるいは内部電極、蛍光体、光学ガラス用屈折率調整剤、酸素センサー、セラミックスの焼結助剤、合金への添加材、触媒、耐火物、レーザー結晶原料、半導体製造装置用耐食材料等が挙げられる。その際の使用方法は様々であり、コーティング(塗膜形成)、微量添加、成型体(焼結体含む)等の各種形態に適用することができる。特に第1発明の希土類酸化物粉末はその塗膜性が良好であることから、そのコーティング用途(塗膜形成用途を含む)に好適に用いることができる。
【0044】
以下、第2発明をその好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
第2発明は、Ce以外の希土類元素の酸化物の粉末に係るものである。
Ceの酸化物であるCeO2は、水中の水酸化セリウムに酸化剤(H22)を添加することで焼成工程を経ずに得られ、またCeが酸化しやすいために前駆体を低温で焼成しても容易に得られる。このことから、CeO2は製造時の焼成に起因した凝集の影響が少なく、一次粒子が数十nmの粉末であっても容易に解砕することができる。
一方、Ce以外の希土類元素は水酸化物に酸化剤を添加しても酸化物は得られないことなどから、通常、製造に比較的高温での焼成が必須であり、高温焼成はネッキングの一因となる。それゆえに従来Ce以外の希土類元素粉末では、一次粒子が数十nmである場合、粉末の凝集抑制が非常に困難であった。
【0045】
第2発明においてCe以外の希土類元素の酸化物としては、Sc、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる少なくとも一種の酸化物が挙げられる。具体的には、Ce以外の希土類元素の酸化物としては、Sc23、Y23、La23、Pr611、Nd23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb47、Dy23、Ho23、Er23、Tm23、Yb23及びLu23が挙げられる。従来の凝集抑制の困難さによる第2発明の効果の意義に優れる点から、上記希土類元素の酸化物としては、好ましくは、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる少なくとも一種の酸化物であり、更に好ましくはY、La、Pr、Nd、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Ybから選ばれる少なくとも一種の酸化物であり、特に好ましくはY、La、Eu、Gd、Dy、Ho、Ybから選ばれる少なくとも一種の酸化物である。
【0046】
希土類元素の酸化物粉末では一次粒子が小さいほど粉砕され難くなり、活性面が減る。分散剤がない場合、活性面が少ないほど安定したスラリーとなる。しかし、一次粒子が小さすぎると凝集が強くなり、解砕できなくなる。解砕できたとしても強く凝集していた部分が解れた際に、その部分の活性が増え、安定しないスラリーとなる。この観点から一次粒子径は所定範囲である必要がある。具体的には、一次粒子は10nm以上100nm未満であり、12nm以上60nm以下が好ましく、15nm以上50nm以下が更に好ましく、特に好ましくは15nm以上35nm以下である。
第2発明において、希土類元素の酸化物粉末の一次粒子径は比表面積換算の一次粒子径であり、具体的には、BET1点法より測定された比表面積s(m2/g)から求めた粒径である。例えば、一次粒子径d(nm)はd=6000/(ρs)である。(ρは真密度(g/cm3))。
【0047】
更に、第2発明では、細孔直径0.005μm以上100μm以下の細孔容積(cm3/g)に真密度(g/cm3)を掛けて得られる数値が特定値である。
ここで、第2発明において、細孔容積ではなく、細孔容積に真密度を掛け合わせた値を規定する理由を以下説明する。
細孔容積(cm3/g)は測定するサンプルの重量当たり体積に依存する。従って体積当たりの細孔容積(cm3)が同じであっても、重量当たりの細孔容積(cm3/g)とすると、真密度が大きい化合物の値は小さくなる。
このため第2発明では、化合物種に依存しない細孔容積の値として、1gあたりの細孔容積(cm3/g)に真密度を掛け合わせた値を規定することとする。水銀ポロシメーターから求められる細孔容積(cm3/g)に真密度(1cm3あたりの質量)を掛けると、単位体積当たりの細孔容量になる。
【0048】
細孔直径0.005μm以上100μm以下の細孔容積に真密度を掛けた値(以下、「第一細孔容量」ともいう。)は、一次粒子間の空隙や凝集粒子間の間隙に由来する細孔容積全体を示しており、凝集の程度を示すパラメータである。単位当たりの細孔容積である第一細孔容量が少ないと凝集が強いことを示し、第一細孔容量が大きいと空隙が大きい又は多いことで凝集径が大きいことを示すため、第一細孔容量が適度であることは解砕しやすさにつながる。
【0049】
具体的には、細孔直径0.005μm以上100μm以下の細孔容積に真密度を掛けた値である第一細孔容量は、3以上14以下である。第一細孔容量の値が低いと粒子間に空隙がない状態で凝集が強い。また、14超になると空隙が多くなり、初期の凝集径が大きくなる。また、空隙が多いことで衝撃を吸収し易くなることが予想され、ビーズミルでの解砕が難しくなる。これらの観点から、4以上12以下がより好ましく、5.5以上12以下が特に好ましい。
【0050】
また第2発明では、細孔直径5nm以上50nm以下の細孔容積(cm3/g)に真密度(g/cm3)を掛けて得られる数値(以下、「第二細孔容量」ともいう。)も特定値であることを特徴の一つとする。
細孔径において、粒子径の1/3~1/4程度の大きさの細孔径が粒子間に形成されることが知られている(特開平7―237982号公報参照)。細孔直径5nm以上50nm以下の細孔は約15nm以上200nm以下の凝集径の集合体の細孔に相当することになる。解砕による到達凝集径はビーズ径に依存するが、ビーズ径は後述する通り、解砕エネルギーとの兼ね合いで小さくしすぎることはできない。15nm以上200nm以下程度の凝集径の粒子が多く存在すると、ビーズ解砕の到達粒径と重複しやすい。ビーズ解砕の到達粒径に比較的近い凝集径の粒子は、ビーズ解砕の到達粒径より大きくても解砕しがたく、到達粒径よりも小さくてもそれらの凝集体が集合する力が強くなり、凝集体の凝集(3次凝集体)を形成しやすい。これらのことから、細孔直径5nm以上50nm以下の細孔容積が大きな粉末は、分散質の粒径が大きなスラリーとなりやすい。このことから第2発明では、細孔直径5nm以上50nm以下の細孔容積に真密度を掛け合わせた値である第二細孔容量は2.0以下であり、1.5以下が更に好ましく、1.2以下であることが特に好ましく、1.0以下であることが更に好ましく、0.8以下が更に一層好ましく、0.7以下であることが特に好ましい。また、第二細孔容量の下限値は0以上であれば特に限定されるものではないが、製造容易性の観点からは0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.05以上がさらに好ましい。
