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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094458
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】クレーン及びクレーンの組立方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 23/26 20060101AFI20240703BHJP
   B66C 23/82 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
B66C23/26 F
B66C23/82 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211001
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】503032946
【氏名又は名称】住友重機械建機クレーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】福島 恵介
(72)【発明者】
【氏名】古河 翔多
【テーマコード(参考)】
3F205
【Fターム(参考)】
3F205AA07
3F205DA02
3F205JA10
(57)【要約】
【課題】上部スプレッダ及び下部スプレッダの取り扱い性の向上を図る。
【解決手段】ブーム4と、ブームの起伏ロープ37が掛け回される上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6とを備えるクレーン1において、上部スプレッダと下部スプレッダは、一体的な連結と分離とが可能であって、連結された状態で吊り上げるための作業用ロープRの取付部54を有し、上部スプレッダおよび下部スプレッダの一方をクレーン本体又はマストに設けられたスプレッダ取付部35に取り付け、連結を解除した後に、上部スプレッダおよび下部スプレッダの他方を取付部に取り付けた作業用ロープにより吊り上げ可能に構成されている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブームと、当該ブームを起伏させる起伏ロープが掛け回される上部スプレッダ及び下部スプレッダと、を備えるクレーンにおいて、
前記上部スプレッダと前記下部スプレッダは、一体的に連結された状態と分離された状態とに変更可能であって、連結された状態で吊り上げるための作業用ロープの取付部を有し、前記上部スプレッダおよび前記下部スプレッダの一方をクレーン本体又はマストに設けられたスプレッダ取付部に取り付け、連結を解除した後に、前記上部スプレッダおよび前記下部スプレッダの他方を前記取付部に取り付けた作業用ロープにより吊り上げ可能に構成されているクレーン。
【請求項2】
前記上部スプレッダ又は前記下部スプレッダには、ワイヤロープがシーブから外れないようにするワイヤロープ外れ止めを有し、
前記取付部に前記作業用ロープを連結して吊下した場合に、前記ワイヤロープ外れ止めに前記起伏ロープが干渉しない位置に前記取付部が設けられている
請求項1に記載のクレーン。
【請求項3】
前記上部スプレッダは、ペンダントロープが連結されるペンダントロープ連結部を有し、
前記取付部は、前記ペンダントロープ連結部とは異なる位置に設けられ、
前記上部スプレッダと前記下部スプレッダとが一体的に連結された状態において、前記ペンダントロープ連結部に作業用ロープを連結して吊下した場合に、前記ワイヤロープ外れ止めに前記起伏ロープが干渉する位置に前記ペンダントロープ連結部が設けられている
請求項2に記載のクレーン。
【請求項4】
前記スプレッダ取付部は、前記上部スプレッダおよび前記下部スプレッダの一方を回動可能に取り付け可能であり、
前記上部スプレッダと前記下部スプレッダとが一体的に連結され、前記スプレッダ取付部に回動可能に取り付けられた状態において、前記上部スプレッダと前記下部スプレッダの回動を規制する規制部をさらに有する
請求項1に記載のクレーン。
【請求項5】
前記上部スプレッダおよび前記下部スプレッダの前記一方は、前記下部スプレッダであり、前記他方は、前記上部スプレッダであり、
前記マストのスプレッダ取付部は、
前記上部スプレッダを固定しない状態で保持する構造と、
前記保持する構造によって前記上部スプレッダを保持した状態で固定可能な固定部を有する
請求項1に記載のクレーン。
【請求項6】
前記上部スプレッダと前記下部スプレッダとを一体的に連結するスプレッダ連結部を有し、
前記スプレッダ連結部は、前記上部スプレッダ又は前記下部スプレッダの両方と別体であって、
前記スプレッダ連結部の前記上部スプレッダとの連結機構は、分離するのに工具を不要とする構造であり、前記下部スプレッダとの連結機構は、分離するのに工具を必要とする構造である
請求項1に記載のクレーン。
【請求項7】
ブームと、当該ブームを起伏させる起伏ロープが掛け回される上部スプレッダ及び下部スプレッダと、を備え、前記上部スプレッダと前記下部スプレッダは、一体的に連結された状態と分離された状態とに変更可能であるクレーンの組立方法であって、
前記上部スプレッダと前記下部スプレッダとを連結状態で吊り上げ、前記上部スプレッダおよび前記下部スプレッダの一方をクレーン本体又はマストに取り付ける第1のスプレッダ取り付け工程と、
前記上部スプレッダと前記下部スプレッダの連結を解除する連結解除工程と、
前記上部スプレッダおよび前記下部スプレッダの他方を単独で吊り上げて前記クレーン本体又は前記マストに取り付ける第2のスプレッダ取り付け工程と、
を有するクレーンの組立方法。
【請求項8】
前記第1のスプレッダ取り付け工程においては、取付部に取り付けられた作業用ロープにより、連結状態の前記上部スプレッダおよび前記下部スプレッダを吊り上げ、
前記第2のスプレッダ取り付け工程においては、前記第1のスプレッダ取り付け工程で前記取付部に取り付けられた前記作業用ロープにより、前記上部スプレッダおよび前記下部スプレッダの他方を単独で吊り上げる請求項7に記載のクレーンの組立方法。
【請求項9】
前記連結解除工程より前に、前記起伏ロープ以外の当該起伏ロープよりも細い又は柔軟な導きロープが前記上部スプレッダと前記下部スプレッダの間に掛け回されており、
前記第1のスプレッダ取り付け工程以降であって、前記第2のスプレッダ取り付け工程より前に、前記導きロープを前記起伏ロープに入れ替えるロープ入れ替え工程を有する請求項8に記載のクレーンの組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン及びクレーンの組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
輸送のために、マストを傾倒させて格納位置に格納可能とするクレーンが提案されている(例えば特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5240129号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クレーンのマストは、さらなる小型化や輸送重量の軽減を目的として車体から取り外される場合がある。
