(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094525
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】波長変換素子
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20240703BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20240703BHJP
C09K 11/02 20060101ALI20240703BHJP
C09K 11/70 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
G02B5/20
C09K11/08 J
C09K11/08 G
C09K11/02 Z
C09K11/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211121
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100156177
【弁理士】
【氏名又は名称】池見 智治
(74)【代理人】
【識別番号】100130166
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 宏明
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 裕貴
【テーマコード(参考)】
2H148
4H001
【Fターム(参考)】
2H148AA00
2H148AA07
2H148AA19
4H001CA01
4H001CC09
4H001XA08
4H001XA15
4H001XA17
4H001XA20
4H001XA38
4H001XA56
4H001YA63
(57)【要約】
【課題】波長変換素子において励起光の照射に応じて出射される蛍光の光量を増加させる。
【解決手段】波長変換素子は、波長変換部を備えている。波長変換部は、複数の蛍光体粒子と、バインダー層と、を含む。バインダー層は、複数の蛍光体粒子どうしを接合しているとともにガラスを含む。バインダー層は、複数の微細結晶粒子と、非晶質相と、を含む。複数の微細結晶粒子は、複数の蛍光体粒子のうちの1つ以上の蛍光体粒子に接触している1つ以上の微細結晶粒子を含む。複数の微細結晶粒子のそれぞれは、非晶質相に含まれた少なくとも一部の成分を含む。バインダー層を、複数の蛍光体粒子のそれぞれに接触している第1領域と、複数の蛍光体粒子から離れている第2領域と、に区分した場合に、第1領域における複数の微細結晶粒子の存在率は、第2領域における複数の微細結晶粒子の存在率よりも大きい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の蛍光体粒子と、該複数の蛍光体粒子どうしを接合しているとともにガラスを含むバインダー層と、を含む、波長変換部、を備え、
前記バインダー層は、複数の微細結晶粒子と、非晶質相と、を含み、
前記複数の微細結晶粒子は、前記複数の蛍光体粒子のうちの1つ以上の蛍光体粒子に接触している1つ以上の微細結晶粒子を含み、
前記複数の微細結晶粒子のそれぞれは、前記非晶質相に含まれた少なくとも一部の成分を含み、
前記バインダー層を、前記複数の蛍光体粒子のそれぞれに接触している第1領域と、前記複数の蛍光体粒子から離れている第2領域と、に区分した場合に、前記第1領域における前記複数の微細結晶粒子の存在率は、前記第2領域における前記複数の微細結晶粒子の存在率よりも大きい、波長変換素子。
【請求項2】
請求項1に記載の波長変換素子であって、
前記第1領域における前記複数の微細結晶粒子の存在率は、40%以上で且つ80%以下であり、
前記第2領域における前記複数の微細結晶粒子の存在率は、10%以上で且つ20%以下である、波長変換素子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の波長変換素子であって、
前記1つ以上の蛍光体粒子は、窒化物を含む、波長変換素子。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の波長変換素子であって、
前記複数の蛍光体粒子は、リンを含む1つ以上の第1蛍光体粒子と、リンを含まない1つ以上の第2蛍光体粒子と、を含み、
前記第1領域は、前記1つ以上の第1蛍光体粒子に接触している第1A領域と、前記1つ以上の第2蛍光体粒子に接触している第1B領域と、を含み、
前記第1A領域における前記複数の微細結晶粒子の存在率は、前記第1B領域における前記複数の微細結晶粒子の存在率よりも小さい、波長変換素子。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の波長変換素子であって、
前記バインダー層は、1つ以上の空隙、を含み、
前記第1領域における前記1つ以上の空隙の存在率は、前記第2領域における前記1つ以上の空隙の存在率よりも小さい、波長変換素子。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の波長変換素子であって、
前記波長変換部は、六方晶窒化ホウ素をそれぞれ含む複数の熱伝導性粒子、を含み、
該複数の熱伝導性粒子は、前記1つ以上の微細結晶粒子の表面に沿って位置している1つ以上の熱伝導性粒子を含む、波長変換素子。
【請求項7】
請求項6に記載の波長変換素子であって、
前記1つ以上の熱伝導性粒子は、前記1つ以上の微細結晶粒子の表面に接触している、波長変換素子。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載の波長変換素子であって、
前記波長変換部を支持している基材、をさらに備え、
該基材の熱伝導率は、前記波長変換部の熱伝導率よりも高い、波長変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、波長変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体に励起光を照射して、この励起光を異なる波長の光に変換する波長変換素子が知られている。そして、例えば、複数の蛍光体粒子と、隣接する蛍光体粒子を連結するバインダー層とを備え、バインダー層が、結晶質である複数の微細な無機粒子と、複数の微細な無機粒子の間に存在する非晶質の無機化合物を含むアモルファス相と、を含む波長変換部材がある(例えば、特許文献1の記載を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
波長変換素子については、励起光の照射に応じて出射される蛍光の光量を増加させる点で改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
波長変換素子が開示される。
【0006】
波長変換素子の一態様は、波長変換部を備えている。前記波長変換部は、複数の蛍光体粒子と、バインダー層と、を含む。前記バインダー層は、前記複数の蛍光体粒子どうしを接合しているとともにガラスを含む。前記バインダー層は、複数の微細結晶粒子と、非晶質相と、を含む。前記複数の微細結晶粒子は、前記複数の蛍光体粒子のうちの1つ以上の蛍光体粒子に接触している1つ以上の微細結晶粒子を含む。前記複数の微細結晶粒子のそれぞれは、前記非晶質相に含まれた少なくとも一部の成分を含む。前記バインダー層を、前記複数の蛍光体粒子のそれぞれに接触している第1領域と、前記複数の蛍光体粒子から離れている第2領域と、に区分した場合に、前記第1領域における前記複数の微細結晶粒子の存在率は、前記第2領域における前記複数の微細結晶粒子の存在率よりも大きい。
【発明の効果】
【0007】
波長変換素子において、励起光の照射に応じて出射される蛍光の光量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る照明システムの構成の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る波長変換素子の構成の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る波長変換素子の仮想的な断面の構成の一例を模式的に示すイメージ図である。
【
図4】
図4は、
図3の1点鎖線で囲まれたIV部の仮想的な断面の構成の一例を模式的に示すイメージ図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る波長変換素子の仮想的な断面の一部の構成における複数の微細結晶粒子の分布の一例を簡略化して示すイメージ図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係る波長変換素子の仮想的な断面の一部の構成における複数の微細結晶粒子および1つ以上の空隙の分布の一例を示すイメージ図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係る波長変換素子の製造フローの一例を示す流れ図である。
【
図8】
図8は、波長変換素子の製造途中の状態の一例を示す断面図である。
【
図9】
図9は、波長変換素子の製造途中の状態の一例を示す断面図である。
【
図10】
図10は、波長変換素子の製造途中の状態の一例を示す断面図である。
【
図11】
図11は、波長変換素子の製造途中の状態の一例を示す断面図である。
【
図12】
図12は、波長変換素子の製造途中の状態の一例を示す断面図である。
【
図13】
図13は、波長変換素子の製造途中において微細結晶粒子が出現する直前の状態のイメージを模式的に示す断面図である。
【
図14】
図14は、波長変換素子の製造途中において微細結晶粒子が出現した直後の状態のイメージを模式的に示す断面図である。
【
図15】
図15は、第2実施形態に係る波長変換素子の構成の一例を示す斜視図である。
【
図16】
図16は、第2実施形態に係る波長変換素子の構成の一例を示す断面図である。
【
図17】
図17は、第2実施形態に係る波長変換素子の製造フローの一例を示す流れ図である。
【
図18】
図18は、第2実施形態に係る基材の構成の一例を示す斜視図である。
【
図19】
図19は、第2実施形態に係る基材の構成の一例を示す断面図である。
【
図20】
図20は、第3実施形態に係る波長変換素子の仮想的な断面のうち、
図3の1点鎖線で囲まれたIV部に対応する部分の仮想的な断面の構成の一例を模式的に示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
レーザ光などの励起光を蛍光体に照射して励起光とは異なる波長の光に変換する波長変換素子が知られている。この波長変換素子については、例えば、複数の蛍光体粒子と、隣接する蛍光体粒子を連結するバインダー層とを備えている構成が考えられる。
【0010】
ところで、この波長変換素子のバインダー層において、結晶質である複数の微細な無機粒子を分散させ、この複数の微細な無機粒子の間に非晶質の無機化合物を存在させることが考えられる。この構成では、例えば、波長変換素子に照射された励起光は、複数の微細な無機粒子によって散乱するため、励起光が複数の蛍光体粒子の間をすり抜けにくくなる。換言すれば、励起光が複数の蛍光体粒子に照射される確率が上昇し得る。
