(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094605
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】手術計画支援システム
(51)【国際特許分類】
A61B 34/10 20160101AFI20240703BHJP
【FI】
A61B34/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211258
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】521380915
【氏名又は名称】秋山 武徳
(74)【代理人】
【識別番号】240000693
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人滝田三良法律事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 武徳
(72)【発明者】
【氏名】美山 和毅
(57)【要約】
【課題】膝周囲や股関節等の下肢関節治療のための手術計画を迅速且つ正確に作成することができる手術計画支援システムを提供する。
【解決手段】術前患者の下肢の内部情報を画像にした下肢内部画像から解剖学的指標を検出する指標検出部2と、指標検出部2によって検出された解剖学的指標を基に、術後目標下肢アライメントを入力することで、術前下肢アライメント、術後下肢アライメントを含む手術計画データを生成する手術計画データ生成部3と、手術計画データ生成部3による計画データを下肢内部画像上に可視化する画像生成部4とを備える。指標検出部2は、下肢内部画像中に検出すべき指標をアノテーションした教師データを用いて訓練された人工知能を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
術前患者の下肢の内部情報を画像にした下肢内部画像から解剖学的指標を検出する指標検出部と、指標検出部によって検出された解剖学的指標を基に、術後目標下肢アライメントを入力することで、術前下肢アライメント、術後下肢アライメントを含む手術計画データを生成する手術計画データ生成部と、手術計画データ生成部による計画データを前記下肢内部画像上に可視化する画像生成部とを備え、
前記指標検出部は、前記下肢内部画像中に検出すべき指標をアノテーションした教師データを用いて訓練された人工知能を備えていることを特徴とする手術計画支援システム。
【請求項2】
骨切り術術前患者の下肢の内部情報を画像にした下肢内部画像から解剖学的指標を検出する指標検出部と、指標検出部によって検出された解剖学的指標を基に、術後目標下肢アライメントまたは骨切り矯正角を入力することで、術前下肢アライメント、術後下肢アライメント及び骨切り矯正角を含む手術計画データを生成する手術計画データ生成部と、手術計画データ生成部による計画データを前記下肢内部画像上に可視化する画像生成部とを備え、
前記指標検出部は、前記下肢内部画像中に検出すべき指標をアノテーションした教師データを用いて訓練された人工知能を備えていることを特徴とする手術計画支援システム。
【請求項3】
前記手術計画データ生成部は、前記指標検出部によって検出した解剖学的指標を基に術前の下肢アライメントを自動推定し、手術計画データ生成部に入力されるデータが骨切り術後の目標下肢アライメントであるとき、目標下肢アライメントと前記指標検出部によって検出した解剖学指標とに基づいて骨切り矯正角を自動推定し、この推定した骨切り矯正角により骨切りをシミュレーションし術後の下肢アライメントを自動推定し、また手術計画データ生成部に入力されるデータが骨切り術で用いる骨切り矯正角であるとき、この骨切り矯正角で骨切りをシミュレーションし、前記指標検出部によって検出した解剖学的指標に基づいて術後下肢アライメントを自動推定する自動推定部を備えることを特徴とする請求項2記載の手術計画支援システム。
【請求項4】
前記下肢内部画像は、レントゲン画像であることを特徴とする請求項1~3の何れか1項記載の手術計画支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膝周囲や股関節等の下肢関節治療のための手術を行う際に、術前の手術計画の作成を支援する手術計画支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、骨切り術等の手術によって下肢の形態的異常を改善する際には、術後の下肢の形態を目標として術前に手術計画を立て、当該計画に沿って手術が行われる。近年では、この種の手術計画を作成するために、コンピュータによる医療用の作図ソフトウエアを用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
コンピュータによる医療用の作図ソフトウエアを用いることにより、従来手作業で行われていた手術計画上の作図作業等を、比較的簡易に作成することができる。具体的には、例えば、下肢のX線画像に重ねて、股関節や、足首に対して、指標をプロットし、それに対して術前の下肢アライメントを計測し、計測により得られた値に基づいて術後の計画を立てる。
【0004】