従来は、マストの取り外しや取付けの際に起伏ロープを介してマストに連なる上部スプレッダ及び下部スプレッダの取り扱いについて配慮されておらず、クレーンの組立性について改善の余地があった。
【0005】
本発明は、クレーンの組立性の向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、クレーンにおいて、
ブームと、当該ブームを起伏させる起伏ロープが掛け回される上部スプレッダ及び下部スプレッダと、を備えるクレーンにおいて、
前記上部スプレッダと前記下部スプレッダは、一体的に連結された状態と分離された状態とに変更可能であって、連結された状態で吊り上げるための作業用ロープの取付部を有し、前記上部スプレッダおよび前記下部スプレッダの一方をクレーン本体又はマストに設けられたスプレッダ取付部に取り付け、連結を解除した後に、前記上部スプレッダおよび前記下部スプレッダの他方を前記取付部に取り付けた作業用ロープにより吊り上げ可能に構成されている。
【0007】
また、本発明は、クレーンの組立方法において、
ブームと、当該ブームを起伏させる起伏ロープが掛け回される上部スプレッダ及び下部スプレッダと、を備え、前記上部スプレッダと前記下部スプレッダは、一体的に連結された状態と分離された状態とに変更可能であるクレーンの組立方法であって、
前記上部スプレッダと前記下部スプレッダとを連結状態で吊り上げ、前記上部スプレッダおよび前記下部スプレッダの一方をクレーン本体又はマストに取り付ける第1のスプレッダ取り付け工程と、
前記上部スプレッダと前記下部スプレッダの連結を解除する連結解除工程と、
前記上部スプレッダおよび前記下部スプレッダの他方を単独で吊り上げて前記クレーン本体又は前記マストに取り付ける第2のスプレッダ取り付け工程と、
を有する構成である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、クレーンの組立性の向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係るクレーンの構成例を表す側面図である。
図2】連結機構としてのスプレッダ連結部を介して一体的に連結された上部スプレッダ及び下部スプレッダの平面図である。
図3】上部スプレッダ及び下部スプレッダの右側面図である。
図4図4(A)はスプレッダ連結部の分解斜視図、図4(B)は組立後の斜視図である。
図5図5(A)はクレーンの組立方法の工程図、図5(B)は図5(A)に続くクレーンの組立方法の工程図である。
図6図6(A)は図5(B)に続くクレーンの組立方法の工程図、図6(B)は図6(A)に続くクレーンの組立方法の工程図である。
図7図7(A)は図6(B)に続くクレーンの組立方法の工程図、図7(B)は図7(A)に続くクレーンの組立方法の工程図である。
図8】上部スプレッダの支持部の拡大側面図である。
図9】取り付け作業における上部スプレッダの姿勢を側面視で示した部分断面図である。
図10】連結状態の上部スプレッダ及び下部スプレッダが上部スプレッダの支持部に支持された状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[クレーンの概略構成]
図1は本発明の実施形態に係るクレーンの側面図である。
クレーン1は、いわゆる移動式のクローラクレーンである。クレーン1の記載に関して、上部旋回体3の操作者(搭乗者)から見た前後左右方向をクレーン1の前後左右方向として説明する。なお、特に言及しない場合には、原則として、下部走行体2は、上部旋回体3と前後方向が一致した状態(基準姿勢とする)にあるものとしてクレーン1の前後左右を説明する。また、クレーン1を水平面に置いた状態を前提とし、クレーン1における上下方向を鉛直方向という場合もある。
【0011】
図1に示すように、クレーン1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に搭載された旋回部としての上部旋回体3と、上部旋回体3の前側に起伏可能に取付けられたブーム4とを含んで構成されている。
【0012】
下部走行体2は、本体ボディ21と、本体ボディ21の左,右両側に設けられたクローラ22とを備えている。左,右のクローラ22は、それぞれ図示しない走行用油圧モータによって回転駆動される。
【0013】
上部旋回体3の前側にはブーム4の下端部が支持されている。また、上部旋回体3におけるブーム支持位置よりも後側には、マスト31の下端部が支持されている。
また、上部旋回体3は、図示しない旋回用油圧モータによって下部走行体2に対して鉛直方向の軸回りに旋回駆動される。
【0014】
上部旋回体3の後部には、ブーム4及び吊荷との重量バランスをとるカウンタウエイト15が取付けられる。カウンタウエイト15は、必要に応じて枚数を増減させることができる。
【0015】
カウンタウエイト15の前側には、ブーム4の起伏動作を行う起伏ウインチ(図示略)が配設され、その前側には、巻き上げロープ32の巻取り、巻出しを行う巻上ウインチ(図示略)が配設されている。巻上ウインチは、巻上用油圧モータ(図示略)により、巻上ロープ32の巻取り、巻出しを行い、フック34及び吊荷を昇降させる。
また、上部旋回体3の右前側にはキャブ33が配置されている。
【0016】
ブーム4は、上部旋回体3に起伏可能に取付けられている。ブーム4は、下部ブーム41と上部ブーム42とを備えている。
上部ブーム42の上端部には、巻上ロープ32をガイドするシーブ43が回転可能に取付けられている。
上部旋回体3の後部から前方上方に向けて、ブーム4の起伏方向の過回動を制限するためのブーム過巻防止装置45(例えばバックストップ)が配置されている。
【0017】
マスト31は、上端部に上部スプレッダ5を備え、下端部は、上部旋回体3の前端上部において左右方向に沿った軸回りに回動可能に支持されている。また、マスト31の下端部は、前端上部の図示しない支持部から取り外すことができ、クレーン1の運搬等の際には、マスト31を分離してクレーン本体とは別に運搬することが可能である。
【0018】
上部スプレッダ5は、一端部がブーム4の上端部に接続されたペンダントロープ44の他端部に接続されている。
上部スプレッダ5の下方には下部スプレッダ6が設けられている。上部スプレッダ5と下部スプレッダ6は、それぞれ複数のシーブ51,61を備え、複数のシーブ51,61の間に起伏ロープ37が複数回掛け回されている。起伏ロープ37の一端部は、起伏ウインチに連結されており、当該起伏ウインチによって巻取り又は巻出されると、上部スプレッダ5の各シーブ51と下部スプレッダ6の各シーブ61との間隔が変化してブーム4を起伏させる。ブーム起伏ウインチは、起伏用油圧モータ(図示略)により駆動する。
【0019】
[上部スプレッダ]
図2は連結機構としてのスプレッダ連結部7を介して一体的に連結された上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の平面図、図3は右側面図である。以下の説明では、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6のクレーン1に対する取り付け状態の姿勢に拘わらず、図2及び図3に示す上下左右前後の各方向を上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6における上下左右前後の各方向と定義する。