【0011】
しかしながら、例えば、バインダー層において複数の微細な無機粒子の数が増大すると、微細な無機粒子と非晶質の無機化合物との界面が増加し、この界面におけるフレネル反射によって複数の蛍光体粒子に入射する励起光の光量が低下する場合がある。また、例えば、バインダー層において複数の微細な無機粒子の数が増大すると、励起光のうちの複数の微細な無機粒子に吸収される光量が増加し、複数の蛍光体粒子に入射する励起光の光量が低下する場合がある。そして、複数の蛍光体粒子に入射する励起光の光量が低下すると、励起光の照射に応じて出射される蛍光の光量が低下する。
【0012】
よって、波長変換素子については、励起光の照射に応じて出射される蛍光の光量を増加させる点で改善の余地がある。
【0013】
そこで、本開示の発明者は、波長変換素子について、励起光の照射に応じて出射される蛍光の光量を増加させることができる技術を創出した。
【0014】
これについて、以下、各種の実施形態および各種の例について図面を参照しつつ説明する。図面においては同一または類似の構成および機能を有する部分に同じ符号を付しており、下記の説明では重複する説明を省略する。図面では、各種の構成などを模式的に示している。
図2から
図6、
図13、
図14、
図16、
図19および
図20のそれぞれには、右手系のXYZ座標系を付している。より具体的には、波長変換部30tの第1面F1が向いている方向を+Z方向とし、+Z方向に垂直である一方向を+X方向とし、+Z方向に垂直であり且つ+X方向に垂直である一方向を+Y方向としている。
【0015】
<1.第1実施形態>
<1-1.照明システム>
図1は、第1実施形態に係る照明システム1の構成の一例を示す概略図である。照明システム1は、蛍光体を含む波長変換素子30に対して光源部2から励起光L0が照射されることで生じる蛍光L1を照明光L2として所定の空間(照明空間ともいう)に放射することができる。照明システム1は、屋内の空間に対して照明光L2を放射してもよいし、屋外の空間に対して照明光L2を放射してもよい。換言すれば、照明システム1が放射する照明光L2は、屋内で利用されてもよいし、屋外で利用されてもよい。また、複数の照明システム1が同じ空間に対して照明光L2をそれぞれ放射してもよいし、複数の照明システム1が互いに異なる複数の空間に対して照明光L2をそれぞれ放射してもよい。
【0016】
図1で示されるように、照明システム1は、例えば、光源部2と、変換部3と、照明部4と、を備えている。
【0017】
光源部2は、例えば、励起光L0を出射することができる。光源部2は、例えば、発光素子を有する。発光素子は、例えば、レーザーダイオード(Laser Diode:LD)または発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)のチップなどを含む。発光素子が発する励起光L0は、例えば、紫色、青紫色または青色などの単色の光であってよい。より具体的には、発光素子は、例えば、405ナノメートル(nm)の紫色のレーザ光を放出する窒化ガリウム(GaN)系の半導体レーザであってもよい。
図1の例では、光源部2が出射した励起光L0は、光ファイバなどの光の伝送路(第1光伝送路ともいう)G1などを介して変換部3に伝送される。この場合には、光源部2は、第1光伝送路G1のうちの励起光L0が入射される端部(第1入射端部ともいう)が接続された接続部を有する。
図1では、第1光伝送路G1によって励起光L0が伝送される様子を細い2点鎖線で描かれた矢印で示している。
【0018】
変換部3は、例えば、波長変換素子30を有する。波長変換素子30は、例えば、照射された励起光L0を、この励起光L0とは異なる波長の光に変換することができる。波長変換素子30は、例えば、励起光L0の照射に応じて励起光L0とは異なる波長の蛍光を発する蛍光体を含む。波長変換素子30が、例えば、蛍光体として、紫色の励起光L0の照射に応じて、赤色(R)の蛍光、緑色(G)の蛍光および青色(B)の蛍光を発する蛍光体を含んでいれば、波長変換素子30において、紫色の励起光L0は、擬似的な白色光に変換される。
図1の例では、励起光L0の照射に応じて波長変換素子30から発せられる蛍光L1は、光ファイバなどの光の伝送路(第2光伝送路ともいう)G2などを介して照明部4に伝送される。
図1では、第2光伝送路G2によって蛍光L1が伝送される様子を細い2点鎖線で描かれた矢印で示している。
【0019】
また、変換部3は、例えば、波長変換素子30が内部に固定された筐体を有する。この場合には、筐体は、例えば、第1光伝送路G1のうちの励起光L0を出射する端部(第1出射端部ともいう)が接続された第1開口部と、第2光伝送路G2のうちの蛍光L1が入射される端部(第2入射端部ともいう)が接続された第2開口部と、を有する。筐体の内部には、例えば、励起光L0の照射に応じて波長変換素子30から発せられる蛍光L1を第2光伝送路G2の第2入射端部に集めるためのミラーなどの光学素子が配置されていてもよい。
【0020】
照明部4は、例えば、光源部2から出射された励起光L0の照射に応じて波長変換素子30から発せられる蛍光L1を所定の照明空間に向けて発することができる。照明部4は、例えば、本体部および光学素子などを有する。この場合には、本体部は、例えば、第2光伝送路G2のうちの蛍光L1を出射する端部(第2出射端部ともいう)が接続された接続部を有する。本体部は、例えば、筒状の部材であってよい。光学素子は、例えば、本体部に取り付けられており、第2光伝送路G2の第2出射端部から出射される蛍光L1を照明光L2として所定の照明空間に向けて発する。
図1では、照明部4から所定の照明空間に向けて照明光L2が発せられる様子を細い2点鎖線で描かれた矢印で示している。
【0021】
また、照明システム1は、例えば、光源部2の動作を制御するための制御装置5を備えていてよい。制御装置5は、例えば、制御部51および駆動部52を有する。制御部51は、制御装置5の他の構成要素を制御することで、制御装置5の動作を統括的に管理することができる。制御部51は、例えば、CPU(Central Processing Unit)511および記憶部512を備えている。記憶部512は、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などの、CPU511が読み取り可能な非一時的な記録媒体を含む。記憶部512は、例えば、制御装置5を制御するためのプログラムPg1などを記憶している。制御部51における各種の機能は、CPU511が記憶部512内のプログラムPg1を実行することで実現される。駆動部52は、例えば、制御部51からの指示に応じて、光源部2を駆動させることができる。駆動部52は、例えば、電源からの電力を光源部2に供給することで光源部2を駆動させて、光源部2から励起光L0を出力させることができる。例えば、制御部51は、駆動部52を通じて電源から光源部2への電力の供給の有無を制御することで、光源部2が励起光L0を出射するタイミングを制御することができる。
【0022】
<1-2.波長変換素子>
図2は、第1実施形態に係る波長変換素子30の構成の一例を示す断面図である。
図2では、第1光伝送路G1のうちの第1出射端部の周辺および第2光伝送路G2のうちの第2入射端部の周辺が模式的に描かれている。
図2で示されるように、波長変換素子30は、波長変換部30tと、基材30bと、を備えている。波長変換部30tの断面の構造は、微小な構造が入り組んだ複雑な構造を有するが、
図2では便宜的に構造の模式的な図示を省略している。
【0023】
波長変換部30tは、例えば、励起光L0が入射される面(第1面ともいう)F1を有する。
図2では、第1光伝送路G1から第1面F1に向けて励起光L0が出射する様子を細い2点鎖線で描かれた矢印で示している。
図2では、第1面F1から第2光伝送路G2に向けて蛍光L1が出射する様子を細い2点鎖線で描かれた矢印で示している。また、波長変換部30tは、例えば、第1面F1とは逆側に位置している面(第2面ともいう)F2を有する。波長変換部30tは、例えば、第2面F2から第1面F1に向かう方向に沿った厚さを有する板状もしくは膜状の形状を有する。
【0024】
基材30bは、波長変換部30tを支持している部材である。別の観点から言えば、基材30bは、波長変換部30tが固定された部材である。ここで、例えば、基材30bの熱伝導率が、波長変換部30tの熱伝導率よりも高ければ、基材30bは、波長変換部30tから熱を放出させるヒートシンクとしての機能を有する。換言すれば、基材30bの存在によって、波長変換部30tから熱が放散する速度が向上し得る。これにより、波長変換部30tに含まれている複数の蛍光体粒子31の劣化が低減され得る。その結果、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射する蛍光L1の光量の低下が低減され得る。換言すれば、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射する蛍光L1の光量が増加し得る。
【0025】
基材30bの材料は、例えば、金属材料などであってよい。この金属材料として、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、金(Au)、銀(Ag)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ベリリウム(Be)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)または合金などが採用される。ここで、例えば、金属材料として、Cu、Al、Mg、Fe、Cr、CoまたはBeを採用すれば、ダイキャスト成型などの鋳造法によって、基材30bを容易に作製することができる。ここで、例えば、金属材料として、Al、Mg、Ag、Fe、CrまたはCoを採用すれば、基材30bの表面における可視光線の反射率を上昇させることができる。基材30bの表面を物理的研磨または化学研磨などで鏡面に加工することで可視光線の反射率を向上させてもよい。
【0026】
また、基材30bの材料として、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、炭化珪素(SiC)、窒化珪素(Si3N4)、炭素(C)、サファイア(Al2O3)、マグネシア(MgO)またはガーネットなどの非金属材料を採用してもよい。非金属材料は、例えば、結晶性を有する材料であっても、結晶性を有さない非結晶性の材料であってもよい。結晶性を有する非金属材料としては、例えば、SiCまたはSi3N4を採用してもよい。これらの非金属材料は、可視光に対する反射率が低いため、例えば、AlNを用いる場合には、表面に光学反射膜を形成してもよい。基材30bの形状および大きさは、波長変換素子30の大きさに応じて適宜設定してよい。例えば、平面視で矩形状の基材30bの場合には、基材30bの厚さを、0.1ミリメートル(mm)から5mm程度に設定し、基材30bの縦および横の長さを、それぞれ0.5mmから30mm程度に設定してもよい。
【0027】
