(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094545
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】PCR用溶液
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20240703BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211164
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001395
【氏名又は名称】杏林製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】竹内 亮太
(72)【発明者】
【氏名】岡 正樹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 裕子
(72)【発明者】
【氏名】胡 博之
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR41
4B063QR42
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】
レシプロカルフロー型の核酸増幅装置を用いたPCRにおいて、核酸増幅効率、検出感度に優れた核酸増幅方法を提供することである。
【解決手段】
以下の成分(A)~(D)を含有し、レシプロカルフロー型の核酸増幅装置を用いることを特徴とする核酸増幅用組成物。
(A)DNAポリメラーゼ
(B)フォワードプライマー及びリバースプライマー
(C)炭素数2~6の直鎖、分岐鎖又は環状のジオール
(D)非イオン界面活性剤
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)~(D)を含有し、レシプロカルフロー型の核酸増幅装置を用いることを特徴とする核酸増幅用組成物。
(A)DNAポリメラーゼ
(B)フォワードプライマー及びリバースプライマー
(C)炭素数2~6の直鎖、分岐鎖又は環状のジオール
(D)非イオン界面活性剤
【請求項2】
成分(A)DNAポリメラーゼが、抗DNAポリメラーゼ抗体が結合したポリメラーゼである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
成分(C)が、炭素数2~6の直鎖のジオールである、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
さらに成分(E)蛍光色素で標識されたプローブを含有する、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
成分(E)が、レポーター蛍光色素及びクエンチャー色素を有するプローブである、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
さらに成分(F)DMSOを含有する請求項3記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPCR用溶液に関する。なお、本明細書に記載される文献は、下記先行技術文献(特許文献及び非特許文献)として挙げた文献を含め、全ての文献につき、記載される全ての内容が、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
核酸の検出は、医薬品の研究開発、法医学、臨床検査、農作物や病原性微生物の種類の同定など、様々な分野において中核をなしている。当該核酸の検出のために、PCR(polymerase chain reaction)が広く用いられている。PCRはDNAのある特定領域を選択的に増幅する技術である。具体的には、サーマルサイクルと呼ばれる三相もしくは二相の温度条件を繰り返すことにより、単一鎖へのDNAの変性、変性されたDNA一本鎖とプライマーのアニーリング、及び熱安定性DNAポリメラーゼ酵素によるプライマーの伸長という個々の反応を順次繰り返すことによりDNAを増幅する。
【0003】
また、PCRにより増幅されたDNAの検出を容易とするリアルタイムPCRが開発されている。
PCRは目的のDNAを選択的に増幅できるが、増幅したDNAを確認するためには、PCRの終了後に別途ゲル電気泳動などによる確認作業が必要であった。リアルタイムPCRでは目的のDNAの増幅量に合わせ蛍光を発生もしくは消光させることにより、試料中の目的のDNAの有無を簡便に確認できるようになった。
