(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094480
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用セパレータおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/429 20210101AFI20240703BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20240703BHJP
H01M 50/437 20210101ALI20240703BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20240703BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20240703BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20240703BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20240703BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20240703BHJP
【FI】
H01M50/429
H01M50/414
H01M50/437
H01M50/44
H01M50/434
H01M50/403 D
H01M50/403 E
H01M50/443 C
H01M50/446
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211036
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】591267855
【氏名又は名称】埼玉県
(71)【出願人】
【識別番号】312005485
【氏名又は名称】有限会社三和テック
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】栗原 英紀
(72)【発明者】
【氏名】秋 芳博
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021BB09
5H021BB12
5H021CC02
5H021EE02
5H021EE11
5H021EE21
5H021EE22
5H021HH01
(57)【要約】
【課題】放電レート特性およびサイクル寿命を向上させるとともに、安全性の向上を可能にしたリチウムイオン二次電池用セパレータおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】非プロトン化されたセルロースナノクリスタル21と、前記セルロースナノクリスタルが担持された多孔質三次元構造体22と、を備える。また、前記多孔質三次元構造体22は、メラミン樹脂発泡体または耐アルカリ性ガラス繊維を含む。また、前記セルロースナノクリスタルを前記多孔質三次元構造体22に担持させるバインダ23として、カルボキシメチルセルロースおよびコロイダルシリカのうち少なくとも一方をさらに含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非プロトン化されたセルロースナノクリスタルと、
前記セルロースナノクリスタルが担持された多孔質三次元構造体と、を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【請求項2】
前記多孔質三次元構造体は、メラミン樹脂発泡体または耐アルカリ性ガラス繊維を含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【請求項3】
前記セルロースナノクリスタルを前記多孔質三次元構造体に担持させるバインダとして、カルボキシメチルセルロースおよびコロイダルシリカのうち少なくとも一方をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記セルロースナノクリスタルの含有量が、前記セパレータ全体に対して1.0wt%以上15wt%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【請求項5】
セルロースナノクリスタルを非プロトン化処理する工程と、
前記非プロトン化処理したセルロースナノクリスタルを、多孔質三次元構造体に担持させる工程と、を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータの製造方法。
【請求項6】
前記非プロトン化処理は、前記セルロースナノクリスタルをアルカリ水溶液に浸漬することで行われることを特徴とする請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用セパレータおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池はエネルギー密度が高いため、スマートフォンやノートパソコンなどの電子・電気機器には幅広く搭載されている。近年では、ドローン用や回生ブレーキ用の蓄電池として、より高いエネルギー密度と高い出力への要望が高まっている。そのため、リチウムイオン二次電池の放電レート特性のハイレート化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-194534号公報