【0020】
上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6をスプレッダ連結部7により一体的に連結した状態で、上部スプレッダ5が上側、下部スプレッダ6が下側となる。また、下部スプレッダ6が上部旋回体3のスプレッダ取付部36に取り付けられた状態で、下部スプレッダ6の左右方向とクレーン1の左右方向とが一致する。
【0021】
上部スプレッダ5は、複数のシーブ51、枠体52、ペンダントロープ接続部としてのペンダントリンク53、作業用ロープの取付部としての左右一対の吊環部54を有する。
【0022】
枠体52は、左右一対の側壁部521,522と前壁部523と後壁部524(図9参照)とを有する。
左右の側壁部521,522は、略水滴状であって、略半円形部分を下方に向けている。そして、対向する左右の側壁部521,522の下部の間には、左右に並んだ複数のシーブ51が左右方向に沿った同軸上で回転可能となるように支持されている。
【0023】
なお、起伏ロープ37は、各シーブ51から下部スプレッダ6の各シーブ61に渡るように、シーブ51,61の個体数に応じて何重にも掛け回されている。起伏ウインチにより起伏ロープ37の一端部の巻き取り、巻き出しを行うことにより、起伏ロープ37の掛け回し回数に応じて強力に上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の相互間距離を拡縮することができる。これに伴い、良好にブーム4の起伏回動を行うことができる。
【0024】
また、枠体52における左右の側壁部521,522の上部の間には、前壁部523及び後壁部524が設けられ、左右の側壁部521,522を平行状態で連結している。
さらに、左右の側壁部521,522の上端部には、左右方向に延在する支軸55が取り付けられている。この支軸55は、両端部が左右の側壁部521,522から突出している。支軸55の突出部位によって、上部スプレッダ5をマスト31の先端部のスプレッダ取付部35に対して左右方向に沿った軸回りに回動可能に連結することができる。
【0025】
前壁部523の下端部から後壁部524の下端部にかけて、各シーブ51に掛け回された起伏ロープ37のワイヤロープ外れ止め525(図9参照)が設けられている。
ワイヤロープ外れ止め525は、各シーブ51の上側部分の外周に近接するように配置されている。ワイヤロープ外れ止め525は、各シーブ51の外周から幾分離隔して、当該外周に沿うように湾曲した周面を有する曲面板である。
【0026】
ペンダントリンク53は、左右一対の腕部531と、ペンダントロープ44の掛止部材532とを有する。
左右の腕部531は、それぞれ、前述した支軸55の左端部と右端部とに個別に回動可能に支持されている。
掛止部材532は、左右の腕部531の相互の回動端部に架設され、当該回動端部を連結している。この掛止部材532には、ペンダントロープ44を連結する連結部が設けられている。
マスト31の先端部に支持された上部スプレッダ5は、下部スプレッダ6との間に掛け回される起伏ロープ37からの張力によって支軸55を中心とする枠体52の向きが拘束される。その場合において、ペンダントリンク53は、支軸55回りに回動可能なので、枠体52の向きに拘わらず、ペンダントロープ44によって張力を受ける方向に向きを変えることができる。
【0027】
左右一対の吊環部54は、前壁部523の前面において左右に並んで設けられている。各吊環部54は、後斜め上側に向けて突出しており、左右方向に貫通した吊り下げロープR(例えば、クレーン1の組立作業において使用される他のクレーンの取り付け作業を行うための作業用ロープ)の挿通孔が形成されている。
【0028】
上部スプレッダ5における左右の吊環部54の配置は、左右の吊環部54に吊り下げロープRが連結されて上部スプレッダ5が単独で吊下された場合に、上部スプレッダ5における左右方向が水平となり、枠体52の上端部が前斜め上方向に傾斜した状態(第1傾斜状態とする)となるように設定されている(図6(B)及び図9参照)。
【0029】
さらに、上部スプレッダ5における左右の吊環部54の配置は、上部スプレッダ5と下部スプレッダ6を連結して吊下した場合に、上部スプレッダ5における左右方向が水平となり、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の全体の上下方向が前斜め上方向に傾斜した状態(第2傾斜状態とする)となるように設定されている(図5(A)参照)。
なお、この第2傾斜状態の傾斜方向は、前述した第1傾斜状態の傾斜方向よりも鉛直上下方向に対する傾斜角度は小さくなる。
【0030】
即ち、上部スプレッダ5単独の重心位置を考慮して単独で吊下された上部スプレッダ5が前述した姿勢となる適正な吊環部54の位置の範囲を求める。
さらに、連結された上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の重心位置を考慮して連結状態の上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6が前述した姿勢となる適正な吊環部54の位置を絞り込み、各吊環部54の配置を決定している。
なお、先に連結状態で各吊環部54の位置の範囲を求め、単独状態で各吊環部54の位置を絞り込んでもよい。
【0031】
なお、ペンダントロープ連結部であるペンダントリンク53は、吊り下げロープRの連結に適した構造を有するが、吊環部54としての代用には不適である。
ペンダントリンク53に吊り下げロープRを連結して単独の上部スプレッダ5を吊下した場合、上部スプレッダ5は、その上下方向が鉛直方向にほぼ平行となり、上記した傾斜状態を実現することが困難である。また、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6を連結した状態でペンダントリンク53に吊り下げロープRを連結して吊下した場合も同様である。
【0032】
各吊環部54に吊り下げロープRを通して上部スプレッダ5を吊下した場合の各吊環部54の作用効果については、後述するクレーン1の組立作業において詳述する。
【0033】
[下部スプレッダ]
下部スプレッダ6は、複数のシーブ61、起伏ウインチ側のシーブ62、枠体63、左右一対の吊環部64を有する。
【0034】
枠体63は、左右一対の側壁部631,632と前壁部633と左右一対の腕部634,635を有する。
左右の側壁部631,632は、いずれも、上下方向に延在する長尺平板であって、上端部が略楔状を呈している。そして、対向する左右の側壁部631,632の上部の間には、左右に並んだ複数のシーブ61が左右方向に沿った同軸上で回転可能となるように支持されている。
また、左端に位置するシーブ61には、当該シーブ61に掛け回された起伏ロープ37の張力検出装置622が併設されている。
【0035】
枠体63における左右の側壁部631,632の下部には、前壁部633が設けられ、左右の側壁部631,632を平行状態で連結している。
さらに、左右の側壁部631,632の下端部は、斜め下側に延出され、左右方向に沿った軸回りに回転可能に起伏ウインチ側のシーブ62が支持されている。
なお、符号611,621の棒状部材は、それぞれシーブ61,62に掛けられたロープの外れ止めである。
【0036】
