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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094529
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 5/18 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
B43K5/18 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211129
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芳野 清隆
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA01
2C350HA01
2C350KA01
2C350KA03
(57)【要約】
【課題】粘性の高いインキを使用する場合であっても、インキ貯留部からペン先まで早期にインキを到達させることができ、また、櫛溝に一時的に保持されたインキを安定してインキ貯留部に戻すことができる筆記具を提供する。
【解決手段】ペン芯1と、ペン先2と、首部3と、インキ貯留部4と、を備え、ペン芯1は、後端部がインキ貯留部4内に連通し前端部が切割り2aに連通するインキ溝13と、後端部がインキ貯留部4内に連通し前端部がペン芯1の外面に開口し、インキ溝13よりも溝幅が大きい空気溝14と、空気溝14とインキ溝13とを接続する複数の連絡溝15,16と、インキ溝13と連通し前後方向に並んで配置される複数の櫛溝17,18と、を有し、複数の連絡溝15,16は、インキ溝13及び空気溝14の各前側部分に接続される第1連絡溝15と、インキ溝13及び空気溝14の各後側部分に接続される第2連絡溝16と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に延びるペン芯と、
前記ペン芯よりも前側に突出するペン先と、
前記ペン芯の後側部分が挿入される筒状の首部と、
前記ペン芯の後側に配置されるインキ貯留部と、を備え、
前記ペン先は、スリット状の切割りを有し、
前記ペン芯は、
前後方向に延び、後端部が前記インキ貯留部内に連通し、前端部が前記切割りに連通するインキ溝と、
前後方向に延び、後端部が前記インキ貯留部内に連通し、前端部が前記ペン芯の外面に開口し、前記インキ溝よりも溝幅が大きい空気溝と、
前記空気溝と前記インキ溝とを接続する複数の連絡溝と、
前記ペン芯の外周面から径方向内側に窪んで周方向に延び、前記インキ溝と連通し、前後方向に並んで配置される複数の櫛溝と、を有し、
前記複数の連絡溝は、
前記インキ溝及び前記空気溝の各前側部分に接続される第1連絡溝と、
前記インキ溝及び前記空気溝の各後側部分に接続される第2連絡溝と、を含む、
筆記具。
【請求項2】
前記第1連絡溝は、前記首部よりも前側に配置され、
前記第2連絡溝は、前記首部内に配置される、
請求項1に記載の筆記具。
【請求項3】
前記複数の櫛溝は、前記首部内に配置される少なくとも1つの後方櫛溝を含み、
前記第2連絡溝は、径方向から見て前記後方櫛溝と重なる、
請求項2に記載の筆記具。
【請求項4】
前記後方櫛溝は、径方向外側へ向かうに従い溝幅寸法が大きくなる拡幅部を有する、
請求項3に記載の筆記具。
【請求項5】
前記拡幅部は、前記後方櫛溝の径方向外端部に配置される、
請求項4に記載の筆記具。
【請求項6】
前記ペン芯は、
外芯と、
前記外芯を前後方向に貫通する貫通孔に挿入される内芯と、を備え、
前記空気溝及び前記複数の連絡溝は、前記貫通孔と前記内芯との間に設けられ、
前記インキ溝は、
前記内芯に配置され、前記インキ貯留部と連通する内側縦溝と、
前記外芯に配置され、前記内側縦溝と接続され、前記切割りと連通する外側縦溝と、を有する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の筆記具。
【請求項7】
前記内側縦溝と前記外側縦溝とは、前後方向の所定範囲にわたって接続されており、
前記第1連絡溝は、前記所定範囲の前端部に位置し、
前記第2連絡溝は、前記所定範囲の後端部に位置する、
請求項6に記載の筆記具。
【請求項8】
前記第1連絡溝は、前記内側縦溝及び前記外側縦溝に接続される、
請求項6に記載の筆記具。
【請求項9】
前記第2連絡溝は、前記内側縦溝及び前記外側縦溝に接続される、
請求項6に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前後方向に延びるペン芯と、ペン芯よりも前側に突出するペン先と、ペン芯の後側部分が挿入される筒状の首部と、ペン芯の後側に配置されるインキ貯留部と、を備えた万年筆が知られている(例えば、特許文献1)。ペン芯は、インキ貯留部とペン先の切割りとを連通するインキ溝と、インキ貯留部とペン芯の先端開口とを連通する空気溝と、を有する。
【0003】
また、このような万年筆には、複数の櫛溝が設けられる場合がある。複数の櫛溝は、ペン芯の外周面に前後方向に互いに間隔をあけて配置され、インキ溝と連通する。例えば気圧の低下等により、インキ貯留部の内圧が外圧よりも高められた場合などに、複数の櫛溝には、インキ貯留部から溢れ出たインキが一時的に保持される。櫛溝に保持されたインキは、気圧が元に戻る(復圧する)ことで、インキ溝を通してインキ貯留部へ戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6639331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の万年筆(以下、筆記具と呼ぶ場合がある)においては、様々な種類のインキを使用することへの要望がある。例えば、顔料を含むインキを使用するには、顔料の沈降を抑制するため、粘性の高いインキ(例えば、粘度が5mPas以上のインキ)を用いる必要がある。