【特許文献2】特開2017-217629号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yang C,Wu Q,Xie W,et al.Copper-coordinated cellulose ion conductors for solid-state batteries,Nature,2021,598(7882):590-596.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1では、セルロースナノクリスタルを電解質として用いた固体電池について検討されている。セルロースナノクリスタルはアルカリ水溶液中でも溶解せず、電離したカルボキシ基を規則的に配列させることで、リチウムイオンホッピングが生じる。これにより、高いイオン電導性を発揮する。しかしながら、固体電解質および電極間の界面接合や電池作製プロセスに課題を抱えており実用化に至っていない。
【0006】
また、セルロースを用いたリチウムイオン二次電池用のセパレータの研究・開発が進んでいる(例えば、特許文献1、2を参照)。しかしながら、セルロースナノクリスタル自体のシート成形は困難であり、非結晶性セルロースを含めてシート成形すると、分子配列が乱れた不規則な高次構造となり、イオンホッピングが上手く起こらなくなる。また、部分的に機械的強度が低下してしまうため、短絡するおそれがある。このようなリチウムイオン二次電池では、放電レート特性およびサイクル寿命が低下し、安全性も損なわれかねない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、放電レート特性およびサイクル寿命を向上させるとともに、安全性の向上を可能にしたリチウムイオン二次電池用セパレータおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明のリチウムイオン二次電池用セパレータは、非プロトン化されたセルロースナノクリスタルと、前記セルロースナノクリスタルが担持された多孔質三次元構造体と、を備えることを特徴とする。
【0009】
このように、多孔質三次元構造体によってセルロースナノクリスタルが担持されるから、多孔質三次元構造体にセルロースナノクリスタルが目詰まりすることを抑制しつつ、リチウムイオンホッピングを起こすことで放電レート特性の向上を可能にする。また、多孔質三次元構造体の機械的強度が高いから、短絡の発生を抑制して安全性を向上可能にする。また、非プロトン化されたセルロースナノクリスタルであるから、負極で水素が発生することを抑制し、放電レート特性およびサイクル寿命を向上させる。
【0010】
(2)また、上記(1)記載のリチウムイオン二次電池用セパレータにおいて、前記多孔質三次元構造体は、メラミン樹脂発泡体または耐アルカリ性ガラス繊維を含むことを特徴とする。これにより、リチウムイオン二次電池における電解液に対しても高い安定性を発揮する。また、メラミン樹脂発泡体および耐アルカリ性ガラス繊維は濡れ性が高く、電解液との親和性が高いことから放電レート特性を向上可能にする。
【0011】
(3)また、上記(1)または(2)に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータにおいて、前記セルロースナノクリスタルを前記多孔質三次元構造体に担持させるバインダとして、カルボキシメチルセルロースおよびコロイダルシリカのうち少なくとも一方をさらに含むことを特徴とする。セルロースナノクリスタルがその緩衝作用によりアルカリ性の電解液に溶解することをカルボキシメチルセルロースおよびコロイダルシリカが抑制する。
【0012】
(4)また、上記(1)~(3)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用セパレータにおいて、前記セルロースナノクリスタルの含有量が、前記セパレータ全体に対して1.0wt%以上15wt%以下であることを特徴とする。
【0013】
セルロースナノクリスタルの含有量が、セパレータ全体に対して1.0wt%以上であるから、リチウムイオンホッピングが生じることで放電レート特性を向上させる。また、セパレータ全体に対して15wt%以下であるから、セルロースナノクリスタルにより多孔質三次元構造体が目詰まりして放電レート特性が低下することを抑制する。
【0014】
(5)また、本発明のリチウムイオン二次電池用セパレータの製造方法は、セルロースナノクリスタルを非プロトン化処理する工程と、前記非プロトン化処理したセルロースナノクリスタルを、多孔質三次元構造体に担持させる工程と、を備えることを特徴とする。
【0015】
これにより、非プロトン性のセルロースナノクリスタルを多孔質三次元構造体に担持させたセパレータを製造でき、放電レート特性を向上可能にする。
【0016】
(6)また、上記(5)に記載のリチウムイオン電池二次用セパレータの製造方法において、前記非プロトン化処理は、前記セルロースナノクリスタルをアルカリ水溶液に浸漬することで行われる。これにより、セルロースナノクリスタルがカチオン化してイオンホッピングが発生し、放電レート特性をさらに向上可能にする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、放電レート特性を向上させるとともに、安全性の向上を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明におけるセパレータの構造を示す模式図である。
