(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094589
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】電極触媒、燃料電池用電極及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20240703BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20240703BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240703BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240703BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/92
H01M4/90 M
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211226
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】上高 雄二
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 健作
(72)【発明者】
【氏名】土屋 公宏
(72)【発明者】
【氏名】信川 健
(72)【発明者】
【氏名】大久保 慶一
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB12
5H018BB13
5H018DD10
5H018EE03
5H018EE05
5H018EE10
5H018HH03
5H018HH04
5H018HH05
5H018HH06
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】初期の質量活性及び質量活性維持率が高い、新規な電極触媒を提供すること。
【解決手段】電極触媒は、触媒粒子と、前記触媒粒子の表面を被覆する炭素膜とを備えている。前記炭素膜は、マイクロ孔を含み、前記炭素膜の平均厚さは、3.5nm以上9.5nm以下である。燃料電池用電極は、このような電極触媒と、触媒層アイオノマとを含む触媒層を備えている。燃料電池は、固体高分子電解質からなる電解質膜と、前記電解質膜の両面に接合された電極とを備え、前記電極の少なくとも一方は、このような燃料電池用電極からなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒粒子と、
前記触媒粒子の表面を被覆する炭素膜と
を備え、
前記炭素膜は、マイクロ孔を含み、
前記炭素膜の平均厚さは、3.5nm以上9.5nm以下である
電極触媒。
【請求項2】
初期の質量活性が600A/g以上である請求項1に記載の電極触媒。
【請求項3】
質量活性維持率が50%以上である請求項1に記載の電極触媒。
【請求項4】
初期の中負荷域活性が1.0A/cm2@0.6V以上である請求項1に記載の電極触媒。
【請求項5】
中負荷域活性維持率が80%以上である請求項1に記載の電極触媒。
【請求項6】
前記炭素膜は、前記マイクロ孔の容量が0.001cc/g以上0.3cc/g以下である請求項1に記載の電極触媒。
【請求項7】
前記触媒粒子を担持するカーボン担体をさらに備えている請求項1に記載の電極触媒。
【請求項8】
前記触媒粒子は、Pt又はPt合金である請求項1に記載の電極触媒。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の電極触媒と、触媒層アイオノマとを含む触媒層を備えた燃料電池用電極。
【請求項10】
固体高分子電解質からなる電解質膜と、
前記電解質膜の両面に接合された電極と
を備え、
前記電極の少なくとも一方は、請求項9に記載の燃料電池用電極からなる燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒、燃料電池用電極及び燃料電池に関し、さらに詳しくは、触媒粒子の表面が炭素膜で被覆された電極触媒、並びに、このような電極触媒を備えた燃料電池用電極及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒を含む電極が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。MEAの両面には、さらに、ガス流路を備えた集電体(セパレータ)が配置される。固体高分子形燃料電池は、通常、このようなMEAと集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
【0003】
燃料電池用電極は、通常、電解質膜側に配置された触媒層と、ガス流路側に配置された拡散層との積層体からなる。触媒層は、一般に、担体表面に白金や白金合金などの触媒粒子が担持された電極触媒と、触媒層アイオノマとの混合物からなる。電極反応は、主として触媒粒子の表面で起こる。そのため、触媒粒子をできるだけ微細化し、電極の単位面積当たりの白金使用量を低減することが行われている。