しかし、上記従来のコンピュータによる医療用の作図ソフトウエアによると、コンピュータへの各種情報の入力作業や、コンピュータの表示画面上での指標のプロット作業を手作業で行う必要がある。
【0005】
このため、正確な手術計画の作成を高い水準で維持し難く、高い正確性を維持するためには、比較的長い作業時間が必要となり、効率の向上が十分でない不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の点に鑑み、本発明は、膝周囲や股関節等の下肢関節治療のための手術計画を迅速且つ正確に作成することができる手術計画支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明の術前患者の下肢の内部情報を画像にした下肢内部画像から解剖学的指標を検出する指標検出部と、指標検出部によって検出された解剖学的指標を基に、術後目標下肢アライメントを入力することで、術前下肢アライメント、術後下肢アライメントを含む手術計画データを生成する手術計画データ生成部と、手術計画データ生成部による計画データを前記下肢内部画像上に可視化する画像生成部とを備え、前記指標検出部は、前記下肢内部画像中に検出すべき指標をアノテーションした教師データを用いて訓練された人工知能を備えていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の手術計画支援システムは、骨切り術術前患者の下肢の内部情報を画像にした下肢内部画像から解剖学的指標を検出する指標検出部と、指標検出部によって検出された解剖学的指標を基に、術後目標下肢アライメントまたは骨切り矯正角を入力することで、術前下肢アライメント、術後下肢アライメント及び骨切り矯正角を含む手術計画データを生成する手術計画データ生成部と、手術計画データ生成部による計画データを前記下肢内部画像上に可視化する画像生成部とを備え、前記指標検出部は、前記下肢内部画像中に検出すべき指標をアノテーションした教師データを用いて訓練された人工知能を備えていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の手術計画支援システムにおいて、前記手術計画データ生成部は、前記指標検出部によって検出した解剖学的指標を基に術前の下肢アライメントを自動推定し、手術計画データ生成部に入力されるデータが骨切り術後の目標下肢アライメントであるとき、目標下肢アライメントと前記指標検出部によって検出した解剖学指標とに基づいて骨切り矯正角を自動推定し、この推定した骨切り矯正角により骨切りをシミュレーションし術後の下肢アライメントを自動推定し、また手術計画データ生成部に入力されるデータが骨切り術で用いる骨切り矯正角であるとき、この骨切り矯正角で骨切りをシミュレーションし、前記指標検出部によって検出した解剖学的指標に基づいて術後下肢アライメントを自動推定する自動推定部を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の手術計画支援システムにおいて、前記下肢内部画像は、レントゲン画像であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、下肢内部画像中に検出すべき指標をアノテーションした教師データを用いて訓練された人工知能を用いており、術後目標下肢アライメントまたは矯正角を入力するだけで、手術計画データが下肢内部画像上に可視化されるので、医師等の計画作成作業者の負担が軽減され、迅速且つ正確に手術計画を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態のシステム構成を模式的に示すブロック図。
【
図2】本実施形態のシステムにおいて自動計測する下肢アライメントの例を示す図。
【
図4】手術の前後での下肢アライメントを測定する工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の手術計画支援システムは、骨切り術を行う際に、術前の手術計画の作成を支援するものである。本実施形態においては、膝周囲の治療として骨切り術を行う場合を例として説明する。
【0015】
本実施形態の手術計画支援システムは、
図1に示すように、コンピュータ1により構築され、コンピュータ1に格納したプログラムの実行により、指標検出部2、手術計画データ生成部3、及び、画像生成部4が機能として設けられる。
【0016】
指標検出部2は、骨切り術術前患者の下肢のレントゲン画像から解剖学的指標を検出する。指標検出部2は、所謂人工知能を用いている。当該人工知能は、骨切り術術前患者の下肢のレントゲン画像中に検出すべき解剖学的指標をアノテーションした教師データを用いて訓練されている。
【0017】
手術計画データ生成部3は、術前下肢アライメント、術後下肢アライメント及び骨切り矯正角を含む手術計画データを生成する。コンピュータ1は、キーボード等の入力装置5を備えており、手術計画データ生成部3は、医師等の操作者が入力装置5の入力操作により設定した術後目標下肢アライメントまたは骨切り矯正角と、指標検出部2が検出した解剖学的指標とを用いて、上記の手術計画データを生成する。
【0018】
更に、手術計画データ生成部3は、機能としての自動推定部6を備えている。自動推定部6は、指標検出部2において人工知能が検出した解剖学的指標に基づき、術前の下肢アライメントと、骨切り矯正角と、術後の下肢アライメントとを自動推定する。
