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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094457
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】フォークリフト
(51)【国際特許分類】
   B66F 9/24 20060101AFI20240703BHJP
   B66F 9/08 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
B66F9/24 Q
B66F9/24 G
B66F9/08 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211000
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】円山 尚
【テーマコード(参考)】
3F333
【Fターム(参考)】
3F333AA02
3F333AB14
3F333BD02
3F333BD05
3F333FA12
3F333FA36
3F333FD20
3F333FG04
(57)【要約】
【課題】フルフリー3段マストにおけるフロントリフトチェーンへの過度な負荷が生じることを防止するフォークリフトの提供にある。
【解決手段】ストッパ機構は、ストッパ部およびストッパ部が係止される被ストッパ部を備え、フロントリフトチェーン46の張力を計測するチェーン張力計測器と、チェーン張力計測器と接続されるコントローラ54と、コントローラにより制御される警告器と、を有し、コントローラ54は、リヤリフトシリンダ35の作動によりミドルマスト20が上昇されたとき、チェーン張力計測器に計測されたチェーン張力計測値が、リヤリフトシリンダ35の内圧に基づいて算出されるチェーン張力計算値よりも大きいか否かを判別し、チェーン張力計測値がチェーン張力計算値よりも大きいと判別されると、警告器を制御して警告を発する。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のアウタマストと、
前記一対のアウタマストに対して昇降可能な一対のミドルマストと、
前記一対のミドルマストに対して昇降可能な一対のインナマストと、
前記一対のインナマストに対して昇降可能なリフトブラケットと、
前記一対のミドルマストを前記一対のアウタマストに対して昇降するリヤリフトシリンダと、
前記リフトブラケットを前記一対のインナマストに対して昇降するフロントリフトシリンダと、
前記一対のミドルマストを介して前記一対のアウタマストと前記一対のインナマストとに連結され、前記リヤリフトシリンダの伸縮により前記一対のインナマストを昇降させるリヤリフトチェーンと、
前記フロントリフトシリンダの伸縮により前記リフトブラケットを昇降させるフロントリフトチェーンと、
前記一対のインナマストに対する前記リフトブラケットを係止するストッパ機構と、を有するフォークリフトにおいて、
前記ストッパ機構は、被ストッパ部および前記被ストッパ部が係止されるストッパ部を備え、
前記フロントリフトチェーンの張力を計測するチェーン張力計測器と、
前記チェーン張力計測器と接続されるコントローラと、
前記コントローラにより制御される警告器と、を有し、
前記コントローラは、
前記リヤリフトシリンダの作動により前記一対のミドルマストが上昇されたとき、
前記チェーン張力計測器に計測されたチェーン張力計測値が、前記リヤリフトシリンダの内圧に基づいて算出されるチェーン張力計算値よりも大きいか否かを判別し、前記チェーン張力計測値が前記チェーン張力計算値よりも大きいと判別されると、前記警告器を制御して警告を発することを特徴とするフォークリフト。
【請求項2】
前記リヤリフトシリンダの作動による前記一対のミドルマストの上昇を検出するミドルマスト上昇検出器を有することを特徴とする請求項1記載のフォークリフト。
【請求項3】
前記フロントリフトチェーンを前記インナマストに固定するチェーンアンカボルトを備え、
前記チェーン張力計測器は、前記チェーンアンカボルトの歪を検出する歪検出センサであることを特徴とする請求項1又は2記載のフォークリフト。
【請求項4】
前記ミドルマスト上昇検出器は、前記一対のミドルマストの揚高を検出する揚高センサであり、
前記コントローラは、前記揚高センサの検出により前記リヤリフトシリンダの伸縮の有無を判別することを特徴とする請求項2記載のフォークリフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フォークリフトに関する。
