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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094418
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】ランダムエステル交換油
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/02 20060101AFI20240702BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20240702BHJP
   A23G 1/36 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A23D9/02
A23D9/00 500
A23G1/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024071754
(22)【出願日】2024-04-25
(62)【分割の表示】P 2024513533の分割
【原出願日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2022140176
(32)【優先日】2022-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】橋本 革
(72)【発明者】
【氏名】淺野 茂三
(57)【要約】
【課題】チョコレート類におけるグレーニングを低減させる低トランス脂肪酸の油脂を提供すること。
【解決手段】構成脂肪酸組成中、炭素数12~18の飽和脂肪酸の含有量が20質量%以上、及び、構成脂肪酸組成中、炭素数12~18の飽和脂肪酸の含有量をX、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量をYとしたときのY/Xを0.2以上1.0以下、としたランダムエステル交換油。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)及び(B)を満たす、ランダムエステル交換油。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数12~18の飽和脂肪酸の含有量が20質量%以上
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~18の飽和脂肪酸の含有量をX、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量をYとしたとき、Y/Xが0.2以上1.0以下
【請求項2】
(C)構成脂肪酸組成中、不飽和脂肪酸の含有量が50質量%以上80質量%以下である、請求項1に記載のランダムエステル交換油。
【請求項3】
(D)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が5質量%以上30質量%以下である、請求項1に記載のランダムエステル交換油。
【請求項4】
(D)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が5質量%以上30質量%以下である、請求項2に記載のランダムエステル交換油。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のランダムエステル交換油を含む、チョコレート類。
【請求項6】
請求項3又は請求項4に記載のランダムエステル交換油を含む、チョコレート類。
【請求項7】
チョコレート類中の油脂分が10質量%~70質量%、チョコレート類中の油脂分中にカカオバターを3質量%~40質量%、及び、請求項1又は請求項2に記載のランダムエステル交換油を5質量%~97質量%含有する、チョコレート類。
【請求項8】
チョコレート類中の油脂分が10質量%~70質量%、チョコレート類中の油脂分中にカカオバターを3質量%~40質量%、及び、請求項3又は請求項4に記載のランダムエステル交換油を5質量%~97質量%含有する、チョコレート類。
【請求項9】
請求項1又は請求項2に記載のランダムエステル交換油を使用することを特徴とする、チョコレート類のグレーニングの抑制方法。
【請求項10】
請求項3又は請求項4に記載のランダムエステル交換油を使用することを特徴とする、チョコレート類のグレーニングの抑制方法。
【請求項11】
下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油となるように、原料油脂を配合する、ランダムエステル交換油の製造方法。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数12~18の飽和脂肪酸の含有量が20質量%以上
