(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094359
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】治療剤の送達のためのケイ酸金属塩を含むポーラスシリコン物質
(51)【国際特許分類】
A61K 47/02 20060101AFI20240702BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20240702BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20240702BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240702BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240702BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20240702BHJP
C12N 15/115 20100101ALN20240702BHJP
【FI】
A61K47/02
A61K9/51 ZNA
A61K31/7105
A61K48/00
A61P43/00 111
C12N15/113 Z
C12N15/115 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024064709
(22)【出願日】2024-04-12
(62)【分割の表示】P 2022094681の分割
【原出願日】2017-04-14
(31)【優先権主張番号】62/322,782
(32)【優先日】2016-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518362971
【氏名又は名称】スピネカー バイオサイエンシーズ, インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(71)【出願人】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ジェイ. セーラー
(72)【発明者】
【氏名】ジニョン カン
(72)【発明者】
【氏名】ジュ ジンミョン
(72)【発明者】
【氏名】エミリー アングリン
(72)【発明者】
【氏名】エスター クォン
(72)【発明者】
【氏名】マシュー スカラーク
(72)【発明者】
【氏名】サンギータ バティア
(57)【要約】
【課題】 治療剤の制御送達に有用な組成物、ならびにそれらの調製および使用方法が提供を提供すること
【解決手段】 治療剤の制御送達に有用な組成物、ならびにそれらの調製および使用方法が提供される。組成物は、任意選択で酸化されたポーラスシリコンコア、ケイ酸金属塩を含む、ポーラスシリコンコアの表面上の層、および治療剤を含む。組成物は、粒子が、処置される被験体における目的の細胞または組織にターゲティングし、これに侵入することを可能にする1つまたは複数のターゲティング薬剤および/または細胞透過性薬剤を任意選択でさらに含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
図面に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2016年4月14日に出願された米国仮出願第62/322,782号の利益を主張し、この出願の開示はその全体にわたって本明細書において参照により組み込まれる。
【0002】
政府の支援
本発明は、the National Institutes of Healthにより授与された契約番号R24EY022025-01および認可番号NRSA 1F32CA177094-01、the National Science Foundationにより授与された認可番号DMR1210417、およびthe Defense Advanced Research Projects Agencyにより授与された協同協定番号HR0011-13-2-0017の下の政府の支援によりなされた。政府は本発明における一定の権利を有し得る。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
持続性でかつ信頼に足る治療剤の放出をもたらす薬物送達系を開発することに対して、相当の関心が寄せられている。このような系は、処置を必要とする被験体の任意の組織に治療剤を送達するように設計され得る。標的組織に応じて、薬物送達媒体は、経口、経粘膜、局所、注射、または吸入経路により投与され得る。組織内における薬物送達媒体からの薬剤の放出は、治療有効濃度の薬剤が標的組織内で実現されるよう十分に迅速であるべきであり、同時に、放出は、薬剤が組織において毒性レベルに到達するか、または分解代謝により無駄になるほど大きくすべきでない。
【0004】
不安定な治療剤の場合、持続性でかつ信頼に足る送達は、安定性の問題からいっそう困難である。さらに、特定の組織への治療剤のターゲティング送達は、罹患した組織での処置の有効性を増大させ、罹患していない組織での副作用を最小限にするために望ましい場合がある。所与の標的組織の独自の特性および環境も、薬物送達系の設計における難題および好機の両方をもたらし得る。
【0005】
例示的な薬物送達媒体には、リポソーム、有機マイクロスフェア、薬物-ポリマーコンジュゲート、無機担体などが含まれる。無機担体の中でも、その独自の物理化学的特性、具体的にはそれらの調節可能なサイズ、形状、表面反応性、および溶解性から、最近、無機ナノ粒子が薬物送達系において使用するための魅力的な候補となっている。薬物送達媒体として有用に使用される、無機ナノ粒子を含むナノ粒子の例には、リン酸カルシウムナノ粒子、炭素ナノチューブ、金ナノ粒子、酸化グラフェンナノ粒子、酸化鉄ナノ粒子、メソポーラスシリカナノ粒子などが含まれる。
【0006】
例えば、Xueら(2009年)Acta Biomater.5巻:1686頁は、タンパク質薬剤の制御された吸着および放出のためのメソポーラスケイ酸カルシウムの使用について報告している。この研究では、溶液相からケイ酸カルシウム沈殿物が形成された。沈殿物は酸で処理されて、粒子の表面にメソポーラス構造が生成され、それにより粒子の表面積が増大し、それらの生物活性が改善され、表面とのタンパク質相互作用が強化された。
【0007】
Salinasら(2001年)J. Sol-Gel Sci. Techn.21巻:13頁は、ゾル-ゲル法により、ケイ酸カルシウムゲルガラスを含むゲルガラスを生成した。これらの物質の特性が、動的アッセイモデルを使用する、疑似体液の存在下で調べられた。
【0008】
Wuら(2010年)Adv. Mater.22巻:749頁は、界面活性剤不含の音響化学的方
法を使用して、溶液相からナノ構造メソポーラスケイ酸カルシウム水和物球を合成した。薬物担体としての物質の能力を含む、これらの物質の物理化学的特性が評価された。
【0009】
Liら(2007年)J. Biomed. Mater. Res. B.83B巻:431頁は、鋳型経路
を使用する、溶液からのメソポーラスアモルファスケイ酸カルシウムの調製について報告する。物質は、従来のアモルファスケイ酸カルシウムと比較して、in vitroモデルで高い骨形成活性を示すことが判明した。
【0010】
Wuら(2012年)J. Mater. Chem.22巻:16801頁は、歯の根尖を充填する
のに生物活性メソポーラスケイ酸カルシウムナノ粒子を使用することについて記載している。この研究で使用されたナノ粒子は、カチオン性洗剤鋳型を使用して、溶液からの沈殿により合成された。
【0011】
Kokuboら(2003年)Biomaterials 24巻:2161頁は、骨代用物として使用するための、改善された機械的特性を有する無機生物活性物質の開発について概説している。このような物質には、その表面に、疑似体液の存在下でアパタイトの堆積中にアモルファスケイ酸カルシウム中間体を形成し得るガラスセラミックが含まれる。
上記の報告にもかかわらず、治療剤の送達、具体的には病変組織への治療剤のターゲティング送達のための改善された組成物、方法、および系を開発する必要性が引き続いて存在している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Xueら(2009年)Acta Biomater.5巻:1686頁
【非特許文献2】Salinasら(2001年)J. Sol-Gel Sci. Techn.21巻:13頁
【非特許文献3】Wuら(2010年)Adv. Mater.22巻:749頁
【非特許文献4】Liら(2007年)J. Biomed. Mater. Res. B.83B巻:431頁
【非特許文献5】Wuら(2012年)J. Mater. Chem.22巻:16801頁
【非特許文献6】Kokuboら(2003年)Biomaterials 24巻:2161頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の要旨
本開示は、一態様では、ポーラスシリコンコアを含む粒子、ケイ酸金属塩を含む、コアの表面上の層、および治療剤を含む、治療剤を送達するための組成物を提供することにより、これらおよびその他の必要性に取り組んでいる。
【0014】
一部の実施形態では、粒子の表面上の層は、ポーラスシリコン前駆体粒子を治療剤および金属塩を含む水溶液で処理することにより形成され、より具体的には、水溶液は少なくとも0.1モル濃度の濃度の金属塩を含む。
【0015】
一部の実施形態では、粒子の表面上の層は、ケイ酸カルシウムなどのケイ酸二価金属塩を含む。
【0016】
一部の実施形態では、ポーラスシリコンコアは約1nm~約1cmの直径を有し、より具体的には、ポーラスシリコンコアの表面上の層は、コアの直径の1~90パーセントの間の厚さを有していてよい。
【0017】
実施形態では、粒子は、500nm~1000nmの範囲で発光し得るフォトルミネセント粒子である。
【0018】
一部の実施形態では、ポーラスシリコンコアは、電気化学的にエッチングされた結晶シリコン物質または化学ステインエッチングされた結晶シリコン物質などの、エッチングされた結晶シリコン物質を含む。一部の実施形態では、ポーラスシリコンコアは、平均ポア直径最大約1nmの複数のポアを含むエッチングされたマイクロポーラスシリコン物質などの、エッチングされたマイクロポーラスシリコン物質を含む。他の実施形態では、ポーラスシリコンコアは、平均ポア直径約1nm~約50nmの複数のポアを含むエッチングされたメソポーラスシリコン物質などの、エッチングされたメソポーラスシリコン物質を含む。さらに他の実施形態では、ポーラスシリコンコアは、平均ポア直径約50nm~約1000nmの複数のポアを含むエッチングされたマクロポーラスシリコン物質などの、エッチングされたマクロポーラスシリコン物質を含む。
【0019】
一部の実施形態では、治療剤は、負に荷電した治療剤、例えばオリゴヌクレオチドなどの、低分子薬剤、ビタミン、造影剤、タンパク質、ペプチド、核酸、オリゴヌクレオチド、アプタマー、またはその混合物である。一部の実施形態では、ポーラスシリコン粒子は、ターゲティング薬剤、細胞透過性薬剤、またはターゲティング薬剤および細胞透過性薬剤の両方を含む。一部の実施形態では、ポーラスシリコンコアは酸化ポーラスシリコン物質を含む。
【0020】
別の態様では、本開示は、本組成物のいずれかおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0021】
さらに別の態様では、本開示は、治療剤の送達のための粒子を調製する方法であって、
ポーラスシリコン前駆体粒子を用意するステップ;
ポーラスシリコン前駆体粒子を、治療剤および金属塩を含む水溶液で処理するステップを含む、方法を提供する。
【0022】
さらに他の態様によれば、本開示の組成物の、処置を必要とする被験体への投与を含む処置方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1。siRNAロードした、ケイ酸カルシウムコーティングポーラスシリコンナノ粒子(Ca-pSiNP-siRNA)の調製のための例示的プロセスの概略図。
【0024】
【
図2】
図2A~2E。pSiNP(
図2A)、Ca-pSiNP(
図2B)、およびCa-pSiNP-siRNA(
図2C)製剤の透過型電子顕微鏡(TEM)画像。スケールバーは200nmである。
図2Dは、pSiNPおよびCa-pSiNP製剤の極低温窒素吸脱着等温線(cryogenic nitrogen adsorption-desorption isotherm)を示す。
図2Eは、Ca-pSiNP製剤を調製するために使用される、pSiNPと3Mまたは4MのCaCl
2水溶液との反応の間に得られた、フォトルミネセンス発光スペクトル(λ
ex:365nm)を示す。典型的な量子閉じ込めは、ポーラスシリコンコアが薄くなるにつれて、発光スペクトルが青色にシフトする。電子的に不動態化する表面層の成長および非放射性再結合中心の抑制は、反応が進行するにつれて観察されるフォトルミネセンス強度の強力な増大において明らかである。
【0025】
【
図3】
図3。PPIB遺伝子に対するsiRNA(siPPIB)、siPPIBがロードされたアミノ化されたポーラスSiナノ粒子(pSiNP)(pSiNP-siPPIB)、二重ペプチドナノ複合体中、ケイ酸カルシウムシェルで調製され、かつ外側シェル上に細胞ターゲティングペプチドおよび細胞透過性ペプチドの両方を含有するpSiNP-siPPIB構築物(Ca-pSiNP-siPPIB-DPNC)、外側シェル上に細胞透過性ペプチドのみを含有するpSiNP-siPPIB-ケイ酸カルシウムシェル構築物(Ca-pSiNP-siPPIB-mTP)、外側シェル上に細胞ターゲティングペプチドのみを含有するpSiNP-siPPIB-ケイ酸カルシウムシェル構築物(Ca-pSiNP-siPPIB-RVG)、およびルシフェラーゼに対する陰性対照siRNA配列を含有し、かつ外側シェル上に細胞ターゲティングペプチドおよび細胞透過性ペプチドの両方を含有するpSiナノ粒子-ケイ酸カルシウムシェル構築物(Ca-pSiNP-siLuc-DPNC)で処理した後のNeuro-2a細胞における相対PPIB遺伝子発現のサイレンシング。「7日」という名称は、実験前にナノ粒子構築物をエタノール中で、4℃で7日間保存したことを示している。細胞透過性ペプチドは、ミリストイル化輸送体(transportan)であり、細胞ターゲティングペプチドは、本文に記載されているように狂犬病ウイルス糖ペプチド(RVG)由来のドメインである。統計解析は、スチューデントt検定(
*p<0.01、
**p<0.03)で行った。
【0026】
【
図4】
図4Aおよび4B。(1)対照としての食塩水、(2)Ca-pSiNP-siRNA-PEG、および(3)Ca-pSiNP-siRNA-DPNCの静脈注射後の採取した臓器のex vivo蛍光画像。全てのsiRNA構築物は、共有結合したdy677フルオロフォアを含有していた。
図4A:赤外線イメージングシステムPearl Trilogy(Li-Cor)を使用して得られた損傷した脳の蛍光画像。画像中の緑色チャネルは、dy677からの700nmの発光に対応し、脳組織の明視野像を、700nmの発光と統合する。
図4B:Cy5.5チャネル(λ
ex/em:675/694nm)におけるIVIS(キセノゲン)イメージングシステムで撮影された全主要臓器の蛍光画像。
【0027】
【
図5】
図5Aおよび5B。pSiNP(
図5A)およびCa-pSiNP(
図5B)についての走査型電子顕微鏡画像および元素(EDX)データ。
【0028】
【
図6】
図6A。示した通りの、pSiNP(下の破線)およびCa-pSiNP(上の実線)の粉末X線回折スペクトル。Siナノ粒子の回折パターンにおけるピークは、その回折ピークを担う結晶性Si格子面のセットを示すミラー指数h k lで表示される。
図6B。pSiNP(下の破線)およびCa-pSiNP(上の実線)のラマンスペクトル。