【背景技術】
【0002】
フォークリフトには、フルフリー3段マストの荷役装置を備えるものが知られている。このフルフリー3段マストは、アウタマストと、ミドルマストと、インナマストと、ミドルマストを昇降するリヤリフトシリンダと、リフトブラケットを昇降するフロントリフトシリンダと、を有している。また、フルフリー3段マストは、アウタマストとインナマストに連結されるリヤリフトチェーンと、インナマストとリフトブラケットとに連結されるフロントリフトチェーンと、を有する。リフトブラケットに備えられたストッパ部と、インナマストに備えられ、ストッパ部が係止される被ストッパ部と、を有するストッパ機構が備えられている場合がある。ストッパ機構は、リフトブラケットがインナマストから抜け出ないようにするために設けられている。因みに、フロントリフトチェーンの長さの調整が適切でない場合にリフトブラケットを上昇させたり、リフトブラケットに備えられるフォークが棚に支持された状態で、インナマストをミドルマストに対して下降させたりすると、ストッパ部が被ストッパ部に係止される。
【0003】
ところで、リフトチェーンの緩みによるフォークの自由落下を防止し、衝撃による機器の損傷を防止する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に開示されたフォークリフトには、フォークリフトの車体前方に荷支持具が上下動するマスト装置が立設されている。マスト装置は一対の固定マストと昇降マストにより構成され、固定マストに固定したチェーン装着用ブラケットには穴が形成され、穴にリフトチェーンの一端を連結するアンカーボルトが貫通挿入されている。チェーン装着用ブラケットの下面から下方に突出するアンカーボルトの下端に挿入固定する下部板材とアンカーボルトのブラケットの近傍に挿入する上部板材との間において、アンカーボルトの外周にコイルバネが挿入されている。ブラケットと荷役支持具とにリフトチェーンの両端を固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-265191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のフルフリー3段マストを備えるフォークリフトでは、ストッパ部と被ストッパ部とが係止され、リフトブラケットはインナマストから抜け出ることはない。しかしながら、ストッパ部と被ストッパ部とが係止される状態になっても、フォークを上昇させる等の動作を継続すると、フロントリフトチェーンに過度な負荷が生じる。フロントリフトチェーンに過度な負荷が生じると、リフトチェーンが損傷するおそれがある。一方、特許文献1に開示された技術は、コイルばねを用いてリフトチェーンの緩みによる衝撃を単に緩和する技術に過ぎない。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、フルフリー3段マストにおけるフロントリフトチェーンへの過度な負荷が生じることを防止するフォークリフトの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、一対のアウタマストと、前記一対のアウタマストに対して昇降可能な一対のミドルマストと、前記一対のミドルマストに対して昇降可能な一対のインナマストと、前記一対のインナマストに対して昇降可能なリフトブラケットと、前記一対のミドルマストを前記一対のアウタマストに対して昇降するリヤリフトシリンダと、前記リフトブラケットを前記一対のインナマストに対して昇降するフロントリフトシリンダと、前記一対のミドルマストを介して前記一対のアウタマストと前記一対のインナマストとに連結され、前記リヤリフトシリンダの伸縮により前記一対のインナマストを昇降させるリヤリフトチェーンと、前記フロントリフトシリンダの伸縮により前記リフトブラケットを昇降させるフロントリフトチェーンと、前記一対のインナマストに対する前記リフトブラケットを係止するストッパ機構と、を有するフォークリフトにおいて、前記ストッパ機構は、被ストッパ部および前記被ストッパ部が係止されるストッパ部を備え、前記フロントリフトチェーンの張力を計測するチェーン張力計測器と、前記チェーン張力計測器と接続されるコントローラと、前記コントローラにより制御される警告器と、を有し、前記コントローラは、前記リヤリフトシリンダの作動により前記一対のミドルマストが上昇されたとき、前記チェーン張力計測器に計測されたチェーン張力計測値が、前記リヤリフトシリンダの内圧に基づいて算出されるチェーン張力計算値よりも大きいか否かを判別し、前記チェーン張力計測値が前記チェーン張力計算値よりも大きいと判別されると、前記警告器を制御して警告を発することを特徴とする。