また、基材30bは、例えば、波長変換部30tが配置された面(第3面ともいう)F3を有する。より具体的には、第3面F3に、波長変換部30tの第2面F2が固定された状態にある。
図2の例では、第1面F1は、+Z方向を向いており、第2面F2は、-Z方向を向いており、第3面F3は、+Z方向を向いている。基材30bは、例えば、板状の部材であってよい。板状の部材は、例えば、円板状の部材であってもよいし、平面視で矩形状の形状を有する部材であってもよい。
【0028】
図3は、第1実施形態に係る波長変換素子30の仮想的な断面の構成の一例を模式的に示すイメージ図である。
図4は、
図3の1点鎖線で囲まれたIV部の仮想的な断面の構成の一例を模式的に示すイメージ図である。
図3および
図4のそれぞれには、波長変換部30tの断面を対象とした走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いた撮影で得られた画像(SEM画像ともいう)に基づいて描いた断面のイメージが示されている。
図3では、基材30bに間隔の広い複数本の右上がりの斜線を用いたハッチングを付している。
【0029】
図3および
図4で示されるように、波長変換部30tは、複数の蛍光体粒子31と、バインダー層32と、を含む。
図3および
図4では、複数の蛍光体粒子31のそれぞれに間隔の狭い複数本の斜線を用いたハッチングを付している。
【0030】
複数の蛍光体粒子31のそれぞれは、例えば、励起光L0の照射に応じて蛍光を発する蛍光体の粒子である。複数の蛍光体粒子31は、例えば、励起光L0の照射に応じて励起光L0の波長スペクトルとは異なる1種類以上の波長スペクトルの蛍光を発する1種類以上の蛍光体粒子31を含む。1種類以上の蛍光体粒子31は、例えば、励起光L0の照射に応じて相互に異なる波長スペクトルを有する蛍光を発する複数の種類の蛍光体粒子31を含んでいてもよい。複数の種類の蛍光体粒子31は、例えば、赤色蛍光体の粒子と、緑色蛍光体の粒子と、青色蛍光体の粒子と、を含む。赤色蛍光体は、励起光L0の照射に応じて赤色(R)の蛍光を発する蛍光体である。緑色蛍光体は、励起光L0の照射に応じて緑色(G)の蛍光を発する蛍光体である。青色蛍光体は、励起光L0の照射に応じて青色(B)の蛍光を発する蛍光体である。
【0031】
複数の蛍光体粒子31を構成する蛍光体としては、例えば、ユーロピウム(Eu)、セリウム(Ce)もしくはイットリウム(Y)などのレアアースを、リン酸塩、酸化物、ケイ酸塩、窒化物、フッ化物、アルミン酸塩または硫化物などの化合物の形態で含む蛍光体が採用されてよい。
【0032】
赤色蛍光体として、例えば、励起光L0の照射に応じて発する蛍光の波長のピークが620nmから750nm程度の範囲にある蛍光体を採用してよい。赤色蛍光体の材料としては、例えば、CaAlSiN3:Eu、Y3O3S:Eu、Y3O3:Eu、SrCaClAlSiN3:Eu2+またはCaAlSi(ON)3:Euなどを採用してよい。赤色蛍光体の蛍光体粒子として、例えば、リン(P)を含まない蛍光体粒子(非リン系の蛍光体粒子ともいう)を採用してもよいし、窒化物を含む蛍光体粒子を採用してもよい。
【0033】
緑色蛍光体として、例えば、励起光L0の照射に応じて発する蛍光の波長のピークが495nmから570nm程度の範囲にある蛍光体を採用してよい。緑色蛍光体の材料としては、例えば、β-サイアロン(β-SiAlON:Eu)、SrSi2(O,Cl)2N2:Eu、(Sr,Ba,Mg)2SiO4:Eu2
2+、ZnS:Cu,AlまたはZn2SiO4:Mnなどを採用してよい。緑色蛍光体の蛍光体粒子として、例えば、リン(P)を含まない蛍光体粒子(非リン系の蛍光体粒子)を採用してもよいし、窒化物を含む蛍光体粒子を採用してもよい。
【0034】
青色蛍光体として、例えば、励起光L0の照射に応じて発する蛍光の波長のピークが450nmから495nm程度の範囲にある蛍光体を採用してよい。青色蛍光体の材料としては、例えば、(Ba,Sr)MgAl10O17:Eu、BaMgAl10O17:Eu、(Sr,Ca,Ba)10(PO4)6Cl2:Eu、(Sr,Ba)10(PO4)6Cl2:Euまたはα-サイアロンなどを採用してよい。青色蛍光体の蛍光体粒子として、例えば、リン(P)を含む蛍光体粒子(リン系の蛍光体粒子ともいう)を採用してもよいし、窒化物を含む蛍光体粒子を採用してもよい。
【0035】
蛍光体粒子31の粒子径は、例えば、5マイクロメートル(μm)から50μm程度であってよい。
【0036】
バインダー層32は、複数の蛍光体粒子31どうしを接合している。換言すれば、波長変換素子30は、バインダー層32において複数の蛍光体粒子31が分散している形態を有する。バインダー層32の材料としては、ガラスが採用される。換言すれば、バインダー層32は、ガラスを含む。バインダー層32は、主成分としてガラスを含んでいてよい。主成分とは、物質を構成している成分のうちの含有されている比率(含有率ともいう)が最も大きい(高い)成分のことを意味する。ガラスは、例えば、励起光L0を波長変換部30tの内部まで透過させるとともに、励起光L0の照射に応じて励起された蛍光体粒子31が発する蛍光L1を波長変換部30tの外部に放射するために透明性を有する。換言すれば、ガラスは、例えば、励起光L0および蛍光L1を透過させる透明性を有する。
【0037】
バインダー層32を構成しているガラスとして、例えば、低融点ガラスを採用してよい。低融点ガラスとして、例えば、融点(Tm)が摂氏200度(200℃)から700℃の酸化物ガラスを採用してよい。この低融点ガラスとしての酸化物ガラスは、例えば、100℃から600℃の範囲内のガラス転移点(Tg)と、150℃から650℃の範囲内の結晶化温度(Tc)と、を有する。酸化物ガラスとして、例えば、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ホウ素(B2O3)、酸化ナトリウム(Na2O3)、酸化カリウム(K2O)、酸化リチウム(Li2O)、酸化カルシウム(CaO)、酸化バリウム(BaO)、酸化亜鉛(ZnO)、一酸化鉛(PbO)および五酸化二リン(P2O5)のうちの2つ以上の酸化物を主成分として含有するガラスを採用してよい。換言すれば、酸化物ガラスは、金属元素の酸化物を含んでいてもよいし、半金属元素の酸化物を含んでいてもよい。
【0038】
バインダー層32は、例えば、複数の蛍光体粒子31の間、ならびに蛍光体粒子31と基材30bとの間に位置している。バインダー層32は、蛍光体粒子31に直接接触している部分では、蛍光体粒子31の熱を直接に伝導する機能を有する。ここで、蛍光体粒子31の表面は、被覆層で被覆されていてもよい。この場合には、「バインダー層32が蛍光体粒子31に直接接触している」状態は、蛍光体粒子31を被覆する被覆層とバインダー層32とが直接接触している状態を含む。波長変換部30tの第1面F1に励起光L0が照射される際には、励起光L0の照射によって複数の蛍光体粒子31で熱が生じる。この熱は、バインダー層32などを介して基材30bに伝導されて放散される。
【0039】
図3および
図4で示されるように、バインダー層32は、非晶質相321と、複数の微細な結晶粒子(微細結晶粒子ともいう)322と、を含む。微細結晶粒子322は、結晶質の粒子である。
図3および
図4では、非晶質相321に梨地模様を用いたハッチングを付している。
図3および
図4では、複数の微細結晶粒子322には図の簡略化を図る目的で便宜的にハッチングを付していない。
【0040】
非晶質相321は、例えば、ガラスのアモルファス相の部分であってよい。より具体的には、非晶質相321は、例えば、低融点ガラスのアモルファス相の部分であってよい。ガラスで構成された非晶質相321は、例えば、励起光L0および蛍光L1を透過させる透明性を有する。
【0041】
複数の微細結晶粒子322のそれぞれは、非晶質相321に含まれた少なくとも一部の成分を含む。微細結晶粒子322は、非晶質相321に含まれた少なくとも一部の成分を含む結晶質の粒子である。複数の微細結晶粒子322のそれぞれは、例えば、SiO2、Al2O3、B2O3、Na2O3、K2O、Li2O、CaO、BaO、ZnO、PbOおよびP2O5を含む酸化物のグループ(第1酸化物グループともいう)のうちの1つ以上の酸化物の結晶であってもよいし、第1酸化物グループのうちの2つ以上の酸化物が複合した酸化物(複合酸化物ともいう)の結晶であってもよい。例えば、微細結晶粒子322がZnOで構成されている例が考えられる。微細結晶粒子322は、非晶質相321に含まれた全ての成分を含む結晶質の粒子であってもよい。換言すれば、非晶質相321に含まれた少なくとも一部の成分は、非晶質相321に含まれた一部の成分であってもよいし、非晶質相321に含まれた全ての成分であってもよい。
【0042】
複数の微細結晶粒子322の大きさは、例えば、複数の蛍光体粒子31の大きさよりも小さくてよい。ここで、複数の微細結晶粒子322の大きさが、複数の蛍光体粒子31の大きさよりも小さい状態は、例えば、複数の微細結晶粒子322の粒子径の平均値が、複数の蛍光体粒子31の粒子径の平均値よりも小さい状態であってもよいし、複数の微細結晶粒子322のそれぞれの粒子径が、複数の蛍光体粒子31の粒子径の平均値よりも小さい状態であってもよい。粒子の粒子径は、例えば、粒子の長軸方向における径(長軸径ともいう)と粒子の短軸方向における径(短軸径ともいう)との平均値(幾何学的平均径ともいう)であってもよいし、平面に投影した面積もしくは体積と所定の幾何学的な公式とを用いて円または球形の粒子の直径に換算した値(相当径ともいう)であってもよいし、粒子の長手方向における長さ(最大径ともいう)であってもよい。微細結晶粒子322の粒子径は、例えば、0.1μmから3μm程度であってよい。
【0043】
微細結晶粒子322は、例えば、励起光L0および蛍光L1を透過させる透明性を有しているとともに、励起光L0および蛍光L1の一部を散乱させる特性を有する。このため、波長変換素子30に照射される励起光L0は、複数の微細結晶粒子322によって散乱されることで、励起光L0が複数の蛍光体粒子31の間をすり抜けにくくなる。換言すれば、複数の微細結晶粒子322の存在によって、励起光L0が複数の蛍光体粒子31に照射される確率が上昇し得る。
【0044】
複数の微細結晶粒子322は、複数の蛍光体粒子31のうちの1つ以上の蛍光体粒子31に接触している1つ以上の微細結晶粒子322を含む。
図3および
図4で示されるように、例えば、1つの蛍光体粒子31に対して1つの微細結晶粒子322が接触していてもよいし、1つの蛍光体粒子31に対して2つ以上の微細結晶粒子322が接触していてもよい。ここでは、微細結晶粒子322の熱伝導率が、非晶質相321の熱伝導率よりも高いことで、蛍光体粒子31に接触している微細結晶粒子322の存在により、微細結晶粒子322を介した熱伝達および熱伝導によって、蛍光体粒子31から熱が放散する速度が向上し得る。これにより、複数の蛍光体粒子31の劣化が低減され得る。その結果、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射される蛍光L1の光量の低下を低減することができる。換言すれば、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射される蛍光L1の光量を増加させることができる。
