(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094577
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】使用済高吸水性樹脂の再生方法および使用済高吸水性樹脂の再生システム
(51)【国際特許分類】
B01J 20/30 20060101AFI20240703BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20240703BHJP
C08J 3/12 20060101ALI20240703BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
B01J20/30
B01J20/26 D
C08J3/12 Z
B09B5/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211208
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504182314
【氏名又は名称】トータルケア・システム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】安村 宜之
(72)【発明者】
【氏名】山田 陽三
(72)【発明者】
【氏名】鳥井 一司
(72)【発明者】
【氏名】小林 信弘
(72)【発明者】
【氏名】松井 大祐
【テーマコード(参考)】
4D004
4F070
4G066
【Fターム(参考)】
4D004AA07
4D004AB01
4D004AC05
4D004BA07
4D004CA12
4D004CA35
4D004CB05
4D004CB45
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4D004CC12
4F070AA29
4F070AB13
4F070AB26
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4F070AC13
4F070AC17
4F070AE28
4F070AE30
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4F070DB10
4F070DC15
4G066AC17B
4G066AC35B
4G066AC39A
4G066CA43
4G066DA12
4G066DA13
4G066EA05
4G066FA03
4G066FA11
4G066FA38
4G066FA40
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、使用済の体液吸収性物品の構成成分のうち、特に高吸水性樹脂を資源として有効に再利用することが可能となる使用済高吸水性樹脂の再生方法および再生システムを提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、使用済の体液吸収性物品を、各構成成分に分離する分離工程と、分離工程で分離された高吸水性樹脂の吸水性能を回復させる再生処理工程とを備え、分離工程は、多価金属塩の添加による高吸水性樹脂の脱水工程を含み、再生処理工程は、洗浄工程、酸反応工程、濃縮工程、中和工程、乾燥工程の順に行うことを特徴とする使用済高吸水性樹脂の再生方法および再生システムを提供する。
この発明によれば、使用済高吸水性樹脂の吸水性能を十分に回復させ、再生品(製品)としての有効活用(再製品化)が可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済の体液吸収性物品を、パルプ、高吸水性樹脂、プラスチックに分離する分離工程と、
前記分離工程で分離された高吸水性樹脂の吸水性能を回復させる再生処理工程とを備え、
前記分離工程は、多価金属塩の添加による高吸水性樹脂の脱水工程を含み、
前記再生処理工程は、
分離された高吸水性樹脂の洗浄を行う洗浄工程と、
前記洗浄工程後の高吸水性樹脂に強酸を添加する酸反応工程と、
前記酸反応工程後の高吸水性樹脂を濃縮する濃縮工程と、
前記濃縮工程後の高吸水性樹脂を中和する中和工程と、
前記中和工程後の高吸水性樹脂を乾燥させる乾燥工程を備えることを特徴とする、使用済高吸水性樹脂の再生方法。
【請求項2】
前記酸反応工程および/又は前記濃縮工程で排出される排水を、前記分離工程に送水する第1送水工程を更に備えることを特徴とする、請求項1に記載の使用済高吸水性樹脂の再生方法。
【請求項3】
前記分離工程で分離されたパルプの洗浄・脱水を含むパルプ処理工程、および/又は、プラスチックの洗浄・脱水を含むプラスチック処理工程と、
前記パルプ処理工程および/又は前記プラスチック処理工程で排出される排水を工程内で利用する第2送水工程と、を更に備え、
前記第2送水工程は、前記分離工程および前記洗浄工程のうち、いずれか1つ以上に送水を行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用済高吸水性樹脂の再生方法。
【請求項4】
使用済の体液吸収性物品を、パルプ、高吸水性樹脂、プラスチックに分離する分離手段と、
前記分離手段で分離された高吸水性樹脂の吸水性能を回復させる再生処理手段とを備え、
前記分離手段は、多価金属塩の添加による高吸水性樹脂の脱水手段を含み、
前記再生処理手段は、
分離された高吸水性樹脂の洗浄を行う洗浄部と、
前記洗浄部の後段で高吸水性樹脂に強酸を添加する酸反応部と、
前記酸反応部の後段で高吸水性樹脂を濃縮する濃縮部と、
前記濃縮部の後段で高吸水性樹脂を中和する中和部と、
前記中和部の後段で高吸水性樹脂を乾燥させる乾燥部と、を備えることを特徴とする、使用済高吸水性樹脂の再生システム。
【請求項5】
前記酸反応部および/又は前記濃縮部で排出される排水を、前記分離手段に送水する第1送水手段を更に備えることを特徴とする、請求項4に記載の使用済高吸水性樹脂の再生システム。
【請求項6】
前記分離手段で分離されたパルプの洗浄・脱水を含むパルプ処理手段、および/又は、プラスチックの洗浄・脱水を含むプラスチック処理手段と、