【0051】
また、第2発明の希土類元素の酸化物粉末の比表面積は、例えば、10m2/g以上160m2/g以下であることが上記一次粒子径を与えやすい点で好ましく、15m2/g以上110m2/g以下であることがより好ましく、20m2/g以上80m2/g以下が更に好ましい。
【0052】
更に、希土類酸化物粉末の不純物量は少ない方がよい。合成時にNaイオン等が存在すれば、粒子成長を抑えられるが、Naは分解され難い。Naを好まない電子材料等があるため、Naイオンは少ない方がよい。この観点から、希土類酸化物粉末のNa含有量は100質量ppm以下が好ましく、特に好ましくは10質量ppm以下である。Na含有量は後述する実施例に記載の方法にて測定できる。
【0053】
希土類酸化物粉末は結晶子径が所定範囲であることが好ましい。具体的には希土類酸化物粉末の結晶子径が、6nm以上25nm以下であることが好ましい。希土類酸化物粉末の結晶子径が所定以上であることで一次粒子径を一定以上としやすく、一次粒子の凝集力を低下できる。また、結晶子径が所定以下とすることで一次粒子径を所定以下としやすく、且つ粒子同士のネッキングを防止できる。これらの点を考慮し、希土類酸化物粉末の結晶子径は、8nm以上20nm以下がより好ましい。
結晶子径は後述する実施例に記載の方法にて測定できる。
【0054】
第2発明の希土類酸化物粉末は、これを湿式解砕することでスラリーとすることができる。
第2発明の希土類酸化物粉末は特定の解砕処理における凝集粒径が特定範囲であることが好ましい。具体的には、第2発明の希土類酸化物粉末は、エタノールと混合して希土類酸化物粉末を10質量%含有するエタノールスラリーとした後、(A)の操作を、平均粒子径が前回測定値より大きくなるまで繰り返し行ったときに、最小となる平均粒子径(Dm)が10nm以上150nm以下となることが好ましい。希土類酸化物粉末を10質量%含有するエタノールスラリーとする方法としては、40.5gの純度99質量%以上のエタノールと4.5gの希土類酸化物粉末とを混ぜてスラリーとする方法が挙げられる。凝集粒径を測定するスラリーに分散剤は用いない。分散剤としては、後述する各種の分散剤の例が挙げられる。
(A):直径0.1mmのジルコニア製ビーズを用いて、スラリーに10分間のビーズミル処理を行い、その後、動的光散乱法により平均粒子径を測定する。
(A)の操作は、具体的には下記(a)とする。
(a):直径0.1mmのジルコニア製ビーズで、スラリー:ビーズの質量比を45:240とし、ベッセルの有効容積80ccのビーズミルにおいて、周速4m/s以上6m/s以下の条件で10分間のビーズミル処理を行い、その後、動的光散乱法により平均粒子径を測定する。
(ただし、平均粒子径が前回測定値より大きくなった場合にその時点でビーズミル処理を終了し、20回(A)を繰り返して2回目から20回目までの各回において前回測定値より平均粒子径が大きくならない場合も、20回(A)を繰り返した時点で終了する)。
ただし、ここで最小となる平均粒子径(Dm)とは、前記ビーズミル処理時10分間の処理毎にサンプリングして測定した動的光散乱法による平均粒子径の最小値の意味である。なお、平均粒子径はnm単位で表示して小数点以下の数値がある場合には小数点第1位を四捨五入して整数表示したときの値にて大小を判断する。
【0055】
上記のような測定により得られる最小の平均粒子径(Dm)とは、酸化物微粉末のスラリーに係る技術分野で一般的な解砕処理であるビーズ解砕処理による最小の凝集径を示している。最小の平均粒子径(Dm)は、150nm以下が好ましく、140nm以下がより好ましく、更に好ましくは105nm以下であり、特に好ましくは90nm以下である。当該最小の平均粒子径(Dm)を所定以下とすることで透明性を向上させることができるためである。更に最小の平均粒子径(Dm)は、10nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましく、20nm以上が更に好ましく、50nm以上が最も好ましい。この下限を所定値以上とすることでスラリーの分散安定性を高めることができるためである。
【0056】
また、最小の平均粒子径(Dm)の測定時における多分散指数(PI)は、0.3以下であることが粒度分布がシャープであり、よりスラリーとしたときの高分散性、可視光透過性が維持されやすい点で好ましく、0.25以下であることがより好ましい。なお、多分散指数(PI)は、粒子径分布の広がりを示す無次元指標である。
【0057】
ベッセルの有効容積とは、ビーズ及びスラリーが収容される容器(ベッセル)の内容積を指す。また、ビーズミルの周速は周速4m/s以上6m/s以下のいずれの周速を採用してもよいが、より好ましくは周速4m/s以上5m/s以下であり、更に好ましくは周速4m/sである。
【0058】
動的光散乱法(光子相関法)による平均粒子径及び多分散指数(PI)の測定には、動的光散乱光度計に測定試料を充填して行う。測定試料は、上記のスラリーの一部を取り出し、分散媒として湿式解砕時に用いた溶媒を用いて、超音波処理を施さない試料とする。測定試料の濃度は、1000~10000容量倍の範囲において、動的光散乱光度計が適正濃度と判定する希釈倍率とする。動的光散乱光度計としては、光子相関法で求めた自己相関関数よりキュムラント法解析で平均粒子径及び多分散指数(PI)を求める方法を採用する装置を採用でき、例えば、大塚電子製ELSZ-2000ZSを用いることができる。
なお、キュムラント法については、JIS Z 8828:2019「粒子径解析―動的光散乱法」の「9.2.1 キュムラント法」及び同JISの附属書Aの「A.1.2キュムラント法」に記載されている。
【0059】
第2発明の希土類酸化物粉末を上記のように解砕して最小の平均粒子径(Dm)を求めて得られた解砕後のスラリーは、これを常温(15~25℃)で静置させたときに、下記式の計算値が所定範囲であることが好ましい。下記式は、7日間静置したときの粒径変動を示す。下記式の値は25%以下であることが好ましく、20%以下がより好ましく、15%以下であることがさらに好ましい。この上限以下であれば、超音波等をかけて容易に解砕直後と同等又はそれに近い粒径に戻すことができる。スラリーの平均粒子径は、微粒子の測定であるため、測定のバラつきも考える必要がある。実質粒径の変化がない場合、粒径が小さくなっているように測定されることもあるため、当該計算値は-15%以上であることが好ましく、-10%以上であることが更に好ましい。
