(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094378
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインに特異的に結合する抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/40 20060101AFI20240702BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240702BHJP
【FI】
C07K16/40 ZNA
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024067396
(22)【出願日】2024-04-18
(62)【分割の表示】P 2022568364の分割
【原出願日】2021-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2020206269
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021098632
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉兼 峻史
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 信幸
(72)【発明者】
【氏名】磯部 正治
(57)【要約】
【課題】DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害する抗体又はその断片を提供する。
【解決手段】DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインに特異的に結合する抗体又はその断片が開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Taqポリメラーゼ、Tthポリメラーゼ、及びZ05ポリメラーゼからなる群から選択される少なくとも一種のDNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、配列番号1のN末端から56~66番目の領域又は配列番号2若しくは3のN末端から56~67番目の領域から選択されるアミノ酸領域A;配列番号1のN末端から75~81番目の領域又は配列番号2若しくは3のN末端から76~82番目の領域から選択されるアミノ酸領域B;配列番号1のN末端から161~182番目の領域又は配列番号2若しくは3のN末端から162~183番目の領域から選択されるアミノ酸領域C;配列番号1のN末端から269~285番目の領域又は配列番号2若しくは3の271~287番目の領域から選択されるアミノ酸領域Dのいずれかの領域に存在する、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
前記少なくとも1つのエピトープが、前記アミノ酸領域A又はBのいずれかの領域に存在する、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
前記アミノ酸領域Aにおけるエピトープが配列番号60~63のいずれかであり、前記アミノ酸領域Bにおけるエピトープが配列番号64又は65であり、前記アミノ酸領域Cにおけるエピトープが配列番号66~74のいずれかであり、前記アミノ酸領域Dにおけるエピトープが配列番号75~83のいずれかである、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
前記アミノ酸領域Aにおけるエピトープが配列番号61又は62であり、前記アミノ酸領域Bにおけるエピトープが配列番号64又は65であり、前記アミノ酸領域Cにおけるエピトープが配列番号66、67、68、70、又は71であり、前記アミノ酸領域Dにおけるエピトープが配列番号77、78、80、又は82である、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
核酸増幅法、特にポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction、以下「PCR」と表記する)等に用いられるDNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインに特異的に結合する抗体及びそれに関連する技術が提供される。
【背景技術】
【0002】
DNAポリメラーゼを用いた核酸テンプレートからのDNAの合成は、分子生物学の分野において、シーケンシング法や核酸増幅法等、様々な方法に利用・応用されている。中でも、核酸増幅法は、研究分野のみならず、遺伝子診断、親子鑑定といった法医学分野、あるいは、食品や環境中の微生物検査等において、既に実用化されている。
【0003】
代表的な核酸増幅法は、PCRである。PCRは、(1)熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの解離)、(2)鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、(3)DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、という3ステップを1サイクルとし、このサイクルを繰り返すことによって、試料中の標的核酸を増幅する方法である。(2)アニーリングと(3)伸長を同温度かつ1ステップで行い、2ステップを1サイクルとする場合もある。
【0004】
PCRは、原理的には1コピー、現実でも数コピー相当の核酸サンプルから増幅できる感度、特定部分のみを増幅する特異性などの特徴から、広く医学・生物学の研究や臨床診断等に利用されてきた。現在、PCRは更なる開発が行われており、複数のプライマーを同時に増幅するMultiplex PCR法や、蛍光色素や蛍光標識プローブを用いて、増幅産物の生成過程を経時的にモニタリングするリアルタイムPCR法など、様々な技術が存在する。
【0005】
これらの核酸増幅法は、HTS(High Throughput Screening)などの大量サンプルの遺伝子解析や、多検体を処理する必要がある食品検査や環境検査等にも広く使用されている。大量サンプルを解析する場合、核酸増幅反応液を調製後に長時間(例えば、数時間から数日間)放置されることが想定される。しかしながら、前記反応液を常温で放置することで、前記反応液の安定性が低下することが懸念される。例えば、TaqMan(登録商標)プローブ法(例えば非特許文献1を参照)では、調製後の反応液を常温で放置することで、Ct(Threshold cycle)値が遅れる、あるいは、Ct値の検出そのものが不能になる現象が複数例確認されている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-163904号公報
【特許文献2】再表2016/136324号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hollandら,Proc.Natl.Acad.Sci.第88巻,1991年,第7276-7280頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、核酸増幅法等に用いられる核酸テンプレート、プライマー、プローブ等が5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインを有するDNAポリメラーゼとの共存下で分解されるという問題をこれまでに見出している。
【0009】
本発明は、DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインに対する(特異的に結合する)抗体又はその断片、及び当該抗体又はその断片の製造方法を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインに対する(特異的に結合する)抗体又はその断片、及び当該抗体又はその断片の有用な製造方法を見出した。本発明はこれらの知見に基づいてさらに鋭意研究を重ねた結果完成したものである。
【0011】
代表的な本発明は、以下の通りである。
[項1]
DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインに特異的に結合する抗体又はその断片(抗原結合断片)。
[項2]
前記DNAポリメラーゼが、Taqポリメラーゼ、Tthポリメラーゼ、及びZ05ポリメラーゼからなる群から選択される、項1に記載の抗体又はその断片。
[項3]
下記式(A-1):
GFXA3XA4XA5XA6XA7XA8 (A-1)
[式中、
XA3はT又はSであり、
XA4はF、L、又はIであり、
XA5はD、N、S、又はTであり、
XA6はD、N、S、T、K、R、又はHであり、
XA7はY、F、又はWであり、
XA8はG、S、T、W、Y又はFである]
で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1と、
下記式(B-1):
IXB2XB3XB4XB5XB6XB7XB8 (B-1)
[式中、
XB2はG、S、T、K、R、H、D、又はNであり、
XB3はF、Y、L、I、G、S、T、D、又はNであり、
XB4はG、S、T、D、N、K、R、又はHであり、
XB5はG、S、T、又はAであり、
XB6はG、S、T、D、又はNであり、
XB7はS、T、F、Y、D、N、K、R、又はHであり、
XB8はS、T、V、L、I、又はMである]
で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2と、
下記式(C-1)~(C-6):
VRXC1XC2XC3GXC4XC5XC6TGFDXC7 (C-1)
VRXC1XC2XC3GXC4XC5XC6FDXC7 (C-2)
XC8RDGALGLAVNWFDXC7 (C-3)
ATSDDYYALNI (C-4)
TTAYYSRYSYYMFDXC7 (C-5)
TTALRDXC7 (C-6)
[式中、
XC1はA、S、D、K、H、又はRであり、
XC2はG、A、D、P、K、H、又はRであり、
XC3はS、T、L、Y、又はIであり、
XC4はA、V、I、R、又はLであり、
XC5はA、V、Y、又はPであり、
XC6はA、V、S、T、又はYであり、
XC7はV、I、L、S、T、又はNであり、
XC8はA又はVである]
のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3と、
下記式(D-1):
XD1XD2XD3XD4XD5XD6 (D-1)
[式中、
XD1はE、Q、D、又はNであり、
XD2はG、A、S、又はTであり、
XD3はA、V、L、I、又はFであり、
XD4はS、T、K、R、又はHであり、
XD5はS、T、D、N、K、R、又はHであり、
XD6はF、Y、又はWである]
で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1と、
下記式(E-1):
XE1XE2XE3 (E-1)
[式中、
XE1はG、S、T、D、N、F、Y、K、R、又はHであり、
XE2はG、A、S、T、V、L又はIであり、
XE3はK、R、H、D、N、S、又はTである]
で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2と、
下記式(F-1)又は(F-2):
XF1XF2XF3XF4XF5XF6XF7XF8 (F-1)
XF1XF2XF3XF4XF5XF6XF7XF8XF9 (F-2)
[式中、
XF1はL、I、E、Q、F、Y又はWであり、
XF2はD、N、E又はQであり、
XF3はS、T、F、又はYであり、
XF4はG、S、T、F、Y、N又はQであり、
XF5はS、T、N、Q、L又はIであり、
XF6はG、S、T、F、Y、又はWであり、
XF7はS、T、P、Y又はWであり、
XF8はL、I、P、K、R、H、Y、T、又はWであり、
XF9はG、S、T、D又はEである]
で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3と
を含む、抗体又はその断片(抗原結合断片)。
[項4]
さらに、下記式(E-2):
XE4XE5XE6XE7 (E-2)
[式中、
XE4はG、S、R、H、K、D、N、F、Y、又はTであり、
XE5はL、I、K、H、又はRであり、
XE6はG、A、S、T、P、F、又はYであり、
XE7はG、A、D、N、S、又はTである]
で表されるアミノ酸配列からなる、軽鎖CDR2のC末端に隣接する配列領域を含む、項3に記載の抗体又はその断片。
[項5]
下記式(A-1-1):
GFTFXA51XA61XA71XA81 (A-1-1)
XA51はD、N、又はSであり、
XA61はD、N、S、K、又はHであり、
XA71はY又はWであり、
XA81はG、W、又はYである]
で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1と、
下記式(B-1-1):
IXB21XB31XB41XB51XB61XB71XB81 (B-1-1)
[式中、
XB21はG、S、T、K、又はNであり、
XB31はY、L、G、T、又はNであり、
XB41はG、S、T、D、又はHであり、
XB51はG又はSであり、
XB61はG、S、T、又はDであり、
XB71はS、T、Y、D、又はHであり、
XB81はS、T、V、I、又はMである]
で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2と、
下記式(C-1-1)~(C-6-1):
VRXC11XC21XC31GXC41XC51XC61TGFDXC71 (C-1-1)
VRXC11XC21XC31GXC41XC51XC61FDXC71 (C-2-1)
XC81RDGALGLAVNWFDXC71 (C-3-1)
ATSDDYYALNI (C-4)
TTAYYSRYSYYMFDXC71 (C-5-1)
TTALRDXC71 (C-6-1)
[式中、
XC11はA又はRであり、
XC21はP又はRであり、
XC31はT又はIであり、
XC41はV又はLであり、
XC51はP又はAであり、
XC61はT又はYであり、
XC71はV、T、又はNであり、
XC81はA又はVである]
のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3と、
下記式(D-1-1):
QXD21XD31XD41XD51XD61 (D-1-1)
[式中、
XD21はG又はSであり、
XD31はV又はIであり、
XD41はS又はKであり、
XD51はS、N、又はKであり、
XD61はF又はYである]
で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1と、
下記式(E-1-1):
XE11XE21XE31 (E-1-1)
[式中、
XE11はG、T、D、Y、又はRであり、
XE21はA、T、又はVであり、
XE31はK、D、N、又はSである]
で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2と、
下記式(F-1-1)又は(F-2-1):
XF11QXF31XF41XF51XF61XF71XF81 (F-1-1)
XF11QXF31XF41XF51XF61XF71XF81T (F-2-1)
[式中、
XF11はL、Q、F、又はYであり、
XF31はS又はYであり、
XF41はG、N、Q、又はYであり、
XF51はS、N、又はIであり、
XF61はG、S、Y、又はWであり、
XF71はS、P、又はWであり、
XF81はL、P、H、Y、又はTである]
で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3と
を含む、抗体又はその断片(抗原結合断片)。
[項6]
さらに、下記式(E-2-1)又は(E-2-2):
SLXE61S (E-2-1)
XE42XE52XE62XE72 (E-2-2)
[式中、
XE61はA又はPであり、
XE42はR、N、Y、又はTであり、
XE52はL又はRであり、
XE62はA又はYであり、
XE72はS又はTである]
で表されるアミノ酸配列からなる、軽鎖CDR2のC末端に隣接する配列領域を含む、項5に記載の抗体又はその断片。
[項7]
Taqポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインに特異的に結合する、項3~6のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[項8]
Tthポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインに特異的に結合する、項3~6のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[項9]
Z05ポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインに特異的に結合する、項3~6のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[項10]
DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインに特異的に結合する抗体又はその断片であって、少なくとも1つのエピトープが、配列番号1のN末端から56~66番目の領域又は配列番号2若しくは3のN末端から56~67番目の領域から選択されるアミノ酸領域A;配列番号1のN末端から75~81番目の領域又は配列番号2若しくは3のN末端から76~82番目の領域から選択されるアミノ酸領域B;配列番号1のN末端から161~182番目の領域又は配列番号2若しくは3のN末端から162~183番目の領域から選択されるアミノ酸領域C;配列番号1のN末端から269~285番目の領域又は配列番号2若しくは3の271~287番目の領域から選択されるアミノ酸領域Dのいずれかの領域に存在する、抗体又はその断片(抗原結合断片)。
[項11]
前記少なくとも1つのエピトープが、前記アミノ酸領域A又はBのいずれかの領域に存在する、項10に記載の抗体又はその断片。
[項12]
前記アミノ酸領域Aにおけるエピトープが配列番号60~63のいずれかであり、前記アミノ酸領域Bにおけるエピトープが配列番号64又は65であり、前記アミノ酸領域Cにおけるエピトープが配列番号66~74のいずれかであり、前記アミノ酸領域Dにおけるエピトープが配列番号75~83のいずれかである、項10又は11に記載の抗体又はその断片。
[項13]
前記アミノ酸領域Aにおけるエピトープが配列番号61又は62であり、前記アミノ酸領域Bにおけるエピトープが配列番号64又は65であり、前記アミノ酸領域Cにおけるエピトープが配列番号66、67、68、70、又は71であり、前記アミノ酸領域Dにおけるエピトープが配列番号77、78、80、又は82である、項10~12のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[項14]
