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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094485
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】油脂組成物とそれを用いた飲食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20240703BHJP
   A21D 2/14 20060101ALN20240703BHJP
【FI】
A23D9/00
A23D9/00 502
A21D2/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211046
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 将来
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG02
4B026DG03
4B026DG04
4B026DH01
4B026DH02
4B026DH03
4B026DP01
4B032DB01
4B032DK18
4B032DL20
(57)【要約】
【課題】飽和脂肪酸量が少ないにもかかわらず、保形性が良好な油脂組成物とそれを用いた飲食品を提供する。
【解決手段】本発明の油脂組成物は、飽和脂肪酸含有量が全構成脂肪酸を基準として24質量%以下であり、3飽和トリグリセリド及び2飽和トリグリセリドに対する1飽和トリグリセリドの質量比が1.50以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和脂肪酸の含有量が全構成脂肪酸を基準として24質量%以下であり、
3飽和トリグリセリド及び2飽和トリグリセリドに対する1飽和トリグリセリドの質量比が1.50以下である、油脂組成物。
【請求項2】
3飽和トリグリセリドに対する2飽和トリグリセリドの質量比が0.9以下である、請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
ラウリン酸の含有量が全構成脂肪酸を基準として1.50質量%以下である、請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項4】
ベヘン酸に対するパルミチン酸及びステアリン酸の質量比が3.0以上70以下である、請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の油脂組成物を含有する、飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂組成物とそれを用いた飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トランス脂肪酸を含む油脂組成物の摂取による健康被害が懸念されている。トランス脂肪酸残基を含む油脂の過剰摂取は、心筋梗塞などの冠動脈心疾患の危険因子となることから、多くの国がトランス脂肪酸の表示規制とトランス脂肪酸残基を多く含む部分水素添加油脂の使用規制を設けている。また、日本においても消費者の関心は高まっており、トランス脂肪酸の低減が望まれている。
【0003】
一方、飽和脂肪酸を多く含む油脂の摂取量が過剰である場合においても、高脂血症や肥満につながる脂肪の体内蓄積を引き起こすリスクが指摘されている。それゆえ、消費者の安全、安心、嗜好性のニーズに対しては十分に応えられておらず、飽和脂肪酸の低減も強く望まれている。
【0004】
しかしながら、単に飽和脂肪酸を低減するだけでは、油脂が柔らかくなりすぎてしまい、染み出し等の問題が生じやすくなる。また、油脂組成物を飲食品に添加して使用する際には、飲食品の用途、目的に適した特性を損なう懸念もある。そのため、飽和脂肪酸量が少ないにもかかわらず良好な物性を有する油脂組成物が望まれていた。
【0005】
例えば、特許文献1には、パーム極度硬化油とハイエルシン菜種極度硬化油を含有し、パーム極度硬化油とハイエルシン菜種極度硬化油の質量比が、1:4~4:1である液状油固化用油脂組成物が提案されている。この油脂組成物は、液状油と混合すると均一な状態で固化した流動状ショートニングが得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-164433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のショートニングにおいては、トリグリセリドに結合する3つの脂肪酸のうち2つ以上が飽和脂肪酸である、2飽和トリグリセリドや3飽和トリグリセリドが少なく、流動状であり液状油の固化が不十分であるという問題点があった。また飽和脂肪酸量を低減しても保形性に優れたトリグリセリド組成を教示していない。
