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特開2024-94537作業車両、作業車両の制御システムおよび制御方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094537
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】作業車両、作業車両の制御システムおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
A01B69/00 303Z
A01B69/00 301
A01B69/00 303A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211142
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100139930
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 亮司
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【弁理士】
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100202142
【弁理士】
【氏名又は名称】北 倫子
(72)【発明者】
【氏名】大倉 康平
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 純一
【テーマコード(参考)】
2B043
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043AB19
2B043BA02
2B043BB01
2B043BB03
2B043BB06
2B043BB11
2B043BB14
2B043BB20
2B043DA01
2B043DA04
2B043EA02
2B043EA12
2B043EB02
2B043EB05
2B043EB08
2B043EB15
2B043EB16
2B043EB18
2B043EC12
2B043EC13
2B043EC16
2B043EC18
2B043ED03
2B043ED12
2B043EE01
2B043EE02
2B043EE05
(57)【要約】
【課題】デッドレコニング動作中の方位角の推定誤差を低減する。
【解決手段】作業車両は、第1時系列データを出力する測位システムと、加速度センサおよび角速度センサの各々の計測値に基づく第2時系列データを出力する慣性計測システムと、制御装置とを備える。前記制御装置は、前記測位システムによる測位が可能な第1の状態において、前記第1時系列データおよび前記第2時系列データに基づいて第1方位角を逐次推定し、前記第2時系列データに基づいて第2方位角を逐次推定し、前記第1の状態において逐次推定した前記第1方位角と前記第2方位角との差に基づいて、前記第2方位角の方位誤差変化率を算出し、前記測位システムによる測位の信頼性が低下した第2の状態において、前記第2時系列データに基づいて推定される前記第2方位角を、前記方位誤差変化率に基づいて補正した方位角に基づいて前記作業車両の操舵制御を行う。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動操舵運転を行う作業車両であって、
前記作業車両の位置情報を含む第1時系列データを出力する測位システムと、
加速度センサおよび角速度センサを含み、前記加速度センサの計測値および前記角速度センサの計測値に基づく第2時系列データを出力する慣性計測システムと、
前記第1時系列データおよび前記第2時系列データに基づいて、前記作業車両の位置および方位角を推定し、推定した前記位置および前記方位角と、予め設定された目標経路とに基づいて、前記作業車両の操舵制御を行う制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記測位システムによる測位が可能な第1の状態において、前記第1時系列データおよび前記第2時系列データに基づいて前記作業車両の第1方位角を逐次推定し、前記第2時系列データに基づいて前記作業車両の第2方位角を逐次推定し、前記第1方位角に基づいて前記作業車両の操舵制御を行い、
前記第1の状態において逐次推定した前記第1方位角と前記第2方位角との差に基づいて、前記第2方位角の方位誤差変化率を算出し、
前記第1の状態から、前記測位システムによる測位の信頼性が低下した第2の状態に変化した場合、前記第1の状態に戻るまで、前記第2時系列データに基づいて推定される前記第2方位角を、前記方位誤差変化率に基づいて補正した方位角に基づいて前記作業車両の操舵制御を行う、
作業車両。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第1の状態において、拡張カルマンフィルタを用いた処理により、前記第1時系列データおよび前記第2時系列データから前記作業車両の位置および前記第1方位角を推定する、請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第1の状態における前記第1方位角と前記第2方位角との差の時間変化率に基づいて、前記方位誤差変化率を算出する、請求項1または2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記制御装置は、前記第1の状態における前記第1方位角と前記第2方位角との差の時間変化率を所定の時間間隔で繰り返し算出し、複数回算出された前記時間変化率の統計値を、前記方位誤差変化率として算出する、請求項3に記載の作業車両。
【請求項5】
前記所定の時間間隔は、1秒以上20秒以下である、請求項4に記載の作業車両。
【請求項6】
前記複数回は、3回以上10回以下である、請求項4に記載の作業車両。
【請求項7】
前記制御装置は、前記第1の状態の持続時間が第1の時間よりも長い場合に限り、前記第2の状態において、前記方位誤差変化率に基づく前記第2方位角の補正を実行する、請求項1から3のいずれかに記載の作業車両。
【請求項8】
前記制御装置は、前記第1の状態から前記第2の状態に変化したとき、警告を出力する、請求項1から3のいずれかに記載の作業車両。
【請求項9】
前記制御装置は、前記第2の状態が第2の時間以上継続する場合、自動操舵を停止して警告を出力する、請求項1から3のいずれかに記載の作業車両。
【請求項10】
前記所定時間は、10秒以上30秒以下である、請求項9に記載の作業車両。
【請求項11】
前記測位システムは、GNSS受信機を含む、請求項1から3のいずれかに記載の作業車両。
【請求項12】
前記第1時系列データは、測位の信頼性を示す情報を含み、
前記制御装置は、前記情報に基づいて、前記第1時系列データの信頼度を決定し、前記信頼度に基づいて、前記第1の状態と前記第2の状態とを判別する、
請求項11に記載の作業車両。
【請求項13】
自動操舵運転を行う作業車両の制御システムであって、
前記作業車両は、前記作業車両の位置情報を含む第1時系列データを出力する測位システムと、加速度センサおよび角速度センサを含み、前記加速度センサの計測値および前記角速度センサの計測値に基づく第2時系列データを出力する慣性計測システムと、を備え、
前記制御装置は、前記第1時系列データおよび前記第2時系列データに基づいて、前記作業車両の位置および方位角を推定し、推定した前記位置および前記方位角と、予め設定された目標経路とに基づいて、前記作業車両の操舵制御を行う制御装置を備え、
前記制御装置は、
前記測位システムによる測位が可能な第1の状態において、前記第1時系列データおよび前記第2時系列データに基づいて前記作業車両の第1方位角を逐次推定し、前記第2時系列データに基づいて前記作業車両の第2方位角を逐次推定し、前記第1方位角に基づいて前記作業車両の操舵制御を行い、
前記第1の状態において逐次推定した前記第1方位角と前記第2方位角との差に基づいて、前記第2方位角の方位誤差変化率を算出し、
前記第1の状態から、前記測位システムによる測位の信頼性が低下した第2の状態に変化した場合、前記第1の状態に戻るまで、前記第2時系列データに基づいて推定される前記第2方位角を、前記方位誤差変化率に基づいて補正した方位角に基づいて前記作業車両の操舵制御を行う、
制御システム。
【請求項14】
自動操舵運転を行う作業車両の制御方法であって、
前記作業車両は、前記作業車両の位置情報を含む第1時系列データを出力する測位システムと、加速度センサおよび角速度センサを含み、前記加速度センサの計測値および前記角速度センサの計測値に基づく第2時系列データを出力する慣性計測システムと、を備え、
前記測位システムによる測位が可能な第1の状態において、前記第1時系列データおよび前記第2時系列データに基づいて前記作業車両の第1方位角を逐次推定し、前記第2時系列データに基づいて前記作業車両の第2方位角を逐次推定し、前記第1方位角に基づいて前記作業車両の操舵制御を行うことと、
前記第1の状態において逐次推定した前記第1方位角と前記第2方位角との差に基づいて、前記第2方位角の方位誤差変化率を算出することと、
前記第1の状態から、前記測位システムによる測位の信頼性が低下した第2の状態に変化した場合、前記第1の状態に戻るまで、前記第2時系列データに基づいて推定される前記第2方位角を、前記方位誤差変化率に基づいて補正した方位角に基づいて前記作業車両の操舵制御を行うことと、
を含む制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業車両、作業車両の制御システムおよび制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圃場で使用されるトラクタなどの作業車両の自動化に向けた研究開発が進められている。例えば、精密な測位が可能なGNSS(Global Navigation Satellite System)などの測位システムを利用して自動操舵で走行する作業車両が実用化されている。自動操舵に加えて速度制御を自動で行う作業車両も実用化されている。