【0045】
図5は、第1実施形態に係る波長変換素子30の仮想的な断面の一部の構成における複数の微細結晶粒子322の分布の一例を簡略化して示すイメージ図である。
図5では、複数の蛍光体粒子31の形状を便宜的に円形としている。
【0046】
ここで、
図5で示されるように、バインダー層32を、複数の蛍光体粒子31のそれぞれに接触している領域(第1領域とも接触領域ともいう)A1と、複数の蛍光体粒子31から離れている領域(第2領域とも周辺領域ともいう)A2と、に区分した場合を想定する。
図5では、第1領域A1と第2領域A2との境界を細い2点鎖線で描かれた円で示している。
図5の例では、バインダー層32のうち、細い2点鎖線でそれぞれ描かれた複数の円の内側の領域が第1領域A1であり、細い2点鎖線でそれぞれ描かれた複数の円の外側の領域が第2領域A2である。第1実施形態では、第1領域A1における複数の微細結晶粒子322の存在率(第1存在率ともいう)は、第2領域A2における複数の微細結晶粒子322の存在率(第2存在率ともいう)よりも大きい。
【0047】
この構成が採用されれば、バインダー層32のうち、複数の蛍光体粒子31に近接している第1領域A1において、複数の蛍光体粒子31から離れている第2領域A2よりも、相対的に多くの微細結晶粒子322が存在している。このため、第2領域A2では、複数の微細結晶粒子322の減少によって、複数の微細結晶粒子322と非晶質相321との界面が減少し得る。これにより、複数の微細結晶粒子322と非晶質相321との界面におけるフレネル反射が減少し得るとともに、複数の微細結晶粒子322に吸収される励起光L0の光量が減少し得る。その結果、複数の蛍光体粒子31に入射する励起光L0の光量が増加し得る。よって、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射される蛍光L1の光量を増加させることができる。
【0048】
第1領域A1は、例えば、バインダー層32のうち、複数の蛍光体粒子31のそれぞれの表面から所定の距離(第1距離ともいう)の範囲内にある領域であってよい。第1距離は、例えば、複数の蛍光体粒子31の分散の度合いに応じて設定されてもよい。複数の蛍光体粒子31が密に分布している場合には、複数の蛍光体粒子31が疎に分布している場合よりも第1距離が小さくてもよい。第1距離は、例えば、複数の微細結晶粒子322の粒子径に応じて設定されてもよい。第1距離は、例えば、2μmであってもよいし、3μmであってもよいし、4μm以上の任意の長さであってもよい。
【0049】
第1領域A1における複数の微細結晶粒子322の存在率(第1存在率)と、第2領域A2における複数の微細結晶粒子322の存在率(第2存在率)との比較は、種々の比較方法によって実施され得る。この種々の比較方法の1つとして、例えば、波長変換部30tの切断面を対象としたSEM画像において、第1領域A1における複数の微細結晶粒子322の面積の割合(第1面積占有率ともいう)と、第2領域A2における複数の微細結晶粒子322の面積の割合(第2面積占有率ともいう)と、を比較する方法が考えられる。この場合には、例えば、第1存在率は、第1領域A1の仮想的な断面(仮想断面ともいう)における複数の微細結晶粒子322の面積の割合であってもよいし、第2存在率は、第2領域A2の仮想断面における複数の微細結晶粒子322の面積の割合であってもよい。ここで、第1領域A1の仮想断面と第2領域A2の仮想断面とは、例えば、波長変換部30tの同一の仮想断面上に位置していてもよいし、波長変換部30tの別の仮想断面上に位置していてもよい。
【0050】
例えば、波長変換部30tの切断面を対象としたSEM画像を取得する走査電子顕微鏡(SEM)には、エネルギー分散型X線分析装置(EDS装置ともいう)が搭載されている場合がある。この場合には、例えば、波長変換部30tの切断面のうちのSEM画像の対象となっている領域について、EDS装置を用いた元素分析によって、蛍光体粒子31と、非晶質相321と、微細結晶粒子322と、を区別してもよい。また、第1存在率は、例えば、第1領域A1における複数の微細結晶粒子322の体積の割合(第1体積占有率ともいう)であってもよいし、第2存在率は、第2領域A2における複数の微細結晶粒子322の体積の割合(第2体積占有率ともいう)であってもよい。
【0051】
ここで、第1領域A1における複数の微細結晶粒子322の存在率(第1存在率)は、例えば、40パーセント(%)以上で且つ80%以下であってもよい。第2領域A2における複数の微細結晶粒子322の存在率(第2存在率)は、例えば、10%以上で且つ20%以下であってもよい。例えば、第1存在率が40%であり、第2存在率が10%である場合が考えられる。また、例えば、第1存在率が80%であり、第2存在率が20%である場合が考えられる。
【0052】
第1実施形態では、例えば、1つ以上の微細結晶粒子322が接触している1つ以上の蛍光体粒子31が、窒化物を含む蛍光体粒子31であれば、この窒化物を含む蛍光体粒子31の表面がこの表面に接触している1つ以上の微細結晶粒子322によって保護される。これにより、蛍光体粒子31における窒化物の酸化の進行の度合いが低減され、窒化物を含む蛍光体粒子31の劣化が低減され得る。その結果、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射される蛍光L1の光量の低下を低減することができる。換言すれば、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射される蛍光L1の光量を増加させることができる。
【0053】
ここでは、1つの蛍光体粒子31の表面のうち1つ以上の微細結晶粒子322が接触している面積の割合が大きい程、この1つの蛍光体粒子31は1つ以上の微細結晶粒子322によって保護される度合いが大きくなり得る。また、例えば、複数の蛍光体粒子31が、酸素の含有率が相対的に低い材料で構成された蛍光体粒子31と、酸素の含有率が相対的に高い材料で構成された蛍光体粒子31と、を含む場合が考えられる。この場合には、例えば、酸素の含有率が相対的に低い材料として、上述した窒化物を含む赤色蛍光体の材料が採用されており、酸素の含有率が相対的に高い材料として、上述した窒化物を含まない青色蛍光体の材料が採用されている構成の一例が考えられる。この構成の一例では、窒化物を含む赤色蛍光体の蛍光体粒子31の表面がこの表面に接触している1つ以上の微細結晶粒子322によって保護されていれば、赤色蛍光体の酸化の進行の度合いが低減され、赤色蛍光体の劣化が低減され得る。その結果、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射される蛍光L1の光量の低下を低減することができる。換言すれば、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射される蛍光L1の光量を増加させることができる。
【0054】
また、第1実施形態では、例えば、
図3から
図5で示されるように、複数の蛍光体粒子31は、1つ以上のリン系の蛍光体粒子(第1蛍光体粒子ともいう)31aと、1つ以上の非リン系の蛍光体粒子(第2蛍光体粒子ともいう)31bと、を含んでいてもよい。この場合には、第1領域A1は、1つ以上の第1蛍光体粒子31aのそれぞれに接触している領域(第1A領域ともいう)A1aと、1つ以上の第2蛍光体粒子31bのそれぞれに接触している領域(第1B領域ともいう)A1bと、を含む。
図3から
図5では、第1蛍光体粒子31aに間隔の狭い複数本の右上がりの斜線を用いたハッチングを付しており、第2蛍光体粒子31bに間隔の狭い複数本の左上がりの斜線を用いたハッチングを付している。
【0055】
そして、例えば、
図5で示されるように、第1A領域A1aにおける複数の微細結晶粒子322の存在率(第1A存在率ともいう)は、第1B領域A1bにおける複数の微細結晶粒子322の存在率(第1B存在率ともいう)よりも小さくてもよい。この構成が採用されれば、非リン系の第2蛍光体粒子31bに近接している第1B領域A1bにおける多くの微細結晶粒子322の存在により、微細結晶粒子322を介した熱伝達および熱伝導によって、非リン系の第2蛍光体粒子31bから熱が放散する速度が向上し得る。ここでは、例えば、リン系の第1蛍光体粒子31aよりも非リン系の第2蛍光体粒子31bの方が熱による劣化の速度が大きい場合を想定する。この場合には、微細結晶粒子322を介した熱伝達および熱伝導によって、非リン系の第2蛍光体粒子31bから熱が放散する速度が向上すると、非リン系の第2蛍光体粒子31bの劣化が低減され得る。これにより、波長変換素子30において、複数の第2蛍光体粒子31bの劣化が低減される。その結果、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射される蛍光L1の光量の低下を低減することができる。換言すれば、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射される蛍光L1の光量を増加させることができる。
【0056】
例えば、走査電子顕微鏡(SEM)にEDS装置が搭載されている場合には、波長変換部30tの切断面のうちのSEM画像の対象となっている領域について、EDS装置を用いた元素分析によって、リン系の蛍光体粒子(第1蛍光体粒子)31aと、非リン系の蛍光体粒子(第2蛍光体粒子)31bと、を区別してもよい。
【0057】
第1A領域A1aは、例えば、バインダー層32のうち、1つ以上のリン系の蛍光体粒子(第1蛍光体粒子)31aのそれぞれの表面から所定の距離(第1A距離ともいう)の範囲内にある領域であってよい。第1B領域A1bは、例えば、バインダー層32のうち、1つ以上の非リン系の蛍光体粒子(第2蛍光体粒子)31bのそれぞれの表面から所定の距離(第1B距離ともいう)の範囲内にある領域であってよい。第1A距離と第1B距離とは、例えば、同一であってもよいし、異なっていてもよい。第1A距離および第1B距離のそれぞれは、例えば、複数の蛍光体粒子31の分散の度合いに応じて設定されてもよい。1つ以上の第1蛍光体粒子31aが密に分布している場合には、複数の第1蛍光体粒子31aが疎に分布している場合よりも第1A距離が小さくてもよい。1つ以上の第2蛍光体粒子31bが密に分布している場合には、複数の第2蛍光体粒子31bが疎に分布している場合よりも第1B距離が小さくてもよい。第1A距離および第1B距離のそれぞれは、例えば、複数の微細結晶粒子322の粒子径に応じて設定されてもよい。第1A距離および第1B距離のそれぞれは、例えば、2μmであってもよいし、3μmであってもよいし、4μm以上の任意の長さであってもよい。
【0058】