モノクローナル抗体又はその断片である、項1~13のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[項15]
前記重鎖CDR3が配列番号21~28のいずれかに示されるアミノ酸配列又はこれらのアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が変異しているアミノ酸配列からなり、
前記軽鎖CDR3が配列番号42~48のいずれかに示されるアミノ酸配列又はこれらのアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が変異しているアミノ酸配列からなる、項1~14のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[項16]
前記重鎖CDR3が配列番号21~28のいずれかに示されるアミノ酸配列からなり、
前記軽鎖CDR3が配列番号42~48のいずれかに示されるアミノ酸配列からなる、項1~15のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[項17]
配列番号4~11のいずれかに示されるアミノ酸配列又はこれらのアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が変異しているアミノ酸配列からなる重鎖CDR1と、
配列番号12~20のいずれかに示されるアミノ酸配列又はこれらのアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が変異しているアミノ酸配列からなる重鎖CDR2と、
配列番号21~28のいずれかに示されるアミノ酸配列又はこれらのアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が変異しているアミノ酸配列からなる重鎖CDR3と、
配列番号29~35のいずれかに示されるアミノ酸配列又はこれらのアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が変異しているアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1と、
YTN、YTD、YAD、YAN、DAS、GVK、RAK、GAK、又はTASのいずれかで示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2と、
配列番号42~48のいずれかに示されるアミノ酸配列又はこれらのアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が変異しているアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3と
を含む、項1~16のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[項18]
配列番号4~11のいずれかに示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1と、
配列番号12~20のいずれかに示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2と、
配列番号21~28のいずれかに示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3と、
配列番号29~35のいずれかに示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1と、
YTN、YTD、YAD、YAN、DAS、GVK、RAK、GAK、又はTASのいずれかで示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2と、
配列番号42~48のいずれかに示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3と
を含む、項1~17のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[項19]
さらに、配列番号36~41のいずれかに示されるアミノ酸配列又はこれらのアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が変異しているアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2のC末端に隣接する配列領域を含む、項17又は18に記載の抗体又はその断片。
[項20]
さらに、配列番号36~41のいずれかに示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2のC末端に隣接する配列領域を含む、項17~19のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[項21]
前記変異が保存的置換である、項15、17、及び19のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[項22]
項1~21のいずれかに記載の抗体の断片であって、Fab、F(ab’)2、又はscFvである断片(抗原結合断片)。
[項23]
項1~21のいずれかに記載の抗体又はその断片、或いは、項22に記載の断片を含む試薬。
[項24]
5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインを有するDNAポリメラーゼ、プライマー、プローブ、及びデオキシリボヌクレオシド-5’-リン酸からなる群より選択される少なくとも一種を更に含む、項23に記載の試薬。
[項25]
前記DNAポリメラーゼが、Taqポリメラーゼ、Tthポリメラーゼ、及びZ05ポリメラーゼからなる群から選択される、項24に記載の試薬。
[項26]
核酸増幅用試薬である、項23~25のいずれかに記載の試薬。
[項27]
DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインに特異的に結合する抗体又はその断片(抗原結合断片)の製造方法であって、DNAポリメラーゼの一部(ここで、当該一部は5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインを含む)からなる免疫原で免疫した動物が産生する抗体から、DNAポリメラーゼの全体に対する結合能を有する抗体を選択する工程Aを含む、製造方法。
[項28]
前記免疫原が、DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインからなる、項27に記載の製造方法。
[項29]
前記DNAポリメラーゼが、Taqポリメラーゼ、Tthポリメラーゼ、及びZ05ポリメラーゼからなる群から選択される、項27又は28に記載の製造方法。
[項30]
前記免疫原が、Tthポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインからなる、項27~29のいずれかに記載の製造方法。
[項31]
工程Aが、Tthポリメラーゼの一部(ここで、当該一部は5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインを含む)からなる免疫原で免疫した動物が産生する抗体から、Taqポリメラーゼの全体に対する結合能を有する抗体を選択する工程である、項27に記載の製造方法。
[項32]
工程Aが、Tthポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインからなる免疫原で免疫した動物が産生する抗体から、Taqポリメラーゼの全体に対する結合能を有する抗体を選択する工程である、項27に記載の製造方法。
[項33]
項27~32のいずれかに記載の製造方法によって得られた抗体のアミノ酸配列に基づき、その一部のアミノ酸配列を遺伝子工学的手法により発現させる工程を含む、抗体断片(抗原結合断片)の製造方法。
[項34]
37℃で24時間にわたりDNAポリメラーゼと共存させた場合、該DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼに対する阻害能が60%以上である、項1~21のいずれかに記載の抗体又はその断片、或いは、項22に記載の断片。
[項35]
25℃で24時間にわたり基質DNA(ここで、基質DNAは一本鎖であっても二本鎖であってもよく、基質DNAはプローブとしての機能を有していてもよい)と5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインを有するDNAポリメラーゼとを共存させた場合、該基質DNA分解率が40%以下である、項1~21及び34のいずれかに記載の抗体又はその断片、或いは、項22に記載の断片。
[項36]
5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインを有するDNAポリメラーゼと、プライマー、プローブ、及び核酸テンプレートからなる群より選択される少なくとも一種の核酸とを含む組成物を安定化するための試薬であって、項1~21、34、及び35のいずれかに記載の抗体又はその断片、或いは、項22に記載の断片を含む試薬。
[項37]
5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインを有するDNAポリメラーゼと、プライマー、プローブ、及び核酸テンプレートからなる群より選択される少なくとも一種の核酸とを含む組成物を安定化する方法であって、項1~21、34、及び35のいずれかに記載の抗体又はその断片、或いは、項22に記載の断片を前記組成物に添加する工程を含む、方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインに特異的に結合する抗体又はその断片、及び当該抗体又はその断片の有用な製造方法が提供される。例えば、当該抗体又はその断片を、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインを有するDNAポリメラーゼとプライマー、プローブ等の核酸とを含む試薬に添加することにより、核酸の分解を抑制でき、試薬の安定性を向上させることが可能となる。また、前記試薬を用いて標的核酸を増幅する場合、核酸の分解による断片の発生を抑制することで、標的核酸の非特異増幅を抑制でき、標的核酸を高効率に増幅することができるので、非常に微量な標的核酸であっても高感度に検出することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.定義等
本明細書において、アミノ酸は、天然アミノ酸であっても非天然アミノ酸であってもよい。非天然アミノ酸としては、例えばシトルリン、オルニチン、ε-アセチル-リジン、β-アラニン、アミノ安息香酸、6-アミノカプロン酸、アミノ酪酸、ヒドロキシプロリン、メルカプトプロピオン酸、3-ニトロチロシン、ノルロイシン、ピログルタミン酸等が挙げられるが、これらに限定されない。また、アミノ酸は、例えばL-アミノ酸、D-アミノ酸、又はDL-アミノ酸であってもよい。
【0014】
本明細書において、アミノ酸配列の同一性とは、比較対象の2以上のアミノ酸配列を最適にアライメントさせたときのアミノ酸の一致の程度をいう。アミノ酸配列の同一性は、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができ、例えば、市販のソフトウェアGENETYX(株式会社ゼネティックス社)を用いて、又は全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)においてデフォルト(初期設定)のパラメータを用いて算出することができる。
【0015】
本明細書に開示されるアミノ酸配列は、DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼドメインに対する結合性を阻害しない限り、配列中の1個以上(例えば1、2、又は3個)のアミノ酸を欠失、置換、又は修飾してもよく、1個以上(例えば1、2、又は3個)のアミノ酸を配列に挿入又は付加してもよい。
【0016】
アミノ酸の置換は、構造及び/又は性質が類似する別のアミノ酸への置換(保存的置換)であることが好ましい。保存的置換は、例えば表1に示す群内での置換が挙げられる。
【0017】
【0018】
アミノ酸の修飾としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルフヒドリル(SH)基等の官能基の修飾が挙げられる。前記官能基の修飾は、例えばグリコシル化;メチル化;エステル化;アミド化;PEG化;リン酸化;ヒドロキシル化;t-ブトキシカルボニル(Boc)基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基等の保護基との結合;ビオチニル化;フルオレセインイソチオシアネート(FITC)等の蛍光色素との結合;ペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(ALP)等の酵素との結合等であってもよい。
【0019】
本明細書において、抗体は、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましい。抗体は、任意のアイソタイプ、例えばIgG、IgA、IgD、IgE、IgM等であることができる。抗体は、マウス抗体、ラット抗体、モルモット抗体、ヒト抗体等が挙げられるが、これらに限定されない。抗体は、モルモット-マウスキメラ抗体、マウス-ヒトキメラ抗体等のキメラ抗体であってもよい。
【0020】
本明細書において、抗体の断片としては、重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3を含む限り、特に制限されず、例えばFv、Fab、Fab’、(Fab’)2、scFv、scFv-Fc、diabody、triabody、tetrabody、minibody等が挙げられる。好ましくは、抗体の断片は、抗原結合能を有する断片(抗原結合断片)である。
【0021】
本明細書において、重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3は、IMGT/BlastSearch(http://www.imgt.org/blast/)による相同性検索によって特定される。
【0022】
DNA、RNA等のヌクレオチドには、次に例示するように公知の化学修飾が施されている類似体類であってもよい。例えば、ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えばホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えば-CH3、-CH2CH2OCH3、-CH2CH2NHC(NH)NH2、-CH2CONHCH3、-CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換等が挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えばビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0023】
2.DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメイン(以下「ドメインE」と表記する)に特異的に結合する抗体
本発明の抗体又はその断片は、DNAポリメラーゼのドメインEに特異的に結合することにより、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を阻害することができ、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性阻害剤として有用である。本発明の5’→3’エキソヌクレアーゼ活性阻害剤は抗体であるので、特異性が高く、また加熱等で阻害活性を失活させることもできるのでホットスタート法にも適用させ易いという利点がある。DNAポリメラーゼは、ドメインEを有する限り、特に限定されない。DNAポリメラーゼは、野生型のDNAポリメラーゼであってもよく、該DNAポリメラーゼをコードする遺伝子を任意の宿主細胞へ導入して得られた組換えDNAポリメラーゼであってもよく、該遺伝子を改変したDNAポリメラーゼであってもよい。例えば、DNAポリメラーゼは、野生型ではドメインEを有さないDNAポリメラーゼにドメインEを融合したDNAポリメラーゼであってもよい。
【0024】
一実施形態において、DNAポリメラーゼは、耐熱性DNAポリメラーゼであることが好ましい。ここで、「耐熱性」とは、例えば60℃で30分間のように高温で熱処理しても、DNAポリメラーゼ活性を好ましくは50%以上保持している性質をいう。耐熱性DNAポリメラーゼとしては、例えば、Thermus aquaticus由来のDNAポリメラーゼ(Taqポリメラーゼ)、Thermus thermophilus HB8由来のDNAポリメラーゼ(Tthポリメラーゼ)、Thermus sp Z05由来のDNAポリメラーゼ(Z05ポリメラーゼ)、Bacillus caldotenax由来のDNAポリメラーゼ(Bcaポリメラーゼ)、Bacillus stearothermophilus由来のDNAポリメラーゼ(Bstポリメラーゼ)、Thermococcus kodakarensis由来のDNAポリメラーゼ(KODポリメラーゼ)、Pyrococcus furiosus由来のDNAポリメラーゼ(Pfuポリメラーゼ)、Pyrococcus woesei由来のDNAポリメラーゼ(Pwoポリメラーゼ)、Thermus brockianus由来のDNAポリメラーゼ(Tbrポリメラーゼ)、Thermus filiformis由来のDNAポリメラーゼ(Tfiポリメラーゼ)、Thermus flavus由来のDNAポリメラーゼ(Tflポリメラーゼ)、Thermotoga maritima由来のDNAポリメラーゼ(Tmaポリメラーゼ)、Thermotoga neapolitana由来のDNAポリメラーゼ(Tneポリメラーゼ)、Thermococcus litoralis由来のDNAポリメラーゼ(Ventポリメラーゼ)、Pyrococcus GB-D由来のDNAポリメラーゼ(DEEPVENTポリメラーゼ)等が挙げられるが、これらに限定されない。なお、Taqポリメラーゼ等の用語には変異体も含まれる。ここで、変異体とは、元のDNAポリメラーゼのアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、ポリメラーゼ活性、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性、及び耐熱性等の酵素学的性質が維持されているものをいう。変異体のポリメラーゼ活性ドメインは、元のDNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性ドメインのアミノ酸配列に対して85%以上(好ましくは90%以上又は95%以上)の同一性を有するアミノ酸配列からなることが好ましい。変異体のドメインEは、元のDNAポリメラーゼのドメインEのアミノ酸配列に対して85%以上(好ましくは90%以上又は95%以上)の同一性を有するアミノ酸配列からなることが好ましい。変異体におけるアミノ酸の変異は保存的置換であることが好ましい。