下記式中、「解砕直後の平均粒子径(D0)」とは、上記の(A)の操作を、平均粒子径が前回測定値より大きくなるまで繰り返し行ったときに、20回目まで平均粒子径が前回測定値に比べて大きくならなかった場合、最小の平均粒子径(Dm)と同じ値となる。一方、20回目までの繰り返し中に、平均粒子径が前回測定値に比べて大きくなってビーズミル処理が終了した場合、その最後の測定値が「解砕直後の平均粒子径(D0)」となる。また下記式中、「解砕後7日後の平均粒子径(D7)」は、ビーズミル処理終了後のスラリーを上記条件にて7日間静置させたときに、再度上記の方法で測定した動的光散乱法(光子相関法)による平均粒子径をいう。式:(解砕後7日後の平均粒子径(D7)-解砕直後の平均粒子径(D0))/解砕直後(D0)の平均粒子径×100(%)
【0060】
第2発明の希土類酸化物粉末は、解砕直後の平均粒子径(D0)は、210nm以下であることが好ましく、150nm以下であることが更に好ましく、120nm以下であることが特に好ましい。静置後の透過率を高めることができるためである。また、解砕直後の平均粒子径(D0)は、25nm以上であることが好ましく、50nm以上であることが更に好ましい。スラリーの分散性を高めることができるためである。
【0061】
第2発明の希土類酸化物粉末は、解砕7日後の平均粒子径(D7)が150nm以下であることが好ましく、120nm以下であることが更に好ましく、100nm以下であることが特に好ましい。静置後の透過率を高めることができるためである。また、解砕7日後の平均粒子径(D7)は、25nm以上であることが好ましく、50nm以上であることが更に好ましい。スラリーの分散性を高めることができるためである。
【0062】
第2発明の希土類酸化物粉末は、解砕7日後にスラリー20mlに対して、40Wの超音波(周波数40kHz)を5分照射した平均粒子径(D7S)が、150nm以下であることが好ましく、120nm以下であることが更に好ましく、100nm以下であることが特に好ましい。静置後の透過率を高めることができるためである。また、当該平均粒子径(D7S)は、25nm以上であることが好ましく、50nm以上であることが更に好ましい。スラリーの分散性を高めることができるためである。
【0063】
上述した比表面積(m2/g)、一次粒子径(nm)、第一細孔容量、第二細孔容量、Na含有量、Dm(nm)、D0(nm)、D7(nm)、(D7-D0/D0)(%)、D7S(nm)を得るためには、後述する好適な希土類酸化物粉末の製造方法を採用し、混合、洗浄又は焼成の条件を調整すればよい。
【0064】
次いで第2発明の希土類酸化物粉末の好適な製造方法について説明する。
本製造方法は、炭酸塩水溶液(以下「A液」ともいう。)と希土類元素の水溶性塩水溶液(以下「B液」ともいう。)とを反応槽を同時に投入して、混合液のpHが6.5~7.0、好ましくは6.5~6.9となるように混合して炭酸塩と希土類元素の水溶性塩とを反応させ、A液とB液の混合開始から5分以内に固液分離を開始する反応・固液分離工程と、
反応・固液分離工程で得られた残渣をアルコール又は含水アルコールで洗浄する洗浄工程と、
洗浄した残渣を、焼成する焼成工程とを含むものである。
第2発明の希土類酸化物粉末を首尾よく得る点から、好適には、B液である希土類元素の水溶性塩水溶液における酸化物換算の水溶性塩濃度が10~400g/Lであり、より好適には20~300g/Lであり、特に好適には20~200g/Lであり、最も好ましくは20g/L以上100g/L未満である。
本製造方法は、第1発明の希土類酸化物粉末の製造方法と、A液とB液の混合液を必ずしも高速撹拌しなくてよい点、反応・固液分離工程で得られた残渣をアルコールだけでなく、含水アルコールでも洗浄してよい点、及び、B液における希土類元素の水溶性塩水溶液の好ましい濃度範囲が異なる。
【0065】
(反応・固液分離工程)
炭酸塩水溶液であるA液において、炭酸塩は、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。本明細書でいう炭酸塩とは正塩だけでなく酸性塩である炭酸水素塩を含む。混合液のpHの調製が容易な点やナトリウム含量を低減する点から、炭酸水素アンモニウムが好ましい。
希土類元素の水溶性塩水溶液であるB液において、希土類元素の水溶性塩としては、硝酸塩、酢酸塩、アンミン錯体、塩化物が挙げられ、混合液のpHの調製が容易な点や生産性の観点から硝酸塩が好ましい。
【0066】
本製造方法を採用するに際して、A液及びB液の濃度は、所定範囲内であることも、一次粒子径、第一細孔容量、第二細孔容量を首尾よく所定範囲とする点から好ましい。具体的にはA液における炭酸塩の濃度は5~25質量%であることが好ましく、10~15質量%であることがより好ましい。B液における希土類元素の水溶性塩の濃度については、上記の通りである。
【0067】
本製造方法において、炭酸塩水溶液であるA液と希土類元素の水溶性塩水溶液であるB液とは両者の混合液のpHが6.5~7.0、好ましくは6.5~6.9となるように反応槽に同時に投入される。ここでいうpHは両者の混合液の温度でのpHである。混合液のpHが7.0超となると、一次粒子が大きなものとなってしまう。またpHを6.5以上とすることはA液中の希土類イオンがほぼ全て沈殿する利点がある。A液及びB液はいずれも投入時点で加温しないことが好ましい。A液及びB液は、反応槽への投入時点で5~50℃であることが好適であり、混合液の温度は5~40℃であることが好適である。一次粒子径を好適な範囲内とするために、反応を極短時間で行い、すぐに濾過することが好ましい。このために、混合液のpHが、A液及びB液の反応槽の投入開始時点(A液とB液との混合開始時点)から反応生成物が生じる時点(より具体的には固液分離開始時点)まで6.5~7.0、好ましくは6.5~6.9の範囲内であるように両液の投入のタイミング及び投入速度を調整して、pHを上記範囲に一定に維持することが好適である。pHが上記範囲となることで反応進行がスムーズに起こる。
【0068】
A液とB液とが同時に添加されるとは、反応槽においてA液が投入される時点と、B液が投入される時点とが少なくとも一部で同時となることを意味する。上述した通り、混合液のpHが、A液及びB液の反応槽の投入開始時点(A液とB液との混合開始時点)から反応生成物が生じる時点(より具体的には固液分離開始時点)まで混合液のpHが継続して6.5~7.0、好ましくは6.5~6.9の範囲内であるためには、上記の濃度のA液とB液とについて、それぞれの投入開始をほぼ同時とし、投入速度を一定とすることが好ましい。またA液とB液の投入速度は、A液とB液の混合開始から5分以内、より好適には3分以内に固液分離を開始できるように調整する。