【0003】
特許文献1は、GNSSとIMU(Inertial Measurement Unit)とを組み合わせて車両の測位を行うGNSS/INSナビゲーションシステムを開示している。このシステムは、GNSS信号が得られない状況下で、IMUからの信号に基づいて測位を行うデッドレコニングモードで動作することができる。デッドレコニング動作中、車両のz軸(ヨー軸)周りの回転の測定値のドリフト誤差を補正することが開示されている。
【0004】
特許文献2は、GNSSとINS(Inertial Navigation System)とを備えた測位システムにおいて、GNSS信号が十分に得られない状況下で、予め訓練されたニューラルネットワーク予測モデルを用いて、GNSSの出力誤差を予測し、INSの出力を補正することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/0292212号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2021/0095965号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動操舵で走行する作業車両は、自車の位置および方位を推定する自己位置推定を行いながら、目標の経路に沿って操舵制御を行う。自己位置推定は、例えばGNSSおよびIMUなどの各種のセンサからの出力に基づいて行われる。作業車両が走行する環境には、GNSS信号の受信を妨げる障害物が存在することがある。例えば、防風林などの樹木が走行環境に存在することがあり、GNSS信号に基づく測位の信頼性が低下することがある。その場合、IMUからの信号を利用して測位結果を補うデッドレコニングが行われ得る。しかし、IMUからの信号に基づいて推定される方位角は、時間の経過に伴ってドリフト誤差が蓄積するという問題を有する。デッドレコニング動作中に推定される方位角のドリフトによる誤差を低減することが求められる。
【0007】
本開示は、デッドレコニング動作中の方位角の推定誤差を低減するためのシステムおよび方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の例示的な実施形態による作業車両は、自動操舵運転を行うことが可能である。前記作業車両は、前記作業車両の位置情報を含む第1時系列データを出力する測位システムと、加速度センサおよび角速度センサを含み、前記加速度センサの計測値および前記角速度センサの計測値に基づく第2時系列データを出力する慣性計測システムと、前記第1時系列データおよび前記第2時系列データに基づいて、前記作業車両の位置および方位角を推定し、推定した前記位置および前記方位角と、予め設定された目標経路とに基づいて、前記作業車両の操舵制御を行う制御装置と、を備える。前記制御装置は、前記測位システムによる測位が可能な第1の状態において、前記第1時系列データおよび前記第2時系列データに基づいて前記作業車両の第1方位角を逐次推定し、前記第2時系列データに基づいて前記作業車両の第2方位角を逐次推定し、前記第1方位角に基づいて前記作業車両の操舵制御を行い、前記第1の状態において逐次推定した前記第1方位角と前記第2方位角との差に基づいて、前記第2方位角の方位誤差変化率を算出し、前記第1の状態から、前記測位システムによる測位の信頼性が低下した第2の状態に変化した場合、前記第1の状態に戻るまで、前記第2時系列データに基づいて推定される前記第2方位角を、前記方位誤差変化率に基づいて補正した方位角に基づいて前記作業車両の操舵制御を行う。
【0009】
本開示の包括的または具体的な態様は、装置、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム、もしくはコンピュータが読み取り可能な非一時的記憶媒体、またはこれらの任意の組み合わせによって実現され得る。コンピュータが読み取り可能な記憶媒体は、揮発性の記憶媒体を含んでいてもよいし、不揮発性の記憶媒体を含んでいてもよい。装置は、複数の装置で構成されていてもよい。装置が2つ以上の装置で構成される場合、当該2つ以上の装置は、1つの機器内に配置されてもよいし、分離した2つ以上の機器内に分かれて配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示の実施形態によれば、デッドレコニング動作中の方位角の推定誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1における作業車両の外観の例を示す斜視図である。
図2】作業車両、および作業車両に連結された作業機の例を模式的に示す側面図である。
図3】作業車両および作業機の概略的な構成の例を示すブロック図である。
図4】RTK-GNSSによる測位を行う作業車両の例を示す概念図である。
図5】キャビンの内部に設けられる操作端末および操作スイッチ群の例を示す模式図である。
図6】自動操舵モードにおける作業車両の走行の例を示す図である。
図7】圃場内を自動操舵で走行する作業車両の目標経路の例を模式的に示す図である。
図8】制御装置によって実行される自動操舵時の動作の例を示すフローチャートである。
図9A】目標経路に沿って走行する作業車両の例を示す図である。
図9B】目標経路から右にシフトした位置にある作業車両の例を示す図である。
図9C】目標経路から左にシフトした位置にある作業車両の例を示す図である。
図9D】目標経路に対して傾斜した方向を向いている作業車両の例を示す図である。
図10】GNSS信号の受信強度が低下する状況の一例を示す図である。
図11】方位角の時間変化の例を示すグラフである。
図12】位置および方位の推定動作の例を示すフローチャートである。
図13A】受信障害が生じていない場合における各GNSS信号の受信強度の例を示している。
図13B】受信障害が生じている場合における各GNSS信号の受信強度の例を示している。
図14A】補正処理を行った場合と行わなかった場合のそれぞれにおける方位偏差の時間変化の一例を示す図である。
図14B】補正処理を行った場合と行わなかった場合のそれぞれにおける位置偏差の時間変化の一例を示す図である。
図15】操作端末の表示の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に関する重複する説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似の機能を有する構成要素については、同じ参照符号を付している。
【0013】
以下の実施形態は例示であり、本開示の技術は、以下の実施形態に限定されない。例えば、以下の実施形態で示される数値、形状、ステップ、そのステップの順序、表示画面のレイアウトなどは、あくまでも一例であり、技術的に矛盾が生じない限りにおいて種々の改変が可能である。また、技術的に矛盾が生じない限りにおいて、一の態様と他の態様とを組み合わせることが可能である。
【0014】
以下、作業車両の一例である農業用のトラクタに本開示の技術を適用した実施形態を説明する。本開示の技術は、トラクタに限らず、自動操舵で走行する任意の作業車両に適用することができる。作業車両は、例えば、田植機、コンバイン、草刈機、ハーベスタ、除雪車、または建設作業車であってもよい。
【0015】
(実施形態)
本開示の例示的な実施形態における作業車両、および作業車両の制御システムを説明する。
【0016】
本実施形態における作業車両は、自動操舵運転を実現するための制御を行う制御システムを備える。制御システムは、記憶装置と制御装置とを備えるコンピュータシステムである。記憶装置は、1つ以上の記憶媒体を含み、作業車両の目標経路などの種々のデータを記憶する。制御装置は、1つ以上のコンピュータ、プロセッサ、または制御回路を含み、作業車両の動作を制御する。制御装置は、自動操舵モードおよび手動操舵モードの両方で動作することができる。制御装置は、自動操舵モードと手動操舵モードとを、例えば運転者の操作に応答して切り換える。自動操舵モードにおいて、制御装置は、測位システムによって特定された作業車両の位置、および記憶装置に記憶された目標経路に基づいて、作業車両が目標経路に沿って走行するように作業車両の操舵を制御する。測位システムは、作業車両の内部または外部に配置される。測位システムは、例えばGNSS受信機を含み、複数のGNSS衛星からの信号に基づき、作業車両の位置を特定し、時系列の位置データを出力する。測位システムは、LiDARセンサまたはカメラなどの、GNSS受信機以外のデバイスを含んでいてもよい。LiDARセンサまたはカメラによって取得されたデータと、予め用意された環境地図とのマッチングにより、作業車両の位置を推定することができる。目標経路は、作業車両が走行するエリア内に設定される、走行の目標となる経路である。目標経路は、自動操舵運転を開始する前に設定され、記憶装置に記録される。目標経路は、例えば、圃場内に設定され得る。
【0017】
本実施形態における作業車両は、測位システムと、慣性計測システムと、制御装置とを備える。測位システムは、作業車両の位置情報を含む第1時系列データを出力する。慣性計測システムは、加速度センサおよび角速度センサを含み、加速度センサの計測値および角速度センサの計測値に基づく第2時系列データを出力する。制御装置は、第1時系列データおよび第2時系列データに基づいて、作業車両の位置および方位角を推定し、推定した位置および方位角と、予め設定された目標経路とに基づいて、作業車両の操舵制御を行う。制御装置は、以下の(1)から(3)の動作を実行する。
