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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094581
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】酸化ケイ素膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/42 20060101AFI20240703BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20240703BHJP
   C08G 83/00 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C23C16/42
H01L21/316 X
C08G83/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211212
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】321011907
【氏名又は名称】エア・ウォーター・パフォーマンスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 孝一
(72)【発明者】
【氏名】永田 敬輔
(72)【発明者】
【氏名】柴野 浩
【テーマコード(参考)】
4J031
4K030
5F058
【Fターム(参考)】
4J031BA17
4J031BB05
4J031BC03
4J031BC04
4J031BD26
4K030AA11
4K030AA14
4K030AA18
4K030BA44
4K030CA04
4K030CA12
4K030EA01
4K030EA04
4K030EA11
4K030FA10
4K030GA02
4K030HA01
4K030JA01
4K030JA05
4K030JA09
4K030JA10
4K030JA11
4K030LA02
4K030LA15
5F058BA09
5F058BC02
5F058BD04
5F058BF27
5F058BF29
5F058BF37
5F058BJ05
5F058BJ07
5F058BJ10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐熱性に優れたケイ素化合物を用いた、原子層堆積法による均一性に優れた酸化ケイ素膜の形成方法を提供すること。
【解決手段】基材を反応器内に準備する準備工程と、少なくとも1種のケイ素化合物を前記反応器内に導入する第1導入工程と、前記反応器をパージガスでパージする第1パージ工程と、酸素源を前記反応器に導入する第2導入工程と、前記反応器を前記パージガスでパージする第2パージ工程と、を含む、酸化ケイ素膜の形成方法であって、所望の厚さの酸化ケイ素が前記基材の表面に堆積されるまで、前記第1導入工程から前記第2パージ工程は繰り返し実施され、前記第1導入工程から前記第2パージ工程は、300℃以上800℃以下の温度および7.6Pa以上100kPa以下の圧力で実施され、形成された前記酸化ケイ素膜の厚さの平均粗さは、形成された前記酸化ケイ素膜の厚さに対して10%以下である、酸化ケイ素膜の形成方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を反応器内に準備する準備工程と、
下記式(1)で表される少なくとも1種のケイ素化合物を前記反応器内に導入する第1導入工程と、
前記反応器をパージガスでパージする第1パージ工程と、
酸素源を前記反応器に導入する第2導入工程と、
前記反応器を前記パージガスでパージする第2パージ工程と、を含む、酸化ケイ素膜の形成方法であって、
所望の厚さの酸化ケイ素が前記基材の表面に堆積されるまで、前記第1導入工程から前記第2パージ工程は繰り返し実施され、
前記第1導入工程から前記第2パージ工程は、300℃以上800℃以下の温度および7.6Pa以上100kPa以下の圧力で実施され、
形成された前記酸化ケイ素膜の厚さの平均粗さは、形成された前記酸化ケイ素膜の厚さに対して10%以下である、酸化ケイ素膜の形成方法。
【化1】

前記式(1)中、
およびRは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基であり、
は、メチル基、エチル基、下記式(2)で表される基または下記式(3)で表される基であり、
は、下記式(2)で表される基または式(3)で表される基である。
【化2】

【化3】

前記式(2)および前記式(3)中、
~R10は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基である。
【請求項2】
溝を有する表面を備えた基材を反応器内に準備する準備工程と、
下記式(1)で表される少なくとも1種のケイ素化合物を前記反応器内に導入する第1導入工程と、
前記反応器をパージガスでパージする第1パージ工程と、
酸素源を前記反応器に導入する第2導入工程と、
前記反応器を前記パージガスでパージする第2パージ工程と、を含む、酸化ケイ素膜の形成方法であって、
所望の厚さの酸化ケイ素が前記基材の表面に堆積されるまで、前記第1導入工程から前記第2パージ工程は繰り返し実施され、
前記第1導入工程から前記第2パージ工程は、300℃以上800℃以下の温度および7.6Pa以上100kPa以下の圧力で実施され、
前記酸化ケイ素膜は、
式(i):|t-t|/t≦0.2
の関係を満たし、
前記式(i)中、