【0006】
しかしながら、筆記具に粘性の高いインキを使用する場合、下記の問題が生じる。
粘性の高いインキは、インキ溝を流れる際に流動抵抗の影響を受けやすい。このため、筆記具を使い始める際などに、インキ溝の毛細管力等によってインキ貯留部からペン先の切割りへインキが到達するまでに、長時間を要する。また、例えば気圧の低下等に応じてインキが櫛溝に保持されたときに、気圧が元に戻っても、粘性の高いインキはインキ貯留部に戻りにくい。
【0007】
本発明は、粘性の高いインキを使用する場合であっても、インキ貯留部からペン先まで早期にインキを到達させることができ、また、櫛溝に一時的に保持されたインキを安定してインキ貯留部に戻すことができる筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0009】
〔本発明の態様1〕
前後方向に延びるペン芯と、前記ペン芯よりも前側に突出するペン先と、前記ペン芯の後側部分が挿入される筒状の首部と、前記ペン芯の後側に配置されるインキ貯留部と、を備え、前記ペン先は、スリット状の切割りを有し、前記ペン芯は、前後方向に延び、後端部が前記インキ貯留部内に連通し、前端部が前記切割りに連通するインキ溝と、前後方向に延び、後端部が前記インキ貯留部内に連通し、前端部が前記ペン芯の外面に開口し、前記インキ溝よりも溝幅が大きい空気溝と、前記空気溝と前記インキ溝とを接続する複数の連絡溝と、前記ペン芯の外周面から径方向内側に窪んで周方向に延び、前記インキ溝と連通し、前後方向に並んで配置される複数の櫛溝と、を有し、前記複数の連絡溝は、前記インキ溝及び前記空気溝の各前側部分に接続される第1連絡溝と、前記インキ溝及び前記空気溝の各後側部分に接続される第2連絡溝と、を含む、筆記具。
【0010】
本発明の筆記具によれば、粘性の高いインキを使用する場合において、下記の作用効果が得られる。
筆記具を使い始める際、ペン先を鉛直方向の下側へ向けると、インキ貯留部のインキは自重(重力)及び毛細管力によって、インキ溝及び空気溝の各溝内を下側(前側)へ向けて流れる。この際、粘性の高いインキは、インキ溝よりも溝幅が大きく(流路断面積が大きく)流動抵抗の小さい空気溝内において、より速く下側へと流れる。
【0011】
すなわち、粘性の高いインキの場合、流量を増やすためには、溝幅が大きく流動抵抗の小さいことが有利であり、空気溝内を流れるインキは、インキ溝内を流れるインキよりも早期に第1連絡溝に到達する。第1連絡溝に到達したインキは、空気溝から第1連絡溝を通ってインキ溝の前側部分に流入し、ペン先の切割りに達する。インキが切割りに達することで、使用者は筆記具による筆記を開始することができる。
【0012】
このように本発明では、流動抵抗の小さい空気溝内においてインキが流れる距離を大きく確保するとともに、流動抵抗の大きいインキ溝内においてインキが流れる距離を小さく抑えている。これにより、インキ貯留部からペン先へ迅速にインキを到達させることができ、筆記具を使い始めるまでに要する時間を短縮できる。
【0013】
その後、インキ溝内全体にインキが充填され、インキ溝からも切割りへインキが供給される。筆記によってインキ貯留部内のインキが減ると、インキの低減量に応じて、筆記具の外部から空気溝を通してインキ貯留部内に空気(エア)が供給され、インキ貯留部内のインキと空気とが置換される。
【0014】
また、例えば気圧の低下等によって、インキ貯留部の内圧が外圧よりも高められた場合などに、インキ貯留部から溢れ出たインキは、櫛溝に一時的に保持される。その後、気圧が元に戻った(復圧した)ときに、櫛溝に保持されたインキは、インキ溝から第2連絡溝を通って空気溝の後側部分に流入し、インキ貯留部へと戻される。
【0015】
このように本発明では、櫛溝からインキ貯留部にインキを戻す際においても、流動抵抗の小さい空気溝内においてインキが流れる距離を大きく確保するとともに、流動抵抗の大きいインキ溝内においてインキが流れる距離を小さく抑えている。これにより、櫛溝からインキ貯留部へ安定してインキを戻すことができ、櫛溝にインキが残ってしまう不具合を抑制できる。
【0016】
以上より本発明によれば、粘性の高いインキを使用する場合であっても、インキ貯留部からペン先まで早期にインキを到達させることができ、また、櫛溝に一時的に保持されたインキを安定してインキ貯留部に戻すことができる。
【0017】
なお本発明において、「粘性の高いインキ」とは、例えば粘度が5mPas以上のインキを指す。また、「溝幅(溝幅寸法)」とは、流体(インキまたは空気)が流れる流路の断面形状(流体が流れる方向と垂直な断面の形状)に長手方向(長辺)と短手方向(短辺)とが存在する場合には、短手方向の寸法を指す。
【0018】
〔本発明の態様2〕
前記第1連絡溝は、前記首部よりも前側に配置され、前記第2連絡溝は、前記首部内に配置される、態様1に記載の筆記具。
【0019】
この場合、第1連絡溝をペン先の切割りに近づけて配置することが容易となり、インキ貯留部からペン先へより速くインキを到達させることができる。また、第2連絡溝をインキ貯留部に近づけて配置することが容易となり、櫛溝からインキ貯留部へより安定してインキを戻すことができる。
【0020】
〔本発明の態様3〕
前記複数の櫛溝は、前記首部内に配置される少なくとも1つの後方櫛溝を含み、前記第2連絡溝は、径方向から見て前記後方櫛溝と重なる、態様1または2に記載の筆記具。