(1)測位システムによる測位が可能な第1の状態において、第1時系列データおよび第2時系列データに基づいて作業車両の方位角(以下、「第1方位角」とも称する。)を逐次推定し、第2時系列データに基づいて作業車両の方位角(以下「第2方位角」とも称する。)を逐次推定し、第1方位角に基づいて作業車両の操舵制御を行う。
(2)第1の状態において逐次推定した第1方位角と第2方位角との差に基づいて、第2方位角の方位誤差変化率を算出する。
(3)第1の状態から、測位システムによる測位の信頼性が低下した第2の状態に変化した場合、第1の状態に戻るまで、第2時系列データに基づいて推定される第2方位角を、方位誤差変化率に基づいて補正した方位角に基づいて作業車両の操舵制御を行う。
【0018】
測位システムは、例えばGNSS受信機を含む。慣性計測システムは、例えばIMU、またはそれぞれ個別に用意された加速度センサと角速度センサとの組み合わせであり得る。
【0019】
制御装置は、第1の状態において、例えば拡張カルマンフィルタを用いた処理により、第1時系列データおよび第2時系列データから作業車両の位置および第1方位角を推定することができる。また、制御装置は、第2時系列データに含まれる角速度の計測値を積分するなどの処理により、第2方位角を推定することができる。ここで、方位角は、作業車両の上下方向の軸の周りの回転角であるヨー角を指す。
【0020】
第1の状態は、作業車両の周囲にGNSS信号の受信を妨げる障害物が存在せず、GNSS信号に基づく測位を高い信頼性で実行することが可能な状態である。第2の状態は、作業車両の周囲にGNSS信号の受信を妨げる障害物が存在する等し、GNSS信号に基づく測位の信頼性が低い、または測位不能な状態である。農業用の作業車両が走行する環境には、GNSS信号の受信を妨げる障害物が存在することがある。例えば、圃場の外周部には防風林が存在することがあり、防風林の付近で作業車両が旋回するとき、GNSS信号の受信が妨げられ、自己位置推定の信頼性が低下することがある。そのような場合、制御装置は、慣性計測システムからの信号を利用して自己位置推定を行うデッドレコニング動作を行う。
【0021】
デッドレコニング動作中、作業車両の方位は、角速度センサによって計測される角速度を積分することによって計算され得る。方位は、ヨー角によって特定される。ヨー角は、加速度センサの測定値から得られる重力方向に対する傾きに基づいて補正することができないため、ヨー方向の角速度の誤差が累積する。この誤差を「ドリフト誤差」と称する。ドリフト誤差は、慣性計測システム内の素子の特性または温度などの環境に依存して生じる。
【0022】
本実施形態では、ドリフト誤差を補償するために、制御装置は、測位システムによる測位が可能な第1の状態において逐次推定された第1方位角と第2方位角との差に基づいて、第2方位角の方位誤差変化率を算出する。制御装置は、第1の状態における第1方位角と第2方位角との差の時間変化率に基づいて、方位誤差変化率を算出する。制御装置は、測位システムによる測位の信頼性が低下した第2の状態において、第2時系列データに基づいて推定される第2方位角を、方位誤差変化率に基づいて補正した方位角に基づいて作業車両の操舵制御を行う。このような動作により、方位角(ヨー角)のドリフトによる自己位置推定の信頼性の低下を抑制し、デッドレコニング中の自動操舵を安定化させることができる。
【0023】
以下、本実施形態における作業車両の構成および動作をより詳細に説明する。
【0024】
<構成>
図1は、本実施形態における作業車両100の外観の例を示す斜視図である。図2は、作業車両100、および作業車両100に連結された作業機(インプルメント)300の例を模式的に示す側面図である。本実施形態における作業車両は、圃場で使用されるトラクタである。本実施形態における技術は、トラクタ以外の作業車両にも適用できる。
【0025】
本実施形態における作業車両100は、測位システム120と、1つ以上の障害物センサ130とを備える。図1には1つの障害物センサ130が例示されているが、障害物センサ130は作業車両100の複数の箇所に設けられていてもよい。なお、障害物センサ130は必要に応じて設けられる。不要であれば、作業車両100は障害物センサ130を備えていなくてもよい。
【0026】
図2に示すように、作業車両100は、車両本体101と、原動機(エンジン)102と、変速装置(トランスミッション)103とを備える。車両本体101には、タイヤ付き車輪104と、キャビン105とが設けられている。車輪104は、一対の前輪104Fと一対の後輪104Rとを含む。キャビン105の内部に運転席107、操舵装置106、複数のペダル109、操作端末200、および操作のためのスイッチ群が設けられている。前輪104Fおよび後輪104Rの一方または両方は、タイヤ付き車輪ではなく無限軌道(track)を装着した複数の車輪(クローラ)に置き換えられてもよい。
【0027】
本実施形態における測位システム120は、GNSS受信機を備える。GNSS受信機は、GNSS衛星からの信号を受信するアンテナと、アンテナが受信した信号に基づいて作業車両100の位置を決定するプロセッサとを備え得る。測位システム120は、複数のGNSS衛星から送信されるGNSS信号を受信し、GNSS信号に基づいて測位を行う。GNSSは、GPS(Global Positioning System)、QZSS(Quasi-Zenith Satellite System、例えばみちびき)、GLONASS、Galileo、およびBeiDouなどの衛星測位システムの総称である。本実施形態における測位システム120は、キャビン105の上部に設けられているが、他の位置に設けられていてもよい。
【0028】
測位システム120は、GNSS受信機に代えて、あるいは加えて、LiDARセンサまたはカメラ(イメージセンサを含む)などの他の種類のデバイスを含んでいてもよい。作業車両100が走行する環境内に特徴点として機能する地物が存在する場合、LiDARセンサまたはカメラによって取得されたデータと、予め記憶装置170に記録された環境地図とに基づいて、作業車両100の位置を高い精度で推定することができる。LiDARセンサ110またはカメラをGNSS受信機と併用してもよい。LiDARセンサ110またはカメラが取得したデータを用いて、GNSS信号に基づく位置データを補正または補完することで、より高い精度で作業車両100の位置を特定できる。
【0029】
図1および図2に示す例では、車両本体101の後部に障害物センサ130が設けられている。障害物センサ130は、車両本体101の後部以外の部位にも配置され得る。例えば、車両本体101の側部、前部、およびキャビン105のいずれかの箇所に、1つまたは複数の障害物センサ130が設けられ得る。障害物センサ130は、作業車両100の周囲に存在する物体を検出する。障害物センサ130は、例えばレーザスキャナまたは超音波ソナーを備え得る。障害物センサ130は、障害物センサ130から所定の距離よりも近くに物体が存在する場合に、障害物が存在することを示す信号を出力する。複数の障害物センサ130が作業車両100の車体の異なる位置に設けられていてもよい。例えば、複数のレーザスキャナと、複数の超音波ソナーとが、車体の異なる位置に配置されていてもよい。そのような多くの障害物センサ130を備えることにより、作業車両100の周囲の障害物の監視における死角を減らすことができる。なお、上記のように、作業車両100は障害物センサ130を備えていなくてもよい。
【0030】
原動機102は、例えばディーゼルエンジンであり得る。ディーゼルエンジンに代えて電動モータが使用されてもよい。変速装置103は、変速によって作業車両100の推進力および移動速度を変化させることができる。変速装置103は、作業車両100の前進と後進とを切り換えることもできる。
【0031】
操舵装置106は、ステアリングホイールと、ステアリングホイールに接続されたステアリングシャフトと、ステアリングホイールによる操舵を補助するパワーステアリング装置とを含む。前輪104Fは操舵輪であり、その切れ角(「操舵角」とも称する。)を変化させることにより、作業車両100の走行方向を変化させることができる。前輪104Fの操舵角は、ステアリングホイールを操作することによって変化させることができる。パワーステアリング装置は、前輪104Fの操舵角を変化させるための補助力を供給する油圧装置または電動モータを含む。自動操舵が行われるときには、作業車両100内に配置された制御装置からの制御により、油圧装置または電動モータの力によって操舵角が自動で調整される。
【0032】
複数のペダル109は、アクセルペダル、クラッチペダル、およびブレーキペダルを含む。それぞれのペダルには、踏み込みを検知するセンサが設けられている。
【0033】
車両本体101の後部には、連結装置108が設けられている。連結装置108は、例えば3点支持装置(「3点リンク」または「3点ヒッチ」とも称する。)、PTO(Power Take Off)軸、ユニバーサルジョイント、および通信ケーブルを含む。連結装置108によって作業機300を作業車両100に着脱することができる。連結装置108は、例えば油圧装置によって3点リンクを昇降させ、作業機300の位置または姿勢を制御することができる。また、ユニバーサルジョイントを介して作業車両100から作業機300に動力を送ることができる。作業車両100は、作業機300を引きながら、作業機300に所定の作業を実行させることができる。連結装置は、車両本体101の前方に設けられていてもよい。その場合、作業車両100の前方に作業機を接続することができる。
【0034】
図2に示す作業機300は、ロータリ耕耘機であるが、作業機300はロータリ耕耘機に限定されない。例えば、モーア(草刈機)、シーダ(播種機)、スプレッダ(施肥機)、レーキ作業機、ベーラ(集草機)、ハーベスタ(収穫機)、スプレイヤ、またはハローなどの、任意の作業機を作業車両100に接続して使用することができる。
