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特開2024-94536作業車両、作業車両の制御システムおよび制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094536
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】作業車両、作業車両の制御システムおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
A01B69/00 303M
A01B69/00 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211141
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100139930
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 亮司
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【弁理士】
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100202142
【弁理士】
【氏名又は名称】北 倫子
(72)【発明者】
【氏名】大倉 康平
(72)【発明者】
【氏名】倉田 諒
(72)【発明者】
【氏名】花島 健太
【テーマコード(参考)】
2B043
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043AB07
2B043AB19
2B043BA02
2B043BB01
2B043BB03
2B043BB06
2B043BB11
2B043BB14
2B043BB20
2B043DA01
2B043DA04
2B043DA05
2B043DA07
2B043DC03
2B043EA02
2B043EA03
2B043EA06
2B043EA13
2B043EA32
2B043EB02
2B043EB03
2B043EB05
2B043EB07
2B043EB08
2B043EB10
2B043EB15
2B043EB16
2B043EB17
2B043EB18
2B043EB24
2B043EC12
2B043EC13
2B043EC14
2B043EC15
2B043ED02
2B043ED03
2B043ED12
2B043EE01
2B043EE02
2B043EE05
(57)【要約】
【課題】作業車両が低速で走行している場合でも進行方向をより正確に判断する。
【解決手段】作業車両は、前進および後進の両方で自動操舵運転を行うことが可能である。前記作業車両は、前記作業車両の時系列位置データを出力する測位装置と、自動操舵モードにおいて、前記時系列位置データと、予め設定された目標経路とに基づいて、前記作業車両の操舵制御を行う制御装置と、前記作業車両の前進と後進とを切り換えるための切換スイッチと、を備える。前記制御装置は、前記自動操舵モードにおいて、前記作業車両の移動速度が第1速度よりも低い場合、前記時系列位置データと、前記切換スイッチの状態とに基づいて、前記作業車両の進行方向を判断する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前進および後進の両方で自動操舵運転を行うことが可能な作業車両であって、
前記作業車両の時系列位置データを出力する測位装置と、
自動操舵モードにおいて、前記時系列位置データと、予め設定された目標経路とに基づいて、前記作業車両の操舵制御を行う制御装置と、
前記作業車両の前進と後進とを切り換えるための切換スイッチと、
を備え、
前記制御装置は、前記自動操舵モードにおいて、前記作業車両の移動速度が第1速度よりも低い場合、前記時系列位置データと、前記切換スイッチの状態とに基づいて、前記作業車両の進行方向を判断する、
作業車両。
【請求項2】
前記制御装置は、前記自動操舵モードにおいて、前記移動速度が前記第1速度よりも低い状態で、前記切換スイッチによる前進と後進との切換操作が行われたとき、前記自動操舵を一時的に解除する待機モードに移行する、請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記待機モードに移行した時点から所定の第1時間以内に、
第1条件:前記時系列位置データから推定される進行方向と、前記切換スイッチが示す進行方向とが一致する、
を含む復帰条件を満たす場合、前記待機モードから前記自動操舵モードに復帰する、
請求項2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記復帰条件は、
第2条件:前記作業車両の移動速度が第2速度以上である、
を含む、請求項3に記載の作業車両。
【請求項5】
前記第2速度は、前記第1速度以下である、請求項4に記載の作業車両。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記待機モードに移行した時点から前記第1時間以内に前記復帰条件を満たさない場合、前記待機モードから手動操舵モードに移行し、
前記手動操舵モードにおいて、ユーザによって前記自動操舵モードへの切り換えの操作が行われるまで、前記手動操舵モードを維持する、
請求項3から5のいずれかに記載の作業車両。
【請求項7】
前記制御装置は、前記待機モードから前記手動操舵モードに移行したとき、運転者に増速を促す警告を表示装置に表示させる、請求項6に記載の作業車両。
【請求項8】
原動機と、
変速装置と、
前記原動機から前記変速装置への動力伝達の有無を切り換えるクラッチと、
をさらに備え、
前記復帰条件は、さらに、
第3条件:前記クラッチが繋がっている、
を含む、請求項3から5のいずれかに記載の作業車両。
【請求項9】
前記切換スイッチは、前進、中立、後進を切り換えるための操作具であり、
前記制御装置は、前記自動操舵モードにおいて、
前記切換スイッチが中立の状態、または前記クラッチが切断された状態が、所定の第2時間以上継続した場合、前記自動操舵モードから手動操舵モードに移行する、
請求項8に記載の作業車両。
【請求項10】
前記制御装置は、前記自動操舵モードにおいて、
前記切換スイッチが中立の状態、または前記クラッチが切断された状態になってから前記第2時間が経過していないとき、
前記移動速度が前記第1速度以上であれば、前記自動操舵モードを継続し、
前記移動速度が前記第1速度未満であれば、前記自動操舵モードから前記待機モードに移行する、
請求項9に記載の作業車両。
【請求項11】
前記第1速度は、0.15km/h以上0.25km/h以下である、請求項1から5のいずれかに記載の作業車両。
【請求項12】
前記制御装置は、前記自動操舵モードにおいて、前記移動速度が前記第1速度以上第3速度未満の場合、前記切換スイッチの状態によらず、前記時系列位置データに基づいて、前記作業車両の進行方向を判断する、請求項1から5のいずれかに記載の作業車両。
【請求項13】
前記測位装置は、GNSS受信機を含む、請求項1から5のいずれかに記載の作業車両。
【請求項14】
前記制御装置は、前記作業車両の前記進行方向の判断の結果を表示装置に表示させる、請求項1から5のいずれかに記載の作業車両。
【請求項15】
前進および後進の両方で自動操舵運転を行うことが可能な作業車両の制御システムであって、
前記作業車両は、前記作業車両の時系列位置データを出力する測位装置と、前記作業車両の前進と後進とを切り換えるための切換スイッチと、を備え、
前記制御システムは、自動操舵モードにおいて、前記時系列位置データと、予め設定された目標経路とに基づいて、前記作業車両の操舵制御を行う制御装置を備え、
前記制御装置は、前記自動操舵モードにおいて、前記作業車両の移動速度が第1速度よりも低い場合、前記時系列位置データと、前記切換スイッチの状態とに基づいて、前記作業車両の進行方向を判断する、
制御システム。
【請求項16】
前進および後進の両方で自動操舵運転を行うことが可能な作業車両の制御方法であって、
前記作業車両は、前記作業車両の時系列位置データを出力する測位装置と、前記作業車両の前進と後進とを切り換えるための切換スイッチと、を備え、
自動操舵モードにおいて、前記時系列位置データと、予め設定された目標経路とに基づいて、前記作業車両の操舵制御を行うことと、
前記自動操舵モードにおいて、前記作業車両の移動速度が第1速度よりも低い場合、前記時系列位置データと、前記切換スイッチの状態とに基づいて、前記作業車両の進行方向を判断することと、
を含む制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業車両、作業車両の制御システムおよび制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圃場で使用されるトラクタなどの作業車両の自動化に向けた研究開発が進められている。例えば、精密な測位が可能なGNSS(Global Navigation Satellite System)などの測位システムを利用して自動操舵で走行する作業車両が実用化されている。自動操舵に加えて速度制御を自動で行う作業車両も実用化されている。
【0003】