第1A領域A1aにおける複数の微細結晶粒子322の存在率(第1A存在率)と、第1B領域A1bにおける複数の微細結晶粒子322の存在率(第1B存在率)との比較は、種々の比較方法によって実施され得る。この種々の比較方法の1つとして、例えば、波長変換部30tの切断面を対象としたSEM画像において、第1A領域A1aにおける複数の微細結晶粒子322の面積の割合(第1A面積占有率ともいう)と、第1B領域A1bにおける複数の微細結晶粒子322の面積の割合(第1B面積占有率ともいう)と、を比較する方法が考えられる。この場合には、例えば、第1A存在率は、第1A領域A1aの仮想断面における複数の微細結晶粒子322の面積の割合であってもよいし、第1B存在率は、第1B領域A1bの仮想断面における複数の微細結晶粒子322の面積の割合であってもよい。ここで、第1A領域A1aの仮想断面と第1B領域A1bの仮想断面とは、例えば、波長変換部30tの同一の仮想断面上に位置していてもよいし、波長変換部30tの別の仮想断面上に位置していてもよい。また、第1A存在率は、例えば、第1A領域A1aにおける複数の微細結晶粒子322の体積の割合(第1A体積占有率ともいう)であってもよいし、第1B存在率は、第1B領域A1bにおける複数の微細結晶粒子322の体積の割合(第1B体積占有率ともいう)であってもよい。
【0059】
ここでは、第1A領域A1aにおける複数の微細結晶粒子322の存在率(第1A存在率)は、例えば、20%以上で且つ60%以下であってもよい。第1B領域A1bにおける複数の微細結晶粒子322の存在率(第1B存在率)は、例えば、40%以上で且つ80%以下であってもよい。例えば、第1A存在率が20%であり、第1B存在率が40%である場合が考えられる。また、例えば、第1A存在率が60%であり、第1B存在率が80%である場合が考えられる。
【0060】
また、第1実施形態では、例えば、
図3から
図5で示されるように、波長変換部30tは、複数の熱伝導性粒子33を含んでいてもよい。
図3から
図5では、複数の熱伝導性粒子33が直線状の太線で描かれている。複数の熱伝導性粒子33のそれぞれは、例えば、バインダー層32内、複数の蛍光体粒子31とバインダー層32との境界、および2つの蛍光体粒子31の間、のうちの1つ以上の場所に位置していてよい。複数の熱伝導性粒子33のそれぞれは、ガラスよりも優れた熱伝導性を有する粒子であってよい。複数の熱伝導性粒子33のそれぞれは、六方晶の結晶構造を有する窒化ホウ素(六方晶窒化ホウ素ともh-BNともいう)であってよい。例えば、走査電子顕微鏡(SEM)にEDS装置が搭載されている場合には、波長変換部30tの切断面のうちのSEM画像の対象となっている領域について、EDS装置を用いた元素分析によって、六方晶窒化ホウ素の粒子を検出してもよい。
【0061】
六方晶窒化ホウ素の粒子は、例えば、板状の形状を有し、板面に沿った方向(ab面に沿った方向とも(002)面に沿った方向ともいう)に高い熱伝導性を示すことが知られている(例えば、虎瀬 なつみ、多々見 純一、飯島 志行、高橋 拓実、「窒化物蛍光体粒子分散h-BN/ガラス複合体の作製」、粉体工学会誌 57巻3号 2020年 第137~143頁など参照)。換言すれば、熱伝導性粒子33は、板面に沿った方向において高い熱伝導性を有する。複数の熱伝導性粒子33のそれぞれの板面に沿った長さは、例えば、1μmから10μm程度であってもよいし、5μmから6μm程度であってもよい。熱伝導性粒子33は、蛍光体粒子31に直接接触している部分では、蛍光体粒子31の熱を直接に伝導する機能を有する。熱伝導性粒子33は、バインダー層32に接触している部分では、バインダー層32を介して蛍光体粒子31の熱を間接的に伝導する機能を有する。
【0062】
そして、例えば、
図3から
図5で示されるように、複数の熱伝導性粒子33は、1つ以上の蛍光体粒子31の表面に接触している1つ以上の微細結晶粒子322の表面に沿って位置している1つ以上の熱伝導性粒子33を含んでいてもよい。この構成が採用されれば、熱伝導性に優れた複数の六方晶窒化ホウ素(h-BN)が微細結晶粒子322の表面に沿って位置していることで、微細結晶粒子322および熱伝導性粒子33を介した熱伝達および熱伝導により、複数の蛍光体粒子31から熱が放散する速度が向上し得る。これにより、複数の蛍光体粒子31の劣化が低減され得る。その結果、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射される蛍光L1の光量の低下を低減することができる。換言すれば、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射される蛍光L1の光量を増加させることができる。ここでは、1つの熱伝導性粒子33は、1つの蛍光体粒子31の表面に接触している1つの微細結晶粒子322の表面に沿って位置していてもよいし、1つの蛍光体粒子31の表面にそれぞれ接触している2つ以上の微細結晶粒子322の表面に沿って位置していてもよいし、2つ以上の蛍光体粒子31の表面にそれぞれ接触している2つ以上の微細結晶粒子322の表面に沿って位置していてもよい。
【0063】
また、ここで、例えば、
図3から
図5で示されるように、1つ以上の蛍光体粒子31の表面に接触している1つ以上の微細結晶粒子322の表面に沿って位置している1つ以上の熱伝導性粒子33は、1つ以上の蛍光体粒子31の表面に接触している1つ以上の微細結晶粒子322の表面に接触していてもよい。この構成が採用されれば、蛍光体粒子31に接触している微細結晶粒子322の表面に、熱伝導性に優れた熱伝導性粒子33が接触していることで、微細結晶粒子322および熱伝導性粒子33を介した熱伝達および熱伝導により、蛍光体粒子31から熱が放散する速度が向上し得る。これにより、複数の蛍光体粒子31の劣化が低減され得る。その結果、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射される蛍光L1の光量の低下を低減することができる。換言すれば、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射される蛍光L1の光量を増加させることができる。
【0064】
また、第1実施形態では、例えば、
図6で示されるように、バインダー層32は、1つ以上の空隙323を含んでいてもよい。
図6は、第1実施形態に係る波長変換素子30の仮想的な断面の一部の構成における複数の微細結晶粒子322および1つ以上の空隙323の分布の一例を示すイメージ図である。
図6のイメージ図は、
図5で示したイメージ図に白抜きの円でそれぞれ描かれた複数の空隙323が加えられた図である。
図6では、バインダー層32は、9つの空隙323を含んでいるが、これに限られない。バインダー層32は、例えば、1つの空隙323を含んでいてもよいし、2つ以上の任意の数の空隙323を含んでいてもよい。ここでは、例えば、
図6で示されるように、第1領域A1における1つ以上の空隙323の存在率(第3存在率ともいう)は、第2領域A2における1つ以上の空隙323の存在率(第4存在率ともいう)よりも小さくてもよい。この構成が採用されれば、バインダー層32に空隙323が存在していても、第1領域A1における1つ以上の空隙323の存在率(第3存在率)が、第2領域A2における1つ以上の空隙323の存在率(第4存在率)よりも相対的に小さければ、蛍光体粒子31から熱が放射する速度が、空隙323の存在によって低下する度合いが低減され得る。これにより、複数の蛍光体粒子31の劣化が低減され得る。その結果、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射される蛍光L1の光量の低下を低減することができる。換言すれば、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射される蛍光L1の光量を増加させることができる。
【0065】
例えば、走査電子顕微鏡(SEM)にEDS装置が搭載されている場合には、波長変換部30tの切断面のうちのSEM画像の対象となっている領域について、EDS装置を用いた元素分析によって、バインダー層32のうち、非晶質相321と、微細結晶粒子322と、空隙323と、を区別してもよい。
【0066】
第1領域A1における1つ以上の空隙323の存在率(第3存在率)と、第2領域A2における1つ以上の空隙323の存在率(第4存在率)との比較は、種々の比較方法によって実施され得る。この種々の比較方法の1つとして、例えば、波長変換部30tの切断面を対象としたSEM画像において、第1領域A1における1つ以上の空隙323の面積の割合(第3面積占有率ともいう)と、第2領域A2における1つ以上の空隙323の面積の割合(第4面積占有率ともいう)と、を比較する方法が考えられる。この場合には、例えば、第3存在率は、第1領域A1の仮想断面における1つ以上の空隙323の面積の割合であってもよいし、第4存在率は、第2領域A2の仮想断面における1つ以上の空隙323の面積の割合であってもよい。ここで、第1領域A1の仮想断面と第2領域A2の仮想断面とは、例えば、波長変換部30tの同一の仮想断面上に位置していてもよいし、波長変換部30tの別の仮想断面上に位置していてもよい。また、第3存在率は、例えば、第1領域A1における1つ以上の空隙323の体積の割合(第3体積占有率ともいう)であってもよいし、第4存在率は、第2領域A2における1つ以上の空隙323の体積の割合(第4体積占有率ともいう)であってもよい。
【0067】
<1-3.波長変換素子の製造方法>
図7は、第1実施形態に係る波長変換素子30の製造フローの一例を示す流れ図である。
図8から
図12は、波長変換素子30の製造途中の状態の一例のそれぞれを示す断面図である。
図13は、波長変換素子30の製造途中において微細結晶粒子322が出現する直前の状態のイメージを模式的に示す断面図である。
図14は、波長変換素子の製造途中において微細結晶粒子322が出現した直後の状態のイメージを模式的に示す断面図である。以下、
図7を参照しつつ
図8から
図14を用いて波長変換素子30の製造方法について説明する。
【0068】
まず、
図8に示されるように、基材30bを準備する(ステップS1)。基材30bの材料としては、例えば、Cu、Al、Mg、Au、Ag、Fe、Cr、Co、Be、Mo、Wまたは合金など金属材料を採用してよい。基材30bの材料としては、例えば、AlN、GaN、SiC、Si
3N
4、C、Al
2O
3、MgOまたはガーネットなどの非金属材料を採用してもよい。
【0069】
次に、
図9で示されるように、基材30bのうちの波長変換部30tを形成する側の主面としての第3面F3に、波長変換部30tの平面視形状に対応した開口部30oを有するマスク30mを重ね合わせる(ステップS2)。マスク30mの材料としては、例えば、アルミニウムを採用してよい。この場合には、エッチング加工などにより所望の平面視形状の開口部30oが形成され得る。マスク30mの厚さは、波長変換部30tの厚さよりも大きく設定されている。例えば、波長変換部30tの厚さが0.1mmであれば、マスク30mの厚さは、0.15mmから0.2mmに設定されてよい。ここでは、例えば、マスク30mの材料は、樹脂であってもよい。所望の形状の開口部30oの形成が可能で、次の粉体の充填工程に耐えられる強度があれば、マスクの材料に限定はない。
【0070】
次に、
図10で示されるように、1種類以上の蛍光体粒子31の粉末(蛍光体粉末ともいう)と、ガラスの粉末(ガラス粉末ともいう)と、熱伝導性粒子33の粉末(熱伝導性粉末ともいう)と、を十分に混合した粉末(混合粉末ともいう)を、マスク30mの開口部30o内に充填し、粉末充填体PWを形成する(ステップS3)。
【0071】
