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特開2024-94482洗浄剤組成物及びそれを含むウエットシート
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  • 特開-洗浄剤組成物及びそれを含むウエットシート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094482
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】洗浄剤組成物及びそれを含むウエットシート
(51)【国際特許分類】
   C11D 17/06 20060101AFI20240703BHJP
   C11D 1/74 20060101ALI20240703BHJP
   C11D 1/92 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C11D17/06
C11D1/74
C11D1/92
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211041
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小泉 理史
(72)【発明者】
【氏名】三橋 幸子
(72)【発明者】
【氏名】向井 健太
【テーマコード(参考)】
4H003
【Fターム(参考)】
4H003AC05
4H003AC08
4H003AC12
4H003AC15
4H003AD04
4H003BA12
4H003BA19
4H003DA05
4H003DA06
4H003DB01
4H003DC02
4H003EB07
4H003ED02
4H003FA04
4H003FA21
4H003FA26
4H003FA34
(57)【要約】
【課題】強固な尿汚れに対する洗浄性が高く、且つ、保存安定性に優れた洗浄剤組成物及びウエットシートを提供すること。
【解決手段】洗浄剤組成物は、(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル、(B)両性界面活性剤及び(C)非イオン性界面活性剤(ただし(A)成分のポリグリセリン脂肪酸エステルを除く。)を含有する。洗浄剤組成物は、(A)ないし(C)成分を、それらの総量で0.2質量%以上1質量%未満含有する。(B)成分の両性界面活性剤がスルホベタイン型の両性界面活性剤であることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下に示す(A)ないし(C)成分を、それらの総量で0.2質量%以上1質量%未満含有する洗浄剤組成物。
(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル。
(B)両性界面活性剤。
(C)非イオン性界面活性剤(ただし(A)成分のポリグリセリン脂肪酸エステルを除く。)。
【請求項2】
(B)成分の両性界面活性剤がスルホベタイン型の両性界面活性剤である、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項3】
(A)成分のポリグリセリン脂肪酸エステルにおけるアシル基の炭素数が8以上18以下である、請求項1又は2に記載の洗浄剤組成物。
【請求項4】
(A)成分のポリグリセリン脂肪酸エステルにおけるグリセリンの重合度が8以上である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の洗浄剤組成物。
【請求項5】
25℃におけるpHが3.5以上6以下である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の洗浄剤組成物。
【請求項6】
(A)成分の含有量及び(C)成分の含有量の総和:(B)成分の含有量=2:1~10:1である、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の洗浄剤組成物。
【請求項7】
基材シートと、該基材シートに含浸された請求項1ないし6のいずれか一項に記載の洗浄剤組成物とを含み、
前記基材シートに対して前記洗浄剤組成物が100質量%以上500質量%以下含浸されている、ウエットシート。
【請求項8】
基材シートは水解性を有するものである、請求項7に記載のウエットシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は洗浄剤組成物に関する。また本発明は該洗浄剤組成物を含むウエットシートに関する。
【背景技術】
【0002】
トイレの便座及びその周辺に飛び散った尿が乾燥すると、尿中の成分が固化して強固な尿汚れとなる。このような尿汚れはトイレットペーパーなど身近にあるシートで拭き取っても除去することが容易でない。尿汚れを除去するためにはクエン酸などの強酸性の洗浄剤を用いることが有効である。しかし強酸性の洗浄剤は肌に刺激を与えることがある。これを避けるためには弱酸性ないし中性の洗浄剤を用いることが望ましいが、尿汚れの除去性能は強酸性の洗浄剤に及ばない。
【0003】
弱酸性ないし中性のpHを有するトイレ用の洗浄剤組成物として、特許文献1には両性界面活性剤、エタノール及びEDTA又はその塩を含み、pHが6.5~7.5である洗浄剤組成物が提案されている。
特許文献2には、乳児用の衣料やおむつなどの繊維製品用洗浄剤組成物として、非イオン性界面活性剤と、脂肪酸のカリウム塩又は脂肪酸のアルカノールアミン塩と、ポリカルボン酸系ポリマー又はその塩と、エタノール等の有機溶媒とを含有し、pHが8以上である洗浄剤組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-225762号公報
【特許文献2】特開2013-36014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に記載の洗浄剤組成物によれば肌への刺激を低減させることは可能である。しかし、この種の洗浄剤組成物は、尿汚れに対する洗浄性が十分とは言えなかった。