図6C。pSiNP(下の破線)およびCa-pSiNP(上の実線)の拡散反射FTIRスペクトル。分かりやすくするため、スペクトルはy軸に沿ってオフセットしている。
【0029】
【
図7】
図7A。pH9の緩衝液(三角、破線)、およびCaCl
2中の3Mまたは4MであるpH9の溶液(丸、実線)において時間の関数として測定したpSiNPのUV-Vis吸光度強度(λ=405nm)。吸光度の低下は、ナノ粒子中の単体Siコアの分解に起因する;シリコンは405nmの光を強く吸収するが、SiO
2またはケイ酸イオンはこの波長で透明である。
図7B。PBS緩衝液中、37℃で時間の関数として放出されたsiRNAの質量による累積百分率。pSiNP-NH
2-siRNA製剤は、2-アミノプロピルジメチルエトキシシラン(APDMES)を使用してpSiNPのポア壁にアミンを最初にグラフトし、次いで2時間の溶液曝露によりsiRNAをロードすることによって調製した。
【0030】
【
図8】
図8。ローダミン6G標準に比してCa-pSiNP製剤の量子収量を計算するために使用された、光学吸収(365nm)の関数としての積分フォトルミネセンス強度。積分フォトルミネセンスは、500~980nmの間で積分されたフォトルミネセンス強度-波長曲線を表す。QE-Pro(Ocean Optics)分光計を使用し、励起λ
ex=365nm、および460nmロングパスエミッションフィルターを使用してフォトルミネセンス強度を測定した。
【0031】
【
図9】
図9。カルセインAM生/死アッセイによって定量したCa-pSiNP構築物の細胞傷害性。Neuro2a細胞を、96ウェルプレート中で三重にCa-pSiNPと共にインキュベートした。48時間後、各ウェルをアッセイ溶液で処理し、そして生存率を、標準に対して測定した蛍光強度によって定量した。
【0032】
【
図10】
図10。PEG修飾および二重ペプチドのCa-pSiNP-siRNAへのコンジュゲーションの手順を示す模式図。カップリング剤2-アミノプロピルジメチルエトキシシラン(APDMES)を、ナノ粒子の表面(ケイ酸カルシウムおよびシリカ)にグラフトし、ペンダント一級アミン基を生成した(Ca-pSiNP-siRNA-NH
2)。次いで、マレイミド-ポリ(エチレン-グリコール)-スクシンイミジルカルボキシメチルエステル(MAL-PEG-SCM)種を使用して、機能的ポリエチレングリコール(PEG)リンカーを、Ca-pSiNP-siRNA-NH
2ナノ粒子上の一級アミンに結合させた。スクシンイミジルカルボキシメチルエステルは、一級アミンとアミド結合を形成する。PEG鎖の遠位端は第2の官能基であるマレイミドを含有していた。マレイミドは、システインのチオールと共有結合を形成し、ニューロンターゲティングペプチド(狂犬病ウイルス糖タンパク質)および細胞透過性ペプチド(ミリストイル化輸送体)の結合を可能にする。
【0033】
【
図11】
図11A。エタノール中に分散されたナノ粒子(本文中に記載されるようなpSiNP、Ca-pSiNP、Ca-pSiNP-NH
2、Ca-pSiNP-siPPIB、およびCa-pSiNP-siPPIB-NH
2)のゼータ電位。
図11B。動的光散乱(DLS)によって測定されたpSiNPおよびCa-pSiNP-siPPIB-DPNCのサイズ分布。
【0034】
【
図12】
図12。ナノ粒子製剤(下から上に)Ca-pSiNP-PEG、Ca-pSiNP-mTP、Ca-pSiNP-RVG、およびCa-pSiNP-DPNCならびにペプチド(mTPおよびFAM-RVG)のATR-FTIRスペクトル。本文に記載されている製剤の略語。分かりやすくするため、スペクトルはy軸に沿ってオフセットする。
【0035】
【
図13】
図13Aおよび13B。37℃で2時間、(A)Ca-pSiNP-siPPIB-DPNCおよび(B)Ca-pSiNP-siPPIB-RVGで処理したNeuro2a細胞の共焦点顕微鏡画像。シリコンナノ粒子の固有のルミネセンス(オリジナルは赤色)からのシグナルが、Ca-pSiNP-siPPIB-RVGで処理した細胞の表面(
図13B)、およびCa-pSiNP-siPPIB-DPNCで処理した細胞中で細胞内的に(
図13A)観察され、DAPI核染色(オリジナルは青色)が、両方の画像の細胞核で観察され、RVGドメイン上のFAMタグからのシグナル(オリジナルは緑色)が、Ca-pSiNP-siPPIB-RVG(
図13B)で処理した細胞の表面上ではさらに優勢であり、シリコンとFAM-RVGシグナルの重なり(赤と緑の組合せに起因してオリジナルは黄色)は、Ca-pSiNP-siPPIB-DPNC(
図13A)で処理した細胞中で細胞内的にさらに優勢である。スケールバーは20μmである。
【0036】
【
図14】
図14A~14D。対照として粒子なし(
図14A)、Ca-pSiNP-siPPIB-RVG(
図14B)、Ca-pSiNP-siPPIB-DPNC(
図14C)、およびCy3タグ化siRNAロードしたCa-pSiNP-siPPIB-DPNC(
図14D)で処理したNeuro2a細胞のFACS分析。プロットの下に示されるパーセンテージは、FAM-RVG、Cy3タグ化siRNA、またはFAM-RVGとCy3タグ化siRNAの重複をトランスフェクトした細胞の定量された割合を表す。統計分析は、スチューデントt検定で行った(
*p<0.04)。
【0037】
【
図15】
図15。in vivoの傷害された脳へのsiRNAのターゲティング送達のための例示的な実験手順。損傷から6時間後、Ca-pSiNP-siRNA-PEGまたはCa-pSiNP-siRNA-DPNCを注射した。各製剤中のsiRNAを、dy677蛍光タグで標識した。1時間の循環後、マウスを屠殺し、灌流し、その臓器を採取して、画像化した。
【0038】
【
図16】
図16。4Mの塩化カルシウム、4Mの塩化マグネシウム、またはpH9の緩衝液のいずれかで24時間超音波処理された、新たにエッチングされたポーラスシリコン微粒子(pSiMP)のX線回折スペクトル。
【0039】
【
図17】
図17A~17C。(A)pH9の緩衝液、4MのCaCl
2および4MのMgCl
2溶液を使用したローダミンB(RhB)およびルテニウムビピリジン(Ru(bpy))のローディング効率。pH9の緩衝液、CaCl
2およびMgCl
2溶液中にロードした後のpSiMPからの(B)ローダミンBおよび(C)Ru(bpy)の放出プロファイル。
【0040】
【
図18】
図18A~18B。(A)クロラムフェニコールまたは(B)バンコマイシンをロードしたCa-pSiNPのローディング容量、薬物放出プロファイル、およびフォトルミネセンス低下プロファイル。
【発明を実施するための形態】
【0041】
発明の詳細な説明
ポーラスシリコン粒子を含む組成物
本開示は、一態様では、治療剤の送達に有用な組成物を提供する。このような組成物は、治療剤の制御放出が望ましい疾患またはその他の状態の処置に特に有用である。例えば、多くの疾患または状態が、長期にわたる活性な治療剤の安定した放出により有利に処置される。このような処置によって、注射、経口製剤、またはその他の典型的な送達系によりもたらされ得るよりも一定の、系における治療剤濃度がもたらされ、それにより、薬剤により引き起こされる可能性のある毒性作用が最小限となるのと同時に、治療活性が最大限となる。制御された送達系により、望ましい狭い治療濃度域内で薬剤の定常状態濃度を維持することで、所与の治療レジメンに必要な注射の頻度も有利に減少し、高価な治療剤の廃棄も有利に減少する。組成物は、単離された細胞または組織の処置にも有用であり、例えば処置の時間経過にわたって、治療剤の細胞内もしくは組織内送達の増加、または薬剤の安定性の改善をもたらし得る。
【0042】
ポーラスシリコン(pSi)は、典型的には結晶シリコンウエハーまたはその他のシリコン含有物質をエッチングすることによって形成される、ナノ構造シリコン含有物質を指す。例えば、その全体にわたって参照により本明細書に組み込まれる、Anglinら(2008年)Adv. Drug Deliv. Rev. 60巻:1266頁を参照のこと。したがって、本明細書で使用される場合、シリコン含有物質は好ましくは単体シリコン(elemental silicon)(結晶および多結晶シリコンを含む)を含むが、ポリシロキサン、シラン、シリコーン、シロキサン、またはそれらの組合せも含んでいてよい。ポーラスシリコンは、エッチングプロセスから直接的に生じるナノ構造物質、およびその物質の任意の誘導体(エッチングされたポーラスシリコンのさらなる化学修飾から生じる酸化シリコンまたは共有結合
により修飾されたシリコンなど)の両方を包含すると考えられるべきである。
【0043】
ここで言及されたように、ポーラスシリコンは典型的には、シリコン含有物質の電気化学的または化学的ステインエッチングのいずれかにより調製される。例えば電気化学的エッチングの場合、電流密度、シリコンウエハー中のドーパントの種類および濃度、ウエハーの結晶方位、ならびに電解質濃度を制御することによるエッチングプロセスの制御により、ポアのサイズおよび形態を望ましいように調節することができる。このような調節で、例えば、マイクロポーラス、メソポーラス、またはマクロポーラスシリコンが生じ得る。
【0044】
ポーラスシリコンは元々、そのフォトルミネセント特性が発見された後、光電子機器における使用のため開発された。Canham(1990年)Appl. Phys. Lett. 57巻:1
046頁。しかし近年、pSiは薬物の制御放出用の担体として関心を集めている。Salonenら(2008年)J. Pharm. Sci. 97巻:632頁;Chhablaniら(2013年)Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 54巻:1268頁;Kovalainenら(2012年)Pharm. Res. 29巻:837頁。例えばメソポーラスシリカなどの従来のシリコンベースの組成物は、生じた生成物の微細構造の制御があまりできない溶液-相反応、例えばゾル-ゲルまたは沈殿経路により得られる。対照的に、pSi微細構造の有意な制御は、その合成に使用される電気化学的エッチングパラメータを調整することにより可能である。Martinezら(2013年)Biomaterials 34巻:8469頁;Houら(2014年)J.
Control. Release 178巻:46頁。空気中で高温で酸化されたポーラスシリコン
粒子を含むポーラスシリコン粒子が、眼に治療剤を送達するのに使用されている。例えば、全ての目的においてその全体にわたって参照により本明細書にそれぞれ組み込まれる、PCT国際公開第WO2006/050221A2号および第WO2009/009563A2号を参照のこと。このような粒子が、粒子をウサギに硝子体内注射すると低い毒性で長期にわたって薬剤を送達することが示された。
【0045】
pSiについての別の有用な特性は、容易に修飾される表面の化学である。例えば、熱酸化および熱ヒドロシリル化(hydrosylilation)などの方法を使用して、薬物ペイロー
ドの特性に従って薬物のローディングおよび放出を最適化することができる。Salonenら
(2008年)J. Pharm. Sci. 97巻:632頁;Anglinら(2008年)Adv. Drug Deliv. Rev. 60巻:1266頁。特定の化学により、pSiマトリックスの分解が遅くなり得る、または溶解しにくい活性医薬品成分(API)の放出が増強され得ることが観察されている。Salonenら(2005年)J. Control. Release 108巻:362頁;Wangら(2010年)Mol. Pharm. 7巻:227頁。pSi粒子の表面への官能化は、各種方法で、例えば、その全体にわたって参照により本明細書に組み込まれるPCT国際公開第WO2014/130998A1号に記載されるように、ポア内部の壁およびポア開口部を別に修飾することにより制御可能である。
【0046】
ポーラスシリコンは、単体Siの酸化、および生じたケイ酸および最終的にオルトシリケートの溶解の組合せでにより、中性pHの水溶液、例えば正常な体液中でゆっくりと溶解することが公知である。例えばpSiナノ粒子の表面の修飾によって、このプロセスの速度および程度を制御することにより、粒子の毒性を有意に最小限にすることができる。例えば、硝子体内注射されたpSiナノ粒子が非毒性であり、ウサギの硝子体において数カ月間安全に存在した後、眼から完全に分解および除去されたことが示されている。Chengら(2008年)Br. J. Ophthalmol. 92巻:705頁;Nietoら(2013年)Exp. Eye Res. 116巻:161頁。米国特許公開第2010/0196435号も参
照のこと。
【0047】
したがって、以下でより詳細に記載されるように、本開示の粒子およびフィルムは、本
明細書ではポーラスシリコン「骨格」とも呼ばれ得るポーラスシリコンコアを含む。一部の実施形態では、ポーラスシリコンコアは、エッチングされた結晶シリコン物質、より具体的には電気化学的にエッチングされた結晶シリコン物質または化学的ステインエッチングされた結晶シリコン物質を含む。実施形態では、ポーラスシリコンコアは、エッチングされたマイクロポーラスシリコン物質、例えば平均ポア直径最大約1nmの複数のポアを含む物質を含む。実施形態では、ポーラスシリコンコアは、エッチングされたメソポーラスシリコン物質、例えば平均ポア直径約1nm~約50nmの複数のポアを含む物質を含む。実施形態では、ポーラスシリコンコアは、エッチングされたマクロポーラスシリコン物質、例えば平均ポア直径約50nm~約1000nmの、またはそれよりさらに大きい複数のポアを含む物質を含む。
【0048】
一部の実施形態では、本粒子およびフィルムのポーラスシリコンコアは、物質の総体積に対して約5%~約95%の開気孔率を有する。より具体的な実施形態では、ポーラスシリコンは、物質の総体積に対して約20%~約80%、または約40%~約70%の開気孔率を有する。一部の実施形態では、本組成物のポーラスシリコンの平均ポア直径は、約0.1nm~約1000nm、約0.1nm~約1nm、約0.1nm~約50nm、約1nm~約50nm、約1nm~約1000nm、または約50nm~約1000nmである。一部の実施形態では、平均ポア直径は、少なくとも約0.1nm、少なくとも約0.5nm、少なくとも約1nm、少なくとも約50nm、またはそれよりさらに大きい。一部の実施形態では、平均ポア直径は、最大約1000nm、最大約100nm、最大約50nm、最大約1nm、またはそれよりさらに小さい。
【0049】
本組成物のポーラスシリコンコアは、フィルムまたは粒子の形態であってよい。具体的には、本粒子およびフィルムの厚さは、好ましくは約5nm~約1000ミクロン、約10nm~約100ミクロン、または約100nm~約30ミクロンの範囲である。したがって、粒子およびフィルムは、少なくとも約5nm、少なくとも約10nm、少なくとも約100nm、またはそれよりさらに厚い厚さを有していてよい。同様に、粒子およびフィルムは、最大約1mm、最大約100ミクロン、最大約30ミクロン、またはそれよりさらに薄い厚さを有していてよい。ポーラスシリコンコアが粒子の形態である実施形態では、ポーラスシリコンコアの平均直径は、好ましくは約1nm~約1cm、約3nm~約1000ミクロン、約10nm~約300ミクロン、約10nm~約100ミクロン、または約1ミクロン~約50ミクロンの範囲である。一部の実施形態では、平均粒子直径は、少なくとも約1nm、少なくとも約3nm、少なくとも約10nm、少なくとも約100nm、少なくとも約1ミクロン、またはそれよりさらに大きい。一部の実施形態では、平均粒子直径は、最大約1cm、最大約1000ミクロン、最大約300ミクロン、最大約100ミクロン、最大約50ミクロン、またはそれよりさらに小さい。
【0050】
