(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094606
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】成形装置、成形品の状態表示方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B21J 5/00 20060101AFI20240703BHJP
G01N 3/00 20060101ALI20240703BHJP
G01N 3/18 20060101ALI20240703BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240703BHJP
C22F 1/18 20060101ALN20240703BHJP
C22F 1/04 20060101ALN20240703BHJP
B21D 22/00 20060101ALN20240703BHJP
【FI】
B21J5/00 Z
G01N3/00 K
G01N3/18
C22F1/00 604
C22F1/00 630A
C22F1/00 694B
C22F1/18 H
C22F1/00 694Z
C22F1/04 A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 630K
C22F1/00 626
B21D22/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211259
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】大西 城輝
(72)【発明者】
【氏名】川上 雅史
(72)【発明者】
【氏名】田幡 諭史
(72)【発明者】
【氏名】仁木 健人
【テーマコード(参考)】
2G061
4E087
4E137
【Fターム(参考)】
2G061AA05
2G061AB02
2G061AC03
2G061BA01
2G061BA19
2G061CA10
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2G061EA01
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2G061EA10
2G061EC02
2G061EC04
2G061EC10
4E087AA03
4E087AA08
4E087EA15
4E087EB07
4E087GA20
4E137AA01
4E137AA10
4E137BA05
4E137BA07
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4E137EA01
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4E137FA13
4E137FA15
4E137FA23
4E137FA25
(57)【要約】
【課題】成形品の歩留まり向上を図ることのできる成形装置、成形品の状態表示方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】
成形装置は、成形中に成形品強度を測定又は推定し(ステップS9)、測定又は推定された前記成形品強度を示す成形品強度情報を出力する(ステップS10)。成形品の状態表示方法は、成形中に成形品強度を測定又は推定し、測定又は推定された前記成形品強度を示す成形品強度情報を表示出力する。プログラムは、コンピュータを、成形中に成形品強度を測定又は推定し、測定又は推定された前記成形品強度を示す成形品強度情報を出力する手段として機能させる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形中に成形品強度を測定又は推定し、測定又は推定された前記成形品強度を示す成形品強度情報を出力する成形装置。
【請求項2】
前記成形品強度情報は、Zパラメータ、又は、成形品の耐力である請求項1記載の成形装置。
【請求項3】
測定又は推定された前記成形品強度が第1範囲を外れた場合に報知を行う請求項1記載の成形装置。