しかしながら、電位変動を伴う燃料電池の作動環境下においては、触媒粒子が微細になるほど、触媒粒子の溶解、凝集による粗大化、及び/又は、担体からの脱離が起こりやすくなる。その結果、触媒層の活性が次第に低下するという問題がある。
【0004】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、非特許文献1には、
(a)不規則fcc-PtFeナノ粒子をカーボン粒子表面に担持させ、
(b)これをドーパミン塩酸塩水溶液で処理することにより、ナノ粒子表面をポリドーパミンで被覆し、
(c)カーボンに担持され、かつ、ドーパミンで被覆されたfcc-PtFeナノ粒子(fcc-PtFe/C)を700℃で熱処理し、Nドープカーボンで被覆された規則fct-PtFeナノ粒子触媒(fct-Pt/Fe/C)を得る
PtFeナノ粒子触媒の製造方法が開示されている。
【0005】
同文献には、
(A)ドーパミン被覆なしでPtFe/Cを熱処理すると、ナノ粒子のサイズが数十ナノメートルまで増大するのに対し、ドーパミンで被覆されたPtFe/Cを熱処理すると、ナノ粒子のサイズが熱処理前とほぼ同等の大きさ(6.5nm)に維持される点、
(B)Nドープカーボンシェルで被覆されたfct-PtFe/C触媒は、市販のPt/C触媒に比べて11.4倍高い質量活性と、10.5倍高い比活性を示す点、及び、
(C)Pt/CをNドープカーボンシェルで被覆しても、活性に及ぼす効果は無視できる程度である点
が記載されている。
【0006】
特許文献1には、触媒粒子と、前記触媒粒子の表面を被覆する炭素膜とを備え、前記触媒粒子の単位表面積当たりの塩化物イオンの含有量が12.5μg/m2未満である電極触媒が開示されている。
同文献には、
(a)触媒粒子の表面を有機物に由来する被膜で被覆し、これを熱処理すると、触媒粒子表面が炭素膜で被覆された電極触媒が得られる点、
(b)得られた電極触媒を洗浄すると、触媒粒子表面に吸着している塩化物イオンが脱離するために、洗浄なしの電極触媒に比べて初期活性が向上する点、及び、
(c)炭素膜が触媒粒子の溶解、凝集、及び/又は、脱離を抑制し、かつ、触媒粒子のアイオノマ被毒を抑制するために、初期活性及び耐久性が向上する点
が記載されている。
【0007】
特許文献2には、触媒粒子と、前記触媒粒子の表面を被覆する含窒素炭素膜とを備え、前記含窒素炭素膜は、マイクロ孔を含む電極触媒が開示されている。
同文献には、
(A)触媒粒子の表面をポリメラミン及びポリドーパミンで被覆し、ポリメラミン及びポリドーパミンを熱分解させると、触媒粒子の表面がマイクロ孔を含む含窒素炭素膜で被覆された電極触媒が得られる点、及び、
(B)このようにして得られた電極触媒は、ポリドーパミン由来の炭素膜で被覆された電極触媒に比べて初期活性及び耐久性が向上する場合がある点
が記載されている。
【0008】
特許文献3には、多孔質炭素材料からなる担体に触媒金属成分を担持させた触媒金属担持炭素材料と、樹状黒鉛質炭素材料からなる触媒金属非担持炭素材料とを混合することにより得られる固体高分子形燃料電池用触媒が開示されている。
同文献には、このような触媒を用いて触媒層を形成すると、親水性の触媒金属担持炭素材料の近くに、撥水性の触媒金属非担持炭素材料が配置されるために、触媒金属担持炭素材料で生成した水蒸気が触媒金属非担持炭素材料を介して速やかに触媒層外に排出され、フラッディングが抑制される点が記載されている。
【0009】
合成したままのPtFe合金ナノ粒子は、不規則な面心立方(fcc)構造を持ち、触媒活性が低い。それを700℃で熱処理すると、規則的な面心正方(fct)構造に変わり、面積比活性が向上する。しかし、熱処理の工程でナノ粒子が粗大化するため、質量活性が著しく低下するという問題があった。
【0010】
これに対し、非特許文献1には、PtFe合金ナノ粒子の表面をドーパミンで被覆し、700℃で熱処理すると、ナノ粒子の粒径の増大が抑制される点が記載されている。これは、ナノ粒子表面を覆う薄い炭素膜(ドーパミンの熱分解物)によって、熱処理工程で起きるナノ粒子の凝集が抑制されたためと説明されている。
また、非特許文献1には、このような処理を行ったfct-PtFe/C触媒は、純Pt/C触媒や不規則なfcc-PtFe/C触媒に比べて、面積活性、質量活性及び耐久性が向上する点が記載されている。耐久性が向上したのは、Pt表面を覆う炭素膜によって耐久試験中に起きるPtの溶解・凝集・脱離が抑制されたためと説明されている。
【0011】
しかしながら、ドーパミン修飾及び熱処理によって生成する炭素膜そのものが触媒の性能に及ぼす影響については、十分に明らかにされていない。実際、非特許文献1には、純Pt/C触媒をドーパミンで被覆し、700℃で熱処理を行っても、初期性能は向上しなかったと報告されている。その理由として、修飾工程で触媒に混入した不純物が性能に悪影響を及ぼしたことが考えられる。
【0012】
