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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094593
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】スラリーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240703BHJP
【FI】
H01M4/139
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211230
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】前田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健太郎
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA09
5H050FA04
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】ダマの発生が抑制されたスラリーを効率よく製造できるスラリーの製造方法を提供する。
【解決手段】非水電解質二次電池の保護層を形成するためのスラリーは、無機酸化物フィラー、結着剤、及び溶媒を含む。スラリーの製造方法は、溶媒に無機酸化物フィラーを分散させて分散液を得る工程(S1)と、分散液と結着剤とを混合して撹拌する工程(S2)と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池の保護層を形成するためのスラリーの製造方法であって、
前記スラリーは、無機酸化物フィラー、結着剤、及び溶媒を含み、
前記製造方法は、
前記溶媒に前記無機酸化物フィラーを分散させて分散液を得る工程(S1)と、
前記分散液と前記結着剤とを混合して撹拌する工程(S2)と、を含む、スラリーの製造方法。
【請求項2】
前記工程(S2)は、
前記分散液と、前記スラリーに含まれる全結着剤のうちの一部とを混合して撹拌することにより、第1混合液を得る工程(S2a)と、
前記第1混合液と、前記全結着剤のうちの残りの一部又は全部とを混合して撹拌する工程(S2b)と、を含む、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【請求項3】
前記工程(S2b)は、前記第1混合液と、前記全結着剤のうちの残りの一部とを混合して撹拌することにより、第2混合液を得る工程を2回以上行う、請求項2に記載のスラリーの製造方法。
【請求項4】
前記工程(S2)は、撹拌羽根を備える撹拌機を用いて行い、
前記工程(S2)における前記撹拌羽根の回転数は、1500rpm以上8000rpm以下である、請求項2に記載のスラリーの製造方法。
【請求項5】
前記無機酸化物フィラーは、アルミナフィラー、マグネシアフィラー、シリカフィラー、ジルコニアフィラー、及びチタニアフィラーからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【請求項6】
前記結着剤は、高分子化合物の粉末である、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【請求項7】
前記結着材は、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)である、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【請求項8】
前記スラリーの温度10~40℃における粘度は、500mPa・s以上1500mPa・s以下である、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【請求項9】
前記スラリーの固形分率は、10重量%以上40重量%以下である、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【請求項10】
前記スラリーは、さらに導電剤を含む、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【請求項11】
前記溶媒は、非水溶媒である、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の保護層を形成するために用いられるスラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池では、電極等に保護層を形成することが知られている。保護層を形成するために、無機酸化物のフィラー、結着剤、及び溶媒を混合して得られる塗料が用いられる(例えば、特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-016311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