【請求項4】
成形中の材料温度、成形中の金型温度、並びに、成形中における材料のひずみ速度のうち1つ又は複数を測定し、該測定の結果に基づいて前記成形品強度を測定又は推定する請求項1記載の成形装置。
【請求項5】
前記成形品強度情報は、亜結晶粒の有無の情報、並びに、結晶粒径の情報の一方又は両方を含む、
請求項1記載の成形装置。
【請求項6】
測定又は推定された前記成形品強度に基づいて成形工程の改善点を示す情報を出力する請求項1記載の成形装置。
【請求項7】
成形中に成形品強度を測定又は推定し、測定又は推定された前記成形品強度を示す成形品強度情報を表示出力する成形品の状態表示方法。
【請求項8】
コンピュータを、
成形中に成形品強度を測定又は推定し、測定又は推定された前記成形品強度を示す成形品強度情報を出力する手段として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形装置、成形品の状態表示方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鍛造を模したFEM解析によって鍛造品の材質分布を推定する方法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現実の成形工程においては、温度のバラツキなど、精密に制御しきれない要因が幾つか含まれるのが通常である。そのため、従来の成形工程においては、なんらかの要素によって成形品の歩留まりが低下することがあった。
【0005】
本発明は、成形品の歩留まり低下を抑制することのできる成形装置、成形品の状態表示方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る成形装置は、
成形中に成形品強度を測定又は推定し、測定又は推定された前記成形品強度を示す成形品強度情報を出力する。
【0007】
本発明に係る成形品の状態表示方法は、
成形中に成形品強度を測定又は推定し、測定又は推定された前記成形品強度を示す成形品強度情報を表示出力する。
【0008】
本発明に係るプログラムは、
コンピュータを、
成形中に成形品強度を測定又は推定し、測定又は推定された前記成形品強度を示す成形品強度情報を出力する手段として機能させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、成形中に測定又は推定された成形品強度に基づく成形品強度情報が出力される。したがって、例えば複数の材料の成形処理を順々に行う連続成形処理において、ユーザは成形品強度情報を確認し、強度不足等がある場合に連続成形処理を改善することができる。よって成形品の歩留まり低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態の成形装置を示す構成図である。
【
図2】成形パラメータ(T,ε)とZパラメータとの関係を示すグラフである。
【
図3】Zパラメータと成形品の耐力及び結晶粒径との関係を示す第1のグラフ(a)及び第2のグラフ(b)である。
【
図4】実施形態の成形装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【
図5】成形装置の表示器の一表示例を示す画像図である。
【
図6】成形品の状態表示処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態の成形装置を示す構成図であり、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【0013】
実施形態に係る成形装置1は、金属の材料を塑性変形させて成形する装置である。成形装置1により成形処理される前の被成形物を材料と呼び、成形後の被成形物を成形品と呼ぶ。成形装置1は、例えば鍛造プレスであり、ベッド23、4つのアップライト22、クラウン21、ボルスタ24、スライド18、駆動部10、及び制御部(コンピュータ)100を備える。
【0014】