一方、特許文献1には、純Pt/C触媒の表面をドーパミン由来の炭素膜で被覆した後、電極触媒を洗浄すると、電極触媒の初期活性及び耐久性が向上する点が記載されている。しかしながら、燃料電池の性能をさらに向上させるためには、電極触媒の初期活性及び耐久性をさらに向上させることが望まれる。
【0013】
また、特許文献2には、触媒粒子の表面を、マイクロ孔を含む含窒素炭素膜で被覆することで、低負荷活性及び耐久性が向上する点が記載されている。しかしながら、燃料電池の性能をさらに向上させるためには、中負荷及び高負荷での活性をさらに向上させることが望まれる。
【0014】
さらに、特許文献3には、触媒金属成分を担体の表面だけでなくその細孔の内部にまで担持させるためには、担体は、直径4nm以上10nm未満のメソ孔が多く存在することが必要である点が記載されている。しかし、触媒粒子をメソ孔内に担持させるためには、触媒粒子の大きさや製造プロセスが制限される場合がある。また、メソ孔内部の深いところに担持された触媒粒子にはプロトンが届かないため、電極反応に利用できない。そのため、担体の一次粒子径の大きさが制限される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2020-136109号公報
【特許文献2】特開2022-142887号公報
【特許文献3】特許第6496531号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】D. Y. Chung, et al., J. Am. Chem. Soc., 2015, 137, 15478-15485
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明が解決しようとする課題は、初期の質量活性及び質量活性維持率が高い、新規な電極触媒を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、初期の中負荷域活性及び中負荷域活性維持率が高い、新規な電極触媒を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、このような電極触媒を備えた燃料電池用電極及び燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明に係る電極触媒は、
触媒粒子と、
前記触媒粒子の表面を被覆する炭素膜と
を備え、
前記炭素膜は、マイクロ孔を含み、
前記炭素膜の平均厚さは、3.5nm以上9.5nm以下である。
【0019】
本発明に係る燃料電池用電極は、本発明に係る電極触媒と、触媒層アイオノマとを含む触媒層を備えている。
【0020】
さらに、本発明に係る燃料電池は、
固体高分子電解質からなる電解質膜と、
前記電解質膜の両面に接合された電極と
を備え、
前記電極の少なくとも一方は、本発明に係る燃料電池用電極からなる。
【発明の効果】
【0021】
触媒粒子の表面をポリメラミン及びポリドーパミンで被覆し、ポリメラミン及びポリドーパミンを熱分解させると、触媒粒子の表面がマイクロ孔を含む炭素膜で被覆された電極触媒が得られる。この場合において、炭素膜の厚さを3.5nm以上9.5nm以下にすると、初期の質量活性が従来よりも向上し、質量活性維持率も従来と同等以上となる。また、炭素膜の厚さをさらに最適化すると、初期の中負荷域活性が従来と同等以上となり、中負荷域活性維持率も従来と同等以上となる。しかも、このような効果は、触媒粒子がメソ孔内に担持されていない場合、あるいは、触媒粒子の粒径が相対的に大きい場合であっても得られる。
【0022】
これは、
(a)炭素膜が熱処理時における触媒粒子の粒成長を抑制するため、
(b)炭素膜の厚さを3.5nm以上にすることによって、触媒粒子表面とアイオノマとの接触面積が減少し、これによって触媒粒子のアイオノマ被毒、並びに、触媒粒子の溶解、凝集、及び/又は、脱離が抑制されるため、及び、
(c)炭素膜の厚さを9.5nm以下にすることによって、触媒粒子表面への反応物質の輸送抵抗の増大が抑制されるため
と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】炭素膜の厚さと初期の質量活性との関係を示す図である。
【
図2】炭素膜の厚さと質量活性維持率との関係を示す図である。
【
図3】炭素膜の厚さと初期の中負荷域活性との関係を示す図である。
【
図4】炭素膜の厚さと中負荷域活性維持率との関係を示す図である。
【0024】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 電極触媒]
本発明に係る電極触媒は、以下の構成を備えている。
【0025】
[構成1]
触媒粒子と、
前記触媒粒子の表面を被覆する炭素膜と
を備え、
前記炭素膜は、マイクロ孔を含み、
前記炭素膜の平均厚さは、3.5nm以上9.5nm以下である
電極触媒。
【0026】
[構成2]
初期の質量活性が600A/g以上である構成1に記載の電極触媒。
【0027】
[構成3]
質量活性維持率が50%以上である構成1又は2に記載の電極触媒。