ここで、混合粉末において、例えば、蛍光体粉末の含有率が10重量パーセント(wt%)から80wt%程度とされ、ガラス粉末の含有率が20wt%から90wt%程度とされ、熱伝導性粉末の含有率が0wt%から30wt%とされる。
【0072】
蛍光体粉末は、例えば、赤色蛍光体の粒子と緑色蛍光体の粒子と青色蛍光体の粒子とを含む。赤色蛍光体の材料として、上述したように、例えば、CaAlSiN3:Eu、Y3O3S:Eu、Y3O3:Eu、SrCaClAlSiN3:Eu2+またはCaAlSi(ON)3:Euなどを採用してよい。緑色蛍光体の材料として、上述したように、例えば、β-サイアロン(β-SiAlON:Eu)、SrSi2(O,Cl)2N2:Eu、(Sr,Ba,Mg)2SiO4:Eu2
2+、ZnS:Cu,AlまたはZn2SiO4:Mnなどを採用してよい。青色蛍光体の材料として、例えば、(Ba,Sr)MgAl10O17:Eu、BaMgAl10O17:Eu、(Sr,Ca,Ba)10(PO4)6Cl2:Eu、(Sr,Ba)10(PO4)6Cl2:Euまたはα-サイアロンなどを採用してよい。蛍光体粉末の粒度分布は、種々の粒子径の分布を有していてよい。例えば、蛍光体粉末は、50%粒子径(D50)が0.1μmから100μmの範囲の蛍光体粒子31を含んでいてもよいし、D50が10μmから30μmの範囲の蛍光体粒子31を含んでいてもよい。
【0073】
ガラス粉末は、例えば、焼結後に透明性を有する低融点ガラスの粉末であってよい。低融点ガラスとして、融点(Tm)が摂氏200℃から700℃の酸化物ガラスを採用してよい。この酸化物ガラスとして、上述したように、例えば、SiO2、Al2O3、B2O3、Na2O3、K2O、Li2O、CaO、BaO、ZnO、PbOおよびP2O5のうちの2つ以上の酸化物を主成分として含有するガラスを採用してよい。ガラス粉末の粒度分布は、蛍光体粉末の粒度分布と同じく、種々の粒子径の分布を有していてよい。例えば、ガラス粉末は、D50が0.1μmから100μmの範囲のガラス粒子を含んでいてもよいし、D50が10μmから20μmの範囲のガラス粒子を含んでいてもよい。
【0074】
熱伝導性粉末は、例えば、熱伝導性粒子33としての六方晶窒化ホウ素(h-BN)の粒子の粉末であってよい。六方晶窒化ホウ素の粒子は、板状の形状を有する。熱伝導性粉末の粒度分布は、種々の粒子径の分布を有していてよい。例えば、熱伝導性粉末は、50%粒子径(D50)が1μmから10μmの範囲の熱伝導性粒子33を含んでいてもよいし、D50が5μmから6μmの範囲の熱伝導性粒子33を含んでいてもよい。
【0075】
蛍光体粉末とガラス粉末と熱伝導性粉末との混合には、振動法または回転揺動法などを利用することができる。また、蛍光体粉末とガラス粉末と熱伝導性粉末とを混合する際にメディアを用いても良い。このメディアは、例えば、複数の種類の粉末を粉体の状態で直接混ぜる乾式方式、ならびに複数の種類の粉末を溶剤もしくはバインダーなどと混ぜる湿式方式など、複数の種類の粉末を混合する種々の方式で用いることができる。
【0076】
次に、
図11で示されるように、粉末充填体PWが形成された基材30b上からマスク30mを取り外し(ステップS4)、粉末充填体PWを加熱して仮焼結体PSを形成する(ステップS5)。ここでは、加熱温度を、ガラス粉末を構成しているガラスの融点(Tm)以上とし、蛍光体粒子31が蛍光機能を失う温度よりも低い温度に設定する。例えば、加熱温度は、260℃から600℃程度の温度域であってもよいし、350℃から450℃の温度域であってもよい。
【0077】
粉末充填体PWおよび仮焼結体PSの加熱ならびに以下に説明する加圧加工は、例えば、共通のチャンバー内で行われる。このチャンバーは、真空容器であってもよいし、真空容器でなくてもよい。例えば、チャンバーが真空容器であれば、加熱中に、チャンバー内を真空状態とすることができる。例えば、チャンバー内を真空状態として加熱すれば、ガラス粉末が溶融する際における気泡の発生が低減される。粉末充填体PWおよび仮焼結体PSの加熱ならびに加圧加工は、例えば、大気中で行われてもよい。粉末充填体PWおよび仮焼結体PSの加熱ならびに加圧加工は、例えば、多目的高温焼結炉を用いて行われてもよいし、ヒーターブロックとハンドプレスとを用いて行われてもよい。
【0078】
次に、
図12で示されるように、加熱温度が設定温度に達した後に、設定温度を保った状態で基材30b上において仮焼結体PSに加圧加工を施す(ステップS6)。加圧加工時の圧力は、蛍光体粒子31が物理的に潰れて蛍光機能を失うことがない圧力に設定され得る。例えば、加圧加工時の圧力は、20kgf/cm
2から300kgf/cm
2(約2MPaから約30MPa)程度に設定される。ここでは、この圧力条件を満たす圧力で、例えば、30秒間から30分間程度の期間、仮焼結体PSに対して加圧加工が施された状態が保持される。
【0079】
次に、仮焼結体PSに対する加圧加工時の圧力を維持したままで仮焼結体PSを所定の温度(第1所定温度ともいう)で保持する(ステップS7)。この際には、仮焼結体PSは、例えば、30秒間から30分間程度の期間、第1所定温度で保持される。第1所定温度は、ガラス粉末を構成していたガラスの結晶化温度(Tc)と融点(Tm)との間の温度に設定される。ここでは、例えば、ガラスのうちの蛍光体粒子31と接している部分においてガラスがエネルギー的に不安定な状態にあるため、主に複数の蛍光体粒子31の表面を起点として、ガラスを構成している少なくとも一部の成分が結晶化し得る。例えば、
図13から
図14で示されるように、主に複数の蛍光体粒子31の表面を起点として、ガラス32pを構成している少なくとも一部の成分が結晶化することで、複数の微細結晶粒子322が生じ得る。
図13および
図14では、ガラス32pの部分に密度の低い梨地模様を用いたハッチングを付している。また、
図13および
図14では、
図3および
図4と同じく、複数の蛍光体粒子31のそれぞれに間隔の狭い複数本の斜線を用いたハッチングを付しており、複数の熱伝導性粒子33が直線状の太線で描かれており、複数の微細結晶粒子322には便宜的にハッチングを付していない。
【0080】
次に、仮焼結体PSに対する加圧加工時の圧力を維持したままで仮焼結体PSをガラス転移点(Tg)よりも低い温度まで冷却し(ステップS8)、仮焼結体PSの温度がガラス粉末を構成していたガラスのガラス転移点(Tg)より低くなれば圧力を解除する。これにより、仮焼結体PSは、例えば、
図3から
図5で示されたような形態を有する波長変換部30tとなる。すなわち、上述したように、第1領域A1における複数の微細結晶粒子322の存在率(第1存在率)が、第2領域A2における複数の微細結晶粒子322の存在率(第2存在率)よりも大きい構成を有する、波長変換部30tを得ることができる。
【0081】
以上のステップによって、波長変換素子30が製造され得る。
【0082】
上記の製造方法において、例えば、第1所定温度ならびに仮焼結体PSが第1所定温度に保持される期間の長さを制御することで、複数の微細結晶粒子322の分布、数および大きさなどを調整することができる。例えば、第1領域A1における複数の微細結晶粒子322の存在率(第1存在率)が40%以上で且つ80%以下であり、第2領域A2における複数の微細結晶粒子322の存在率(第2存在率)が10%以上で且つ20%以下である構成を有する、波長変換部30tを得ることができる。
【0083】
また、上記の製造方法において、例えば、蛍光体粉末を構成している1種類以上の蛍光体粒子31に、窒化物を含む蛍光体粒子31を含ませてもよい。この場合には、例えば、上述した、1つ以上の微細結晶粒子322が接触している1つ以上の蛍光体粒子31が、窒化物を含む蛍光体粒子31を含む構成を有する、波長変換部30tを得ることができる。
【0084】
また、上記の製造方法において、例えば、蛍光体粉末を構成している1種類以上の蛍光体粒子31に、リン系の蛍光体粒子(第1蛍光体粒子)31aおよび非リン系の蛍光体粒子(第2蛍光体粒子)31bを含ませてもよい。そして、例えば、リン系の第1蛍光体粒子31aの表面が、非リン系の第2蛍光体粒子31bの表面よりも、凹凸が少ない場合がある。この場合には、例えば、仮焼結体PSが第1所定温度に保持される期間において、ガラスとリン系の第1蛍光体粒子31aとの界面の面積は、ガラスと非リン系の第2蛍光体粒子31bとの界面の面積よりも小さくなる。これにより、リン系の第1蛍光体粒子31aの表面を起点としてガラスを構成している少なくとも一部の成分が結晶化する度合いは、非リン系の第2蛍光体粒子31bの表面を起点としてガラスを構成している少なくとも一部の成分が結晶化する度合いよりも小さくなり得る。その結果、例えば、上述した、第1A領域A1aにおける複数の微細結晶粒子322の存在率(第1A存在率)が、第1B領域A1bにおける複数の微細結晶粒子322の存在率(第1B存在率)よりも小さい構成を有する、波長変換部30tを得ることができる。なお、ここで、蛍光体粒子31の表面において凹凸が相対的に少ない状態は、例えば、蛍光体粒子31の表面において凹凸の密度が相対的に小さい状態であってもよいし、蛍光体粒子31の表面において凹凸の密度が同等以上であり且つ凹凸の大きさが相対的に大きい状態であってもよい。
【0085】
また、上記の製造方法において、例えば、上述したステップS6において、仮焼結体PSに加圧加工を施す際には、仮焼結体PSにおける複数の蛍光体粒子31の含有率がある程度高ければ、複数の蛍光体粒子31の間隔が狭い場所が増加し得る。これにより、例えば、複数の蛍光体粒子31の間において溶融したガラスが毛細管現象で流動し得る。その際に、複数の熱伝導性粒子33が、複数の蛍光体粒子31の表面に沿って位置している部分が形成され得る。その後の上述したステップS7において、複数の蛍光体粒子31の表面を起点として複数の微細結晶粒子322が生じると、複数の熱伝導性粒子33のうちの一部の熱伝導性粒子33が、複数の蛍光体粒子31の表面を起点として生じた複数の微細結晶粒子322に沿って位置している状態となり得る。よって、例えば、上述した、複数の熱伝導性粒子33が、1つ以上の微細結晶粒子322の表面に沿って位置している1つ以上の熱伝導性粒子33を含む構成を有する、波長変換部30tを得ることができる。ここで、さらに、例えば、第1所定温度ならびに仮焼結体PSが第1所定温度に保持される期間の長さを制御することで、複数の微細結晶粒子322の大きさを調整すると、複数の熱伝導性粒子33のうちの一部の熱伝導性粒子33が、複数の蛍光体粒子31の表面を起点として生じた複数の微細結晶粒子322の表面に接触している状態となり得る。よって、例えば、上述した、1つ以上の微細結晶粒子322の表面に沿って位置している1つ以上の熱伝導性粒子33が、1つ以上の蛍光体粒子31の表面に接触している1つ以上の微細結晶粒子322の表面に接触している構成を有する、波長変換部30tを得ることができる。
【0086】
また、上記の製造方法において、例えば、基材30bの材料にアルミニウムのような酸化膜が形成され易い材料を用いた場合には、基材30bと波長変換部30tとは、酸化結合によって結合される。この場合には、加熱により基材30bの表面に形成された酸化膜の酸素と、酸化物ガラスの酸素とが結合する酸化結合によって基材30bと波長変換部30tとが結合する。これにより、基材30bと波長変換部30tとの結合力が高まり得る。