前記パルプ処理手段および/又は前記プラスチック処理手段で排出される排水を工程内で利用する第2送水手段と、を更に備え、
前記第2送水手段は、前記分離手段および前記洗浄部のうち、いずれか1つ以上に送水を行うことを特徴とする、請求項4又は5に記載の使用済高吸水性樹脂の再生システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済高吸水性樹脂の再生方法および使用済高吸水性樹脂の再生システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙おむつ、生理用ナプキン、失禁パッドのように、体液を吸収させることを目的とした物品(以下、「体液吸収性物品」と呼ぶ)は、主にパルプ、高吸水性樹脂(以下、「SAP」とも呼ぶ)、プラスチックから構成されており、幅広く利用されている。特に、高齢者社会を迎える中、一般家庭、病院や福祉施設において、紙おむつの使用量は年々増加している。
そして、大量に排出される使用済の体液吸収性物品の処分については、廃棄物として主に焼却処理が行われている。
【0003】
しかし、水分を多く含む使用済の体液吸収性物品を焼却処理するには、高温処理や焼却設備の大型化が必要となり、炉の劣化を促進するなど、焼却設備への負荷が大きいという問題がある。また、資源の有効活用という観点からも、焼却処理によらず、使用済の体液吸収性物品から構成成分を分離回収し、再利用することが求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、使用済の体液吸収性物品(使用済紙おむつ)の処理として、使用済紙おむつの破砕、洗浄、分離を行い、紙おむつを構成するパルプ、高吸水性樹脂(吸水ポリマー)、不織布、ビニール(プラスチック)等を別々に分離回収する使用済紙おむつの使用材料の再生処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された体液吸収性物品(使用済紙おむつ)の使用材料の再生処理は、主にパルプを分離回収するものであって、使用済の体液吸収性物品の構成成分を有効に再利用するという点では課題がある。また、特に高吸水性樹脂においては、単に使用済の体液吸収性物品から分離回収するだけでは、高吸水性樹脂が本来有する吸水性能が低下している状態にあるため、吸水性能を回復させるための適切な処理、すなわち使用済高吸水性樹脂の再生に係る処理を行う必要がある。
【0007】
本発明の課題は、使用済の体液吸収性物品の構成成分のうち、特に高吸水性樹脂を資源として有効に再利用することが可能となる使用済高吸水性樹脂の再生方法および使用済高吸水性樹脂の再生システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、使用済の体液吸収性物品から高吸水性樹脂を分離し、所定の順序で高吸水性樹脂の吸水性能を回復させるための各処理を行うことで、使用済高吸水性樹脂の再生処理を効果的に進行させ、使用済の体液吸収性物品の構成成分について資源としての利用が可能となることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の使用済高吸水性樹脂の再生方法および使用済高吸水性樹脂の再生システムである。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の使用済高吸水性樹脂の再生方法は、使用済の体液吸収性物品を、パルプ、高吸水性樹脂、プラスチックに分離する分離工程と、分離工程で分離された高吸水性樹脂の吸水性能を回復させる再生処理工程とを備え、分離工程は、多価金属塩の添加による高吸水性樹脂の脱水工程を含み、再生処理工程は、分離された高吸水性樹脂の洗浄を行う洗浄工程と、洗浄工程後の高吸水性樹脂に強酸を添加する酸反応工程と、酸反応工程後の高吸水性樹脂を濃縮する濃縮工程と、濃縮工程後の高吸水性樹脂を中和する中和工程と、中和工程後の高吸水性樹脂を乾燥させる乾燥工程を備えるという特徴を有する。
本発明の使用済高吸水性樹脂の再生方法は、使用済の体液吸収性物品から高吸水性樹脂を分離する分離工程と、分離された高吸水性樹脂の再生処理を行う再生処理工程とからなるものである。そして、使用済の体液吸収性物品から高吸水性樹脂を分離する際に、多価金属塩の添加による高吸水性樹脂の脱水処理を行うことで、高吸水性樹脂が吸収した体液をより確実に外部に放出させるとともに、高吸水性樹脂の分離回収効率を高めるものである。また、分離回収した高吸水性樹脂に対し、所定の順序で処理を行うことにより、高吸水性樹脂の吸水性能を十分に回復させ、再生品(製品)としての有効活用(再製品化)が可能となるものである。特に、大量に排出される体液吸収性物品(使用済紙おむつ等)から高吸水性樹脂の分離回収および再製品化を可能とすることで、新たな資源としての利用を促進することができる。
【0010】
また、本発明の使用済高吸水性樹脂の再生方法の一実施態様としては、酸反応工程および/又は濃縮工程で排出される排水を、分離工程に送水する第1送水工程を更に備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、高吸水性樹脂の再生過程で発生する排水を再利用することで、高吸水性樹脂の再生に係る水使用量の削減を図ることが可能となる。また、酸反応工程および/又は濃縮工程で発生する排水には高吸水性樹脂から脱離した多価金属イオン成分が含まれることから、この排水を分離工程に送水することで、分離工程における脱水工程で使用する薬品使用量を低減させることも可能となる。すなわち、使用済高吸水性樹脂の再生に係るコストを削減することが可能となる。
【0011】
また、本発明の使用済高吸水性樹脂の再生方法の一実施態様としては、分離工程で分離されたパルプの洗浄・脱水を含むパルプ処理工程、および/又は、プラスチックの洗浄・脱水を含むプラスチック処理工程と、パルプ処理工程および/又はプラスチック処理工程で排出される排水を工程内で利用する第2送水工程と、を更に備え、第2送水工程は、分離工程および洗浄工程のうち、いずれか1つ以上に送水を行うという特徴を有する。