【0028】
[構成4]
初期の中負荷域活性が1.0A/cm2@0.6V以上である構成1から3までのいずれか1つに記載の電極触媒。
【0029】
[構成5]
中負荷域活性維持率が80%以上である構成1から4までのいずれか1つに記載の電極触媒。
【0030】
[構成6]
前記炭素膜は、前記マイクロ孔の容量が0.001cc/g以上0.3cc/g以下である構成1から5までのいずれか1つに記載の電極触媒。
【0031】
[構成7]
前記触媒粒子を担持するカーボン担体をさらに備えている構成1から6のいずれか1つに記載の電極触媒。
【0032】
[構成8]
前記触媒粒子は、Pt又はPt合金である構成1から7までのいずれか1つに記載の電極触媒。
【0033】
[1.1. 触媒粒子]
[1.1.1. 組成]
本発明において、触媒粒子の材料は、特に限定されない。触媒粒子の材料としては、
(a)貴金属(Pt、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、Ru、Os)、
(b)2種以上の貴金属元素を含む合金、
(c)1種又は2種以上の貴金属元素と、1種又は2種以上の卑金属元素(例えば、Fe、Co、Ni、Cr、V、Tiなど)とを含む合金、
などがある。
【0034】
これらの中でも、触媒粒子は、Pt又はPt合金が好ましい。これは、燃料電池の電極反応に対して高い活性を有するためである。
Pt合金としては、例えば、Pt-Fe合金、Pt-Co合金、Pt-Ni合金、Pt-Pd合金、Pt-Cr合金、Pt-V合金、Pt-Ti合金、Pt-Ru合金、Pt-Ir合金などがある。
【0035】
[1.1.2. 粒径]
触媒粒子の粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な粒径を選択することができる。一般に、触媒粒子の粒径が小さすぎると、触媒粒子が溶解しやすくなる。従って、触媒粒子の粒径は、1nm以上が好ましい。
一方、触媒粒子の粒径が大きくなりすぎると、質量活性が低下する。従って、触媒粒子の粒径は、20nm以下が好ましい。触媒粒子の粒径は、好ましくは、10nm以下、さらに好ましくは、5nm以下である。
【0036】
[1.2. 担体]
[1.2.1. 材料]
触媒粒子は、そのままの状態で各種用途に用いても良く、あるいは、担体表面に担持された状態で用いても良い。触媒粒子を担体表面に担持させると、微細な触媒粒子を安定して分散させることができるので、触媒使用量を低減することができる。
担体の材料は、特に限定されないが、カーボン担体が好ましい。カーボン担体としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、活性炭、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ガラス状炭素粉末などがある。
【0037】
[1.2.2. 触媒担持量]
触媒粒子が担体表面に担持されている場合、触媒担持量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な担持量を選択することができる。一般に、触媒担持量が少なすぎると、十分な活性が得られない。一方、触媒担持量を必要以上に多くしても、効果に差がなく、実益がない。
例えば、カーボン担体表面にPt又はPt合金からなる触媒粒子を担持させる場合、触媒担持量は、5wt%~70wt%が好ましい。
【0038】
[1.3. 炭素膜]
[1.3.1. 組成]
触媒粒子の表面は、炭素膜で被覆されている。「炭素膜」とは、触媒粒子の表面をポリメラミン及びポリドーパミンを含む被膜で被覆し、被膜を熱分解させることにより得られる膜をいう。
【0039】
ポリドーパミンのみを含む被膜を熱分解させると、緻密であり、かつ、実質的に炭素のみからなる炭素膜が得られる。一方、ポリメラミンとポリドーパミンを含む被膜を熱分解させると、マイクロ孔を含み、かつ、ポリドーパミン由来の炭素膜に比べて窒素量が多い炭素膜が得られる。炭素膜に含まれる窒素は、ポリメラミンに由来する。炭素膜に含まれる窒素量は、製造方法にもよるが、通常、0.1mass%~35mass%である。
【0040】
炭素膜は、
(a)触媒粒子の表面を、ポリメラミン及びポリドーパミンの混合物からなる被膜で被覆し、被膜を熱分解させること(同時修飾法)により得られたもの、あるいは、
(b)触媒粒子の表面をポリメラミンで被覆し、さらに触媒粒子の表面をポリドーパミンで被覆した後、ポリメラミン及びポリドーパミンの積層膜を熱分解させること(逐次修飾法)により得られたもの、
のいずれであっても良い。
特に、逐次修飾法により得られた炭素膜は、同時修飾法により得られた炭素膜よりも高い特性を示す。
【0041】
[1.3.2. マイクロ孔の容量]
「マイクロ孔」とは、直径が2nm以下である細孔をいう。
「マイクロ孔の容量」とは、電極触媒について窒素吸着量測定を行い、中実炭素を基準等温線としたt-plot法で解析することにより得られる値をいう。
【0042】