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、飽和脂肪酸量が少ないにもかかわらず、保形性が良好な油脂組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために本発明者は鋭意検討した結果、飽和脂肪酸量を低減しても保形性を得るために、トリグリセリドの構成脂肪酸である飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に着目した。液状成分である3不飽和トリグリセリドの次に不飽和脂肪酸の数が多く、1つの飽和脂肪酸と2つの不飽和脂肪酸を持つ1飽和トリグリセリドについて、3飽和トリグリセリド及び2飽和トリグリセリドに対する質量比を特定値以下とすることで、飽和脂肪酸の含有量を極力少なくしても、油脂中の固体成分が液状成分と良好に相溶して保持し、常温で固体状であり、しかも柔らかくなりすぎず変形しにくい、保形性に優れた油脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の油脂組成物は、飽和脂肪酸の含有量が全構成脂肪酸を基準として24質量%以下であり、3飽和トリグリセリド及び2飽和トリグリセリドに対する1飽和トリグリセリドの質量比が1.50以下であることを特徴としている。
本発明の飲食品は、前記油脂組成物を含有している。
【発明の効果】
【0009】
本発明の油脂組成物は、飽和脂肪酸量が少ないにもかかわらず、保形性が良好である。
また、本発明の飲食品は、保形性が良好な油脂組成物を用いることで、様々な硬さに調整でき、ベーカリー生地へ練り込む際には柔らかくなりすぎず練り込みが容易で、パン生地へ練り込む際にはグルテンネットワークが微細化されてボリュームや食感の良好なパンが得られるなど、飲食品の用途、目的に適した特性を付与する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
本発明の油脂組成物において、飽和脂肪酸は、油脂中に含まれる全ての飽和脂肪酸である。飽和脂肪酸としては、特に限定されないが、例えば、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、リグノセリン酸(24)等が挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数である。
不飽和脂肪酸は、油脂中に含まれる全ての不飽和脂肪酸である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つ又は3つの不飽和脂肪酸は、同一の不飽和脂肪酸であってもよいし、異なる不飽和脂肪酸であってもよい。不飽和脂肪酸としては、特に限定されないが、例えば、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、ヒラゴン酸(16:3)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エイコセン酸(20:1)、エルカ酸(22:1)、セラコレイン酸(24:1)等が挙げられる。なお、上記不飽和脂肪酸についての括弧内の数値表記は、左側が脂肪酸の炭素数であり、右側が二重結合数を意味する。
【0012】
油脂中のトリグリセリドは、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸が1位、2位、3位でエステル結合した構造を有する。本発明の油脂組成物は、3飽和トリグリセリド、2飽和トリグリセリド、1飽和トリグリセリド、3不飽和トリグリセリドを含む。
3飽和トリグリセリドは、1位、2位、及び3位の全てに飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドである。
2飽和トリグリセリドは、1位、2位、及び3位に2つの飽和脂肪酸と1つの不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドである。2飽和トリグリセリドは、1位と2位又は2位と3位に飽和脂肪酸が結合し、3位又は1位に不飽和脂肪酸が結合した非対称型トリグリセリドであってもよく、1位と3位に飽和脂肪酸が結合し、2位に不飽和脂肪酸が結合した対称型トリグリセリドであってもよい。
1飽和トリグリセリドは、1位、2位、及び3位に1つの飽和脂肪酸と2つの不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドである。1飽和トリグリセリドは、1位と2位又は2位と3位に不飽和脂肪酸が結合し、3位又は1位に飽和脂肪酸が結合した非対称型トリグリセリドであってもよく、1位と3位に不飽和脂肪酸が結合し、2位に飽和脂肪酸が結合した対称型トリグリセリドであってもよい。