前壁部633は、左右両端部が左右の側壁部631,632よりも外側に張り出されている。そして、前壁部633の左端下部と右端下部には、下方に延出された左右一対の腕部634,635が設けられている。
左右の腕部634,635の下端部の各々には、支軸65が取り付けられている。これらの支軸65は、いずれも左右方向に沿った同一軸上に配置されている。これらの支軸65は、下部スプレッダ6を上部旋回体3の後端部のスプレッダ取付部36に連結され、下部スプレッダ6の下端部を左右方向に沿った軸回りに回動可能に連結することができる。
【0037】
左右一対の吊環部64は、左右の側壁部631,632の後縁部であって、各シーブ61の下側となる位置において左右に並んで設けられている。各吊環部64は、後側に向けて突出しており、左右方向に貫通した吊り下げロープRの挿通孔が形成されている。
【0038】
下部スプレッダ6における左右の吊環部64の配置は、左右の吊環部64に吊り下げロープRが連結されて下部スプレッダ6が単独で吊下された場合に、下部スプレッダ6における左右方向が水平となり、枠体63の上端部が前斜め上方向に傾斜した状態(第3傾斜状態とする)となるように設定されている。即ち、下部スプレッダ6の重心位置を考慮して適正な吊環部64の位置を求めて、左右の吊環部64の配置が決定されている。
即ち、下部スプレッダ6の重心位置を考慮して適正な左右の吊環部64の位置を求め、その配置を決定している。
【0039】
さらに、下部スプレッダ6における左右の吊環部64の配置は、上部スプレッダ5と下部スプレッダ6を連結して吊下した場合に、下部スプレッダ6における左右方向が水平となり、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の全体の上下方向が前斜め上方向に傾斜した状態(第4傾斜状態とする)となるように設定されている。
なお、この第4傾斜状態の傾斜方向は、前述した第3傾斜状態の傾斜方向よりも鉛直上下方向に対する傾斜角度は大きくなる。
【0040】
即ち、下部スプレッダ6単独の重心位置を考慮して単独で吊下された下部スプレッダ6が前述した姿勢となる適正な吊環部64の位置の範囲を求める。
さらに、連結された上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の重心位置を考慮して連結状態の上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6が前述した姿勢となる適正な吊環部64の位置を絞り込み、各吊環部64の配置を決定している。
なお、先に連結状態で各吊環部64の位置の範囲を求め、単独状態で各吊環部64の位置を絞り込んでもよい。
【0041】
各吊環部64に吊り下げロープRを通して下部スプレッダ6を吊下した場合の各吊環部64の作用効果については、後述するクレーン1の組立作業において詳述する。
【0042】
[スプレッダ連結部]
図4(A)はスプレッダ連結部7の分解斜視図、図4(B)は組立後の斜視図である。
スプレッダ連結部7は、上部スプレッダ5と下部スプレッダ6との一体的な連結と分離とを可能とする。具体的には、スプレッダ連結部7は、上部スプレッダ5の下端部と下部スプレッダ6の上端部とを連結する。
なお、ここでいう一体的な連結とは、連結された上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6のいずれか一方のみを引っ張って移動させようとした場合に上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の両方が移動することをいう。例えば、後述する図6(B)のように、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6に起伏ロープ37が掛け回されている状態は、起伏ロープ37の弛みがなくなるまでは上部スプレッダ5のみが移動するので、一体的な連結に含まれない。但し、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6に起伏ロープ37がかけ回された状態であって、かつ、別の手段で固定されている場合には、一体的な連結に含まれる。
【0043】
スプレッダ連結部7は、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6のいずれとも別体となる部材から構成されている。
スプレッダ連結部7は、連結板71と、一対の連結ピン72と、一対のロックピン73と、一対の割ピン74と、一対のワッシャー75とを有する。
なお、スプレッダ連結部7は、上部スプレッダ5の下端部及び下部スプレッダ6の左右両側に個別に設けられるが、これらは同一の構成なので、図示されている右側のスプレッダ連結部7について説明する。
なお、左側のスプレッダ連結部7は、以下の右側のスプレッダ連結部7の説明における左と右とが逆となる。
【0044】
連結板71は、上端部が上部スプレッダ5に連結され、下端部が下部スプレッダ6に連結される。
連結板71の上端部には、右面側に前後に並んで一対の円筒部711が形成されている。各円筒部711は、その中心軸が左右方向に沿っており、内側には連結板71の裏面まで貫通する挿入孔712を有する。各円筒部711の挿入孔712には、右方から連結ピン72が挿入される。
上部スプレッダ5の側壁部522(左側のスプレッダ連結部7の場合には側壁部521)の下端部には、一対の挿入孔712と同じ間隔で挿入孔712と同じ内径の一対の連結孔526が前後に並んで貫通形成されている。各円筒部711の挿入孔712に対する各連結ピン72の挿入時には、当該各連結ピン72の先端部が各連結孔526内にまで達して、連結板71と上部スプレッダ5とを連結することができる。
【0045】
各連結ピン72は、円柱状又は円筒状を呈し、右端部には、円筒部711への挿入時のストッパとなる鍔部721と引き抜き用の摘み部722とを有する。
さらに、連結ピン72の鍔部721の左側には、直径方向に貫通したロックピン用挿入孔723が形成されている。そして、ロックピン用挿入孔723に対応するように、円筒部711には、直径方向の両端部に、ロックピン用挿入孔713が形成されている。
【0046】
ロックピン73は、円筒部711の両側のロックピン用挿入孔713と連結ピン72のロックピン用挿入孔723とを位置合わせした状態で、円筒部711及び連結ピン72を貫通するように挿入することが可能である。このロックピン73の挿入により、連結ピン72は円筒部711に対して引き抜き方向に沿った移動が規制される。
また、ロックピン73は、挿入端部とは逆側の端部に弾性を有する引き抜き用のリング731を有する。リング731は、非使用時には、挿入端部側に畳まれている。使用時には、その弾性に抗してリング731を逆端部側に回動させると共に引き抜き方向に引っ張ることで、ロックピン73を各ロックピン用挿入孔713,723から引き抜くことができる。そして、これにより、連結ピン72を円筒部711から引き抜くことが可能となる。
なお、図4(A)及び図4(B)に示す符号76,77は、外した連結ピン72及びロックピン73の収納部としてのホルダと挿入孔である。
【0047】
連結板71の下端部には、前後に並んで一対の挿入孔714が表裏を貫通して形成されている。
