(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094509
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】二次電池電極用樹脂組成物、二次電池電極用合材スラリー、二次電池、二次電池電極用樹脂組成物の製造方法、および二次電池電極用合材スラリーの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20240703BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211094
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平林 穂波
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA15
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA03
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB20
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA24
5H050FA16
5H050HA01
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】高い分散性および流動性を有する二次電池電極用樹脂組成物、カーボンナノチューブの分散性がよい二次電池電極用合材スラリーを提供すること。高出力、高容量、高寿命な非水電解質二次電池およびこれに用いられる電極膜を提供すること。
【解決手段】カーボンナノチューブと、分散剤と、フッ素樹脂と、非水分散媒とを含む二次電池電極用樹脂組成物であって、前記二次電池電極用樹脂組成物の不揮発成分の質量を基準として、前記カーボンナノチューブ、分散剤、およびフッ素樹脂の合計含有率が60質量%以上であり、下記(1)および(2)を満たすことを特徴とする、二次電池電極用樹脂組成物により解決される。
(1)η>132x―750
(2)η<300x―1500
(xは、二次電池電極用樹脂組成物の不揮発成分の濃度(質量%)であり、
ηは、温度25℃、ずり速度383s-1における粘度値(mPa・s)である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと、分散剤と、フッ素樹脂と、非水分散媒とを含む二次電池電極用樹脂組成物であって、
前記二次電池電極用樹脂組成物の不揮発成分の質量を基準として、前記カーボンナノチューブ、分散剤、およびフッ素樹脂の合計含有率が60質量%以上であり、
下記(1)および(2)を満たすことを特徴とする、二次電池電極用樹脂組成物。
(1)η>132x―750
(2)η<300x―1500
(xは、二次電池電極用樹脂組成物の不揮発成分の濃度(質量%)であり、
ηは、温度25℃、ずり速度383s-1における粘度値(mPa・s)である。)
【請求項2】
前記フッ素樹脂の重量平均分子量が、10万以上200万以下であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池電極用樹脂組成物。
【請求項3】
前記フッ素樹脂の含有率が、二次電池電極用樹脂組成物の質量を基準として、3.1質量%以上である、請求項1に記載の二次電池電極用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3いずれか1項に記載の二次電池電極用樹脂組成物と、活物質とを含むことを特徴とする二次電池電極用合材スラリー。
【請求項5】
正極と、負極とを具備してなる非水電解質二次電池であって、正極または負極の少なくとも一方が、請求項4に記載の二次電池電極用合材スラリーから形成した電極膜を有することを特徴とする、非水電解質二次電池。
【請求項6】
カーボンナノチューブと、分散剤と、フッ素樹脂と、非水分散媒とを含む二次電池電極用樹脂組成物の製造方法であって、
カーボンナノチューブ、分散剤、および非水分散媒を含むカーボンナノチューブ分散液を製造する工程と、
前記カーボンナノチューブ分散液にフッ素樹脂を添加し、溶解する工程を備え、
前記添加および溶解の少なくともいずれかの工程の液温が55度以上80度以下であり、
前記二次電池電極用樹脂組成物の不揮発成分の質量を基準として、前記カーボンナノチューブ、分散剤、およびフッ素樹脂の合計含有率が60質量%以上である、
二次電池電極用樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
カーボンナノチューブと、分散剤と、フッ素樹脂と、非水分散媒とを含む二次電池電極用樹脂組成物の製造方法であって、
カーボンナノチューブ、分散剤、および非水分散媒を含むカーボンナノチューブ分散液を製造する工程と、
前記カーボンナノチューブ分散液に、前記カーボンナノチューブ分散液が含有する非水分散媒100質量部に対して、2.0質量部/分以下の速度でフッ素樹脂を添加する工程を備え、
前記二次電池電極用樹脂組成物の不揮発成分の質量を基準として、前記カーボンナノチューブ、分散剤、およびフッ素樹脂の合計含有率が60質量%以上であり、
前記フッ素樹脂の含有率が、二次電池電極用樹脂組成物の質量を基準として、3.1質量%以上である、
二次電池電極用樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項6または7記載の二次電池電極用樹脂組成物に、さらに活物質を添加する工程を備えた、二次電池電極用合材スラリーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池電極用樹脂組成物、二次電池電極用合材スラリー、二次電池、二次電池電極用樹脂組成物の製造方法、および二次電池電極用合材スラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の普及や携帯機器の小型軽量化および高性能化に伴い、高いエネルギー密度を有する二次電池、さらに、その二次電池の高容量化が求められている。このような背景の下で高エネルギー密度、高電圧という特徴から非水系電解液を用いる非水電解質二次電池、特に、リチウムイオン二次電池が多くの機器に使われるようになっている。
【0003】
二次電池の電極は、正極活物質または負極活物質、導電材、バインダー樹脂等を含む合材スラリーを集電体に塗工して作製される。分散媒に導電材を分散させた導電材分散液を用意しておき、導電材分散液に活物質およびバインダー樹脂を添加して合材スラリーを作製することで、電極膜において導電材が均一に分散して含まれ、電極膜の導電性を改善することができる。導電材分散液は各種の合材スラリーに共通して使用可能であるが、合材スラリーは電池または電極の仕様に応じて活物質の種類、各成分の配合割合等が調整されて作製される。そのため、活物質を添加する前に導電材分散液を保管する間にも分散性および流動性が維持されることが望まれる。さらに、導電材分散液にバインダー樹脂が添加された樹脂組成物の状態で安定に保管することができれば、合材スラリーを作製する作業を簡素化することができる。
【0004】
導電材としては、カーボンブラック、グラフェン、微細炭素材料等が使用されているが、導電性をさらに改善して電池の容量を改善する目的で、微細炭素繊維の一種であるカーボンナノチューブを用いることが検討されている。例えば、正極にカーボンナノチューブを添加することにより、電極膜の導電性を改善して電極抵抗を低減することができる。中でも、外径数nm~数10nmの多層カーボンナノチューブは比較的安価であり、実用化が進んでいる。平均外径が小さく繊維長が大きいカーボンナノチューブを用いると、少量でも効率的に導電ネットワークを形成することができ、二次電池の高容量化を図ることができる。一方で、これらの特徴を有するカーボンナノチューブは凝集力が強く、カーボンナノチューブ分散液の分散性をより一層高めることが難しくなる。
【0005】
特許文献1には、ずり速度383s-1における粘度値を規定したカーボンナノチューブ分散液が開示されている。特許文献1では、BET比表面積が70~250m2/gのカーボンナノチューブ粉末を2~15重量%含有したカーボンナノチューブ分散液の粘度値を上記範囲内とすることでサイクル特性を向上させることを示している。
【0006】
また、特許文献2には、導電材を先に分散させた後に粉末状のバインダー樹脂および正極活物質を順次添加して分散させることを特徴とする、正極形成用組成物の製造方法が開示されている。特許文献2では、粉末状のバインダー樹脂を用いることで、従来のバインダー樹脂が正極活物質および導電材を取り囲み電解液との接触を妨げて電池の特性を低下させることを防止すること、また、開示された製造方法とすることで正極形成用組成物の分散性を高めて、電池の内部抵抗を減少させ、出力特性を向上させ、また電極の全体にかけて接着力を向上させることを示している。
【0007】
さらに、特許文献3、特許文献4にはカーボンナノチューブを含む導電材と、分散剤と、分散媒とを含む導電材分散液に、さらにバインダー樹脂としてフッ素樹脂を含む樹脂組成物が開示されている。特許文献3では、動的粘弾性測定による25℃および1Hzでの複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)を所定の範囲となるよう適切に分散状態をコントロールしたカーボンナノチューブ分散液にさらにバインダー樹脂を添加することによって、カーボンナノチューブ分散液にバインダー樹脂を添加した状態においても流動性を維持することができ、この樹脂組成物を用いて電極膜を形成することで電極膜中に発達した導電ネットワークを形成させることを示している。また、特許文献4では、カーボンナノチューブと、分散剤と、フッ素樹脂と、分散媒とを含む樹脂組成物の動的粘弾性測定による25℃および1Hzでの複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)を所定の範囲とすることでカーボンナノチューブおよびフッ素樹脂を含む状態においても流動性が維持され、この樹脂組成物を用いて電極膜を形成することで電極膜中に発達した導電ネットワークを形成させることを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-195143号公報
【特許文献2】特表2018-503946号公報
【特許文献3】特許第7107413号公報
【特許文献4】特許第7109632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
デリバリーコスト、分散媒の供給リスク、合材スラリー設計の自由度から、樹脂組成物の高濃度化、より具体的にはカーボンナノチューブやフッ素樹脂の高濃度化、が求められている。しかしながら、これらを高濃度に含有する樹脂組成物は、流動性、貯蔵安定性、および活物質を加えた際の混合安定性が悪いという問題がある。
【0010】
また、合材スラリーの製造工程において電極活物質を加えてせん断応力をかけると、電極活物質と樹脂組成物を混合した際に分散溶媒の分配の急激な変化、活物質表面電子の影響によるショックが生じることがあり、また、カーボンナノチューブの凝集物が発生することがある。これは、カーボンナノチューブ濃度が一定以上高い場合、およびフッ素樹脂の含有量が多い場合に顕著に起こりやすい。
【0011】
樹脂組成物を作製する際に、特許文献1に示されるように、分散性および粘度特性を制御したカーボンナノチューブ分散液を調製した後にフッ素樹脂を添加することで、樹脂組成物を得ることができる。しかしながら、カーボンナノチューブ分散液の分散性や粘度特性を制御していても、次いで添加されるフッ素樹脂の溶解性が十分に得られないことがあり、そのような樹脂組成物は、流動性、貯蔵安定性が不良となる恐れがある。また、特許文献2に示される方法では、固体状態のフッ素樹脂の溶解性が不十分となり、ある一定濃度以上のフッ素樹脂を添加したところで樹脂組成物の流動性が急激に低下し、フッ素樹脂同士がまとまった「継粉」が生じ易く、活物質と混合した際の経時安定性良好な合材スラリーを得ることは困難であり、また、得られる電極の密着性には改善の余地がある。
特許文献3、特許文献4には複素弾性率や位相角でフッ素樹脂を含む樹脂組成物の分散性および粘度特性をコントロールすることで電極膜中に発達した導電ネットワークを形成させることを示しているが、フッ素樹脂の溶解条件や均一性については詳細に検討されていなかった。
【0012】
本発明者らが、バインダー樹脂としてフッ素樹脂を含む樹脂組成物の分散状態の細かな違いについて詳細に比較検討したところ、繊維状のカーボンナノチューブを導電材として用いる場合には、従来の樹脂組成物の分散状態の指標としてしばしば用いられてきた粒度分布や粘度では、同じ測定値であっても二次電池に用いた場合の特性が異なる場合があり、カーボンナノチューブの分散状態、およびフッ素樹脂の溶解状態を的確に捉えられていないことが分かった。例えば、粒度分布の場合には、繊維状の非球状粒子を球状と仮定して算出していることから、実態との乖離が生じやすい。粘度の場合には、一般に、導電材の分散状態が良好なほど低粘度になると言われているが、導電材が繊維状で絡まりやすい場合には、導電材が分散媒中で均一かつ安定に解れた状態であっても、導電材自体の構造粘性があるため弾性が強くなる。また、繊維が破断されている場合には、解凝集と破断の二つの要素によって粘度が変化することから、粘度だけで導電材の状態を的確に表すことは難しい。カーボンナノチューブの繊維を破断させた場合、カーボンナノチューブ同士の接触抵抗の増大により電極中の発達した導電ネットワーク形成が困難になるため、繊維をなるべく破断させずに、かつ均一に分散させることが効果的である。さらに、フッ素樹脂を添加する過程でも樹脂組成物の粘弾性は大きく変化するため、粘度値だけで樹脂組成物中に存在する導電材の分散状態の変化やフッ素樹脂の溶解状態は説明できない。