したがって本発明の課題は、尿汚れに対する洗浄性に優れた洗浄剤組成物及びウエットシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示す(A)ないし(C)成分を、それらの総量で0.2質量%以上1質量%未満含有する洗浄剤組成物に関する。
(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル。
(B)両性界面活性剤。
(C)非イオン性界面活性剤(ただし(A)成分のポリグリセリン脂肪酸エステルを除く。)。
【0007】
また本発明は、基材シートと、該基材シートに含浸された前記の洗浄剤組成物とを含むウエットシートに関する。
一実施形態において、前記基材シートに対して前記洗浄剤組成物が100質量%以上500質量%以下含浸されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、強固な尿汚れに対する洗浄性に優れた洗浄剤組成物及びウエットシートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明のウエットシートの一実施形態の模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明は、洗浄剤組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)に関するものである。本発明の組成物は、洗浄剤としてそのまま清掃又は清拭に用いたり、あるいは基材シートに該組成物を含浸させてウエットシートとして清掃又は清拭に用いたりされる。
【0011】
弱酸性ないし中性であっても強固な尿汚れに対する洗浄性に優れた組成物の組成について本発明者が鋭意検討した結果、該組成物が、(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル、(B)両性界面活性剤及び(C)非イオン性界面活性剤(ただし(A)成分のポリグリセリン脂肪酸エステルを除く。)を含有し、これらの総量を該組成物中に所定量含有させる場合に、驚くべきことに、特にトイレの便座及びその周辺に固化付着した強固な尿汚れに対する洗浄性を優れて効果的に高くすることができることを見出した。
本発明の組成物は、上述した(A)ないし(C)成分を全て含有するものである。
【0012】
本発明の組成物は、その構成成分の一つとして、(A)成分であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、親水基がポリグリセリンであり、疎水基がアシル基中の炭化水素基である、多価アルコール型の非イオン性界面活性剤である。
【0013】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、アシル基として、飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基をそれぞれ単独で含んでもよく、あるいは飽和炭化水素基及び不飽和炭化水素基の混合物を含んでもよい。強固な尿汚れに対する洗浄性を高めるとともに、組成物の保存安定性を高める観点から、ポリグリセリン脂肪酸エステルにおけるアシル基として少なくとも飽和炭化水素基を含むことが好ましい。
【0014】
ポリグリセリン脂肪酸エステルにおけるアシル基としては、直鎖のアシル基でもよく、分岐鎖のアシル基でもよい。強固な尿汚れに対する洗浄性を高めるとともに、組成物の保存安定性を高める観点から、ポリグリセリン脂肪酸エステルにおけるアシル基として、直鎖のアシル基であることが好ましい。
【0015】
ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいては、アシル基の炭素数が好ましくは8以上であり、より好ましくは10以上である。また、アシル基の炭素数が好ましくは18以下であり、より好ましくは16以下である。ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、アシル基の炭素数がこの範囲にあることで、尿、特に乾燥した尿に対する洗浄性と保存安定性とが向上する。
【0016】
本発明の組成物においては、ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、炭素数が異なる二種以上のアシル基を含むことができる。その場合、尿、特に乾燥した尿に対する洗浄性と保存安定性とを向上させる観点から、好ましくは直鎖の炭素数8以上18以下のアシル基を一種又は二種以上含むポリグリセリン脂肪酸エステルであり、より好ましくは直鎖の炭素数10以上16以下のアシル基を一種又は二種以上含むポリグリセリン脂肪酸エステルであり、一層好ましくは直鎖の炭素数12以上14以下のアシル基を一種又は二種以上含むポリグリセリン脂肪酸エステルである。
【0017】
ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいては、グリセリンの重合度が好ましくは8以上であり、より好ましくは9以上である。また、グリセリンの重合度が好ましくは12以下であり、より好ましくは11以下である。ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、グリセリンの重合度がこの範囲にあることで、尿、特に乾燥した尿に対する洗浄性と香料の溶解性とが向上する。
【0018】
ポリグリセリン脂肪酸エステルにおける、グリセリンの重合度は、例えば以下の方法で測定されるグリセリン平均重合度を指す。
<グリセリンの重合度の測定方法>
阪本薬品工業株式会社編「ポリグリセリンエステル」(1994年)第75頁記載の方法に準拠し、ポリグリセリン脂肪酸エステルをKOH-エタノールでケン化分解し、希硫酸でpHを4に調整した後、ヘキサンで脂肪酸部を抽出する。水層のpHを7に調整した後、メタノールで脱塩処理をし、ポリグリセリン部を得る。得られたポリグリセリン部をグリセリン平均重合度の分析に供し、脂肪酸部を構成脂肪酸の分析に供する。