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~18の飽和脂肪酸の含有量をX、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量をYとしたとき、Y/Xが0.2以上1.0以下
【請求項12】
ランダムエステル交換の前記原料油脂に、下記油脂原料a及び油脂原料bを含む、請求項11に記載のランダムエステル交換油の製造方法。
油脂原料a:ヨウ素価50~150の植物油脂
油脂原料b:ラウリン油脂
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、令和4年9月2日に出願された日本国特許出願2022-140176号の優先権の利益を主張する。優先権基礎出願はその全体について、出典明示により本明細書の一部とする。
【0002】
本発明は、ランダムエステル交換油に関する。
【背景技術】
【0003】
チョコレート類は、チョコレート類単独で使用される他に、菓子類・パン類と組み合わせて使用される食品も多く、多種多様な形態の食品に利用されている。かかる利用形態に応じて、チョコレート類に求められる機能も様々である。
【0004】
様々な種類のチョコレート類の中で、滑らかで軟らかい食感のソフトチョコレート類が存在する。従来、かかるソフトチョコレート類には、大豆油や菜種油などの液状油、及びかかる液状油を原材料として水素添加して得られる、上昇融点10℃~20℃程度の微水添硬化油が広く利用されてきた。微水添硬化油は、カカオバターとの相溶性や、チョコレートに配合した際の結晶性状にも優れ、ブルーム耐性が良好で、ソフトチョコレート類に適した機能を有していたが、トランス脂肪酸が健康に及ぼすリスクが報告された状況から、構成脂肪酸組成中のトランス脂肪酸含有量を低減した、低トランス脂肪酸の油脂が望まれるようになった。
【0005】
低トランス脂肪酸の油脂が望まれる状況で、既存の低融点油脂に、シード剤や乳化剤を配合する方法が開示されている(特許文献1、特許文献2)。しかしながら、いずれも油脂を改良するものではなく、添加物を加えてチョコレートに配合した際の結晶性状を改良するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-153438号公報
【特許文献2】国際公開第2019/194081号
【特許文献3】特開2018-171001号公報
【特許文献4】特開2018-171002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3、特許文献4には、エステル交換により結晶性状を改善した、低トランス脂肪酸の油脂が開示されている。口中でカカオバターに類似したシャープな融解性状を有しているが、ソフトチョコレート類に使用するには、開示された油脂単独では若干硬い油脂であった。
【0008】
本発明者らは、低トランス脂肪酸の油脂を使用した、ソフトチョコレート類に発生する課題を考察した。カカオバターよりも低融点の油脂を配合すると、カカオバターなど比較的融点の高い油脂が結晶化し、ざらざらとした(grainy)粒状の油脂結晶や、粗い組織でボロボロとした(crumbly)食感を呈するといった、グレーニングと呼ばれる現象を発生する場合がある。
かかる従来技術を認識した上で、本発明の目的は、チョコレート類におけるグレーニングを低減させる低トランス脂肪酸の油脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、構成脂肪酸組成中、炭素数12~18の飽和脂肪酸の含有量が20質量%以上、及び、構成脂肪酸組成中、炭素数12~18の飽和脂肪酸の含有量をX、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量をYとしたときのY/Xを0.2以上1.0以下、としたランダムエステル交換油が、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の内容を含む。
(1) 下記(A)及び(B)を満たす、ランダムエステル交換油。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数12~18の飽和脂肪酸の含有量が20質量%以上
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~18の飽和脂肪酸の含有量をX、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量をYとしたとき、Y/Xが0.2以上1.0以下
(2) (C)構成脂肪酸組成中、不飽和脂肪酸の含有量が50質量%以上80質量%以下である、(1)のランダムエステル交換油。
(3) (D)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が5質量%以上30質量%以下である、(1)のランダムエステル交換油。
(4) (D)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が5質量%以上30質量%以下である、(2)のランダムエステル交換油。