【0013】
このように、従来知られている製造方法では、カーボンナノチューブ分散液として優れた分散状態であったとしても、フッ素樹脂添加に伴うカーボンナノチューブの分散状態の変化を十分に捉えることができず、樹脂組成物の分散性および流動性の低下が引き起こされることがある。また一方で、カーボンナノチューブ分散液を調製した後にフッ素樹脂を添加する場合、分散液はカーボンナノチューブ由来の黒色となるため、フッ素樹脂の溶解性を確認することは容易ではない。
【0014】
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、高い分散性および流動性を有する二次電池電極用樹脂組成物を提供することであり、また、活物質を含む状態でカーボンナノチューブの分散性がよい二次電池電極用合材スラリーを提供することである。さらに詳しくは、高出力、高容量、高寿命な非水電解質二次電池およびこれに用いられる電極膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らが、上記課題を解決することを目的として鋭意検討したところによると、導電材であるカーボンナノチューブの分散状態と、バインダー樹脂であるフッ素樹脂の溶解状態とを、細やかにコントロールすることで、カーボンナノチューブの凝集物やフッ素樹脂の継粉が発生しにくい樹脂組成物を得ることができることを見出した。
これにより、カーボンナノチューブ濃度が高い場合、またはフッ素樹脂を高濃度に含有させた場合であっても、カーボンナノチューブの凝集物やフッ素樹脂の継粉を抑制するという優れた効果を発揮することができる。
【0016】
また、二次電池電極用樹脂組成物の製造方法においてフッ素樹脂の添加速度や、添加時および/または溶解時のカーボンナノチューブ分散液の液温を適切にコントロールすることで、カーボンナノチューブの分散性を損なうことなく均一な樹脂組成物を得ることを見出した。これにより、高出力、高容量、高寿命な二次電池を提供することが可能となる。
これにより、フッ素樹脂を高濃度に添加した場合であっても、カーボンナノチューブの分散性を損なうことなく均一な樹脂組成物を得るという優れた効果を発揮することができる。
【0017】
すなわち、本発明は、以下の実施形態を含む。本発明の実施形態は以下に限定されない。
〔1〕カーボンナノチューブと、分散剤と、フッ素樹脂と、非水分散媒とを含む二次電池電極用樹脂組成物であって、
前記二次電池電極用樹脂組成物の不揮発成分の質量を基準として、前記カーボンナノチューブ、分散剤、およびフッ素樹脂の合計含有率が60質量%以上であり、
下記(1)および(2)を満たすことを特徴とする、二次電池電極用樹脂組成物。
(1)η>132x―750
(2)η<300x―1500
(xは、二次電池電極用樹脂組成物の不揮発成分の濃度(質量%)であり、
ηは、温度25℃、ずり速度383s-1における粘度値(mPa・s)である。)
〔2〕前記フッ素樹脂の重量平均分子量が、10万以上200万以下であることを特徴とする、〔1〕記載の二次電池電極用樹脂組成物。
〔3〕前記フッ素樹脂の含有率が、二次電池電極用樹脂組成物の質量を基準として、3.1質量%以上である、〔1〕または〔2〕に記載の二次電池電極用樹脂組成物。
〔4〕〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の二次電池電極用樹脂組成物と、活物質とを含むことを特徴とする二次電池電極用合材スラリー。
〔5〕正極と、負極とを具備してなる非水電解質二次電池であって、正極または負極の少なくとも一方が、〔4〕に記載の二次電池電極用合材スラリーから形成した電極膜を有することを特徴とする、非水電解質二次電池。
〔6〕 カーボンナノチューブと、分散剤と、フッ素樹脂と、非水分散媒とを含む二次電池電極用樹脂組成物の製造方法であって、
カーボンナノチューブ、分散剤、および非水分散媒を含むカーボンナノチューブ分散液を製造する工程と、
前記カーボンナノチューブ分散液にフッ素樹脂を添加し、溶解する工程を備え、
前記添加および溶解の少なくともいずれかの工程の液温が55度以上80度以下であり、
前記二次電池電極用樹脂組成物の不揮発成分の質量を基準として、前記カーボンナノチューブ、分散剤、およびフッ素樹脂の合計含有率が60質量%以上である、
二次電池電極用樹脂組成物の製造方法。
〔7〕カーボンナノチューブと、分散剤と、フッ素樹脂と、非水分散媒とを含む二次電池電極用樹脂組成物の製造方法であって、
カーボンナノチューブ、分散剤、および非水分散媒を含むカーボンナノチューブ分散液を製造する工程と、
前記カーボンナノチューブ分散液に、前記カーボンナノチューブ分散液が含有する非水分散媒100質量部に対して、2.0質量部/分以下の速度でフッ素樹脂を添加する工程を備え、
前記二次電池電極用樹脂組成物の不揮発成分の質量を基準として、前記カーボンナノチューブ、分散剤、およびフッ素樹脂の合計含有率が60質量%以上であり、
前記フッ素樹脂の含有率は、二次電池電極用樹脂組成物の質量を基準として、3.1質量%以上である、
二次電池電極用樹脂組成物の製造方法。
〔8〕〔6〕または〔7〕記載の二次電池電極用樹脂組成物に、さらに活物質を添加する工程を備えた、二次電池電極用合材スラリーの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の実施形態によれば、カーボンナノチューブの分散性とフッ素樹脂の溶解性を両立し、高い分散性および流動性を有する二次電池電極用樹脂組成物を提供することが可能である。また、本発明の他の実施形態によれば、カーボンナノチューブの分散性がよい二次電池電極用合材スラリーを提供することが可能である。本発明のさらに他の実施形態によれば、高出力、高容量、高寿命な非水電解質二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態である二次電池電極用樹脂組成物、二次電池電極用樹脂組成物の製造方法、二次電池電極用合材スラリーの製造方法、および二次電池の製造方法について詳しく説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明には要旨を変更しない範囲において実施される実施形態も含まれる。また、本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値の範囲として含むものとする。
【0020】
本明細書において、カーボンナノチューブを「CNT」、N-メチル-2-ピロリドンを「NMP」と表記することがある。なお、本明細書では、カーボンナノチューブ分散液を「CNT分散液」、「導電材分散液」、または単に「分散液」という場合がある。また、非水分散媒を「非水溶媒」、「分散溶媒」、または単に「分散媒」という場合がある。さらに、二次電池電極用樹脂組成物を単に「樹脂組成物」、非水電解質二次電池を単に「二次電池」という場合がある。
本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
≪二次電池電極用樹脂組成物≫
二次電池電極用樹脂組成物は、カーボンナノチューブと、分散剤と、フッ素樹脂と、非水分散媒とを含む二次電池電極用樹脂組成物であって、
前記二次電池電極用樹脂組成物の不揮発成分の質量を基準(100質量%)として、前記カーボンナノチューブ、分散剤、およびフッ素樹脂の合計含有率が60質量%以上であり、
下記(1)および(2)を満たす。
(1)η>132x―750
(2)η<300x―1500
(xは、二次電池電極用樹脂組成物の不揮発成分の濃度(質量%)であり、
ηは、温度25℃、ずり速度383s-1における粘度値(mPa・s)である。)
【0022】
本発明の一実施態様である二次電池電極用樹脂組成物は、活物質が添加される前の状態のものを意味する。この点において、二次電池電極用樹脂組成物は、活物質を含む合材スラリーと区別される。すなわち、二次電池電極用樹脂組成物は活物質を実質的に含まないものである。これは、二次電池電極用樹脂組成物に活物質が意図的に添加された状態を除く概念であり、二次電池電極用樹脂組成物の全質量に対し活物質は1質量%以下、0.5質量%以下、または0.1質量%以下であればよく、あるいは0質量%であってよい。活物質については後述する通りである。
【0023】
樹脂組成物は、(1)および(2)を満たすことで、活物質を添加してもカーボンナノチューブの分散性を損なうことのない二次電池電極用合材スラリーを得ることができ、特に密着性に優れた電極を作製することができる。
粘度値が上記関係を満たすように、樹脂組成物の組成や作製方法を調整することで、カーボンナノチューブやフッ素樹脂を高濃度で含む樹脂組成物であっても、高い分散性および流動性を維持することができる。
また、樹脂組成物の組成、フッ素樹脂を添加する前に調製するカーボンナノチューブ分散液の分散条件、さらに、樹脂組成物の製造方法においてフッ素樹脂を添加する速度や、添加時および/または溶解時のカーボンナノチューブ分散液の液温を適切にコントロールすることで、(1)および(2)を満たす樹脂組成物とすることができる。
【0024】
樹脂組成物におけるカーボンナノチューブの分散性は、高せん断速度条件で測定される粘度値、より具体的には温度25℃およびずり速度383S-1における粘度値ηで評価できる。この条件で測定することで、活物質を加えてせん断応力を加えたときの混合状態まで考慮して、樹脂組成物中のカーボンナノチューブの分散状態やフッ素樹脂の溶解性を評価することができる。より詳しくは、実施例に記載の方法により測定することができる。
粘度値は導電材の分散性が良好であるほど小さくなる傾向にあるが、カーボンナノチューブの繊維長が大きい場合には、カーボンナノチューブが媒体中で均一かつ安定に解れた状態であっても、カーボンナノチューブ自体の構造粘性があるため、値自体は高くなる場合がある。また、カーボンナノチューブの分散状態に加え、カーボンナノチューブ、分散剤、フッ素樹脂、およびその他樹脂成分の絡まり、またはこれらの分子間力等の影響によっても変化する。特に、フッ素樹脂の溶解性によって粘度値は大きく変化し、フッ素樹脂が媒体中で均一な状態であれば粘度値は高い数値となる。
【0025】
繊維長が長いカーボンナノチューブを、その長さを一定以上に保ったまま均一かつ良好に分散させることで発達した導電性ネットワークが形成されるため、その導電ネットワークを壊すことなくフッ素樹脂を添加し、均一に溶解させて樹脂組成物を作製することが重要である。従って、単にカーボンナノチューブ分散液の粘度が低く(見かけ上の)分散性が良好であればよいのではなく、また、単に樹脂組成物の粘度が低く(見かけ上の)分散性が良好であればよいのでもなく、せん断応力を加えた際の粘度値を樹脂組成物の不揮発分量と組み合わせて分散状態を判断することが特に有効である。
【0026】
温度25℃およびずり速度383s-1における粘度値η(mPa・s)が(1)を満たさない場合、すなわち132x-750以下となる場合、樹脂組成物の製造工程においてフッ素樹脂に何らかの理由で変化が生じてしまう、または、フッ素樹脂添加量が不十分であることにより、電極の密着性が低下する恐れがある。
好ましくは、η>132x-725であり、より好ましくは、η>132x-700である。
【0027】
また、温度25℃およびずり速度383s-1における粘度値η(mPa・s)が(2)を満たさない場合、すなわち300x-1500以上となる場合、樹脂組成物中にフッ素樹脂の凝集物である「継粉」や細かな未溶解物が存在し、経時増粘が生じたり、得られる電極膜の密着性が低下したり、電池性能が低下する恐れがある。
また、好ましくはη<300x-1550であり、より好ましくは、300x-1600である。
導電材であるカーボンナノチューブの分散状態と、バインダー樹脂であるフッ素樹脂の溶解状態をコントロールし、(1)および(2)を満たすような樹脂組成物とすることで、樹脂組成物の分散安定性と、電極の密着性とを両立することができる。
【0028】
樹脂組成物の温度25℃およびずり速度383S-1における粘度値η(mPa・s)は、100以上であることが好ましく、120以上であることがより好ましく、150以上であることがさらに好ましい。また、1,000以下であることが好ましく、850以下であることがより好ましく、750以下であることがさらに好ましい。粘度値を上記範囲にすることで、樹脂組成物中のカーボンナノチューブやフッ素樹脂の凝集やゲル化の発生を抑制し、一方でカーボンナノチューブを良好に、かつより安定に存在させることができる。
【0029】
xは、樹脂組成物の不揮発成分の濃度(質量%)である。
本発明において、樹脂組成物の不揮発成分の濃度は、樹脂組成物を140℃1時間で加熱したときの残渣の質量を、樹脂組成物の質量に対する百分率で表したものである。すなわち、樹脂組成物の不揮発成分は、少なくともカーボンナノチューブと、分散剤と、フッ素樹脂とを含む。より詳しくは、実施例に記載の方法により測定することができる。
樹脂組成物の不揮発成分の濃度(質量%)は、カーボンナノチューブやフッ素樹脂を凝集やゲル化の発生なく良好に分散させる観点から、1~40質量%であることが好ましく、3~20質量%であることがより好ましく、5~15質量%であることがさらに好ましく、6~15質量%であることがより一層好ましい。
【0030】
