(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094567
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】粉粒体原料の混合方法及びコークスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C10B 31/00 20060101AFI20240703BHJP
C21B 5/00 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C10B31/00
C21B5/00 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211195
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小澤 典子
(57)【要約】
【課題】操業実績の少ない混合機や利用実績の少ない粉粒体原料であっても多くの労力や時間を要することなく混合物の混合度を所望の範囲に調整可能な粉粒体原料の混合方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る粉粒体原料の混合方法は、円筒水平横型の混合機の投入口から粉粒体原料を投入し、主軸と共に回転する複数の羽根によって粉粒体原料を混合しつつ搬送し、排出口から混合物を排出して粉粒体原料の混合物を得る粉粒体原料の混合方法であって、混合機の設備仕様、羽根の仕様、粉粒体原料の処理量、及び主軸の回転速度のうちの少なくとも一つのパラメータを説明変数、混合物の混合度及び占積率の少なくとも一方を目的変数として最適化計算を実行し、最適化計算の結果を用いて混合物の混合度及び占積率の少なくとも一方が所望の範囲内になる前記説明変数としたパラメータの値を決定し、決定したパラメータの値を用いて粉粒体原料を混合するステップを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒水平横型の混合機の投入口から粉粒体原料を投入し、主軸と共に回転する複数の羽根によって粉粒体原料を混合しつつ搬送し、排出口から混合物を排出して粉粒体原料の混合物を得る粉粒体原料の混合方法であって、
前記混合機の設備仕様、前記羽根の仕様、前記粉粒体原料の処理量、及び前記主軸の回転速度のうちの少なくとも一つのパラメータを説明変数、前記混合物の混合度及び占積率の少なくとも一方を目的変数として最適化計算を実行し、最適化計算の結果を用いて前記混合物の混合度及び占積率の少なくとも一方が所望の範囲内になる前記説明変数としたパラメータの値を決定し、決定したパラメータの値を用いて前記粉粒体原料を混合するステップを含むことを特徴とする粉粒体原料の混合方法。
【請求項2】
前記最適化計算の手法として逐次近似法を用いることを特徴とする請求項1に記載の粉粒体原料の混合方法。
【請求項3】
前記逐次近似法としてベイズ最適化法を用いることを特徴とする請求項2に記載の粉粒体原料の混合方法。
【請求項4】
前記混合機の設備仕様、前記羽根の仕様、前記粉粒体原料の処理量、及び前記主軸の回転速度のうちの少なくとも一つのパラメータの実績データと、前記混合物の混合度及び占積率の少なくとも一方の実績データと、を含む学習用データを用いて機械学習を実行することにより、前記混合機の設備仕様、前記羽根の仕様、前記粉粒体原料の処理量、及び前記主軸の回転速度のうちの少なくとも一つのパラメータを入力変数、前記混合物の混合度及び占積率の少なくとも一方を出力変数とする機械学習モデルを生成し、生成した機械学習モデルを用いて最適化計算を実行するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の粉粒体原料の混合方法。
【請求項5】
前記粉粒体原料は、コークス製造用の配合炭である請求項1に記載の粉粒体原料の混合方法。
【請求項6】