特許文献1は、後進時における自動操舵を簡単に行うための技術を開示している。特許文献1に開示された作業車両は、操舵切換スイッチによって自動操舵の開始が行われた際に、走行基準ラインに対応する走行予定ラインに沿って車体が後進するように、後進の自動操舵の指令を行う制御装置を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-54316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動操舵で走行する作業車両は、進行方向(前進または後進)を正確に検知することが求められる。進行方向は、例えばトランスミッションに含まれるギアの回転方向を検知するセンサ、またはGNSSなどの測位システムから取得した時系列の位置データに基づいて判断することができる。
【0006】
しかし、作業車両が非常に低い速度(例えば、0.2km/h未満)で走行している場合、従来の方法では進行方向を正確に検知することができない。
【0007】
本開示は、作業車両が非常に低い速度で走行している場合であっても、進行方向をより正確に検知するためのシステムおよび方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の例示的な実施形態による作業車両は、前進および後進の両方で自動操舵運転を行うことが可能である。前記作業車両は、前記作業車両の時系列位置データを出力する測位装置と、自動操舵モードにおいて、前記時系列位置データと、予め設定された目標経路とに基づいて、前記作業車両の操舵制御を行う制御装置と、前記作業車両の前進と後進とを切り換えるための切換スイッチと、を備える。前記制御装置は、前記自動操舵モードにおいて、前記作業車両の移動速度が第1速度よりも低い場合、前記時系列位置データと、前記切換スイッチの状態とに基づいて、前記作業車両の進行方向を判断する。
【0009】
本開示の包括的または具体的な態様は、装置、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム、もしくはコンピュータが読み取り可能な非一時的記憶媒体、またはこれらの任意の組み合わせによって実現され得る。コンピュータが読み取り可能な記憶媒体は、揮発性の記憶媒体を含んでいてもよいし、不揮発性の記憶媒体を含んでいてもよい。装置は、複数の装置で構成されていてもよい。装置が2つ以上の装置で構成される場合、当該2つ以上の装置は、1つの機器内に配置されてもよいし、分離した2つ以上の機器内に分かれて配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示の実施形態によれば、作業車両が非常に低い速度で走行している場合であっても、進行方向をより正確に検知することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1における作業車両の外観の例を示す斜視図である。
図2】作業車両、および作業車両に連結された作業機の例を模式的に示す側面図である。
図3】作業車両および作業機の概略的な構成の例を示すブロック図である。
図4】RTK-GNSSによる測位を行う作業車両の例を示す概念図である。
図5】キャビンの内部に設けられる操作端末および操作スイッチ群の例を示す模式図である。
図6】自動操舵モードにおける作業車両の走行の例を示す図である。
図7】圃場内を自動操舵で走行する作業車両の目標経路の例を模式的に示す図である。
図8】制御装置によって実行される自動操舵時の動作の例を示すフローチャートである。
図9A】目標経路に沿って走行する作業車両の例を示す図である。
図9B】目標経路から右にシフトした位置にある作業車両の例を示す図である。
図9C】目標経路から左にシフトした位置にある作業車両の例を示す図である。
図9D】目標経路に対して傾斜した方向を向いている作業車両の例を示す図である。
図10】作業車両の移動速度に応じた進行方向判断の方法の一例を示すフローチャートである。
図11】作業車両が低速で走行しているときに切換スイッチが操作された場合における自動操舵のモード変更の動作の一例を示す図である。
図12】作業車両が低速で走行しているときに切換スイッチが操作された場合における自動操舵のモード変更の動作の他の例を示す他の図である。
図13】作業車両が低速で走行しているときに切換スイッチが操作された場合における自動操舵のモード変更の動作のさらに他の例を示す図である。
図14】前進から後進に切り換える動作が行われる状況の一例を示す図である。
図15】操作端末の表示の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に関する重複する説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似の機能を有する構成要素については、同じ参照符号を付している。
【0013】
以下の実施形態は例示であり、本開示の技術は、以下の実施形態に限定されない。例えば、以下の実施形態で示される数値、形状、ステップ、そのステップの順序、表示画面のレイアウトなどは、あくまでも一例であり、技術的に矛盾が生じない限りにおいて種々の改変が可能である。また、技術的に矛盾が生じない限りにおいて、一の態様と他の態様とを組み合わせることが可能である。
【0014】
以下、作業車両の一例である農業用のトラクタに本開示の技術を適用した実施形態を説明する。本開示の技術は、トラクタに限らず、自動操舵で走行する任意の作業車両に適用することができる。作業車両は、例えば、田植機、コンバイン、草刈機、ハーベスタ、除雪車、または建設作業車であってもよい。
【0015】
(実施形態)
本開示の例示的な実施形態における作業車両、および作業車両の制御システムを説明する。
【0016】
本実施形態における作業車両は、自動操舵運転を実現するための制御を行う制御システムを備える。制御システムは、記憶装置と制御装置とを備えるコンピュータシステムである。記憶装置は、1つ以上の記憶媒体を含み、作業車両の目標経路などの種々のデータを記憶する。制御装置は、1つ以上のコンピュータ、プロセッサ、または制御回路を含み、作業車両の動作を制御する。制御装置は、自動操舵モードおよび手動操舵モードの両方で動作することができる。制御装置は、自動操舵モードと手動操舵モードとを、例えば運転者の操作に応答して切り換える。自動操舵モードにおいて、制御装置は、測位装置によって特定された作業車両の位置、および記憶装置に記憶された目標経路に基づいて、作業車両が目標経路に沿って走行するように作業車両の操舵を制御する。測位装置は、作業車両の内部または外部に配置される。測位装置は、例えばGNSS受信機を含み、複数のGNSS衛星からの信号に基づき、作業車両の位置を特定し、時系列の位置データを出力する。測位装置は、LiDARセンサまたはカメラなどの、GNSS受信機以外のデバイスを含んでいてもよい。LiDARセンサまたはカメラによって取得されたデータと、予め用意された環境地図とのマッチングにより、作業車両の位置を推定することができる。目標経路は、作業車両が走行するエリア内に設定される、走行の目標となる経路である。目標経路は、自動操舵運転を開始する前に設定され、記憶装置に記録される。目標経路は、例えば、圃場内に設定され得る。
【0017】
本実施形態における作業車両は、前進および後進の両方で自動操舵運転を行うことが可能である。作業車両は、作業車両の前進と後進とを切り換えるための切換スイッチを備える。制御装置は、自動操舵モードにおいて、測位装置から出力された時系列位置データと、予め設定された目標経路とに基づいて、作業車両の操舵制御を行う。制御装置は、自動操舵モードにおいて、作業車両の移動速度が所定の閾値(「第1速度」と呼ぶ。)よりも低い場合、時系列位置データと、切換スイッチの状態とに基づいて、作業車両の進行方向を判断する。ここで「移動速度」は、作業車両が移動する速度の大きさ(絶対値)を意味し、「車速」とも称する。以下の説明において、後進時の移動速度を特に「後進速度」と称することがある。「進行方向の判断」は、厳密な移動方向を判断することを意味するのではなく、作業車両が前進しているか後進しているか(または停止しているか)を判断することを意味する。第1速度は、例えば時速0.2キロメートル(0.2km/h)などの、非常に低い速度に設定され得る。以下の説明において、そのような低い速度域を「極低速域」と称することがある。
【0018】
作業車両が極低速域で移動しているとき、従来の方法では、作業車両の実際の進行方向、すなわち、前進しているか後進しているかを判別することが難しい。作業車両が例えば0.5km/h以上の速度で移動している場合は、トランスミッションに含まれるギアの回転を検知するセンサなどを利用して、作業車両の進行方向を正確に検知することができる。また、0.5km/h未満の低速域であっても、移動速度が例えば0.2km/h以上であれば、RTK(Real Time Kinematic)-GNSSなどの高精度の測位装置による時系列位置データに基づいて、進行方向をある程度正確に判断することができる。しかし、移動速度が例えば0.2km/hを下回るほどの極低速域においては、RTK-GNSSなどの高精度の測位装置を用いたとしても、位置データの揺らぎの影響により、進行方向を正確に判別することが難しい。例えば、自動操舵モードにおいて、極低速域で運転者が作業車両の前進と後進とを切り換える操作を行った場合、作業車両が前進しているのか後進しているのかを正確に判別することは難しい。このため、極低速域においては、作業車両の進行方向の判別結果に基づく自動操舵などの制御を、信頼性をもって継続することができないという課題があった。
