(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009442
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】サイジングプレス装置用異常検知装置およびサイジングプレス装置の異常検知方法
(51)【国際特許分類】
B21B 15/00 20060101AFI20240116BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20240116BHJP
B21B 38/00 20060101ALI20240116BHJP
B21B 38/04 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B21B15/00 E
B21C51/00 Q
B21C51/00 R
B21B38/00 G
B21B38/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110964
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 貴則
(57)【要約】
【課題】プレス工具を支持するスクリューの数が減少した状態での幅圧下の作業を抑止する技術を提供する。
【解決手段】被圧延スラブの幅方向の側部に対向配置されたプレス工具と、該プレス工具の位置を調整する複数本のスクリュー軸と、前記プレス工具を往復運動させるクランク機構と、を備え、前記被圧延スラブの幅圧下を行うためのサイジングプレス装置の異常検知装置であって、全ての前記スクリュー軸に位置検知手段と、該位置検知手段からの情報を取得し前記スクリュー軸の位置を監視可能な制御手段と、を有する、サイジングプレス装置用異常検知装置である。その装置を用い、前記制御手段は、前記スクリュー軸の位置が所定の範囲にあるか判定する、サイジングプレス装置の異常検知方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被圧延スラブの幅方向の側部に対向配置されたプレス工具と、該プレス工具の位置を調整する複数本のスクリュー軸と、前記プレス工具を往復運動させるクランク機構と、を備え、前記被圧延スラブの幅圧下を行うためのサイジングプレス装置の異常検知装置であって、
全ての前記スクリュー軸に位置検知手段と、
該位置検知手段からの情報を取得し前記スクリュー軸の位置を監視可能な制御手段と、を有する、サイジングプレス装置用異常検知装置。
【請求項2】
前記位置検知手段が、前記スクリュー軸の回転検出器、および、前記スクリュー軸について前記被圧延スラブの幅方向の移動量を検知する変位検出器のいずれか一方または両方である、請求項1に記載のサイジングプレス装置用異常検知装置。
【請求項3】
前記制御手段が、前記回転検出器および前記変位検出器のいずれか一方または両方からの情報を取得し、該情報から前記スクリュー軸の現在位置を演算する演算装置と、得られた演算結果を自動判定する判定装置と、を持つ、請求項2に記載のサイジングプレス装置用異常検知装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のサイジングプレス装置用異常検知装置を用い、
前記制御手段は、前記スクリュー軸の位置が所定の範囲にあるか判定する、サイジングプレス装置の異常検知方法。
【請求項5】
前記制御手段は、前記スクリュー軸の位置が所定の範囲にないと判定したとき、アラームを発するとともに前記サイジングプレス装置の稼働を停止する、請求項4に記載のサイジングプレス装置の異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延サイジングプレス装置において特に幅調整機構の異常、および劣化状況を検知する異常検知装置および異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スタートストップ方式のサイジングプレス装置を用いて幅圧下を行う際のプレス荷重は最大で2500tf~3000tf(24.5MN~29.4MN)になる。プレス荷重は複数のスクリューである程度均等に負荷分配されることを前提に設計がなされている。
【0003】
サイジングプレス装置においては、クランク機構により、プレス工具を往復運動させて被圧延材の幅圧下を行う。幅圧下開放中、つまり、被圧延材とプレス工具とが接触していない時には、サイジングプレス装置は被圧延材を次のプレス工具と接する位置へ前進・後退させ、幅調整を行う。
【0004】
この幅調整の際に、たとえば1本のスクリューにカップリング歯摩滅やユニバーサルジョイントの脱落などによる入力トルクの伝達不良が発生したとする。そのような入力トルクの伝達不良を駆動縁切れと呼ぶ。その場合には幅圧下時にプレス工具を支持するスクリューの数が減少することになる。そのため、プレス工具およびスクリューを含めた受圧機構に設計強度を超える負荷が生じてしまって、設備が破損するおそれがある。
【0005】
サイジングプレスの異常検知に関する従来技術として、特許文献1には、サイジングプレス装置用の異常検知装置が開示されている。その装置は、プレス工具を装備したブロックを支持する支持車輪、スクリューおよびユニバーサルジョイントに掛る負荷を測定する装置類、すなわち、サイジングプレス本体に関する負荷を測定する装置で構成されている。
【0006】