【0021】
首部内に後方櫛溝が配置される場合、後方櫛溝に一時的に保持されたインキが、復圧時にインキ貯留部に戻りにくくなる傾向がある。このような場合であっても、本発明の上記構成によれば、第2連絡溝が後方櫛溝の近くに配置されるため、後方櫛溝からインキ溝、第2連絡溝及び空気溝の後側部分を通して、インキ貯留部へ安定してインキを戻すことができる。
【0022】
〔本発明の態様4〕
前記後方櫛溝は、径方向外側へ向かうに従い溝幅寸法が大きくなる拡幅部を有する、態様3に記載の筆記具。
【0023】
〔本発明の態様5〕
前記拡幅部は、前記後方櫛溝の径方向外端部に配置される、態様4に記載の筆記具。
【0024】
首部の内周面またはペン先の内周面(以下、首部の内周面等と呼ぶ)と、後方櫛溝の径方向外端部と、の間で粘性の高いインキが保持されると、このインキが復圧時にインキ貯留部に戻りにくくなる傾向がある。本発明の上記構成によれば、後方櫛溝に流入したインキが、拡幅部よりも径方向外側へ向けては流れにくくなるため、首部の内周面等と後方櫛溝の径方向外端部との間にインキが保持されることが抑制される。これにより、後方櫛溝からインキ貯留部へとより安定してインキを戻すことができる。
【0025】
〔本発明の態様6〕
前記ペン芯は、外芯と、前記外芯を前後方向に貫通する貫通孔に挿入される内芯と、を備え、前記空気溝及び前記複数の連絡溝は、前記貫通孔と前記内芯との間に設けられ、前記インキ溝は、前記内芯に配置され、前記インキ貯留部と連通する内側縦溝と、前記外芯に配置され、前記内側縦溝と接続され、前記切割りと連通する外側縦溝と、を有する、態様1から5のいずれか1つに記載の筆記具。
【0026】
この場合、ペン芯は、外芯と内芯とを有する2重構造のペン芯である。2重構造のペン芯であると、インキ溝、空気溝及び複数の連絡溝の各流路形状の自由度が高められ、インキ流動の制御がより容易となる。
【0027】
〔本発明の態様7〕
前記内側縦溝と前記外側縦溝とは、前後方向の所定範囲にわたって接続されており、前記第1連絡溝は、前記所定範囲の前端部に位置し、前記第2連絡溝は、前記所定範囲の後端部に位置する、態様6に記載の筆記具。
【0028】
この場合、第1連絡溝をペン先の切割りに近づけて配置することが容易となり、インキ貯留部からペン先へより速くインキを到達させることができる。また、第2連絡溝をインキ貯留部に近づけて配置することが容易となり、櫛溝からインキ貯留部へより安定してインキを戻すことができる。
【0029】
〔本発明の態様8〕
前記第1連絡溝は、前記内側縦溝及び前記外側縦溝に接続される、態様6または7に記載の筆記具。
【0030】
この場合、第1連絡溝から外側縦溝に直接インキを流入させることができ、第1連絡溝からペン先の切割りへと、より迅速にインキを到達させることができる。
【0031】
〔本発明の態様9〕
前記第2連絡溝は、前記内側縦溝及び前記外側縦溝に接続される、態様6から8のいずれか1つに記載の筆記具。
【0032】
この場合、外側縦溝から第2連絡溝に直接インキを流入させることができ、櫛溝に一時的に保持されたインキを、第2連絡溝からインキ貯留部により安定して戻すことができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の前記態様の筆記具によれば、粘性の高いインキを使用する場合であっても、インキ貯留部からペン先まで早期にインキを到達させることができ、また、櫛溝に一時的に保持されたインキを安定してインキ貯留部に戻すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、本実施形態の筆記具の一部を示す断面図(縦断面図)である。
図2図2は、筆記具のペン芯を示す斜視図である。
図3図3は、ペン芯の内芯を示す斜視図である。
図4図4は、ペン芯の内芯を示す斜視図である。
図5図5は、図1のV-V断面を示す断面図(横断面図)であり、ペン先の図示については省略している。
図6図6は、図1のVI-VI断面を示す断面図(横断面図)であり、ペン先の図示については省略している。
図7図7は、図1のVII-VII断面を示す断面図(横断面図)であり、首部の図示については省略している。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の一実施形態の筆記具10について、図面を参照して説明する。本実施形態の筆記具10は、例えば万年筆等である。
【0036】
図1に示すように、筆記具10は、中心軸Cを中心とする概略円柱状をなしている。筆記具10は、中心軸Cに沿って延びるペン芯1と、ペン芯1に取り付けられるペン先2と、筒状の首部3と、インキ(図示省略)が貯留される筒状のインキ貯留部4と、軸筒(図示省略)と、キャップ(図示省略)と、を備える。ペン芯1、首部3、インキ貯留部4、軸筒及びキャップは、中心軸Cを共通軸として互いに同軸に配置される。
【0037】
本実施形態で用いる方向の定義について、説明する。
本実施形態では、筆記具10の中心軸Cが延びる方向、つまり中心軸Cに沿う方向を、前後方向と呼ぶ。前後方向において、ペン先2とインキ貯留部4とは、互いに異なる位置に配置されている。前後方向のうち、インキ貯留部4からペン先2へ向かう方向を前側と呼び、ペン先2からインキ貯留部4へ向かう方向を後側と呼ぶ。各図において前後方向は、Y軸方向に相当する。前側は-Y側に相当し、後側は+Y側に相当する。なお、前後方向は軸方向と言い換えてもよい。この場合、前側を軸方向一方側、後側を軸方向他方側と言い換えてもよい。
【0038】