【0035】
図3は、作業車両100および作業機300の概略的な構成の例を示すブロック図である。作業車両100と作業機300は、連結装置108に含まれる通信ケーブルを介して互いに通信することができる。
【0036】
図3の例における作業車両100は、測位システム120、障害物センサ130、操作端末200に加え、慣性計測システム125、駆動装置140、センサ群150、制御システム160、通信インタフェース(I/F)190、操作スイッチ群210、およびブザー220を備える。これらの構成要素は、バスを介して相互に通信可能に接続される。
【0037】
測位システム120は、GNSS受信機121と、RTK受信機122と、プロセッサ123とを備える。慣性計測システム125は、加速度センサ126と、角速度センサ127と、プロセッサ128とを備える。センサ群150は、例えば、ステアリングホイールセンサ152と、切れ角センサ154と、トランスミッション(T/M)回転センサ156とを含む。制御システム160は、記憶装置170と、制御装置180とを備える。制御装置180は、複数の電子制御ユニット(ECU)182、183、184、185を備える。作業機300は、駆動装置340と、制御装置380と、通信インタフェース(I/F)390とを備える。なお、図3には、作業車両100による自動操舵または自動走行の動作との関連性が相対的に高い構成要素が示されており、それ以外の構成要素の図示は省略されている。
【0038】
測位システム120におけるGNSS受信機121は、複数のGNSS衛星から送信される衛星信号(「GNSS信号」とも称する。)を受信し、衛星信号に基づいてGNSSデータを生成する。GNSSデータは、例えばNMEA-0183フォーマットなどの所定のフォーマットで生成される。GNSSデータは、例えば、衛星信号が受信されたそれぞれの衛星の識別番号、仰角、方位角、および受信強度を示す値を含み得る。受信強度は、例えば搬送波雑音電力密度比(C/N0)などの値で表現され得る。GNSSデータは、受信された複数の衛星信号に基づいて計算された作業車両100の位置情報、および当該位置情報の信頼性を示す情報も含み得る。位置情報は、例えば緯度、経度、および平均海水面からの高さなどによって表され得る。位置情報の信頼性は、例えば衛星の配置状況を示すDOP値などによって表され得る。
【0039】
図3に示す測位システム120は、RTK(Real Time Kinematic)-GNSSを利用して作業車両100の測位を行う。図4は、RTK-GNSSによる測位を行う作業車両100の例を示す概念図である。RTK-GNSSによる測位では、複数のGNSS衛星50から送信される衛星信号に加えて、基準局60から送信される補正信号が利用される。基準局60は、作業車両100が作業走行を行う圃場の付近(例えば、作業車両100から10km以内の位置)に設置され得る。基準局60は、複数のGNSS衛星50から受信した衛星信号に基づいて、例えばRTCMフォーマットの補正信号を生成し、測位システム120に送信する。RTK受信機122は、アンテナおよびモデムを含み、基準局60から送信される補正信号を受信する。測位システム120のプロセッサ123は、補正信号に基づき、GNSS受信機121による測位結果を補正する。RTK-GNSSを用いることにより、例えば誤差数cmの精度で測位を行うことが可能である。緯度、経度、および高度の情報を含む位置情報が、RTK-GNSSによる高精度の測位によって取得される。測位システム120のプロセッサ123は、例えば1秒間に1回から10回程度の頻度で、作業車両100の位置を計算する。測位システム120は、計算した位置(座標)の情報を含む第1時系列データを出力する。
【0040】
なお、測位方法はRTK-GNSSに限らず、必要な精度の位置情報が得られる任意の測位方法(干渉測位法または相対測位法など)を用いることができる。例えば、VRS(Virtual Reference Station)またはDGPS(Differential Global Positioning System)を利用した測位を行ってもよい。基準局60から送信される補正信号を用いなくても必要な精度の位置情報が得られる場合は、補正信号を用いずに位置情報を生成してもよい。その場合、測位システム120は、RTK受信機122を備えていなくてもよい。
【0041】
慣性計測システム125は、例えばIMUである。あるいは、慣性計測システム125は、それぞれ別個に設けられた加速度センサ126と角速度センサ127との組み合わせであってもよい。加速度センサ126は、例えば3軸加速度センサである。角速度センサ127は、例えば3軸ジャイロスコープである。プロセッサ128は、加速度センサ126の計測値および角速度センサ127の計測値を時間積分するなどの処理を実行することにより、作業車両100の位置および方位の情報を含む第2時系列データを出力することができる。プロセッサ128は、上記のような処理を行う代わりに、加速度センサ126の計測値および角速度センサ127の計測値に必要な補正処理を行って、補正後の加速度および角速度と計測時刻の情報を含むデータを第2時系列データとして出力してもよい。なお、慣性計測システム125は、3軸地磁気センサなどの方位センサを備えていてもよい。慣性計測システム125は、モーションセンサとして機能し、作業車両100の加速度、速度、変位、および姿勢などの諸量を示す信号を出力することができる。慣性計測システム125は、例えば1秒間に数十回から数千回程度の頻度で、当該信号を出力することができる。
【0042】
測位システム120と慣性計測システム125は、1つの装置として統合されていてもよい。プロセッサ123、128の処理は、1つのプロセッサによって実行されてもよい。プロセッサ123、128の処理の少なくとも一部は、制御装置180に含まれるプロセッサによって実行されてもよい。そのようなプロセッサは、GNSS信号および補正信号に加えて、慣性計測システム125から出力された信号に基づいて、作業車両100の位置および向きをより高い精度で推定することができる。慣性計測システム125から出力された信号は、GNSS信号および補正信号に基づいて計算される位置の補正または補完に用いられ得る。慣性計測システム125は、測位システム120よりも高い頻度で信号を出力することができる。その高頻度の信号を利用して、作業車両100の位置および向きをより高い頻度(例えば、10Hz以上)で計測することができる。
【0043】
測位システム120は、GNSS受信機121、RTK受信機122に加えて、またはこれらに代えて、LiDARセンサまたはイメージセンサなどの他の種類のセンサを備えていてもよい。作業車両100が走行する環境に、ランドマークとなり得る地物が存在する場合、これらのセンサから出力されるセンサデータと環境地図とのマッチングによって、作業車両100の位置および向きを推定することができる。そのような構成においては、LiDARセンサまたはイメージセンサなどの外界センサが測位システムに含まれ得る。
【0044】
駆動装置140は、例えば前述の原動機102、変速装置103、操舵装置106、および連結装置108などの、作業車両100の走行および作業機300の駆動に必要な各種の装置を含む。原動機102は、例えばディーゼル機関などの内燃機関を備え得る。駆動装置140は、内燃機関に代えて、あるいは内燃機関とともに、トラクション用の電動モータを備えていてもよい。
【0045】
ステアリングホイールセンサ152は、作業車両100のステアリングホイールの回転角を計測する。切れ角センサ154は、操舵輪である前輪104Fの切れ角を計測する。
【0046】
T/M回転センサ156は、車輪104に接続された車軸の回転速度、すなわち単位時間あたりの回転数を計測するためのセンサである。T/M回転センサ156は、例えば磁気抵抗素子(MR)、ホール素子、または電磁ピックアップを利用したセンサであり得る。T/M回転センサ156は、例えば、トランスミッションに含まれるギアの回転速度に比例するパルス信号を出力する。T/M回転センサ156は、作業車両100の車速および進行方向を判断するために使用され得る。
【0047】
ステアリングホイールセンサ152、切れ角センサ154、およびT/M回転センサ156による計測値は、制御装置180による操舵制御に利用される。
【0048】
記憶装置170は、フラッシュメモリまたは磁気ディスクなどの1つ以上の記憶媒体を含む。記憶装置170は、各センサ、および制御装置180が生成する各種のデータを記憶する。記憶装置170が記憶するデータには、作業車両100が走行する環境内の地図データ、および自動操舵の目標経路のデータが含まれ得る。記憶装置170は、制御装置180における各ECUに、後述する各種の動作を実行させるコンピュータプログラムも記憶する。そのようなコンピュータプログラムは、記憶媒体(例えば半導体メモリまたは光ディスク等)または電気通信回線(例えばインターネット)を介して作業車両100に提供され得る。そのようなコンピュータプログラムが、商用ソフトウェアとして販売されてもよい。
【0049】