【0008】
本発明では、コントローラは、リヤリフトシリンダの作動によりミドルマストが上昇されたとき、チェーン張力計測器に計測されたチェーン張力計測値が、リヤリフトシリンダの内圧に基づいて算出されるチェーン張力計算値よりも大きいか否かを判別する。そして、チェーン張力計測値がチェーン張力計算値よりも大きいと判別されると、コントローラは警告器を制御して警告を発する。したがって、フォークリフトのオペレータは、コントローラの判別によりストッパ部と被ストッパ部とが係止されていることを把握できる。その結果、フルフリー3段マストにおけるフロントリフトチェーンへの過度な負荷が生じることを防止できる。
【0009】
また、上記のフォークリフトにおいて、前記リヤリフトシリンダの作動による前記一対のミドルマストの上昇を検出するミドルマスト上昇検出器を有する構成としてもよい。
この場合、ミドルマスト上昇検出器は、リヤリフトシリンダの作動による一対のミドルマストの上昇を検出することができる。
【0010】
また、上記のフォークリフトにおいて、前記フロントリフトチェーンを前記インナマストに固定するチェーンアンカボルトを備え、前記チェーン張力計測器は、前記チェーンアンカボルトの歪を検出する歪検出センサである構成としてもよい。
この場合、歪検出センサは、チェーンアンカボルトの歪を検出することで、フロントリフトチェーンの張力を計測することができる。
【0011】
また、上記のフォークリフトにおいて、前記ミドルマスト上昇検出器は、前記一対のミドルマストの揚高を検出する揚高センサであり、前記コントローラは、前記揚高センサの検出により前記リヤリフトシリンダの伸縮の有無を判別する構成としてもよい。
この場合、コントローラは、ミドルマストの揚高を検出する揚高センサを用いてリヤリフトシリンダの伸縮の有無を判別することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フルフリー3段マストにおけるフロントリフトチェーンへの過度な負荷が生じることを防止するフォークリフトを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係るフォークリフトの側面図である。
図2】フォークリフトの荷役装置を前方から見た斜視図である。
図3】フォークリフトの荷役装置の構成を模式的に示す説明図である。
図4】フォークリフトの荷役装置の要部を後方から見た斜視図である。
図5】フォークリフトの荷役装置の上部を前方から見た斜視図である。
図6】ストッパ体の係止を検出する手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態に係るフォークリフトについて図面を参照して説明する。本実施形態のフォークリフトは、フルフリー3段マストを備えるフォークリフトである。なお、方向を特定する「前後」、「左右」および「上下」については、フォークリフトのオペレータが運転席の運転シートに着座して、フォークリフトの前進側を向いた状態を基準として示す。
【0015】
図1に示すように、フォークリフト10は、車体11の前部に荷役装置12を備えている。車体11の中央付近には運転席13が設けられている。車体11の前部には前輪としての駆動輪14が設けられ、車体11の後部には後輪としての操舵輪15が設けられている。車体11の後部にはカウンタウエイト16が備えられており、カウンタウエイト16は車両重量の調整と車体11における重量バランスを図るためのものである。本実施形態のフォークリフト10はエンジンフォークリフトである。
【0016】
車体11には、運転席13の上部を覆うヘッドガード17が設けられている。車体11と荷役装置12との間には、作動油により作動するティルトシリンダ18が設置されている。荷役装置12はティルトシリンダ18の作動により荷役装置12の下端部を支点として前後方向に傾動する。
【0017】
図2に示すように、荷役装置12は、アウタマスト19、ミドルマスト20およびインナマスト21を有するフルフリー3段マスト22を備えている。左右一対のアウタマスト19には、アウタマスト19の内側にて昇降可能な左右一対のミドルマスト20が備えられている。ミドルマスト20には、ミドルマスト20の内側にて昇降可能なインナマスト21が備えられている。荷役装置12は、インナマスト21に沿って昇降するリフトブラケット23を備えており、リフトブラケット23は各種アタッチメントの着脱を可能とする。