上述したように、ポリメラミン共存下でポリドーパミンを熱分解させると、マイクロ孔を有する炭素膜が得られる。マイクロ孔の容量が少なくなりすぎると、触媒粒子表面への物質移動が阻害され、初期活性が低下する場合がある。従って、マイクロ孔の容積は、0.001cc/g以上が好ましい。
一方、マイクロ孔の容量が過剰になると、触媒粒子の溶解、凝集、及び/又は、脱離、あるいは、触媒粒子のアイオノマ被毒が起きる場合がある。従って、マイクロ孔の容量は、0.3cc/g以下が好ましい。
【0043】
[1.3.3. 厚さ]
炭素膜の厚さは、触媒粒子の安定性及び活性に影響を与える。炭素膜の厚さが薄すぎると、触媒粒子の溶解、凝集、及び/又は、脱離が起きやすくなる。また、このような電極触媒を燃料電池用電極に適用した場合において、炭素膜の厚さが薄すぎる時には、触媒粒子が触媒層アイオノマで被毒されやすくなる。従って、炭素膜の厚さは、3.5nm以上である必要がある。炭素膜の厚さは、好ましくは、4.0nm以上である。
【0044】
一方、炭素膜の厚さが厚くなりすぎると、反応物質の輸送抵抗が大きくなり、活性が低下する場合がある。従って、炭素膜の厚さは、9.5nm以下である必要がある。炭素膜の厚さは、好ましくは、9.0nm以下、8.5nm以下、8.0nm以下、7.5nm以下、あるいは、7.0nm以下である。
【0045】
[1.4. 特性]
[1.4.1. 初期の質量活性]
「初期の質量活性(A/g)」とは、本発明に係る電極触媒をカソード触媒に用いた固体高分子形燃料電池の初期状態(慣らし運転後)における0.86Vでの白金質量当たりの電流値をいう。
本発明に係る電極触媒において、製造条件を最適化すると、初期の質量活性は、600A/g以上となる。製造条件をさらに最適化すると、初期の質量活性は、650A/g以上、700A/g以上、750A/g以上、あるいは、800A/g以上となる。
【0046】
[1.4.2. 質量活性維持率]
「質量活性維持率(%)」とは、初期の質量活性(MA0)に対する、耐久試験後の質量活性(MA)の割合(=MA×100/MA0)をいう。
「耐久試験後の質量活性」とは、本発明に係る電極触媒をカソード触媒に用いた固体高分子形燃料電池の耐久試験後における0.86Vでの白金質量当たりの電流値をいう。
「耐久試験」とは、燃料電池に対して0.6V(3s保持)と1.0V(3s保持)の電位変動を10000サイクル与える試験をいう。
本発明に係る電極触媒において、製造条件を最適化すると、質量活性維持率は、50%以上となる。
【0047】
[1.4.3. 初期の中負荷域活性]
「初期の中負荷域活性(A/cm2@0.6V)」とは、本発明に係る電極触媒をカソード触媒に用いた固体高分子形燃料電池の初期状態(慣らし運転後)における0.6Vでの電流密度をいう。
本発明に係る電極触媒において、製造条件を最適化すると、初期の中負荷域活性は、1.0A/cm2@0.6V以上となる。製造条件を最適化すると、初期の中負荷域活性は、1.2A/cm2@0.6V以上、あるいは、1.5A/cm2@0.6V以上となる。
【0048】
[1.4.4. 中負荷域活性維持率]
「中負荷域活性維持率(%)」とは、初期の中負荷域活性(I0)に対する、耐久試験後の中負荷域活性(I)の割合(=I×100/I0)をいう。
「耐久試験後の中負荷域活性」とは、本発明に係る電極触媒をカソード触媒に用いた固体高分子形燃料電池の耐久試験後における0.6Vでの電流密度をいう。
「耐久試験」とは、燃料電池に対して0.6V(3s保持)と1.0V(3s保持)の電位変動を10000サイクル与える試験をいう。
本発明に係る電極触媒において、製造条件を最適化すると、中負荷域活性維持率は、80%以上でなる。製造条件をさらに最適化すると、中負荷域活性維持率は、85%以上となる。
【0049】
[2. 燃料電池用電極]
本発明に係る燃料電池用電極は、以下の構成を備えている。
【0050】
[構成9]
構成1から8までのいずれか1項に記載の電極触媒と、触媒層アイオノマとを含む触媒層を備えた燃料電池用電極。
【0051】
[2.1. 電極触媒]
触媒層は、本発明に係る電極触媒を含む。電極触媒の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0052】
[2.2. 触媒層アイオノマ]
触媒層は、触媒層アイオノマを含む。本発明において、触媒層アイオノマの種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
【0053】
触媒層に含まれる触媒層アイオノマの含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な含有量を選択することができる。例えば、触媒粒子がカーボン担体に担持されている場合、カーボンの重量(C)に対する触媒層アイオノマの重量(I)の比(=I/C)は、0.3以上2.0以下が好ましい。
【0054】
[2.3. 拡散層]
本発明に係る燃料電池用電極は、触媒層のみからなるものでも良く、あるいは、触媒層と、拡散層との積層体であっても良い。拡散層は、触媒層のセパレータ側の表面に配置される。