制御装置180は、複数のECUを含む。複数のECUは、走行制御用のECU182、自動操舵制御用のECU183、作業機制御用のECU184、および表示制御用のECU185を含む。ECU182は、駆動装置140に含まれる原動機102、変速装置103、アクセル、およびブレーキを制御することによって作業車両100の速度を制御する。ECU182はまた、ステアリングホイールセンサ152の計測値に基づいて、操舵装置106に含まれる油圧装置または電動モータを制御することにより、作業車両100のステアリングを制御する。ECU183は、測位システム120、慣性計測システム125、ステアリングホイールセンサ152、切れ角センサ154、T/M回転センサ156等から出力される信号に基づいて、自動操舵運転を実現するための演算および制御を行う。自動操舵運転中、ECU183は、ECU182に操舵角の変更の指令を送る。ECU182は、当該指令に応答して操舵装置106を制御することによって操舵角を変化させる。ECU184は、作業機300に所望の動作を実行させるために、連結装置108の動作を制御する。ECU184はまた、作業機300の動作を制御する信号を生成し、その信号を通信I/F190から作業機300に送信する。ECU185は、操作端末200の表示を制御する。ECU185は、例えば、操作端末200における表示装置に、圃場のマップ、マップ中の作業車両100の位置および目標経路、ポップアップ通知、設定画面などの様々な表示を実現させる。
【0050】
これらのECUの働きにより、制御装置180は、手動操舵または自動操舵による運転を実現する。自動操舵運転時において、制御装置180は、測位システム120および慣性計測システム125によって計測または推定された作業車両100の位置および方位と、記憶装置170に記憶された目標経路とに基づいて、駆動装置140を制御する。これにより、制御装置180は、作業車両100を目標経路に沿って走行させることができる。なお、制御装置180は、作業車両100の操舵だけでなく車速を自動で制御してもよい。言い換えれば、制御装置180は、予め設定された目標経路に沿って作業車両100を自動で走行させる自動走行モードで動作するように構成されていてもよい。
【0051】
制御装置180に含まれる複数のECUは、例えばCAN(Controller Area Network)などのビークルバス規格に従って、相互に通信することができる。図3において、ECU182、183、184、185のそれぞれは、個別のブロックとして示されているが、これらのそれぞれの機能が、複数のECUによって実現されていてもよい。また、ECU182、183、184、185の少なくとも一部の機能を統合した車載コンピュータが設けられていてもよい。制御装置180は、ECU182、183、184、185以外のECUを備えていてもよい。機能に応じて任意の個数のECUが設けられ得る。各ECUは、1つ以上のプロセッサを含む制御回路を備える。
【0052】
通信I/F190は、作業機300の通信I/F390と通信を行う回路である。通信I/F190は、例えばISOBUS-TIM等のISOBUS規格に準拠した信号の送受信を、作業機300の通信I/F390との間で実行する。これにより、作業機300に所望の動作を実行させたり、作業機300から情報を取得したりすることができる。通信I/F190は、有線または無線のネットワークを介して外部のコンピュータと通信してもよい。外部のコンピュータは、例えば、圃場に関する情報をクラウド上で一元管理し、クラウド上のデータを活用して農業を支援する営農支援システムにおけるサーバコンピュータであってもよい。
【0053】
操作端末200は、作業車両100の走行および作業機300の動作に関する操作をユーザが実行するための端末であり、バーチャルターミナル(VT)とも称される。操作端末200は、タッチスクリーンなどの表示装置、および/または1つ以上のボタンを備え得る。ユーザは、操作端末200を操作することにより、例えば自動操舵モードのオン/オフの切り換え、作業車両100の初期位置の設定、目標経路の設定、地図の記録または編集、および作業機300のオン/オフの切り換えなどの種々の操作を実行することができる。これらの操作の少なくとも一部は、操作スイッチ群210を操作することによっても実現できる。操作端末200への表示は、ECU185によって制御される。
【0054】
ブザー220は、ユーザに異常を報知するための警告音を発する音声出力装置である。ブザー220は、例えば、自動操舵運転時に、作業車両100が目標経路から所定距離以上逸脱した場合に警告音を発する。ブザー220の代わりに、操作端末200のスピーカによって同様の機能が実現されてもよい。
【0055】
作業機300における駆動装置340は、作業機300が所定の作業を実行するために必要な動作を行う。駆動装置340は、例えば油圧装置、電気モータ、またはポンプなどの、作業機300の用途に応じた装置を含む。制御装置380は、駆動装置340の動作を制御する。制御装置380は、通信I/F390を介して作業車両100から送信された信号に応答して、駆動装置340に各種の動作を実行させる。また、作業機300の状態に応じた信号を通信I/F390から作業車両100に送信することもできる。
【0056】
図5は、キャビン105の内部に設けられる操作端末200および操作スイッチ群210の例を示す図である。キャビン105の内部には、ユーザが操作可能な複数のスイッチを含むスイッチ群210が配置される。スイッチ群210は、例えば、自動操舵(オートステア)モードおよび手動操舵(マニュアルステア)モードを切り換えるためのスイッチ、前進および後進を切り換えるためのスイッチ(例えばシャトルレバーまたはシャトルスイッチ)、主変速または副変速の変速段を選択するためのスイッチ、および作業機300を昇降するためのスイッチを含み得る。
【0057】
<動作>
次に、作業車両100の動作を説明する。本実施形態における制御装置180は、作業車両100のユーザ(例えば運転者)の操作に応答して手動操舵モードと自動操舵モードとを切り換えることができる。手動操舵モードにおいて、制御装置180は、ユーザによるステアリングホイールの操作に応答してパワーステアリング装置を駆動することによって操舵を制御する。自動操舵モードにおいて、制御装置180は、測位システム120および慣性計測システム125から出力されたデータに基づいて推定された作業車両100の位置および向き(方位)と、予め記録された目標経路とに基づいてパワーステアリング装置を駆動することによって操舵を制御する。自動操舵モードにおいても、速度はユーザによるアクセル操作およびブレーキ操作によって調整される。
【0058】
図6は、自動操舵モードにおける作業車両100の走行の例を示す図である。図6の(a)は、直線状の目標経路Pに沿って作業車両100が走行する様子を模式的に示している。図6の(b)は、曲線状の目標経路Pに沿って作業車両100が走行する様子を模式的に示している。図6の(c)は、隣り合う2つの直線状の経路と、それらを接続する曲線状の経路とを含む目標経路Pに沿って作業車両100が走行する様子を模式的に示している。目標経路Pは、予め設定され、記憶装置170に記録される。作業車両100が自動操舵モードで走行しているとき、制御装置180は、測位システム120および慣性計測システム125から出力されたデータに基づいて推定された作業車両100の位置および向きと、目標経路Pとの偏差を計算し、偏差を小さくするように操舵装置を制御する動作を繰り返す。これにより、目標経路Pに沿って作業車両100を走行させる。
【0059】
図7は、圃場内を自動操舵で走行する作業車両100の目標経路の例を模式的に示す図である。この例において、圃場は、作業車両100および作業機300が作業を行う作業領域70と、圃場の外周縁付近に位置する枕地80とを含む。圃場の地図上でどの領域が作業領域70および枕地80に該当するかは、ユーザが操作端末200を用いた操作によって事前に設定され得る。目標経路は、並列する複数の主経路P1と、複数の主経路P1を接続する複数の旋回経路P2とを含む。主経路P1は、作業領域70内に位置し、旋回経路P2は、枕地80に位置する。図7における破線は、作業機300の作業幅を表している。作業幅は、予め設定され、記憶装置170に記録される。作業幅は、ユーザが操作端末200を操作することによって設定され、記憶装置170に記録され得る。あるいは、作業幅は、作業機300を作業車両100に接続したときに自動で認識され、記憶装置170に記録されてもよい。複数の主経路P1の間隔は、作業幅に合わせられる。目標経路は、自動操舵運転が開始される前に、ユーザの操作に基づいて決定され得る。
【0060】
次に、制御装置180による自動操舵時の制御の例を説明する。
【0061】
図8は、制御装置180によって実行される自動操舵時の動作の例を示すフローチャートである。制御装置180は、作業車両100の走行中、図8に示すステップS101からS105の動作を実行することにより、自動操舵運転を行う。制御装置180は、まず、測位システム120および慣性計測システム125から出力されたデータに基づいて、作業車両100の位置および方位を推定する(ステップS101)。位置および方位の推定方法の詳細については後述する。次に、制御装置180は、作業車両100の位置および方位のそれぞれと、目標経路との偏差を算出する(ステップS102)。位置の偏差は、その時点における作業車両100の位置と、目標経路との距離を表す。方位の偏差は、その時点における作業車両100の方位と、目標経路の方向との角度の大きさを表す。制御装置180は、算出した位置の偏差が予め設定された閾値を超えるか否か、および算出した方位の偏差が予め設定された他の閾値を超えるか否かを判断する(ステップS103)。位置の偏差および方位の偏差の少なくとも一方がそれぞれの閾値を超える場合、制御装置180は、偏差が小さくなるように、駆動装置140に含まれる操舵装置の制御パラメータを変更することにより、操舵角を変更する。ステップS103において位置および方位のいずれの偏差もそれぞれの閾値を超えない場合、ステップS104の動作は省略される。続くステップS105において、制御装置180は、動作終了の指令を受けたか否かを判断する。動作終了の指令は、例えばユーザが操作端末200を用いて自動操舵モードの停止を指示したり、作業車両100が目的地に到達したりした場合に出され得る。動作終了の指令が出されていない場合、ステップS101に戻り、新たに計測された作業車両100の位置に基づいて、同様の動作を実行する。制御装置180は、動作終了の指令が出されるまで、ステップS101からS105の動作を繰り返す。上記の動作は、制御装置180におけるECU183によって実行される。