【0018】
図2に示すように、左右一対のアウタマスト19の上端はアウタアッパービーム24によって連結されている。図3に示すように、左右一対のアウタマスト19の下部はアウタロアビーム25によって連結されている。左右一対のミドルマスト20の上端はミドルアッパービーム26により連結されている(図2を参照)。左右一対のミドルマスト20の下部はミドルロアビーム27によって連結されている。左右一対のインナマスト21の上端はインナアッパービーム28によって連結されている。左右一対のインナマスト21の下部は、インナロアビーム29によって連結されている(図2を参照)。図4に示すように、左右一対のインナマスト21の中間には、インナ中間ビーム30によって連結されている。リフトブラケット23には、左右一対のフォーク31と、バックレスト32が備えられている。左右のフォーク31は荷を掬い上げて支持する。バックレスト32は、左右一対のフォーク31が支持する荷の後面を支持する。
【0019】
図3に示すように、アウタマスト19の上部には、リヤリフトチェーン33の一端が固定されている。アウタマスト19には、リフトチェーンアンカブラケット(図示せず)が取り付けられており、リフトチェーンアンカブラケットには、チェーンアンカボルト(図示せず)が固定されている。リヤリフトチェーン33の一端はチェーンアンカボルトの上端部と連結されている。
【0020】
ミドルマスト20の上部には、リヤリフトチェーン33が掛装されるチェーンホイール34が設けられており、リヤリフトチェーン33はチェーンホイール34に掛装され、リヤリフトチェーン33の他端は、インナマスト21の下部に固定されている。したがって、リヤリフトチェーン33は、ミドルマスト20を介してアウタマスト19とインナマスト21とに連結されている。アウタマスト19には作動油の給排により作動するリヤリフトシリンダ35が設けられている。リヤリフトシリンダ35の作動により、ミドルマスト20がアウタマスト19の内側にて昇降するほか、インナマスト21がミドルマスト20の内側にて昇降する。
【0021】
図3に示すように、リヤリフトシリンダ35は、シリンダ本体36と、シリンダ本体36の内部で摺動するピストン37と、ピストン37と連結され、シリンダ本体36に対して伸縮するピストンロッド38と、を備えている。シリンダ本体36におけるピストン37の下方には、リフトシリンダ作動油室としての作動油室39が形成されている。作動油室39に作動油が供給されることにより、ピストン37がシリンダ本体36を上昇し、ピストンロッド38が伸長する。作動油室39の作動油が排出されることにより、ピストン37がシリンダ本体36において下降され、ピストンロッド38が収縮する。ピストンロッド38の上端部は、ミドルマスト20と連結されている。
【0022】
図3に示すように、インナマスト21のインナロアビーム29には、フロントリフトシリンダ40が立設されている。フロントリフトシリンダ40は、インナマスト21に対してリフトブラケット23を昇降させるための油圧シリンダである。図3に示すように、フロントリフトシリンダ40は、シリンダ本体41と、シリンダ本体41の内部で摺動するピストン42と、ピストン42と連結され、シリンダ本体41に対して伸縮するピストンロッド43と、を備えている。シリンダ本体41におけるピストン42の下方には、フルフリーシリンダ作動油室としての作動油室44が形成されている。作動油室44の作動油が排出されることにより、ピストン42がシリンダ本体41を下降し、ピストンロッド43が収縮する。作動油室44の受圧面積は、リヤリフトシリンダ35の作動油室39よりも大きく設定されている。なお、図4では、フロントリフトシリンダ40に作動油を供給するホースおよびホースプーリの図示を省略している。
【0023】
図4に示すように、ピストンロッド43の上端部には、左右一対のチェーンホイール45が備えられている。チェーンホイール45には、インナマスト21とリフトブラケット23を連結するフロントリフトチェーン46が掛装される。フロントリフトチェーン46の一端は、チェーンアンカボルト47を介してインナ中間ビーム30に連結されている。フロントリフトチェーン46の他端は、リフトブラケット23の下部に連結される(図2を参照)。したがって、フロントリフトシリンダ40のピストンロッド43が上昇するとき、インナマスト21およびミドルマスト20が上昇することなく、リフトブラケット23が上昇する。アウタマスト19には、ミドルマスト20の上昇の有無を検出する揚高センサ48が備えられている(図3を参照)。揚高センサ48は、リヤリフトシリンダ35の伸縮の有無を検出するために備えられており、ミドルマスト20が上昇したときにON信号を発信するセンサである。