また、樹脂組成物におけるカーボンナノチューブの分散性は、樹脂組成物の濾過速度によっても評価できる。より具体的には、樹脂組成物を非水分散媒で5倍希釈し、樹脂組成物を減圧濾過したときに全量が通過する時間を測定することで評価することができる。これは、樹脂組成物中にカーボンナノチューブやフッ素樹脂等に由来するわずかな凝集物が存在する場合、その凝集物が濾過フィルターを通過することができないか、もしくは濾過速度が遅くなるためと考えられる。また、樹脂組成物の分散状態が不安定である場合、樹脂組成物を非水分散媒で希釈すると分散ショックが起こりやすく、凝集物は顕著に確認されるため、同様に、濾過フィルターを通過することができないか、もしくは濾過速度が遅くなる。上記理由のため、濾過速度は、樹脂組成物中のカーボンナノチューブの分散状態やフッ素樹脂の溶解性、および樹脂組成物の流動性を評価する一つの指標として用いることができる。より詳しくは、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0031】
また、樹脂組成物の流動性および分散安定性は、貯蔵安定性を確認することによって評価できる。より具体的には樹脂組成物の初期粘度と、樹脂組成物を40℃にて7日間静置して保管した後の粘度をそれぞれ測定し、初期粘度に対する40℃7日間静置保管後の粘度の変化率によって評価することができる。初期段階にカーボンナノチューブを良好な分散状態であっても、カーボンナノチューブやフッ素樹脂等に由来する凝集物が樹脂組成物中に存在する場合、保管期間にそれを核としてカーボンナノチューブが凝集し分散不良を起こす可能性がある。この条件で評価することで、経時変化まで考慮した樹脂組成物中のカーボンナノチューブの分散状態やフッ素樹脂の溶解性を評価することができる。より詳しくは、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0032】
樹脂組成物中のカーボンナノチューブの平均繊維長は0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることがより好ましい。また、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。なお、樹脂組成物中のカーボンナノチューブの平均繊維長は、樹脂組成物をNMP等の非水溶媒によって50倍に希釈したものを基材に滴下して乾燥させた試料を走査型電子顕微鏡によって観察し、観測写真において、任意の300個のカーボンナノチューブを選び、それぞれの繊維長を計測し平均化することで算出できる。
【0033】
樹脂組成物中のカーボンナノチューブの含有率は、樹脂組成物の全量に対し、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。また、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、8質量%以下が一層好ましい。上記範囲にすることで、沈降や凝集、ゲル化の発生を抑制し、一方でカーボンナノチューブを良好に、かつ安定に存在させることができる。より好ましくは0.1質量%以上20質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以上10質量%以下である。
【0034】
樹脂組成物において、カーボンナノチューブに対する分散剤の質量比(分散剤/CNT)は0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.1以上がさらに好ましい。また、2以下が好ましく、1以下がより好ましく、0.5以下がさらに好ましい。上記範囲にすることで、カーボンナノチューブの分散安定性をより高めることができる。より好ましくは0.01以上2以下であり、さらに好ましくは0.1以上1以下である。
【0035】
樹脂組成物中の分散剤の含有率は、樹脂組成物の質量を基準として、0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.4質量%以上1質量%以下がより好ましい。
【0036】
樹脂組成物中のフッ素樹脂の含有率は、樹脂組成物の質量を基準として、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましく3.1質量%以上がより一層好ましく、3.2質量%以上が特に好ましい。フッ素樹脂の含有率が上記範囲内であることにより、電極の密着性を十分に得ることができるために好ましい。
また、樹脂組成物中のフッ素樹脂の含有率は、樹脂組成物の質量を基準として、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。フッ素樹脂の含有率が上記範囲内であることにより、樹脂組成物中にフッ素樹脂全量を溶解しやすくなり、沈降や凝集、ゲル化が発生することを抑制でき、また、電池の容量特性の低下を防ぐことができるために好ましい。
【0037】
樹脂組成物にその他のバインダー樹脂が含まれる場合は、フッ素樹脂およびその他のバインダー樹脂の合計量に対しその他のバインダー樹脂の含有量は、80質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0038】
樹脂組成物において、カーボンナノチューブに対するフッ素樹脂の質量比(フッ素樹脂/CNT)は0.1以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。また、10以下が好ましく、5以下がより好ましい。上記範囲にすることで、凝集やゲル化の発生を抑制し、一方で電極膜の耐性および密着性を十分に得ることができる。より好ましくは、0.1以上10以下であり、さらに好ましくは0.5以上5以下である。
【0039】
樹脂組成物中の非水分散媒の含有率は、樹脂組成物の全量に対し、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。また、99.5質量%以下であることが好ましく、99質量%以下であることがより好ましく、97質量%以下がさらに好ましく、95質量%以下が一層好ましい。上記範囲にすることで、カーボンナノチューブやフッ素樹脂の沈降や凝集、ゲル化の発生を抑制し、一方でカーボンナノチューブをより良好に、かつ安定に存在させることができる。より好ましくは60質量%以上99質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以上95質量%以下である。
【0040】
<カーボンナノチューブ>
カーボンナノチューブ(CNT)は、導電材として機能する。樹脂組成物には、カーボンナノチューブ以外の導電材が含まれてもよい。その他の導電材としては、例えば、カーボンブラック、グラフェン、多層グラフェン、グラファイト等の炭素材料等が挙げられる。CNT以外の導電材を用いる場合、分散剤の吸着性能の観点から、カーボンブラックが好ましく、例えばアセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラックが挙げられる。これらのカーボンブラックは、中性、酸性、塩基性のいずれでもよく、酸化処理されたカーボンブラックや、黒鉛化処理されたカーボンブラックを使用してもよい。
【0041】
樹脂組成物に添加するためのCNTは、平面的なグラファイトを円筒状に巻いた形状であり、単層CNT、多層CNTを含み、これらが混在してもよい。単層CNTは一層のグラファイトが巻かれた構造を有し、多層CNTは二または三以上の層のグラファイトが巻かれた構造を有する。また、CNTの側壁はグラファイト構造でなくともよい。例えば、アモルファス構造を有する側壁を備えるCNTも本明細書ではCNTである。CNTはどのような方法で製造したCNTでも構わない。CNTは一般にレーザーアブレーション法、アーク放電法、熱CVD法、プラズマCVD法および燃焼法で製造できるが、これらに限定されない。また、CNTは、表面処理を行ったCNTでもよい。CNTは、カルボキシ基に代表される官能基が付与されたCNT誘導体であってもよい。また、有機化合物、金属原子、またはフラーレンに代表される物質を内包させたCNTも用いることができる。
【0042】
CNTの平均外径は1nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましく、5nm以上であることがさらに好ましい。また、30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、15nm以下であることがさらに好ましい。なお、CNTの平均外径は、まず透過型電子顕微鏡によって、CNTを観測するとともに撮像し、観測写真において、任意の300個のCNTを選び、それぞれの外径を計測することで算出できる。
【0043】
樹脂組成物は、平均外径が異なる2種以上のCNTを別々に用意して、分散媒に添加して用意してもよい。CNTとして、平均外径が異なる2種以上のCNTを使用する場合、第一のCNTの平均外径は1nm以上、5nm未満であることが好ましい。第二のCNTの平均外径は5nm以上、20nm以下であることが好ましい。例えば、第一のCNTとして単層カーボンナノチューブ、第二のCNTとして多層カーボンナノチューブを用いてもよい。CNTとして、平均外径が異なる2種以上のCNTを使用する場合、第一のCNTと第二のCNTの質量比率は1:50~50:1であることが好ましく、1:10~10:1であることがより好ましく、1:5~5:1であることがさらに好ましい。第一のCNTと第二のCNTの質量比率を上記範囲とすることで、CNT同士の絡み合いを抑制し、流動性に優れた分散液が得られる。
【0044】
CNTの平均繊維長は0.5μm以上であることが好ましく、0.8μm以上であることがより好ましく、1.0μm以上であることがさらに好ましい。また、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。なお、CNTの平均繊維長は、まず走査型電子顕微鏡によって、CNTを観測するとともに撮像し、観測写真において、任意の300個のCNTを選び、それぞれの繊維長を計測することで算出できる。
【0045】
CNTの繊維長を、外径で除した値がアスペクト比である。平均繊維長と平均外径の値を用いて、代表的なアスペクト比を求めることができる。アスペクト比が高い導電材ほど、電極を形成した際に高い導電性を得ることができる。CNTのアスペクト比は、30以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、80以上であることがさらに好ましい。また、10,000以下であることが好ましく、3,000以下であることがより好ましく、1,000以下であることがさらに好ましい。
【0046】
CNTの比表面積は100m2/g以上であることが好ましく、150m2/g以上であることがより好ましく、200m2/g以上であることがさらに好ましい。また、1200m2/g以下であることが好ましく、1000m2/g以下であることがより好ましく、800m2/g以下であることがさらに好ましい。CNTの比表面積は窒素吸着測定によるBET法で算出する。平均外径、平均繊維長、アスペクト比、および比表面積が上記範囲内であると、電極中で発達した導電パスを形成しやすくなる。
【0047】
CNTの炭素純度はCNT中の炭素原子の含有率(質量%)で表される。炭素純度はCNT100質量%に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることが特に好ましい。炭素純度を上記範囲にすることにより、金属触媒等の不純物によってデンドライトが形成されショートが起こる等の不具合を防ぐことができる。
金属触媒等の不純物を除去または低減し、炭素純度を上げる目的で、高純度化処理を行ったCNTを用いてもよい。高純度化処理の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0048】
CNTをビーズミル等のメディアとの衝突による分散機で分散する場合や、長時間かけて繰り返し分散機を通過させるような処理を行う場合、CNTが破損して短片状の炭素質が生じる場合がある。短片状の炭素質が生じると、樹脂組成物の粘度は低下し、樹脂組成物を塗工乾燥させて得た塗膜の光沢は高くなることから、これらの評価結果のみで判断すると分散状態が良好なように思われる。しかし、短片状の炭素質は接触抵抗が高く、導電ネットワーク形成が難しいため、このような分散処理を経て作製される樹脂組成物は、電極の抵抗を悪化させる場合がある。また、短片状の炭素質が存在するCNT分散液は、短片状の炭素質を核としたCNT凝集物が形成されやすく、フッ素樹脂を添加することで分散不良となる恐れがある。短片状の炭素質が生じた程度は、分散液を希釈し、表面が平滑で分散媒と親和性のよい基材に滴下し乾燥した試料を、走査型電子顕微鏡で観察する等の方法で確認できる。0.1μm以下の炭素質が生じないように分散条件や分散液の配合を調整すると、導電性の高い電極を得ることができる。
【0049】
<分散剤>
樹脂組成物は分散剤を含む。分散剤は、樹脂組成物中でCNTを分散安定化できるものが好ましい。分散剤は、樹脂型分散剤および界面活性剤のいずれも使用することができるが、CNTへの吸着力が強く良好な分散安定性が得られることから、樹脂型分散剤が好ましい。カーボンナノチューブの分散に要求される特性に応じて適宜好適な種類の分散剤を、好適な配合量で使用することができる。
【0050】
樹脂型分散剤としては、(メタ)アクリル系ポリマー、エチレン性不飽和炭化水素由来のポリマー、セルロース系誘導体、これらのコポリマー等が使用できる。
【0051】