また、特許文献2には、サイジングプレス装置の監視装置が開示されている。この装置は、種々の部品の動作速度を検知する監視装置と稼動体の相互位置を演算する演算装置、運転状態の正常・異常を判定する判定装置、異常判定時に自動的に異常状態を回復させるように制御する制御装置とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平02-006031号公報
【特許文献2】特開平03-077704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術には、以下のような課題があった。
特許文献1に記載の装置では、幅圧下時の負荷を計測し異常を判定することを前提としており、異常負荷の発生自体を未然に防ぐことは困難である。
【0009】
特許文献2に記載の装置では、スクリューの開閉速度をパルスジェネレータ(PLG)等の回転検出装置からの信号に基づき各可動体の相互関係を演算装置で演算している。その演算装置における演算結果からサイジングプレス装置の幅圧下運転状態を判定装置で判定するよう構成されている。
【0010】
しかしながら、全スクリューの開閉状態を監視することを前提としていない。各スクリューへの駆動分配減速機に回転検出装置を付帯させた場合には、減速機の出力軸以降のカップリングやユニバーサルジョイントにて駆動縁切れが発生した際に、異常を正確に察知することは難しいという問題があった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、プレス工具を支持するスクリューの数が減少した状態での幅圧下の作業を抑止する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は、前記課題を解決するために分配減速機の二次側、すなわちスクリュー軸全数に対して回転検出機もしくは変位検出機を設けることで、全スクリュー軸の位置情報を監視することが可能となることを見出し、発明を完成させた。
【0013】
上記課題を有利に解決する本発明にかかるサイジングプレス装置用異常検知装置は、被圧延スラブの幅方向の側部に対向配置されたプレス工具と、該プレス工具の位置を調整する複数本のスクリュー軸と、前記プレス工具を往復運動させるクランク機構と、を備え、前記被圧延スラブの幅圧下を行うためのサイジングプレス装置の異常検知装置であって、全ての前記スクリュー軸に位置検知手段と、該位置検知手段からの情報を取得し前記スクリュー軸の位置を監視可能な制御手段と、を有することを特徴とする。
【0014】
なお、本発明にかかるサイジングプレス装置用異常検知装置は、
(a)前記位置検知手段が、前記スクリュー軸の回転検出器、および、前記スクリュー軸について前記被圧延スラブの幅方向の移動量を検知する変位検出器のいずれか一方または両方であること、
(b)前記制御手段が、前記回転検出器および前記変位検出器のいずれか一方または両方からの情報を取得し、該情報から前記スクリュー軸の現在位置を演算する演算装置と、得られた演算結果を自動判定する判定装置と、を持つこと、
などがより好ましい解決手段になり得る。
【0015】
上記課題を有利に解決する本発明にかかるサイジングプレス装置の異常検知方法は、上記いずれかのサイジングプレス装置用異常検知装置を用い、前記制御手段は、前記スクリュー軸の位置が所定の範囲にあるか判定することを特徴とする。
【0016】
なお、本発明にかかるサイジングプレス装置の異常検知方法は、前記制御手段は、前記スクリュー軸の位置が所定の範囲にないと判定したとき、アラームを発するとともに前記サイジングプレス装置の稼働を停止することがより好ましい解決手段になり得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかるサイジングプレス装置用異常検知装置およびサイジングプレス装置の異常検知方法によれば、プレス工具を支持するスクリュー本数が減少した状態での幅圧下を抑制できる。そのため、異常負荷に伴う設備故障を抑止することができる。具体的には、全スクリューの位置情報を計測し、計測結果をもとに演算・判定するようにしたので、幅圧下実行前、すなわち幅調整動作の段階においても確実に全スクリューが正常な位置へ揃って移動していることが保証できる。結果として設備稼働率が向上する効果が見込まれるので産業上有用である。
【0018】
また、回転検出機および変位検出機の検出値の推移の監視を行えば、各スクリュー軸のバックラッシュを把握することができるので、スクリューナットなどの劣化進行を察知することができる。それにより、重大故障発生前に予防保全が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるサイジングプレス装置用異常検知装置の構成を示す模式図である。
【
図2】上記実施形態にかかるX部のスクリュー軸とプレス工具との接続部を拡大して示す模式図である。
【
図3】上記実施形態の位置検知手段で測定したスクリュー軸の位置の時間経過の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態にかかるサイジングプレス装置用異常検知装置の構成を示す模式図である。
図2はスクリュー軸とプレス工具との接続部を拡大して示す模式図である。
【0022】
サイジングプレス装置100は、幅調整用の内ブロック5を有する。この内ブロック5はスラブ材2の搬送方向FDに直交する方向、つまり被圧延スラブとしてのスラブ材2の幅方向に往復運動する。そして、内ブロック5に固定され、かつ、テーパーのついた一対の金型1がスラブ材2の両側部を押圧し幅圧下を行う。内ブロック5は、各々幅調整用の複数のスクリュー13を回転自在に接続している。これらのスクリュー13は外ブロック6に固定されたスクリューナット3に螺合している。それとともに、ユニバーサルジョイント7、スプラインシャフト8および分配ギアーを介して幅調整機構の駆動モーター12により駆動回転される。分配ギアーはオフセットギアボックス9、ギアカップリング10および分配減速機11からなる。