請求項1~5のうち、いずれか1項に記載の粉粒体原料の混合方法を用いてコークス製造用の配合炭を混合し、配合炭の混合物を乾留することによってコークスを製造するステップを含むことを特徴とするコークスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉粒体原料の混合方法及びコークスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉粒体原料の混合装置として円筒水平横型の混合機(以下、混合機と略記)が広く用いられている。この混合機は、主軸と主軸に付随する羽根を備え、主軸の回転によって羽根を回転させることにより、投入口から投入された粉粒体原料を混合しながら排出口に搬送して排出する。一般に、混合機は複数の羽根を有する。また、主軸の羽根とは別に高速で回転するチョッパを混合機の内壁面に設け、チョッパを用いてよりミクロレベルで粉粒体原料の混合を促進するタイプもある。
【0003】
ここで、混合機の容積に対して粉粒体原料の占める体積の割合を占積率という。占積率が低い場合、粉粒体原料が投入されてから排出されるまでの間の粉粒体原料間の接触機会が減少するために、混合物の混合度は劣位となる。一方、占積率が高い場合には、粉粒体原料が羽根と供回りして粉粒体原料間の配置変換が起きにくくなるために、やはり混合物の混合度は劣位となる。従って、混合物の混合度を適切な範囲内に調整するためには、占積率を適切な範囲内に調整する必要がある。具体的には、粉粒体原料の性状や混合機の種類によって異なるが、多くの場合、占積率は20~70%程度の範囲内に調整する必要がある。
【0004】
占積率を適切な範囲内に調整する方法として、混合機の設備仕様(直径、長さ、排出口の位置や大きさ)、羽根の仕様(形状、大きさ)、原料処理量(投入速度)、主軸の回転速度、チョッパの仕様(形状、設置位置、本数、回転数)等を調整することが考えられる。ところが、混合機の設計や運転条件はノウハウに依存することが多く、例えば容量が10000L以上といった操業実績が少ない大型の混合機や利用実績の少ない粉粒体原料では、必ずしも所望の占積率に調整できるとは限らず、試行錯誤に多くの労力が必要となることがある。また、設備の建設費用や運転コストを削減する観点から、混合機をできるだけ小さくしつつ処理量を上げたい、主軸の回転速度は固定値にしたい等の制約条件が掛かることがある。
【0005】
このような背景から、特許文献1には、ドラムミキサにおいて、予め占積率と運転トルクの関係を調査しておき、占積率が所定値になるようにドラムミキサの回転数を操作する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、占積率と運転トルクの関係が既知であることを前提としている。このため、操業実績が少ない大型の混合機や利用実績の少ない粉粒体原料では、占積率と運転トルクの関係を予め調査しなければならず、多くの労力及び時間を要する。また、ドラムミキサの構成によっては、極端に低い回転数や高い回転数でしか占積率を所定値に調整できないといった不都合が生じることがある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、操業実績の少ない混合機や利用実績の少ない粉粒体原料であっても多くの労力や時間を要することなく混合物の混合度を所望の範囲に調整可能な粉粒体原料の混合方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、所望の性状を有するコークスを歩留まりよく製造可能なコークスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る粉粒体原料の混合方法は、円筒水平横型の混合機の投入口から粉粒体原料を投入し、主軸と共に回転する複数の羽根によって粉粒体原料を混合しつつ搬送し、排出口から混合物を排出して粉粒体原料の混合物を得る粉粒体原料の混合方法であって、前記混合機の設備仕様、前記羽根の仕様、前記粉粒体原料の処理量、及び前記主軸の回転速度のうちの少なくとも一つのパラメータを説明変数、前記混合物の混合度及び占積率の少なくとも一方を目的変数として最適化計算を実行し、最適化計算の結果を用いて前記混合物の混合度及び占積率の少なくとも一方が所望の範囲内になる前記説明変数としたパラメータの値を決定し、決定したパラメータの値を用いて前記粉粒体原料を混合するステップを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る粉粒体原料の混合方法は、上記発明において、前記最適化計算の手法として逐次近似法を用いることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