【0019】
このような課題を解決するために、本実施形態における制御装置は、第1速度よりも低い極低速域においては、測位装置によって取得された時系列位置データに加えて、前進と後進とを切り換える切換スイッチ(例えばシャトルレバーまたはシャトルスイッチ)の状態に基づいて、作業車両の進行方向(前進か後進か)を判断する。例えば、制御装置は、時系列位置データから推定される進行方向と、切換スイッチが示す進行方向とが一致する場合に、その進行方向に作業車両が移動していると判定するように構成され得る。
【0020】
上記のような判定方法を導入することにより、測位装置から出力された時系列位置データに基づく進行方向の判断結果の信頼性が低い極低速域においても、シャトルレバーなどの切換スイッチの状態を示す情報を考慮することにより、進行方向の判断結果の信頼性を向上させることができる。結果として、極低速域における自動操舵の信頼性を向上させることができる。
【0021】
以下、本実施形態の作業車両の構成および動作をより詳細に説明する。
【0022】
<構成>
図1は、本実施形態における作業車両100の外観の例を示す斜視図である。図2は、作業車両100、および作業車両100に連結された作業機(インプルメント)300の例を模式的に示す側面図である。本実施形態における作業車両は、圃場で使用されるトラクタである。本実施形態における技術は、トラクタ以外の作業車両にも適用できる。
【0023】
本実施形態における作業車両100は、測位装置120と、1つ以上の障害物センサ130とを備える。図1には1つの障害物センサ130が例示されているが、障害物センサ130は作業車両100の複数の箇所に設けられていてもよい。なお、障害物センサ130は必要に応じて設けられる。不要であれば、作業車両100は障害物センサ130を備えていなくてもよい。
【0024】
図2に示すように、作業車両100は、車両本体101と、原動機(エンジン)102と、変速装置(トランスミッション)103とを備える。車両本体101には、タイヤ付き車輪104と、キャビン105とが設けられている。車輪104は、一対の前輪104Fと一対の後輪104Rとを含む。キャビン105の内部に運転席107、操舵装置106、複数のペダル109、操作端末200、および操作のためのスイッチ群が設けられている。前輪104Fおよび後輪104Rの一方または両方は、タイヤ付き車輪ではなく無限軌道(track)を装着した複数の車輪(クローラ)に置き換えられてもよい。
【0025】
本実施形態における測位装置120は、GNSS受信機を備える。GNSS受信機は、GNSS衛星からの信号を受信するアンテナと、アンテナが受信した信号に基づいて作業車両100の位置を決定するプロセッサとを備え得る。測位装置120は、複数のGNSS衛星から送信されるGNSS信号を受信し、GNSS信号に基づいて測位を行う。GNSSは、GPS(Global Positioning System)、QZSS(Quasi-Zenith Satellite System、例えばみちびき)、GLONASS、Galileo、およびBeiDouなどの衛星測位装置の総称である。本実施形態における測位装置120は、キャビン105の上部に設けられているが、他の位置に設けられていてもよい。
【0026】
測位装置120は、慣性計測装置(IMU)を含んでいてもよい。IMUからの信号を利用して位置データを補完することができる。IMUは、作業車両100の傾きおよび微小な動きを計測することができる。IMUによって取得されたデータを用いて、衛星信号に基づく位置データを補完または補正することにより、測位の性能を向上させることができる。
【0027】
測位装置120は、GNSS受信機に代えて、あるいは加えて、LiDARセンサまたはカメラ(イメージセンサを含む)などの他の種類のデバイスを含んでいてもよい。作業車両100が走行する環境内に特徴点として機能する地物が存在する場合、LiDARセンサまたはカメラによって取得されたデータと、予め記憶装置170に記録された環境地図とに基づいて、作業車両100の位置を高い精度で推定することができる。LiDARセンサ110またはカメラをGNSS受信機と併用してもよい。LiDARセンサ110またはカメラが取得したデータを用いて、GNSS信号に基づく位置データを補正または補完することで、より高い精度で作業車両100の位置を特定できる。
【0028】
図1および図2に示す例では、車両本体101の後部に障害物センサ130が設けられている。障害物センサ130は、車両本体101の後部以外の部位にも配置され得る。例えば、車両本体101の側部、前部、およびキャビン105のいずれかの箇所に、1つまたは複数の障害物センサ130が設けられ得る。障害物センサ130は、作業車両100の周囲に存在する物体を検出する。障害物センサ130は、例えばレーザスキャナまたは超音波ソナーを備え得る。障害物センサ130は、障害物センサ130から所定の距離よりも近くに物体が存在する場合に、障害物が存在することを示す信号を出力する。複数の障害物センサ130が作業車両100の車体の異なる位置に設けられていてもよい。例えば、複数のレーザスキャナと、複数の超音波ソナーとが、車体の異なる位置に配置されていてもよい。そのような多くの障害物センサ130を備えることにより、作業車両100の周囲の障害物の監視における死角を減らすことができる。なお、上記のように、作業車両100は障害物センサ130を備えていなくてもよい。
【0029】
原動機102は、例えばディーゼルエンジンであり得る。ディーゼルエンジンに代えて電動モータが使用されてもよい。変速装置103は、変速によって作業車両100の推進力および移動速度を変化させることができる。変速装置103は、作業車両100の前進と後進とを切り換えることもできる。
【0030】
操舵装置106は、ステアリングホイールと、ステアリングホイールに接続されたステアリングシャフトと、ステアリングホイールによる操舵を補助するパワーステアリング装置とを含む。前輪104Fは操舵輪であり、その切れ角(「操舵角」とも称する。)を変化させることにより、作業車両100の走行方向を変化させることができる。前輪104Fの操舵角は、ステアリングホイールを操作することによって変化させることができる。パワーステアリング装置は、前輪104Fの操舵角を変化させるための補助力を供給する油圧装置または電動モータを含む。自動操舵が行われるときには、作業車両100内に配置された制御装置からの制御により、油圧装置または電動モータの力によって操舵角が自動で調整される。
【0031】
複数のペダル109は、アクセルペダル、クラッチペダル、およびブレーキペダルを含む。それぞれのペダルには、踏み込みを検知するセンサが設けられている。
【0032】
車両本体101の後部には、連結装置108が設けられている。連結装置108は、例えば3点支持装置(「3点リンク」または「3点ヒッチ」とも称する。)、PTO(Power Take Off)軸、ユニバーサルジョイント、および通信ケーブルを含む。連結装置108によって作業機300を作業車両100に着脱することができる。連結装置108は、例えば油圧装置によって3点リンクを昇降させ、作業機300の位置または姿勢を制御することができる。また、ユニバーサルジョイントを介して作業車両100から作業機300に動力を送ることができる。作業車両100は、作業機300を引きながら、作業機300に所定の作業を実行させることができる。連結装置は、車両本体101の前方に設けられていてもよい。その場合、作業車両100の前方に作業機を接続することができる。
【0033】
図2に示す作業機300は、ロータリ耕耘機であるが、作業機300はロータリ耕耘機に限定されない。例えば、モーア(草刈機)、シーダ(播種機)、スプレッダ(施肥機)、レーキ作業機、ベーラ(集草機)、ハーベスタ(収穫機)、スプレイヤ、またはハローなどの、任意の作業機を作業車両100に接続して使用することができる。
【0034】
図3は、作業車両100および作業機300の概略的な構成の例を示すブロック図である。作業車両100と作業機300は、連結装置108に含まれる通信ケーブルを介して互いに通信することができる。
【0035】
図3の例における作業車両100は、測位装置120、障害物センサ130、操作端末200に加え、駆動装置140、センサ群150、制御システム160、通信インタフェース(I/F)190、操作スイッチ群210、およびブザー220を備える。これらの構成要素は、バスを介して相互に通信可能に接続される。測位装置120は、GNSS受信機121と、RTK受信機122と、慣性計測装置(IMU)125と、プロセッサ126とを備える。センサ群150は、例えば、ステアリングホイールセンサ152と、切れ角センサ154と、トランスミッション(T/M)回転センサ156とを含み得る。スイッチ群210は、例えば、クラッチペダル212、前進と後進とを切り換える切換スイッチ214、および自動操舵モードと手動操舵モードとを切り換えるスイッチ216とを含み得る。制御システム160は、記憶装置170と、制御装置180とを備える。制御装置180は、複数の電子制御ユニット(ECU)182、183、184、185を備える。作業機300は、駆動装置340と、制御装置380と、通信インタフェース(I/F)390とを備える。なお、図3には、作業車両100による自動操舵または自動走行の動作との関連性が相対的に高い構成要素が示されており、それ以外の構成要素の図示は省略されている。