は、前記溝の上部の酸化ケイ素膜(nm)の厚さを示し、
は、前記溝の下部の酸化ケイ素膜(nm)の厚さを示す、酸化ケイ素膜の形成方法。
【化4】

前記式(1)中、
およびRは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基であり、
は、メチル基、エチル基、下記式(2)で表される基または下記式(3)で表される基であり、
は、下記式(2)で表される基または式(3)で表される基である。
【化5】

【化6】

前記式(2)および前記式(3)中、
~R10は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基である。
【請求項3】
前記式(1)中、
前記Rおよび前記Rは、メチル基であり、
前記Rは、メチル基または前記式(3)で表される基であり、
前記Rは、前記式(3)で表される基であり、
前記R~R10は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基である、請求項1または請求項2に記載の酸化ケイ素膜の形成方法。
【請求項4】
前記式(1)中、
前記R~Rは、メチル基であり、
前記Rは、前記式(3)で表される基であり、
前記R~R10は、水素原子である、請求項1または請求項2に記載の酸化ケイ素膜の形成方法。
【請求項5】
前記式(1)中、
前記Rおよび前記Rは、メチル基であり、
前記Rおよび前記Rは、前記式(2)で表される基であり、
前記R5~R7は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基である、請求項1または請求項2に記載の酸化ケイ素膜の形成方法。
【請求項6】
前記式(1)中、
前記R~Rは、メチル基であり、
前記Rは、前記式(2)で表される基であり、
前記R~Rは、水素原子である、請求項1または請求項2に記載の酸化ケイ素膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸化ケイ素膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、NAND型フラッシュメモリセルの3D化に伴い、高密着かつ被覆性のよい良質な絶縁膜を形成するため、高温(650℃以上)での酸化ケイ素の成膜が求められている。
【0003】
高温での酸化ケイ素膜の形成方法としては、化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)が主に適用されている。しかし、CVDは化学反応と熱分解とを利用した成膜方法であるため、高密着で被覆性のよい成膜には適していない。また、微細パターン部への成膜ができず、微細な部位には採用することができない。
【0004】
そこで、高温領域で良質な成膜が可能な原子層堆積法(Atomic Layer Deposition:ALD)を用いた酸化ケイ素膜の形成が検討されている(例えば、特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6262702号
【特許文献2】国際公開第2021/050368号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、耐熱性に優れたケイ素化合物を用いた、原子層堆積法による膜厚の均一性に優れた酸化ケイ素膜の形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔1〕基材を反応器内に準備する準備工程と、
下記式(1)で表される少なくとも1種のケイ素化合物を前記反応器内に導入する第1導入工程と、
前記反応器をパージガスでパージする第1パージ工程と、
酸素源を前記反応器に導入する第2導入工程と、
前記反応器を前記パージガスでパージする第2パージ工程と、を含む、酸化ケイ素膜の形成方法であって、
所望の厚さの酸化ケイ素が前記基材の表面に堆積されるまで、前記第1導入工程から前記第2パージ工程は繰り返し実施され、
前記第1導入工程から前記第2パージ工程は、300℃以上800℃以下の温度および7.6Pa以上100kPa以下の圧力で実施され、
形成された前記酸化ケイ素膜の厚さの平均粗さは、形成された前記酸化ケイ素膜の厚さに対して10%以下である、酸化ケイ素膜の形成方法。
【化1】

前記式(1)中、
およびRは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基であり、
は、メチル基、エチル基、下記式(2)で表される基または下記式(3)で表される基であり、
は、下記式(2)で表される基または式(3)で表される基である。
【化2】

【化3】

前記式(2)および前記式(3)中、
~R10は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基である。
【0008】
〔2〕溝を有する表面を備えた基材を反応器内に準備する準備工程と、
下記式(1)で表される少なくとも1種のケイ素化合物を前記反応器内に導入する第1導入工程と、
前記反応器をパージガスでパージする第1パージ工程と、
酸素源を前記反応器に導入する第2導入工程と、
前記反応器を前記パージガスでパージする第2パージ工程と、を含む、酸化ケイ素膜の形成方法であって、
所望の厚さの酸化ケイ素が前記基材の表面に堆積されるまで、前記第1導入工程から前記第2パージ工程は繰り返し実施され、
前記第1導入工程から前記第2パージ工程は、300℃以上800℃以下の温度および7.6Pa以上100kPa以下の圧力で実施され、
前記酸化ケイ素膜は、
式(i):|t-t|/t≦0.2