この特徴によれば、高吸水性樹脂の再生に係る工程から排出される排水だけではなく、使用済体液吸収性物品から分離された他の構成成分であるパルプおよび/又はプラスチックの処理工程から排出される排水についても再利用することが可能となる。特に、パルプおよび/又はプラスチックの洗浄・脱水に係る処理工程から排出される排水は、工程で使用する水が工水、井水等の清澄な水であるため、比較的清澄な水質となる。したがって、工程内における循環水として広く活用することが可能となる。これにより、高吸水性樹脂の再生に係る工程全体として、水使用量を更に低減させることが可能となる。
【0012】
また、上記課題を解決するための本発明の使用済高吸水性樹脂の再生システムとしては、使用済の体液吸収性物品を、パルプ、高吸水性樹脂、プラスチックに分離する分離手段と、分離手段で分離された高吸水性樹脂の吸水性能を回復させる再生処理手段とを備え、分離手段は、多価金属塩の添加による高吸水性樹脂の脱水手段を含み、再生処理手段は、分離された高吸水性樹脂の洗浄を行う洗浄部と、洗浄部の後段で高吸水性樹脂に強酸を添加する酸反応部と、酸反応部の後段で高吸水性樹脂を濃縮する濃縮部と、濃縮部の後段で高吸水性樹脂を中和する中和部と、中和部の後段で高吸水性樹脂を乾燥させる乾燥部と、を備えるという特徴を有する。
本発明の使用済高吸水性樹脂の再生システムは、使用済の体液吸収性物品から高吸水性樹脂を分離する分離手段と、分離された高吸水性樹脂の再生処理を行う再生処理手段とからなるものである。そして、使用済の体液吸収性物品から高吸水性樹脂を分離する際に、多価金属塩の添加による高吸水性樹脂の脱水処理を行うことで、高吸水性樹脂が吸収した体液をより確実に外部に放出させるとともに、高吸水性樹脂の分離回収効率を高めるものである。また、分離回収した高吸水性樹脂に対し、所定の順序で処理を行うことにより、高吸水性樹脂の吸水性能を十分に回復させ、再生品(製品)としての有効活用(再製品化)が可能となるものである。特に、大量に排出される使用済紙おむつから高吸水性樹脂の分離回収および再製品化を可能とすることで、新たな資源としての利用を促進することができる。
【0013】
また、本発明の使用済高吸水性樹脂の再生システムの一実施態様としては、酸反応部および/又は濃縮部で排出される排水を、分離手段に送水する第1送水手段を更に備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、高吸水性樹脂の再生過程で発生する排水を再利用することで、高吸水性樹脂の再生に係る水使用量の削減を図ることが可能となる。また、酸反応部および/又は濃縮部で発生する排水には高吸水性樹脂から脱離した多価金属イオン成分が含まれることから、この排水を分離手段に送水することで、分離手段における脱水手段で使用する薬品使用量を低減させることも可能となる。すなわち、使用済高吸水性樹脂の再生に係るコストを削減することが可能となる。
また、この排水は比較的清澄ではあるものの、強酸性の液であるため、系外に排出する際にはpH調整が必要となる。一方、排水を分離手段に送水することで、使用済体液吸収性物品の緩衝能により排水のpH調整に必要な苛性ソーダ等の薬品使用量も削減することが可能となる。
【0014】
また、本発明の使用済高吸水性樹脂の再生システムの一実施態様としては、分離手段で分離されたパルプの洗浄・脱水を含むパルプ処理手段、および/又は、プラスチックの洗浄・脱水を含むプラスチック処理手段と、パルプ処理手段および/又はプラスチック処理手段で排出される排水を工程内で利用する第2送水手段と、を更に備え、第2送水手段は、分離手段、洗浄部、パルプ処理手段、プラスチック処理手段のうち、いずれか1つ以上に送水を行うという特徴を有する。
この特徴によれば、高吸水性樹脂の再生処理手段から排出される排水だけではなく、使用済体液吸収性物品から分離された他の構成成分であるパルプおよび/又はプラスチックの処理手段から排出される排水についても再利用することが可能となる。特に、パルプおよび/又はプラスチックの洗浄・脱水に係る処理手段から排出される排水は、使用される水が工水、井水等の清澄な水であるため、比較的清澄な水質となる。したがって、システム内における循環水として広く活用することが可能となる。これにより、高吸水性樹脂の再生に係るシステム全体として、水使用量を更に低減させることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、使用済の体液吸収性物品の構成成分のうち、特に高吸水性樹脂を資源として有効に再利用することが可能となる使用済高吸水性樹脂の再生方法および使用済高吸水性樹脂の再生システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施態様における使用済高吸水性樹脂の再生システムの概略説明図(フロー図)である。
【
図2】本発明の第2の実施態様における使用済高吸水性樹脂の再生システムの概略説明図(フロー図)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る使用済高吸水性樹脂の再生方法および使用済高吸水性樹脂の再生システムの実施態様を詳細に説明する。本発明における使用済高吸水性樹脂の再生方法は、本発明における使用済高吸水性樹脂の再生システムの構成および作動の説明に置き換えるものとする。
なお、実施態様に記載する使用済高吸水性樹脂の再生方法および使用済高吸水性樹脂の再生システムについては、本発明に係る使用済高吸水性樹脂の再生方法および使用済高吸水性樹脂の再生システムを説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0018】
本発明における体液吸収性物品とは、一般に紙おむつ(子供用および大人用)、失禁パッド、生理用ナプキン、母乳パッド等、体液を吸収し、使い捨て衛生用品として販売、使用されている公知のものを指す。
体液吸収性物品の構造の一例としては、例えば、使用者の肌に直接触れる部分である表面材と、体液を吸収する吸水材と、物品の外側を覆う防水材(防水シート)を含むものが挙げられる。
より具体的には、体液吸収性物品の一つである紙おむつの構成成分としては、例えば、表面材としてはポリプロピレンやポリエステルなどの化学繊維からなる不織布などが挙げられる。また、吸水材としては、パルプ、高吸水性樹脂などが挙げられる。また、防水材としてはポリエチレンフィルムなどの樹脂製フィルムや、ポリエチレンラミネート紙およびポリエチレンラミネート不織布のように樹脂による加工処理がなされた紙や不織布などが挙げられる。