(5) (1)又は(2)のランダムエステル交換油を含む、チョコレート類。
(6) (3)又は(4)のランダムエステル交換油を含む、チョコレート類。
(7) チョコレート類中の油脂分が10質量%~70質量%、チョコレート類中の油脂分中にカカオバターを3質量%~40質量%、及び、(1)又は(2)のランダムエステル交換油を5質量%~97質量%含有する、チョコレート類。
(8) チョコレート類中の油脂分が10質量%~70質量%、チョコレート類中の油脂分中にカカオバターを3質量%~40質量%、及び、(3)又は(4)のランダムエステル交換油を5質量%~97質量%含有する、チョコレート類。
(9) (1)又は(2)のランダムエステル交換油を使用することを特徴とする、チョコレート類のグレーニングの抑制方法。
(10) (3)又は(4)のランダムエステル交換油を使用することを特徴とする、チョコレート類のグレーニングの抑制方法。
(11) 下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油となるように、原料油脂を配合する、ランダムエステル交換油の製造方法。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数12~18の飽和脂肪酸の含有量が20質量%以上
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~18の飽和脂肪酸の含有量をX、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量をYとしたとき、Y/Xが0.2以上1.0以下
(12) ランダムエステル交換の前記原料油脂に、下記油脂原料a及び油脂原料bを含む、(11)のランダムエステル交換油の製造方法。
油脂原料a:ヨウ素価50~150の植物油脂
油脂原料b:ラウリン油脂
【発明の効果】
【0011】
本発明により、チョコレート類において、グレーニングの発生を抑制する油脂を提供することができる。
好ましい態様として、ブルーム耐性の良好な、滑らかな食感のソフトチョコレート類が得られる油脂を提供することができる。
より好ましい態様として、従来使用されている液状油よりも、グレーニングの発生を抑制可能な油脂を提供することができる。
本発明のランダムエステル交換油を使用することで、グレーニングの発生が抑制されたチョコレート類を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0013】
本発明のランダムエステル交換油に使用可能な油脂類は、大豆油、ハイエルシン菜種油、菜種油、コーン油、綿実油、落花生油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、こめ油、ベニバナ油、ハイオレイックベニバナ油、オリーブ油、ゴマ油、パーム油、ヤシ油、パーム核油、中鎖脂肪酸結合油脂(MCT)、シア脂、サル脂、カカオ脂等の植物性油脂、乳脂、牛脂、豚脂等の動物性油脂、ならびに、それらの硬化油、分別油、硬化分別油、分別硬化油、エステル交換等を施した加工油脂、さらにこれらの混合油等が例示できる。
好ましい態様は、本発明では、低トランス脂肪酸を志向するため、トランス型脂肪酸を比較的多く含む部分硬化油を使用することなくチョコレートを作製することができる。
なお、ハイエルシン酸菜種油を使用する場合、ハイエルシン酸菜種油に含まれるエルシン酸含量は、構成脂肪酸組成中、30質量%以上であることが好ましい。
【0014】
本発明のランダムエステル交換油は、下記(A)及び(B)を満たす。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数12~18の飽和脂肪酸の含有量が20質量%以上
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~18の飽和脂肪酸の含有量をX、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量をYとしたとき、Y/Xが0.2以上1.0以下
【0015】
前記(A)構成脂肪酸組成中、炭素数12~18の飽和脂肪酸の含有量は、20質量%以上、好ましくは20質量%以上50質量%以下、より好ましくは20質量%以上45質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上40質量%以下である。
【0016】
前記(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~18の飽和脂肪酸の含有量をX、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量をYとしたとき、Y/Xが、0.2以上1.0以下、好ましくは0.2以上0.8以下、より好ましくは0.2以上0.7以下である。
【0017】
