(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094594
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】SiCエピタキシャルウェハおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20240703BHJP
C30B 29/36 20060101ALI20240703BHJP
C30B 25/08 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
H01L21/205
C30B29/36 A
C30B25/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211232
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】梅田 喜一
【テーマコード(参考)】
4G077
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB01
4G077AB04
4G077AB09
4G077BE08
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4G077EG24
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4G077EG30
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4G077TD01
5F045AA03
5F045AB06
5F045AC01
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5F045DP03
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5F045DQ05
5F045DQ10
5F045EC05
5F045EF04
5F045EK03
5F045EM09
5F045GB11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】励起光を照射することによって発光するSiCエピタキシャル層からのフォトルミネッセンス(PL)光の発光強度が均一であるSiCエピタキシャルウェハ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】SiCエピタキシャルウェハは、表面にSiCエピタキシャル層を有するSiCエピタキシャルウェハに、波長313nmの励起光を照射し、前記表面を分割してなる一辺が2mmの正方形の測定領域毎に、波長660nm以上のフォトルミネッセンス光の発光強度を測定した結果が、下記式(1)を満たす。
{(max-min)/ave}×100≦40(%)・・・(1)
式(1)中、maxは全測定領域の発光強度の最大値であり、minは全測定領域の発光強度の最小値であり、aveは全測定領域の発光強度の平均値である。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にSiCエピタキシャル層を有するSiCエピタキシャルウェハに、波長313nmの励起光を照射し、前記表面を分割してなる一辺が2mmの正方形の測定領域ごとに、波長660nm以上のフォトルミネッセンス光の発光強度を測定した結果が、下記式(1)を満たす、SiCエピタキシャルウェハ。
{(max-min)/ave}×100≦40(%) ・・・(1)
(式(1)中、maxは全測定領域の発光強度の最大値である。minは全測定領域の発光強度の最小値である。aveは全測定領域の発光強度の平均値である。)
【請求項2】
前記表面の窒素濃度が4×1018原子/cm3以下である、請求項1に記載のSiCエピタキシャルウェハ。
【請求項3】
前記表面のアルミニウム濃度が4×1018原子/cm3以下である、請求項1に記載のSiCエピタキシャルウェハ。
【請求項4】
前記表面の酸素濃度が1×1014原子/cm3未満である、請求項1に記載のSiCエピタキシャルウェハ。
【請求項5】
前記表面の三角欠陥密度が1cm-2以下である、請求項1に記載のSiCエピタキシャルウェハ。
【請求項6】
前記測定領域ごとに前記フォトルミネッセンス光の発光強度を測定した結果が、下記式(2)を満たす、請求項1に記載のSiCエピタキシャルウェハ。
{(max-min)/ave}×100≦20(%) ・・・(2)
(式(2)中、maxは全測定領域の発光強度の最大値である。minは全測定領域の発光強度の最小値である。aveは全測定領域の発光強度の平均値である。)
【請求項7】
前記測定領域ごとに前記フォトルミネッセンス光の発光強度を測定した結果が、下記式(3)を満たす、請求項1に記載のSiCエピタキシャルウェハ。
{最外周ave/ave}×100≦200(%) ・・・(3)
(式(3)中、最外周aveは前記測定領域のうち前記SiCエピタキシャルウェハの最も外周に近い部分に配置された測定領域の発光強度の平均値である。aveは全測定領域の発光強度の平均値である。)
【請求項8】
直径150mm以上である、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のSiCエピタキシャルウェハ。
【請求項9】
直径200mm以上である、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のSiCエピタキシャルウェハ。
【請求項10】
SiC単結晶基板の表面にSiCエピタキシャル層を積層するエピ層成長工程を有し、
前記エピ層成長工程は、石英からなる部材を備えるエピ装置を用いて行われ、
前記石英からなる部材のうち少なくとも一部は、真空熱処理を行ってからエピ装置に設置され、
前記真空熱処理において、1kPa以下の圧力下、600℃以上の温度で、1時間以上保持する、SiCエピタキシャルウェハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiCエピタキシャルウェハおよびSiCエピタキシャルウェハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)と比較して絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)と比較して熱伝導率が3倍程度高い。これらのことから、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイスなどの半導体デバイスに、SiCエピタキシャルウェハが用いられるようになってきている。