本発明において、拡散層の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。拡散層には、一般に、カーボンペーパー、カーボンクロスなどが用いられる。
【0055】
[3. 燃料電池]
本発明に係る燃料電池は、以下の構成を備えている。
【0056】
[構成10]
固体高分子電解質からなる電解質膜と、
前記電解質膜の両面に接合された電極と
を備え、
前記電極の少なくとも一方は、構成9に記載の燃料電池用電極からなる燃料電池。
【0057】
[3.1. 電解質膜]
電解質膜は、固体高分子電解質からなる。固体高分子電解質の組成は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。固体高分子電解質としては、例えば、ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)、アクイヴィオン(登録商標)などがある。
【0058】
[3.2. 電極]
電極は、電解質膜の両面に接合される。本発明に係る燃料電池おいて、電極の少なくとも一方は、本発明に係る燃料電池用電極からなる。本発明に係る燃料電池用電極は、アノード側及びカソード側のいずれに用いても良い。
本発明に係る燃料電池用電極は、特に、カソードに用いるのが好ましい。これは、燃料電池の初期活性及び耐久性に及ぼす被膜の有無の影響は、アノードよりカソードの方が大きいためである。
【0059】
[4. 電極触媒の製造方法]
本発明に係る電極触媒の製造方法は、
触媒粒子の表面を、ポリメラミン及びドーパミンを含む被膜で被覆し、電極触媒前駆体を得る被覆工程と、
前記電極触媒前駆体を熱処理することにより前記被膜を熱分解させ、前記触媒粒子の表面が炭素膜で被覆された電極触媒を得る熱分解工程と
を備えている。
【0060】
[4.1. 被覆工程]
まず、触媒粒子の表面を、ポリメラミン及びポリドーパミンを含む被膜で被覆し、電極触媒前駆体を得る(被覆工程)。
被膜工程は、触媒粒子の表面を、ポリメラミンとポリドーパミンの混合物からなる被膜で被覆するものでも良い(同時修飾法)。
あるいは、被覆工程は、
触媒粒子の表面をポリメラミンで被覆する第1被覆工程と、
前記触媒粒子の表面をポリドーパミンでさらに被覆する第2被覆工程と
を備えているものでも良い(逐次修飾法)。
【0061】
[4.1.1. 触媒粒子]
触媒粒子は、担体表面に担持されているものでも良く、あるいは、担体表面に担持されていないものでも良い。触媒粒子に関するその他の点については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0062】
[4.1.2. 被膜]
被膜は、ポリメラミン及びポリドーパミンを含む。被膜は、ポリメラミンとポリドーパミンの混合物であっても良く、あるいは、ポリメラミンとポリドーパミンの積層膜であっても良い。初期活性及び耐久性に優れた電極触媒を得るためには、被膜はポリメラミンとポリドーパミンの積層膜が好ましい。
【0063】
ポリメラミンとポリドーパミンの混合物からなる被膜を形成する場合、例えば、ポリメラミンを溶解させた溶液にドーパミン塩酸塩を加え、これにさらに触媒粒子(又は、担体に担持された触媒粒子)を加えて所定時間攪拌し、乾燥させる。これにより、ドーパミンが重合してポリドーパミンになると同時に、触媒粒子の表面がポリメラミンとポリドーパミンの混合物からなる被膜で被覆される(同時修飾法)。
【0064】
一方、積層膜からなる被膜を形成する場合、例えば、まず、ポリメラミンを溶解させた溶液に触媒粒子(又は、担体に担持された触媒粒子)を加えて所定時間攪拌し、乾燥させる。これにより、ポリメラミンで被覆された触媒粒子が得られる。次いで、ドーパミン塩酸塩を含む溶液にポリメラミンで被覆された触媒粒子を加えて攪拌し、乾燥させる。これにより、ドーパミンが重合してポリドーパミンになると同時に、ポリメラミンで被覆された触媒粒子の表面がさらにポリドーパミンで被覆される(逐次修飾法)。
【0065】
[4.1.3. ポリメラミン及びポリドーパミンの添加量]
ポリメラミンの添加量及びポリドーパミンの添加量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な添加量を選択することができる。これらの添加量を変えることにより、炭素膜の厚さや窒素含有量を制御することができる。
【0066】
ここで、「ポリメラミン又はポリドーパミンの添加量」とは、次の式(1)で表される値をいう。
含有量(mass%)=y×100/(y+z) …(1)
但し、
yは、電極触媒前駆体に含まれるポリメラミン又はポリドーパミンの質量、
zは、電極触媒前駆体に含まれる触媒粒子の質量(触媒粒子が担体に担持されているときは、触媒粒子と担体の総質量)
【0067】
ポリメラミンの添加量が少なくなりすぎると、耐久性が低下する。また、マイクロ孔の生成量が少なくなるために、性能が低下する。従って、ポリメラミンの添加量は、20mass%以上が好ましい。ポリメラミンの添加量は、さらに好ましくは、30mass%以上、40mass%以上、あるいは、50mass%以上である。