好ましい態様として、本発明のランダムエステル交換油は、(C)構成脂肪酸組成中、不飽和脂肪酸の含有量が50質量%以上80質量%以下、好ましくは52質量%以上80質量%以下、より好ましくは55質量%以上80質量%以下である。
【0018】
好ましい態様として、本発明のランダムエステル交換油は、(D)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が5質量%以上30質量%以下、好ましくは5質量%以上27質量%以下、より好ましくは5質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは6質量%以上23質量%以下である。
【0019】
本発明のランダムエステル交換油は、構成脂肪酸組成中のトランス脂肪酸含有量が、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。
【0020】
ランダムエステル交換方法としては、酵素もしくは金属触媒(例えばナトリウムメチラート)を用いた方法が例示できる。
【0021】
本発明のランダムエステル交換油は、前記構成を満たせば、原料油脂として使用する油脂類に特に制限はないが、下記、油脂原料a及び油脂原料bを必須成分として使用することが好ましい。
油脂原料a:ヨウ素価50~150の植物油脂
油脂原料b:ラウリン油脂
【0022】
本明細書において、油脂原料aとして使用する、ヨウ素価50~150の植物油脂とは、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、落花生油、ひまわり油、こめ油、ベニバナ油、オリーブ油、パームオレイン、シアオレインが例示できる、好ましくは、ヨウ素価70~145の大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、ひまわり油、こめ油、ベニバナ油である。
【0023】
本明細書において、油脂原料bとして使用する、ラウリン油脂とは、炭素数12の飽和脂肪酸である、ラウリン酸を多く含む油脂であって、具体的には、ヤシ油、パーム核油、ならびに、それらの硬化油、分別油、硬化分別油、分別硬化油、さらにこれらの混合油等が例示できる。
【0024】
本発明のランダムエステル交換油は、チョコレート類に好適に使用することができる。
本明細書において、チョコレート類とは、全国チョコレート業公正取引協議会、チョコレート利用食品公正取引協議会で規定されるチョコレート、準チョコレート、およびチョコレート利用食品に限定されるものではなく、油脂類を必須成分とし、カカオマス、ココア、カカオバター、カカオバター代用脂、ハードバター等を利用した油脂加工食品をも包含し、一般的なチョコレート製造の工程を経て製造されるものである。
本発明のランダムエステル交換油の他に、カカオ成分や乳成分に由来する油脂分と、非テンパリング型ハードバター、その他油脂成分を組み合わせて、適宜配合量を調整することで、各種用途に適したチョコレート類を作製することができる。
【0025】
好ましい態様として、本発明のランダムエステル交換油を使用したチョコレート類中の油脂分は10質量%~70質量%であって、チョコレート中の油脂分にはカカオバターを3質量%~40質量%、及びランダムエステル交換油を5質量%~97質量%含有する。
【0026】
本明細書において油脂分とは、カカオマスやココアパウダーなどのカカオ原料由来の脂肪分(カカオバター)の他、チョコレート類に配合する原料由来の脂肪分を含む。チョコレート類中の油脂分は、より好ましくは20質量%~60質量%である。油脂分を適切な範囲内にすることで、口どけ、風味が良好なチョコレート類を得ることができる。
【0027】
本発明のランダムエステル交換油の使用量は、チョコレート類中の油脂分中に、より好ましくは8質量%~90質量%、さらに好ましくは10質量%~70質量%である。本発明のランダムエステル交換油が5質量%未満の場合 、本発明の効果が得られなかったり、チョコレート類に求められる食感が得られなかったりする場合がある。
【0028】
チョコレート類中のカカオバターの含有量は、チョコレート類中の油脂分中に、より好ましくは5質量%~40質量%である。本明細書において、カカオバターの含有量は、カカオマスやココアパウダーなどのカカオ原料由来の脂肪分(カカオバター)を含むものである。
【0029】
好ましい態様として、本発明のランダムエステル交換油を使用したチョコレート類は、ソフトチョコレート類であることが好ましい。ソフトチョコレート類とは、一般的なチョコレート類が求められる良好なスナップ性を有さず、常温で可塑性を有するチョコレート類をいう。
【0030】
本明細書において、グレーニングとは、保存したチョコレート類に発生する、ざらざらとした(grainy)粒状の油脂結晶や、粗い組織でボロボロとした(crumbly)食感を意味する。