中心軸Cと直交する方向を径方向と呼ぶ。径方向のうち、中心軸Cに近づく方向を径方向内側と呼び、中心軸Cから離れる方向を径方向外側と呼ぶ。
また、中心軸C回りに周回する方向を周方向と呼ぶ。
【0039】
また、ペン先2は、スリット状の切割り2aを有する。本実施形態では、径方向のうち、前後方向から見て中心軸Cと切割り2aとを結ぶ方向を上下方向と呼ぶ。上下方向のうち、中心軸Cから切割り2aへ向かう方向を上側と呼び、切割り2aから中心軸Cへ向かう方向を下側と呼ぶ。各図において上下方向は、Z軸方向に相当する。上側は+Z側に相当し、下側は-Z側に相当する。
【0040】
前後方向及び上下方向と直交する方向を、左右方向と呼ぶ。各図において左右方向は、X軸方向に相当する。左側は+X側に相当し、右側は-X側に相当する。
【0041】
なお本実施形態において、前側、後側、上側、下側、左側及び右側とは、各構成要素の相対位置関係等を説明するための便宜的な名称である。このため、筆記具10の使用時などにおける実際の配置関係等は、これらの名称により限定されるものではない。
【0042】
筆記具10の各構成要素について、説明する。
特に図示しないが、軸筒は、前後方向に延びる筒状をなしている。軸筒は、例えば、中心軸Cを中心とする有底の円筒状等である。軸筒は、複数の筒状部材(本体筒及び尾冠等)を螺着、嵌合及び接着するなどにより組み合わせて構成されている。ただしこれに限らず、軸筒は、単一の筒状部材により構成されていてもよい。軸筒は、インキ貯留部4のうち前端部以外の部分を、径方向外側及び後側から覆う。
【0043】
首部3は、軸筒の前側に配置される。首部3は、中心軸Cを中心とする略円筒状であり、前後方向に延びる。首部3の内部には、ペン芯1の後側部分及びペン先2の後端部が挿入される。首部3は、内首筒部3aと、外首筒部3bと、取付筒部3cと、を有する。
【0044】
内首筒部3aは、中心軸Cを中心とする多段円筒状である。内首筒部3aの直径寸法は、後側へ向かうに従い段階的に小さくなる。内首筒部3aは、大径部と、大径部よりも後側に配置され、大径部よりも直径寸法が小さい小径部と、小径部から後側へ突出する開封手段3dと、を有する。内首筒部3aの内部には、ペン芯1の後側部分及びペン先2の後端部が嵌合する。具体的に、ペン芯1の後側部分は、内首筒部3aの大径部及び小径部の各内部に嵌合する。ペン先2の後端部は、内首筒部3aの大径部内に嵌合する。
【0045】
外首筒部3bは、中心軸Cを中心とする略円筒状である。外首筒部3bは、内首筒部3aと同軸に配置され、内首筒部3aの径方向外側に位置する。外首筒部3bは、内首筒部3aを周方向の全周にわたって径方向外側から囲う。外首筒部3b内には、内首筒部3aの大径部が嵌合する。
【0046】
取付筒部3cは、中心軸Cを中心とする略円筒状である。取付筒部3cの前側部分は、外首筒部3b内に挿入される。取付筒部3cの前端部内には、内首筒部3aの大径部が嵌め合わされている。取付筒部3cと内首筒部3aとは、例えば螺着等により互いに固定されている。
【0047】
取付筒部3cは、取付筒部3cの外周面に配置される雄ネジ3eを有する。特に図示しないが、雄ネジ3eには、軸筒の前端開口部内に配置される雌ネジが螺着される。これにより、軸筒は、首部3に着脱可能に取り付けられる。
【0048】
なお本実施形態においては、外首筒部3bと取付筒部3cとが別体に設けられているが、これに限らない。外首筒部3bと取付筒部3cとは、単一の部材により一体に形成されていてもよい。
【0049】
インキ貯留部4は、中心軸Cを中心とする有底円筒状であり、前後方向に延びる。インキ貯留部4の前端開口部内には、内首筒部3aの小径部が液密に嵌合する。インキ貯留部4は、内首筒部3aに着脱可能に取り付けられる。インキ貯留部4は、ペン芯1の後側に配置される。
【0050】
インキ貯留部4に貯留されるインキは、例えば、顔料を含むインキである。顔料を含むインキは、顔料の沈降を抑制するため、粘度が高く設定されている。すなわち、本実施形態の筆記具10に用いられるインキは、従来の万年筆等の筆記具に用いられるインキに比べて、粘性の高いインキである。本実施形態において、「粘性の高いインキ」とは、例えば、粘度が5mPas以上のインキを指す。また、本実施形態ではインキの粘度が、例えば、10mPas以下である。
【0051】
ペン先2は、板状であり、ペン芯1の外周面の上側部分に配置される。具体的に、ペン先2は、前後方向から見て周方向に延びる湾曲した板状である。またペン先2は、前後方向に延びる。ペン先2は、ペン芯1にかしめや接着等により固定される。ペン先2の前端部は、ペン芯1の前端部よりも前側に突出する。すなわち、ペン先2は、ペン芯1よりも前側に突出する。ペン先2は、例えば金属製等であり、少なくとも前端部が弾性変形可能である。
【0052】
切割り2aは、ペン先2の前側部分に配置され、ペン先2を板厚方向に貫通するスリット状である。具体的に、切割り2aは、ペン先2を上下方向に貫通し、前後方向に延びており、ペン先2の前端面に開口する。
【0053】
ペン芯1は、中心軸Cを中心として前後方向に延びる略円柱状である。ペン芯1は、前後方向に延びる筒状の外芯11と、前後方向に延び、外芯11の貫通孔11cに挿入される柱状の内芯12と、外芯11及び内芯12にわたって配置されるインキ溝13と、貫通孔11cと内芯12との間に配置される空気溝14と、空気溝14とインキ溝13とを接続する複数の連絡溝15,16と、ペン芯1の外周面から径方向内側に窪んで周方向に延び、インキ溝13と連通し、前後方向に並んで配置される複数の櫛溝17,18と、を有する。すなわち、本実施形態の筆記具10は、外芯11と内芯12とを有する2重構造のペン芯1を備える。