【0036】
測位装置120におけるGNSS受信機121は、複数のGNSS衛星から送信される衛星信号を受信し、衛星信号に基づいてGNSSデータを生成する。GNSSデータは、例えばNMEA-0183フォーマットなどの所定のフォーマットで生成される。GNSSデータは、例えば、衛星信号が受信されたそれぞれの衛星の識別番号、仰角、方位角、および受信強度を示す値を含み得る。
【0037】
図3に示す測位装置120は、RTK(Real Time Kinematic)-GNSSを利用して作業車両100の測位を行う。図4は、RTK-GNSSによる測位を行う作業車両100の例を示す概念図である。RTK-GNSSによる測位では、複数のGNSS衛星50から送信される衛星信号に加えて、基準局60から送信される補正信号が利用される。基準局60は、作業車両100が作業走行を行う圃場の付近(例えば、作業車両100から10km以内の位置)に設置され得る。基準局60は、複数のGNSS衛星50から受信した衛星信号に基づいて、例えばRTCMフォーマットの補正信号を生成し、測位装置120に送信する。RTK受信機122は、アンテナおよびモデムを含み、基準局60から送信される補正信号を受信する。測位装置120のプロセッサ126は、補正信号に基づき、GNSS受信機121による測位結果を補正する。RTK-GNSSを用いることにより、例えば誤差数cmの精度で測位を行うことが可能である。緯度、経度、および高度の情報を含む位置情報が、RTK-GNSSによる高精度の測位によって取得される。測位装置120は、例えば1秒間に1回から10回程度の頻度で、作業車両100の位置を計算する。測位装置120は、計算した位置(座標)の情報を含む時系列位置データを出力する。
【0038】
なお、測位方法はRTK-GNSSに限らず、必要な精度の位置情報が得られる任意の測位方法(干渉測位法または相対測位法など)を用いることができる。例えば、VRS(Virtual Reference Station)またはDGPS(Differential Global Positioning System)を利用した測位を行ってもよい。基準局60から送信される補正信号を用いなくても必要な精度の位置情報が得られる場合は、補正信号を用いずに位置情報を生成してもよい。その場合、測位装置120は、RTK受信機122を備えていなくてもよい。
【0039】
図3に示す測位装置120は、さらにIMU125を備えている。IMU125は、3軸加速度センサおよび3軸ジャイロスコープを備える。IMU125は、3軸地磁気センサなどの方位センサを備えていてもよい。IMU125は、モーションセンサとして機能し、作業車両100の加速度、速度、変位、および姿勢などの諸量を示す信号を出力することができる。測位装置120のプロセッサ126は、GNSS信号および補正信号に加えて、IMU125から出力された信号に基づいて、作業車両100の位置および向きをより高い精度で推定することができる。IMU125から出力された信号は、GNSS信号および補正信号に基づいて計算される位置の補正または補完に用いられ得る。IMU125は、GNSS信号よりも高い頻度で信号を出力する。その高頻度の信号を利用して、作業車両100の位置および向きをより高い頻度(例えば、10Hz以上)で計測することができる。IMU125に代えて、3軸加速度センサおよび3軸ジャイロスコープを別々に設けてもよい。IMU125は、測位装置120とは別の装置として設けられていてもよい。なお、測位装置120におけるプロセッサ126の少なくとも一部の機能は、制御装置180におけるいずれかのECUによって実行されてもよい。
【0040】
測位装置120は、GNSS受信機121、RTK受信機122、およびIMU125に加えて、またはこれらに代えて、LiDARセンサまたはイメージセンサなどの他の種類のセンサを備えていてもよい。作業車両100が走行する環境に、ランドマークとなり得る地物が存在する場合、これらのセンサから出力されるセンサデータと環境地図とのマッチングによって、作業車両100の位置および向きを推定することができる。そのような構成においては、LiDARセンサまたはイメージセンサなどの外界センサが測位装置に含まれ得る。
【0041】
駆動装置140は、例えば前述の原動機102、変速装置103、操舵装置106、および連結装置108などの、作業車両100の走行および作業機300の駆動に必要な各種の装置を含む。原動機102は、例えばディーゼル機関などの内燃機関を備え得る。駆動装置140は、内燃機関に代えて、あるいは内燃機関とともに、トラクション用の電動モータを備えていてもよい。
【0042】
ステアリングホイールセンサ152は、作業車両100のステアリングホイールの回転角を計測する。切れ角センサ154は、操舵輪である前輪104Fの切れ角を計測する。
【0043】
T/M回転センサ156は、車輪104に接続された車軸の回転速度、すなわち単位時間あたりの回転数を計測するためのセンサである。T/M回転センサ156は、例えば磁気抵抗素子(MR)、ホール素子、または電磁ピックアップを利用したセンサであり得る。T/M回転センサ156は、例えば、トランスミッションに含まれるギアの回転速度に比例するパルス信号を出力する。T/M回転センサ156は、作業車両100の車速および進行方向を判断するために使用され得る。
【0044】
ステアリングホイールセンサ152、切れ角センサ154、およびT/M回転センサ156による計測値は、制御装置180による操舵制御に利用される。
【0045】
記憶装置170は、フラッシュメモリまたは磁気ディスクなどの1つ以上の記憶媒体を含む。記憶装置170は、各センサ、および制御装置180が生成する各種のデータを記憶する。記憶装置170が記憶するデータには、作業車両100が走行する環境内の地図データ、および自動操舵の目標経路のデータが含まれ得る。記憶装置170は、制御装置180における各ECUに、後述する各種の動作を実行させるコンピュータプログラムも記憶する。そのようなコンピュータプログラムは、記憶媒体(例えば半導体メモリまたは光ディスク等)または電気通信回線(例えばインターネット)を介して作業車両100に提供され得る。そのようなコンピュータプログラムが、商用ソフトウェアとして販売されてもよい。
【0046】
制御装置180は、複数のECUを含む。複数のECUは、走行制御用のECU182、自動操舵制御用のECU183、作業機制御用のECU184、および表示制御用のECU185を含む。ECU182は、駆動装置140に含まれる原動機102、変速装置103、アクセル、およびブレーキを制御することによって作業車両100の速度を制御する。ECU182はまた、ステアリングホイールセンサ152の計測値に基づいて、操舵装置106に含まれる油圧装置または電動モータを制御することにより、作業車両100のステアリングを制御する。ECU183は、測位装置120、ステアリングホイールセンサ152、切れ角センサ154、T/M回転センサ156等から出力される信号に基づいて、自動操舵運転を実現するための演算および制御を行う。自動操舵運転中、ECU183は、ECU182に操舵角の変更の指令を送る。ECU182は、当該指令に応答して操舵装置106を制御することによって操舵角を変化させる。ECU184は、作業機300に所望の動作を実行させるために、連結装置108の動作を制御する。ECU184はまた、作業機300の動作を制御する信号を生成し、その信号を通信I/F190から作業機300に送信する。ECU185は、操作端末200の表示を制御する。ECU185は、例えば、操作端末200における表示装置に、圃場のマップ、マップ中の作業車両100の位置および目標経路、ポップアップ通知、設定画面などの様々な表示を実現させる。
【0047】
これらのECUの働きにより、制御装置180は、手動操舵または自動操舵による運転を実現する。自動操舵運転時において、制御装置180は、測位装置120によって計測または推定された作業車両100の位置と、記憶装置170に記憶された目標経路とに基づいて、駆動装置140を制御する。これにより、制御装置180は、作業車両100を目標経路に沿って走行させることができる。
【0048】
制御装置180に含まれる複数のECUは、例えばCAN(Controller Area Network)などのビークルバス規格に従って、相互に通信することができる。図3において、ECU182、183、184、185のそれぞれは、個別のブロックとして示されているが、これらのそれぞれの機能が、複数のECUによって実現されていてもよい。また、ECU182、183、184、185の少なくとも一部の機能を統合した車載コンピュータが設けられていてもよい。制御装置180は、ECU182、183、184、185以外のECUを備えていてもよい。機能に応じて任意の個数のECUが設けられ得る。各ECUは、1つ以上のプロセッサを含む制御回路を備える。
【0049】
通信I/F190は、作業機300の通信I/F390と通信を行う回路である。通信I/F190は、例えばISOBUS-TIM等のISOBUS規格に準拠した信号の送受信を、作業機300の通信I/F390との間で実行する。これにより、作業機300に所望の動作を実行させたり、作業機300から情報を取得したりすることができる。通信I/F190は、有線または無線のネットワークを介して外部のコンピュータと通信してもよい。外部のコンピュータは、例えば、圃場に関する情報をクラウド上で一元管理し、クラウド上のデータを活用して農業を支援する営農支援システムにおけるサーバコンピュータであってもよい。