本発明者は反応槽に予め入れておいたA液にB液を添加したり、反応槽に予め入れておいたB液にA液を投入するのではなく、所定濃度のA液とB液を同時投入し、且つ所定pHを維持した条件で混合することで、短時間で反応を済ませることができ、これを所定の後処理に供すると、一次粒子径が小さく分散性が良く透明性に優れたスラリーが得られる第2発明の希土類酸化物粉末を得ることができることを見出した。
【0069】
反応槽においてA液とB液の混合液は撹拌されることが、首尾よく第2発明の希土類酸化物粉末が得られる点で好ましく、高速撹拌であっても低速攪拌であっても中速攪拌であってもよい。
撹拌速度は100rpm以上25000rpm以下が好ましく、200rpm以上21000rpm以下がより好ましい。
低速攪拌としては100rpm以上1000rpm未満の撹拌が挙げられ、200rpm以上がより好ましい。
中速攪拌としては1000rpm以上10000rpm未満の撹拌が挙げられる。
高速撹拌としては10000rpm以上25000rpm以下の撹拌が挙げられる。高速撹拌の場合、18000rpm以上21000rpmが特に好ましい。
一次粒子径を特に好ましく小さくできる点から高速撹拌が好ましい。
反応槽としては、所定の回転数の撹拌が可能な撹拌装置(反応槽と一体型のものを含む)を備えるものであれば反応槽の容量は生産量等に応じて適宜定めればよい。ただし、高速撹拌装置を備える反応槽の容量は、高速撹拌装置の大きさの制限もあり、50mL~5Lが好適であり、100mL~2Lであることがより好適であり、100mL~1Lであることが更に好適である。
【0070】
(洗浄工程)
上記の固液分離工程で得られた残渣(「固形状物」ともいう。)は、アルコール又は含水アルコールで洗浄することも重要である。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられるが、エタノールであることが、使用性の点から好ましい。含水アルコールを用いる場合、含水アルコールにおけるアルコール濃度は、10体積%以上が好ましく、50体積%以上がより好ましい。洗浄に用いるアルコールの量は、洗浄対象である固形状物の酸化物換算量1gに対して、0.1L~50Lであることが好ましく、0.5L~20Lであることがより好ましく、1L~10Lであることがさらに好ましい。ここでいう量は、アルコールを数回残渣に通液して洗浄する場合にはその総量である。
【0071】
(焼成工程)
焼成温度は、1000℃以下であることが、凝集抑制の点、及び結晶成長の抑制の点で好ましく、800℃以下であることがより好ましい。焼成温度は、500℃以上であることが、炭素含有量低減の点で好ましい。この観点から、焼成温度は500℃以上1000℃以下であることがより好適であり、500℃以上800℃以下が更に好適である。焼成は、大気雰囲気などの活性ガス雰囲気下、及びアルゴンや窒素などの不活性雰囲気下で行うことができるが、活性ガス雰囲気下、特に大気雰囲気下で行うことが好ましい。
【0072】
(解砕工程)
焼成して得られた希土類酸化物粉末は粗粒を解砕することが好ましい。解砕には、乾式粉砕機を用いることができ、例えば、粉砕機(商品名:フォースミル、大阪ケミカル製)を用いることができる。
【0073】
次いで、上記のようにして得られた希土類酸化物粉末を湿式解砕してスラリーとするスラリーの製造方法について説明する。
【0074】
湿式解砕は、ビーズミルにより行うことが、高分散が可能という面で好適である。ビーズミルのビーズは通常球状である。ビーズの材質は、ジルコニア、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭化タングステン、耐摩耗鋼やステンレス等を挙げることができ、ジルコニアが好適である。ここでいうジルコニアにはYSZやPSZ等の安定化ジルコニアを含む。
【0075】
解砕時のビーズ径は0.01~0.3mmが好ましい。解砕による到達粒径はビーズ径に基づき、例えばビーズ径の1/1000程度となるため、ビーズ径は小さい方がよいが、小さすぎると解砕エネルギーが小さくなるため、凝集が解れないことがあり得る。この観点から、解砕時のビーズ径0.05~0.15mmがより好ましい。
【0076】
希土類酸化物粉末を分散させる溶媒は、水よりも分散性が良好な点で、一価アルコールが好ましく、特に第一級アルコールが好ましく、とりわけエタノールが好ましい。一価アルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノールが挙げられる。一価アルコールは実験室の洗浄材等で頻繁に使用されており、入手し易い。また、エタノール、1-プロパノールは有機溶剤中毒予防規則の対象外であるため、取り扱いやすい。なお、一価アルコールは純度が99容量%以上であることが好適である。
【0077】
また、第2発明の製造方法で得られるスラリーにおける希土類酸化物粉末の割合は、1~50質量%であることが、所望の可視光透過率を得る点から好適であり、5~20質量%であることがより好ましい。
【0078】
第2発明のスラリーの製造方法は、得られるスラリーの平均粒子径が、200nm以下まで解砕することが好ましく、10nm以上150nm以下となるまで解砕するものであることがより好ましく、15nm以上140nm以下が更に好ましく、特に好ましくは20nm以上105nm以下である。上記上限以下、特に上記範囲であることで、透過性や安定性に優れる。
【0079】
第2発明のスラリーの製造方法は、得られるスラリーの多分散指数(PI)が、0.3以下となることが好ましく、0.25以下となることが好ましい。多分散指数(PI)は低ければ低いほど好ましいが、製造容易性の点からは0.1以上であることが好ましい。
【0080】
第2発明のスラリーの製造方法は、解砕後7日後に静置したスラリーの可視光透過率が40~95%となる方法であることが好ましく、50~80%となる方法であることがより好ましい。可視光透過率は後述する実施例に記載の方法にて測定できる。
【0081】