【0025】
一実施形態において、DNAポリメラーゼは、Family Aに属するDNAポリメラーゼであることが好ましい。Family Aに属するDNAポリメラーゼとしては、例えば、Taqポリメラーゼ、Tthポリメラーゼ、Z05ポリメラーゼ、Tmaポリメラーゼ、Bcaポリメラーゼ、Bstポリメラーゼ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
DNAポリメラーゼは、Taqポリメラーゼ、Tthポリメラーゼ、及びZ05ポリメラーゼからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。特定の実施形態では、Taqポリメラーゼ、Tthポリメラーゼ、及びZ05ポリメラーゼからなる群より選択される2種以上のDNAポリメラーゼであることが好ましく、Taqポリメラーゼと、Tthポリメラーゼ及びZ05ポリメラーゼからなる群より選択される少なくとも1種との組合せであることがより好ましい。
【0027】
DNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性は以下のようにして測定する。なお、ポリメラーゼ活性が強い場合には、保存緩衝液(50mM Tris-HCl(pH8.0),50mM KCl,1mM ジチオスレイトール,0.1%(v/v) ポリエチレングリコールソルビタンモノラウラート(Tween(商標) 20),0.1%(v/v) オクチルフェニル-ポリエチレングリコール(Nonidet(商標) P40),50%(v/v) グリセリン)でDNAポリメラーゼ溶液を希釈してから以下のようにして測定を行う。
(1)下記のA液25μl、B液5μl、C液5μl、滅菌水10μl、及びDNAポリメラーゼ溶液5μlをマイクロチューブに加えて75℃にて10分間反応する。
(2)その後氷冷し、E液50μl及びD液100μlを加えて、攪拌後更に10分間氷冷する。
(3)この液をガラスフィルター(ワットマン製GF/Cフィルター)で濾過し、0.1N 塩酸及びエタノールで十分洗浄する。
(4)フィルターの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード製)で計測し、鋳型DNAのヌクレオチドの取り込みを測定する。ポリメラーゼ活性の1単位(ユニット)はこの条件で30分当りの10nmolのヌクレオチドを酸不溶性画分(即ち、D液を添加したときに不溶化する画分)に取り込むDNAポリメラーゼ量とする。
A液:40mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)16mM 塩化マグネシウム15mM ジチオスレイトール100μg/mL BSA(牛血清アルブミン)
B液:1.5μg/μl 活性化仔牛胸腺DNA
C液:1.5mM dNTP(250cpm/pmol [3H]dTTP)
D液:20%(w/v) トリクロロ酢酸(2mMピロリン酸ナトリウム)
E液:1mg/mL 仔牛胸腺DNA
【0028】
一実施形態において、本発明の抗体又はその断片は、
配列番号1:
に示されるアミノ酸配列(Taqポリメラーゼ(野生型)のEドメインのアミノ酸配列)、
配列番号2:
に示されるアミノ酸配列(Tthポリメラーゼ(野生型)のEドメインのアミノ酸配列)、
配列番号3:
に示されるアミノ酸配列(Z05ポリメラーゼ(野生型)のEドメインのアミノ酸配列)、及び
これらのアミノ酸配列に対して80%以上(好ましくは85%以上、90%以上、又は95%以上)の同一性を有するアミノ酸配列
からなる群より選択される少なくとも一種のEドメインに結合することが好ましい。
【0029】
一実施形態において、本発明の抗体又はその断片は、上記の配列番号1~3のいずれかで示すアミノ酸配列において四角形で囲った4つのアミノ酸領域のいずれかのアミノ酸領域の一部又は全部を少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つ)のエピトープとして結合(又は認識)するものであることが好ましい。上記の四角形で囲った4つのアミノ酸領域のうち、配列番号1のN末端から56~66番目のアミノ酸領域又は配列番号2若しくは3のN末端から56~67番目のアミノ酸領域を「アミノ酸領域A」といい;配列番号1のN末端から75~81番目のアミノ酸領域又は配列番号2若しくは3のN末端から76~82番目のアミノ酸領域を「アミノ酸領域B」といい;配列番号1のN末端から161~182番目のアミノ酸領域又は配列番号2若しくは3のN末端から162~183番目のアミノ酸領域を「アミノ酸領域C」といい;配列番号1のN末端から269~285番目のアミノ酸領域又は配列番号2若しくは3の271~287番目のアミノ酸領域を「アミノ酸領域D」という。Taqポリメラーゼを始めとするpolIポリメラーゼファミリーは、N末端から200番目付近までに保存性が特に高い領域が複数存在することが知られている(Kim Yら、Mol.Cells,Vol.7,No4,pp.468-472(参照することによりその全体が明細書に組み込まれる))。本発明の抗体又はその断片は、polIポリメラーゼのN末端から200番目付近の領域(例えば、アミノ酸領域A~C)内に存在する少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つ)のエピトープに結合する抗体又はその断片であることが特に好ましい。このような観点から、本発明の抗体又はその断片は、アミノ酸領域A及び/又はアミノ酸領域Bの一部又は全部を少なくとも1つのエピトープとして結合するものであることが好ましい。特定の実施形態では、少なくともアミノ酸領域Aの一部又は全部と、アミノ酸領域C又はDのいずれかの一部又は全部(特に一部)とをエピトープとして結合する抗体又はその断片であることが好ましい。更に別の実施形態では、少なくともアミノ酸領域Bの一部又は全部(特に全部)と、アミノ酸領域C又はDのいずれかの一部又は全部(特に一部)とをエピトープとして結合する抗体又はその断片であることが好ましい。
【0030】
アミノ酸領域Aの一部又は全部のエピトープとしては、例えば、EDGDAVIVVF(配列番号60)、KEDGDAVIVVF(配列番号61)、EDGYKAVFVVF(配列番号62)、KEDGYKAVFVVF(配列番号63)が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、アミノ酸領域Aの一部又は全部のエピトープは、配列番号60又は62を含むことが好ましい。好適な実施形態において、アミノ酸領域Aの一部又は全部のエピトープは、配列番号60、61、又は62であり、配列番号61又は62であることがより好ましい。
アミノ酸領域Bの一部又は全部のエピトープとしては、例えば、HEAYGGY(配列番号64)、HEAYEAY(配列番号65)が挙げられるが、これらに限定されない。
アミノ酸領域Cの一部又は全部のエピトープとしては、例えば、HLITPEWLW(配列番号66)、KYGLRPEQWVDF(配列番号67)、EKYGLRPDQWADY(配列番号68)、KYGLRPDQWADY(配列番号69)、GLRPEQWVDF(配列番号70)、ITPEWLW(配列番号71)、YLITPAWLWEKYGLRPDQWADY(配列番号72)、HLITPEWLWEKYGLRPEQWVDF(配列番号73)、HLITPEWLWEKYGLKPEQWVDF(配列番号74)が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、アミノ酸領域Cの一部又は全部のエピトープは、配列番号68、70、又は71を含むことが好ましい。好適な実施形態において、アミノ酸領域Cの一部又は全部のエピトープは、配列番号66、67、68、70、又は71である。
アミノ酸領域Dの一部又は全部のエピトープとしては、例えば、LERLEF(配列番号75)、LERLEFGSLLH(配列番号76)、LERLEFGSLLHEF(配列番号77)、LRAFLERLEF(配列番号78)、RAFLERLEF(配列番号79)、RAFLERLEFGSLLH(配列番号80)、LEFGSLLH(配列番号81)、LEFGSLLHEF(配列番号82)、LRAFLERLEFGSLLHEF(配列番号83)が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、アミノ酸領域Dの一部又は全部のエピトープは、配列番号75、76、78、79、又は81を含むことが好ましい。好適な実施形態において、アミノ酸領域Dの一部又は全部のエピトープは、配列番号77、78、80、又は82である。
【0031】
前記エピトープの長さは特に限定されないが、例えば、5~25残基で構成され、6~20残基で構成されることが好ましく、6~15残基で構成されることがより好ましく、7~14残基で構成されることがさらに好ましい。
【0032】
一実施態様において、本発明の抗体又はその断片の重鎖CDR1は、下記のアミノ酸配列からなることが好ましい:
・表2に示す式(A-1)で表されるアミノ酸配列、
・当該アミノ酸配列に対して90%以上(好ましくは95%以上)の同一性を有するアミノ酸配列、又は
・当該アミノ酸配列の1~3個(好ましくは1又は2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が変異(好ましくは保存的置換)しているアミノ酸配列。
【0033】
【0034】
式(A-1)において、XA3は好ましくはTであり、XA4は好ましくはFであり、XA5は好ましくはD、N、又はSであり、XA6は好ましくはD、N、S、K、又はH、或いは、D、N、S、又はHであり、XA7は好ましくはY又はW、或いは、Yであり、XA8は好ましくはG、W、又はYである。
【0035】
本発明の抗体又はその断片の重鎖CDR1は、好ましくは式(A-1-1)で表されるアミノ酸配列、さらに好ましくは式(A-1-2)~(A-1-9)からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる。前記同一性は、好ましくは91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、又は95%以上である。
【0036】
一実施態様において、本発明の抗体又はその断片の重鎖CDR2は、下記のアミノ酸配列からなることが好ましい:
・表3に示す式(B-1)で表されるアミノ酸配列、
・当該アミノ酸配列に対して90%以上(好ましくは95%以上)の同一性を有するアミノ酸配列、又は
・当該アミノ酸配列の1~3個(好ましくは1又は2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が変異(好ましくは保存的置換)しているアミノ酸配列。
【0037】
【0038】
式(B-1)において、XB2は好ましくはG、S、T、K、又はN、G、S、又はK、或いは、Sであり、XB3は好ましくはY、L、G、T、又はN、さらに好ましくはL、G、又はN、L又はN、或いは、Y、G、又はTであり、XB4は好ましくはG、S、T、D、又はH、さらに好ましくはG、S、T、又はD、S又はT、或いは、G、D、又はHであり、XB5は好ましくはG又はS、或いは、Gであり、XB6は好ましくはG、S、T、又はD、G、S、又はT、或いは、G又はSであり、XB7は好ましくはS、T、Y、D、又はH、さらに好ましくはS、T、又はY、S又はT、或いは、T、Y、D、又はHであり、XB8は好ましくはS、T、V、I、又はM、さらに好ましくはS、T、又はI、S又はT、或いは、T、V、I、又はMである。
【0039】
本発明の抗体又はその断片の重鎖CDR2は、好ましくは式(B-1-1)で表されるアミノ酸配列、さらに好ましくは式(B-1-2)~(B-1-10)からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる。前記同一性は、好ましくは91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、又は95%以上である。
【0040】
一実施態様において、本発明の抗体又はその断片の重鎖CDR3は、下記のアミノ酸配列からなることが好ましい:
・表4に示す式(C-1)~(C-6)のいずれかで表されるアミノ酸配列、
・当該アミノ酸配列に対して90%以上(好ましくは95%以上)の同一性を有するアミノ酸配列、又は
・当該アミノ酸配列の1~3個(好ましくは1又は2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が変異(好ましくは保存的置換)しているアミノ酸配列。
【0041】
【0042】
式(C-1)において、XC1は好ましくはA又はR、さらに好ましくはRであり、XC2は好ましくはP又はR、さらに好ましくはRであり、XC3は好ましくはT又はI、さらに好ましくはTであり、XC4は好ましくはV又はL、さらに好ましくはVであり、XC5は好ましくはP又はA、さらに好ましくはPであり、XC6は好ましくはT又はY、さらに好ましくはTであり、XC7は好ましくはV、T、又はN、さらに好ましくはVである。
【0043】
式(C-2)において、XC1は好ましくはA又はR、さらに好ましくはAであり、XC2は好ましくはP又はR、さらに好ましくはPであり、XC3は好ましくはT又はI、さらに好ましくはIであり、XC4は好ましくはV又はLであり、XC5は好ましくはP又はA、さらに好ましくはAであり、XC6は好ましくはT又はY、さらに好ましくはYであり、XC7は好ましくはV、T、又はN、さらに好ましくはV又はTである。
【0044】
式(C-3)において、XC7は好ましくはV、T、又はN、さらに好ましくはNである。
【0045】
式(C-5)において、XC7は好ましくはV、T、又はN、さらに好ましくはVである。
【0046】
式(C-6)において、XC7は好ましくはV、T、又はN、さらに好ましくはVである。
【0047】
本発明の抗体又はその断片の重鎖CDR3は、好ましくは式(C-1-1)、(C-2-1)、(C-3-1)、(C-4)、(C-5-1)、及び(C-6-1)からなる群より選択されるアミノ酸配列、さらに好ましくは(C-1-2)、(C-2-2)、(C-2-3)、(C-3-2)、(C-3-3)、(C-4)、(C-5-2)、及び(C-6-2)からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる。前記同一性は、好ましくは91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、又は95%以上である。
【0048】
一実施態様において、本発明の抗体又はその断片の軽鎖CDR1は、下記のアミノ酸配列からなることが好ましい:
・表5に示す式(D-1)で表されるアミノ酸配列、
・当該アミノ酸配列に対して90%以上(好ましくは95%以上)の同一性を有するアミノ酸配列、又は
・当該アミノ酸配列の1~3個(好ましくは1又は2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が変異(好ましくは保存的置換)しているアミノ酸配列。
【0049】
【0050】
式(D-1)において、XD1は好ましくはQであり、XD2は好ましくはG又はSであり、XD3は好ましくはV又はIであり、XD4は好ましくはS又はKであり、XD5は好ましくはS、N、又はK、或いは、S又はNであり、XD6は好ましくはF又はY、或いは、Yである。
【0051】
本発明の抗体又はその断片の軽鎖CDR1は、好ましくは式(D-1-1)で表されるアミノ酸配列、さらに好ましくは(D-1-2)~(D-1-8)からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる。前記同一性は、好ましくは91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、又は95%以上である。
【0052】
一実施態様において、本発明の抗体又はその断片の軽鎖CDR2は、下記のアミノ酸配列からなることが好ましい:
・表6Aに示す式(E-1)で表されるアミノ酸配列、
・当該アミノ酸配列に対して90%以上(好ましくは95%以上)の同一性を有するアミノ酸配列、又は
・当該アミノ酸配列の1~3個(好ましくは1又は2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が変異(好ましくは保存的置換)しているアミノ酸配列。
【0053】
【0054】
式(E-1)において、XE1は好ましくはG、T、D、Y、又はR、より好ましくはG、Y、又はR、或いは、G、T、D、又はR、さらに好ましくはY、或いは、G、T、D、又はRであり、XE2は好ましくはA、T、又はV、さらに好ましくはA又はT、或いは、A又はVであり、XE3は好ましくはK、D、N、又はS、より好ましくはK、D、又はN、或いは、K又はS、さらに好ましくはD又はN、或いは、K又はSである。
【0055】
本発明の抗体又はその断片の軽鎖CDR2は、好ましくは式(E-1-1)で表されるアミノ酸配列、より好ましくは(E-1-2)又は(E-1-3)で表されるアミノ酸配列、さらに好ましくは(E-1-4)~(E-1-12)からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる。前記同一性は、好ましくは91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、又は95%以上である。
【0056】
一実施態様において、本発明の抗体又はその断片の軽鎖CDR2のC末端には、下記のアミノ酸配列が隣接していることが好ましい:
・表6Bに示す式(E-2)で表されるアミノ酸配列、
・当該アミノ酸配列に対して90%以上(好ましくは95%以上)の同一性を有するアミノ酸配列、又は
・当該アミノ酸配列の1~3個(好ましくは1又は2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が変異(好ましくは保存的置換)しているアミノ酸配列。
【0057】
【0058】
式(E-2)において、XE4は好ましくはS、R、N、Y、又はT、さらに好ましくはS、或いは、R、N、Y、又はTであり、XE5は好ましくはL又はR、或いは、Lであり、XE6は好ましくはA、P、又はY、さらに好ましくはA又はP、或いは、A又はYであり、XE7は好ましくはS又はT、或いは、Sである。
【0059】
本発明の抗体又はその断片の軽鎖CDR2のC末端には、好ましくは式(E-2-1)又は(E-2-2)で表されるアミノ酸配列、さらに好ましくは(E-2-3)~(E-2-8)からなる群より選択されるアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列が隣接している。前記同一性は、好ましくは91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、又は95%以上である。
【0060】
本発明の抗体又はその断片の軽鎖CDR2のN末端に隣接するアミノ酸は、特に限定されないが、Y、F、又はHであることが好ましく、これらのアミノ酸が保存的置換されていることも好ましい。