【0050】
操作端末200は、作業車両100の走行および作業機300の動作に関する操作をユーザが実行するための端末であり、バーチャルターミナル(VT)とも称される。操作端末200は、タッチスクリーンなどの表示装置、および/または1つ以上のボタンを備え得る。ユーザは、操作端末200を操作することにより、例えば自動操舵モードのオン/オフの切り換え、作業車両100の初期位置の設定、目標経路の設定、地図の記録または編集、および作業機300のオン/オフの切り換えなどの種々の操作を実行することができる。これらの操作の少なくとも一部は、操作スイッチ群210を操作することによっても実現できる。図3には、操作スイッチ群210の例として、クラッチペダル212、前後進切換スイッチ214、自動操舵切換スイッチ216が示されている。操作端末200への表示は、ECU185によって制御される。
【0051】
ブザー220は、ユーザに異常を報知するための警告音を発する音声出力装置である。ブザー220は、例えば、自動操舵運転時に、作業車両100が目標経路から所定距離以上逸脱した場合に警告音を発する。ブザー220の代わりに、操作端末200のスピーカによって同様の機能が実現されてもよい。
【0052】
作業機300における駆動装置340は、作業機300が所定の作業を実行するために必要な動作を行う。駆動装置340は、例えば油圧装置、電気モータ、またはポンプなどの、作業機300の用途に応じた装置を含む。制御装置380は、駆動装置340の動作を制御する。制御装置380は、通信I/F390を介して作業車両100から送信された信号に応答して、駆動装置340に各種の動作を実行させる。また、作業機300の状態に応じた信号を通信I/F390から作業車両100に送信することもできる。
【0053】
図5は、キャビン105の内部に設けられる操作端末200および操作スイッチ群210の例を示す図である。キャビン105の内部には、ユーザが操作可能な複数のスイッチを含むスイッチ群210が配置される。スイッチ群210は、例えば、自動操舵(オートステア)モードおよび手動操舵(マニュアルステア)モードを切り換えるためのスイッチ216、前進および後進を切り換えるための切換スイッチ214(例えばシャトルレバーまたはシャトルスイッチ)、主変速または副変速の変速段を選択するためのスイッチ、および作業機300を昇降するためのスイッチを含み得る。図5には示されていない複数のペダル109(例えばクラッチペダル212)もスイッチ群210に含まれる。
【0054】
<動作>
次に、作業車両100の動作を説明する。本実施形態における制御装置180は、作業車両100のユーザ(例えば運転者)の操作に応答して手動操舵モードと自動操舵モードとを切り換えることができる。手動操舵モードにおいて、制御装置180は、ユーザによるステアリングホイールの操作に応答してパワーステアリング装置を駆動することによって操舵を制御する。自動操舵モードにおいて、制御装置180は、測位装置120によって計測された作業車両100の位置と、予め記録された目標経路とに基づいてパワーステアリング装置を駆動することによって操舵を制御する。自動操舵モードにおいても、速度はユーザによるアクセル操作およびブレーキ操作によって調整される。
【0055】
図6は、自動操舵モードにおける作業車両100の走行の例を示す図である。図6の(a)は、直線状の目標経路Pに沿って作業車両100が走行する様子を模式的に示している。図6の(b)は、曲線状の目標経路Pに沿って作業車両100が走行する様子を模式的に示している。図6の(c)は、隣り合う2つの直線状の経路と、それらを接続する曲線状の経路とを含む目標経路Pに沿って作業車両100が走行する様子を模式的に示している。目標経路Pは、予め設定され、記憶装置170に記録される。作業車両100が自動操舵モードで走行しているとき、制御装置180は、測位装置120によって計測された作業車両100の位置および向きと、目標経路Pとの偏差を計算し、偏差を小さくするように操舵装置を制御する動作を繰り返す。これにより、目標経路Pに沿って作業車両100を走行させる。
【0056】
図7は、圃場内を自動操舵で走行する作業車両100の目標経路の例を模式的に示す図である。この例において、圃場は、作業車両100および作業機300が作業を行う作業領域70と、圃場の外周縁付近に位置する枕地80とを含む。圃場の地図上でどの領域が作業領域70および枕地80に該当するかは、ユーザが操作端末200を用いた操作によって事前に設定され得る。目標経路は、並列する複数の主経路P1と、複数の主経路P1を接続する複数の旋回経路P2とを含む。主経路P1は、作業領域70内に位置し、旋回経路P2は、枕地80に位置する。図7における破線は、作業機300の作業幅を表している。作業幅は、予め設定され、記憶装置170に記録される。作業幅は、ユーザが操作端末200を操作することによって設定され、記憶装置170に記録され得る。あるいは、作業幅は、作業機300を作業車両100に接続したときに自動で認識され、記憶装置170に記録されてもよい。複数の主経路P1の間隔は、作業幅に合わせられる。目標経路は、自動操舵運転が開始される前に、ユーザの操作に基づいて決定され得る。
【0057】
次に、制御装置180による自動操舵時の制御の例を説明する。
【0058】
図8は、制御装置180によって実行される自動操舵時の動作の例を示すフローチャートである。制御装置180は、作業車両100の走行中、図8に示すステップS101からS105の動作を実行することにより、自動操舵運転を行う。制御装置180は、まず、測位装置120によって生成された作業車両100の位置を示すデータを取得する(ステップS101)。次に、制御装置180は、作業車両100の位置と、目標経路との偏差を算出する(ステップS102)。偏差は、その時点における作業車両100の位置と、目標経路との距離を表す。制御装置180は、算出した位置の偏差が予め設定された閾値を超えるか否かを判断する(ステップS103)。偏差が閾値を超える場合、制御装置180は、偏差が小さくなるように、駆動装置140に含まれる操舵装置の制御パラメータを変更することにより、操舵角を変更する。ステップS103において偏差が閾値を超えない場合、ステップS104の動作は省略される。続くステップS105において、制御装置180は、動作終了の指令を受けたか否かを判断する。動作終了の指令は、例えばユーザが操作端末200を用いて自動操舵モードの停止を指示したり、作業車両100が目的地に到達したりした場合に出され得る。動作終了の指令が出されていない場合、ステップS101に戻り、新たに計測された作業車両100の位置に基づいて、同様の動作を実行する。制御装置180は、動作終了の指令が出されるまで、ステップS101からS105の動作を繰り返す。上記の動作は、制御装置180におけるECU183によって実行される。
【0059】
図8に示す例では、制御装置180は、測位装置120によって特定された作業車両100の位置と目標経路との偏差のみに基づいて駆動装置140を制御するが、方位の偏差もさらに考慮して制御してもよい。例えば、制御装置180は、測位装置120によって特定された作業車両100の向きと、目標経路の方向との角度差である方位偏差が予め設定された閾値を超える場合に、その偏差に応じて駆動装置140の操舵装置の制御パラメータ(例えば操舵角)を変更してもよい。
【0060】
以下、図9Aから図9Dを参照しながら、制御装置180による操舵制御の例をより具体的に説明する。
【0061】
図9Aは、目標経路Pに沿って走行する作業車両100の例を示す図である。図9Bは、目標経路Pから右にシフトした位置にある作業車両100の例を示す図である。図9Cは、目標経路Pから左にシフトした位置にある作業車両100の例を示す図である。図9Dは、目標経路Pに対して傾斜した方向を向いている作業車両100の例を示す図である。これらの図において、測位装置120によって計測された作業車両100の位置および向きを示すポーズがr(x,y,θ)と表現されている。(x,y)は、地球に固定された2次元座標系であるXY座標系における作業車両100の基準点の位置を表す座標である。図9Aから図9Dに示す例において、作業車両100の基準点はキャビン上のGNSSアンテナが設置された位置にあるが、基準点の位置は任意である。θは、作業車両100の計測された向きを表す角度である。図示されている例においては、目標経路PがY軸に平行であるが、一般的には目標経路PはY軸に平行であるとは限らない。
【0062】
図9Aに示すように、作業車両100の位置および向きが目標経路Pから外れていない場合には、制御装置180は、作業車両100の操舵角および速度を変更せずに維持する。
【0063】
図9Bに示すように、作業車両100の位置が目標経路Pから右側にシフトしている場合には、制御装置180は、作業車両100の走行方向が左寄りに傾き、経路Pに近付くように、駆動装置140に含まれるステアリングホイールの回転角を変更して操舵角を変更する。このとき、操舵角に加えて速度も併せて変更してもよい。操舵角の大きさは、例えば位置偏差Δxの大きさに応じて調整され得る。
【0064】