また、従来のPCRでは、PCR前の試料中のテンプレートDNA量が一定量を超えると、PCR後の増幅DNA量はプラトーに達していることが多く、PCR前のテンプレートDNA量を定量することはできない。しかし、リアルタイムPCRにおいては、プラトーに達する前に、PCR途中の増幅DNA量をリアルタイムに検出できるため、DNA増幅の様子からPCR前のテンプレートDNA量を定量することが可能である。そのためリアルタイムPCRは、定量的PCRとも呼ばれる。
【0004】
また、1つのPCR反応系に複数のプライマー対を用いることで、複数の遺伝子領域を同時に増幅するマルチプレックスPCRが注目されている。マルチプレックスPCRを発展させたリアルタイムマルチプレックスPCRは、それぞれのターゲットを、他のターゲットの影響(クロストーク)を受けにくく、感度を落とすことなく、複数の異なるターゲット遺伝子を区別して検出し、定量的な結果を得ることを目的としている。
【0005】
PCRに使用される汎用のサーマルサイクラー装置は、ヒーターであるアルミブロック部の巨大な熱容量のため温度制御が遅く、30~40サイクルのPCR操作に従来1~2時間、場合によってはそれ以上を要する。そのため、最新の遺伝子検査装置を用いても分析にはトータルで、通常1時間以上を要しており、PCR操作の高速化は、技術登場以来の大きな課題であった。
【0006】
PCRの高速化のための手法として、レシプロカルフロー型の核酸増幅装置が提案されている(特許文献1)。
レシプロカルフロー型の核酸増幅装置を用いるPCRにおいては、マイクロプロア等の送液機構を使用し、中間流路を介して連通している変性温度帯に維持されている流路と伸長およびアニーリング温度帯に維持されている流路との間で試料液を行き来させ、DNAを増幅する。
【0007】
また、さらに、レシプロカルフロー型の核酸増幅装置を使用してPCRの高速化を実現するとともに、ノイズも低下させたリアルタイムマルチプレックスPCRも提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2016/006612号
【特許文献2】国際公開第2020/189581号
【特許文献3】国際公開第2022/153999号
【特許文献4】米国特許2005/042627
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
レシプロカルフロー型の核酸増幅装置を用いたPCRにおいては流路内を行き来させる試料液において複数の気泡が生じ、それらが結合してより大きな気泡が生じた結果、試料液が流路内で分断されることがあった(該状態を本明細書では液分かれという)。特に、単一鎖へのDNAの変性においては、試料液の温度を沸点に近い温度まで上昇させるため気泡が生じやすくなる。
気泡発生を抑制するためにPCRの変性温度を下げることもできるが、変性温度を下げると核酸の増幅効率が下がるという不都合を生じる。核酸の増幅効率を下げないために、変性時間を長くすることでカバーすることも可能ではあるが、PCR時間が延びるため望ましいとはいえない。
そこで、本発明の目的は、レシプロカルフロー型の核酸増幅装置を用いたPCRにおいて、核酸増幅効率、検出感度に優れた核酸増幅方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下のとおりである。
以下の成分(A)~(D)を含有し、レシプロカルフロー型の核酸増幅装置を用いることを特徴とする核酸増幅用組成物。
(A)DNAポリメラーゼ
(B)フォワードプライマー及びリバースプライマー
(C)炭素数2~6の直鎖、分岐鎖又は環状のジオール
(D)非イオン界面活性剤
2)成分(A)DNAポリメラーゼが、抗DNAポリメラーゼ抗体が結合したポリメラーゼである、1)記載の組成物。
3)成分(C)が、炭素数2~6の直鎖のジオールである、1)記載の組成物。
4)さらに成分(E)蛍光色素で標識されたプローブを含有する、1)記載の組成物。
5)成分(E)が、レポーター蛍光色素及びクエンチャー色素を有するプローブである、4)記載の組成物。
6)さらに成分(F)DMSOを含有する3)記載の組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、レシプロカルフロー型の核酸増幅装置を用いたPCRにおいて、核酸増幅効率、検出感度に優れた核酸増幅方法の提供を可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】レシプロカルフロー型の核酸増幅装置に係る流路であって、DNA変性に適する温度に維持される流路(high)、および伸長およびアニーリングに適する温度に維持される流路(low)を有する流路の例を示す図である。