ある特定の実施形態では、本組成物のポーラスシリコンコアは少なくとも部分的に酸化されている。本開示のポーラスシリコン組成物において単体シリコンを二酸化シリコンに酸化すると、組成物の安定性が増大し、組成物の毒性が減少し、かつ/または溶解特性の改善がもたらされ得る。本組成物のポーラスシリコンを酸化する例示的な方法は、調製方法で以下に詳細に与えられる。それらの方法のいずれかの酸化されたポーラスシリコン物質が、完全に酸化されたものであれ部分的に酸化されたものであれ、本組成物において有用であることが判明した。一部の場合において、下記の調製方法で使用される金属塩の塩化物イオンを、硝酸イオン、亜硝酸イオン、グルコン酸イオン、またはその他の適切なアニオンで置換することによってポーラスシリコンコアを酸化することが望ましい場合がある。硝酸金属塩または亜硝酸金属塩は、硝酸イオンおよび亜硝酸イオンの酸化性質により、金属塩化物よりも迅速にポーラスシリコンを酸化することができる。Fryら(2014
年)Chem. Mater. 26巻:2758頁。
【0051】
「ポーラスシリコン酸化物」という用語が、シリコンおよび酸素を含み、一般化学量論式SiOxの、xが最小では0.01および最大では2であり得る物質を指し、「ポーラスシリコン」が、単体シリコン(結晶またはアモルファス状態のいずれか)から構成され、表面が水素、酸素、または炭素含有化学種を含む物質を指すことが理解されるべきである。さらに、「ポーラスシリコン」または「ポーラスシリコン酸化物」という用語は、マイクロポア、メソポア、もしくはマクロポア、または任意の2種もしくは3種全てのポア型の組合せを含む物質を指す。ポア内部の壁の表面を含むポーラス物質の表面が、水素、酸素、または炭素含有化学種を含み得ることも理解されるべきである。
【0052】
ポーラスシリコンを含む例示的な組成物およびそれらの組成物を調製する方法は、例えば、それぞれがその全体にわたって参照により本明細書に組み込まれる、米国特許公開第2005/0042764号;第2005/0009374号;第2007/0148695号;第2007/0051815号;第2009/0208556号;および第2010/0196435号に詳細に記載されている。
【0053】
一部の実施形態では、本開示のポーラスシリコンコアは共有結合により修飾されている。具体的な実施形態では、共有結合による修飾はポーラスシリコンコアの表面上に存在する。アルキル化および特に熱ヒドロシリル化などの表面修飾により修飾されたポーラスシリコンの例が、Chengら(2008年)Br. J. Ophthalmol. 92巻:705頁および
PCT国際公開第WO2014/130998A1号に記載されている。このような物質は、治療剤の送達系として使用されると良好な生体適合性(biocompatability)を示すことが判明した。
【0054】
上記の通り、ポーラスシリコンは中性pHの水溶液にゆっくりと溶解することが公知である。ポーラスシリコンの分解機構には、シリコン骨格が酸化されて酸化シリコンが形成され(式1)、生じた酸化物相が溶解して水溶性のオルトケイ酸(Si(OH)
4)またはその同族体となること(式2)が伴う。Sailor、Porous silicon in practice: preparation, characterization and applications. (John Wiley & Sons、2012年)を参照のこと。
【化1】
【0055】
有利なことに、ポーラスシリコンまたはポーラスシリコン酸化物の溶解により生じたケイ酸を高濃度の金属塩と反応させると、本明細書では「ケイ酸イオン」と呼ばれるアニオン、オルトケイ酸イオン(SiO
4
4-)、メタケイ酸イオン(SiO
3
2-)、またはその同族体を含む不溶性金属塩の形成がもたらされることが発見された。理論に縛られることを意図するものではないが、不溶性ケイ酸塩は、ポーラスシリコンまたはポーラスシリコン酸化物骨格のさらなる溶解を妨害する保護シェルとして作用すると考えられる。さらに、不溶性塩の形成は、ポア内に先にローディングされた物質が捕捉された状態となり得るように、物質のポア開口部を遮断する働きをする。siRNA治療剤を用いた例示については
図1を参照のこと。ポーラスシリコンを比較的低濃度の水性カルシウムおよびホスフェートを含む溶液に曝露すると、ヒドロキシアパタイトの表面層の形成につながることが以前に実証されている(Liら(1998年)J. Am. Chem. Soc. 120巻:11706頁)が、高濃度の金属塩の存在下での不溶性シリケートの形成は実証されておらず、相当量のペイロード分子を捕捉するにあたってのこれらの反応の驚くべき有効性も有しない。セメント化学から、酸化カルシウムがシリカと反応してケイ酸カルシウムを形成すること(Minetら(2006年)J. Mater. Chem. 16巻:1379頁)、ならびに、シリケート水溶液およびカルシウムイオン溶液などの均質な前駆体を混合すると、沈殿物およびナノ粒子が生成され得ること(Wuら(2012年)J. Mater. Chem. 22巻:
16801頁;Wuら(2010年)Adv. Mater. 22巻:749頁;Liら(2007年)J. Biomed. Mater. Res. B. 83B巻:431頁;Saravanapavanら(2003年)J. Noncrystalline Solids 318巻:1頁;Kokuboら(2003年)Biomaterials
24巻:2161頁;およびSalinasら(2001年)J. Sol-Gel Sci. Techn. 21巻:13頁)が公知であるが、ナノ構造ポーラスシリコンと反応させた金属塩水溶液がコア/シェルナノ構造を生じ得ることは以前には実証されていない。さらに、本組成物のコア/シェル構造は、上記の均質な経路により調製される物質の特性とは異なる独自の特性を示し、本明細書に記載される調製方法により、有利なことに、治療剤をローディングし、その後ゆっくりと放出させることが可能となる。さらに、コア-シェル構造の、ポーラスシリコンのルミネセントシリコンドメインからのフォトルミネセンスの強度および持
続性を増強させる能力が実証されており(Jooら(2014年)Adv. Funct. Mater.
24巻:5688頁)、本明細書では、これらの新たなシェルが、ポーラスシリコンの固有のフォトルミネセンス特性に同様の改善をもたらすことが実証されている。
【0056】
したがって、本開示のポーラスシリコン粒子およびフィルムは、好ましくは、ケイ酸金属塩を含む、ポーラスシリコンコアの表面上の層を含む。上記の通り、この層は一部の例では「シェル」とも呼ばれ得る。一部の実施形態では、ケイ酸金属塩は、ケイ酸二価、三価、または四価金属塩である。より具体的には、ケイ酸金属塩はケイ酸二価金属塩である。例えば、ケイ酸二価金属塩は、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸マンガン、ケイ酸銅、ケイ酸亜鉛、ケイ酸ニッケル、ケイ酸白金、またはケイ酸バリウムであってよい。具体的な実施形態では、ケイ酸二価金属塩はケイ酸カルシウムまたはケイ酸マグネシウムである。さらにより具体的には、ケイ酸二価金属塩はケイ酸カルシウムである。他の具体的な実施形態では、ケイ酸金属塩はケイ酸三価または四価金属塩である。本開示のポーラスシリコン粒子およびフィルムにおいて有用性を有する例示的なケイ酸三価または四価金属塩には、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸チタン、およびケイ酸ビスマスが含まれる。一部の実施形態では、ポーラスシリコンコアの表面上の層は、上に列挙された例示的なケイ酸金属塩のいずれかを任意の組合せで含む、ケイ酸金属塩の組合せを含む。
【0057】
ポーラスシリコンまたはポーラスシリコン酸化物ナノ構造は、治療剤、診断剤、または別の有益な物質(「ペイロード」とも呼ばれる)を受容するように容易に構成される(Salonenら(2008年)J. Pharm. Sci. 97巻:632頁;Anglinら(2008年)Adv. Drug Deliv. Rev. 60巻:1266頁)が、投与前または投与後のいずれかに
、これらのペイロードが時期尚早に放出されると、所期の目的にとって望ましくない場合がある。さらに、水性条件でのポーラスシリコンまたはポーラスシリコン酸化物の分解が、持続性の薬物送達(Salonenら(2008年)J. Pharm. Sci. 97巻:632頁;Anglinら(2008年)Adv. Drug Deliv. Rev. 60巻:1266頁)、in vi
voまたはin vitroでの画像化(Jooら(2014年)Adv. Funct. Mater.
24巻:5688頁;Guら(2013年)Nat. Commun. 4巻:2326頁;Parkら(
2009年)Nat. Mater. 8巻:331頁)、およびバイオセンサー(Janeら(2009年)Trends Biotechnol. 27巻:230頁)を伴う施用において重大な問題を引き
起こし得ることから、(ポーラス骨格の)シリコンまたは酸化シリコンの内部コアがより安定な酸化シリコン(Jooら(2014年)Adv. Funct. Mater. 24巻:5688頁
)、酸化チタン(Bettyら(2011年)Prog. Photovoltaics 19巻:266頁;Li
ら(2014年)Biosens. Bioelectron. 55巻:372頁)、炭素(Tsangら(20
12年)ACS Nano 6巻:10546頁)、またはその他の動力学的に安定な物質(Buriak(2002年)Chem. Rev. 102巻:1271頁)のシェルで取り囲まれた、各種「コア-シェル」型構造の合成に至った。適切な条件下では、シェルの形成により、ポア中に先にローディングされた物質が捕捉されて、製剤のゆっくりした放出がもたらされ得る(Fryら(2014年)Chem. Mater. 26巻:2758頁)。ポーラスシリコン含有コア物質内に物理的に捕捉されたカーゴ分子とともにコア-シェル構造を含む、融合性リポソームコーティングされたポーラスシリコンナノ粒子が、ともにその全体にわたって参照により本明細書に組み込まれる、2015年7月9日出願の米国仮出願第62/190,705号、およびPCT国際公開第WO2017/008059A1号に記載されている。
【0058】
本組成物中にカルシウムイオンなどの金属イオンが存在することは、これらのイオンが製剤中に存在し得る残ったフッ化物イオンを隔離することができるため、組織にとってさらに有益となり得る。本組成物に使用されるポーラスシリコンおよびポーラスシリコン酸化物物質は、典型的には、フッ化物含有電解質中で電気化学的なエッチングにより調製され、このプロセスによりポーラスマトリックス中に微量のフッ化物が残ることがある(Ko
ynovら(2011年)Adv. Eng. Mater. 13巻:B225頁)。フッ化物は組織にとって非常に有毒であり得る(特に、眼などの敏感な組織)。しかし、水溶液中の、非常に溶解性が小さい生成物であるフッ化カルシウムおよびその他の金属フッ化物により、コア-シェル合成における高濃度の金属イオンの使用で、製剤中に残ったフッ化物と反応させ、それによりフッ化物およびそのin vivoでの有害な効果を中和するというさらなる利益がもたらされ得る。
【0059】
一部の実施形態では、ポーラスシリコンコアの表面上の層は、コアの平均直径または厚さの1~90パーセントの間、5~60パーセントの間、または10~40パーセントの間の厚さを有する。
【0060】
好ましい実施形態では、ポーラスシリコンコアの表面上の層のケイ酸金属塩は、ポーラスシリコンコアに化学的に結合している。
【0061】
本開示の組成物は、好ましくはポーラスシリコン粒子またはフィルムのエッチングされたポア内に含まれる治療剤をさらに含む。治療剤という用語が、処置を必要とする被験体、組織、または細胞に対し治療効果を有し得る任意の薬剤を包含すると広く解釈されるべきであることが理解されるべきである。治療剤には、核酸、炭水化物、およびタンパク質、ならびに脂質、ならびに一次および二次代謝物を含む任意のその他の天然に存在する分子などの生物ポリマーが含まれる。治療剤には、治療活性をもたらす、上記分子の任意の誘導体または別様に修飾された型も含まれていてよい。実際、治療剤は部分的にまたは完全に非天然の構造を有していてよい。治療剤は天然の供給源から精製されてもよく、半合成方法を使用して調製されてもよく、または合成的手法により全て調製されてもよい。治療剤は薬学的に許容される塩の形態で提供されてもよく、および治療効果を有しない薬学的に許容される賦形剤またはその他の薬剤とともに製剤化されてもよい。一部の状況では、本開示の単一の組成物中、またはさらには単一のポーラスシリコン粒子もしくはフィルム中に1種を超える治療剤を組み合わせることが有利であり得る。
【0062】
本組成物に有用に含まれる治療剤には、限定されないが、ACE阻害剤、アクチン阻害剤、鎮痛剤、麻酔剤、降圧剤(anti-hypertensive)、抗ポリメラーゼ、分泌抑制剤、抗
生物質、抗がん物質、抗コリン薬、抗凝固剤、抗けいれん薬、抗うつ薬、制吐薬、抗真菌薬、抗緑内障薬溶質、抗ヒスタミン薬、降圧剤(antihypertensive agent)、抗炎症剤
(NSAIDなど)、代謝拮抗薬、抗有糸分裂薬、抗酸化剤、抗寄生虫薬、抗パーキンソン病薬剤、抗増殖薬(抗血管新生剤を含む)、抗原虫薬溶質、抗精神病物質、解熱薬、消毒薬(antiseptic)、鎮痙薬、抗ウイルス剤、カルシウムチャネル遮断薬、細胞応答調節剤、キレート剤、化学療法剤、ドーパミンアゴニスト、細胞外マトリックス成分、線溶剤、フリーラジカルスカベンジャー、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、睡眠薬、免疫抑制剤、免疫毒素、表面糖タンパク質受容体の阻害剤、微小管阻害剤、縮瞳薬、筋収縮剤、筋弛緩剤、神経毒、神経伝達物質、オピオイド、プロスタグランジン、リモデリング阻害剤(remodeling inhibitor)、スタチン、ステロイド、血栓溶解剤、精神安定剤、血管
拡張剤、および/または血管攣縮阻害剤が含まれる。
【0063】
一部の実施形態では、治療剤は、核酸または核酸アナログ、例えばこれらに限定されないが、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、例えば低分子干渉RNA(siRNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)、転移RNA(tRNA)、マイクロRNA(miRNA)、低分子一過性RNA(small temporal RNA)(stRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、修飾mRNA(mmRNA)、またはそのアナログもしくは組合せである。一部の実施形態では、治療剤は核酸アナログ、例えばこれらに限定されないが、アンチセンス核酸、オリゴ核酸すなわちオリゴヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)、偽相補的PNA(pseudo-compleme
ntary PNA)(pcPNA)、ロックド核酸(LNA)、またはその誘導体もしくはアナログである。好ましい実施形態では、治療剤はsiRNAである。
【0064】
核酸薬剤などの負に荷電した治療剤が本pSiナノ粒子またはナノフィルムの表面上のケイ酸金属塩層とともに製剤化されることを考慮すると、本組成物におけるこれらの薬剤の送達が有利であり得ることを当業者は理解するはずである。理論に縛られることを意図するものではないが、組成物の金属成分が核酸治療剤成分のアニオン電荷を中和し、それにより本物質のローディング能力が改善され得る。
【0065】
一部の実施形態では、治療剤はタンパク質またはペプチド、例えば抗体もしくはタンパク質生物製剤、ペプチドミメティック、アプタマー、またはその変異体である。
【0066】
一部の実施形態では、治療剤は例えば、リポペプチド(例えば、ダプトマイシン)、グリシルサイクリン(例えば、チゲサイクリン)、オキサゾリジノン(例えば、リネゾリド)、リピアルマイシン(例えば、フィダキソマイシン)、ペニシリン、セファロスポリン、ポリミキシン、リファマイシン、キノロン、スルホンアミド、マクロライド、リンコサミド、テトラサイクリン、グリコペプチド(例えば、バンコマイシン)などの抗生物質である。
【0067】