なお、本発明においては、体液吸収性物品の構成成分のうち、パルプ、高吸水性樹脂以外の構成成分である不織布、樹脂製フィルムおよび樹脂加工紙をまとめて「プラスチック」と称する。
【0019】
本発明において使用済体液吸収性物品とは、使用の状態については特に限定されない。例えば、固形状の汚物(大便等)が付着したもの、液体状の汚物(尿、経血等)が付着したもの、あるいはその両方が付着したものが挙げられるが、再生処理に係るコストや処理効率を鑑みると、尿を主成分として吸収している状態が好ましい。
また、本発明で用いる使用済体液吸収性物品は、例えば、一般家庭、病院や福祉施設など、体液吸収性物品を利用する使用者が居住ないしは滞在する施設などから排出されるものを収集・回収し、搬送されたものが挙げられる。
なお、以下の実施態様においては、使用済体液吸収性物品として、尿を主成分として吸収した紙おむつを主に例示して説明を行うが、これに限定されるものではない。
【0020】
本発明における高吸水性樹脂(SAP)は、使用済体液吸収性物品における吸水材として用いられるものであればよく、具体的な構造や組成については特に限定されないが、例えば、親水性単量体を重合して得られる水膨潤性架橋重合体が挙げられる。より具体的には、部分中和架橋ポリアクリル酸重合体、架橋され部分的に中和された澱粉-アクリル酸グラフトポリマー、イソブチレン-マレイン酸共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸共重合体のケン化物、アクリルアミドや(共)重合体の加水分解物、アクリロニトリル重合体
の加水分解物、(メタ)アクリルアミド誘導体が挙げられ、アクリル酸またはその塩を主成分とするポリアクリル酸(塩)系架橋重合体が特に好ましく挙げられる。
【0021】
〔第1の実施態様〕
(使用済高吸水性樹脂の再生システム(SAP再生システム))
図1は、本発明の第1の実施態様における使用済高吸水性樹脂の再生システムを示す概略説明図である。なお、
図1は、本実施態様における使用済高吸水性樹脂の再生システムによる使用済高吸水性樹脂の再生プロセスを示すフロー図である。
本実施態様に係る使用済高吸水性樹脂の再生システム1A(以下、「SAP再生システム1A」と呼ぶ)は、
図1に示すように、使用済体液吸収性物品をパルプ、高吸水性樹脂(SAP)、プラスチックに分離する分離手段10、分離された高吸水性樹脂の吸水性能を回復させる再生処理手段20を備えるものである。また、
図1には、再生処理手段20の一部から排出される排水W1およびW2を、分離手段10側に送水する第1送水手段30が示されている。さらに、
図1において、太線で示された矢印(ラインL1~L6)は、高吸水性樹脂(SAP)の移動経路(順路)を示すものであり、配管や移送機構(コンベヤ等)からなるものである。
【0022】
本実施態様のSAP再生システム1Aにおいて、使用済体液吸収性物品を分離手段10に投入することで、パルプ、高吸水性樹脂、プラスチックに分離する。ここで、分離手段10には、高吸水性樹脂の脱水を行う脱水手段12が設けられていることで、高吸水性樹脂が吸収した体液をより確実に高吸水性樹脂外に放出させるとともに、高吸水性樹脂の分離回収効率を高めるものである。また、分離手段10によって分離回収した高吸水性樹脂に対し、再生処理手段20によって所定の順序で処理を行うことにより、高吸水性樹脂の吸水性能を十分に回復させ、再生品(製品)としての有効活用(再製品化)が可能となるものである。
以下、分離手段10および再生処理手段20の詳細について説明する。
【0023】
(分離手段)
本実施態様の分離手段10は、使用済体液吸収性物品をパルプ、高吸水性樹脂、プラスチックに分類する分離工程を行うためのものである。
分離手段10としては、
図1に示すように、使用済体液吸収性物品が投入され、分離処理が行われる分離部11と、分離部11内の高吸水性樹脂を脱水する脱水手段12を備えるものが挙げられる。
【0024】
分離部11は、使用済体液吸収性物品とともに、調整水が供給され、使用済体液吸収性物品を各構成成分に分離するためのものである。
ここでの調整水とは、使用済体液吸収性物品を分離部11内で各構成成分に分離する際に、パルプおよび高吸水性樹脂をスラリー化し、分離効率を高めるために供給される水である。このため、清澄度が若干劣る水を使用でき、下水処理水等の比較的清澄度の低い処理水、再生水のほか、循環水を用いることができる。
【0025】
分離部11において、使用済体液吸収性物品を各構成成分に分離する具体的な手段については特に限定されない。
本実施態様に係る分離部11としては、使用済体液吸収性物品が投入される分離槽を備え、使用済体液吸収性物品の各構成成分への分離に係る各種処理を行うための手段を分離槽に対して設けるものとすることが挙げられる。
【0026】
分離部11としては、例えば、使用済体液吸収性物品を物理的に分解し、槽内に構成成分を分散させるための分散手段として、破袋手段や細分化手段を分離槽内あるいは分離槽外に設けることが挙げられる。
ここで、破袋手段とは、使用済体液吸収性物品を収集・搬送する際に用いられる包装体(袋体)を破断するものである。また、細分化手段とは、使用済体液吸収性物品の表面材や防水材を破断し、後段における溶解、撹拌等の機械的処理に適合する形状にするとともに、内側の吸水材(パルプおよび高吸水性樹脂)を外部に放出させることができるものである。
分散手段の具体的な例としては、例えば、強撹拌を行うもの、破砕刃による裁断を行うもの、多数の針がついた部材を繰り返し刺し込むものなどが挙げられる。
【0027】
また、分離部11としては、分散手段により分離槽内に分散させた構成成分ごとに分離回収する分離回収手段を設けることが挙げられる。
分離回収手段としては、パルプ、高吸水性樹脂、プラスチックを構成成分ごとに分離回収することができるものであればよく、特に限定されない。例えば、サイズによる分級、比重差による分離のほか、分離槽とは別の処理槽を更に設け、溶媒・薬品に対する可溶性又は不溶性に基づく分離を行うものなどが挙げられる。