【0061】
一実施態様において、本発明の抗体又はその断片の軽鎖CDR3は、下記のアミノ酸配列からなることが好ましい:
・表7に示す式(F-1)又は(F-2)で表されるアミノ酸配列、
・当該アミノ酸配列に対して90%以上(好ましくは95%以上)の同一性を有するアミノ酸配列、又は
・当該アミノ酸配列の1~3個(好ましくは1又は2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が変異(好ましくは保存的置換)しているアミノ酸配列。
【0062】
【0063】
式(F-1)において、XF1は好ましくはL、Q、F、又はY、より好ましくはL、Q、又はY、或いは、Q、F、又はY、さらに好ましくはL、Q、又はY、或いは、Q又はFであり、XF2は好ましくはQであり、XF3は好ましくはS又はY、或いは、Yであり、XF4は好ましくはG、N、Q、又はY、さらに好ましくはN、Q、又はY;G、Q、又はY;G、N、又はY;或いはG又はYであり、XF5は好ましくはS、N、又はI、さらに好ましくはS又はI、或いは、S又はNであり、XF6は好ましくはG、S、Y、又はW、さらに好ましくはG、Y、又はW;S、Y、又はW;或いは、G又はSであり、XF7は好ましくはS、P、又はW、さらに好ましくはP又はW;S又はP;或いはPであり、XF8は好ましくはL、P、H、又はY、さらに好ましくはL、H、Y、又はT、或いは、Pである。
【0064】
本発明の抗体又はその断片の軽鎖CDR3は、好ましくは式(F-1-1)又は(F-2-1)で表されるアミノ酸配列、さらに好ましくは(F-1-2)~(F-1-5)及び(F-2-2)~(F-2-4)で表されるアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる。前記同一性は、好ましくは91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、又は95%以上である。
【0065】
本発明の抗体又はその断片の重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3の組合せの好適な例を表8Aに示す。
【0066】
【0067】
本発明の抗体又はその断片の重鎖CDR1~3、軽鎖CDR1~3、及び軽鎖CDR2のC末端に隣接する配列の組合せの好適な例を表8Bに示す。
【0068】
【0069】
組合せC14~C26において、重鎖CDR1~3、軽鎖CDR1~3、及び軽鎖CDR2のC末端に隣接する配列のうち少なくとも1個のアミノ酸配列において、1~3個(好ましくは1又は2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が変異(好ましくは保存的置換)しているものも好ましい。
【0070】
重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3以外の領域は、抗体に使用し得るものであれば、特に制限されず、任意のアミノ酸配列とすることができる。定常領域としては、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgA1、IgA2、IgMの定常領域等を使用することができるが、これらに限定されない。また、定常領域は、任意の動物、例えば、マウス、ハムスター、ラット、モルモット、ウサギ、フェレット、ヤギ、サル、ヒト等の哺乳類に由来する定常領域であってもよく、例えば、配列番号51及び52に示されるアミノ酸配列(モルモット由来の重鎖及び軽鎖定常領域)、配列番号53及び54に示されるアミノ酸配列(マウス由来の重鎖及び軽鎖定常領域)、これらのアミノ酸配列に対して80%以上(好ましくは85%以上、90%以上、又は95%以上)の同一性を有するアミノ酸配列からなる配列領域が挙げられる。
【0071】
DNAポリメラーゼのドメインEに対する、本発明の抗体又はその断片の平衡解離定数(KD)は、例えば50nM以下、好ましくは10nM以下であり、例えば1pM以上である。KDは、例えば後述の実施例のように、Biacore(商標)X100(Cytiva社)を用いて測定することができる。具体的には、NHS(N-hydroxysuccinimide)及びEDC(N-ethyl-N’-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride)を利用したアミンカップリング反応によって、CM5センサーチップ(Cytiva社)のカルボキシメチルデキストランにリガンド(5’→3’エキソヌクレアーゼ活性ドメインを有するDNAポリメラーゼ)を固定化し、1M エタノールアミン塩酸塩溶液でブロッキングを行ってリガンドを固定化したフローセルを用意し、次いで、段階希釈した抗体を前記フローセル上に添加して反応シグナルを解析することによって、KDを算出することができる。
【0072】
一つの実施形態では、本発明の抗体又はその断片について、37℃で24時間にわたりDNAポリメラーゼと共存させた場合、該DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する阻害能は、例えば、50%以上、好ましくは60%以上、70%以上、80%以上、又は90%以上である。当該阻害能は、後述の実施例のように、下記の成分:
放射性同位元素で標識した基質核酸λDNA;
DNAポリメラーゼ単独(1ユニット(U))、又は、DNAポリメラーゼ(1U)及び本発明の抗体又はその断片(0.005μg/μL);
10mM Tris-HCl(pH8.6);
50mM KCl;及び
1.5mM MgCl2
を含む溶液を37℃で24時間インキュベートした際に遊離する標識塩基の放射能を測定し、下記式により算出することができる。
5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する阻害能(%)=(N2-N3)÷(N2-N1)×100
N1:本発明の抗体又はその断片を含まない溶液を37℃で24時間インキュベートする前(又は-20℃で24時間インキュベートした後)の遊離ヌクレオチドの量、或いは、本発明の抗体又はその断片もDNAポリメラーゼも含まない溶液を37℃で24時間インキュベートした後の遊離ヌクレオチドの量
N2:本発明の抗体又はその断片を含まない溶液を37℃で24時間インキュベートした後の遊離ヌクレオチドの量
N3:本発明の抗体又はその断片を含む溶液を37℃で24時間インキュベートした後の遊離ヌクレオチドの量
【0073】
別の実施形態において、本発明の抗体又はその断片について、25℃で24時間にわたり基質DNA(ここで、基質DNAは一本鎖であっても二本鎖であってもよく、基質DNAはプローブとしての機能を有していてもよい)とDNAポリメラーゼとを共存させた場合、該DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する阻害能(基質DNA分解阻害能)は、例えば、下記(1)又は(2)の方法で定量的に確認することもできる。
(1)本発明の抗体又はその断片を蛍光標識基質DNA(例えば蛍光標識プローブ)と共存させて、25℃で24時間曝露した反応液と、コントロールの反応液(本発明の抗体又はその断片の非存在下、-20℃で24時間曝露後又は25℃で24時間曝露前の反応液)についてリアルタイムPCRでのCt値を比較する。Ct値の差が小さいほど、DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する阻害能が高いことを意味する。
(2)本発明の抗体又はその断片を蛍光標識基質DNA(例えば蛍光標識プローブ)と共存させて、25℃で24時間曝露した反応液と、コントロールの反応液(本発明の抗体又はその断片の非存在下、-20℃で24時間曝露後又は25℃で24時間曝露前の反応液)についてリアルタイムPCRでのサイクル初期の蛍光強度を比較する。蛍光強度の差が小さいほど、DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する阻害能が高いことを意味する。
【0074】
(1)及び(2)における反応液としては、例えば、
下記の成分:
本発明の抗体又はその断片(0.06μg/μL);
配列番号49に記載のTaqポリメラーゼ(0.05U/μL);
ホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体(0.01μg/μL);
10mM Tris-HCl(pH8.3);
50mM KCl;
1.5mM MgCl2;
0.3mM dNTPs;
HeLa細胞RNA由来のcDNA(5ng/μL);及び
プライマー及びプローブ溶液(全体の液量の1/20量)
を含む反応液、又は
下記の成分:
本発明の抗体又はその断片(0.06μg/μL);
配列番号50に記載のTthポリメラーゼ又は配列番号55に記載のZ05ポリメラーゼ(0.05U/μL);
ホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体(0.01μg/μL);
10mM Tris-HCl(pH8.3);
80mM KCl;
1.5mM MgCl2;
0.5mg/mL BSA;
0.1%(v/v) TritonX-100;
0.1%(w/v) コール酸ナトリウム;
0.3mM dNTPs;
HeLa細胞RNA由来のcDNA(5ng/μL);及び
プライマー及びプローブ溶液(全体の液量の1/20量)
を含む反応液を使用することができる。
【0075】
上記の反応液中のプライマー及びプローブ溶液としては、例えば、下記を用いる:Thermo Fisher Scientific株式会社のTaqMan(登録商標) Gene Expression Assays
[遺伝子:
Interleukin 6、Assay ID: Hs00985639_m1(以下「IL6」と略す)、
cyclin―dependent kinase 10、Assay ID: Hs00177586_m1(以下「CDK10」と略す)、
APC、WNT signaling pathway regulator、Assay ID: Hs01568269_m1(以下「APC」と略す)、
mitogen―activated protein kinase 8、Assay ID: Hs00177083_m1(以下「MAPK8」と略す)、
SIVA1 apoptosis inducing factor、Assay ID: Hs00276002_m1(以下「SIVA1」と略す)、
ribosomal protein S19、Assay ID: Hs03044115_g1(以下「RPS19」と略す)、又は
serpin family B member 5、Assay ID: Hs00985285_m1(以下「SERPINB5」と略す)]
【0076】
上記の反応液について、下記(a)~(c)の1個、2個、又は3個を満たすことが好ましい。
(a)25℃で24時間曝露前(又は-20℃で24時間曝露後)のCt値/25℃で24時間曝露後のCt値≧0.8
(b)25℃で24時間曝露前(又は-20℃で24時間曝露後)のサイクル初期の蛍光強度/25℃で24時間曝露後のサイクル初期の蛍光強度≧0.3
(式中、サイクル初期の蛍光強度とは、増幅曲線が立ち上がるまでのリアルタイムPCRにおける蛍光強度を指し、サイクル初期とは、通常は1~30サイクル目までをいう)
(c)蛍光標識基質DNA分解率≦40%
(式中、蛍光標識基質DNA分解率は、下記式で算出できる:
蛍光標識基質DNA分解率(%)=(F13-F11)÷(F12-F11)×100
F11:本発明の抗体又はその断片を含まない場合の25℃で24時間曝露前(又は-20℃で24時間曝露後)のサイクル初期の蛍光強度
F12:本発明の抗体又はその断片を含まない場合の25℃で24時間曝露後のサイクル初期の蛍光強度
F13:本発明の抗体又はその断片を含む場合の25℃で24時間曝露後のサイクル初期の蛍光強度)
【0077】
上記(a)における値(Ct値比)は、好ましくは0.9以上である。上記(b)における値(蛍光強度比)は、好ましくは0.35以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.7以上である。上記(c)における値(蛍光標識基質DNA分解率)は、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下である。
【0078】
更に他の実施形態において、本発明の抗体又はその断片について、25℃又は37℃で24時間にわたり基質DNA(ここで、基質DNAは一本鎖であっても二本鎖であってもよく、基質DNAはプローブとしての機能を有していてもよい)とDNAポリメラーゼとを共存させた場合、該DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する阻害能(基質DNA分解阻害能)は、例えば、下記(3)又は(4)の方法で定量的に確認することもできる。
(3)本発明の抗体又はその断片を基質DNA(例えば二本鎖基質DNA)と共存させて、25℃で24時間曝露した溶液と、コントロールの溶液(本発明の抗体又はその断片の非存在下で-20℃で24時間曝露後又は25℃で24時間曝露前の溶液)についてゲル電気泳動により基質DNAのバンド強度を比較する。バンド強度の差が小さいほど、DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する阻害能が高いことを意味する。
(4)本発明の抗体又はその断片を蛍光標識基質DNA(例えば、少なくとも一方の鎖が蛍光標識された二本鎖基質DNA)と共存させて、37℃で24時間曝露した反応液と、コントロールの反応液(本発明の抗体又はその断片の非存在下で-20℃で24時間曝露後又は37℃で24時間曝露前の反応液)についてリアルタイムPCRでのサイクル初期の蛍光強度又は分光光度計における蛍光強度を比較する。蛍光強度の差が小さいほど、DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する阻害能が高いことを意味する。
【0079】
(3)及び(4)における溶液又は反応液としては、例えば、
下記の成分:
本発明の抗体又はその断片(0.06μg/μL);
配列番号49に記載のTaqポリメラーゼ(0.05U/μL);
ホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体(0.01μg/μL);
10mM Tris-HCl(pH8.3);
50mM KCl;
1.5mM MgCl2;
0.3μM 基質DNA;
を含むもの、又は
下記の成分:
本発明の抗体又はその断片(0.06μg/μL);
配列番号50に記載のTthポリメラーゼ又は配列番号55に記載のZ05ポリメラーゼ(0.05U/μL);
ホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体(0.01μg/μL);
10mM Tris-HCl(pH8.3);
50mM KCl;
1.5mM MgCl2;
0.3μM 基質DNA;
を含むものを使用することができる。
【0080】
(3)の方法では、基質DNAは蛍光色素や放射性同位元素等で標識されていても、標識されていなくてもよい。基質DNAのうち、二本鎖基質DNAの例としては、配列番号56及び配列番号57の組合せに代表される、少なくとも一方の鎖の3’末端が他方の鎖の5’末端よりも突出した二本鎖基質DNAが挙げられるが、特に限定されない。突出部分の塩基長は、例えば、3~10塩基長程度である。また、ゲル電気泳動の手法としては、例えば、アガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動などが挙げられるが、特に限定されない。核酸のバンド強度を定量できる装置を使用することが好ましく、当該装置の例としては、DNA/RNA分析用マイクロチップ電位泳動装置(MultiNA、株式会社島津製作所)又は全自動ハイスループット電気泳動システム(TapeStationシリーズ、アジレント・テクノロジー株式会社)などが挙げられるが、特に限定されない。
【0081】
(4)の方法では、基質DNAは蛍光標識されていることが好ましい。基質DNAのうち、二本鎖基質DNAの例としては、配列番号58及び配列番号59の組合せに代表される、少なくとも一方の鎖の3’末端が他方の鎖の5’末端よりも突出し、且つ、他方の鎖の少なくとも片側の末端が蛍光標識された二本鎖基質DNAが挙げられるが、特に限定されない。突出部分の塩基長は、例えば、3~10塩基長程度である。蛍光値の変化は、例えば、リアルタイムPCR装置や分光光度計による測定が挙げられるが、特に限定されない。
【0082】
上記の溶液又は反応液について、下記(d)及び(e)の1個又は2個を満たすことが好ましい。
(d)基質DNA分解率≦40%
(式中、基質DNA分解率は、下記式で算出できる:
基質DNA分解率(%)=(S11-S13)÷(S11-S12)×100
S11:本発明の抗体又はその断片を含まない場合の25℃で24時間曝露前(又は-20℃で24時間曝露後)のバンド強度
S12:本発明の抗体又はその断片を含まない場合の25℃で24時間曝露後のバンド強度
S13:本発明の抗体又はその断片を含む場合の25℃で24時間曝露後のバンド強度)
(e)蛍光標識基質DNA分解率≦40%
(式中、蛍光標識基質DNA分解率は、下記式で算出できる:
蛍光標識基質DNA分解率(%)=(F23-F21)÷(F22-F21)×100)
F21:本発明の抗体又はその断片を含まない場合の37℃で24時間曝露前(又は-20℃で24時間曝露後)のサイクル初期の蛍光強度
F22:本発明の抗体又はその断片を含まない場合の37℃で24時間曝露後のサイクル初期の蛍光強度
F23:本発明の抗体又はその断片を含む場合の37℃で24時間曝露後のサイクル初期の蛍光強度
サイクル初期:通常は1~30サイクル目
蛍光強度:リアルタイムPCRにおける蛍光強度)
【0083】
上記(d)における基質DNA分解率は、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下である。上記(e)における蛍光標識基質DNA分解率は、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下である。
【0084】
本発明の抗体又はその断片は、例えば、25℃で24時間、48時間、又は72時間、或いは、37℃で24時間にわたり、DNAポリメラーゼ及び核酸テンプレート、プライマー、プローブ等の核酸と共存させても、DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性による核酸の分解を抑制することができる。したがって、本発明の抗体又はその断片は、核酸増幅用試薬等の安定性を向上させるために好適に使用することができる。
【0085】
本発明の抗体又はその断片は、例えば、DNAポリメラーゼのドメインEを含む一部又は全部を免疫原として動物に免疫することにより取得され得る。免疫原は、好ましくはDNAポリメラーゼのドメインEを含む一部であり、より好ましくはTaqポリメラーゼ、Tthポリメラーゼ、及びZ05ポリメラーゼからなる群より選択される少なくとも一種のDNAポリメラーゼのドメインEを含む一部であり、さらに好ましくはTthポリメラーゼのドメインEを含む一部である。動物としては、例えば、マウス、ハムスター、ラット、モルモット、ウサギ、フェレット、ヤギ、サル、ヒト等の哺乳類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