一部の実施形態では、治療剤は低分子疎水性治療剤である。多くの治療剤、具体的には疎水性治療剤は、非晶質形態、すなわちアモルファス形態で、より効率的に生物システムに送達される。実際、疎水性治療剤をアモルファス形態に製剤化することは、溶解特性を増大させ、それによりバイオアベイラビリティを増大させるための有望な戦略と考えられている。しかし、活性な薬剤のアモルファス形態は内部エネルギーが大きいことから、純粋なアモルファス薬剤は大抵、典型的には小さい溶解性を有する、より低いエネルギーの結晶状態まで急速に再結晶する。したがって、アモルファス状態が安定化するように疎水性治療剤を製剤化することが望ましい。
【0068】
理論に縛られることを意図するものではないが、本ポーラスシリコン粒子およびフィルム、具体的にはポア表面が修飾されたポーラスシリコン物質のポア表面は、薬剤およびポア表面の間の強い分子相互作用により、治療剤のアモルファス形態を安定化させることができると考えられる。これらの相互作用により、薬物の再結晶が防止され、それにより薬剤が効率的に放出され、バイオアベイラビリティが増大し得る。
【0069】
したがって、本粒子およびフィルムに有用に組み込まれる低分子治療剤の例には疎水性治療剤が含まれる。具体的な実施形態では、疎水性薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ダウノルビシン、ドキソルビシン、またはこれらの薬剤のいずれかのアナログである。好ましい実施形態では、薬剤はラパマイシン(シロリムスとしても公知)またはラパマイシンアナログである。ラパマイシンアナログの非限定的な例には、例えば、エベロリムス、ゾタロリムス、バイオリムスA9、テムシロリムス、ミオリムス(myolimus)、ノボリムス(novolimus)、タクロリムス、またはピメクロリムスが含まれる。
【0070】
ラパマイシンの、共有結合により修飾された型が、限定されることなく本組成物に有用に含まれていてよい。例えば、米国特許第4,316,885号および第5,118,678号は、ラパマイシンのカルバメートについて報告している。米国特許第4,650,803号は、ラパマイシンの水溶性プロドラッグについて報告している。米国特許第5,100,883号は、ラパマイシンのフッ素化エステルについて報告している。米国特許第5,118,677号は、ラパマイシンのアミドエステルについて報告している。米国特許第5,130,307号は、ラパマイシンのアミノエステルについて報告している。
米国特許第5,346,893号は、ラパマイシンのスルホネートおよびスルファメートについて報告している。米国特許第5,194,447号は、ラパマイシンのスルホニルカルバメートについて報告している。米国特許第5,446,048号は、ラパマイシンオキシムについて報告している。米国特許第6,680,330号は、ラパマイシンジアルデヒドについて報告している。米国特許第6,677,357号は、ラパマイシン29-エノールについて報告している。米国特許第6,440,990号は、O-アルキル化ラパマイシン誘導体について報告している。米国特許第5,955,457号は、水溶性ラパマイシンエステルについて報告している。米国特許第5,922,730号は、アルキル化ラパマイシン誘導体について報告している。米国特許第5,637,590号は、ラパマイシンアミジノカルバメートについて報告している。米国特許第5,504,091号は、ラパマイシンのビオチンエステルについて報告している。米国特許第5,567,709号は、ラパマイシンのカルバメートについて報告している。米国特許第5,362,718号は、ラパマイシンヒドロキシエステルについて報告している。これらのラパマイシン誘導体、およびその他は、本組成物に含まれ得る。
【0071】
本開示の組成物に組み込まれる治療剤の量は、望ましい放出プロファイル、生物的効果に必要な治療剤濃度、および治療剤が処置のために放出されるべき時間の長さによって決まる。シリンジ針またはその他の適切な送達機器を介して注射するための許容される溶液の量または分散粘度を除き、本組成物に組み込まれる治療剤の量には上限がない。本組成物に組み込まれる治療剤の下限は、治療剤の活性および処置に必要な時間の長さによって決まる。具体的には、本発明の一実施形態では、組成物は、治療剤の1カ月の放出をもたらすように製剤化される。このような実施形態では、治療剤は好ましくは、組成物の約0.1wt%~約50wt%、好ましくは約2wt%~約25wt%で存在する。あるいは、本開示の別の実施形態では、組成物は、治療剤の3カ月の送達をもたらすように製剤化される。このような実施形態では、治療剤は好ましくは、組成物の約0.1wt%~約50wt%、好ましくは約2wt%~約25wt%で存在する。あるいは、本開示の別の実施形態では、組成物は、治療剤の6カ月の送達をもたらすように製剤化される。このような実施形態では、治療剤は好ましくは、組成物の約0.1wt%~約50wt%、好ましくは約2wt%~約25wt%で存在する。組成物は、組成物が完全に溶解するまで、そこに含まれる治療剤を制御された速度で放出する。
【0072】
一部の実施形態において、治療剤は、ポーラスシリコンコアを含む粒子またはフィルムと共有結合していない。一部の実施形態では、治療剤はポーラスシリコンコアのポア内に含まれる。
【0073】
ある特定の実施形態では、本開示の治療剤を送達するための組成物は、ターゲティング薬剤および/または細胞透過性薬剤をさらに含む。これらの実施形態では、本組成物の粒子は、好ましくは、治療剤を投与部位から治療効果が望まれる部位まで輸送するようなサイズである。
【0074】
したがって、本開示での使用に適したターゲティング薬剤には、本組成物の粒子を、処置される被験体内の特定の組織にターゲティングすることができる薬剤が含まれる。具体的には、ターゲティング薬剤は、例えば、ペプチド、または受容体もしくはターゲティングされる細胞に見られるその他の表面タンパク質もしくは脂質などの細胞表面成分に結合するその他の部分を含んでいてよい。適切なターゲティング薬剤の例は、短鎖ペプチド、タンパク質断片、および完全なタンパク質である。理想的には、ターゲティング薬剤は、ターゲティングされる細胞による粒子の取り込みを妨げるべきでない。一部の実施形態では、ターゲティング薬剤は、100以下のアミノ酸、例えば50以下のアミノ酸、30以下のアミノ酸、またはさらに10、5、もしくは3以下のアミノ酸を含んでいてよい。
【0075】
ターゲティング薬剤は、粒子を特定の細胞または組織型にターゲティングするように選択されてよく、例えば粒子は、筋肉、脳、肝臓、膵臓、もしくは肺組織、またはマクロファージもしくは単球にターゲティングすることができる。あるいは、ターゲティング薬剤は、例えば、腫瘍細胞、病変冠動脈細胞、アルツハイマー病に罹患した脳細胞、細菌細胞、またはウイルス粒子などの、病変組織内の特定の細胞に粒子をターゲティングするように選択されてよい。本開示の好ましい実施形態では、ターゲティング薬剤は、例えば脳組織などのニューロン組織に対し選択的である。
【0076】
ターゲティング薬剤の具体的な例には、骨格筋にターゲティングするファージディスプレイにより発見された筋肉特異的ペプチド(Flintら(2005年)Laryngoscope 11
5巻:1930頁)、アセチルコリン受容体に結合する狂犬病ウイルス糖タンパク質の29残基断片(Lentz(1990年)J. Mol. Recognit. 3巻:82頁)、その受容体を標的ニューロンにターゲティングする神経増殖因子の断片、ならびに、セクレチン受容体に結合し、例えば嚢胞性線維症の胆管および膵臓上皮にターゲティングするのに使用可能なセクレチンペプチド(Zengら(2004年)J. Gene Med. 6巻:1247頁およびMcKayら(2002年)Mol. Ther. 5巻:447頁)が含まれる。代替として、免疫グロブリン、およびscFv抗体断片を含むその変異体も、ターゲティングされる細胞または組織の表面上のVEGFRまたはその他の表面タンパク質などの特定の抗原に結合するターゲティング薬剤として使用可能である。さらに別の代替として、受容体リガンドが、ターゲティングされる受容体を発現する細胞または組織の表面に粒子をターゲティングするターゲティング薬剤として使用可能である。特定の実施形態では、本組成物のターゲティング薬剤は、例えば狂犬病ウイルス糖タンパク質(RVG)由来のペプチド配列などのニューロンターゲティング薬剤である。
【0077】
本開示の細胞透過性薬剤は、内部移行薬剤または細胞膜移行薬剤としても公知である。具体的な実施形態では、細胞透過性薬剤は細胞透過性ペプチドまたはタンパク質である。これらの薬剤には、特定の細胞またはウイルスタンパク質が膜を越えることを可能にする、比較的短鎖(例えば、5~30残基、7~20残基(reside)、またはさらに9~15残基)のペプチドの周知のクラスが含まれるが、その他のクラスも公知である。例えば、Milletti(2012年)Drug Discov. Today 17巻:850頁を参照のこと。細胞透過性ペプチドの元のクラスにおける例示的なペプチドは、典型的には、ペプチドの細胞膜通過を促進すると考えられているアルギニンおよび/またはリジン残基が比較的高レベルで存在することにより、カチオン電荷を有する。一部の場合において、ペプチドは5、6、7、8、またはさらにそれを超えるアルギニンおよび/またはリジン残基を有する。例示的な細胞透過性ペプチドには、ペネトラチンまたはアンテナペディアPTDおよび変異体、TAT、SynB1、SynB3、PTD-4、PTD-5、FHB Coat-(35~49)、BMV Gag-(7~25)、HTLV-II Rex-(4~16)、D-Tat、R9-Tat、トランスポータン(Transportan)、MAP、SBP、F
BP、MPGおよび変異体、Pep-1、Pep-2、ならびにポリアルギニン、ポリリジン、およびその変異体を含む各種周期的配列が含まれる。本組成物に有用な細胞透過性ペプチドのさらなる例については、http://crdd.osdd.net/raghava/cppsite/index.htmlおよびhttp://cell-pen
etrating-peptides.orgを参照のこと。
【0078】
いくつかのタンパク質、レクチン、およびその他の大分子、例えば、リシン、アブリン、モデッシン(modeccin)、ジフテリア毒素、コレラ毒素、炭疽毒素、易熱性毒素、Pseudomonas aeruginosa外毒素A(ETA)、またはその断片などの植物および細菌タンパク質毒素も細胞透過特性を示し、本開示のための細胞透過性薬剤と考えることができる。その他の例示的な細胞透過性薬剤は、その全てがその全体にわたって参照により本明細書に組み込まれる、Temsamaniら(2004年)Drug Disco
v. Today 9巻:1012頁;De Coupadeら(2005年)Biochem J. 390巻:
407頁;Saeaelikら(2004年)Bioconjug. Chem. 15巻:1246頁;Zhaoら
(2004年)Med. Res. Rev. 24巻:1頁;およびDeshayesら(2005年)Cell. Mol. Life Sci. 62巻:1839頁に記載されている。
【0079】
一部の実施形態では、細胞透過性薬剤、例えば細胞透過性ペプチドは、薬剤の結合親和性を改善するため、薬剤の細胞膜を通過して輸送される能力を改善するため、または安定性を改善するため、例えばアセチル化、リン酸化、脂質化、ペグ化、および/またはグリコシル化により誘導体化されていてよい。具体的な実施形態では、細胞透過性薬剤は、例えばミリストイル化、パルミトイル化、または、好ましくはラウリン酸およびステアリン酸などの炭素10~20の鎖長を有するその他の脂肪酸の結合、ならびにゲラニル化、ゲラニルゲラニル化、およびその他の型のイソプレニル化により脂質化されている。より具体的な実施形態では、細胞透過性薬剤はミリストイル化されている。
【0080】
具体的な実施形態では、細胞透過性薬剤はトランスポータンであり、より具体的には脂質化トランスポータンである。さらにより具体的な実施形態では、細胞透過性薬剤はミリストイル化トランスポータンである。
【0081】
一部の実施形態では、本開示の組成物は、ターゲティング薬剤および細胞透過性薬剤の両方を含み、他の実施形態では、ターゲティング薬剤または細胞透過性薬剤のいずれかを含む。例えば、組成物が動物被験体、例えばヒト被験体の処置に使用される場合、具体的には処置が全身処置である場合、組成物がターゲティング薬剤および細胞透過性薬剤の両方を含むことが有利となり得る。投与が動物被験体の特定の組織に直接的になされる場合、組成物がターゲティング薬剤を含む必要がないことがある。組成物がその他の目的に使用される場合、例えば組成物が細胞外の標的を対象とする場合、組成物が細胞透過性薬剤を含む必要がないことがある。一部の場合において、例えば組成物が単離された細胞または組織に直接的に投与される場合、当業者が理解するように、組成物はターゲティング薬剤も細胞透過性薬剤も含まなくてよい。
【0082】
本開示によるポーラスシリコン粒子を含む例示的な組成物が、その全体にわたって参照により本明細書に組み込まれる、Kangら(2016年)Adv. Mater. 28巻:7962頁に記載されている。
ケイ酸金属塩層を含むポーラスシリコン粒子を調製する方法
【0083】
別の態様では、本開示は、上記のポーラスシリコン粒子およびフィルムを調製する方法を提供する。具体的には、本開示は、このような物質のポアおよび/または表面層において1種または複数の治療剤をローディングおよび保護する方法を提供する。一部の実施形態では、方法は、ポーラスシリコン前駆体粒子またはフィルムを用意するステップ、ならびにポーラスシリコン前駆体粒子またはフィルムを治療剤および金属塩を含む水溶液で処理するステップを含む。好ましい実施形態では、方法は、ポーラスシリコン前駆体粒子の処理に適用される。
【0084】
「前駆体粒子」または「前駆体フィルム」という用語は、本明細書では、調製方法に使用される粒子およびフィルムを、それらの方法による生成物と区別するためだけに使用される。
【0085】
具体的な実施形態では、本調製方法に使用されるポーラスシリコン前駆体物質は、上記粒子およびフィルムの化学的および構造上の特性を有する。例えば、ポーラスシリコン前駆体物質は、約5nm~約1000ミクロン、約10nm~約100ミクロン、または約100nm~約30ミクロンの範囲の厚さを有していてよい。ポーラスシリコン前駆体物
質が粒子の形態である実施形態では、粒子は、約1nm~約1cm、約3nm~約1000ミクロン、約10nm~約300ミクロン、約10nm~約100ミクロン、または約1ミクロン~約50ミクロンの範囲の平均サイズを有していてよい。
【0086】
本ポーラスシリコン組成物は、公知の方法によりポーラスシリコン前駆体フィルムおよび前駆体粒子から調製することができる。一般的に、例えば、Sailor、Porous silicon
in practice: preparation, characterization and applications (John Wiley & Sons、2012年)およびQinら(2014年)Part. Part. Syst. Char. 3
1巻:252頁を参照のこと。具体的には、シリコンウエハーが、例えば、3:1 48%-HF:EtOH溶液を用いて、定められた粒子サイズ、気孔率、およびポアサイズを得るのに適切な電流密度で電気化学的にエッチングされてよい。エッチングされたポーラスシリコンの層は、例えば薄い水性HF中で低電流密度パルスを印加することによって、ウエハーから取り出すことができる。pSiナノ粒子(pSiNP)の調製では、長期の低電流エッチング(例えば、40mA/cm2、1.8秒)間の短期の周期的な高電流パルス(例えば、370mA/cm2、0.4秒)により、エッチング面に沿って穿孔が導入され、それにより、高気孔率および低気孔率が交互となった層が生成され得る(Qinら
(2014年)Part. Part. Syst. Char. 31巻:252頁)。ポーラスシリコンの層はウエハーから取り出されてフィルムを形成することができ、独立したフィルムが例えば一晩の超音波処理により破砕されて、単分散pSiナノ粒子が生成され得る。pSi微粒子(pSiMP)の調製では、例えば20~100mA/cm2の範囲のエッチング電流が、例えば1サイクルあたり4秒および2.7秒の期間で印加されて、ストップバンド約450および560nmで複合正弦構造を形成することができる。独立したフィルムは5~7分間の超音波処理により破砕されて、望ましいサイズ(例えば、20×60×60μm)のpSi微粒子が生成され得る。