【
図2】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池に封入される積層体の一例における構成を示す構成図である。
【
図3】本発明に係るリチウムイオン電池における負極とセパレータ付近の構成を示す構成図である。
【
図4】各実施例および各比較例の実験条件および実験結果を示す表である。
【
図5】実施例1における充放電曲線を示すグラフである。
【
図6】実施例2における充放電曲線を示すグラフである。
【
図7】実施例3における充放電曲線を示すグラフである。
【
図8】実施例4における充放電曲線を示すグラフである。
【
図9】実施例5における充放電曲線を示すグラフである。
【
図10】実施例6における充放電曲線を示すグラフである。
【
図11】実施例7における充放電曲線を示すグラフである。
【
図12】比較例1における充放電曲線を示すグラフである。
【
図13】比較例2における充放電曲線を示すグラフである。
【
図14】比較例3における充放電曲線を示すグラフである。
【
図15】セルロースナノクリスタルの構造を示す模式図である。
【
図16】セルロースナノクリスタルに非結晶性セルロースを含めてシート成形した場合を説明する比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[原理]
図15、
図16を参照して、本発明の原理について説明する。セルロースナノクリスタル(CNC)は、植物の細胞壁の最小単位であり、植物の基本骨格成分であるミクロフィブリルが揃った針状結晶である。セルロースナノクリスタルは、その結晶度の高さから電解液中でも溶解せず、電離したカルボキシ基を規則的に配列させることでリチウムイオンホッピングを生じさせることができる。
図15は、セルロースナノクリスタルが有するカルボキシ基が規則的に配列され、リチウムイオンホッピングが生じている様子を示す模式図である。
【0020】
しかしながら、セルロースナノクリスタルに非結晶性セルロースを含めてシート成形すると、分子配列が乱れた不規則な高次構造となる。
図16は、シート成形されたセルロースナノクリスタルと非結晶性セルロースの構造を示す模式図である。シート成形されたセルロースナノクリスタルをセパレータとして用いると、イオンホッピングが上手く起こらず十分なリチウムイオンの伝導性が得られないだけでなく、部分的に機械的強度が低下してしまい、電極間が短絡するおそれがある。
【0021】
これに対し、本発明では、多孔質三次元構造体にセルロースナノクリスタルを担持させることにより、リチウムイオンホッピングを三次元的に発生させ、高いイオン伝導性を実現可能なリチウムイオン二次電池用セパレータを提供できる。また、上記の多孔質三次元構造体は、機械的強度を保ちつつ空隙率を上げることができる。そのため、セルロースナノクリスタルを担持させつつ、短絡の発生を抑制できる。これにより、放電レート特性を向上させるとともに、安全性を向上できる。
【0022】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。なお、構成図において、各構成要素の大きさは概念的に表したものであり、必ずしも実際の寸法比率を表すものではない。
【0023】
[セパレータの構成]
図1は、セパレータの構造を模式的に表す模式図である。セパレータ20は、リチウムイオン二次電池用セパレータであって、非プロトン化されたセルロースナノクリスタル21と、セルロースナノクリスタルが担持された多孔質三次元構造体22とを備える。セルロースナノクリスタルは、木材等に含まれるセルロースのうち結晶性の高い部分を抽出したものであり、多くは数十から数百nmのサイズとなる。抽出は、一般にセルロース原料に対して酸を用いた加水分解処理とアルカリを用いた溶解処理を繰り返して非結晶部分を取り除き、機械的解繊処理により行われる。
【0024】
セルロースナノクリスタルは、他のナノセルロースと比べて結晶化度が高く、アルカリ水溶液において溶解しないため、リチウムイオン二次電池用セパレータの材料として適している。なお、ナノセルロースは、ミクロフィブリルまたはミクロフィブリルが複数凝集して形成されるナノサイズのセルロースである。ナノセルロースには、セルロースナノクリスタルの他に、セルロースナノファイバーやバクテリアナノファイバーなどが挙げられる。
【0025】
セルロース原料としては、セルロースを含むものであれば特に限定されないが、例えば、各種木材パルプ、非木材パルプ、バクテリアセルロース、再生セルロース、古紙パルプ、コットン、バロニアセルロース、ホヤセルロース等が挙げられる。原料コストが抑えられることから、好ましくは古紙パルプである。また、市販されている各種セルロース粉末や微結晶セルロース粉末を使用してもよい。
【0026】
セルロースナノクリスタルは、平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)50以下、平均繊維径1nm~100nm、平均繊維長50nm~5μmである。また、重合度が100以上、結晶度は100%がナノセルロースクリスタルと定義されるが、結晶化部分を完全に抽出することは困難である。そのため、本発明においては結晶度60%以上のものをナノセルロースクリスタルとする。