カラムはTSK2500PWXL(東ソー社製)、溶媒は蒸留水(トリフルオロ酢酸を0.1%添加)、流量は1mL/min、検出器はRID、温度40℃、注入量50μLの条件で、ポリグリセリンをGPCによって分析する。ポリエチレングリコールで検量線を作成し、ポリエチレングリコール換算のポリグリセリンの重量平均分子量(Mw2)、及びグリセリンの重量平均分子量(Mw1)を測定する。次にグリセリンの換算係数(F)を次式(1)によって算出する。
F=92/Mw1 (1)
(式中、F=グリセリンの換算係数、Mw1=グリセリンの重量平均分子量)
上記で求めたポリグリセリンの重量平均分子量(Mw2)から、ポリグリセリンの「グリセリン平均重合度」を次式(2)によって求める。
n=(Mw2×F-18)/74 (2)
(式中、n=グリセリン平均重合度、F=グリセリンの換算係数、Mw2=ポリグリセリンの重量平均分子量)
【0019】
このようなポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えばラウリン酸ポリグリセリル-10、カプリン酸ポリグリセリル-2、カプリン酸ポリグリセリル-10、ミリスチン酸ポリグリセリル-5、ミリスチン酸ポリグリセリル-10、ステアリン酸ポリグリセリル-10、パルミチン酸ポリグリセリル-10等が挙げられる。これらは一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
(A)ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、市販品も用いることができる。市販品としては、例えば太陽化学社製のサンソフトM-12JW、サンソフトQ-10D-C、サンソフトQ-10Y-C、サンソフトA-14E-C、サンソフトQ-14Y-C、サンソフトQ-18Y-C、日光ケミカルズ社製のNIKKOL Decaglyn 1-PVEX等が挙げられる。
【0021】
本発明の組成物は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを、該組成物に対して0.01質量%以上含むことが好ましく、0.05質量%以上含むことがより好ましく、0.1質量%以上含むことが更に好ましい。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルを、組成物に対して0.5質量%以下含むことが好ましく、0.4質量%以下含むことがより好ましく、0.3質量%以下含むことが更に好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量がこの範囲にあることで、例えばトイレの便座及びその周辺に固化付着した強固な尿汚れを効果的に除去することができる。更に、ポリグリセリン脂肪酸エステルがこの範囲で含まれていることによって、ポリグリセリン脂肪酸エステルが、異種のイオン性界面活性剤と結合した場合に水不溶性塩を形成しにくくなる。これによって、本発明の組成物を長期保存した場合においても、該組成物中で水不溶性塩が形成されることを抑制することができ、その結果、該組成物の保存安定性を高めることができる。
【0022】
本発明の組成物は、その構成成分の一つとして、(B)成分である両性界面活性剤を含有する。両性界面活性剤は、陰イオン基及び陽イオン基の両方の界面活性成分を含む界面活性剤である。
【0023】
両性界面活性剤としては、例えばアミンオキサイド型、イミダゾリン型、カルボベタイン型又はスルホベタイン型の両性界面活性剤のいずれかを単独で含んでもよく、あるいはこれらの混合物を含んでもよい。
【0024】
アミンオキサイド型の両性界面活性剤としては、例えばラウリルジメチルアミンオキサイド、ヤシ油アルキルジメチルアミンオキシド等が挙げられる。これらは一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
イミダゾリン型の両性界面活性剤としては、例えば2-アルキル-N-カルボキシメチルイミダゾリニウムベタイン、2-アルキル-N-カルボキシエチルイミダゾリニウムベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。これらは一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
カルボベタイン型の両性界面活性剤としては、例えば炭素数が10以上18以下のアルキル基、アルケニル基又はアシル基を有するものが挙げられる。具体的には、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ミリスチルジメチルアミノ酢酸ベタイン、パルミチルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。これらは一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
スルホベタイン型の両性界面活性剤としては、例えばアルキル基の炭素数が10以上18以下のN-アルキル-N,N-ジメチル-N-スルホプロピルアンモニウムスルホベタイン、N-アルキル-N,N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシスルホプロピル)アンモニウムスルホベタイン、アルカノイル基の炭素数が10以上18以下のN-アルカノイルアミノプロピル-N,N-ジメチル-N-スルホプロピルアンモニウムスルホベタイン、N-アルカノイルアミノプロピル-N,N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシスルホプロピル)アンモニウムスルホベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン、ラウラミドプロピルヒドロキシスルタイン等が挙げられる。これらは一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