【0054】
図1及び図2に示すように、外芯11は、中心軸Cを中心とする略多段円筒状である。外芯11は、大径筒部11aと、大径筒部11aよりも後側に配置され、大径筒部11aよりも直径寸法が小さい小径筒部11bと、貫通孔11cと、前端傾斜面11dと、外側縦溝13bと、を有する。
【0055】
大径筒部11aは、前後方向に延びる略円筒状である。大径筒部11aの後側部分は、内首筒部3aの大径部内に嵌合する。
小径筒部11bは、前後方向に延びる円筒状である。小径筒部11bは、内首筒部3aの小径部内に嵌合する。
【0056】
貫通孔11cは、外芯11を前後方向に貫通する。貫通孔11cは、中心軸Cを中心とする略円孔状である。ただし、貫通孔11cのうち前後方向の少なくとも一部は、中心軸Cと垂直な断面(横断面)の形状が非円形状とされている。貫通孔11cの前端部は、大径筒部11aの前側を向く前端傾斜面11dに開口する。貫通孔11cの後端部は、小径筒部11bの後端面に開口する。貫通孔11cの後端部は、インキ貯留部4内に連通する。
【0057】
前端傾斜面11dは、外芯11の外面のうち前端部に配置される。前端傾斜面11dは、前側へ向かうに従い上側に位置する傾斜面状である。
【0058】
外側縦溝13bは、外芯11の外周面のうち上端部に開口し、前後方向に延びる。外側縦溝13bの径方向外端部(上端部)は、大径筒部11aの上面に開口する。外側縦溝13bの径方向内端部(下端部)のうち、後側部分は、貫通孔11cに開口する。外側縦溝13bの径方向内端部のうち、前側部分は、貫通孔11cに開口しない。外側縦溝13bのうち前側部分は、前側へ向かうに従い溝深さ寸法が浅くなる(上下方向の寸法が小さくなる)。外側縦溝13bの前端部は、ペン先2の切割り2aに連通する。外側縦溝13bのうち前端部以外の部分は、ペン先2または首部3(内首筒部3a)により上側から覆われる。
【0059】
図5図7に示すように、外側縦溝13bは、中心軸Cと垂直な断面(横断面)の形状が、上下方向に延びる長方形状である。具体的に、外側縦溝13bの横断面形状は、上下方向を長手方向とし、左右方向を短手方向とする扁平した長方形状である。
【0060】
図1図3及び図4に示すように、内芯12は、中心軸Cを中心とする略円柱状である。ただし、内芯12のうち前後方向の少なくとも一部は、外芯11の貫通孔11cの形状と対応しており、中心軸Cと垂直な断面(横断面)の形状が非円形状とされている。内芯12は、貫通孔11c内に嵌合する。これにより、内芯12と外芯11とは、周方向への相対的な回転移動が規制されている。すなわち、内芯12は、回り止めされた状態で貫通孔11c内に配置される。
【0061】
内芯12は、内側縦溝13aと、下側平面部12aと、上側平面部12bと、横溝14cと、膨出部12cと、複数の連絡溝15,16と、を有する。
内側縦溝13aは、内芯12の外周面のうち上端部に開口し、前後方向に延びる。また、内側縦溝13aの後端部は、内芯12の後端面に開口する。内側縦溝13aのうち前側部分は、外側縦溝13bに連通する。内側縦溝13aのうち後側部分は、貫通孔11cの内周面により上側から覆われる。内側縦溝13aの後端部は、インキ貯留部4内に連通する。
【0062】
図6及び図7に示すように、内側縦溝13aは、中心軸Cと垂直な断面(横断面)の形状が、上下方向に延びる長方形状である。具体的に、内側縦溝13aの横断面形状は、上下方向を長手方向とし、左右方向を短手方向とする扁平した長方形状である。
【0063】
また、内側縦溝13aの溝幅寸法は、外側縦溝13bの溝幅寸法よりも大きい。言い換えると、外側縦溝13bの溝幅寸法は、内側縦溝13aの溝幅寸法よりも小さくされている。
【0064】
ここで、本実施形態において、「溝幅(溝幅寸法)」とは、流体(インキまたは空気)が流れる流路の断面形状(流体が流れる方向と垂直な断面の形状)に長手方向(長辺)と短手方向(短辺)とが存在する場合には、短手方向の寸法を指す。
【0065】
図4に示すように、下側平面部12aは、内芯12の外周面のうち下側部分に配置される。下側平面部12aは、内芯12の外周面から凹むように設けられている。下側平面部12aは、上下方向と垂直な方向に拡がる平面状であり、下側を向く。下側平面部12aは、内芯12のうち前端部以外の部分に配置され、前後方向に延びる。下側平面部12aの後端部は、内芯12の後端面に接続される。
【0066】
図3に示すように、上側平面部12bは、内芯12の外周面のうち上側部分に配置される。上側平面部12bは、内芯12の外周面から凹むように設けられている。上側平面部12bは、上下方向と垂直な方向に拡がる平面状であり、上側を向く。上側平面部12bは、内芯12のうち前端部に配置され、前後方向に延びる。
【0067】
図3図5に示すように、本実施形態では横溝14cが、内芯12の外周面のうち左側部分に配置される。横溝14cは、内芯12の外周面から径方向内側に窪み、周方向に延びる。横溝14cは、下側平面部12aの前端部と、上側平面部12bの後端部とに接続される。
【0068】
図4及び図6に示すように、膨出部12cは、下側平面部12aの前端部に配置され、下側平面部12aのうち膨出部12c以外の部分よりも下側に突出する。膨出部12cの下面は、上下方向と垂直な方向に拡がる平面状である。膨出部12cは、横溝14cの後側に隣り合って配置される。
【0069】
図3図6及び図7に示すように、複数の連絡溝15,16は、前後方向に互いに間隔をあけて配置される。本実施形態では連絡溝15,16が、内芯12の外周面のうち右側部分に配置される。また連絡溝15,16は、横溝14cよりも後側に配置される。連絡溝15,16は、内芯12の外周面から径方向内側に窪み、周方向に延びる。詳しくは、連絡溝15,16はそれぞれ、周方向に沿って延びる周溝部と、この周溝部の上端部に接続されて左右方向に延びる上溝部と、を有する。