【0027】
また、非プロトン化されたセルロースナノクリスタル21は、セルロースナノクリスタルに含まれるカルボキシ基がエステル化によりカルボン酸ナトリウム塩またはカルボン酸カリウム塩にされたものであることが好ましい。
【0028】
また、非プロトン化されたセルロースナノクリスタルの含有量は、セパレータ全体に対して1.0wt%以上15wt%以下である。より好ましくは1.5wt%以上10wt%以下であり、さらに好ましくは5wt%である。セルロースナノクリスタルの含有量が、セパレータ全体に対して1.0wt%以上であるから、リチウムイオンホッピングが生じることで放電レート特性を向上させる。また、セパレータ全体に対して15wt%以下であるから、セルロースナノクリスタルにより多孔質三次元構造体が目詰まりして放電レート特性が低下することを抑制する。
【0029】
多孔質三次元構造体22は、多くの細孔を有する三次元構造体であり、セルロースナノクリスタルを担持しても目詰まりしにくい。多孔質三次元構造体22は、空隙率が40%以上であることが好ましい。多孔質三次元構造体22は、メラミン樹脂発泡体(MLM)または耐アルカリ性ガラス繊維が好ましい。メラミン樹脂発泡体および耐アルカリ性ガラス繊維は濡れ性が高く、電解液との親和性が高いことから放電レート特性を向上可能にする。また、メラミン樹脂発泡体および耐アルカリ性ガラス繊維はアルカリ水溶液中の安定性が高いから電解液中で安定し、リチウムイオン二次電池用セパレータの材料に適している。
【0030】
また、メラミン樹脂発泡体は、三次元網目構造を有するから、セルロースナノクリスタルを多く担持することができる。メラミン樹脂発泡体としては、空隙率が85%以上、厚さ1mm以上3mm以下が好ましい。
【0031】
耐アルカリ性ガラス繊維は、空隙率が40%以上、厚さ0.1mm以上1mm以下となるように成形されていることが好ましい。例えば、硼ケイ酸ガラスを主成分とするガラス繊維ろ紙が挙げられる。また、耐アルカリ性ガラス繊維として、平均繊維径0.5μm~2μmのものを用いられることが好ましい。
【0032】
また、セパレータ20は、非プロトン化されたセルロースナノクリスタル21を多孔質三次元構造体22に担持させるバインダ23をさらに有していてもよい。バインダ23として、カルボキシメチルセルロースおよびコロイダルシリカのうち少なくとも一方を含むことが好ましい。バインダの含有量は、セパレータ全体に対して、0.05wt%以上0.5wt%以下である。より好ましくは0.1wt%以上0.4wt%以下である。
【0033】
[セパレータの製造方法]
次に、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用セパレータの製造方法について説明する。セパレータの製造方法は、セルロースナノクリスタルを非プロトン化処理する工程と、非プロトン化処理したセルロースナノクリスタルを、多孔質三次元構造体に担持させる工程と、を備える。
【0034】
セルロースナノクリスタルを非プロトン化処理する工程は、セルロースナノクリスタルをアルカリ水溶液に浸漬することで行われる。アルカリ水溶液としては、セルロースナノクリスタルを非プロトン化できる溶液であればよい。アルカリ水溶液は、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムである。
【0035】
非プロトン化処理したセルロースナノクリスタルを、多孔質三次元構造体に担持させる工程は、多孔質三次元構造体に非プロトン化されたセルロースナノクリスタルを含浸させることで行なわれる。このとき、バインダとして、カルボキシメチルセルロースおよびコロイダルシリカのうち少なくとも一方を添加してもよい。
【0036】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、上述の本実施形態に係るセパレータを備えるリチウムイオン二次電池である。
図2は、本実施形態のリチウムイオン二次電池を構成する積層体の一例を説明するための模式図である。
図2に示す積層体を図示しないケース内に封入することでリチウムイオン電池が作製される。ケースとして、円筒型や角型の金属缶、ラミネートフィルム、熱収縮チューブ等が挙げられる。リチウムイオン二次電池では、充放電による体積の変動を緩和するために、ケースの内部に一定の圧力がかかっている。圧力のかけ方としては、ケースで押し込むこと、収縮製チューブにより電池を巻くことが挙げられる。また、ケース内の圧力は、ケースの強度やサイズ、電解液充填時の真空度などにより定められる。ケース内の圧力は、試験用セルにおいてバネ定数3kgf/mm以上5kgf/mm以下のバネを用いた場合と同等の圧力となるように調整されることが好ましい。
【0037】
積層体1は、正極10と、セパレータ20と、負極30とを備えている。セパレータ20は、正極10と負極30とを隔てるように設けられ、電解液を保持している。セパレータ20は、上述した実施形態のセパレータを用いればよく、セパレータは非プロトン化されたセルロースナノクリスタルと、セルロースナノクリスタルが担持された多孔質三次元構造体とを備える。
【0038】