【0003】
SiCエピタキシャルウェハは、SiC単結晶基板の表面にSiCエピタキシャル層を積層することにより製造されている。以下、SiCエピタキシャル層が積層される前の基板をSiC単結晶基板と称する。また、SiC単結晶基板の表面にSiCエピタキシャル層を積層した後の基板をSiCエピタキシャルウェハと称する。
【0004】
現在、SiC単結晶基板の市場の主流は、直径6インチ(150mm)である。直径8インチ(200mm)のSiC単結晶基板については、量産化に向けた開発が進められており、本格的な量産が始まりつつある。SiC単結晶基板の直径6インチから8インチへの大口径化は、生産効率の向上およびコスト低減の切り札として期待されている。
【0005】
従来、SiC単結晶基板の評価方法として、フォトルミネッセンス(PL)測定を用いる方法がある。
例えば、特許文献1には、電子励起に対して、650~750nm波長の近赤外のPL発光ピークを持つPLスペクトルとなるSiC単結晶が記載され、PLイメージングによって転位密度評価を行うことが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、SiCインゴットから切り出したSiC基板の第1面に、エピタキシャル膜を積層する前に励起光を照射して、フォトルミネッセンス測定する、SiC基板の評価方法が記載されている。また、特許文献2には、SiC基板の第1面において、不純物に起因したフォトルミネッセンスの強度がSiCバンド端に起因したフォトルミネッセンスの強度より強くなる領域が、前記第1面の総面積の50%以下である、SiCエピタキシャルウェハが記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、第1の主面と第2の主面とを備え、第1の主面の最大径は100mm以上であり、第1の主面は外周から3mm以内の領域を除いた第1の中央領域を含み、前記第1の中央領域を一辺が250μmの第1の正方形領域に分割した場合に、第1の正方形領域における酸素濃度が5原子%以上20原子%未満である、炭化珪素単結晶基板が記載されている。
【0008】
また、特許文献4には、直径が100mm以上であり、酸素濃度が1×1017cm-3以下であり、転位密度が2×104cm-2以下であり、積層欠陥の面積比率が2.0%以下である、炭化珪素単結晶基板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2021-88469号公報
【特許文献2】特開2020-40853号公報
【特許文献3】特許第5839069号公報
【特許文献4】特開2017-7937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のSiCエピタキシャルウェハには、励起光を照射することによって発光するフォトルミネッセンス(PL)光の発光強度が高い領域であるのに、欠陥が存在していない領域があることが分かった。特に、SiCエピタキシャルウェハの外周に近い部分の発光強度が、他の部分よりも高くなることが分かった。すなわち、欠陥のないSiCエピタキシャルウェハであっても、PL光の発光強度は均一ではなく、PL光の発光強度の高い領域と低い領域とが存在していることが分かった。
【0011】
このことにより、従来の技術では、SiCエピタキシャルウェハのSiCエピタキシャル層からのPL光の発光強度の差異によって、SiCエピタキシャルウェハを評価する際に、欠陥のない領域からのPL光によって欠陥の有無が確認しにくくなり、評価精度が十分に得られなかった。
【0012】
また、欠陥が存在していないのにPL光の発光強度が高い領域には、本来存在すべきでないエネルギー準位が存在している。したがって、欠陥が存在していないのにPL光の発光強度が高い領域に、SiCエピタキシャル層を積層したSiCエピタキシャルウェハを用いたデバイスでは、本来意図した部分ではない場所でキャリアが消滅する。このため、キャリア寿命の低下によるデバイス動作への影響が問題となっている。
【0013】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、励起光を照射することによって発光するSiCエピタキシャル層からのフォトルミネッセンス(PL)光の発光強度が均一であるSiCエピタキシャルウェハ、およびSiCエピタキシャルウェハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために、SiCエピタキシャルウェハの製造装置に着目し、以下に示すように、鋭意検討した。
SiCエピタキシャルウェハの製造装置には、石英からなる部材が使用されている。これは、石英が、ガスバリア性・断熱性・耐腐食性が良好な材料であって、ホウ素(B)、窒素(N)、アルミニウム(Al)などのSiCのドーパントとなりうる元素を含まないためである。しかも、石英は、高価ではなく、汎用性が高い。
石英からなる部材は、例えば、金属部材の表面を覆うように設置されている。これは、金属部材が露出していると、電力効率が落ちたり、金属部材が腐食されて金属粉が発生し、SiCエピタキシャルウェハの汚染および汚染を起点とした欠陥の原因となったりするためである。
【0015】
また、直径150mm(6インチ)以上のSiCエピタキシャルウェハを製造する装置では、石英からなる部材を用いることが望ましい。特に、直径200mm(8インチ)以上の大口径化されたSiCエピタキシャルウェハを製造する装置では、石英からなる部材が多く用いられている。これは、大口径化されたSiCエピタキシャルウェハの製造に際して、現行の口径のSiCエピタキシャルウェハの製造で最適化された製造装置を用いても同程度の品質は得られないし、大口径化されたSiCエピタキシャルウェハであるほど、コンタミ発生による影響が大きくなるためである。
【0016】
そこで、本発明者らは、励起光を照射することによるPL光の発光強度が高い領域であるのに、欠陥が存在していない領域が形成される原因について、製造装置に使用されている石英からなる部材に着目し、鋭意検討した。その結果、上記の原因が、SiCエピタキシャル層を成長させる際に、石英からなる部材から石英に含まれる水分子が離脱することによるものであることを見出した。
【0017】
そして、本発明者らは、石英からなる部材を所定の条件で真空熱処理し、石英に含まれる水分子を除去してから製造装置に設置した。そして、この製造装置を用いて、SiC単結晶基板の表面にSiCエピタキシャル層を積層し、SiCエピタキシャルウェハを製造した。その結果、波長313nmの励起光を照射することによって発光する、SiCエピタキシャル層からの波長660nm以上のPL光の発光強度が均一であるSiCエピタキシャルウェハが得られることを確認し、本発明を想到した。