保護層を形成するための塗料にダマ(凝集物)が存在すると塗膜に欠陥が生じ、保護層にも欠陥が生じ得る。塗料に含まれる成分を混合して十分に撹拌する等により塗料の調製に時間を費やすと、ダマの発生を抑制しフィラーが均一に分散した塗料を得ることができるが、生産性が低下してしまう。そのため、ダマの発生が抑制された塗料を効率よく調製することが求められる。
【0005】
本開示は、非水電解質二次電池の保護層を形成するためのスラリーであって、ダマの発生が抑制されたスラリーを効率よく製造できるスラリーの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔1〕 非水電解質二次電池の保護層を形成するためのスラリーの製造方法であって、
前記スラリーは、無機酸化物フィラー、結着剤、及び溶媒を含み、
前記製造方法は、
前記溶媒に前記無機酸化物フィラーを分散させて分散液を得る工程(S1)と、
前記分散液と前記結着剤とを混合して撹拌する工程(S2)と、を含む、スラリーの製造方法。
〔2〕 前記工程(S2)は、
前記分散液と、前記スラリーに含まれる全結着剤のうちの一部とを混合して撹拌することにより、第1混合液を得る工程(S2a)と、
前記第1混合液と、前記全結着剤のうちの残りの一部又は全部とを混合して撹拌する工程(S2b)と、を含む、〔1〕に記載のスラリーの製造方法。
〔3〕 前記工程(S2b)は、前記第1混合液と、前記全結着剤のうちの残りの一部とを混合して撹拌することにより、第2混合液を得る工程を2回以上行う、〔2〕に記載のスラリーの製造方法。
〔4〕 前記工程(S2)は、撹拌羽根を備える撹拌機を用いて行い、
前記工程(S2)における前記撹拌羽根の回転数は、1500rpm以上8000rpm以下である、〔2〕又は〔3〕に記載のスラリーの製造方法。
〔5〕 前記無機酸化物フィラーは、アルミナフィラー、マグネシアフィラー、シリカフィラー、ジルコニアフィラー、及びチタニアフィラーからなる群より選ばれる1種以上である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のスラリーの製造方法。
〔6〕 前記結着剤は、高分子化合物の粉末である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のスラリーの製造方法。
〔7〕 前記結着材は、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のスラリーの製造方法。
〔8〕 前記スラリーの温度10~40℃における粘度は、500mPa・s以上1500mPa・s以下である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のスラリーの製造方法。
〔9〕 前記スラリーの固形分率は、10重量%以上40重量%以下である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のスラリーの製造方法。
〔10〕 前記スラリーは、さらに導電剤を含む、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のスラリーの製造方法。
〔11〕 前記溶媒は、非水溶媒である、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のスラリーの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ダマの発生が抑制されたスラリーを効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係るスラリーの製造方法を説明するフローチャートである。
図2】本開示の他の一実施形態に係るスラリーの製造方法を説明するフローチャートである。
図3】比較例のスラリーの製造方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(スラリーの製造方法)
図1及び図2は、本開示の一実施形態に係るスラリーの製造方法を示すフローチャートである。本実施形態のスラリーの製造方法は、非水電解質二次電池の保護層を形成するためのスラリーの製造方法である。
【0010】
保護層は、非水電解質二次電池が備える正極板及び負極板等の電極体に設けることができる。保護層は例えば、正極板の平面視において正極活物質層に隣接するように形成されてもよく、負極板の平面視において負極活物質層に隣接するように形成されてもよく、正極活物質層及び/又は負極活物質層の表面を覆うように、正極活物質層上及び/又は負極活物質層上に形成されてもよい。正極板に設けられる保護層は通常、正極集電体及び正極活物質層よりも電気伝導度が小さい。負極板に設けられる保護層は、負極集電体及び負極活物質層よりも電気伝導度が小さい。保護層を設けることにより、セパレータの破損等によって電池の内部短絡の発生を抑制したり、正極板及び負極板の耐熱性を向上したりすることができる。
【0011】
スラリーは、無機酸化物フィラー、結着剤、及び溶媒を含む。スラリーは、さらに導電剤を含んでいてもよい。
【0012】