る粉粒体原料の混合方法は、上記発明において、前記逐次近似法としてベイズ最適化法を用いることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る粉粒体原料の混合方法は、上記発明において、前記混合機の設備仕様、前記羽根の仕様、前記粉粒体原料の処理量、及び前記主軸の回転速度のうちの少なくとも一つのパラメータの実績データと、前記混合物の混合度及び占積率の少なくとも一方の実績データと、を含む学習用データを用いて機械学習を実行することにより、前記混合機の設備仕様、前記羽根の仕様、前記粉粒体原料の処理量、及び前記主軸の回転速度のうちの少なくとも一つのパラメータを入力変数、前記混合物の混合度及び占積率の少なくとも一方を出力変数とする機械学習モデルを生成し、生成した機械学習モデルを用いて最適化計算を実行するステップを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る粉粒体原料の混合方法は、上記発明において、前記粉粒体原料は、コークス製造用の配合炭である。
【0014】
本発明に係るコークスの製造方法は、本発明に係る粉粒体原料の混合方法を用いてコークス製造用の配合炭を混合し、配合炭の混合物を乾留することによってコークスを製造するステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る粉粒体原料の混合方法によれば、操業実績の少ない混合機や利用実績の少ない粉粒体原料であっても多くの労力や時間を要することなく混合物の混合度を所望の範囲に調整することができる。また、本発明に係るコークスの製造方法によれば、所望の性状を有するコークスを歩留まりよく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である円筒水平横型の混合機の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、説明変数として選択可能な羽根の仕様の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、混合機内における粉粒体原料の挙動を離散要素法によって数値解析した結果の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例1における試行回数と混合度の関係を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例2における試行回数と占積率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である粉粒体原料の混合方法及びコークスの製造方法について詳しく説明する。
【0018】
本発明の一実施形態である粉粒体原料の混合方法は、円筒水平横型の混合機の投入口から粉粒体原料を投入し、主軸と共に回転する複数の羽根によって粉粒体原料を混合しつつ搬送し、排出口から混合物を排出して粉粒体原料の混合物を得る方法である。本発明の一実施形態であるコークスの製造方法は、上記の粉粒体原料の混合方法を用いてコークス製造用の配合炭を混合し、配合炭の混合物を乾留することによってコークスを製造する方法である。本発明の発明者らは、円筒水平横型の混合機を用いた粉粒体原料の混合において、円筒水平横型の混合機の仕様や運転条件が粉粒体原料の混合度及び占積率に及ぼす影響について鋭意検討した。その結果、粉粒体原料の混合度及び占積率に応じて円筒水平横型の混合機の最適な仕様や運転条件を決定する方法を想到するに至った。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態である円筒水平横型の混合機の構成を示す模式図である。円筒水平横型の混合機は、バッチ式で運転される場合もあるが、工業的には連続的に運転されることが一般的である。
図1に示すように、本発明の一実施形態である円筒水平横型の混合機(以下、混合機と略記)1では、粉粒体原料は投入口2から連続的に混合機1内に投入される。混合機1は主軸3と主軸3に付随する複数の羽根4を備え、主軸3の回転に伴い羽根4が回転する。投入口2から投入された粉粒体原料は、羽根4によって混合されつつゲート5を通過した後、排出口6から混合物として排出される。また、混合機1は高速で回転するチョッパ7を内壁面に備えている。チョッパ7は、粉粒体原料がゲート5まで搬送される間に粉粒体原料のよりミクロな混合を促進する。例えば粉粒体原料がコークス製造用の配合炭である場合、配合炭は水分によって銘柄毎に凝集して疑似粒子を形成していることがある。このため、チョッパ7は疑似粒子を解砕して銘柄間での石炭の混合を促進する。なお、