そして、分離回収手段によって分離された高吸水性樹脂は、ラインL1を介して再生処理手段20に導入される。一方、パルプおよびプラスチックは、配管あるいは移送機構からなるラインL7を介してSAP再生システム1A系外に排出される。
なお、本実施態様におけるSAP再生システム1Aでは、分離手段10において高吸水性樹脂は薬品等による溶解(分解)を行わずに、分散あるいは濃縮状態で回収し、ラインL1を介して再生処理手段20に導入するものであるが、その他の構成成分であるパルプおよびプラスチックについては、分離手段10において溶解した状態(溶解液)として分離回収するものであってもよい。
【0028】
脱水手段12は、多価金属塩の添加による高吸水性樹脂の脱水工程を行うためのものである。
高吸水性樹脂は、通常、液中で陽イオン(塩成分)が解離するため、高吸水性樹脂の官能基(例えば、カルボキシル基など)がマイナスの電荷を有することや、樹脂の外側にある水とのイオン濃度差が生じることにより、水が高吸水性樹脂内部に引き寄せられる力(静電相互作用や浸透圧に基づく力)が働くことで吸水が行われる。一方、体液を吸収した使用済高吸水性樹脂に対し、体液(水)の代わりに高吸水性樹脂に取り込まれるものとして多価金属塩(多価金属イオン)を存在させることで、使用済高吸水性樹脂の脱水が可能となる。
したがって、脱水手段12としては、使用済高吸水性樹脂に対し、水の存在下で多価金属塩を添加することが挙げられる。
【0029】
脱水手段12は、
図1に示すように、使用済体液吸収性物品および調整水が投入された分離部11(分離槽)に、多価金属塩を添加することができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。
例えば、多価金属塩を貯留する槽と、この槽と分離槽を接続する供給用配管とを備えるものが挙げられる。なお、多価金属塩は固体状態または水に溶解した水溶液状態のいずれの形態であってもよい。また、供給用配管に、多価金属塩の供給量を制御する制御機構を備えるものとしてもよい。
【0030】
多価金属塩としては、2価以上の価数を有する金属の塩であればよく、例えば、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩が挙げられる。
アルカリ土類金属塩としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムの水溶性の塩が使用できる。好ましいアルカリ土類金属塩としては、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム等が挙げられ、中でも、コストや脱水効果等の点から、塩化カルシウムがより好ましい。
遷移金属塩としては、鉄、コバルト、ニッケル、銅等の水溶性の塩が挙げられる。遷移金属塩としては、吸水性ポリマーに取り込まれるものであれば、無機酸塩、有機酸塩、錯体等を問わず用いられる。そのうち、コストや入手容易性等の点から、遷移金属塩としては、無機酸塩または有機酸塩が好ましい。無機酸塩としては、例えば、塩化鉄、硫酸鉄、燐酸鉄、硝酸鉄等の鉄塩;塩化コバルト、硫酸コバルト、燐酸コバルト、硝酸コバルト等のコバルト塩;塩化ニッケル、硫酸ニッケル等のニッケル塩;塩化銅、硫酸銅等の銅塩などが挙げられる。有機酸塩類としては、例えば、乳酸鉄、酢酸コバルト、ステアリン酸コバルト、酢酸ニッケル、酢酸銅等が挙げられる。
【0031】
脱水手段12より多価金属塩が添加されることで、分離部11内の高吸水性樹脂は、吸収した体液を放出し、吸水性能をほとんど失う状態となる。これにより、高吸水性樹脂は、沈降性および水からの分離性が向上した粒子状態となる。したがって、上述した分離回収手段による分離効率が向上することになる。
【0032】
そして、分離部11からの排水W3には、使用済体液吸水性物品からの汚濁成分が多く含まれている。このため、排水W3は系外に排出される。
【0033】
また、分離手段10としては、上述した分離部11および脱水処理手段12以外にも、使用済体液吸収性物品を各構成成分(パルプ、高吸水性樹脂、プラスチック)へと効果的・効率的に分類するための手段や、分離手段10の後段における各処理工程に対し適切な状態で導入するための手段を備えるものとしてもよい。例えば、分離処理中あるいは分離処理後の各構成成分の濃度を調整するための濃度調整槽を設けることなどが挙げられる。
【0034】
(再生処理手段)
分離手段10を経た高吸水性樹脂はラインL1を介して再生処理手段20に導入される。
再生処理手段20は、高吸水性樹脂の吸水性能を回復させる再生処理工程を行うためのものである。
本実施態様における再生処理手段20としては、
図1に示すように、洗浄部21と、酸反応部22と、濃縮部23と、中和部24と、乾燥部25を備え、それぞれがラインL2~L5により接続されているものが挙げられる。また、再生処理済の高吸水性樹脂(再生SAP)は、乾燥部25からラインL6を介して排出される。
【0035】
洗浄部21は、分離手段10において分離され、ラインL1を介して回収された高吸水性樹脂を洗浄する洗浄工程を行うためのものである。
洗浄部21としては、高吸水性樹脂の表面(外面)に付着した状態の夾雑物(汚物や分離し切れなかったパルプ等)を洗浄水により除去することができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。ここで、洗浄水としては、清澄度が若干劣る水を使用でき、下水処理水等の比較的清澄度の低い処理水、再生水のほか、循環水を用いることができる。
洗浄部21の具体例としては、例えば、高吸水性樹脂と洗浄水が投入・貯留される洗浄槽を設け、洗浄槽内部で撹拌することで、高吸水性樹脂から夾雑物を除去するものなどが挙げられる。
洗浄部21で洗浄された高吸水性樹脂は、除去された夾雑物が含まれる洗浄水とは分離し、ラインL2を介して酸反応部22に導入される。そして、洗浄後の洗浄水は、排水W4として系外に排出される。
【0036】
酸反応部22は、洗浄部21の後段に設けられ、高吸水性樹脂に強酸を添加する酸反応工程を行うためのものである。