の関係を満たし、
前記式(i)中、
は、前記溝の上部の酸化ケイ素膜(nm)の厚さを示し、
は、前記溝の下部の酸化ケイ素膜(nm)の厚さを示す、酸化ケイ素膜の形成方法。
【化4】

前記式(1)中、
およびRは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基であり、
は、メチル基、エチル基、下記式(2)で表される基または下記式(3)で表される基であり、
は、下記式(2)で表される基または式(3)で表される基である。
【化5】

【化6】

前記式(2)および前記式(3)中、
~R10は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基である。
【0009】
〔3〕前記式(1)中、
前記RおよびRは、メチル基であり、
前記Rは、メチル基または前記式(3)で表される基であり、
前記Rは、前記式(3)で表される基であり、
前記R~R10は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基である、〔1〕または〔2〕に記載の酸化ケイ素膜の形成方法。
【0010】
〔4〕前記式(1)中、
前記R~Rは、メチル基であり、
前記Rは、前記式(3)で表される基であり、
前記R~R10は、水素原子である、〔1〕または〔2〕に記載の酸化ケイ素膜の形成方法。
【0011】
〔5〕前記式(1)中、
前記Rおよび前記Rは、メチル基であり、
前記Rおよび前記Rは、前記式(2)で表される基であり、
前記R5~R7は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基である、〔1〕または〔2〕に記載の酸化ケイ素膜の形成方法。
【0012】
〔6〕前記式(1)中、
前記R~Rは、メチル基であり、
前記Rは、前記式(2)で表される基であり、
前記R~Rは、水素原子である、〔1〕または〔2〕に記載の酸化ケイ素膜の形成方法。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、耐熱性に優れたケイ素化合物を用いた、原子層堆積法による膜厚の均一性に優れた酸化ケイ素膜の形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本開示における酸化ケイ素膜の形成方法の概略フローチャートである。
図2図2は、実施形態1における基材に形成された酸化ケイ素膜の一例を示す概念図である。
図3図3は、本開示における酸化ケイ素膜の形成方法に適用可能な成膜装置の一例を示す概念図である。
図4図4は、実施形態2における基材の一例を示す概念図である。
図5図5は、実施形態2における基材に形成された酸化ケイ素膜の一例を示す概念図である。
図6図6は、試験例1におけるNo.1およびNo.2のケイ素化合物の供給量に対する、酸化ケイ素膜の成長速度の関係を示すグラフである。
図7図7は、試験例2におけるNo.1およびNo.2の成膜温度に対する、酸化ケイ素膜の成長速度の関係を示すグラフである。
図8図8は、試験例3の基材の溝において、(a)上部、(b)中間部および(c)下部の各部分の酸化ケイ素膜の膜厚を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態が説明される。ただし以下の説明は特許請求の範囲を限定するものではない。
【0016】
[実施形態1]
<酸化ケイ素膜の形成方法>
本実施形態の酸化ケイ素膜の形成方法は、基材を反応器内に準備する準備工程と、下記式(1)で表される少なくとも1種のケイ素化合物を反応器内に導入する第1導入工程と、反応器をパージガスでパージする第1パージ工程と、酸素源を反応器に導入する第2導入工程と、反応器をパージガスでパージする第2パージ工程と、を含む。所望の厚さの酸化ケイ素が基材の表面に堆積されるまで、第1導入工程から第2パージ工程は繰り返し実施される。第1導入工程から第2パージ工程は、300℃以上800℃以下の温度および7.6Pa以上100kPa以下の圧力で実施される。形成された酸化ケイ素膜の厚さの平均粗さは、形成された酸化ケイ素膜の厚さに対して10%以下である。
【0017】
【化7】
【0018】
式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基であり、Rは、メチル基、エチル基、下記式(2)で表される基または下記式(3)で表される基であり、Rは、下記式(2)で表される基または上記式(3)で表される基である。
【0019】
【化8】
【0020】
【化9】
【0021】
式(2)および式(3)中、R~R10は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基である。
【0022】
図1は、本実施形態における酸化ケイ素膜の形成方法の概略フローチャートである。以下、酸化ケイ素膜の形成方法の各工程について説明する。
【0023】
なお、ALDには、サーマルALDおよびプラズマALDの2種類がある。本開示では、高温領域で良質な成膜が可能なサーマルALDを用いる。
【0024】
(準備工程)
準備工程とは、基材を反応器内に準備する工程である。
【0025】
本開示で用いられる基材としては、前駆体であるケイ素化合物を成長させることができる基材であれば特に制限はないが、例えば、ケイ素基材、酸化ケイ素基材、窒化ケイ素基材等のセラミック基材が挙げられる。これらのうち、良質な成膜の観点から、ケイ素基材または酸化ケイ素基材を用いることが好ましい。
【0026】
なお、基材には、予めバリア膜が成膜されていてもよい。バリア膜としては、例えば、窒化チタン、窒化タンタル等が挙げられる。