図1に示す例では、主軸3は矢印A方向に回転し、粉粒体原料は矢印B方向に搬送される。
【0020】
ここで、所望の混合度の混合物を得るためには、混合機1の設備仕様(直径、長さ、排出口6の位置や大きさ)、羽根4の仕様(形状、大きさ)、原料処理量(投入速度)、主軸3の回転速度、チョッパ7の仕様(形状、設置位置、本数、回転数)等を最適化する必要がある。また、排出口6での原料詰り等の操業上の不具合を回避するために粉粒体原料の占積率を所望の値に調整する場合にも、混合機1の設備仕様(直径、長さ、排出口6の位置やサイズ)、羽根4の仕様(形状、サイズ)や、原料処理量(投入速度)、主軸3の回転速度、チョッパ7の仕様(形状、設置位置、本数、回転数)等を最適化する必要がある。但し、チョッパ7が設けられていない場合には、チョッパ7の仕様の最適化は不要である。
【0021】
最適化プロセスでは、上述した混合機1の仕様や運転条件を変更しながら混合度及び占積率の少なくとも一方を評価する試行を複数回実行する。そして、混合機1の仕様及び運転条件を説明変数、粉粒体原料の混合度及び占積率の少なくとも一方を目的変数として最適化計算を行う。これにより、混合機1の仕様及び運転条件を制御することにより粉粒体原料の混合度及び占積率の少なくとも一方を所望の範囲に制御することができる。但し、粉粒体原料の占積率を目的変数とする場合は所望の占積率が過去の経験や予備実験、予備解析等によって既知である必要がある。最適化計算は、例えばワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータからなる情報処理装置が主体となって実施される。この情報処理装置は、例えばCPU(Central Processing Unit)等によって実現される演算手段、各種記録媒体等によって実現される記憶手段、及び入出力手段等を備えている。
【0022】
図1に示す混合機1の構成例では、羽根4の仕様を説明変数とすることができる。
図2(a),(b)に説明変数として選択可能な羽根4の仕様の一例を示す。
図2(a)に示す仕様では、粉粒体原料の搬送方向Bに対して羽根4aが下流側に向かって開いており、送り羽根になっている。また、
図2(b)に示す仕様では、粉粒体原料の搬送方向Bに対して羽根4bが上流側に向かって開いており、返し羽根になっている。送り羽根及び返し羽根以外に羽根を無くす、羽根のサイズを変更する、羽根の形状を別の形状にする等の仕様もある。また、混合機1の設備仕様(直径、長さ、排出口6の位置や大きさ)、原料処理量(投入速度)、主軸3の回転速度、チョッパ7の仕様(形状、設置位置、本数、回転数)等の中には、制約条件となるものもあるが、変更可能な場合には説明変数に加えることができる。このように、混合機の設備仕様、羽根の仕様、粉粒体原料の処理量、及び主軸の回転速度のうちの少なくとも一つのパラメータを説明変数とすることができる。
【0023】
そして、各仕様及び各運転条件で粉粒体原料を混合したときの混合度及び占積率を調査して目的変数とする。例えば混合機1の運転を開始して一定時間経過後の混合物のサンプルを定量採取して混合度を測定する場合、元の粉粒体原料に視覚的に識別可能な塗料を塗布したトレーサ原料を元の粉粒体原料に一定の割合混合した試験原料を調製し、サンプルの画像分析によって疑似粒子としてある一定サイズ以上(例えば1mm以上)の粒子の割合rを求め、R=1-rを混合度とみなすことができる。あるいは、特有の成分を持つトレーサ原料を元の粉粒体原料に一定の割合混合した試験原料を調製し、特有の成分の混合前の標準偏差(完全分離状態)をσ0とする。これは特有の成分の体積割合から決定できる。また、特有の成分の混合後の測定値の標準偏差をσとする。すなわち、サンプルを複数回取って特有の成分を分析し、以下に示す数式(1)を用いて測定値の標準偏差σを求める。そして、M=1-σ/σ0を混合度とみなすことができる。一方、占積率は、混合運転中に混合機1を秤量し、重量から原料の占める体積を求めて算出することができる。あるいは、混合運転を一旦途中停止させ、その時の混合機1内の残留原料を取り出し秤量することにより、原料の占める体積に換算して算出することができる。目的変数は、一つのみ設定してもよく、複数設定してもよい。
