(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094358
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】学習装置、学習方法、プログラム、及び、レーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/66 20060101AFI20240702BHJP
G01S 7/298 20060101ALI20240702BHJP
F41H 11/02 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G01S13/66
G01S7/298 200
F41H11/02
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024064398
(22)【出願日】2024-04-12
(62)【分割の表示】P 2022500175の分割
【原出願日】2020-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【弁理士】
【氏名又は名称】江上 達夫
(74)【代理人】
【識別番号】100131015
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 浩誉
(72)【発明者】
【氏名】柴田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】真坂 元貴
(72)【発明者】
【氏名】阿部 祐一
(72)【発明者】
【氏名】工藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正徳
(72)【発明者】
【氏名】池田 昇平
(57)【要約】
【課題】追尾精度と追従性とを両立した追尾処理を実行可能なレーダ装置を提供する。
【解決手段】学習装置は、レーダ装置に使用される追尾モデルを学習する。第1取得部は、受信波に基づいて検出された目標の位置を示す目標検出情報と、目標検出情報に基づいて算出された前記目標の航跡とをレーダ装置から取得する。第2取得部は、目標の位置を示す目標位置情報を取得する。学習データ生成部は、目標検出情報と、航跡と、目標位置情報とを用いて、学習データを生成する。学習処理部は、学習データを用いて、目標検出情報に基づいて目標の追尾処理を行う追尾モデルを学習する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ装置からの送信波の送信に応じて受信した受信波に基づいて検出された航空機の位置を示す目標検出情報と、前記目標検出情報に基づいて算出された前記航空機の航跡とを前記レーダ装置から取得する第1取得手段と、
前記航空機の位置を示す目標位置情報を取得する第2取得手段と、
前記目標検出情報と、前記航跡と、前記目標位置情報とを用いて、学習データを生成する学習データ生成手段と、
前記目標検出情報と、前記目標検出情報に対するラベルと、を含む模擬データをシミュレーションにより生成する模擬データ生成手段と、
前記学習データ及び前記模擬データを用いて、前記目標検出情報に基づいて前記航空機の追尾処理を行う追尾モデルを学習する学習処理手段と、
前記航空機を追尾するための第1送信波と、前記学習データの生成に不足している条件に対応するデータを収集するための第2送信波と、のうちのいずれかを前記送信波として選択的に送信させるための制御を前記レーダ装置に対して行うレーダ制御手段と、
を備える学習装置。
【請求項2】
前記学習データ生成手段は、前記目標位置情報に基づいて、前記目標検出情報が示す航空機が真目標であるか誤目標であるかを示す教師ラベルを生成する請求項1に記載の学習装置。
【請求項3】
前記学習データ生成手段は、前記目標位置情報及び前記航跡に基づいて、前記目標検出情報が示す航空機の位置、速度、及び、加速度を含む教師ラベルを生成する請求項1又は2に記載の学習装置。
【請求項4】
前記目標検出情報は、前記レーダ装置の1次レーダにより生成される1次レーダプロットであり、
前記目標位置情報は、2次レーダにより生成される2次レーダプロットである請求項1乃至3のいずれか一項に記載の学習装置。
【請求項5】
前記目標位置情報は、前記航空機からの受信信号に含まれる、当該航空機の自己位置情報である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の学習装置。
【請求項6】
前記レーダ制御手段は、前記第2送信波を前記送信波として送信させるための制御を前記レーダ装置に対して行った際に、前記条件に対応する前記目標検出情報を生成させるための制御を前記レーダ装置に対してさらに行う請求項1乃至5のいずれか一項に記載の学習装置。
【請求項7】
前記レーダ装置は移動体に搭載され、
前記移動体の位置及び移動情報を含む移動体情報を取得する第3取得手段を備え、
前記学習データ生成手段は、前記移動体情報を用いて前記学習データを生成する請求項1乃至6のいずれか一項に記載の学習装置。
【請求項8】
前記レーダ装置は、前記追尾モデルを用いて前記目標検出情報及び前記航跡を生成する2つのデータ処理手段と、当該2つのデータ処理手段のうちの一方をアクティブ状態にしつつ他方をスタンバイ状態に切り替えることが可能な切替手段と、を有し、
前記第1取得手段は、前記2つのデータ処理手段のうちの前記アクティブ状態に切り替えられた一方のデータ処理手段から前記目標検出情報及び前記航跡を取得し、
前記一方のデータ処理手段から得られた前記目標検出情報及び前記航跡に対応する前記学習データを用いて学習が行われた前記追尾モデルを、前記2つのデータ処理手段のうちの前記スタンバイ状態に切り替えられた他方のデータ処理手段に対して適用する学習結果適用手段をさらに有する請求項1に記載の学習装置。
【請求項9】
前記レーダ装置は、前記追尾モデルを用いずに前記目標検出情報及び前記航跡を生成することにより第1処理結果を取得する第1データ処理手段と、前記追尾モデルを用いて前記目標検出情報及び前記航跡を生成することにより第2処理結果を取得する第2データ処理手段と、当該第1処理結果及び当該第2処理結果を比較することにより前記追尾モデルの学習に係る妥当性を判定する妥当性評価手段と、を有する請求項1に記載の学習装置。
【請求項10】
前記レーダ装置は、時間的に前に学習された前記追尾モデルを用いて前記目標検出情報及び前記航跡を生成することにより第1処理結果を取得する第1データ処理手段と、時間的に後に学習された前記追尾モデルを用いて前記目標検出情報及び前記航跡を生成することにより第2処理結果を取得する第2データ処理手段と、当該第1処理結果及び当該第2処理結果を統合することにより第3処理結果を取得する統合手段と、を有し、
前記第1取得手段は、前記第3処理結果に対応する前記目標検出情報及び前記航跡を前記レーダ装置から取得する請求項1に記載の学習装置。
【請求項11】