【0070】
複数の連絡溝15,16は、第1連絡溝15と、第1連絡溝15よりも後側に配置される第2連絡溝16と、を含む。図1に示すように、内芯12が貫通孔11c内に挿入された状態で、第1連絡溝15は、首部3よりも前側に配置される。また第2連絡溝16は、首部3内に配置される。
【0071】
図6に示すように、第1連絡溝15の周溝部は、膨出部12cに開口する。第1連絡溝15の上溝部は、内側縦溝13aに開口する。図7に示すように、第2連絡溝16の周溝部は、下側平面部12aに開口する。第2連絡溝16の上溝部は、内側縦溝13aに開口する。
【0072】
図5図7に示すように、内芯12が貫通孔11c内に配置された状態で、下側平面部12a、上側平面部12b、横溝14c、膨出部12c及び複数の連絡溝15,16は、貫通孔11cの内周面により径方向外側から覆われる。すなわち、横溝14c及び複数の連絡溝15,16は、貫通孔11cと内芯12との間に設けられる。
【0073】
図1に示すように、インキ溝13は、ペン芯1の内部を前後方向に延びる。インキ溝13は、後端部がインキ貯留部4内に連通し、前端部がペン先2の切割り2aに連通する。詳しくは、インキ溝13は、内芯12に配置され、インキ貯留部4と連通する内側縦溝13aと、外芯11に配置され、内側縦溝13aと接続され、切割り2aと連通する外側縦溝13bと、を有する。
【0074】
具体的に、内側縦溝13aと外側縦溝13bとは、前後方向の所定範囲にわたって接続されている。また、第1連絡溝15は、前記所定範囲の前端部に位置している。第2連絡溝16は、前記所定範囲の後端部に位置している。
【0075】
空気溝14は、ペン芯1の内部を前後方向に延びる。空気溝14は、後端部がインキ貯留部4内に連通し、前端部がペン芯1の外面に開口する。具体的に、空気溝14の前端部は、外芯11の前端傾斜面11d、すなわちペン芯1の前端面に開口する。空気溝14は、貫通孔11cと内芯12との間に設けられる。空気溝14の溝幅(溝幅寸法)は、インキ溝13の溝幅よりも大きい。
【0076】
空気溝14は、下側縦溝14aと、上側縦溝14bと、下側縦溝14aの前端部と上側縦溝14bの後端部とを接続する横溝14cと、を有する。下側縦溝14aは、貫通孔11cの内周面と下側平面部12aとの間に設けられ、前後方向に延びる。下側縦溝14aの後端部は、インキ貯留部4内に連通する。上側縦溝14bは、貫通孔11cの内周面と上側平面部12bとの間に設けられ、前後方向に延びる。上側縦溝14bの前端部は、ペン芯1の前端傾斜面11dに開口する。
【0077】
また、下側縦溝14aは、下側縦溝14aのうち他の部分よりも溝幅が小さい絞り部14dを有する。絞り部14dは、貫通孔11cの内周面と膨出部12cとの間に設けられる。絞り部14dは、下側縦溝14aの前端部に配置される。具体的に、絞り部14dは、下側縦溝14aのうち横溝14cとの接続部分の後側に隣り合って配置される。絞り部14dは、空気遮断溝と言い換えてもよい。
【0078】
そして、第1連絡溝15は、インキ溝13及び空気溝14の各前側部分に接続される。具体的に、第1連絡溝15の上端部(上溝部)は、内側縦溝13a及び外側縦溝13bに接続される。第1連絡溝15の下端部(周溝部)は、下側縦溝14aの絞り部14dに接続される。
【0079】
また、第2連絡溝16は、インキ溝13及び空気溝14の各後側部分に接続される。具体的に、第2連絡溝16の上端部(上溝部)は、内側縦溝13a及び外側縦溝13bに接続される。第2連絡溝16の下端部(周溝部)は、下側縦溝14aに接続される。
【0080】
複数の櫛溝17,18は、首部3よりも前側に配置される少なくとも1つの前方櫛溝18と、首部3内に配置される少なくとも1つの後方櫛溝17と、を含む。前方櫛溝18及び後方櫛溝17は、それぞれ、外芯11の大径筒部11aの外周面から径方向内側に窪み、周方向に延びる。本実施形態では前方櫛溝18が、前後方向に並んで複数設けられ、後方櫛溝17が、前後方向に並んで複数設けられる。
【0081】
第2連絡溝16の前後方向の位置は、少なくとも1つの後方櫛溝17の前後方向の位置と同じである。本実施形態では、第2連絡溝16の前後方向の位置が、複数の後方櫛溝17のうち後端部に配置される1つまたは複数の後方櫛溝17の前後方向の位置と同じである。第2連絡溝16は、径方向から見て、後方櫛溝17と重なって配置される。
【0082】
後方櫛溝17は、径方向外側へ向かうに従い溝幅寸法が大きくなる拡幅部17aを有する。図1に示すように、中心軸Cに沿う断面(縦断面)において、拡幅部17aは、径方向外側へ向けて開口寸法が大きくなるY字状またはV字状をなしている。拡幅部17aは、後方櫛溝17の径方向外端部に配置される。
【0083】
ここで、ペン芯1に設けられる各溝同士の関係等について、説明する。
第1連絡溝15の(断面周長/断面積)は、外側縦溝13bの(断面周長/断面積)及び内側縦溝13aの(断面周長/断面積)よりも小さい。また、第1連絡溝15の(断面周長/断面積)は、前方櫛溝18の(断面周長/断面積)及び絞り部14dの(断面周長/断面積)よりも大きい。
【0084】
ここで、(断面周長/断面積)について、詳しく説明する。
一般に、静止流体(インキ)のバランスの計算は、圧力に基づいて行われる。例えば軸線に沿って同じ位置にある溝は、この圧力の大小を考慮し、インキが流入する順番を制御している。具体的に、この圧力は、「(断面周長×インキ表面張力×cos(接触角))/断面積」となる。ここで、「インキ表面張力×cos(接触角)」については、溝形状によらず互いに同一である。このため圧力は、(断面周長/断面積)の大きい、小さいによって表現される。なお「断面」とは、インキが流れる方向と垂直な断面を指す。