ベッド23、4つのアップライト22及びクラウン21は、成形装置1のフレームを構成する。4つのアップライト22は、ベッド23とクラウン21の前後左右の四隅に立設されている。ベッド23、4つのアップライト22及びクラウン21は、その内部にタイロッド25aが挿入され、タイロッドナット25bにより締め付けられることで、互いに締結される。ボルスタ24は、ベッド23上に固定され、その上部に下金型20Dが固定される。
【0015】
スライド18は、4つのアップライト22の各々に設けられたガイド19により、上下方向に進退可能に支持される。スライド18の下部には上金型20Uが固定される。スライド18が下降することで、上金型20Uと下金型20Dとが近接し、これらの間で材料が荷重を受けて鍛造成形される。以下では、上金型20Uと下金型20Dとを合わせて金型20とも言う。
【0016】
駆動部10は、モータ11、伝動軸12、減速機13、エキセン軸14及びコネクティングロッド15を備える。駆動部10は、クラウン21に支持される。モータ11が駆動されると、モータ11の回転運動が伝動軸12、減速機13、エキセン軸14の順に伝達され、エキセン軸14の回転運動がコネクティングロッド15を介してスライド18の並進運動に変換される。これにより、スライド18が上下方向に進退する。モータ11は、サーボモータであり、回転量が制御されることで、スライド18の進退速度を制御することができる。
【0017】
制御部100は、制御プログラムを実行するコンピュータであり、駆動部10を制御することで成形処理を実現する。
【0018】
なお、鍛造プレスである成形装置1は、上記の構成に限られない。鍛造プレスである成形装置1は、モータ、フライホイール及びクラッチブレーキを含んだ駆動部によってスライド18を進退させる鍛造プレスであってもよいし、流体圧(液圧)によりスライド18を進退させる流体圧式の鍛造プレスであってもよい。
【0019】
<成形品の強度>
成形品の強度に関係するパラメータとして、Zパラメータ(Zenner-Hollomon因子)が知られている。Zパラメータは、合金(アルミニウム合金、チタン合金等)の成形中における亜結晶粒組織の生成度合に関連した指標である。成形中とは、材料が金型20から荷重を受けている期間を意味し、この間に材料が塑性変形する期間が含まれる。
【0020】
亜結晶粒組織が生成されるということは、塑性変形中の転位の密度が低下し、熱処理過程の再結晶化が抑制され、よって成形品の強度が向上することを意味する。正常な塑性変形が得られる温度範囲において、Zパラメータが低いと亜結晶組織の高い生成度合が得られ、Zパラメータが高いと亜結晶組織の生成度合が低くなる。
【0021】
Zパラメータは、次式(1)のように、材料のひずみ速度εと、材料の絶対温度Tと、定数とから計算される。
Z = ε×exp(Q/RT) ・・・(1)
ここで、εはひずみ速度[1/sec]、Tは絶対温度[K]、Qは材料の活性化エネルギー[J/mol]、Rは気体定数[J/mol・K]である。活性化エネルギーQは、材料の組成により決定される定数であり、材料がアルミニウム合金であればAlの活性化エネルギーを意味する。
【0022】
図2は、成形パラメータ(T,ε)とZパラメータとの関係を示すグラフである。当該グラフにおいて、T
Z0は材料の溶融温度、T
Z1は材料の割れの誘発が現れる温度である。曲線Z
1は、Zパラメータ=閾値THzとなる曲線である。Zパラメータが取りうる値には、亜結晶粒組織の高い生成度合が得られる範囲と、亜結晶粒組織の生成度合が低くなる範囲とがあり、その境を閾値THzとしている。
【0023】
図2のグラフにおいて、領域A1は、高い強度の成形品が得られる成形パラメータ(成形中における絶対温度Tの値とひずみ速度εの値との組み合わせ)を示している。すなわち、成形中の材料の絶対温度Tとひずみ速度εとが領域A1に維持されることで、成形品の高い強度が実現される。領域A1は、正常な塑性変形が得られる温度範囲(割れ誘発温度T
Z1よりも低い範囲)で、かつ、Zパラメータが閾値THz以下(亜結晶粒組織の高い生成度合が得られる範囲)の領域に相当する。
【0024】
したがって、材料の成形中における成形パラメータが、領域A1から外れている場合には、領域A1に入るように成形パラメータを変更することが、成形工程の改善点となる。
【0025】
図3は、Zパラメータと耐力と結晶粒径との関係を示す第1のグラフ(a)及び第2のグラフ(b)である。