レーダ装置からの送信波の送信に応じて受信した受信波に基づいて検出された航空機の位置を示す目標検出情報と、前記目標検出情報に基づいて算出された前記航空機の航跡とを前記レーダ装置から取得し、
前記航空機の位置を示す目標位置情報を取得し、
前記目標検出情報と、前記航跡と、前記目標位置情報とを用いて、学習データを生成し、
前記目標検出情報と、前記目標検出情報に対するラベルと、を含む模擬データをシミュレーションにより生成し、
前記学習データ及び前記模擬データを用いて、前記目標検出情報に基づいて前記航空機の追尾処理を行う追尾モデルを学習し、
前記航空機を追尾するための第1送信波と、前記学習データの生成に不足している条件に対応するデータを収集するための第2送信波と、のうちのいずれかを前記送信波として選択的に送信させるための制御を前記レーダ装置に対して行う学習方法。
【請求項12】
レーダ装置からの送信波の送信に応じて受信した受信波に基づいて検出された航空機の位置を示す目標検出情報と、前記目標検出情報に基づいて算出された前記航空機の航跡とを前記レーダ装置から取得し、
前記航空機の位置を示す目標位置情報を取得し、
前記目標検出情報と、前記航跡と、前記目標位置情報とを用いて、学習データを生成し、
前記目標検出情報と、前記目標検出情報に対するラベルと、を含む模擬データをシミュレーションにより生成し、
前記学習データ及び前記模擬データを用いて、前記目標検出情報に基づいて前記航空機の追尾処理を行う追尾モデルを学習し、
前記航空機を追尾するための第1送信波と、前記学習データの生成に不足している条件に対応するデータを収集するための第2送信波と、のうちのいずれかを前記送信波として選択的に送信させるための制御を前記レーダ装置に対して行う処理をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項13】
送信波を送信し、当該送信波に対応する受信波に基づいて、航空機の位置を示す目標検出情報を生成する目標検出手段と、
前記目標検出情報と、前記目標検出情報に基づいて算出された前記航空機の航跡と、前記航空機の位置を示す目標位置情報とに基づいて生成された学習データ、及び、前記目標検出情報と、前記目標検出情報に対するラベルと、を含むデータを生成するためのシミュレーションにより得られた模擬データを用いて学習済みの追尾モデルを用いて、前記目標検出情報に基づいて前記航空機の追尾処理を行う追尾処理手段と、
前記航空機を追尾するための第1送信波と、前記学習データの生成に不足している条件に対応するデータを収集するための第2送信波と、のうちのいずれかを前記送信波として選択的に送信させるための制御を行うレーダ制御手段と、
を備えるレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダを用いた監視技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダを用いて航空機などの移動体を監視する手法が知られている。特許文献1は、レーダ装置により航空機や車両などの移動目標を監視する手法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
追尾機能を有するレーダ装置において、急峻な旋回などを行う高機動目標を追尾するには追尾精度と追従性とを両立した追尾フィルタを用いる必要があるが、実際にそのような追尾フィルタを実現することは難しい。また、目標を追尾する際には目標とプロットとを対応付ける相関処理を行うが、クラッタが多い領域では、誤検出したクラッタを目標に対応付けてしまう恐れがあり、追尾精度が低下してしまう。
【0005】
本発明の1つの目的は、追尾精度と追従性とを両立した追尾処理を実行可能なレーダ装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの観点では、学習装置は、
レーダ装置からの送信波の送信に応じて受信した受信波に基づいて検出された航空機の位置を示す目標検出情報と、前記目標検出情報に基づいて算出された前記航空機の航跡とを前記レーダ装置から取得する第1取得手段と、
前記航空機の位置を示す目標位置情報を取得する第2取得手段と、
前記目標検出情報と、前記航跡と、前記目標位置情報とを用いて、学習データを生成する学習データ生成手段と、
前記目標検出情報と、前記目標検出情報に対するラベルと、を含む模擬データをシミュレーションにより生成する模擬データ生成手段と、
前記学習データ及び前記模擬データを用いて、前記目標検出情報に基づいて前記航空機の追尾処理を行う追尾モデルを学習する学習処理手段と、
前記航空機を追尾するための第1送信波と、前記学習データの生成に不足している条件に対応するデータを収集するための第2送信波と、のうちのいずれかを前記送信波として選択的に送信させるための制御を前記レーダ装置に対して行うレーダ制御手段と、を備える。
【0007】
本発明の他の観点では、学習方法は、
レーダ装置からの送信波の送信に応じて受信した受信波に基づいて検出された航空機の位置を示す目標検出情報と、前記目標検出情報に基づいて算出された前記航空機の航跡とを前記レーダ装置から取得し、
前記航空機の位置を示す目標位置情報を取得し、
前記目標検出情報と、前記航跡と、前記目標位置情報とを用いて、学習データを生成し、
前記目標検出情報と、前記目標検出情報に対するラベルと、を含む模擬データをシミュレーションにより生成し、
前記学習データ及び前記模擬データを用いて、前記目標検出情報に基づいて前記航空機の追尾処理を行う追尾モデルを学習し、
前記航空機を追尾するための第1送信波と、前記学習データの生成に不足している条件に対応するデータを収集するための第2送信波と、のうちのいずれかを前記送信波として選択的に送信させるための制御を前記レーダ装置に対して行う。
【0008】
本発明の他の観点では、プログラムは、
レーダ装置からの送信波の送信に応じて受信した受信波に基づいて検出された航空機の位置を示す目標検出情報と、前記目標検出情報に基づいて算出された前記航空機の航跡とを前記レーダ装置から取得し、
前記航空機の位置を示す目標位置情報を取得し、
前記目標検出情報と、前記航跡と、前記目標位置情報とを用いて、学習データを生成し、
前記目標検出情報と、前記目標検出情報に対するラベルと、を含む模擬データをシミュレーションにより生成し、
前記学習データ及び前記模擬データを用いて、前記目標検出情報に基づいて前記航空機の追尾処理を行う追尾モデルを学習し、
前記航空機を追尾するための第1送信波と、前記学習データの生成に不足している条件に対応するデータを収集するための第2送信波と、のうちのいずれかを前記送信波として選択的に送信させるための制御を前記レーダ装置に対して行う処理をコンピュータに実行させる。
【0009】
本発明の他の観点では、レーダ装置は、
送信波を送信し、当該送信波に対応する受信波に基づいて、航空機の位置を示す目標検出情報を生成する目標検出手段と、