本発明の抗体は、上記の免疫原で免疫した動物が産生する抗体をスクリーニングすることにより取得され得る。例えば、DNAポリメラーゼのドメインEを含む一部を免疫原とする場合、DNAポリメラーゼの全部に対する結合能を指標としてスクリーニングしてもよいし、DNAポリメラーゼの全部を免疫原とする場合、DNAポリメラーゼのドメインEを含む一部に対する結合能、又はDNAポリメラーゼの全部に対する結合能とDNAポリメラーゼのドメインEを含む一部以外に対する結合能との差を指標としてスクリーニングしてもよい。一実施形態において、DNAポリメラーゼのドメインEを含む一部を免疫原、DNAポリメラーゼの全体に対する結合能を指標としてスクリーニングすることが好ましく、TthポリメラーゼのドメインEを含む一部を免疫原、DNAポリメラーゼの全体に対する結合能を指標としてスクリーニングすることがさらに好ましい。
【0087】
具体的なスクリーニング方法は、例えば、哺乳類の脾臓細胞とミエローマ細胞を細胞融合させるハイブリドーマ法、抗体ファージライブラリーから標的分子に対して親和性を有する抗体を選択するファージディスプレイ法等であってもよいが、免疫動物から抗原特異的形質細胞を選別し、抗体遺伝子(全長又は可変領域等の一部)を単離して、抗原に親和性の高い組換え抗体を取得する方法であってもよい。
【0088】
抗原特異的形質細胞を選別する方法としては、例えば、米国特許出願公開第2014/031528号(参照することによりその全体が明細書に組み込まれる)に記載の方法、及び米国特許出願公開第2018/292407号(参照することによりその全体が明細書に組み込まれる)に記載の方法が挙げられる。前者の方法では、免疫動物から調製した細胞懸濁溶液に、蛍光標識抗原と小胞体親和性蛍光色素を作用させ、細胞表面に発現した抗体を蛍光標識することによって、抗原特異的形質細胞を同定することができる。後者の方法では、抗体産生細胞を含む細胞群に対して、架橋剤を用いた固定化処理及び界面活性剤による細胞膜溶解処理を行い、細胞内部に発現した抗体を蛍光標識抗原と結合させることによって、抗原特異的形質細胞を同定することができる。当該方法において、セルソーターを利用したシングルセル解析を行うことにより、目的抗原と結合した少なくとも1個の形質細胞を分離することができる。また、当該方法において、細胞の小胞体に対する染色選択性が高く、形質細胞及び形質芽細胞を他の細胞と識別可能な蛍光プローブを用いることができる。当該蛍光プローブとしては、例えば、米国特許出願公開第2013/029325号(参照することによりその全体が明細書に組み込まれる)に記載されたものを使用することができる。
【0089】
抗原特異的形質細胞から抗体遺伝子を取得する方法としては、例えば、ハイブリドーマ法、抗体遺伝子のクローニング等が挙げられるが、これらに限定されない。後者の方法としては、例えば、抗原特異的形質細胞からmRNAを抽出して逆転写を行い、cDNAを合成することで抗体遺伝子を取得する方法等が挙げられ、米国特許出願公開第2011/020879号(参照することによりその全体が明細書に組み込まれる)に記載の方法であってもよい。当該方法は、磁気ビーズを用いて抗原特異的形質細胞からmRNAを抽出し、RT-PCRにより抗体遺伝子を取得する方法であり、任意に洗浄工程を含む、mRNAからのcDNA合成、DNAの増幅等の複数の逐次反応を並列的に実施できる反応治具を利用する方法である。
【0090】
抗体遺伝子から組換え抗体を取得する方法は、例えば、抗体遺伝子を含む抗体発現ベクターを作製し、この抗体発現ベクターから抗体を発現させる方法であってもよい。当該方法としては、例えば、米国特許出願公開第2013/023009号(参照することによりその全体が明細書に組み込まれる)に記載の方法、及び米国特許出願公開第2011/117609号(参照することによりその全体が明細書に組み込まれる)に記載の方法等が挙げられる。前者の方法では、標的遺伝子配列を含むPCR増幅産物に一つ以上の二本鎖DNA断片を連結させることで、前記PCR増幅産物を精製することなく、目的とする標的遺伝子に由来する配列を含む連結DNA断片を特異的に作製できる。後者の方法では、線状化されたベクターの両端の相同組換え領域に、増幅用プライマーと標的遺伝子のみに存在する増幅用プライマー配列の内側の配列を保持させることで、標的DNA断片を選択的に相同組換えしてベクターを構築できる。
【0091】
本発明の抗体又はその断片は、上記の方法によって取得した抗体又はその断片のアミノ酸配列情報に基づき、遺伝子工学的手法により得ることもできる。例えば、軽鎖CDR1~3及び任意に軽鎖CDR2のC末端隣接領域が上記の方法によって取得した抗体の軽鎖CDR1~3及び任意に軽鎖CDR2のC末端隣接領域のアミノ酸配列に対してそれぞれ80%以上の同一性を有し、且つ、重鎖CDR1~3が上記の方法によって取得した抗体の重鎖CDR1~3のアミノ酸配列に対してそれぞれ80%以上の同一性を有するように設計した抗体遺伝子を組み込んだ発現ベクターを、当該分野で公知の任意の宿主細胞で発現させること等によっても取得することができる。
【0092】
3.ポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、上記2に記載した抗体又はその断片のコード配列を含むことが好ましい。
【0093】
一実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、上記2に記載した抗体又はその断片の発現カセットを含むことが好ましい。当該発現カセットは、宿主細胞内での発現を可能とするものであれば特に制限されず、例えばプロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置されたコード配列を含む。
【0094】
プロモーターとしては、特に制限されず、宿主細胞の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとしては、例えばpol II系プロモーターを各種使用することができる。pol II系プロモーターとしては、特に制限されないが、例えばCMVプロモーター、EF1プロモーター、SV40プロモーター、MSCVプロモーター等が挙げられる。その他にも、プロモーターとして、例えばtrc、tac等のトリプトファンプロモーター;lacプロモーター;T7プロモーター;T5プロモーター;T3プロモーター;SP6プロモーター;アラビノース誘導プロモーター;コールドショックプロモーター;テトラサイクリン誘導性プロモーター等が挙げられる。
【0095】
発現カセットは、必要に応じて、他のエレメントを含んでいてもよい。他のエレメントとしては、例えばマルチクローニングサイト(MCS)、薬剤耐性遺伝子、複製起点、エンハンサー配列、リプレッサー配列、インスレーター配列、レポータータンパク質コード配列、薬剤耐性遺伝子コード配列等が挙げられる。これらは1種単独であっても2種以上の組合せであってもよい。
【0096】
本発明のポリヌクレオチドは、例えばベクターの形態であることができる。使用目的、宿主細胞の種類等に応じて適当なベクターが選択される。例えば大腸菌を宿主とするベクターとしてはM13ファージ又はその改変体、λファージ又はその改変体、pBR322又はその改変体(例えばpB325、pAT153、pUC8)等、酵母を宿主とするベクターとしてはpYepSec1、pMFa、pYES2、pPIC3.5K等、昆虫細胞を宿主とするベクターとしてはpAc、pVL等、哺乳類細胞を宿主とするベクターとしてはpcDNA、pCDM8、pMT2PC等を例示することができる。
【0097】
4.細胞
本発明の細胞は、上記3に記載したポリヌクレオチドを含むことが好ましい。細胞としては、例えばEscherichia coli K12等の大腸菌、Bacillus subtilis MI114等のバチルス属細菌、Saccharomyces cerevisiae AH22等の酵母、Spodoptera frugiperda由来のSf細胞系もしくはTrichoplusia ni由来のHighFive細胞系、嗅神経細胞等の昆虫細胞、動物細胞等を挙げることができる。動物細胞としては、好ましくは哺乳動物由来の培養細胞、具体的には、COS7細胞、CHO細胞、HEK293細胞、Expi293細胞、293F細胞、293T細胞、293FT細胞、Hela細胞、PC12細胞、N1E-115細胞、SH-SY5Y細胞等が挙げられる。
【0098】
一実施形態において、本発明の細胞は、DNAポリメラーゼのドメインEに特異的に結合する抗体又はその断片を発現していることが好ましい。
【0099】
一実施形態において、本発明の細胞は、DNAポリメラーゼのドメインEに特異的に結合する抗体又はその断片を分泌している又は細胞表面上に有することが好ましい。
【0100】
5.試薬
本発明の試薬は、上記2に記載した抗体又はその断片、上記3に記載したポリヌクレオチド、又は上記4に記載した細胞を含むことが好ましい。本発明の試薬は、さらに賦形剤もしくは担体及び/又は添加剤を含むことが好ましい。
【0101】
前記賦形剤もしくは担体としては、例えばデンプン、乳糖、結晶セルロース、ソルビトール、リン酸水素カルシウム、水、エタノール、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール、グリセロール、植物油等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0102】
前記添加剤としては、例えば緩衝剤、等張化剤、増粘剤、キレート剤、乳化剤、着色剤、保存剤等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0103】
本発明の試薬は、核酸増幅用試薬であることが好ましい。
【0104】
一実施形態において、本発明の試薬は、ドメインEを有するDNAポリメラーゼ、及び該DNAポリメラーゼのドメインEに特異的に結合する抗体又はその断片を含むことが好ましい。前記抗体又はその断片とDNAポリメラーゼとのモル比は、本発明の効果を奏する限り限定されないが、約1:1~約500:1であることが望ましい。当該試薬は、さらに、ドメインEを有さないDNAポリメラーゼを含んでいてもよい。当該試薬は、核酸増幅用試薬であることが好ましい。
【0105】
一実施形態において、本発明の試薬は、ドメインEを有するDNAポリメラーゼ、プライマー、プローブ、及びデオキシリボヌクレオシド-5’-リン酸からなる群より選択される少なくとも一種と、DNAポリメラーゼのドメインE(好ましくは、ドメインEにおけるアミノ酸領域A~Dのいずれかの領域に存在する少なくとも1つ(例えば、1つ又は2つ)のエピトープに結合する抗体)に特異的に結合する抗体又はその断片を含むことが好ましい。当該試薬は、さらに、DNAポリメラーゼ活性を向上させるために、例えばマンガン、マグネシウムなどの金属塩、緩衝剤などを含んでいてもよい。当該試薬は、核酸増幅用試薬であることが好ましい。
【0106】
本発明の試薬がドメインEを有するDNAポリメラーゼを含む場合、該DNAポリメラーゼとしては、例えば、上記2に記載したものが挙げられる。
【0107】
本発明の試薬がプライマーを含む場合、該プライマーは少なくとも2種のプライマーであってもよい。少なくとも2種のプライマーとは、増幅されるべき核酸配列に実質的に相補的なオリゴヌクレオチドであり、かつ、増幅されるべき核酸配列の両端を規定し、各プライマーから合成された伸長生成物がその相補体から分離された場合に、さらなる合成のための鋳型として機能するものであり得る。プライマーは、標的核酸に応じて適宜選択・設計して用いることができ、特に限定されない。さらに、ターゲットとする標的核酸が亜型であることが想定される場合、縮重プライマーであってもよい。一般的には、プライマーはヌクレオチド数が12~60であるオリゴヌクレオチドであり得る。プライマーはDNA合成装置により合成するか、又は生物学的供給源から単離することができる。
【0108】
本発明の試薬がプローブを含む場合、該プローブは、少なくとも1種類の標識物質で標識されたハイブリダイゼーションプローブであってもよい。このようなプローブを用いることによって、核酸増幅産物の分析を通常の電気泳動ではなく、蛍光シグナルのモニタリングで監視することができ、解析労力が低減される。さらには、反応容器を開放する必要がなく、より一層のコンタミネーションのリスク低減が可能である。例えば、検出対象とする核酸配列のサブタイプに対応する、それぞれのハイブリダイゼーションプローブを異なる蛍光色素で標識することによって、標的核酸のサブタイプを識別することも可能である。ハイブリダイゼーションプローブとしては、例えば、TaqMan加水分解プローブ[米国特許第5,210,015号公報、米国特許第5,538,848号公報、米国特許第5,487,972号公報、米国特許第5,804,375号公報(参照することによりその全体が明細書に組み込まれる)]、モレキュラービーコン[米国特許第5,118,801号公報(参照することによりその全体が明細書に組み込まれる)]、FRETハイブリダイゼーションプローブ[国際公開第97/46707号、国際公開第97/46712号、国際公開第97/46714号(参照することによりその全体が明細書に組み込まれる)]等が挙げられる。
【0109】
本発明の試薬は、プローブに代えて、2本鎖DNA結合蛍光化合物を含んでいてもよい。2本鎖DNA結合蛍光化合物としては、例えば、SYBR(登録商標) Green I,SYBR(登録商標) Gold、SYTO-9、SYTP-13、SYTO-82(Life Technologies),EvaGreen(登録商標;Biotium)、LCGreen(Idaho),LightCycler(登録商標) 480 ResoLight(Roche Applied Science)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
本発明の試薬がデオキシリボヌクレオシド-5’-リン酸を含む場合、該デオキシリボヌクレオシド-5’-リン酸は、例えば、dATP、dCTP、dTTP、dGTP、又はこれらの混合物である。なお、dATP等の用語には、化学修飾が施されたものも含まれる。
【0111】
本発明の試薬が核酸増幅用試薬である場合、核酸増幅法としては、例えば、PCR法、Loop-Mediated Isothermal Amplification(LAMP)法、Transcriprtion Reverse Transcription Concerted Reaction(TRC)法、Nucleic Acid Sequence-Based Amplification(NASBA)法等が挙げられるが、これらに限定されない。核酸増幅方法は、好ましくはPCR法である。PCR法の中でも、例えば、DNAポリメラーゼに特異的なモノクローナル抗体で所定の温度までプライマーアニーリングを阻害するPCR法、いわゆるホットスタートPCR法が好ましい。本発明のホットスタートPCR用試薬は、DNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性ドメインに特異的に結合する抗体及びDNAポリメラーゼのドメインEに特異的に結合する抗体を組み合わせて含むことで一層効果的に非特異反応を抑制できる。本発明のホットスタートPCR用試薬は、プライマー、デオキシリボヌクレオシド-5’-リン酸、DNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性ドメインに特異的に結合する抗体、及びDNAポリメラーゼのドメインEに特異的に結合する抗体を含むことが好ましい。当該試薬を、標的核酸を含む試薬に混合し、得られた混合物を60℃以上に加熱(例えば、95℃で20秒以上加熱)して、どちらの抗体も不活性化することでプライマー伸長生成物を形成させることができる。
【実施例0112】
以下、試験例をもって、本発明を具体的に説明する。もっとも、本発明は下記試験例に限定されるものではない。
【0113】
試験例1.抗原の作製
DNAポリメラーゼ全体を抗原とする場合には、配列番号49のアミノ酸配列を有するTaqポリメラーゼ(TAP-201、東洋紡株式会社、以下、「whole Taq」と表記する)、及び、配列番号50のアミノ酸配列を有するTthポリメラーゼ(TTH-301、東洋紡株式会社、以下、「whole Tth」と表記する)を使用した。なお、whole Taqとwhole Tthの配列同一性は87%程度である。
【0114】
DNAポリメラーゼのドメインEを抗原とする場合には、配列番号1(whole TaqのN末端から290番目のアミノ酸まで)のアミノ酸配列を有するポリペプチド(以下、「Taq exo」と表記する)、及び、配列番号2(whole TthのN末端から292番目のアミノ酸まで)のアミノ酸配列を有するポリペプチド(以下、「Tth exo」と表記する)を、それぞれ、E.coli JM109株を用いて発現させ、ヘパリンセファロースクロマトグラフィーを用いて精製して使用した。いずれの抗原もリン酸緩衝液に溶解した。
【0115】
試験例2.モルモットの免疫
Slc:Hartleyモルモット(7週齢のオス)の背部皮下(腰部)に抗原400μgの抗原調製物0.8mLを注射した。抗原調製物は、試験例1で抗原をリン酸緩衝液に溶解させた抗原液とアジュバントTiterMAXGold(TiterMAX社)を1:1(液量比)で混合して、エマルジョン化したものを用いた。3週間後に、さらに抗原400μgの抗原調製物0.8mLを注射して、追加免疫を行った。さらに3週間後に、抗原400μgの抗原液0.4mLを注射して追加免疫を実施した。免疫後のモルモットのリンパ節の腫れは、whole Taq、Taq exo、whole Tth、Tth exoの順に大きくなった。
【0116】
試験例3.蛍光標識タンパク質の作製
DNAポリメラーゼ全体、及び、ドメインEを欠損したDNAポリメラーゼをそれぞれ蛍光標識した。ドメインEを欠損したDNAポリメラーゼは、配列番号49においてN末端から289番目までのアミノ酸を欠失させたTaqポリメラーゼ(以下、「ΔTaq」と表記する)、及び、配列番号50においてN末端から291番目までのアミノ酸を欠失させたTthポリメラーゼ(以下、「ΔTth」と表記する)を、それぞれ、E.coli JM109株を用いて発現させ、ヘパリンセファロースクロマトグラフィーを用いて精製したものである。
【0117】
whole Taq及びwhole TthはDyLight(商標)488 NHS Ester(Thermo Fisher Scientific社)を用いて蛍光標識を行った。ΔTaq及びΔTthはDyLight(商標)550 NHS Ester(Thermo Fisher Scientific社)を用いて蛍光標識を行った。
【0118】
試験例4.ドメインE特異的形質細胞の単離と抗体発現ベクターの構築