上述したように、分離手段10における脱水手段12により、酸反応部22に導入される高吸水性樹脂は多価金属塩の陽イオンにより吸水性能を失った状態にある。
酸反応部22は、この高吸水性樹脂に強酸を加えてpHを低下させることで、高吸水性樹脂における多価金属塩由来の陽イオン(例えば、カルシウムイオン)を水素イオンと置換するものである。
【0037】
酸反応部22としては、例えば、ラインL2を介して導入される高吸水性樹脂を貯留することができ、強酸の添加手段が接続された酸反応槽を備えることが挙げられる。なお、強酸の添加手段については特に限定されないが、例えば、強酸を貯留する槽および供給用配管を備えるものなどが挙げられる。
【0038】
酸反応部22で添加される強酸としては、酸反応部22内のpHを3以下、好ましくは2以下とすることができるものであればよく、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。
また、酸反応部22では、高吸水性樹脂と強酸との反応を好適に進行させるために、調整水を添加し、高吸水性樹脂濃度(水中における高吸水性樹脂含有量)について調整を行うことが好ましい。このとき、酸反応部22における好適な高吸水性樹脂濃度としては、酸反応部22における撹拌混合が容易となる範囲とすることが好ましく、具体的には、5質量%以下、より好ましくは3質量%以下とすることが挙げられる。
【0039】
酸反応部22で処理された高吸水性樹脂は、スラリー(分散液)としてラインL3を介して濃縮部23に導入される一方、酸反応部22で生じる排水W1は、後述する第1送水手段30を介して再利用される。
【0040】
濃縮部23は、酸反応部22の後段に設けられ、高吸水性樹脂を濃縮する濃縮工程を行うためのものである。
ここで、濃縮部23による濃縮工程とは、酸反応部22から導入されるスラリー(分散液)から水分を除去し、水素置換された高吸水性樹脂の固形分濃度増加を図るものであり、濃縮部23の具体的な構造については特に限定されない。
【0041】
酸反応部22において水素置換された高吸水性樹脂は、金属に対する付着性が増加し、かつ粘性の高い含水状態(ゲル状)となる。したがって、濃縮部23としては、ラインL3を介して導入されるスラリー(分散液)に対し、ウェッジワイヤースクリーンのように通水が可能な固液分離機構を用い、調整水による洗浄と併せ、高吸水性樹脂の濃縮(高吸水性樹脂の濃度増加)を行うものが挙げられる。これにより、金属付着性および粘性によるハンドリングの影響を低減することが可能となる。また、濃縮部23による濃縮工程を行うことで、次工程以降(中和工程や乾燥工程)における処理効率を向上させることが可能となる。
濃縮部23において濃縮された高吸水性樹脂はラインL4を介して中和部24に導入される一方、高吸水性樹脂から分離された排水W2は、後述する第1送水手段30を介して再利用される。
【0042】
中和部24は、濃縮部23の後段に設けられ、高吸水性樹脂を中和する中和工程を行うためのものである。
水素置換された高吸水性樹脂は、吸水性能が一定程度回復するが、再生品(製品)として利用するには十分ではない。したがって、中和部24による中和を行うことで、水素置換された高吸水性樹脂を水素イオン以外の陽イオンで置換(アルカリ置換)し、使用前の高吸水性樹脂と同様の組成とすることで、高吸水性樹脂の吸水性能を十分に回復させることが可能となる。
【0043】
中和部24としては、例えば、ラインL4を介して導入される高吸水性樹脂と中和剤とを混合することができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。例えば、高吸水性樹脂と中和剤とを撹拌混合する槽を備えるものなどが挙げられる。
【0044】
中和部24で添加される中和剤としては、水素置換された高吸水性樹脂を、水素イオン以外の陽イオンで置換することができる薬品であればよく、例えば、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩等を挙げることができる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムの群から少なくとも1つ選択され得る。アルカリ金属塩は、1種類であってもよく、複数の種類のアルカリ金属塩の混合物であってもよい。より具体的には、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
ここで、中和部24における中和工程では、水素置換された高吸水性樹脂に対し、液体状の中和剤を添加すると、陽イオンへの置換反応と並行して吸水が生じてしまうため、中和された高吸水性樹脂の固形分濃度が低下してしまい、その結果、後段の乾燥部25において、高吸水性樹脂の乾燥に必要なエネルギーが増加してしまう。このため、中和部24で添加する中和剤としては固体状であることが好ましく、高吸水性樹脂との接触(混合)効率向上の面からは粉末状であることが特に好ましい。したがって、中和部24で添加される中和剤としては、粉末状態で入手しやすいことやコスト面を鑑み、炭酸ナトリウムが特に好適に用いられる。
【0045】
中和部24において中和(アルカリ置換)された高吸水性樹脂は、ラインL5を介して乾燥部25に導入される。
【0046】
乾燥部25は、中和部24の後段に設けられ、高吸水性樹脂を乾燥させる乾燥工程を行うためのものである。
中和部24により中和された高吸水性樹脂は含水状態となっており、これを乾燥部25で乾燥させることで十分な吸水性能が回復した再生品(製品)として利用することが可能となる。
【0047】
乾燥部25としては、含水状態(不定形)の高吸水性樹脂を粒子状態としてハンドリング可能となるまで乾燥することができるものであればよく、例えば、バンド乾燥機やドラム乾燥機として公知のものを用いることが挙げられる。
【0048】
乾燥した高吸水性樹脂は、再生SAPとして、ラインL6を介してSAP再生システム1A系外に排出される。再生SAPは、使用前の高吸水性樹脂と同様の用途に使用することが可能であり、例えば、体液吸収性物品の吸水材として再利用するほか、その他の吸水材として利用することが可能である。また、乾燥部25の後段に、再生SAPとしての利用価値を更に向上させるための手段を設けるものとしてもよい。例えば、粒度調整手段や成型手段を設けることが挙げられる。