【0018】
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0019】
[1] 表面にSiCエピタキシャル層を有するSiCエピタキシャルウェハに、波長313nmの励起光を照射し、前記表面を分割してなる一辺が2mmの正方形の測定領域ごとに、波長660nm以上のフォトルミネッセンス光の発光強度を測定した結果が、下記式(1)を満たす、SiCエピタキシャルウェハ。
{(max-min)/ave}×100≦40(%) ・・・(1)
(式(1)中、maxは全測定領域の発光強度の最大値である。minは全測定領域の発光強度の最小値である。aveは全測定領域の発光強度の平均値である。)
【0020】
[2] 前記表面の窒素濃度が4×1018原子/cm3以下である、[1]に記載のSiCエピタキシャルウェハ。
[3] 前記表面のアルミニウム濃度が4×1018原子/cm3以下である、[1]または[2]に記載のSiCエピタキシャルウェハ。
[4] 前記表面の酸素濃度が1×1014原子/cm3未満である、[1]~[3]のいずれかに記載のSiCエピタキシャルウェハ。
【0021】
[5] 前記表面の三角欠陥密度が1cm-2以下である、[1]~[4]のいずれかにに記載のSiCエピタキシャルウェハ。
【0022】
[6] 前記測定領域ごとに前記フォトルミネッセンス光の発光強度を測定した結果が、下記式(2)を満たす、[1]~[5]のいずれかにに記載のSiCエピタキシャルウェハ。
{(max-min)/ave}×100≦20(%) ・・・(2)
(式(2)中、maxは全測定領域の発光強度の最大値である。minは全測定領域の発光強度の最小値である。aveは全測定領域の発光強度の平均値である。)
【0023】
[7] 前記測定領域ごとに前記フォトルミネッセンス光の発光強度を測定した結果が、下記式(3)を満たす、[1]~[6]のいずれかにに記載のSiCエピタキシャルウェハ。
{最外周ave/ave}×100≦200(%) ・・・(3)
(式(3)中、最外周aveは前記測定領域のうち前記SiCエピタキシャルウェハの最も外周に近い部分に配置された測定領域の発光強度の平均値である。aveは全測定領域の発光強度の平均値である。)
【0024】
[8] 直径150mm(6インチ)以上である、[1]~[7]のいずれかに記載のSiCエピタキシャルウェハ。
[9] 直径200mm(8インチ)以上である、[1]~[7]のいずれかに記載のSiCエピタキシャルウェハ。
【0025】
[10] SiC単結晶基板の表面にSiCエピタキシャル層を積層するエピ層成長工程を有し、
前記エピ層成長工程は、石英からなる部材を備えるエピ装置を用いて行われ、
前記石英からなる部材のうち少なくとも一部は、真空熱処理を行ってからエピ装置に設置され、
前記真空熱処理において、1kPa以下の圧力下、600℃以上の温度で、1時間以上保持する、SiCエピタキシャルウェハの製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明のSiCエピタキシャルウェハは、表面にSiCエピタキシャル層を有するSiCエピタキシャルウェハに、波長313nmの励起光を照射し、前記表面を分割してなる一辺が2mmの正方形の測定領域ごとに、波長660nm以上のフォトルミネッセンス光の発光強度を測定した結果が、式(1)を満たす。したがって、本発明のSiCエピタキシャルウェハは、励起光を照射することによって発光するSiCエピタキシャル層からのフォトルミネッセンス(PL)光の発光強度が均一である。このため、本発明のSiCエピタキシャルウェハは、SiCエピタキシャル層からのPL光の発光強度の差異によってSiCエピタキシャルウェハを評価する際に、高精度で評価できる。また、本発明のSiCエピタキシャルウェハには、欠陥が存在していないのにPL光の発光強度が高い領域は存在しない。よって、本発明のSiCエピタキシャルウェハを用いたデバイスは、キャリア寿命の低下によるデバイス動作への影響が生じることがなく、好ましい。
【0027】
本発明のSiCエピタキシャルウェハの製造方法では、真空熱処理を行ってからエピ装置に設置された石英からなる部材を備えるエピ装置を用いて、エピ層成長工程を行う。そして、真空熱処理において、1kPa以下の圧力下、600℃以上の温度で、1時間以上保持する。このため、本発明の製造方法によれば、SiCエピタキシャル層を成長させる際に、石英からなる部材から石英に含まれる水分子が離脱することがない。その結果、表面にSiCエピタキシャル層を有するSiCエピタキシャルウェハに、波長313nmの励起光を照射し、表面を分割してなる一辺が2mmの正方形の測定領域ごとに、波長660nm以上のフォトルミネッセンス光の発光強度を測定した結果が、式(1)を満たす本発明のSiCエピタキシャルウェハが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本実施形態のSiCエピタキシャルウェハを製造する際に使用できるエピ装置の一例を説明するための概略断面図である。
【
図2】本実施形態のSiCエピタキシャルウェハを製造する際に使用できるエピ装置の他の一例を説明するための概略断面図である。
【
図3】本実施形態のSiCエピタキシャルウェハを製造する際に使用できるエピ装置の他の一例を説明するための概略断面図である。
【
図4】本実施形態のSiCエピタキシャルウェハを製造する際に使用できるエピ装置の他の一例を説明するための概略断面図である。
【
図5】本実施形態のSiCエピタキシャルウェハを製造する際に使用できるエピ装置の他の一例を説明するための概略断面図である。
【
図6】本実施形態のSiCエピタキシャルウェハを製造する際に使用できるエピ装置の他の一例を説明するための概略断面図である。
【
図7】実施例1および比較例1のSiCエピタキシャルウェハの直径方向の中心からの位置(X座標)とPL光の発光強度(PL強度)との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明のSiCエピタキシャルウェハについて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0030】
[SiCエピタキシャルウェハ]
本実施形態のSiCエピタキシャルウェハは、表面にSiCエピタキシャル層を有するSiCエピタキシャルウェハに、波長313nmの励起光を照射し、表面を分割してなる一辺が2mmの正方形の測定領域ごとに、波長660nm以上のフォトルミネッセンス(PL)光の発光強度を測定した結果が、下記式(1)を満たす。