【0087】
その他の電流-時間波形を使用して、電気化学的にエッチングされたポーラスシリコン物質を生成させることができることは、当業者には明らかであるはずである。例えば、所定の期間の単一の定電流、または正弦電流-時間波形をこのような手法に使用することができる。あるいは、ポーラスシリコンコアを産生するのに、化学的ステインエッチングを上記の電気化学的エッチングの代わりとすることができる。Sailor、Porous silicon in practice: preparation, characterization and applications (John Wiley & Sons、2012年)を参照のこと。さらに別の代替では、ナノ構造の酸化シリコンを
化学的に還元することによってポーラスシリコンコアが産生され得る。Batchelorら(2
012年)Silicon 4巻:259頁を参照のこと。ステインエッチングでは、典型的に
はシリコン前駆体としてシリコンウエハーの代わりにシリコン粉末、および電気化学的反応を推進するための電力供給の代わりに化学酸化剤を使用する。
【0088】
一部の実施形態では、ポーラスシリコン前駆体物質は酸化または部分的に酸化されていてよい。具体的な実施形態では、ポーラスシリコン前駆体物質は、例えば少なくとも150℃、少なくとも200℃、少なくとも300℃、少なくとも400℃、少なくとも500℃、少なくとも600℃、少なくとも700℃、少なくとも800℃、またはさらにそれより高い温度で熱酸化されてよい。一部の実施形態では、ポーラスシリコン前駆体物質は、約300℃~約1000℃の温度、約400℃~約800℃の温度、または約500℃~約700℃の温度で酸化されてよい。好ましい実施形態では、熱酸化は空気中で実施される。
【0089】
ある特定の実施形態では、本方法のポーラスシリコン前駆体物質は、例えば酸化剤を含む溶液中でポーラスシリコン物質を懸濁させることにより、溶液中で酸化されてもよい。例えば、ポーラスシリコン物質を酸化するのに使用される溶液は、水、ボレート、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ジメチルスルホキシド、硝酸塩、または任意のその
他の適切な酸化剤、または薬剤の組合せを含んでいてよい。
【0090】
これまでに記載されたように、本組成物を調製するのに使用される溶液は、典型的には金属塩を含む。具体的な実施形態では、溶液は少なくとも0.1モル濃度、0.3モル濃度、0.5モル濃度、1モル濃度、2モル濃度、3モル濃度、またはさらにそれより高いモル濃度の濃度の金属塩を含む。一部の具体的な実施形態では、金属塩は二価、三価、または四価金属塩である。より具体的には、金属塩は二価金属塩である。例えば、二価金属塩は、カルシウム塩、マグネシウム塩、マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、ニッケル塩、白金塩、またはバリウム塩であってよい。具体的な実施形態では、二価金属塩はカルシウム塩またはマグネシウム塩である。さらにより具体的には、二価金属塩はカルシウム塩である。他の具体的な実施形態では、金属塩は三価または四価金属塩である。本開示の調製方法において有用性を有する例示的な三価または四価金属塩には、ジルコニウム塩、チタン塩、およびビスマス塩が含まれる。一部の実施形態では、調製方法では、上に列挙された例示的な金属塩のいずれかを任意の組合せで含む、金属塩の組合せを利用する。一部の実施形態では、ポーラスシリコン前駆体粒子またはフィルムを治療剤および金属塩を含む水溶液で処理するステップが、単一のステップで実施される。
【0091】
一部の実施形態では、ポーラスシリコン粒子またはフィルムを処理するのに使用される治療剤は、上に詳細に記載された治療剤のいずれかである。例えば薬剤は、低分子薬物、ビタミン、造影剤、タンパク質、ペプチド、核酸、オリゴヌクレオチド、アプタマー、またはその混合物であってよい。より具体的には、治療剤は、DNA、RNA、siRNA、またはマイクロRNAなどのオリゴヌクレオチドであってよい。治療剤がオリゴヌクレオチドである実施形態では、治療剤は好ましくはリボヌクレオチド、またはさらにはsiRNAであってよい。
【0092】
調製方法は、ポーラスシリコン前駆体粒子またはフィルムをターゲティング薬剤と結合させるステップをさらに含んでいてよい。より具体的には、ターゲティング薬剤は、ニューロンターゲティング薬剤または上記の特定のターゲティング薬剤のいずれかであってよい。あるいはまたはさらに、調製方法は、ポーラスシリコン前駆体粒子を細胞透過性薬剤、より具体的には脂質化ペプチドまたは上記の特定の細胞透過性薬剤のいずれかと結合させるステップを含んでいてよい。具体的な実施形態では、調製方法は、ポーラスシリコン前駆体粒子をターゲティング薬剤および細胞透過性薬剤と結合させるステップをさらに含んでいてよい。例示的なターゲティング薬剤および細胞透過性薬剤は上に詳細に記載されている。
医薬組成物
【0093】
別の態様では、本開示は、本開示の粒子-またはフィルム-含有組成物、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、スプリンクルカプセル剤(sprinkle capsule)、顆粒剤、散剤、シロップ剤、坐剤、注射剤などの単位剤形であってよい。組成物は経皮送達系、例えば皮膚貼付剤に存在していてもよい。
【0094】
「薬学的に許容される」という語は、本明細書では、適切な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー応答、またはその他の問題もしくは合併症なしに、ヒト被験体を含む動物被験体の組織と接触させて使用するのに適した、妥当なベネフィット/リスク比に見合う、これらの化合物、物質、組成物、および/または剤形を指すために使用される。
【0095】
「薬学的に許容される担体」という語は、本明細書で使用される場合、本粒子含有組成物をある器官または体の部分から別の器官または体の部分まで運搬または輸送することに
関与する、液体もしくは固体充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、または封入物質などの、薬学的に許容される物質、組成物、または媒体を意味する。各担体は、当業者が理解するように、製剤のその他の成分に適合し、患者に有害でないという意味で「許容」されなければならない。薬学的に許容される担体として機能し得る物質の一部の例には:(1)ラクトース、グルコースおよびスクロースなどの糖;(2)トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;(3)セルロース、ならびにカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロースなどの、その誘導体;(4)トラガカント末;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)ココアバターおよび坐剤用ワックスなどの賦形剤;(9)ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油などの油;(10)プロピレングリコールなどのグリコール;(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコールなどのポリオール;(12)オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;(13)寒天;(14)水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;(15)アルギン酸;(16)発熱物質不含の水;(17)等張性食塩水;(18)リンゲル液;(19)エチルアルコール;(20)リン酸緩衝溶液;および(21)医薬製剤に使用されるその他の非毒性の適合物質が含まれる。Remington: The Science and
Practice of Pharmacy、第20版(Alfonso R. Gennaro編)、2000年を参照のこと。本組成物の治療剤が核酸、具体的にはリボ核酸である場合、薬学的に許容される担体は好ましくは、例えばリボヌクレアーゼなどのヌクレアーゼを実質的に含むべきでない。
【0096】
本開示の粒子含有組成物を含む医薬組成物は、例えば、経口(例えば、水溶液または非水溶液または懸濁液としての水薬、錠剤、ボーラス剤、散剤、顆粒剤、舌に施用するペースト剤);舌下;経肛門、経直腸、または経膣(例えば、ペッサリー、クリーム剤、またはフォーム剤として);非経口(筋肉内、静脈内、皮下、または髄腔内を含む、例えば滅菌溶液または懸濁液として);経鼻;腹腔内;皮下;経皮(例えば皮膚に施用される貼付剤として);または局所(例えば、皮膚に施用されるクリーム剤、軟膏剤またはスプレー剤として)を含むいくつかの投与経路のいずれかにより、被験体に投与されてよい。組成物は吸入用に製剤化されてもよい。ある特定の実施形態では、本開示の粒子含有組成物は、滅菌水中に溶解または懸濁されているだけでもよい。適切な投与経路およびそれに適した組成物の詳細は、例えば、米国特許第6,110,973号;第5,763,493号;第5,731,000号;第5,541,231号;第5,427,798号;第5,358,970号;および第4,172,896号、ならびにそこに引用される特許で見つけることができる。
【0097】
「非経口投与」および「非経口的に投与される」という語は、本明細書で使用される場合、通常は注射による、経腸および局所投与以外の投与様式を意味し、限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内(intrathecal)、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔
内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、および胸骨内の注射および注入を含む。
処置方法
【0098】
治療剤の送達が制御下で有用にもたらされる方法において、本組成物が特に有用であることが判明した。例えば、かつ医薬組成物について上に記載されたように、方法は、当業者が理解するように、吸入、または任意のその他の適切な投与様式による、経口的、舌下的、経肛門的、経直腸的、経膣的、非経口的、経鼻的、腹腔内、皮下、経皮的、局所的な治療剤の送達において有用であり得る。好ましい実施形態では、処置方法は、治療剤をニューロン組織、具体的には脳にターゲティングする。
【0099】
上記の通り、本開示の組成物はルミネセントであってよく、この特性により、これらの
組成物を投与された被験体のモニタリングが促進され得る。したがって、一部の実施形態では、処置方法は、被験体または被験体から単離された組織をモニタリングするステップをさらに含む。本開示の組成物のいくつかにおけるフォトルミネセント特性を考慮すれば、特定の実施形態では、モニタリングするステップは光学的にモニタリングするステップである。
【0100】
本発明またはその任意の実施形態の範囲から逸脱することなく、本明細書に記載される組成物、方法、および施用に対しその他の適切な変更および改変を行うことができることが、当業者には容易に明らかであるはずである。これまで本発明について詳細に記載してきたが、例示のためだけに本明細書に含まれ、本発明を限定することは意図されない以下の実施例を参照することで、より明確に理解されるはずである。
【実施例0101】
損傷した脳へのターゲティングされたsiRNA送達のための自己封入ポーラスシリコン-ケイ酸カルシウムコア-シェルナノ粒子
ポーラスシリコンナノ粒子(pSiNP)中の高濃度のsiRNAを同時にロードおよび保護するための一ステップ手順を提示する。siRNAおよび塩化カルシウムを含有する水溶液によるpSiNPの処理は、ケイ酸カルシウムの表面層が浸透したsiRNAロードしたpSiNPコア(Ca-pSiNP)からなるコア-シェルナノ構造を生成する。このシェル中のシリケートの供給源は、pSiマトリックスの局所的な溶解に由来する。理論に縛られるつもりはないが、高濃度のカルシウム(II)イオンを含有する溶液において、Ca2SiO4の形成は、主にナノ粒子表面で起こり、自己限定的であることが理解される。したがって、不溶性ケイ酸カルシウムシェルは、pSiNPコアの分解を遅らせ、siRNAペイロードの送達を延長し、in vitroおよびin vivoでより効果的な遺伝子ノックダウンをもたらすことが理解される。おそらくシリケートシェルの電子的不動態化の性質に起因して、ケイ酸カルシウムシェルの形成は、ポーラスシリコンコアからのフォトルミネセンスの外部量子収率を0.1から21%まで増大する。ニューロンターゲティングペプチドとしての狂犬病ウイルス糖タンパク質(RVG)および細胞透過部分としてのミリストイル化トランスポータン(mTP)から誘導された配列をCa-pSiNPに組み込む2つの機能性ペプチドの結合は、in vitroでの遺伝子サイレンシングの改善およびin vivoでの送達の改善を示す構築物を産生する。
【0102】
低分子、タンパク質、および核酸ベースの治療剤の有効性における重大な制限は、バイオアベイラビリティである。低い溶解度を有する分子は、治療上有効な濃度で血流または他の体液に入らない場合があり(Mullerら(2001年)Adv. Drug Deliver. Rev.47巻:3頁;Kataokaら(2012年)Pharm. Res. -Dordr.29巻:1485頁;Kipp(2004年)Int. J. Pharm.284巻:109頁)、より可溶性の治療剤は、意図された組織に達する前に、種々の生物学的プロセスによって循環系から迅速なクリアランスを受ける場合がある(Chonnら(1992年)J. Biol. Chem.267巻:18759頁
;Pirolloら(2008年)Trends Biotechnol.26巻:552頁;Gabizonら(198
8年)P. Natl Acad. Sci. USA 85巻:6949頁)。ポーラスまたは中空のナノ構造への治療剤のローディングは、薬物送達の濃度-時間の関係を制御し、これによって治療効力を改善する手段として浮上している。Louら(2008年)Adv. Mater.20巻
:3987頁;Anglinら(2008年)Adv. Drug Deliver. Rev.60巻:1266頁。薬物用のナノ構造担体における多くの研究は、「ソフト」粒子、例えば、リポソームおよびポリマーコンジュゲート(Guら(2011年)Chem. Soc. Rev.40巻:3638
頁;Nishiyamaら(2006年)Pharmacol. Therapeut.112巻:630頁)、または
より堅いポーラス無機物質、例えばメソポーラスシリコンもしくはシリコン酸化物(Parkら(2009年)Nat. Mater.8巻:331頁;Wuら(2008年)ACS Nano 2巻:
2401頁;Godinら(2010年)J. Biomed. Mater. Res. A 94a巻:123
6頁)に基づいている。メソポーラスシリコンおよびシリコン酸化物は、薬物送達用途のために十分に研究されている無機および生分解性物質である。Anglinら(2008年)Adv. Drug. Deliver. Rev.60巻:1266頁;Mengら(2010年)J. Am. Chem.
Soc.132巻:12690頁;Mengら(2010年)ACS Nano 4巻:4539頁;Patelら(2008年)J. Am. Chem. Soc.130巻:2382頁;Luら(2007年)Small 3巻:1341頁;Shabirら(2011年)Silicon-Neth.3巻:173頁;Wangら(2010年)Mol.Pharmaceut.7巻:2232頁;Kashanianら(2010年)Acta Biomater.6巻:3566頁;Canhamら、米国特許公開第2015/0352211号;Jiangら(2009年)Phys. Status Solidi. A 206巻:1361頁;Fanら(2009年)Phys. StatusSolidi. A 206巻:1322頁;Salonenら(2008年)J.