第2発明のスラリーの製造方法は、分散剤を用いないことが好ましい。分散剤としては、イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、pH調整剤、溶解性塩類が挙げられ、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、 ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエー テル、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチ レンポリオキシプロピレンアルキルエーテルなどのエーテル型や、ポリオキシエチレング リセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油および硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのエステルエーテル型などが挙げられる。またジグリセリンラウレート等のポリグリセリン脂肪酸エステルも挙げられる。更に、硝酸、塩酸、酢酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムも挙げられる。また特開2007-126349号公報に記載のβ-ジケトンも挙げることができる。それ以外でも、添加材を入れることで分散性が向上するものも分散材とする。分散剤を用いないとは、分散剤の量がスラリー中10000質量ppm以下であることを意味することが好ましく、1000質量ppm以下であることを意味することがより好ましく、100質量ppm以下であることを意味することが更に好ましく、10質量ppm以下を意味することが更に一層好ましく、用いないことが特に好ましい。
【実施例0082】
<第1発明を説明する実施例及び比較例>
以下、実施例により第1発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0083】
(実施例a1)
炭酸水素アンモニウムが13.0質量%溶解している炭酸水素アンモニウム水溶液(25℃)10kgと酸化物換算で300g/Lの濃度である硝酸イットリウム水溶液(25℃)40Lを準備した。前記炭酸水素アンモニウム水溶液は後述する実施例a2~9にも使用し、前記硝酸イットリウム水溶液は後述する実施例a2~4にも使用した。硝酸イットリウム水溶液を100mL/minにて、炭酸水素アンモニウム水溶液を両液の混合液のpHが6.8になるような流量にて同一の反応層に同時に投入して混合した。投入時に容器内の混合液を20,000rpmで撹拌させた。容器からあふれ出た懸濁液を逐次的に20秒間濾過した後、両液の投入及び撹拌を止め、濾物である残渣を10Lのエタノールで通水洗浄した。この通水洗浄作業は5回繰り返した。2液の混合開始から濾過開始までに係る時間は60秒~120秒であった。洗浄後の残渣を大気雰囲気下600℃で焼成することで約10gのY23を得た。また、反応槽の内容積は100mlであった。得られたY23の収率は20秒間濾過したことから換算して約99%であった。
上記の作業を10回繰り返して、10回の作業で得られたY23サンプルを混合した。得られたY23を、フォースミル(大阪ケミカル社製)にて30秒間解砕し、微粉末を得た。
得られたY23微粉末について、下記方法にて比表面積(m2/g)、一次粒子径(nm)、凝集径、初期嵩密度(AD)及びタップ嵩密度(TD)、Zr含有量、炭素含有量を測定し、初期嵩密度(AD)及びタップ嵩密度(TD)からPAD、PTD及びPAD-PTDの値を算出したほか、塗膜性を評価した。結果を表1に示す。
【0084】
(比表面積の測定方法)
マウンテック社製全自動比表面積計Macsorb model―1201を用いてBET1点法にて測定した。使用ガスは、窒素ヘリウム混合ガス(窒素30vol%)とした。測定の前処理としてガラスセルに粉末を入れ装置にセットし、セットしたガラスセルに窒素ガスを流通させて300℃で60分間脱気させた。
【0085】
(一次粒子径の算出方法)
BET1点法より測定された比表面積s(m2/g)から求めた粒径を次式にて求めた。一次粒子径d(nm)はd=6000/(ρs)(ρは真密度(g/cm3))。真密度については、Y23が5.03(g/cm3)、Nd23が7.33(g/cm3)、Gd23が7.62(g/cm3)、Eu23が7.4(g/cm3)、Dy23が7.81(g/cm3)、Yb23が9.22(g/cm3)、とした。
【0086】
(凝集径(D100、D50、D90))
日機装株式会社製マイクロトラックMT3300EXIIにて測定した。測定の際には、ヘキサタリン酸ナトリウム0.2質量%溶解させた水溶液を充填している試料循環器のチャンバーに粉末の状態の試料を添加して、装置に備え付けの超音波照射装置にて40Wの超音波、周波数40kHzにて5分間分散させ、適正濃度であると装置が判定してからD100、D50、D90を測定した。
【0087】
(初期嵩密度及びタップ嵩密度の測定方法)
1.試料の前処理:希土類酸化物粉末(実施例a1ではY23微粉末)は測定する直前に大阪ケミカル株式会社フォースミルで30秒間解砕を実施した。
2.測定
(1)内径10mm、外径12mm、高さ51mm、内面高さ50mm(内容積3.93cm3)のSUS304製の測定容器の質量(WC(g))を測定した。
(2)測定容器に目開き2mmのふるいを通して前処理後の試料をあふれるまで入れた。
(3)測定容器の上端面から盛り上がった粉末を、すり切り板を使ってすり切った。
(4)測定容器ごと質量(W0(g))を測定し、測定容器の質量(Wc(g))を差し引いて試料の質量(WA(g))を計算した。
(5)試料の入った測定容器の上に補助円筒(内径 下部12mm、上部10mm、外径14mm、高さ50mm(下部10mm、上部40mm)のSUS304製)を継ぎ足し、目開き2mmのふるいを通してさらに試料を充てんした。
(6)補助円筒を付けたまま試料の入った測定容器をタップ高さ10mm程度にて手振りにて容器をゴム板を敷いた机に打ち付けて600回タップを行った。その間、試料の高さが測定容器の上端面から常に20~30mm高くなるように試料を追加した。
(7)補助円筒を外して、測定容器の上にあふれている試料をすり切り板ですり切った。
(8)試料をすり切り後、測定容器ごと質量(W1(g))を測定し、測定容器の質量(Wc(g))を差し引いて試料の質量(WT1(g))を求めた。
(9)再度測定容器に補助円筒を取り付け、さらに目開き2mmのふるいを通して更に試料を充てんし、タップ高さ10mm程度にて手振りにて100回タップを行った。
(10)補助円筒を外して、測定容器の上にあふれている試料をすり切り板ですり切った。
(11)試料をすり切り後、測定容器ごと質量(W2(g))を測定し、測定容器の質量(Wc(g))を差し引いて試料の質量(WT2(g))を計算した。この値(WT2(g))と先の値(WT1(g))との差がWT1に対して0.3%以内であることを確かめた。0.3%を超えた場合は、前回との差が0.3%以内になるまで、(9)以降の操作を繰り返した。
(12)初期嵩密度及びタップ嵩密度を下記の式により計算した。初期嵩密度(g/cm3)=WA(g)/3.93(cm3)タップ嵩密度(g/cm3)=WT2(g)/3.93(cm3