エチレン性不飽和炭化水素由来のポリマーとしては、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ニトリルゴム類等が挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコール、水酸基以外の官能基(例えば、アセチル基、スルホ基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基)を有する変性ポリビニルアルコール、各種塩によって変性されたポリビニルアルコール、その他アニオンまたはカチオン変性されたポリビニルアルコール、アルデヒド類によってアセタール変性(アセトアセタール変性またはブチラール変性等)されたポリビニルアセタール(ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルブチラール等)等が挙げられる。ポリアクリロニトリル系樹脂としては、ポリアクリロニトリルのホモポリマー、ポリアクリロニトリルのコポリマー、これらの変性体等であってよく、ヒドロキシル基、カルボキシ基、1級アミノ基、2級アミノ基、およびメルカプト基等の活性水素基、塩基性基、(メタ)アクリル酸アルキルエステルまたはα―オレフィン等に由来して導入されるアルキル基等からなる群から選択される少なくとも1種を有するポリアクリロニトリル系樹脂等が好ましく、例えば特開2020-163362号公報記載のアクリロニトリル共重合体を用いることができる。ニトリルゴム類としては、アクリロニトリルブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム等が挙げられる。セルロース系誘導体としては、セルロースアセテート、セルロースブチレート、シアノエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等、またはこれらのコポリマー等が挙げられる。また、国際公開2008/108360号パンフレット、特開2018-192379号公報、特開2019-087304号公報、特開2020-011934号公報、特開2009-026744号公報に記載の分散剤を用いてよいが、これらに限定されるものではない。特にメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリルのホモポリマー、ポリアクリロニトリルのコポリマー、水素添加アクリロニトリルブタジエンゴムが好ましい。これらのポリマーの一部に他の置換基を導入したポリマー、変性させたポリマー等を用いてもよい。
【0052】
樹脂型分散剤の重量平均分子量は、被分散物と分散媒との親和性バランスの観点、および電解液への耐性の観点から、50万以下であることが好ましく、30万以下であることがより好ましい。また、0.3万以上であることが好ましく、0.5万以上であることがより好ましい。樹脂型分散剤は1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
市販のポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、クラレポバール(クラレ製ポリビニルアルコール樹脂)、ゴーセノール、ゴーセネックス(日本合成化学工業製ポリビニルアルコール樹脂)、デンカポバール(デンカ社製ポリビニルアルコール樹脂)、J-ポバール(日本酢ビ・ポバール社製ポリビニルアルコール樹脂)等の商品名で、種々のグレードを入手することができる。また、各種官能基を有する変性ポリビニルアルコールも同様に入手できる。また、公知の合成方法で合成したものを用いてもよい。市販のポリビニルピロリドン系樹脂としては、具体的には、ルビテック(Luvitec)K17(K値:15.0~19.0、低分子量)、K30(K値27.0~33.0)、K90(K値88.0~92.0)、K90HM(K値92.0~96.0、高分子量)(BASFジャパン製)、K15、K30、K90、K120(ISP製)、ポリビニルピロリドンK30(K値27.0~33.0)、K90(K値88.0~96.0)(日本触媒製)、PVP K12(K値10~14)、K15(K値13~19)、K30(K26~K35)、K60(K値50~62)、K90(K値88~100)(DSP五経フード&ケミカル製)等が挙げられる。ポリビニルピロリドンは、粘度上昇防止の観点から、K値が150以下であることが好ましく、K値が100以下であることがより好ましく、K値が85以下であることがさらに好ましい。市販のニトリルゴム類としては、テルバン(Therban)(アランセオ製水素化ニトリルゴム)、バイモード(Baymod)(アランセオ製ニトリルゴム)、Zetpole(日本ゼオン製水素化ニトリルゴム)、Nipole NBR(日本ゼオン製ニトリルゴム)等の商品名で、ニトリル比率、水素化率、および分子量等が異なる種々のグレードを入手することができる。また、公知の合成方法で合成したものを用いてもよい。
【0054】
上記した樹脂型分散剤に代えてまたは加えて界面活性剤を用いてもよい。界面活性剤はアニオン性、カチオン性、両性のイオン性界面活性剤と、ノニオン性界面活性剤に分類される。
【0055】
樹脂組成物はさらに塩基を含んでもよい。樹脂組成物中に塩基を含有すると、CNTの分散媒への濡れ性を高めて分散性を向上する、または分散安定性が向上することから、好ましい。添加する塩基は、無機塩基、無機金属塩、有機塩基、有機金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。これらは、合計量で、樹脂組成物の全量に対し、0.001~0.1質量%が好ましく、0.005~0.05質量%がより好ましい。塩基の添加量が多すぎると、分散装置および/または電池内部の腐食の原因となり得る。
ここで、添加する塩基の含水量は5質量%未満であることが好ましく、3質量%未満であることがより好ましく、2質量%未満であることがさらに好ましい。添加する塩基に水が大量に含まれると、分散剤の被分散物への吸着性が低下し、被分散物を分散溶媒中に安定に存在させることが困難となる恐れがある。水含有量を上記範囲とすることで、樹脂組成物が貯蔵中にゲル化するという問題を防ぐことができる。
【0056】
無機塩基および無機金属塩としては、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の、塩化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩;および水酸化アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも容易にカチオンを供給できる観点から、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物またはアルコキシドが好ましい。アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。これらの中でも、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。なお、無機塩基が有する金属は、遷移金属であってもよい。
【0057】
有機塩基としては、置換基を有してもよい炭素数1~40の1級、2級、3級アミン化合物(アルキルアミン、アミノアルコール等)、または有機水酸化物が挙げられる。
【0058】
置換基を有してもよい炭素数1~40の1級アルキルアミンとしては、プロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、オクチルアミン、2ーエチルヘキシルアミン、ラウリルアミン等のアルキルアミン;2-アミノエタノール、3-アミノプロパノール等のアミノアルコール;3-エトキシプロピルアミン等が挙げられる。
置換基を有してもよい炭素数1~40の2級アルキルアミンとしては、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、N-メチルヘキシルアミン、ジオクチルアミン等のアルキルアミン、2-メチルアミノエタノール等のアミノアルコール等が挙げられる。
置換基を有してもよい炭素数1~40の3級アルキルアミンとしては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルブチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ジメチルオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジメチルデシルアミン等のアルキルアミン、トリエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エタノール等が挙げられる。
有機水酸化物は、有機カチオンと水酸化物イオンとを含む塩である。有機水酸化物としては、例えば、トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、3-トリフルオロメチル-フェニルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
これらの中でも、CNTへの作用の観点から、2-アミノエタノール、3-アミノプロパノール、トリエタノールアミン、トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシドからなる群から選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0059】
有機金属塩としては、例えば、アルカリ金属のアルコキシド、アルカリ金属の酢酸塩等が挙げられる。アルカリ金属のアルコキシドとしては、例えば、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムプロポキシド、リチウム-t-ブトキシド、リチウム-n-ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウム-t-ブトキシド、ナトリウム-n-ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムプロポキシド、カリウム-t-ブトキシド、カリウム-n-ブトキシド等が挙げられる。これらの中でも、容易にカチオンを供給できる観点から、ナトリウム-t-ブトキシドが好ましい。なお、有機塩基が有する金属は、遷移金属であってもよい。
【0060】
樹脂組成物はさらに酸を含んでもよい。樹脂組成物中に酸を含有すると、フッ素樹脂の重合、およびそれに伴うリチウムイオン電池正極用合材スラリーの粘度上昇、ゲル化を抑制することができることから、好ましい。添加する酸は、無機酸、有機酸のいずれかであってもよい。これらは、合計量で、樹脂組成物の全量に対し、0.001~1.0質量%が好ましく、0.005~0.5質量%がより好ましい。酸の添加量が多すぎると、分散剤のCNTへの吸着、分散能を低下させる恐れがある。
【0061】
無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。有機酸としては、カルボン酸化合物、スルホン酸化合物等が挙げられる。カルボン酸化合物としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、酒石酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、フルオロ酢酸等が挙げられる。スルホン酸化合物としては、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸等が挙げられる。また、上記酸の無水物、水和物、又は一部が塩になっている酸も用いることができる。これらは1種を単独で、または2種以上を併用して用いることができる。
【0062】
<バインダー樹脂>
バインダー樹脂とは、物質間を結着するために用いられる樹脂である。
本発明の樹脂組成物は、バインダー樹脂としてフッ素樹脂を含む。
[フッ素樹脂]
フッ素樹脂はフッ素を有する樹脂であり、耐熱性、耐薬品性、および粘着性に優れ、バインダー樹脂として機能する。フッ素樹脂は、ポリエチレンの水素がフッ素またはトリフルオロメチルで置換された構造を備えるとよい。フッ素樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)等のホモポリマー;パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロジオキシソールコポリマー(TPE/PDD)等のコポリマー等が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。フッ素樹脂の中でも耐性面からポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、これらの構造単位を有する樹脂、これらの変性体、またはこれらの組み合わせが好ましい。なかでも、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が好ましく、例えば、ポリフッ化ビニリデンのホモポリマー;フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン等とのコポリマー等が挙げられる。ポリフッ化ビニリデン系樹脂は変性されていてもよく、例えばカルボキシ基等の酸性基が導入されていてもよい。フッ素樹脂は1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
フッ素樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10万以上が好ましく、20万以上がより好ましく、50万以上がさらに好ましく、75万以上が特に好ましい。また、500万以下が好ましく、200万以下がより好ましい。重量平均分子量を上記範囲内とすることで、樹脂組成物中のフッ素樹脂の均一分散性と、電極の密着性とを両立することができるために好ましい。
【0064】
重量平均分子量は、ポリスチレン換算の重量平均分子量であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定できる。具体的には実施例に記載の方法により測定すればよい。