【0087】
また、上記の製造方法において、例えば、基材30bの材料に酸化結合しにくい材料を用いる場合には、基材30bの表面に、数μmの微小な凹凸を設けておき、その凹凸にガラスを絡みつかせることで、アンカー効果によって基材30bと波長変換部30tとの結合力を高めてもよい。換言すれば、基材30bの表面は、凹凸形状(微小な凹凸)を有していてもよい。例えば、ここでいう微小な凹凸の大きさは、加熱時に液状化した低融点ガラスが流動し、この微小な凹凸に入り込む大きさであればよい。この場合には、微小な凹凸の大きさは、例えば、0.1μmから50μmに設定され得る。また、微小な凹凸の大きさは、この微小な凹凸に蛍光体粒子31が入り込む大きさに設定されてもよい。この場合には、微小な凹凸の大きさは、例えば、5μmから50μmに設定され得る。ここでいう基材30bの微小な凹凸(凹凸形状の凹凸)の大きさは、例えば、基材30bの厚さ方向における、微小な凹凸の凹部の底(最下点)と凸部の頂(最高点)との間の寸法をいう。
【0088】
また、上記の製造方法において、例えば、基材30bの材料に酸化結合もアンカー効果も期待できない材料を用いる場合には、波長変換部30tと基材30bとを別々に準備してもよい。ここでは、例えば、基材30b上に波長変換部30tを形成するのではなく、基材30bとは別に、粉末充填体PWを形成して、粉末充填体PWを加熱して仮焼結体PSを形成し、仮焼結体PSに対する加圧加工などを行うことで、波長変換部30tを得てもよい。この場合には、波長変換部30tのうちの基材30bに対向する面に、金属の多層膜を形成し、波長変換部30tと基材30bとを半田付けで接合してもよい。
【0089】
ここで、多層膜の一例としては、波長変換部30t側からチタン(Ti)、白金(Pt)、金(Au)の順で薄膜が積層された多層膜(Ti/Pt/Auの多層膜ともいう)が挙げられる。この多層膜は、例えば、スパッタリング法もしくは蒸着法によって数nmから数百nmの厚さで形成され得る。ここでは、Tiは酸化物ガラスとの結合性が良く、Auは半田材との濡れ性が良い材料である。Pt膜は、半田材が溶融した際に、溶融した半田材によるTi膜の波長変換部30tからの剥離を低減するバリア膜として機能する。多層膜には、例えば、波長変換部30t側からクロム(Cr)、Pt、Auの順で薄膜が積層された多層膜(Cr/Pt/Auの多層膜ともいう)または波長変換部30t側からCr、ニッケル(Ni)、Auの順で薄膜が積層された多層膜(Cr/Ni/Auの多層膜ともいう)などの多層膜が用いられてもよい。ここで、例えば、Tiの薄膜の厚さが0.1μm程度とされ、Ptの薄膜の厚さが0.2μm程度とされ、Auの薄膜の厚さが0.2μm程度とされ得る。また、半田材としては、例えば、スズ(Sn)-リン(P)-銅(Cu)半田またはAu-Sn半田などが採用され得る。
【0090】
<1-4.第1実施形態のまとめ>
第1実施形態に係る波長変換素子30では、例えば、複数の微細結晶粒子322が、複数の蛍光体粒子31のうちの1つ以上の蛍光体粒子31に接触している1つ以上の微細結晶粒子322を含む。ここでは、微細結晶粒子322の熱伝導率が、非晶質相321の熱伝導率よりも高いことで、蛍光体粒子31に接触している微細結晶粒子322の存在により、微細結晶粒子322を介した熱伝達および熱伝導によって、蛍光体粒子31から熱が放散する速度が向上し得る。これにより、複数の蛍光体粒子31の劣化が低減され得る。その結果、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射される蛍光L1の光量の低下を低減することができる。換言すれば、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射される蛍光L1の光量を増加させることができる。
【0091】
さらに、第1実施形態に係る波長変換素子30では、例えば、バインダー層32を、複数の蛍光体粒子31のそれぞれに接触している第1領域A1と、複数の蛍光体粒子31から離れている第2領域A2と、に区分した場合に、第1領域A1における複数の微細結晶粒子322の存在率(第1存在率)が、第2領域A2における複数の微細結晶粒子322の存在率(第2存在率)よりも大きい。ここでは、バインダー層32のうち、複数の蛍光体粒子31に近接している第1領域A1において、複数の蛍光体粒子31から離れている第2領域A2よりも、相対的に多くの微細結晶粒子322が存在している。このため、第2領域A2では、複数の微細結晶粒子322の減少によって、複数の微細結晶粒子322と非晶質相321との界面が減少し得る。これにより、複数の微細結晶粒子322と非晶質相321との界面におけるフレネル反射が減少し得るとともに、複数の微細結晶粒子322に吸収される励起光L0の光量が減少し得る。その結果、複数の蛍光体粒子31に入射する励起光L0の光量が増加し得る。よって、波長変換素子30において、励起光L0の照射に応じて出射される蛍光L1の光量を増加させることができる。
【0092】
<2.他の実施形態>
本開示は上述の第1実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更および改良などが可能である。
【0093】
<2-1.第2実施形態>
上記第1実施形態において、例えば、基材30bは、波長変換部30tが配置される種々の構造を有する基材とされてもよい。
【0094】
図15は、第2実施形態に係る波長変換素子30Aの構成の一例を示す斜視図である。
図16は、第2実施形態に係る波長変換素子30Aの構成の一例を示す断面図である。
【0095】
図15および
図16で示されるように、第1実施形態に係る波長変換素子30は、例えば、基材30bAの凹部30r内に波長変換部30tが位置している波長変換素子30Aに変更されてもよい。凹部30rは、底面としての第3面F3および側面としての第4面F4とを有する。波長変換部30tの第2面F2が凹部30rの第3面F3に固定された状態にある。波長変換部30tの側面が凹部30rの第4面F4に接している。
【0096】
この構成が採用されれば、波長変換部30tの内部で散乱して蛍光L1に変換されなかった励起光L0が、基材30bAの凹部30rの側面としての第4面F4で反射して、波長変換部30tの内部に戻り、蛍光L1に変換され得る。また、波長変換部30tの側面が凹部30rの第4面F4に接しているため、波長変換部30tで発生した熱が第4面F4から基材30bを介して外部に放散され、波長変換部30tの温度の上昇が低減され得る。
【0097】
図17は、第2実施形態に係る波長変換素子30Aの製造フローの一例を示す流れ図である。以下、
図17を参照して波長変換素子30Aの製造方法について説明する。
【0098】
まず、
図18および
図19で示されるような基材30bAを準備する(ステップS11)。
図18は、第2実施形態に係る基材30bAの構成の一例を示す斜視図である。
図19は、第2実施形態に係る基材30bAの構成の一例を示す断面図である。基材30bAは、全体が円板状の形状を有し、第1の板面に凹部30rを有する。基材30bAの凹部30rの深さは、例えば、0.01mmから1mmに設定される。基材30bAのうちの凹部30rの底面よりも-Z側に位置している部分の厚さは、例えば、0.05mmから10mmに設定される。凹部30rの深さは、波長変換部30tの厚さよりも大きく設定される。例えば、波長変換部30tの厚さが0.1mmであれば、凹部30rの深さは0.15mmから0.2mmに設定される。また、例えば、基材30bAの直径は0.5mmから30mmに設定され、凹部30rの直径は0.1mmから10mmに設定される。
【0099】
基材30bAの材料には、波長変換部30tの熱膨張係数と近い熱膨張係数を持つ材料が採用される。例えば、波長変換部30tのバインダー層32を構成しているガラスの熱膨張係数に対して、±50%の熱膨張係数を持つ金属材料または無機材料が採用され得る。例えば、基材30bAの材料に金属材料が用いられる場合には、金属材料として、アルミニウムまたはアルミニウム合金などが採用され得る。例えば、基材30bAの材料としてアルミニウムなどの光の反射率が高い材料を用いる場合には、基材30bAの表面を物理的研磨または化学研磨などで鏡面に加工することで基材30bAの表面における可視光線の反射率を向上させてもよい。また、基材30bAの材料に金属材料を用いる場合には、例えば、マシニング加工による切削加工またはダイキャスト法による成型加工によって基材30bAが形成され得る。
【0100】
また、基材30bAの材料にセラミックスを用いてもよい。この場合には、積層セラミックスを用いて基材30bAが形成されてもよいし、粉体の加圧成型によって基材30bAが形成されてもよい。ここでは、例えば、グリーンシートの状態で、凹部30rに対応する貫通穴を設けたリング状のグリーンシートと、貫通穴を設けていない円板状のグリーンシートとを積層して、焼結させることで、積層セラミックスによって基材30bAが形成され得る。また、例えば、円筒状の開口部を有する第1の金型にセラミックスの粉末を充填し、凹部(凹部30rに対応)を設けるための第2の金型によって第1の金型に充填されたセラミックスの粉末に圧力をかけることで、粉体の加圧成型によって基材30bAが形成され得る。例えば、セラミックスの粉末にワックスおよびバインダーなどを混ぜて、加圧処理することで凹部30rに対応する凹部が設けられた成型体を形成し、この成型体を焼結させることで、基材30bAが形成されてもよい。基材30bAの材料に適用可能なセラミックスは、例えば、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素、ムライトおよびジルコニアなどを含む。
【0101】
また、基材30bAがセラミックスと金属とで形成されていてもよい。例えば、円板状のセラミックスの基板の上に、アルミニウムまたはアルミニウム合金などの金属製のリング状の部材(金属製部材ともいう)を接合材で接合することで、基材30bAが形成され得る。この場合には、リング状の部材の貫通穴が凹部30rとなる。接合材としては、例えば、AgまたはCuを主成分とするロウ材などが採用され得る。または、接合材としては、Alを主成分とするロウ材、SnとAgとCuとを主成分とした半田、またはエポキシ、シリコーンもしくはアクリルなどの樹脂製の接合材が採用されてもよい。樹脂製の接合材には、例えば、Ag、AlNもしくは窒化ホウ素(BN)などの高い熱伝導性を有するフィラー(高熱伝導フィラーともいう)を入れることで、基材30bAの熱伝導性が高められてもよい。
【0102】
また、基材30bAは、一体焼成による積層セラミックスで形成するのではなく、セラミックスの基板とセラミックスのリング状部材とを接合材で接合することで形成されてもよい。この場合にも、前述した接合材を用いることができる。
【0103】
ここで、
図17の説明に戻り、次に、1種類以上の蛍光体粒子31の粉末(蛍光体粉末)と、ガラス粉末と、熱伝導性粒子33の粉末(熱伝導性粉末)と、を十分に混合した粉末(混合粉末)を、凹部30r内に充填し、粉末充填体を形成する(ステップS12)。ここで、混合粉末における蛍光体粉末、ガラス粉末および熱伝導性粉末の各含有率、蛍光体粒子31、ガラス粉末および熱伝導性粒子33の材料、組成および混合法などの説明については、上記第1実施形態における説明と重複するため、その説明を省略する。