前記目標検出情報と、前記目標検出情報に基づいて算出された前記航空機の航跡と、前記航空機の位置を示す目標位置情報とに基づいて生成された学習データ、及び、前記目標検出情報と、前記目標検出情報に対するラベルと、を含むデータを生成するためのシミュレーションにより得られた模擬データを用いて学習済みの追尾モデルを用いて、前記目標検出情報に基づいて前記航空機の追尾処理を行う追尾処理手段と、
前記航空機を追尾するための第1送信波と、前記学習データの生成に不足している条件に対応するデータを収集するための第2送信波と、のうちのいずれかを前記送信波として選択的に送信させるための制御を行うレーダ制御手段と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、追尾精度と追従性とを両立した追尾処理を実行可能なレーダ装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図5】学習装置による学習処理のフローチャートである。
【
図7】学習済みモデルを適用したレーダ装置の構成を示す。
【
図8】レーダ装置による目標検出処理のフローチャートである。
【
図9】学習済みモデルを適用した他のレーダ装置の構成を示す。
【
図10】学習データの収集のためのビーム制御を行う場合の構成を示す。
【
図12】学習済みモデルの妥当性評価を行うための構成を示す。
【
図13】学習済みモデルによる動作変動を抑制するための構成を示す。
【
図14】第2実施形態に係る学習装置及びレーダ装置の構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態におけるレーダ装置は、周囲に存在する移動体などの監視システムに用いることができる。具体的に、レーダ装置は、周囲に送信波を出射し、その反射波を受信することにより移動体(以下、「目標」とも呼ぶ。)を検出し、必要に応じてその目標を追尾する。目標としては、例えば空中を飛行する航空機、地上を移動する車両、海上を移動する船舶などが挙げられる。以下の実施形態では、説明の便宜上、レーダ装置を航空管制に使用し、目標は主として航空機であるものとする。
【0013】
<レーダ装置の基本構成>
まず、レーダ装置の基本構成について説明する。
図1は、レーダ装置の基本構成を示すブロック図である。レーダ装置100は、アンテナ部101と、送受信部102と、信号処理部103と、ビーム制御部104と、目標検出部105と、追尾処理部106と、表示操作部107と、を備える。
【0014】
アンテナ部101は、送受信部102から入力された電気信号(以下、「送信信号」とも呼ぶ。)を増幅し、ビーム制御部104から指示された送信方向に送信波(「ビーム」と呼ぶ。)を出射する。また、アンテナ部101は、出射した送信波の目標による反射波を受信し、電気信号(以下、「受信信号」とも呼ぶ。)に変換し、合成して送受信部102へ出力する。
【0015】
本実施形態では、レーダ装置100は、定常的に全方位(周囲360°)をスキャンするビーム(「スキャンビーム」と呼ぶ。)を出射し、周囲における目標の存在を監視する。また、目標が検出された場合には、レーダ装置100は、その目標を追尾するためのビーム(「追尾ビーム」と呼ぶ。)を出射し、目標の軌道(「航跡」と呼ぶ。)を追跡する。この点から、アンテナ部101は、例えば複数のアンテナ素子を備えるアレイアンテナなど、瞬時に送信方向を変更可能なアンテナにより構成される。具体的には、全方位をカバーするように複数の平面状アレイアンテナを配置するか、円筒状のアレイアンテナを用いることができる。これにより、定常的に全方位にスキャンビームを出射しつつ、目標が検出された際に目標の方向へ追尾ビームを出射することができる。
【0016】
送受信部102は、ビーム制御部104から指示された送信波諸元(以下、「ビーム諸元」とも呼ぶ。)に基づき、電気信号を生成し、アンテナ部101へ出力する。ビーム諸元とは、送信波のパルス幅、送信タイミングなどである。また、送受信部102は、アンテナ部101から入力された受信信号をA/D変換し、不要な周波数帯域を除去した後、受信信号として信号処理部103へ出力する。
【0017】
信号処理部103は、送受信部102から入力された受信信号に対して、復調処理、積分処理などを行い、処理後の受信信号(以下、「処理後信号」とも呼ぶ。)を目標検出部105へ出力する。
図2は、信号処理部103の構成を示すブロック図である。信号処理部103は、復調処理部110と、コヒーレント積分部111とを備える。復調処理部110は、送受信部102から入力された受信信号を復調(パルス圧縮)する。基本的にレーダにより遠方の目標を検出するには、大電力で尖鋭な送信波(送信パルス)が要求されるが、ハードウェアなどの制約により電力の増強には限界がある。そのため、ビームの出射時には、送受信部102は所定のパルス幅の送信信号を周波数変調して継続時間の長い送信波を生成し、アンテナ部101から送信している。これに対応し、復調処理部110は、送受信部102から入力された受信信号を復調して尖鋭な受信パルスを生成し、コヒーレント積分部111へ出力する。
【0018】
コヒーレント積分部111は、復調処理部110から入力された複数のパルスをコヒーレント積分してノイズを除去し、SNRを改善する。レーダ装置100は、目標を高精度で検出するために、同一の方向(同一の方位及び仰角)に複数のパルスを出射している。同一の方向に出射するパルスの数を「ヒット数」と呼ぶ。コヒーレント積分部111は、同一の方向に出射した所定ヒット数分のビームの受信信号(受信パルス)を積分し、受信信号のSNRを改善する。なお、コヒーレント積分部111が積分する受信パルスの数を「積分パルス数」とも呼ぶ。積分パルス数は、基本的に出射したビームのヒット数と等しい。
【0019】
図1に戻り、目標検出部105は、信号処理部103から入力された処理後信号から、所定のしきい値を用いて目標を検出する。目標検出部105は、目標の距離、方位、仰角を測定し、これらを目標の検出結果(以下、「プロット」と呼ぶ。)として追尾処理部106へ出力する。プロットは、目標の距離、方位、仰角、SNRなどを含む。また、目標検出部105は、表示操作部107から入力されたしきい値設定値に基づいて、目標を検出するためのしきい値を設定する。
【0020】
追尾処理部106は、目標検出部105から入力された複数のプロットに対して追尾処理を行い、目標の航跡を算出する。具体的に、追尾処理部106は、複数のプロットに基づいて現時刻における目標の位置(「推定目標位置」と呼ぶ。)を推定し、表示操作部107に出力する。また、追尾処理部106は、複数のプロットに基づいて目標の予測位置(「予測目標位置」と呼ぶ。)を算出し、ビーム制御部104へ出力する。予測目標位置は、レーダ装置100が次に追尾ビームを打つ位置を示す。
【0021】