Pharm. Sci. US 97巻:632頁;Sailorら(2012年)Adv. Mater.24巻:3779頁;Ruoslahtiら(2010年)J.Cell.Biol.188巻:759頁。
【0103】
ポーラスシリコン(pSi)の分解の機構は、シリコンコアを酸化してシリコン酸化物を形成し、続いて得られた酸化物相を水溶性オルトケイ酸(Si(OH)4)またはその同族体に加水分解することを含むと理解される。Sailorら(2012年)Adv. Mater.24巻:3779頁。pSiナノ粒子の急速な分解を防ぐために、pSiの内部コアがより安定なシリコン酸化物(Jooら(2014年)Adv. Funct. Mater.24巻;5688頁
;Rayら(2009年)J. Appl. Phys.105巻:074301頁)、酸化チタン(Bettyら(2011年)Prog. Photovoltaics 19巻:266頁;Liら(2014年)Biosens. Bioelectron.55巻:372頁;Jeongら(2014年)ACS Nano 8巻:2977頁)、炭素(Tsangら(2012年)ACS Nano 6巻:10546頁;Zhouら(2000年)Chem. Phys. Lett.332巻:215頁;Gaoら(2009年)Phys. Chem. Chem. Phys.11巻:11101頁)または他の動力学的に安定な物質(Buriak(2002年)Chem. Rev.102巻:1271頁)の層またはシェルによって取り囲まれている様
々な「コア-シェル」タイプの構造が合成されている。コア-シェル構造は、ナノ構造内に治療剤をより効果的にトラップするために、薬物のローディングと合わせてシェルの合成を行うことができるので、薬物送達製剤をゆっくり放出するための魅力的なプラットフォームである。Fryら(2014年)Chem. Mater.26巻:2758頁。さらに、pSiのルミネセントシリコンドメインからのフォトルミネセンスの強度および持続性を向上させるコア-シェル構造の能力が実証されており(Jooら(2014年)Adv. Funct. Mater.24巻:5688頁)、これによって、ナノ物質に薬物送達の特徴を画像化すること
および自己報告することが加えられる。
【0104】
この実施例で開示されるのは、薬物ローディングと同時にケイ酸カルシウムのシェルを沈殿させることによって、pSiナノ粒子(pSiNP)中の高濃度のsiRNAを同時にロードおよび保護するための一ステップ手順である。本発明を限定するものではないが、シェル中のシリケートの供給源は、pSiマトリックスの局所的な溶解に由来すると理解され、高濃度のカルシウム(II)イオンを含有する溶液においては、Ca2SiO4の形成が主にナノ粒子の表面で起こり、自己限定的であることが判明した。カルシウムイオン溶液がsiRNAも含有する場合、オリゴヌクレオチドは、シェル形成中にポーラスナノ構造内にトラップされるようになる。再度、本発明を限定する意図はないが、不溶性ケイ酸カルシウムシェルは、ポーラスシリコンコアの分解およびsiRNAの放出を遅らせると理解される。ポーラスSiコアは、量子閉じ込め効果に起因する固有のフォトルミネセンスを示し、シェル形成プロセスは、おそらくシリケートシェルの電子的不動態化の性質に起因して、外部量子収率の0.1から21%への増大をもたらすことが判明した。このシステムによる遺伝子送達の可能性を実証するために、ケイ酸カルシウムコーティングpSiNP(Ca-pSiNP)を、シラノール化学によって改変して、2つの機能性ペプチド、1つはニューロンターゲティングのため、もう1つは細胞透過のためのペプチドをコンジュゲートした。得られた構築物は、in vitroで有意に改善された遺伝
子サイレンシング効力を示し、in vivoで標的組織に送達され得る。
【0105】
図1に例示するように、ポーラスSi粒子の(水性媒体中での)穏やかな酸化によって、Siコア上に薄い酸化物層が生成される。形成されると、酸化物層は、水和されて可溶化され、溶液中にSi(OH)
4を放出する。水溶液中に存在する高濃度のCa
2+およびsiRNAはポア内に拡散し、Ca
2+イオンは局所的に高濃度のSi(OH)
4と反応して、ナノ構造内のsiRNAペイロードをトラップする沈殿物を形成する。
【0106】
(動的光散乱による)平均サイズ180±20nmのpSiNPを、先に記載したように調製した。Qinら(2014年)Part. Part. Syst. Char.31巻:252頁。オリ
ゴヌクレオチドおよび高濃度(3Mまたは4M)のCaCl
2を含有する水溶液中で撹拌することにより、siRNAペイロードを、一ステップでポーラスナノ構造にロードし、封入した。得られたsiRNAロードしたケイ酸カルシウムキャップのpSiNP(Ca-pSiNP-siRNA)中のシリコン、カルシウムおよび酸素の存在を、エネルギー分散型X線(EDX)分析によって確認した(
図5Aおよび5B)。残留塩化物は検出されなかった。pSiNP中の酸素の量は、Ca
2+溶液との反応のときに測定可能に増大し、pSiNPが反応中に酸化されることを実証した。
【0107】
カルシウムイオン処理前の空のpSiNP、Ca
2+での処理後のpSiNP(Ca-pSiNP)、ならびにsiRNAのローディングおよびCa
2+での処理後のpSiNP(Ca-pSiNP-siRNA)の透過型電子顕微鏡(TEM)画像(
図2A~2C)によって、Ca
2+との反応が特有のコーティングを生成することが示された。元素分析に基づいて、ケイ酸カルシウムの低溶解度を考慮して(Medinagonzalesら(1988年)Fert.Res.16巻:3頁)、理論に拘泥するものではないが、キャッピング物質は、オ
ルトケイ酸二カルシウム(Ca
2SiO
4)またはオルトケイ酸カルシウム、メタシリケートおよびシリコン酸化物の混合相であることが提唱される。粉末X線回折(XRD)により、結晶性ケイ酸カルシウム相またはシリコン酸化物相は観察されなかったが、XRDスペクトル(
図6A)、ラマンスペクトル(520cm
-1での特徴的Si-Si格子モード、
図6B)およびFTIRスペクトル(
図6C)で残留結晶性Siが観察された。窒素吸脱着等温線分析は、pSiNPのCa-pSiNPへの変換のときに、全ポア容積が80%(1.36±0.03cm
3/gから0.29±0.04cm
3/g)減少したことを示した(
図2D)。以前の研究では、酸素がシリコンコアに取り込まれるときにpSiの酸化がポア壁の膨潤に起因するポア容積の減少をもたらし得、このプロセスはポア内のペイロードの効果的なトラップをもたらし得ることが示された。Sailorら(2012年)Adv. Mater.24巻:3779頁;Fryら(2014年)Chem. Mater.26巻:2758頁。
【0108】
溶液中の単体シリコンの量を測定するために使用される光学的吸収測定によって、カルシウムイオンが存在しない場合、pSiNPの約40%がpH9の緩衝液中で80分以内に分解されたことが示された。しかし、3Mまたは4MのCaCl
2溶液(pH9でも)では、同じ期間に約10%の分解しか観察されなかった(
図7A)。ケイ酸カルシウムシェルはまた、siRNAカーゴの放出も妨げた;Ca-pSiNP-siRNA製剤は、siRNAが静電気手段によりpSiNPで保持された(表面アミン基で修飾されたpSiNP、pSiNP-NH
2、
図7B)製剤と比較して、生理的条件(pH7.4の緩衝液、37℃)下で約5倍遅い放出を示した。したがって、トラップ反応は、siRNAペイロードを効果的にカプセル化し、pSiコアを水性媒体中でのその後の酸化および加水分解から保護した。
【0109】
pSiNPとCaCl
2溶液との間の反応の経過の間に種々の時間で得られたフォトルミネセンススペクトルは、強度の漸進的増加を示した(
図2E)。さらに、フォトルミネ
センスブルーのピーク波長は、反応が進行するにつれてシフトした。これらの現象(フォトルミネセンス強度の増加およびフォトルミネセンススペクトルのブルーシフト)の両方は、シリコンナノ微結晶上の不動態化表面層の成長を示す。Jooら(2014年)Adv. Funct. Mater.24巻:5688頁;Petrovakochら(1992年)Appl. Phys. Lett.
61巻:943頁;Sa‘ar(2009年)J.Nanophotonics 3巻:032501頁。観
察されたブルーシフトは、量子閉じ込めシリコンナノ粒子の典型であり、その発光波長は、サイズに強く依存し、量子閉じ込めシリコンドメインが小さくなるにつれてブルーシフトを示す。Jooら(2015年)ACS Nano 9巻:6233頁。pSiNP-ケイ酸カルシウムコア-シェル構造(Ca-pSiNP)のフォトルミネセンス発光量子収率(外部)は21%であった(λ
ex=365nm、
図8)。
【0110】
培養Neuro-2a(マウス神経芽細胞腫)細胞上のin vitro細胞傷害性スクリーニングでは、50μg/mLまでのナノ粒子濃度でCa-pSiNP製剤の有意な細胞傷害性が示されなかったので(
図9)、システムにはターゲティングおよび治療的ペイロードを遺伝子サイレンシング研究のためにロードした(ローディング手順は、
図10に概略的に記載されている)。内在性遺伝子(ペプチジルプロリルイソメラーゼB、PPIB)をサイレンシングすることができる低分子干渉RNA(siRNA)を選択して、in vivo研究のために治療的なペイロードを保持、保護および送達するケイ酸カルシウム化学物質の能力を試験した。pSiNPに3MのCaCl
2の存在下でPPIBに対するsiRNAをロードしたところ(siPPIB)、得られたナノ粒子(Ca-pSiNP-siRNA)中で約20wt%のsiRNA含量が得られた。Ca-pSiNP-siRNA構築物の形態は、TEMによる薬物を含まないCa-pSiNP調製物と類似していると思われた(
図2C)が、Ca-pSiNP-siRNAの表面電荷(ゼータ電位、
図11A)は正でなく、負であった。薬物を含まないCa-pSiNP調製物の正のゼータ電位は、粒子表面の過剰のCa
2+イオンに起因し、負に荷電したsiRNAペイロードは、これらの電荷を、Ca-pSiNP-siRNA構築物中に全体的な負のゼータ電位を生じる程度まで中性にする。
【0111】
siRNA治療剤のターゲティング送達および細胞内輸送を達成するために、次いで、組織ターゲティングペプチドおよび細胞透過性ペプチドを、Ca-pSiNP-siRNA構築物のケイ酸カルシウムシェルにグラフトした。PEGリンカーを使用して、これらのペプチドの両方を結合させて全身循環を改善した(
図10)。最初に、化学カップリング剤2-アミノプロピルジメチルエトキシシラン(APDMES)を、ナノ粒子表面にグラフトし、ペンダント一級アミン基を生成させた(Ca-pSiNP-siRNA-NH
2)。Sailorら(2012年)Adv. Mater.24巻:3779頁。ナノ粒子の最も外側の表面上の一級アミン基に起因して、Ca-pSi-NH
2またはCa-pSiNP-siRNA-NH
2製剤のいずれかのAPDMES反応後に、ゼータ電位がさらに正になった(
図11A)。次いで、マレイミド-ポリ(エチレン-グリコール)-スクシンイミジルカルボキシメチルエステル(MAL-PEG-SCM)種を使用して、機能的ポリエチレングリコール(PEG)種を、これらの一級アミンを介してCa-pSiNP-siRNA-NH
2にグラフトした。Jooら(2015年)ACS Nano 9巻:6233頁。スクシンイミジルカルボキシメチルエステルは、一級アミンとアミド結合を形成し、したがって、アミノ化ナノ粒子にPEGを結合させる便利な手段を提供する。PEG鎖の遠位端は、第2の官能基であるマレイミドを含有していた。マレイミドは、チオールと共有結合を形成し、ターゲティングおよび細胞透過性ペプチドの結合を可能にする。ここで「mTP」と呼ばれる2つのペプチド種、myr-GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL(GGCC)(配列番号1)および「FAM-RVG」と呼ばれる狂犬病ウイルス由来ペプチド5FAM-(CCGG)YTIWMPENPRPGTPCDIFTNSRGKRASNG(配列番号2)を調製し、マレイミド基と関連ペプチドのシステインチオールとの反応を介してCa-pSiNP-siRNA-PEG製剤にコンジュゲートさ
せた。ここで、「5FAM」は、生体分子(λ
ex/λ
em=495/518nm)を標識するために一般的に使用されるアミン反応性フルオロフォアである蛍光標識5-カルボキシフルオレセインである。
【0112】
輸送体(TP)などの細胞透過性ペプチド(CPP)は、siRNA送達のための有望な補助剤であることが判明している。CPPをナノ粒子に組み込むと、内部移行後のエンドサイトーシス逃避を増大させ、siRNAノックダウン効率を増大し得る。しかし、CPPは、細胞型特異性を欠いている。この欠点を克服するために、CPPは、細胞特異的ターゲティングペプチドと組み合わされてタンデムペプチドとして知られているものを生成し、これらの構築物は極めて効率的なsiRNA送達剤であることが示されている。Renら(2012年)ACS Nano 6巻:8620頁。本実施例では、細胞透過性輸送体ペプチドを、ペプチドと細胞膜の脂質二重層(mTP)との間の疎水性相互作用を高めるために、疎水性13炭素脂肪族鎖を含有するミリストイル基に結合させた。Renら(2012
年)Sci. Transl. Med.4巻:147ra112。細胞ターゲティング機能は、in
vitroおよびin vivoで効果的なニューロン細胞ターゲティング効率を示した狂犬病ウイルス糖タンパク質(RVG)由来のペプチド配列を用いて達成された。Alvarez-Ervitiら(2011年)Nat. Biotechnol.29巻:341頁;Lentz(1990年)J.