無機酸化物フィラーは、金属酸化物フィラーであることができる。無機酸化物フィラーとしては例えば、アルミナ(Al)フィラー、マグネシア(MgO)フィラー、シリカ(SiO)フィラー、ジルコニア(ZrO)フィラー、及びチタニア(TiO)フィラーからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0013】
結着剤は、好ましくは高分子化合物であり、より好ましくは高分子化合物の粉末である。高分子化合物としては例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド(PI)、及びポリアミドイミド(PAI)からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。高分子化合物は、好ましくはPVdFである。
【0014】
溶媒は、非水溶媒であることが好ましい。溶媒としては例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)が挙げられる。
【0015】
導電剤としては例えば、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等)、黒鉛(鱗片状黒鉛等)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン、及びフラーレンからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0016】
スラリーの温度10~40℃(25±15℃)における粘度は、好ましくは500mPa・s以上1500mPa・s以下であり、700mPa・s以上1400mPa・s以下であってもよく、800mPa・s以上1300mPa・s以下であってもよい。スラリーの粘度は、後述する実施例に記載のように、スパイラル粘度計を用いて温度25℃、回転数40rpmで測定した値である。上記粘度を有するスラリーを製造する製造方法として、本実施形態のスラリーの製造方法は好適に用いられる。なお、本実施形態のスラリーは正極活物質及び負極活物質を含んでいないため、正極スラリー及び負極スラリーを製造する方法とは区別されるが、スラリーの粘度によっても区別される。例えば正極活物質層を形成するために用いる正極スラリーの粘度は、本実施形態のスラリーの上記粘度よりも大きい。
【0017】
スラリーの固形分率は、スラリーの総量に対して、好ましくは10重量%以上40重量%以下であり、より好ましくは15重量%以上30重量%以下であり、さらに好ましくは15重量%以上25重量%以下である。スラリーの固形分率は、スラリーの全重量に対する固形分(溶媒以外の成分)の重量割合である。上記の固形分率を有するスラリーを製造する製造方法として、本実施形態のスラリーの製造方法は好適に用いられる。なお、正極活物質層を形成するために用いる正極スラリーの固形分率は、本実施形態のスラリーの上記固形分率よりも大きく、この点においても正極スラリーの製造方法とは区別される。
【0018】
スラリーに含まれる無機酸化物フィラーの含有量は、スラリーの固形分の総量に対して、40重量%以上95重量%以下であってもよく、50重量%以上90重量%以下であってもよく、60重量%以上85重量%以下であってもよい。スラリーに含まれる結着剤の含有量は、スラリーの固形分の総量に対して、5重量%以上50重量%以下であってもよく、10重量%以上35重量%以下であってもよい。スラリーに含まれる導電剤の含有量は、スラリーの固形分の総量に対して、0重量%以上10重量%以下であってもよく、0.05重量%以上5重量%以下であってもよい。
【0019】
本実施形態のスラリーの製造方法は、図1及び図2に示すように、
溶媒に無機酸化物フィラーを分散させて分散液を得る工程(S1)と、
分散液と結着剤とを混合して撹拌する工程(S2)と、
を含む。スラリーの製造方法では、工程(S1)及び工程(S2)を経てスラリーが調製される。
【0020】
結着剤はスラリーに発生するダマ(凝集物)の核となりやすいため、結着剤と溶媒とを先に混合して結着剤溶液を作製し、結着剤溶液に無機酸化物粒子を添加することにより、スラリーを調製する方法が一般的である。これに対し、本実施形態のスラリーの製造方法では、溶媒に無機酸化物フィラーを分散させた分散液に、結着剤を添加して混合している。溶媒は結着剤溶液に比較すると粘度が小さい。そのため、工程(S1)において溶媒中に無機酸化物フィラーを分散させやすく、無機酸化物フィラーの分散性に優れた分散液を効率よく得ることができる。その後、分散液に結着剤を添加して撹拌するという簡便な方法により(工程(S2))、スラリーに発生するダマを抑制しながらも、より短時間でスラリーを調製できる。上記したように、本実施形態のスラリーの製造方法は、スラリーの粘度が上記した範囲である場合、及び/又は、スラリーの固形分率が上記した範囲である場合に、特に好適に用いることができる。
【0021】