【0065】
フッ素樹脂のガラス転移点は、電極膜の成膜性の観点から、20℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましく、0℃以下がさらに好ましい。
【0066】
ポリフッ化ビニリデンおよびその変性体の市販品としては、例えば、株式会社クレハ製のKFポリマーシリーズ「W#7300、W#7200、W#1700、W#1300、W#1100、W#9700、W#9300、W#9100、L#7305、L#7208、L#1710、L#1320、L#1120」等、solvay製solefシリーズ「6008、6010、6012、1015、6020、5130、9007、460、41308、11010、21510、31508、60512」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0067】
[その他樹脂]
樹脂組成物は、フッ素樹脂以外のその他樹脂をさらに含んでもよい。
その他樹脂は、通常、塗料等のバインダー樹脂として用いられるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。樹脂組成物に用いるバインダー樹脂は、活物質、CNT等の物質間を結合することができる樹脂が好ましい。樹脂組成物に用いるバインダー樹脂は、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン等を構造単位として含む重合体または共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂;スチレン-ブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなエラストマー;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂の変性体や混合物、および共重合体でもよい。
【0068】
<非水分散媒>
樹脂組成物は、分散媒として、非水分散媒を含む。非水分散媒は、特に限定されないが、高誘電率溶媒であることが好ましく、高誘電率溶媒のいずれか1種からなる溶媒、または2種以上からなる混合溶媒を含むことが好ましい。また、高誘電率溶媒に、その他の溶媒を1種または2種以上混合して用いてもよい。
【0069】
高誘電率溶媒としては、アミド系(N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタム等)、複素環系(シクロヘキシルピロリドン、γ-ブチロラクトン等)、スルホキシド系(ジメチルスルホキシド等)、スルホン系(ヘキサメチルホスホロトリアミド、スルホラン等)、低級ケトン系(アセトン、メチルエチルケトン等)、カーボネート系(ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート)、その他、テトラヒドロフラン、尿素、アセトニトリル等を使用することができる。高誘電率溶媒の比誘電率は、溶剤ハンドブック等に記載の数値とすることができ、20℃において2.5以上であることが好ましい。
非水分散媒は、分散剤やバインダー樹脂の溶解性、またはCNTの分散媒に対する濡れ性の観点で、アミド系有機溶媒を含むことが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンおよびN-エチル-2-ピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。アミド系有機溶媒を非水溶媒全質量に対し、60質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましい。取り扱い性の観点から、N-メチル-2-ピロリドン単独で用いることがさらに好ましい。
【0070】
<任意成分>
樹脂組成物は、必要に応じて、湿潤剤、pH調整剤、濡れ浸透剤、レベリング剤等のその他の添加剤、カーボンナノチューブ以外のその他導電材等の任意成分を、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜含んでもよい。任意成分は、樹脂組成物作製前、混合時、混合後、またはこれらの組み合わせ等、任意のタイミングで添加することができる。
【0071】
任意成分を含むとしても本発明の目的を阻害しない範囲であること、また活物質を実質的に含まないことから、樹脂組成物中の、カーボンナノチューブ、分散剤、およびフッ素樹脂の含有量は、樹脂組成物の不揮発成分、すなわち、樹脂組成物の固形分量を基準として、60質量%以上であり、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上がより一層好ましい。また、100質量%以下であればよい。
【0072】
カーボンナノチューブ以外のその他導電材としては、カーボンブラックを含むことができる。カーボンブラックは本発明の効果を損なわない範囲で樹脂組成物に含まれることが好ましく、カーボンブラックおよびカーボンナノチューブの全質量に対し、カーボンナノチューブは、1~80質量%が好ましく、1~50質量%がより好ましい。これらの範囲にて、カーボンナノチューブの分散状態をコントロールし、フッ素樹脂を含む状態で高い分散性および流動性をよりよく維持することができる。さらに、カーボンブラックは、樹脂組成物の全質量に対し、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0073】
カーボンブラックを含む樹脂組成物の製造方法の一例としては、CNT分散液にバインダー樹脂を添加する方法において、CNT分散液にカーボンブラックを添加する方法が挙げられる。CNT分散液にカーボンブラックを添加する段階は特に限定されず、カーボンナノチューブの添加の前、後、同時、またはこれらの組み合わせであってよい。カーボンブラックを含む樹脂組成物の製造方法の他の例としては、CNT分散液にバインダー樹脂を添加する前、後、同時、またはこれらの組み合わせにおいてカーボンブラックを添加する方法がある。この方法では、CNT分散液においてカーボンナノチューブが分散された状態において、カーボンブラックが添加されることが好ましい。あるいは、これらの方法の組み合わせであってもよい。すなわち、カーボンブラックを含むCNT分散液にバインダー樹脂を添加する前、後、同時、またはこれらの組み合わせにおいてカーボンブラックをさらに添加してもよい。
【0074】
<二次電池電極用樹脂組成物の製造方法>
二次電池電極用樹脂組成物は、CNT、分散剤、および非水分散媒を含むCNT分散液を作製し、次いでフッ素樹脂を添加し混合して作製することができる。
すなわち、下記工程を備えることが好ましい。
[工程I]カーボンナノチューブ分散液の製造
カーボンナノチューブ、分散剤、および非水分散媒を含むカーボンナノチューブ分散液を製造する工程
[工程II]
前記カーボンナノチューブ分散液にフッ素樹脂を添加する工程
【0075】
[工程I]カーボンナノチューブ分散液の製造
工程Iはカーボンナノチューブ分散液を製造する工程である。カーボンナノチューブ分散液の作製方法は特に限定されず、例えば、CNT、分散剤、および分散媒を一括または分割して混合し分散して作製する方法;CNT、分散剤、および必要に応じて分散媒を添加しCNTを湿式処理してその後分散媒を添加し分散液を作製する方法;分散剤と分散媒を混合し分散剤溶液を作製し、次いでCNTを添加し分散して作製する方法、等が挙げられる。いずれの方法においてもCNTの分散処理は特に限定されないが、各種の分散装置を用いるとよい。分散処理は、使用する材料の添加タイミングを任意に調整し、2回以上の多段階処理ができる。フッ素樹脂を添加する前にCNT分散液の分散性を十分に高めておくことで、フッ素樹脂添加時の樹脂組成物の流動性および分散性の低下を防止することができる。
【0076】
以下、カーボンナノチューブ分散液の一例について説明する。なお、上記した成分および物性を備える樹脂組成物は、後述のCNT分散液を用いて製造されるものに限定されない。CNT分散液は、CNTと、分散剤と、分散媒とを含み、任意成分を本発明の目的を阻害しない範囲で適宜含んでもよい。任意成分は、分散液作製前、分散時、分散後、またはこれらの組み合わせ等、任意のタイミングで添加することができる。任意成分としては、上記樹脂組成物で説明したものを用いることができる。
【0077】
CNT分散液は、CNTと分散剤と分散媒とを含む組成物を混合および分散することで得ることができる。CNT分散液の分散処理は、CNT分散液の粒子径が十分に小さくなるまで行うことが好ましい。例えば、分散処理後のCNT分散液は、レーザー回折/散乱式の粒度分布計にて求めた体積基準のメジアン径(μm)は40μm以下が好ましく、35μm以下がより好ましい。
【0078】
CNT分散液の分散処理は、CNT分散液の粘度が十分に低下するまで行うことが好ましい。例えば、分散後のCNT分散液は、B型粘度計を用いて、25℃において60rpmで測定した粘度が10mPa・s以上10000mPa・s未満であることが好ましく、10mPa・s以上5000mPa・s未満であることがより好ましく、10mPa・s以上2000mPa・s未満であることがさらに好ましく、10mPa・s以上1000mPa・s未満であることが一層好ましい。
【0079】
CNTの含有率は、CNT分散液の全量に対し、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましく、2質量%以上であることが特に好ましい。また、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。上記範囲にすることで、CNTを良好に、かつ安定に存在させることができる。より好ましくは2質量%以上10質量%質量%以下である。また、CNTの含有率は、CNTの比表面積、分散媒への親和性、分散剤の分散能等によって、適当な流動性または粘度のカーボンナノチューブ分散液が得られるように、適宜調整することが好ましい。
【0080】
分散剤の含有量は、CNTの100質量部に対して、5~200質量部であることが好ましく、10~100質量部であることがより好ましく、15~80質量部であることがさらに好ましい。分散剤の含有率は、CNT分散液の全量に対し、0.1~10質量%が好ましく、0.5~6質量%がより好ましい。CNT分散液の不揮発分量の濃度(質量%)は、0.2~40質量%が好ましく、0.5~20質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。
【0081】
CNT分散液を分散する際に用いる分散装置は、例えば、ニーダー、2本ロールミル、3本ロールミル、プラネタリーミキサー、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、アニュラー型ビーズミル、アトライター、ハイシアミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等が挙げられる。なかでも、CNT分散液中にCNTを微細に分散させ、好適な分散性を得るために、ハイシアミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、またはこれらを組み合わせて用いることが好ましい。特に、CNTの濡れを促進し、粗い粒子を解す観点から、分散の初期工程ではハイシアミキサーを用い、続いて、CNTのアスペクト比を保ったまま分散させる観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。高圧ホモジナイザーは循環分散によって多段階に行うことでCNTの分散性をより高めることができる。また、高圧ホモジナイザーで分散させたあと、さらにビーズミルにて分散させることで、繊維長を保ちつつ、分散状態を均一化させることができる。高圧ホモジナイザーを使用する際の圧力は60~150MPaが好ましく、60~120MPaであることがより好ましい。また、CNT分散液を分散する際に用いる分散装置は、CNT分散液を冷却するための熱交換器や冷却液供給機構を備えていてもよい。分散されて高温になったカーボンナノチューブ分散液、あるいは粗分散液を予め冷却することにより、カーボンナノチューブ分散液中の気泡発生を抑制することができ、また、分散タンク等の壁面の固形分の残存を抑制することができる。CNT分散液の液温は特に限定されないが、25~75℃に制御することが好ましく、40~65℃に制御することがより好ましい。
【0082】
分散装置を用いた分散方式には、バッチ式分散、パス式分散、循環分散等があるが、いずれの方式でもよく、2つ以上の方式を組み合わせてもよい。バッチ式分散とは、配管等を用いずに、分散装置本体のみで分散を行う方法である。取扱いが簡易であるため、少量製造する場合に好ましい。パス式分散とは、分散装置本体に、配管を介して被分散液を供給するタンクと、被分散液を受けるタンクとを備え、分散装置本体を通過させる分散方式である。また、循環式分散とは、分散装置本体を通過した被分散液を、被分散液を供給するタンクに戻して、循環させながら分散を行う方式である。いずれも処理時間を長くするほど分散が進むため、目的の分散状態になるまでパス、あるいは循環を繰り返せばよく、タンクの大きさや処理時間を変更すれば処理量を増やすことができる。パス式分散は循環式分散と比較して分散状態を均一化させやすい点で好ましい。循環式分散はパス式分散と比較して作業や製造設備が簡易である点で好ましい。分散工程は、凝集粒子の解砕、導電材の解れ、濡れ、安定化等が順次、あるいは同時に進行し、進行の仕方によって仕上がりの分散状態が異なることから、各分散工程における分散状態を各種評価方法を用いることにより管理することが好ましい。例えば、実施例に記載の方法で管理することができる。
【0083】