(13)以上の測定を3回行った。初期嵩密度及びタップ嵩密度は3回の平均値を採用した。
【0088】
(空隙率)
測定された初期嵩密度及びタップ嵩密度をρ0とすると空隙率P(%)はP=(1-ρ0/ρ)×100から求めた。(ρは真密度(g/cm3))。
【0089】
(炭素含有量)
株式会社堀場製作所製炭素硫黄分析装置EMIA-320Vを用いて酸素気流中燃焼赤外線吸収法にて測定した。
【0090】
(Zr含有量)
株式会社日立ハイテクサイエンス社製ICP発光分光分析装置SPS-3520V-DDを用いて測定した。
【0091】
(塗膜性の評価)
得られたY23微粉末3gとエタノールとを用いて、Y23濃度が30質量%のエタノールスラリーを調製し、40Wの超音波(周波数40kHz)で5分間分散した後、ギャップが10μmのアプリケーター(BEVS Industrial社製)を用いてPETフィルム上に塗膜した。塗膜性は以下の評価基準にて評価した。A:塗工可能。B:塗工できていない部分が発生する。C:ギャップから分散質が出てこないため塗工不可。
【0092】
(実施例a2)
800℃で焼成した以外は実施例a1に記載の内容と同じとした。
【0093】
(実施例a3)
900℃で焼成した以外は実施例a1に記載の内容と同じとした。
【0094】
(実施例a4)
500℃で焼成した以外は実施例a1に記載の内容と同じとした。
【0095】
(実施例a5)
実施例1に記載の内容で、硝酸イットリウム水溶液ではなく、酸化物換算濃度が400g/Lである硝酸ネオジム水溶液を用いた。また焼成温度は900℃とした。これらの点以外は実施例a1と同じとした。
【0096】
(実施例a6)
実施例1に記載の内容で、硝酸イットリウム水溶液ではなく、酸化物換算濃度が250g/Lである硝酸ガドリニウム水溶液を用いた。また焼成温度は650℃とした。これらの点以外は実施例a1と同じとした。
【0097】
(実施例a7)
実施例1に記載の内容で、硝酸イットリウム水溶液ではなく、酸化物換算濃度が300g/Lである硝酸ユウロピウム水溶液を用いた。また焼成温度は650℃とした。これらの点以外は実施例a1と同じとした。
【0098】
(実施例a8)
実施例1に記載の内容で、硝酸イットリウム水溶液ではなく、酸化物換算濃度が300g/Lである硝酸ジスプロシウム水溶液を用いた。また焼成温度は600℃とした。これらの点以外は実施例a1と同じとした。
【0099】
(実施例a9)
実施例a1に記載の内容で、硝酸イットリウム水溶液ではなく、酸化物換算濃度が300g/Lである硝酸イッテルビウム水溶液を用いた。また焼成温度は600℃とした。これらの点以外は実施例a1と同じとした。
【0100】
(比較例a1)
本比較例は、特開2014-218384号公報の実施例1に相当する例である。
1.0mol/Lの硝酸イットリウム水溶液100mLにオレイン酸ナトリウム5gを添加し、2時間攪拌した。次いで、該水溶液にシクロヘキサン1000mLと非イオン系界面活性剤Span80(ソルビタンモノオレエート、関東化学(株)製)1.0gを加えて激しく(10,000rpmで)攪拌すると、微小な液滴からなるW/O型エマルション溶液が得られた。次に、炭酸水素アンモニウム13gを純水50mLに溶かして水溶液とし、エマルション溶液を激しく攪拌しながらこの炭酸水素アンモニウム水溶液を滴下した。炭酸水素アンモニウム水溶液の滴下に伴い白色の沈殿が生じた。滴下完了後、攪拌を続けながら室温(25℃)で1時間の熟成を行なった。その後、生じた沈殿をブフナー漏斗で水溶液からろ別し、得られた沈殿を75℃のオーブンで12時間乾燥させた後、アルミナ坩堝に入れ800℃大気雰囲気下で焼成した。こうして、8gの酸化イットリウム微粉末が得られた。その後、実施例a1に記載の方法で塗膜した。
この粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、粒径がおよそ100nmの凝集のない粒径の揃った球状の粒子群であった。比表面積から求める一次粒子径も100nm以上であった。
【0101】
(比較例a2)
本比較例は、特開2014-218384号公報の実施例1の焼成温度を変更したものに相当する例である。
焼成温度を600℃にした以外は比較例1と同じで作製した。この粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、SEM径がおよそ100nmと10nmの粒子が混在しており、低温焼成ではSEM径が均一な粒子を得られなかった。比表面積から求める一次粒子径も100nm以上であった。
【0102】
(比較例a3)
本比較例は、J Nanopart Res (2013) 15:1438に相当する例である。
イットリウム元素として50mmol/L塩化イットリウム水溶液(pH=5.0)2Lを50mmol/LのNa2CO3水溶液2Lに瞬時に入れた。得られた懸濁液を直ぐに濾過して濾物をエタノール10Lで洗浄した後、600℃で焼成することで5gのY23を得た。その後、実施例1aに記載の方法で塗膜した。
【0103】
(比較例a4)
本比較例は、特開平4-310516号公報に相当する例である。
18.0gのY23を900mLの希釈塩酸に溶解し、この溶液を40℃、9Lの希釈アンモニア水(アンモニア0.2モル含有)中に滴下した。30分かけて滴下し、滴下終了後、30分間熟成させた後、炭酸水素アンモニウム144gを900mLの水に溶かした水溶液を加えてイットリウム炭酸塩を析出させた。2時間熟成後濾過、水洗したのち得られたイットリウム炭酸塩にオクタノール900mLを加えて100℃で3時間攪拌しながら水分を蒸発させた。その後、濾過してイットリウム炭酸塩を取り出し、13.3Pa(0.1トル)160℃で減圧乾燥した。その後650℃で2時間焼成することで10gのY23が得られた。このY23の結晶子径は80Åであった。
【0104】
【表1】
【0105】
上記表1の通り、Ce以外の少なくとも1種の希土類元素の酸化物の粉末であって、所定の一次粒子径10nm以上60nm以下を有し、40Wの超音波分散処理して測定したD100が1μm以上10μm以下である、ないし、空隙率の差(PAD-PTD)が2.0%以上5.0%以下である各実施例の粉末は、塗膜性が良好であった。
一方、一次粒子径が10nm以上60nm以下の範囲外であるか、或いは、(PAD-PTD)が2.0%以上5.0%以下の範囲外である比較例a1~a4では40Wの超音波処理後の凝集径はいずれも大きくなり、塗膜性が得られないことが示された。
以上より、本発明の構成により、Ce以外の希土類酸化物において、一次粒子径(SSA換算径)数十nmでも容易に解砕でき、塗膜の形成が可能な希土類酸化物粉末を提供できることが判る。
【0106】
