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特開2024-94564ゴム組成物、加硫ゴムおよび空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094564
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】ゴム組成物、加硫ゴムおよび空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20240703BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20240703BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C08L21/00
C08L1/02
B60C1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211192
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆義
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA01
3D131BA07
3D131BA18
4J002AB012
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC081
4J002AC091
4J002FB092
4J002FD010
4J002FD012
4J002FD030
4J002FD140
4J002FD150
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】ゴム強度に優れた加硫ゴム、特には空気入りタイヤのゴム部として有用な加硫ゴムの原料となるゴム組成物を提供すること。
【解決手段】ゴム成分およびセルロースナノファイバーを含有するゴム組成物であって、セルロースナノファイバーは、ヒドロシラン化合物が共有結合されたセルロースナノファイバーであり、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、セルロースナノファイバーの配合量が0.2~4.0質量部であるゴム組成物。該ゴム組成物を加硫成形してなる加硫ゴムは、特に空気入りタイヤのゴム部として有用である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分およびセルロースナノファイバーを含有するゴム組成物であって、
前記セルロースナノファイバーは、ヒドロシラン化合物が共有結合されたセルロースナノファイバーであり、
ゴム成分の全量を100質量部としたとき、前記セルロースナノファイバーの配合量が0.2~4.0質量部であることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のゴム組成物を加硫成形してなる加硫ゴム。
【請求項3】
請求項2に記載の加硫ゴムをゴム部として備える空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物および加硫ゴム、ならびに該加硫ゴムをゴム部として備える空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りタイヤの耐久性を向上するためには、空気入りタイヤを構成するゴム部のゴム強度を上げる手法がある。ゴム強度を上げる方法として、例えばカーボンブラックやシリカなどのフィラー量を増量する方法があるが、それに伴い空気入りタイヤを構成するの伸びが低下することで耐久性が悪化する傾向がある。
【0003】
下記特許文献1では、ゴム成分および変性セルロースナノファイバー、特には酸化セルロースナノファイバー、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー及びカチオン化セルロースナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む変性セルロースナノファイバーを含むゴム組成物が記載されている。
【0004】
ところで、下記特許文献2には、極性基が表面に存在する基材と、分子構造Aのケイ素原子に水素原子が結合したSi-H基を有するヒドロシラン化合物と、をボラン触媒の存在下で接触させ、前記基材と前記化合物との間で脱水素縮合反応を進行させることで、前記分子構造Aにより表面が修飾された前記基材を形成する工程を含む、表面修飾基材の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-95611号公報
【特許文献2】WO2015/136913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ただし、本発明者が鋭意検討したところ、上記特許文献1ではセルロースナノファイバーが凝集および集束していない状態を保つために、例えばラテックス状態のゴム分と水分散状態のセルロースナノファイバーとを混合する必要があり、工程上の労力および材料ロスが多いのが実情であった。
【0007】
なお、上記特許文献2には表面修飾セルロースナノファイバーの記載があるが、これをタイヤ用途に使用する点は記載も示唆もなく、ましてやゴム物性との関係で配合比などに関し何ら知見を与えるものではない。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的はゴム強度に優れた加硫ゴム、特には空気入りタイヤのゴム部として有用な加硫ゴムの原料となるゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は下記構成により解決可能である。すなわち本発明は、ゴム成分およびセルロースナノファイバーを含有するゴム組成物であって、前記セルロースナノファイバーは、ヒドロシラン化合物が共有結合されたセルロースナノファイバーであり、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、前記セルロースナノファイバーの配合量が0.2~4.0質量部であることを特徴とするゴム組成物(1)に関する。
【0010】
また、本発明はゴム組成物(1)を加硫成形してなる加硫ゴム(2)に関する。
【0011】
さらに本発明は、加硫ゴム(2)をゴム部として備える空気入りタイヤ(3)に関する。
【発明の効果】
【0012】
表面修飾セルロースナノファイバーをゴム組成物中に配合する技術はこれまでにも存在したが、水分散状態の表面修飾セルロースナノファイバーをゴム成分と混合する必要があり、工程上の労力および材料ロスの点で改良の余地があったのは前記のとおりである。本発明者はこの点に着目し、セルロースナノファイバーとヒドロシラン化合物とを共有結合させることにより、セルロースナノファイバーを疎水化することで、ゴム組成物中に該セルロースナノファイバーを乾式混合した場合であっても、セルロースナノファイバーの分散性が向上することに起因して、その加硫ゴムはゴム強度に優れることを見出した。本発明に係る加硫ゴムはゴム強度に優れるため、空気入りタイヤ用途、特にはトレッド部材、サイドウォール部材、ビード部材等に有用である。なかでも、キャップトレッド、サイドウォールのゴム部材として特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るゴム組成物は、ヒドロシラン化合物が共有結合されたセルロースナノファイバーを含有する。かかるセルロースナノファイバーは疎水性を示すため、水分散体の状態ではなく、例えば粉末状としてもゴム組成物中に良好に分散する点が特徴である。ヒドロシラン化合物が共有結合されたセルロースナノファイバーは、例えばWO2015/136913号公報に記載の方法により調整することができる。
【0014】
ゴム組成物中のゴム成分の全量を100質量部としたとき、セルロースナノファイバーの配合量は0.2~4.0質量部である。セルロースナノファイバーの配合量が0.2質量部を大幅に下回る、あるいは4.0質量部を大幅に上回ると、ゴム強度の向上が十分に図れない。
【0015】