[工程II]
工程IIは、工程Iで得られたカーボンナノチューブ分散液にフッ素樹脂を添加する工程である。
【0084】
樹脂組成物は、CNT分散液に、フッ素樹脂を添加し、混合することで得ることが好ましい。フッ素樹脂は、フッ素樹脂を分散媒等に分散または溶解させた溶液(ワニス)状態で用いてもよいが、分散媒を含んでいない状態で用いることが好ましく、固体状態であることがより好ましく、粉末状であることが特に好ましい。粉末状のフッ素樹脂をCNT分散液に添加することで、フッ素樹脂の添加において非水分散媒の量が増加しないため、フッ素樹脂濃度および不揮発分濃度の高い樹脂組成物を提供することができる。ここで、フッ素樹脂の形態は特に限定されることなく、例えば、ペレット状、粉末状、顆粒状、フレーク状、塊状、またはチョップドファイバー等であってよい。
【0085】
非水分散媒にフッ素樹脂を添加すると、フッ素樹脂を含む非水分散媒の粘度は、フッ素樹脂の添加量に比例して上昇していく。CNT分散液にフッ素樹脂を添加する場合、CNTとフッ素樹脂を含む樹脂組成物の粘度は、フッ素樹脂溶液の粘度だけでなくCNTの含有量や分散度にも大きく影響を受ける。特に、発達した導電性ネットワークを形成する目的で繊維長が長いCNTを、その長さを一定以上に保ったまま均一かつ良好に分散させ、その導電ネットワークを壊すことなくフッ素樹脂を添加して樹脂組成物を作製する場合、ある一定濃度以上のフッ素樹脂を添加したところで樹脂組成物の流動性が急激に低下し、フッ素樹脂同士がまとまった「継粉」が生じる恐れがある。一度生じた「継粉」は凝集力が強く、攪拌装置を用いて長時間攪拌してもCNTを含有する樹脂組成物中で解すことは困難である。また、分散装置によってせん断応力を加える場合、「継粉」の解砕だけでなく、CNTの分散に寄与している分散剤の吸着を阻害する、あるいはCNTを破断してしまい、結果として導電ネットワークの形成が困難になる恐れがある。「継粉」が存在した状態で作製した合材スラリーは貯蔵安定性が不良となり、また、均一な電極膜を形成することができないことがある。
本発明の樹脂組成物は、カーボンナノチューブの分散性とフッ素樹脂の溶解性を両立することができるため、樹脂組成物の質量を基準として、フッ素樹脂の含有率が3.1質量%以上といった高濃度に含有する場合であっても、フッ素樹脂の継粉を抑制することができ、電気特性に優れた二次電池とすることができる。
【0086】
工程IIにおいて、フッ素樹脂を添加する速度(以後、投入速度と称する)、および/または、CNT分散液の温度を制御することで、均一な樹脂組成物を調製することを可能とし、CNTの良好な分散性を保持したまま合材スラリー、電極膜を作製することを可能とする。フッ素樹脂の投入速度、または、フッ素樹脂添加時および/または溶解時のCNT分散液の温度のいずれかを適切な範囲内にすることで上記効果は得られるが、投入速度、液温ともに制御することがより好ましい。フッ素樹脂の投入速度、およびCNT分散液の温度を制御せずにフッ素樹脂を添加した場合、樹脂組成物の流動性が急激に低下し、フッ素樹脂同士がまとまった「継粉」が生じる恐れがある。
【0087】
工程IIにおいて、カーボンナノチューブ分散液にフッ素樹脂を添加し、さらに溶解する工程を備えることが好ましい。
前記添加および溶解の少なくともいずれかの工程の液温が55度以上80度以下であることがより好ましい。
CNT分散液の温度は、55度以上80度以下であることが好ましく、60度以上75度以下であることがより好ましい。これにより、フッ素樹脂が非水分散媒に対して十分に溶解するため「継粉」状態で存在することなく溶解することができる。また、液温を上記範囲内とすることで、(1)および(2)を満たす樹脂組成物となるように制御することが可能となり、より分散安定性に優れた樹脂組成物とできる。
なお、フッ素樹脂を溶解する工程のCNT分散液の液温が55度以上80度以下であることが好ましく、フッ素樹脂を添加する工程および溶解する工程のいずれも、CNT分散液の液温が55度以上80度以下であることがより好ましい。
【0088】
なお、工程IIにおけるCNT分散液の温度、とはフッ素樹脂の添加の開始から溶解終点を判定するまでのCNT分散液の液温度であり、上記範囲内となるように分散タンク温度を加温または冷却する、または、ホモジナイザーやディスパーミキサー等を用いて高速攪拌で生じるせん断発熱を利用することで調節することができる。より具体的には、フッ素樹脂の添加の開始から溶解終点を判定するまでの間の液温を測定し、その添加時間内にCNT分散液の液温度が55度以上80度以下に達すればよい。
【0089】
CNT分散液へのフッ素樹脂の投入速度は、前記CNT分散液中が含有する非水分散媒100質量部に対して、2.0質量部/分以下であることができ、1.0質量部/分以下であることがより好ましく、0.5質量部/分以下が特に好ましい。また、CNT分散液へのフッ素樹脂の投入速度は、前記CNT分散液中が含有する非水分散媒の質量を基準として0.01質量部/分以上であることが好ましく、0.03質量部/分以上であることがより好ましい。上記投入速度にすることで、高濃度のフッ素樹脂を非水分散媒中に分散させてもフッ素樹脂を凝集させることなく添加することができる。
【0090】
そのため、フッ素樹脂の含有率が樹脂組成物の質量を基準として、3.1質量%以上の高濃度であっても、フッ素樹脂を凝集させることなく樹脂組成物を調製することができる。上記範囲より大きい速度でフッ素樹脂を添加する場合、フッ素樹脂を凝集させることなく均一に混合し溶解させるためには樹脂組成物に対してより高いせん断力を必要とするため、結果として先に調製したCNT分散液の分散状態を壊してしまう恐れがある。
また、CNT分散液へのフッ素樹脂の投入速度は、反応容器体積1m3に対して0.5kg/分ないし10kg/分範囲以内であることが好ましく、1kg/分ないし7.5kg/分範囲以内であることがより好ましい。
【0091】
さらに、CNT分散液に添加するフッ素樹脂の投入量は、前記CNT分散液中が含有する非水分散媒100質量部に対して、3質量部以上であってもよく、3.3質量部以上であってもよく、4質量部以上であってもよい。また、CNT分散液に添加するフッ素樹脂の投入量は、前記CNT分散液中が含有する非水分散媒100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。フッ素樹脂の含有率が上記範囲内であることにより、樹脂組成物中にフッ素樹脂全量を溶解しやすくなり、凝集やゲル化が発生することを抑制でき、また、電池の容量特性の低下を防ぐことができるために好ましい。
このように、本発明の二次電池電極用樹脂組成物は、(1)および(2)の要件を満たすことで、樹脂組成物中のフッ素樹脂の含有率が高い場合であっても、優れた分散性および流動性を有することができる。
【0092】
CNT分散液にフッ素樹脂を添加する方法は特に限定されないが、攪拌装置を用いてCNT分散液を攪拌しながらフッ素樹脂を添加することが好ましい。撹拌装置は特に限定されないが、一般的には、ディスパー(攪拌羽根)等が用いられる。その形状としては、プロペラ型、タービン型など様々なタイプがあるが、樹脂組成物を均質に攪拌できるものであれば、特に限定されない。また、攪拌速度は撹拌羽根のサイズや回転数によって適宜調整することができる。攪拌速度は実操業のプロセスで許容される範囲内であれば特に限定されないが、周速2.0m/秒以上が好ましく、周速5.0m/秒以上がより好ましい。
【0093】
≪二次電池電極用合材スラリー≫
二次電池電極用合材スラリーは、本発明の樹脂組成物に、さらに活物質を含むものである。
合材スラリーは、必要に応じて、その他の任意成分を本発明の目的を阻害しない範囲で適宜含んでもよい。任意成分は、合材スラリー作製前、混合時、混合後、またはこれらの組み合わせ等、任意のタイミングで添加することができる。任意成分は、上記樹脂組成物で説明したものであってよい。
【0094】
活物質は、正極活物質または負極活物質であってよい。本明細書では、正極活物質および負極活物質を、単に「活物質」という場合がある。活物質とは、電池反応の基となる材料のことである。活物質は、起電力から、正極活物質と負極活物質に分けられる。合材スラリーは、均一性および加工性を向上させるためにスラリー状であることが好ましい。
【0095】
<正極活物質>
正極活物質は、特に限定されないが、例えば、二次電池用途は、リチウムイオンを可逆的にドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物および金属硫化物等の金属化合物を使用することができる。例えば、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn2O4またはLixMnO2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoyO2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-yO2)、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixNiyCozMn1-y-zO2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiyO4)等のリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物粉末(例えばLixFePO4、LixFe1-yMnyPO4、LixCoPO4等)、酸化マンガン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、バナジウム酸化物(例えばV2O5、V6O13)、酸化チタン等の遷移金属酸化物粉末、硫酸鉄(Fe2(SO4)3)、TiS2およびFeS等の遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。ただし、x、y、zは、数であり、0<x<1、0<y<1、0<z<1、0<y+z<1である。これら正極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。これらの活物質の中でも、特に、Niおよび/またはMnを含有する活物質は(遷移金属中のNiおよび/またはMnの合計量が50mol%以上の場合は殊更)、原料由来成分または金属イオンの溶出によって、塩基性が高くなる傾向があり、その影響によって、バインダー樹脂のゲル化や分散状態の悪化が起こりやすいことから、Niおよび/またはMnを含有する活物質を含有する電池の場合、本実施形態が特に有効である。
【0096】
<負極活物質>
負極活物質は、特に限定されないが、例えば、リチウムイオンを可逆的にドーピングまたはインターカレーション可能な金属Li、またはその合金、スズ合金、シリコン合金負極、LiXTiO2、LiXFe2O3、LiXFe3O4、LiXWO2等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性高分子、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、樹脂焼成炭素材料を用いることができる。ただし、xは数であり、0<x<1である。これら負極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。特にシリコン合金負極を用いる場合、理論容量が大きい反面、体積膨張が極めて大きいため、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、樹脂焼成炭素材料等と組み合わせて用いるのが好ましい。
【0097】
合材スラリー中のCNTの含有量は、活物質の質量を基準として(活物質の質量を100質量%として)、0.01質量%以上であることが好ましく、0.03質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましい。また、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。上記範囲を上回ると、電極中の活物質の充填量が低下して電池の低容量化を招く。また、上記範囲を下回ると、電極および電池の導電性が不十分となる場合がある。
【0098】
合材スラリー中の分散剤の含有量は、活物質の質量を基準として(活物質の質量を100質量%として)、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましい。また、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0099】
合材スラリー中のフッ素樹脂の含有量は、活物質の質量を基準として(活物質の質量を100質量%として)、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましい。また、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
合材スラリーにその他のバインダー樹脂が含まれる場合は、フッ素樹脂およびその他のバインダー樹脂の合計量に対しその他のバインダー樹脂の含有量は、80質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0100】
合材スラリー中の不揮発分量は、合材スラリーの質量を基準として(合材スラリーの質量を100質量%として)、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。また、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましい。
【0101】