【0104】
次に、凹部30r内に粉末充填体が充填された基材30bAごと粉末充填体を加熱して仮焼結体を形成する(ステップS13)。粉末充填体の加熱の説明については、上記第1実施形態における説明と重複するため、その説明を省略する。
【0105】
次に、加熱温度が設定温度に達した後に、設定温度を保った状態で基材30bA上において仮焼結体に対して加圧加工を施す(ステップS14)。仮焼結体の加熱および加圧加工の説明については、上記第1実施形態における説明と重複するため、その説明を省略する。
【0106】
次に、仮焼結体に対する加圧加工時の圧力を維持したままで仮焼結体を所定の温度(第1所定温度)で保持する(ステップS15)。仮焼結体の第1所定温度で保持する処理の説明については、上記第1実施形態における説明と重複するため、その説明を省略する。
【0107】
次に、仮焼結体に対する加圧加工時の圧力を維持したままで仮焼結体をガラス転移点(Tg)よりも低い温度まで冷却し(ステップS16)、仮焼結体の温度がガラス粉末を構成していたガラスのガラス転移点(Tg)より低くなれば圧力を解除する。
【0108】
以上のステップによって、波長変換素子30Aが製造され得る。また、例えば、基材30bAの凹部30r内に粉末充填体を形成するため、
図7の製造フローを用いて説明した第1実施形態に係る波長変換素子30の製造方法に対して、基材上にマスク30mを重ね合わせるステップS2およびマスク30mを取り外すステップS4が不要となり、製造工程の簡略化が図られ得る。
【0109】
ここで、
図15で示した波長変換素子30Aは、円板状の基材30bAの上面に平面視の形状が円形である凹部30rを設けた構成を有していたが、基材30bAは、円板状に限定されず、凹部30rの平面視の形状も円形に限定されない。
【0110】
ここで、例えば、基材30bAの凹部30rの内部空間の形状は、板状または柱状に限定されない。基材30bAの凹部30rの内部空間の形状は、例えば、円錐状もしくは角錐状などの錐状であってもよいし、半球状もしくは半楕円体状であってもよい。これらの場合には、基材30bAは、例えば、凹部30rの底面として第3面F3を有していれば、凹部30rの側面としての第4面F4を有していなくてもよい。
【0111】
ここでは、波長変換部30tの第1面F1は、例えば、凹部30rの底面としての第3面F3に平行な面であれば、XY平面に沿った平坦な面であってもよいし、XY平面に沿った平坦な面でなくてもよい。
【0112】
例えば、基材30bAの凹部30rの内部空間の形状が、円錐状もしくは角錐状などの錐状であれば、波長変換部30tの第1面F1は、例えば、XY平面に沿った平坦な面であってもよいし、第3面F3に平行な面であってもよい。波長変換部30tは、例えば、凹部30rの形状に応じた円錐状もしくは角錐状などの錐状の形状を有していてもよいし、第3面F3に沿って曲がった板状の形状を有していてもよい。
【0113】
例えば、基材30bAの凹部30rの内部空間の形状が、半球状もしくは半楕円体状であれば、波長変換部30tの第1面F1は、例えば、XY平面に沿った平坦な面であってもよいし、第3面F3に平行な面であってもよい。波長変換部30tは、例えば、凹部30rの形状に応じた半球状もしくは半楕円体状の形状を有していてもよいし、第3面F3に沿って曲がった板状の形状を有していてもよい。
【0114】
窪んだ第1面F1を有する波長変換部30tは、例えば、加圧加工などを行う際に、第3面F3の形状に応じた凸状部を有する押圧体によって仮焼結体が押圧されることで実現され得る。
【0115】
<2-2.第3実施形態>
上記第1実施形態および上記第2実施形態のそれぞれにおいて、例えば、波長変換部30tは、複数の熱伝導性粒子33を含んでいなくてもよい。
図20は、第3実施形態に係る波長変換素子30,30Aの仮想的な断面のうち、
図3の1点鎖線で囲まれたIV部に対応する部分の仮想的な断面の構成の一例を模式的に示すイメージ図である。
図20のイメージ図は、
図4のイメージ図から複数の熱伝導性粒子33を除いたものである。
【0116】
この場合には、例えば、波長変換素子30,30Aを製造する際に、混合粉末が、1種類以上の蛍光体粒子31の粉末(蛍光体粉末)と、ガラス粉末と、を十分に混合した粉末であってよい。
【0117】
<3.その他>
上記各実施形態では、例えば、複数の蛍光体粒子31に対応する1種類以上の蛍光体粒子31のそれぞれは、励起光L0の照射に応じて1つの波長スペクトルを有する蛍光を発する1種類の蛍光体粒子31であってもよい。
【0118】
また、例えば、複数の蛍光体粒子31に含まれる複数の種類の蛍光体粒子31は、励起光L0の照射に応じて第1の波長スペクトルを有する第1の蛍光を発する第1種類の蛍光体粒子31、および励起光L0の照射に応じて第1の波長スペクトルとは異なる第2の波長スペクトルを有する第2の蛍光を発する第2種類の蛍光体粒子31を、少なくとも含んでいてもよい。第1種類の蛍光体粒子31および第2種類の蛍光体粒子31としては、例えば、赤色蛍光体の粒子、緑色蛍光体の粒子および青色蛍光体の粒子から選出される2種類の蛍光体の粒子が採用され得る。
【0119】
また、例えば、複数の蛍光体粒子31に含まれる複数の種類の蛍光体粒子31は、励起光L0の照射に応じて第1の波長スペクトルおよび第2の波長スペクトルの何れとも異なる第3の波長スペクトルを有する第3の蛍光を発する第3種類の蛍光体粒子31を含んでいてもよい。第1種類の蛍光体粒子31、第2種類の蛍光体粒子31もしくは3種類の蛍光体粒子31としては、青緑色蛍光体の粒子もしくは黄色蛍光体の粒子など、励起光L0の照射に応じて種々の色の蛍光を発する蛍光体の粒子が採用されてもよい。
【0120】
青緑色蛍光体は、励起光L0の照射に応じて青緑色の蛍光を発する蛍光体である。黄色蛍光体は、励起光L0の照射に応じて黄色の蛍光を発する蛍光体である。青緑色蛍光体としては、例えば、励起光L0の照射に応じて発する蛍光の波長のピークが495nm程度の範囲にある蛍光体が採用される。青緑色蛍光体の材料としては、例えば、(Sr,Ba,Ca)5(PO4)3Cl:EuまたはSr4Al14O25:Euなどが採用される。黄色蛍光体としては、例えば、励起光L0の照射に応じて発する蛍光の波長のピークが570nmから590nm程度の範囲にある蛍光体が採用される。黄色蛍光体の材料としては、例えば、SrSi2(O,Cl)2N2:Euなどが採用される。ここでは、かっこ内の元素の割合は、分子式の範囲内であれば任意に設定され得る。
【0121】
また、例えば、複数の蛍光体粒子31に含まれる複数の種類の蛍光体粒子31は、4種類以上の蛍光体粒子31を含んでいてもよい。
【0122】
上記各実施形態では、例えば、光源部2と変換部3とが近接している状態で位置していてもよい。この場合には、光源部2から出射される励起光L0は、変換部3の波長変換素子30,30Aに対して、直接照射されても良いし、コリメータレンズなどの光学素子などを介して照射されてもよい。
【0123】
上記各実施形態では、例えば、波長変換素子30は、基材30bを有さず、波長変換部30tを有していてもよい。この場合には、波長変換部30tに含まれるバインダー層32は、例えば、少なくとも複数の蛍光体粒子31の間に位置していてよい。ここでは、例えば、基材30bとは別に、鋳型などを用いて粉末充填体PWを形成して、粉末充填体PWを加熱して仮焼結体PSを形成し、仮焼結体PSに対する加圧加工などを行うことで、波長変換部30tを波長変換素子として得ることができる。
【0124】
以上のように、波長変換素子は詳細に説明されたが、上記した説明は、全ての局面において例示であって、この開示がそれに限定されるものではない。また、上述した各種の例は、相互に矛盾しない限り組み合わせて適用可能である。そして、例示されていない無数の例が、この開示の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
【0125】
本開示には、以下の内容が含まれる。
【0126】
一実施形態において、(1)波長変換素子は、複数の蛍光体粒子と、該複数の蛍光体粒子どうしを接合しているとともにガラスを含むバインダー層と、を含む、波長変換部、を備え、前記バインダー層は、複数の微細結晶粒子と、非晶質相と、を含み、前記複数の微細結晶粒子は、前記複数の蛍光体粒子のうちの1つ以上の蛍光体粒子に接触している1つ以上の微細結晶粒子を含み、前記複数の微細結晶粒子のそれぞれは、前記非晶質相に含まれた少なくとも一部の成分を含み、前記バインダー層を、前記複数の蛍光体粒子のそれぞれに接触している第1領域と、前記複数の蛍光体粒子から離れている第2領域と、に区分した場合に、前記第1領域における前記複数の微細結晶粒子の存在率は、前記第2領域における前記複数の微細結晶粒子の存在率よりも大きい。
【0127】
(2)上記(1)の波長変換素子において、前記第1領域における前記複数の微細結晶粒子の存在率は、40%以上で且つ80%以下であり、前記第2領域における前記複数の微細結晶粒子の存在率は、10%以上で且つ20%以下であってもよい。
【0128】
(3)上記(1)または(2)の波長変換素子において、前記1つ以上の蛍光体粒子は、窒化物を含んでいてもよい。
【0129】
(4)上記(1)から(3)の何れか1つの波長変換素子において、前記複数の蛍光体粒子は、リンを含む1つ以上の第1蛍光体粒子と、リンを含まない1つ以上の第2蛍光体粒子と、を含み、前記第1領域は、前記1つ以上の第1蛍光体粒子に接触している第1A領域と、前記1つ以上の第2蛍光体粒子に接触している第1B領域と、を含み、前記第1A領域における前記複数の微細結晶粒子の存在率は、前記第1B領域における前記複数の微細結晶粒子の存在率よりも小さくてもよい。
【0130】
(5)上記(1)から(4)の何れか1つの波長変換素子において、前記バインダー層は、1つ以上の空隙、を含み、前記第1領域における前記1つ以上の空隙の存在率は、前記第2領域における前記1つ以上の空隙の存在率よりも小さくてもよい。
【0131】
(6)上記(1)から(5)の何れか1つの波長変換素子において、前記波長変換部は、六方晶窒化ホウ素をそれぞれ含む複数の熱伝導性粒子、を含み、該複数の熱伝導性粒子は、前記1つ以上の微細結晶粒子の表面に沿って位置している1つ以上の熱伝導性粒子を含んでいてもよい。
【0132】
(7)上記(6)の波長変換素子において、前記1つ以上の熱伝導性粒子は、前記1つ以上の微細結晶粒子の表面に接触していてもよい。
【0133】
(8)上記(1)から(7)の何れか1つの波長変換素子は、前記波長変換部を支持している基材、をさらに備え、該基材の熱伝導率は、前記波長変換部の熱伝導率よりも高くてもよい。
【符号の説明】
【0134】
30,30A 波長変換素子
30b,30bA 基材
30t 波長変換部
31 蛍光体粒子
31a 第1蛍光体粒子
31b 第2蛍光体粒子
32 バインダー層
321 非晶質相
322 微細結晶粒子
323 空隙
33 熱伝導性粒子
A1 第1領域
A1a 第1A領域
A1b 第1B領域
A2 第2領域
L0 励起光
L1 蛍光