3不飽和トリグリセリドは、1位、2位、及び3位の全てに不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドである。
【0013】
本発明の油脂組成物は、飽和脂肪酸の含有量が全構成脂肪酸を基準として24質量%以下である。飽和脂肪酸の含有量が24質量%以下であっても、以下に記述するトリグリセリド組成等を満たすことによって、保形性が良好となる。本発明の油脂組成物における飽和脂肪酸の含有量の下限値としては、油脂組成物の保形性がより良好になる観点から、全構成脂肪酸を基準として12質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、18質量%以上がさらに好ましく、21質量%以上が特に好ましい。
【0014】
本発明の油脂組成物は、3飽和トリグリセリド及び2飽和トリグリセリドに対する1飽和トリグリセリドの質量比(1飽和トリグリセリド/(3飽和トリグリセリド+2飽和トリグリセリド))が1.50以下である。当該質量比が1.50以下であると、飽和脂肪酸量が少ないにもかかわらず、保形性が良好である。当該質量比の上限値としては、油脂組成物の保形性がより良好になる観点から、1.40以下が好ましく、1.30以下がより好ましく、1.20以下がさらに好ましく、1.10以下が特に好ましい。当該質量比の下限値としては、油脂組成物が硬くなりすぎない観点から、0.40以上がより好ましく、0.50以上がさらに好ましく、0.60以上が特に好ましく、0.70以上が殊更好ましく、0.80以上が最も好ましい。
【0015】
本発明の油脂組成物における、3飽和トリグリセリドに対する2飽和トリグリセリドの質量比の上限値としては、油脂組成物の保形性がより良好になる観点から、1.2以下が好ましく、0.9以下がより好ましく、0.8以下がさらに好ましく、0.7以下が特に好ましく、0.6以下が殊更好ましい。当該質量比の下限値としては、製造工程上で極端な急冷混捏を経た場合でも均一な油脂組成物が得られる観点から、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.3以上がさらに好ましい。3飽和トリグリセリドに対する2飽和トリグリセリドの質量比が上記範囲内にあることで、熟成工程を経ずとも、均一で保形性が良好な油脂組成物を得ることができる。
【0016】
本発明の油脂組成物における、ラウリン酸の含有量の上限値としては、油脂組成物の保形性がより良好になる観点から、全構成脂肪酸を基準として3.00質量%以下が好ましく、2.20質量%以下がより好ましく、1.50質量%以下がさらに好ましく、1.30質量%以下が特に好ましく、1.00質量%以下が殊更好ましく、0.90質量%以下が最も好ましい。
【0017】
飽和脂肪酸量を低減しても保形性を得るために、トリグリセリドの構成脂肪酸である飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に着目すると、液状成分である3不飽和トリグリセリドの次に不飽和脂肪酸の数が多く、1つの飽和脂肪酸と2つの不飽和脂肪酸を持つ1飽和トリグリセリドについて、3飽和トリグリセリド及び2飽和トリグリセリドに対する質量比を1.50以下とすることで保形性に向上効果が見られ、さらに(A)構成脂肪酸の全てが飽和脂肪酸であり融点の高いトリグリセリドである3飽和トリグリセリドに対して、2つの飽和脂肪酸と共に1つの不飽和脂肪酸を持つ2飽和トリグリセリドの質量比を上記のような範囲とするか、又は(B)トリグリセリドの主要な構成脂肪酸の中でも炭素数が特に小さく融点の低いラウリン酸の含有量を上記のような範囲とすることによって、飽和脂肪酸の含有量を極力少なくしても、油脂中の固体成分が液状成分と良好に相溶して保持し、常温で固体状であり、しかも柔らかくなりすぎず変形しにくい、保形性に優れた油脂組成物が得られる。
上記の観点から、本発明の油脂組成物は、上記3飽和トリグリセリド及び2飽和トリグリセリドに対する1飽和トリグリセリドの質量比に加えて、さらに以下の(A)又は(B)のいずれかの条件を満たすことが特に好ましい。
(A)3飽和トリグリセリドに対する2飽和トリグリセリドの質量比が0.9以下
(B)ラウリン酸の含有量が全構成脂肪酸を基準として1.50質量%以下
【0018】
本発明の油脂組成物における、3飽和トリグリセリド及び2飽和トリグリセリドに対する3不飽和トリグリセリドの質量比(3不飽和トリグリセリド/(3飽和トリグリセリド+2飽和トリグリセリド))の上限値としては、油脂組成物の保形性がより良好になる観点から、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましく、4以下が特に好ましい。当該質量比の下限値としては、油脂組成物が硬くなりすぎない観点から、0.50以上がより好ましく、1.0以上がさらに好ましく、1.5以上が特に好ましく、2.0以上が殊更好ましく、2.5以上が最も好ましい。