{(max-min)/ave}×100≦40(%) ・・・(1)
(式(1)中、maxは全測定領域の発光強度の最大値である。minは全測定領域の発光強度の最小値である。aveは全測定領域の発光強度の平均値である。)
【0031】
上記式(1)は、全測定領域から得たPL光の発光強度の均一性を示す。本実施形態のSiCエピタキシャルウェハは{(max-min)/ave}×100の値が40(%)以下であるので、SiCエピタキシャル層からのPL光の発光強度のムラが十分に少なく均一である。本実施形態のSiCエピタキシャルウェハは{(max-min)/ave}×100の値が20(%)以下であることが好ましく、10(%)以下であることがより好ましく、小さい程よい。
【0032】
本実施形態のSiCエピタキシャルウェハは、測定領域ごとに上記のPL光の発光強度を測定した結果が、下記式(3)を満たすことが好ましい。
{最外周ave/ave}×100≦200(%) ・・・(3)
(式(3)中、最外周aveは前記測定領域のうち前記SiCエピタキシャルウェハの最も外周に近い部分に配置された測定領域の発光強度の平均値である。aveは全測定領域の発光強度の平均値である。)
【0033】
上記式(3)は、SiCエピタキシャルウェハの最も外周に近い部分に配置された測定領域の発光強度が抑制されていることを示す。本実施形態のSiCエピタキシャルウェハが式(3)を満たすものである場合、PL光の発光強度が他の部分よりも高くなりやすいSiCエピタキシャルウェハの外周に近い部分の発光強度が十分に抑制されたものとなる。本実施形態のSiCエピタキシャルウェハは、{最外周ave/ave}×100の値が200(%)以下であることがより好ましく、120(%)以下であることがより好ましく、小さい程よい。
【0034】
本実施形態において、表面にSiCエピタキシャル層を有するSiCエピタキシャルウェハに、波長313nmの励起光を照射し、各測定領域ごとに、波長660nm以上のPL光の発光強度を測定する方法としては、従来公知の装置および方法を用いることができる。
【0035】
本実施形態のSiCエピタキシャルウェハにおける表面の窒素濃度は、SiCエピタキシャルウェハの用いられる半導体デバイスの耐性および抵抗規格に応じて適宜決定される。本実施形態のSiCエピタキシャルウェハは、表面の窒素濃度が4×1018原子/cm3以下であることが好ましく、4×1017原子/cm3以下であることがより好ましく、4×1016原子/cm3以下であることがさらに好ましい。表面の窒素濃度が4×1018原子/cm3以下であると、表面の濃度測定・検査が容易であり、しかもデバイスの耐圧不良およびオン抵抗不良を防止できるSiCエピタキシャルウェハとなるため好ましい。
【0036】
本実施形態のSiCエピタキシャルウェハにおける表面のアルミニウム濃度は、SiCエピタキシャルウェハの用いられる半導体デバイスの耐性および抵抗規格に応じて適宜決定される。本実施形態のSiCエピタキシャルウェハは、表面のアルミニウム濃度が4×1018原子/cm3以下であることが好ましく、4×1017原子/cm3以下であることがより好ましく、4×1016原子/cm3以下であることがさらに好ましい。表面のアルミニウム濃度が4×1018原子/cm3以下であると、表面の濃度測定・検査が容易であり、しかもデバイスの耐圧不良およびオン抵抗不良を防止できるSiCエピタキシャルウェハとなるため好ましい。
【0037】
本実施形態のSiCエピタキシャルウェハは、表面の酸素濃度が1×1014原子/cm3未満であることが好ましい。表面の酸素濃度が1×1014原子/cm3未満であると、SiCエピタキシャル層に、波長313nmの励起光を照射して発光する波長660nm以上のPL光の発光強度が、表面の酸素濃度に起因する付加的な発光によって高くなることがない。SiCエピタキシャルウェハの表面の酸素濃度は1×1013原子/cm3以下であることがより好ましく、低いほどよい。
【0038】
本実施形態のSiCエピタキシャルウェハは、表面の三角欠陥密度が1cm-2以下であることが好ましい。表面の三角欠陥密度が1cm-2以下であるSiCエピタキシャルウェハは、十分に欠陥の少ないものであり、半導体デバイス用のウェハとして好ましい。表面の三角欠陥密度は0.1cm-2以下であることがより好ましく、少ない程よい。
【0039】
本実施形態のSiCエピタキシャルウェハの大きさは、特に限定されるものではなく、直径150mm(6インチ)以上のものであってもよいし、直径200mm(8インチ)以上のものであってもよい。本実施形態のSiCエピタキシャルウェハが直径200mm(8インチ)以上の大口径のものである場合、半導体デバイス用のウェハとして用いることにより、半導体デバイスを効率よく生産でき、好ましい。
【0040】
[SiCエピタキシャルウェハの製造方法]
本実施形態のSiCエピタキシャルウェハは、例えば、以下に示す製造方法を用いて製造できる。
まず、公知の方法により、SiCエピタキシャル層が積層される前の基板であるSiC単結晶基板を製造する。次いで、SiC単結晶基板の表面にSiCエピタキシャル層を積層し、本実施形態のSiCエピタキシャルウェハを製造する。
【0041】
本実施形態では、SiC単結晶基板の表面にSiCエピタキシャル層を積層する装置(「エピ装置」という場合がある)として、1つ以上の石英からなる部材が備えられ、石英からなる部材の一部または全部が、真空熱処理を行ってから設置されたものを用いる。真空熱処理は、エピ装置の有する石英からなる部材の全部に行うことが好ましい。エピ装置は、石英からなる部材が備えられているものであればよく、縦型炉を備えるものであってもよいし、横型炉を備えるものであってもよい。
【0042】
図1は、本実施形態のSiCエピタキシャルウェハを製造する際に使用できるエピ装置の一例を説明するための概略断面図である。
図1に示すエピ装置100は、チャンバー20と、支持体30と、サセプタ40と、下部ヒーター50と、上部ヒーター60とを有する。
図1は、SiC単結晶基板1がサセプタ40に載置された状態を示す。
【0043】
チャンバー20は、成膜空間Sを取り囲む本体21と、成膜空間Sにガスを供給するガス導入部22と、成膜空間Sからガスを排出するガス排出口23とを有する。
図1に示すエピ装置100は、成膜空間S内に設置されたSiC単結晶基板1の載置面の上方に、ガス導入部22が配置され、SiC単結晶基板1の載置面下方にガス排出口23が配置された縦型炉である。
【0044】
本体21は、中空の略円柱形状を有する。本体21の壁面は、