【0024】
ところで、本実施形態の荷役装置12は、図3図5に示すように、ストッパ機構50を備えている。ストッパ機構50は、リヤリフトチェーン33の長さの調整不足によってリフトブラケット23がインナマスト21から抜け出さないようにするための機構である。ストッパ機構50は、リフトブラケット23の上部に設けた被ストッパ部としての被ストッパ体51と、インナマスト21のインナアッパービーム28に設けた被ストッパ部としてのストッパ体52と、を有する。
【0025】
被ストッパ体51は、リフトブラケット23の上端付近に固定される軸状の部材である。被ストッパ体51は、インナマスト21のインナアッパービーム28側へせり出すように、リフトブラケット23の後面から突出している。ストッパ体52は、インナアッパービーム28の前面に固定されるブロック状の部材である。ストッパ体52は、被ストッパ体51の位置に合わせてリフトブラケット23側にせり出すようにインナアッパービーム28の前面から突出している。したがって、フロントリフトチェーン46の長さ調整が不適切であったとしても、被ストッパ体51がストッパ体52に係止されることで、リフトブラケット23のインナマスト21からの抜け出しが防止される。また、棚等にフォーク31が載っている状態で、インナマスト21が下降しても、被ストッパ体51がストッパ体52に係止されることで、リフトブラケット23のインナマスト21からの抜け出しが防止される。
【0026】
また、本実施形態のフォークリフト10は、フロントリフトチェーン46の張力を計測するチェーン張力計測器を備えている。図4に示すように、チェーン張力計測器は、チェーンアンカボルト47の上端部に貼着した歪検出センサ53である。歪検出センサ53はチェーンアンカボルト47の軸方向の歪を検出する歪ゲージ又はロードセルである。歪検出センサ53は、フォークリフト10に搭載されているコントローラ54と接続されており、歪検出センサ53が検出する信号はコントローラ54へ伝達される。
【0027】
コントローラ54は、フォークリフト10の各部を制御するほか、歪検出センサ53を含めた各センサ類からの信号の伝達を受ける。コントローラ54は、図示はされないが、CPUと、RAM等からなる記憶部と、を備えている。コントローラ54は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェア、例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)を備えていてもよい。コントローラ54は、コンピュータプログラムにしたがって動作する1つ以上のプロセッサ、ASIC等の1つ以上の専用のハードウェア回路、あるいは、それらの組み合わせを含む回路として構成し得る。記憶部は、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。記憶部には、フォークリフト10を制御するための種々のプログラムが記憶されている。記憶部、即ち、コンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆるものを含む。なお、コントローラ54は、運転席13に設けられた警告器55と接続されており、警告器55は視覚的な表示や警告音の発生によりオペレータに対する警告を行う。
【0028】
リヤリフトチェーン33には、少なくとも、インナマスト21、ミドルマスト20、フロントリフトシリンダ40およびリヤリフトチェーン33の重量に基づく荷重が作用する。例えば、フォーク31が路面に接地していない場合では、インナマスト21、フロントリフトシリンダ40およびリヤリフトチェーン33のほか、リフトブラケット23およびフォーク31等の重量がリヤリフトチェーン33に作用する。リヤリフトシリンダ35の作動油室39ではこれらの重量に応じた内圧が生じる。リヤリフトシリンダ35又はフロントリフトシリンダ40の内圧を検出する圧力センサ(図示せず)がコントローラ54と接続されている。圧力センサにより計測された内圧はコントローラ54に伝達される。
【0029】