Mol. Recognit.3巻:82頁;Kumarら(2007年)Nature 448巻:39頁。RVGおよびmTPペプチドの両方をCa-pSiNPに結合させると、ここでは「Ca-pSiNP-DPNC」と呼ばれる二重ペプチドナノ複合体が生じた。mTPまたはRVGペプチドのみを含有する対照ナノ粒子も調製し、本明細書ではそれぞれCa-pSiNP-mTPまたはCa-pSiNP-RVGと命名した。
【0113】
およそ0.086mgのRVGを、1mgのCa-pSiNP-siRNA-PEGとコンジュゲートさせ、FAM標識の相対蛍光によって決定した。Ca-pSiNP-siRNA-DPNC構築物の場合、およそ0.037mgのRVGおよび同等の量のmTPをコンジュゲートした。Ca-pSiNP-DPNCのフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルは、Ca-pSiNP-mTPおよびCa-pSiNP-RVGの全ての特徴的なピークを示した(
図12)。Ca-pSiNP-siPPIB-DPNC構築物の平均直径は、40nmのpSiNP出発物質に対して増大を表す220nm(DLS Z平均、強度に基づく)であった。DLSデータでは有意な凝集物は観察されなかった(
図11B)。
【0114】
Ca-pSiNP-siPPIB-DPNC構築物は、未処理対照と比較して、Neuro-2a細胞におけるPPIB遺伝子活性の52.8%のノックダウンをもたらした(
図3)。遺伝子サイレンシングがナノ複合体の毒性によって引き起こされる可能性を排除するために、ルシフェラーゼ遺伝子(siLuc)に対する陰性対照siRNAをロードした類似の製剤を試験したところ、未処理対照と比較して統計学的有意差は見られなかった。さらなる対照として、細胞透過性ペプチドまたは細胞ターゲティングペプチドのみを含有するナノ粒子の遺伝子サイレンシング効率を試験した(それぞれ、Ca-pSiNP-siPPIB-mTPおよびCa-pSiNP-siPPIB-RVG)。これらの構築物の両方とも、PPIB遺伝子発現のいくらかの観察可能なノックダウン(未処理対照と比較して27.1~28.9%)を示したが、サイレンシング効果は、個々にいずれかのペプチド系と比較して二重ペプチドナノ粒子Ca-pSiNP-siPPIB-DPNCで大きかった(p<0.03)。Ca-pSiNP-siPPIB-mTPの場合、in vitroで観察される遺伝子ノックダウンは、mTPの細胞透過効果が細胞型特異性を欠いているので、in vivo活性に翻訳されるとは予想されない。他方では、Ca-pSiNP-siPPIB-RVGによるサイレンシングは、RVG配列のNeuro-2a細胞への特異的結合に起因するin vitroでのより有効な細胞局在化に起因する。遊離siPPIB(ナノ粒子に含有されない)および裸のpSiNP(Caキャ
ッピング化学なし、ターゲティングペプチドなし、細胞透過性ペプチドなし)にロードされたsiPPIBを使用したさらなる対照は、統計的に有意なノックダウンを示さなかった。さらに、ナノ構築物を単離し、エタノール中で、4℃で7日間保存して、それらのPPIB遺伝子ノックダウン効率を依然として保持することができた(
図3)。
【0115】
そのさらに高いノックダウン効率と一致して、共焦点顕微鏡画像は、Ca-pSiNP-siPPIB-DPNC製剤が、Ca-pSiNP-siPPIB-RVG製剤よりもNeuro-2a細胞に対してより大きな親和性を有することを示した(
図13Aおよび13B)。Ca-pSiNP-siPPIB-DPNC製剤は、Ca-pSiNP-siPPIB-RVGと比較して、その表面上に数のおよそ半数の蛍光FAMマーカー分子を有していた。1粒子あたりより低いFAM蛍光シグナルでさえ、Ca-pSiNP-siPPIB-DPNCで処理したNeuro-2a細胞は、RVGのみの製剤に対する、この二重ペプチド構築物の細胞親和性が大きいため、より大きなFAMシグナルを示した。Ca-pSiNPは、ナノ粒子の量子閉じ込めSiドメインからの固有フォトルミネセンスに起因して、蛍光顕微鏡画像において可視である。Ca-pSiNP-siPPIB-DPNCで処理された細胞の場合、Siシグナルは、RVGターゲティングペプチド上のFAM標識からのシグナルと共局在化され、細胞内部移行を示す、組み合わせたシグナルが細胞質ゾルに見られる。これらの2つのナノ粒子構築物の細胞親和性は、蛍光活性化細胞選別(FACS)分析によってさらに正確に定量され(
図14A~14D)、このデータによって、二重ペプチドナノ粒子が、RVGペプチドのみを含有するナノ粒子よりもNeuro-2a細胞をターゲティングするのに効率的であったことが示される(それぞれ、Ca-pSiNP-siPPIB-DPNCおよびCa-pSiNP-siPPIB-RVGについて51.4±5.6%対36.4±5.6%(P<0.04))。RVGペプチド上の、およびCa-pSiNP-siPPIB-DPNC中のsiPPIB上の個別の蛍光標識によって、細胞のうち65.9±8.7%がRVGおよびsiPPIBの両方を含有することが証明された(
図14D)。この結果、RVGおよびmTPの両方をナノ粒子にコンジュゲートさせることにより、より大きい細胞親和性が生じ、その結果、より強い遺伝子ノックダウン効果が生じるという仮説が支持される。
【0116】
同じナノ粒子(Ca-pSiNP-siPPIB-DPNC)上に細胞透過性および細胞ターゲティングペプチドの両方を有することにより、in vitroで最も強い遺伝子ノックダウンがもたらされるので、この組合せをin vivo遺伝子送達について試験した。このin vivoモデルは、マウスにおける浸透性脳損傷を含んだ。Ca-pSiNP-siRNA-DPNCを注射したマウスにおいて、脳損傷部位に相当量のsiRNAが蓄積した(
図4)。マウス(n=3)は、食塩水を注射した対照マウスの蛍光バックグラウンドと比較して、siRNAペイロードに関連する蛍光強度が2倍大きいことを示した。ターゲティングされていないナノ粒子Ca-pSiNP-siRNA-PEGと比較して、二重ペプチドCa-pSiNP-siRNA-DPNCによるターゲティングの観察された有効性が統計的により大きかった(p<0.02)。ターゲティングされていないCa-pSiNP-siRNA-PEG構築物を注射されたマウスは、おそらく損傷部位への受動的漏出に起因して、注射されていない対照マウスと比較して、脳においていくつかのsiRNA蛍光シグナルを示した。
【0117】
要約すると、この研究は、オリゴヌクレオチドを生分解性および本質的にフォトルミネセンス性のナノ粒子にロードし得る自己封入化学手順を実証している。かなりの量のsiRNAをロードし得(>20質量%)、治療関連タイムスケールのためにペイロードを保持する。ケイ酸カルシウムシェルは、細胞ターゲティング(狂犬病ウイルス糖タンパク質由来のRVGペプチド)および細胞透過性(ミリストイル化(myristolated)輸送体)ペプチド、ならびに2つのペプチドの組合せで容易に改変され、ケイ酸カルシウム化学物質がsiRNAペイロードを保持して保護する能力を伴っており、in vitroで改善
された細胞ターゲティングおよび遺伝子ノックダウンをもたらす。多価コア-シェルナノ粒子は循環して、生存マウスの脳損傷にsiRNAペイロードを送達し、二重ターゲティングナノ粒子は、非ターゲティングナノ粒子と比較してin vivo脳損傷モデルにおけるsiRNAの送達の改善を示す。
実験セクション
【0118】
ポーラスシリコンナノ粒子の調製:pSiNPは、公開された「穿孔エッチング」手順に従って調製した。Qinら(2014年)Part. Part. Syst. Char.31巻:252頁
。高度にホウ素でドープされたp
++型シリコンウエハー(約1mΩ-cmの抵抗率、100mmの直径、Virginia Semiconductor,Inc.)を、3:1(v:v)の48%水性HF:エタノールから構成される電解質中に、陽極エッチングした。エッチング波形は、46mA cm
-2の低い電流密度が1.818秒間印加され、続いて365mA cm
-2のより高い電流密度パルスが0.363秒間印加された、方形波からなっていた。この波形を140サイクル繰り返して、ポーラス層を通っておよそ200nmごとに繰り返される、薄い、高い気孔率の「穿孔」を有する層状ポーラスシリコン(pSi)フィルムを生成した。1:20(v:v)の48%水性HF:エタノールを含有する溶液中に3.4mA cm
-2の電流密度を250秒間印加することによって、シリコン基板からフィルムを除去した。独立したpSiフィルムを、脱イオン水中に浸漬し、約12時間超音波処理することによって、平均(Z平均、強度に基づく)直径180nmのナノ粒子(
図11B)に破砕した。
【0119】
ケイ酸カルシウムコーティングされたsiRNAロードポーラスシリコンナノ粒子(Ca-pSiNP-siRNA)の調製:塩化カルシウム(CaCl2)の4Mのストック溶液を、2.25gの固体CaCl2(MW:110.98、無水物、Spectrum
chemicals)を5mLのRNAseフリー水に加えることによって調製した。その溶液を遠心分離して沈殿物を除去し、使用前に4℃で保存した。オリゴヌクレオチドのローディングのために、PPIB(1)、PPIB(2)、およびルシフェラーゼのノックダウンのための3種類の二本鎖siRNA構築物を、Dharmacon Inc.によって3’-dTdTオーバーハングを用いて合成した。Ambardekarら(2011年)Biomaterials 32巻:1404頁;Waiteら(2009年)BMC Biotechnol.9巻:3
8頁。siRNAに対するPPIB遺伝子について(siPPIB)、それぞれsiPPIB(1)およびsiPPIB(2)を得て、siPPIB(1):siPPIB(2)の1:1混合物を使用して、siPPIB(1)については、siRNA配列センス5’-CAA GUU CCA UCG UGU CAU C dTdT-3’(配列番号3)およびアンチセンス5’-GAU GAC ACG AUG GAA CUU G dTdT-3’(配列番号4)、ならびにsiPPIB(2)について、センス5’-GAA AGA GCA UCU AUG GUG A dTdT-3’(配列番号5)およびアンチセンス5’-UCA CCA UAG AUG CUC UUU C dTdT-3’(配列番号6)上の広範囲のPPIB遺伝子をカバーした。siRNAに対するルシフェラーゼ遺伝子(siLuc)を、siRNA配列センス5’-CUU ACG CUG AGU ACU UCG A dTdT-3’(配列番号7)およびアンチセンス5’-UCG AAG UAC UCA GCG UAA G dTdT-3’(配列番号8)上で得た。pSiNP(1mg)をオリゴヌクレオチド溶液(150μL、siRNA中150μM)中に分散させ、CaCl2ストック溶液(850μL)に加えた。この混合物を60分間かき混ぜ、RNAseフリー水、70%エタノールおよび100%エタノール中への連続的な分散/それからの遠心分離によって精製した。siRNAローディング効率を分析するために、各遠心分離ステップからの上清を回収し、NanoDrop2000分光光度計(Thermo Scientific、ND-2000)を使用して遊離siRNAについてアッセイした。対照として、siRNAを含まないCa-pSiNPを、siRNAの添加は除外したが、上記と同じ方法で調製した。
【0120】
Ca-pSiNPへのペプチドのコンジュゲーション:調製したままのCa-pSiNP-siRNA、Ca-pSiNPまたはpSiNP試料(1mg)を、無水エタノール(1mL)に懸濁し、アリコート(20μL)のアミノプロピルジメチルエトキシシラン(APDMES)を加え、その混合物を2時間かき混ぜた。次いで、無水エタノールからの遠心分離によって、アミノ化ナノ粒子(Ca-pSiNP-siRNA-NH2、Ca-pSiNP-NH2、またはpSiNP-NH2)を3回精製して、結合していないAPDMESを排除した。ヘテロ官能性リンカーであるマレイミド-PEG-スクシンイミジルカルボキシメチルエステル(MAL-PEG-SCM、MW:5,000、Laysan Bio Inc.、エタノール中5mg/mL)またはメトキシ-PEG-スクシンイミジルα-メチルブタノエート(mPEG-SMB、Mw:5,000、NEKTAR、エタノール中5mg/mL)の溶液(200μL)を、アミノ化ナノ粒子(100μL中1mg)に加え、2時間かき混ぜた。結合していないPEGリンカー分子は、エタノールからの3回の遠心分離によってPEG化ナノ粒子(Ca-pSiNP-siRNA-PEGまたはCa-pSiNP-PEG)から排除した。ペプチドコンジュゲートした製剤については、以下のペプチド構築物2つのうちの1つを使用した:ペプチド配列myr-GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL(GGCC)(配列番号1)上のN末端グリシン残基にアミド結合によって共有結合したミリストイル基(myr)からなるmTP、またはペプチド配列5-FAM(CCGG)YTIWMPENPRPGTPCDIFTNSRGKRASNG(配列番号2)上のN末端システイン残基にアミド結合によって結合した5-カルボキシフルオレセイン(5-FAM)からなるFAM-RVGのいずれか。これらの構築物の両方とも、CPC Scientific Inc.(RNAseフリー水中1mg/mL)から得た。Ca-pSiNP二重ペプチドナノ複合体(Ca-pSiNP-DPNCまたはCa-pSiNP-siRNA-DPNC)合成のために、50μLの各ペプチド溶液(mTPおよびFAM-RVG)を、エタノール中の100μLのCa-pSiNP-PEGに加えて、4℃で4時間インキュベートし、遠心分離で3回精製し、エタノールに浸漬し、使用前に4℃で保存した。単一のペプチドコンジュゲートしたCa-pSiNP(Ca-pSiNP-siRNA-mTPまたはCa-pSiNP-siRNA-RVG)対照試料の合成のために、100μLのペプチド溶液(mTPまたはFAM-RVG)を、それぞれ、エタノール中の100μLのCa-pSiNP-siRNA-PEGに加えた。その後の後処理は、Ca-pSiNP-siRNA-DPNC構築物について上記したものと同じであった。
【0121】
特徴付け:透過型電子顕微鏡(TEM)画像を、JEOL-1200 EX II装置で得た。走査型電子顕微鏡(SEM)画像およびエネルギー分散型X線(EDX)データは、FEI XL30電界放出装置を使用して得た。流体力学的サイズおよびゼータ電位を、動的光散乱(DLS、Zetasizer ZS90、Malvern Instruments)によって測定した。オーシャンオプティクスQE-Pro分光計を使用して、460nmのロングパスエミッションフィルターを用いて定常状態のフォトルミネセンススペクトル(λ
ex:365nm)を得た。量子収率測定は、ローダミン6Gと比較してエタノール標準(Q.Y.95%)で行った。量子収率測定に使用した全ての溶液は、λ=365nmで0.1未満の光吸収値を有していた。波長範囲500~980nmのフォトルミネセンス強度を積分し、吸光度に対してプロットした(
図8)。窒素吸脱着等温線は、Micromeritics ASAP2020装置を用いて77Kの温度で乾燥粒子に対して得られた。フーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルは、Thermo Scientific Nicolet 6700 FTIR装置を使用して記録した。532nmレーザ励起源を有するRenishaw inVia Raman顕微鏡を使用して、ラマンスペクトルを得た。
【0122】
in vitro実験:マウスNeuro-2a神経芽腫細胞(ATCC、CCL-1
31)を、10%ウシ胎仔血清(FBS)を含有するイーグル最小必須培地(Eagle’s Minimum Essential Medium)(EMEM)中で培養した。合成されたナノ粒子の細胞傷害性を、Molecular Probes Live/Dead Viability/Cytotoxicity Kit(分子プローブ生/死率/細胞毒性キット)(Molecular Probes、Invitrogen)を使用して評価した。Yeeら(2006年)Adv. Ther.23巻:511頁。このキットは、2つのプローブ、生細胞染色(λex/λem=494/517nm)用のカルセインAMおよび死細胞染色(λex/λem=528/617nm)用のエチジウムホモ二量体-1(EthD-1)を使用する。Neuro-2a細胞(3000個の細胞/ウェル)を、96ウェルプレート中で三重にナノ粒子で処理した。48時間後、各ウェルを洗浄し、ダルベッコのリン酸緩衝食塩水中の4μMのEthD-1および2μMのカルセインAMからなるアッセイ溶液で処理した。アッセイ溶液中で、室温で45分間インキュベートした後、励起、発光、およびカットオフ波長485/538/515nmおよび544/612/590nmをそれぞれ使用して、ウェルプレートを、蛍光プレートリーダー(Gemini XPS分光蛍光光度計、Molecular Devices,Inc.)で読み取った。処理群1つあたり合計15個のウェルを評価し、未処理対照蛍光強度のパーセンテージとしてプロットした。
【0123】
ナノ粒子で処理したNeuro-2a細胞を、40倍油浸対物レンズを使用して、共焦点顕微鏡(Zeiss LSM 710 NLO)で視覚化した。細胞を、カバースリップ(BD Biocoat Collagen Coverslip、22mm)上に播種し、ナノ粒子と共に2時間インキュベートし、PBSで3回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで固定し、DAPIで核を染色してマウントした(Thermo Fisher