本発明の組成物は、両性界面活性剤として、少なくともアミンオキサイド型又はスルホベタイン型の両性界面活性剤を含むことが好ましい。アミンオキサイド型及びスルホベタイン型の両性界面活性剤は、両性界面活性剤の中での洗浄性が比較的高いことから、本発明の組成物がアミンオキサイド型又はスルホベタイン型の両性界面活性剤を含有することで、強固な尿汚れに対する洗浄性を一層向上させることができる。特に、両性界面活性剤とポリグリセリン脂肪酸エステルとを組み合わせて用いることで、両性界面活性剤が、ポリグリセリン脂肪酸エステルが有する高い洗浄性及び優れた保存安定性を向上させる助剤として機能する。それによって、本発明の組成物は、強固な尿汚れに対する洗浄性が一層高まるとともに、該組成物の保存安定性が一層高まる。
強固な尿汚れに対する洗浄性を一層高めるとともに、組成物の保存安定性を一層高める観点から、アミンオキサイド型の両性界面活性剤として、ラウリルジメチルアミンオキサイド、ヤシ油アルキルジメチルアミンオキシド等を用いることが好ましい。同様の観点から、スルホベタイン型の両性界面活性剤として、ラウリルヒドロキシスルホベタイン、ラウラミドプロピルヒドロキシスルタイン等を用いることが好ましい。
【0029】
両性界面活性剤としては、例えば花王社製のアンヒトール20HD、アンヒトール20N、東邦化学工業社製のカチナール AOC、川研ファインケミカル社製のソフタゾリン(登録商標)LSB等の市販品を用いることもできる。
【0030】
本発明の組成物は、両性界面活性剤を、該組成物に対して0.005質量%以上含むことが好ましく、0.01質量%以上含むことがより好ましく、0.02質量%以上含むことが更に好ましい。また、両性界面活性剤を、組成物に対して0.3質量%以下含むことが好ましく、0.2質量%以下含むことがより好ましく、0.1質量%以下含むことが更に好ましい。両性界面活性剤の含有量がこの範囲にあることで、強固な尿汚れに対する洗浄性を一層高めるとともに、組成物の保存安定性を一層高めることができる。
【0031】
本発明の組成物は、その構成成分の一つとして、(C)成分である非イオン性界面活性剤(ただし(A)成分のポリグリセリン脂肪酸エステルを除く。)を含有する。非イオン性界面活性剤としては、(A)成分のポリグリセリン脂肪酸エステル以外の非イオン性界面活性剤であれば、特に限定されず、任意のものを用いることができる。
【0032】
本発明の組成物が、(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル及び(B)両性界面活性剤とともに、(C)非イオン性界面活性剤を含有することで、強固な尿汚れに対する洗浄性を一層高めるとともに、該組成物の保存安定性を一層高めることができる。特に、例えば本発明の組成物に香料等の各種成分を加えた場合においても、該組成物の高い洗浄性を担保しつつ、該組成物全体における洗浄性及び保存安定性をバランスよく優れたものとすることができる。
【0033】
非イオン性界面活性剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、高品質ソルビタン脂肪酸エステル、高品質ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキルアルカノールアミド、アルキルグルコシド等が挙げられる。これらは一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
強固な尿汚れに対する洗浄性を一層高めるとともに、組成物の保存安定性を一層高める観点から、非イオン性界面活性剤として、少なくともポリオキシエチレンアルキルエーテル又はアルキルグルコシドを含むことが好ましい。
【0034】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルにおいては、アルキル基の炭素数が好ましくは5以上であり、より好ましくは7以上であり、更に好ましくは9以上である。また、アルキル基の炭素数が好ましくは18以下であり、より好ましくは15以下であり、更に好ましくは13以下である。ポリオキシエチレンアルキルエーテルにおいて、アルキル基の炭素数がこの範囲にあることで、高い洗浄性と皮膚への低刺激性とを両立することができる。
【0035】
このようなポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等が挙げられる。強固な尿汚れに対する洗浄性を一層高めるとともに、組成物の保存安定性を一層高める観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、ポリオキシエチレンラウリルエーテルを用いることが好ましい。
【0036】
アルキルグルコシドにおいては、アルキル基の炭素数が好ましくは8以上であり、より好ましくは9以上である。また、アルキル基の炭素数が好ましくは16以下であり、より好ましくは14以下であり、更に好ましくは12以下である。アルキルグルコシドにおいて、アルキル基の炭素数がこの範囲にあることで、尿、特に乾燥した尿に対する洗浄性と香料の溶解性とが向上する。
【0037】
このようなアルキルグルコシドとしては、例えばラウリルグルコシド、デシルグルコシド、カプリルグルコシド等が挙げられる。強固な尿汚れに対する洗浄性を一層高めるとともに、組成物の保存安定性を一層高める観点から、アルキルグルコシドとしては、ラウリルグルコシド又はデシルグルコシドを用いることが好ましい。
【0038】
非イオン性界面活性剤としては、例えば花王社製のAG-10LK、AG-124、エマルゲン109P、エマルゲン108、エマルゲン123P、エマルゲン707等の市販品を用いることもできる。
【0039】