一方、ポリメラミンの添加量が過剰になると、炭素膜の厚さが厚くなりすぎ、性能が低下する場合がある。従って、ポリメラミンの添加量は、90mass%以下が好ましい。ポリメラミンの添加量は、さらに好ましくは、85mass%以下である。
【0068】
ポリドーパミンの添加量が少なくなりすぎると、マイクロ孔が生成せず、耐久性も低下する。従って、ポリドーパミンの添加量は、5mass%以上が好ましい。ポリドーパミンの添加量は、さらに好ましくは、10mass%以上である。
一方、ポリドーパミンの添加量が過剰になると、かえって耐久性が低下する。従って、ポリドーパミンの添加量は、50mass%以下が好ましい。ポリドーパミンの添加量は、さらに好ましくは、24mass%以下である。
【0069】
[4.2. 熱分解工程]
次に、電極触媒前駆体を熱処理することにより被膜を熱分解させる(熱分解工程)。これにより、触媒粒子の表面が炭素膜で被覆された電極触媒を得ることができる。
熱処理条件は、被膜を炭化させることが可能なものである限りにおいて、特に限定されない。熱処理は、不活性雰囲気下において、600℃以上1000℃以下の温度において、0.5時間~10時間加熱するのが好ましい。
【0070】
[5. 作用]
ポリドーパミンのみで触媒粒子の表面を修飾し、熱分解させると、触媒粒子の表面に炭素膜を形成することができる。しかしながら、ポリドーパミン由来の炭素膜は緻密であるため、炭素膜が厚くなると、触媒粒子表面への物質移動が阻害され、性能が低下する。
一方、ポリメラミンのみで触媒粒子の表面を修飾し、熱分解させずに使用すると、ポリドーパミン由来の炭素膜で修飾した場合に比べて、低負荷域の性能向上効果は高くなる。しかし、ポリメラミン膜を熱処理すると、そのほとんどが分解され、炭素膜として残るのはごく僅かである。また、僅かに残ったポリメラミン由来の炭素膜は、ポリドーパミン由来の炭素膜と同様に緻密であるため、炭素膜が厚くなると性能が低下する。
【0071】
これに対し、触媒粒子(活性種)の表面をポリメラミン及びポリドーパミンで被覆し、ポリメラミン及びポリドーパミンを熱分解させると、触媒粒子の表面がマイクロ孔を含む炭素膜で被覆された電極触媒が得られる。触媒粒子の表面が炭素膜に覆われると、触媒粒子とアイオノマとの接触面積が減少する。その結果、アイオノマ被毒(アイオノマ中のスルホン酸基が白金表面に吸着して活性サイトを減らす現象)が抑制され、触媒活性が向上する。また、触媒粒子の溶解が抑制され、耐久性が向上する。すなわち、触媒粒子の表面をポリメラミン及びポリドーパミン由来の炭素膜で被覆すると、発電性能を低下させることなく、触媒粒子の溶解が抑制され、耐久性が向上する。
【0072】
この場合において、炭素膜の厚さを3.5nm以上9.5nm以下にすると、初期の質量活性が従来よりも向上し、質量活性維持率も従来と同等以上となる。また、炭素膜の厚さをさらに最適化すると、初期の中負荷域活性が従来と同等以上となり、中負荷域活性維持率も従来と同等以上となる。
【0073】
これは、
(a)炭素膜が熱処理時における触媒粒子の粒成長を抑制するため、
(b)炭素膜の厚さを3.5nm以上にすることによって、触媒粒子表面とアイオノマとの接触面積が減少し、これによって触媒粒子のアイオノマ被毒、並びに、触媒粒子の溶解、凝集、及び/又は、脱離が抑制されるため、及び、
(c)炭素膜の厚さを9.5nm以下にすることによって、触媒粒子表面への反応物質の輸送抵抗の増大が抑制されるため
と考えられる。
【0074】
ポリドーパミン及びポリメラミンによる触媒粒子の修飾は、触媒粒子が担持された担体、あるいは、触媒粒子そのものに対しても適用できる。また、修飾後の熱処理過程で炭素膜にマイクロ孔が導入されるため、この方法が適用できる触媒粒子の大きさに制限がない。また、ポリドーパミン及びポリメラミンの仕込み量を調節することで、炭素膜の厚みを変えることができる。その結果、触媒粒子の表面にプロトンが届く程度の厚みを持つ炭素膜を容易に作製することができる。
【実施例0075】
(実施例1~2、比較例1~4)
[1. 試料の作製]
[1.1. 電極触媒の作製]
[1.1.1. 実施例1~2、比較例2~4: 逐次修飾材]
触媒には、30mass%Pt/Vulcan(登録商標)(TEC10V30E)(以下、これを単に「Pt/C触媒」ともいう)を用いた。これを高温(100℃)のMilli-Q(登録商標)水(以下、単に「水」ともいう)で洗浄し、乾燥させた。洗浄後のPt/C触媒を水と2-プロパノールとの混合溶媒に分散させ、これにポリメラミン(PME)溶液を添加し、室温で3時間攪拌した。攪拌後、吸引濾過にて粉末Aを回収し、100℃で2時間真空乾燥させた。
【0076】
次に、乾燥後の粉末A、ドーパミン塩酸塩、及び、pH8.5に調整したトリス塩酸緩衝液をビーカーに入れ、超音波分散させた。次いで、分散液を室温、大気中において、スターラーを用いて6時間攪拌した。これにより、ドーパミンが重合してポリドーパミン(PDA)となった。
【0077】