【0024】
【0025】
以上のように説明変数と目的変数を取り、最適化計算を行う。最適化計算の手法としては、生物の進化の過程を模擬した遺伝的アルゴリズムに代表される進化型計算法(進化型アルゴリズム)や、有限のサンプリングデータを元に近似関数を生成し、段階的に精度を高めて解を得る逐次近似法等の手法を利用することができる。進化型計算法では、試行回数が必要で試行実験によるコストが高くなる傾向があるため、大型設備に対しては適用が困難な場合がある。一方、逐次近似法は、探索点が少ないため、高速で最適化するにはよい方法である。この逐次近似法としては、例えばベイズ最適化法が挙げられる。ベイズ最適化法は、試行実験を行った既知のデータの間にある未知のデータの存在確率を見積もり、その不確定さを小さくするように次の試行実験を行い、全体の関数の形を推定し、最適値(最小値や最大値)を探索する手法である。
【0026】
なお、上記では、実際の試行実験による説明変数及び目的変数の取り方の例を示したが、数値解析を用いた仮想の試行実験から求めた説明変数及び目的変数を代用してもよい。混合の数値解析には、例えば離散要素法(DEM)を利用することができる。この離散要素法では、実際の混合工程を模擬し、混合機1のモデルに粉粒体原料の粒子を連続的に投入し、粒子が混合機1内を通過して排出される解析を実行する。その際、粉粒体原料を微粉として投入して実際の混合を解析することもできるが、非常に計算コストが掛かるため、粗大化して粉粒体原料を設定することも可能である。
図3は、混合機1内における粉粒体原料の挙動を離散要素法によって数値解析した結果の一例を示している。
【0027】
また、上記では、現実又は仮想の試行実験によって得たデータに対して直接最適化計算を行う場合について説明したが、例えば機械学習によって予めモデルを作成し、作成したモデルに対してベイズ最適化法等の最適化計算を行ってもよい。具体的には、上述した説明変数の実績データと上述した目的変数の実績データとを含む学習用データを用いて機械学習を実行することにより、上述した説明変数を入力変数、上述した目的変数を出力変数とする機械学習モデルを生成し、生成した機械学習モデルを用いて説明変数と目的変数の予測値の組を複数生成する。そして、説明変数と目的変数の予測値の組を用いて最適化計算を実行する。この場合、機械学習の手法としては、例えばニューラルネットワーク、サポートベクタマシン、ランダムフォレスト等の各種手法を用いることができる。
【0028】
このように、本実施形態に係る粉粒体原料の混合方法は以下の3通りの方法により実行可能である。
【0029】
(1)事前にモデルを作成せず、直接最適化計算(例えば逐次近似最適化)を行う。
(2)事前にモデルを作成し、所望の混合度や占積率の範囲に収まる混合機の仕様や運転条件を決定する。
(3)事前にモデルを作成し、その後最適化計算を行い、混合機の仕様や運転条件を決定する。
【0030】
上記方法(1)では、実験や解析を実施して既知のデータ間にある未知のデータの存在確率を見積もり、その不確定さを小さくするように次の試行実験を行う。そして、説明変数と目的変数との関係を示す関数を推定し、混合機の仕様や運転条件の最適値(最小値や最大値)を探索する。この方法では、事前にモデルを作成しないため、膨大なデータを用意する必要がないというメリットがある。
【0031】
上記方法(2)では、実験や解析を実施して、説明変数と目的変数の関係からモデルを生成する。続いて、生成したモデルに対して混合機1の仕様や運転条件を入力することにより、混合度や占積率を予測する。そして、モデルに対して、様々な混合機1の仕様や運転条件を入力することにより、混合度や占積率が所望の範囲となる混合機1の仕様や運転条件を決定する。
【0032】
上記方法(3)では、実験や解析を実施して、説明変数と目的変数(混合度や占積率)の関係からモデルを生成する。続いて、生成したモデルに対して、混合機1の仕様や運転条件を入力することにより、粉粒体原料の混合度や占積率を予測する。そして、さらに最適化計算を行うことにより、粉粒体原料の混合度や占積率が所望の範囲となる混合機1の仕様や運転条件を決定する。