【0027】
(第1導入工程)
第1導入工程とは、上記式(1)で表される少なくとも1種のケイ素化合物を反応器内に導入する工程である。本工程は、前駆体であるケイ素化合物を基材に吸着させる工程である。
【0028】
ケイ素化合物は、キャリアガスにより反応器内に導入されてもよい。ここで、キャリアガスとは、ケイ素化合物の反応器への供給を促進する不活性ガスのことをいう。キャリアガスとケイ素化合物とは、反応しない。キャリアガスとしては、例えば、水素(H)、ヘリウム(He)、窒素(N)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)等が挙げられる。
【0029】
上記式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基であり、Rは、メチル基、エチル基、下記式(2)で表される基または下記式(3)で表される基であり、Rは、上記式(2)で表される基または上記式(3)で表される基である。
【0030】
このような化合物は、酸化ケイ素膜の形成において有用な前駆体となり得る。式(1)で表されるケイ素化合物としては、例えば、下記式(4)で表される構造が挙げられる。
【0031】
【化10】
【0032】
式(4)中、R11は、メチル基またはエチル基であり、R12は、下記式(5)で表される構造のいずれか1つであり、R13は、下記式(6)で表される構造のいずれか1つである。なお、下記式(5)および式(6)中のR11も、上記と同じ基である。
【0033】
【化11】
【0034】
【化12】
【0035】
上記式(1)で表されるケイ素化合物としては、耐熱性および成膜性の観点から、下記式(7)で表される構造のケイ素化合物が好ましく、下記式(8)で表されるケイ素化合物がより好ましい。
【0036】
【化13】
【0037】
【化14】
【0038】
本工程は、ケイ素化合物を基材に吸着させることができる時間および流量で実施すればよい。本工程は、例えば、0.1秒以上1000秒以下の時間で実施されてもよい。本工程におけるケイ素化合物は、例えば、1sccm以上2000sccm以下の流量で反応器に導入されてもよい。なお、流量の単位「sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute)」は、標準状態(0℃、101.3kPa)における「mL/min」を示している。
【0039】
(第1パージ工程)
第1パージ工程とは、第1導入工程後の反応器をパージガスでパージする工程である。本工程は、第1導入工程で基材に吸着しなかった余分なケイ素化合物を除去する工程である。
【0040】
パージガスとしては、前駆体であるケイ素化合物を除去することができる不活性ガスを用いることができる。パージガスとケイ素化合物とは、反応しない。このような不活性ガスであるパージガスとしては、上述のキャリアガスと同じガスが挙げられる。
【0041】
本工程は、余分なケイ素化合物を除去することができる時間および流量で実施すればよい。本工程は、例えば、0.1秒以上1000秒以下の時間で実施されてもよい。本工程におけるパージガスは、例えば、10sccm以上2000sccm以下の流量で反応器に導入されてもよい。
【0042】
本工程では、反応器をパージガスでパージする前に、真空パージしてもよい。真空パージは、例えば、0.1秒以上1000秒以下の時間で実施されてもよい。
【0043】
本工程は、複数回実施してもよい。本工程を複数回実施する場合、各工程の時間、流量および使用するパージガスは、同一であってもよく、それぞれ異なっていてもよい。また、各工程間で、真空パージしてもよい。例えば、パージガスによるパージ、真空パージ、パージガスによるパージ、の順に実施してもよい。
【0044】
(第2導入工程)
第2導入工程とは、酸素源を反応器に導入する工程である。本工程は、基材に吸着した前駆体であるケイ素化合物と酸素源とを反応させることにより、酸化ケイ素膜を形成させる工程である。
【0045】
酸素源としては、特に制限はないが、例えば、水、酸素(O)、過酸化物、酸素プラズマ、オゾン(O)、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)およびこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0046】
本工程は、ケイ素化合物と酸素源とが反応することができる時間および流量で実施すればよい。本工程は、例えば、0.1秒以上100秒以下の時間で実施されてもよい。本工程における酸素源は、例えば、1sccm以上2000sccm以下の流量で反応器に導入されてもよい。
【0047】
(第2パージ工程)
第2パージ工程とは、第2導入工程後の反応器をパージガスでパージする工程である。本工程は、第2導入工程でケイ素化合物と反応しなかった酸素源を除去する工程である。
【0048】
本工程で用いられるパージガス、本工程の実施時間およびパージガスの流量は、上述の第1パージ工程と同一であるため、詳細は省略する。
【0049】
本工程では、反応器をパージガスでパージする前に、真空パージしてもよい。真空パージは、例えば、0.1秒以上1000秒以下の時間で実施されてもよい。
【0050】
本工程は、複数回実施してもよい。本工程を複数回実施する場合、各工程の時間、流量および使用するパージガスは、同一であってもよく、それぞれ異なっていてもよい。また、各工程間で、真空パージしてもよい。
【0051】
(第1導入工程から第2パージ工程)