工程(S1)では例えば、溶媒中に無機酸化物フィラーを添加することにより、溶媒と無機酸化物フィラーとの混合物を得、この混合物を撹拌することによって分散液を得ることができる。上記したように溶媒は粘度が小さいため、無機酸化物フィラーを分散させやすい。工程(S1)では無機酸化物フィラーが高分散した分散液を得ることができる。無機酸化物フィラーは、溶媒中に一度に全量を添加してもよく、溶媒中に2回以上に分割して添加してもよい。工程(S1)では、スラリーの生産性向上の観点から、溶媒中に一度に全量の無機酸化物フィラーを添加して撹拌することが好ましい。無機酸化物フィラーを分割して添加する場合、溶媒又は混合物を撹拌しながら無機酸化物フィラーを分割して添加してもよい。
【0022】
工程(S1)は、撹拌羽根を備える撹拌機を用いて、溶媒と無機酸化物フィラーとを撹拌することができる。撹拌機を用いて行う工程(S1)において、撹拌羽根の回転数は、1500rpm以上6000rpm以下であってもよく、2000rpm以上5000rpm以下であってもよく、2500rpm以上4000rpm以下であってもよい。撹拌羽根の回転数が上記の範囲である場合、工程(S1)における撹拌時間は、10分以上60分以下であってもよく、15分以上50分以下であってもよく、20分以上40分以下であってもよい。
【0023】
工程(S2)では例えば、分散液中に結着剤を添加し、分散液と結着剤とを混合して撹拌することによってスラリーを得ることができる。工程(S2)では、スラリーの調製に必要とされる結着剤を、分散液中に一度に全量を添加して撹拌してもよく、分散液又は混合液を撹拌しながら2回以上に分割して添加してもよい。
【0024】
例えば図2に示すように、工程(S2)は、
分散液とスラリーに含まれる全結着剤のうちの一部とを混合して撹拌することにより、第1混合液を得る工程(S2a)と、
第1混合液とスラリーに含まれる全結着剤のうちの残りの一部又は全部とを混合して撹拌する工程(S2b)と、
を含んでいてもよい。第1混合液は分散液と結着剤とを含むが、結着剤の含有量は、第1混合液の方がスラリーよりも小さい。工程(S2b)で添加する上記全結着剤のうちの残りとは、スラリーに含まれる結着剤から第1混合液に含まれる結着剤を除いた量の結着剤である。
【0025】
工程(S2b)が、第1混合液と、スラリーに含まれる結着剤のうちの残りの全部とを混合して撹拌する工程である場合、工程(S2b)によりスラリーを得ることができる(図2中、第2混合液の調製からスラリーの調製に進む実線の矢印)。工程(S2b)は、第1混合液とスラリーに含まれる結着剤のうちの残りの一部とを混合して撹拌することにより、第2混合液を得る工程を2回以上行ってもよい(図2中、第2混合液の調製から結着剤の添加に戻る一点鎖線の矢印)。第2混合液は第1混合液と結着剤とを含み、結着剤の含有量は、第2混合液の方が第1混合液よりも大きい。工程(S2b)において、第2混合液を得る工程は、3回以上行ってもよく、4回以上行ってもよく、5回以上行ってもよく、通常10回以下である。
【0026】
工程(S2a)及び工程(S2b)により、分散液に、スラリーに含まれる結着剤を累積して全量添加して撹拌することにより、スラリーを得ることができる。工程(S2)において工程(S2a)及び工程(S2b)を行うことにより、分散液及び第1混合液に、結着剤を少量ずつ分割して添加して撹拌することができるため、スラリーにダマが発生することを抑制できる。
【0027】
工程(S2)は、撹拌羽根を備える撹拌機を用いて分散液と結着剤とを撹拌することができる。撹拌機を用いて行う工程(S2)において、撹拌羽根の回転数は、例えば1500rpm以上8000rpm以下であってもよく、2000rpm以上7000rpm以下であってもよく、3000rpm以上6000rpm以下であってもよい。
【0028】
分散液又は第1混合液と結着剤とを混合する場合、結着剤の溶解を促進するために、分散液又は第1混合液を加温することが好ましい。分散液又は第1混合液の加温時の温度は、例えば35℃以上60℃以下であってもよく、40℃以上55℃以下であってもよい。分散液及び第1混合液の加温は、ヒーター等の加熱装置の加熱により、液温を上記した範囲に調整してもよい。あるいは、加熱装置を用いることなく、分散液及び第1混合液を高速撹拌することにより、液温を上記した範囲に調整してもよい。高速撹拌によって液温を上昇させる場合、撹拌機における撹拌羽根の回転数は、例えば上記した範囲とすることができる。
【0029】
撹拌機を用いて工程(S2a)及び工程(S2b)を行う場合、撹拌羽根の回転数及び撹拌時間は、同じであってもよく、異なっていてもよい。工程(S2b)において、第2混合液を得る工程を2回以上行う場合、各工程での撹拌羽根の回転数及び撹拌時間は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0030】
工程(S2a)での撹拌、及び、工程(S2b)で第2混合液を得る工程をn回行う場合(nは2以上の整数を表す。)、1回目から(n-1)回目までの撹拌では、撹拌羽根の回転数はそれぞれ独立して、1500rpm以上6000rpm以下であってもよく、2000rpm以上5000rpm以下であってもよく、2500rpm以上4000rpm以下であってもよく、撹拌時間はそれぞれ独立して、1分以上60分以下であってもよく、3分以上30分以下であってもよく、5分以上10分以下であってもよい。
【0031】