【0049】
以上のように、本実施態様におけるSAP再生システム1Aは、使用済の体液吸収性物品から高吸水性樹脂を分離する分離手段と、分離された高吸水性樹脂の再生処理を行う再生処理手段とからなるものである。そして、使用済の体液吸収性物品から高吸水性樹脂を分離する際に、多価金属塩の添加による高吸水性樹脂の脱水処理を行うことで、高吸水性樹脂が吸収した体液をより確実に外部に放出させるとともに、高吸水性樹脂の分離回収効率を高めることができる。また、分離回収した高吸水性樹脂に対し、所定の順序で処理を行うことにより、高吸水性樹脂の吸水性能を十分に回復させ、再生品(製品)としての有効活用(再製品化)が可能となる。特に、各施設より大量に排出される使用済紙おむつから高吸水性樹脂の分離回収および再製品化を可能とすることで、新たな資源としての利用を促進することができる。
【0050】
ここで、本実施態様のSAP再生システム1Aにおいては、上述のとおり、水の使用箇所が多いことから、水使用量を低減させるための手段を設けることが好ましい。
例えば、本実施態様におけるSAP再生システム1Aとしては、
図1に示すように、再生処理手段20の一部(酸反応部21および/又は濃縮部22)から排出される排水を、分離手段10側に送水する第1送水手段30を備えるものが挙げられる。
【0051】
(第1送水手段)
第1送水手段30は、酸反応部21および/又は濃縮部22で排出される排水W1および/又は排水W2を、分離手段10に送水する第1送水工程を行うためのものである。
第1送水手段30としては、酸反応部21および/又は濃縮部22で排出される排水W1および/又は排水W2を、分離手段10における分離部11に対し、送水することができるものであればよく、例えば、
図1に示すように、酸反応部21および/又は濃縮部22からの排水W1および/又は排水W2を回収して移送する配管31と、排水W1および/又は排水W2を一時貯留する貯留槽32と、貯留槽32と分離部11(分離槽)とを接続し、貯留槽32内の排水W1および/又は排水W2を分離手段10に送水する配管33からなるものが挙げられる。
【0052】
第1送水手段30を設けることで、高吸水性樹脂の再生時に発生する排水を再利用することができ、高吸水性樹脂の再生に係る水使用量の削減を図ることが可能となる。
また、酸反応部21および濃縮部22で発生する排水W1および排水W2には、上述した酸反応(水素置換)により高吸水性樹脂から脱離した多価金属イオン成分が含まれる。このため、この排水W1および/又は排水W2を分離手段10に送水することで、脱水手段12で使用する薬品使用量を低減させることも可能となる。
すなわち、第1送水手段30を設け、特定の処理工程から排出される排水を、特定箇所で再利用することにより、使用済高吸水性樹脂の再生に係るコストを大幅に削減することが可能となる。
【0053】
また、酸反応部21および濃縮部22で発生する排水W1および排水W2は、酸反応部21で添加された強酸の影響により、低pHの水溶液であるため、再利用せずに系外に排出する場合は中和処理が必要となる。一方、分離手段10における分離部11内における溶液(分散溶液)は、使用済体液吸収性物品に吸収・付着した体液由来の成分により、緩衝能を有している。したがって、排水W1および排水W2を第1送水手段30によって分離手段10に送水することで、低pH排水の中和処理を行うために必要な苛性ソーダ等のアルカリ液の使用量を大幅に削減でき、更にSAP再生システム1Aに係るコスト削減が可能となる。
なお、排水W1および排水W2は回収した状態のまま、分離手段10へと送水するものとしてもよく、pH調整を行った後、分離手段10へと送水するものとしてもよい。第1送水手段における排水W1および排水W2のpH調整に係る手段については特に限定されない。例えば、
図1に示すように、貯留槽32に対しpH調整剤を添加するpH調整手段を設けることなどが挙げられる。
【0054】
〔第2の実施態様〕
図2は、本発明の第2の実施態様における使用済高吸水性樹脂の再生システムを示す概略説明図である。なお、
図2は、本実施態様における使用済高吸水性樹脂の再生システムによる使用済高吸水性樹脂の再生プロセスを示すフロー図である。なお、
図2においては、
図1で示した調整水や各種薬品の添加に係る構成を一部省略して示している。
【0055】
第2の実施態様に係る使用済高吸水性樹脂の再生システム1Bは、
図2に示すように、第1の実施態様の使用済高吸水性樹脂の再生システム1Aにおいて、分離手段10で分離されたパルプの処理を行うパルプ処理手段40および/又はプラスチックの処理を行うプラスチック処理手段50と、パルプ処理手段40および/又はプラスチック処理手段50で排出される排水を工程内で利用するための第2送水手段60と、を更に備えるものである。
また、
図2において、矢印(ラインL8~L14)は、パルプの移動経路(順路)(ラインL8~L10)およびプラスチックの移動経路(順路)(ラインL11~L14)を示すものであり、それぞれ配管や移送機構(コンベヤ等)からなるものである。
なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0056】
本実施態様におけるSAP再生システム1Bは、水使用量を低減させるための手段として、第1送水手段30に加え、パルプ処理手段40および/又はプラスチック処理手段50から排出される排水を工程内で利用するための第2送水手段60を備えることで、システム内で使用する水使用量を更に低減させるものである。
【0057】
パルプ処理手段40およびプラスチック処理手段50は、それぞれ分離手段10によって使用済体液吸収性物品から分離された構成成分であるパルプおよびプラスチックの処理を行うためのものである。
【0058】
(パルプ処理手段)
パルプ処理手段40としては、パルプの洗浄・脱水を含むものであればよく、例えば、
図2に示すように、分離手段10によって分離されたパルプを、ラインL8を介して洗浄部41に導入してパルプの洗浄を行った後、ラインL9を介して洗浄部41の後段に設けられた脱水部42によりパルプの脱水を行い、更にラインL10を介して再生パルプとして系外に排出するものが挙げられる。