そして、下部スプレッダ6の側壁部632(左側のスプレッダ連結部7の場合には側壁部631)には、一対の挿入孔714と同じ間隔で挿入孔714に挿入可能な外径の一対のボス部636が右方に突設されている。
【0048】
一対のボス部636の先端部には、直径方向に貫通した割ピン用挿入孔637が形成されている。
そして、各挿入孔714に対する各ボス部636の挿入時には、当該各ボス部636の先端部が連結板71の右側まで突出し、割ピン用挿入孔637に割ピン74を挿入して、各挿入孔714に対する各ボス部636の抜脱を防止することができる。
割ピン74は、挿入端部が二又に割れており、挿入端部とは逆側の端部は幅が広い頭部となっている。割ピン74は、割ピン用挿入孔637に対して頭部が入口に当たってそれ以上は挿入できなくなるまで挿入された状態で、二又の先端部を工具(金槌と鑿等)で押し開き、割ピン74自体の抜脱が防止される。
また、割ピン74の存在が、挿入孔714に挿入されたボス部636の抜脱を防止することができる。なお、割ピン74を割ピン用挿入孔637に挿入する前に、ボス部636を挿入可能なワッシャー75をボス部636に取り付けておくことが好ましい。
【0049】
上記構成からなるスプレッダ連結部7は、連結板71を上部スプレッダ5に連結する連結ピン72の連結状態を維持するロックピン73が工具不要で引き抜き可能(連結ピン72の連結状態を解除可能)である。
一方、連結板71を下部スプレッダ6に連結するボス部636の連結状態を維持する割ピン74は、押し広げられた状態を真っ直ぐな状態に戻すために、ペンチや金槌等の工具が必要であって、人の手だけでは割ピン74を引き抜くことはできない(ボス部636の連結状態を解除不能)。
このように、スプレッダ連結部7は、上部スプレッダ5側と下部スプレッダ6側とで連結を解除する作業の容易性が大きく異なっている。このため、上部スプレッダ5と下部スプレッダ6とを分離する際には、連結ピン72の引き抜きによって上部スプレッダ5側が分離され、連結板71等のスプレッダ連結部7の主要な構成は、下部スプレッダ6側に残されたままの状態とされる。
【0050】
[クレーンの組立方法]
上記構成のクレーン1の組立方法について、図5(A)~図7(B)の工程図に基づいて順番に説明する。ここでは、主に、クレーン1の上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の取り付け作業について説明する。
なお、ここでは、クレーン1のマスト31やブーム4を含む各部が分離されて別々に運搬され、目的地において組立が行われる場合を前提とする。また、マスト31の分離に伴い、上部スプレッダ5と下部スプレッダ6もクレーン1から取り外されてスプレッダ連結部7によって一体的に連結された状態にあり、各シーブ51,61の起伏ロープ37は、起伏ウインチによって巻き取られた状態にあるものとする。
【0051】
図5(A)に示すように、既に、マスト31及びブーム4は、上部旋回体3に取り付けられた状態にある。
上部スプレッダ5の左右の吊環部54に吊り下げロープRを通し、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6を吊り上げる。この時、吊り上げられた上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6は、その全体の上下方向が前斜め上方向に傾斜した第2傾斜状態となる。
そして、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6は、第2傾斜状態を維持したまま上部旋回体3の後端上部に設けられた下部スプレッダ6のスプレッダ取付部36に運ばれる。
【0052】
下部スプレッダ6のスプレッダ取付部36は、上部旋回体3の後端上部の左右両側において立設された一対の平板部361を有する。各平板部361には左右方向に円形の連結孔362が貫通形成されている。各平板部361のそれぞれの連結孔362は、同心で形成されている。
【0053】
下部スプレッダ6の左右の腕部634,635の支軸65が外され、二又となっているそれぞれの腕部634,635の間に各平板部361が挿入される。そして、腕部634,635の支軸65が挿入されていた孔部と連結孔362とが重なるように位置決めされ、支軸65が孔部及び連結孔362に挿入される。これにより、スプレッダ取付部36と下部スプレッダ6とが連結される(第1のスプレッダ取り付け工程)。
【0054】
なお、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6は、第2傾斜状態で吊り下げロープRに吊下された状態で、下部スプレッダ6をスプレッダ取付部36に連結する作業が行われる。このため、下部スプレッダ6の連結側端部(下端部)が下方且つ後方に差し出された姿勢となるため、下部スプレッダ6の孔部と連結孔362の位置決めを容易に行うことができ、連結作業を容易に行うことが可能である。
【0055】
次いで、図5(B)に示すように、連結状態の上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6は、その上端部が前方を向いた状態に倒される。なお、吊り下げロープRは、各吊環部54に対する連結状態が維持される。
下部スプレッダ6には、前方に突出した凸部638が設けられており、スプレッダ取付部36には、凸部638に当接する規制部363が設けられている。下部スプレッダ6は、この規制部363により前方への回動範囲が規制され、シーブ61,62がどこにも干渉せず、回転が規制されない角度に維持される。
この状態で、上部スプレッダ5の各シーブ51と下部スプレッダ6の各シーブ61とに対して、起伏ロープ37の掛け回しの経路と同じ経路で導きロープ(図示略)の掛け回し作業が行われる。導きロープは、起伏ロープ37よりも細くて柔軟なロープである。各シーブ51,61に対する導きロープの掛け回し作業は、機械の動力に頼ることなく、人力の手作業で容易に行うことができる。
そして、導きロープの一端部が起伏ウインチから巻き出された起伏ロープ37の先端部に連結される。さらに、起伏ウインチから起伏ロープ37の巻き出しを行いながら、導きロープの逆側の端部を引っ張ることで、導きロープの掛け回し経路と同じ経路で起伏ロープが掛け回される。これにより、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の導きロープを起伏ロープ37に容易に入れ替えることができる(ロープ入れ替え工程)。
【0056】
次いで、図6(A)に示すように、下部スプレッダ6に対して上部スプレッダ5が分離される(連結解除工程)。
上部スプレッダ5の分離は、スプレッダ連結部7の前後それぞれのロックピン73の引き抜き作業とこれに続いて行われる前後それぞれの連結ピン72の引き抜き作業とによって行われる。
連結ピン72及びロックピン73を除いたスプレッダ連結部7の各構成は、下部スプレッダ6にそのまま取り付けられたままとされる。
外した連結ピン72は、ホルダ76に収納され、ロックピン73は、挿入孔77に挿入される。
【0057】