工程(S2b)を1回のみ行う場合の撹拌、及び、工程(S2b)で第2混合液を得る工程をn回行う場合(nは2以上の整数を表す。)、n回目の撹拌では、撹拌の回転数は、1500rpm以上6000rpm以下であってもよく、2000rpm以上5000rpm以下であってもよく、2500rpm以上4000rpm以下であってもよく、撹拌時間は、30分以上240分以下であってもよく、60分以上180分以下であってもよく、100分以上150分以下であってもよい。工程(S2b)を1回のみ行う場合の撹拌、及び、工程(S2b)で第2混合液を得る工程をn回行う場合(nは2以上の整数を表す。)のn回目の撹拌時間は、それ以前に行う撹拌の撹拌時間よりも長くてもよい。
【0032】
(非水電解質二次電池の製造方法)
上記したスラリーの製造方法によって得られたスラリーは、非水電解質二次電池の製造方法に用いることができる。非水電解質二次電池は通常、正極板、負極板、及びセパレータを含む電極体と、電解質とを備え、非水電解質二次電池はさらに、電極体及び電解質を収容するケースを含むことができる。正極板は、正極集電体上に正極活物質層を有する。負極板は、負極集電体上に負極活物質層を有する。正極板及び/又は負極板は、保護層を有していてもよい。電極体は、正極板の正極活物質層と、負極板の負極活物質層との間に、セパレータが挟み込まれた構造を有する。電極体は、巻回型電極体であってもよく、積層型電極体であってもよい。
【0033】
非水電解質二次電池の製造方法では例えば、正極板を製造する工程、及び/又は、負極板を製造する工程で、上記したスラリーを用いることができる。正極板を製造する工程では、正極集電体上又は正極活物質層上にスラリーを塗布して乾燥する工程を含むことができる。スラリーは、正極板の平面視において、正極集電体上に形成された正極活物質層に隣接するように正極集電体上に塗布してもよい。あるいは、正極集電体上に形成された正極活物質層上に、スラリーを塗布してもよい。負極板を製造する工程では、負極集電体上又は負極活物質層上にスラリーを塗布して乾燥する工程を含むことができる。スラリーは、負極板の平面視において、負極集電体上に形成された負極活物質層に隣接するように、負極集電体上に塗布してもよい。あるいは、負極集電体上に形成された負極活物質層上に、スラリーを塗布してもよい。
【0034】
正極集電体は例えば、アルミニウム箔、又は、アルミニウム合金等のアルミニウム材料を用いて構成された金属箔である。正極活物質層は、正極活物質層を含み、さらにバインダ及び導電助剤のうちの一方又は両方を含んでいてもよい。正極活物質としては例えば、層状系又はスピネル系等のリチウム遷移金属酸化物(例えば、LiNiCoMnO、LiNiO2、LiCoO2、LiFeO2、LiMn24、LiNi0.5Mn1.54、LiCrMnO4、LiFePO4、LiNi1/3Co1/3Mn1/32)が挙げられる。バインダとしては例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、及び、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。導電助剤としては炭素材料が挙げられる。炭素材料としては、繊維状炭素、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等)、コークス、及び、活性炭からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。繊維状炭素としては、カーボンナノチューブ(CNT)が挙げられる。CNTは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)であってもよく、2層カーボンチューブ(DWCNT)等の多層カーボンナノチューブであってもよい。
【0035】
負極集電体は例えば、銅及び銅合金等の銅材料を用いて構成された金属箔である。負極活物質層は、負極活物質を含み、さらに結着材及び導電助剤のうちの一方又は両方を含んでいてもよい。負極活物質としては、黒鉛(グラファイト)等の炭素(C)原子を含む炭素系活物質;ケイ素(Si)、錫(Sn)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)からなる群から選択される元素を含む金属単体又は金属酸化物等の金属元素を含む金属系活物質が挙げられる。結着材としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース系結着材、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。導電助剤としては、繊維状炭素、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック)、コークス、活性炭等の炭素材料が挙げられる。繊維状炭素は、上記で説明したものが挙げられる。
【実施例0036】
以下、実施例及び比較例を示して本開示をさらに具体的に説明する。
[スラリーの原料の準備]