グレーニングは、カカオバターよりも低融点の油脂を配合すると、カカオバターなど比較的融点の高い油脂が結晶化することにより発生することが想定されており、チョコレート類中に含まれる油脂分の影響が大きく、油脂でのグレーニング評価によって、チョコレートにおけるグレーニングなどの品質を評価することができる。
【0031】
本発明のランダムエステル交換油を使用したチョコレート類の製造法としては、一般的なチョコレート類を製造する要領で行うことができる。具体的には、本発明のランダムエステル交換油を必須とし、その他油脂類、糖類、カカオマス、カカオバター、ココアパウダー、粉乳等の各種粉末食品、乳化剤、香料、色素等の原料を適宜選択して混合し、ロール掛け及びコンチング処理を行い得ることができる。製造方法としては、他にもボールミル、ビーズミルなどで混合及び微粒化処理する製造方法など、一般的なチョコレート類の製造方法を用いることができる。
【0032】
本発明のランダムエステル交換油を使用したチョコレート類には、通常チョコレート類の製造に使用される乳化剤を使用することができる。ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリソルベート、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルが例示できる。これらは2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【実施例0033】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。なお、例中、%及び部はいずれも質量基準を意味する。
【0034】
(分析方法)
(ヨウ素価)
油脂のヨウ素価は、基準油脂分析試験法2.3.4.1-2013に準じて測定した。
(脂肪酸組成)
日本油化学協会基準油脂分析試験法(1996年版)2.4.1. 2メチルエステル化法(三フッ化ホウ素メタノール法)に規定の方法に準じて測定した。
(上昇融点)
日本油化学協会基準油脂分析試験法(1996年版)2.2.4.2(上昇 融点)に規定の方法に準じて測定した。
【0035】
(検討1)チョコレートでのグレーニング評価
【0036】
表1の配合に従いチョコレートを作製した。(単位/質量部)
なお、チョコレートの調製条件は、公知の方法に従った。
すなわち、ココアパウダー 、カカオマス、乳糖、砂糖に適量の検討油脂とレシチンを加え、ミキサーにて、加温しながら混和しドウを作製した。
このドウをロールリファイナー( BUHLER社製Three-rollmill SDY300) により、
約20μmの粒度に微粒化し、ここへ残余の油脂とレシチンを全量加え、コンチングマシン( コンチェ)にて均一に練り上げ、チョコレートを得た。なお粒度の測定は、マイクロメーターを用いた。
使用したココアパウダー中の油脂(カカオバター)含有量は11質量%、カカオマス中の油脂(カカオバター)含有量は55%として算出した。チョコレート中の油脂分は40.2質量%であった。検討油脂として、菜種油を使用した。
【0037】
【表1】
【0038】
(チョコレートのグレーニングの評価方法)
溶解したチョコレートを内袋付きの箱に充填し、5℃で保持し、チョコレートの状態を目視で観察した。
【0039】
(チョコレートのグレーニングの評価結果)
菜種油を使用したチョコレートでは3日目で早々に、チョコレートの内部や外部を含めた全体にグレーニングが発生した。
【0040】
(検討2)油脂でのグレーニング評価
【0041】
(油脂でのグレーニング評価方法)
本検討ではチョコレート中の油脂分のみを配合してグレーニング評価を行った。
表1記載のチョコレート配合に従い、検討油脂とカカオバター分から成る油脂部のみに相当する、検討油脂92質量部、カカオバター8質量部の混合油を作製した。前記チョコレート配合同様に、検討油脂として、菜種油を使用した。
混合油を60℃以上で完全に溶解してシャーレに分注した。このシャーレを60℃で1時間、30℃で1時間保持した後、5℃で保持した。
【0042】
(油脂でのグレーニング評価結果)
・保持後の結晶の状態を目視で観察した結果、保存後7日目で早々に、グレーニングが発生した。
・チョコレートの油脂部を想定した、油脂でのグレーニング評価において、菜種油を使用した評価結果の4倍相当(28日)以上にグレーニング耐性を延ばすことを、グレーニングの発生を抑制する油脂の目標品質とした。
【0043】
(検討3)グレーニングの発生を抑制する油脂の検討1
【0044】
本検討ではチョコレート中の油脂分のみを配合してグレーニング評価を行い、グレーニングの発生を抑制する油脂を検討した。
表2記載に従い、原料油脂を配合した。撹拌混合後に、ナトリウムメチラートを触媒として0.20質量%添加し、80℃にて30分ランダムエステル交換を行った後、常法に従い水洗/脱色/脱臭を行い、ランダムエステル交換油1~14を得た。
なお、油脂H、油脂Iとして下記の油脂を使用し、表中で、ヨウ素価をIVと表記した。
(油脂H、油脂I)
構成脂肪酸組成中のオレイン酸含有量が86.0%の高オレイン酸ヒマワリ油30.0質量部とステアリン酸70.0質量部を混合した後、1,3位選択性のあるリパーゼを用いてエステル交換を行い、反応油を得た。