フロントリフトチェーン46には、少なくとも、リフトブラケット23、フォーク31、バックレスト32およびフロントリフトチェーン46の重量に基づく荷重が作用する。例えば、フォーク31が棚に接地していない場合では、リフトブラケット23、フォーク31、バックレスト32およびフロントリフトチェーン46等の重量がフロントリフトチェーン46に作用する。フロントリフトシリンダ40の作動油室44ではこの重量に応じた内圧が生じる。また、フロントリフトチェーン46には引っ張り方向の荷重が常に生じており、引っ張り方向の荷重は、チェーンアンカボルト47を引き上げようとするため、チェーンアンカボルト47には軸方向に伸びる歪が生じる。このため、歪検出センサ53は、歪を検出して信号をコントローラ54へ伝達する。
【0030】
ところで、フロントリフトチェーン46の長さ調整が不適切であると、フロントリフトシリンダ40の伸長によって、リフトブラケット23の上昇時に被ストッパ体51がストッパ体52に係止することがある。被ストッパ体51のストッパ体52への係止により、リフトブラケット23がインナマスト21から飛び出ることは防止される。被ストッパ体51がストッパ体52に係止した状態でフロントリフトシリンダ40の伸長が継続されると、フロントリフトチェーン46に生じる荷重が増大する。また、フロントリフトシリンダ40の伸長後にさらにリヤリフトシリンダ35が伸長する。
【0031】
本実施形態では、コントローラ54は、歪検出センサ53の計測によりフロントリフトチェーン46のチェーン張力計測値を取得する。また、コントローラ54は、フロントリフトチェーン46およびリヤリフトチェーン33のチェーン張力計算値をリヤリフトシリンダ35又はフロントリフトシリンダ40の内圧に基づいて算出する。コントローラ54は、リヤリフトシリンダ35の作動によりミドルマスト20が上昇されたとき、チェーン張力計測値が、算出されたチェーン張力計算値よりも大きいか否かを判別し、被ストッパ体51とストッパ体52との係止を判別する。被ストッパ体51がストッパ体52に係止していると判別されるとき、コントローラ54は警告器55を作動させる。
【0032】
図6は、被ストッパ体51のストッパ体52との係止を判別するためのフロー図である。コントローラ54は、揚高センサ48がONであるか否かを判別する(ステップS01)。揚高センサ48がONのとき、ミドルマスト20はリヤリフトシリンダ35の作動により上昇しているので、リヤリフトシリンダ動作領域の状態である(ステップS02)。なお、ステップS01において、揚高センサ48がOFFと判別されたとき、リヤリフトシリンダ35が動作しない状態であり、フロントリフトシリンダ動作領域の状態である(ステップS07)。この場合、ステップS07からステップS01へ戻る。
【0033】
ミドルマスト20が最下位置であるとき、次に、歪検出センサ53によりチェーンアンカボルト47の歪検出を行う(ステップS03)。歪検出センサ53の歪検出によりフロントリフトチェーン46の張力が計測されることになる。次に、コントローラ54は、フロントリフトチェーン46のチェーン張力計算値Tfcを算出し、歪検出センサ53により計測されたチェーン張力計測値Tfaが、算出されたチェーン張力計算値Tfcよりも大きいか否かを判別する(ステップS04)。
【0034】
チェーン張力計算値Tfcは、次式により算出することが可能であり、コントローラ54にはチェーン張力計算値Tfcを算出するプログラムが格納されている。リヤリフトチェーン33のチェーン張力計算値Trcは内圧P、リヤリフトシリンダ35の断面積A1およびミドルマスト20の重量Mmに基づいて算出可能である。そして、チェーン張力計算値Tfcは、チェーン張力計算値Trc、インナマスト21の重量Miおよびフロントリフトシリンダ40の重量Mfcylに基づいて算出可能である。

Trc=(P×A1-Mm)/2 ・・・(式1)
Tfc=Trc-Mi-Mfcyl ・・・(式2)
Tfc=(P×A1-Mm)/2-Mi-Mfcyl ・・・(式3)

A1:リヤリフトシリンダ35の断面積(左右一対2本分)
A2:フロントリフトシリンダ40の断面積
Mi:インナマスト21の重量
Mm:ミドルマスト20の重量
Mfcyl:フロントリフトシリンダ40の重量
P:内圧
Tfa:計測したフロントリフトチェーン46のチェーン張力計測値
Tfc:フロントリフトチェーン46のチェーン張力計算値
Trc:リヤリフトチェーン33のチェーン張力計算値

なお、フロントリフトシリンダ40とリヤリフトシリンダ35の内圧Pは同一であり、フロントリフトシリンダ40の断面積A2は、リヤリフトシリンダ35の断面積A1より大きい(A1<A2)。