【
図2】レシプロカルフロー型の核酸増幅装置に係る流路であって、逆転写反応に適する温度に維持される流路(R)、DNA変性に適する温度に維持される流路(high)、および伸長およびアニーリングに適する温度に維持される流路(low)を有する流路の例を示す図である。
【
図3】非イオン界面活性剤と1,5-ペンタンジオールのいずれも配合していないPCR反応液を用いたリアルタイムPCRの結果を示す。
【
図4】非イオン界面活性剤は配合したが、1,5-ペンタンジオールを配合していないPCR反応液を用いたリアルタイムPCRの結果を示す。
【
図5】1,5-ペンタンジオールは配合したが、非イオン界面活性剤を配合しいていないPCR反応液を用いたリアルタイムPCRの結果を示す。
【
図6】非イオン界面活性剤及び1,5-ペンタンジオールを配合したPCR反応液を用いたリアルタイムPCRの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態の核酸増幅用組成物は、成分(A)~(D)を配合する。
本実施形態の組成物に使用される成分(A)の「DNAポリメラーゼ」は、4種のデオキシリボオヌクレオシド三リン酸を基質として鋳型DNAの塩基配列のDNA鎖の重合を触媒する酵素である。熱に対して抵抗性を示す耐熱性DNAポリメラーゼが好ましく、公知のものを使用することができる。例えば、ファミリーA(PolI型)に属するTaq DNAポリメラーゼやTth DNAポリメラーゼ、ファミリーB(α型)に属するKOD DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、Pwo DNAポリメラーゼ、Ultima DNAポリメラーゼ、PrimeSTAR(登録商標) DNAポリメラーゼのシリーズ(HS、GXL、Max)やこれらの変異体などが挙げられる。
成分(A)の「DNAポリメラーゼ」は、抗DNAポリメラーゼ抗体が結合したポリメラーゼが好ましい。
「抗DNAポリメラーゼ抗体が結合したポリメラーゼ」とは、特異的な抗体が結合することによりDNAポリメラーゼ活性が阻害されており、最初の高温変性ステップ(例えば、95℃)でこの結合した抗体が外れ、DNAポリメラーゼが活性化されるホットスタート特性を持つポリメラーゼを意味する。
【0014】
本実施形態の組成物に使用される成分(B)の「フォワードプライマー及びリバースプライマー」は、一つの標的遺伝子領域に対応して1種のフォワードプライマー及び1種のリバースプライマーを用いる。但し、フォワードプライマーとリバースプライマーについて対が成立していればよく、溶液中、フォワードプライマーとリバースプライマーについて種類の数が同数である必要はない。例えば、本実施形態の溶液中、1種のフォワードプライマーと2種のリバースプライマーとが含有されるようにしてもよい。
成分(B)の含有量は、本実施形態の組成物に対してそれぞれ終濃度0.5~4μMであることが好ましい。
【0015】
本実施形態の組成物に使用される成分(C)の「ジオール」は、炭素数2~6の直鎖、分岐鎖及び環状のジオールから選択される1種であっても2種以上であってもよい。
ここで、「炭素数2~6の直鎖又は分岐鎖のジオール」としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ペンタンジオール,2-メチル2,4-ペンタンジオールが挙げられる。
また、「炭素数2~6の環状のジオール」として、cis-1.2-シクロペンタンジオール, trans-1.2-シクロペンタンジオールが挙げられる。
成分(C)の含有量は、本実施形態の組成物に対して終濃度1~20 vol%であることが好ましく、さらに好ましくは5~15 vol%である。
【0016】
本実施形態の組成物に使用される成分(D)の「非イオン界面活性剤」は、水溶液中でイオンに解離する基を持たない界面活性剤であり、例えば、プロピレンオキシドーエチレンオキシドブロック共重合体、アルキルグリコシド、ノニルフェニルエトキシレート、ポリエチレングリコールトリメチルノニルエーテル、ポリオキシエチレンp-t-オクチルフェニルエーテル(トリトンX100、トリトンX45、トリトンX114(ダウケミカル社製)など)、ポリエチレンアルキルエーテル(ブリッジ30)、ソルビタン脂肪酸エステル(スパン系界面活性剤、アラセル系界面活性剤)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(トゥイーン系界面活性剤、例:トゥイーン20)、ポリオキシエチレンアルキルルエーテル(ブリッジ系界面活性剤)、グリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。