以下、実施例により第2発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。なお、下記実施例において、反応槽の内容積は低速攪拌では2L、高速攪拌では100mLであった。
【0107】
(実施例b1)
炭酸水素アンモニウムが13.0質量%溶解している炭酸水素アンモニウム水溶液(25℃)10kgと酸化物換算で50g/Lである硝酸イットリウム水溶液(25℃)40Lを準備した。前記炭酸水素アンモニウム水溶液は後述する実施例b2~6にも使用し、前記硝酸イットリウム水溶液は後述する実施例b2~b4及びb6にも使用した。硝酸イットリウム水溶液を600mL/minにて、炭酸水素アンモニウム水溶液を両液の混合液のpHが6.8(混合液の温度:20~30℃)になるような流量にて同一の容器に同時に投入して混合した。投入時に容器内の混合液を20,000rpmで高速攪拌させた。容器からあふれ出た懸濁液を逐次的に20秒間濾過した後、両液の投入及び撹拌を止め、濾物である残渣を10Lのエタノールで洗浄した。この洗浄作業は5回繰り返した。洗浄した濾過粉末を、大気雰囲気下700℃で焼成して10gのY23を得た。得られたY23を、フォースミル(大阪ケミカル社製社製)にて30秒間解砕し、微粉末を得た。得られたY23微粉末について、下記方法にて比表面積(m2/g)、一次粒子径(nm)、細孔直径0.005μm以上100μm以下の細孔容量*真密度、5nm以上50nm以下の細孔容積*真密度、Na含有量(質量ppm)、結晶子径(nm)を測定したほか、下記の解砕評価を行った。結果を表2に示す。
【0108】
(比表面積(m2/g))
上記第1発明の実施例と同様の方法で測定した。
【0109】
(一次粒子径の算出方法)
上記第1発明の実施例と同様の方法で算出した。
【0110】
(細孔直径0.005μm~100μmの細孔容積*真密度及び5nm~50nmの細孔容積*真密度)
マイクロメリティクス社製オートポアIVを用いて細孔容積を測定した。
細孔直径が0.005μm以上100μm以下である範囲の累積容積を細孔直径0.005μm以上100μm以上の細孔容積とした。また細孔直径が5nm以上50nm以下である範囲の累積容積を細孔直径5nm以上50nm以下での細孔容積とした。求めた細孔容積に希土類酸化物の真密度を掛けることで、細孔容積*真密度の値を求めた。使用する真密度の値は一次粒子径の算出に用いたものと同じものを用いた。
【0111】
(Na含有量(質量ppm))
サーモフィッシャーサイエンティフィック社製 CE3300FLを用いて原子吸光分析を行った。
【0112】
(結晶子径(nm))
以下のX線回折条件から得られたプロファイルからHalder-Wagner法を用いて結晶子径を求めた。
(X線回折測定条件)・装置:UltimaIV(株式会社リガク製)・線源:CuKα線・管電圧:40kV・管電流:40mA・スキャン速度:2度/min・ステップ:0.02度・スキャン範囲:2θ=20°~90°
【0113】
(解砕評価:平均粒子径の測定)
上記で得られたY23微粉末を用いて、10質量%のスラリー(分散媒:99.5vol%エタノール)45gを調製し、直径0.1mmのジルコニア製ビーズ240g、周速4m/s、ビーズミル(広島メタル&マシナリー社製 アペックスLABO/A-LABO、有効容量80cc)で解砕した。10分間隔で解砕を止めて下記方法にて平均粒子径を測定した。ただし、平均粒子径が前回測定値より大きくなった場合にその時点でビーズミル処理を終了し、20回(A)を繰り返して2回目から20回目までの各回において前回測定値より平均粒子径が大きくならない場合も、20回(A)を繰り返した時点で終了する。最大20回の繰り返しで最小となる粒径を最小の平均粒子径(Dm)とした。また、解砕直後のデータはビーズミル処理を終了したときの粒径とした(表2の「D0」)。
【0114】
(平均粒子径及び多分散指数の測定方法)
大塚電子製ELSZ-2000ZSを用いて適正濃度であると装置が判定してから平均粒子径を測定した。スラリーは溶媒として99.5vol%エタノールを用い上記希釈倍率で希釈した。JIS Z 8828:2019に準拠して測定した、動的光散乱法(光子相関法)によって得られた平均粒子径及び多分散指数を採用した。測定は同一サンプルを3回測定して、3回の平均値を平均粒子径とした。ただし、各回の測定値と3回の平均値との差の絶対値が3回の平均値に対して、1つでも2%を超えていた場合はその測定結果は採用せず、新たに3回の再測定を実施した。測定は25℃にて行った。なお表2に示す多分散指数は解砕評価における最小の平均粒子径(Dm)測定時のものである。
【0115】
(解砕7日後の評価)
上記のように解砕評価を行ったスラリーを、常温(20℃)にて7日間静置した。7日静置後の平均粒子径(D7)を上記方法にて測定し、「式:(解砕後7日後の平均粒子径(D7)-解砕直後の平均粒子径(D0))/解砕直後の平均粒子径(D0)×100(%)」の値を計算した。その結果を表2に「(D7-D0)/D0×100(%)」として記載している。また、1週間後のスラリー20mlに対して、40Wの超音波(周波数40kHz)を5分照射した後の平均粒子径も測定した(表2の「D7S」)。
【0116】
また7日静置後の沈降性を下記基準で評価した。有:容器下部に粒子の塊が目視で確認できる。無:容器下部に粒子の塊が目視で確認できない。
【0117】
更に、7日静置後の可視光透過率(%)を、下記方法にて測定した。
(透過率)
可視吸光光度計(株式会社日立製作所製のU-3100)を用いて350nm~800nmの透過スペクトルを測定した。透過率は350nm~800nmの透過スペクトルの間の最小値を示す。サンプルは解砕時に用いた溶媒30mlに、解砕して得られたスラリー(解砕後1週間後のもの)を0.2ml滴下して調製した。
【0118】
(実施例b2)
炭酸水素アンモニウム水溶液と硝酸イットリウム水溶液の混合時の攪拌を、回転数400rpmの低速攪拌とした。また10Lのエタノールではなく、10Lの90vоl%エタノール(10vоl%純水)で残渣を洗浄した。それらの点以外は実施例b1と同様にした。
【0119】
(実施例b3)
10Lの90vоl%エタノールではなく、10Lの80vоl%エタノール(20vоl%純水)で残渣を洗浄した。その点以外は実施例b2と同様にした。
【0120】
(実施例b4)
10Lの90vоl%エタノールではなく、10Lの50vоl%エタノール(50vоl%純水)で残渣を洗浄した。その点以外は実施例b2と同様にした。
【0121】
(実施例b5)
酸化物換算で50g/L濃度である硝酸イットリウム水溶液(25℃)の代わりに、酸化物換算で50g/L濃度である硝酸イッテルビウム水溶液(25℃)を用いた。その点以外は実施例b1と同様にした。