この反応油より脂肪酸を蒸留により留去し、アセトンを用いて二段溶剤分別を行って、得られた分別中融点部を、常法に従い脱色/脱臭を行い油脂H(ヨウ素価:33.0)、
及び得られた分別低融点部を、常法に従い脱色/脱臭を行い油脂I(ヨウ素価:65.0)を得た。
【0045】
ランダムエステル交換油1~14について、前記脂肪酸組成分析方法に従い脂肪酸組成を分析した結果を表3に示す。
なお油脂A、Bの脂肪酸組成も記載した。
表中、構成脂肪酸組成中、炭素数12~18の飽和脂肪酸の含有量(%)をX、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量(%)をYとして、計算値を記載した。さらに不飽和脂肪酸の合計量をZとして記載した。
油脂A、Bは下記を使用した。
油脂A:菜種油
油脂B:パームスーパーオレイン(ヨウ素価67)
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
作製したランダムエステル交換油1~14を使用し、検討油脂92質量部、カカオバター8質量部の混合油を作製し、前記、(油脂のグレーニング評価方法)に従い、下記(油脂のグレーニング評価基準)により、5℃で評価し、評価結果を表4に記載し、使用したランダムエステル交換油の分析値(X、Y、Y/X、Z)も合わせて評価した。
なおカカオバターとして、下記を使用した。
カカオバター(ココアバター201、不二製油株式会社製)
【0049】
(油脂のグレーニング評価基準)
〇:良好
△:グレーニングが少量発生、許容範囲
×:グレーニングが全体に発生
○及び△を合格と判断した。
【0050】
【表4】
【0051】
(表4の考察)
ランダムエステル交換油4~6、9~14を使用した実施例では、グレーニングが28日目でも発生せず目標品質が得られた。
【0052】
(脂肪酸組成分析値の評価)
ランダムエステル交換油の脂肪酸組成を、下記の数値で評価した。
X:構成脂肪酸組成中、炭素数12~18の飽和脂肪酸の含有量が20質量%以上
Y:構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が5質量%以上30質量%以下
Y/X:0.2以上1.0以下
Z:構成脂肪酸組成中、不飽和脂肪酸の含有量が50質量%以上80質量%以下
【0053】
(脂肪酸組成分析値の評価結果)
・グレーニング評価が良好であった、ランダムエステル交換油4~6、9~14は、前記X、Y/Xの数値範囲を何れも満たす。
・ランダムエステル交換油4~6、9~14は、前記X、Y/Xに加えて、前記Zも満たす。
・ランダムエステル交換油4~6、9~14は、前記X、Y/Xに加えて、前記Yも満たす。
【0054】
(使用した油脂原料の考察)
良好な評価結果が得られた、ランダムエステル交換油4~6、9~14は、前記構成に加えて、原料油脂中に、下記の油脂原料a及び油脂原料bを含有する。
油脂原料a:ヨウ素価50~150の植物油脂
油脂原料b:ラウリン油脂
【0055】
(検討4)グレーニングの発生を抑制する油脂の検討2
【0056】
作製したランダムエステル交換油を使用し、検討油脂91.3質量部、カカオバター8質量部、ハイエルシン酸菜種極度硬化油0.7質量部の混合油を作製し、前記、(油脂のグレーニング評価方法)及び(油脂のグレーニング評価基準)に従い、5℃で評価し、評価結果を表5に記載した。
【0057】
【表5】
【0058】
(表5の考察)
本発明のランダムエステル交換油は、ハイエルシン酸菜種極度硬化油を配合した評価においても、グレーニングが28日目でも発生せず目標品質が得られた。
【0059】
(検討5)チョコレートでのグレーニング評価
【0060】
本発明のランダムエステル交換油を使用したチョコレートで評価した。
ランダムエステル交換油13、14を使用し、前記同様に表1に記載の配合に従いチョコレートを作製し、前記(チョコレートのグレーニングの評価方法)と同様に評価を行い、下記の(チョコレートのグレーニング評価基準)に従いグレーニングを評価した。評価結果を表6に示す。
なお、比較例として前記油脂Aも同様にチョコレートを作製し評価した。なお、チョコレート類中の油脂分中にカカオバターを8質量%、検討油脂を92質量%含む配合であった。
【0061】
(チョコレートのグレーニング評価基準)
〇:良好
△:グレーニングが少量発生、許容範囲
×:グレーニングが全体に発生
○及び△を合格と判断した。
【0062】
【表6】
【0063】
(チョコレートでのグレーニング評価結果)
本発明のランダムエステル交換油を使用したチョコレートでは、油脂での評価同様に、比較例よりも良好なグレーニング耐性が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のランダムエステル交換油を使用することで、チョコレート類においてグレーニングの発生を抑制する、油脂を提供することができる。