【0059】
洗浄部41は、洗浄水によるパルプの洗浄を行うものであり、ここでの洗浄水は工水や井水等のような清澄な水を用いる。
洗浄部41では、洗浄水によるパルプの洗浄とともに、消毒処理を行うことが好ましい。例えば、洗浄水と併せて消毒剤などの薬剤を添加することや、薬剤によらない消毒処理機構(紫外線照射装置等)を用いることなどが挙げられる。
また、脱水部42としては、パルプから水分を除去するための公知のものを用いることが挙げられる。具体的には、ベルトプレス脱水機やスクリュープレス脱水機などが挙げられる。
そして、洗浄部41および脱水部42から排出される排水は、後述する第2送水手段60を介して回収され、システム内で再利用される。
なお、脱水部42の後段に、再生パルプとしての利用価値を更に向上させるための手段を設けるものとしてもよい。例えば、成型手段等を設けることが挙げられる。
【0060】
(プラスチック処理手段)
プラスチック処理手段50としては、プラスチックの洗浄・脱水を含むものであればよく、例えば、
図2に示すように、分離手段10によって分離されたプラスチックを、ラインL11を介して洗浄部51に導入してプラスチックの洗浄を行った後、ラインL12を介して洗浄部51の後段に設けられた脱水部52によりプラスチックの脱水を行い、その後、ラインL13を介して脱水部52の後段に設けられた乾燥部53によりプラスチックの乾燥を行い、更にラインL14を介して再生プラスチックとして系外に排出するものが挙げられる。
洗浄部51は、洗浄水によるプラスチックの洗浄を行うことができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。なお、ここでの洗浄水は工水や井水等のような清澄な水を用いる。
また、脱水部52としては、プラスチックから水分を除去するための公知のものを用いることができる。具体的には、遠心脱水機などが挙げられる。
また、乾燥部53としては、プラスチックの乾燥に用いられる公知のものを用いることができる。具体的には、バンド乾燥機やドラム乾燥機などが挙げられる。
洗浄部51および脱水部52から排出される排水は、後述する第2送水手段60を介して回収され、システム内で再利用される。
なお、乾燥部53の後段に、再生プラスチックとしての利用価値を更に向上させるための手段を設けるものとしてもよい。例えば、選別手段や成型手段等を設けることが挙げられる。
【0061】
(第2送水手段)
第2送水手段60は、パルプ処理手段40および/又はプラスチック処理手段50で排出される排水を、分離手段10(分離部11)および再生処理手段20(洗浄部21)のうち、いずれか1つ以上に送水する第2送水工程を行うためのものである。
第2送水手段60を設けることで、SAP再生処理に伴い発生する排水の再利用が可能となる。これにより、SAP再生におけるコスト削減に係る効果を十分に発揮することが可能となる。
【0062】
第2送水手段60としては、パルプ処理手段40および/又はプラスチック処理手段50で排出される排水を、比較的清澄な水を必要とする箇所である分離手段10および洗浄部21のうち、いずれか1つ以上に対して送水することができるものであればよく、例えば、
図2に示すように、パルプ処理手段40(洗浄部41および脱水部42)や、プラスチック処理手段50(洗浄部51および脱水部52)から排出される排水を回収して移送する配管61と、回収した排水を循環水W3として一時貯留する貯留槽62と、貯留槽62と上述した比較的清澄な水を必要とする箇所とを接続し、貯留槽62内の循環水W5を各箇所に送水する配管(不図示)を備えるものが挙げられる。
【0063】
配管61を介して回収される排水は、分離手段10によって分離された後、さらに夾雑物および汚濁物質を除去された状態のパルプおよび/又はプラスチックの処理に伴い発生するものであり、排水中の夾雑物量(汚濁負荷)は少ないため、循環水W5は比較的清澄な水としてそのまま取り扱うことが可能である。
すなわち、第1送水手段30に加えて第2送水手段60を設け、特定の処理工程から排出される排水を、特定箇所で再利用することにより、使用済高吸水性樹脂の再生に係るコストを更に大幅に削減することが可能となる。
【0064】
以上のように、本実施態様におけるSAP再生システム1Bは、高吸水性樹脂の再生処理手段から排出される排水だけではなく、使用済体液吸収性物品から分離された他の構成成分であるパルプおよび/又はプラスチックの処理手段から排出される排水についても再利用することが可能となる。特に、パルプおよび/又はプラスチックの洗浄・脱水に係る処理手段から排出される排水は、比較的清澄な水質であるため、システム内における循環水として広く活用することが可能となる。これにより、高吸水性樹脂の再生に係るシステム全体として、水使用量を更に低減させることが可能となる。
【0065】
なお、上述した実施態様は使用済高吸水性樹脂の再生方法および使用済高吸水性樹脂の再生システムの一例を示すものである。本発明に係る使用済高吸水性樹脂の再生方法および使用済高吸水性樹脂の再生システムは、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る使用済高吸水性樹脂の再生方法および使用済高吸水性樹脂の再生システムを変形してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の使用済高吸水性樹脂の再生方法および使用済高吸水性樹脂の再生システムは、一般家庭、病院や福祉施設などから排出される使用済の体液吸収性物品から高吸水性樹脂を回収および再生し、再製品化する技術において好適に利用されるものである。
【符号の説明】
【0067】
1A,1B SAP再生システム、10 分離手段、11 分離部、12 脱水手段、20 再生処理手段、21 洗浄部、22 酸反応部、23 濃縮部、24 中和部、25 乾燥部、30 第1送水手段、31 配管、32 貯留槽、33 配管、40 パルプ処理手段、41 洗浄部、42 脱水部、50 プラスチック処理手段、51 洗浄部、52 脱水部、53 乾燥部、60 第2送水手段、61 配管、62 貯留槽、L1~L14 ライン、W1~W4 排水、W5 循環水