第1導入工程、第1パージ工程、第2導入工程および第2パージ工程は、300℃以上800℃以下の温度で実施される。第1導入工程から第2パージ工程が300℃以上800℃以下の温度で実施される場合、高密着で被覆性のよい成膜が可能となる。第1導入工程から第2パージ工程は、500℃以上750℃以下の温度で実施されることが好ましく、650℃以上750℃以下の温度で実施されることがより好ましい。
【0052】
第1導入工程から第2パージ工程は、7.6Pa以上100kPa以下の圧力で実施される。第1導入工程から第2パージ工程が7.6Pa以上100kPa以下の圧力で実施される場合、高密着で被覆性のよい成膜が可能となる。第1導入工程から第2パージ工程は、10Pa以上1kPa以下の圧力で実施されることが好ましい。
【0053】
第1導入工程から第2パージ工程は、繰り返し実施される。第1導入工程から第2パージ工程が繰り返し実施されることにより、所望の厚さの酸化ケイ素膜を得ることができる。
【0054】
図2は、本実施形態における基材に形成された酸化ケイ素膜の一例を示す概念図である。本願における酸化ケイ素膜3の厚さとは、基材1の表面2に堆積された酸化ケイ素膜3の厚さ(図2中、「t」)(nm)を意味する。所望の厚さとは、例えば、0.1nm~100nmであり、3nm~50nmであることが好ましい。
【0055】
基材1の表面2に堆積された酸化ケイ素膜3の厚さは、X線反射率法(X-Ray Reflectometry:XRR)により測定される。酸化ケイ素膜3の厚さは、X線反射率測定装置(XRR測定装置)を用いて、例えば、下記の条件により測定される。
[条件]
X線源:CuKα
出力:45kv、40mA
測定範囲:0~6°
ステップ幅:0.002mm
走査速度:0.05°/min
【0056】
本実施形態においては、形成された酸化ケイ素膜3の厚さの平均粗さ(Ra)は、形成された酸化ケイ素膜3の厚さに対して10%以下である。Raは、酸化ケイ素膜3の厚さと同様に、XRRにより測定される。Raの値が小さい程、酸化ケイ素膜3の厚さの凹凸が少なく、膜厚の均一性が優れているといえる。Raは、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。
【0057】
<成膜装置>
図3を参照して、本実施の形態における酸化ケイ素膜の形成方法に適用可能な成膜装置の一例について説明する。成膜装置10は、被処理対象物としての基材Wを収容する反応器11と、前駆体であるケイ素化合物を供給する前駆体ガス供給路14と、パージガスを供給するパージガス供給路15と、酸素源を供給する酸素源供給路16と、反応器11内の雰囲気を排出するための排出路17と、を少なくとも備える。
【0058】
反応器11は、その内部が外気との遮断を可能にする密閉構造を有している。また、反応器11は、基材Wをボート等によって水平姿勢の状態で収容可能な態様で構成されている。反応器11は、内部に収容する基材Wを所定温度に加熱することが可能な加熱機構(図示せず)を備えてもよい。加熱機構としては、特に制限はないが、例えば、ヒーター等の公知のものを採用することができる。
【0059】
前駆体供給部12は、前駆体を反応器11に供給する機能を有する。前駆体供給部12には、液体状または固体状の前駆体が貯蔵されている。また、前駆体供給部12には、キャリアガスを導入するためのキャリアガス供給路13が接続されている。キャリアガス供給路13から供給されるキャリアガスは、MFC(Mass Flow Controller)による流量制御が可能となっている。
【0060】
前駆体供給部12と反応器11との間には、前駆体ガス供給路14が設けられている。これにより、前駆体供給部12内に貯蔵されている液体状または固体状の前駆体が気化した前駆体ガスを、反応器11に供給する。また、前駆体ガス供給路14には、ニードル弁19および開閉弁20が設けられている。ニードル弁19は、前駆体ガス供給路14を流れるガスの流量を調節する。開閉弁20は、前駆体ガス供給路14を流れるガスの供給または停止を制御する。
【0061】
パージガス供給路15は、パージガスを反応器11に供給する機能を有する。パージガス供給路15は、反応器11に接続されている。供給されるパージガスは、MFCによる流量制御が可能となっている。パージガス供給路15には、開閉弁21が設けられている。開閉弁21は、パージガス供給路15を流れるパージガスの供給または停止を制御する。
【0062】
酸素源供給路16は、酸素源を反応器11に供給する機能を有する。酸素源供給路16は、反応器11に接続されている。供給される酸素源は、MFCによる流量制御が可能となっている。酸素源供給路16には、開閉弁22が設けられている。開閉弁22は、酸素源供給路16を流れる酸素源の供給または停止を制御する。
【0063】
排出路17は、反応器11内の雰囲気を排気する機能を有する。排出路17は、反応器11に接続されている。排出路17には、反応器11内の圧力を検出する圧力検出部としての圧力センサー(図示せず)、反応器11内の圧力を制御する圧力制御部としてのAPC(Automatic Pressure Control Valve:自動圧力制御)バルブ18、および、真空排気装置としての真空ポンプ(図示せず)が接続されている。APCバルブ18の開閉制御は、真空ポンプを作動させた状態で圧力センサーの計測に基づいてPID(Proportional-Integral-Differential Controller)制御により行われる。これにより、反応器11内の圧力を任意に調整している。
【0064】