詳しくは、追尾処理部106は、相関処理と、追尾フィルタ処理とを行う。相関処理は、目標検出部105により得られた複数のプロットを、目標に対応付ける処理である。複数の目標が同時に検出されているときには、得られた複数のプロットがそれぞれどの目標に対応するかを判別し、各プロットを各目標に対応付ける。追尾フィルタ処理は、各目標に対応付けられたプロットを用いて、その目標の航跡を算出する。これにより、目標の現在位置を示す推定目標位置と、将来の目標の予測位置を示す予測目標位置とが得られる。
【0022】
ビーム制御部104は、予め設定されたビームスケジュールに従ってスキャンビームの送信方向及びビーム諸元を決定する。また、ビーム制御部104は、追尾処理部106から入力された予測目標位置に基づいて、追尾ビームの送信方向及びビーム諸元を決定する。そして、ビーム制御部104は、スキャンビーム及び追尾ビームの送信方向をアンテナ部101に出力し、スキャンビーム及び追尾ビームのビーム諸元を送受信部102に出力する。
【0023】
表示操作部107は、ディスプレイなどの表示部と、キーボード、マウス、操作ボタンなどの操作部とを備える。表示操作部107は、目標検出部105から入力された複数のプロットの位置や、追尾処理部106から入力された推定目標位置を表示する。これにより、オペレータは、検出された目標の現在位置や航跡を見ることができる。また、オペレータは、表示操作部107を操作することにより、目標検出に使用するしきい値を目標検出部105に入力したり、信号処理部103が復調処理に使用するクラッタ判定結果を信号処理部103に入力することができる。なお、「クラッタ」とは、出射したレーダが目標以外の物体により反射されて発生する信号である。オペレータは、表示操作部107に表示された複数のプロットのうち、経験上クラッタと考えられる領域を判定し、表示操作部107を操作してその領域を指定することができる。これを「クラッタ判定」と呼ぶ。
【0024】
以上の構成により、レーダ装置100は、全方位にわたって定常的にスキャンビームを出射して目標を検出するとともに、目標が検出された場合には、予測目標位置に追尾ビームを出射して目標を追尾する。
【0025】
<第1実施形態>
追尾機能を有するレーダ装置において、急峻な旋回などを行う高機動目標を追尾するには追尾精度と追従性とを両立した追尾フィルタを用いる必要があるが、実際にそのような追尾フィルタを実現することは難しい。また、目標を追尾する際には目標とプロットとを対応付ける相関処理を行うが、クラッタが多い領域では、誤検出したクラッタを目標に対応付けてしまう恐れがあり、追尾精度が低下してしまう。そこで、本実施形態では、機械学習により生成したモデルを用いて追尾処理を行う。具体的には、目標検出部105により得られたプロットと、そのプロットに対する教師ラベル(正解ラベル)とを用いて追尾モデルを学習し、学習済みの追尾モデルを追尾処理部に適用する。これにより、コストを抑えつつ、検出性能を向上させることが可能となる。
【0026】
[学習時の構成]
(全体構成)
図3は、本実施形態によるレーダ装置300及び学習装置200の構成を示す。追尾モデルの学習時には、1次レーダ(PSR:Primary Surveillance Radar)と、2次レーダ(SSR:Secondary Surveillance Radar)とを備えるレーダ装置300を使用する。図示のように、レーダ装置300は、PSRアンテナ部301と、PSR送受信部302と、PSR信号処理部303と、ビーム制御部304と、PSR目標検出部305と、追尾処理部306と、表示操作部307と、を備える。これらは、
図1におけるアンテナ部101、送受信部102、信号処理部103、ビーム制御部104、目標検出部105、追尾処理部106、表示操作部107とそれぞれ同様の構成を有し、同様に動作する。さらに、レーダ装置300は、SSRアンテナ部308と、SSR送受信部309と、SSR目標検出部310と、を備える。
【0027】
SSR送受信部309はSSRアンテナ部308に質問信号を出力し、SSRアンテナ部308は目標に対して質問波を送信する。また、SSRアンテナ部308は、質問波に対する応答波を目標から受信し、応答信号をSSR送受信部309に出力する。SSR送受信部309は、応答信号のA/D変換などを行い、SSR目標検出部310へ出力する。通常、応答信号には目標の位置情報が含まれており、SSR目標検出部310は、応答信号に基づいて目標のプロット(「SSRプロット」と呼ぶ。)D2を生成し、追尾処理部306へ出力する。追尾処理部306は、PSR目標検出部305が検出した目標のプロット(「PSRプロット」と呼ぶ。)D1とSSRプロットD2とを用いて、目標の航跡D3を生成する。なお、PSRプロットは1次レーダプロットの例であり、SSRプロットは2次レーダプロトの例である。
【0028】
学習装置200は、追尾処理部に適用される追尾モデルを学習するために設けられる。学習装置200は、学習データ生成部201と、データ収集部202と、学習処理部204と、を備える。学習データ生成部201には、PSR目標検出部305からPSRプロットD1が入力され、SSR目標検出部310からSSRプロットD2が入力され、追尾処理部306から航跡D3が入力される。学習データ生成部201は、SSRプロットD2及び航跡D3を用いて、目標の航跡に関する教師ラベルを生成する。具体的に、教師ラベルは、目標の位置、速度、加速度、真目標/誤目標(目標の真偽)を含む。なお、「真目標」とは航空機などの正しい目標を言い、「誤目標」とはクラッタなど、目標と誤認識された物体を言う。
【0029】
前述のように、追尾処理部306は、追尾処理として相関処理と追尾フィルタ処理を行うので、学習対象となる追尾モデルも相関処理と追尾フィルタ処理を行うモデルとして構成される。学習データ生成部201は、まず、SSRプロットD2を用いて、各PSRプロットが真目標であるか誤目標であるかを示す教師ラベルを生成する。SSRプロットD2は、質問信号に対して応答した目標について得られるので、学習データ生成部201は、基本的には、対応するSSRプロットD2が存在するPSRプロットD1に「真目標」との教師ラベルを付与し、対応するSSRプロットD2が存在しないPSRプロットD1に「誤目標」との教師ラベルを付与する。こうして生成された真目標/誤目標の教師ラベルを使用して学習することにより、追尾モデルは、入力されたPSRプロットD1が真目標であるか誤目標であるかを判別できるようになる。これにより、相関処理において、クラッタなどを誤検出して得られたプロットを目標に対応付けしてしまうことが防止でき、安定した追尾が可能となる。
【0030】
また、学習データ生成部201は、SSRプロットD2及び航跡D3に基づいて、各PSRプロットD1に対する目標の位置、速度、加速度などの教師ラベルを生成する。航空機などの目標が、自己位置を含む応答信号を送信してきた場合には、その自己位置をかなり正確な目標の位置として用いることができる。また、学習データ生成部201は、航跡D3に基づいて、そのPSRプロットD1に対応する目標の速度、加速度などを求めることができる。こうして生成された目標の位置、速度、加速度などの教師ラベルを使用して学習することにより、追尾モデルは、様々な目標が行った運動を学習することができ、追尾精度と追尾性を両立した追尾処理が可能となる。