【0019】
本発明の油脂組成物における、3飽和トリグリセリドの含有量の下限値としては、油脂組成物の保形性がより良好になる観点から、トリグリセリド全体の質量を基準として2質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましく、6質量%以上がさらに好ましく、8質量%以上が特に好ましく、10質量%以上が殊更好ましい。3飽和トリグリセリドの含有量の上限値としては、油脂組成物が硬くなりすぎない観点から、トリグリセリド全体の質量を基準として30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0020】
本発明の油脂組成物における、2飽和トリグリセリドの含有量の下限値としては、油脂組成物の保形性がより良好になる観点から、トリグリセリド全体の質量を基準として1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。2飽和トリグリセリドの含有量の上限値としては、油脂組成物が硬くなりすぎない観点から、トリグリセリド全体の質量を基準として20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0021】
本発明の油脂組成物における、1飽和トリグリセリドの含有量の上限値としては、油脂組成物の保形性がより良好になる観点から、トリグリセリド全体の質量を基準として40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、25質量%以下が特に好ましく、20質量%以下が殊更好ましい。
【0022】
本発明の油脂組成物における、3不飽和トリグリセリドの含有量の下限値としては、飽和脂肪酸量を低減する観点から、トリグリセリド全体の質量を基準として30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、60質量%以上が特に好ましい。3不飽和トリグリセリドの含有量の上限値としては、油脂組成物の保形性がより良好になる観点から、トリグリセリド全体の質量を基準として90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。
【0023】
本発明の油脂組成物における、ベヘン酸に対するパルミチン酸及びステアリン酸の質量比((パルミチン酸+ステアリン酸)/ベヘン酸)の上限値としては、油脂組成物の保形性がより良好になる観点から、90以下が好ましく、80以下がより好ましく、70以下がさらに好ましく、60以下が特に好ましく、50以下が殊更好ましく、45以下が最も好ましい。当該質量比の下限値としては、油脂組成物の保形性がより良好になる観点から、0超が好ましく、1.0以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましく、2.5以上が特に好ましく、3.0以上が殊更好ましい。
【0024】
本発明の油脂組成物における、パルミチン酸の含有量の下限値としては、油脂組成物の保形性がより良好になる観点から、全構成脂肪酸を基準として2.0質量%以上が好ましく、4.0質量%以上がより好ましく、6.0質量%以上がさらに好ましく、8.0質量%以上が特に好ましい。パルミチン酸の含有量の上限値としては、油脂組成物が硬くなりすぎない観点から、全構成脂肪酸を基準として20質量%以下が好ましく、18質量%以下がより好ましく、16質量%以下がさらに好ましく、14質量%以下が特に好ましい。
【0025】
本発明の油脂組成物における、ステアリン酸の含有量の下限値としては、油脂組成物の保形性がより良好になる観点から、全構成脂肪酸を基準として2.0質量%以上が好ましく、3.0質量%以上がより好ましく、4.0質量%以上がさらに好ましく、5.0質量%以上が特に好ましい。ステアリン酸の含有量の上限値としては、油脂組成物が硬くなりすぎない観点から、全構成脂肪酸を基準として16質量%以下が好ましく、14質量%以下がより好ましく、12質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
【0026】
本発明の油脂組成物における、ベヘン酸の含有量の下限値としては、油脂組成物の保形性がより良好になる観点から、全構成脂肪酸を基準として0.25質量%以上が好ましく、0.50質量%以上がより好ましく、0.75質量%以上がさらに好ましく、1.0質量%以上が特に好ましい。ベヘン酸の含有量の上限値としては、油脂組成物が硬くなりすぎない観点から、全構成脂肪酸を基準として10質量%以下が好ましく、8.0質量%以下がより好ましく、6.0質量%以下がさらに好ましい。