なお、排出路17から排出される排出ガスには、有毒ガスや可燃性ガス等が含まれる可能性がある。そのため、排出路17に水洗スクラバー、硫酸スクラバー、苛性スクラバー、乾式除害装置等を設けることにより、排出ガスを無害化して大気放出が可能な態様にしてもよい。
【0065】
[実施形態2]
<酸化ケイ素膜の形成方法>
本実施形態の酸化ケイ素膜の形成方法は、溝を有する表面を備えた基材を反応器内に準備する準備工程と、下記式(1)で表される少なくとも1種のケイ素化合物を反応器内に導入する第1導入工程と、反応器をパージガスでパージする第1パージ工程と、酸素源を反応器に導入する第2導入工程と、反応器をパージガスでパージする第2パージ工程と、を含む。所望の厚さの酸化ケイ素が基材の表面に堆積されるまで、第1導入工程から第2パージ工程は繰り返し実施される。第1導入工程から第2パージ工程は、300℃以上800℃以下の温度および7.6Pa以上100kPa以下の圧力で実施される。酸化ケイ素膜は、下記式(i)の関係を満たす。
式(i):|t-t|/t≦0.2・・・式(i)
式(i)中、tは、溝の上部の酸化ケイ素膜(nm)の厚さを示し、tは、溝の下部の酸化ケイ素膜(nm)の厚さを示す。
【0066】
【化15】
【0067】
式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基であり、Rは、メチル基、エチル基、下記式(2)で表される基または下記式(3)で表される基であり、Rは、下記式(2)で表される基または上記式(3)で表される基である。
【0068】
【化16】
【0069】
【化17】
【0070】
式(2)および式(3)中、R~R10は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基である。
【0071】
以下、本実施形態の酸化ケイ素膜の形成方法について説明する。なお、実施形態1と重複する説明は省略する。
【0072】
図4は、本実施形態における基材の一例を示す概念図である。基材1は、溝4を有する表面7を備えていてもよい。溝4は、側壁面5および底壁面6を備える。溝4としては、例えば、ホール、ビア、トレンチ、コンタクト等が挙げられる。溝4は、基材1の表面7に1つ設けられていてもよく、複数設けられていてもよい。
【0073】
溝4の幅(図4中の「h」)は、例えば、10nm以上500nm以下である。溝4の深さ(図4中の「h」)は、例えば、100nm以上10μm以下である。
【0074】
溝4の幅に対する溝4の深さの比(以下、「アスペクト比」と称する。)は、例えば、10以上であってもよく、以上であってもよく、20以上であってもよく、50以上であってもよい。アスペクト比は、例えば、1000以下であってもよく、500以下であってもよく、100以下であってもよい。
【0075】
なお、溝4が複数設けられている場合、各溝4の幅、深さおよびアスペクト比は、同一であってもよく、それぞれ異なっていてもよい。
【0076】
第1導入工程では、溝4にも前駆体であるケイ素化合物を吸着させる。それ以外の点は、実施形態1と同様である。また、第1パージ工程、第2導入工程および第2パージ工程も、実施形態1と同様である。
【0077】
図5は、本実施形態における基材に形成された酸化ケイ素膜の一例を示す概念図である。基材1の表面7に堆積された酸化ケイ素膜3の厚さは、実施形態1と同様の方法で算出される。また、溝4に堆積された酸化ケイ素膜3の厚さは、例えば、以下のように算出される。すなわち、任意の位置で溝4に対して垂直に基材を切断し、集束イオンビーム(FIB)加工される。FIB加工後、切断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影する。TEMの条件は、以下の通りである。TEM画像が2値化されることにより、基材1と酸化ケイ素膜3とが区別される。2値化は、基材1と酸化ケイ素膜3とを適正に分離できる閾値にて行う。該TEM画像から、酸化ケイ素膜3の厚さが算出される。複数の画像で測定された酸化ケイ素膜3の厚さの算術平均が、酸化ケイ素膜3の厚さとみなされてもよい。
[TEMの条件]
倍率 :750000倍
加速電圧:200kV
倍率精度:±10%
【0078】
本実施形態においては、形成される酸化ケイ素膜3は、下記式(i)の関係を満たす。
|t-t|/t≦0.2・・・式(i)
式(i)中、tは、溝4の上部の酸化ケイ素膜3の厚さ(nm)を示し、tは、溝4の下部の酸化ケイ素膜3の厚さ(nm)を示す。式(i)の値がより小さい程、溝4の上部と下部とで膜厚差が小さく、膜厚の均一性が優れているといえる。|t-t|/tは、0.15以下であってもよく、0.10以下であってもよく、0.05以下であってもよく、0.01以下であってもよい。|t-t|/tは、0.10以下が好ましく、0.05以下がより好ましく、0.01以下がさらに好ましい。
【0079】
また、tおよびtは、酸化ケイ素膜3の厚さの均一性の観点から、tと略同一であることが好ましく、tと同一であることがより好ましい。
【0080】
ここで、本実施形態における溝4の上部とは、溝4を深さ方向に3等分して3つの領域に分割した際の最上部の領域を示し、溝4の下部とは、溝4を深さ方向に3等分して3つの領域に分割した際の最下部の領域を示す。tは、基材1の表面7から一定の長さの部分または領域で測定した厚さであってもよい。tは、溝4の底壁面6から一定の長さの部分または領域で測定した厚さであってもよい。
【0081】
本実施形態においては、形成される酸化ケイ素膜3は、下記式(ii)の関係を満たすことが好ましい。
|t-t|/t≦0.2・・・式(ii)