【0023】
したがって、外ブロック6に組み込まれたスクリュー13が駆動モーター12により駆動回転され、内ブロック5の位置を調整して、スラブ材2の板幅差の調整を行うことができる。外ブロック6は図示しないクランク機構を介して往復運動を行い、これによってスラブ材2は金型1で幅圧下される(幅圧下)。プレス工具は、金型1、内ブロック5および外ブロック6からなる。
【0024】
一方、スラブ材2は前後に設けられたピンチロールによって挟まれ、スラブ材2が金型1から解放されている間に次のプレス位置へスラブ材2を搬送する(材料搬送)。この様に幅圧下と材料搬送とを交互に繰り返して、スラブ材2の全側部を全長に亘って圧下する。
【0025】
幅調整用のスクリュー13は幅圧下力を受けるとスクリュー13が逆転する。そこで、駆動モーター12にエアーブレーキを装備して、スクリューの回転前にエアーブレーキを開にし、回転が終了したときエアーブレーキを閉にしてロックしている。
【0026】
本実施形態のサイジングプレス装置には、各種検出装置が使用されている。たとえば、スクリュー13の端部またはスクリューナット3の底部には、幅圧下荷重を検出するロードセル4が取り付けられている。
【0027】
本実施形態では、特に、全てのスクリュー13の位置を検出するために、位置検知手段14を有している。位置検知手段14としての回転検出器は、スプラインシャフト8またはスクリュー13に設置して回転量を、たとえば、回転方向、回転数および回転角度で検出する。位置検知手段14としての変位検出器は、スプラインシャフト8またはスクリュー13に設置して、スラブ材の幅方向(搬送方向FDに直交する方向)の移動量を直接検出する。すべてのスクリュー13に対し、回転検出器および変位検出器のいずれか一方を設置する。両方を設置することが好ましい。位置検知手段14の設置位置は、ユニバーサルジョイント7の縁切れ時にも異常検出が可能となるスクリュー13への設置がより好ましい。
【0028】
本実施形態では、位置検知手段14が検知した情報を収集する制御手段17を有する。制御手段17はコンピュータやシーケンサなどで構成される。制御手段17は、位置検知手段14が伝達してきた情報を逐次演算し、全てのスクリュー13の現在位置を把握する演算装置を持つ。制御手段17は、全てのスクリュー13が、幅圧下や材料搬送の各ステージに定められた所定の範囲にあるか判定する判定装置を持つ。スクリュー13の位置偏差が所定の範囲を超えて異常と判定された場合には、アラームを発し、サイジングプレス装置100を停止する制御装置を持つ。たとえば、異常が駆動縁切れやカップリングの歯飛びなどにより所定値の超過と判定した場合には、幅圧下動作への移行前に設備停止を行うことができる。
【0029】
制御手段17は、スクリュー13の常時位置監視とともに、ロードセル4の圧下荷重や駆動モーター12の回転数、ピンチロールの回転数や回転速度などの検出装置からの情報を収集してもよい。そして、それらの情報を総合的に判定して、サイジングプレス装置100の稼働を監視し、異常を判定した場合には、異常を回避したり、異常を知らせたり、設備停止したりすることが好ましい。
【0030】
図2は、
図1のX部を拡大し、内ブロック5に固定されたプレッシャーブロック15とスクリュー締結リング16とスクリュー13先端との関係を断面で示す部分拡大模式図である。本実施形態では、
図2に示すように、各スクリュー13の位置偏差異常を判定する閾値として、スクリュー13とスクリュー締結リング16間の隙間寸法以下とすることが好ましい。そうすることで、スクリュー締結リング16の破損を防止できる。上記閾値として、2.0mm以下とすることが好ましい。さらに、この閾値として、1.5mm以下とすることがより好ましい。
【実施例0031】
図1に記載のサイジングプレス装置100の構成で、位置検知手段14として、シルナックシリンダーもしくはレーザー変位計を用い、制御手段17の持つ演算装置でスクリュー13の位置変動を演算した。
図3に結果をグラフで示す。
図3は、縦軸に幅調整動作時のスクリュー13の位置変動xを示し、横軸に時間経過tを示す。通常動作時は、全スクリューの位置変動xが実線A上に重なって現れる。一方、いずれかのスクリューに駆動縁切れが発生したときには、そのスクリューの位置変動xは破線Bで表される。したがって、実線Aと破線Bとでスクリューの位置偏差が生じる。たとえば、閾値としてDで示す値を設定しておき、一のスクリューと他のスクリューとの位置偏差がその値を超えたときに、設備異常と判定することができる。この判定を、制御手段17の判定装置が行うように構成できる。
【0032】
また、潤滑不良や過負荷圧延などでスクリューナット3やスクリュー13先端が摩耗した場合には、
図3の一点鎖線Cで示すように正常な他のスクリュー(実線A)から乖離したグラフとなる。事前に設備の使用推移から正常な摩耗量を把握しておき、実線と一点鎖線との偏差として測定した摩耗量が所定値を超えたとき、異常摩耗と判定することができる。摩耗の程度によって、設備の保全サイクルに反映することができる。
本発明のサイジングプレス装置用異常検知装置およびサイジングプレス装置の異常検知方法によれば、幅圧下による異常負荷での設備故障を抑止することができる。また、スクリューナットの劣化進行の察知が可能となり、重大故障発生前に予防保全が可能となる。それらの結果として設備稼働率が向上する効果が見込まれるので産業上有用である。