図9Cに示すように、作業車両100の位置が目標経路Pから左側にシフトしている場合には、制御装置180は、作業車両100の走行方向が右寄りに傾き、経路Pに近付くように、ステアリングホイールの回転角を変更して操舵角を変更する。この場合も、操舵角に加えて速度も併せて変更してもよい。操舵角の変化量は、例えば位置偏差Δxの大きさに応じて調整され得る。
【0065】
図9Dに示すように、作業車両100の位置は目標経路Pから大きく外れていないが、向きが目標経路Pの方向とは異なる場合は、制御装置180は、方位偏差Δθが小さくなるように操舵角を変更する。この場合も、操舵角に加えて速度も併せて変更してもよい。操舵角の大きさは、例えば位置偏差Δxおよび方位偏差Δθのそれぞれの大きさに応じて調整され得る。例えば、位置偏差Δxの絶対値が小さいほど方位偏差Δθに応じた操舵角の変化量を大きくしてもよい。位置偏差Δxの絶対値が大きい場合には、経路Pに戻るために操舵角を大きく変化させることになるため、必然的に方位偏差Δθの絶対値が大きくなる。逆に、位置偏差Δxの絶対値が小さい場合には、方位偏差Δθをゼロに近づけることが必要である。このため、操舵角を決定するための方位偏差Δθの重み(すなわち制御ゲイン)を相対的に大きくすることが妥当である。
【0066】
作業車両100の操舵制御および速度制御には、PID制御またはMPC制御(モデル予測制御)などの制御技術が適用され得る。これらの制御技術を適用することにより、作業車両100を目標経路Pに近付ける制御を滑らかにすることができる。
【0067】
なお、走行中に1つ以上の障害物センサ130によって障害物が検出された場合には、制御装置180は、作業車両100を停止させるか、自動操舵モードから手動操舵モードに切り換えてもよい。制御装置180は、障害物が検出された場合に障害物を回避するように駆動装置140を制御してもよい。
【0068】
<低速時の進行方向判断>
次に、自動操舵モードにおいて、作業車両100が低速で移動しているときに進行方向を判断する方法の例を説明する。
【0069】
作業車両100が自動操舵モードで走行するとき、制御装置180は、T/M回転センサ156から出力された信号に基づいて、作業車両100の進行方向、すなわち前進しているか後進しているかを判断することができる。しかし、作業車両100の移動速度が例えば0.5km/hを下回るほど低い場合、車軸の回転速度が低すぎるために、T/M回転センサ156からの信号に基づいて進行方向を判断することができなくなる。このため、そのような低速域においては、制御装置180は、例えばRTK-GNSSを利用する測位装置120から出力される時系列位置データに基づいて進行方向を判断することができる。しかしながら、そのような高精度の測位が可能な測位装置120を用いた場合であっても、車速が例えば0.2km/hを下回るほどの極低速域では、測位装置120から出力された時系列位置データに基づく進行方向の判断の信頼性が低くなる。これは、時系列位置データにおける座標値のばらつきに対して作業車両100の実際の変位が小さすぎるために、前進、後進の判断が困難になるからである。そこで、本実施形態では、車速が例えば0.2km/hを下回るような極低速域においては、測位装置120からの時系列位置データに加えて、前進と後進とを切り換える切換スイッチ214の状態も考慮して、進行方向が判断される。これにより、極低速域における進行方向判断の信頼性を向上させることができる。
【0070】
図10は、作業車両100の移動速度(車速)に応じた進行方向判断の方法の一例を示すフローチャートである。図10に示す動作は、制御装置180におけるECU183によって実行される。以下、各ステップの動作を説明する。
【0071】
ステップS121において、制御装置180は、車速が第1閾値以上であるか否かを判定する。第1閾値は、例えば0.5km/hなどの比較的低い値に設定され得る。第1閾値は、システムの構成または要求される性能に応じて適宜変更され得る。第1閾値は、例えば、0.3km/h以上1.0km/h以下、あるいは0.4km/h以上0.7km/h以下の値に設定され得る。車速が第1閾値以上である場合は、ステップS123に進む。車速が第1閾値未満である場合は、ステップS122に進む。
【0072】
ステップS122において、制御装置180は、車速が第1閾値よりも小さい第2閾値以上であるか否かを判定する。第2閾値は、前述の「第1速度」に相当し、例えば0.2km/hなどの低い値に設定され得る。第2閾値は、システムの構成または要求される性能に応じて適宜変更され得る。第2閾値(第1速度)は、例えば、0.1km/h以上0.3km/h以下、あるいは0.15km/h以上0.25km/h以下の値に設定され得る。車速が第2閾値以上である場合は、ステップS124に進む。車速が第2閾値未満の場合は、ステップS125に進む。
【0073】
ステップS121、S122において、制御装置180は、T/M回転センサ156から出力される信号、または測位装置120から出力される時系列位置データに基づいて車速を推定することができる。例えば、車速が第1閾値以上である場合は、T/M回転センサ156から出力される信号に基づいて車速が推定され得る。一方、車速が第1閾値未満である場合は、測位装置120から出力される時系列位置データに基づいて車速が推定され得る。車速の推定には、IMU125から出力された信号が利用されてもよい。
【0074】
ステップS123において、制御装置180は、T/M回転センサ156から出力される信号に基づいて作業車両100の進行方向(すなわち前進または後進)を判断する。車速が第1閾値以上の場合には、T/M回転センサ156から出力される信号に基づいて進行方向を正確に判断することができる。
【0075】
ステップS124において、制御装置180は、測位装置120から出力される時系列位置データに基づいて作業車両100の進行方向を判断する。車速が第1閾値未満である場合には、T/M回転センサ156から出力される信号に基づいて進行方向を正確に判断することができなくなる。このため、制御装置180は、測位装置120から出力される時系列位置データすなわち座標値の時間変化に基づいて進行方向を判断する。
【0076】
ステップS125において、制御装置180は、測位装置120から出力される時系列位置データと、前進と後進とを切り換えるための切換スイッチ214の状態とに基づいて作業車両100の進行方向を判断する。車速が第2閾値(第1速度)よりも低い場合、測位装置120がRTK-GNSSを利用した高精度の位置データを出力する場合であっても、当該位置データに基づく進行方向判断に誤りが生じる可能性がある。そこで、車速が第2閾値(第1速度)よりも低い場合には、測位装置120から出力される時系列位置データに加えて、切換スイッチ214の状態に基づいて進行方向が判断される。例えば、制御装置180は、時系列位置データから推定される進行方向と、切換スイッチ214が示す進行方向とが一致する場合に、その進行方向に作業車両100が移動していると判断する。これにより、進行方向判断の信頼性を向上させることができる。
【0077】
制御装置180は、作業車両100の動作中、ステップS121からS125の動作を繰り返す。図10に示す進行方向判断は、自動操舵運転中か否かに関わらず実行される。
【0078】
以上の動作により、車速が第1速度を下回るような極低速域においても、作業車両100の進行方向をより正確に判断することが可能になる。これにより、極低速域における自動操舵の信頼性を向上させることができる。
【0079】
本実施形態において、制御装置180は、自動操舵モードにおいて、作業車両100の移動速度が第1速度よりも低い状態で、切換スイッチ214による前進と後進との切換操作が行われたとき、自動操舵を一時的に解除する待機モードに移行してもよい。さらに、待機モードに移行した時点から所定時間(以下、「第1時間」と称することがある。)以内に、所定の復帰条件を満たす場合、待機モードから自動操舵モードに復帰してもよい。復帰条件は、例えば、「時系列位置データから推定される進行方向と、切換スイッチ214が示す進行方向とが一致する」という条件(第1条件)を含み得る。第1時間は、例えば5秒または10秒などの時間であり、予め設定され得る。第1時間は、例えば、1秒以上30秒以下の長さに設定され得る。
【0080】
復帰条件は、さらに、「作業車両の移動速度が第2速度以上である」という条件(第2条件)を含んでいてもよい。ここで、第2速度は、第1速度以下の値に設定され得る。例えば、第1速度が0.2km/hである場合、第2速度は、0.1km/hまたは0.15km/hなどの、第1速度よりも低い値に設定され得る。第2速度は、第1速度と同一の値に設定されてもよいし、第1速度よりも高い値に設定されてもよい。
【0081】
本実施形態における作業車両100は、原動機102と、変速装置103と、原動機102から変速装置103への動力伝達の有無を切り換えるクラッチとを備えている。クラッチは、クラッチペダル212によって操作される。この場合、復帰条件は、さらに、「クラッチが繋がっている」という条件(第3条件)を含み得る。制御装置180は、例えば、クラッチペダル212が踏まれていない場合、すなわちユーザによるクラッチ切断の操作の入力がない場合に、クラッチが繋がっていると判定することができる。制御装置180は、クラッチペダル212に設けられたセンサからの信号に基づいて、クラッチが繋がっているか否かを判定することができる。クラッチが繋がっていない(すなわちクラッチが切断されている)場合、原動機102からの動力が変速装置103に伝達されず、車軸の回転方向の変化をもたらさないことから、復帰条件には第3条件が含まれ得る。