合材スラリーを作製する方法としては、樹脂組成物に活物質をさらに添加し撹拌する処理を行う方法が好ましい。撹拌に使用される撹拌装置は特に限定されない。撹拌装置には、ディスパー、ホモジナイザー等を用いることができる。
【0102】
また、合材スラリーはカーボンブラックをさらに含むことができ、カーボンブラックは導電材として機能する。カーボンブラックは本発明の効果を損なわない範囲で合材スラリーに含まれることが好ましく、カーボンブラックおよびカーボンナノチューブの全質量に対し、カーボンナノチューブは、1~80質量%が好ましく、1~50質量%がより好ましい。これらの範囲にて、カーボンナノチューブの分散状態をコントロールし、フッ素樹脂を含む状態で高い分散性および流動性をより良く維持することができる。さらに、カーボンブラックは、合材スラリーの全質量に対し、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。なお、合材スラリーの製造方法は、樹脂組成物へ活物質を添加する工程を備えるが、この樹脂組成物へ活物質を添加する前、後、同時、またはこれらの組み合わせにおいてカーボンブラックをさらに添加することを含むことができる。あるいは、カーボンブラックを予め含む樹脂組成物に活物質を添加してもよく、またはカーボンブラックを予め含む樹脂組成物に活物質とカーボンブラックをさらに添加してもよい。
【0103】
≪電極膜≫
電極膜は、合材スラリーを膜状に形成してなるものであり、カーボンナノチューブ、分散剤、フッ素樹脂、および活物質を含む。電極膜には、任意成分がさらに含まれてもよい。電極膜は、上記した樹脂組成物に活物質を添加し合材スラリーを作製し、合材スラリーを塗工することで得ることができる。例えば、電極膜は、合材スラリーを集電体上に塗工し、揮発分を除去することで形成することができる。
【0104】
集電体の材質や形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。例えば、集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、またはステンレス等の金属や合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したものや、穴あき箔状のもの、およびメッシュ状の集電体も使用できる。集電体の厚みは、0.5~30μm程度が好ましい。
【0105】
集電体上に合材スラリーを塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等が挙げられる。塗工後の乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機等が使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。また、合材スラリーの塗工後に、平版プレス、カレンダーロール等により圧延処理を行ってもよい。電極膜の厚みは、例えば、1μm以上、500μm以下であり、好ましくは10μm以上、300μm以下である。
【0106】
≪非水電解質二次電池≫
非水電解質二次電池は、正極と、負極と、電解質とを含み、正極および負極の少なくともいずれかが、上記した電極膜を有する。二次電池の製造方法では、例えば、正極および負極のうち少なくとも一方は、合材スラリーを集電体に塗工し電極膜を形成して作製され、合材スラリーは、上記した樹脂組成物に活物質を添加して作製される。
【0107】
正極としては、集電体上に正極活物質を含む合材スラリーを塗工乾燥して電極膜を作製したものを使用することができる。負極としては、集電体上負極活物質を含む合材スラリーを塗工乾燥して電極膜を作製したものを使用することができる。正極活物質および負極活物質には、上記したものを用いることができる。合材スラリーは、上記した方法にしたがって作製することができる。
【0108】
電解質は、液体電解質、ゲル状電解質、および固体電解質のいずれであってもよい。例えば、液体電解質は、リチウム塩等の電解質塩および非水溶媒を含むものであってよい。
【0109】
電解質塩としては、イオンが移動可能な従来公知の様々なものを使用することができる。例えば、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、LiC4F9SO3、Li(CF3SO2)3C、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF2、LiSCN、またはLiBPh4(ただし、Phはフェニル基である)等のリチウム塩が挙げられるが、これらに限定されない。電解質塩は非水溶媒に溶解して、電解液として使用することが好ましい。
【0110】
非水溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、およびγ-オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,2-メトキシエタン、1,2-エトキシエタン、および1,2-ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、およびメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、およびスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。
【0111】
二次電池は、セパレーターを含むことが好ましい。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布およびこれらに親水性処理を施した不織布等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0112】
二次電池の構造は特に限定されないが、通常、正極および負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとを備え、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【実施例0113】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。
【0114】
<分散剤の製造>
(製造例1:H-NBR3の製造)
ステンレス製重合反応器に、アクリロニトリル32部、1,3-ブタジエン68部、オレイン酸カリ石ケン3部、アゾビスイソブチロニトリル0.3部、t-ドデシルメルカプタン0.48部、およびイオン交換水200部を加えた。窒素雰囲気下において、撹拌しながら、45℃で20時間の重合を行い、転化率90%で重合を終了した。未反応のモノマーを減圧ストリッピングにより除き、固形分濃度約30%のアクリロニトリル-共役ジエン系ゴムラテックスを得た。続いて、ラテックスにイオン交換水を追加して全固形分濃度を12%に調整し、容積1Lの撹拌機付きオートクレーブに投入して、窒素ガスを10分間にわたり流して内容物中の溶存酸素を除去した。水素化触媒としての酢酸パラジウム75mgを、パラジウムに対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水180mLに溶解して調製した触媒液を、オートクレーブに添加した。オートクレーブ内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間の水素化反応を行った。その後、内容物を常温に戻し、オートクレーブ内を窒素雰囲気とした後、固形分を乾燥させて分散剤(H-NBR3)を得た。H-NBR3のムーニー粘度(ML1+4、100℃)(日本工業規格JIS K6300-1に準拠して温度100℃でL形ローターを使用して測定した)は、44であった。また、水素添加率(全反射測定法による赤外分光分析から算出)は0.7%であった。1H-NMR定量スペクトルから求めたアクリロニトリル由来の構造単位は32%であった。
【0115】
<カーボンナノチューブの高純度化処理>
(製造例2:100T-Pの製造)
カーボンナノチューブ(K-Nanos 100T:Kumho Petrochemical製)1gに対して、水5gを加えた後、ヘンシェル型ミキサーで撹拌し、粒状のカーボンナノチューブ(粒径約7mm)を得た。粒状のカーボンナノチューブをバットに広げ、100℃の減圧熱風オーブンにて7時間乾燥させ圧縮CNTを得た。得られた圧縮CNTをセラミック製のるつぼに入れ、焼成炉内に配置した。炉内を1Torr以下となるまで真空廃棄してから1000℃まで昇温させた。炉内の圧力が90Torrとなるまで毎分0.3Lの四塩化炭素ガスを導入した後、炉内の温度を1600℃まで昇温して1時間保持した。続いて、ヒーターを停止してからゆっくり1Torrになるまで減圧し、室温になるまで放冷しした。炉内の減圧を解除して、るつぼから高純度化処理したカーボンナノチューブ(100T-P)を回収した。
【0116】
実施例および比較例では、製造例1で製造した分散剤以外に、以下の分散剤を用いた。
・H-NBR1:Therban(R)AT 3404(ARLANXEO製、水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)
・H-NBR2:Zetpole2000L(日本ゼオン製、水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)
・PVB:BL-10(積水化学工業製、ポリビニルブチラール)
・PVP:K-30(ISP製、ポリビニルピロリドン)
・PVA:クラレポバール3-86SD(クラレ製、変性ポリビニルアルコール)
【0117】
実施例および比較例では、製造例2で製造したカーボンナノチューブ以外に、以下のカーボンナノチューブを用いた。
・100T:K-Nanos 100T(Kumho Petrochemical製、多層CNT、平均外径13nm、比表面積210m2/g)
・BT1001M:LUCAN BT1001M(LG chem Ltd製、多層CNT、平均外径13nm、比表面積250m2/g)
・10B:JENOTUBE10B(JEIO製、多層CNT、平均外径10nm、比表面積230m2/g)
・6A:JENOTUBE6A(JEIO製、多層CNT、平均外径6nm、比表面積700m2/g)
【0118】
実施例および比較例では、以下のフッ素樹脂を用いた。また、下記方法にて測定したフッ素樹脂の重量平均分子量(Mw)を示す。
・W#7300:KFポリマーW#7300(クレハ製、ポリフッ化ビニリデン樹脂、Mw:100万)
・S-5130:solef5130(solvay製、ポリフッ化ビニリデン樹脂、Mw:110万)
・W#1100:KFポリマーW#1100(クレハ製、ポリフッ化ビニリデン樹脂、Mw:28万)
・W#7200:KFポリマーW#7200(クレハ製、ポリフッ化ビニリデン樹脂、Mw:63万)
・W#9300:KFポリマーW#9300(クレハ製、ポリフッ化ビニリデン樹脂、Mw:100万)
・W#9700:KFポリマーW#9700(クレハ製、ポリフッ化ビニリデン樹脂、Mw:88万)
【0119】
<フッ素樹脂の重量平均分子量(Mw)の測定>
フッ素樹脂の重量平均分子量(Mw)は、フッ素樹脂粉末を0.1質量%で溶解したNMP溶液について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(日本分光株式会社製 GPC-900、shodex KD-806Mカラム、温度40℃)を用いることにより測定し、ポリスチレン換算値を重量平均分子量として算出した。
【0120】
<樹脂組成物の作製>
(実施例1-1)
[工程I]
表1に示す材料と組成に従い、酸、およびフッ素樹脂を除く材料を順次添加し、以下の通りCNT分散液を作製した。
まず、ステンレス製ジャケット付タンクにNMPをとり、50℃に加温した。ディスパーで撹拌しながら分散剤(H-NBR1)、添加剤(NaOH)を添加した後、1時間撹拌して、分散剤(H-NBR1)を溶解させた。続いて、CNT(100T)をディスパーで撹拌しながら添加してハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,000rpmの速度で全体が均一になり、溝の最大深さ300μmのグラインドゲージにて分散粒度が250μm以下になるまでバッチ式分散を行った。続いて、ジャケット付タンクから、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP-17007、スギノマシン製)に被分散液を供給し、パス式分散処理を行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて行った。被分散液のB型粘度計(TOKI SANGYO製、VISCOMETER、MODEL:BL)で測定した60rpmにおける粘度が3,000mPa・s以下となるまで分散した後、高圧ホモジナイザーにてパス回数15回で処理を行い、カーボンナノチューブ分散液を得た。
【0121】
[工程II]
続いて、ステンレス製ジャケット付タンクに前記CNT分散液を入れ、熱電対温度計で測定した液温が60℃になるように、ジャケット付タンクの温度を60℃に加温して、ディスパーで撹拌しながら、NMP100質量部に対し、3.32質量部のフッ素樹脂(W#7300)を、投入速度0.8質量部/分で全量添加した。熱電対温度計で測定した液温60℃を維持するように温度調節を行い、ディスパーを用いて周速12m/秒で3時間撹拌することで、バインダー樹脂を全量溶解させ、樹脂組成物1を得た。熱電対温度計で測定した液温は60±5℃であった。
【0122】
(実施例1-2~1-23)
表1に示す材料、組成、製造条件に従い変更した以外は、実施例1-1と同様にして樹脂組成物2~23を得た。
【0123】
(実施例1-24)