次いで、図6(B)に示すように、吊り下げロープRを通じて上部スプレッダ5がスプレッダ取付部36の上方に引き上げられる。この後、上部スプレッダ5は、吊り下げロープRを通じて、前方に傾倒状態にあるマスト31の先端部に設けられたスプレッダ取付部35に運ばれる。このため、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6に掛け回された起伏ロープ37が当該スプレッダ取付部35に届くように、予め、スプレッダ取付部36からスプレッダ取付部35までの距離より幾分余裕がある長さまで起伏ロープ37を巻き出しておく必要がある。従って、起伏ウインチにより起伏ロープ37の巻き出しを行いながら、十分な長さが巻き出される高さまで上部スプレッダ5の引き上げが行われる(ロープ巻き出し工程)。
なお、この時、上部スプレッダ5の引き上げに伴い、起伏ロープ37の張力を受けて、下部スプレッダ6は起立状態となる。
【0058】
次いで、図7(A)に示すように、上部スプレッダ5は、前方の上部スプレッダ5のスプレッダ取付部35に運ばれる。その際、上部スプレッダ5は、単独で吊り下げロープRに吊下され、上部スプレッダ5の上下方向が前斜め上方向に傾斜した第1傾斜状態となる。
なお、ロープ巻き出し工程において十分に起伏ロープ37が巻き出されてから起伏ウインチを停止した状態で上部スプレッダ5の前方の運搬を開始してもよい。また、ロープ巻き出し工程において十分に起伏ロープ37が巻き出される前に起伏ウインチの巻き出しを継続しながら上部スプレッダ5の前方の運搬を開始してもよい。後者の場合、起伏ロープ37の巻き出しが追い付かなくならないように、上部スプレッダ5の前方の運搬速度を調整して行うことが好ましい。
【0059】
次いで、図7(B)に示すように、上部スプレッダ5は、第1傾斜状態を維持したまま傾倒したマスト31の先端部の上部スプレッダ5のスプレッダ取付部35に取り付けられる(第2のスプレッダ取り付け工程)。
【0060】
図8はスプレッダ取付部35の拡大側面図である。図8に示すように上部スプレッダ5のスプレッダ取付部35は、マスト31が前方に傾倒した状態において、前方に向かって延出された上下の延出部351,352をマスト31の先端の左右両端部に有する。上下の延出部351,352は、二又状を呈し、これらの間には前方に向かって開放された略U字状の凹部(切り欠き)からなる受け部353を有する。左右の受け部353は、上部スプレッダ5の支軸55の左端部及び右端部を前方から受け入れることが可能である。さらに、各受け部353は、深部まで支軸55を受け入れた状態で、当該支軸55が左右方向に平行となり、当該支軸55回りに上部スプレッダ5を回動可能に支持することができる。
【0061】
下側の延出部352は、上側の延出部351よりも前方に延出されている。これにより、スプレッダ取付部35に吊下された上部スプレッダ5を取り付ける際には、上方から下側の延出部352に支軸55を容易に載置することができる。そして、載置状態から吊り下げロープRを介して上部スプレッダ5を後方に引き寄せることで、受け部353の深部まで支軸55を引き込むことができ、スプレッダ取付部35に対する上部スプレッダ5の取り付け作業を容易に行うことが可能である。
なお、受け部353の深部近傍には、上部スプレッダ5が有する連結ピンの挿入孔354が設けられており、連結ピンによってスプレッダ取付部35に上部スプレッダ5を抜脱しないように連結することが可能である。
【0062】
また、スプレッダ取付部35に対する上部スプレッダ5の取り付け作業において、上部スプレッダ5は、第1傾斜状態を維持している。このため、上部スプレッダ5が直立状態に吊下された場合よりも上部スプレッダ5の下端部の高さを高く維持することができ、スプレッダ取付部35の下方にあるブーム4との干渉の発生を効果的に低減することが可能である。
【0063】
スプレッダ取付部35に上部スプレッダ5が取り付けると、起伏ウインチによって起伏ロープ37の巻き取りが行われ、上部スプレッダ5と下部スプレッダ6の間の起伏ロープが張設される。この過程で、上部スプレッダ5は、第1傾斜状態からマスト31に沿って傾倒した状態に回動する。そして、各吊環部54から吊り下げロープRが外されて、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の取り付けが完了する。
【0064】
[発明の実施形態の技術的効果]
上記クレーン1は、上部スプレッダ5と下部スプレッダ6は、一体的に連結された状態と分離された状態とに変更可能であって、連結された状態で吊り上げるための吊り下げロープRの吊環部54を有し、下部スプレッダ6を上部旋回体3のスプレッダ取付部36に取り付け、連結を解除した後に、上部スプレッダ5を吊環部54に取り付けた吊り下げロープRにより吊り上げ可能に構成されている。
また、図10で後述するように、上部スプレッダ5と下部スプレッダ6が連結された状態で吊り上げるための吊り下げロープRの吊環部64を有し、上部スプレッダ5をマスト31のスプレッダ取付部35に取り付け、連結を解除した後に、下部スプレッダ6を吊環部64に取り付けた吊り下げロープRにより吊り上げ可能に構成されている。
従って、連結された上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の一方をいずれかのスプレッダ取付部35,36に取り付けた後、分離されたいずれかのスプレッダ5,6を吊り下げロープRに吊り下げる際に、吊環部54又は64を共用することができ、クレーンの組立性の向上を図ることが可能となる。
【0065】
上記クレーン1は、上部スプレッダ5と下部スプレッダ6とが一体的に連結された状態で吊り下げロープRによる吊下が開始されてから上部スプレッダ5が下部スプレッダ6からが分離されて単独でスプレッダ取付部35に取り付けるまでの間、上部スプレッダ5を吊下する吊り下げロープRを連結したままとすることが可能な吊環部54を有している。
【0066】
ここで、前述した図5(A)~図7(B)に示す取り付け作業の間、「吊り下げロープRを連結したままとすることが可能」な状態について説明する。
図9は上記取り付け作業における上部スプレッダ5の姿勢を示している。前述したように、上記取り付け作業において、上部スプレッダ5は、吊下されている場合に、第1傾斜状態、第2傾斜状態、図5(B)の前方への傾倒状態を維持している。
上記取り付け作業において、「吊り下げロープRを連結したままとすることが可能」な状態とは、上部スプレッダ5における吊り下げロープRの取り付け位置を変更しなくとも、上部スプレッダ5やその周辺の構成が干渉や損傷を生じない状態又は円滑な取付作業を阻害されない状態を維持することができることを示す。
【0067】
例えば、図9に示すように、上部スプレッダ5に設けられたワイヤロープ外れ止め525の前端部及び後端部が、第1傾斜状態、第2傾斜状態、前方への傾倒状態において、各シーブ51に掛け回された起伏ロープ37と干渉しない状態を維持することをできる。
仮に、上部スプレッダ5の前方移動時に上部スプレッダ5が直立状態に近づくと、ワイヤロープ外れ止め525の前端部や後端部が起伏ロープ37に食い込むように干渉して起伏ロープ37が損傷等を生じるおそれがあるが、吊環部54に吊り下げロープRを連結して吊下した場合、吊環部54の配置によって、上記取り付け作業の間、直立状態又は直立状態に近い状態とならずに作業を行うことができる。
【0068】