【0027】
本発明の油脂組成物に配合する油脂としては、通常、食用油脂が用いられる。このような油脂としては、植物性油脂、動物性油脂、合成油脂、加工油脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせた調合油として用いてもよい。
植物性油脂としては、菜種油、ヤシ油、パーム油、ヒマワリ油、大豆油、コーン油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、高オレイン酸ヒマワリ油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米ぬか油、小麦胚芽油、カカオ脂、パーム核油及び藻類油等が挙げられる。
動物性油脂としては、魚油(マグロ、サバ、イワシ、カツオ、ニシン等に由来する油脂)、豚脂、牛脂、乳脂、羊脂、鶏油等が挙げられる。
合成油脂としては、中鎖脂肪酸油、ジアシルグリセロール等が挙げられる。
加工油脂としては、上記の油脂に対して所望の処理を施した油脂であってもよい。このような処理としては、分別(例えば分別乳脂低融点部、パームスーパーオレイン等の分別油)、硬化、エステル交換反応等が挙げられる。油脂に対しては、1又は2以上の処理を施してもよい。
【0028】
本発明の油脂組成物における、20℃で液状の油脂の含有量の下限値は、飽和脂肪酸量を低減する観点から、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、60質量%以上が特に好ましく、70質量%以上が殊更好ましい。当該含有量の上限値は、油脂組成物の保形性がより良好になる観点から、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。
【0029】
本発明の油脂組成物は、エステル交換油脂を含有することが好ましい。エステル交換油脂を含有することで、熟成工程を経ずとも、各種物性が良好な油脂組成物を得ることができる。本発明の油脂組成物におけるエステル交換油脂の含有量としては、飽和脂肪酸量を低減しつつ各種物性がより良好な油脂組成物を得る観点から、4質量%以上50質量%以下が好ましく、6質量%以上40質量%以下がより好ましく、8質量%以上30質量%以下がさらに好ましく、10質量%以上20質量%以下が特に好ましい。
【0030】
本発明の油脂組成物は、パーム系油脂とラウリン系油脂とのエステル交換油脂を含有することが好ましい。パーム系油脂とラウリン系油脂とのエステル交換油脂を含有することで、熟成工程を経ずとも、各種物性がより良好な油脂組成物を得ることができる。
【0031】
本明細書においてパーム系油脂とは、パーム油及び、パーム油に加工処理を施した油脂、特に分別、硬化、エステル交換反応から選ばれる1又は2以上の処理を施した油脂を指す。
【0032】
本発明の油脂組成物におけるパーム系油脂とラウリン系油脂とのエステル交換油脂の含有量としては、飽和脂肪酸量を低減しつつ各種物性がより良好な油脂組成物を得る観点から、1質量%以上40質量%以下が好ましく、2質量%以上30質量%以下がより好ましく、3質量%以上20質量%以下がさらに好ましく、4質量%以上10質量%以下が特に好ましい。
【0033】
本発明の油脂組成物は、パーム系油脂の分別油のエステル交換油脂を含有することが好ましい。パーム系油脂の分別油のエステル交換油脂を含有することで、飽和脂肪酸量を低減しつつ各種物性がより良好な油脂組成物を得ることができる。エステル交換油脂の原料として用いられるパーム系油脂の分別油としては、パームスーパーオレイン、パーム分別軟質油、パーム分別中融点油、パーム分別硬質油、パーム核スーパーオレイン、パーム核分別軟質油、パーム核分別中融点油、パーム核分別硬質油等が挙げられる。これらの中でも、パーム分別軟質油が特に好ましい。
【0034】
本発明の油脂組成物におけるパーム系油脂の分別油のエステル交換油脂の含有量としては、飽和脂肪酸量を低減しつつ各種物性がより良好な油脂組成物を得る観点から、1質量%以上30質量%以下が好ましく、3質量%以上20質量%以下がより好ましく、5質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。
【0035】
本発明の油脂組成物は、極度硬化油を含有することが好ましい。極度硬化油を含有することで、油脂組成物に硬さを付与することができる。極度硬化油の原料として用いられる油脂としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ハイエルシン酸菜種油、ローエルシン酸菜種油及びこれらの加工油脂が好ましく、パーム油、ハイエルシン酸菜種油及びこれらの加工油脂が特に好ましい。
【0036】