本発明の組成物は、非イオン性界面活性剤を、該組成物に対して0.05質量%以上含むことが好ましく、0.1質量%以上含むことがより好ましい。また、非イオン性界面活性剤を、組成物に対して0.5質量%以下含むことが好ましく、0.3質量%以下含むことがより好ましい。非イオン性界面活性剤の含有量がこの範囲にあることで、例えば本発明の組成物に香料等の各種成分を加えた場合においても、該組成物の高い洗浄性を担保しつつ、該組成物全体における洗浄性及び保存安定性をバランスよく優れたものとすることができる。
【0040】
本発明の組成物は、(A)ないし(C)成分を、それらの総量が所定の範囲となるように含有することを特徴の一つとしている。詳細には、本発明の組成物は、(A)ないし(C)成分を、それらの総量で0.2質量%以上含有することが好ましく、0.25質量%以上含有することがより好ましく、0.3質量%以上含有することが更に好ましい。また、本発明の組成物は、(A)ないし(C)成分を、それらの総量で1質量%未満含有することが好ましく、0.7質量%以下含有することがより好ましく、0.5質量%以下含有することが更に好ましい。組成物が、(A)ないし(C)成分の総量を0.2質量%以上含有することで、強固な尿汚れに対する洗浄性を一層高めるとともに、該組成物の保存安定性を一層高めることができる。また、組成物が、(A)ないし(C)成分の総量を1質量%未満含有することで、該組成物全体の安定性を担保しつつ、高い洗浄性を維持することができる。
【0041】
本発明の組成物における、(A)成分の含有量及び(C)成分の含有量の総和:(B)成分の含有量は、好ましくは2:1以上、より好ましくは3:1以上、更に好ましくは4:1以上である。また、(A)成分の含有量及び(C)成分の含有量の総和:(B)成分の含有量は、好ましくは10:1以下、より好ましくは9:1以下、更に好ましくは8:1以下である。(A)成分の含有量及び(C)成分の含有量の総和:(B)成分の含有量がこの範囲にあることで、強固な尿汚れに対する洗浄性を一層高めるとともに、組成物の保存安定性を一層高めることができる。
【0042】
本発明の組成物は、25℃におけるpHが好ましくは3.5以上、より好ましくは3.7以上、更に好ましくは3.9以上である。また、25℃におけるpHが好ましくは6以下、より好ましくは5.5以下、更に好ましくは5.0以下である。組成物のpHがこの範囲にあることで、該組成物を使用したときの肌への刺激を一層低減することができる。更に、微生物の繁殖を抑制することができるので、組成物の保存安定性を一層高くすることができる。これらに加えて、組成物が後述する安息香酸類を含有する場合、該組成物のpHが上述の範囲にあることで、該安息香酸類による微生物の繁殖抑制能がより有効に機能する。その結果、一般細菌(例えばグラム陽性菌:黄色ブドウ球菌、グラム陰性菌:大腸菌)に対する除菌効果を一層高めることができる。
組成物のpHをこの範囲内にするためには、本発明の効果を損なわない範囲で、該組成物に例えばpH調整剤を添加したり、防腐剤又は界面活性剤を添加したりすることによって調整できる。
【0043】
本発明の組成物のpHは、例えばMETTLER TOLEDO社製のSevenCompact S220を用いて測定される。組成物が基材シートに含浸されてウエットシートとして用いられている場合は、例えば該基材シートを人手、抽出部材又は機械等の設備で絞ったり、押圧したりするなどの方法で該組成物を抽出し、同様に測定される。
【0044】
本発明の組成物は、25℃における粘度が好ましくは0.1mPa・s以上50mPa・s以下であり、より好ましくは1mPa・s以上20mPa・s以下であり、更に好ましくは2mPa・s以上10mPa・s以下である。組成物の粘度がこの範囲にあることで、該組成物を清掃又は清拭に用いた場合に、該組成物が強固な尿汚れの全体に行き渡りやすくなり、その結果尿汚れを従来よりも効果的に除去することができる。特に組成物が基材シートに含浸されてウエットシートとして用いられている場合、清掃又は清拭時に過度に強い力をかけなくても、尿汚れを従来よりも効果的に除去することができる。
組成物の粘度をこの範囲内にするためには、本発明の効果を損なわない範囲で、該組成物に例えば粘度調整剤を添加したり、溶剤又は界面活性剤を添加したりすることによって調整できる。
【0045】
本発明の組成物の粘度は、例えば以下の方法で測定される。詳細には、25℃の組成物100mLをビーカーに入れ、低粘度用スピンドル(スピンドルNo.M1)を取り付けた東機産業株式会社製のVISCOMETER TVB-10にて、該スピンドルを該組成物に浸漬させた状態で、60rpm、1分間の条件で測定した値とすることができる。組成物が基材シートに含浸されてウエットシートとして用いられている場合は、例えば該基材シートを人手、抽出部材又は機械等の設備で絞ったり、押圧したりするなどの方法で該組成物を抽出し、同様に測定される。
【0046】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した(A)ないし(C)を全て含有することに加え、各種成分を含有してもよい。各種成分としては、例えば上述した(A)ないし(C)成分以外の界面活性剤、有機酸類、殺菌剤、防腐剤、芳香剤、香料、消臭剤、pH調整剤、金属封鎖剤、粘度調整剤、溶剤等が挙げられる。これらは一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの各種成分は、組成物に要求される性質に基づき必要に応じて含有させることができ、含有させる場合の量としては、該組成物中にそれぞれ好ましくは0.001質量%以上20質量%以下の量とすることができる。
【0047】
有機酸類としては、例えば無置換の安息香酸(Ph-COOH)若しくはその塩、又はこれらの組み合わせ等の安息香酸類が挙げられる。安息香酸類における安息香酸塩としては、例えば水溶性塩が挙げられ、具体的にはナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等から選択される一種以上の金属塩である。