図1に示すように、内層21aと、断熱層21bと、外層21cとを有する。内層21aは、例えば、等方性黒鉛などで形成されている。断熱層21bは、例えば、カーボンで形成されている。外層21cは、例えば、ステンレスなどの金属で形成されている。
【0045】
ガス導入部22は、本体21の上面中央に設けられ、本体21と同心で本体21よりも直径の小さい中空の略円柱形状を有する。ガス導入部22は、
図1に示すように、ガス導入部22の内壁面を形成している内壁部材22aと、ガス導入部22の外壁面を形成している外壁部材22bと、内壁部材22aの上端を覆うように設置された整流板22cと、外壁部材22bの上端を覆うように設置されたガス供給配管22dとを有する。ガス供給配管22dは、外部から整流板22cを介して本体21内の成膜空間Sに原料ガス、ドーパントガス、パージガスなどのガスを供給する。整流板22cは、ガス供給配管22dから供給されるガスを整流する。整流板22cには、平面視で所定の位置に、所定の形状を有する孔(不図示)が設けられている。
図1に示すエピ装置100では、ガス導入部22の内壁部材22aおよび整流板22cが石英からなる。外壁部材22bおよびガス供給配管22dは、例えば、ステンレスなどの金属で形成されている。
【0046】
図1に示すエピ装置100では、ガス導入部22に備えられている内壁部材22aおよび整流板22cが、石英からなる部材である場合を例に挙げて説明したが、エピ装置100に備えられている部材のうち、1つ以上の部材が石英からなるものであればよい。エピ装置100に備えられている石英からなる部材は、ガス導入部22を形成しているものであることが好ましく、特に、SiC単結晶基板1に到達してSiCエピタキシャル層の成長に寄与する原料ガス、ドーパントガス、パージガスなどのガスに直接晒される整流板22cおよび内壁部材22aなどの部材が、石英からなる部材であることが好ましい。SiC単結晶基板1の表面に形成されるSiCエピタキシャル層に、欠陥が形成されたり、汚染物質が付着したりすることを防止できるためである。
【0047】
本実施形態の製造方法を用いてSiCエピタキシャルウェハを製造する場合、エピ装置100に備えられている石英からなる部材のうち少なくとも一部が、以下に示す真空熱処理を行ってから設置されているエピ装置100を用いる。上記石英からなる部材のうち少なくとも一部を、真空熱処理してからエピ装置100に設置することにより、エピ装置100を用いて製造したSiCエピタキシャルウェハのPL光の発光強度が均一になるとともに、SiCエピタキシャル層の汚染を効果的に抑制できる。エピ装置100に設置されている石英からなる部材が、真空熱処理を行ってから設置されたものであることの効果がより顕著に得られるため、エピ装置100に備えられている石英からなる部材の全部が、真空熱処理を行ってから設置されていることが好ましい。
【0048】
本実施形態において、エピ装置100に設置される石英からなる部材の真空熱処理は、エピ装置100から取り外した状態で真空熱処理装置を用いて行う。エピ装置100内に設置した状態の石英からなる部材の少なくとも一部に対して、エピ装置100内で真空熱処理を行うと、真空熱処理の効果が十分に得られなかったり、石英からなる部材の周辺に配置された別の材料からなる部材に悪影響を来したりする場合があるからである。
【0049】
石英からなる部材の真空熱処理では、石英からなる部材を1kPa以下の圧力下、600℃以上の温度で、1時間以上保持する。このことにより、石英からなる部材中に含まれる水分子を十分に石英から離脱させて除去できる。
【0050】
より詳細には、真空熱処理における温度が600℃以上であるので、石英からなる部材中に含まれる水分子を石英から脱離させる効果が得られる。真空熱処理の温度は、800℃以上であることが好ましく、900℃以上であることがより好ましい。真空熱処理の温度が800℃以上であると、石英からなる部材中での水分子の拡散が促進されて、石英から水分子が脱離しやすくなる。このため、真空熱処理の温度が800℃以上であると、真空熱処理における保持時間が短時間で済み、効率よく真空熱処理を行うことができる。真空熱処理における温度は、石英からなる部材が失透したり、溶融したりすることがないため、1300℃以下とすることが好ましく、1000℃以下とすることがより好ましい。
【0051】
また、真空熱処理における圧力が1kPa以下であるので、石英からなる部材中に含まれる水分子を石英から脱離させる効果が得られる。真空熱処理の圧力は、1×10-2Pa以下であることが好ましく、1×10-4Pa以下であることがより好ましい。真空熱処理によって、石英からなる部材中に含まれる水分子を石英から脱離させる効果がより効果的に得られるためである。
【0052】
また、真空熱処理における保持時間が1時間以上であるので、石英からなる部材中に含まれる水分子を石英から脱離させる効果が得られる。真空熱処理の保持時間は、2時間以上であることが好ましく、4時間以上であることがより好ましい。真空熱処理によって、石英からなる部材中に含まれる水分子を石英から脱離させる効果がより効果的に得られるためである。真空熱処理における保持時間は、100時間以下であることが好ましく、50時間以下であることがより好ましい。真空熱処理を短時間で行うことができ、生産性が良好となるためである。
【0053】
本実施形態における石英からなる部材の真空熱処理は、石英からなる部材を備えるエピ装置100を用いてSiCエピタキシャルウェハを製造する前に一度だけ行えばよい。SiCエピタキシャルウェハを製造した後、再度SiCエピタキシャルウェハを製造するまでの間に、石英からなる部材の最表面に水分が付着することがあっても、石英からなる部材を製造する過程で、石英からなる部材中に取り込まれる水分子量と比較して、非常に少ないためである。なお、本実施形態における石英からなる部材の真空熱処理は、石英からなる部材を備えるエピ装置100を用いてSiCエピタキシャルウェハを製造する前に、毎回行ってもよいし、間欠的に行ってもよい。
真空熱処理を行った石英からなる部材は、公知の方法により、エピ装置100の所定の場所に設置される。
【0054】
図1に示すエピ装置100に備えられている支持体30は、SiC単結晶基板1を支持する。支持体30は、軸中心に回転可能である。SiC単結晶基板1は、例えば、サセプタ40に載置された状態で、支持体30に載置される。
サセプタ40は、SiC単結晶基板1を載置した状態で、チャンバー20内に搬送される。
下部ヒーター50は、支持体30内に設置されている。下部ヒーター50は、支持体30を介して、SiC単結晶基板1を加熱する。
上部ヒーター60は、チャンバー20の上部を、チャンバー20の外から加熱する。