【0031】
学習データ生成部201は、PSRプロットと、それに対して上記のように生成した教師ラベルとのペアを学習データとし、データ収集部202に出力する。データ収集部202は、学習データ生成部201から入力された学習データを記憶する。データ収集部202には、PSRプロット毎に目標の位置、速度、加速度、真目標/誤目標の教師ラベルが付与された学習データが記憶される。学習処理部204は、データ収集部202から学習データを取得して追尾モデルの学習を行い、学習済みの追尾モデルを生成する。
【0032】
(学習装置のハードウェア構成)
図4は、
図3に示す学習装置200のハードウェア構成を示すブロック図である。図示のように、学習装置200は、入力IF(InterFace)21と、プロセッサ22と、メモリ23と、記録媒体24と、データベース(DB)25と、を備える。
【0033】
入力IF21は、レーダ装置300とのデータの入出力を行う。具体的に、入力IF21は、レーダ装置300からPSRプロットD1、SSRプロットD2及び航跡D3を取得する。プロセッサ22は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)などを含むコンピュータであり、予め用意されたプログラムを実行することにより、学習装置200の全体を制御する。プロセッサ22は、
図3に示す学習データ生成部201、学習処理部204として機能する。
【0034】
メモリ23は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などにより構成される。メモリ23は、プロセッサ22により実行される各種のプログラムを記憶する。また、メモリ23は、プロセッサ22による各種の処理の実行中に作業メモリとしても使用される。
【0035】
記録媒体24は、ディスク状記録媒体、半導体メモリなどの不揮発性で非一時的な記録媒体であり、学習装置200に対して着脱可能に構成される。記録媒体24は、プロセッサ22が実行する各種のプログラムを記録している。学習装置200が処理を実行する際には、記録媒体24に記録されているプログラムがメモリ23にロードされ、プロセッサ22により実行される。
【0036】
DB25は、入力IF21を通じて入力されるデータや、学習装置200が生成したデータを記憶する。具体的に、DB25には、レーダ装置300から入力されたPSRプロットD1、SSRプロットD2及び航跡D3、並びに、学習データ生成部201が生成した学習データが記憶される。
【0037】
(学習処理)
図5は、学習装置200による学習処理のフローチャートである。この処理は、
図4に示すプロセッサ22が、予め用意されたプログラムを実行し、
図3に示す各要素として動作することにより実現できる。
【0038】
まず、学習データ生成部201は、レーダ装置300のPSR目標検出部305が出力したPSRプロットD1を取得する(ステップS11)また、学習データ生成部201は、SSR目標検出部310が出力したSSRプロットD2、及び、追尾処理部306が出力した航跡D3を取得する(ステップS12)。次に、学習データ生成部201は、PSRプロットD1、SSRプロットD2及び航跡D3を用いて、PSRプロットD1と、それに対する教師ラベルとを含む学習データを生成し、データ収集部202に保存する(ステップS13)。次に、学習処理部204は、入力された学習データを用いて追尾モデルを学習する(ステップS204)。
【0039】
次に、学習処理部204は、所定の学習終了条件が具備されたか否かを判定する(ステップ15)。学習終了条件の一例は、所定量の学習データを用いた学習又は所定回数の学習がが行われたことである。学習処理部204は、学習終了条件が具備されるまで学習を繰り返し、学習終了条件が具備されると、処理を終了する。
【0040】
(学習装置の他の例)
図6は、学習装置の他の例を示す。
図3に示す学習装置200は、PSRプロット、SSRプロット及び航跡など、実際のレーダ装置300において生成されている実データを用いて学習データを生成している。その代わりに、学習データをシミュレーションにより用意し、学習を行ってもよい。
図6は、模擬データを用いる学習装置200aを示し、模擬データ生成部205と、学習処理部204とを備える。模擬データ生成部205は、様々な状況におけるPSRプロットと、それに対する教師ラベルとを含む学習データ(模擬データ)をシミュレーションにより生成し、学習処理部204に入力する。学習処理部204は、基本的に
図3に示すものと同様であり、模擬データを用いて追尾モデルを学習する。なお、
図3の例と本例とを組み合わせ、レーダ装置300の実データに基づいて生成した学習データと、模擬データとを併用して1つの追尾モデルを学習してもよい。
【0041】
[追尾モデルを適用したレーダ装置]
(構成)
図7は、学習済みの追尾モデルを適用したレーダ装置300xの構成を示すブロック図である。
図3と比較するとわかるように、レーダ装置300xは、
図3における追尾処理部306の代わりに、追尾処理部314を備える。追尾処理部314以外の構成は、
図3と同様であるので説明を省略する。
【0042】
追尾処理部314には、上記の学習処理により生成された学習済みの追尾モデルが設定されている。追尾処理部314は、学習済みの追尾モデルを用いて、入力されたPSRプロットから目標を検出する。具体的に、追尾処理部314は、追尾モデルを用いて、PSRプロットから目標の航跡を算出する。そして、追尾処理部314は、推定目標位置を表示操作部307へ出力し、予測目標位置をビーム制御部304へ出力する。
【0043】
(追尾処理)
図8は、レーダ装置300xによる追尾処理のフローチャートである。まず、追尾処理部314はPSR目標検出部305からPSRプロットを取得する(ステップS21)。次に、追尾処理部314は、取得したPSRプロットに基づき、学習済みの追尾モデルを使用して目標の航跡を算出し(ステップS22)、検出された目標の航跡を出力する(ステップS23)。
【0044】
以上のように、本実施形態では、PSRプロットに対する真目標/誤目標の教師ラベルを用いて学習することにより、追尾処理部314は、入力されたPSRプロットが真目標であるか誤目標であるかを判別できるようになる。これにより、相関処理において、クラッタなどを誤検出して得られたプロットを目標に対応付けしてしまうことが防止できる。また、PSRプロットに対する目標の位置、速度、加速度などの教師ラベルを用いて学習することにより、追尾処理部314は、様々な目標が行った運動を学習することができ、追尾精度と追尾性の両立が可能となる。
【0045】
なお、
図7の例では、学習済みの追尾モデルを、
図3に示すSSRを備えるレーダ装置に適用しているが、その代わりに、