【0035】
チェーン張力計測値Tfaがチェーン張力計算値Tfcよりも大きい(Tfa>Tfc)と判別されると、コントローラ54は被ストッパ体51がストッパ体52に係止されている(ステップS05)。このとき、フロントリフトチェーン46のチェーン張力計測値Tfaは以下の式で示される。

Tfa=(P×A2)/2 ・・・(式4)

チェーン張力計算値Tfcとチェーン張力計測値Tfaの大小関係は、以下の式から導かれる。

Tfa-Tfc={P×(A2-A1)+Mm+2Mi+2Mfcyl}/2>0
・・・(式5)

Tfa>Tfc ・・・(式6)

つまり、被ストッパ体51とストッパ体52との係止時のフロントリフトチェーン46のチェーン張力計測値Tfaは、内圧Pに基づいて算出したチェーン張力計算値Tfcより大きくなる。
【0036】
コントローラ54は被ストッパ体51がストッパ体52に係止されているとき、コントローラ54は、警告器55による警告を行う(ステップS06)。ステップS05においてチェーン張力計測値Tfaがチェーン張力計算値Tfc以下である場合、被ストッパ体51がストッパ体52に係止されていない(ステップS08)。この場合、ステップS01へ戻る。なお、被ストッパ体51とストッパ体52との係止がないとき、チェーン張力計測値Tfaとチェーン張力計算値Tfcとが等しい(Tfa=Tfc)場合がある。具体的には、フロントリフトシリンダ40のピストンロッド43が最大に伸長していないとき、すなわち、フロントリフトシリンダ40の作動油室44がリリーフ圧未満のときに、チェーン張力計測値Tfaとチェーン張力計算値Tfcとが等しくなる。一方、作動油室44が、フロントリフトシリンダ40のピストンロッド43の最大伸長時であるリリーフ圧のとき、チェーン張力計測値Tfaはチェーン張力計算値Tfcよりも小さくなる(Tfa<Tfc)。
【0037】
次に、本実施形態のフォークリフト10による作用について説明する。フォーク31を上昇させるとき、フロントリフトシリンダ40の作動油室44およびリヤリフトシリンダ35の作動油室39に作動油が供給される。作動油室44と作動油室39は配管により接続されているので、断面積A2が断面積A1よりも大きいフロントリフトシリンダ40のピストンロッド43がリヤリフトシリンダ35のピストンロッド38よりも先に上昇する。フロントリフトシリンダ40の上昇時において、フロントリフトシリンダ40の作動油室44およびリヤリフトシリンダ35の作動油室39は内圧Pで等しい。
【0038】
フロントリフトシリンダ40のピストンロッド43が最上位置まで上昇すると、リヤリフトシリンダ35のピストンロッド43が上昇を開始する。リヤリフトシリンダ35のピストンロッド43の上昇によりインナマスト21およびミドルマスト20が上昇する。ミドルマスト20が上昇すると、揚高センサ48はON信号をコントローラ54へ伝達する。リヤリフトシリンダ35の伸長時において、フロントリフトシリンダ40の作動油室44およびリヤリフトシリンダ35の作動油室39は内圧Pで等しい。
【0039】
本実施形態のフォークリフト10では、フロントリフトチェーン46の長さ調整が適切であれば、フォーク31が上昇してもリフトブラケット23の被ストッパ体51がインナマスト21のストッパ体52に係止することはない。被ストッパ体51がストッパ体52に係止せず、揚高センサ48がONとなるリヤリフトシリンダ35の作動領域では、コントローラ54は、チェーン張力計測値Tfaがチェーン張力計算値Tfc以下であると判別する。しかし、フロントリフトチェーン46の長さ調整が不適切であれば、フォーク31の上昇時に被ストッパ体51がストッパ体52に係止される場合がある。
【0040】
被ストッパ体51がストッパ体52に係止した状態で、フォーク31を上昇させるとフロントリフトチェーン46の張力が増大する。リヤリフトシリンダ35のピストンロッド38が上昇している状態では、揚高センサ48はON信号をコントローラ54へ伝達する。チェーンアンカボルト47の歪は、フロントリフトチェーン46の張力の増大に伴い増大する。歪検出センサ53はチェーン張力計測値Tfaを計測する。コントローラ54は、チェーン張力計測値Tfaがチェーン張力計算値Tfcよりも大きいと判別するので、被ストッパ体51はストッパ体52に係止されている。コントローラ54は、被ストッパ体51がストッパ体52に係止しているとして警告器55を作動させる。
【0041】