【0033】
なお、本実施形態の粉粒体原料の混合方法は、種々の粉粒体原料を混合対象とすることができるが、特に製鉄分野においてコークス製造用の配合炭を混合するのに適している。コークス製造用の配合炭の混合では、高品質のコークスを製造するために、石炭の特定銘柄が偏ることなく配合されている必要があり、そのためには水分等で銘柄毎に凝集した疑似粒子を解砕して混合することが重要である。本実施形態の粉粒体原料の混合方法によれば、そのような混合物を安定して得ることができる。また、本実施形態に係る粉粒体原料の混合方法によって混合されたコークス製造用の配合炭の混合物は、コークス炉に装入されて乾留され、高炉の還元材となるコークスが製造される。これにより、所望の性状を有するコークスを歩留まりよく製造することができる。
【0034】
〔実施例1〕
本実施例では、混合機1による粉粒体原料の混合において混合機の最適な羽根の仕様を決定するために、離散要素法による数値解析によって混合機を用いた仮想混合実験を行った。具体的には、本実施例では、
図1に示した構成の混合機1のモデルを用いた。混合機1の直径は2.5m、長さは5.5m、主軸3の回転数は30rpm、羽根4の枚数は24枚、チョッパ7の枚数の6枚、チョッパ7の回転数は3600rpmとした。また、原料の処理量は400t/hrとした。粉粒体原料の粒子として配合炭を想定し、粗大化して半径30mmとした。羽根4の仕様は送り羽根(
図2(a))、戻し羽根(
図2(b))、及び羽根無しのうちのいずれかとして説明変数とした。混合機1を運転し定常状態になったところで混合機1から排出された粒子を60秒間サンプリングした。混合機1内で1MPa以上の衝突圧を受けた粒子をカウントし、全排出粒子に対する割合を混合度R(目的変数)とした。羽根4の仕様は送り羽根、戻し羽根、及び羽根無しの3通りであり、羽根4は全24本あるが、一番後ろの羽根2本は返し羽根として固定したので、3の22乗の約300億通りの候補がある。最適化計算を行う逐次近似最適化手法としてベイズ最適化法を実施した。ここでは、以下の表1に示す5条件で予備実験を行い初期値とした。表1の1行目の1~12の数字は、羽根4の複数の羽根に対して入側から出側に向かって割振った番号を示す。A,Bは羽根4の対向する対を示す。表中の「1」は送り羽根、「-1」は戻し羽根を便宜上表すものとした。予備実験の後、実験点5点による探索を7回繰り返した。
【0035】
【0036】
図4にベイズ最適化の試行回数と混合度の履歴を示す。
図4に示すように、試行と共に混合度が高い条件に絞り込みが進行している。5回の予備実験(試行回数1~5)と計35回の本実験(試行回数6~40)を行い、混合度0.498となる条件を探索することができた。これにより、本発明によれば、少ない試行回数で混合度が高位となる羽根仕様を決定できることが確認できた。
【0037】
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1と同様の条件で混合機1を運転し混合機1内の質量バランスが一定に収束するまで計算を続けて占積率を求めた。排出口6での原料詰り等の操業上の不具を回避するために占積率を40%に調整するとして目的変数を設定した。ここでは、以下の表2に示す5条件で予備実験を行い初期値とした。表2の1行目の1~12の数字は、羽根4の複数の羽根に対して入側から出側に向かって割振った番号を示す。A,Bは羽根4の対向する対を示す。表中の「1」は送り羽根、「-1」は戻し羽根を便宜上表すものとした。予備実験の後、実験点5点による探索を6回繰り返した。
【0038】
【0039】
図5にベイズ最適化の試行回数と占積率の履歴を示す。
図5に示すように、試行と共に占積率が40%に近づくように絞り込みが進行している。5回の予備実験(試行回数1~5)と計30回の本実験(試行回数6~35)を行い、占積率39.62%となる条件を探索することができた。これにより、本発明によれば、少ない試行回数で所望の占積率となる羽根仕様を決定できることが確認できた。
【0040】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
1 円筒水平横型の混合機
2 投入口
3 主軸
4,4a,4b 羽根
5 ゲート
6 排出口
7 チョッパ