図1に示すPSRのみのレーダ装置に適用してもよい。
図9は、PSRのみのレーダ装置100xに学習済みの追尾モデルを適用した例を示す。
図1と比較すると理解されるように、追尾処理部114に学習済みの追尾モデルを用いている点以外は、
図1に示すレーダ装置100と同様である。
【0046】
[学習データの生成]
(1)SNR悪化
追尾モデルの学習時に入力データとして使用するPSRプロットに対して意図的にノイズを加えるなどして、SNRを悪化させた学習データを用いて追尾モデルを学習してもよい。これにより、SNRの低い環境でも精度が高い追尾モデルを生成することが可能となる。
【0047】
(2)教師ラベルの生成方法
学習装置200において学習データを生成する場合、目標の位置や真目標/誤目標を示す教師ラベルは以下の方法で生成することができる。
【0048】
(A)2次レーダの使用
上記の実施形態で説明したように、まず、学習データ生成部201は、2次レーダから送信した質問信号に対して目標が応答してきた場合には、その目標から受信した応答信号に基づいて教師ラベルを生成することができる。具体的には、学習データ生成部201は、応答信号を送信してきた目標に対応するPSRプロットを真目標とし、その応答信号に含まれる目標の自己位置を目標の位置として使用すればよい。
【0049】
なお、2次レーダを使用する場合において、全ての目標から応答が得られるとは限らない。防空レーダなどの場合、目標として検出される航空機には、旅客機などの他に軍用機などが含まれる。旅客機や自国の軍用機などの身元が識別済みの航空機(以下、「味方機」と呼ぶ。)は質問信号に対して応答するが、他国の軍用機などの身元が識別できない航空機(以下、「不明機」と呼ぶ。)は質問信号に対して応答しないため、目標として不明機を含む受信信号については教師ラベルが生成できない。しかし、防空レーダなどの場合、本当に検出し、追尾したいのはむしろ不明機の方である。
【0050】
そこで、以下の方法で不明機に対する正解付けを行う。前提として、受信信号から目標として検出されうる目標は、「クラッタ(ノイズを含む。)」、「味方機」、「不明機」の3種類のクラスである。なお、目標が「クラッタ」であるとは、実際には目標は存在しないがクラッタを目標として誤検出した場合を指す。ここで、2次レーダの質問信号に対して応答し、教師ラベルが付与されている(正解が与えられている)クラスは「味方機」のみである。また、「不明機」と「味方機」は実際はいずれも航空機であるため、受信信号の特性は類似している。
【0051】
以上の前提において、以下の手順で不明機を検出する。
まず、学習データ生成部201は、「味方機」の受信信号を用いて、全ての受信信号から「クラッタ」、「味方機」、「不明機」の受信信号を抽出するモデルを作成する(処理1)。
次に、学習データ生成部201は、抽出された「クラッタ」、「味方機」、「不明機」の受信信号のうち、「味方機」と判定されなかった受信信号(即ち、「クラッタ」又は「不明機」と判定された受信信号)のうち、「味方機」と近い特性を有する受信信号を「不明機」と判定し、「不明機ラベル」を生成する(処理2)。
そして、学習データ生成部201は、「不明機」と判定された受信信号と、「不明機ラベル」とを用いて、受信信号から「不明機」を検出するモデルを作成する(処理3)。
このモデルにより、2次レーダの質問信号に対して応答しない不明機を受信信号から検出することが可能となる。
【0052】
なお、現実には、上記の処理2において生成される「不明機ラベル」の精度が問題となることが考えられる。その場合には、オペレータなどの人手により「不明機ラベル」を付与してもよい。この方法によれば、上記の処理2において抽出された、『「クラッタ」又は「不明機」と判定された受信信号のうち「味方機」と近い特性を有する受信信号』についてのみ、人手により「不明機」のラベル付与を行えばよい。即ち、処理1及び処理2により、「不明機」の可能性が高い受信信号に絞ったうえで人手によるラベル付与を行えばよい。よって、「クラッタ」、「味方機」、「不明機」の全てを含む受信信号に対して人手によるラベル付与を行う場合と比較して、人手による作業量を大幅に減らすことができる。
【0053】
(B)他のレーダ装置の利用
上記の実施形態では、SSRを使用して目標の位置を取得し、教師ラベルを生成している。しかし、レーダ装置が複数ある場合には、学習データ生成部201は、他のレーダ装置から得られたプロット及び航跡を用いて教師ラベルを生成してもよい。また、学習データ生成部201は、受信のみを行うパッシブレーダの航跡(パッシブ航跡)を用いて教師ラベルを生成してもよい。なお、「パッシブ航跡」とは、妨害波をもとに妨害送信機を追尾した結果であり、学習データ生成部201はこれを用いて妨害送信機の推定位置を教師ラベルとして生成することができる。
【0054】
(C)他の計測装置などの利用
目標の航空機がGPSなどの測位装置を備えている場合には、その出力を受信して教師ラベルを生成してもよい。目標がドローンである場合も同様である。また、ステレオカメラなどを使用し、目標の撮影画像から目標の位置を推定して教師ラベルを生成してもよい。なお、目標が船舶の場合は、船舶自動識別装置(AIS:Automatic Identification System)から船舶情報を受信し、目標の位置を取得して教師ラベルを生成してもよい。
【0055】
(D)人手による付与
表示操作部107に表示されたプロットや航跡などを見て、オペレータが教師ラベルを付与してもよい。
【0056】
(3)移動体搭載レーダの場合
上記の実施形態では、レーダ装置が地上に設置されていることを前提としているが、本実施形態の手法は航空機や船舶などの移動体に搭載するレーダ装置にも適用可能である。その場合、追尾モデルが使用する入力パラメータとして、レーダ装置が搭載されている移動体に関する移動体情報(移動体自身の位置、姿勢、速度、針路など)を用いてもよい。具体的には、学習データ生成装置201に移動体情報を入力し、学習処理部204は、学習データとして、PSRプロットに加えて移動体情報を用いてモデルの学習を行う。また、学習済みモデルを適用したレーダ装置100x又は300xにおいては、追尾処理部114又は314に移動体情報を入力し、追尾処理部114又は314が移動体情報を用いて追尾処理を行えばよい。
【0057】
(4)レーダ装置によるデータ収集の効率化
前述のように、稀にしか発生しない状況に関しては追尾モデルの学習のために必要な学習データを収集することが難しい。そこで、レーダ装置300は、ビームスケジュールの合間に、学習データの収集のためのビーム制御を実施する。特に、予め指定された条件に一致する場合、レーダ装置300は重点的にビーム制御を実施する。ビーム制御の内容は、収集したいデータに合わせて変更される。
【0058】
図10は、学習データの収集のためのビーム制御を行う場合の構成を示す。レーダ装置300は、
図3と同様の構成を有する。一方、学習装置200は、