樹脂組成物1を得た後に、液温が30℃以下になるまで放冷を行い、酸を添加し、周速12m/秒に設定したディスパーで30分間撹拌することで、樹脂組成物24を得た。
【0124】
(実施例1-25)
フッ素樹脂を添加した後に、ディスパーを用いて周速2.0m/秒で3時間撹拌すること以外は、実施例1-1と同様にして樹脂組成物25を得た。
【0125】
(実施例1-26~28)
表1に示す投入速度および液温に変更した以外は、実施例1-1と同様にして樹脂組成物26~28を得た。
【0126】
(比較例1-1)
表1に示す材料と組成に従い、バインダー樹脂を投入速度NMP100質量部に対して3.32質量部/分で添加し、バインダー樹脂の溶解条件を、液温25℃、周速12m/秒で1時間攪拌とした以外は、実施例1-1と同様にして比較樹脂組成物1を得た。熱電対温度計で測定した液温は25±3℃であった。
【0127】
(比較例1-2)
表1に示す材料と組成に従い、バインダー樹脂を投入速度NMP100質量部に対して3.32質量部/分で添加し、バインダー樹脂の溶解時条件を、液温45℃とした以外は、実施例1-1と同様にして比較樹脂組成物2を得た。熱電対温度計で測定した液温は45±5℃であった。
【0128】
(比較例1-3)
表1に示す材料と組成に従い、バインダー樹脂を投入速度NMP100質量部に対して3.32質量部/分で添加し、バインダー樹脂の溶解時の条件を、液温45℃で6時間撹拌とした以外は、実施例1-1と同様にして比較樹脂組成物3を得た。熱電対温度計で測定した液温は45±5℃であった。
【0129】
(比較例1-4)
[工程I]
表1に示す材料と組成に従い、フッ素樹脂を除く材料を順次添加し、実施例1-1と同様にCNT分散液を作製した。
[工程II]
続いて、ステンレス製ジャケット付タンクに前記CNT分散液を入れ、熱電対温度計で測定した液温が50℃になるように、ジャケット付タンクの温度を50℃に加温して、ディスパーで撹拌しながら、NMP100質量部に対し、3.32質量部のフッ素樹脂(W#7300)を、目視で確認しつつ少量ずつ(投入速度はNMP100質量部に対して2.2質量部/分であった)添加した。熱電対温度計で測定した液温50℃を維持するように温度調節を行い、ディスパーを用いて周速12m/秒で2時間撹拌することで、バインダー樹脂を全量溶解させ、比較樹脂組成物4を得た。熱電対温度計で測定した液温は49±3℃であった。
【0130】
【0131】
なお、表1に記載の添加剤、酸は以下の通りである。
・NaOH:水酸化ナトリウム(東京化成工業製、純度>98.0%、顆粒状)
・アミノエタノール:2-アミノエタノール(東京化成工業製、純度>99.0%)
・t-BuONa:ナトリウム-t-ブトキシド(東京化成工業製、純度>98.0%)
・コハク酸:こはく酸(富士フィルム和光純薬製、純度>99.5%)
【0132】
<樹脂組成物の物性値測定と評価>
(樹脂組成物の不揮発成分濃度の測定)
樹脂組成物をアルミ皿に約2g量り取り、140℃1時間の条件で乾燥させた。乾燥後の残渣の重量を測定し、乾燥前の樹脂組成物の質量に対する残渣の質量を、樹脂組成物の不揮発成分濃度x(質量%)とした。
【0133】
(樹脂組成物の383s-1における粘度の測定方法)
樹脂組成物のずり速度383s-1における粘度は、直径60mm、2°のコーンにてレオメーター(Thermo Fisher Scientific株式会社製RheoStressl回転式レオメーター)を用い、25℃にて、シェアレート0.01から1000/秒の範囲でフローカーブ測定を実施することで評価した。
【0134】
(濾過速度)
樹脂組成物の分散性を濾過速度により評価した。
濾過速度試験の方法は、樹脂組成物40gにNMP160gを加え、手振りにて十分に混合した。300mLの減圧濾過用フィルターホルダーに全量入れ、吸引濾過鐘内の受け容器下に量りを置くことで、10μmメッシュを通った時間に対する重量を計測した。希釈した樹脂組成物を全量濾過する時間が短いほど、分散性は良好である。また、分散不良なものは凝集したCNTまたはフッ素樹脂の未溶解分が存在し、全量濾過することができなかった。評価基準がC以上であれば、実用可能である。
[評価基準]
A:60秒未満
B:60秒以上120秒未満
C:120秒以上
D:全量濾過することができない
【0135】
(貯蔵安定性)
貯蔵安定性の評価は、樹脂組成物の初期粘度と、樹脂組成物を40℃にて7日間静置して保存した後の粘度をそれぞれ測定し、初期粘度に対する40℃7日間静置保存後の粘度の変化率を算出し、評価した。樹脂組成物の粘度は、B型粘度計(東機産業製「BL」)を用いて、温度25℃にて、ヘラで十分に撹拌した後、直ちにB型粘度計ローター回転速度60rpmにて測定した。評価基準がC以上であれば、実用可能である。
[評価基準]
A:200%未満
B:200%以上500%未満
C:500%以上1000%未満
D:1000%以上(ゲル化している)
【0136】
【0137】
<正極合材スラリーおよび正極の作製>
(実施例2-1~2-31、比較例2-1~2-4)
表3に示す組み合わせと組成比に従い、以下のようにして正極合材スラリーおよび正極を作製した。
容量150cm3のプラスチック容器に樹脂組成物と、正極活物質を添加し、自転・公転ミキサー(シンキー製、あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで5分間撹拌し、正極合材スラリーを得た。正極合材スラリーの不揮発分は78質量%とした。
【0138】
正極合材スラリーを、アプリケーターを用いて、厚さ20μmのアルミ箔上に塗工した後、電気オーブン中で120±5℃で25分間加熱乾燥し、電極膜を作製した。その後、電極膜をロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、正極(正極1~31、比較正極1~4)を得た。なお、合材層の単位当たりの目付量が20mg/cm2であり、圧延処理後の合材層の密度は3.2g/ccであった。
【0139】
実施例および比較例では、以下の正極活物質を用いた。
・NMC1:セルシードNMC(LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、日本化学工業製)
・NMC2:S800(LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2、金和製)
・NCA:NAT-7050(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、BASF戸田バッテリーマテリアルズ製)
・LFP:HED(商標)LFP-400(リン酸鉄リチウム、BASF製)
【0140】
<正極の評価>
(正極の導電性)
得られた正極を、三菱化学アナリテック製:ロレスターGP、MCP-T610を用いて合材層の表面抵抗率(Ω/□)を測定した。測定後、合材層の厚みを乗算し、正極の体積抵抗率(Ω・cm)とした。合材層の厚みは、膜厚計(NIKON製、DIGIMICRO MH-15M)を用いて、電極中の3点を測定した平均値から、アルミ箔の膜厚を減算し、正極の体積抵抗率(Ω・cm)とした。評価基準がC以上であれば、実用可能である。
[評価基準]
A:10Ω・cm未満
B:10Ω・cm以上20Ω・cm未満
C:20Ω・cm以上30Ω・cm未満
D:30Ω・cm以上
【0141】
(正極の密着性)
得られた正極を、塗工方向を長軸として90mm×20mmの長方形に2本カットした。剥離強度の測定には卓上型引張試験機(東洋精機製作所製、ストログラフE3)を用い、180度剥離試験法により評価した。具体的には、100mm×30mmサイズの両面テープ(No.5000NS、ニトムズ製)をステンレス板上に貼り付け、作製した正極の合材層側を両面テープのもう一方の面に密着させ試験用試料とした。次いで、試験用試料を長方形の短辺が上下にくるように垂直に固定し、一定速度(50mm/分)でアルミ箔の末端を下方から上方に引っ張りながら剥離し、このときの応力の平均値を剥離強度とした。評価基準がC以上であれば、実用可能である。
[評価基準]
A:0.8N/cm以上
B:0.5N/cm以上0.8N/cm未満
C:0.3N/cm以上0.5N/cm未満
D:0.3N/cm未満
【0142】
【0143】
<二次電池の作製>
(標準負極の作製)
容量150mlのプラスチック容器にアセチレンブラック(デンカブラック(登録商標)HS‐100、デンカ製)0.5部と、MAC500LC(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩 サンローズ特殊タイプ MAC500L、日本製紙製、不揮発分100%)1部と、水98.4部とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。さらに活物質として人造黒鉛(CGB-20、日本黒鉛工業製)を97質量部添加し、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。続いてSBR(スチレンブタジエンゴム、TRD2001、不揮発分48%、JSR製)を3.1部加えて、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、標準負極合材スラリーを得た。標準負極合材スラリーの不揮発分は50質量%とした。
【0144】
上述の標準負極合材スラリーを集電体となる厚さ20μmの銅箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で80℃±5℃で25分間乾燥して電極の単位面積当たりの目付量が10mg/cm2となるように調整した。さらにロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、合材層の密度が1.6g/cm3となる標準負極を作製した。
【0145】
(実施例3-1~3-31、比較例3-1~3-4)
表4に記載した正極および標準負極を使用して、各々50mm×45mm、45mm×40mmに打ち抜き、打ち抜いた正極および標準負極と、その間に挿入されるセパレーター(多孔質ポリプロプレンフィルム)とをアルミ製ラミネート袋に挿入し、電気オーブン中、70℃で1時間乾燥した。その後、アルゴンガスで満たされたグローブボックス内で、電解液(エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートを体積比1:1:1の割合で混合した混合溶媒を作製し、さらに添加剤として、ビニレンカーボネートを100質量部に対して1質量部加えた後、LiPF6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を2mL注入した後、アルミ製ラミネートを封口して二次電池をそれぞれ作製した。
【0146】
(二次電池のレート特性)
得られた二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流1mA(0.02C))を行った後、放電電流10mA(0.2C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を3回繰り返した後、充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流(1mA0.02C))を行い、放電電流0.2Cおよび3Cで放電終止電圧3.0Vに達するまで定電流放電を行って、それぞれ放電容量を求めた。レート特性は0.2C放電容量と3C放電容量の比、以下の数式1で表すことができる。
(数式1) レート特性= 3C放電容量/3回目の0.2C放電容量×100 (%)
評価基準がC以上であれば、実用可能である。
[評価基準]
A:80%以上
B:60%以上80%未満
C:40%以上60%未満
D:40%未満
【0147】
(二次電池のサイクル特性)
得られた二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流25mA(0.5C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流2.5mA(0.05C))を行った後、放電電流25mA(0.5C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を200回繰り返した。サイクル特性は25℃における3回目の0.5C放電容量と200回目の0.5C放電容量の比、以下の数式2で表すことができる。
(数式2)サイクル特性= 3回目の0.5C放電容量/200回目の0.5C放電容量×100(%)
評価基準がC以上であれば、実用可能である。
[評価基準]
A:85%以上
B:80%以上85%未満
C:50%以上80%未満
D:50%未満
【0148】
【0149】
表2~4に示すように、本発明の二次電池電極用樹脂組成物は、濾過速度および貯蔵安定性高く、高い分散性および流動性を有していることが確認できた。また、二次電池電極用合材スラリーは、活物質を含む状態でカーボンナノチューブの分散性がよいために導電性および密着性が高く、これを用いた電極膜は、レート特性とサイクル特性に優れていた。これにより、高出力、高容量、高寿命な二次電池であることが確認できた。
このように、フッ素樹脂の含有率が二次電池電極用樹脂組成物の質量を基準として、3.1質量%以上といった高濃度の場合であっても、分散性および流動性が高く、二次電池電極用に好適に用いることができることを確認できた。
【0150】
以上、実施の形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記によって限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、発明の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。