安息香酸類は、微生物の繁殖を抑制可能なpH範囲に維持することができるので、本発明の組成物が安息香酸類を含有する場合、該組成物の保存安定性を一層高めることができる。更に、安息香酸類はタンパク質や金属イオン等に起因する環境負荷の影響を受けにくく、効果的に細菌(すなわちグラム陰性菌又はグラム陽性菌)へと作用できるので、高い除菌性を発揮することができる。組成物の保存安定性と除菌性とを一層高める観点から、本発明の組成物は、安息香酸類を、該組成物に対して0.05質量%以上1.0質量%以下含有することが好ましく、0.15質量%以上0.5質量%以下含有することがより好ましい。
【0048】
本発明の組成物は、上述した(A)ないし(C)成分が水に溶解してなるものである。水は、組成物に対して50質量%以上90質量%以下含有されることが好ましく、60質量%以上85質量%以下含有されることがより好ましく、70質量%以上80質量%以下含有されることが一層好ましい。
【0049】
本発明の組成物は、洗浄剤としてそのまま清掃又は清拭に用いたり、あるいは基材シートに該組成物を含浸させてウエットシートとして清掃又は清拭に用いたりすることができる。また、本発明の組成物は、強固な尿汚れに対する洗浄性及び保存安定性が高いことから、この性質を利用して様々な用途の洗浄剤に用いることができる。特に、本発明の組成物は、トイレ用洗浄剤として好適に用いることができる。
【0050】
次に、本発明の組成物を含むウエットシートについて説明する。
図1には、本発明のウエットシートの一実施形態であるウエットシート1が示されている。ウエットシート1は、基材シート2と、該基材シート2に含浸された本発明の組成物とを含む。ウエットシート1は、基材シート2に組成物が含浸されていることで、常温常圧において湿潤状態にあるウエットタイプのシートである。したがってウエットシート1は、別途に洗浄剤を併用することなく、そのままの状態で手軽に清掃又は清拭に供することができる。
【0051】
柔らかさと十分な湿潤強度とのバランスの点から、基材シートに対して、本発明の組成物が100質量%以上含浸されていることが好ましく、150質量%以上含浸されていることがより好ましく、200質量%以上含浸されていることが一層好ましい。また、基材シートに対して、本発明の組成物が500質量%以下含浸されていることが好ましく、400質量%以下含浸されていることがより好ましく、300質量%以下含浸されていることが一層好ましい。
【0052】
本発明のウエットシートにおいて、基材シートの数は特に制限されず、1枚でもよく、2枚以上の複数でもよい。本実施形態のウエットシート1は、図1に示すように、基材シート2を2枚備え、その複数(2枚)の基材シート2が厚み方向に積層されてなる積層構造20を有している。積層構造20を構成する複数の基材シート2どうしは、互いに種類が同一でもよく、異なっていてもよい。ここでいう基材シート2の「種類」とは、材質、坪量、厚みなど、基材シート2を特定するための材料や物性値の少なくとも1つを意味する。
【0053】
ウエットシート1は、図1に示すように、シート状の形態をなし、第1の面1aとその反対側に位置する第2の面1bとを有している。両面1a,1bの何れも、ウエットシート1の使用時に被清掃物と接触する面、すなわち被清掃物に付着した汚れ等を拭き取る面であり、それぞれ、ウエットシート1を構成する基材シート2の片面からなる。本実施形態のウエットシート1は、複数(2枚)の基材シート2の積層構造20を有することから、第1の面1aは、積層構造20の厚み方向の一端側に位置する基材シート2の片面からなり、第2の面1bは、積層構造20の厚み方向の他端側に位置する別の基材シート2の片面からなる。なお、本発明のウエットシートには、基材シート2を1枚だけ含む形態が包含されるところ、かかる形態においては、その1枚の基材シート2の一方の面が第1の面1aであり、他方の面が第2の面1bである。
【0054】
本実施形態のウエットシート1は、図1に示すように、使用時に被清掃物と接触する面1a,1bに凹凸が形成されている。より具体的には、ウエットシート1の第1の面1aには、基材シート2(積層構造20)が第2の面1b側から第1の面1a側に突出してなる凸部3が、一方向(典型的には基材シート2の長手方向)及び該一方向に直交する方向(典型的には基材シート2の幅方向)の両方向に列をなすように一定の間隔で複数間欠配置されているとともに、隣り合う2個の該凸部3,3間に凹部4が形成されている。また、ウエットシート1の第2の面1bには、基材シート2(積層構造20)が第1の面1a側から第2の面1b側に突出してなる凸部3が、一方向(典型的には基材シート2の長手方向)及び該一方向に直交する方向(典型的には基材シート2の幅方向)の両方向に列をなすように一定の間隔で複数間欠配置されているとともに、隣り合う2個の該凸部3,3間に凹部4が形成されている。つまり、本実施形態のウエットシート1では、第1の面1a及び第2の面1bの双方において、凸部3と凹部4とが一方向又はこれに直交する方向の双方において交互に配置され、全体として千鳥格子状のパターンをなしている。本実施形態のウエットシート1は、このように両面1a,1bが凹凸を有していることで、その全体が嵩高な三次元形状となっている。凸部3及び凹部4は、それぞれ、略半球の形状をしている。このような形状を有する基材シートの詳細は、例えば特開2021-065488号公報に記載されている。
【0055】
基材シート2の坪量(基材シート1枚当たりの坪量)は特に制限されないが、柔らかさと十分な湿潤強度とのバランスの点から、好ましくは20g/m以上、より好ましくは40g/m以上であり、また、好ましくは120g/m以下、より好ましくは60g/m以下である。
【0056】