【0055】
本実施形態において、SiC単結晶基板1の表面にSiCエピタキシャル層を積層する方法としては、石英からなる部材の一部または全部に上記の真空熱処理がなされたエピ装置100を用いること以外は、従来公知の方法を用いることができる。
以下、本実施形態のSiCエピタキシャルウェハの製造方法の一例として、
図1に示すエピ装置100を用いて、SiC単結晶基板1の表面にSiCエピタキシャル層を積層する方法を例に挙げて説明する。
【0056】
まず、
図1に示すように、SiC単結晶基板1をサセプタ40上に載置し、チャンバー20内の成膜空間Sに搬送する。その後、SiC単結晶基板1上に、SiCエピタキシャル層を成膜する。
SiCエピタキシャル層の成膜方法としては、例えば、下部ヒーター50および上部ヒーター60によってSiC単結晶基板1を1550℃以上に加熱し、ガス導入部22からSiC単結晶基板1上の成膜空間Sに1550℃~1700℃のガスを供給する方法を用いることができる。
【0057】
SiCエピタキシャル層の成膜に使用されるガスとしては、例えば、原料ガス、ドーパントガス、パージガスが挙げられる。原料ガスとしては、Si原料ガスおよびC原料ガスを用いる。Si原料ガス、C原料ガス、ドーパントガス、パージガスは、それぞれ独立して供給してもよいし、一部または全部を混合して供給しても良い。
【0058】
Si原料ガスは、分子内にSiを含むガスである。Si原料ガスとしては、例えば、モノシラン(SiH4)を用いることができる。Si原料ガスとしては、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、トリクロロシラン(SiHCl3)、テトラクロロシラン(SiCl4)など、エッチング作用を有する塩素系Si原料含有ガス(クロライド系原料ガス)を用いてもよい。また、Si原料ガスには、塩化水素ガスを添加してもよい。
C原料ガスとしては、例えば、プロパン(C3H8)、エチレン(C2H4)等を用いることができる。
【0059】
ドーパントガスは、SiCエピタキシャル層中のキャリアとなる元素を含むガスであり、SiC単結晶基板1上に積層されるSiCエピタキシャル層の導電性を制御する。ドーパントガスとしては、例えば、導電型をn型とする場合には、窒素等を用いることができる。導電型をp型とする場合には、TMA(トリメチルアルミニウム)等を用いることができる。
パージガスは、原料ガスおよびドーパントガスを、SiC単結晶基板1の表面に搬送するガスである。パージガスとしては、例えば、SiCに対して不活性な水素等を用いることができる。パージガスの流量は、C原料ガスの流量の20倍以上とすることが好ましい。
以上の工程により、本実施形態のSiCエピタキシャルウェハが得られる。
【0060】
本実施形態のSiCエピタキシャルウェハは、表面にSiCエピタキシャル層を有するSiCエピタキシャルウェハに、波長313nmの励起光を照射し、表面を分割してなる一辺が2mmの正方形の測定領域ごとに、波長660nm以上のPL光の発光強度を測定した結果が、式(1)を満たす。したがって、励起光を照射することによって発光するSiCエピタキシャル層からのPL光の発光強度が均一である。このため、本実施形態のSiCエピタキシャルウェハは、SiCエピタキシャル層からのPL光の発光強度の差異によってSiCエピタキシャルウェハを評価する際に、高精度で評価できる。また、本実施形態のSiCエピタキシャルウェハには、欠陥が存在していないのにPL光の発光強度が高い領域は存在しない。よって、本実施形態のSiCエピタキシャルウェハを用いた半導体デバイスは、キャリア寿命の低下によるデバイス動作への影響が生じることがなく、好ましい。
【0061】
上述した実施形態においては、
図1に示すエピ装置100を用いて、SiC単結晶基板1の表面にSiCエピタキシャル層を積層する方法を例に挙げて説明したが、
図2に示すエピ装置101を用いて、SiC単結晶基板1の表面にSiCエピタキシャル層を積層してもよい。
【0062】
図2は、本実施形態のSiCエピタキシャルウェハを製造する際に使用できるエピ装置の他の一例を説明するための概略断面図である。
図2に示すエピ装置101において、
図1に示すエピ装置100と同じ部材については、同じ符号を付し、説明を省略する。
図2に示すエピ装置101と、
図1に示すエピ装置100とが異なるところは、
図2に示すエピ装置101では、ガス導入部22とSiC単結晶基板1の載置面との間に、複数(
図2においては3枚)の遮熱板70が設置されているところである。
【0063】
遮熱板70は、成膜空間S内において、上部ヒーター60からの輻射を反射して、ガス導入部22に備えられている内壁部材22aおよび整流板22cを遮熱する。遮熱板70としては、例えば、カーボンからなる板部材と、板部材の表面を被覆するSiC層又はTaC層とを含むものが挙げられる。
【0064】
遮熱板70の形状は、
図2に示すように、中心に孔を有する平面視略円形の板状とすることができ、ガス導入部22からSiC単結晶基板1に供給されるガスの供給状態に悪影響を来すことのない形状であればよく、特に限定されない。また、遮熱板70の枚数は、特に限定されるものではなく、遮熱板70およびSiC単結晶基板1の大きさ、遮熱板70の厚み、材料などに応じて適宜決定される。
【0065】
図2に示すエピ装置101を用いて、SiC単結晶基板1の表面にSiCエピタキシャル層を積層する方法としては、
図1に示すエピ装置100を用いる場合と同様の方法を用いることができる。
【0066】
図2に示すエピ装置101を用いてSiC単結晶基板1の表面にSiCエピタキシャル層を積層する場合、遮熱板70によって、ガス導入部22に備えられている内壁部材22aおよび整流板22cの温度上昇が抑制される。このため、波長313nmの励起光を照射することによって発光するSiCエピタキシャル層からの波長660nm以上のPL光の発光強度が、より均一なSiCエピタキシャルウェハが得られる。これは、真空熱処理した石英からなる部材(
図2においては、内壁部材22aおよび整流板22c)の温度上昇が抑制されることによって、真空熱処理した石英からなる部材に水分子が残留していたとしても、SiCエピタキシャル層を成長させる際に石英からなる部材からの水分子の離脱が抑制されるためであると推定される。
【0067】
上述した実施形態においては、エピ装置として、
図1および
図2に示すように、縦型炉を備えるエピ装置100、101を用いる場合を例に挙げて説明したが、エピ装置は、石英からなる部材が備えられているものであればよく、横型炉を備えるものであってもよい。
【0068】
横型炉を備えるエピ装置としては、例えば、以下に示すものを用いることができる。