フォークリフト10のオペレータは、警告器55からの警告を受けることで、被ストッパ体51がストッパ体52に係止されていることを認識できる。そして、フォーク31の上昇を止めてフォーク31を下降させる操作をすることで、フロントリフトチェーン46に対する過度な負荷の発生が防止される。
【0042】
本実施形態のフォークリフト10は以下の効果を奏する。
(1)コントローラ54は、リヤリフトシリンダ35の作動によりミドルマスト20が上昇されたとき、計測されたチェーン張力計測値Tfaが、リヤリフトシリンダ35の内圧Pに基づいて算出されるチェーン張力計算値Tfcよりも大きいか否かを判別する。そして、チェーン張力計測値Tfaがチェーン張力計算値Tfcよりも大きいと判別されると、コントローラ54は警告器55を制御して警告を発する。したがって、フォークリフト10のオペレータは、コントローラ54の判別により被ストッパ体51とストッパ体52とが係止されていることを把握できる。
【0043】
(2)リヤリフトシリンダ35の作動によるミドルマスト20の上昇を検出するミドルマスト上昇検出器を有する。このため、揚高センサ48は、リヤリフトシリンダ35の作動によるミドルマスト20の上昇を検出することができる。
【0044】
(3)フロントリフトチェーン46をインナマスト21に固定するチェーンアンカボルト47を備え、チェーン張力計測器は、チェーンアンカボルト47の歪を検出する歪検出センサ53である。このため、歪検出センサ53は、チェーンアンカボルト47の歪を検出することで、フロントリフトチェーン46の張力を計測することができる。
【0045】
(4)ミドルマスト上昇検出器は、一対のミドルマスト20の揚高を検出する揚高センサ48であり、コントローラ54は、揚高センサ48の検出によりリヤリフトシリンダ35の伸縮の有無を判別することができる。また、ミドルマスト20の揚高を検出する揚高センサ48をリヤリフトシリンダ35の伸縮の有無の判別のために用いることができるので、揚高センサを備える既存のフォークリフトに本発明を適用することができる。
【0046】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0047】
○ 上記の実施形態では、ストッパ検出器がインナ中間ビームに連結されたチェーンアンカボルトの歪を検出したが、これに限らない。ストッパ検出器は、インナマストに連結されているチェーンアンカボルトの歪を検出してチェーン張力計測値を計測するようにしてもよい。
○ 上記の実施形態では、チェーン張力計測値がチェーン張力計算値よりも大きいと判別されると、コントローラは警告器を制御して警告を発するとしたが、これに限らない。チェーン張力計測値がチェーン張力計算値よりも大きいと判別されると、コントローラは、例えば、警告とともにリヤリフトシリンダの作動を停止するように、油圧回路におけるアンロード弁を開放してもよい。また、バッテリ式フォークリフトの場合では、コントローラが荷役ポンプを停止するようにしてもよい。
○ 上記の実施形態では、ミドルマスト上昇検出器を揚高センサとしたが、これに限定されない。ミドルマスト上昇検出器は、例えば、リフトチェーンの移動に基づいてミドルマストの上昇を検出する手段、あるいは、リヤシリンダのピストンロッドの動きに基づいてミドルマストの上昇を検出する手段であってもよい。
○ 上記の実施形態では、フォークリフトとしてのエンジンフォークリフトを例示して説明したが、これに限らない。フォークリフトは電動フォークリフトでもよい。また、フォークリフトは、カウンタウエイトを備えるフォークリフトだけでなく、リーチ式フォークリフトであってもよい。
【符号の説明】
【0048】
10 フォークリフト
11 車体
12 荷役装置
13 運転席
19 アウタマスト
20 ミドルマスト
21 インナマスト
22 マスト
23 リフトブラケット
31 フォーク
33 リヤリフトチェーン
35 リヤリフトシリンダ
40 フロントリフトシリンダ
46 フロントリフトチェーン
47 チェーンアンカボルト
48 揚高センサ(ミドルマスト上昇検出器)
50 ストッパ機構
51 被ストッパ体(被ストッパ部)
52 ストッパ体(ストッパ部)
53 歪検出センサ(チェーン張力計測部)
54 コントローラ
55 警告器
Tfa チェーン張力計測値
Tfc チェーン張力計算値
Trc チェーン張力計算値
A1 リヤリフトシリンダ断面積
A2 フロントリフトシリンダ断面積
Mi インナマスト重量
Mm ミドルマスト重量
Mfcyl フロントリフトシリンダ重量
P 内圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6