基材シートに含有される繊維は、親水性であることが好ましく、セルロース繊維が典型的な例として挙げられる。セルロース繊維としては、例えば、針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)、針葉樹晒しサルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)等の漂白された木材パルプ、コットン、麻等の天然セルロース繊維;レーヨン、リヨセル、キュプラ等の再生セルロース繊維等が挙げられ、これらの一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
基材シートとしては、例えば、紙、不織布等を用いることができる。紙としては、例えば、湿式抄紙した紙が挙げられる。不織布としては、例えば、ケミカルボンド不織布、サーマルボンド不織布、エアレイド不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、ニードルパンチ不織布、ステッチボンド不織布等が挙げられる。
【0058】
基材シート(例えば図1に示す基材シート2)は、実質的に水分散可能なものであることが好ましい。ここでいう、「実質的に水分散可能」とは、繊維シートを大量の水中に投入すると、形状が崩れて構成繊維が水中に分散し得ることを指し、すなわち水解性を有することを指す。水解性を有する基材シートは、例えば、水洗トイレに流すなど、大量の水中に投入すると速やかに繊維レベルでばらばらに崩壊し、水洗トイレを詰まらせることなく流すことができる。しかし、汚れを拭き取るときには、本発明の組成物が含浸された状態でその作業に耐え得る十分な湿潤強度が必要である。このような観点から、基材シートには、繊維に加えて更に水溶性バインダが含有されていることが好ましい。また、本実施形態のウエットシート1は、図1に示すとおり、使用時に被清掃物と接触する面1a,1bに凹凸が形成されていて、全体として嵩高な凹凸形状をなしているところ、水溶性バインダは、かかる嵩高な凹凸形状の維持にも寄与し得る。
【0059】
水溶性バインダとしては、基材シートに本発明の組成物が含浸されて湿潤状態にあるときに、該バインダが一時的に不溶化することで、基材シートの構成繊維どうしの結合を維持する結合剤として機能し、ウエットシートの使用時の強度維持の役割を果たすものが好ましく、このような機能を有する水溶性バインダとして、天然多糖類、多糖誘導体、合成高分子を例示できる。なお、前記の「水溶性バインダの一時的な不溶化」は、典型的には、基材シートに含浸される本発明の組成物中のバインダ不溶化成分の作用によって起こり、本発明では該バインダ不溶化成分として、後述する有機溶剤及び2価以上の金属イオン化合物を使用することができる。
【0060】
天然多糖類としては、例えばアルギン酸ナトリウム、トラントガム、グアーガム、キサンタンガム、アラビアゴム、カラギーナン、ガラクトマンナン、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、プルプラン等が挙げられる。
多糖誘導体としては、例えばカルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチル化デンブン又はその塩、デンプン、メチルセルロース、エチルセルロース等が挙げられる。
合成高分子としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール誘導体、不飽和カルボン酸の重合体又は共重合体の塩、不飽和カルボン酸と該不飽和カルボン酸と共重合可能な単量体との共重合体の塩等が挙げられる。また、不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸等が挙げられる。
【0061】
基材シートにおける水溶性バインダの含有量は、該バインダの含有量を必要最低限に抑えつつ、基材シートの湿潤強度と水解性とのバランスをとる観点から、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、また、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。なお、ここでいう、「繊維シートにおける水溶性バインダの含有量」は、1枚の基材シートにおける水溶性バインダの含有量を意味し、本実施形態のウエットシート1のように、ウエットシート中に基材シートが複数含まれている場合、その複数の基材シートそれぞれにおける水溶性バインダの含有量が前記範囲にあることが好ましい。
【0062】
基材シートは種々の方法で製造することができる。例えば、セルロース繊維などの繊維を含む分散液中に、水溶性バインダと、必要に応じ該バインダのパルプ繊維への定着剤とを添加して抄紙原料を得、該抄紙原料を用いて公知の湿式抄紙法を実施することにより、基材シートを製造することができる。この製造方法は、水溶性バインダを内添する方法である。また例えば、繊維を含む分散液から公知の湿式抄紙法により湿潤状態のシートを製造し、該シートにプレス脱水処理及び/又は熱風吹き付け等の加熱処理を施して乾燥ないし半乾燥状態とした後、該シートの片面に水溶性バインダを噴霧又は塗布する等して付与し、更に乾燥することで、基材シートを製造することができる。この製造方法は、水溶性バインダを外添する方法である。
【0063】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0064】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0065】
〔実施例1ないし8、並びに比較例1ないし7〕
(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル、(B)両性界面活性剤、(C)非イオン性界面活性剤及び各種成分を、以下の表1に示す配合比で配合し、組成物を調製した。表1に示すそれぞれの成分の詳細は、以下に示すとおりである。
【0066】
・(A)ポリグリセリン脂肪酸エステル:ラウリン酸ポリグリセリル-10(太陽化学社製、サンソフトM-12JW、アシル基の炭素数12、ポリグリセリンの重合度10)
【0067】
・(B)両性界面活性剤:ラウリルヒドロキシスルホベタイン(花王社製、アンヒトール20HD)