セパレータがセルロースナノクリスタルと多孔質三次元構造体とを備えるから、多孔質三次元構造体にセルロースナノクリスタルが目詰まりすることを抑制しつつ、リチウムイオンホッピングを起こすため、放電レート特性の向上を可能にするとともに、短絡の発生を抑制して安全性を向上可能にする。また、セルロースナノクリスタルが非プロトン性であるから、負極で水素が発生することを抑制し、放電レート特性およびサイクル寿命を向上させる。
【0039】
正極10としては、従来公知のリチウムイオン二次電池に用いられる正極を使用可能である。例えば、正極10としてコバルト酸リチウム等を用いることができる。
【0040】
負極30としては、従来公知のリチウムイオン二次電池に用いられる負極を使用可能であるが、セルロースナノクリスタルが融解するおそれがあることからリチウム金属以外の材料が好ましい。負極30として、例えば、黒鉛、グラファイトなどの炭素系材料等を用いることができる。
【0041】
リチウムイオン二次電池は、正極集電体および負極集電体がさらに設けられてもよい。正極集電体および負極集電体は、例えば、ステンレス鋼、金、白金、銅、亜鉛、ニッケル、スズ、アルミニウム、または、これらの合金等からなるものとすることができ、板状体、箔状体、網目状体等を有することができる。
【0042】
電解液は、電解質溶媒および電解質塩から構成される。電解質溶媒および電解質塩としては、従来公知のリチウムイオン二次電池に用いられる電解質溶媒および電解質塩を使用可能である。電解質溶媒としては、鎖状カーボネートと環状カーボネートとを含むことが好ましい。
【0043】
鎖状カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)を用いることができる。
【0044】
環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)を用いることができる。
【0045】
電解質塩としては、リチウム塩を含むことが好ましく、従来公知のリチウム二次電池に使用可能なリチウム塩を用いることができる。具体的には、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム:LiPF6、テトラフルオロホウ酸リチウム:LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド:LiFSI等のリチウム塩を用いることができる。
【0046】
また、電解質塩として、さらに多価カチオン塩を含むことが好ましい。多価カチオン塩は、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム(Mg(TFS)
2):(Mg(SO
3CF
3)
2、酸化マグネシウム:(MgO)、フッ化マグネシウム(MgF
2)、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(MgTFSI
2):Mg[N(SO
2CF
3)
2]
2を用いることができる。これにより、
図4に示すように、負極30と電解質媒体との界面に有機被膜および無機被膜が形成される。負極30と電解質媒体との界面に被膜が形成されることにより、電解液の分解を抑制する。
【0047】
電解液は結着剤をさらに含んでもよい。結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いることができる。
【0048】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、上記の非プロトン化されたセルロースナノクリスタルが担持された多孔質三次元構造体を準備し、これをセパレータとして用いることで製造できる。
【0049】
[実施例]
次に、リチウムイオン二次電池の試験用セルを作製して、充放電レート特性試験を行なった。
[試験用セルの作製]
各試験用セルの作製条件は以下の通りである。
【0050】
(実施例1)
負極として、銅箔に塗工したグラファイト電極(3.6mAh、2cm2、Mic-Lab製)を用いた。正極として、アルミニウム箔に塗工したコバルト酸リチウム電極(3mAh、2cm2、Mic-Lab製)を用いた。電解液として、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒(体積比1:2)に1.0MのLiPF6を添加したものを用いた。
【0051】
多孔質三次元構造体として、「激落ちくん(登録商標)」として流通するコンシューマ用ホワイトタイプのメラミン樹脂発泡体(BASF社製)を厚さ1mm、外径16mmφとなるように切断したものを用いた。また、セパレータ全体に対して5.0wt%となるように、多孔質三次元構造体に非プロトン化されたセルロースナノクリスタルを含浸したものをセパレータとして使用した。非プロトン化されたセルロースナノクリスタルは、多孔質三次元構造体に担持させる前に、アルカリ水溶液に浸漬させることで作製した。アルカリ水溶液として水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムを用いた。セルロースナノクリスタルについては、木材またはパルプを原料として、抽出した。
【0052】
正極、負極、セパレータおよび電解液を治具セル(電池評価用2極セルSB2A、ECフロンティア製)に配置することで、実施例1の試験用セルを作製した。バネとして、治具セルに付属してるスプリング(3kgf/mm、SUS316)を用いた。