【0026】
図3(a)は、成形品の耐力とZパラメータとの相関グラフである。縦軸の「耐力」は、成形品の降伏耐力を示し、横軸の「Zパラメータ」は、材料の塑性変形中のZパラメータの最大値を示す。降伏耐力は、ユーザが設定した成形品の所定箇所での降伏耐力である。なお、「耐力」は成形直後の成形品の耐力ではなく、成形品に対して後処理(例えば熱処理)を加えた後の成形品の耐力を意味する。
【0027】
前述したように、Zパラメータと成形品の強度とは相関する。したがって、
図3(a)に示すように、Zパラメータと成形品の耐力も相関する。ユーザが設定した所定箇所での耐力と、Zパラメータとの関係は、試験又は有限要素法などの解析処理によって求めることができる。なお、上記の耐力は、降伏耐力に限られず、例えば0.2%耐力など、様々な定義の耐力を適用できる。さらに、上記のZパラメータは、成形中を通して得られる一連のZパラメータの最大値に限られず、Zパラメータの平均値、或いは、代表値などが適用されてもよい。
【0028】
したがって、成形中のZパラメータが測定されることで、Zパラメータと
図3(a)の相関関係とに基づいて、成形品の耐力を推定することが可能となる。
【0029】
図3(b)は、耐力と結晶粒径との相関グラフである。縦軸の「耐力」は、
図3(a)の「耐力」と同様である。横軸の「結晶粒径」は、成形品に含まれる結晶粒径の代表値である。結晶粒径の代表値は、ユーザが任意に設定した成形品の所定箇所に含まれる結晶粒についての結晶粒径の代表的な値(平均値、最頻値、中央値など)に相当する。所定箇所は、例えば成形品の要部など、ユーザが任意に選択すればよい。耐力と結晶粒径との関係は、試験又は有限要素法などの解析処理によって求めることができる。結晶粒径は、ユーザが成形品の良否を判断する上で扱いやすい値となる場合がある。
【0030】
図4は、実施形態の成形装置の制御系の構成を示すブロック図である。制御部100は、上述した成形処理の制御に加え、成形品の強度を示す成形品強度情報を表示器(例えば表示パネル)110に出力する処理を行う。当該処理を行うために、成形装置1は、Zパラメータを求めるための構成要素(ひずみ速度測定構成、温度測定構成、成形品強度の推定構成)を備える。続いて、これらについて説明する。
【0031】
<ひずみ速度測定構成>
成形装置1は、
図1及び
図4に示すように、スライド18の速度を検出する速度検出部31と、材料の高さを検出する材料高さ検出部32と、材料のひずみ速度を計算するひずみ速度計算部33とを備える。ひずみ速度計算部33は、制御部100が制御プログラムを実行することで実現される機能モジュール(ソフトウェア)である。
【0032】
速度検出部31は、例えばガイド19に設けられたリニアエンコーダである。リニアエンコーダはスライド18の所定部位の位置を検出し、当該位置の時間微分によりスライド18の速度が計算される。なお、速度検出部31は、上記の例に限定されず、スライド18の速度を検出できればどのような構成が採用されてもよい。例えば、エキセン軸14、又は、モータ11の回転速度を検出し、当該回転速度からスライド18の速度が検出されてもよい。
【0033】
材料高さ検出部32は、成形中における材料の高さ(高さ方向における材料の厚み)を検出する。材料高さ検出部32は、具体的には、スライド18の位置を検出するリニアエンコーダの出力と、金型20の寸法データとに基づいて、材料高さを検出する。すなわち、スライド18の位置が決まれば、金型20の寸法データから、上金型20Uのキャビティ内天面と、下金型20Dのキャビティ内底面との間隔を計算できる。材料高さ検出部32は、当該計算を行うことで、上記の間隔を材料高さとして検出する。
【0034】
本実施形態では、材料高さが、金型20のキャビティ内で一定であるものとして、材料高さを1つの値として検出する。しかし、金型20のキャビティ内の場所ごとに、材料高さに差異がある場合、材料高さ検出部32は、場所ごとの材料高さをそれぞれ検出してもよい。
【0035】
なお、材料高さ検出部32は、上記の具体例に限定されず、材料の成形中の材料高さを検出できれば、例えば撮影器と撮影器が取得した映像を解析する画像解析装置とにより材料高さを検出する構成など、様々な構成が採用されてもよい。