図3~
図6は、本実施形態のSiCエピタキシャルウェハを製造する際に使用できるエピ装置の他の一例を説明するための概略断面図である。
図3~
図6に示すエピ装置102、103、104、105において、
図1に示すエピ装置100と同じ部材については、同じ符号を付し、説明を省略する。
【0069】
図3~
図6に示すエピ装置102、103、104、105では、
図1に示すエピ装置100と異なり、チャンバー20の対向する側面に、ガス導入部22とガス排出口23がそれぞれ配置されている。また、
図3~
図6に示すエピ装置102、103、104、105では、
図1に示すエピ装置100と異なり、ガス排出口23の内壁に、石英からなる部材である内層23aが設けられている。
図3~
図6に示すエピ装置102、103、104、105では、成膜空間Sの下面を形成している内層21a上に、SiC単結晶基板1が設置される。
【0070】
図3に示すエピ装置102では、成膜空間S内の上面を形成している内層21aと断熱層21bとの間に上部ヒーター60aが設置され、成膜空間S内の下面を形成している内層21aと断熱層21bとの間に下部ヒーター60bが設置されている。
図3に示すエピ装置102における内壁部材22aおよび整流板22c、内層23aは、真空熱処理した石英からなる部材である。
【0071】
図4に示すエピ装置103が、
図3に示すエピ装置102と異なるところは、本体21が、内側から内層21aと、断熱層21bと、第1石英層21dと、第2石英層21eとが、この順に積層された構造を有するところと、上部ヒーター60aおよび下部ヒーター60bを有さず、本体21の外面に誘電コイル80が設置されているところである。
図4に示すエピ装置103における内壁部材22aおよび整流板22c、第1石英層21d、第2石英層21e、内層23aは、真空熱処理した石英からなる部材である。
【0072】
図5に示すエピ装置104が、
図3に示すエピ装置102と異なるところは、断熱層21bと外層21cとの間に、第1石英層21dが設置されているところと、上部ヒーター60aおよび下部ヒーター60bを有さず、第1石英層21dと外層21cとの間に、誘電コイル80が設置されているところである。
図5に示すエピ装置104における内壁部材22aおよび整流板22c、第1石英層21d、内層23aは、真空熱処理した石英からなる部材である。
図5に示すエピ装置104では、成膜空間Sの下面を形成している内層21a上におけるガス導入部22とガス排出口23とを繋ぐ線上に、
図5に示すように、2枚のSiC単結晶基板1が並べて設置されてもよいし、1枚のSiC単結晶基板1のみが設置されてもよい。また、
図5に示すエピ装置104では、成膜空間Sの下面を形成している内層21a上に、3枚~8枚のSiC単結晶基板1が等間隔に円環状に並べて設置されてもよい。
【0073】
図6に示すエピ装置105が、
図3に示すエピ装置102と異なるところは、略円柱形状を有するチャンバー20の上面中央に平面視略円形の凹部状のガス導入部25が配置され、ガス導入部25の有する2つのガス供給配管25dと対向するチャンバー20の側面に、それぞれガス排出口23が配置されているところと、上部ヒーター60aおよび下部ヒーター60bを有さず、断熱層21bと外層21cとの間に、誘電コイル80が設置されているところである。
【0074】
図6に示すエピ装置105におけるガス導入部25は、チャンバー20の内壁の一部を形成している平面視略円形の凹状の内壁部材25aと、内壁部材25aの凹状形状の内側に沿って配置され、チャンバー20の外層21cの一部を形成している平面視略円形の凹状の外壁部材25bとを有する。さらに、ガス導入部25は、内壁部材25aの側面から延在して設けられた2つの整流板25cと、2つの整流板25cそれぞれと対向して外壁部材25bに設けられた2つのガス供給配管25dとを有する。
図6に示すエピ装置105では、ガス導入部22の内壁部材22aおよび整流板22c、内層23aが、真空熱処理した石英からなる部材である。
図6に示すエピ装置105では、成膜空間Sの下面を形成している内層21a上における2つのガス導入部25とガス排出口23とを繋ぐ線上に、それぞれSiC単結晶基板1が設置される。また、
図6に示すエピ装置105では、成膜空間Sの下面を形成している内層21a上に、3枚~8枚のSiC単結晶基板1が等間隔に円環状に並べて設置されてもよい。
【0075】
図1~
図6に示すエピ装置100、101、102、103、104、105は、真空熱処理を行ってから設置された石英からなる部材を有する。したがって、これらのエピ装置100、101、102、103、104、105から選ばれるいずれかのエピ装置を用いて、SiC単結晶基板1の表面にSiCエピタキシャル層を積層する場合、石英からなる部材から石英に含まれる水分子が離脱することがない。その結果、表面にSiCエピタキシャル層を有するSiCエピタキシャルウェハに、波長313nmの励起光を照射し、表面を分割してなる一辺が2mmの正方形の測定領域ごとに、波長660nm以上のフォトルミネッセンス光の発光強度を測定した結果が、式(1)を満たす本実施形態のSiCエピタキシャルウェハが得られる。
【実施例0076】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0077】
「実施例1」
直径6インチのSiC単結晶基板を用意した。次いで、
図1に示すエピ装置100を用いて、SiC単結晶基板1の表面にSiCエピタキシャル層を積層し、実施例1のSiCエピタキシャルウェハを得た。
【0078】
図1に示すエピ装置100において、ガス導入部22に備えられている内壁部材22aおよび整流板22cは、石英からなる部材である。内壁部材22aおよび整流板22cは、以下に示す真空熱処理を行ってからエピ装置100に設置した。
【0079】
真空熱処理として、エピ装置100から取り外した状態の石英からなる部材に、真空熱処理装置を用いて、1×10
-3Pa以下の圧力下で、1000℃で、48時間保持する熱処理を行った。
真空熱処理した石英からなる部材は、真空熱処理後、真空熱処理装置内で室温まで冷却し、
図1に示すエピ装置100に設置した。
【0080】
また、サセプタ40上にSiC単結晶基板1を載置し、
図1に示すエピ装置100のチャンバー20内の成膜空間Sに搬送した。その後、SiC単結晶基板1上に、SiCエピタキシャル層を成膜した。
SiCエピタキシャル層の成膜は、下部ヒーター50および上部ヒーター60によってSiC単結晶基板1を1600℃に加熱し、ガス導入部22のガス供給配管22dからSi原料ガスと、C原料ガスと、ドーパントガスと、パージガスとを供給し、整流板22cを通過した1600℃のガスを、SiC単結晶基板1上の成膜空間Sに供給する方法を用いた。