【0085】
ただし、溝形状(断面形状)が単純な四角形状である場合、2辺(長辺と短辺)の長さをaとbとすると、(断面周長/断面積)は、2(a+b)/(a×b)=2/a+2/bとなる。このため、溝幅が小さくなれば圧力は大きくなり、溝幅が大きくなれば圧力は小さくなる、とも言える。
【0086】
また、第1連絡溝15の溝幅(短辺寸法)は、外側縦溝13bの溝幅及び内側縦溝13aの溝幅よりも大きい。また、第1連絡溝15の溝幅は、前方櫛溝18の溝幅よりも小さい。
【0087】
第1連絡溝15の前後方向の位置は、内側縦溝13aの前端部の前後方向の位置と同じである。第1連絡溝15の断面の長手方向の寸法(長辺寸法)は、第1連絡溝15近傍のインキ溝13の溝深さ(長辺寸法)よりも長いことが好ましい。本実施形態では、第1連絡溝15の断面の長手方向の寸法が、第1連絡溝15近傍のインキ溝13のうち、少なくとも内側縦溝13aの溝深さよりも大きい。
【0088】
第2連絡溝16の(断面周長/断面積)は、外側縦溝13bの(断面周長/断面積)及び内側縦溝13aの(断面周長/断面積)よりも小さい。また、第2連絡溝16の(断面周長/断面積)は、後方櫛溝17の(断面周長/断面積)よりも大きい。
【0089】
また、第2連絡溝16の溝幅(短辺寸法)は、外側縦溝13bの溝幅及び内側縦溝13aの溝幅よりも大きい。また、第2連絡溝16の溝幅は、後方櫛溝17の溝幅よりも小さい。また本実施形態では、第2連絡溝16の溝幅が、第1連絡溝15の溝幅よりも大きい。
【0090】
第2連絡溝16の前後方向の位置は、外側縦溝13bの後端部の前後方向の位置と同じである。第2連絡溝16の断面の長手方向の寸法(長辺寸法)は、第2連絡溝16近傍のインキ溝13の溝深さ(長辺寸法)よりも長いことが好ましい。本実施形態では、第2連絡溝16の断面の長手方向の寸法が、第2連絡溝16近傍のインキ溝13のうち、少なくとも内側縦溝13aの溝深さよりも大きい。
【0091】
特に図示しないが、キャップは、中心軸Cを中心とする有頂の円筒状であり、軸方向に延びる。キャップの前端部は頂壁により閉じられており、後端部は開口している。キャップの後端開口部は、軸筒の前端部または首部3(外首筒部3b)に着脱可能に嵌合する。キャップは、ペン芯1及びペン先2を開閉可能に覆う。
【0092】
以上説明した本実施形態の筆記具10によれば、粘性の高いインキを使用する場合において、下記の作用効果が得られる。
筆記具10を使い始める際、ペン先2を鉛直方向の下側へ向けると、インキ貯留部4のインキは自重(重力)及び毛細管力によって、インキ溝13及び空気溝14の各溝内を下側(前側)へ向けて流れる。この際、粘性の高いインキは、インキ溝13よりも溝幅が大きく(流路断面積が大きく)流動抵抗の小さい空気溝14内において、より速く下側へと流れる。
【0093】
すなわち、粘性の高いインキの場合、流量を増やすためには、溝幅が大きく流動抵抗の小さいことが有利であり、空気溝14内を流れるインキは、インキ溝13内を流れるインキよりも早期に第1連絡溝15に到達する。第1連絡溝15に到達したインキは、図1に矢印F1で示すように、空気溝14から第1連絡溝15を通ってインキ溝13の前側部分に流入し、ペン先2の切割り2aに達する。インキが切割り2aに達することで、使用者は筆記具10による筆記を開始することができる。
【0094】
このように本実施形態では、流動抵抗の小さい空気溝14内においてインキが流れる距離を大きく確保するとともに、流動抵抗の大きいインキ溝13内においてインキが流れる距離を小さく抑えている。これにより、インキ貯留部4からペン先2へ迅速にインキを到達させることができ、筆記具10を使い始めるまでに要する時間を短縮できる。
【0095】
その後、インキ溝13内全体にインキが充填され、インキ溝13からも切割り2aへインキが供給される。筆記によってインキ貯留部4内のインキが減ると、インキの低減量に応じて、筆記具10の外部から空気溝14を通してインキ貯留部4内に空気(エア)が供給され、インキ貯留部4内のインキと空気とが置換される。
【0096】
また、例えば気圧の低下等によって、インキ貯留部4の内圧が外圧よりも高められた場合などに、インキ貯留部4から溢れ出たインキは、櫛溝17,18に一時的に保持される。その後、気圧が元に戻った(復圧した)ときに、特に櫛溝17に保持されたインキは、図1に矢印F2で示すように、インキ溝13から第2連絡溝16を通って空気溝14の後側部分に流入し、インキ貯留部4へと戻される。
【0097】
このように本実施形態では、櫛溝17からインキ貯留部4にインキを戻す際においても、流動抵抗の小さい空気溝14内においてインキが流れる距離を大きく確保するとともに、流動抵抗の大きいインキ溝13内においてインキが流れる距離を小さく抑えている。これにより、櫛溝17からインキ貯留部4へ安定してインキを戻すことができ、櫛溝17にインキが残ってしまう不具合を抑制できる。
【0098】
以上より本実施形態によれば、粘性の高いインキを使用する場合であっても、インキ貯留部4からペン先2まで早期にインキを到達させることができ、また、櫛溝17に一時的に保持されたインキを安定してインキ貯留部4に戻すことができる。
【0099】
また本実施形態では、第1連絡溝15が、首部3よりも前側に配置され、第2連絡溝16が、首部3内に配置される。