【0036】
ひずみ速度計算部33は、成形中における材料のひずみ速度を計算する。ひずみ速度計算部33は、次式(2)に示すように、ひずみ速度を公称ひずみの速度として計算する。
ひずみ速度[1/sec]=スライド速度[mm/sec]/材料高さ[mm]
・・・(2)
【0037】
なお、ひずみ速度計算部33は、成形中における材料のひずみ速度を、スライド速度と材料高さとから真ひずみの速度として計算してもよい。さらに、場所ごとに材料高さが異なる場合には、ひずみ速度計算部33は、場所ごとのひずみ速度を計算してもよい。ひずみ速度計算部33により成形中における材料のひずみ速度が得られる。速度検出部31と材料高さ検出部32の検出結果に基づき計算されるひずみ速度は、ひずみ速度の実測値に相当する。
【0038】
<温度測定構成>
成形装置1は、
図1及び
図4に示すように、材料の絶対温度Tに関係する温度の計測を行う第1温度計測器34及び第2温度計測器35と、これらの計測結果に基づいて材料の絶対温度Tを測定する絶対温度測定部36とを備える。絶対温度測定部36は、制御部100が制御プログラムを実行することで実現される機能モジュール(ソフトウェア)である。材料の絶対温度Tとは、材料の主要部の温度(その絶対温度)を意味する。
【0039】
第1温度計測器34は、材料の所定箇所の温度を計測する。以下、材料の所定箇所の温度を、単に「材料温度」と呼ぶ。第1温度計測器34が温度を計測する箇所は、材料の主要部から外れた箇所であってもよく、例えば材料縁部の表面などを採用できる。より具体的には、上記の箇所は、金型20の間から覗く材料の露出面、あるいは、金型20のキャビティ内面に接触する材料表面などを採用できる。露出面の温度は放射温度計などの非接触型温度計により計測でき、キャビティ内面に接触する材料表面の温度は、熱電対式温度計などの接触型温度計により計測できる。第1温度計測器34は、成形処理中の期間を通してリアルタイムで材料温度を計測する。
【0040】
材料の絶対温度Tは、第1温度計測器34が計測する材料温度とほぼ一致することが多いが、計測箇所によっては差異が生じる。特に、材料温度が材料の表面温度である場合には、金型温度の影響を受けやすい分、差異が比較的に大きくなる場合がある。
【0041】
第2温度計測器35は、金型20又は金型20の近傍の温度を計測する。金型20には、ヒータが設けられ、金型20は成形処理前と成形処理中の両方又は一方に加熱される場合がある。第2温度計測器35の計測結果に基づいて、加熱により変化する金型20の温度を検出又は測定できる。第2温度計測器35は、成形処理中の期間を通してリアルタイムで温度を計測する。第2温度計測器35は、放射温度計などの非接触型温度計であってもよいし、熱電対式温度計などの接触型温度計であってもよい。
【0042】
絶対温度測定部36は、主に、第1温度計測器34の計測結果、並びに、第2温度計測器35の計測結果に基づいて、成形中における材料の絶対温度Tを測定する。第1温度計測器34が計測する材料温度は、材料の絶対温度Tと金型温度の影響を受けて定まるため、材料の絶対温度Tは、材料温度と金型温度とから次式(3)のように計算することができる。
材料の絶対温度T = 材料温度 - 補正係数K/金型温度 ・・・(3)
ここで、補正係数Kは定数である。補正係数Kは、試験又はシミュレーションにより求めることができる。
【0043】
なお、絶対温度測定部36による材料の絶対温度Tの計算方法は、上記の例に限られない。例えば、第1温度計測器34は、成形処理中の材料温度をリアルタイムで計測する構成に限定されず、成形処理前の材料温度、例えば材料加熱装置から出てきた材料の表面温度を計測する構成であってもよい。材料加熱装置とは、金型20にセットされる前に材料を加熱する装置である。この場合、絶対温度測定部36は、計測された材料温度と、加熱終了からの経過時間とに基づいて、成形処理中の材料温度を、次式(4)のように求めてもよい。
材料温度 =
加熱装置出口での計測温度 - 補正係数C×経過時間 ・・・(4)
ここで、補正係数Cは定数である。補正係数Cは、試験又はシミュレーションにより求めることができる。
【0044】