式(ii)中、tは、溝4の中間部の酸化ケイ素膜3の厚さ(nm)を示す。式(ii)の値がより小さい程、溝4の上部と中間部とで膜厚差が小さく、膜厚の均一性が優れているといえる。|t-t|/tは、0.15以下であってもよく、0.10以下であってもよく、0.05以下であってもよく、0.01以下であってもよい。|t-t|/tは、0.10以下が好ましく、0.05以下がより好ましく、0.01以下がさらに好ましい。
【0082】
また、tは、酸化ケイ素膜3の厚さの均一性の観点から、tと略同一であることが好ましく、tと同一であることがより好ましい。
【0083】
ここで、本実施形態における溝4の中間部とは、溝4を深さ方向に3等分して3つの領域に分割した際の中間部の領域を示す。tは、基材1の表面7から一定の長さの部分または領域で測定した厚さであってもよい。
【0084】
本実施形態においては、形成される酸化ケイ素膜3は、下記式(iii)の関係を満たすことが好ましい。
|t-t|/t≦0.2・・・式(iii)
式(iii)の値がより小さい程、溝4の上部と中間部とで膜厚差が小さく、膜厚の均一性が優れているといえる。|t-t|/tは、0.15以下であってもよく、0.10以下であってもよく、0.05以下であってもよく、0.01以下であってもよい。|t-t|/tは、0.1以下が好ましく、0.05以下がより好ましく、0.01以下がさらに好ましい。
【0085】
、tおよびtは、上述のTEMによる測定方法と同一の方法で測定される。
【実施例0086】
以下、実施例が説明される。ただし以下の例は、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0087】
<装置>
本実施例では、以下に示される装置を用いた。なお、ガスクロマトグラフは「GC」と、ガスクロマトグラフ質量分析装置は「GC-MS」と、それぞれ略記される。また、本実施例では、図3に示す構成を有する成膜装置を用いた。
GC :株式会社島津製作所製、GC-2025AF
GC-MS :株式会社島津製作所製、MSQP2020NX
TEM :株式会社日立ハイテク製、H-9500
XRR測定装置:Malvern Panalytical社製、X’Pert PRO
【0088】
<試薬>
本実施例では、以下に示される試薬等を用いた。なお、N-トリメチルシリルイミダゾールは「TMSイミダゾール」と略記される。
ピラゾール :東京化成工業(TCI)株式会社製
硫酸アンモニウム :林純薬工業株式会社製
ヘキサメチルジシラザン:TCI株式会社製
TMSイミダゾール :TCI株式会社製
【0089】
<ケイ素化合物>
本実施例では、上記式(8)で表されるトリメチルシリルピラゾール(以下、「TMSピラゾール」と略記される。)およびTMSイミダゾールを用いた。TMSピラゾールの調製方法は以下の通りである。なお、TMSピラゾールを「No.1」、TMSイミダゾールを「No.2」の化合物とする。
【0090】
(調製)
51.5gのピラゾールおよび極少量の硫酸アンモニウムをフラスコボトムに加え、真空乾燥させた。その後、62.0gのヘキサメチルジシラザンを加え、還流条件で窒素雰囲気下、12時間還流した。還流後の混合物をフィルターでろ過し、薄黄色の液体を回収した。その後、得られた液体を減圧蒸留によりグローブボックス内で精製した。上述のGC-MSを用いた分析により、生成物がTMSピラゾールであることが確認された。また、上述のGCを用いた分析により、純度が99.0%であることが確認された。
【0091】
(最小結合解離エネルギー)
上記調製したTMSピラゾールと、TMSイミダゾールとの最小結合解離エネルギー(MBDE)を算出した。ここで、MBDEとは、特定の化学結合を切断する時に必要なエネルギーであるBDEの中で最小の値を示すものであり、ある分子中の最も弱い結合のBDEに対応し、該エネルギーの値が高い程耐熱性に優れることを意味する。MBDEは、Gaussian社製の量子化学計算プログラムであるGaussian16により求めた。それぞれ、ケイ素と、ケイ素と結合しているメチル基との結合解離エネルギーがMBDEであった。その結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1より、TMSピラゾールおよびTMSイミダゾールのMBDEは、高い値を示した。これより、TMSピラゾールおよびTMSイミダゾールの耐熱性は優れているといえる。
【0094】
<試験例1>
酸化ケイ素膜の原子層堆積を、上記調製したTMSピラゾールと、TMSイミダゾールとを用いて行った。具体的には、上記成膜装置の反応器内に基材であるケイ素基材を設置した。該基材は、平坦であり、溝は設けられていなかった。各化合物をキャリアガスであるNガスで反応器内に導入した。パージガスであるNガスで反応器をパージした。酸素源であるOを反応器内に導入した。パージガスであるNガスで反応器をパージした。TMSピラゾールにおいては、第1導入工程の時間を3秒、11.7秒、21.9秒、80.2秒および282.9秒とし、以下の表2の条件でそれぞれ100サイクル行った。また、TMSイミダゾールにおいては、第1導入工程の時間を15.2秒、90秒、223.5秒、364.6秒および104秒とし、以下の表2の条件でそれぞれ100サイクル行った。
【0095】
【表2】
【0096】
TMSピラゾールおよびTMSイミダゾールによる酸化ケイ素膜の成長速度を算出した。ここで、成長速度とは、ケイ素化合物の供給量に対する、酸化ケイ素膜の成長を示したものであり、ALDの指標となるものである。供給量の増大に伴い、酸化ケイ素膜の成長速度が飽和状態になれば、ALDにより酸化ケイ素膜が形成されているといえる。成長速度は、1サイクル当たりの着膜量により算出された。その結果を図6に示す。