図3に示す構成に加えて、データ収集制御部215を備える。データ収集制御部215は、学習データが不足している条件を記憶しており、収集したいデータの条件を含むデータ収集要求D5をレーダ装置300のビーム制御部304に出力する。ビーム制御部304は、ビームスケジュールの合間に、PSRアンテナ部301を制御し、データ収集要求D5に示される条件でビームを出射させる。レーダ装置300は、スキャンビームにより全方位を定常的に監視するとともに、目標を検出した場合には追尾ビームにより目標を追尾する。よって、ビーム制御部304は、例えば目標が検出されていない場合や、目標を追尾する必要が無い場合などに、学習データを収集するためのビームを出射することができる。出射したビームに対応する反射波はPSRアンテナ部301により受信され、受信信号はPSR送受信部302、PSR信号処理部303を介してPSR目標検出部305に入力される。PSR目標検出部305が生成したPSRプロットは学習データ生成部201に出力される。こうして、学習装置200は、不足している条件に対応するデータを収集することができる。
【0059】
[学習済みモデルの適用]
(オンライン学習)
学習装置200により生成された学習済みの追尾モデル(以下、単に「学習済みモデル」とも呼ぶ。)を実際にレーダ装置に適用する場合には、プログラムの書き換えなどが発生するため、レーダ装置100の運用を停止する必要がある。しかし、重要な監視を行っているレーダ装置は運用を停止できないため、学習済みモデルを適用することができず、オンライン学習が困難である。
【0060】
そこで、予めレーダ装置の制御/データ処理部を2重化しておく。以下、説明の便宜上、学習済みモデルをPSRレーダのみのレーダ装置に適用した場合について説明する。
図11は、オンライン学習を行うためのレーダ装置及び学習装置の構成を示す。図示のように、レーダ装置100aは、アンテナ部101と、送受信部102と、切替部120と、2系統の制御/データ処理部121a、121bとを備える。制御/データ処理部121a、121bは、
図1に示すレーダ装置の信号処理部103、ビーム制御部104、目標検出部105、追尾処理部106及び表示操作部107を含むユニットである。切替部120は、制御/データ処理部121a、121bの一方を選択的にアンテナ部101及び送受信部102に接続する。また、切替部120は、動作中の制御/データ処理部121a又は121bから、受信信号、プロット、航跡などを含むデータD6を学習装置200aの学習データ生成部201に出力する。
【0061】
学習装置200aは、学習データ生成部201、データ収集部202、学習処理部204に加えて、学習結果評価部220及び学習結果適用部221を備える。学習結果評価部220は、学習処理部204が生成した学習済みモデルの評価を行い、レーダ装置100aに適用可と判定された学習済みモデルを学習結果適用部221に出力する。学習結果適用部221は、適用可と判定された学習済みモデルを制御/データ処理部121a、121bに適用する。
【0062】
いま、制御/データ処理部121aがアクティブ状態(実際の監視動作中)であり、制御/データ処理部121bがスタンバイ状態であるとする。即ち、切替部120は、制御/データ処理部121aをアンテナ部101及び送受信部102に接続している。この場合、学習装置200aは、アクティブ状態の制御/データ処理部121aから出力されたデータD6を用いて追尾モデルを学習する。その間に、学習結果適用部221は、適用可と判定された学習済みモデルを、スタンバイ状態にある制御/データ処理部121bに適用し、プログラムの書き換えを行う。
【0063】
次に、切替部120は、制御/データ処理部121bをアクティブ状態とし、制御/データ処理部121aをスタンバイ状態とし、新たな学習済みモデルをスタンバイ状態にある制御/データ処理部121aに適用する。こうすることで、制御/データ処理部121の一方で監視動作を継続しつつ追尾モデルの学習を行い、他方に学習済みモデルを適用することができる。即ち、学習済みモデルを適用し、オンライン学習を行うことが可能となる。
【0064】
(モデルの妥当性評価)
オンライン学習において、どの程度学習させたところで適切なレーダの機能を有しているか、即ち、妥当性の判断が難しい。また、学習済みモデルを適用した追尾処理部は、例えば、従来処理では誤検出しないようなクラッタを目標として誤検出してしまうなど、期待しない動作をする恐れがあり、その際のリカバリーが必要となる。そこで、学習済みモデルを適用した制御/データ処理部と、従来処理を行う制御/データ処理部とを並列に動作させ、それらの処理結果を比べることにより、学習済みモデルの妥当性を判断する。
【0065】
図12は、学習済みモデルの妥当性評価を行うためのレーダ装置及び学習装置の構成を示す。図示のように、レーダ装置100bは、アンテナ部101と、送受信部102と、妥当性評価部130と、2系統の制御/データ処理部131、132とを備える。制御/データ処理部131は従来処理を行い、制御/データ処理部132は学習済みモデルを用いて処理を行う。なお、制御/データ処理部131、132は、
図1に示すレーダ装置の信号処理部103、ビーム制御部104、目標検出部105、追尾処理部106及び表示操作部107を含むユニットである。学習装置200aは、
図11に示すものと同様である。
【0066】
妥当性評価部130は、制御/データ処理部131による従来処理の処理結果と、制御/データ処理部132による学習済みモデルの処理結果とを比較し、学習済みモデルの処理結果の妥当性を判定する。学習済みモデルの処理結果が妥当でないと判定した場合、妥当性評価部130は、従来処理の処理結果をアンテナ部101及び送受信部102に出力する。一方、学習済みモデルの処理結果が妥当であると判定した場合、妥当性評価部130は、学習済みモデルの処理結果をアンテナ部101及び送受信部102に出力する。なお、学習済みモデルの処理結果が妥当であると判定された場合でも、妥当性評価部130は、学習済みモデルの処理結果を従来処理の処理結果で補間し、期待しない動作が発生することを防止してもよい。また、妥当性評価部130を、機械学習などを利用して生成してもよい。さらに、妥当性評価部130の処理を全自動ではなく、オペレータが介在するようにしてもよい。例えば、オペレータが、表示操作部107に表示された情報に基づいて、学習済みモデルの処理結果の妥当性を判定することとしてもよい。
【0067】
(学習済みモデルを用いた場合の動作変動の抑制)
学習済みモデルを目標検出部に適用した際に、レーダ装置100の動作が大きく変わる場合がある。そこで、予めレーダ装置100の制御/データ処理部を2重化しておき、意図的に時間をずらして学習済みモデルを適用し、2つの制御/データ処理部の処理結果を統合したものを正式な処理結果として採用する。
【0068】