【0062】
以下、図9Aから図9Dを参照しながら、制御装置180による操舵制御の例をより具体的に説明する。
【0063】
図9Aは、目標経路Pに沿って走行する作業車両100の例を示す図である。図9Bは、目標経路Pから右にシフトした位置にある作業車両100の例を示す図である。図9Cは、目標経路Pから左にシフトした位置にある作業車両100の例を示す図である。図9Dは、目標経路Pに対して傾斜した方向を向いている作業車両100の例を示す図である。これらの図において、測位システム120および慣性計測システム125から出力された信号に基づいて推定された作業車両100の位置および向きを示すポーズがr(x,y,θ)と表現されている。(x,y)は、地球に固定された2次元座標系であるXY座標系における作業車両100の基準点の位置を表す座標である。図9Aから図9Dに示す例において、作業車両100の基準点はキャビン上のGNSSアンテナが設置された位置にあるが、基準点の位置は任意である。θは、作業車両100の計測された向きを表す角度である。図示されている例においては、目標経路PがY軸に平行であるが、一般的には目標経路PはY軸に平行であるとは限らない。
【0064】
図9Aに示すように、作業車両100の位置および向きが目標経路Pから外れていない場合には、制御装置180は、作業車両100の操舵角および速度を変更せずに維持する。
【0065】
図9Bに示すように、作業車両100の位置が目標経路Pから右側にシフトしている場合には、制御装置180は、作業車両100の走行方向が左寄りに傾き、経路Pに近付くように、駆動装置140に含まれるステアリングホイールの回転角を変更して操舵角を変更する。このとき、操舵角に加えて速度も併せて変更してもよい。操舵角の大きさは、例えば位置偏差Δxの大きさに応じて調整され得る。
【0066】
図9Cに示すように、作業車両100の位置が目標経路Pから左側にシフトしている場合には、制御装置180は、作業車両100の走行方向が右寄りに傾き、経路Pに近付くように、ステアリングホイールの回転角を変更して操舵角を変更する。この場合も、操舵角に加えて速度も併せて変更してもよい。操舵角の変化量は、例えば位置偏差Δxの大きさに応じて調整され得る。
【0067】
図9Dに示すように、作業車両100の位置は目標経路Pから大きく外れていないが、向きが目標経路Pの方向とは異なる場合は、制御装置180は、方位偏差Δθが小さくなるように操舵角を変更する。この場合も、操舵角に加えて速度も併せて変更してもよい。操舵角の大きさは、例えば位置偏差Δxおよび方位偏差Δθのそれぞれの大きさに応じて調整され得る。例えば、位置偏差Δxの絶対値が小さいほど方位偏差Δθに応じた操舵角の変化量を大きくしてもよい。位置偏差Δxの絶対値が大きい場合には、経路Pに戻るために操舵角を大きく変化させることになるため、必然的に方位偏差Δθの絶対値が大きくなる。逆に、位置偏差Δxの絶対値が小さい場合には、方位偏差Δθをゼロに近づけることが必要である。このため、操舵角を決定するための方位偏差Δθの重み(すなわち制御ゲイン)を相対的に大きくすることが妥当である。
【0068】
作業車両100の操舵制御および速度制御には、PID制御またはMPC制御(モデル予測制御)などの制御技術が適用され得る。これらの制御技術を適用することにより、作業車両100を目標経路Pに近付ける制御を滑らかにすることができる。
【0069】
なお、走行中に1つ以上の障害物センサ130によって障害物が検出された場合には、制御装置180は、作業車両100を停止させるか、自動操舵モードから手動操舵モードに切り換える。制御装置180は、障害物が検出された場合に障害物を回避するように駆動装置140を制御してもよい。
【0070】
<デッドレコニング時の方位ドリフト推定>
次に、自動操舵モードにおいて、GNSS信号の受信強度が低下したときに行われるデッドレコニング動作を説明する。
【0071】
作業車両100が走行する環境中には、GNSS信号の受信を妨げる障害物が存在することがある。例えば、図10に示すように、圃場の枕地80に防風林などの樹木90が植えられていることがある。このような樹木90に作業車両100が接近すると、GNSS信号の受信強度が低下し、測位の信頼性が低下する。また、作業車両100が果樹園または森林のような多くの樹木が生い茂っている環境中を走行する場合、GNSS信号に基づく測位の信頼性が頻繁に低下することになり、自動操舵運転の安定性が低下する。
【0072】
そこで、本実施形態における制御装置180は、GNSS信号の受信強度が低下した状態では、慣性計測システム125から出力される信号のみに基づいて作業車両100の位置および方位を推定するデッドレコニング動作を実行する。
【0073】
デッドレコニング時においては、前述のように、方位角(ヨー角)の推定誤差が時間の経過とともに蓄積するため、自己位置推定の信頼性が低下する。図11は、方位角の時間変化の例を示すグラフである。図11には、GNSS信号が正常に受信できる状態における、GNSS信号およびIMUからの信号に基づく拡張カルマンフィルタ(EFK)を用いた処理によって推定された第1方位角と、IMUからの信号に基づいて推定された第2方位角のそれぞれの時間変化の例が示されている。図11に示すように、第1方位角と比較して、第2方位角については、時間の経過とともに真値からのずれ(ドリフト)が増大する。したがって、デッドレコニング時には、この方位ドリフトを抑えるために、第2方位角を補正することが求められる。
【0074】
この課題を解決するために、本実施形態における制御装置180は、GNSS信号が正常に受信できる状態(第1の状態)において、測位システム120から出力される第1時系列データと、慣性計測システム125から出力される第2時系列データとに基づいて作業車両100の位置および第1方位角を逐次推定する動作に加えて、第2時系列データに基づいて第2方位角を逐次推定する動作を実行する。制御装置180は、逐次推定した第1方位角および第2方位角に基づいて、方位誤差変化率を算出する。方位誤差変化率は、第2方位角の時間変化率を表す値であり、図11に示す方位ドリフトの傾きに相当する。制御装置180は、GNSS信号の受信強度が低下した第2の状態において、第2時系列データに基づいて推定される第2方位角を、上記の方位誤差変化率に基づいて補正する。そして、補正した第2方位角に基づいて作業車両100の操舵制御を行う。これにより、第2の状態における方位ドリフトを抑制し、自動操舵の性能を向上させることができる。
【0075】
図12は、制御装置180によって実行される位置および方位の推定動作の例を示すフローチャートである。図12に示す動作は、図8に示すステップS101において実行され得る。図12に示す動作は、制御装置180におけるECU183によって実行される。以下、各ステップの動作を説明する。
【0076】
ステップS120において、制御装置180は、GNSS信号の受信障害が生じているか否かを判定する。「GNSS信号の受信障害」とは、GNSS信号(衛星信号)の受信状況の悪化によって正常時と比較して衛星測位の信頼性が低下している状態を意味する。受信障害は、例えば、検出された衛星の数が少ない場合(例えば3以下など)、各衛星信号の受信強度が低い場合、またはマルチパスが生じている場合などに生じ得る。制御装置180は、受信障害が生じているか否かを、測位システム120におけるGNSS受信機121から出力されるGNSSデータに含まれる衛星に関する情報に基づいて判断できる。例えば、GNSSデータに含まれる衛星ごとの受信強度の値、または衛星の配置状況を示すDOP(Dilution of Precision)の値などに基づいて、受信障害の有無を判断することができる。
【0077】
図13Aおよび図13Bは、GNSS信号の受信強度の値に基づいて受信障害の有無を判断する方法の一例を説明するための図である。図13Aは、受信障害が生じていない場合における各GNSS信号の受信強度の例を示している。図13Bは、受信障害が生じている場合における各GNSS信号の受信強度の例を示している。この例では、12個の衛星からのGNSS信号が受信され、受信強度がC/N0の値で表されている。なお、これは一例であり、GNSS信号が受信され得る衛星の数および受信強度の表現はシステムに依存する。制御装置180は、例えば、受信強度が予め設定された基準値を超える衛星の数が閾値(例えば4)以上であるか否かによって受信障害の有無を判断できる。図13Aおよび図13Bにおいて、受信強度の基準値の例が破線で示されている。閾値が4である場合、図13Aの例では、受信強度が基準値を超える衛星の数が5個であり、閾値以上である。よって、このような場合、制御装置180は、受信障害が生じていないと判断できる。一方、図13Bの例では、受信強度が基準値を超える衛星の数が1個であり、閾値よりも少ない。よって、このような場合、制御装置180は、受信障害が生じていると判断できる。なお、このような判断方法は一例に過ぎない。制御装置180は、他の方法によって受信障害の有無を判断してもよい。例えば、測位システム120から、測位の信頼度を示す値が出力される場合、制御装置180は、その信頼度の値に基づいて受信障害が生じているか否かを判断してもよい。
【0078】
このように、測位システム120から出力される第1時系列データは、測位の信頼性を示す情報を含み得る。制御装置180は、当該情報に基づいて、第1時系列データの信頼度を決定し、当該信頼度に基づいて、第1の状態と前記第2の状態とを判別するように構成され得る。
【0079】