実施例及び比較例のスラリーを調製するための原料として、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を準備し、無機酸化物フィラーとしてアルミナ(Al)フィラーを準備し、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)の粉末を準備した。
【0037】
〔実施例1~4〕
実施例のスラリーは、撹拌機を用いて図2に示す順序で調製した。図2の工程(S1)に示すように、溶媒と無機酸化物フィラーとを、撹拌羽根の回転数を3000rpmとして30分間撹拌して分散液を得た。図2の工程(S2a)に示すように、分散液に結着剤を添加して、撹拌羽根の回転数を3000rpmとして5分間撹拌して第1混合液を得た。第1混合液にさらに結着剤を添加し、撹拌羽根の回転数を3000rpmとして5分間撹拌する操作を1セットとし、これを連続して4セット行った(図2に示す工程(S2b)の1回目から4回目までの撹拌)。その後、さらに結着剤を添加して、表1に示す回転数で120分間撹拌することにより(図2に示す工程(S2b)の最後(5回目)の撹拌)、表1に示す固形分率及び温度のスラリーを得た。スラリーの温度は調製直後の温度である。全工程の撹拌時間の合計は170分であった。
【0038】
〔比較例1〕
比較例のスラリーは、撹拌機を用いて図3に示す順序で調製した。図3は、比較例のスラリーの製造方法を示すフローチャートである。図3に示すように、溶媒と結着剤とを温度60℃に加温しながら、撹拌羽根の回転数を3000rpmとして60分間撹拌して、結着剤溶液を得た。結着剤溶液に無機酸化物フィラーを添加して、撹拌羽根の回転数を6000rpmとして5分間撹拌して混合液(c1)を得た。混合液(c1)に無機酸化物フィラーを添加して、撹拌羽根の回転数を6000rpmとして5分間撹拌する操作を1セットし、これを連続的に4セット行った(図3中、混合液(c2)の調製から無機酸化物フィラーの添加に戻る矢印)。その後、さらに無機酸化物フィラーを添加して、撹拌羽根の回転数を6000rpmとして120分間撹拌することにより、表1に示す固形分率のスラリーを得た。全工程の撹拌時間の合計は200分であった。
【0039】
[スラリーの粘度の測定]
スラリーを入れた容器を粘度計(スパイラル粘度計、株式会社マルコム製)のステージ上に置いた。粘度計のローターの回転数を40rpmに設定し、ロータをスラリーの所定の液面位置まで浸した。ローターをスラリーに浸した後、粘度計に表示される値の中から最大値(ピークの値)を読み取り、これを粘度[mPa・s]とした。粘度測定後、粘度計で測定温度を測定したところ25℃であった。結果を表1に示す。
【0040】
[ダマの評価]
ガラス板の上にポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを敷き、このPETフィルム上に、塗布厚みが125μmとなるアプリケータを用いてスラリーを塗布し、塗膜を形成した。塗膜を形成したガラス板を乾燥炉に入れて、温度120℃で10分間乾燥して保護層を形成し、ダマの発生状況を確認した。比較例1におけるダマの発生状況を基準として、各実施例のダマの大きさ及びダマの数が、比較例1のダマの大きさ及びダマの数と同等であるか否かを評価した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2024-01-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池の保護層を形成するためのスラリーの製造方法であって、
前記スラリーは、無機酸化物フィラー、結着剤、及び溶媒を含み、
前記製造方法は、
前記溶媒に前記無機酸化物フィラーを分散させて分散液を得る工程(S1)と、
前記分散液と前記結着剤とを混合して撹拌する工程(S2)と、を含む、スラリーの製造方法。
【請求項2】
前記工程(S2)は、
前記分散液と、前記スラリーに含まれる全結着剤のうちの一部とを混合して撹拌することにより、第1混合液を得る工程(S2a)と、
前記第1混合液と、前記全結着剤のうちの残りの一部又は全部とを混合して撹拌する工程(S2b)と、を含む、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【請求項3】
前記工程(S2b)は、前記第1混合液と、前記全結着剤のうちの残りの一部とを混合して撹拌することにより、第2混合液を得る工程を2回以上行う、請求項2に記載のスラリーの製造方法。
【請求項4】
前記工程(S2)は、撹拌羽根を備える撹拌機を用いて行い、
前記工程(S2)における前記撹拌羽根の回転数は、1500rpm以上8000rpm以下である、請求項2に記載のスラリーの製造方法。
【請求項5】
前記無機酸化物フィラーは、アルミナフィラー、マグネシアフィラー、シリカフィラー、ジルコニアフィラー、及びチタニアフィラーからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【請求項6】
前記結着剤は、高分子化合物の粉末である、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【請求項7】