また、本発明の油脂組成物には、その効果を損なわない範囲において、油脂以外のその他の成分を配合することができる。その他の成分としては、例えば、乳化剤、ワックス、糖質、乳及び乳製品、乳以外由来の蛋白質、フレーバー、着色成分、酸化防止剤等の各種素材が挙げられる。
【0037】
乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリンエステル(ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルなど)、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン(大豆レシチン、卵黄レシチン、ヒマワリレシチンなど)、酵素分解レシチン(大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチンなど)、サポニン、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、加工澱粉(エーテル化処理したカルボキシメチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプンや、エステル化処理したリン酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプンや、湿熱処理デンプン、酸処理デンプン、架橋処理デンプン、α化処理デンプン、難消化性デンプンなど)、スフィンゴ脂質、植物ステロール類、胆汁末、トマト糖脂質等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
ワックスとしては、モクロウ、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス等の植物ワックス、ラノリン、ミツロウ等の動物ワックス等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
糖質としては、単糖(グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなど)、二糖質(ラクトース(乳糖)、スクロース、マルトース、トレハロースなど)等の糖類;フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖(4’-ガラクトシルラクトース)、キシロオリゴ糖、ビートオリゴ糖(ラフィノース)、大豆オリゴ糖(ラフィノース、スタキオース)、乳果オリゴ糖(ラクトスクロース)など)等のオリゴ糖;デキストリン類(デキストリン、マルトデキストリン、イソマルトデキストリン(分岐マルトデキストリン)、水あめ、粉あめ、シクロデキストリン、分岐シクロデキストリン、焙焼デキストリン、高分子デキストリン、難消化性デキストリンなど)、イヌリン類(イヌリン、イヌリン分解物、アガベイヌリンなど)、増粘多糖類(LMペクチン、HMペクチン、プルラン、グアーガム、グアーガム分解物、キサンタンガム、アラビアガム、ガティガム、ネイティブジェランガム、脱アシル化ジェランガム、ローカストビーンガム、タラガム、ガラクトマンナン、グルコマンナン、コンニャクマンナン、カードラン、カラギーナン、カラヤガム、カシアガム、タマリンドシードガム、トラガントガム、フェヌグリークガム、サイリウムシードガム、スクシノグリカン、ラムザンガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、PGA(アルギン酸プロピレングリコールエステル)、大豆多糖類、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、寒天、フコイダン、ポルフィラン、ラミナランなど)、澱粉、レジスタントスターチ、イソマルツロース、ポリデキストロース、難消化性グルカン、アラビノガラクタン等の多糖類;エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、還元イソマルツロース、マンニトール等の糖アルコール等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
乳としては、牛乳等が挙げられる。乳製品としては、脱脂乳、生クリーム、チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズなど)、発酵乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖脱脂れん乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、ミルクプロテインコンセントレート、クリームパウダー、トータルミルクプロテイン、酸カゼイン、レンネットカゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、ホエイ蛋白、それらの酵素分解物である乳ペプチド、ホエイパウダー、バターミルクパウダー等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