(D)非イオン界面活性剤の含有量は、本実施形態の組成物に対して0.001~0.5 vol%であることが好ましく、さらに好ましくは0.01~0.2 vol%である。
【0017】
本実施形態の組成物に使用される成分(E)の「蛍光色素で標識されたプローブ」は、蛍光色素と結合したオリゴヌクレオチドであり、相補的な配列とハイブリダイゼーションすることにより標的配列を検出することを目的とする。
本実施形態に係る「蛍光色素で標識されたプローブ」の蛍光色素の例としては、ABY、アクリジン、アレクサフルーア488、アレクサフルーア532、アレクサフルーア594、アレクサフルーア633、アレクサフルーア647、ATTO(ATTO-TEC蛍光色素)、バイオサーチブルー、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、クマリン、DANSYL、FAM(例えば、5-FAM、6-FAM)、FITC、GPF、5-HEX、6-HEX、JOE、JUN、マリーナブルー、NED、オレゴングリーン488、オレゴングリーン500、オレゴングリーン514、パシフィックブルー、PET、パルサー、クエザー570、クエザー670、クエザー705、ローダミングリーン、ローダミンレッド、5-ROX、6-ROX、5-TAMRA、6-TAMRA、5-TET、6-TET、テキサスレッド、TRITC、VICが挙げられる。
また、蛍光色素で標識したプローブは、さらにクエンチャー色素と結合したオリゴヌクレオチドであることが好ましい。クエンチャー色素とは、蛍光色素の発する蛍光を消失させることができる限り特に制限されず、例えば、TAMRA、BHQ(BHQ-1~3)、NFQなどが挙げられる。
【0018】
本発明の組成物に使用される成分(F)の「DMSO」(ジメチルスルホキシド)は、富士フィルム和光純薬等の試薬メーカーより入手可能である。
【0019】
図1はレシプロカルフロー型の核酸増幅装置において鋳型をDNAとする場合の流路の概要を示す図である。また、
図2はレシプロカルフロー型の核酸増幅装置において鋳型をRNAとする場合の流路の概要を示す図である。
レシプロカルフロー型の核酸増幅装置は、特許文献1、2、3に記載の装置を使用することができる。流路が形成された核酸増幅用チップに試料液を投入し、前述の流路の両端に送液用機構を接続する。送液用機構として、マイクロブロアまたは送風機を用いることで、サーマルサイクラーのDNA変性に必要な温度帯とDNAの伸長およびアニーリング反応に必要な温度帯の間の往復運動(送液、停止)が可能となる。
【0020】
図1中、highとして示した流路はPCRにおけるDNA変性反応に必要な温度帯(例えば90~100℃)に維持されている流路である。また、lowとして示した流路はPCRにおけるDNAの伸長およびアニーリング反応に必要な温度帯(例えば40~75℃)に維持されている流路である。highとして示した流路とlowとして示した流路とは中間流路aを介して連通している。レシプロカルフロー型の核酸増幅装置においては、流路内に投入された試料液をhighとして示した流路とlowとして示した流路とを行き来させることにより、PCRに係るサーマルサイクリングを行い、DNAを増幅する。なお、PCRに係るプロトコールについても特に限定されず、例えば公知のものを用いることができる。
【0021】
また、
図1と同様に、
図2中、highとして示した流路はPCRにおけるDNA変性反応に必要な温度帯に維持されている流路であり、lowとして示した流路はPCRにおけるDNAの伸長およびアニーリング反応に必要な温度帯に維持されている流路である。また、Rとして示した流路は逆転写酵素による逆転写反応が行われる流路であって、逆転写反応に必要な温度帯(例えば37~45℃)に維持されている流路である。highとして示した流路とlowとして示した流路とは中間流路aを介して連通しており、lowとして示した流路とRとして示した流路とは流路bを介して連通している。