・(B)両性界面活性剤:ラウリルジメチルアミンオキサイド(花王社製、アンヒトール20N)
【0068】
・(C)非イオン性界面活性剤:デシルグルコシド(花王社製、AG-10LK、アルキル基の炭素数9~11)
・(C)非イオン性界面活性剤:ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王社製、エマルゲン109P、アルキル基の炭素数12)
【0069】
〔評価〕
上述の方法に従い、実施例及び比較例で得られた組成物の25℃におけるpH及び粘度を測定した。
また、以下の方法に従い、実施例及び比較例で得られた組成物の洗浄性及び保存安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0070】
〔洗浄性〕
組成物の洗浄性についての評価は、以下のように行った。まず、ポリプロピレン基板(縦5cm×横10cm)上の1か所に、スポイトを用いてモデル尿を1滴(約0.01g)滴下して評価サンプルを作製した。モデル尿としては、尿素と電解質イオンとを含む人工尿を用いた。同様の方法で評価サンプルを3枚作製し、これら評価サンプルを100℃で60分間加熱乾燥させた。次いで、実施例及び比較例で得られた組成物100mLをビーカーに入れ、該組成物中に、乾燥させた評価サンプルの全体を一枚ずつ浸漬させ、10秒後に引き上げた。残りの2枚についても同様に行った。ポリプロピレン基板上のモデル尿の落ち方を、2名の専門パネラーが目視によって観察し、以下の評価基準に従い、組成物の洗浄性を評価した。2名の専門パネラーが協議の上、評価値を決定した。
【0071】
〔評価基準〕
5:いずれの評価サンプルからもモデル尿が完全に除去されたか、又はわずかに残る程度だった。
4:一以上の評価サンプルにおいて、モデル尿の一部が除去された。
3:一以上の評価サンプルにおいて、モデル尿が滲んで溶けだした。
2:一以上の評価サンプルにおいて、モデル尿が滲んだ。
1:いずれの評価サンプルにおいても、モデル尿に変化が確認されなかった。
【0072】
〔保存安定性〕
組成物の保存安定性についての評価は、以下のように行った。まず、実施例及び比較例で得られた組成物を密閉容器に50mL入れて密閉し、-5℃、5℃、20℃、40℃及び50℃の恒温環境下にそれぞれ一か月静置した。各温度条件における組成物中の沈殿物の有無を、2名の専門パネラーが目視によって観察し、以下の評価基準に従い、該組成物の保存安定性を評価した。2名の専門パネラーが協議の上、評価ランクを決定した。
【0073】
〔評価基準〕
A:いずれの温度条件においても組成物は透明のままか、又は微白濁であった。
B:一以上の温度条件において組成物が白濁した。
C:一以上の温度条件において組成物中に析出物が確認された。
【0074】
次に、以下の方法に従い製造した基材シートから、245mm×300mmの平面視四角形形状(質量約5.7g)を切り取ってシート片を得た。シート片に対して実施例及び比較例で得られた組成物が235質量%含浸されるように、該組成物をスポイトで滴下した後、該シート片を室温(雰囲気温度25℃)で4時間以上静置することで、ウエットシートを製造した。
また、以下の方法に従い、除菌性及び仕上り性を評価した。結果を表1に示す。
【0075】
〔基材シートの製造方法〕
基材シートの構成繊維として、セルロース繊維である針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)のみを用いた。NBKPの水分散液を常法に従って湿式抄紙して湿紙を得た。この湿紙をスルーエアードライヤーで含水率が4質量%になるまで乾燥させて紙を得、該紙の片面に、カルボキシル基を有する水溶性バインダ(CMCのナトリウム塩、エーテル化度0.9、日本製紙株式会社製)の水溶液(水溶性バインダの濃度5質量%、液温60℃での粘度1000mPa・s)をスプレーノズルにて噴霧した。かかる水溶液の噴霧量は、基材シートにおけるCMCのナトリウム塩の含有量が、該基材シートの乾燥質量に対して5質量%となるように調整した。こうして水溶性バインダが添加された紙を、ヤンキードライヤーで乾燥させた後、該紙にドクターブレードによってクレープ加工を施し、坪量40g/mの基材シートを得た。こうして製造された同寸法の2枚の基材シートを、水溶性バインダの水溶液の噴霧面を内側にして重ね合わせ、その状態で、水塗布しながらエンボス加工を施して、図1に示すとおり、使用時に被清掃物と接触する両面に凹凸を有する2層構造の基材シートを得た。なお、エンボス加工では、周面に互いに噛み合う凹凸を有する一対の加熱したエンボスロールを用い、両ロールの凹凸の噛み合い深さは1mm程度であった。
【0076】
〔除菌性〕
組成物における除菌性を、洗剤・石けん公正取引協議会が定める「洗濯用合成洗剤及び石けんの除菌活性試験方法(平成19年7月31日改正)」に準じて評価した。評価結果には、試験に用いる細菌(黄色ブドウ球菌及び大腸菌)のうち除菌性が低い菌種の除菌活性値を、代表として用いた。
【0077】
〔評価基準〕
A:3以上。
B:2以上3未満。
C:2未満。
【0078】
〔仕上り性〕
得られたウエットシートを用いて清掃したときに、被清掃物における仕上り性を以下の評価基準に従い評価した。
【0079】
〔評価基準〕
A:被清掃物の外観が良好であり、仕上り性が良好である。
B:被清掃物に泡が残り、通常の仕上り性である。
C:被清掃物に拭き筋が残り、仕上り性が劣る。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた組成物は、各比較例で得られた組成物よりも、洗浄性、保存安定性及び除菌性が向上したことが分かる。また、各実施例で得られた組成物を基材シートに含浸させて得られたウエットシートは、各比較例で得られた組成物を基材シートに含浸させて得られたウエットシートよりも、仕上り性が向上したことが分かる。
【符号の説明】
【0082】
1 ウエットシート
1a 第1の面
1b 第2の面
2 基材シート
20 積層構造
3 凸部
4 凹部
図1