そして、絶対温度測定部36は、式(4)で測定された材料温度に対して、式(3)の補正を行って、材料の絶対温度Tを求めてもよい。
【0045】
第1温度計測器34及び第2温度計測器35の計測値に基づき計算される材料の絶対温度Tは、絶対温度Tの実測値に相当する。リアルタイムの温度計測を行わずに得られた材料の絶対温度Tは、絶対温度Tの推定値に相当する。
【0046】
<成形品強度の推定構成>
実施形態に係る成形装置1は、
図4に示すように、Zパラメータ算出部37と、成形品強度推定部38とを備える。Zパラメータ算出部37と成形品強度推定部38とは、制御部100が制御プログラムを実行することで実現される機能モジュール(ソフトウェア)である。
【0047】
Zパラメータ算出部37は、材料の成形中の期間にわたって、ひずみ速度計算部33の測定結果と絶対温度測定部36の測定結果とを入力し、これらを前述した式(1)に代入することで、材料のZパラメータを計算する。Zパラメータは、成形品の強度に関係するパラメータであり、成形品強度を表わす値である。材料の絶対温度Tの実測値とひずみ速度εの実測値とに基づき計算されたZパラメータは、Zパラメータの測定値に相当する。材料の絶対温度Tとひずみ速度εとの少なくとも一方が推定値であれば、これらから計算されたZパラメータは、Zパラメータの推定値に相当する。
【0048】
成形品強度推定部38は、1回の成形処理が終わるごとに、成形品の強度として、成形品のZパラメータ、成形品の耐力(後処理後の耐力)、成形品の亜結晶粒組織の有無、並びに、成形品の結晶粒径(結晶粒径の代表値)を計算する。成形品のZパラメータは、成形中の期間にわたって得られた一連のZパラメータから計算される。具体的には、成形品のZパラメータとしては、上記一連のZパラメータの最大値、代表値、平均値などを採用できる。亜結晶粒組織の有無は、例えば上記一連のZパラメータの最大値が閾値THzを超えていないか計算することで判別できる。耐力は、成形品のZパラメータと、前述した
図3(a)の相関グラフの対応関係とに基づいて推定できる。結晶粒径は、耐力と、前述した
図3(b)の相関グラフの対応関係とに基づいて推定できる。成形品強度推定部38は、後処理(熱処理等)を経た成形品の耐力及び結晶粒径を推定するので予測部と呼んでもよい。
【0049】
<強度情報の表示例>
図5は、成形装置の表示器の一表示例を示す画像図である。成形装置1では、複数の材料の成形処理を順々に行う連続成形処理が行われる。成形品強度推定部38は、連続成形処理において1回の成形処理が遂行されるたびに、表示器110に推定された成形品強度情報を出力する。その結果、表示器110には、1回の成形処理ごとに、
図5に示すように成形品強度情報E1~E4が表示出力される。成形品強度情報E1~E4は、それぞれ成形品のZパラメータ、成形品の耐力、成形品の亜結晶粒組織の有無、並びに、成形品の結晶粒径である。出力される情報は、成形品強度情報E1~E4のいずれかであってもよいし、これら以外の強度を示す情報(例えば、強度が要求を満たすか否かなど)が含まれていてもよい。
【0050】
<成形工程の改善点情報の出力構成>
図4に破線で示すように、制御部100は、成形品の強度が第1範囲を外れたか判別し、外れていれば報知を行う強度判別部40を備えてもよい。第1範囲は、ユーザが任意に設定可能な範囲であり、通常は成形品に亜結晶粒組織が得られている場合の値が設定される。さらに、制御部100は、強度判別部40により成形品の強度が低いと推定された場合に、成形工程のパラメータをどのように変更すれば改善できるのかを示す改善点情報を出力する改善点出力部41を、更に備えてもよい。
【0051】
強度判別部40には、ユーザが要求する成形品の強度を表わす要求強度情報(上記の第1範囲に相当)が設定される。さらに、強度判別部40は、成形品強度推定部38から推定された成形品の強度情報を入力する。そして、強度判別部40は、推定された成形品の強度がユーザの要求強度を外れる場合(具体的には要求強度未満となった場合)に、信号出力、音声出力及び表示出力等によりユーザに強度を外れたことを報知する。
【0052】