【0082】
制御装置180は、待機モードに移行した後、所定時間以内に、作業車両100の移動速度が第1速度を超えた場合、第1条件などの他の条件を満たしているか否かに関わらず、自動操舵モードに復帰してもよい。移動速度が第1速度を超えた場合、切換スイッチ214の状態によらず、測位装置120からの時系列位置データに基づいて進行方向を比較的正確に判断することが可能であるからである。
【0083】
制御装置180は、待機モードに移行した時点から所定時間以内に復帰条件を満たさない場合、待機モードから手動操舵モードに移行してもよい。手動操舵モードにおいて、制御装置180は、ユーザによって自動運転モードへの切り換えの操作が行われるまで、手動操舵モードを維持する。
【0084】
以下、図11から図13を参照しながら、低速走行時に切換スイッチ214を用いた前後進の切換操作が行われたときの動作の具体例を説明する。
【0085】
図11から図13は、作業車両100が低速で走行しているときに切換スイッチ214(この例ではシャトルレバー)が操作された場合における自動操舵のモード変更の動作の一例を示している。図11から図13に示されているグラフは、作業車両100の実際の車速(絶対値)の時間変化の例を示している。グラフの下には、作業車両100の実際の進行方向、測位装置120から出力される時系列位置データに基づく進行方向、シャトルレバーが示す進行方向、および自動操舵の状態が示されている。前進は「F」、後進は「R」、自動操舵モードの状態は「Active」、待機モードの状態は「Pending」、手動操舵モードの状態は「Disengaged」と表現されている。時系列位置データに基づく進行方向は、GNSSデータに基づく進行方向であり、例えば測位装置120のプロセッサ126によって推定され得る。
【0086】
図11の例では、自動操舵モードにおいて作業車両100が0.15km/hで前進している状態で、時刻tに、ユーザ(運転者)が切換スイッチ214(シャトルレバー)を操作して、前進から後進への切換操作を行っている。このような操作は、例えば図14に例示するように、圃場の作業領域70の外側の枕地80で作業車両100を旋回させた後、目標の経路Pに近づけるために、作業車両100を一旦後進させる場合などに行われ得る。シャトルレバーの切換操作に応答して、制御装置180は、自動操舵を一時的に解除し、待機モード(Pending)に移行する。ユーザがシャトルレバーを切り換えた後も、しばらくは前進の状態が続き、ある時点で作業車両100の実際の進行方向が後進の方向に切り換わる。その後、作業車両100の後進速度は徐々に増加し、ある時点で時系列位置データに基づいて推定される進行方向が前進方向(F)から後進方向(R)に変化する。これにより、時系列位置データに基づいて推定される進行方向と、シャトルレバーが示す進行方向とが一致する。図11の例では、時刻tから所定時間x(例えば5秒または10秒)が経過する前に両者の進行方向が一致している。制御装置180は、前後進の切換操作を検知してから所定時間xが経過する前に、時系列位置データに基づく進行方向と、シャトルレバーが示す進行方向とが一致したことを検知すると、自動操舵の状態を「Pending」から「Active」に変更する。すなわち、待機モードから自動操舵モードに復帰する。以後、制御装置180は、自動操舵モードで作業車両100を後進させる。
【0087】
一方、図12に示す例では、測位装置120から出力される時系列位置データに基づいて推定される進行方向が、シャトルレバーの切換操作から所定時間xが経過しても、前進方向(F)のままである。このような場合、制御装置180は、切換操作が行われた時刻tから所定時間xが経過した時点で、自動操舵の状態を「Pending」から「Disengaged」に変更する。すなわち、待機状態から手動操舵モードに移行する。以後、時系列位置データに基づく進行方向が後進方向(R)に反転したとしても、手動操舵モードが継続される。その後、ユーザから自動操舵モードの開始の操作が行われるまで、手動操舵モードが維持される。
【0088】
制御装置180は、待機モードから手動操舵モードに移行した場合、操作端末200などの表示装置(ディスプレイ)に警告を表示させたり、ブザー220に警告音を発出させたりしてもよい。また、制御装置180は、作業車両100の走行中、現在のモードが自動操舵モード、待機モード、手動操舵モードのいずれであるのかを表示装置に表示させてもよい。制御装置180は、作業車両100の進行方向の判断の結果を操作端末200の表示装置に表示させてもよい。
【0089】
図15は、操作端末200の表示の一例を示す図である。この例では、制御装置180は、作業車両100および目標経路Pを含む圃場の地図を操作端末200のディスプレイに表示させる。制御装置180は、作業車両100の進行方向(前進または後進)の判断の結果を、図15に示すように矢印でディスプレイに表示させてもよい。図15の例では、自動操舵モードのオン、オフを示すアイコン86と、警告メッセージ92とが表示されている。制御装置180は、現在のモードが自動操舵モード(Active)、待機モード(Pending)、手動操舵モード(Disengaged)のいずれであるのかを、例えばアイコン86の色で表現してもよい。例えば、「Active」は緑色、「Pending」は黄色、「Disengaged」は灰色といった具合に、アイコン86の色を変化させてもよい。制御装置180はまた、「Pending」から「Disengaged」に切り換えたとき、操作端末200に、例えば「自動操舵が解除されました。0.2km/h以上に増速してください。」のような、ユーザに増速を促す警告メッセージ92を表示させてもよい。制御装置180は、このような警告表示に加えて、ブザー220に警告音を発出させてもよい。このような警告を出力することにより、自動操舵が解除されたことをユーザに効果的に知らせることができる。
【0090】
図11および図12の例では、作業車両100が低速で前進している状態でユーザが切換スイッチ214を操作して前進から後進に切り換えているが、ユーザは後進から前進に切り換える場合もある。制御装置180は、作業車両100が低速で後進している状態でユーザが切換スイッチ214を操作して後進から前進に切り換えた場合も、上記と同様の制御を行ってもよい。
【0091】
図11の例では、ユーザによる前進と後進との切換操作から所定時間x(第1時間)以内に、時系列位置データに基づく進行方向と切換スイッチ214が示す進行方向とが一致した時点で「Pending」から「Active」に復帰する。すなわち、前述の第1条件を満たした場合に、待機状態から自動操舵モードに復帰する。第1条件だけでなく、さらに、車速が第2速度を超えたという第2条件を課してもよい。すなわち、制御装置180は、上記の第1条件と第2条件とを含む復帰条件を満たした場合に、待機モードから自動操舵モードに復帰してもよい。第2速度は、例えば0.1km/hなどの、第1速度よりも低い値に設定され得る。
【0092】
図13は、待機モードにおいて、第1条件と第2条件の両方を満たす場合に自動操舵モードに復帰する例を示す図である。図13の例では、時系列位置データに基づいて推定される進行方向が前進方向(F)から後進方向(R)に切り替わるタイミングが、図11の例よりも早い。そのタイミングでは、車速が第2速度(図13の例では0.1km/h)未満であるため、自動操舵はまだ「Active」にならず、「Pending」(待機モード)のままである。その後、車両100の後進速度が増加し、第2速度を超えると、「Pending」から「Active」に切り替わる。この例のように、制御装置180は、第1条件および第2条件の両方を含む復帰条件を満たす場合に、待機モードから自動操舵モードに復帰してもよい。
【0093】
図11から図13に示す制御は、ユーザがクラッチペダル212を踏み込んで切換スイッチ214(シャトルレバー)の操作を行った後、クラッチペダル212が踏み込まれていない状態(すなわち、クラッチが繋がっている状態)に戻したことを前提としている。すなわち、制御装置180は、前述の第1条件および第3条件を含む復帰条件、または第1条件、第2条件、および第3条件の全てを含む復帰条件を満たした場合に、待機モードから自動操舵モードに復帰する。しかしながら、ユーザは、切換スイッチ214の操作を行った後、クラッチペダル212を離さず、踏み続けることがあり得る。その場合、クラッチが切断された状態であるため、作業車両100の実際の進行方向は変化しない。また、ユーザは、作業車両100を停止させるために切換スイッチ214を中立(ニュートラル)に切り換えることもある。その場合も、変速装置内で動力が遮断されるため、作業車両100の実際の進行方向は変化しない。このような場合に対処するため、制御装置180は、自動操舵モードにおいて、切換スイッチ214が中立の状態、またはクラッチが切断された状態(例えばクラッチペダル212が踏まれた状態)が、所定時間(以下、「第2時間」と称することがある。)以上継続した場合、自動操舵モードから手動操舵モードに切り換えてもよい。第2時間は、前述の第1時間と同一であってもよいし、異なっていてもよい。第2時間は、例えば、1秒以上30秒以下の長さに設定され得る。制御装置180は、自動操舵モードにおいて、切換スイッチ214が中立の状態、またはクラッチが切断された状態になってから第2時間が経過するまでは、移動速度が第1速度(例えば0.2km/h)以上であれば、自動操舵モードを継続し、移動速度が第1速度未満であれば、自動操舵モードから待機モードに移行してもよい。そのような制御により、ユーザがクラッチペダル212を踏み続けた場合や、シャトルレバーをニュートラルに切り換えた場合に、モードを適切に切り換えることができる。