制御装置180は、どの程度の信頼度の低下で受信障害が生じていると判定するかを、ユーザの設定に応じて変更してもよい。例えば、ユーザが設定する必要な作業精度に応じて、信頼度の判定の基準を変化させてもよい。作業精度は、例えば、RTK(高)、DGPS(中)、単独測位(低)のように、利用される測位方式によって指定されてもよい。
【0080】
ステップS120において、制御装置180は、GNSS信号の受信障害が生じていない(No)と判定した場合、ステップS121に進む。この状態は、前述の「第1の状態」に該当する。制御装置180は、GNSS信号の受信障害が生じている(Yes)と判定した場合、ステップS126に進む。この状態は、前述の「第2の状態」に該当する。
【0081】
ステップS121において、制御装置180は、測位システム120から出力された第1時系列データ、および慣性計測システム125から出力された第2時系列データに基づいて、作業車両100の位置および方位角(第1方位角)を推定する。この推定には、例えば拡張カルマンフィルタを利用した推定アルゴリズムが用いられ得る。位置および方位角の推定は、拡張カルマンフィルタに限らず、任意の推定アルゴリズムを用いて実行することができる。
【0082】
ステップS122において、制御装置180は、第2時系列データに基づいて、作業車両100の方位角(第2方位角)を推定する。第2方位角の推定は、例えば、第2時系列データに含まれる角速度の計測値を時間積分するなどの処理によって行われ得る。なお、ステップS122の処理は、ステップS121の前に行われてもよいし、同時に行われてもよい。
【0083】
ステップS123において、制御装置180は、第1方位角と第2方位角との差の時間変化率に基づいて、方位誤差変化率を算出する。方位誤差変化率の算出方法の詳細については後述する。制御装置180は、算出した方位誤差変化率を、記憶装置170に記憶させる。
【0084】
ステップS124において、制御装置180は、ステップS121で推定した位置および第1方位角を、作業車両100の位置および方位角として決定する。制御装置180は、決定した作業車両100の位置および方位角に基づいて、図8におけるステップS102以降の操舵制御を実行する。
【0085】
ステップS121からS124の処理は、GNSS信号の受信障害が生じていない第1の状態において、繰り返し実行される。GNSS信号の受信障害が発生すると、ステップS126からS128の処理が実行される。
【0086】
ステップS126において、制御装置180は、慣性計測システム125から出力された第2時系列データに基づいて、作業車両100の位置および方位角(第2方位角)を推定する。制御装置180は、GNSS信号の受信障害が生じる直前の位置および方位角の推定値を基準として、その後に加速度センサ126および角速度センサ127から得られた計測値を積分するなどの処理により、作業車両100の位置および第2方位角の推定値を求める。
【0087】
ステップS127において、制御装置180は、ステップS123で算出した方位誤差変化率に基づいて、第2方位角を補正する。具体的には、制御装置180は、方位誤差変化率に、前回の方位推定処理が行われた時点からの経過時間(すなわち図12の処理の周期)を乗じた値を、第2方位角から減算することにより、第2方位角の補正値を求めることができる。制御装置180は、例えば直前に算出された方位誤差変化率を用いてもよいし、GNSS信号が最も安定的に取得された期間に取得されたデータに基づく方位誤差変化率を用いてもよい。
【0088】
ステップS128において、制御装置180は、ステップS126で推定した位置およびステップS128で補正した第2方位角を、作業車両100の位置および方位として決定する。制御装置180は、決定した作業車両100の位置および方位角に基づいて、図8におけるステップS102以降の操舵制御を実行する。
【0089】
ここで、ステップS123における方位誤差変化率の算出方法の一例を説明する。ここでは、測位システム120および慣性計測システム125(例えばIMU)から出力されたデータに基づく拡張カルマンフィルタ(EKF)処理が行われるものとする。EKF処理によって算出された高い精度の第1方位角をθとし、慣性計測システム125からのデータのみに基づいて算出された第2方位角をθとする。制御装置180は、GNSS信号の受信強度が十分に高い第1の状態において、第1方位角θと第2方位角θとの差を、単位時間Δtで割ることにより、方位角のドリフトの傾きを表す方位誤差変化率Δθdriftを算出することができる。すなわち、制御装置180は、以下の式1の演算を実行することにより、方位誤差変化率Δθdriftを算出することができる。
Δθdrift=(θ-θ)/Δt (式1)
ここで、単位時間Δtは、例えば0.1秒から数秒程度の値に設定され得る。
【0090】
実際には、図11に示すように、第1方位角θと第2方位角θとの差は、時間の経過とともに細かく変動する。このため、制御装置180は、式1に基づいて算出したΔθdriftの所定時間にわたる統計値(例えば平均値)を方位誤差変化率としてもよい。すなわち、制御装置180は、第1方位角θと第2方位角θとの差の時間変化率を、所定の時間間隔で繰り返し算出し、複数回(例えば3回以上10回以下など)算出された時間変化率の統計値(例えば平均値)を、方位誤差変化率として算出してもよい。所定の時間間隔は、例えば1秒以上20秒以下などの任意の値に設定され得る。
【0091】
図14Aおよび図14Bは、本実施形態の効果を示す図である。図14Aは、上記の補正を行った場合と行わなかった場合のそれぞれにおける方位偏差の時間変化の一例を示している。図14Bは、上記の補正を行った場合と行わなかった場合のそれぞれにおける位置偏差の時間変化の一例を示している。方位偏差は、方位角の真値との差を表し、位置偏差は、位置座標の真値との差を表す。これらの図に示すように、本実施形態における補正処理を適用することにより、方位および位置のそれぞれの偏差が大きく低減できることが確認された。
【0092】
以上のように、制御装置180は、作業車両100の走行中、測位システム120から出力される第1時系列データの信頼性が高い期間(第1の状態)において、方位誤差変化率を算出し、記憶装置170に記録する動作を繰り返す。GNSS信号が途絶するなどして第1時系列データの信頼性が低い第2の状態になると、制御装置180は、慣性計測システム125から出力される第2時系列データに基づいて位置および第2方位を推定するデッドレコニング動作を実行する。デッドレコニング動作において、制御装置180は、第1の状態において算出した方位誤差変化率に基づいて、第2方位角を補正し、補正後の第2方位角に基づいて操舵制御を行う。このような動作により、方位ドリフトの影響を低減し、デッドレコニング中の自己位置推定の信頼性を向上させることができる。
【0093】
なお、図12の例では、制御装置180は、GNSS信号の受信障害が生じていない第1の状態において方位誤差変化率を算出するが、方位誤差変化率の算出を、GNSS信号の受信障害が生じている第2の状態で行ってもよい。その場合、制御装置180は、ステップS123において、方位誤差変化率を算出する代わりに、第1方位角と第2方位角との差の時間変化率を算出し、当該時間変化率を、時刻と関連付けて記憶装置170に記録してもよい。あるいは、制御装置180は、第1方位角および第2方位角を時刻と関連付けて記憶装置170に記録してもよい。そのような記録を行うことにより、制御装置180は、第2の状態において、方位誤差変化率の算出を、記憶された情報に基づいて実行することができる。
【0094】
また、制御装置180は、第1の状態の持続時間が第1の時間よりも長い場合に限り、第2の状態において、方位誤差変化率に基づく第2方位角の補正を実行してもよい。第1の時間は、例えば20秒以上の値に設定され得る。そのような比較的長い期間にわたって取得された方位誤差変化率を利用することにより、第2の状態における第2方位角を良好な値に補正することができる。また、GNSSの測位精度が良好な状況で十分な走行時間が得られない場合に、信頼性の低い方位誤差変化率を用いて方位角を誤った値に補正してしまうことを回避できる。
【0095】
図12に示す処理は、作業車両100が自動操舵で直進しているときに限らず、曲線的な経路に沿ってに走行しているとき、または、枕地で旋回しているときにも同様に実行され得る。直進時も旋回時も、方位ドリフトの傾向は変わらないため、直進時に取得されたデータに基づく方位誤差変化率と、旋回時に取得されたデータに基づく方位誤差変化率とを区別せずに使用することができる。例えば、旋回時に取得されたデータに基づく方位誤差変化率を、直進時または旋回時のGNSS信号の途絶時に利用して方位角を補正することができる。
【0096】
制御装置180は、第1の状態から第2の状態に変化したとき、警告を出力してもよい。例えば、制御装置180は、第1の状態から第2の状態への変化を検出したとき、操作端末200の表示装置に警告を表示させてもよいし、ブザー220に警告音を発出させてもよい。また、制御装置180は、第2の状態が第2の時間以上継続する場合、自動操舵を停止して操作端末200またはブザー220に警告を出力してもよい。第2の時間は、例えば10秒以上30秒以下などの任意の値に設定され得る。
【0097】
図15は、操作端末200の表示の一例を示す図である。この例では、制御装置180は、作業車両100および目標経路Pを含む圃場の地図を操作端末200のディスプレイに表示させる。図15の例では、自動操舵モードのオン、オフを示すアイコン86と、警告メッセージ92とが表示されている。制御装置180は、例えば、GNSS信号(例えばGPS信号)の受信強度が基準レベルを下回った状態が所定時間以上継続したとき、自動操舵を解除し、アイコン86の色を、例えば緑色から灰色に変化させてもよい。また、図15に示すように、「GPS信号が失われました。自動操舵が解除されました。」のような警告メッセージ92を操作端末200に表示させてもよい。制御装置180は、このような警告表示に加えて、ブザー220に警告音を発出させてもよい。このような警告を出力することにより、自動操舵が解除されたことをユーザに効果的に知らせることができる。