米国特許出願公開第2014/031528号、米国特許出願公開第2018/292407号、及び米国特許出願公開第2013/029325号に記載の方法により、試験例2で免疫したモルモットから腸骨リンパ節から細胞懸濁液を調製し、フローサイトメーターを用いてドメインE特異的形質細胞の選抜を行った。免疫に使用した抗原と試験例3で調製した蛍光標識タンパク質との組み合わせを変えて、以下の5種類の方法でドメインE特異的形質細胞の選抜を実施した。
【0119】
[方法1]
whole Taqで免疫した細胞から、DyLight488標識whole TaqとDyLight550標識ΔTaqを用いて、サブトラクションによりドメインE特異的形質細胞を選抜した。すなわち、DyLight488に対応する蛍光が確認され、DyLight550に対応する蛍光が確認されない形質細胞を選抜した。
【0120】
[方法2]
Taq exoで免疫した細胞から、DyLight488標識whole Taqを用いて、ドメインE特異的形質細胞を選抜した。
【0121】
[方法3]
Tth exoで免疫した細胞から、DyLight488標識whole Taqを用いて、ドメインE特異的形質細胞を選抜した。
【0122】
[方法4]
whole Tthで免疫した細胞から、DyLight488標識whole TthとDyLight550標識ΔTthを用いて、サブトラクションによりドメインE特異的形質細胞を選抜した。すなわち、DyLight488に対応する蛍光が確認され、DyLight550に対応する蛍光が確認されない形質細胞を選抜した。
【0123】
[方法5]
Tth exoで免疫した細胞について、DyLight488標識whole Tthを用いて、ドメインE特異的形質細胞を選抜した。
【0124】
TaqポリメラーゼのドメインEを標的として選抜された形質細胞の個数は、方法1及び2よりも方法3で多くなり、方法3で288個であった。TthポリメラーゼのドメインEを標的として選抜された形質細胞の個数は、方法4で192個、方法5で240個であった。
【0125】
方法3~5で選抜された形質細胞を用いて、米国特許出願公開第2011/020879号、米国特許出願公開第2013/023009号、及び米国特許出願公開第2011/117609号に記載の方法により、抗体発現ベクターの構築を行った。この際、モルモット重鎖及び軽鎖定常領域はそれぞれ配列番号51及び52に記載のアミノ酸配列を利用した。方法3から22個、方法4から9個、方法5から66個の抗体発現ベクターを取得することができた。
【0126】
方法3~5では、方法1及び2に比べて、モルモットのリンパ節の腫れが大きく、単離された形質細胞の個数が多かったことから、TthポリメラーゼはTaqポリメラーゼに比べて抗原としての免疫反応が大きかったといえる。このため、Tthポリメラーゼを抗原として用いることにより、Taqポリメラーゼ及びTthポリメラーゼのどちらに対しても、ドメインE特異的形質細胞を効率的に選抜できることが判明した。また、方法5では、方法4に比べて、単離された形質細胞の個数及び抗体発現ベクターが多く得られた。従って、DNAポリメラーゼ全体で免疫するよりも、ドメインEのみで免疫した場合に、ドメインEに特異的に結合する抗体(抗ドメインE抗体)を効率的に取得できることが判明した。
【0127】
以後の試験例では、方法3~5で得られた抗体発現ベクターを発現させることにより取得される抗体を使用した。
【0128】
試験例5.抗体のドメインEに対する結合能評価
米国特許出願公開第2018/292407号に記載の方法により、293FT細胞に抗体発現ベクターを導入し、抗体が分泌された培養上清を回収した。炭酸緩衝液を用いて、市販のホットスタート抗体(TCP-101、東洋紡株式会社製)をELISAプレート(住友ベークライト社、MS-8896F)に固相化した。各ウェルを洗浄後に1%(w/v)ウシ血清アルブミン(グロブリンフリー、ナカライテスク社)を含む1×TBS(ナカライテスク社)を用いてブロッキングを実施した。各ウェルを洗浄後に1×TBS-T(ナカライテスク社)で希釈した抗原(whole Taq、whole Tth)を各ウェルに添加した。各ウェルを洗浄後に培養上清を各ウェルに添加した。各ウェルを洗浄後に、Goat Anti-Guinea pig IgG H&L (HRP)(Abcam社)を50000倍希釈して添加した。各ウェルを洗浄後に、TMB溶液(TMBW-1000-01、SURMODICS社)を添加して発色させ、1N硫酸(ナカライテスク社)を添加して反応を停止させたのちに、プレートリーダで450~620nmの波長を測定した。本結合能評価では、DNAポリメラーゼ活性ドメインは固相化抗体で占有されているため、ドメインEに対する抗体の結合能が評価される。
【0129】
方法3で取得した22個の抗体のうち、whole Taqに結合する抗体は20個(ヒット率91%)であり、whole Taq及びwhole Tthのどちらにも結合する抗体は19個(ヒット率86%)であった。
【0130】
方法4で取得した9個の抗体のうち、whole Tthに結合する抗体は1個(ヒット率11%)であり、この抗体はwhole Taqへの結合は示さなかった。
【0131】
方法5で取得した66個の抗体のうち、whole Tthに結合する抗体は32個(ヒット率48%)であり、whole Tth及びwhole Taqのどちらにも結合する抗体は12個(ヒット率18%)であった。
【0132】
方法3では、方法4及び方法5に比べて、各DNAポリメラーゼに対するヒット率及び両方のDNAポリメラーゼに対するヒット率が2~8倍程度高かった。この結果から、TaqポリメラーゼのドメインEに特異的に結合する抗体の取得において、免疫反応を強く誘起するTth Exoを抗原とし、蛍光標識したwhole Taqを用いてドメインE特異的形質細胞を選抜する手法が効率的であるといえる。また、TthポリメラーゼのドメインEに特異的に結合する抗体の取得においても、Tth Exoを抗原とし、蛍光標識したwhole Tthを用いてドメインE特異的形質細胞を選抜する手法が予想外の効果を生み、高い確率でドメインE特異的抗体を単離可能であることが判明した。
【0133】
試験例6.ドメインEを有するDNAポリメラーゼによるプローブの分解
ドメインEを有するDNAポリメラーゼを含むPCR反応液を25℃で24時間曝露した場合、プローブが分解されることを確認した。
【0134】
(1)PCR反応液の構成成分
[PCR用ミックス]
下記に示す組成のPCR用ミックス1を調製した。
PCR用ミックス1:
Taqポリメラーゼ(0.05U/μL、TAP-201、東洋紡株式会社製);
ホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体(0.01μg/μL、TCP-101、
東洋紡株式会社製);
10mM Tris-HCl(pH8.3);
50mM KCl;
1.5mM MgCl2;及び
0.3mM dNTPs。
【0135】
[プライマー/プローブ]
20倍濃度のプライマー/プローブ混合液として、TaqMan(登録商標) Gene Expression Assays(Thermo Fisher Scientific社)を使用した。当該混合液中のプライマー/プローブで増幅/検出される遺伝子は、IL6、CDK10、APC、MAPK8、SIVA1、RPS19、又はSERPINB5である。
【0136】
[核酸テンプレート]
HeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来)RNAから作製したcDNAを用いた。RNAの抽出及びcDNAの合成には、Human HeLa Cell Total RNA(636543、タカラバイオ株式会社)及びSuperPrep(商標) II Cell Lysis&RT Kit for qPCR(SCQ-401、東洋紡株式会社)を用い、手順は取扱説明書に従った。
【0137】
(2)反応
PCR用ミックス1に、各プライマー/プローブを1/20、核酸テンプレートを1/20の割合で混合し、PCR反応液20μLを調製した。PCR反応液を、-20℃又は25℃で24時間保管した。その後、リアルタイムPCR装置(Applied Biosystems 7500 Fast リアルタイムPCRシステム)を使用して、以下の温度サイクルで反応を実施した。60℃、60秒の伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。
(温度サイクル)
工程1:95℃ 1分
工程2:95℃ 15秒-60℃ 60秒 50サイクル(PCR)
【0138】
(3)結果
本反応系では、FAMチャネルで各遺伝子を検出する。リアルタイムPCRを用いて、HeLa cDNA中の各遺伝子(IL6、CDK10、APC、MAPK8、SIVA1、RPS19、SERPINB5)を検出した際のCt値と、Multicomponent Dataにおける10サイクル目の蛍光値を表9に示す。
【0139】
PCR反応液を25℃で24時間曝露した場合、-20℃で24時間曝露した場合に比べて、IL6、CDK10、及びSIVA1遺伝子でCt値の2以上の遅れが見られ、RPS19遺伝子でCt値が算出されなかった(結果の表において「-」で示す)。RPS19遺伝子でCt値が算出されなかった理由は、プローブが全て分解され、増幅産物に対応する蛍光値の上昇が生じないためと推測される。
【0140】
また、PCR反応液を25℃で24時間曝露した場合、-20℃で24時間曝露した場合に比べて、7種類全ての遺伝子で10サイクル目の蛍光値が上昇した。蛍光値が上昇する理由は、25℃で24時間の曝露により、サイクル開始前に蛍光標識プローブが分解を受け、蛍光標識が遊離し、その結果、クエンチャーによる消光が解除されて蛍光が生じたためと推測される。従って、25℃で24時間曝露した場合、7種類の遺伝子を検出する蛍光標識プローブが全て分解することを見出した。
【0141】
【0142】
試験例7.抗ドメインE抗体によるプローブの分解抑制
ドメインEを有するDNAポリメラーゼ及び抗ドメインE抗体を含むPCR反応液を25℃で24時間曝露した場合、抗ドメインE抗体がプローブの分解を抑制するか否か確認した。
【0143】
(1)抗ドメインE抗体の調製
米国特許出願公開第2018/292407号に記載の方法により、293FT細胞に、上記試験例1~4に記載の方法で得られた抗体発現ベクターを導入し、抗体が分泌された培養上清を回収した。AKTA pure 25(Cytiva社)を用いて、培養上清をHiTrap ProteinA HPカラム(Cytiva社)に通して抗体を吸着させた。洗浄Buffer(20mM リン酸緩衝液、pH 7.4)を用いて当該カラムを洗浄した後、溶出Buffer(0.1M クエン酸-NaOH、pH3.5)で溶出させた。Amicon Ultra-15(Merck社)を用いて抗体を濃縮し、Nanodrop One(Thermo Fisher Scientific社)で定量した。クローン番号Anti-TAQ1~5は試験例4の方法3により取得した抗ドメインE抗体であり、クローン番号Anti-TTH1~5は試験例4の方法5により取得した抗ドメインE抗体である。
【0144】
(2)PCR反応液の構成成分
[PCR用ミックス]
試験例6で使用したPCR用ミックス1と同じものを使用した。さらに、下記の2種類のPCR用ミックス2及び3を調製して使用した。
PCR用ミックス2:
Tthポリメラーゼ(0.05U/μL、TTH-301、東洋紡株式会社製);
ホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体(0.01μg/μL、TCP-101、東洋紡株式会社製);
10mM Tris-HCl(pH8.3);
80mM KCl;
1.5mM MgCl2;
0.5mg/mL BSA;
0.1%(v/v) TritonX-100;
0.1%(w/v) コール酸ナトリウム;及び
0.3mM dNTPs。
PCR用ミックス3:
国際公開第2018/096961号に記載のTthポリメラーゼ(変異体)(0.05U/μL);
ホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体(0.01μg/μL、TCP-101、東洋紡株式会社製);
10mM Tris-HCl(pH8.3);
80mM KCl;
1.5mM MgCl2;
0.5mg/mL BSA;
0.1%(v/v) TritonX-100;
0.1%(w/v) コール酸ナトリウム;及び
0.3mM dNTPs。
【0145】
[プライマー/プローブ]
20倍濃度のプライマー/プローブの混合液として、TaqMan(登録商標) Gene Expression Assays(Thermo Fisher Scientific社)を使用した。当該混合液中のプライマー/プローブで増幅/検出される遺伝子はRPS19である。
【0146】
[核酸テンプレート]
HeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来)RNAから作製したcDNAを用いた。RNAの抽出及びcDNAの合成には、Human HeLa Cell Total RNA(636543、タカラバイオ株式会社)及びSuperPrep(商標) II Cell Lysis&RT Kit for qPCR(SCQ-401、東洋紡株式会社)を用い、手順は取扱説明書に従った。
【0147】
(3)反応
(反応液1)
PCR用ミックス1に、プライマー/プローブを1/20、核酸テンプレートを1/20の割合で混合し、混合液19μLを調製した。コントロールとして、20mM Tris-HCl(pH7.5)1μLを前記混合液に添加して、-20℃又は25℃で24時間曝露した。また、同じくコントロールとして、Platinum Taq Monoclonal Antibody(10965-028、Thermo Fisher Scientific社)1μLを前記混合液に添加し、25℃で24時間曝露した。抗ドメインE抗体については、各0.8mg/mL溶液1μLを前記混合液に添加し(持ち込み量:0.8μg)、25℃で24時間曝露した。
(反応液2)
PCR用ミックス2に、プライマー/プローブを1/20、核酸テンプレートを1/20の割合で混合し、混合液19μLを調製した。コントロールとして、20mM Tris-HCl(pH7.5)1μLを前記混合液に添加して、-20℃又は25℃で24時間曝露した。抗ドメインE抗体については、各1.2mg/mL溶液1μLを前記混合液に添加し(持ち込み量:1.2μg)、25℃で24時間曝露した。
(反応液3)
PCR用ミックス3に、プライマー/プローブを1/20、核酸テンプレートを1/20の割合で混合し、混合液19μLを調製した。コントロールとして、20mM Tris-HCl(pH7.5)1μLを前記混合液に添加して、-20℃又は25℃で24時間曝露した。抗ドメインE抗体については、各1.2mg/mL溶液1μLを前記混合液に添加し(持ち込み量:1.2μg)、25℃で24時間曝露した。
(反応)
反応液1~3について、リアルタイムPCR装置(Applied Biosystems 7500 Fast リアルタイムPCRシステム)を使用して、以下の温度サイクルで反応を実施した。60℃、60秒の伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。(温度サイクル)
工程1:95℃ 1分
工程2:95℃ 15秒-60℃ 60秒 50サイクル(PCR)
【0148】
(4)結果
反応液1、2、及び3について、RPS19遺伝子を検出した際のCt値及びMulticomponent Dataにおける10サイクル目の蛍光値を、表10、11、及び12にそれぞれ示す。また、Anti-TAQ1~5及びAnti-TTH1~5の重鎖(H鎖)相補性決定領域(CDR)1~3、軽鎖(L鎖)相補性決定領域(CDR)1~3の配列、及びL鎖CDR2のC末端に隣接する配列を表13に示す。
【0149】
Tris-HClを添加した反応液1を25℃で24時間曝露した場合、-20℃で24時間曝露した場合に比べて、RPS19遺伝子のCt値が5~6程度遅くなっていることから、検出感度が25~26倍程度低下しているといえる。これに対して、抗ドメインE抗体を添加した反応液1では、全てCt値が30を下回った。また、抗ドメインE抗体の全てのクローンでプローブ分解抑制指標(a)~(c)を満たした:
(a)Ct値比[-20℃24時間の曝露後(25℃24時間の曝露前に相当)に測定したCt値/25℃24時間の曝露後に測定したCt値]≧0.8
(b)蛍光強度比[-20℃24時間の曝露後(25℃24時間の曝露前に相当)に測定したサイクル初期の蛍光強度/25℃24時間の曝露後に測定したサイクル初期の蛍光強度]≧0.3
(c)プローブ分解率[(F33-F31)÷(F32-F31)×100]≦40%
F31:抗ドメインE抗体の非存在下で-20℃24時間の曝露後(25℃24時間の曝露前に相当)に測定したサイクル初期の蛍光強度
F32:抗ドメインE抗体の非存在下で25℃24時間曝露した後に測定したサイクル初期の蛍光強度
F33:抗ドメインE抗体の存在下で25℃24時間曝露した後に測定したサイクル初期の蛍光強度
このことから、抗ドメインE抗体の全てのクローンがプローブ分解抑制効果を有することを見出した。
【0150】
Tris-HClを添加した反応液2を25℃で24時間曝露した場合、RPS19遺伝子は検出できなかった。これに対して、抗ドメインE抗体を添加した反応液2では、全てRPS19遺伝子を検出できた。また、抗ドメインE抗体の全てのクローンでプローブ分解抑制指標(a)~(c)を満たし、プローブ分解抑制効果があることを見出した。Anti-TTH2及び3については、Taqを含む反応液1でも効果を示すことを見出した。
【0151】
Tris-HClを添加した反応液3を25℃で24時間曝露した場合、RPS19遺伝子は検出できなかった。これに対して、抗ドメインE抗体を添加した反応液3では、全てRPS19遺伝子を検出できた。抗ドメインE抗体の全てのクローンでプローブ分解抑制指標(a)~(c)を満たし、プローブ分解抑制効果があることを見出した。反応液3では、抗ドメインE抗体を添加した場合に、プローブ分解抑制指標(b)が1を、プローブ分解抑制指標(c)が100%をそれぞれ大きく上回った。原因は、コントロールの試薬調製時やリアルタイムPCR装置へのセット時などに反応液が常温に達し、蛍光標識プローブが分解したためと考えられる。従って、本抗体は、長期間の反応液の保管だけではなく、通常の核酸増幅試薬の調製時などにも反応液中のプローブの分解を抑制できる。
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
試験例8.PCR反応液の25℃での曝露時間の影響
PCR反応液の25℃での曝露時間を変化させて、抗ドメインE抗体のプローブ分解抑制効果について確認した。
(1)PCR反応液の構成成分
[PCR用ミックス]
試験例6で使用したPCR用ミックス1と同じものを使用した。
【0157】
[プライマー/プローブ]
20倍濃度のプライマー/プローブ混合液として、TaqMan(登録商標) Gene Expression Assays(Thermo Fisher Scientific社)を使用した。当該混合液中のプライマー/プローブで増幅/検出される遺伝子はIL6、CDK10、及びRPS19である。
【0158】