【0094】
上記のように、本実施形態では、図10に示すように、制御装置180は、自動操舵モードにおいて、車速が第1閾値(第3速度)以上の場合、T/M回転センサ156から出力される信号に基づいて進行方向を判断する。また、制御装置180は、車速が第2閾値(第1速度)以上第1閾値(第3速度)未満の場合、切換スイッチ214の状態によらず、時系列位置データに基づいて、作業車両100の進行方向を判断する。しかし、このような制御は一例に過ぎない。第3速度を設定することなく、車速が第1速度以上の場合は、切換スイッチ214の状態によらず時系列位置データに基づいて進行方向を判断してもよい。あるいは、第1速度が例えば0.5km/hに近い値に設定される場合、車速が第1速度以上の場合は切換スイッチ214の状態によらずT/M回転センサ156から出力される信号に基づいて進行方向を判断してもよい。
【0095】
以上の実施形態において、作業車両100は、無人で自動運転を行う作業車両であってもよい。その場合には、キャビン、運転席、ステアリングホイール、操作端末などの、有人運転にのみ必要な構成要素は、作業車両100に設けられていなくてもよい。無人の作業車両は、自律走行、またはユーザによる遠隔操作によって、前述の実施形態における動作と同様の動作を実行してもよい。
【0096】
以上の実施形態における各種の機能を提供する制御システムを、それらの機能を有しない作業車両に後から取り付けることもできる。そのような制御システムは、作業車両とは独立して製造および販売され得る。そのような制御システムで使用されるコンピュータプログラムも、作業車両とは独立して製造および販売され得る。コンピュータプログラムは、例えばコンピュータが読み取り可能な非一時的な記憶媒体に格納されて提供され得る。コンピュータプログラムは、電気通信回線(例えばインターネット)を介したダウンロードによっても提供され得る。
【0097】
以上のように、本開示は、以下の項目に記載の作業車両、制御システム、および制御方法を含む。
【0098】
[項目1]
前進および後進の両方で自動操舵運転を行うことが可能な作業車両であって、
前記作業車両の時系列位置データを出力する測位装置と、
自動操舵モードにおいて、前記時系列位置データと、予め設定された目標経路とに基づいて、前記作業車両の操舵制御を行う制御装置と、
前記作業車両の前進と後進とを切り換えるための切換スイッチと、
を備え、
前記制御装置は、前記自動操舵モードにおいて、前記作業車両の移動速度が第1速度よりも低い場合、前記時系列位置データと、前記切換スイッチの状態とに基づいて、前記作業車両の進行方向を判断する、
作業車両。
【0099】
[項目2]
前記制御装置は、前記自動操舵モードにおいて、前記移動速度が前記第1速度よりも低い状態で、前記切換スイッチによる前進と後進との切換操作が行われたとき、前記自動操舵を一時的に解除する待機モードに移行する、項目1に記載の作業車両。
【0100】
[項目3]
前記待機モードに移行した時点から所定の第1時間以内に、
第1条件:前記時系列位置データから推定される進行方向と、前記切換スイッチが示す進行方向とが一致する、
を含む復帰条件を満たす場合、前記待機モードから前記自動操舵モードに復帰する、
項目2に記載の作業車両。
【0101】
[項目4]
前記復帰条件は、
第2条件:前記作業車両の移動速度が第2速度以上である、
を含む、項目3に記載の作業車両。
【0102】
[項目5]
前記第2速度は、前記第1速度以下である、項目4に記載の作業車両。
【0103】
[項目6]
前記制御装置は、
前記待機モードに移行した時点から前記第1時間以内に前記復帰条件を満たさない場合、前記待機モードから手動操舵モードに移行し、
前記手動操舵モードにおいて、ユーザによって前記自動操舵モードへの切り換えの操作が行われるまで、前記手動操舵モードを維持する、
項目3から5のいずれかに記載の作業車両。
【0104】
[項目7]
前記制御装置は、前記待機モードから前記手動操舵モードに移行したとき、運転者に増速を促す警告を表示装置に表示させる、項目6に記載の作業車両。
【0105】
[項目8]
原動機と、
変速装置と、
前記原動機から前記変速装置への動力伝達の有無を切り換えるクラッチと、
をさらに備え、
前記復帰条件は、さらに、
第3条件:前記クラッチが繋がっている、
を含む、項目3から5のいずれかに記載の作業車両。
【0106】
[項目9]
前記切換スイッチは、前進、中立、後進を切り換えるための操作具であり、
前記制御装置は、前記自動操舵モードにおいて、
前記切換スイッチが中立の状態、または前記クラッチが切断された状態が、所定の第2時間以上継続した場合、前記自動操舵モードから手動操舵モードに移行する、
項目8に記載の作業車両。
【0107】
[項目10]
前記制御装置は、前記自動操舵モードにおいて、
前記切換スイッチが中立の状態、または前記クラッチが切断された状態になってから前記第2時間が経過していないとき、
前記移動速度が前記第1速度以上であれば、前記自動操舵モードを継続し、
前記移動速度が前記第1速度未満であれば、前記自動操舵モードから前記待機モードに移行する、
項目9に記載の作業車両。
【0108】
[項目11]
前記第1速度は、0.15km/h以上0.25km/h以下である、項目1から5のいずれかに記載の作業車両。
【0109】
[項目12]
前記制御装置は、前記自動操舵モードにおいて、前記移動速度が前記第1速度以上第3速度未満の場合、前記切換スイッチの状態によらず、前記時系列位置データに基づいて、前記作業車両の進行方向を判断する、項目1から5のいずれかに記載の作業車両。
【0110】
[項目13]
前記測位装置は、GNSS受信機を含む、項目1から5のいずれかに記載の作業車両。
【0111】
[項目14]
前記制御装置は、前記作業車両の前記進行方向の判断の結果を表示装置に表示させる、項目1から5のいずれかに記載の作業車両。
【0112】
[項目15]
前進および後進の両方で自動操舵運転を行うことが可能な作業車両の制御システムであって、
前記作業車両は、前記作業車両の時系列位置データを出力する測位装置と、前記作業車両の前進と後進とを切り換えるための切換スイッチと、を備え、
前記制御システムは、自動操舵モードにおいて、前記時系列位置データと、予め設定された目標経路とに基づいて、前記作業車両の操舵制御を行う制御装置を備え、
前記制御装置は、前記自動操舵モードにおいて、前記作業車両の移動速度が第1速度よりも低い場合、前記時系列位置データと、前記切換スイッチの状態とに基づいて、前記作業車両の進行方向を判断する、
制御システム。
【0113】
[項目16]
前進および後進の両方で自動操舵運転を行うことが可能な作業車両の制御方法であって、
前記作業車両は、前記作業車両の時系列位置データを出力する測位装置と、前記作業車両の前進と後進とを切り換えるための切換スイッチと、を備え、
自動操舵モードにおいて、前記時系列位置データと、予め設定された目標経路とに基づいて、前記作業車両の操舵制御を行うことと、
前記自動操舵モードにおいて、前記作業車両の移動速度が第1速度よりも低い場合、前記時系列位置データと、前記切換スイッチの状態とに基づいて、前記作業車両の進行方向を判断することと、
を含む制御方法。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本開示の技術は、例えばトラクタ、移植機、または収穫機などの、農業用途で使用される作業車両に適用することができる。本開示の技術は、例えば建設作業車または除雪車などの、農業以外の用途で使用される作業車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0115】
50・・・GNSS衛星、60・・・基準局、70・・・作業領域、80・・・枕地、100・・・作業車両、101・・・車両本体、102・・・原動機、103・・・変速装置、104・・・車輪、105・・・キャビン、106・・・操舵装置、107・・・運転席、108・・・連結装置、109・・・ペダル、120・・・測位装置、121・・・GNSS受信機、122・・・RTK受信機、125・・・慣性計測装置(IMU)、126・・・プロセッサ、130・・・障害物センサ、140・・・駆動装置、150・・・センサ群、152・・・ステアリングホイールセンサ、154・・・切れ角センサ、156・・・T/M回転センサ、160・・・制御システム、170・・・記憶装置、180・・・制御装置、182、183、184、185・・・ECU、190・・・通信インタフェース、200・・・操作端末、210・・・操作スイッチ群、212・・・クラッチペダル、214・・・前後進切換スイッチ、216・・・自動操舵切換スイッチ、220・・・ブザー、300・・・作業機、340・・・駆動装置、360・・・制御装置、390・・・通信インタフェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図10
図11
図12
図13
図14
図15