また、ペンダントリンク53に吊り下げロープRを連結して単独の上部スプレッダ5又は連結された上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6を吊り下げて取付等の作業を行おうとした場合には、上部スプレッダ5が直立状態となり、ワイヤロープ外れ止め525の前端部や後端部が起伏ロープ37に食い込むように干渉して起伏ロープ37が損傷等を生じるおそれがあるが、前述したように、適正な位置に吊環部54が設けられているので、当該吊環部54によって、上記取り付け作業の間、直立状態又は直立状態に近い状態とならずに作業を行うことができる。
【0069】
なお、ロープ巻き出し工程において、予め、起伏ロープ37を過剰に巻き出す高さまで引き上げておくことで、上部スプレッダ5を前方に移動する際に起伏ロープ37を大きく弛ませて、上部スプレッダ5を直立で吊下しても、ワイヤロープ外れ止め525の前端部や後端部と起伏ロープ37との干渉を抑制することができる可能性がある。
しかしながら、起伏ロープ37を過剰に巻き出す高さまで引き上げを行う必要があるので、ロープ巻き出し工程の手間と時間が過剰に必要となり、円滑な取付作業が阻害されることとなる。さらに、起伏ロープ37を大きく弛ませた状態で上部スプレッダ5の前方移動が行われるので、起伏ロープ37を上部旋回体3やマスト31、ブーム4の各所に摺動させたり、引っ掛かりを生じるおそれがある。
このため、上部スプレッダ5が直立状態で吊下される位置に吊環部54を設けた場合には、取り付け作業において、「吊り下げロープRを連結したままとすることが可能」な状態には該当しない。また、スプレッダ取付部35に上部スプレッダ5を取り付けた後、起伏ウインチによって起伏ロープ37の巻き取りが行われ、上部スプレッダ5と下部スプレッダ6の間の起伏ロープが張設される。この過程で、上部スプレッダ5が直立状態で吊下される位置に吊環部54を設けた場合には、ワイヤロープ外れ止め525の前端部が起伏ロープ37に食い込むように干渉して起伏ロープ37が損傷等を生じるおそれがある。そのため、上部スプレッダ5を第1傾斜状態と同等になる様に吊り下げロープRを図3の吊環部54と同等の位置に取り付け位置を変更しなければならない。
【0070】
上記の通り、クレーン1は、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の取り付け作業において、吊環部54に吊り下げロープRを連結したら取付完了まで吊り下げロープRの連結をし直す作業を不要とすることができる。
つまり、クレーン1の組立方法において、第1のスプレッダ取り付け工程の開始から第2のスプレッダ取り付け工程の終了までの間で、上部スプレッダ5の吊環部54に対する吊り下げロープの吊替え作業を行わないで済む。
このため、クレーン1は、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の取り扱い性の向上を図ることができ、取付作業を容易且つ効率的に行うことが可能である。
【0071】
また、クレーン1は、上部スプレッダ5と下部スプレッダ6とを一体的に連結した状態で下部スプレッダ6を支持するスプレッダ取付部36を有する。さらに、スプレッダ取付部36に回動可能に取り付けられた状態において、上部スプレッダ5と下部スプレッダ6の回動を規制する規制部をさらに有する。
このため、スプレッダ取付部36に連結状態で支持された上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6を適正な姿勢に維持することができ、各シーブ51,61への起伏ロープ37の掛け回し作業を行うことが可能となり、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の取付作業をさらに容易且つ効率的に行うことが可能となる。
【0072】
また、クレーン1は、スプレッダ取付部35が上部スプレッダ5を固定しない状態で保持する構造であって、当該保持する構造によって上部スプレッダ5を保持した状態で固定可能な固定部としての連結ピンの挿入孔354が設けられている。このため、上部スプレッダ5の取り付け作業中は、固定されずに姿勢を自在とするため作業性が良く、取付け後は、上部スプレッダ5を使用に適した姿勢に保持することが可能となる。
【0073】
また、クレーン1は、上部スプレッダ5のスプレッダ取付部35が、前方に開放された凹部からなる受け部353によって上部スプレッダ5を受け入れて保持する構造を有する。
このため、上部スプレッダ5を受け入れ方向に移動させるだけで、スプレッダ取付部35の適正な位置に上部スプレッダ5を配置することができ、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の取付作業をさらに容易且つ効率的に行うことが可能となる。
【0074】
また、スプレッダ連結部7は、構成のほぼ全体が上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6とは別体からなる。従って、上部スプレッダ5と下部スプレッダ6の分離が容易となる。
また、上部スプレッダ5又は下部スプレッダ6の一方又は両方に対して、取り付けられたままとなるスプレッダ連結部7の構成を低減することができ、上部スプレッダ5又は下部スプレッダ6の動作において生じ得る干渉等の影響の発生を抑制することが可能となる。
【0075】
また、スプレッダ連結部7は、構成のほぼ全体が上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の両方に対して別体であって、上部スプレッダ5との連結機構としての連結ピン72及びロックピン73が分離するのに工具を不要とする構造であり、下部スプレッダ6との連結機構としての割ピン74は、分離するのに工具を必要とする構造である。
これにより、上部スプレッダ5と下部スプレッダ6とを分離する際には、その連結作業の容易性から上部スプレッダ5との連結機構と下部スプレッダ6との連結機構のいずれを分離すべきかを感覚的に判断することができる。従って、上部スプレッダ5と下部スプレッダ6の適正な方に、スプレッダ連結部7の主な構成が残らないように誘導することができ、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の取付作業をさらに容易且つ効率的に行うことが可能となる。
【0076】
また、上述したクレーン1の組立方法は、上部スプレッダ5と下部スプレッダ6とを連結状態でスプレッダ取付部35に取り付ける第1のスプレッダ取り付け工程と、上部スプレッダ5と下部スプレッダ6の連結を解除する連結解除工程と、上部スプレッダ5を単独で吊り上げてマスト31のスプレッダ取付部35に取り付ける第2のスプレッダ取り付け工程とを有する。
これにより、上部スプレッダ5と下部スプレッダ6とを個別に取り付けるよりも効率的に取り付け作業を行うことが可能となる。
【0077】
また、上述したクレーン1の組立方法は、第1のスプレッダ取り付け工程においては、吊環部54に取り付けられた吊り上げロープRにより、連結状態の上部スプレッダ5および下部スプレッダ6を吊り上げ、第2のスプレッダ取り付け工程においては、第1のスプレッダ取り付け工程で吊環部54に取り付けられた吊り下げロープRにより、上部スプレッダ5を単独で吊り上げている。
このため、各工程で共通する吊環部54を共用することができ、作業効率の向上を図ることが可能となる。
【0078】