[核酸テンプレート]
HeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来)RNAから作製したcDNAを用いた。RNAの抽出及びcDNAの合成には、Human HeLa Cell Total RNA(636543、タカラバイオ株式会社)及びSuperPrep(商標) II Cell Lysis&RT Kit for qPCR(SCQ-401、東洋紡株式会社)を用い、手順は取扱説明書に従った。
【0159】
(2)反応
(反応液)
PCR用ミックス1に、各プライマー/プローブを1/20、核酸テンプレートを1/20の割合で混合し、混合液19μLを調製した。コントロールとして、20mM Tris-HCl(pH7.5)1μLを前記混合液に添加して、-20℃又は25℃で24時間曝露した。抗ドメインE抗体については、各0.1mg/mL溶液1μLを前記混合液に添加し(持ち込み量:0.1μg)、25℃で24時間曝露した。その後、リアルタイムPCR装置(Applied Biosystems 7500 Fast リアルタイムPCRシステム)を使用して、以下の温度サイクルで反応を実施した。60℃、60秒の伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。
(温度サイクル)
工程1:95℃ 1分
工程2:95℃ 15秒-60℃ 60秒 50サイクル(PCR)
【0160】
(3)結果
各遺伝子(IL6、CDK10、RPS19)を検出した際のCt値を表14に示す。Tris-HClを添加した反応液を25℃で24時間曝露した場合では、3つの遺伝子で検出不能となった。一方、各抗ドメインE抗体を0.1μg添加した反応液では、Ct値の遅れは確認されず、いずれの遺伝子も検出可能となった。また、当該反応液を25℃で72時間曝露してもCt値の遅れは見られなかった。さらに、蛍光値の上昇も確認されないことから、抗ドメインE抗体の添加によってプローブの分解が抑制されていることが判明した。従って、当該抗体を用いることにより、25℃で72時間の条件下でもPCR反応液の保管が可能になることが確認された。
【0161】
【0162】
試験例9.微量の抗ドメインE抗体によるプローブの分解抑制
0.1μgの抗ドメインE抗体を含むPCR反応液を25℃で24時間曝露した場合、プローブの分解が抑制されるか否か確認した。
【0163】
(1)反応液の構成成分
[PCR用ミックス]
試験例7で使用したPCR用ミックス2と同じものを使用した。
【0164】
[プライマー/プローブ]
20倍濃度のプライマー/プローブ混合液として、TaqMan(登録商標) Gene Expression Assays(Thermo Fisher Scientific社)を使用した。当該混合液中のプライマー/プローブで増幅/検出される遺伝子はIL6、CDK10、SIVA1、及びRPS19である。
【0165】
[核酸テンプレート]
HeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来)RNAから作製したcDNAを用いた。RNAの抽出及びcDNAの合成には、Human HeLa Cell Total RNA(636543、タカラバイオ株式会社)及びSuperPrep(商標) II Cell Lysis&RT Kit for qPCR(SCQ-401、東洋紡株式会社)を用い、手順は取扱説明書に従った。
【0166】
(2)反応
PCR用ミックス2に、各プライマー/プローブを1/20、核酸テンプレートを1/20の割合で混合し、混合液15μLを調製した。コントロールとして、20mM Tris-HCl(pH7.5)5μLを前記混合液に添加して、-20℃又は25℃で24時間曝露した。抗ドメインE抗体については、各0.1mg/mL溶液1μLを前記混合液に添加し(持ち込み量:0.1μg)、25℃で24時間曝露した。
各反応液について、リアルタイムPCR装置(Applied Biosystems
7500 Fast リアルタイムPCRシステム)を使用して、以下の温度サイクルで反応を実施した。60℃、60秒の伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。
(温度サイクル)
工程1:95℃ 1分
工程2:95℃ 15秒-60℃ 60秒 50サイクル(PCR)
【0167】
(3)結果
表15に、各遺伝子(IL6、CDK10、SIVA1、RPS19)を検出した際のCt値を示す。
【0168】
Tris-HClを添加した反応液4を25℃で24時間曝露した場合、各遺伝子でCt値の遅れが確認された。一方、各抗ドメインE抗体を0.1μg添加した反応液4を25℃で24時間曝露した場合、Ct値の遅れは確認されなかった。
【0169】
Tris-HClを添加したコントロール反応液を25℃で24時間曝露した場合では、各遺伝子でCt値の遅れが確認された。一方、抗ドメインE抗体を0.1μg添加した反応液5を25℃で24時間曝露した場合、Ct値の遅れは確認されなかった。
【0170】
【0171】
試験例10.キメラ抗ドメインE抗体の発現
(1)抗体発現プラスミドの作製
Anti-TTH4のCDRを含む抗体配列を設計し、人工合成によりオリゴDNAを取得した。Mammalian PowerExpress System(商標)(MPH-102及びMPL-202、東洋紡株式会社)を用いて、付属の取扱説明書に従い、配列番号53及び54に記載のマウス由来重鎖及び軽鎖定常領域を有する抗体発現プラスミドを作製した。
【0172】
(2)ExpiCHO-S(商標)細胞による抗体の発現
ExpiCHO(商標) Expression System(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、抗体の発現を行った。培養条件は、37℃、5%(v/v) CO2、80rpmの振盪培養で実施した。付属の取扱説明書に従い、ExpiCHO-S(商標)細胞を蘇生し、生存細胞数2.0×105 cells/mLで振盪培養を行った。生存率が95%に到達するまで継代を継続し、生存細胞数6.0×106 cells/mLの培養液を調製した。培養液25mLに対し、抗体発現プラスミド1.0μg、ExpiFectamine(商標) CHO Reagent 80μLをOptiPro SFM(商標) 2mLで希釈して添加し、37℃、5%(v/v) CO2、80rpmで振盪培養を行った。24時間後にExpiCHO(商標) Enhancer 150μL及びExpiCHO(商標) Feed 6mLを添加して、生存率が50%になるまで37℃、5%(v/v) CO2、80rpmで振盪培養を継続した。
【0173】
(3)ProteinAカラムによる抗体の精製
ExpiCHO-S(商標)細胞の培養上清を遠心分離により回収した。AKTA pure 25(Cytiva社)を用いて、培養上清をHiTrap ProteinA HPカラム(Cytiva社)に通して抗体を吸着させた。洗浄Buffer(20mM リン酸緩衝液、pH 7.4)を用いて当該カラムを洗浄した後、溶出Buffer(0.1M クエン酸-NaOH、pH3.5)で溶出させた。Amicon Ultra-15(Merck社)を用いて抗体を濃縮し、Nanodrop One(Thermo Fisher Scientific社)で定量した。
【0174】
以後の試験例では、上記手法で得られたマウス由来定常領域を有するキメラ抗ドメインE抗体を使用した。
【0175】
試験例11.キメラ抗ドメインE抗体によるプローブの分解抑制
キメラ抗ドメインE抗体を含むPCR反応液を25℃で24時間曝露した場合、キメラ抗ドメインE抗体がプローブの分解を抑制するか否か確認した。
【0176】
(1)反応液の構成成分
[PCR用ミックス]
試験例6で使用したPCR用ミックス1及び試験例7で使用したPCR用ミックス2と同じものを使用した。
【0177】
[プライマー/プローブ]
20倍濃度のプライマー/プローブ混合液として、TaqMan(登録商標) Gene Expression Assays(Thermo Fisher Scientific社)を使用した。当該混合液中のプライマー/プローブで増幅/検出される遺伝子はRPS19である。
【0178】
[核酸テンプレート]
HeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来)RNAから作製したcDNAを用いた。RNAの抽出及びcDNAの合成には、Human HeLa Cell Total RNA(636543、タカラバイオ株式会社)及びSuperPrep(商標) II Cell Lysis&RT Kit for qPCR(SCQ-401、東洋紡株式会社)を用い、手順は取扱説明書に従った。
【0179】
(2)反応
(反応液4及び5)
PCR用ミックス1及び2のそれぞれに、プライマー/プローブを1/20の割合で混合し、混合液18μLを調製した(それぞれ、反応液4及び5に対応)。NanodropTM One(Thermo Fisher Scientific社)で定量した核酸テンプレートを100、10、1、0.1 ng/μLに希釈し、1μLを前記混合液に添加した(持ち込み量:100、10、1、0.1ng)。コントロールとして、20mM Tris-HCl(pH7.5)1μLを前記混合液に添加して、-20℃又は25℃で24時間曝露した。キメラ抗ドメインE抗体については、0.1mg/mL溶液1μLを前記混合液に添加し(持ち込み量:0.1μg)、25℃で24時間曝露した。その後、リアルタイムPCR装置(Applied Biosystems 7500 Fast リアルタイムPCRシステム)を使用して、以下の温度サイクルで反応を実施した。60℃、60秒の伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。
(温度サイクル)
工程1:95℃ 1分
工程2:95℃ 15秒-60℃ 60秒 50サイクル(PCR)
【0180】
(3)結果
反応液4については表16、反応液5については表17に、RPS19遺伝子を検出した際のCt値とMulticomponent Dataにおける10サイクル目の蛍光値を示す。
【0181】
Tris-HClを添加した反応液4及び5については、25℃で24時間曝露した場合、RPS19遺伝子を検出できなかったが、キメラ抗ドメインE抗体を添加した反応液4及び5については、25℃で24時間曝露しても-20℃で24時間曝露した場合と同等のCt値で、HeLa cDNA 100、10、1、0.1ng中のRPS19遺伝子を検出可能であった。また、試験例7(c)と同様の手法でプローブ分解率を見積もると、Anti-TAQ2については4.4%、Anti-TTH4については3.3%と算出された。
【0182】
【0183】
【0184】
試験例12.Taqポリメラーゼ(変異体)又はZ05ポリメラーゼを抗ドメインE抗体と共存させた場合のプローブの分解抑制
抗ドメインE抗体及びTaqポリメラーゼ(変異体)又はZ05ポリメラーゼを含むPCR反応液を25℃で24時間曝露した場合、抗ドメインE抗体がプローブの分解を抑制するか否か確認した。
【0185】
(1)反応液の構成成分
[PCR用ミックス]
下記の3種類のPCR用ミックス4~6を調製して使用した。
PCR用ミックス4:
Taqポリメラーゼ(変異体)を含む、QuantiNova Probe RT-PCR Kit(QIAGEN社、208352)
PCR用ミックス5:
Taqポリメラーゼ(変異体)を含む、TaqMan Fast Advanced Master Mix(Thermo Fisher Scientific社、4444556)
PCR用ミックス6:
Z05ポリメラーゼ(0.05U/μL、Roche Diagnostics社、HawkZ05、配列番号55);
ホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体(0.01μg/μL、TCP-101、東洋紡株式会社製);
10mM Tris-HCl(pH8.3);
80mM KCl;
1.5mM MgCl2;
0.5mg/mL BSA;
0.1%(v/v) TritonX-100;
0.1%(w/v) コール酸ナトリウム;及び
0.3mM dNTPs。
【0186】
[プライマー/プローブ]
20倍濃度のプライマー/プローブ混合液として、TaqMan(登録商標) Gene Expression Assays(Thermo Fisher Scientific社)を使用した。当該混合液中のプライマー/プローブで増幅/検出される遺伝子はRPS19である。
【0187】
[核酸テンプレート]
HeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来)RNAから作製したcDNAを用いた。RNAの抽出及びcDNAの合成には、Human HeLa Cell Total RNA(636543、タカラバイオ株式会社)及びSuperPrep(商標) II Cell Lysis&RT Kit for qPCR(SCQ-401、東洋紡株式会社)を用い、手順は取扱説明書に従った。
【0188】
(2)反応
(反応液6~8)
PCR用ミックス4~6のそれぞれに、プライマー/プローブを1/20、核酸テンプレートを1/20の割合で混合し、混合液19μLを調製した(それぞれ、反応液6~8に対応)。コントロールとして、20mM Tris-HCl(pH 7.5)1μLを前記混合液に添加して、-20℃又は25℃で24時間曝露した。抗ドメインE抗体については、0.1mg/mL溶液1μLを前記混合液に添加し(持ち込み量:0.1μg)、25℃で24時間曝露した。その後、リアルタイムPCR装置(Applied Biosystems 7500 Fast リアルタイムPCRシステム)を使用して、以下の温度サイクルで反応を実施した。60℃の伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。
(PCR用ミックス4を含む反応液6の温度サイクル)
工程1:95℃ 2分
工程2:95℃ 5秒-60℃ 24秒 50サイクル(PCR)
(PCR用ミックス5を含む反応液7の温度サイクル)
工程1:95℃ 20秒
工程2:95℃ 3秒-60℃ 30秒 50サイクル(PCR)
(PCR用ミックス6を含む反応液8の温度サイクル)
工程1:95℃ 60秒
工程2:95℃ 15秒-60℃ 45秒 50サイクル(PCR)
【0189】
(3)結果
RPS19遺伝子を検出した際のCt値、及び、Multicomponent Dataにおける10サイクル目の蛍光値を、それぞれ、表18及び表19に示す。
【0190】
Tris-HClを添加した反応液8~10を25℃で24時間曝露すると、RPS19遺伝子を検出できるCt値に遅れがみられ、検出不能となる遺伝子が生じた。一方、抗ドメインE抗体を添加した反応液8~10の場合は25℃で24時間曝露しても-20℃で24時間曝露した場合と同等のCt値で各遺伝子を検出可能であった。従って、抗ドメインE抗体は、Taq変異体を含むPCR反応液の安定性を著しく向上させることが明らかになった。また、抗ドメインE抗体は、Z05ポリメラーゼを含むPCR反応液の安定性も著しく向上させることが判明した。
【0191】
【0192】
【0193】
試験例13.抗ドメインE抗体の5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する阻害能
取得した抗ドメインE抗体について、Taqポリメラーゼ又はTthポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する阻害能を確認した。
【0194】
(1)反応
(反応液9)
Taqポリメラーゼ(TAP-201、東洋紡株式会社)1ユニットと、市販のホットスタート抗体Anti-Taq high(TCP-101、東洋紡株式会社)0.2μgとを含むTaq酵素液を作製した。Taqポリメラーゼ酵素液及びAnti-TAQ2 0.1μgの混合液を、5’末端を32Pで放射性標識した基質DNA(9000cpm、計数率80%)を含む反応液(終濃度:10mM Tris-HCl(pH8.6)、50mM KCl、1.5mM MgCl2)に加えて、液量20μLに調製した(サンプル3)。コントロールとして、Taqポリメラーゼ酵素液もAnti-TAQ2も含まないサンプル1、Taqポリメラーゼ酵素液のみを含むサンプル2を用意し、各サンプルを37℃で24時間インキュベートした。その後、各サンプルに10%(w/v)TCA 100μLを添加して、基質DNAを沈殿させ、上清に残留した遊離の32P標識塩基の放射能を測定した。
【0195】
(反応液10)
Tthポリメラーゼ(TTH-301、東洋紡株式会社)1ユニットと、市販のホットスタート抗体Anti-Taq high(TCP-101、東洋紡株式会社)0.6μgとを含むTth酵素液を作製した。Tthポリメラーゼ酵素液及びAnti-TTH4 0.1μgの混合液を、5’末端を32Pで放射性標識した基質DNA(9000cpm、計数率80%)を含む反応液(終濃度:10mM Tris-HCl(pH8.6)、50mM KCl、1.5mM MgCl2)に加えて、液量20μLに調製した(サンプル3)。コントロールとして、Tthポリメラーゼ酵素液もAnti-TTH4も含まないサンプル1、Tthポリメラーゼ酵素液のみを含むサンプル2を用意し、各サンプルを37℃で24時間インキュベートした。その後、各サンプルに10%(w/v)TCA 100μLを添加して、基質DNAを沈殿させ、上清に残留した遊離の32P標識塩基の放射能を測定した。
【0196】
[基質DNA]
λDNA 10μg及びScaI(東洋紡株式会社製) 30ユニットを取扱説明書に従って混合した反応液を調製し、37℃で24時間インキュベートした。フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(液量比25:24:1)処理及びエタノール沈殿によって生じたペレットをTE緩衝液100μLに溶解した。この溶液80μLに、P-32 Adenosine 5’-triphosphate,[γ-32P]-(パーキンエルマー社製、NEG002)5μL、T4 Polynucleotide Kinase(東洋紡株式会社製、PNK-111)5μL、10×Blunt End Kinase Buffer 10μL(東洋紡株式会社製、PNK-111添付品)を添加し、37℃で1時間インキュベートした。フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(液量比25:24:1)処理及びエタノール沈殿によって生じたペレットをTE緩衝液100μLに溶解した。
【0197】
(2)結果
反応液9について、Taqポリメラーゼ酵素液もAnti-TAQ2も含まないサンプル1では基質DNAが分解されないので100%とし、Taqポリメラーゼ酵素液のみを含むサンプル2では基質DNAが最も分解されるので0%として、サンプル3の基質DNAの残存率を、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性阻害能として算出した結果を表20に示す。Anti-TAQ2の活性阻害能は91%と算出された。
【0198】