本発明に係るゴム組成物は、好適にはゴム成分としてジエン系ゴムを含有する。ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエン(BR)、ポリスチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)などが挙げられる。
【0016】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分およびセルロースナノファイバーに加えて、フィラーとして、例えばカーボンブラックおよびシリカを配合することができる。
【0017】
カーボンブラックは、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックの他、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。本発明に係るタイヤトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックを30~70質量部配合することが好ましく、40~60質量部配合することがより好ましい。
【0018】
シリカとしては、通常のゴム補強に用いられる湿式シリカ、乾式シリカ、ゾル-ゲルシリカ、表面処理シリカなどが用いられる。なかでも、湿式シリカが好ましい。本発明に係るタイヤトレッド用ゴム組成物中のシリカの配合量は、前記カーボンブラックと同程度が好ましい。
【0019】
シリカを配合する場合、シランカップリング剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、分子中に硫黄を含むものであれば特に限定されず、ゴム組成物においてシリカとともに配合される各種のシランカップリング剤を用いることができる。例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(例えば、デグサ社製「Si69」)、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(例えば、デグサ社製「Si75」)、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプトシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランが挙げられる。
【0020】
本発明に係るゴム組成物においては、ゴム成分およびセルロースナノファイバー、さらにはカーボンブラックまたはシリカなどのフィラーに加えて、加硫系配合剤、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などを配合することができる。
【0021】
加硫系配合剤としては、硫黄、有機過酸化物などの加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤などが挙げられる。
【0022】
加硫系配合剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。
【0023】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0024】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0025】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分およびセルロースナノファイバー、さらには、カーボンブラックまたはシリカなどのフィラー、シランカップリング剤、加硫系配合剤、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、やオイルなどの軟化剤、加工助剤などを、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0026】
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄系加硫剤、および加硫促進剤などの加硫系配合剤以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。
【0027】
本発明に係るゴム組成物の加硫ゴムは、ゴム強度が特に優れる。したがって、本発明に係るゴム組成物を加硫成形してなるゴム部で構成されたトレッドやサイドウォールを備える空気入りタイヤは、特に耐引き裂き性に優れる。
【実施例0028】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例などについて説明する。なお、実施例などにおける評価項目は、各ゴム組成物を160℃にて30分間加熱、加硫して得られたゴムサンプルを下記の評価条件に基づいて評価を行った。
【0029】
(1)引張強度(S300)
JIS3号ダンベルを使用して作製したサンプルをJIS-K 6251に準拠して、300%モジュラスS300(MPa)を測定した。実施例1~3および比較例2については比較例1の測定値を100として指数評価で表示し、実施例4~6および比較例4については比較例3の測定値を100として指数評価で表示した。数値が大きいほど引き裂き強度が良好であることを意味する。
【0030】
(2)引き裂き強度(TR)
JIS K6252規定のクレセント形で、上記で得られた加硫ゴムを打ち抜き、くぼみの中央に0.50±0.08mmの切れ込みを入れたサンプルを得た。島津製作所の引張り試験機によって500mm/minの引張り速度で引裂強度を測定した。実施例1~3および比較例2については比較例1の測定値を100として指数評価で表示し、実施例4~6および比較例4については比較例3の測定値を100として指数評価で表示した。数値が大きいほど引き裂き強度が良好であることを意味する。
【0031】
(ゴム組成物の調製)
表1~2の配合処方に従い、実施例1~6および比較例1~4のゴム組成物を配合し、通常のバンバリーミキサーを用いて混練し、ゴム組成物を調整した。表1~2に記載の各配合剤を以下に示す(表1~2において、各配合剤の配合量を、ゴム成分100質量部に対する質量部数で示す)。
a)天然ゴム(NR):商品名「RSS#3」
b)ブタジエンゴム(BR);商品名「BR150B」、宇部興産社製
c)カーボンブラック:商品名「シースト3」、東海カーボン社製
d)酸化亜鉛:商品名「酸化亜鉛1種」、三井金属鉱山社製
e)ステアリン酸:商品名「ビーズステアリン酸」、日油社製
f)ワックス:商品名「OZOACE0355」、日本精鑞社製
g)ヒドロシラン化合物が共有結合されたセルロースナノファイバー(疎水化セルロースナノファイバー):商品名「セロキサン」、シーズリアクト社製
h)親水性セルロースナノファイバー:商品名「BinFis」、スギノマシン社製
i)老化防止剤:商品名「サントフレックス6PPD」、Flexsys社製
j)硫黄:商品名「粉末硫黄」、鶴見化学工業社製
k)加硫促進剤TBBS:商品名「サンセラーNS-G」、三新化学工業社製
【0032】
【表1】
【0033】
表1の結果から、比較例2に係るゴム組成物はゴム成分中でのセルロースナノファイバーの分散性が悪いことから、十分な補強効果を発揮できず、結果として加硫ゴムの引裂強度が悪化した。一方、実施例1~3に係るゴム組成物は、セルロースナノファイバーとゴム成分および他の配合剤と乾式混合してなるものであっても、セルロースナノファイバーの分散性に優れ、補強効果を十分に発揮する結果、その加硫ゴムは引裂強度および引張強度のいずれも向上することがわかる。
【0034】
【表2】
【0035】
表2の結果から、ゴム成分を天然ゴムとブタジエンゴムとの混合系から天然ゴム単独に変更した場合であっても、同様の傾向が見られることがわかる。具体的には、比較例4に係るゴム組成物はゴム成分中でのセルロースナノファイバーの分散性が悪いことから、十分な補強効果を発揮できず、結果として加硫ゴムの引裂強度が悪化した。一方、実施例4~6に係るゴム組成物は、セルロースナノファイバーとゴム成分および他の配合剤と乾式混合してなるものであっても、セルロースナノファイバーの分散性に優れ、補強効果を十分に発揮する結果、その加硫ゴムは引裂強度および引張強度のいずれも向上することがわかる。