攪拌後、吸引濾過にて粉末Bを回収し、室温の水で洗浄した。さらに、洗浄後の粉末Bを100℃で真空乾燥させた。得られた粉末Bを環状炉内でArを流しながら700℃で2時間熱処理し、PME及びPDAを炭化させた。熱処理後の粉末Cを高温(100℃)の水で洗浄し、電極触媒を得た。
【0078】
電極触媒の修飾量(電極触媒の総質量に対する炭素膜の質量の割合)は、PME及びPDAの添加量により調整した。
PME添加量(=Pt/C触媒及びPMEの総質量に対するPMEの質量の割合)は、それぞれ、41.2mass%(比較例2)、73.2mass%(比較例3)、57.2mass%(実施例1)、73.2mass%(実施例2)、又は、93.1mass%(比較例4)とした。
また、ドーパミンの添加量(=Pt/C触媒及びドーパミンの総質量に対するドーパミンの質量の割合、塩酸を除いたドーパミンの質量割合)は、それぞれ、1.2mass%(比較例2)、4.8mass%(比較例3)、24.5mass%(実施例1)、24.2mass%(実施例2)、又は、22.9mass%(比較例4)とした。
【0079】
[1.1.2. 比較例1: 未修飾材]
上記のPt/C触媒をそのまま試験に供した。
【0080】
[1.2. 燃料電池の作製]
上記の電極触媒を、水・エタノール・ナフィオン(登録商標)アイオノマ溶液(D-2020)に分散させ、触媒インクを作製した。触媒インク中の水/アルコール質量比は、約1とした。この触媒インクをポリテトラフルオロエチレンシート上に塗工し、カソード触媒層を作製した。カソード触媒層のPt目付量は0.1mg/cm2、カーボン担体の質量に対するアイオノマの質量の比(I/C)は約1とした。
【0081】
アノード触媒層には、電極触媒として60mass%Pt/Ketjen(登録商標)を含み、アイオノマとしてナフィオン(登録商標)(D-2020)を含み、Pt目付量が0.2mg/cm2であり、I/Cが1.0であるものを用いた。
【0082】
上記カソード触媒層及びアノード触媒層をナフィオン(登録商標)膜(NR211)の両面にそれぞれ熱転写(120℃、50kgf/cm2、5min)し、膜電極接合体(MEA)を作製した。電極面積は、1cm2とした。このMEAを撥水層付きペーパー拡散層(GDL)で挟んでセルを構成した。
【0083】
[2. 試験方法]
[2.1. 含有量、炭素膜の平均厚さ]
熱重量分析(TG)により、Pt、担体、及び、炭素膜の含有量(修飾量)を評価した。修飾量が最も多い電極触媒(比較例4)を透過電子顕微鏡(TEM)で観察し、炭素膜の平均厚さを評価した。さらに、その修飾量及び平均厚さを基準として、各試料の炭素膜の平均厚さを算出した。
【0084】
[2.2. 初期発電性能及び耐久後発電性能]
得られたセルを用いて、慣らし運転後の発電性能(初期発電性能)と、電位サイクル試験後の発電性能(耐久後発電性能)を調べた。発電性能の評価は、高湿度下(セル温度60℃/加湿度80%RH)で行った。また、電位サイクル耐久試験は、0.6V(3s保持)と1.0V(3s保持)の電位変動を10,000サイクル与える方法で行った。
【0085】
[3. 結果]
[3.1. 含有量、炭素膜の平均厚さ]
表1に、Pt、担体、及び、炭素膜の含有量、並びに、炭素膜の平均厚さを示す。
【0086】
【0087】
[3.2. 初期発電性能及び耐久後発電性能]
[3.2.1. 初期の質量活性]
図1に、炭素膜の厚さと初期の質量活性との関係を示す。炭素膜で修飾された電極触媒は、いずれも、未修飾触媒よりも初期の質量活性が高くなることが分かった。また、炭素膜の厚さが約6nmのときに、初期の質量活性が最大となることが分かった。さらに、炭素膜の厚さが3.5~9.5nmのときに、初期の質量活性が約600A/g以上となることが分かった。
【0088】
[3.2.2. 質量活性維持率]
図2に、炭素膜の厚さと質量活性維持率との関係を示す。炭素膜の厚さが厚くなるほど、質量活性維持率が高くなる傾向が見られた。これは、炭素膜の厚さが厚くなるほど、触媒粒子とアイオノマとの接触面積が減少し、触媒粒子の劣化が抑制されたためと考えられる。
【0089】
[3.2.3. 中負荷域活性]
図3に、炭素膜の厚さと初期の中負荷域活性との関係を示す。炭素膜の厚さが3nmときに、初期の中負荷域活性が最大となることが分かった。また、炭素膜の厚さが6nmを超えると、初期の中負荷域活性が急激に低下することが分かった。これは、炭素膜の厚さが6nmを超えると、反応物質の輸送抵抗が増大するためと考えられる。
【0090】
[3.2.4. 中負荷域活性維持率]
図4に、炭素膜の厚さと中負荷域活性維持率との関係を示す。炭素膜の厚さが厚くなるほど、中負荷域活性維持率が高くなる傾向が見られた。これは、
(a)炭素膜の厚さが厚くなるほど、触媒粒子とアイオノマとの接触面積が減少し、触媒粒子の劣化が抑制されたため、あるいは、
(b)触媒粒子とアイオノマとの距離が遠いために、炭素膜内部の局所的なpHが上昇しているため
と考えられる。
【0091】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。