反応液10について、Tthポリメラーゼ酵素液もAnti-TTH4も含まないサンプル1では基質DNAが分解されないので100%とし、Tthポリメラーゼ酵素液のみを含むサンプル2では基質DNAが最も分解されるので0%として、サンプル3の基質DNAの残存率を、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性阻害能として算出した結果を表21に示す。Anti-TTH4の活性阻害能は98%と算出された。
【0199】
【0200】
【0201】
試験例14.抗ドメインE抗体の添加量を変化させた場合の5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する阻害能
取得した抗ドメインE抗体の添加量を変化させて、Taqポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する阻害能を確認した。
【0202】
(1)反応
(反応液)
Taqポリメラーゼ(TAP-201、東洋紡株式会社)1ユニットと、市販のホットスタート抗体Anti-Taq high(TCP-101、東洋紡株式会社)0.2μgとを含むTaqポリメラーゼ酵素液を作製した。Taqポリメラーゼ酵素液及びAnti-TAQ2 0.05、0.1、0.2、又は0.4μgの混合液を、5’末端を32Pで放射性標識した基質DNA(9000cpm、計数率80%)を含む反応液(終濃度:10mM Tris-HCl(pH8.6)、50mM KCl、1.5mM MgCl2)に加えて、液量20μLに調製した(サンプル3~6)。コントロールとして、Taqポリメラーゼ酵素液もAnti-TAQ2も含まないサンプル1、Taqポリメラーゼ酵素液のみを含むサンプル2を用意し、各サンプルを37℃で24時間インキュベートした。その後、各サンプルに10%(w/v)TCA 100μLを添加して、基質DNAを沈殿させ、上清に残留した遊離の32P標識塩基の放射能を測定した。
【0203】
[基質DNA]
試験例13と同じ基質DNAを使用した。
【0204】
(2)結果
Taqポリメラーゼ酵素液もAnti-TAQ2も含まないサンプル1では基質DNAが分解されないので100%とし、Taqポリメラーゼ酵素液のみを含むサンプル2では基質DNAが最も分解されるので0%として、サンプル3~6の基質DNAの残存率を、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性阻害能として算出した結果を表22に示す。
【0205】
【0206】
試験例15.TaqポリメラーゼのドメインEに特異的に結合する抗体による、Tthポリメラーゼのプローブ分解の抑制
TaqポリメラーゼのドメインEに特異的に結合する抗体及びTthポリメラーゼを含むPCR反応液を25℃で24時間曝露した場合、前記抗体がTthポリメラーゼのプローブ分解を抑制するか否か確認した。
【0207】
(1)PCR反応液の構成成分
[PCR用ミックス]
試験例6で使用したPCR用ミックス1及び試験例7で使用したPCR用ミックス2と同じものを使用した。
【0208】
[プライマー/プローブ]
20倍濃度のプライマー/プローブ混合液として、TaqMan(登録商標) Gene Expression Assays(Thermo Fisher Scientific社)を使用した。当該混合液中のプライマー/プローブで増幅/検出される遺伝子はIL6、CDK10、SIVA1、RPS19、及びSERPINB5である。
【0209】
[核酸テンプレート]
HeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来)RNAから作製したcDNAを用いた。RNAの抽出及びcDNAの合成には、Human HeLa Cell Total RNA(製品コード:636543、タカラバイオ株式会社)及びSuperPrep(商標) II Cell Lysis&RT Kit for qPCR(SCQ-401、東洋紡株式会社)を用い、手順は取扱説明書に従った。
【0210】
(2)反応
PCR用ミックス1又は2に、各プライマー/プローブを1/20の割合で混合し、混合液18μLを調製した。NanodropTM One(Thermo Fisher Scientific社)で定量した核酸テンプレートを100ng/μLに希釈し、1μLを添加した(持ち込み量:100ng)。コントロールとして、20mM Tris-HCl(pH7.5)1μL添加して、-20℃又は25℃に24時間曝露した。Anti-TAQ2については、0.1mg/mL溶液を4μL添加し(持ち込み量:0.4μg)、25℃に24時間曝露した。その後、リアルタイムPCR装置(Applied Biosystems 7500 Fast リアルタイムPCRシステム)を使用して、以下の温度サイクルで反応を実施した。60℃、45秒の伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。
(温度サイクル)
工程1:95℃ 1分
工程2:95℃ 15秒-60℃ 45秒 50サイクル(PCR)
【0211】
(3)結果
各遺伝子を検出した際のCt値とMulticomponent Dataにおける10サイクル目の蛍光値を表23に示す。Tris-HClを添加した反応液を25℃で24時間曝露した場合では、各遺伝子を検出できない、もしくはCt値の大幅な遅れ、すなわち検出感度の低下が確認された。一方、Anti-TAQ2を添加した反応液を25℃で24時間曝露した場合、Tris-HClを添加した反応液を-20℃で24時間曝露した場合と同等のCt値で、HeLa cDNAの各遺伝子を検出可能であった。さらに、TaqポリメラーゼとTthポリメラーゼの両方に対して、Anti-TAQ2はプローブ分解の抑制能を示すことが確認された。従って、Tth exoを免疫原とし、whole Taqに対する抗体をスクリーニングする方法3により、TaqとTthの両方に中和活性を有する抗体を取得できることが確認された。
【0212】
【0213】
試験例16.基質DNAを変更した場合における、抗ドメインE抗体の5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する阻害能
配列番号56及び57に記載のλDNA由来二本鎖基質DNAを設計し、Taqポリメラーゼ又はTthポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対する抗ドメインE抗体の阻害能を確認した。
【0214】
(1)サンプル調製
下記の2種類の活性測定用ミックス1及び2を調製して使用した。
活性測定用ミックス1:
Taqポリメラーゼ(0.05U/μL、TAP-201、東洋紡株式会社製);
ホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体(0.01μg/μL、TCP-101、東洋紡株式会社製);
10mM Tris-HCl(pH8.6);
50mM KCl;
1.5mM MgCl2;
0.3μM 二本鎖基質DNA;
活性測定用ミックス2:
Tthポリメラーゼ(0.05U/μL、TTH-301、東洋紡株式会社製);
ホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体(0.01μg/μL、TCP-101、東洋紡株式会社製);
10mM Tris-HCl(pH8.6);
50mM KCl;
1.5mM MgCl2;
0.3μM 二本鎖基質DNA;
【0215】
[二本鎖基質DNA]
配列番号56及び57に記載のオリゴヌクレオチドを有するλDNA由来二本鎖基質DNAを設計した。配列番号56及び57に記載のオリゴヌクレオチドはそれぞれ別個に合成し、等量に混合して使用した。
【0216】
コントロールとして、20mM Tris-HCl(pH 7.5)1μLを、各活性測定用ミックス19μLに添加して、-20℃又は25℃で24時間曝露した。抗ドメインE抗体は、19μLの活性測定用ミックス1に対して0.1mg/mL溶液1μL(持ち込み量:0.1μg)、19μLの活性測定用ミックス2に対して0.4mg/mL溶液1μL(持ち込み量:0.4μg)を添加し、25℃で24時間曝露した。その後、DNA/RNA分析用マイクロチップ電気泳動装置(MultiNA、株式会社島津製作所)及びDNA-500キット(S292-27910-91、株式会社島津製作所)を使用して、各サンプルを分析した。
【0217】
(2)結果
各サンプルを分析した際のバンドの定量値を表24に示す。活性測定ミックス1及び2のいずれにおいても、Tris-HClを添加して25℃で24時間曝露した場合では、-20℃で24時間曝露した場合に比べて、バンドの定量値が著しく低下し、二本鎖基質DNAの分解が確認された。一方で、Anti-TAQ2を添加して25℃で24時間曝露した場合は、Tris-HClを添加して-20℃で24時間曝露した場合と同等のバンドの定量値で、二本鎖基質DNAの分解は確認されなかった。
また、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性阻害能を、下記の(d)二本鎖基質DNA分解率を算出することで判断した。
(d)二本鎖基質DNA分解率(%)[(S21-S23)÷(S21-S22)×100]
S21:抗ドメインE抗体を含まない場合の-20℃で24時間曝露後(25℃で24時間曝露前に相当)のバンド強度
S22:抗ドメインE抗体を含まない場合の25℃で24時間曝露後のバンド強度
S23:抗ドメインE抗体を含む場合の25℃で24時間曝露後のバンド強度
Anti-TAQ2を添加して25℃で24時間曝露したサンプルでは、Taqポリメラーゼ及びTthポリメラーゼによる(d)二本鎖基質DNA分解率(%)≦10%と算出された。従って、TaqポリメラーゼとTthポリメラーゼの両方に対して、Anti-TAQ2は二本鎖基質DNA分解の十分な抑制能を示すことが確認された。
【0218】
【0219】
試験例17.TaqポリメラーゼのドメインEに特異的に結合する抗体による、DNAポリメラーゼの蛍光標識二本鎖基質DNA(プローブ)分解の抑制
TaqポリメラーゼのドメインEに特異的に結合する抗体とDNAポリメラーゼ(Taqポリメラーゼ又はTthポリメラーゼ)とを含むPCR反応液を37℃で24時間曝露した場合、前記抗体がポリメラーゼの蛍光標識二本鎖基質DNA分解を抑制するか否か確認した。
【0220】
(1)反応液の構成成分
[PCR用ミックス]
下記の2種類のPCR用ミックス7及び8を調製して使用した。
PCR用ミックス7:
Taqポリメラーゼ(0.05U/μL、TAP-201、東洋紡株式会社製);
ホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体(0.01μg/μL、TCP-101、東洋紡株式会社製);
10mM Tris-HCl(pH8.6);
50mM KCl;
1.5mM MgCl2;及び
0.3μM 蛍光標識二本鎖基質DNA。
PCR用ミックス8:
Tthポリメラーゼ(0.05U/μL、TTH-301、東洋紡株式会社製);
ホットスタートPCR用抗ポリメラーゼ抗体(0.01μg/μL、TCP-101、東洋紡株式会社製);
10mM Tris-HCl(pH8.6);
50mM KCl;
1.5mM MgCl2;及び
0.3μM 蛍光標識二本鎖基質DNA。
【0221】
[蛍光標識二本鎖基質DNA]
配列番号58及び59に記載のオリゴヌクレオチドを有するλDNA由来蛍光標識二本鎖基質DNAを設計した(ここで、配列番号58の5’末端をFAMで標識し、5’末端をBHQ1で標識した)。配列番号58及び59に記載のオリゴヌクレオチドはそれぞれ別個に合成し、等量に混合して使用した。
【0222】
(2)反応
コントロールとして、20mM Tris-HCl(pH 7.5)1μLを、PCR用ミックス19μLに添加した反応液を-20℃又は37℃で24時間曝露した。PCR用ミックス19μLに対して0.4mg/mLの抗ドメインE抗体溶液1μL(持ち込み量:0.4μg)を添加した反応液を37℃で24時間曝露した。その後、リアルタイムPCR装置(Applied Biosystems 7500 Fast リアルタイムPCRシステム)を使用して、以下の温度サイクルで反応を実施した。60℃、45秒の伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。
(温度サイクル)
工程1:95℃ 1分
工程2:95℃ 15秒-60℃ 45秒 50サイクル(PCR)
【0223】
(3)結果
Multicomponent Dataにおける10サイクル目の蛍光値を表25に示す。Tris-HClを添加した反応液を37℃で24時間曝露した場合では、-20℃で24時間曝露した場合に比べて、蛍光値の上昇が確認された。一方、Anti-TAQ2を添加した反応液を37℃で24時間曝露した場合、Tris-HClを添加した反応液を-20℃で24時間曝露した場合と同等で、Taqポリメラーゼ及びTthポリメラーゼ共に蛍光値の上昇は確認されなかった。
具体的には、(e)蛍光標識二本鎖基質DNA分解率は、下記の式で算出できる。
(e)蛍光標識二本鎖基質DNA分解率[(F43-F41)÷(F42-F41)×100)]
F41:抗ドメインE抗体を含まない場合の-20℃で24時間曝露後(37℃24時間の曝露前に相当)の10サイクル目の蛍光強度
F42:抗ドメインE抗体を含まない場合の37℃で24時間曝露後の10サイクル目の蛍光強度
F43:抗ドメインE抗体を含む場合の37℃で24時間曝露後の10サイクル目の蛍光強度
Anti-TAQ2を添加して37℃で24時間曝露したサンプルでは、Taqポリメラーゼ及びTthポリメラーゼ共に(e)蛍光標識二本鎖基質DNA分解率(%)≦10%と算出された。従って、TaqポリメラーゼとTthポリメラーゼの両方に対して、Anti-TAQ2は蛍光標識二本鎖基質DNA分解の十分な抑制能を示すことが確認された。
【0224】
【0225】
試験例18.抗体の結合速度定数ka値、解離速度定数kd値、及び平衡解離定数K
D
値の測定
表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて、Tthポリメラーゼに対する抗体の親和性を決定した。測定装置は、Biacore X100装置(Cytiva社)を使用した。ランニング緩衝液は、0.01M HEPES、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.05%(v/v) Surfactant P 20(Cytiva社)を使用した。
(1)アミンカップリングによる固定化
EDC及びNHSを用いて、リガンド(Tthポリメラーゼ)をCM5センサーチップ(Cytiva社)に固定化し、1M ethanolamine hydrochloride溶液でブロッキングを行った。その結果、フローセル1-4上で200-500RUの密度でTthポリメラーゼが固定化された。
(2)相互作用測定
抗体を0.222~81nMの範囲で段階希釈して、フローセル上に添加した。得られたセンサグラムをBiacore X100評価ソフトウェアのBivalent analyteモデルにフィッティングさせて、結合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)、および平衡解離定数(K
D)を決定した。
(3)結果
抗ドメインE抗体としてAnti-TTH2、Anti-TTH4、Anti-TTH5の相互作用を解析した結果を表24に示す。抗ドメインE抗体は、いずれも10nM以下のK
Dを示した。
【表26】
【0226】
試験例19.抗体のエピトープマッピング
エピトープマッピングは、PEPperPRINT社のPEPperMAP(商標)Peptide Microarray受託解析サービスの立体配座エピトープマッピングを利用して実施した。配列番号1に示したTaq exoのアミノ酸配列(whole TaqのN末端から290番目のアミノ酸まで)、及び配列番号2に示したTth exoのアミノ酸配列(whole TthのN末端から292番目のアミノ酸まで)のうち、7、10、13アミノ酸からなるペプチドを6、9、12アミノ酸ずつ重複するように1アミノ酸ずつずらしてペプチドアレイ上に合成した。その後、各ペプチドアレイに対して、Anti-TAQ2及びAnti-TTH4の結合性を示す検出シグナルを測定し、抗体と相互作用するエピトープを特定した。
【0227】
(結果)
Anti-TAQ2は、Taq exo(配列番号1)におけるアミノ酸配列KEDGDAVIVVF(配列番号61)及びLERLEFGSLLHEF(配列番号77)の少なくとも2つの領域に結合し、また、Tth exo(配列番号2)におけるアミノ酸配列EDGYKAVFVVF(配列番号62)、HLITPEWLW(配列番号66)、KYGLRPEQWVDF(配列番号67)及びLRAFLERLEF(配列番号78)の少なくとも4つの領域に結合することが確認された。
Anti-TTH4は、Taq exo(配列番号1)におけるアミノ酸配列HEAYGGY(配列番号64)、EKYGLRPDQWADY(配列番号68)及びRAFLERLEFGSLLH(配列番号80)の少なくとも3つの領域に結合し、また、Tth exo(配列番号2)におけるアミノ酸配列HEAYEAY(配列番号65)、GLRPEQWVDF(配列番号70)、ITPEWLW(配列番号71)、LRAFLERLEF(配列番号78)及びLEFGSLLHEF(配列番号82)の少なくとも5つの領域に結合することが確認された。
【0228】
Anti-TAQ2は、Taq exoとTth exoで共通もしくは類似するアミノ酸領域Aにおける配列(EDGDAVIVVF(配列番号60)又はEDGYKAVFVVF(配列番号62))を含むエピトープと、アミノ酸領域Dにおける共通配列(LERLEF(配列番号75))を含むエピトープとを認識して結合する抗体であった。
Anti-TTH4は、Taq exoとTth exoで共通もしくは類似するアミノ酸領域Bにおける配列(HEAYGGY(配列番号64)又はHEAYEAY(配列番号65))を含むエピトープと、アミノ酸領域Cにおける共通配列(EKYGLRPDQWADY(配列番号68)、GLRPEQWVDF(配列番号70)、又はITPEWLW(配列番号71))を含むエピトープと、アミノ酸領域Dにおける共通配列(RAFLERLEF(配列番号79)又はLEFGSLLH(配列番号81))を含むエピトープとを認識して結合する抗体であった。
【0229】
また、Anti-TAQ2及びAnti-TTH4の両方に共通して、Taq exoのアミノ酸配列では、アミノ酸領域Dにおける共通配列(LERLEFGSLLH(配列番号76))を含むエピトープに結合し、Tth exoのアミノ酸配列では、アミノ酸領域Cにおける共通配列(GLRPEQWVDF(配列番号70)又はITPEWLW(配列番号71))を含むエピトープと、結合領域Dにおける共通配列(LRAFLERLEF(配列番号78))を含むエピトープとを認識して結合することが示された。そして、Anti-TAQ2及びAnti-TTH4は、Taq exo及びTth exoにおいてアミノ酸領域Dにおける共通配列(LERLEF(配列番号75))を含むエピトープに結合することも確認された。