Scientific、Prolong Diamond Antifade Mountant with DAPI)。ナノ粒子で処理したNeuro-2a細胞を定量し、FACS分析(LSR Fortessa)によって細胞親和性およびsiRNA送達効率を実証した。
【0124】
in vitroでのノックダウン効率を検討するために、リアルタイム定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR、Stratagene Mx3005P qPCRシステム)分析を実施して、PPIB mRNA発現を調べた。Neuro-2a細胞を、24ウェルプレート(1ウェルあたり4×104個の細胞)に播種し、100nMのsiRNAに対応する濃度でsiRNAロードしたナノ粒子と共にインキュベートした。48時間後、細胞を採取し、製造業者のプロトコール(Qiagen、Valencia、CA)に従って全RNAを単離した。単離したRNAを、製造業者のプロトコール(Bio-Rad、iScript cDNA Synthesis Kit)に従ってcDNAに転写した。SYBR Green PCR Master Mixを使用して合成cDNAをqPCR分析に供した。標的mRNA増幅としてのPPIBおよび参照mRNA増幅としてのHPRTのためのプライマー配列を以下に記載する。PPIBフォワード:GGAAAGACTGTTCCAAAAACAGTG(配列番号9)、PPIBリバース:GTCTTGGTGCTCTCCACCTTCCG(配列番号10);HPRTフォワード:GTCAACGGGGGACATAAAAG(配列番号11)、HPRTリバース:CAACAATCAAGACATTCTTTCCA(配列番号12)。全ての手順は三重で行った。
【0125】
in vivo実験:全ての動物実験は、MIT Institutional Animal Care and Use Committees(IACUC)ならびにSanford Burnham Prebys Medical Discovery Institute Committee on Animal Use and Careによって承認されたプロトコールのもとで実施された。この研究で使用された実験動
物の全ての住居およびケアは、NIH Guide for the Care and
Use of Laboratory Animals in Research(研究における実験動物のケアおよび使用のためのNIHガイド)(文書180F22参照)ならびにUSDAによって発行された全ての要件および規制(補正として(文書18-F23参照)Animal Welfare Act(P.L.89-544)を実行する規制を含む)に従った。in vivoモデルは、マウスにおける浸透性脳損傷を含んだ。最初に、マウスの右半球上の頭蓋骨の直径5mm部分を除去した。3×3グリッドの21ゲージの針を使用して創傷を誘導し、各々3mmの深さの合計9つの創傷を得た。損傷誘発後、頭蓋骨を置換した(
図15)。尾静脈を介して損傷の6時間後、マウスにナノ粒子構築物を注射した。ターゲティング損傷部位へのsiRNAカーゴの送達効率を定量するために、Dy677標識(λ
em=700nm)siRNAを、Ca-pSiNP-PEGおよびCa-pSiNP-DPNCにロードし、これらの製剤の各々を別個のマウスに注射した。1時間の循環後、マウスを灌流し、臓器を採取した。
【0126】
採取された臓器の蛍光画像は、従来のIVIS200、キセノゲン、およびPearl
Trilogy、Li-Corイメージングシステムを使用して得た。
【0127】
統計解析:本明細書中に提示される全てのデータは、平均±平均の標準誤差として表される。有意性検定は、両側スチューデントt検定を使用して行った。他に示さない限り、p<0.05は統計的に有意であると考えられた。
代替的なポーラスシリコン金属ケイ酸塩コア-シェル粒子
【0128】
代替的なコア-シェル粒子構造をまた、さらなる検討および特徴付けのために調製している。
図16は、4Mの塩化カルシウム、4Mの塩化マグネシウムおよびpH9の緩衝液の溶液中で、電気化学的にエッチングされたポーラスシリコン粒子の超音波処理によって生成されたポーラスシリコン微粒子(pSiMP)のX線回折スペクトルを示す。pH9の緩衝液で処理したpSiMPのX線回折スペクトルは、有意なピークを示さず、これはpSiMPがほとんど酸化されていることを示している。塩化マグネシウムから形成された粒子は、ほとんど分解も酸化も示さず、その代わりに結晶シリコンの強いスペクトルを示す。この観察によって、金属の静電吸着またはアモルファスシリケート形成のいずれかに起因して、起こり得るより強力かつ安定したマグネシウム-シリコン相互作用が示される。塩化カルシウムから形成された粒子は、結晶シリコンからいくらかのピークを示すだけでなく、結晶性ケイ酸カルシウム結合から生じ得るより多くのピークも示す。しかし、マグネシウムから形成された粒子と比較すると、おそらくシリコンマトリックスの周りのより薄いまたはより均一でないシェル形成の結果として、ピークははるかに弱い。
【0129】
pSiMP(pH9の緩衝液)、Mg-pSiMP、およびCa-pSiMPのポア構造は、窒素吸脱着等温線分析(表1)によって特徴付けられる。熱酸化されたpSiMPについて結晶シリコンのさらなる酸化は起こり得ないが、ポア内のカルシウムおよびマグネシウム層の形成が、ポア容積の有意な低下によって観察された。
【表1】
【0130】
上述のように、siRNA、マイクロRNAおよびカルセインを含むアニオン性分子は、好都合な静電相互作用に起因してケイ酸カルシウム形成中に20wt%を超えるローディング効率でポーラスシリコン粒子上にロードされ得る。ポーラスシリコン粒子上のRu(bpy)、クロラムフェニコール、バンコマイシンおよびローダミンBなどのカチオン性または双性イオン性分子のローディングおよび放出も評価されている。特に、双性イオン性(ローダミンB)またはカチオン性(Ru(bpy))分子のローディング効率は、アニオン性分子よりも低いが、トラップ機構に起因してより長い持続放出を示す(
図17A~17C)。抗生物質クロラムフェニコールおよびバンコマイシンをロードされたCa-pSiNPのローディング効率、放出動態およびフォトルミネセンスプロファイルを、
図18A~18Bに示す。組み込まれた薬物分子は、生理学的状態で徐々に放出され、フォトルミネセンス減少プロファイルと相関したが、放出動態はフォトルミネセンス減少プロファイルよりも幾分遅かった。
【0131】
本明細書において言及される全ての特許、特許公報および他の公開された参考文献は、各々が個々にかつ具体的に参照により本明細書に組み込まれているかのように、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0132】
特定の例が提供されているが、上記の説明は例示的なものであり、限定的なものではない。前述の実施形態のいずれか1つまたは複数の特徴は、本発明における任意の他の実施形態の1つまたは複数の特徴と任意の方法で組み合わされてもよい。さらに、本発明の多くの変形が、本明細書を検討すれば当業者には明らかになる。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲をその均等物の全範囲と共に参照することによって決定されるべきである。
【0133】
本発明の好ましい実施形態によれば、例えば、以下が提供される。
(項1)
ポーラスシリコンコアを含む粒子;
ケイ酸金属塩を含む、前記ポーラスシリコンコアの表面上の層;および
治療剤
を含む、治療剤を送達するための組成物。
(項2)
前記粒子の表面上の前記層が、ポーラスシリコン前駆体粒子を前記治療剤および金属塩を含む水溶液で処理することにより形成される、上記項1に記載の組成物。
(項3)
前記水溶液が少なくとも0.1モル濃度の濃度の金属塩を含む、上記項2に記載の組成物。
(項4)
前記粒子の表面上の前記層がケイ酸二価金属塩を含む、上記項1に記載の組成物。
(項5)
前記粒子の表面上の前記層がケイ酸カルシウムを含む、上記項4に記載の組成物。
(項6)
前記ポーラスシリコンコアが約1nm~約1cmの直径を有する、上記項1に記載の組成物。
(項7)
前記ポーラスシリコンコアの表面上の前記層が、前記コアの前記直径の1~90パーセントの間の厚さを有する、上記項6に記載の組成物。
(項8)
前記粒子がフォトルミネセント粒子である、上記項1に記載の組成物。
(項9)
前記粒子が500nm~1000nmの範囲で発光する、上記項8に記載の組成物。
(項10)
前記ポーラスシリコンコアが、エッチングされた結晶シリコン物質を含む、上記項1に記載の組成物。
(項11)
前記ポーラスシリコンコアが、電気化学的にエッチングされた結晶シリコン物質を含む、上記項10に記載の組成物。
(項12)
前記ポーラスシリコンコアが、化学的ステインエッチングされた結晶シリコン物質を含む、上記項10に記載の組成物。
(項13)
前記ポーラスシリコンコアが、エッチングされたマイクロポーラスシリコン物質を含む、上記項1に記載の組成物。
(項14)
前記エッチングされたマイクロポーラスシリコン物質が、平均ポア直径最大約1nmの複数のポアを含む、上記項13に記載の組成物。
(項15)
前記ポーラスシリコンコアが、エッチングされたメソポーラスシリコン物質を含む、上記項1に記載の組成物。
(項16)
前記エッチングされたメソポーラスシリコン物質が、平均ポア直径約1nm~約50nmの複数のポアを含む、上記項15に記載の組成物。
(項17)
前記ポーラスシリコンコアが、エッチングされたマクロポーラスシリコン物質を含む、上記項1に記載の組成物。
(項18)
前記エッチングされたマクロポーラスシリコン物質が、平均ポア直径約50nm~約1000nmの複数のポアを含む、上記項17に記載の組成物。
(項19)
前記治療剤が、低分子薬剤、ビタミン、造影剤、タンパク質、ペプチド、核酸、オリゴヌクレオチド、アプタマー、またはその混合物である、上記項1に記載の組成物。
(項20)
前記治療剤が負に荷電した治療剤である、上記項19に記載の組成物。
(項21)
前記治療剤がオリゴヌクレオチドである、上記項20に記載の組成物。
(項22)
前記オリゴヌクレオチドが、DNA、RNA、siRNA、またはマイクロRNAである、上記項21に記載の組成物。
(項23)
前記オリゴヌクレオチドがRNAである、上記項22に記載の組成物。
(項24)
前記RNAがsiRNAである、上記項23に記載の組成物。
(項25)
前記粒子がターゲティング薬剤を含む、上記項1に記載の組成物。
(項26)
前記ターゲティング薬剤がニューロンターゲティング薬剤である、上記項25に記載の組成物。
(項27)
前記粒子が細胞透過性薬剤を含む、上記項1に記載の組成物。
(項28)
前記細胞透過性薬剤が脂質化ペプチドである、上記項27に記載の組成物。
(項29)
前記粒子がターゲティング薬剤および細胞透過性薬剤を含む、上記項1に記載の組成物。(項30)
前記ポーラスシリコンコアが酸化ポーラスシリコン物質を含む、上記項1に記載の組成物。
(項31)
前記酸化ポーラスシリコン物質が150℃を超える温度で酸化されている、上記項30に記載の組成物。
(項32)
前記酸化ポーラスシリコン物質が空気中で酸化されている、上記項30に記載の組成物。(項33)
前記酸化ポーラスシリコン物質が、化学酸化剤を用いる反応により溶液中で酸化されている、上記項30に記載の組成物。
(項34)
前記化学酸化剤が、水、ボレート、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ジメチルスルホキシド、またはナイトレートである、上記項33に記載の組成物。
(項35)
上記項1から34のいずれか一項に記載の組成物および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
(項36)
治療剤の送達のための粒子を調製する方法であって、
ポーラスシリコン前駆体粒子を用意するステップ;
前記ポーラスシリコン前駆体粒子を、前記治療剤および金属塩を含む水溶液で処理するステップ
を含む方法。
(項37)
前記水溶液が少なくとも0.1モル濃度の濃度の金属塩を含む、上記項36に記載の方法。
(項38)
前記金属塩が二価金属塩である、上記項36に記載の方法。
(項39)
前記金属塩がカルシウム塩である、上記項38に記載の方法。
(項40)
前記ポーラスシリコン前駆体粒子が約1nm~約1cmの直径を有する、上記項36に記載の方法。
(項41)
前記処理から形成される前記粒子が、前記ポーラスシリコン前駆体粒子の表面上に、前記
前駆体粒子の前記直径の1~90パーセントの間の厚さを有する金属塩の層を含む、上記項40に記載の方法。
(項42)
前記処理から形成される前記粒子がフォトルミネセント粒子である、上記項36に記載の方法。
(項43)
前記処理から形成される前記粒子が500nm~1000nmの範囲で発光する、上記項42に記載の方法。
(項44)
前記ポーラスシリコン前駆体粒子が、エッチングされた結晶シリコン物質を含む、上記項36に記載の方法。
(項45)
前記ポーラスシリコン前駆体粒子が、電気化学的にエッチングされた結晶シリコン物質を含む、上記項44に記載の方法。
(項46)
前記ポーラスシリコン前駆体粒子が、化学的ステインエッチングされた結晶シリコン物質を含む、上記項44に記載の方法。
(項47)
前記ポーラスシリコン前駆体粒子が、エッチングされたマイクロポーラスシリコン物質を含む、上記項36に記載の方法。
(項48)
前記エッチングされたマイクロポーラスシリコン物質が、平均ポア直径最大約1nmの複数のポアを含む、上記項47に記載の方法。
(項49)
前記ポーラスシリコン前駆体粒子が、エッチングされたメソポーラスシリコン物質を含む、上記項36に記載の方法。
(項50)
前記エッチングされたメソポーラスシリコン物質が、平均ポア直径約1nm~約50nmの複数のポアを含む、上記項49に記載の方法。
(項51)
前記ポーラスシリコン前駆体粒子が、エッチングされたマクロポーラスシリコン物質を含む、上記項36に記載の方法。
(項52)
前記エッチングされたマクロポーラスシリコン物質が、平均ポア直径約50nm~約1000nmの複数のポアを含む、上記項51に記載の方法。
(項53)
前記治療剤が、低分子薬剤、ビタミン、造影剤、タンパク質、ペプチド、核酸、オリゴヌクレオチド、アプタマー、またはその混合物である、上記項36に記載の方法。
(項54)
前記治療剤が負に荷電した治療剤である、上記項53に記載の方法。
(項55)
前記治療剤がオリゴヌクレオチドである、上記項54に記載の方法。
(項56)
前記オリゴヌクレオチドが、DNA、RNA、siRNA、またはマイクロRNAである、上記項55に記載の方法。
(項57)
前記オリゴヌクレオチドがRNAである、上記項56に記載の方法。
(項58)
前記RNAがsiRNAである、上記項57に記載の方法。
(項59)
前記ポーラスシリコン粒子をターゲティング薬剤に結合させるステップであって、前記結合させるステップが前記処理するステップの前または後にあるステップ
をさらに含む、上記項36に記載の方法。
(項60)
前記結合させるステップが前記処理するステップの後にある、上記項59に記載の方法。(項61)
前記ターゲティング薬剤がニューロンターゲティング薬剤である、上記項59に記載の方法。
(項62)
前記ポーラスシリコン粒子を細胞透過性薬剤に結合させるステップであって、前記結合させるステップが前記処理するステップの前または後にあるステップ
をさらに含む、上記項36に記載の方法。
(項63)
前記結合させるステップが前記処理するステップの後にある、上記項62に記載の方法。(項64)
前記細胞透過性薬剤が脂質化ペプチドである、上記項62に記載の方法。
(項65)
前記ポーラスシリコン前駆体粒子をターゲティング薬剤および細胞透過性薬剤に結合させるステップであって、前記結合させるステップが前記処理するステップの前または後にあるステップ
をさらに含む、上記項36に記載の方法。
(項66)
前記ポーラスシリコン前駆体粒子が酸化ポーラスシリコン物質を含む、上記項36に記載の方法。
(項67)
前記酸化ポーラスシリコン物質が150℃を超える温度で酸化されている、上記項66に記載の方法。
(項68)
前記酸化ポーラスシリコン物質が空気中で酸化されている、上記項66に記載の方法。
(項69)
前記酸化ポーラスシリコン物質が、化学酸化剤を用いる反応により溶液中で酸化されている、上記項66に記載の方法。
(項70)
前記化学酸化剤が、水、ボレート、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ジメチルスルホキシド、またはナイトレートである、上記項69に記載の方法。
(項71)
上記項1から34のいずれか一項に記載の組成物の、処置を必要とする被験体への投与を含む処置方法。
(項72)
前記投与が非経口投与による、上記項71に記載の方法。
(項73)
前記投与がニューロン組織にターゲティングする、上記項71に記載の方法。
(項74)
前記被験体または前記被験体から単離された組織をモニタリングするステップをさらに含む、上記項71に記載の方法。
(項75)
前記モニタリングするステップが光学的にモニタリングするステップである、上記項74に記載の方法。