図13は、学習済みモデルによる動作変動を抑制するためのレーダ装置及び学習装置の構成を示す。図示のように、レーダ装置100cは、アンテナ部101と、送受信部102と、統合部140と、2系統の制御/データ処理部141a、141bとを備える。制御/データ処理部141aは旧モデルを使用し、制御/データ処理部141bは新モデルを使用して処理を行う。なお、制御/データ処理部141a、141bは、
図1に示すレーダ装置の信号処理部103、ビーム制御部104、目標検出部105、追尾処理部106及び表示操作部107を含むユニットである。学習装置200aは、
図11に示すものと同様である。
【0069】
統合部140は、制御/データ処理部141a、141bによる処理結果を統合したものを正式な処理結果として採用する。例えば、統合部140は、制御/データ処理部141a、141bからの処理結果を加算し、2で除したものを処理結果として採用する。これにより、新たな学習済みモデルを適用したときに、レーダ装置の動作が大きく変動することを抑制できる。
【0070】
<第2実施形態>
図14(A)は、第2実施形態に係る学習装置の機能構成を示すブロック図である。第2実施形態の学習装置50は、第1取得部51と、第2取得部52と、学習データ生成部53と、学習処理部54と、を備える。第1取得部51は、受信波に基づいて検出された目標の位置を示す目標検出情報と、目標検出情報に基づいて算出された前記目標の航跡とをレーダ装置から取得する。第2取得部52は、目標の位置を示す目標位置情報を取得する。学習データ生成部53は、目標検出情報と、航跡と、目標位置情報とを用いて、学習データを生成する。学習処理部54は、学習データを用いて、目標検出情報に基づいて目標の追尾処理を行う追尾モデルを学習する。
【0071】
図14(B)は、第2実施形態に係るレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。レーダ装置60は、目標検出部61と、追尾処理部62と、を備える。目標検出部61は、送信波を送信し、当該送信波に対応する受信波に基づいて、目標の位置を示す目標検出情報を生成する。追尾処理部62は、目標検出情報と、目標検出情報に基づいて算出された目標の航跡と、目標の位置を示す目標位置情報とに基づいて生成された学習データを用いて学習済みの追尾モデルを用いて、目標検出情報に基づいて目標の追尾処理を行う。
【0072】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0073】
(付記1)
受信波に基づいて検出された目標の位置を示す目標検出情報と、前記目標検出情報に基づいて算出された前記目標の航跡とをレーダ装置から取得する第1取得部と、
前記目標の位置を示す目標位置情報を取得する第2取得部と、
前記目標検出情報と、前記航跡と、前記目標位置情報とを用いて、学習データを生成する学習データ生成部と、
前記学習データを用いて、前記目標検出情報に基づいて前記目標の追尾処理を行う追尾モデルを学習する学習処理部と、
を備える学習装置。
【0074】
(付記2)
前記学習データ生成部は、前記目標位置情報に基づいて、前記目標検出情報が示す目標が真目標であるか誤目標であるかを示す教師ラベルを生成する請求項1に記載の学習装置。
【0075】
(付記3)
前記学習データ生成部は、前記目標位置情報及び前記航跡に基づいて、前記目標検出情報が示す目標の位置、速度、及び、加速度を含む教師ラベルを生成する請求項1又は2に記載の学習装置。
【0076】
(付記4)
前記目標検出情報は、前記レーダ装置の1次レーダにより生成される1次レーダプロットであり、
前記目標位置情報は、2次レーダにより生成される2次レーダプロットである請求項1乃至3のいずれか一項に記載の学習装置。
【0077】
(付記5)
前記2次レーダプロットは、前記1次レーダプロットを生成したレーダ装置により生成される請求項4に記載の学習装置。
【0078】
(付記6)
前記2次レーダプロットは、前記1次レーダプロットを生成したレーダ装置とは別のレーダ装置により生成される請求項4に記載の学習装置。
【0079】
(付記7)
前記目標位置情報は、前記目標からの受信信号に含まれる、当該目標の自己位置情報である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の学習装置。
【0080】
(付記8)
前記目標位置情報は、ステレオカメラによる前記目標の撮影画像に基づいて生成される請求項1乃至7のいずれか一項に記載の学習装置。
【0081】
(付記9)
所定の条件に合致する送信波を送信して当該条件に対応する前記目標検出情報を生成するように前記レーダ装置に要求する要求部を備える請求項1乃至9のいずれか一項に記載の学習装置。
【0082】
(付記10)
前記レーダ装置は移動体に搭載され、
前記移動体の位置及び移動情報を含む移動体情報を取得する第3取得部を備え、
前記学習データ生成部は、前記移動体情報を用いて前記学習データを生成する請求項1乃至9のいずれか一項に記載の学習装置。
【0083】
(付記11)
受信波に基づいて検出された目標の位置を示す目標検出情報と、前記目標検出情報に基づいて算出された前記目標の航跡とをレーダ装置から取得し、
前記目標の位置を示す目標位置情報を取得し、
前記目標検出情報と、前記航跡と、前記目標位置情報とを用いて、学習データを生成し、
前記学習データを用いて、前記目標検出情報に基づいて前記目標の追尾処理を行う追尾モデルを学習する学習方法。
【0084】
(付記12)
受信波に基づいて検出された目標の位置を示す目標検出情報と、前記目標検出情報に基づいて算出された前記目標の航跡とをレーダ装置から取得し、
前記目標の位置を示す目標位置情報を取得し、
前記目標検出情報と、前記航跡と、前記目標位置情報とを用いて、学習データを生成し、
前記学習データを用いて、前記目標検出情報に基づいて前記目標の追尾処理を行う追尾モデルを学習する処理をコンピュータに実行させるプログラムを記録した記録媒体。
【0085】
(付記13)
送信波を送信し、当該送信波に対応する受信波に基づいて、目標の位置を示す目標検出情報を生成する目標検出部と、
前記目標検出情報と、前記目標検出情報に基づいて算出された前記目標の航跡と、前記目標の位置を示す目標位置情報とに基づいて生成された学習データを用いて学習済みの追尾モデルを用いて、前記目標検出情報に基づいて前記目標の追尾処理を行う追尾処理部と、
を備えるレーダ装置。
【0086】
以上、実施形態及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0087】
200 学習装置
201 学習データ生成部
202 データ収集部
204 学習処理部
300 レーダ装置
301 PSRアンテナ部
302 PSR送受信部
303 PSR信号処理部
304 ビーム制御部
305 PSR目標検出部
306、114、314 追尾処理部
307 表示操作部
308 SSRアンテナ部
309 SSR送受信部
310 SSR目標検出部