この場合、第1連絡溝15をペン先2の切割り2aに近づけて配置することが容易となり、インキ貯留部4からペン先2へより速くインキを到達させることができる。また、第2連絡溝16をインキ貯留部4に近づけて配置することが容易となり、櫛溝17からインキ貯留部4へより安定してインキを戻すことができる。
【0100】
また本実施形態では、複数の櫛溝17,18は、首部3内に配置される少なくとも1つの後方櫛溝17を含み、第2連絡溝16は、径方向から見て後方櫛溝17と重なる。
首部3内に後方櫛溝17が配置される場合、後方櫛溝17に一時的に保持されたインキが、復圧時にインキ貯留部4に戻りにくくなる傾向がある。このような場合であっても、本実施形態の上記構成によれば、第2連絡溝16が後方櫛溝17の近くに配置されるため、後方櫛溝17からインキ溝13、第2連絡溝16及び空気溝14の後側部分を通して、インキ貯留部4へ安定してインキを戻すことができる。
【0101】
また本実施形態では、後方櫛溝17が、径方向外側へ向かうに従い溝幅寸法が大きくなる拡幅部17aを有する。
また本実施形態では、拡幅部17aが、後方櫛溝17の径方向外端部に配置される。
首部3の内周面またはペン先2の内周面(以下、首部3の内周面等と呼ぶ)と、後方櫛溝17の径方向外端部と、の間で粘性の高いインキが保持されると、このインキが復圧時にインキ貯留部4に戻りにくくなる傾向がある。本実施形態の上記構成によれば、後方櫛溝17に流入したインキが、拡幅部17aよりも径方向外側へ向けては流れにくくなるため、首部3の内周面等と後方櫛溝17の径方向外端部との間にインキが保持されることが抑制される。これにより、後方櫛溝17からインキ貯留部4へとより安定してインキを戻すことができる。
【0102】
また本実施形態において、ペン芯1は、外芯11と、外芯11を前後方向に貫通する貫通孔11cに挿入される内芯12と、を備える。空気溝14及び複数の連絡溝15,16は、貫通孔11cと内芯12との間に設けられる。インキ溝13は、内芯12に配置され、インキ貯留部4と連通する内側縦溝13aと、外芯11に配置され、内側縦溝13aと接続され、切割り2aと連通する外側縦溝13bと、を有する。
この場合、ペン芯1は、外芯11と内芯12とを有する2重構造のペン芯1である。2重構造のペン芯1であると、インキ溝13、空気溝14及び複数の連絡溝15,16の各流路形状の自由度が高められ、インキ流動の制御がより容易となる。
【0103】
また本実施形態では、内側縦溝13aと外側縦溝13bとが、前後方向の所定範囲にわたって接続されており、第1連絡溝15は、前記所定範囲の前端部に位置し、第2連絡溝16は、前記所定範囲の後端部に位置する。
この場合、第1連絡溝15をペン先2の切割り2aに近づけて配置することが容易となり、インキ貯留部4からペン先2へより速くインキを到達させることができる。また、第2連絡溝16をインキ貯留部4に近づけて配置することが容易となり、櫛溝17からインキ貯留部4へより安定してインキを戻すことができる。
【0104】
また本実施形態では、第1連絡溝15が、内側縦溝13a及び外側縦溝13bに接続される。
この場合、第1連絡溝15から外側縦溝13bに直接インキを流入させることができ、第1連絡溝15からペン先2の切割り2aへと、より迅速にインキを到達させることができる。
【0105】
また本実施形態では、第2連絡溝16が、内側縦溝13a及び外側縦溝13bに接続される。
この場合、外側縦溝13bから第2連絡溝16に直接インキを流入させることができ、櫛溝17に一時的に保持されたインキを、第2連絡溝16からインキ貯留部4により安定して戻すことができる。
【0106】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。
【0107】
前述した実施形態では、横溝14cが、内芯12の外周面のうち左側部分に配置され、連絡溝15,16が、内芯12の外周面のうち右側部分に配置される例を挙げたが、これに限らない。横溝14cは、内芯12の外周面のうち右側部分に配置されてもよい。また、連絡溝15,16は、内芯12の外周面のうち左側部分に配置されてもよい。
【0108】
また前述の実施形態において、「溝」の名称が付く各構成要素については、それぞれ、「溝」を「孔」に言い換えた名称としてもよい。
【0109】
また前述の実施形態では、筆記具10として万年筆を例に挙げて説明したが、これに限らない。筆記具は、万年筆以外のペン等であってもよい。
【0110】
本発明は、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態及び変形例等で説明した各構成を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態等によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の筆記具によれば、粘性の高いインキを使用する場合であっても、インキ貯留部からペン先まで早期にインキを到達させることができ、また、櫛溝に一時的に保持されたインキを安定してインキ貯留部に戻すことができる。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0112】
1…ペン芯、2…ペン先、2a…切割り、3…首部、4…インキ貯留部、10…筆記具、11…外芯、11c…貫通孔、12…内芯、13…インキ溝、13a…内側縦溝、13b…外側縦溝、14…空気溝、15,16…連絡溝、15…第1連絡溝、16…第2連絡溝、17,18…櫛溝、17…後方櫛溝、17a…拡幅部、18…前方櫛溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7