【0122】
(実施例b6)
〔解砕評価〕のビーズミル解砕に供するスラリーの濃度を、10質量%から、4質量%に変更し、分散媒をエタノールからメタノールに変更した。それらの点以外は、実施例b1と同様にした。
【0123】
(実施例b7)
酸化物換算で50g/L濃度である硝酸イットリウム水溶液(25℃)の代わりに、酸化物換算で50g/L濃度である硝酸ジスプロシウム水溶液(25℃)を用いた。その点以外は実施例b1と同様にした。
【0124】
(比較例b1)
比較例a1で得た酸化イットリウム微粉末を、比較例b1の酸化イットリウム微粉末とした。
上記の通り、この粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、粒径がおよそ100nmの凝集のない粒径の揃った球状の粒子群であった。比表面積から求める一次粒子径も100nm以上であったため、上記のうち一部の評価は行わなかった。
【0125】
(比較例b2)
比較例a2で作製した酸化イットリウム微粉末を、比較例b2の酸化イットリウム微粉末とした。上記の通り、この粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、SEM径がおよそ100nmと10nmの粒子が混在しており、低温焼成ではSEM径が均一な粒子を得られなかった。比表面積から求める一次粒子径も100nm以上であったため、上記のうち一部の評価は行わなかった。
【0126】
(比較例b3)
比較例a3で作製したY23を比較例b3の酸化イットリウム微粉末とした。この粉末について、実施例b1に記載の方法で各種測定を行ったほか、解砕評価した。解砕後1週間後のスラリーは凝集して沈降していたため、1週間後の凝集径(「7D」)及び透過率は測定できなかった。また1週間後の超音波照射後の凝集径「7DS」の測定は行っていない。
【0127】
(比較例b4)
比較例a4で作製した酸化イットリウム微粉末を、比較例b4の酸化イットリウム微粉末とした。
【0128】
(比較例b5)
本比較例はUS2020/0071180Aに相当する例である。
イットリウムイオンの濃度が0.05モル/Lになるように20Lの硝酸イットリウム水溶液を準備した。その水溶液にアセチレングリコール-エチレンオキシド付加物(日信化学工業製サーフィノール485)を21.1g添加した。そしてイットリウムイオンに対して、モル比で15倍の量の尿素を添加した。加水分解反応を進行させるために、95℃に加熱して90分間保持し、その後、室温まで冷却した。加熱中は、攪拌翼により、水溶液をゆっくり攪拌し、容器内で水溶液の温度分布が均一になるようにした。
次に、反応後の液から、遠心分離機を用いて沈殿物を固液分離した。更に、未分解の尿素や残留する硝酸イオンなどを除去するために、回収した固形分を水洗した。次に、得られた希土類化合物粒子を55℃で5日間乾燥後、乾式でビーズミル解砕した。解砕した希土類化合物粒子を600℃で4時間焼成して、酸化イットリウム粒子を得た。得られた酸化イットリウムは一次粒子径が100nm以上であったため、上記のうち一部の評価は行わなかった。
【0129】
【表2】
【0130】
上記表2の通り、Ce以外の少なくとも1種の希土類元素の酸化物の粉末であって、
一次粒子径が10nm以上100nm未満であり、細孔直径0.005μm以上100μm以下の細孔容積(cm3/g)に真密度(g/cm3)を掛けて得られる数値が3以上14であり、
細孔直径5nm以上50nm以下の細孔容積(cm3/g)に真密度(g/cm3)を掛けて得られる数値が0以上2.0以下である、各実施例の希土類酸化物粉末は、解砕後の粒径が小さく、7日静置後の透過率が高かった。
これに対し、一次粒子径が10nm以上100nm未満の範囲外である比較例b1、b2、b5では解砕後の平均粒子径が大きくなり、7日後の可視光透過率が低かった。また細孔直径0.005μm以上100μm以下の細孔容量(cm3/g)に真密度(g/cm3)を掛けて得られる数値が14超であった比較例b4も、解砕後の平均粒子径が大きくなり、7日後の透過率が低かった。更に、細孔直径5nm以上50nm以下の細孔容積(cm3/g)に真密度(g/cm3)を掛けて得られる数値が2.0超である比較例3は経時で分散質が沈降し、可視光透過率を測定できなかった。
以上より、本発明の希土類酸化物粉末により、分散剤を用いずに高分散スラリーにすることができ、そのスラリーの透明度を安定して保つことができる微粒のCe以外の希土類元素の酸化物粉末を提供できることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0131】
第1発明によればCe以外の希土類酸化物において、超音波処理等の簡便な分散処理により、容易に分散でき、薄膜の塗膜の形成が可能な希土類酸化物粉末が提供される。
【0132】
第2発明によれば分散剤を使用しないでも高分散スラリーにすることができ、分散状態を維持できるCe以外の希土類元素の酸化物の微粉末が提供される。このような希土類酸化物微粉末は、これを解砕することで、高分散スラリーが得られ、当該スラリーはその分散性に基づいて可視光の透過性を高めたものとすることができる。可視光の透過性を高めることで、希土類酸化物添加の効果を活かしつつ透明性が必要な材料への展開が可能となる。また、希土類イオン特有の狭い波長域のみを吸収するスラリーの提供も可能となる。加えて本発明の希土類酸化物粉末によれば、スラリー中の分散状態を維持できるので、スラリーの透明度を安定して維持できる。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ce以外の少なくとも1種の希土類元素の酸化物の粉末であって、
次粒子径が10nm以上100nm未満であり、
希土類酸化物粉末をエタノールと混合して希土類酸化物粉末を10質量%含有するエタノールスラリーとした後、以下(A)の操作を、平均粒子径が前回測定値より大きくなるまで繰り返し行ったときに、最小となる平均粒子径が10nm以上105nm以下となる、希土類酸化物粉末。
(A):直径0.1mmのジルコニア製ビーズを用いて、スラリーに10分間のビーズミル処理を行い、その後、動的光散乱法により平均粒子径を測定する。
(ただし、平均粒子径が前回測定値より大きくなった時点で次の(A)の操作を行わずにビーズミル処理を終了し、20回(A)を繰り返して2回目から20回目までの各回において前回測定値より平均粒子径が大きくならない場合も、20回(A)を繰り返した時点で終了する。
ここで最小となる平均粒子径とは、前記(A)の処理毎にサンプリングして測定した動的光散乱法による平均粒子径の最小値の意味である。)