改善点出力部41は、Zパラメータ算出部37から材料の成形中の期間にわたって計算された一連のZパラメータの値を入力し、また、強度判別部40から判別結果を入力する。そして、改善点出力部41は、強度判別部40が要求強度未満の判別を行った場合に、Zパラメータが
図2の領域A1に維持されるように絶対温度T又はひずみ速度εを変更する改善点を求める。そして、改善点出力部41は、当該改善点の情報を表示器110から表示出力する。改善点出力部41が出力する改善点としては、例えば「材料の温度を**℃上昇」、「金型の温度を**℃上昇」、「スライドの速度を**%低下」などの情報が適用できる。あるいは、改善点出力部41は、Zパラメータが領域A1から外れるタイミングを計算し、当該タイミングの情報、あるいは、当該タイミングのスライド18の速度を低下させるスライドモーションの情報などを、改善点として出力してもよい。
【0053】
<成形品の状態表示処理>
続いて、前述した強度情報の表示出力、並びに、改善点情報の表示出力を実現する処理手順の一例について説明する。
図6は、成形品の状態表示処理を示すフローチャートである。状態表示処理のプログラム122は、制御部100に備わるハードディスクなどの非一過性の記憶媒体121(non transitory computer readable medium)に記憶されている(
図1を参照)。制御部100は、可搬型の非一過性の記録媒体に記憶されたプログラムを読み込み、当該プログラムを実行するように構成されてもよい。上記の可搬型の非一過性の記憶媒体は、上述した状態表示処理のプログラムを記憶していてもよい。当該状態表示処理による情報の表示方法が、本実施形態の成形品の状態表示方法に相当する。
【0054】
状態表示処理は、複数の材料の成形処理を順々に行う連続成形処理中において、1回の成形処理ごとに実行される。1つの材料が成形装置1に投入されて、
図6の状態表示処理が開始されると、制御部100は、速度検出部31によるスライド速度の検出結果を入力し(ステップS1)、材料高さ検出部32による材料高さの検出結果を入力し(ステップS2)、ひずみ速度計算部33の処理によって材料のひずみ速度εをリアルタイムに測定する(ステップS3)。
【0055】
さらに、制御部100は、ステップS1~S3の処理と並行して、第1温度計測器34による材料温度の計測結果を入力し(ステップS4)、第2温度計測器35による金型20の温度の計測結果を入力し(ステップS5)、絶対温度測定部36の処理によって材料の絶対温度Tをリアルタイムに測定する(ステップS6)。
【0056】
次いで、制御部100は、Zパラメータ算出部37の処理によって材料のZパラメータをリアルタイムに計算し(ステップS7)、1回の鍛造処理が終了したか判別する(ステップS8)。判別の結果、NOであれば、制御部100は、処理をステップS1に戻し、ステップS1~S7の処理を繰り返す。当該ステップS1~S7の繰返し処理により、材料の成形中における一連のZパラメータが得られる。当該Zパラメータは、成形品強度推定部38に送られる。
【0057】
そして、1回の成形処理が終了してステップS8の判別結果がYESとなると、制御部100は、成形品強度推定部38の処理により成形品の強度を示す強度情報を計算(測定又は推定に相当)する(ステップS9)。続いて、制御部100は、表示器110に強度情報(例えば、Zパラメータ、耐力、亜結晶組織の有無、結晶粒径等)を出力し(ステップS10)、1回の状態表示処理を終了する。このような状態表示処理が、連続成形処理の毎回の成形処理ごとに実行される。
【0058】
なお、
図6に破線で示すように、状態表示処理には、ステップS11~S14が加わってもよい。この場合、制御部100は、さらに、強度判別部40の処理により、推定された強度が設定値よりも低いか判別し(ステップS11)、NOであれば、1回の状態表示処理を終了するが、YESであれば、報知処理を行う(ステップS12)。さらに、改善点出力部41の処理により、成形パラメータについての改善点の情報を抽出し(ステップS13)、当該改善点の情報を表示器110に出力する(ステップS14)そして、制御部100は、1回の状態表示処理を終了する。
【0059】