【0098】
以上の実施形態では、測位システム120は、GNSS受信機121を含むが、代わりに、LiDARセンサまたはイメージセンサなどの外界センサを含んでいてもよい。そのような外界センサに基づく自己位置推定の信頼性が低下した場合に、上記の補正処理を含むデッドレコニングが行われてもよい。その場合でも、デッドレコニングにおける自己位置推定の信頼性を向上させることができる。
【0099】
本実施形態における補正処理は、自動操舵運転時だけでなく、操舵と走行速度の両方を自動で制御する自動運転時にも同様に適用できる。
【0100】
以上の実施形態において、作業車両100は、無人で自動運転を行う作業車両であってもよい。その場合には、キャビン、運転席、ステアリングホイール、操作端末などの、有人運転にのみ必要な構成要素は、作業車両100に設けられていなくてもよい。無人の作業車両は、自律走行、またはユーザによる遠隔操作によって、前述の実施形態における動作と同様の動作を実行してもよい。
【0101】
以上の実施形態における各種の機能を提供する制御システムを、それらの機能を有しない作業車両に後から取り付けることもできる。そのような制御システムは、作業車両とは独立して製造および販売され得る。そのような制御システムで使用されるコンピュータプログラムも、作業車両とは独立して製造および販売され得る。コンピュータプログラムは、例えばコンピュータが読み取り可能な非一時的な記憶媒体に格納されて提供され得る。コンピュータプログラムは、電気通信回線(例えばインターネット)を介したダウンロードによっても提供され得る。
【0102】
以上のように、本開示は、以下の項目に記載の作業車両、制御システム、および制御方法を含む。
【0103】
[項目1]
自動操舵運転を行う作業車両であって、
前記作業車両の位置情報を含む第1時系列データを出力する測位システムと、
加速度センサおよび角速度センサを含み、前記加速度センサの計測値および前記角速度センサの計測値に基づく第2時系列データを出力する慣性計測システムと、
前記第1時系列データおよび前記第2時系列データに基づいて、前記作業車両の位置および方位角を推定し、推定した前記位置および前記方位角と、予め設定された目標経路とに基づいて、前記作業車両の操舵制御を行う制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記測位システムによる測位が可能な第1の状態において、前記第1時系列データおよび前記第2時系列データに基づいて前記作業車両の第1方位角を逐次推定し、前記第2時系列データに基づいて前記作業車両の第2方位角を逐次推定し、前記第1方位角に基づいて前記作業車両の操舵制御を行い、
前記第1の状態において逐次推定した前記第1方位角と前記第2方位角との差に基づいて、前記第2方位角の方位誤差変化率を算出し、
前記第1の状態から、前記測位システムによる測位の信頼性が低下した第2の状態に変化した場合、前記第1の状態に戻るまで、前記第2時系列データに基づいて推定される前記第2方位角を、前記方位誤差変化率に基づいて補正した方位角に基づいて前記作業車両の操舵制御を行う、
作業車両。
【0104】
[項目2]
前記制御装置は、前記第1の状態において、拡張カルマンフィルタを用いた処理により、前記第1時系列データおよび前記第2時系列データから前記作業車両の位置および前記第1方位角を推定する、項目1に記載の作業車両。
【0105】
[項目3]
前記制御装置は、前記第1の状態における前記第1方位角と前記第2方位角との差の時間変化率に基づいて、前記方位誤差変化率を算出する、項目1または2に記載の作業車両。
【0106】
[項目4]
前記制御装置は、前記第1の状態における前記第1方位角と前記第2方位角との差の時間変化率を所定の時間間隔で繰り返し算出し、複数回算出された前記時間変化率の統計値を、前記方位誤差変化率として算出する、項目3に記載の作業車両。
【0107】
[項目5]
前記所定の時間間隔は、1秒以上20秒以下である、項目4に記載の作業車両。
【0108】
[項目6]
前記複数回は、3回以上10回以下である、項目4に記載の作業車両。
【0109】
[項目7]
前記制御装置は、前記第1の状態の持続時間が第1の時間よりも長い場合に限り、前記第2の状態において、前記方位誤差変化率に基づく前記第2方位角の補正を実行する、項目1から3のいずれかに記載の作業車両。
【0110】
[項目8]
前記制御装置は、前記第1の状態から前記第2の状態に変化したとき、警告を出力する、項目1から3のいずれかに記載の作業車両。
【0111】
[項目9]
前記制御装置は、前記第2の状態が第2の時間以上継続する場合、自動操舵を停止して警告を出力する、項目1から3のいずれかに記載の作業車両。
【0112】
[項目10]
前記所定時間は、10秒以上30秒以下である、項目9に記載の作業車両。
【0113】
[項目11]
前記測位システムは、GNSS受信機を含む、項目1から3のいずれかに記載の作業車両。
【0114】
[項目12]
前記第1時系列データは、測位の信頼性を示す情報を含み、
前記制御装置は、前記情報に基づいて、前記第1時系列データの信頼度を決定し、前記信頼度に基づいて、前記第1の状態と前記第2の状態とを判別する、
項目11に記載の作業車両。
【0115】
[項目13]
自動操舵運転を行う作業車両の制御システムであって、
前記作業車両は、前記作業車両の位置情報を含む第1時系列データを出力する測位システムと、加速度センサおよび角速度センサを含み、前記加速度センサの計測値および前記角速度センサの計測値に基づく第2時系列データを出力する慣性計測システムと、を備え、
前記制御装置は、前記第1時系列データおよび前記第2時系列データに基づいて、前記作業車両の位置および方位角を推定し、推定した前記位置および前記方位角と、予め設定された目標経路とに基づいて、前記作業車両の操舵制御を行う制御装置を備え、
前記制御装置は、
前記測位システムによる測位が可能な第1の状態において、前記第1時系列データおよび前記第2時系列データに基づいて前記作業車両の第1方位角を逐次推定し、前記第2時系列データに基づいて前記作業車両の第2方位角を逐次推定し、前記第1方位角に基づいて前記作業車両の操舵制御を行い、
前記第1の状態において逐次推定した前記第1方位角と前記第2方位角との差に基づいて、前記第2方位角の方位誤差変化率を算出し、
前記第1の状態から、前記測位システムによる測位の信頼性が低下した第2の状態に変化した場合、前記第1の状態に戻るまで、前記第2時系列データに基づいて推定される前記第2方位角を、前記方位誤差変化率に基づいて補正した方位角に基づいて前記作業車両の操舵制御を行う、
制御システム。
【0116】
[項目14]
自動操舵運転を行う作業車両の制御方法であって、
前記作業車両は、前記作業車両の位置情報を含む第1時系列データを出力する測位システムと、加速度センサおよび角速度センサを含み、前記加速度センサの計測値および前記角速度センサの計測値に基づく第2時系列データを出力する慣性計測システムと、を備え、
前記測位システムによる測位が可能な第1の状態において、前記第1時系列データおよび前記第2時系列データに基づいて前記作業車両の第1方位角を逐次推定し、前記第2時系列データに基づいて前記作業車両の第2方位角を逐次推定し、前記第1方位角に基づいて前記作業車両の操舵制御を行うことと、
前記第1の状態において逐次推定した前記第1方位角と前記第2方位角との差に基づいて、前記第2方位角の方位誤差変化率を算出することと、
前記第1の状態から、前記測位システムによる測位の信頼性が低下した第2の状態に変化した場合、前記第1の状態に戻るまで、前記第2時系列データに基づいて推定される前記第2方位角を、前記方位誤差変化率に基づいて補正した方位角に基づいて前記作業車両の操舵制御を行うことと、
を含む制御方法。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本開示の技術は、例えばトラクタ、移植機、または収穫機などの、農業用途で使用される作業車両に適用することができる。本開示の技術は、例えば建設作業車または除雪車などの、農業以外の用途で使用される作業車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0118】
50・・・GNSS衛星、60・・・基準局、70・・・作業領域、80・・・枕地、100・・・作業車両、101・・・車両本体、102・・・原動機、103・・・変速装置、104・・・車輪、105・・・キャビン、106・・・操舵装置、107・・・運転席、108・・・連結装置、109・・・ペダル、120・・・測位システム、121・・・GNSS受信機、122・・・RTK受信機、123・・・プロセッサ、125・・・慣性計測システム、126・・・加速度センサ、127・・・角速度センサ、128・・・プロセッサ、130・・・障害物センサ、140・・・駆動装置、150・・・センサ群、152・・・ステアリングホイールセンサ、154・・・切れ角センサ、156・・・T/M回転センサ、160・・・制御システム、170・・・記憶装置、180・・・制御装置、182、183、184、185・・・ECU、190・・・通信インタフェース、200・・・操作端末、210・・・操作スイッチ群、220・・・ブザー、300・・・作業機、340・・・駆動装置、360・・・制御装置、390・・・通信インタフェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図15