前記結着は、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)である、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【請求項8】
前記スラリーの温度10~40℃における粘度は、500mPa・s以上1500mPa・s以下である、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【請求項9】
前記スラリーの固形分率は、10重量%以上40重量%以下である、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【請求項10】
前記スラリーは、さらに導電剤を含む、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【請求項11】
前記溶媒は、非水溶媒である、請求項1に記載のスラリーの製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
〔1〕 非水電解質二次電池の保護層を形成するためのスラリーの製造方法であって、
前記スラリーは、無機酸化物フィラー、結着剤、及び溶媒を含み、
前記製造方法は、
前記溶媒に前記無機酸化物フィラーを分散させて分散液を得る工程(S1)と、
前記分散液と前記結着剤とを混合して撹拌する工程(S2)と、を含む、スラリーの製造方法。
〔2〕 前記工程(S2)は、
前記分散液と、前記スラリーに含まれる全結着剤のうちの一部とを混合して撹拌することにより、第1混合液を得る工程(S2a)と、
前記第1混合液と、前記全結着剤のうちの残りの一部又は全部とを混合して撹拌する工程(S2b)と、を含む、〔1〕に記載のスラリーの製造方法。
〔3〕 前記工程(S2b)は、前記第1混合液と、前記全結着剤のうちの残りの一部とを混合して撹拌することにより、第2混合液を得る工程を2回以上行う、〔2〕に記載のスラリーの製造方法。
〔4〕 前記工程(S2)は、撹拌羽根を備える撹拌機を用いて行い、
前記工程(S2)における前記撹拌羽根の回転数は、1500rpm以上8000rpm以下である、〔2〕又は〔3〕に記載のスラリーの製造方法。
〔5〕 前記無機酸化物フィラーは、アルミナフィラー、マグネシアフィラー、シリカフィラー、ジルコニアフィラー、及びチタニアフィラーからなる群より選ばれる1種以上である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のスラリーの製造方法。
〔6〕 前記結着剤は、高分子化合物の粉末である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のスラリーの製造方法。
〔7〕 前記結着は、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のスラリーの製造方法。
〔8〕 前記スラリーの温度10~40℃における粘度は、500mPa・s以上1500mPa・s以下である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のスラリーの製造方法。
〔9〕 前記スラリーの固形分率は、10重量%以上40重量%以下である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のスラリーの製造方法。
〔10〕 前記スラリーは、さらに導電剤を含む、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のスラリーの製造方法。
〔11〕 前記溶媒は、非水溶媒である、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のスラリーの製造方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0035
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0035】
負極集電体は例えば、銅及び銅合金等の銅材料を用いて構成された金属箔である。負極活物質層は、負極活物質を含み、さらに結着及び導電助剤のうちの一方又は両方を含んでいてもよい。負極活物質としては、黒鉛(グラファイト)等の炭素(C)原子を含む炭素系活物質;ケイ素(Si)、錫(Sn)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)からなる群から選択される元素を含む金属単体又は金属酸化物等の金属元素を含む金属系活物質が挙げられる。結着としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース系結着、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。導電助剤としては、繊維状炭素、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック)、コークス、活性炭等の炭素材料が挙げられる。繊維状炭素は、上記で説明したものが挙げられる。