また、上述したクレーン1の組立方法では、第2のスプレッダ取り付け工程より前に、上部スプレッダ5と下部スプレッダ6の間に導きロープが掛け回され、連結解除工程の前に、起伏ロープ37へ入れ替えるロープ入れ替え工程を有している。
このため、クレーン1から分離された上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6を再び、クレーン1に取り付ける際に必要となる起伏ロープ37の掛け回し作業を極めて容易に行うことが可能となる。これにより、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の取付作業をさらに容易且つ効率的に行うことが可能となる。
【0079】
[その他]
上記発明の実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態では、連結状態の上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6を支持することが可能なスプレッダ取付部36が上部旋回体3に設けられ、当該スプレッダ取付部36において第1のスプレッダ取り付け工程が行われる例を示したが、これに限定されない。
【0080】
例えば、図10に示すように、マスト31のスプレッダ取付部35が、連結状態の上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6を支持することが可能であって、第1のスプレッダ取り付け工程がスプレッダ取付部35において行われてもよい。
その場合、吊り下げロープRは、下部スプレッダ6の一対の吊環部64に連結され、第4傾斜状態で上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6が吊下されてスプレッダ取付部35に運ばれ、第1のスプレッダ取り付け工程が実施される。
また、スプレッダ取付部35に支持された状態の上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6に対してロープ入れ替え工程が実施される。
さらに、連結解除工程において、上部スプレッダ5に対して分離された下部スプレッダ6が第3傾斜状態で吊下されてスプレッダ取付部35の上方に引き上げられて、ロープ巻き出し工程が行われる。
さらに、下部スプレッダ6は、スプレッダ取付部36に運ばれて第2のスプレッダ取り付け工程が実施される。
【0081】
この場合も、クレーン1の組立方法において、第1のスプレッダ取り付け工程の開始から第2のスプレッダ取り付け工程の終了までの間で、下部スプレッダ6の吊環部64に対する吊り下げロープの吊替え作業を行わないで済む。
このため、クレーン1は、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の取り扱い性の向上を図ることができ、取付作業を容易且つ効率的に行うことが可能である。
【0082】
また、上記実施形態では、クレーン1の組立開始前において、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6が、クレーン1から分離された状態にあることを前提としているが、これに限定されない。
例えば、クレーン1を分解する段階で、上部スプレッダ5のみをスプレッダ取付部35から取り外して、スプレッダ取付部36に支持された状態の下部スプレッダ6に連結したままの状態で保持してもよい。
そのようにすることで、クレーン1の組立において、第1のスプレッダ取り付け工程を省略することが可能となり、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の取り扱い性の向上を図ることができ、取付作業を容易且つ効率的に行うことが可能である。
【0083】
また、上記の場合において、起伏ロープ37は、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の各シーブ51,61に掛け回したままの状態で保持してもよい。その場合、スプレッダ連結部7によって上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6が近接状態で連結されているので、起伏ロープ37の余り分を起伏ウインチで巻き取っておくことが好ましい。
これにより、クレーン1の組立において、ロープ入れ替え工程を省略することが可能となり、上部スプレッダ5及び下部スプレッダ6の取り扱い性のさらなる向上を図ることができ、取付作業をさらに容易且つ効率的に行うことが可能である。
【0084】
また、実施形態では、上部スプレッダ5の吊環部54に吊り下げロープRを連結して作業を行う例を示したが、これに限定されない。例えば、ペンダントロープ連結部53に吊り下げロープRを連結して上部スプレッダ5を吊り下げた場合に、直立とならず、傾斜して起伏ロープ37がワイヤロープ外れ止め525に干渉しないようにペンダントロープ連結部53が配置されている場合には、吊環部54に替えて、ペンダントロープ連結部53を吊り下げロープRの取付部としてもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、上部スプレッダ5にワイヤロープ外れ止め525を設けている例を示したが、下部スプレッダ6にも同様の構造のワイヤロープ外れ止めを設けてもよい。下部スプレッダ6のワイヤロープ外れ止めも、図10の例のように、第1のスプレッダ取り付け工程をスプレッダ取付部35で行う場合であって、上部スプレッダ5に対して分離された下部スプレッダ6が第3傾斜状態で吊下されてスプレッダ取付部36に運ばれる際に、起伏ロープ37がワイヤロープ外れ止めに干渉しないように構成されることが好ましい。
【0086】
また、上記実施形態では、クレーン1が上部スプレッダ5と共に回動動作を行うマスト31(いわゆるライブマスト)を有する構成を例示したが、これに限定されない。
例えば、ブームの起伏動作の際にマストは可動せず、下部スプレッダに対して上部スプレッダのみが移動を行うクレーンに対して、上記上部スプレッダ5、下部スプレッダ6、さらには、スプレッダ連結部7を適用してもよい。
【0087】
また、上記実施形態では、クレーン1がクローラクレーンである場合を例示したが、これに限定されない。例えば、ホイールクレーン、トラッククレーン等の他の移動式クレーンに適用可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 クレーン
2 下部走行体
3 上部旋回体(クレーン本体)
4 ブーム
15 カウンタウエイト
5 上部スプレッダ
6 下部スプレッダ
7 スプレッダ連結部
21 本体ボディ
22 クローラ
31 マスト
32 巻上ロープ
35 スプレッダ取付部
351,352 延出部
353 受け部(凹部)
354 挿入孔(固定部)
36 スプレッダ取付部
361 平板部
362 連結孔
363 規制部
37 起伏ロープ
44 ペンダントロープ
51,61 シーブ
52 枠体
525 ワイヤロープ外れ止め
53 ペンダントリンク(ペンダントロープ連結部)
54 吊環部(取付部)
63 枠体
64 吊環部(取付部)
65 支軸
71 連結板
72 連結ピン
73 ロックピン
74 割ピン
75 ワッシャー
76 ホルダ
R 吊り下げロープ(作業用ロープ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10