上記のような状態表示処理により、連続成形処理の途中で成形品強度情報をユーザが確認することができる。したがって、ユーザは当該情報に基づき成形品の歩留まり低下を抑制することができる。例えば、成形品強度情報からユーザが成形品の強度が低いと判断したとき、あるいは、低下していると判断したときに、ユーザは連続成形処理を中断する。そして、ユーザは、成形パラメータを再検討したり、機器に不具合(例えばヒータ装置の加熱力低下など)が無いか診断したりして、成形品の強度低下の改善策を講じることができる。したがって、不良と判断される成形品を多数作製してしまうことが避けられ、成形品の歩留まりの向上を図ることができる。
【0060】
以上のように、本実施形態の成形装置1によれば、成形中に成形品強度を測定又は推定し、測定又は推定された成形品強度を示す成形品強度情報を出力する。したがって、上述したように、ユーザは、成形品強度情報をその後の成形処理に役立てて、成形品の歩留まりが低下してしまうことを抑制できる。
【0061】
具体的には、成形品強度情報として、成形品のZパラメータ及び耐力が出力される。当該構成によれば、ユーザは、成形品が予定された強度となっているかを容易に判別できる。
【0062】
さらに、本実施形態の成形装置1によれば、強度判別部40が、成形品強度推定部38が測定又は推定した成形品強度が第1範囲を外れた場合に報知を行う。したがって、ユーザは、成形品強度情報を毎回確認しなくても報知を受けて異常を認識することができる。
【0063】
さらに、本実施形態の成形装置1によれば、成形中の材料温度、成形中の金型温度、並びに、成形中における材料のひずみ速度を計測し、当該計測の結果に基づいて成形品強度推定部38が成形品強度を測定又は推定する。したがって、実測に基づいて測定又は推定された成形品強度が得られ、成形品強度の正確性を増すことができる。なお、上記実施形態では、成形中の材料温度、成形中の金型温度、成形中における材料のひずみ速度の全てを実測する例を示した。しかし、これらのうち1つ又は複数は、実測でなく、シミュレーション等により推定されてもよい。例えば、成形処理前の材料温度(ヒータ装置から出てきた材料の表面温度等)と金型温度とを計測する一方、成形中の材料と金型の熱伝導作用をシミュレーションし、成形中の材料温度と金型温度とを推定することができる。また、正確なスライドモーションが得られるプレス機であれば、予め設定されたスライドモーションのデータから成形中の材料のひずみ速度を推定してもよい。
【0064】
さらに、本実施形態の成形装置1によれば、成形品強度情報として、亜結晶粒の有無の情報、並びに、結晶粒径の情報が出力される。これらの情報は、成形品の良否判断の材料として適用される場合があり、このような場合にユーザは成形品強度情報から、成形品の良否の判断をより適切に行うことができる。
【0065】
さらに、本実施形態の成形装置1によれば、成形品強度推定部38が推定した成形品強度に基づき、当該強度が第1範囲を外れた場合(例えば要求強度未満である場合)に、改善点出力部41が、成形工程の改善点を示す情報を出力する。したがって、熟練を有さないユーザであっても、当該情報に基づいて、良好な成形品を作製するヒントを得ることができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、成形装置として鍛造プレスを示したが、本発明に係る成形装置は、金属を塑性変形させて成形する装置であれは、例えばエア圧により管体の成形を行う熱間エアーブロー成形装置など、様々な装置が適用されてもよい。また、上記実施形態では、1回の状態表示処理を、連続成形処理中の個々の成形処理ごとに実行すると説明したが、複数回の成形処理ごとに1回の状態表示処理を行うなど、その実行サイクルは変更可能である。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 成形装置
18 スライド
20 金型
31 速度検出部
32 材料高さ検出部
33 ひずみ速度計算部
34 第1温度計測器
35 第2温度計測器
36 絶対温度測定部
37 Zパラメータ算出部
38 成形品強度推定部
40 強度判別部
41 改善点出力部
100 制御部
110 表示器
121 記憶媒体
122 プログラム
E1~E3 成形品強度情報