【0081】
以上の工程により、SiC単結晶基板1の表面に厚み350μmのSiCエピタキシャル層を有する実施例1のSiCエピタキシャルウェハを得た。
【0082】
「実施例2」
図1に示すエピ装置100に代えて、カーボンからなる板部材と、板部材の表面を被覆するSiC層とからなる、中心に孔を有する平面視略円形の板状の遮熱板70が3枚設置された
図2に示すエピ装置101を用いたこと以外は、実施例1のSiCエピタキシャルウェハと同様の方法により、実施例2のSiCエピタキシャルウェハを得た。
【0083】
「比較例1」
真空熱処理を行わずにエピ装置100に、内壁部材22aおよび整流板22cを設置したこと以外は、実施例1のSiCエピタキシャルウェハと同様の方法により、比較例1のSiCエピタキシャルウェハを得た。
【0084】
このようにして得られた実施例1および実施例2、比較例1のSiCエピタキシャルウェハに励起光を照射し、表面を分割してなる一辺が2mmの正方形の測定領域ごとにPL光の発光強度(PL強度)を測定した。PL光の測定条件を以下に示す。
[PL光測定条件]
PL光測定装置:Lasertec社製(商品名;SICA88)
測定温度:室温
励起波長:313nm
測定波長:660nm以上の近赤外領域(NIR領域)
【0085】
また、測定領域ごとにPL光の発光強度を測定した結果を用いて、{(max-min)/ave}×100(%)(式中、maxは全測定領域の発光強度の最大値である。minは全測定領域の発光強度の最小値である。aveは全測定領域の発光強度の平均値である。)の値を算出した。その結果を表1に示す。
また、測定領域ごとにPL光の発光強度を測定した結果を用いて、{最外周ave/ave}×100(%)(式中、最外周aveは前記測定領域のうち前記SiCエピタキシャルウェハの最も外周に近い部分に配置された測定領域の発光強度の平均値である。aveは全測定領域の発光強度の平均値である。)の値を算出した。その結果を表1に示す。
【0086】
【0087】
また、実施例1および比較例1について、SiCエピタキシャルウェハの直径に沿う測定領域ごとのPL光の発光強度の測定結果から、SiCエピタキシャルウェハの直径方向の中心からの位置(X座標)とPL光の発光強度(PL強度)との関係を調べた。その結果を
図7に示す。
【0088】
表1に示すように、実施例1および実施例2は、比較例1と比較して、全測定領域から得たPL光の発光強度の均一性を示す{(max-min)/ave}×100の値が非常に低い結果となった。
また、実施例1および実施例2は、比較例1と比較して、SiCエピタキシャルウェハの最も外周に近い部分に配置された測定領域の発光強度が抑制されていることを示す{最外周ave/ave}×100の値が非常に低い結果となった。特に、実施例2では、{最外周ave/ave}×100の値が低い結果となった。これは、実施例2では、遮熱板70によって、SiCエピタキシャル層を成膜する際における、ガス導入部22に備えられている内壁部材22aおよび整流板22cの温度上昇が抑制されたためであると推定される。
【0089】
また、
図7に示すように、実施例1は、SiCエピタキシャルウェハの直径方向のどの位置であっても、比較例1と比較して、PL光の発光強度が低かった。
また、比較例1では、SiCエピタキシャルウェハの外周に近い部分に配置された測定領域の発光強度が非常に高くなっている。これに対し、実施例1では、SiCエピタキシャルウェハの外周に近い部分に配置された測定領域の発光強度が抑制されている。
【0090】
また、実施例1および実施例2、比較例1のSiCエピタキシャルウェハを、二次イオン質量分析(SIMS)装置(カメカ社製;ダイナミックSIMS)を用いて分析し、酸素濃度、窒素濃度、アルミニウム濃度をそれぞれ求めた。その結果を表2に示す。
【0091】
また、実施例1および実施例2、比較例1のSiCエピタキシャルウェハを、光学顕微鏡(Lasertec社製;商品名SICA88)を用いて観察し、焦点の位置をSiCエピタキシャルウェハの表面からSiCエピタキシャル層とSiC単結晶基板との界面の方(SiCエピタキシャル層の深さ方向)へずらすことにより、粒子状付着物を起点とする三角欠陥の有無を確認し、その密度を求めた。その結果を表2に示す。
【0092】
【0093】
表2に示すように、実施例1および実施例2、比較例1は、いずれも、酸素濃度、窒素濃度、アルミニウム濃度が十分に低いものであった。
なお、二次イオン質量分析(SIMS)装置を用いて分析した場合の酸素濃度の検出下限は、1×1015原子/cm3である。このため、表2に示すように、上記の酸素分析の結果からは、実施例1および実施例2、比較例1のSiCエピタキシャルウェハの表面の酸素濃度が1×1014原子/cm3未満であるか否かを判断できない。
【0094】
しかし、実施例1および実施例2のSiCエピタキシャルウェハは、表1に示すように、全測定領域から得たPL光の発光強度の均一性を示す{(max-min)/ave}×100の値が非常に低い結果であった。このことから、実施例1および実施例2のSiCエピタキシャルウェハは、表面の酸素濃度が1×1014原子/cm3未満になっているものと推定できる。これは、SiCエピタキシャルウェハの表面の酸素濃度が1×1014原子/cm3超えであると、SiCエピタキシャルウェハに、波長313nmの励起光を照射して発光する波長660nm以上のPL光の発光強度が、表面の酸素濃度に起因する付加的な発光によって高くなる。その結果、全測定領域から得たPL光の発光強度の均一性が劣るものとなり、{(max-min)/ave}×100の値が40(%)超となるからである。なお、PL光の発光強度が面内全体で大きくても、面内分布が均一であれば、バックグラウンド除去処理により補正することで、SiCエピタキシャル層からのPL光の発光強度の差異によってSiCエピタキシャルウェハを評価する際に、高精度で評価できる。
また、実施例1および実施例2、比較例1は、いずれも三角欠陥密度が十分に低いものであった。
【0095】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
1 SiC単結晶基板、20 チャンバー、21 本体、21a 内層、21b 断熱層、21c 外層、22 ガス導入部、22a 内壁部材、22b 外壁部材、22c 整流板、22d ガス供給配管、23 ガス排出口、30 支持体、40 サセプタ、50 下部ヒーター、60 上部ヒーター、70 遮熱板、100、101、102、103、104、105 エピ装置、S 成膜空間。