【0097】
図6の結果より、TMSピラゾールおよびTMSイミダゾールの供給量の増大に伴い、成長速度の曲線が平坦に、すなわち、飽和状態になっていることが確認された。これより、TMSピラゾールおよびTMSイミダゾールを用いることにより、ALDにより酸化ケイ素膜が形成されているといえる。
【0098】
<試験例2>
試験例1と同様に、酸化ケイ素膜の原子層堆積を、上記調製したTMSピラゾールと、TMSイミダゾールとを用いて行ったが、試験例1とは条件を変更して行った。すなわち、TMSピラゾールにおいては、第1導入工程の時間を161.7秒とすること、および、各工程の温度を200℃、300℃、350℃、500℃、650℃および700℃とすること、とした。また、TMSイミダゾールにおいては、第1導入工程の時間を37.9秒とすること、および、各工程の温度を200℃、300℃、400℃、500℃、650℃および700℃とすること、とした。その他の本試験の条件は、以下の表3の条件でそれぞれ100サイクル行った。
【0099】
【表3】
【0100】
TMSピラゾールおよびTMSイミダゾールによる酸化ケイ素膜の膜厚およびRaを、上述のXRR測定装置により測定し、成長速度を算出した。XRRの条件は、上述の通りである。その結果を表4および図7に示す。
【0101】
【表4】
【0102】
表4および図7の結果より、TMSピラゾールおよびTMSイミダゾール共に、200℃における成長速度は、他の温度帯における成長速度と比較して遅かった。すなわち、200℃においては、TMSピラゾールおよびTMSイミダゾールによる酸化ケイ素膜の成膜は困難であると考えられる。また、TMSピラゾールおよびTMSイミダゾール共に、200℃以外の温度帯においては、Raは全て10%以下であり、均一な酸化ケイ素膜が形成されているといえる。
【0103】
<試験例3>
試験例1と同様に、酸化ケイ素膜の原子層堆積を、上記調製したTMSピラゾールを用いて行ったが、試験例1とは条件を変更して行った。すなわち、基材として、幅150nm、深さ3000nmの溝(ホール)が複数設けられており、基材の表面およびホールに、予め窒化チタンが約15nm成膜されているケイ素基材を用いた。各工程は、以下の表5の条件でそれぞれ296サイクル行った。なお、表5中、第1パージ工程および第2パージ工程においては、真空パージ(表5中の「真空」)、パージガスによるパージ(表5中の「ガス」)、パージガスによるパージ、真空パージおよびパージガスによるパージの順に実施した。
【0104】
【表5】
【0105】
酸化ケイ素膜の膜厚は、任意の位置でホールに対して垂直に基材を切断し、FIB加工後、切断面を上述のTEMで撮影し、TEM画像を2値化することにより算出した。TEMの条件は、上述の通りである。また、酸化ケイ素膜の測定部位は、ホールの上部(基材の表面からの深さが0nmから1000nm)、中間部(基材の表面からの深さが1000nmから2000nm)および下部(ホールの底壁面からの距離が0nmから1000nm)とした。各測定部位の写真を図8に示す。
【0106】
図8より、酸化ケイ素膜の膜厚は、上部(t):18.6nm、中間部(t):18.9nm、下部(t):18.7nmであった。これらの値を、上述の式(i)~(iii)の左辺に代入すると、式(i):0.005、式(ii):0.016、式(iii):0.011であった。これらの結果より、ホールの上部、中間部および下部で膜厚差が少ない、すなわち、膜厚の均一性に優れているといえる。
【0107】
なお、基材の平坦部に堆積された酸化ケイ素膜の膜厚(t)を測定したところ、20.0nmであった。当該膜厚と、上部、中間部および下部における各膜厚とを、下記式(iv)に当てはめることで、基材の平坦部の膜厚と、ホールの膜厚との関係を確認した。
|t-t1~3|/t≦0.2・・・式(iv)
【0108】
の場合、式(iv):0.07であり、tの場合、式(iv):0.065であり、tの場合、式(iv):0.055であった。これらの結果より、基材の平坦部と、ホールの各部との膜厚差が少ない、すなわち、膜厚の均一性に優れているといえる。
【0109】
なお、本実施例において、TMSイミダゾールは、MBDEがTMSピラゾールと同等の値であること、試験例1の結果より、ALDにより酸化ケイ素膜が形成されていること、試験例2の結果より、平坦な基材に均一な酸化ケイ素膜が形成されていること、が確認されている。したがって、TMSイミダゾールを用いて、溝が複数設けられている基材に対して原子層堆積を行った場合であっても、TMSピラゾールと同様に均一な酸化ケイ素膜が形成されるものと考えられる。
【0110】
以上の通り、本開示の耐熱性に優れたケイ素化合物を用いた、原子層堆積法による均一性に優れた酸化ケイ素膜の形成方法は、半導体の製造革新に直接的にかかわるものであり、電気自動車やエネルギー効率化をはじめとする今後より広がると考えられるスマート社会、ないしは持続可能な開発目標(SDGs)の一部活動に貢献することができる。
【0111】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0112】
1 基材、2 表面、3 酸化ケイ素膜、4 溝、5 側壁面、6 底壁面、7 表面、10 成膜装置、11 反応器、12 前駆体供給部、13 キャリアガス供給路、14 前駆体ガス供給路、15 パージガス供給路、16 酸素源供給路、17 排出路、18 APCバルブ、19 ニードル弁、20,21,22 開閉弁。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8