鋳型をRNAとする場合は、試料液はまずRとして示した流路に投入され、逆転写酵素による逆転写反応が行われ、RNAに相補的なDNA(cDNA)が生成される。その後、試料液はhighとして示した流路およびlowとして示した流路に送られ、highとして示した流路およびlowとして示した流路の間で試料液を行き来させることによりPCRに係るサーマルサイクリングを行い、DNAを増幅する。
試料液を変性温度帯内に保持させる時間及び試料液を伸長・アニーリング温度帯内に保持させる時間のそれぞれは、標的遺伝子領域(遺伝子の種類、領域の長さ等)に応じて適宜設定することができる。例えば、試料液を変性温度帯内に保持させる時間としては、2~10秒程度、試料液を伸長・アニーリング温度帯内に保持させる時間としては、2~60秒程度とすることができる。
【0022】
実験例1
(試験方法)
RNase Free dH2O、10xFAST Buffer I、dNTP Mixture、100 μMフォワードプライマー(配列番号1)、100 μMリバースプライマー(配列番号2)、100 μMプローブ (配列番号3) 、Hot Start TTx DNA polymerase (東洋紡社製)、ROX Reference Dye (タカラバイオ社製)および1x10
4 copies/μLポジティブコントロールDNAを1反応当たり10.87μL : 2.0 μL : 1.6 μL : 0.48 μL : 0.64 μL : 0.08 μL : 0.25 μL :0.08 μL: 1.0 μLで混合した。
ポジティブコントロールDNAは、pUC57ベクターのEcoRVサイトにN2の配列を含むDNA配列(配列番号4)を挿入し、直鎖状にしたものである。
非イオン界面活性剤の効果を検討する際には、2.4 μMのCy5-Azide (sigma社製)、0.24 μMのDMSO (富士フィルム和光純薬社製)、4 x ROX Reference Dye (東洋紡社製、50xを希釈して調製)、2 vol%のTween 20 (富士フィルム和光純薬社製) を混合した溶液を1 μL加えた。ジオールの効果を検討する際には、96 vol%の1,5-ペンタンジオールを2 μL加えた。それぞれの試薬の効果を検討する際の対照はRNase Free dH2O (タカラバイオ社製)とした。さらにPCR反応液の容量が20 μLになるよう上記の混合液にRNase Free dH2O (タカラバイオ社製)を加え、PCR反応液とした。GeneSoC MINI (杏林製薬社製)及びその専用チップ(
図2参照)を用いて、リアルタイムPCRを実施した。
PCR条件は活性化反応: 94 又は 95℃, 10秒、
熱変性反応 (DN): 94 又は 95℃, 4秒、
アニーリングおよび伸長反応 (AE): 58℃, 8秒
とし、DNとAEを50サイクル行い、非イオン界面活性剤および1,5-ペンタジオールが活性化反応および熱変性反応に与える影響をCt値および最終蛍光強度で判断した。
フォワードプライマー: AAATTTTGGGGACCAGGAAC
リバースプライマー: TGGCAGCTGTGTAGGTCAAC
プローブ: FAM-ATGTCGCGCATTGGCATGGA-TAMRA
【0023】
(試験結果)
非イオン界面活性剤と1,5-ペンタンジオールのいずれも配合していないPCR反応液を使用した場合、95℃におけるCt値は44.6±2.1であり、94℃におけるCt値は算出できなかった。
非イオン界面活性剤は配合したものの、1,5-ペンタンジオールを配合していないPCR反応液を使用した場合も、95℃におけるCt値は41.4±0.9であったが、94℃でのCt値は算出できなかった。
非イオン界面活性剤は配合せず、1,5-ペンタンジオールを配合したPCR反応液を使用した場合、95℃におけるCt値は37.8±0.6であり、94℃におけるCt値は44.4±1.4であった。
非イオン界面活性剤、1,5-ペンタンジオールのいずれも配合したPCR反応液を使用した場合、95℃におけるCt値は35.1±0.3であったが、94℃でのCt値は40.0±0.2であった。
また、非イオン界面活性剤は配合せず、1,5-ペンタンジオールを配合したPCR反応液を使用した場合、95℃における最終蛍光強度が77±5であり、94℃における最終蛍光強度が46±5であった。
非イオン界面活性剤と1,5-ペンタンジオールのいずれも配合したPCR反応液を使用した場合、95℃における最終蛍光強度が296±6であり、94℃における最終蛍光強度が200±7であった。
以上のことから、非イオン界面活性剤及び1,5-ペンタンジオールを添加することで、変性温度を下げても効率がよく核酸増幅を行うことが可能となった。
【0024】
【配列表】