【0019】
詳細には、自動推定部6は、指標検出部2によって検出した解剖学的指標に基づいて、術前の下肢アライメントを自動推定する。また、医師等の操作者が入力装置5を介して入力したデータが、術後の目標下肢アライメントであるとき、自動推定部6は、目標下肢アライメントと指標検出部2によって検出した解剖学指標とに基づいて骨切り矯正角を自動推定し、次いで、この推定した骨切り矯正角により骨切りをシミュレーションし、術後の下肢アライメントを自動推定する。
【0020】
また、医師等の操作者が入力装置5を介して入力したデータが、骨切り術で用いる骨切り矯正角であるとき、自動推定部6は、入力された骨切り矯正角を用いて骨切りをシミュレーションし、指標検出部2によって検出した解剖学的指標に基づいて術後下肢アライメントを自動推定する。
【0021】
画像生成部4は、手術計画データ生成部3が生成した計画データを、骨切り術術前患者の下肢のレントゲン画像上に重ね合わせ、コンピュータ1が備えるディスプレイ等の表示画面7に表示することにより可視化する。
【0022】
ここで、上記構成による本実施形態の手術計画支援システムの操作手順を説明する。本実施形態の手術計画支援システムにおいては、自動推定部6により自動測定する下肢アライメントとして、
図2に示すように、HKA、%MA、mLDFA、mMPTA、mLDTA、JLCAの6つを挙げることができる。
【0023】
先ず、
図3に示すように、STEP1として、自動推定部6である人工知能(以下、AIという)に全下肢レントゲン画像を入力し、解剖学的指標(以下、ランドマークという)を検出させる。次いで、
図4に示すように、STEP2として、検出したランドマークに基づき、術前後の下肢アライメントを自動測定する。このとき、目標下肢アライメント、あるいは骨切り矯正角を設定する。
【0024】
目標下肢アライメントを設定する場合は、例えば、目標下肢アライメントとして術後%MAを62.5%と設定すると、本実施形態のシステムは、術前アライメントと、%MAを62.5%にするための骨切り矯正角、及び、術後のアライメントを自動測定する。
【0025】
また、骨切り矯正角を設定する場合は、例えば、骨切り矯正角を8度とすると、術前アライメントと、8度で骨切りした場合の骨切りシミュレーション後の下肢アライメントとを自動測定する。
【0026】
更に具体例を挙げて詳説すると、STEP1でAIに学習させる教師データは、大腿骨頭中心、大腿骨中心、脛骨中心、距骨中心、大腿骨遠位端、脛骨近位端、脛骨関節面内外縁、骨切りヒンジ点、骨切り開始点を含む。これらのランドマークを検出するように多数の全下肢レントゲン画像を用いてAIを学習させる。
【0027】
STEP2では、検出したランドマークに基づき、下肢アライメントを求めていく。例えば、
図5に示すように、術前のHKAを求める場合には、P1を大腿骨頭中心、P2を大腿骨中心、P3を脛骨中心、P4を距骨中心、P5を骨切りヒンジポイント、P6を骨切り開始点とする。
【0028】
術前のHKAはP1P2ベクトルとP3P4ベクトルのなす角θになる。これをベクトルの内積から算出するよう設定し、続いて、骨切り矯正角を設定する。本実施形態においては、実際の手術での矯正角を設定している。そしてP5P6の骨切り線より遠位を骨切り矯正角分だけ回転するようシミュレーションを行う。
【0029】
この操作でP1~P3は不変でP4はP5を中心に回転する。回転後の点をP4‘とおくと骨切りシミュレーション後のHKAはP1P2ベクトルとP3P4’ベクトルのなす角θ‘になる。P4‘は、骨切り後の距骨中心である。更に、術前と同様に、θ’を算出することができる。以上のように、他の下肢アライメントに関しても骨切り前後の値を自動計測する。
【0030】
以上のように、本実施形態の手術計画支援システムによれば、迅速且つ正確に骨切り術の手術計画を作成することができる。
【0031】
ここで、発明者は、本実施形態の手術計画支援システムを評価するために、手術計画支援システムによる手術計画の作成と、医師の手作業による手術計画の作成との比較を行った。その結果、手術計画支援システムによっても、医師の手作業と同等の精度が得られることが明らかとなった。従って、本実施形態の手術計画支援システムによれば、医師の手作業と同等の精度を得ながら、しかも、医師の手作業よりも短時間で手術計画を作成することができる。
【0032】
なお、本実施形態においては、膝周囲の骨切り術を例として挙げたが、これに限るものではない。本発明の手術計画支援システムは、例えば、膝周囲の骨切り術と同様に、下肢内部画像中に検出すべき指標をアノテーションした教師データを用いて指標検出部2のAIを訓練することで、人工膝関節置換術、人工股関節置換術や人工足関節置換術などの下肢の人工関節置換術を行う場合に採用して、上述の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0033】
また、本実施形態においては、下肢内部画像としてレントゲン画像を用いた例を示したが、下肢の各関節及び骨の鮮明な画像が得られれば、これに限らない。
【符号の説明】
【0034】
2…指標検出部、3…手術計画データ生成部、4…画像生成部、6…自動推定部。