【0053】
治具セル内に配置される前のセパレータは、空隙率が98.5%、密度が1.5gcm3であった。治具セル内に配置されたセパレータは、厚さ0.1mm、空隙率60%であり、配置前後の体積比が1.5%であった。空隙率については、治具セル内に配置される前のセパレータの体積、空隙率および密度から重量を算出し、治具セル内に配置されたセパレータの厚さから体積を算出して、空隙率を算出した。
【0054】
(実施例2)
多孔質三次元構造体にセルロースナノクリスタルを含浸させる際に、バインダとして0.4wt%カルボキシメチルセルロースを添加した点以外は実施例1と同じ工程、同じ条件で試験用セルを作製した。
【0055】
(実施例3)
多孔質三次元構造体にセルロースナノクリスタルを含浸させる際に、バインダとして0.1wt%カルボキシメチルセルロースを添加した点以外は実施例1と同じ工程、同じ条件で試験用セルを作製した。
【0056】
(実施例4)
多孔質三次元構造体にセルロースナノクリスタルを含浸させる際に、バインダとして0.2wt%コロイダルシリカを添加した点以外は実施例1と同じ工程、同じ条件で試験用セルを作製した。
【0057】
(実施例5)
多孔質三次元構造体として耐アルカリ性ガラス繊維(ワットマンGF/A 厚さ0.26mm 繊維径1.6μm 100%硼ケイ酸ガラス)を用いた点と、多孔質三次元構造体にセルロースナノクリスタルを含浸させる際に、バインダとして0.4wt%カルボキシメチルセルロースを添加した点以外は実施例1と同じ工程、同じ条件で試験用セルを作製した。
【0058】
(実施例6)
多孔質三次元構造体にセルロースナノクリスタルを含浸させる際に、セパレータ全体に対して1.5wt%となるように多孔質三次元構造体にセルロースナノクリスタルを含浸した点と、バインダとして0.1wt%カルボキシメチルセルロースを添加した点以外は実施例1と同じ工程、同じ条件で試験用セルを作製した。
【0059】
(実施例7)
多孔質三次元構造体にセルロースナノクリスタルを含浸させる際に、セパレータ全体に対して10wt%となるように多孔質三次元構造体にセルロースナノクリスタルを含浸した点と、バインダとして0.1wt%カルボキシメチルセルロースを添加した点以外は実施例1と同じ工程、同じ条件で試験用セルを作製した。
【0060】
(比較例1)
多孔質三次元構造体にセルロースナノクリスタルを含浸させなかった点以外は実施例1と同じ工程、同じ条件で試験用セルを作製した。
【0061】
(比較例2)
多孔質三次元構造体にセルロースナノクリスタルを含浸させなかった点と、バインダとして0.1wt%カルボキシメチルセルロースを添加した点以外は実施例1と同じ工程、同じ条件で試験用セルを作製した。
【0062】
(比較例3)
多孔質三次元構造体として耐アルカリ性ガラス繊維(ワットマンGF/A 厚さ0.26mm 繊維径1.6μm 100%硼ケイ酸ガラス)を用いた点と、多孔質三次元構造体にセルロースナノクリスタルを含浸させなかった点以外は実施例1と同じ工程、同じ条件で試験用セルを作製した。
【0063】
[充放電特性試験]
上記の各実施例および比較例を用いて、放電特性試験を実施した。放電特性試験は、25℃恒温槽中で定電流を印加し、カットオフ電圧4.2V-3.0Vで行なった。また、0.75mAcm-2(0.5C)で充電し、放電電流を1.5mAcm-2(1C)、3mAcm-2(2C)として、それぞれにおいて測定した。
【0064】
2Cにおける放電容量が1.8mAh以下のものを不合格(×)とし、2Cにおける放電容量が1.8mAhより高いものを合格(○)とし、2Cにおける放電容量が2.4mAhより高く、0.5Cにおける放電容量が1.8mAhより高いものを良好(◎)として評価した。
【0065】
図4は、各実施例および各比較例の試験条件および試験結果をまとめた表である。
図5~11は、実施例1~7における各放電電流による充放電曲線を示すグラフであり、
図12~14は、比較例1~3における各放電電流による充放電曲線を示すグラフである。
【0066】
図4に示すように、実施例1、2、4~7は、2Cにおける放電容量が1.8mAhより高く、高い放電レート特性を示すことを確認した。これにより、セルロースナノクリスタルを担持させた多孔質三次元構造体をセパレータとして用いることにより、リチウムイオンホッピングが生じて放電レート特性を向上させることを確認できた。
【0067】
また、実施例3は2Cにおける放電容量が2.4mAhより高く、0.5Cにおける放電容量が1.8mAhより高いことから、良好な放電レート特性を示すことが確認できた。
【0068】
また、実施例1~7において、充放電曲線を測定可能であったことから、短絡が生じないことを確認できた。そのため、多孔質三次元構造体にセルロースナノクリスタルを担持させることは、部分的に機械的強度が弱くなることを抑制して、安全性を向上させることを確かめられた。
【0069】
これに対して、比較例1~3では、2Cにおける放電容量が1.8mAh以下であり、セルロースナノクリスタルを担持させた多孔質三次元構造体をセパレータとした実施例1~7より低い放電レート特性を示した。
【符号の説明】
【0070】
1 積層体
10 正極
20 セパレータ
21 非プロトン化されたセルロースナノクリスタル
22 多孔質三次元構造体
23 バインダ
30 負極