乳以外由来の蛋白質としては、豆由来蛋白質(大豆蛋白質、大豆分離蛋白質、エンドウ豆蛋白質、そら豆蛋白質、緑豆蛋白質、インゲン豆蛋白質、ヒラ豆(レンズ豆)蛋白質、ヒヨコ豆蛋白質、ルピン豆蛋白質、落花生蛋白質、ササゲ蛋白質)、種子由来蛋白質(ゴマ、キャノーラ、ココナッツ、オリーブ、ひまわり、ピーナッツ、ビート、コットン、アーモンドなどに由来する蛋白質)、穀物類由来蛋白質(トウモロコシ、そば、小麦、エンバク、米などに由来する蛋白質)、コラーゲン、コラーゲンペプチド、ゼラチンなどのその他蛋白質等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
本発明の油脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、上記油脂を加温下で溶解し、溶解した油脂中に必要に応じてその他の成分を添加し、公知の方法で均一に分散させた後急冷可塑化することで製造することができる。本発明の油脂組成物に配合しようとする油脂が可塑性油脂である場合、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター、ネクサス、ポラロン、ロノーター等によってこれらの油脂を急冷可塑化させる方法で本発明の油脂組成物を得ることができる。ただし、本発明において、油脂組成物を熟成する態様は排除されない。
【0043】
本発明の油脂組成物の形態は特に限定されないが、例えば、油相のみを含む組成物、油中水型(W/O)乳化物、油中水中油型(W/O/W)乳化物、水中油型(O/W)乳化物、水中油中水型(O/W/O)乳化物等が挙げられる。
【0044】
本発明の油脂組成物を含有する飲食品としては、例えば、ジュレ、ドレッシング、介護食等のゲル状食品、パン、和洋菓子、ルウ(カレールウ、シチュールウ等)、惣菜用フィリング、チョコレート、バタークリーム等が挙げられる。
【実施例0045】
以下に、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<油脂組成物の製造>
(エステル交換油脂1)
パーム核極度硬化油25質量%、パーム油50質量%、パーム極度硬化油25質量%を混合し、触媒としてナトリウムメチラートを添加し、減圧下で、エステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗、脱水、脱色しエステル交換油脂1を得た。
(エステル交換油脂2)
パーム分別軟質油に触媒としてナトリウムメチラートを添加し、減圧下でエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗、脱水、脱色、脱臭しエステル交換油脂2を得た。
(エステル交換油脂3)
パームステアリン極度硬化油50質量%、パーム核油分別低融点油極度硬化油50質量%を混合し、触媒としてナトリウムメチラートを添加し、減圧下で、エステル交換反応した。エステル交換反応後、水洗、脱水、脱色しエステル交換油脂3を得た。
【0046】
表1A、表1Bに示す油脂配合(質量部)で、各配合成分の油脂を混合及び撹拌し、得られた混合物を70℃に調温した後、コンビネーターによって急冷捏和することで油脂組成物(油相からなる油脂組成物)を製造した。
【0047】
<油脂組成の分析>
上記で得られた各油脂組成物の油脂組成(トリグリセリド組成及び構成脂肪酸組成、質量%と質量比)を表1A、表1Bに示す。表1A、表1Bに記載の油脂組成物について、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」及び「奨2-2013 2位脂肪酸組成」)に基づき分析し、分析結果に基づき各トリグリセリド及び脂肪酸含有量を算出した。
【0048】
<油脂組成物の評価>
上記で得られた各油脂組成物について、下記の基準で、その物性を評価した。その結果を表1A、表1Bに示す。
[保形性]
ビーカーに入れた各油脂組成物を20℃に調温した際の保形性について、以下の基準で評価した。
◎++:固体状で、指で軽く押しても変形しない。
◎+:固体状だが、指で軽く押した時にわずかに変形する。
◎:固体状だが、指で軽く押した時に変形する。
○:固体状だが、指で軽く押した時に指が沈み込む。
△:ビーカーを傾けて衝撃を加えると流れ出す。
×:流動状で、ビーカーを傾けると流れ出す。
【0049】
[製造]
各油脂組成物を製造した際の状態を、以下の基準で評価した。
○:極端な急冷混捏を経た場合でも均一な組成物が得られる。
△:極端な急冷混捏を経た場合に一部が分離固化して組成物が不均一になる。
【0050】
【表1A】
【表1B】